説明

自発巻回性粘着シート及び切断体の製造方法

【課題】巻回による迅速な剥離を可能としながら、かつ糊残りを発生させない自発巻回性粘着シート及びこれを利用した切断体の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1軸方向に収縮性を有する収縮性フィルム層2、接着剤層3及び剛性フィルム層4がこの順に積層されてなる自発巻回性積層シートと、該積層シートの剛性フィルム層4側に積層された粘着剤層6とを備え、熱刺激の付与により、1端部から1方向へ又は対向する2端部から中心に向かって自発的に巻回して1又は2個の筒状巻回体を形成し得る自発巻回性粘着シート10であって、剛性フィルム層4と粘着剤層6との間に、有機コーティング層5が配置されている自発巻回性粘着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自発巻回性粘着シート及び切断体の製造方法に関し、より詳細には、熱等により主収縮軸方向へ端部から自発的に巻回して筒状巻回体を形成し得る自発巻回性粘着シート及びこれを用いた切断体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体用材料に対する薄型化、軽量化の要望が一層高まっており、半導体用シリコンウェハについては、厚みを100μm以下の薄膜ウェハが使用されている。
このような薄膜ウェハは、非常に脆くて割れやすく、ダイシング等の製造工程時において、仮固定するため又は回路形成面の保護もしくは汚染防止のために粘着シートを貼着する方法が採用されている。このようなシートとして、例えば、収縮性フィルムの一表面上に積層された接着剤層及び剛性フィルム層からなる積層シートの上に、UV硬化型粘着剤層を形成した自発巻回性粘着シートが提案されている(例えば、特許文献1)。
この自発巻回性粘着シートは、例えば、ダイシング前に半導体ウェハに貼着され、ダイシング後にUVを照射して粘着剤層の粘着力を低減させ、次いで加熱することにより、自発的に筒状巻回体に変形して半導体ウェハから剥離することができる。これによって、シート剥離の作業時間を短縮させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−194819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の自発巻回性粘着シートにおいては、その性能が十分ではなく、積層シートと粘着剤層との間で部分的に剥離(投錨破壊)が生じることがあり、被着体に糊残りが発生することがあった。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、巻回による迅速な剥離を可能としながら、かつ糊残りを発生させない自発巻回性粘着シート及びこれを利用した切断体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、従来の自発巻回性粘着シートについての投錨破壊について鋭意研究を行った結果、自発巻回性粘着シートを巻回させることなく剥離する場合には発生しないが、自発巻回による筒状巻回体の態様に加えて、粘着剤層の厚み、UV硬化後の粘着剤の粘着力、剥離する際の粘着シートの大きさ、被粘着体の大きさ及び厚みなどの種々の要因に起因して投錨破壊が発生し得ること、粘着剤層と基材との間での化学的に親和性を高める方法及び基材表面に微細な凹凸を形成して両者の接触面積を増大する方法など、通常の粘着シートで利用されている方法によっては、上述した投錨破壊を有効に防止し得ないこと等を新たに見出した。そして、この種の粘着シートについての投錨破壊を効果的に抑制することができる自発巻回性粘着シートの構成についての試行錯誤を繰り返し、本発明の完成に至った。
【0006】
すなわち、本発明の自発巻回性粘着シートは、
少なくとも1軸方向に収縮性を有する収縮性フィルム層、接着剤層及び剛性フィルム層がこの順に積層されてなる自発巻回性積層シートと、
該積層シートの剛性フィルム層側に積層された粘着剤層とを備え、
熱刺激の付与により、1端部から1方向へ又は対向する2端部から中心に向かって自発的に巻回して1又は2個の筒状巻回体を形成し得る自発巻回性粘着シートであって、
前記剛性フィルム層と粘着剤層との間に、有機コーティング層が配置されていることを特徴とする。
【0007】
このような自発巻回性粘着シートは、以下(1)〜(9)を1つ以上備えることが好ましい。
(1)前記有機コーティング層が、ウレタン系ポリマー又はオリゴマーによって形成されてなる。
(2)前記ウレタン系ポリマー又はオリゴマーによって形成されてなる有機コーティング層が、ポリオール前駆体の水酸基に対して等当量以上のイソシアネート基を含むポリイソシアネート前駆体から形成されたものである。
(3)前記粘着剤層が、エネルギー線硬化型粘着剤で構成されている。
(4)前記粘着剤層は、シリコンミラーウェハに対する粘着力(25℃、180°ピール剥離、引張速度:300mm/分)が、エネルギー線照射前に1.0N/10mm以上である。
(5)前記粘着剤層は、エネルギー線照射後のヤング率が、80℃において、0.4〜75MPaである。
(6)前記収縮性フィルム層は、70〜180℃の範囲の所定温度における主収縮方向の収縮率が30〜90%である。
(7)前記剛性フィルム層は、80℃におけるヤング率と厚みとの積が3.0×105N/m以下である。
(8)前記接着剤層が、ウレタン系接着剤であり、
前記収縮性フィルム層と前記剛性フィルム層との引き剥がしに必要な剥離力(180°ピール剥離、引張速度300mm/分)が70℃において2.0N/10mm以上である。
(9)自発的に巻回して形成される筒状巻回体の直径rnと自発巻回性粘着シートの巻回方向の長さLnとの比(rn/Ln)が、0.001〜0.333の範囲である。
【0008】
また、本発明の切断体の製造方法は、
上述した自発巻回性粘着シートを被切断体に貼付し、
前記被切断体を小片に切断し、
加熱及び剥離して自発巻回性粘着シートを除去することを含むことを特徴とする。
この切断体の製造方法では、被切断体が、半導体ウェハ又は光学素子保護用部材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、巻回による迅速な剥離を可能としながら、かつ糊残りを発生させない自発巻回性粘着シートを実現することができる。
また、この自発巻回性粘着シートを利用して切断体を製造することにより、効率的に切断体を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の自発巻回性粘着シートの一例を示す概略断面図である。
【図2A】本発明の自発巻回性粘着シートの斜視図である。
【図2B】本発明の自発巻回性粘着シートが自発巻回する状態を示す斜視図である。
【図2C】1個の筒状巻回体を形成した場合の本発明の自発巻回性粘着シートの斜視図である。
【図2D】2個の筒状巻回体を形成した場合の本発明の自発巻回性粘着シートの斜視図である。
【図3】接合破壊試験の方法を説明するための自発巻回性積層シートの概略断面図及び平面図である。
【図4】接合破壊を説明するための自発巻回性積層シートの概略断面図である。
【図5】剥離性試験を説明するためのウェハを含む要部の概略平面図及び断面図である。
【図6】投錨破壊を評価するための方法を説明するための粘着シートの概略断面図である。
【図7A】投錨破壊を説明するための粘着シートの概略断面図である。
【図7B】投錨破壊を説明するための粘着シートの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の自発巻回性粘着シート(以下「粘着シート」と記載することがある)は、主として、自発巻回性積層シートと、粘着剤層と、これらの間に配置される有機コーティング層とを備える。
このような自発巻回性粘着シートは、被着体に貼着した後、所定のタイミングで熱刺激を付与することにより、1端部から1方向へ又は対向する2端部から中心に向かって自発的に巻回させて、1又は2個の筒状巻回体を形成し得る。この巻回力を利用して、被着体から迅速に粘着シートを剥離することができる。このために、後述するように、粘着剤層の基材として用いられる自発巻回性積層シートは、熱刺激で巻回するとともに、その後に巻戻って再度被着体に付着しないという特性を有する。このような特性を実現する一手段としては、基材に、所定の剛性を付与することが挙げられる。
しかし、このような剛性は、粘着シートの巻回及び巻戻り防止という点では有効である一方、粘着剤層の基材への追従性、特に、剥離巻回時の追従性にとって相反する特性となり得ることが見出された。つまり、被着体の種類又は形状、粘着剤層の組成、粘着力及び厚み、剥離のタイミング、剥離速度、剥離角度などの態様によって、剛性の基材に対して、薄膜状の粘着剤層の追従が追いつかず、相互の投錨性が低減することがあるという現象を新たに見出した。
【0012】
また、上述したような筒状巻回体への変形を利用した粘着シートの剥離は、大角度でのピール剥離に相当し、これは、剥離応力をより小さくすることを意味する。このような剥離応力の低減は、剥離時の被着体に対する粘着力を低下させることを意味すると同時に、粘着剤層と基材との間の投錨性を著しく低減させることをも意味し、上述した基材の剛性とも相まって、両者間の投錨性がより確保しにくくなる。
【0013】
本発明は、これらの問題に対して、極簡便な構成によって粘着剤層と基材との相互の投錨性を確保して、巻回による粘着シートの剥離時においても、有効に糊残りを防止して、より迅速かつ確実に最終製品を製造することができる粘着シートを提供する。特に、被着体が脆弱である場合には、剥離応力の低減によって、被着体の破損を確実に防止することができる。
【0014】
本発明の自発巻回性粘着シート10は、図1に示すように、主として、収縮性フィルム層2と、接着剤層3と、剛性フィルム層4とがこの順に積層された自発巻回性積層シートと、粘着剤層6とを備え、剛性フィルム層4と粘着剤層6との間に、両者に接触して、有機コーティング層5が配置されている。自発巻回性粘着シート10は、被着体7に、粘着剤層6を貼着することによって使用される。
自発巻回性積層シートは、収縮性フィルム層の収縮によって、粘着シートの収縮方向を調整することができる。例えば、一軸方向への収縮によって、一軸方向への巻回を実現することができ、速やかに筒状巻回体を形成することにより、粘着シートを被着体から極めて容易にかつ綺麗に剥離することができる。
【0015】
また、このような構成、つまり、剛性フィルム層上に有機コーティング層を配置するというシンプルな構成によって、剥離時の粘着剤層の剥離応力を最小化した後においても、剛性フィルム層と粘着剤層との投錨破壊を意外にも有効に防止することができる。このような有機コーティング層の配置のみでの相互の投錨性の確保は、上述したように、粘着剤層と基材との間での化学的親和性の向上及び両者の接触面積の増大等という通常の粘着シートで利用されている方法では実現できなかったことを考慮すると、予想外の効果である。
さらに、このような効果は、半導体ウェハ又は半導体装置等のダイシング後の剥離において有効である。特に、被着体である半導体ウェハ等が薄膜化して、極わずかな応力によっても損傷を受けやすい形状での剥離又はダイシング後のような超小片の半導体ウェハからの剥離において、被着体へのダメージを回避し、かつ多数の超小片からの剥離を極短時間で実現し得るなど、非常に有効である。
【0016】
(収縮性フィルム層)
本発明の粘着シートにおける収縮性フィルム層は、刺激によって収縮して収縮応力を生成し、かつ、後述する剛性フィルムに反作用力を生み出させることで、シート中に反並行の力を生成してトルクとするための役割を果たす層である。
収縮性フィルム層は、少なくとも1軸方向に収縮性を有するフィルム層であればよく、熱収縮性フィルム、光により収縮性を示すフィルム、電気的刺激により収縮するフィルム等の何れで構成されていてもよい。なかでも、熱刺激としての加熱源選択肢が多様であり、また、実用化され、広く利用されているという観点から、熱収縮性フィルムで構成されていることが好ましい。
【0017】
収縮性フィルム層は、所定の1軸方向に主収縮性を有していれば、その方向とは異なる方向(例えば、その方向に対して直交する方向)に副次的に収縮性を有していてもよい。
収縮性フィルム層は単層であってもよく、2以上の層からなる複層であってもよい。
収縮性フィルム層を構成する収縮性フィルムの主収縮方向の収縮率は、好ましくは30〜90%である。
例えば、収縮性フィルム層が、熱収縮性フィルムで構成されている場合、熱収縮性フィルムの主収縮方向の熱収縮率は、70〜180℃の範囲の所定温度(例えば、95℃、140℃等)において、好ましくは30〜90%である。
ここで、収縮率とは、[(収縮前の寸法−収縮後の寸法)/収縮前の寸法]×100の式から算出される値を意味する。
【0018】
収縮性フィルム層は、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリノルボルネン等のポリオレフィン系樹脂(環状ポリオレフィン系樹脂を含む)、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等から選択される1種又は2種以上の樹脂からなる1軸延伸フィルムによって形成することができる。なかでも、粘着剤の塗工作業性等に優れる点で、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂又はポリウレタン系樹脂からなる1軸延伸フィルムを用いることが好ましく、特に、ポリエステル系樹脂からなる1軸延伸フィルムがより好ましい。
【0019】
このような収縮性フィルム層としては、東洋紡社製の「スペースクリーン(登録商標)」、グンゼ社製の「ファンシーラップ(登録商標)」、東レ社製の「トレファン(登録商標)」、東レ社製の「ルミラー(登録商標)」、JSR社製の「アートン(登録商標)」、日本ゼオン社製の「ゼオノア(登録商標)」、旭化成社製の「サンテック(登録商標)」、三菱樹脂社製の「ヒシペット(登録商標)」等の市販品が挙げられる。なかでも、「スペースクリーン(登録商標)」及び「ヒシペット(登録商標)」等が好ましい。これらは、塗工作業性が良好であり、厚み精度の高さ、室温での収縮による寸法変化(低温熱収縮)が小さいことから、ポリオレフィン系樹脂などの他の熱収縮フィルムに比べて優れている。
自発巻回性粘着シートの粘着剤層として後述するエネルギー線硬化型粘着剤を用いる場合には、エネルギー線硬化型粘着剤を硬化する際に、エネルギー線照射を、収縮性フィルム層を通して行うために、収縮性フィルム層は所定量以上のエネルギー線を透過し得る材料(例えば、透明性を有する樹脂等、使用するエネルギー線を90%以上、80%以上、70%以上透過し得る材料)で構成することが好ましい。
【0020】
収縮性フィルム層は、一般に、5〜300μm程度の厚みが適しており、後述する接着剤による接合の作業を考慮すると10〜100μm程度、さらに10〜60μm程度が好ましい。これにより、剛性が高くなりすぎることを防止して、被着体への貼着を容易にするとともに、自発巻回を促進することができる。また、後述する接着剤層と相まって、収縮性フィルム層と後述する剛性フィルム層との間の分離を抑制して、接着剤層の破壊を有効に防止することができる。さらに、粘着シートを貼着する際の応力が残存して起こる弾性変形力を抑制して、極薄いウェハに対する反りを防止することができる。
【0021】
収縮性フィルム層は、隣接する層との密着性、保持性等を高めるため、その表面に、慣用の表面処理、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的又は物理的処理、下塗り剤(例えば、粘着物質等)によるコーティング処理等が施されていてもよい。
【0022】
(接着剤層)
本発明の粘着シートにおける接着剤層は、収縮性フィルム層と、後述する剛性フィルム層とを接合する役割を果たすものであり、両者を接合する程度に十分高い接着力を有するものが適している。
特に、収縮性フィルム層を収縮させるために加温/加熱、エネルギー照射等しても、接着力の低下を招くことなく、接着力を高いまま維持できるものが適している。
また、加熱等の刺激によって大きなトルクを生成するために、収縮性フィルム層で生じる収縮応力によって接着剤層が収縮変形しないものが好ましい。さらに、厚みが薄いものが好ましい。このように、接着剤層は、薄く、硬くかつ高接着力であるという、互いに相反する物性を両立していることがより好ましい。
【0023】
このために、接着剤層は、70〜180℃にて3分間程度の加熱による熱刺激を付与した後においても接合破壊しないものであることが好ましい。
例えば、この接合破壊しないことは、以下に示すような方法での目視による観察によって確認することができる。
図3に示すように、自発巻回性積層シート40を30mm×30mmに切断し、剛性フィルム層4を、厚さ2mmのSUS板23に、粘着剤22として日東電工社製ハイパージョイントHJ8008を介して貼り合わせ、加熱によって巻回形状に変形しないように固定する。これを、170℃対流乾燥機に3分間放置して取り出し、目視によって観察する。通常、図4に示すように、収縮性フィルム層2は加熱によって収縮するが、目視で接合破壊が視認できるレベルとしては、剛性フィルム層4の端部から、収縮した収縮性フィルム層2の端部までの距離xが0.5mm程度以上とすることが適している。
【0024】
また、接着剤層を形成する接着剤は、本発明の粘着シートにおいて、剛性フィルム層側を固定した状態で収縮性フィルム層を引き剥がした際、剥離力が、2.0N/10mm以上であることが適しており、さらに2.5N/10mm以上であることが好ましい。これにより、実際の粘着シートの剥離時においても、収縮性フィルム層の収縮応力によって後述する剛性フィルム層との接合破壊を防止することができる。この際の剥離力は、70℃における180°ピール剥離(引張り速度:300mm/分)にて測定することができる。
【0025】
接着剤層は、その硬さの指標である弾性率として、80℃でのせん断貯蔵弾性率(G')が0.35MPa以上であることが適しており、0.8MPa以上であることが好ましい。なお、せん断貯蔵弾性率は、以下の方法で測定した値を意味する。
接着層を1.5mm〜2mmの厚みで作製した後、これを直径7.9mmのポンチで打ち抜き、測定用の試料を得た。
Rheometric Scientific社製の粘弾性スペクトロメーター(ARES)を用いて、チャック圧100g重、ずりを周波数1Hzに設定して測定を行った[ステンレススチール製8mmパラレルプレート(ティエーインスツルメンツ社製、型式708.0157)を使用]。80℃におけるせん断貯蔵弾性率(G')を用いた。
【0026】
接着剤層は、0.01〜15μm程度の厚みを有していることが適しており、0.1μm〜10μm程度の厚みが好ましい。これにより、通常必要とされる接着力を確保することができる。また、必要以上の剛性の増加を防止することで、生成するトルクを巻回のために浪費されることなく、効率的に剥離力として使用することができる。さらに、貼り付け応力によって被着体が反るのを抑制するための応力緩和機能をもたらすことができる。加えて、粘着シートにおける切断性が良好となり、接着剤層のはみだし等を防止することができる。なお、応力緩和機能は、厚みの他、接着剤層の材料、種々の特性によって制御することができる。
【0027】
接着剤は、上述した特性を有する材料であれば、特に限定されず、例えば、特開2008−155619号公報等に記載されている架橋型アクリル系粘着剤等を用いることができるが、一般にドライラミネート接着剤として使われるウレタン系接着剤が好ましい。
ウレタン系接着剤は、官能基としてイソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物とを混合し、化学反応によってウレタン結合を生成させる接着剤である。ウレタン結合は強い水素結合性を有するため、被着体分子との分子間相互作用が強く働き、特に極性材料からなるフィルムを接合するために好適である。また、接着剤分子同士の分子間力も強いため、接着剤を加熱しても軟化が起こりにくく、温度依存性が小さい。
【0028】
ウレタン系接着剤としては、熱安定性の高い、脂肪族系ウレタンを用いたものが好ましい。さらに、環式骨格によって剛性を有する部分とエーテル結合又はエステル結合など、分子鎖を屈曲させる働きの強い柔軟骨格を組み合わせたものが好ましい。
具体的には、三井化学製のタケラック(登録商標)又はタケネート(登録商標)類、大日精化製のセイカボンド(登録商標)類、東洋モートン株式会社製のTM569等を用いることができる。
【0029】
接着剤層を積層する場合、通常、接着剤を、収縮性フィルム層又は後述する剛性フィルム層に塗布する。この場合の塗布方法としては、マイヤーバー、アプリケーター等を用いた方法、あるいは、ファンテンダイ、グラビアコーター等を用いた工業的に量産する方法等、所望の厚みに応じて、公知の方法を適宜選択することができる。
また、適当な剥離ライナー(セパレータ)上に接着剤を塗布して接着剤層を形成し、これを収縮性フィルム層又は剛性フィルム層上に転写(移着)してもよい。
【0030】
(剛性フィルム層)
本発明の粘着シートにおける剛性フィルム層は、収縮性フィルム層の収縮力に対して反作用の力を生み出し、ひいては巻回に必要なトルクを発生させる役割を果たす。
剛性フィルム層を積層することにより、収縮性フィルム層に熱等の収縮原因となる刺激が付与された際、粘着シートが途中で巻回又は収縮を停止したり、それらの方向がずれることなく、円滑に自発巻回し、形の整った筒状巻回体を、瞬時に形成することができる。従って、剛性フィルムは、室温のみならず、剥離時温度においても剛性であることが好ましい。
【0031】
剛性フィルム層を構成する剛性フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリスチレン等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂等から選択される1種又は2種以上の樹脂からなるフィルムが挙げられる。なかでも、接着剤及び/又は後述する有機コーティング層の塗工作業性等に優れるという観点から、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミド系樹脂フィルム等が好ましい。特に、産業上広く利用され経済的であるポリエチレンテレフタレートが好ましい。
剛性フィルム層は単層であっても2以上の層が積層された複層であってもよい。
【0032】
剛性フィルム層を構成する剛性フィルムは非収縮性であるものが適しており、収縮率は、例えば、5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0033】
剛性フィルム層のヤング率と厚みとの積(ヤング率×厚み)は、剥離時温度(例えば、80℃)において、好ましくは3.0×105N/m以下(例えば、1.0×102〜3.0×105N/m)、さらに好ましくは2.8×105N/m以下(例えば、1.0×103〜2.8×105N/m)である。これにより、収縮性フィルム層の収縮応力を巻回応力へと変換する作用及び方向性収斂作用を確保することができる。また、過度の剛性を防止して、上述した接着剤層の厚み等と相まって、迅速な巻回を促進することができる。
【0034】
剛性フィルム層のヤング率は、剥離時温度(例えば、80℃)において、好ましくは10GPa以下、さらに好ましくは5GPa以下である。ヤング率をこの範囲とすることにより、自発巻回を促進し、整った形で巻回した筒状巻回体を得ることができる。なお、ヤング率は、例えば、JIS−K7127に記載の方法で測定することができる。
【0035】
剛性フィルム層の厚みは、例えば、5〜100μm程度が適しており、8〜50μm程度が好ましい。これにより、自己巻回性を確保して、整った形で巻回した筒状巻回体を得ることができる。また、取扱性及び経済性を向上させることができる。剛性フィルム層は、製造上及び/又は作業性等の観点から、厚みを容易に調整することができ、フィルム形状にしやすい成形加工性に優れるものが好ましい。
【0036】
なお、後述するように、自発巻回性粘着シートの粘着剤層としてエネルギー線硬化型粘着剤を用いることが適しているが、エネルギー線硬化型粘着剤を硬化する際、エネルギー線照射を、剛性フィルム層を通して行うために、剛性フィルム層は所定量以上のエネルギー線を透過し得る材料(例えば、透明性を有する樹脂等、使用するエネルギー線を90%以上、80%以上、70%以上透過し得る材料)で構成することが好ましい。
【0037】
(自発巻回性積層シート)
本発明の自発巻回性積層シートは、上述した収縮性フィルム層、接着剤層及び剛性フィルム層がこの順に積層されて構成される。これら収縮性フィルム層、接着剤層及び剛性フィルム層は、任意に組み合わせることができるが、例えば、特開2008−155619号公報に記載されている自発巻回性積層シート及び自発巻回性粘着シートのいずれの組み合わせも、好適に用いることができる。
このような自発巻回性積層シートは、熱刺激の付与後においても、実質的に収縮しないか、収縮率は10%程度以下、好ましくは5%程度以下、より好ましくは2%程度以下である。
【0038】
(有機コーティング層)
有機コーティング材料は、剛性フィルム層に良好に密着してフィルム変形に追従することが必要である。また、本発明の自発巻回性粘着シート、つまり剛性フィルム層は、後述する粘着剤層と良好に密着することが必要である。特に、粘着剤層がエネルギー線硬化型粘着剤によって形成される場合には、エネルギー線硬化後、さらに剥離後に粘着剤層が投錨破壊していないことが必要である。
投錨破壊が生じるか否かは、例えば、実施例に記載の方法で評価することができる。
【0039】
有機コーティング層は、これらの特性を有する限り、どのような材料を用いてもよい。例えば、文献(プラスチックハードコート材料II、CMC出版、(2004))に示されるような各種のコーティング材料を用いることが可能である。
なかでも、ウレタン系ポリマー又はオリゴマーが好ましい。剛性フィルム層に対して優れた密着性及びフィルム変形時の追従性を示し、かつ、粘着剤層(特に、エネルギー線硬化後のエネルギー線硬化型粘着剤層)に対して優れた投錨性を示すからである。
特に、ポリアクリルウレタン及びポリエステルポリウレタン、これらの前駆体がより好ましい。これらの材料は、剛性フィルム層への塗工・塗布が簡便であるなど、実用的であり、工業的に多種のものが選択でき、安価に入手できるからである。
【0040】
ポリアクリルウレタンとしては、文献(プラスチックハードコート材料II、P17−21、CMC出版、(2004))及び文献(最新ポリウレタン材料と応用技術、CMC出版、(2005))に示されるいずれをも用いることができる。これらは、イソシアネートモノマーとアルコール性水酸基含有モノマー(例えば、水酸基含有アクリル化合物又は水酸基含有エステル化合物)との反応混合物からなるポリマーである。さらなる成分として、ポリアミンなどの鎖延長剤、老化防止剤、酸化安定剤などを含んでいてもよい。
ポリアクリルウレタンは、上述したモノマーを反応させることにより調製したものを用いてもよいし、コーティング材料又はインキ、塗料のバインダー樹脂として多く市販又は使用されているものを用いてもよい(文献:最新ポリウレタン材料と応用技術、P190、CMC出版、(2005)参照)。このようなポリウレタンとしては、大日精化製の「NB300」、ADEKA製の「アデカボンタイター(登録商標)」、三井化学製の「タケラック(登録商標)A/タケネート(登録商標)A」、DICグラフィックス製の「UCシーラー」等の市販品が挙げられる。
このようなポリマーは、色素を添加するなどして、インキとして剛性フィルム層に印刷して用いてもよい。このように印刷することにより、粘着シートの意匠性を高めることも可能となる。
【0041】
ウレタン系ポリマー又はオリゴマー、特に、ポリアクリルウレタン及びポリエステルウレタンが剛性フィルム層に対して良好な密着性及び追従性を示す理由としては、モノマーとして含まれるイソシアネート成分が剛性フィルム表面に存在する水酸基又はカルボキシル基などの極性官能基と反応して強固な結合を形成するからと考えられる。
また、特に、エネルギー線照射後において、エネルギー線硬化型粘着剤との投錨性が高まる理由としては、エネルギー線照射時においてウレタン結合近傍に生成するラジカル種とエネルギー線硬化型粘着剤に生成するラジカル種とが反応して強固な結合を形成するためと推測される(文献:ポリウレタンの構造・物性と高機能化および応用展開、p191−194、技術情報協会(1999))。
【0042】
上述したウレタン系ポリマー又はオリゴマーは、ポリオール化合物と、このポリオール化合物の水酸基に対して等当量(又は等モル数)又はそれよりも多い当量(又はモル数)のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物とを反応させることによって得られたものがより好ましく、さらに、ポリオール化合物と、このポリオール化合物の水酸基に対して等当量(又は等モル数)よりも多い当量(又はモル数)のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物とを反応させることによって得られたものがさらに好ましい。このように、ポリオール化合物の水酸基の等当量以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物を用いることにより、投錨破壊を抑止する効果を高めることができ、特に、本発明の有機コーティング層を形成する材料として好ましい。
具体的には、ポリオール化合物の水酸基に対するポリイソシアネートにおけるイソシアネート基の混合比(NCO/OH)は、1以上であればよく、1より大きいことが好ましく、生成する有機コーティング層の形成材料の粘度、弾性率、軟化温度等、塗工や貼り合わせ工程などを含む積層シート製造条件を鑑みて適宜選択することができる。特に、このような混合比は、好ましくは1.005〜1000であり、より好ましくは1.01〜100であり、さらに好ましくは1.05〜10である。
【0043】
これは、等当量又は過剰量のイソシアネート基が、剛性フィルム層又は粘着剤層に含有される成分中の官能基とも化学結合することが期待されるからである。例えば、剛性フィルム層として、PET基材を用いる場合、PET基材には水酸基又はカルボキシル基などの活性水素を有する官能基が含まれており、これらが有機コーティング層中のイソシアネート基(又は過剰量のイソシアネート基)と反応することによって、ウレタン結合又はアミド結合を形成すると考えられるからである。また、水酸基、カルボキシル基又はアミノ基を含むような粘着剤を用いた粘着剤層でも、これと同様に、活性水素により対応する結合が形成されると考えられる。
つまり、これら結合によっても、より密着性を向上させることができ、投錨破壊抑止に有効となると期待される。
【0044】
このようなことから、剛性フィルム層及び/又は後述する粘着剤層に、活性水素を含有する官能基が含まれる材料又はこのような官能基を有する化合物が添加された材料が用いられている場合において、特に、投錨破壊を抑止する効果を高めることが可能となる。なお、活性水素を含有する官能基としては、上述したものの他にウレタン基、ウレア基、チオール基などが挙げられ、それぞれシソシアネート基と反応することにより、アロハネート結合、ビュウレット結合、チオウレタン結合などの化学結合を形成することができる。
【0045】
ここで、ポリオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのジオール化合物;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、水酸基含有アクリル酸及びその類縁体(例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートなど)から重合されたポリマー;等、1分子中に平均して1つ以上の(好ましくは1を超え、より好ましくは2以上)水酸基を含有する化合物が好ましい。これらポリオール化合物は、沸点(融点)、粘度等が様々であるため、塗工など製造条件を鑑みて適宜選択することができる。
【0046】
ポリイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシネート、メチレンビス(フェニルイソシアネート)等のジイソシアネート化合物;ポリフェニレンポリイソシアネート(ポリMDI);重合末端がトリレンジイソシアネートであるポリプロピレングリコール;等、1分子中に平均して1つ以上のイソシアネート基を含有する化合物であればよい。これらポリイソシアネートは沸点(融点)、粘度等が様々であるため、塗工など製造条件を鑑みて適宜選択することができる。
【0047】
有機コーティング層の厚みは特に限定されないが、例えば、0.1〜10μm程度が適しており、0.1〜5μm程度が好ましく、0.5〜5μm程度がより好ましい。
【0048】
(粘着剤層)
本発明の粘着シートにおける粘着剤層は、被着体に貼着可能な粘着性を有しており、所定の役割が終了した後に、例えば、低粘着化処理で粘着性を低下又は消失させることができる再剥離性の粘着剤層であることが適している。
【0049】
このような再剥離性の粘着剤層は、公知の再剥離性粘着シートの粘着剤層と同様の構成を利用することができる。
自己巻回性の観点から、シリコンミラーウェハに対する粘着剤層の粘着力(25℃、180°ピール剥離、引張り速度300mm/分)は、1.0N/10mm以上(特に、1.5N/10mm以上)、18N/10mm以下(特に、12N/10mm以下)であることが適している。粘着剤層の粘着力は、当初、貼着時又は剥離前等において、このような値を示しても、粘着剤層を低粘着化処理、例えば、エネルギー線照射した後に、後述する所定の値以下となるものであればよい。
【0050】
このような観点から、粘着剤層を構成する粘着剤としては、特に、エネルギー線硬化型粘着剤であることが好ましい。
エネルギー線硬化型粘着剤は、初期には比較的高い粘着性を有し、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線等のエネルギー線、特に、紫外線の照射により硬化して、3次元網目構造を形成して高弾性化する材料を用いることが好ましい。
なお、エネルギー線硬化型粘着剤では、上述した粘着力は、エネルギー線照射前の値であることが適しており、エネルギー線照射後は、6.5N/10mm以下となることが好ましく、6.0N/10mm以下となることがより好ましい。
また、エネルギー線硬化型粘着剤は、エネルギー線照射前の値にかかわらず、エネルギー線照射後において、ヤング率が、80℃において、0.4〜75MPaとなるものが好ましく、1〜25MPaとなるものがより好ましい。
エネルギー線硬化後の粘着剤層のヤング率(80℃)は、例えば、以下の方法によって測定することができる。
引張り試験機として島津社製オートグラフAG−1kNG(加温フード付き)を用いた。長さ50mm×幅10mmに切り取ったエネルギー線照射後の粘着剤層をチャック間距離10mmで取り付けた。加温フードにより80℃の雰囲気にした後、引張り速度5mm/分で試料を引張り、応力−歪み相関の測定値を得た。歪が0.2%と0.45%の2点について荷重を求めヤング率を得た。
【0051】
エネルギー線硬化型粘着剤は、エネルギー線による硬化性を付与するためのエネルギー線反応性官能基を化学修飾した化合物、エネルギー線硬化性化合物又はエネルギー線硬化性樹脂等を含有する。
従って、エネルギー線硬化型粘着剤は、エネルギー線反応性官能基で化学的に修飾された母剤(粘着剤)を用いるか、エネルギー線硬化性化合物又はエネルギー線硬化性樹脂を母剤中に配合した組成物により構成されるものが好ましい。
【0052】
前記母剤としては、従来公知の感圧性接着剤又は粘着剤等の粘着物質を使用することができる。
例えば、天然ゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体ゴム、再生ゴム、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、NBR等のゴム系ポリマーをベースポリマーに用いたゴム系粘着剤;シリコーン系粘着剤;アクリル系粘着剤等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、アクリル系粘着剤が好ましい。
【0053】
アクリル系粘着剤としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等のC1〜C20アルキル(メタ)アクリル酸等の単独又は共重合体;これらアルキル(メタ)アクリル酸と他の共重合性モノマーとの共重合体等のアクリル系重合体をベースポリマーに用いたアクリル系粘着剤等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
他の共重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基又は酸無水物基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のヒドロキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸モルホリル等のアミノ基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー、酢酸ビニル、アセトニトリル等が挙げられる。
【0054】
化学修飾に用いられるエネルギー線反応性官能基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基、アセチレン基等の炭素−炭素多重結合を有する官能基等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの官能基は、エネルギー線の照射により炭素−炭素多重結合が開裂してラジカルを生成し、このラジカルが架橋点となって3次元網目構造を形成することができる。
なかでも、(メタ)アクリロイル基は、エネルギー線に対して比較的高反応性を示し、多様なアクリル系粘着剤から選択して組み合わせて使用することができる等、反応性、作業性の観点で好ましい。
【0055】
エネルギー線反応性官能基で化学的に修飾された母剤の代表的な例としては、ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基等の反応性官能基を含む単量体[例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸等]を(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合させた反応性官能基含有アクリル系重合体に、分子内に前記反応性官能基と反応する基(イソシアネート基、エポキシ基等)及びエネルギー線反応性官能基(アクリロイル基、メタクリロイル基等)を有する化合物[例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチレンイソシアネート等]を反応させて得られる重合体が挙げられる。
前記反応性官能基含有アクリル系重合体における反応性官能基を含む単量体の割合は、全単量体に対して、例えば5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%である。
【0056】
分子内に前記反応性官能基と反応する基及びエネルギー線反応性官能基を有する化合物の使用量は、前記反応性官能基含有アクリル系重合体と反応させる際、反応性官能基含有アクリル系重合体中の反応性官能基(ヒドロキシル基、カルボキシル基等)に対して、例えば、20〜100モル%、好ましくは40〜95モル%である。また、分子内に前記反応性官能基と反応する基及びエネルギー線反応性官能基を有する化合物と反応性官能基含有アクリル系重合体中の反応性官能基との(付加)反応を促進するために、有機スズ、有機ジルコニウムなどの有機金属系化合物やアミン系化合物などの触媒を添加してもよい。
【0057】
エネルギー線硬化性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等のポリ(メタ)アクリロイル基含有化合物等の炭素−炭素二重結合を2つ以上有する化合物等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ポリ(メタ)アクリロイル基含有化合物が好ましく、例えば、特開2003−292916号公報に例示されているものを用いることができる。
【0058】
また、エネルギー線硬化性化合物として、オニウム塩等の有機塩類と、分子内に複数の複素環を有する化合物との混合物等を用いることもできる。
前記混合物は、エネルギー線の照射により有機塩が開裂してイオンを生成し、これが開始種となって複素環の開環反応を引き起こして3次元網目構造を形成することができる。
前記有機塩類としては、ヨードニウム塩、フォスフォニウム塩、アンチモニウム塩、スルホニウム塩、ボレート塩等が挙げられる。
【0059】
前記分子内に複数の複素環を有する化合物における複素環としては、オキシラン、オキセタン、オキソラン、チイラン、アジリジン等が挙げられる。
具体的には、技術情報協会編、光硬化技術(2000)に記載の化合物等を利用することができる。
【0060】
エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、分子末端に(メタ)アクリロイル基を有するエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、アクリル樹脂(メタ)アクリレート、分子末端にアリル基を有するチオール−エン付加型樹脂、光カチオン重合型樹脂、ポリビニルシンナマート等のシンナモイル基含有ポリマー、ジアゾ化したアミノノボラック樹脂、アクリルアミド型ポリマー等、感光性反応基含有ポリマーあるいはオリゴマー等が挙げられる。特に、高エネルギー線によって硬化する樹脂として、エポキシ化ポリブタジエン、不飽和ポリエステル、ポリグリシジルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニルシロキサン等を用いてもよい。
なお、エネルギー線硬化性樹脂を使用する場合には、前記母剤は必ずしも必要でない。
【0061】
エネルギー線硬化型粘着剤としては、前記アクリル系重合体又はエネルギー線反応性官能基で化学的に修飾されたアクリル系重合体(側鎖にエネルギー線反応性官能基が導入されたアクリル系重合体)と前記エネルギー線硬化性化合物(炭素−炭素二重結合を2つ以上有する化合物等)との組み合わせからなるものが特に好ましい。
このような組み合わせは、エネルギー線に対して比較的高い反応性を示し、多様なアクリル系粘着剤から選択できるため、反応性や作業性の観点から好ましい。
【0062】
このような組み合わせの具体例として、側鎖にエネルギー線反応性官能基が導入されたアクリル系重合体と、炭素−炭素二重結合を有する官能基(特に、(メタ)アクリロイル基)を2つ以上有する化合物との組み合わせ等が挙げられる。このような組み合わせとしては、特開2003−292916号公報等に開示のものを利用できる。
【0063】
側鎖にエネルギー線反応性官能基が導入されたアクリル系重合体は、例えば、側鎖に水酸基を含むアクリル系重合体に、2−イソシアナトエチルアクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリリレート等のイソシアネート化合物を、ウレタン結合を介して結合する方法等を用いて製造することができる。
【0064】
エネルギー線硬化性化合物の配合量は、例えば、母剤(例えば、前記アクリル系重合体又はエネルギー線反応性官能基で化学的に修飾されたアクリル系重合体)100重量部に対して、0.5〜200重量部程度、好ましくは5〜180重量部、さらに好ましくは20〜130重量部程度である。
【0065】
エネルギー線硬化型粘着剤には、3次元網目構造を形成する反応速度の向上を目的として、エネルギー線硬化性を付与する化合物を硬化させるためのエネルギー線重合開始剤が配合されていてもよい。
エネルギー線重合開始剤は、用いるエネルギー線の種類(例えば、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線等)に応じて公知の重合開始剤を用いることができる。作業効率の面から、紫外線で光重合開始可能な化合物が好ましい。
【0066】
代表的なエネルギー線重合開始剤として、ベンゾフェノン、アセトフェノン、キノン、ナフトキノン、アンスラキノン、フルオレノン等のケトン系開始剤;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤;ベンゾイルパーオキシド、過安息香酸等の過酸化物系開始剤等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
市販品として、例えば、BASF社製の商品名「イルガキュア184」、「イルガキュア651」等がある。
エネルギー線重合開始剤の配合量は、通常、上記母剤100重量部に対して0.01〜10重量部程度、好ましくは1〜8重量部程度である。
【0067】
また、必要に応じて前記エネルギー線重合開始剤とともにエネルギー線重合促進剤を併用してもよい。
エネルギー線硬化型粘着剤には、上記成分のほか、エネルギー線硬化前後に適切な粘着性を得るために、架橋剤、硬化(架橋)促進剤、粘着付与剤、加硫剤、増粘剤等、耐久性向上のために、老化防止剤、酸化防止剤等の適宜な添加剤が必要に応じて配合される。これらの添加剤は、当該分野で公知のいずれを用いてもよい。
【0068】
特に、エネルギー線硬化型粘着剤の好ましい態様としては、UV硬化性化合物をアクリル系粘着剤中に配合したUV硬化型粘着剤、具体的には、側鎖エネルギー線反応性官能基含有アクリル粘着剤、アクリレート系架橋剤及び紫外線光開始剤を含むUV硬化型粘着剤等が挙げられる。
側鎖エネルギー線反応性官能基含有アクリル粘着剤とは、側鎖に(メタ)アクリロイル基が導入されたアクリル系重合体であり、上記と同様のものを同様の方法で製造して利用することができる。
アクリレート系架橋剤とは、ポリ(メタ)アクリロイル基含有化合物又は多官能アクリレートとして、上記に例示の低分子化合物である。
紫外線光開始剤としては、代表的なエネルギー線重合開始剤として、上記に例示のものを利用できる。
【0069】
また、粘着剤層を構成する粘着剤として、上記アクリル系粘着剤を母材とした非エネルギー線硬化型粘着剤を用いることも可能である。
この場合には、筒状巻回体を生成する際の剥離応力よりも小さな粘着力を有するものが適している。例えば、シリコンミラーウェハを被着体に用いた180°ピール剥離試験(25℃)において、6.5N/10mm以下(例えば、0.05〜6.5N/10mm、好ましくは0.2〜6.5N/10mm)、特に、6.0N/10mm以下(例えば、0.05〜6.0N/10mm、好ましくは0.2〜6.0N/10mm)のものを用いることができる。
このような粘着剤層を用いることにより、被着体からシートを剥離するために、被着体破損等の不具合を最小限に抑えることができる。
【0070】
このような粘着力の小さいアクリル系粘着剤を母材とした非エネルギー線硬化型粘着剤としては、アルキル(メタ)アクリレート[例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等のC1〜C20アルキル(メタ)アクリレート]と、反応性官能基を有するモノマー[例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基又は酸無水物基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のヒドロキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸モルホリル等のアミノ基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー等]と、必要に応じて用いられる他の共重合性モノマー[例えば、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、アクリロニトリル等]との共重合体に、前記反応性官能基と反応しうる架橋剤[例えば、イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤、エポキシ系架橋剤等]を添加して架橋させたアクリル系粘着剤等が好ましい。
【0071】
なかでも、実用上の観点からは、自発巻回性粘着シートにおける粘着剤としては、エネルギー線硬化粘着剤を用いること、特にUV硬化型粘着剤を用いることは、極めて有用である。
UV硬化型粘着剤は、一般に粘着性を付与するベースポリマーのほか、ポリマー凝集性や粘着力を調整するための粘着助剤、さらに、粘着剤の粘度を調整しUV照射によって架橋、硬化するUV反応性希釈剤などから構成される。そして、UV照射前には高粘着力(又は低弾性)、UV照射後には低粘着力(又は高弾性)となる粘着剤を容易に調整することが可能である。
【0072】
より具体的には、例えば、半導体ウェハを小片のチップにする作業であるダイシング工程においては、後述するように、ダイシング作業前の被着体に、本発明の粘着シート貼り付ける。この際、半導体ウェハのように、被切断体表面に凸凹形状がある場合には、凸凹形状を確実かつ速やかに埋めるためや、ダイシング時ではダイシングブレードからの切断や振動による応力、切削水の水圧などによって、保護シートが剥離しないために、高粘着力の粘着剤が求められる。また、ダイシング作業後の剥離作業時には、剥離作業を速やかに行い、かつ、被切断体に糊残りを少なくするため、低粘着力の粘着剤が求められる。
これに対して、UV硬化型粘着剤は、粘着剤組成設計ならびにUV照射作業によって、これらの要求を達成することが容易となる。
なお、粘着剤を構成するベースポリマーの分子量は特に限定されず、当該分野で使用されている粘着剤成分のいずれをも用いることができる。通常、分子量は、重量平均分子量として表され、例えば、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレン基準の換算値として求められる値などを示す。
【0073】
粘着剤層は、例えば、粘着剤、エネルギー線硬化性化合物、必要に応じて溶媒を添加して調製したコーティング液を、有機コーティング層の表面に塗布する方法、適当な剥離ライナー(セパレータ)上にコーティング液を塗布して粘着剤層を形成し、これを有機コーティング層上に転写(移着)する方法等、当該分野で公知の方法により形成することができる。
【0074】
転写によって形成する場合は、有機コーティングの転写後に、オートクレーブ処理等により加温加圧処理を施すことにより、有機コーティングと粘着剤層との界面に発生したボイド(空隙)を拡散させて消滅させることが適している。
粘着剤層は、単層及び積層の何れであってもよい。
【0075】
粘着剤層には、さらに、ガラスビーズ、樹脂ビーズ等のビーズが添加されていてもよい。粘着剤層にビーズを添加することにより、せん断貯蔵弾性率を高めることができ、粘着力を低下させやすくなる。
ビーズの平均粒径は、例えば、1〜100μm程度、好ましくは1〜20μm程度である。
ビーズの添加量は、粘着剤層の全体100重量部に対して、例えば25〜200重量部程度、好ましくは50〜100重量部程度である。
これにより、上述した効果を最大限に発揮させながら、ビーズを均一に分散することができ、粘着剤の塗布が容易となる。
【0076】
粘着剤層の厚みは、一般には10〜200μm程度、好ましくは20〜100μm程度、さらに好ましくは30〜60μm程度である。これにより、粘着力を十分確保して、被着体を保持又は仮固定することができる。また、取扱いも容易となる。
【0077】
(自発巻回性粘着シート及びその製造方法)
本発明の自発巻回性粘着シートは、収縮性フィルム層、接着剤層、剛性フィルム層、有機コーティング層、粘着剤層をこの順に重ね、ハンドローラー、ラミネーター等の積層手段、オートクレーブ等の大気圧圧縮手段等を、目的に応じて適宜選択的に用いて積層させることにより製造することができる。
また、収縮性フィルム層の上に、接着剤層を塗布/積層し、さらに、その上に剛性フィルム層を積層するか、収縮性フィルム層、接着剤層、剛性フィルム層をこの順に重ねて、上記と同様に積層し、剛性フィルム層上に、有機コーティング層を塗布/積層し、さらに、その上に粘着剤層を塗布/積層することにより製造することができる。
【0078】
これら自発巻回性粘着シートは、特にその形状について限定されるものではなく、目的に応じて、平面形状が、円形状、楕円形状、多角形状等の何れの形状にも製造/成形することができるが、通常、四角形である。大きさは、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、自発巻回等を考慮すると、シートの巻回方向の長さLnは、例えば、10〜2000mm程度、好ましくは300〜1000mm程度である。また、これらシートにおける長さLnに直交する方向の長さは、特に限定されないが、例えば、10〜2000mm程度、好ましくは300〜1000mm程度である。
ここで、Lnは自発巻回性粘着シートの巻回方向(通常、収縮性フィルム層の主収縮軸方向)の長さ(シートが円形状の場合は直径)を示す(図2A参照)。
【0079】
本発明の自発巻回性粘着シート10は、図2Aに示すように、収縮性フィルムの収縮原因となる刺激を与える前は、平坦に広がって存在する。
熱等の収縮性フィルム層の収縮原因となる刺激を与えると、図2Bに示すように、粘着シート10の外縁部から一方向(通常、収縮性フィルム層の主収縮軸方向)に、自発巻回を始める。ここでの粘着シート10では、粘着剤層の粘着力が低下又は消失している。
その後、粘着シート10は、巻回が終了し、図2Cに示すように、直径r1の1個の筒状の巻回体10aが形成される。
あるいは、刺激を与えた場合に、粘着シート10の外縁部から二方向に、自発巻回を始めた場合には、図2Dに示すように、直径r2の2個の筒状の巻回体10bが形成される。
【0080】
本発明の自発巻回性粘着シートは、自発的に巻回して形成される筒状巻回体が1個又は2個のいずれの場合においても、巻回体の直径rnと、これらシートの巻回方向の長さLnとの比(rn/Ln)が、好ましくは0.001〜0.333、さらに好ましくは0.01〜0.2の範囲である。
直径rn及び長さLnのいずれにおいても、それらの値が一定でない場合は、最大値を意味する。
また、一般的なLnの値としては、1〜20mm程度の範囲である。
n/Lnの値は、収縮性フィルム層、接着剤層、剛性フィルム層等の材料並びに/あるいは厚み等を調整することにより、上記の範囲に設定することができる。
【0081】
n/Lnの値をこの範囲とすることにより、シートの長さ及び厚みに対して、適切な自発巻回性を得ることができ、迅速な巻回性を実現することができる。
なお、本発明の自発巻回性粘着シートにおいては、有機コーティング層及び粘着剤層は非常に薄いことから、いずれか又は双方の有無によっては、rn/Lnに対する影響はほとんど無視することができ、また、粘着シートの自発巻回の挙動に関しても実質的に影響しないことを確認している。
【0082】
本発明の自発巻回性粘着シートは、粘着剤層の保護のために、粘着剤層の表面にセパレータ(剥離シート)を備えていてもよい。
セパレータの構成材料としては、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂フィルム等が挙げられる。セパレータの表面には粘着剤層からの剥離性を高めるため、必要に応じてシリコーン処理、長鎖アルキル処理、フッ素処理等の剥離処理が施されていてもよい。必要に応じて、粘着剤層が環境紫外線によって反応するのを防止するために、紫外線防止処理が施されていてもよい。セパレータの厚みは、通常10〜200μm、好ましくは25〜100μm程度である。
【0083】
(用途又は使用方法)
本発明の自発巻回性粘着シートは、例えば、半導体ウェハ、光学素子保護用部材(例えば、光学フィルター)に対して、保護用又は固定用の粘着シートとして利用できる。より具体的には、例えば、半導体(Si、Ge等の元素半導体及び化合物半導体等、以下同じ)バックグラインド用粘着シート、半導体又は半導体パッケージダイシング用粘着シート、光学素子(例えば、反射防止及び赤外線カットなどの光学機能膜)が形成又は装備された基板(ガラス板、石英板、水晶板、セラミックス板、プラスチック基板など)ダイシング用粘着シート等として使用できる。
特に、ダイシング時の切削屑等、場合によっては切削水又はそれによる腐食(さび)から被着体を保護するための保護テープとして有用である。
なかでも、半導体保護用粘着シート、半導体ウェハ固定用粘着シート等の半導体用粘着シートとして有利に使用することができる。
【0084】
このように、本発明の自発巻回性粘着シートは、低剛性、高剛性又は高靭性の被着体(切断体)、非常に微小及び/又は薄型の被着体においても、被着体に対する応力を最小限にとどめながら、シートの剥離を確実かつ迅速に実現することができる。
【0085】
(切断体の製造方法)
本発明の切断体の製造方法では、上述した自発巻回性粘着シートを被切断体に貼付し、この被切断体を小片に切断し、加熱及び剥離して自発巻回性粘着シートを除去することを含む。
具体的には、本発明の自発巻回性粘着シートを被着体に貼着して仮固定し、被着体(被切断体)に所要の加工を施す。ここでの加工としては、半導体プロセス等で行われる加工が例示され、例えば、ダイシング等による小片への切断等であってもよい。
その後、自発巻回性粘着シートの粘着剤層の粘着力を低下させる。続いて、収縮性フィルム層の収縮原因となる熱等の刺激を自発巻回性粘着シートに与える。自発巻回性粘着シートが、エネルギー線硬化型粘着剤層を備え、収縮性フィルム層が熱収縮性フィルム層の場合には、粘着剤層にエネルギー線照射を行うとともに、所要の加熱手段により収縮性フィルム層を加熱する。
【0086】
これによって、自発巻回性粘着シートは、その1端部から1方向(通常、主収縮軸方向)へ又は対向する2端部から中心に向かって(通常、主収縮軸方向へ)自発的に巻回し、1又は2個の筒状巻回体を形成するとともに、被着体から剥離する。つまり、粘着剤層が硬化して粘着力を失い、収縮性フィルム層が収縮変形しようとするため、粘着シート外縁部が浮き上がって、その外縁部(又は対向する二つの外縁部)より粘着シートが巻回しつつ、一方向(又は方向が互いに逆の二方向(中心方向))へ自走して1個(又は2個)の筒状巻回体を形成する。
この際、収縮性フィルム層によって粘着シートの収縮方向を調整することにより、一軸方向へ、速やかに筒状巻回させることができ、ひいては、粘着シートを被着体から極めて容易に、かつ綺麗に剥離することができる。
【0087】
また、剥離応力を最小限に留める一方、剛性フィルム層と粘着剤層との相互の投錨性を有機コーティング層によって確保することができることから、被着体上に残存する粘着剤量を激減させることができ、被着体の汚染を確実に防止することができる。
さらに、巻回による剥離は、非接触の外的刺激によって起こすことができるため、人手又は機械を用いた接触式の剥離で起き得る接触による被着体破壊又は汚染を防止することができる。
特に、接触によらない剥離であるため、被着体が極微細化された後においても、粘着シートを除去するための時間及び手間を最小限に留めることが可能となる。
【0088】
自発巻回性粘着シートの1端部から1方向へ自発巻回する場合は、1個の筒状巻回体が形成され(一方向巻回剥離)、自発巻回性粘着シートの対向する2端部から中心に向かって自発的に巻回する場合は、平行に並んだ2個の筒状巻回体が形成される(二方向巻回剥離)。
このように、本発明の粘着シートは、常に筒状に丸まるために、剥離後のテープ回収作業を簡便化し、被着体及びその製品の製造効率を向上させることができる。
【0089】
被着体の代表的な例としては、半導体ウェハ、ガラスウェハ、石英ウェハ、水晶ウェハ、ガラス板、セラミック、誘電体板等が挙げられる。
加工は、粘着シートを用いて施しうる加工であれば特に限定されず、例えば、研削、切断、研磨、エッチング、旋盤加工、ダイシング、加熱(但し、収縮性フィルム層が熱収縮性フィルム層の場合には、熱収縮開始温度以下の温度に限られる)等が挙げられる。特に小片への切断を含む加工に有利である。
エネルギー線照射、加熱処理は同時に行ってもよく、段階的に行ってもよい。
【0090】
加熱は、収縮性フィルム層の収縮性に応じてその温度を適宜選択でき、例えば、70〜200℃、好ましくは70〜160℃である。加熱の方法は、温風の吹付け、ランプ又は電磁波等の付加、温水の照射又は温水への浸漬、被着体の加熱などが挙げられる。加熱は、被着体全面均一に加温するだけでなく、全面を段階的に加温する、さらには剥離きっかけを作るためだけに部分的に加熱してもよく、易剥離性を活用する目的において適宜選択することができる。
【0091】
本発明の自発巻回性粘着シートによれば、上述した収縮性フィルム層、接着剤層、剛性フィルム層、有機コーティング層及び粘着剤層が相まって、特に、熱収縮時における加熱による変形の不具合、例えば、被着面に略平行方向による擦れ等を抑制することができる。これによって、自発巻回性粘着シートを、糊残り(投錨破壊)を発生することなく、迅速に剥離することが可能となる。
【0092】
以下に、本発明の自発巻回性粘着シートを実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0093】
有機コーティング層付の剛性フィルム層1の製造
剛性フィルム層として、PETフィルムを準備した。東レ社製、片面コロナ処理済み、ルミラーS105(厚み38μm)をこのPETフィルムとして用いた。
この剛性フィルム層のコロナ面処理側に、有機コーティング層を、乾燥膜厚が1〜2μmとなるように、グラビアコーターで塗布し、乾燥し、剛性フィルム層1を得た。
この有機コーティング層には、薄青色印刷インクNB300(大日精化社)を用いた。なお、NB300にはバインダー樹脂としてポリウレタン系酢酸ビニル−塩化ビニルコポリマーが含まれており、IRによってウレタンと考えられる強度ピークを確認した。
【0094】
有機コーティング層付の剛性フィルム層2の製造
剛性フィルム層として、PETフィルムを準備した。東レ社製、片面コロナ処理済み、ルミラーS105(厚み38μm)をこのPETフィルムとして用いた。
この剛性フィルム層のコロナ面処理側に、有機コーティング層を、乾燥膜厚が1〜2μmとなるように、グラビアコーターで塗布し、乾燥し、剛性フィルム層2を得た。
この有機コーティング層には、薄青色の色素を含まない印刷インクNB300(大日精化社)を用いた。なお、NB300にはバインダー樹脂としてポリウレタン系酢酸ビニル−塩化ビニルコポリマーが含まれており、IRによってウレタンと考えられる強度ピークを確認した。
【0095】
有機コーティング層付の剛性フィルム層3の製造
剛性フィルム層として、PETフィルムを準備した。東レ社製、片面コロナ処理済み、ルミラーS105(厚み38μm)をこのPETフィルムとして用いた。
この剛性フィルム層のコロナ面処理側に、有機コーティング層を、乾燥膜厚が1〜2μmとなるように、グラビアコーターで塗布し、乾燥し、剛性フィルム層3を得た。
この有機コーティング層には、ポリウレタン系プライマー剤であるアデカボンタイターU500(ADEKA製)71重量部とイソシアネート樹脂であるコロネートHL(日本ポリウレタン工業製)28重量部の酢酸エチル溶液を用いた。
【0096】
有機コーティング層付の剛性フィルム層4の製造
アクリル系モノマーとして、アクリル酸t−ブチル50.0部、アクリル酸30.0部、アクリル酸ブチル20.0部と、多官能モノマーとしてトリメチロールプロパントリアクリレート1.0部と、光重合開始剤として、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(商品名「イルガキュア2959」、BASF社製)0.1部と、ポリオールとして、ポリオキシテトラメチレングリコール(分子量650、三菱化学(株)製)73.4部と、ウレタン反応触媒として、ジブチル錫ジラウレート0.05部とを投入し、攪拌しながら、ポリイソシアネートとしてキシリレンジイソシアネート26.6部を滴下し、65℃で2時間反応させて、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。ポリイソシアネート成分とポリオール成分の使用量は、NCO/OH(当量比)=1.25であった。
得られたウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、商品名「S−10」)上に、硬化後の厚みが3〜4μmになるように塗布した。この上に、剥離処理したPETフィルム(厚み38μm)を重ねて被覆し、この被覆したPETフィルム面に、高圧水銀ランプを用いて紫外線(照度163mW/cm2、光量2100mJ/cm2)を照射して硬化させて、ポリエチレンテレフタレート/アクリル・ウレタン積層シートを得た。
【0097】
有機コーティング層付の剛性フィルム層5の製造
剛性フィルム層として、PETフィルムを準備した。東レ社製、片面コロナ処理済み、ルミラーS105(厚み38μm)をこのPETフィルムとして用いた。
この剛性フィルム層のコロナ面処理側に、有機コーティング層を、乾燥膜厚が1〜2μmとなるように、グラビアコーターで塗布し、乾燥し、剛性フィルム層5を得た。
この有機コーティング層には、青色印刷インクCVL−PR(DICグラフィックス社製)を用いた。CVL−PRにはバインダー樹脂として水酸基含有酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体が含まれており、IRではウレタンと考えられる強度ピークは確認できなかった。
【0098】
有機コーティング層付の剛性フィルム層6の製造
剛性フィルム層として、PETフィルムを準備した。東レ社製、片面コロナ処理済み、ルミラーS105(厚み38μm)をこのPETフィルムとして用いた。
この剛性フィルム層のコロナ処理面側に、有機コーティング層を、乾燥膜厚が1〜2μmとなるように、グラビアコーターで塗布し、乾燥し、剛性フィルム層6を得た。
この有機コーティング層には、非晶性飽和共重合ポリエステル樹脂(商品名「バイロン200」、東洋紡績(株)製)を用いた。
【0099】
自発巻回性積層シート1の作製
接着剤として、三井化学社製タケラックA520、同社製タケネートA10及び酢酸エチルを重量比で6:1:5.5となるよう混合した。混合物をグラビアコーターで、乾燥膜厚が2〜4μmとなるように、PETフィルム(東レ社製、片面コロナ処理済み、ルミラーS105、膜厚38μm、有機コーティング処理なし)の非コロナ処理面に塗布し、接着剤層1を形成した。
接着剤層1の塗布後直ちに、この接着剤層に、片面コロナ処理済み熱収縮ポリエステルフィルム(東洋紡社製、スペースクリーンS7200、膜厚30μm)のコロナ処理面を貼り合わせ、自発巻回性積層シート1を作製した。
【0100】
自発巻回性積層シート2の作製
接着剤として、三井化学社製タケラックA520、同社製タケネートA10及び酢酸エチルを重量比で6:1:5.5となるよう混合した。混合物をグラビアコーターで、乾燥膜厚が2〜4μmとなるように、上述した剛性フィルム層1の非コロナ処理面に塗布し、接着剤層2を形成した。
接着剤層2の塗布後直ちに、この接着剤層に、片面コロナ処理済み熱収縮ポリエステルフィルム(東洋紡社製、スペースクリーンS7200、膜厚30μm)のコロナ処理面を貼り合わせ、自発巻回性積層シート2を作製した。
【0101】
自発巻回性積層シート3の作製
接着剤として、三井化学社製タケラックA520、同社製タケネートA10及び酢酸エチルを重量比で6:1:5.5となるよう混合した。混合物をグラビアコーターで、乾燥膜厚が2〜4μmとなるように、上述した剛性フィルム層2の非コロナ処理面に塗布し、接着剤層を形成した。
接着剤層の塗布後直ちに、この接着剤層に、片面コロナ処理済み熱収縮ポリエステルフィルム(東洋紡社製、スペースクリーンS7200、膜厚30μm)のコロナ処理面を貼り合わせ、自発巻回性積層シート3を作製した。
【0102】
自発巻回性積層シート4の作製
接着剤として、三井化学社製タケラックA520、同社製タケネートA10及び酢酸エチルを重量比で6:1:5.5となるよう混合した。混合物をグラビアコーターで、乾燥膜厚が2〜4μmとなるように、上述した剛性フィルム層3の非コロナ処理面に塗布し、接着剤層を形成した。
接着剤層の塗布後直ちに、この接着剤層に、片面コロナ処理済み熱収縮ポリエステルフィルム(東洋紡社製、スペースクリーンS7200、膜厚30μm)のコロナ処理面を貼り合わせ、自発巻回性積層シート4を作製した。
【0103】
自発巻回性積層シート5の作製
接着剤として、三井化学社製タケラックA520、同社製タケネートA10及び酢酸エチルを重量比で6:1:5.5となるよう混合した。混合物をグラビアコーターで、乾燥膜厚が2〜4μmとなるように、上述した剛性フィルム層4の非コロナ処理面に塗布し、接着剤層を形成した。
接着剤層の塗布後直ちに、この接着剤層に、片面コロナ処理済み熱収縮ポリエステルフィルム(東洋紡社製、スペースクリーンS7200、膜厚30μm)のコロナ処理面を貼り合わせ、自発巻回性積層シート5を作製した。
【0104】
自発巻回性積層シート6の作製
接着剤として、三井化学社製タケラックA520、同社製タケネートA10及び酢酸エチルを重量比で6:1:5.5となるよう混合した。混合物をグラビアコーターで、乾燥膜厚が2〜4μmとなるように、上述した剛性フィルム層5の非コロナ処理面に塗布し、接着剤層を形成した。
接着剤層の塗布後直ちに、この接着剤層に、片面コロナ処理済み熱収縮ポリエステルフィルム(東洋紡社製、スペースクリーンS7200、膜厚30μm)のコロナ処理面を貼り合わせ、自発巻回性積層シート6を作製した。
【0105】
自発巻回性積層シート7の作製
接着剤として、三井化学社製タケラックA520、同社製タケネートA10及び酢酸エチルを重量比で6:1:5.5となるよう混合した。混合物をグラビアコーターで、乾燥膜厚が2〜4μmとなるように、上述した剛性フィルム層6の非コロナ処理面に塗布し、接着剤層を形成した。
接着剤層の塗布後直ちに、この接着剤層に、片面コロナ処理済み熱収縮ポリエステルフィルム(東洋紡社製、スペースクリーンS7200、膜厚30μm)のコロナ処理面を貼り合わせ、自発巻回性積層シート7を作製した。
【0106】
粘着剤1の作製
2−エチルヘキシルアクリレート:モルホリルアクリレート:2−ヒドロキシエチルアクリレート=75:25:20(モル比)混合物100重量部に重合開始剤ベンジルパーオキサイド0.2重量部を加えたトルエン溶液から共重合してアクリル系重合体(重量平均分子量70万)を得た。
得られた前記アクリル系重合体に2−ヒドロキシエチルアクリレート由来の水酸基の50モル%の2−イソシアナトエチルメタクリレート(商品名:カレンズMOI、昭和電工株式会社製)と前記アクリル系重合体100重量部に対して、付加反応触媒ジブチル錫ジラウリレート0.03重量部とを配合し、空気雰囲気下、50℃で24時間反応させて、側鎖にメタクリレート基を有するアクリル系重合体を製造した。
得られたアクリル系重合体100重量部に対して、3官能アクリル系光重合性モノマー(トリメチロールプロパントリアクリレート(商品名:アロニクスM320、東亜合成(株)製))15重量部、ラジカル系光重合開始剤(イルガキュア651、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、BASF社製)1重量部、イソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業(株)製、 商品名コロネートL)1重量部を加え、混合物を得た。
得られた混合物を、ダイコーターを用いて、剥離処理済みPETフィルムMRF38(三菱ポリエステル社製)の剥離処理面に、乾燥膜厚が30μmとなるように塗布した。なお、剥離処理済みPETフィルムMRF38は、セパレータとして用いた。
【0107】
粘着剤2の作製
ブチルアクリレート:エチルアクリレート:2−ヒドロキシエチルアクリレート=50:50:20(モル比)混合物100重量部に重合開始剤ベンジルパーオキサイド0.2重量部を加えたトルエン溶液から共重合してアクリル系重合体(重量平均分子量70万)を得た。
得られた前記アクリル系重合体に2−ヒドロキシエチルアクリレート由来の水酸基の80モル%の2−イソシアナトエチルメタクリレート(商品名:カレンズMOI、昭和電工株式会社製)と前記アクリル系重合体100重量部に対して、付加反応触媒ジブチル錫ジラウリレート0.03重量部とを配合し、空気雰囲気下、50℃で24時間反応させて、側鎖にメタクリレート基を有するアクリル系重合体を製造した。
得られたアクリル系重合体100重量部に対して、ラジカル系光重合開始剤(イルガキュア651、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、BASF社製)3重量部、イソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業(株)製、 商品名コロネートL)0.2重量部を加え、混合物を得た。
得られた混合物を、ダイコーターを用いて、剥離処理済みPETフィルムMRF38(三菱ポリエステル社製)の剥離処理面に、乾燥膜厚が30μmとなるように塗布した。
【0108】
粘着剤3の作製
メチルアクリレート:2−エチルヘキシルアクリレート:アクリル酸=70:30:10(重量部比)混合物100重量部に重合開始剤ベンゾイルパーオキサイト0.2重量部を加えた酢酸エチル溶液から共重合して得られたアクリル系重合体(重量平均分子量100万)を製造した。
得られたアクリル共重合体100重量部に対し、イソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」日本ポリウレタン株式会社製)3重量部、エポキシ系架橋剤(商品名「テトラットC」三菱瓦斯化学株式会社製)0.75重量部、多官能ウレタンアクリレートオリゴマー(商品名「KAYARAD DPHA-40H」日本化薬株式会社製)50重量部、光重合開始剤(商品名「イルガキュア651」、BASF社製)3重量部を加え、混合物を得た。
得られた混合物を、ダイコーターを用いて、剥離処理済PETフィルムMRF38(三菱ポリエステル社製)の剥離処理面に、乾燥膜厚が30μmとなるように塗布した。
【0109】
実施例1
自発巻回性積層シート2のPET基材表面の有機コーティング層側に粘着剤2を貼り合わせて、自発巻回性粘着シートを作製した。
実施例2
自発巻回性積層シート2のPET基材表面の有機コーティング層側に粘着剤3を貼り合わせて、自発巻回性粘着シートを作製した。
実施例3
自発巻回性積層シート3のPET基材表面の有機コーティング層側に粘着剤2を貼り合わせて、自発巻回性粘着シートを作製した。
実施例4
自発巻回性積層シート4のPET基材表面の有機コーティング層側に粘着剤2を貼り合わせて、自発巻回性粘着シートを作製した。
実施例5
自発巻回性積層シート5のPET基材表面の有機コーティング層側に粘着剤2を貼り合わせて、自発巻回性粘着シートを作製した。
【0110】
比較例1
自発巻回性積層シート1のPET基材表面に粘着剤1を貼り合わせて、自発巻回性粘着シートを作製した。
比較例2
自発巻回性積層シート1のPET基材表面に粘着剤2を貼り合わせて、自発巻回性粘着シートを作製した。
参考例3
自発巻回性積層シート6のPET基材表面に粘着剤2を貼り合わせて、自発巻回性粘着シートを作製した。
参考例4
自発巻回性積層シート7のPET基材表面に粘着剤2を貼り合わせて、自発巻回性粘着シートを作製した。
【0111】
上記実施例、比較例及び参考例で得られた自発巻回性粘着シートの特性を、以下の方法により評価した。
【0112】
剥離性試験
図5に示したように、得られた自発巻回粘着シート29それぞれを、8インチシリコンミラーウェハ30(東京化工社製)に貼りつけ、DISCO社製バックグラインド装置DFG8560を用いて、200μm厚に研削した。
シリコンミラーウェハ30の研削面に、ダイシングテープ31(日東電工社製DU400SE)を貼りつけ、さらにダイシングリング28を設置した。これを、DISCO社製ダイシング装置DFD651を用いて、7.5×7.5mmの正方形にダイシングした。
ダイシングにより小片化されたもの200個を、図5のシリコンミラーウェハ30の破線丸印内の領域から任意に剥がし取り、自発巻回粘着シート29側から、日東精機社製UV照射機NEL UM810(高圧水銀灯光源、20mW/cm2)を用いて300mJ/cm2のUV照射を行った。
UV照射後の小片を100℃に加温したホットプレートに設置し(設置面は自発巻回粘着シート29の貼りついていない側)、剥離性を下記基準で評価した。その結果を表1に示す。
ホットプレート設置後1分以内に全数剥離が起こり、かつ粘着剤層の投錨破壊が起きなかった場合:○
ホットプレート設置後1分以内に全数剥離が起こるが、部分的な投錨破壊が起きた場合:部分的投錨破壊が起きなった小片数/200
ホットプレート設置後の剥離において全面投錨破壊が1片でもおきた場合:×
【0113】
投錨性試験
図5に示したように、まず、得られた自発巻回粘着シートからセパレータを除去し、粘着剤層6側に、粘着テープ27(日東電工社製、BT315)の粘着面をハンドローラーで貼り合わせた。
自発巻回性粘着シートに対して、自発巻回性積層シート40の剛性フィル層側から、日東精機社製UV照射機NEL UM810(高圧水銀灯光源、20mW/cm2)を用いて300mJ/cm2のUVを照射して、粘着剤層6を硬化させた。
次に、自発巻回性積層シート40の剛性フィルム側に両面テープ24(日東電工社製No.5000N)を貼り合わせ、10mm×70mmの短冊片を作成した。この後、両面テープ24の他面を2mm厚のSUS板26を貼り合わせて試験体を作成した。
得られた試験体の粘着テープ27を、180°ピール、300mm/mmで引き剥がした際、図7Aに示すように、粘着テープ27のみ剥離した場合(投錨破壊が一切起きない場合)を○、図7Bに示すように、粘着テープ27とともに粘着剤層6がともに引き剥がされたもの(投錨破壊したもの)についてはその剥離力を測定した。その結果を表1に示す。
なお、粘着テープ27をSUS板26に直接張り合わせた場合の粘着力は7N/10mmであり、上記試験で投錨破壊が一切起きなかったものは同等の粘着力を示した。よって、実施例1〜4の粘着剤層は、UV硬化後の自発巻回粘着シートにおいて、非常に優れた投錨性を示していることが分かった。
【0114】
【表1−1】

【0115】
【表1−2】

【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の自発巻回性粘着シートは、例えば半導体シリコンウェハ等の加工工程で用いられるウェハ仮固定用粘着シート、ウェハ保護用粘着シート等の再剥離用粘着シート等のみならず、ガラス、誘電体等を被着体とする粘着シート等として有用である。
【符号の説明】
【0117】
2 収縮性フィルム層
3 接着剤層
4 剛性フィルム層
5 有機コーティング層
6 粘着剤層
10、29 自発巻回性粘着シート
10a、b 巻回体
20、22 粘着剤
7、21 被着体
23、26 SUS板
24 両面テープ
27 粘着テープ
28 ダイシングリング
30 シリコンミラーウェハ
31 ダイシングテープ
40 自発巻回性積層シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1軸方向に収縮性を有する収縮性フィルム層、接着剤層及び剛性フィルム層がこの順に積層されてなる自発巻回性積層シートと、
該積層シートの剛性フィルム層側に積層された粘着剤層とを備え、
熱刺激の付与により、1端部から1方向へ又は対向する2端部から中心に向かって自発的に巻回して1又は2個の筒状巻回体を形成し得る自発巻回性粘着シートであって、
前記剛性フィルム層と粘着剤層との間に、有機コーティング層が配置されていることを特徴とする自発巻回性粘着シート。
【請求項2】
前記有機コーティング層が、ウレタン系ポリマー又はオリゴマーによって形成されてなる請求項1に記載の自発巻回性粘着シート。
【請求項3】
前記ウレタン系ポリマー又はオリゴマーによって形成されてなる有機コーティング層が、ポリオール化合物と、該ポリオール化合物の水酸基の等当量以上のイソシネート基を含むポリイソシアネートとの反応物から形成されたものである請求項2に記載の自発巻回性粘着シート。
【請求項4】
前記粘着剤層が、エネルギー線硬化型粘着剤で構成されている請求項1〜3のいずれか1つに記載の自発巻回性粘着シート。
【請求項5】
前記粘着剤層は、シリコンミラーウェハに対する粘着力(25℃、180°ピール剥離、引張速度:300mm/分)が、エネルギー線照射前に1.0N/10mm以上である請求項4に記載の自発巻回性粘着シート。
【請求項6】
前記粘着剤層は、エネルギー線照射後のヤング率が、80℃において、0.4〜75MPaである請求項5に記載の自発巻回性粘着シート。
【請求項7】
前記収縮性フィルム層は、70〜180℃の範囲の所定温度における主収縮方向の収縮率が30〜90%である請求項1〜6のいずれか1つに記載の自発巻回性粘着シート。
【請求項8】
前記剛性フィルム層は、80℃におけるヤング率と厚みとの積が3.0×105N/m以下である請求項1〜7のいずれか1つに記載の自発巻回性粘着シート。
【請求項9】
前記接着剤層が、ウレタン系接着剤であり、
前記収縮性フィルム層と前記剛性フィルム層との引き剥がしに必要な剥離力(180°ピール剥離、引張速度300mm/分)が70℃において2.0N/10mm以上である請求項1〜8のいずれか1つに記載の自発巻回性粘着シート。
【請求項10】
自発的に巻回して形成される筒状巻回体の直径rnと自発巻回性粘着シートの巻回方向の長さLnとの比(rn/Ln)が、0.001〜0.333の範囲である請求項1〜9のいずれか1つに記載の自発巻回性粘着シート。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の自発巻回性粘着シートを被切断体に貼付し、
前記被切断体を小片に切断し、
加熱及び剥離して自発巻回性粘着シートを除去することを含む切断体の製造方法。
【請求項12】
被切断体が、半導体ウェハ又は光学素子保護用部材である請求項11の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2012−180494(P2012−180494A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152173(P2011−152173)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】