自発的に生じる疾患のためのプラットフォーム技術
本発明は、トランスレーショナル医療に使用できる、自発的に生じる疾患のためのプラットフォーム技術を提供する。イヌなどの非ヒトコンパニオンアニマルは、ヒト疾患に酷似している疾患を自発的に発生する。自発的に生じる疾患を発生するコンパニオンアニマルを使用することは、そうでなければ、FDAの規制下で認可されない、1種または複数のパラメータを試験することが可能となることによって、トランスレーショナル医療ための時間および費用の利益になり得る。さらに、コンパニオンアニマルもまた、その自発的に生じる疾患を治癒または治療できる可能性のある発見によって助けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2009年5月14日に出願された米国仮特許出願第61/178,391号および2009年6月11日に出願された同第61/186,342号に対する優先権を主張する。両方の仮出願の開示は、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
ヒトの命を延ばすための試みは、新規生物学的経路および作用機序ならびに新規治療および診断法の発見を含む。癌などの種々の疾患と戦うための、新規薬物、化合物、方法または前述のもののいずれかの組合せの発見は、規制上の要請のために、ならびに時間および経費を考慮すると困難である。同じ理由で、複数の治療の包括的な研究は、ヒト臨床試験において達成するのは極めて難しい。これらの理由は、人命を救うための、および/または種々の疾患に苦しむ人の生活状況を改善するための企業、非営利団体および個人の努力を妨げる実際の障壁のように作用する。必要なものは、最適な生物学的および/または生理学的応答および結果を決定するために、因子の組合せを調べることができるような、種々の疾患を研究するための改善された系である。このような系は、宿主誘導性応答を含む自発的に生じる疾患(例えば、糖尿病、癌、自己免疫、神経学的、アレルギー性疾患)などの種々の疾患を有する個人を助けるための医学的および科学的取り組みの最大に効率的な使用を提供するための、新規の、または改善された薬物、化合物および治療プロトコールを作製するために情報をトランスレートするために利用できる。
【0003】
自発的に生じる疾患、例えば、糖尿病は、イヌおよびネコなどのコンパニオンアニマル(companion animal)において観察されている(非特許文献1)。例えば、Davisonらは、自発的に生じる真性糖尿病においてGAD65およびIA−3に対する自己抗体で実施された研究を記載している(非特許文献2)。Hoenigらは、非特許文献3において、糖尿病を有するイヌにおけるベータ細胞抗体の定性アッセイを記載した。イヌにおけるその他の天然に存在する疾患は、種々の参考文献、例えば、非特許文献4に記載されている。
【0004】
糖尿病に加えて、癌および自己免疫疾患などの他の自発的に生じる疾患が観察されている。Paoloniらは、癌と関連する遺伝子を同定し、環境危険因子を研究し、腫瘍生物学および進行を理解し、新規癌治療薬を評価および開発するための、天然に存在する癌を有するイヌの研究のヒト癌生物学の研究との一体化を記載している。(Nature、8:147〜156頁(2008年))。The Canine Comparative Oncology and Genomics Consortium(CCOGC)は、ヒトおよびイヌ両方をよくするために癌研究を調査するための、天然に存在する癌のモデルとしてイヌを使用するための多数の共同努力の結果である。Nature Biotechnology 24巻(9号):1065〜1066頁(2006年)。イヌが天然に発生する癌の例として以下がある。非ホジキンリンパ腫、骨肉腫、黒色腫、前立腺癌腫、肺癌腫、頭頸部癌腫、乳癌および軟部組織癌。同書。ペットのイヌでの試験が報告され、新規抗癌剤の安全性および活性をより良好に規定するのに役立っており、これらの抗癌薬に対する反応または曝露と関連している関連バイオマーカーの同定を助けており、ヒト臨床試験におけるこれらの新規薬物の成功を向上させる組合せ戦略の合理的な開発を可能にし得る。同書。Candolfiらは、多形性膠芽腫(glioblastoma mutliforme)(GBM)を自発的に発生するイヌへのアデノウイルスによって媒介される遺伝子導入の使用を記載している(Candolfi Mら、Neurosurgery 60巻:167〜178頁(2007年))。Paoliniらは、the Comparative Oncology Trials Consortium(COTC)が、腫瘍内皮上のαVインテグリンへ腫瘍壊死因子を送達する標的とされるAAV−ファージベクター(RGD−A−TNF)を評価したことを報告した。PLoS ONE 4巻(3号):e4972(2009年)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hoenig M、Mol. Cell. Endocrinol.(2002年)197巻:221〜229頁
【非特許文献2】Davison LJら、Veterinary Immunology and Immunopathology(2008年)126巻:83〜90頁
【非特許文献3】Hoenigら、Veterinary Immunology and Immunopathology、(1992年)32巻:195〜203頁
【非特許文献4】Tsaiら、Mamm. Genome、(2007年)18巻:444〜451頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載される本発明は、治療的処置および診断方法にトランスレートできる、自発的に生じる疾患を研究するためのプラットフォーム技術を提供する。
【0007】
特許、特許出願および刊行物を含めた本明細書に引用されるすべての参考文献は、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0008】
本発明は、生物学的経路、生物学的および/または生理学的経路に影響を及ぼす薬剤の種々の組合せの効果(例えば、相乗作用)、根底にある作用機序、複雑な生理学的状態の生物学的関与物ならびに種々の生理学的状態および/または疾患の治療、診断または予防のための薬剤を開発するのに有用であり得るその他のパラメータを調査するためのプラットフォーム技術を提供する。このような複雑な生理学的状態として、それだけには限らないが、癌、自己免疫疾患、アレルギー、過敏症、神経疾患、遺伝性遺伝子障害および感染性疾患を挙げることができる。
【0009】
したがって、一態様では、本発明は、相乗作用を有する抗癌剤の組合せを同定するための方法であって、(1)自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルに2種以上の抗癌剤を投与するステップと、(2)コンパニオンアニマルを生物学的および/または生理学的効果についてモニタリングするステップと、(3)生物学的および/または生理学的効果が相乗的である場合に、相乗作用を有する抗癌剤の組合せを同定するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、抗癌剤は、ビスホスホネート、白金ベースの化学療法薬、タンパク質ホスホリパーゼDの阻害剤、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ポドフィロトキシン、抗体、チロシンキナーゼ阻害剤、ホルモン治療、可溶性受容体および抗悪性腫瘍薬からなる群から選択される。別の実施形態では、抗癌剤は、クロドロネートおよびカチオン性CpGである。
【0010】
別の態様では、本発明は、ヒトにおける治療のための治療法(treatment modality)を同定するための方法であって、自発的に生じる疾患を有するコンパニオンアニマルにおいて組成物の組合せを試験するステップと、自発的に生じる疾患を有するコンパニオンアニマルにおける試験の結果を、自発的に生じる疾患を有さない動物における試験の結果と比較することによって、ヒトにおける成功の可能性の高い組合せを同定するステップとを含む方法を提供する。
【0011】
別の態様では、本発明は、自己免疫疾患と関連している自己抗原を同定するための方法であって、(a)自発的に生じる自己免疫疾患を有するコンパニオンアニマルにおいて1種または複数の抗原を決定するステップと、(b)コンパニオンアニマルにおいて疾患の抗原プロファイルを得るステップと、(c)このプロファイルを、自発的に生じる疾患を有さない対照コンパニオンアニマルと比較するステップと、(d)自己免疫疾患と関連している自己抗原を同定するステップとを含む方法を提供する。
【0012】
別の態様では、本発明は、ヒトにおいて癌と関連している、または関連している疑いのある複数の抗原を標的とする方法であって、(a)自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルに抗癌効果を有すると疑われる1種または複数の薬剤を投与するステップと、(b)コンパニオンアニマルにおける薬剤の生物学的効果または生理学的効果をモニタリングするステップと、(c)薬剤が生物学的効果または生理学的効果を有していたコンパニオンアニマルにおいて1種または複数の抗原を同定するステップと、(d)薬剤が、コンパニオンアニマルにおいて抗癌効果を有する場合には、ヒトに同じ薬剤を投与するステップとを含む方法を提供する。
【0013】
別の態様では、本発明は、ヒトにおいて感染性疾患と関連している、または関連している疑いのある複数の抗原を標的とする方法であって、(a)自発的に生じる感染性疾患を有するコンパニオンアニマルに感染性疾患に対して効果を有すると疑われる1種または複数の薬剤を投与するステップと、(b)コンパニオンアニマルにおける薬剤の生物学的効果または生理学的効果をモニタリングするステップと、(c)薬剤が生物学的効果または生理学的効果を有していたコンパニオンアニマルにおいて1種または複数の抗原を同定するステップと、(d)薬剤がコンパニオンアニマルにおいて有益な効果を有する場合には、ヒトに同じ薬剤を投与するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、感染性疾患は、インフルエンザ、敗血症(例えば、Klebsiella pneumoniae敗血症)、細菌感染症(例えば、Staphylococcus aureus、その他のブドウ球菌感染症、E.coliおよび腸球菌)、Pseudomonas aeruginosa、Leishmania infantum、ブルセラ症、コクシジウム症およびSalmonella enterica血液型亜型Typhimuriumからなる群から選択される。
【0014】
本発明の態様または実施形態のいずれかでは、コンパニオンアニマルは、イヌである。イヌは、純血種のイヌであっても、雑種のイヌであってもよい。イヌは、均一な遺伝的背景を有する場合も、不均一な遺伝的背景を有する場合もある。
【0015】
本発明の態様または実施形態のいずれかでは、コンパニオンアニマルはネコである。ネコは、純血種であっても雑種であってもよい。ネコは、均一な遺伝的背景を有する場合も、不均一な遺伝的背景を有する場合もある。
【0016】
したがって、別の態様では、本発明は、標準モデルより、治療法を同定するために成功する可能性の高い組成物の組合せを含む、ヒトにおける治療のための治療法を同定するためのコンパニオンアニマルモデル系を提供する。一実施形態では、組成物の組合せは、2種以上の抗原を含む。別の実施形態では、組成物の組合せは、少なくとも1種の抗原と、1種のアジュバントを含む。別の実施形態では、コンパニオンアニマルは、イヌまたはネコである。別の実施形態では、コンパニオンモデル系は、イヌ系であり、不均一な遺伝的背景を有する。別の実施形態では、コンパニオンアニマルは、純血種のイヌである。別の実施形態では、コンパニオンアニマルは、雑種のイヌである。
【0017】
別の態様では、本発明は、抗癌剤を同定するための方法であって、(a)薬剤を試験するための、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルモデル系を獲得するステップと、(b)コンパニオンアニマルモデル系に薬剤を投与するステップと、(c)コンパニオンアニマルモデル系において、生物学的および/または生理学的効果について2種以上の癌抗原をモニタリングするステップと、(d)生物学的および生理学的効果に基づいて、抗癌として薬剤を同定するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、コンパニオンアニマルは、イヌまたはネコである。別の実施形態では、癌抗原は、多形性膠芽腫抗原ではない。
【0018】
別の態様では、本発明は、自己免疫疾患と関連する自己抗原を同定するための方法であって、(a)自発的に生じる自己免疫疾患を有するコンパニオンアニマルモデル系を獲得するステップと、(b)1種または複数の抗原を決定して、コンパニオンアニマルモデル系において疾患のプロファイルを得るステップと、(c)このプロファイルを、自発的に生じる疾患を有していない対照コンパニオンアニマルモデル系と比較するステップと、(d)自己免疫疾患と関連している自己抗原を同定するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、コンパニオンアニマルは、イヌまたはネコである。別の実施形態では、自己免疫疾患は、糖尿病、拡張型心筋症および円板状ループス(discord lupus)からなる群から選択される。別の実施形態では、自己抗原は、GAD65または全長IA−2、膜近傍ドメイン(IA2のアミノ酸605〜682)ではない。別の実施形態では、自己抗原は、ミオシン重鎖、アルファ心筋アクチン、ミトコンドリアのアコニット酸ヒドラターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)または脳グリコーゲンホスホリラーゼ(GPBB)ではない。
【0019】
別の態様では、本発明は、ヒトにおいて癌と関連している、または関連している疑いのある複数の抗原を標的とする方法であって、(a)薬剤を試験するための、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルモデル系を獲得するステップと、(b)コンパニオンアニマルモデル系に抗癌効果を有すると疑われる1種または複数の薬剤を投与するステップと、(c)コンパニオンアニマルモデル系に対する薬剤の効果をモニタリングするステップと、(d)薬剤がコンパニオンアニマルモデル系において抗癌効果を有する場合に、ヒトに同じ薬剤を投与するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、コンパニオンアニマルは、イヌまたはネコである。
【0020】
別の態様では、本発明は、感染性疾患と関連している、または関連している疑いのある、1種または複数の抗原を標的とする方法であって、(a)薬剤を試験するための、自発的に生じる感染性疾患を有するコンパニオンアニマルモデル系を獲得するステップと、(b)コンパニオンアニマルモデル系に、感染性疾患と戦うための効果を有すると疑われる1種または複数の薬剤を投与するステップと、(c)コンパニオンアニマルモデル系に対する薬剤の効果をモニタリングするステップと、(d)コンパニオンアニマルモデル系において薬剤が効果を有する場合に、ヒトに同じ薬剤を投与するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、コンパニオンアニマルは、イヌまたはネコである。別の実施形態では、感染性疾患は、インフルエンザ、敗血症(例えば、Klebsiella pneumoniae敗血症)、細菌感染症(例えば、Staphylococcus aureus、その他のブドウ球菌感染症、E.coliおよび腸球菌)、Pseudomonas aeruginosa、Leishmania infantum、ブルセラ症、コクシジウム症およびSalmonella enterica血液型亜型Typhimuriumからなる群から選択される。
【0021】
別の態様では、本発明は、疾患のための薬剤で規制認可を得るための時間および/または費用を改善する方法であって、(a)疾患のための、自発的に生じる型の疾患を有するコンパニオンアニマルモデル系を同定するステップと、(b)コンパニオンアニマルモデル系に薬剤を投与するステップと、(c)生物学的効果および生理学的効果について動物をモニタリングするステップと、(d)疾患に対する薬剤の効果を決定するステップと、(e)規制機関への提出に適している媒体で薬剤の効果を立証するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、コンパニオンアニマルは、イヌまたはネコである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、s.c.MCA−205(肉腫)腫瘍が確立したC57B1/6マウスへの、1週間に1回の200μlのLCのi.v.投与が、腫瘍増殖の大幅な阻害をもたらしたことを示す結果を表す。
【図2】図2は、LC単独を用いる一連の処理でSTS処理されたイヌが、第3のLC投与後に開始した相当な自発的な腫瘍退縮を経験したことを示す結果を表す。
【図3】図3は、腫瘍保有マウスにおけるLCのi.v.投与の24時間後に、脾臓、血液および腫瘍組織においてCD11b+/Gr−1+ MSCが数え上げられ、血液において相当なMSC枯渇が起こったことを示す結果を表す。
【図4】図4は、LCの抗腫瘍活性が、CD8−/−マウスにおいてほとんど完全に排除されたのに対し、CD4−/−マウスでは、LCの活性が部分的に阻害されただけであったことを示す結果を表す。対照はまた、PBSを含有するリポソームで処理されたマウス(lip対照)を含んでいた。
【図5】図5は、LCを使用するMSC枯渇が、読み出し情報として体液性免疫応答を使用して、ワクチン反応を増強し得るかどうかを調べる実験から得られた結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、自発的に生じる疾患などの種々の疾患の、生物学的経路、生理学的状態および/または応答ならびに根底にある作用機序の種々の局面を研究するためのプラットフォーム技術を提供する。このような知見を、それだけには限らないが、治療、診断方法またはキットを開発すること、新規経路を同定すること、治療もしくは予防目的で化合物もしくはまたは薬剤(およびそれらの組合せ)を同定することならびに/または新規疾患標的を同定することをはじめ、種々の目的で、トランスレーショナル医療にさらに使用できる。
【0024】
一般に、自発的に生じる疾患を有するコンパニオンアニマルは、種々の治療法および組合せに関するデータを集めるために有用である。コンパニオンアニマルは、実験室条件下で維持されていないので(すなわち、日常の環境因子に対する曝露が制限され、管理された条件セットに曝露されている)、このような動物の使用は、実験室条件下で維持されたイヌを使用するその他の研究(例えば、ビーグル犬研究)から区別される1つの因子である。さらに、疾患は、実験室条件下で試薬によって誘導されていない、すなわち、疾患は自発的に発生する。したがって、このプラットフォームの利益は、特定の疾患または状態を発生するよう誘導された実験室動物よりも、ヒトに起こることに、より反映的であるということである。
【0025】
イヌなどの非ヒトコンパニオンアニマルは、ヒト疾患に酷似している疾患を自発的に発生する。そのようなものとして、自発的に生じる疾患を発生するコンパニオンアニマルの使用は、規制認可のために科学的データを集めるのに必要な時間を低減することによって、さらなる利益を提供し、このようなデータ集めに伴われる費用を低減し、得ることができる科学的データの量を増大し得る。自発的に生じる疾患を有する動物モデルの使用によって、そうでなければ、FDAの規制下で認可されない、1種または複数のパラメータ(例えば、抗原(複数可)の種類、抗原の組合せ、薬剤の組合せ、送達位置など)を試験することが可能となる。さらに、コンパニオンアニマルもまた、その自発的に生じる疾患を治癒または治療できる発見の可能性によって助けられる。
【0026】
したがって、一態様では、本発明は、標準モデルよりも治療法を同定するために成功する可能性の高い組成物の組合せを含む、ヒトにおける治療のための治療法を同定するためのプラットフォーム技術としてのコンパニオンアニマルモデル系を提供する。コンパニオンアニマルは、好ましくは、そのヒトと同じ環境因子(例えば、空気、水)に曝露されたヒトにとって仲間である任意の動物であり得る。一態様では、コンパニオンアニマルは、そのゲノムが、部分的または完全に決定されている動物である。ゲノム情報(例えば、核酸レベル、タンパク質または代謝レベルの)の使用は、これらのプラットフォーム技術において有用である。そのヒトと同様の環境因子を共有し、そのゲノム部分または完全配列を有するコンパニオンアニマルの限定されない例として、イヌおよびネコが挙げられる。
【0027】
本明細書に記載されるプラットフォーム技術の使用によって、複数のプラットフォーム間ならびに複数の抗原間およびその任意の組合せの相乗効果を利用することによって、トランスレーショナル医療のための時間および/または費用において20〜50倍の低減を提供できる。本明細書により詳細に記載されるように、プラットフォーム技術は、費用、規制上の制約、時間、試験の大きさおよびその他の科学の進歩にとっての道を塞ぐものために、従来、ヒト治験において困難にぶつかってきた種々の対象に適用できる。この対象として、それだけには限らないが、ワクチン(例えば、寛容化ワクチン)、カチオン性脂質CpG、クオラムセンシングおよび感染性疾患における自己誘導物質、生体試料(例えば、尿、唾液、血液または血漿)からの多重化病理学、迅速診断およびマーカー多重化技術のための診断技術が挙げられる。
【0028】
一般技術
本発明の実施は、特に断りのない限り、当業者の技能の範囲内である分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来技術を採用する。このような技術は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版(Sambrookら、1989年)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J. Gait編、1984年);Animal Cell Culture(R.I. Freshney)編、1987年);Methods in Enzymology(Academic Press, Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M. Weir & C.C. Blackwell編);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M. Miller & M.P. Calos編、1987年);Current Protocol in Molecular Biology(F.M. Ausubelら編、1987年);PCR:The Polymerase Chain Reaction、(Mullisら編、1994年);Current Protocols in Immunology(J.E. Coliganら編、1991年)およびShort Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons、1999年)などの文献において十分に説明されている。その他の有用な参考文献として、Harrison’s Principles of Internal Medicine(McGraw Hill; J. Isseleacherら編)、Dubois’ Lupus Erythematosus(第5版;D.J. WallaceおよびB.H. Hahn編;Williams & Wilkins、1997年)、Textbook of Veterinary Internal Medicine: Diseases of the Dog and Cat(Stephen Ettinger編、W.B. Saunders Company;第5版(2000年1月15日));およびKirk’s Current Veterinary Therapy XIV(Bonaguraら、Saunders;第14版(2008年7月10日))が挙げられる。
【0029】
定義
本明細書において、単数形「不定冠詞」および「定冠詞」は、特に断りのない限り、複数の言及を含む。例えば、抗原を不定冠詞を付していう場合、1種または複数の抗原を含む。
【0030】
「個体」は、脊椎動物、好ましくは、哺乳類、より好ましくは、ヒトである。哺乳類として、それだけには限らないが、家畜、競技用動物、ペット、コンパニオンアニマル、霊長類、マウスおよびラットが挙げられる。一実施形態では、個体はヒトである。
【0031】
「コンパニオンアニマル」とは、交流のための、そのヒト飼い主と同一家庭に居住する非ヒト動物である。コンパニオンアニマルは、通常、ヒトと同一の環境因子(例えば、水、空気、発癌物質、アレルゲンなど)に曝露されている。コンパニオンアニマルの限定されない例として、イヌおよびネコが挙げられる。一態様では、コンパニオンアニマルは、実験室条件には付されない(例えば、日常の環境因子に対する曝露が制限され、管理された条件セットに曝露されている)。
【0032】
本明細書において、「自発的に生じる(spontaneous occurring)」または「自発的に生じる(spontaneously occurring)」(または天然に存在する)疾患とは、宿主によって誘導される病状を含む疾患である。宿主によって誘導される病状とは、特定の状況における宿主が開始する何らかの種類の生物学的または生理学的応答を指す。一実施形態では、宿主によって誘導される病状は、ウイルスが形質転換の原因物質である、ウイルスによって誘導される状態は含まない。別の実施形態では、「自発的に生じる」は、ウイルスによって引き起こされる生物学的および/または生理学的状態または応答を含む。例えば、マウスまたはラットは、マウスまたはラットに特定の化学物質を注入することによって癌を有するよう誘導され得る。癌にかかったマウスまたはラットは、「自発的に生じる癌」を有するとは考えられない。
【0033】
薬剤または治療法の組合せの生物学的および/または生理学的効果を説明するために使用される「相乗効果」とは、各薬剤または治療法のそれ自体による付加よりも大きい1種または複数の効果を指す。例えば、1種の薬剤の投与が10%の抗体増加をもたらし、別の薬剤が15%の抗体増加をもたらす場合には、相乗作用は25%を超える抗体応答となる。いくつかの実施形態では、相乗作用は、付加効果よりも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%または10%多い。その他の実施形態では、相乗作用は、付加効果よりも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%多い。その他の実施形態では、相乗作用は、付加効果よりも125%、150%、200%、300%、400%または500%多い。その他の実施形態では、相乗作用は、付加効果の2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍の増大であり得る。
【0034】
「相乗効果」を使用して、生物学的および/または生理学的効果(例えば、抗体産生)の増大に加えて、生物学的および/または生理学的効果(例えば、自己免疫応答)の低下を説明することができる。例えば、1種の薬剤の投与が、自己免疫応答(例えば、全身性紅斑性狼瘡の抗核抗体)の10%低減をもたらし、別の薬剤の投与が15%の低減をもたらす場合には、相乗作用は、25%を超える自己免疫応答の低減となる。いくつかの実施形態では、相乗作用は、付加効果よりも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%または10%少ない。その他の実施形態では、相乗作用は、付加効果よりも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%少ない。その他の実施形態では、相乗作用は、付加効果よりも125%、150%、200%、300%、400%または500%少ない。その他の実施形態では、相乗作用は、付加効果の2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍の低減であり得る。
【0035】
「薬剤」とは、天然に存在するものであれ、合成のものであれ、任意の組成の物質を指し得る。薬剤の限定されない例として、小分子、抗体、天然に存在するタンパク質およびその断片(例えば、Axl、EGFまたはVEGFのような可溶性受容体または増殖因子と関連しているその他のもの)、組換えタンパク質およびその断片、融合分子(例えば、融合タンパク質)、合成分子、脂質、核酸および炭水化物が挙げられる。
【0036】
「生物学的および/または生理学的効果」とは、個体の生物学的パラメータまたは生理学的パラメータに対する薬剤の効果を指す。生物学的パラメータの限定されない例として、サイトカインプロファイルおよび/または産生、免疫応答、抗体応答などの免疫パラメータ、Th1またはTh2またはTh17応答、ゲノムプロファイルおよびその変化、抗原プロファイルおよびその変化、脂質プロファイル、脂肪酸およびコレステロールプロファイルならびに毒性プロファイルが挙げられる。生理学的パラメータの限定されない例として、系、例えば、心血管系と関連しているパラメータが挙げられる。このような心血管パラメータとして、それだけには限らないが、心臓の健康状態、肺動脈閉塞、冠動脈灌流圧力、心拍出量、肺の血管抵抗、全身の血管抵抗を挙げることができる。その他の実施形態では、生理学的パラメータとして、それだけには限らないが、血液ガスおよび飽和測定、酸素送達、酸素利用、腎能力ならびに臓器の処理および機能能力(例えば、毒物に対する肝臓、インスリン産生に対する膵臓など)を挙げることができる。
【0037】
「疾患」とは、身体の機能を損ない得る個体の異常な状態を指し、特定の症状を伴うことが多い。侵入病原体などの外部因子によって引き起こされる場合があり、自己免疫疾患などの内部機能障害によって引き起こされる場合もある。「疾患」はまた、種々の状況および各疾患の程度を包含する。例えば、悪性増殖の発生は、癌の病状である。転移は、癌の別の病状である。任意の所与の疾患について、疾患の発生と関連していると報告されたすべての症状および/または兆候が、個体に存在することは必ずしも必要ではない。
【0038】
本明細書において、「抗原」とは、生物の免疫系によって認識され得る任意の物質を広く指す。一態様では、抗原は、抗体の産生を誘導し得る。抗原は、通常、タンパク質または多糖である。抗原として、それだけには限らないが、細菌、ウイルスおよびその他の微生物の一部(コート、莢膜、細胞壁、鞭毛、線毛(fimbrae)および毒素)が挙げられる。抗原は、必ずしも、単独でそれ自体によって免疫応答を誘発する必要はない。抗原は、免疫応答(例えば、抗体応答)を誘発する免疫原を包含する。抗原の種類として、それだけには限らないが、外因性抗原(例えば、吸入、経口摂取または注射によって、外側から身体に入った抗原)、内因性抗原(例えば、正常な細胞代謝の結果として、またはウイルスもしくは細胞内細菌感染のために、細胞内で生じた抗原)、自己抗原、腫瘍抗原およびアレルギー抗原が挙げられる。
【0039】
「自己抗原」は、通常、特定の自己免疫疾患を患っている患者の免疫系によって認識される、正常なタンパク質またはタンパク質の複合体(および時には、DNAまたはRNA)である。これらの抗原は、正常な状態下では、免疫系の標的ではないはずであるが、これらの患者では、主に、遺伝的因子および環境因子のために、このような抗原に対する正常な免疫寛容が失われている。
【0040】
本明細書において、「治療」とは、好ましくは、臨床結果を含む、有益な結果または所望の結果を得るためのアプローチである。例えば、本発明に関連して、1つの所望の結果とは、癌細胞の増殖の停止であろう。治療は、疾患が根絶されることまたは疾患を有する個体が治癒されることを必ずしも必要としない。
【0041】
「治療を受けること」とは、初期治療および/または継続治療を含む。
【0042】
「療法」は、予防療法(すなわち、疾患発生前)および治療的処置(すなわち、疾患発生後)の療法を含む。
【0043】
「有益な効果」とは、個体の健康を向上させる、個体(例えば、ヒトまたはコンパニオンアニマル)に対する生物学的効果または生理学的効果を指す。有益な効果の限定されない例として、癌性腫瘍または小結節の減少、悪性細胞数の減少、癌または病原体に対する抗体産生の増大、癌細胞および/または病原体の排除に役立つサイトカインの分泌、自己分子に対する免疫反応の量の低下、自己免疫応答の減少、疾患の症状の緩和、個体における望ましくない疼痛の緩和、個体の快適度の増大、個体の免疫系の頑強性の増大および個体の免疫系の再構築が挙げられる。
【0044】
本明細書において、「組合せ」とは、任意の薬剤、抗原、組成物、化合物、アジュバントなどの互いとの組合せのすべてのあり得る変化を指す。これは、任意の1種の薬剤、抗原、組成物、アジュバントなどのうち2種以上の、それ自体の群内の(例えば、複数の薬剤)、またはその他の群との使用を含む。例えば、「組合せ」は、1種の薬剤の、1種のアジュバントとの使用または2種の組成物のいくつかのアジュバントとの使用を考慮する。
【0045】
治療法の組成
本発明は、ヒト疾患の態様を調査するための、自発的に生じる疾患のコンパニオンアニマルモデル系を利用するプラットフォーム技術を提供する。使用してもよいコンパニオンアニマルモデルとして、ヒトとともに居住する任意の動物が挙げられる。このように、コンパニオンアニマルは、そのヒト同時居住者と類似の環境因子に曝露される。このような環境因子として、それだけには限らないが、同じ空気を吸うこと、同じ水を飲むこと、同じ家庭の内容物(例えば、カーペット、掃除機など)に曝露されることが挙げられる。実験に通常使用される実験室動物(例えば、マウスおよびラット)とは異なり、コンパニオンアニマルは、ヒトが曝露されるような因子に曝露され、そのようなものとして、ヒト疾患および/または生理学的状態の相関についてより正確な背景を提供する。ヒトにとって有益である任意の治療を使用して、コンパニオンアニマルを同様に助けることができ、これは、疾患および/または生理学的状態を治療するだけでなく、その生活の質を改善することも含む。
【0046】
一態様では、イヌモデル系を使用して複数の様式の試験を実施した。一実施形態では、複数の様式とは、系において複数の抗原を使用することを指し得る。単一抗原の研究は、効率的な免疫応答の発生についての生物学的系の十分な洞察を提供しない場合がある。例えば、前立腺癌と関連している単一抗原、例えば、前立腺性酸性ホスファターゼの同定は、免疫応答を開始させ得るが、その他の抗原の同定は、前立腺癌と戦うためのさらなる、相乗的なものでさえの免疫応答を提供する。ヒト臨床試験における複数の抗原の研究は、規制上の制約(例えば、FDA承認)、費用、時間および/またはその他の生物学的障壁のために実現可能なものではない。これに関連して、複数の抗原の試験にとっては、イヌモデル系の使用は、イヌが前立腺癌を自発的に発生するので有用である。当業者ならば、イヌモデル系を使用して、複数の抗原、例えば、癌抗原を調べて、新規抗原を同定でき、これを標的(例えば、抗原に対する抗体、小分子など)のために使用できる。さらに、イヌモデル系の使用は、抗原が関連している、さらなる療法の基礎として利用される新規経路および/または生物学的ニッチを同定するのに役立ち得る。
【0047】
本発明の別の態様では、複数の様式とは、1種または複数の抗原および1種または複数のアジュバントの使用を指す場合がある。用語「アジュバント」は当技術分野で周知である。その他の薬剤(例えば、薬物またはワクチン)の効果を修飾し得るが、それ自体が与えられる場合には、直接的な効果は有するとしても、ほとんど有さない、薬理作用のある物質または免疫学的物質を指すことが多い。アジュバントは、免疫系がワクチンに対してより活発に応答するよう刺激し、したがって、特定の疾患に対する増大した免疫性を提供することによって、ワクチンの効果を修飾または増強し得る免疫学的アジュバントであり得る。免疫学的アジュバントの限定されない例として、ミョウバン、フロイントの完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント、Ribiアジュバント、アルミニウム塩および免疫調節性ポリヌクレオチド(例えば、CpG含有ポリヌクレオチド)が挙げられる。アジュバントはまた、それ自体によっては薬理学的効果をほとんどまたは全く有さないが、同時に与えられると、その他の薬物の有効性または効力を高め得る製薬アジュバントでもあり得る。この限定されない例として、カフェインがあり、これはそれ自体では、最小の鎮痛作用しか有さないが、パラセタモール(アセトアミノフェン)とともに与えられるとアジュバント効果を有し得る。アジュバントはまた、癌療法に関連して、例えば、化学療法において、さらなる療法を指す場合もある。これに関連して、アジュバント療法とは、通常、すべての検出可能な疾患が除去されているが、肉眼で発見できない疾患による再発の統計的な危険が残っている術後に施されるさらなる治療を指す。限定されない例では、乳癌の術後にアジュバント治療として放射線療法または化学療法が与えられ得る。いくつかの実施形態では、1種のアジュバントが使用される。その他の実施形態では、2種以上のアジュバントが使用される。さらにその他の実施形態では、3、4、5、6、7、8、9または10種のアジュバントが使用される。
【0048】
本発明の範囲内で、「リバースアジュバント(reverse adjuvant)」の使用も考慮され、用語「アジュバント」によって包含される。リバースアジュバントは、寛容化ワクチンとともに使用される場合に、寛容化効果を有し得る(例えば、Hoら、J.Immunology 175巻:6226〜6234頁、2005年参照)。リバースアジュバントの一例として、免疫賦活性を有する傾向があるCpGオリゴヌクレオチドとは対照的に、抑制効果を有するGpGオリゴヌクレオチドがある。(例えば、Hoら、J.Immunology 171:4920〜4926頁、2003年参照のこと)。
【0049】
種々の抗原およびアジュバントの組合せならびに種々の自発的に生じる疾患に対するそれらの効果は、上に論じた理由のためにヒト臨床試験において研究することは困難であった。動物モデルとしてマウスまたはラットを使用することでは、ヒトへの遺伝子のトランスレーションおよび疾患進行が、ヒトに対するイヌほど密接に類似していないので、自発的に生じる疾患のイヌモデル系を使用するほどには正確な情報は提供されない。(Tsaiら、Mamm.Genome、18:444〜451頁(2007年)。そのようなものとして、自発的に生じる疾患を調べるためのプラットフォーム技術としてのイヌモデル系の使用によって、当業者が、疾患が誘導される標準マウスモデルを使用することよりも、大きな成功の可能性を有する治療法を同定することが可能となる。
【0050】
本明細書に開示されるイヌモデル系を使用して、種々の種類のアジュバントを研究できる。一実施形態では、自発的に生じる疾患のイヌモデル系のプラットフォーム技術を使用して、toll様受容体(TLR)アゴニストを介して作用するアジュバントを研究できる。種々のTLRとして、それだけには限らないが、TLR1、2、3、4、5、6、7、8および9が挙げられる。一例として、TLRを介して作用するCpG含有化合物がある。このようなアジュバントは、B型肝炎の関連で試験されてきた。研究できるアジュバントのその他の限定されない例として、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびMF59が挙げられる。
【0051】
別の態様では、本明細書に記載されるプラットフォーム技術によって、当業者が、不均一な遺伝的背景に対して複数の様式の使用を検討することが可能になる。当業者ならば、遺伝的背景に種々の程度の不均一性および均一性があることは理解されよう。範囲の一方の末端では、クローニングされた動物または多数の世代の間、その遺伝的背景が次のマウスと同じであるように交配されているマウスなどの動物において均一な遺伝的背景が見られることが多い。
【0052】
範囲のさらに先は、純血種のイヌなどの不均一な動物(例えば、クローニングされた動物よりも低い程度の均一性しか有さない)である。それらは純血種であるもの、イヌは、互いにわずかに異なる遺伝暗号を有し、しかし、それらを特定の純血種であると特徴付ける同一の形態学的特徴を保有する。イヌは、形態学的特徴(高さ、体重、形状など)に相違を示し得るが、しかし、品種内で狭い範囲内で遺伝によって受け継がれる特徴を示す点で、哺乳類種の中で独特である。例えば、純血種のチワワのイヌは、一般に、肩で互いに+/−6インチである。Ostranderら、Am J Hum Genet 61巻:475〜480頁(1997年)。範囲のなおさらに先は、純血種ではなく、雑種犬であるいっそうより不均一なイヌである。一実施形態では、不均一な動物は、非肥満糖尿病(NOD)マウスを含まない。異なる治療法が検討されるのは、不均一な遺伝的背景というこの状況に対してである。イヌの不均一な性質は、当業者が、生物学的応答が何であるかを原因から結果へ予測することを必ずしも可能にせず、複数の治療法(例えば、複数の抗原)が利用される場合には、いっそうよりそのようである。前述のものは、ネコなどのその他のコンパニオンアニマルに同様に適用できる。
【0053】
自発的に生じる疾患モデルを使用することの利点
自発的に生じる疾患モデルの使用は、種々の態様において有益である。一態様では、免疫系の疾患モデルは、動物が疾患を有するよう誘導された疾患の動物モデルと比較すると、相対的に無傷に維持される。後者の場合には、疾患の人工的な誘導によって免疫系のバランスを狂わせ、疾患の人工的な誘導によって、免疫系(T細胞、B細胞、好中球、マクロファージ、調節性T細胞、NK細胞、NKT細胞などの種々の免疫細胞を含む)および免疫細胞と免疫系の種々の部門間の相互作用がかき乱される。したがって、本発明は、疾患の人工的な誘導と関連する免疫調節不全を伴わない、種々の疾患/病状ならびに複雑な生理学的状態の研究を可能にするプラットフォーム技術を提供する。これは、これらの経路または機序における新規経路、作用機序、生物学的関与物(例えば、細胞受容体または細胞種)の発見および/または同定ならびに複雑な生理学的状態を裏打ちするさらなる理解を促進する、より有意義な知見を提供する。このような複雑な生理学的状態として、それだけには限らないが、癌、自己免疫疾患、アレルギー、過敏症、神経疾患、遺伝性遺伝子障害および感染性疾患を挙げることができる。
【0054】
本発明はまた、種々の生理学的状況および疾患と関連している1種または複数のバイオマーカーの同定のためのプラットフォーム技術の使用を包含する。いくつかの例では、バイオマーカーは、1種または複数の遺伝子またはタンパク質の有無、遺伝子の種々のアイソフォームまたは遺伝子スプライシングおよびその生成物(複数可)、一塩基多型、遺伝子発現プロファイル、プロテオミクスプロファイルまたはメタボロミクスプロファイルを指し得る。いくつかの限定されない例では、スクリーニング、ステージ分類、画像処理、診断および/または種々の療法に対する反応のモニタリングに、多重化バイオマーカーが使用される。例えば、1種または複数の遺伝子の発現の変化、メタボロームおよびエピジェネティック変化が、本発明の範囲内で考慮される。限定されない一例では、遺伝子チップでのメチル化パターンを使用して、種々の疾患/病状の正常対異常メチル化パターンを研究できる。別の限定されない例として、複数のバイオマーカー(例えば、15〜18種のバイオマーカー)を保有でき、一実施形態では、少量(例えば、1pg/ml)で検出可能である磁性アレイの使用がある。別の限定されない例として、数百種のバイオマーカーを同時にまたはほぼ同時に評価できるアプタマーの使用がある。当業者ならば、スクリーニング、ステージ分類、画像処理、診断および/またはモニタリングを、治療プロトコールおよび考慮されている任意の療法の改良版と組み合わせて利用できる。当業者、例えば、医師は、症状の発生を最も効果的に防ぐ、遅延する、症状を寛解させる、または疾患もしくは生理学的状態を治療するよう療法を修飾できる。
【0055】
癌
自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルの使用は、当業者が、コンパニオンアニマルの恒久的治癒を探索することだけでなく、コンパニオンアニマルを、ヒトにおける癌(自発的に生じる癌を含む)の科学的態様を研究するためのモデルとして使用することも可能にし、これは、人類の種々の種類の癌のための治療および療法の発見につながり得る。
【0056】
ヒトおよびコンパニオンアニマルの癌の発症率は、相当に異なる。ヒト癌がペットではあまり見られない、また比較腫瘍学が実際的ではない場合もある。他の場合には、コンパニオンアニマルにおける腫瘍はそのヒト対応物によく似ており、また、より高頻度に生じ、これによって、ヒト癌患者では稀である疾患を研究する機会が得られる場合もある。
【0057】
イヌなどのコンパニオンアニマルは、種々の種類の自発的に生じる癌を発症する。一般的な癌として、それだけには限らないが、骨癌(例えば、骨肉腫)、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫)、血管肉腫、その他の肉腫、乳癌、精巣癌、肥満細胞癌、鼻副鼻腔癌、膀胱癌、頭頸部癌、前立腺癌、黒色腫、白血病、脳癌、肺癌腫および軟組織癌腫が挙げられる。一部の品種は、特定の癌を、その他の品種よりも多く発症する。例えば、血管肉腫、血管に起因する侵襲性癌は、その他の品種よりもジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバー、ボクサーおよびイングリッシュセッターにおいてより多く見られる。一態様では、当業者は、通常、コンパニオンアニマルに適用される種々の生物学的手順が実施された場合に、癌の進行の相違を観察できる。例えば、前立腺癌の進行を、去勢されているイヌにおいて観察し、その飼い主が去勢されないように選択したイヌの前立腺癌の進行と比較できる。
【0058】
一態様では、純血種のイヌの使用によって、より均一な遺伝的背景の研究および不均一な遺伝的背景を有する雑種のイヌとの比較が可能となる。イヌなどのコンパニオンアニマルの種々の遺伝的背景の使用によって、癌と関連している種々の抗原またはバイオマーカーの同定が可能となる。このような研究から集められ得られた情報を、薬物発見または免疫療法の標的として抗原を使用することによって、および/または画像処理技術においてバイオマーカーを使用することによってヒトの診断または療法にトランスレートできる。
【0059】
自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルを使用して、抗癌剤の組合せの効果を調べ、相乗作用を生じる組合せを同定することができる。薬剤の組合せは、2種以上の薬剤、例えば、3、4、5、6、7、8、9または10種の薬剤であり得る。薬剤は、同時に与えてもよく、2以上の投与で与えてもよい。各薬剤の投与量は同一であってもよく、特に、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルの群を使用する場合には変わっていてもよく、これでは、試験される薬剤の投与量の範囲は、どの組合せが最も有効な生物学的応答をもたらすかを示し得る。
【0060】
種々のクラスの抗癌剤を使用してよい。限定されない例として、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ポドフィロトキシン、抗体(例えば、モノクローナルまたはポリクローナル)、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、メシル酸イマチニブ(Gleevec(登録商標)またはGlivec(登録商標))、ホルモン治療、可溶性受容体およびその他の抗悪性腫瘍薬が挙げられる。
【0061】
アルキル化剤は、細胞中に存在する条件下で多数の求核官能基をアルキル化し得る。シスプラチンおよびカルボプラチンおよびオキサリプラチンは、アルキル化剤である。それらは、生物学的に重要な分子中のアミノ、カルボキシル、スルフヒドリルおよびホスフェート基と共有結合を形成することによって細胞機能を損なう。
【0062】
代謝拮抗剤は、プリン((アザチオプリン、メルカプトプリン))またはピリミジンに似ており、これらの物質が、細胞周期の「S」相の間にDNAに組み込まれるのを妨げ、正常な発達および分裂を停止する。それらはまた、RNA合成にも影響を及ぼす。
【0063】
植物アルカロイドおよびテルペノイドは、植物に由来し、微小管機能を妨げることによって細胞分裂を阻止する。微小管は、細胞分裂にとって極めて重要なものであるので、それなしには、細胞分裂は起こり得ない。いくつかの限定されない例として、ビンカアルカロイドおよびタキサンが挙げられる。
【0064】
ビンカアルカロイドは、チュブリン上の特定の部位と結合し、チュブリンの微小管へのアセンブリー(細胞周期のM相)を阻害する。ビンカアルカロイドとして、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビンおよびビンデシンが挙げられる。
【0065】
ポドフィロトキシンは、消化に役立つと報告されており、ならびに、2種の他の細胞分裂阻害剤、エトポシドおよびテニポシドを製造するために使用される、植物由来化合物である。それらは、細胞がG1相(DNA複製の開始)に入ることおよびDNAの複製(S相)を妨げる。
【0066】
群としてのタキサンは、パクリタキセルおよびドセタキセルを含む。パクリタキセルは、最初は、タキソールとして知られていた天然物であり、セイヨウイチイ(Pacific Yew tree)の樹皮に由来する。ドセタキセルは、パクリタキセルの半合成類似体である。タキサンは、微小管の安定性を増強し、分裂後期の間の染色体の分離を妨げる。
【0067】
トポイソメラーゼ阻害剤はまた、使用できる別のクラスの抗癌剤である。トポイソメラーゼは、DNAのトポロジーを維持する絶対不可欠な酵素である。I型またはII型トポイソメラーゼの阻害は、適切なDNAスーパーコイル形成を混乱させることによってDNAの転写および複製の両方を干渉する。いくつかのI型トポイソメラーゼ阻害剤として、カンプトテシン:イリノテカンおよびトポテカンが挙げられる。II型阻害剤の例として、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシドおよびテニポシドが挙げられる。これらは、エピポドフィロトキシンの半合成誘導体、American Mayapple(ポドフィルム(Podophyllum peltatum))の根中に天然に存在するアルカロイドである。
【0068】
抗悪性腫瘍薬として、免疫抑制剤ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、イフォスファミドが挙げられる。抗悪性腫瘍薬化合物は、通常、細胞のDNAを化学的に修飾することによって働く。
【0069】
可溶性受容体は、増殖因子、特に、癌と関連している増殖因子と結合することが分かっている受容体の細胞外部分を含み得る。限定されない例として、Axl、VEGFおよびEGFがある。可溶性受容体は、組換え/合成または天然に存在する受容体(例えば、精製されたまたは濃縮された調製物)であり得る。また、受容体の細胞外部分を、半減期およびその他の所望の薬物動態を促進するための部分と融合させ、融合タンパク質を作製できる。
【0070】
抗原の場合には、本発明は、癌と関連している1種または複数の抗原の研究を考慮する。一実施形態では、プラットフォーム技術とは、複数の(すなわち、2種以上の)抗原を研究するための、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルの使用を指す。その他の実施形態では、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルにおいて、少なくとも約2、3、4、5、6、7、8、9または10種の抗原をモニタリングする。その他の実施形態では、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルにおいて、少なくとも約10種以上の抗原をモニタリングする。一実施形態では、癌抗原は、多形性膠芽腫抗原ではない。
【0071】
骨肉腫
骨肉腫は、比較的稀な形態の癌であり、不均衡な百分率の小児を苦しめ、400人の<20歳を含めて年に900人の新規患者という年間発症率である。稀ではあるが、15歳未満の小児では6番目の癌の形態であり、すべての小児癌の約3%である。治療の現在の標準は、化学療法(ロイコボリンレスキュー、動脈内シスプラチン、アドリアマイシン、イフォスファミド、エトポシドおよびムラミルトリペプチドを伴う高用量メトトレキサート)と組み合わせた、切断術または患肢温存整形外科手術である。生存率は、唯一の治療選択肢が切断術であり、診断された患者のうち5〜20%しか2年を越えて生存しなかった1960年代から向上したが、化学療法による向上にも関わらず、骨肉腫の生存率はまだ、小児癌の中で最も低いもの中にある。非転移性骨肉腫患者の現在の5年生存率は、>70%であるが、転移のある患者については、5年生存率は、およそ30%である。この若い集団のための治療選択肢の改善に向けた進歩は、その稀な発症率およびその結果として起こる臨床研究のための患者の自然増加における課題によって遅くなっている。
【0072】
骨肉腫は、ヒト発症率とは対照的に、イヌの大型品種(>60ポンド)では、特に、グレートデーン、ウルフハウンドおよびロットワイラーでは比較的一般的な癌である。骨肉腫の発症率は、すべてのイヌの癌のうち3〜4%であり、北米では年に最大10,000頭のイヌを苦しめている。ヒトおよびイヌの骨肉腫は、解剖学的分布および転移の共通の特徴を共有する。両種において、症例の>75%が、長骨(遠位橈骨>近位上腕骨;遠位大腿骨>脛骨)において生じ、圧倒的に雄において(2:1)生じる。イヌにおける高い転移率(90%)は、ヒトにおけるもの(80%)と遜色なく、転移部位は、肺>骨>軟組織という同様の序列を有する。さらに、原発性骨肉腫および転移は、ヒトおよびイヌ患者の間で区別できない。ヒト同様、イヌも、切断術処置後のシスプラチン、ドキソルビシンまたはカルボプラチンを用いる化学療法治療に反応し、平均生存期間は9〜11ヶ月であり、切断術単独後の3〜4ヶ月という生存期間の中央値が大幅に改善される。共有される組織学、転移パターンおよび化学療法反応性を考えると、イヌ骨肉腫は、代替療法を試験するための優れたモデルを提供する。発症率が高く、より迅速に進行するので、イヌにおける臨床試験が採用され、より迅速に完了され得、これは、ヒトおよびイヌ患者両方に新規治療戦略を伝える。
【0073】
軟組織肉腫
軟組織肉腫は、間葉組織(例えば、結合組織、線維組織、筋肉)に由来する腫瘍の多様な群である。それらは、年間の新規癌症例の1%未満を占め、2006年には、米国で、およそ9,500の新規症例があり、高齢の患者(>50歳)においてより多く見られるが、一部のサブタイプ(例えば、横紋筋肉腫、骨格筋の肉腫)は、小児および若者に、より多く見られる。一クラスとしての軟組織肉腫は、コンパニオンアニマルにおいてより多く見られ、イヌではすべての皮下癌の15%、ネコでは7%に相当する。血管肉腫を除いて、このクラスの腫瘍は、局所的に侵襲性であるが、稀にしか転移しない。それにも関わらず、ヒトおよびコンパニオンアニマル両方の軟組織肉腫は、化学療法に対して中程度にしか反応しない。
【0074】
それらは、同一起源のヒト腫瘍と似ており、比較的遅く検出されるので、分析のために大きな腫瘍の大きさを提供する。イヌ軟組織肉腫は、治療戦略を最適化するためのモデルとして役立ってきた。局所制御を高めることを目的としたプロトコール、特に、低体温法と併用されることが多い補助放射線療法を使用するものが、ヒト患者のための新規治療プロトコールを導いてきた。熱が放射線療法または化学療法の有効性を高め得るという知見によって、限局化された温熱療法への興味が刺激された。局所および全身温熱療法研究によって、血管作用性薬などの温熱療法を誘導するための薬理学的アプローチが試験された。イヌにおける研究はまた、化学療法薬の薬物動態に対する温熱療法の効果のモデルも作り、低酸素症のバイオマーカーおよび予測的画像処理技術の開発を助けてきた。コンパニオンアニマルにおける軟組織肉腫はまた、新規化学療法製剤を試験するためのモデルとして役立ってきた。例えば、生分解性ポリマー中の持続放出性シスプラチンの有効性が、イヌ軟組織肉腫において試験され、リポソームにカプセル化されたドキソルビシン(ドキシル)の有効性が、ワクチン関連ネコ肉腫において試験された。
【0075】
血管肉腫
血管肉腫(HSA)は、迅速な、広範な転移によって特徴付けられる血管内皮細胞の腫瘍である。ヒトでは稀であり、すべての腫瘍の1%未満しか占めないが、すべてのイヌの悪性腫瘍の5〜7%を占める。イヌの生涯の癌のリスクを30〜50%の範囲に仮定すれば、この癌は、米国では、推定7200万頭のペットのイヌのうち150〜250万頭に影響を及ぼし得る。HSAは、ほとんどの場合、脾臓で始まるが、肝臓、心臓の右心房および皮膚においても形成し得る。それらは、中年のイヌ(>6歳)において生じる傾向があり、バーネーズマウンテンドッグ、ボクサー、フラットコテッドレトリーバー、ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバー、ポヂュギースウォータードッグおよびスカイテリアにおいて高い有病率であり、1つの調査によれば、ゴールデンレトリーバーにおけるHSAの発症率は、ほぼ5頭に1頭である。イヌHSAは、ヒトにおける血管肉腫(angiosarcoma)に匹敵すると思われ、また、はるかに高い頻度で生じるので、臨床試験の重要な代替を提供し得る。化学療法は、通常、ドキソルビシンおよびシクロホスファミド+/−ビンクリスチンの組合せは、HSAの最もよくある治療的アプローチであるが、生存期間中央値は、わずか145〜180日である。
【0076】
乳癌
乳癌およびイヌ乳腺腫瘍は、いくつかの疫学的および生理学的類似性を有する。乳癌は、北米の女性における癌の主な原因であり、すべての癌の30%近くを占め、米国女性の乳癌の生涯のリスクは、12%である。乳腺腫瘍(MGT)は、雌のイヌではすべての腫瘍の52%を占め、すべての卵巣除去されていない(unsprayed)イヌの26%で生じる。乳癌およびMGTの間には、相当な遺伝的および組織学的類似性があるが、遺伝子発現および薬物反応においては重要な相違もあり、これが種間の治療戦略をトランスレートする取り組みを複雑にする。MGTは、ホルモン依存性であり、これらの腫瘍の50〜60%は、エストロゲン受容体またはプロゲステロン受容体を発現し、卵巣子宮摘出術(卵巣除去)は、MGTを発症するリスクを0.5%に低下させる。ヒト乳癌もまた、ホルモン依存性であり、エストロゲンまたはプロゲステロン受容体に影響を及ぼす薬物で治療されることが多いが、エストロゲン受容体アンタゴニストタモキシフェンは、イヌでは実証可能な抗腫瘍活性を有さない。遺伝子レベルでは類似性も相違もある。癌遺伝子c−erbB−2の発現は、ヒト乳癌では、より侵襲性の悪性の表現型と相関する。同様に、c−erbB−2は、悪性のイヌ乳房腫瘍の74%で過剰発現されるのに、良性腫瘍では0%で過剰発現されている。腫瘍抑制遺伝子BRCA1/BRCA2の突然変異は、ヒト乳癌のリスクの増大と関連している。一部のMGTにおける、BRCA1のスプライシング変異体の最近の報告はあるが、BRCA1の発現および変異体は、イヌ乳腺腫瘍では、あまり立証されておらず、MGTの転移におけるBRCA2およびRAD51(BRCA1およびBRCA2と相互作用する)の上方制御は、これらのイヌ腫瘍における遺伝子発現のより詳しい分析の必要性を示す。ホルモン治療と同様に、MGTの治療への化学療法薬の適用は不確かである。いくつかの概説によれば、イヌMGTでは、化学療法薬なしで、一貫した効果が提供されているが、ドキソルビシンに対するいくつかの部分的な反応が立証されており、シスプラチンが推奨されることもある。多数の類似性にも関わらず、イヌMGTが、ヒト乳癌の関連治療モデルであるかどうかは不明確なままである。遺伝子発現のさらなる研究によって、ヒト乳癌およびMGTの共通の標的が同定され、イヌ腫瘍の治療のためのヒト化学療法の適用が導かれ得る。
【0077】
黒色腫
皮膚癌は、米国ではすべての癌のうち最もよく見られるものである。黒色腫は、比較的珍しい形態であるが、皮膚癌の症例の5%未満を占め、皮膚癌による死亡の75%に相当する。新規症例の割合は、過去8年にわたって比較的安定しており、2009年に68,720人の新規症例があり、その結果として、8,650人の死亡があったと推定された。世界保健機構のレポートによれば、1年に世界中でおよそ48,000人の黒色腫に関連する死亡がある。黒色腫の全リスクは、民族性によって変わり、白色人種の2%からヒスパニック系アメリカ人の0.5%およびアフリカ系アメリカ人における0.1%の範囲である。現在の治療選択肢として、外科的切除および化学療法(ダカルバジン、カルムスチン、シスプラチン、タモキシフェン、ビンブラスチン、テモゾロミドおよびパクリタキセルを用いる単一または併用治療を含む)が挙げられる。黒色腫は、イヌにおいて4番目に最もよく見られる癌であり、口腔に生じることが多いが、指、皮膚および眼も起源とする。口腔黒色腫は、伝えられるところでは、ダックスフンド、ゴールデンレトリーバー、プードルおよびスコティッシュテリアにおいて最もよく観察される。ヒトにおける進行性黒色腫と同様に、イヌにおける黒色腫は、通常、化学療法および放射線療法に対して耐性であり、侵襲性転移が、治療失敗および死亡の根本原因である。
【0078】
イヌおよびヒト黒色腫は、生理学および治療に対する反応の共通の特徴を共有するので、イヌにおける臨床試験は、ヒト黒色腫のための新規治療戦略への重要なトランスレーショナルな架け橋(translational bridge)を提供し得る。免疫療法アプローチには、自己腫瘍細胞ワクチン(修飾されていない、または免疫賦活性サイトカインおよび/またはメラノソーム分化抗原をトランスフェクトされた)、免疫賦活性サイトカイン(例えば、IL−2、GM−CSF)をトランスフェクトされた同種異系の腫瘍ワクチン、自然免疫刺激剤(例えば、L−MTP−PE)およびDNAワクチン(例えば、Fasリガンド、IL−2またはGM−CSFをコードするプラスミド)が含まれていた。イヌ黒色腫におけるL−MTP−PEの無作為化臨床試験によって、ステージI黒色腫において80%長期生存の利益が示されたが、より進行した(ステージIIおよびIII)黒色腫では利益はなかった。第I相臨床試験では、GM−CSFをトランスフェクトされた自己黒色腫細胞を用いるワクチン接種は限局性の炎症およびいくつかの腫瘍破壊の組織学的エビデンスを誘導した。その他のワクチンアプローチでは、プラスミドDNAを黒色腫中に直接注入してきた。ステージII〜IVの進行した悪性黒色腫を有する9頭のイヌの第I相臨床試験では、チロシナーゼを発現する腫瘍細胞に対する細胞性免疫を誘導しようとしてメラノソーム分化抗原チロシナーゼをコードするDNAを注入した。この免疫療法は、処理されたイヌの33%において抗体応答を誘導し、生存期間中央値を389日に延長し、従来の療法によってもたらされる生存を1〜5ヶ月、大幅に長期化した。
【0079】
非ホジキンリンパ腫
非ホジキンリンパ腫(NHL)は、癌による死亡の6番目の主な原因であり、米国では、3〜4%の発症率があり、2009年には、米国で推定66,000人の新規症例をもたらし、化学療法で治療された患者の5年生存率は50〜60%である。新規症例の95%を越えるものが成人で生じ、発症の平均年齢は60歳である。NHLはまた、イヌにおいても比較的よく見られ、その発症率は、25/100,000頭であり、すべての悪性腫瘍の5%、すべての造血悪性腫瘍の83%を占める。イヌNHL症例のおよそ70〜80%は、Bリンパ球起源のものであるが、より稀なT細胞リンパ腫は、大きく不良な予後と関連している。NHLの最高の有病率は、ジャーマンシェパード、ボクサー、プードル、バセットハウンドおよびセントバーナードで生じる。ほとんどのイヌの症例は、ステージIII〜IVのヒトNHLと似ており、治療を受けなければ、疾患進行は比較的迅速であり、その結果、診断後4〜6週以内に死亡する。組織学的類似性に加え、イヌおよびヒトNHLは、ドキソルビシン、シクロホスファミドおよびビンカアルカロイドに対する反応性を含め、類似の化学療法薬感受性を共有する。ヒト臨床診療と同様に、イヌNHLのほとんどの現在の治療プロトコールは、複数の、交互の組合せの薬物を使用し、その結果、報告される反応率は、86〜91%の範囲である。
【0080】
ネコでは、NHIは、125/100,000の発症率を有し、最もよく見られる癌であり、すべてのネコ腫瘍の1/3近くを含む。イヌNHLとは対照的に、ネコNHLのかなりの割合が、Tリンパ球系のものであり、レトロウイルス、ネコ白血病ウイルス(FeLV)による形質転換の結果である。イヌと同様に、ネコNHLは、極めて化学物質反応性であり、連続併用化学療法は、60〜70%の緩解率に達する。ヒト腫瘍とのその類似性に基づいて、イヌおよびネコNHLの両方が、治療アプローチを最適化するための代替としてとして役立っている (実施例参照のこと)。
【0081】
膀胱癌
膀胱癌は、米国では、男性では4番目の最もよく見られる癌であり、女性では9番目に最もよく見られる癌である。発症率の相違、年間50,000人の男性および16,000人の女性は、膀胱癌の発生におけるアンドロゲン受容体の主要な役割と関連している可能性がある。膀胱癌の大部分は、膀胱の内膜の細胞を起源とする移行性上皮癌(90%)であり、残りの10%は、扁平上皮癌、腺癌、肉腫および小細胞癌を含む。移行性上皮癌(TCC)はまた、イヌの膀胱癌の最もよく見られる形態であり、組織学、生物学的挙動および療法に対する反応において浸潤性ヒトTCCと酷似している。その他の癌と同様に、品種と関連して、感受性に変動があり、例えば、スコティッシュテリアは、18倍高いTCCを発症するリスクを有する。
【0082】
膀胱癌患者のための現在の治療選択肢として、手術、放射線療法および化学療法が挙げられる。イヌTCCは、これらのアプローチに対して同様に反応性であり、新規治療の開発および最適化のための有用なモデルであった。イヌTCCは、白金およびアントラサイクリンベースのプロトコールに対して中程度の反応を示し、目的反応率は約30%であり、MSTは4〜8ヶ月である。シクロオキシゲナーゼ(cyclooxyenase)阻害薬ピロキシカムを用いる治療は、18%の目的反応率もたらし、これは、容認できない腎毒性という代償を払って、シスプラチンの添加によってさらに向上させることはできる。イヌTCCは、光線力学的治療の前臨床試験の有用なモデルとわかっている。
【0083】
本発明はまた、癌と関連している、いくつかの場合には、癌の遺伝子発現プロファイル、プロテオミクスプロファイルまたはメタボロミクスプロファイルと関連している1種または複数のバイオマーカー、を同定するためのプラットフォーム技術の使用を包含する。本発明の一態様では、多重化バイオマーカーためにプラットフォーム技術を使用できる。限定されない一例では、遺伝子チップでのメチル化パターンを使用して、種々の癌の正常対異常メチル化パターンを研究できる。別の限定されない例として、複数のバイオマーカー(例えば、15〜18種のバイオマーカー)を保有でき、一実施形態では、少量(例えば、1pg/ml)で検出可能である磁性アレイの使用がある。別の限定されない例として、数百種のバイオマーカーを同時にまたはほぼ同時に評価できるアプタマーの使用がある。
【0084】
いくつかの癌の症例では、腫瘍随伴症候群が観察される。一態様では、腫瘍随伴症候群は、身体における癌の存在の結果であるが、癌細胞の局所的な存在によるものではない疾患または症状である。これらの現象は、腫瘍細胞によって、または腫瘍に対する免疫応答によって排出された体液性因子によって(ホルモンまたはサイトカインによって)媒介され得る。腫瘍随伴症候群の症状は、悪性の診断のかなり前に示すことがある。腫瘍随伴症候群は、4つの主なカテゴリー:内分泌、神経学的、粘膜皮膚および血液学的腫瘍随伴症候群に分けることができる。別の態様では、腫瘍随伴症候群は、癌性腫瘍または「新生物」に対する異常な免疫系反応によって引き起こされる稀な障害の群であり得る。理論に束縛されるものではないが、一態様では、腫瘍随伴症候群は、抗癌抗体または白血球(例えば、T細胞)が、神経系中の正常な細胞を間違って攻撃する場合に起こり得る。したがって、一実施形態では、腫瘍随伴症候群をより効果的に研究できるよう、免疫系は無傷で残される。
【0085】
本発明の別の態様では、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルの使用は、より重篤な状態へ進行するよう誘導されてない形態である癌の研究を可能にする。一実施形態では、研究されている癌は、前転移である。抗癌薬の使用は、炎症を引き起こす場合があり、炎症が、癌を、前転移癌から転移癌に進行させる場合がある。自発的に生じる疾患の動物モデルを使用することによって、このような癌、調べられている癌は、そうでなければ、化学療法的および/または放射線療法的介入がなければ進行していなかった形態に進行するように、さらに誘導されることはない。
【0086】
このように、動物の免疫系は、自然の状態にできる限り近く維持される。これは、免疫系の生物学的または生理学的状況の正確な研究に役立ち、したがって、より有意義な科学的データの作成を可能にする。この科学的データは、次いで、抗癌治療薬の同定のために使用できる。
【0087】
自己免疫および神経変性性疾患および/または障害
コンパニオンアニマルにおいて観察され、トランスレーショナル医療において使用するために活用することができる別のクラスの自発的に生じる疾患として、自己免疫疾患のクラスがある。コンパニオンアニマルにおいて観察され、ヒトにおいて使用するために活用することができる別のクラスの自発的に生じる疾患として、以下に詳述される神経変性性の(neudegenerative)および神経学的疾患および/または障害がある。自己免疫疾患として、それだけには限らないが、糖尿病(例えば、若年性糖尿病、尋常性天疱瘡、重症筋無力症、自己免疫性溶血性貧血、関節リウマチ、多発性関節炎、多発性筋炎、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、円板状紅斑性狼瘡、心筋症(例えば、拡張型心筋症)、ナルコレプシーおよび血小板減少症が挙げられる。
【0088】
本明細書に記載されるプラットフォーム技術を使用して、種々の自己免疫疾患と関連している1種または複数の新規自己抗原を同定できる。本発明の一態様では、複数の抗原および/または自己免疫バイオマーカーは、自発的に生じる自己免疫疾患を有するコンパニオンアニマルを使用して評価される。これらの自己抗原および/または自己免疫バイオマーカーは、ヒトにおいて自己免疫疾患に対処するための療法およびその他の治療法の標的であり得る。
【0089】
イヌおよびネコ主要組織適合複合体
ヒト白血球抗原(HLA)複合体と呼ばれる、ヒト主要組織適合複合体(MHC)は、3.6MbストレッチのDNA中に、免疫機能分子の>40種のコーディングを含む>200種の遺伝子座を含有する。HLAクラスI分子(A、B、C)は、内因性ペプチドと結合し、細胞内病原体およびその他の正常な細胞機能の混乱のサーベイランスのために、それらをCD8T細胞に提示する。HLAクラスII分子(DR、DP、DQ)は、特定の細胞(例えば、マクロファージ、樹状細胞)中で処理された外因性ペプチドと結合し、細胞外病原体のサーベイランスのためにそれらをCD4T細胞に提示する。多数のHLA遺伝子が、高レベルの対立遺伝子多型を有し、これによってヒト集団が、潜在的病原体に由来する広範なペプチドと結合することが可能になる。HLA分子はまた、自己タンパク質に由来するペプチドとも結合し、HLA−自己ペプチドの組合せに対するこれらのT細胞反応性は、通常、初期発生の間に排除され、その結果、自己に対して耐性となる。耐性が機能停止すると、活性化されたT細胞および自己抗体が自己タンパク質およびそれを発現する組織を攻撃し、自己免疫疾患を引き起こす。より多くの疾患が、任意のその他のゲノム領域よりもHLAと関連しており、特定の自己免疫疾患は、特定のHLA対立遺伝子と関連している。自己免疫疾患の病因論は未知であるが、HLA遺伝子は、通常、最高の遺伝子リスク因子である。広範な自己免疫疾患に対する感受性および耐性は、特定のHLAクラスIおよびII対立遺伝子と相関しており、これらの関係は、自己免疫疾患間で異なる。HLA対立遺伝子の研究は、自己免疫疾患の理解および治療戦略の開発を支援している。
【0090】
イヌでは、HLAファミリーの遺伝子に対応するものは、イヌ白血球抗原(DLA)領域と呼ばれる。血統の明らかなイヌ品種においてDLA遺伝子の特徴を分析することによって、特定のヒト民族および単離された遺伝的集団のように、特定の自己免疫障害と強い相関を示す明確な亜集団が提供される。イヌゲノムのマッピングは、ヒトおよびマウスゲノムに遅れを取っているが、過去10年では精密な調査が漸増した。イヌ古典的および拡張MHCクラスII領域中の711,521bpの分析によって、機能的に発現されると予測される29種を含む45種の遺伝子座が示された。2005年には、25種のAKC登録されたイヌ品種に相当する360頭のイヌを分類することによって、品種にわたる広範なDLAクラスII対立遺伝子多様性を同定し、試験された25品種間で、31/61種の公開されたDLA−DRB1対立遺伝子、11/18種の公開されたDLA−DQA1対立遺伝子および31/47種の公開されたDLA−DQB1対立遺伝子が同定された。品種間の対立遺伝子の多様性とは対照的に、個々の品種内では、DLAクラスII遺伝子における対立遺伝子の多様性は非常に限られている。DLA対立遺伝子は、多数の品種によって共有されるものもあれば、単一の品種または小さい関連セットの品種に特有であるものもある。例えば、同定された31種のDRB1対立遺伝子のうち17種は、単一の品種のみで見られ、DLA−DRB1*00101(16品種)およびDLA−DRB1*01501(19品種)を含めた7種の対立遺伝子のみが、=7種の品種によって共有されていた。DLA−DQA1*00101およびDLA−DQA1*00601対立遺伝子もまた、多数の品種によって共有されていた。同様に、DLA−DQB1*00201およびDLA−DQB1*02301も多数の品種で見られ、それぞれ、17種および18種の品種によって共有されていた。個々の血統の明らかなイヌでは、HLA対立遺伝子でのホモ接合性は一般的であり、試験したイヌの40%が、DLA−DRB1でホモ接合性であり、52%がDLA−DQA1でホモ接合性であり、44%が、DLA−DQB1でホモ接合性であった。北米および欧州の純血種のイヌは、同様の頻度のHLA対立遺伝子を有しており、創始者効果と一致していたが、北米の品種は、北米で確立された時点でいくつかのDLAクラスII多様性を失っていた場合もあった。その他のイヌ集団においてHLA遺伝子を配列決定することによって、ハイイロオオカミと共有される対立遺伝子を含むさらなる多様性が示された。遺伝子研究がより精緻になったので、以下に論じられるように、自己免疫疾患と関連している特定のDLA対立遺伝子のますます増える例が実証されてきた。
【0091】
本発明の一態様では、自己抗原は、以下の糖尿病抗原:GAD65、全長IA−2、膜近傍ドメイン(IA2のアミノ酸605〜682)のうち1種または複数を含まない。本発明の別の態様では、自己抗原は、以下の拡張型心筋症自己抗原:ミオシン重鎖、アルファ心筋アクチン、ミトコンドリアのアコニット酸ヒドラターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)および脳グリコーゲンホスホリラーゼ(GPBB)のうち1種または複数を含まない。
【0092】
神経学的および神経筋障害
炎症性筋疾患(IM)
炎症性筋疾患は、慢性筋肉炎症によって特徴付けられる筋肉疾患の群であり、筋炎および筋力低下と呼ばれることもある。炎症性筋疾患の3種の主な種類として、多発性筋炎、皮膚筋炎および封入体筋炎がある。多発性筋炎は、骨格筋に影響を及ぼし、18歳未満で発症することは稀であり、患者の症例の大部分は、31〜61歳の間である。進行性の筋力低下は、歩行困難、階段上り困難、嚥下困難、発話困難を引き起こす場合があり、頭上の対象に達する。皮膚筋炎(Dermatomysotis)は、進行性の筋力低下に先行するか、それを伴う皮膚の発疹である。多発性筋炎とは異なり、乳房、肺または腸の腫瘍を伴い得る。皮膚筋炎の一部の症例は、皮下または筋肉内にカルシウム沈着を含み、石灰沈着症と呼ばれる。封入体筋炎は多発性筋炎と似ているが、発症年齢はより早く、最初に、小児の年齢2〜15歳で現れる。症状として、近位筋力低下および炎症、浮腫、筋肉痛および腹痛、発熱、拘縮(関節の周囲の短縮した筋肉または腱)および嚥下困難および呼吸困難が挙げられる。封入体筋炎は、多発性筋炎および皮膚筋炎とは異なり、男性においてより多く見られる。これらの状態の診断は、症状および病歴に基づき、特定の筋肉酵素(例えば、クレアチンキナーゼ)および自己抗体のレベルの上昇、筋電図検査、超音波、MRIおよび生検によって確認される。IMの病因論は未知であるが、HLAの関連性および最近発見された自己抗体は、自己免疫起源を示す。弧発性封入体筋炎は、HLA−DR3(具体的には、DRB1*0301)および先祖ハプロタイプHLA−A1、B8、DR3のその他の成分と関連付けられている。最近のエビデンスによって、特発性IMの症例の約半分における特定のタンパク質に対する自己抗体の検出が、患者のサブセットおよび臨床成績と相関することが示唆されている。例えば、若年性皮膚筋炎を有する患者の23%が、検出可能な抗p140自己抗体を有する。アミノアシル−トランスファーRNAシンセターゼ、抗シグナル認識粒子およびMi−2に対する自己抗体が、IM患者の他のサブセットにおいて検出されている。多発性筋炎および皮膚筋炎(dermatomyostitis)は、まず高用量プレドニゾンまたはその他の副腎皮質ステロイドを用いて治療され、プレドニゾンに無応答性の患者は、炎症を低減するためにアザチオプリンおよびメトトレキサートなどの一般的な免疫抑制薬を投与される。その他の治療として、静脈内免疫グロブリン、シクロスポリンA、シクロホスファミドおよびタクロリムスを挙げることができる。封入体筋炎は、副腎皮質ステロイドおよび免疫抑制薬に対して、通常、無応答性であるので、それを治療するための標準レジメンはない。
【0093】
イヌもまた、炎症性筋疾患を発症し、その病理および治療への調査は、ヒトにおける治療戦略を導いている。咀嚼筋筋炎(MMM)、咀嚼を制御する筋肉に影響を及ぼす炎症性疾患は、イヌにおいて最もよく見られる炎症性筋疾患である。この疾患は、ジャーマンシェパードおよびキャバリアキングチャールズスパニエルをはじめとする大型品種のイヌを主に苦しめる。類似の疾患は、一部のゴールデンレトリーバーの眼の筋肉に影響を及ぼす。プレドニゾンなどの副腎皮質ステロイドが、MMMの主な治療であり、最大4〜6ヶ月、漸減する用量を用いる。多発性筋炎の症例はまた、抗炎症および免疫抑制戦略として副腎皮質ステロイドを用いて治療され、不応性の症例には、シトキサンおよびイムランへと拡大する。MMMは、顎の筋肉中の2Mの線維、細菌の表面で見られるタンパク質と似ているが、身体中のどこにもない線維の種類によって特徴付けられる。53頭のMMMを有するイヌ、多発性筋炎を有する32頭および両方を有する4頭のイヌの研究によって、両方の炎症性筋疾患が、筋肉繊維破壊を開始し、ミオシンに対する自己抗体の産生につながるCD8+媒介性自己免疫疾患であることが示唆されている。イヌMMMのその他の研究によって、咀嚼筋線維内でのみ発現され、ヒト筋肉においても発現される、咀嚼ミオシン結合タンパク質Cと名づけられたミオシン結合タンパク質Cファミリーの新規メンバーに対する自己抗体が同定された。イヌ炎症性筋疾患における筋肉特異的自己抗原の発見は、ヒトミオパチーにおける対応する標的の探索を導き得る。
【0094】
重症筋無力症(MG)
重症筋無力症は、比較的稀であり、推定有病率は100万人あたり200〜400人の症例であり、米国にはおよそ36,000〜60,000の症例がある(14、15)。MGは、神経筋接合部(NMJ)の筋肉側の欠陥によって引き起こされ、最適以下のシグナル伝達および筋力低下をもたらす。正常な筋肉では、神経インパルスが、アセチルコリンを放出し、それがNMJを超えて移動し、筋肉上のアセチルコリン受容体(AChR)と結合し、AChRサブユニットによって形成されるイオンチャネルを開け、ナトリウムイオン流動、膜の脱分極および筋肉収縮を引き起こす。先天性MGの極めて稀な症例は、AChRサブユニットの1つにおける機能的突然変異によって引き起こされる。後天性MGは、NMJの筋肉側のタンパク質に対する免疫応答によって特徴付けられる、未知の病因論の自己免疫障害である。80〜90%の症例では、患者は、AChRに対する抗体を発生させ、これが、NMJで機能的受容体の密度を低下させ、シナプス後膜に補体媒介性損傷を引き起こし、10〜20%の自己免疫MG患者は、抗AChR抗体について血清陰性であり、代わりに、筋肉特異的キナーゼ(MuSK)またはリアノジン受容体(RyR)などのその他のNMJ成分に対する抗体を有する。MGは、眼瞼下垂(drooping eyelids)(眼瞼下垂(ptosis))および複視(double vision)(複視(diplopia))をはじめとする症状を有し、眼の筋肉に限定されている場合もあり、または肢、横隔膜、中咽頭およびその他の筋肉群に拡張し、付随する歩行困難、嚥下困難および補助換気を必要とし得る呼吸困難を伴う場合もある。MGは、一般に、ネオスチグミンまたはピリドスチグミン、NMJにおけるアセチルコリンの長期の存在を可能にし、NMJで、アセチルコリンが限定されたAChRと結合できるアセチルコリンエステラーゼ(acetycholinesterase)の阻害剤を用いて治療される。いくつかの場合には、自己免疫応答を制御するために、プレドニゾン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルまたはアザチオプリンなどの免疫抑制薬をアセチルコリンエステラーゼ阻害剤に加える。胸腺摘除術、胸腺の外科的除去は、胸腺腫を有するMG患者の10〜15%のでは症状を低減し、その他のMG患者にも同様に利益になり得るが、利益は、術後2年〜5年までは生じない場合もある。
【0095】
MGは、最もよく見られるイヌの神経筋障害である可能性が高い。ヒト版と同様に、イヌのMG症状として、顔面筋および外眼筋の脱力ならびに運動に伴い悪化する肢の脱力が挙げられる。その他の症状として、嚥下困難、拡張した食道(巨大食道)、緊張喪失および食物の胃への輸送困難および誤嚥性肺炎につながり得る逆流を挙げることができる。ヒト筋無力症と同様に、イヌにおいてMGを確認するために利用可能ないくつかの診断検査がある。診断は、血清におけるAChRに対する血清抗体の検出に基づくことが多く、この検査はカリフォルニア大学サンディエゴ校のComparative Neuromuscular Laboratoryを介して入手可能である。その他の診断検査として、筋肉生検におけるAChRレベルの低下、筋電図検査、巨大食道について調べるためのX線および短時間作用型コリンエステラーゼ阻害薬、塩化エドロホニウム(テンシロン検査)の投与後の臨床症状の一時的改善が挙げられる。MGと診断されたイヌの90%を超えるものが、AChR抗体について血清陽性であるヒトMG患者の頻度に匹敵する、検出可能な抗AChR血清力価を有する。これらのヒト患者では、また、精製AChRおよびアジュバントを用いる免疫化によって誘導されたMGの動物モデルでは、これらのAChR抗体の高い百分率が、AChRアルファサブユニットのアミノ酸残基61〜76によって形成されるコンホメーショナルエピトープ、主要免疫原性領域(MIR)と呼ばれる領域と結合する。同様に、イヌのMGでは、抗AChR抗体の68%が、MIRと結合する。その他の類似性として、限局性MGと呼ばれる、一部のヒトMG患者における外眼筋への制限と似ている一部のイヌにおける限定されたセットの筋肉の脱力が挙げられる。ヒトMGと同様に、イヌの後天性MGの症例のサブセットは、胸腺腫、胸腺の頭側縦隔の腫瘍を含む。胸腺摘除術は、胸腺腫を有するにしても有さないにしても、ヒトMG患者のための一般的な治療であるが、筋無力症のイヌおよびネコの治療にとっては一般的な診療ではない。
【0096】
イヌにおいて後天性MGを発症する平均年齢は、5歳である。1991年〜1995年の間に記録されたイヌのMGの1,154の症例における、純血種のイヌおよび雑種のイヌにおける発症率の比較によって、アキタ、ジャーマンショートヘアードポインター、チワワ、スコティッシュテリアおよびテリアの群中のその他のもの、ロットワイラー、ドーベルマンピンシェル、ダルメシアンについて、後天性(自発的な自己免疫)MGのリスクの上昇が実証され、ジャックラッセルテリアは、後天性MGの低い相対リスクを有していた。その他の情報源は、大型の品種、特に、ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバーおよびラブラドールレトリーバーにおいて後天性MGのリスクの上昇を言及しているが、先天性MGは、ジャックラッセルテリア、スプリンガースパニエルおよびスムースヘアフォックステリアにおいてより多く見られた。2つの別個の研究が、17%の死亡率を報告している。ヒトと同様に、イヌのMGのための一般的な治療は、ピリドスチグミン(Mestinon)、神経筋接合部におけるアセチルコリンの存在を延長するアセチルコリンエステラーゼ阻害剤である。プレドニゾンなどの副腎皮質ステロイドは、抗コリンエステラーゼ療法が効果的ではない場合に投与される。副腎皮質ステロイドが、真性糖尿病、高血圧、同時感染のために禁忌となる場合またはMGの症例が標準治療に対して不応性である場合には、アザチオプリンなどの、より強力な免疫抑制剤が使用される。多くの症例で、治療的介入は不必要であり得る。ヒト患者とは異なり、筋無力症のイヌの90%近くが、治療的処置がなくても疾患発症の18ヶ月以内に自発的に緩解する。筋力低下および陽性AChR抗体力価を有する53頭のイヌの研究では、自発的な臨床的緩解および免疫学的緩解が、平均時間6.4ヶ月で、53頭中47頭のイヌ(88.7%)で生じ、自発的に緩解しなかった6頭のイヌすべてで新生物が指摘された。自発的な緩解の際に、AChR力価は、低下または上下する。しかし、感染性病原体に対するワクチン接種は、自発的な緩解にあったイヌにおいて、MGの再発を誘導し得る。耐性の維持または再確立における調節性T細胞の役割は、最近、精力的な研究の領域となり、イヌにおけるMG発症および自発的な緩解の際の、AChRに特異的なエフェクターおよび調節性T細胞間のバランスをモニタリングするのに有益であり得る。このような研究によって、ワクチン接種が、全般的なエフェクターT細胞増加を引き起こし、調節性T細胞を増加することによって駆動される緩解を覆すかどうかが示され得る。これが症例を証明する場合には、調節性T細胞を低減し得る広い免疫抑制を避けることが賢明であり得、代わりに、調節性T細胞の集団を増加させることに、将来の治療戦略を集中させる。
【0097】
ナルコレプシー
ナルコレプシーは、睡眠覚醒周期の調節不全によって引き起こされる慢性神経疾患であり、日中の過剰な眠気および不適当な、多くの場合突然の睡眠の発生をもたらす。ナルコレプシーは、これらの不規則な睡眠エピソードに加えて、脱力発作、強い感情によって誘導されることもある随意筋緊張の突然の喪失、睡眠の開始または中断の際の鮮明な幻覚および睡眠周期の始まりまたは終わりでの完全麻痺の短いエピソードをはじめとする関連症状を示す場合がある。24時間の期間の間の総睡眠の長さは、ナルコレプシーおよび正常な睡眠で同様であるが、睡眠期間の数およびノンレム対レム睡眠の割合が、大きく異なっている。通常の睡眠周期は、ノンレム睡眠で始まり、80〜100分後にレム睡眠に移行する100〜110分である。対照的に、ナルコレプシーの患者は、入眠の数分内にレム睡眠に入り、1日を通して、より散発的にばら撒かれる多数の短い睡眠周期を有し得る。ナルコレプシー有病率は、集団間で変わり、米国では、2,000人の個体に1人、イスラエルでは、500,000人に1人、日本では、600人に1人を苦しめる。ナルコレプシーのほとんどの症例が、10〜25歳の間に最初に現れる。
【0098】
理論に束縛されるものではないが、ナルコレプシーは、ヒポクレチン、覚醒を促進するホルモンのレベルの低下によって引き起こされる。これらの低いレベルは、脳においてヒポクレチンを分泌するニューロンの減少による。しかし、稀な症例を除いて、ヒポクレチン遺伝子は、ナルコレプシー患者で突然変異されていない。ナルコレプシーは、複数のファミリーメンバーで起こり得るが、これらの例は、症例の10%未満を占めるにすぎず、双生児の研究によって、非遺伝的因子の強い影響が示されており、このことは、環境誘因を示唆する。最初に立証されたナルコレプシーとの関連は、ヒト組織適合ハプロタイプHLA−DR2にマッピングされ、その後、DQB1*0602対立遺伝子に局在化された。脱力発作を有するナルコレプシーの90%超が、DQB1*0602対立遺伝子を有し、白色人種対照における25%の頻度を上回って大幅に増大している。ナルコレプシーはまた、アジア人およびアフリカ系アメリカ人では、DQB1*0602と強力に関連している、異常に強いHLA対立遺伝子関連。このHLA関連に基づいて、ナルコレプシーは、環境誘因に対する自己免疫反応であると示唆されている。ナルコレプシーにおける自己免疫病理を確認するための試みは、困難であり、賛否両論がある。自己免疫仮説の支持は、ナルコレプシーのヒトから得た抗体を注射したマウスにおけるナルコレプシー様症状の誘導から来ている。しかし、ヒポクレチン、hcrt−1およびhcrt−2に対する自己抗体の放射リガンド結合実験スクリーニングでは、脱力発作を有するナルコレプシー(5%)および健常な対照(3%)の血清において同等に低い頻度を検出した。対照的に、最近の研究は、Tribbles相同体2(Trib2)、ヒポクレチン産生ニューロンにおいて豊富な転写物および自己免疫ブドウ膜炎における自己抗原が、とらえどころのないナルコレプシー自己抗原であり得ることを示唆した。ELISAアッセイによって、ナルコレプシー患者の血清およびCSFにおいてTrib2に対する高い自己抗体力価が検出され、この血清は、マウス視床下部においてヒポクレチンニューロンの>86%と結合した。自己免疫病因論のさらなる証拠は、807人のHLA−DQB*0602陽性白色人種ナルコレプシーおよび1074人の対応させた対照の最近のゲノム規模での関連研究から来ている。遺伝子解析によって、TCRA遺伝子座の18Kbのセグメント、連結セグメントをコードするT細胞受容体遺伝子の領域およびT細胞受容体ベータ(TCRB)遺伝子座のVセグメント中の別のマーカーにおいて、高い連鎖不均衡で3種のマーカーが同定された、この研究は、ほとんどのヒトナルコレプシーの症例の自己免疫起源を断定する。自発的なナルコレプシーは、1970年代にイヌにおいて最初に記載された。しかし、ほとんどのイヌでは、これは、イヌ組織適合複合体、DLAとは関係しない常染色体劣性形質である。それにも関わらず、ナルコレプシーのイヌ型は、ヒト状態の理解にとって極めて重大であった。1999年に、ナルコレプシーのドーベルマンピンシェルおよびラブラドールレトリーバー飼育株の研究によって、ナルコレプシーとヒポクレチン/オレキシン受容体(Hcrtr−2)遺伝子の調節不全間の連関が立証された。遺伝子起源の相違にも関わらず、天然に存在するイヌモデルは、ヒトナルコレプシー患者のための治療の最適化にとって有用であった。
【0099】
神経セロイドリポフスチン症/バッテン病
神経セロイドリポフスチン症(NCLまたはCLN)は、小児を苦しめる常染色体劣性神経変性リソソーム蓄積症の群である。群として、NCLは、レチナールおよび脳萎縮をはじめとする細胞変性につながる、ニューロンおよびその他の細胞におけるリポフスチン(lipofucsin)に似たリソソーム蓄積体の細胞内蓄積によって特徴付けられる。それらは、小児において最もよく見られる進行性の神経変性性疾患であり、発症率は、12,500人の生児出生に1人であり、米国ではおよそ440,000人の保有者がいる。サブタイプは、発症の年齢および原因である遺伝子に基づいて分類されている。ハルチア−サンタブオリ病(Haltia−Santavuouri disease)(小児性NCL、CLN1);ヤンスキー−ビールショースキー病(Jansky−Bielschowsky disease)(遅発型小児性NCL、CLN2);バッテン病(若年性NCL、CLN3);クッフス病(Kufs disease)(成人性NCL、CLN4);および2種の遅発型小児性変異体型、CLN5およびCLN6。しかし、すべてのNCLをバッテン病として分類する医師もいる。CLN1は、リソソーム酵素パルミトイルタンパク質チオエステラーゼ(PPT1)リソソームタンパク質チオエステラーゼ(thiolesterase)をコードし、CLN2は、リソソームトリペプチジルタンパク質ペプチダーゼ(TPP1)をコードする。CLN8は、てんかんおよび進行性の精神遅滞と関連している。CLN3は、リソソーム膜中に存在し、シナプス小胞タンパク質と共存する機能未知のタンパク質をコードする。バッテン病患者の3/4近くが、両染色体上のCLN3遺伝子中に1.02kbの欠失を持っており、残りは、CLN3における、ミスセンス突然変異、ナンセンス突然変異、欠失、挿入およびその他の欠陥が占めた。欠陥のあるCLN3は、てんかん、精神的欠陥、進行性の失明、言語障害および運動技能の喪失につながり、10代後半または20代によっては致死的であることが多い。バッテン病患者は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD65)に対して自己免疫応答を有する。患者の血清の調査は、試験された20人の個体すべてにおいて抗GAD65自己抗体を示した。グルタミン酸デカルボキシラーゼは、興奮性神経伝達物質グルタミン酸を阻害性神経伝達物質ガンマアミノ酪酸(GABA)に変換することに関与する酵素であり、したがって、抗GAD自己抗体は、過剰の興奮性神経伝達物質を引き起こし、てんかんにつながり得る。GADに対する自己抗体はまた、全身硬直症候群および小脳性運動失調を含め、その他の変性CNS疾患においても検出されている。これらの自己抗体は、GADの活性を阻害するのに対し、インスリン依存性真性糖尿病(IDDM、1型糖尿病)において検出されるGADに対する自己抗体は阻害性ではない。常染色体の障害と自己免疫応答の間につながりがある可能性は興味深く、原因を理解し、治療的介入を開発するために患者および動物モデルの両方においてさらなる研究が必要である。
【0100】
マウスおよびウシ、ヒツジ、ネコおよび特定のイヌの品種を含めたいくつかの家畜の種において遺伝性NCLが報告されている。NCLの発生が報告されたイヌの品種として、イングリッシュセッター、チベタンテリア、アメリカンブルドッグ、ダックスフンド、ポリッシュローランドシープドッグ、ボーダーコリー、ダルメシアン、ミニチュアシュナウツァー、オーストラリアンシェパード、オーストラリアンキャトルドッグおよびゴールデンレトリーバーが挙げられる。イヌにおけるNCLは、CNSにおける進行性の変性および神経細胞における蛍光物質の蓄積によって特徴付けられる。イヌCLN2(PPT1)、CLN5、CLN6およびCLN8のゲノム配列および転写物が、そのヒト対応物に対して保存されている。イングリッシュセッターにおけるNCLは、CLN8における単一点突然変異と関連している。進行性の神経変性は、難治性てんかんおよびおよそ2歳という年齢での死亡を引き起こす。遅発型のNCLは、チベタンテリアおよびポルスキーオフチャレクニジンニ(PON)ドッグにおいて起こり得る。ダックスフンドにおいて発見されたNCLの形態は、CLN2(TPP1)中の突然変異によって引き起こされ、ヒトにおける遅発型小児性NCLと似ている網膜変性症をもたらす。ボーダーコリーにおけるNCLの最初に報告された症例は、1980年に記録され、原因である突然変異はCLN5中に位置する。診断用DNA検査は、現在、アメリカンブルドッグ、ダックスフンド、イングリッシュセッターおよびチベタンテリアについて利用可能である。
【0101】
ほとんどのNCLのマウスモデルがあるが、その限定された大きさ、生存期間および比較的原始的な神経系は、治療的アプローチの試験にとっては減損である。イヌNCLの特性決定は、自己抗体の役割を含めた疾患病理のより良好な理解および疾患進行を停止し、遺伝子欠陥を修正するためのより実験的な療法を調べるための良好な機会を提供するはずである。
【0102】
皮膚障害
天疱瘡
天疱瘡は、慢性の、多くの場合有痛性の水疱形成によって特徴付けられる稀な自己免疫皮膚疾患の群である。天疱瘡は、デスモグレイン、デスモソーム(desmosones)と呼ばれる接着部位を介して隣接する上皮細胞を接着する分子「接着剤」に対する自己抗体によって引き起こされる。自己抗体結合デスモグレインは、この結合を破壊し、水泡を引き起こし、これが剥がれ落ちて、開いた傷口が残る。天疱瘡のいくつかのカテゴリーは、標的自己抗原ならびに水泡および傷口の位置に基づいて分類される。尋常性天疱瘡(一般的な天疱瘡)は、デスモグレイン3に対する抗体によって引き起こされ、その結果、ケラチノサイトおよび表皮の基底層間の接着が失われ、重篤度は、デスモグレイン3のレベルに比例する。傷口は口の中で発生することが多く、摂食を妨げる。いずれの年齢でも生じ得るが、尋常性天疱瘡は、通常、40〜60歳の間の患者で始まり、アシュケナージ系ユダヤ人においてより多く見られる。北米の白色人種非ユダヤ人およびアシュケナージ系ユダヤ人の尋常性天疱瘡患者の遺伝子型判定によって、DRB1*0402およびDQB1*0503に対する強いHLA関連が示された。落葉状天疱瘡、重篤度が最小の形態の天疱瘡は、デスモグレイン1に対する自己抗体によって引き起こされる。デスモグレイン1は、皮膚の一番上の乾燥層上でのみ発現されるので、傷口は表在性であり、一般に、尋常性天疱瘡よりも有痛性ではない。尋常性天疱瘡からの別の相違として、傷口が口の中に形成しない点があり、それらはむしろ、通常、頭皮上で始まり、胸、背中および顔面に広がり得る。31人の白色人種の落葉状天疱瘡患者および84人の健常対照のゲノム比較によって、HLA−DR対立遺伝子DRB1*0102、DRB1*0402、DRB1*0406およびDRB1*1404と関連している感受性の増大が示された。腫瘍随伴天疱瘡は、最も一般的でない、最も重篤な形態の天疱瘡(pemphigous)である。この稀な形態は、特定のリンパ腫および白血病を含めたいくつかの形態の癌を伴って起こる。有痛性の傷口は、口、唇および食道上に生じ、肺において狭窄型細気管支炎も引き起こし得る。天疱瘡は、最も一般的には、経口副腎皮質ステロイド、特に、プレドニゾンまたはプレドニゾロンを用いて治療される。効果的な管理は、多くの場合、高用量のこれらの抗炎症薬を必要とする。ミコフェノール酸モフェチル(CellCept)、アザチオプリン(aziathioprine)(イムラン)、シクロホスファミド(シトキサン)およびメトトレキサートをはじめとする免疫抑制薬が治療レジメンに加えられることが多い。重篤な症例、特に、腫瘍随伴天疱瘡では、静脈内ガンマグロブリンが有用である場合がある。
【0103】
米国ではイヌの<2%が、いくつかの形態の自己免疫皮膚疾患を有すると推測されるが、これは過小評価であり得る。尋常性天疱瘡は、最もよく見られる形態であり、口および粘膜皮膚の移行部、毛のある皮膚および粘膜組織の境界(例えば、眼瞼、唇、鼻孔、肛門および生殖器)中の病変として現れる。これらの水泡は、薄く、容易に破壊される。ヒト尋常性天疱瘡患者は、デスモグレイン3およびデスモグレイン1に対する自己抗体を有する。デスモグレイン3を認識する同様の抗体が、尋常性天疱瘡を有するイヌから得た血清の60%で検出された。これらの抗体は、正常なヒトケラチノサイトのシートとともにインキュベートされた場合に、解離を引き起こし、発病におけるその役割が確認された。増殖性天疱瘡は、鼠径部周囲および下肢と体幹の間の厚い、一様でない、開いた病変によって特徴付けられる。落葉状天疱瘡は、稀であり、通常、顔面、耳、足および鼠径部に限定される。水泡は、一時的であり、発赤を示し、硬い皮で覆われており、脱毛する。この皮膚障害を有するイヌは、ヒト落葉状天疱瘡においてと同様、病原性IgG4自己抗体を有する。これらの抗体は、in vitro結合アッセイによって検出することが困難であるが、ケラチノサイトと結合されて実証され得る。紅斑性天疱瘡(Pemphigus erythematosis)は、落葉状と似ており、鼻に限定されることが多い。イヌ天疱瘡における自己抗体特性決定は、初期段階にある。これらの障害に関与している自己抗原のさらなる特性決定は、ヒト天疱瘡自己免疫の病理の本発明者らの理解を進め得る。
【0104】
内分泌および胃腸障害
甲状腺炎
甲状腺炎は、甲状腺の炎症である。橋本甲状腺炎は、甲状腺ペルオキシダーゼおよび/またはサイログロブリン(thyroglobuin)に対する抗体によって媒介される甲状腺における濾胞の破壊によって特徴付けられる、最もよく見られる形態である。この自己免疫疾患は、北米における原発性甲状腺機能低下症の最もよく見られる原因であり、平均発症率は、1,000人あたり1〜1.5症例である。グレーブス甲状腺機能亢進性疾患は、甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体によって媒介され、甲状腺機能を刺激し、甲状腺ホルモンの分泌過多を引き起こす。欧州諸国では、オルド(Ord’s)甲状腺炎と呼ばれる、萎縮型の自己免疫甲状腺炎は、橋本甲状腺炎よりもよく見られる。甲状腺炎の発症は、通常、45〜65歳の間に起こる。多数の自己免疫疾患と同様に、有病率は女性において高いが、女性対男性において10:1〜20:1の出現という推定比は、自己免疫障害の中でも高い。疾患との地理的および季節的相関、その他の自己免疫疾患においても同様に見られる特徴のエビデンスもある。疲労、体重増加、鬱病および便秘などの、自己免疫甲状腺炎の症状の多くは、その他の状態においても生じ、誤診につながり得る。進行した症例は、合成T4ホルモンレボチロキシンなどのホルモン補充療法を用いて治療される。
【0105】
甲状腺機能亢進症は、イヌにおいて最もよく見られる内分泌疾患である。症例の大部分は、男性における橋本甲状腺炎と似ている自己免疫であり、ヒト自己免疫疾患においてと同様に、特定の組織適合対立遺伝子の発現と関連がある。品種の範囲中の173頭の甲状腺機能低下性のイヌの遺伝子型判定によって、DLA−DQA1*00101、稀なDLAクラスIIハプロタイプとの有意な関連が示された。
【0106】
同様に、甲状腺機能低下性疾患に冒された27頭のドーベルマンピンシェルの分析によって、冒されていないイヌと比較して、冒されたイヌにおける稀なDLAハプロタイプの増加が示され、このハプロタイプは、ドーベルマンピンシェルおよびラブラドールにおいてのみ見られた。大型のイヌは、リスクが高いが、トイおよびミニチュア品種は稀にしか冒されない。ドーベルマンピンシェルに加え、甲状腺炎に対する感受性が報告された品種として、ゴールデンレトリーバー、ボルゾイ、ジャイアントシュナウツァー、アキタ、アイリッシュセッター、オールドイングリッシュシープドッグ、シェットランドシープドッグ、スカイテリア、ビーグル、グレートデーンおよびイングリッシュコッカースパニエルが挙げられる。
【0107】
1型糖尿病
糖尿病は、米国で推定2360万人、人口のおおよそ7.8%を苦しめている代謝障害である。1型糖尿病は、膵臓におけるインスリン産生ベータ細胞の破壊に起因する自己免疫障害であり、グルコース代謝の調節不全をもたらす。症状の発症は、比較的迅速であるが、根底にあるベータ細胞の破壊が、長期間進行し、その後、効果が検出可能である場合がある。1型糖尿病の症状として、のどの渇きおよび排尿の増加、継続的な空腹感、かすみ目、体重減少および疲労を挙げることができる。治療されない場合には、患者は、糖尿病性ケトアシドーシスとしても知られる糖尿病性昏睡に陥り、これは致死的であり得る。2型糖尿病は、かなりより一般的であり、糖尿病の症例の90〜95%を占める。自己免疫ではなく、遅い平均発症年齢で生じ、肥満症、糖尿病の家族歴、運動不足および特定の民族的背景と関連している。2型糖尿病では、インスリンは産生されるが、未知の理由のために身体がそれを適切に使用することができない。1型糖尿病においてと同様に、結果は、血液におけるグルコースの蓄積ならびに効率的でないエネルギー代謝および保存である。一部の臨床医および治験責任医師はまた、「成人における潜在性自己免疫糖尿病」(LADA)と呼ばれるカテゴリーも認識している。これらの症例は、通常、30歳後に始まり、患者が、インスリン産生ベータ細胞に対する抗体を有し、最終的にベータ細胞が破壊されるので、1型糖尿病のより遅く発生する形態であり得る。LADAは、2型糖尿病の症例の10%をも占め得る。
【0108】
1型糖尿病は、多数のその他の自己免疫疾患とは異なり、男性および女性間で同等に生じる。非白色人種集団よりも白色人種においてより高頻度に生じ、ほとんどのアフリカ人、アメリカ先住民およびアジア人集団では稀である。特定の北ヨーロッパ諸国、例えば、フィンランドおよびスウェーデンは、高率の1型糖尿病を有する。任意の年齢で発症し得るが、発症は、小児期に起こることが最も多い。病因論は未知であるが、1型糖尿病は、家族においてクラスター化し、全体的な遺伝子リスク割合は、およそ15である。一卵性および二卵性双生児間の1型糖尿病の一致もまた、感受性における強力な遺伝的成分のエビデンスである。HLA領域中の対立遺伝子変異が、1型糖尿病における家族クラスター化の40〜50%を占める。多数の研究によって、HLA領域遺伝子DRB1、DQA1およびDQB1の特定の対立遺伝子が、1型糖尿病と強く関連していることが実証された。607の白色人種家族および38のアジア系家族の詳細な分析によって、いくつかの感受性および保護的DR−DQハプロタイプ(halplotyes)ならびにこれらのハプロタイプに基づく1型糖尿病リスクにおける著しい階層が示された。ハプロタイプDRB1*0301−DQA1*0501−DQB1*0201は、最高の感受性を付与し、3.64のオッズ比を有するのに対し、最も保護的なハプロタイプは、0.02のオッズ比と関連していた。HLAに加えて、ゲノム規模の関連研究(GWAS)によって、白色人種において感受性の一因となるいくつかのその他の遺伝子、例えば、INS、CTLA4、PTPN22およびIL2RA/CD25が同定された。白色人種およびアジア系1型糖尿病のGWAS比較では、CTLA4の疾患関連は、両民族集団において自己免疫甲状腺疾患を有する糖尿病のサブセットにおいて濃縮され、IL2RA/CD25との関連は両集団において同様であり、PTPN22との関連は、アジア系患者において強い。その他のヒト自己免疫障害と同様に、感受性は、HLA領域中の対立遺伝子と強く、また、より少ない程度に一連のさらなる遺伝子と関係しており、幾分かは、炎症経路と関係している。1型糖尿病は、絶食の8時間後の血糖値の測定に基づいて診断されることが好ましく、これでは、126mg/dLのレベルが指標となると考えられる。治療はなくても、インスリンの注射によって疾患を管理することはできる。
【0109】
糖尿病は、イヌにおいて比較的よく見られ、例えば、UKにおける推定有病率は、0.32%であり、その他の研究では、0.005%〜1.5%の範囲の有病率が報告されている。ヒトにおいてと同様、イヌ糖尿病の臨床症状として、過度のどの渇き(多飲)、排尿(多尿)、体重減少および血液および尿中の高レベルのグルコースが挙げられる。イヌ糖尿病の発症は、通常、5から12歳の間で起こり、平均発症は9歳であり、ヒトにおける1型糖尿病の対応する年齢よりも高齢の発症である。ヒト糖尿病のために開発された分類体系は、イヌ糖尿病には容易に当てはまらない。症例を、インスリン依存性または非インスリン依存性のいずれかとして特徴付けた人もいるが、ほとんどすべての糖尿病のイヌがインスリン療法を必要とする。代替の体系によって、症例は、原発性インスリン欠乏性糖尿病(IDD)または原発性インスリン抵抗性糖尿病(IRD)のいずれかとして分類される。IDDでは、膵ベータ細胞の免疫媒介性進行性喪失がある。IRDは、通常、その他のホルモンによるインスリン機能の拮抗作用によって引き起こされ、その他の内分泌障害に続発する場合もある。膵炎、膵臓の炎症は糖尿病のイヌの28〜40%において報告されているが、別の研究では、253頭のうち8頭の糖尿病のイヌのみが、膵炎の臨床兆候および生化学的兆候を有していた。過去数十年にわたる別個の研究が、イヌ糖尿病の不均一な病理を証明しており、18症例のうち6症例において、ヒト1型糖尿病および膵島炎との類似性を検出するものもあれば、膵ベータ細胞破壊のエビデンスが、ヒトおよびげっ歯類においてよりも少ないことを報告するものもある。一部の新しく診断された糖尿病のイヌにおいて、インスリンに対する自己抗体、イヌGAD65および/またはイヌ膵島抗原−2が同定されている。膵島のリンパ球浸潤は、成人発症型糖尿病を有するイヌのサブセットにおいてのみ見られ、若年発症型糖尿病を有するイヌでは観察されない。したがって、イヌ糖尿病は、ベータ細胞の遅い進行性の破壊を示す、成人における潜在性自己免疫糖尿病(LADA)、ヒトにおける成人型の1型糖尿病の特徴に匹敵し得る。ヒト2型糖尿病のイヌ相当物のエビデンスはない。
【0110】
北米の24の獣医科大学から得た>6,000頭の糖尿病のイヌのデータベースによれば、感受性品種として、ミニチュアシュナウツァー、ビションフリーゼ、ミニチュアプードル、サモエドおよびケアンテリアが挙げられる。同様に、UKの研究では、サモエド、チベタンテリアおよびケアンテリアが、糖尿病になりやすいと見られた。対照的に、ボクサーおよびジャーマンシェパード品種は、あまり感受性ではない。糖尿病は、雄のイヌよりも雌においてより多く蔓延しており、別個の研究によれば、偏りは、53〜70%である。
【0111】
イヌ糖尿病は、1型糖尿病を含めたヒト自己免疫疾患と同様に、感受性対立遺伝子の複雑な相互作用および環境誘因によって生じる。イヌ糖尿病は、ヒト糖尿病と同様に、季節性のパターンを有し、11月〜1月の冬場の間に、7月〜9月の夏場の間の2倍の多数の症例が診断され、おそらくは、一般的な環境誘因を反映している。いくつかの遺伝子が、糖尿病感受性と関係しており、イヌ主要組織適合複合体、DLAの対立遺伝子において最強の関連が見られる。最初に報告された関連はハプロタイプDLA DRB1*009、DQA1*001、DQB1*008とのものであった。その後の530頭の糖尿病のイヌおよび>1,000頭の対照のDLA分類によって、糖尿病と3種のDLAハプロタイプ間に関連が見られ、DLA DRB1*009、DQA1*001、DQB1*008と最強の関連が見られた。ハプロタイプDLA DRB1*009、DQA1*001、DQB1*008は、糖尿病感受性品種(サモエド、ケアンテリア、チベタンテリア)に共通しているが、糖尿病耐性品種(ボクサー、ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバー)では稀である。DLA−DQA1*001が、イヌにおける甲状腺機能低下症と関連しているというエビデンスもある。対照的に、1種のDLA−DQハプロタイプ、DQA1*004/DQB1*013は、460頭の糖尿病のイヌの分析において大幅に提示が不足しており、耐性対立遺伝子を示す可能性がある。上記のように、一連の遺伝子研究によって、ヒトにおける1型糖尿病と関連しているいくつかの遺伝子座、例えば、ヒト白血球抗原(HLA)領域中のいくつかのもの、インスリン可変数タンデムリピート、PTPN22、CTLA4、IL−4およびIL−13が同定された。これらの遺伝子座のうち一部はまた、糖尿病のイヌのGWAS分析においても同定された。イヌ糖尿病の483の症例および869頭の対照の研究によって、37種のSNP対立遺伝子関連が同定され、13種は保護的であり、24種は感受性を高めた。感受性の増大と関連している遺伝子は、IFN−ガンマ(IFN−γ)、IL−10、IL−2ベータ(IL−2β)、IL−6、インスリン、PTPN22、IL−4およびTNF−アルファ(TNF−α)を含んでいた。イヌDMを発症するリスクの増大と関連しているサイトカインのほとんどが、Th2サブセットからのものであり、IL−4、IL−6およびIL−10が主なものである。IL−4、PTPN22、IL−6、インスリン、IGF2、TNF−アルファ(TNF−α)を含めたいくつかのその他の遺伝子は、保護的であった。しかし、個々のSNPは、品種間で可変であり、少数の例では、一部の品種において保護的であったSNPが、その他のものではリスクの増大と関連していた。この相違は、個々の品種の比較的小さい試料サイズを反映するものであり得る。また、イヌ糖尿病が、異なる品種において異なる病因論を有することもあり得る。
【0112】
歴史的に、イヌは、糖尿病病理の理解において、また治療戦略の試験において重要な役割を果たしてきた。1889年の実験によって、健常なイヌからの膵臓の除去は、多尿および多飲につながることが示され、膵臓は、その後にインスリンとして同定された「抗糖尿病誘発性因子」を分泌し、身体がグルコースを利用することを可能にするという結論につながった。1921年には、糖尿病のイヌは、インスリン療法の最初のレシピエントであった。自発的なNODマウスモデルが、実験薬戦略を試験するための中心であったが、イヌ糖尿病モデルは、より大きな動物モデルにおける薬物および送達システムの前臨床試験の機会を提供し得る。
【0113】
炎症性腸疾患(IBD)
炎症性腸疾患は、クローン病および潰瘍性大腸炎を含めた慢性炎症性消化管障害のカテゴリーである。潰瘍性大腸炎は、直腸を常に含み、結腸のその他の部分に及ぶこともある結腸の粘膜層の再発性の炎症である。クローン病は、消化管の任意の部分に影響を及ぼし得るが、症例の大部分は、末端回腸において始まる。潰瘍性大腸炎における炎症は、消化管の内側の粘膜層に制限されるが、クローン病は、腸壁全体に影響を及ぼし、繊維症、閉塞および瘻孔につながる場合もある。北米において報告された発症率は、潰瘍性大腸炎については1年あたり100,000人あたり2.2〜14.3症例、クローン病については1年あたり100,000人あたり3.1〜14.6症例の範囲である。900万の保険金請求の調査に基づいて、成人における潰瘍性大腸炎の有病率は、100,000人の集団あたり238人であり、クローン病の有病率は、100,000人たり201人である。これらの主要な炎症性腸疾患両方の発症率が、アジア、日本および南アメリカでは低く、欧州において、および米国においては、発症率は、より南の緯度において低下する。脊椎関節症、関連疾患の群(例えば、強直性脊椎炎、反応性および乾癬性脊椎関節炎、未分化型脊椎関節炎)が、炎症性腸疾患の頻繁な腸外徴候であり、報告された有病率は、クローン病および潰瘍性大腸炎の症例において、それぞれ45.7%および9.9%である。1,052人の潰瘍性大腸炎患者および2,571人の対照、欧州系のすべてから得たDNA試料の最近のゲノム規模の関連研究は、感受性を、BTNL2からHLA−DQB1に広がる領域およびIL23R遺伝子座と関係付けた。その他のゲノム研究によって、両方の主要な炎症性腸疾患と関連している遺伝子における幾分かの重複を示されている。クローン病は、NOD2およびATG16L1、細菌の細胞内プロセシングに影響を及ぼし得る2種の遺伝子における遺伝的変異と関連しているが、潰瘍性大腸炎はそうではない。クローン病および潰瘍性大腸炎は両方とも、IL−23Rをコードする遺伝子ならびにIL12B、STAT3およびNKX2−3遺伝子領域における変異と関連している。
【0114】
IBDは、ネコおよびイヌの両方における、一般的な消化障害である。イヌおよびネコIBDは、ウシにおけるヨーネ病よりもヒトIBDと、より多くの特徴を共有し、組織における細菌の証拠はほとんどなく、副腎皮質ステロイドおよびスルファサラジンなどの薬物に反応する。発症率は、雄および雌において同様であり、中年のイヌに発症ピークがある。この疾患のリスクの高い品種として、ボクサー、ジャーマンシェパード、ソフトコーテッドウィートンテリア、ロットワイラー、フレンチブルドッグ、ドーベルマンピンシェル、マスチフ、アラスカマラミュートおよびシャーペイが挙げられる。ヒトと同様に、イヌにおけるIBDの発症は、共生腸細菌叢に対する異常な腸反応によって生じると仮説が立てられている。IBDを有するイヌでは、TLR−2、−4および−9が上方制御されるので、Toll様受容体(TLR)が、最初の炎症反応の中心であり得、ヒトIBDの症例において述べられるTLR−4の活性化と似ている。IBDイヌは、健常なイヌとは異なる小腸細菌を有するので、同様に細菌叢の変化も決定的であり得る。同様のシフトが、ヒトIBD患者の腸細菌叢において述べられている。病理および自然免疫系の関与における類似性にも関わらず、イヌおよびヒトにおけるIBDに対する適応免疫応答においてはいくつかの相違がある。ヒトIBDでは、Th1リンパ球サブセットが優性であるが、イヌIBDでは、Th1およびTh2リンパ球の混合活性化がある。副腎皮質ステロイド(例えば、プレドニゾン)は、通常、IBDと診断されたネコの治療の最初の治療単位として投与される。副腎皮質ステロイドは、食事管理およびスルファサラジンが軽減を提供しない場合には、イヌにも使用される。スルファサラジン、5−A SA、メサラミンおよび関連化合物は、主に、大腸に限定される、IBDを有するイヌの好ましい治療選択肢であるが、これらの薬物は、涙の産生に影響を及ぼし得る。スルファサラジンおよび関連化合物は、ネコにとって極めて毒性であり得るサリチル酸塩を含み、したがって、ネコにとっては副腎皮質ステロイドが主な治療薬である。メトロニダゾール、抗生物質および抗炎症薬も、単独で、または副腎皮質ステロイドもしくはスルファサラジンのいずれかと組み合わせて使用できる。副腎皮質ステロイドが上手くいかない場合は、免疫抑制薬アザチオプリンおよびシクロホスファミドを使用してもよい。ヒトおよびイヌにおけるIBD間は類似しているが、不完全にしか理解されておらず、さらなる研究によって、両種のための実験的治療薬を試験する機会が提供され得る。
【0115】
アジソン病
ホルモンコルチゾールおよびアルドステロンの産生を不十分にさせる副腎に対する損傷は、原発性副腎不全症と呼ばれ、アジソン病としても知られている。100,000人毎に1〜4人に影響を及ぼす。続発性副腎不全症、アジソン病よりもかなりよく見られる状態は、下垂体腺によって、十分な副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を産生し、副腎を刺激して、コルチゾールを産生することができないことに起因する。アジソン病の症例の最大80%が、副腎皮質の自己免疫破壊によって引き起こされ、皮質の>90%が破壊されている場合に、ミネラルコルチコイド(アルデステロン(aldesterone))およびグルココルチコイド(コルチゾール)の欠乏を含めた副腎不全症につながる。アジソン病は、西欧の集団では稀である。その他の自己免疫疾患と同様に、特定の主要組織適合対立遺伝子、この場合には、HLA DRB1*04およびDQと強い関連を含む、多遺伝子性障害であり、その他の関連として、CTL−4、Cyp27B1、VDRの特定の対立遺伝子ならびにMIC−AおよびMIC−B遺伝子座が挙げられる。
【0116】
イヌの副腎皮質機能低下症は、ヒト状態と似ており、いくつかの品種で、1.5〜9%の範囲の頻度で生じる。ポヂュギースウォータードッグは、大きく影響を受ける品種の1種であり、1985年〜1996年の間の11,384頭のポヂュギースウォータードッグの分析によって、1.5%の発症率が示された。この品種における副腎皮質機能低下症は、病理および感受性との遺伝的関連の両方においてヒトアジソン病と似ている。ヒトHLA対立遺伝子DRB1*04およびDRB1*0301と類似の、およびヒト遺伝子座CTLA−4と類似の染色体領域上で2種の疾患関連遺伝子座が同定された。ノヴァスコシアダックトーリングレトリーバーもまた、アジソン病に対してリスクが高く、影響を受けるイヌおよび影響を受けないイヌの遺伝子型判定によって、7種の異なるハプロタイプが示され、罹患したイヌにおいてハプロタイプDLA−DRB1*01502/DQA*00601/DQB1*02301の発症率が上がっていた。この副腎障害を有するイヌはまた、感受性ハプロタイプにおいてホモ接合である可能性がより高く、ホモ接合のイヌは、より早く疾患を発症した。
【0117】
骨および関節障害
関節リウマチ(RA)
関節リウマチ(RA)は、主に、滑膜関節に影響を及ぼす慢性炎症性自己免疫疾患である。この障害は、人工軟骨破壊および関節のこわばりを伴う過剰の滑液および滑膜細胞の過剰増殖によって特徴付けられる。RAは、最も広まっている自己免疫疾患である。世界の人口のおよそ1%が苦しんでおり、男性においてよりも女性において発症率は3倍高い。発症は、最も頻繁には、40〜50歳の間に起こる。RAの遺伝的素因は、HLA−DRB1遺伝子座のいくつかの対立遺伝子、特に、白色人種ではHLA−DRB1*04サブタイプ:DRB1*0401、*0404、*0405および*0408ならびにその他の民族ではサブタイプDRB1*0101、*0102および*1001と関連している。すべてのRA関連HLA−DRB1対立遺伝子は、位置70〜74、第3の超可変領域:QKRAA(*0401)に関連アミノ酸配列をコードする。QRRAA(*0404、*0405、*0408、*0101、*0102)またはRRRAA(*1001)。この「共有されるエピトープ」は、白色人種RA患者の80〜90%の少なくとも一方のHLA−DRB1遺伝子座に生じる。
【0118】
イヌ関節炎は比較的よく見られ、報告された発症率は、6歳を超えるイヌでは65%もの高さである。これらの症例の最大90%が、変形性関節症であり、残りを関節リウマチが占める。RAは、トイおよび小さい品種において、一般に、5〜6歳の間で最もよく生じる。ヒト症例と同様に、感受性と主要組織適合複合体中の特定の遺伝子の間には強い関連性がある。あるゲノム研究では、61頭の、小関節多発性関節炎と臨床上診断されたイヌから得たDNA試料および425頭の対照から得たDNA試料を比較した。DLA−DRB1*002、DRB1*009およびDRB1*018を含めたいくつかのDLA−DRB1対立遺伝子が、RAのリスクの増大と関連していた。ヒトRA患者のほとんどのHLA−DRB1対立遺伝子の第3の超可変領域中に見られる保存されたアミノ酸モチーフ、QRRAA/RKRAAは、イヌRAと関連しているDLA−DRB1対立遺伝子においても記されていた。コルチコステロイド治療は、症例の約50%において臨床的緩解をもたらす。より重篤な症例では、緩解を誘導するためにシトキサンまたはイムランを投与する治療が施される。
【0119】
循環障害
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、別名、免疫媒介性溶血性貧血(IMHA)
赤血球の溶解によって引き起こされる貧血として定義される、多数の種類の溶血性貧血がある。鎌形赤血球貧血、サラセミア(Thallasemia)および遺伝性の球状赤血球症をはじめとするいくつかの形態は、遺伝性であり、赤血球構造の欠陥に起因する。対照的に、後天性溶血性貧血は、遺伝性ではなく、毒性化学物質および薬物に対する曝露、抗ウイルス剤(例えば、リバビリン)、物理的損傷、感染症および免疫障害から生じ得る。自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は、すべての溶血性貧血の半分超を占める。AIHAでは、自己抗体が、補体を固定し、赤血球を溶解し、ヘマトクリットを低下させ、貧血および脱力感を引き起こす。AIHAのエビデンスとして、赤血球破壊による、血清ビリルビン、乳酸デヒドロゲナーゼの上昇および血漿ハプトグロビンの減少、細胞喪失の代償としての循環網状赤血球レベルの上昇および骨髄における赤血球過形成が挙げられる。いくつかの症例では、AIHAは、別の根底にある疾患、例えば、全身性紅斑性狼瘡(SLE)または慢性リンパ性血病(CLL)と関連しており、進行した疾患を有するCLL患者のおよそ11%が、AIHAを発症する。治療レジメンは、自己免疫発作が、IgG抗体によって媒介されるか、IgM抗体によって媒介されるかどうかに基づいている。IgG関連AIHAの場合には、コルチゾンおよびその他の免疫抑制薬が推奨される。IgM自己抗体は、コルチゾンに対してあまり反応性ではなく、このアイソタイプによって媒介されるAIHAの形態は、赤血球との結合が低温で生じるので、寒冷凝集素疾患と呼ばれることもある。冬場における実験において起こり得るような、体温が37℃から28〜31℃に低下する場合に、この形態のAIHAでは、IgM抗体が、赤血球の表面上の糖タンパク質の多糖領域と(通常、I、iおよびPr抗原)と結合し得る。このような症例では、低温を避けることが推奨され、赤血球産生を後押しするよう葉酸栄養補助食品が投与される。
【0120】
自己免疫性溶血性貧血は、最もよく見られるイヌ免疫媒介性疾患であるが、ネコでは珍しい。臨床兆候として、脱力感、嗜眠、食欲不振症、心拍数および呼吸の増加、蒼白色の粘膜が挙げられ、より重篤な症例では、発熱および黄疸(jaundice)(黄疸(icterus))、ビリルビン、ヘモグロビンの分解生成物の増加による歯肉、眼および皮膚の黄変が挙げられる。イヌAIHAにおける標的膜抗原として、陰イオン交換分子(バンド3)、細胞骨格分子スペクトリンおよび一連の膜糖タンパク質(グリコホリン)が挙げられる。ヒトAIHAと同様に、標準診断は、クームス試験に基づいた、赤血球と結合している抗体の検出である。症例は、かたまって生じ、発症は季節性であり得る。一研究では、症例の40%が5月および6月の間に診断され、可能性があるウイルス病因論を示唆した。発症年齢の中央値は、6.4歳であり、雌はより多く冒された。急性型のAIHAは、コッカースパニエルと品種関連性を有する。その他の自己免疫障害と同様に、AIHAに対する感受性は、イヌ組織適合複合体中にコードされる特定の対立遺伝子、DLAと関連している。108頭のクームス陽性IMHAを有するイヌの遺伝子型判定によって、IMHAを有するイヌで増大した2種のDLAハプロタイプ:DLA DRB1*00601、DQA1*005011、DQB1*00301およびDLA DRB1*015、DQA1*00601、DQB1*00301が同定された。最も冒されたイヌは、その寿命の残りの間、副腎皮質ステロイド、ほとんどの場合、プレドニゾンで維持される。いくつかの症例では、治療レジメンにシトキサン(シクロホスファミド)、シクロスポランAまたはイムラン(アザチオプリン)が加えられる場合もあるが、一部の研究は、これらの補助的薬物が付加価値を全く有さないと示唆する。ステロイド用量および副作用を低減するために、ダナゾール、アザチオプリン(aziothioprine)、シクロホスファミドまたはシクロスポリンAをはじめとするさまざまなその他の薬物が、グルココルチコイドと同時投与される場合もある。
【0121】
免疫介在性血小板減少症(IMT)
血小板減少症は、血小板数の低下であり、免疫介在性血小板減少症(IMT)では、これは、細網内皮系(脾臓、骨髄および肝臓)内の抗体および補体媒介性の血小板の破壊の結果である。
【0122】
IMTは、イヌでは比較的よく見られるが、ネコでは珍しい。症状として、皮膚および粘膜の出血、挫傷、外傷、手術または発情後の過剰の出血ならびに尿または糞便中の血液が挙げられる。イヌにおけるすべての血小板減少症の症例のおよそ70%が、明らかに、自己免疫起源のものである。イヌITPにおける標的膜抗原は、血小板膜糖タンパク質GPIIbおよびGP111aである。IMTの症例は、単独で起こる場合も、免疫媒介性溶血性貧血または全身性紅斑性狼瘡と組み合わせて起こる場合もある。ほとんどの症例は、中年のイヌで起こり、雄よりも雌がより多く冒される。診断は、イヌIMTの決定的な検査がないことによって妨害される。その他のイヌ自己免疫障害と同様に、通常、高用量の免疫抑制副腎皮質ステロイド、特に、プレドニゾンを用いて治療される。無応答性の症例はまた、シクロホスファミドおよびビンクリスチンを用いて治療され、後者の薬物は、血小板新生を増強し、ならびに、マクロファージによる、抗体によってコートされた血小板の食作用を抑制する。
【0123】
免疫媒介性好中球減少症(IMN)
免疫媒介性好中球減少症(IMN)は、自己免疫好中球減少症としても知られ、より一般的な免疫血小板減少性紫斑病、小児における好中球減少症と似ている。その他の自己免疫疾患と同様に、病因論は未知であるが、いくつかの研究によって、パルボウイルスB19感染との関連が示唆されている。自己免疫応答は、好中球上の細胞表面抗原と結合している抗体(通常、IgG)によって媒介される。Fc−ガンマ−IIIbまたはFcγIIIb(CD16b)の好中球グリコシル化アイソフォーム、グリコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidlyinositol)アンカーを介して膜につながれている糖タンパク質が共通の標的である。抗体はまた、ヒト好中球抗原(HNA)、特に、HNA−1に対して向けられることが多い。いくつかの臨床症例では、少数の成熟した好中球が検出可能であり、これは、免疫攻撃が、骨髄ではなく末梢循環において生じることを示唆する。顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の血清レベルは正常であるが、ICAM−1、TNF−aおよびIL−1bのレベルは、好中球数と逆相関し、これは、低度の炎症を示唆する。IMNは、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、関節リウマチおよびフェルティ症候群をはじめとする全身の免疫媒介性障害と関連していることが多い。SLE患者の半数超がまた、好中球減少症も有し、さらに多くが検出可能な好中球と結合している抗体を有する。
【0124】
IMNは、イヌおよびネコの両方において比較的珍しく、イヌにおける好中球減少症のすべての症例の<1%を占める。1983年に最初に実証され、その後、文献にはわずかな報告しか現れていない。冒された動物は、食欲不振症、発熱および嗜眠を伴って存在し得るが、確定診断には、抗好中球抗体の実証を必要とし、このような試験は容易には利用できない。免疫抑制用量のプレドニゾンなどの副腎皮質ステロイドは、通常、48〜72時間内に循環好中球数の迅速なリバウンドを生じさせる。IMNを有するイヌおよびヒトのおよそ25%がまた、血小板減少症も有する。
【0125】
複数の全身性障害
全身性紅斑性狼瘡(SLE)
全身性紅斑性狼瘡(SLE)は、抗核抗体(ANA)、循環免疫複合体および活性化された補体によって特徴付けられる慢性自己免疫疾患である。その他の特徴として、CR1発現の減少、Fc受容体機能の欠陥および初期補体成分(例えば、C4A)の欠乏が挙げられる。SLEは、複数臓器障害であり、広範な血管病変を引き起こし、関節、皮膚、腎臓、脳、肺、心臓、漿膜および消化管に影響を及ぼす可能性がある。米国におけるSLEの報告された年間発症率は、低リスク群から高リスク群において、100,000人の集団あたり6〜35新規症例で変わる。北欧では、発症率は低く、100,000人あたりおよそ40人である。ヨーロッパ系の子孫ではない個体は、SLEのより高い頻度およびより高い重篤度を有し得、アフロカリブ族の子孫の100,000個体あたり159人もの高い範囲である。米国におけるSLEの発症率は、1995年から1974年の20年にわたって、1.0から7.6に増大したが、この頻度の増大が、診断の正確度の改善、人口動態の変化、環境変化またはこれらおよびその他の因子の組合せによるかどうかは明らかではない。
【0126】
米国におけるSLEの有病率の推定値も、250,000〜500,000総症例数で変わるが、Lupus Foundation of Americaによって委託された電話調査に基づいて100〜200万とも高く推定されている。有病率の地域差は、環境および/または人種差の影響を反映し得る。例えば、広いバーミンガム、アラバマ州大都市圏における女性の調査によって100,000人あたり500人の有病率が報告された。SLEは、出産年齢の女性に偏って影響し、SLE患者の60%が、人生の思春期と40代の間の発症を経験し、この年齢範囲内で、女性対男性の比は、9:1であり、若者および高齢者では、比は3:1である。
【0127】
SLEの病因論は未知であるが、家族歴、遺伝子解析および地理的分布に基づいて、その開始は、遺伝的素因、性ホルモンおよび環境誘因(複数可)によって影響を受けると思われる。一卵性双生児におけるSLEの出現は、遺伝性成分のエビデンスであるが、25〜60%という中程度の一致率は、その他の因子もこの障害の一因であることを示唆する。その他の自己免疫障害と同様に、最強の遺伝的関連は、ヒト主要組織適合複合体、HLAにおいてコードされる遺伝子とである。SLE患者は統計的に増大した百分率のHLA−DR2およびHLA−DR3対立遺伝子を有し、拡張されたハプロタイプHLA−A1、B8、DR3の頻度の増大もある。SLEと関連しているリスク変異体として言及されるその他の遺伝子として、IRF5、PTPN22、STAT4、ITGAM.BLK、TNFSF4およびBANK1が挙げられる。
【0128】
SLEの診断は、いくつかの課題を提起する。症状および冒される臓器障害は可変であり、SLEの症例の80%が皮膚および関節に影響を及ぼし、90%が、筋骨格系に影響を及ぼし、80%が皮膚に影響を及ぼし、多くの場合、鼻梁から胸にわたる特徴的なチョウの形の発疹を含み、50%が脱毛症を含み、50%が胸膜、心膜または腹膜の炎症性漿膜炎を有し、10%が、溶血性貧血を有し、50%が、症例の25%におけるてんかんをはじめとする精神神経合併症を有する。血清中のANAの検出は、SLEを示し得るが、患者の5〜10%は血清陰性である。さらに、正常な、健常な成人女性の25〜40%が、SLEまたはその他の結合組織障害を発症せずに、一時的にANA陽性であり得る。したがって、適切な診断には、決定的な同定および治療を遅らせる(slow)試験を支援するパネルが必要である。SLEの症状は変わるので、治療もそのように行う。メトトレキサート(methotrexae)およびアザチオプリンをはじめとする疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDS)は、紅斑の頻度を低下させる。ヒドロキシクロロキン、FDA承認抗マラリア薬も投与される。重篤な糸球体腎炎には、患者はシクロホスファミドを処方される。広範な、深刻な臓器障害にも関わらず、予後は最近数十年で向上し、診断されたSLE患者の10年生存は現在80〜90%を超えている。
【0129】
ヒト自己免疫障害と同様に、イヌSLEは、複数臓器を標的とし、遺伝的素因を示す。ノヴァスコシアダックトーリングレトリーバーは、免疫媒介性リウマチ疾患(IMRD)およびステロイド反応性髄膜炎関節炎(SRMA)を含めたSLE関連疾患になりやすい。IMRD症状は、持続性の跛行、休息後のこわばりおよび関節痛をはじめとするヒトSLEにおけるものと似ている。IMRDに苦しむイヌの大部分は、抗核自己抗体(ANA)反応性を有する。IMRD(51症例)、SRMA(49症例)を有するイヌおよび健常対照(78症例)の比較配列決定によって、DLAリスクハプロタイプDRB1*00601/DQA1*005011/DQB1*02001のホモ接合性が、その他の遺伝子型に対してIMRDのリスクを高めること(OR=4.9;ANA陽性IMRD、OR=7.2)が示された。リスクハプロタイプは、ヒトHLA−DRB1対立遺伝子関節リウマチの共有エピトープとしてこれまでに同定されている5個のアミノ酸のエピトープRARAAを含有する。
【0130】
円板状ループスは、瘢痕化皮膚疾患および通常ANAを欠く患者または任意のその他の自己抗体によって特徴付けられるSLEのサブセットである。症状は、通常、限局化されたままであり、症例の約10%のみにおいて全身疾患に広がる。イヌ相当物、円板状紅斑性狼瘡は、全身性ループスの良性の形態と考えられる。主に顔面の皮膚炎であり、コリー、ジャーマンシェパード、シェットランドシープドッグ、ジャーマンショートヘアーポインター、シベリアンハスキー、アキタ、チャウチャウ、ブリタニースパニエルおよびシェットランドシープドッグにおいて最もよく見られる。円板状紅斑性狼瘡はまた、性別の不均衡を示し、症例の60%が雌においてである。
【0131】
さらなる自己免疫および神経変性性疾患は、種々の刊行物において教示されている。例えば、Lewis Rら「Autoimmune Diseases In Domestic Animals」、Annals of the New York Academy of Sciences、124巻 Issue Autoimmunity−Experimental and Clinical Aspects:パートI、178〜200頁(オンラインで公開:2006年12月16日)。
【0132】
感染性疾患
感染性疾患は、コンパニオンアニマルにおいて観察される別のクラスの自発的に生じる疾患である。自発的に生じる感染性疾患を有するイヌなどのコンパニオンアニマルの、種々の感染性疾患を研究するための動物モデルとしての使用は、いくつかの理由で有益である。一態様では、感染性病原体のさらなる抗生物質耐性株の作製が最小化される、および/または避けられる。別の態様では、望ましくない特徴を有する突然変異感染性病原体、例えば、ネズミチフス菌(Salmonella enterica Serovar Typhimurium)の「スーパーシェッダー(supershedder)」株の作製が最小化される、および/または避けられる。
【0133】
コンパニオンアニマルにおいて観察される自発的に生じる感染性疾患として、それだけには限らないが、インフルエンザ、敗血症(例えば、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)敗血症)、細菌感染症(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、その他のブドウ球菌感染症、大腸菌および腸球菌)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、小児リーシュマニア、ブルセラ症およびコクシジウム症が挙げられる。
【0134】
抗原、病原体およびその一部などの感染性疾患の1種または複数の態様を、自発的に生じる感染性疾患を有するコンパニオンアニマルにおいて同時に調べ、感染性疾患と戦うための治療薬または診断薬(例えば、画像処理技術など)の設計のための有益な情報を提供することができる。
【0135】
その他の疾患/病状
本発明はまた、イヌにおいて生じる遺伝性の遺伝病のいずれかを研究するためのプラットフォーム技術を提供する。例えば、イヌを含めた種々の動物における遺伝性疾患および遺伝性形質を載せている、<www.omia.angis.org.au>で動物におけるオンラインメンデル性遺伝(Online Mendelian Inheritance in Animal)を参照のこと。イヌは、およそ450種の遺伝病を経験する(Ostranderら、Am J Hum Genet 61巻:475〜480頁(1997年)。本発明のイヌモデル系を使用することで、ヒトにおける同じ疾患または病状に類似するこれらの450種のイヌ遺伝病のうちおよそ220種において種々の様式(例えば、複数の抗原)を研究できる。このような遺伝病の例として、それだけには限らないが、腎症、腎臓疾患、ナルコレプシー、網膜変性症、血友病および筋ジストロフィーが挙げられる。
【0136】
別の態様では、本発明は、アレルギー、過敏症または喘息の1種または複数の態様の試験のためのプラットフォーム技術として、自発的なアレルギー、過敏症(遅延型過敏症を含む)および喘息のイヌまたはネコのようなコンパニオンアニマルモデル系を提供する。一実施形態では、ネコは、特発性喘息を自発的に発症する。自発的に発症した喘息のネコモデルは、そのようなものとして、喘息発症、進行および再発の根底にある生物学的機序(例えば、免疫細胞の関与、気道閉塞)を調査するために有用である。喘息の生物学的基盤を理解することは、喘息の症状を寛解し得る治療およびその他の薬剤を開発するために使用できる。
【0137】
本発明の別の態様では、本明細書に提供されるプラットフォーム技術は、寛容化ワクチンおよびその他の寛容原に適用される。例えば、食物アレルギーは、学校、家および職場の日常の状況においてよく見られる。ピーナッツなどのナッツに対する極度の過敏症を、本明細書に記載されるプラットフォーム技術を使用して調査してもよい。種々の食品(ナッツ、卵、乳製品など)に対する寛容化を、コンパニオンアニマルモデル系において、単一のプラットフォームまたはプラットフォームの組合せ(例えば、複数の食物アレルギー抗原)で調査できる。
【0138】
同様に、本発明は、神経疾患および可能性ある治療薬または診断薬を調査するためのイヌまたはネコなどのコンパニオンアニマルモデル系を提供する。例えば、種々の神経疾患または状態の発病が、自発的に生じる神経疾患が生じるコンパニオンアニマルモデル系において観察される。1つの限定されない例として、イヌ脳(例えば、ビーグル)におけるベータ−アミロイド蓄積がある。ベータ−アミロイド蓄積は、アルツハイマー病の発症および/または進行に関与している。本発明のプラットフォーム技術が考慮されるその他の神経疾患または状態として、それだけには限らないが、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、認知機能障害、動脈瘤、変性性脊髄症、重症筋無力症、振戦およびてんかんが挙げられる。
【0139】
機械可読ストレージ媒体
コンパニオンアニマルモデル系を使用することによって作製されたデータを、機械可読媒体で保存できる。このようなデータは、生物学的応答、投与される薬剤に対する反応の生理学的パラメータ、同定される抗原(複数可)、投与される薬剤の構造、抗原または免疫原の構造(核酸およびアミノ酸両方の配列を含む)についての情報を含み得る。この情報は、機械可読媒体で保存でき、さらに利用して、イヌモデル系において望ましい免疫応答を誘発した公知の薬剤と同様の構造を有する新規薬剤を作製できる。このようにして、ヒトの治療において使用する可能性のために、望ましい生物学的効果を有する新規薬剤が同定される。
【0140】
本発明の別の態様では、機械可読ストレージ媒体を、教育上の目的、例えば、教材またはマニュアルのために使用できる。別の態様では、本発明は、個人、例えば、科学者、慈善家および獣医間の協力を促進することを考慮する。このような協力は、自発的に生じる疾患のコンパニオンアニマルモデル系の使用によって作製されたデータの流布によって発展させることができる。この流布は、有形媒体、例えば、機械可読ストレージ媒体でのこのデータの分布によって達成できる。
【0141】
したがって、本発明は、前記データを使用するために使用説明書を用いてプログラムされた機械を使用する場合には、上に記載されている本発明の分子または分子複合体のいずれかのグラフィック3次元描写を示す、機械可読データを用いて符号化されたデータ保存物質を含む、機械可読ストレージ媒体をさらに提供する。好ましい実施形態では、機械可読データストレージ媒体は、前記データを使用するために使用説明書を用いてプログラムされた機械を使用する場合には、分子または分子複合体のグラフィック3次元描写を示す、機械可読データを用いて符号化されたデータ保存物質を含む。
【0142】
例えば、データストレージ媒体を読み取るためのシステムは、中央処理装置(「CPU」)、例えば、RAM(ランダムアクセスメモリ)または「コア」メモリ、マスストレージメモリ(例えば、1つまたは複数のディスクドライブまたはCD−ROMドライブ)であり得る作業メモリ、1つまたは複数のディスプレイデバイス(例えば、ブラウン管(「CRT」)ディスプレイ、発光ダイオード(「LED」)ディスプレイ、液晶ディスプレイ(「LCD」)、電子発光ディスプレイ、真空蛍光ディスプレイ、電界放出ディスプレイ(「FED」)、プラズマディスプレイ、プロジェクションパネルなど)、1つまたは複数のユーザー入力デバイス(例えば、キーボード、マイクロフォン、マウス、タッチスクリーンなど)、1つまたは複数の入力ラインおよび1つまたは複数の出力ラインを含み、そのすべてが、従来の双方向システムバスによって相互に連結されている、コンピュータを含み得る。このシステムは、スタンドアロンのコンピュータであってもよく、その他のシステム(例えば、コンピュータ、ホスト、サーバーなど)に対してネットワーク化されていてもよい(例えば、ローカルエリアネットワーク、広域ネットワーク、イントラネット、エクストラネットまたはインターネットによって)。システムはまた、家庭用電化製品および電気器具などのさらなるコンピュータ制御されたデバイスを含み得る。これによって、より良好な結果のために、共同努力がプールされることが可能となる。
【0143】
入力ハードウェアは、入力ラインによってコンピュータとつながれていてもよいし、種々の方法で実行されてもよい。本発明の機械可読データは、電話線によって接続されたモデムもしくは複数のモデムまたは専用のデータラインの使用によって入力してもよい。あるいは、またはさらに、入力ハードウェアは、CD−ROMデバイスまたはディスクデバイスを含み得る。ディスプレイ端末とともに、キーボードを入力デバイスとして使用してもよい。
【0144】
出力ハードウェアは、出力ラインによってコンピュータとつながれていてもよいし、同様に、従来の装置によって実行されてもよい。例として、出力ハードウェアは、QUANTAなどのプログラムを使用して本発明の活性部位のグラフィック描写をディスプレイするためのディスプレイデバイスを含み得る。出力ハードウェアはまた、ハードコピー出力が生成され得るようなプリンター、またはシステム出力を後の使用のために保存するためのディスクドライブを含み得る。
【0145】
実施中は、CPUが、種々の入力および出力デバイスの使用を調整し、マスストレージデバイスからのデータアクセスを調整し、作業メモリへアクセスし、作業メモリからアクセスされ、データ処理ステップのシーケンスを決定する。いくつかのプログラムを使用して、本発明の機械可読データを処理してもよい。このようなプログラムは、上に記載される薬物発見のコンピュータによる方法に関連して論じられている。ハードウェアシステムのコンポーネントへの言及は、必要に応じて、データストレージ媒体の以下の説明のいたるところに含まれる。
【0146】
本発明において有用な機械可読ストレージデバイスとして、それだけには限らないが、磁気デバイス、電気デバイス、光学デバイスおよびそれらの組合せが挙げられる。このようなデータストレージデバイスの例として、それだけには限らないが、ハードディスクデバイス、CDデバイス、デジタルビデオディスクデバイス、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、リムーバブルハードディスクデバイス、磁気光学ディスクデバイス、磁気テープデバイス、フラッシュメモリデバイス、バブルメモリ装置、ホログラフィックストレージデバイスおよび任意のその他のマスストレージ周辺デバイスが挙げられる。当然のことながら、これらのストレージデバイスが、必要に応じて、ハードウェア(例えば、ドライブ、コントローラ、電源など)を含む。これらのデバイスは、データの保存を可能にするために、必要なハードウェア(例えば、ドライブ、コントローラ、電源など)ならびに任意の必要な媒体(例えば、ディスク、フラッシュカードなど)を含むことを理解すべきである。
【0147】
以下の実施例は、単に例示目的で提供されるものであって、決して、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0148】
(実施例1)
自発的に生じる疾患の動物モデルにおいて使用するための送達ビヒクルの調製
選択的標的法を可能にする分子特性もしくは物理的特性またはバイオマーカー特性を使用することによって、正常細胞の代わりに癌細胞を選択的に探し出す送達ビヒクルを調製する。この実施例では、送達ビヒクルは、リポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子である。リポソームは、帯電していてもよく(例えば、カチオン性)または帯電していなくてもよい。これらのリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子は、受容体またはリガンドまたはバイオマーカーと伴に、また、伴わずに作製する。
【0149】
また、1種または複数の腫瘍退縮ウイルス(例えば、「Viral Therapy of Cancer」、Harrington、Vile and Pandha共同編集者、Wiley Publishing、2008年に論じられる腫瘍退縮ウイルスのいずれか)を保持する、リポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子を作製する。免疫細胞または走化性物質または免疫モジュレーターと伴に、またはそれらを伴わずに、プロドラッグおよびRNAi標的を保持するその他のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子を作製する。
【0150】
リポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子中にプロドラッグを組み込み、自発的に生じる疾患を有する動物において試験するために使用する。生成物の限定されない例として、癌治療薬およびその他の癌のための薬物がある。同様に、RNAi標的も、リポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子中に組み込む。RNAi(複数可)は、RNAi標的、癌原遺伝子および癌遺伝子には、癌原遺伝子および癌遺伝子の活性化をオフにし、遮断し、または低減するのに役立つ。RNAi(複数可)は、腫瘍抑制因子には、腫瘍抑制因子の活性をオンにし、または増大するためにアゴニストとして役立つ。
【0151】
本実施例のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子はまた、サイトカイン、ケモカイン、エキソソーム(肥満細胞、TおよびBリンパ球、樹状細胞、血小板などの種々の免疫細胞によって分泌される小粒子)をはじめとする免疫モジュレーターまたは免疫細胞の分化/成熟/クローン増殖を促進する免疫因子(例えば、CTLA−4)とともにパッケージする。この実施例のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子中に組み込まれる免疫モジュレーターはまた、免疫抑制細胞(例えば、T調節性細胞またはMDSC)を標的とし、癌免疫療法を増強し得る。
【0152】
この実施例のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子はまた、エピジェネティクス、例えば、メチル化、プレニル化、アセチル化および脱アセチル化(例えば、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)およびヒストンデアセチラーゼ(deaceytlases)(HDAC))、クロマチン修飾、X−不活性化および刷り込みに影響を及ぼす因子とともにパッケージする。
【0153】
この実施例のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子は、これらの送達ビヒクルをより有効にするのに役立つ種々の分子特性を用いて設計する。癌抗原およびその他の種類のバイオマーカー(代謝マーカー)は、分子特性の例である。癌抗原に関するより詳細については実施例3を参照のこと。別の分子特性は、リガンド結合である。結合のための適当なリガンドを使用することによって前転移ニッチが標的とされる。同様に、転移ニッチも標的とされる。特定の種類の癌には、いくつかのマーカーを使用する。例えば、膵臓癌を標的とするにはAxl受容体を使用するが、これは、>50%が転移性膵臓癌において発現されるからである。Cancer Biol Ther.8巻(7号):618〜26頁(2009年)。代謝マーカーの一例として、神経膠芽腫におけるcAMP治療の際に量が変化する、以前よりN−結合型の糖ペプチドがある。Proteomics 9巻(3号):535〜49頁(2009年)。
【0154】
この実施例のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子はまた、種々の物理的特性を使用して設計する。腫瘍組織は、非腫瘍組織とは異なる物理的勾配を有する。腫瘍対非腫瘍組織の圧力勾配は、当業者に公知の標準技術によって測定する。腫瘍の圧力勾配に従って、腫瘍および身体の腫瘍保有領域を優先的に標的とするための、上記のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子を作製する。
【0155】
(実施例2)
薬剤(複数可)の送達のタイミングおよび投薬
この実施例では、均一なまたは不均一なイヌ集団のコホートを自身の対照として使用する。調査下での1種または複数の薬剤の投薬は、用量間で約1週間である。癌治療および免疫モジュレーター間の送達の順序を変え、生物学的応答を測定および/またはモニタリングする。イヌの1群では、癌治療を、最初に、次いで、免疫モジュレーター(複数可)を投与する。別のイヌの群では、免疫モジュレーター(複数可)を、最初に、次いで、癌治療を投与する。
【0156】
別の動物の群では、走化性物質を伴う、または伴わない免疫モジュレーターの送達の順序を切り換え、次いで、生物学的応答を測定する。
【0157】
(実施例3)
イヌおよび癌抗原/バイオマーカー
トランスレーショナル研究には、複数の癌抗原および/またはバイオマーカーが、互いの種々の組合せで使用される。骨肉腫については、調べられる癌抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、モノクローナル抗体TP−1およびTP−3(ヒト骨肉腫の細胞上で発現される抗原を検出する)、erbB−2(ヒト上皮増殖因子受容体2/neu)癌原遺伝子、ビメンチン、オステオポンチン、PCNA、p53、MMP−2およびMMP−9によって結合される抗原が挙げられる。
【0158】
リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫)については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、CD3抗原(J Vet Diagn Invest 5巻:616〜620頁、1993年)、T200(リンパ球分化抗原の相同体)(Can J Vet Res. 51巻(1号):89〜94頁、1987年)およびイヌリンパ腫モノクローナル抗体231によって結合される抗原(Cancer Therapy、7巻、59〜62頁、2009年)が挙げられる。
【0159】
血管肉腫については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、c−kit、CD34、CD133、CD45(Exp Hematol.、34巻(7号):870〜8頁、2006年)、因子VIII関連抗原、ICAM−1、αvβ3インテグリン(Research in Veterinary Science、81巻(1号):76〜86頁、2006年)、VEGF受容体1および2、CD31、CD146およびαvβ3インテグリン(Neoplasia、6巻(2号):106〜116頁、2004年)が挙げられる。
【0160】
乳癌については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、SiSo細胞上に発現される受容体結合性癌抗原(RCAS1)(Journal of Veterinary Medical Science、6巻(6号):651〜658頁、2004年)、シアリルルイスXおよびT/Tn(Vet Pathol 46巻:222〜226頁、(2009年)が挙げられる。
【0161】
精巣癌については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、増殖細胞核抗原(PCNA)(Journal of Comparative Pathology、113巻(4号):301〜313頁、1995年)、GATA−4(セルトリ細胞において発現され、ライディッヒ(間質性)細胞ではあまりよく見られないる転写因子)(Veterinary pathology、doi:10.1354/vp.08−VP−0287−R−BC、2009年)、インヒビン−アルファおよびビメンチン(J.Vet.Sci.、10巻(1号)、1〜7頁、2009年)が挙げられる。
【0162】
肥満細胞癌については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、CD117(BMC Vet Res.3巻:19、2007年)、銀で染色される染色体核小体形成体領域(AgNOR)および抗増殖細胞核抗原(PCNA)(Veterinary Pathology、31巻、6号、637〜647頁、1994年)が挙げられる。
【0163】
膀胱癌については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、V−TBAまたは尿中腫瘍膀胱抗原(Am J Vet Res. 64巻(8号):1017〜20頁、2003年)および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が挙げられる。
【0164】
前立腺癌については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、前立腺ホスファチジン酸(phosphatic acid)抗原、前立腺特異的抗原(PSA)、前立腺特異的膜抗原(PMSA)および上皮Na、K−ATPアーゼ発現の下方制御(Cancer Cell Int.3巻:8号、2003年)が挙げられる。
【0165】
黒色腫については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、マウスモノクローナル抗体IBF9によって認識されるイヌ黒色腫抗原(Am J Vet Res.58巻(1号):46〜52頁、1997年)、S100、ヒトメラノソーム特異的抗原(HMSA)1および5、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、ビメンチンおよびIBF−9(http://www.vetscite.org/publish/articles/000038/index.html)が挙げられる。
【0166】
白血病については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、TCR Vβ遺伝子の再配列(例えば、7種の別個のイヌTCR Vβ遺伝子の検出)(Veterinary Immunology and Immunopathology、69巻、2〜4号、113〜119頁、1999年)が挙げられる。
【0167】
肺癌腫については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、増殖細胞核抗原(PCNA)およびKi−67(MIB1)タンパク質(Journal of Comparative Pathology、120巻(4号):321〜332頁、1999年)が挙げられる。
【0168】
(実施例4)
慢性炎症と関連している癌
種々の病状および慢性炎症の疾患進行を研究するために、自発的に生じる慢性炎症を有するイヌおよびネコが使用される。この情報が、慢性炎症を有するヒトを助けること、ならびに、慢性炎症の症状を軽減してイヌおよびネコを助けることにトランスレートされる。理論に束縛されるものではないが、より多くの慢性炎症を発生させるようフィードバックするループを中断することが、癌の発生を減少させ、ある場合には、防ぎ、または遅延するのに役立ち得る。調べられる慢性炎症の特徴として、IL−17の役割および効果および骨髄由来抑制細胞(MDSC)がある。
【0169】
一実験では、自発的に生じる炎症を有するイヌおよびネコなどのコンパニオンアニマルが、炎症の拡大と関連している癌の低減が見られるかどうかを調べるために使用されるCox−2阻害剤を用いて試験されている。別の実験では、これらの動物において、炎症について、リポソームおよびナノ粒子を、慢性炎症を有する組織へ標的とするのに必要なケモカイン勾配およびその他の勾配が試験されている。(Journal of Experimental Medicine、181巻、1179〜1186頁、1995年)。サーベイランスにとって有益であるその他の種類の免疫細胞、例えば、CIK細胞、NKG2DおよびNKT細胞および自然免疫細胞(例えば、ガンマデルタT細胞)も同様にモニタリングされている。
【0170】
別の実験では、自発的に生じる炎症性筋疾患を有するイヌが、ヒト筋炎のためのトランスレーショナルモデルに使用されている(Veterinary Immunology and Immunopathology、113巻(1〜2):200〜214頁、2006年)。
【0171】
(実施例5)
変性性疾患
ヒトにおける種々の種類の同様の神経変性性疾患が研究するために、天然に存在する神経変性性疾患を有するイヌなどの動物が使用される。種々の疾状および/または筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルーゲーリック病)の進行を研究するために、イヌ変性性脊髄症を有するイヌが使用される。神経学的状態の進行を停止するための、またはその状態を改善するための候補である種々の薬剤を、イヌ変性性脊髄症を有するイヌに投与し、生理学的効果についてモニタリングして情報を得ることができ、これを、ALSを有するヒト身体が、同様の薬剤に対してどのように反応するかにトランスレートできる。
【0172】
神経変性性疾患についてのトランスレーショナル情報を得るための別の実験では、アルツハイマー病のトランスレーショナルモデルとしてヒト型β−アミロイドを自発的に蓄積するイヌが使用される(J.Neuroscience、28巻(14号):3555〜3566頁、2008年)。
【0173】
その他の実験では、生物学的経路および治療薬を調べるためのヒトてんかんまたはパーキンソン病のトランスレーショナルモデルとして、てんかんまたはパーキンソン病を有するイヌが使用される。
【0174】
(実施例6)
非ホジキンリンパ腫のイヌモデルにおける腫瘍ワクチン反応を増強するための骨髄抑制細胞枯渇
この実施例は、実施例の最後の刊行物の一覧に対応する番号を使用することによって刊行物に対する参照を含有する。この実施例の全体的な目標は、既存の癌ワクチンに対する免疫応答を増強するためにMSC枯渇を利用することによって、より有効な治療的癌ワクチンを開発することである。現在の腫瘍ワクチンの成功率は、ワクチン設計に向けられた多大な量の努力にも関わらず、低いままである。現在の癌ワクチンの相対的な効果のなさは、一部は、抗腫瘍免疫を強く抑制するだけでなく、ワクチンに対する免疫応答を一般に抑制し得る骨髄抑制細胞(MSC)の免疫抑制特性に起因する。予備研究によって、リポソームクロドロネート(LC)を使用するMSCの除去が、自発的なT細胞媒介性抗腫瘍免疫を誘発し得ることが示されている。さらに、予備研究によって、MSC枯渇が、腫瘍を有さない動物においてワクチンに対する免疫応答を増大させ得ることも示されている。したがって、この実施例は、腫瘍ワクチン接種後の抗腫瘍免疫の生成にMSC枯渇がどのように影響を及ぼすかをマウスおよびイヌ腫瘍モデルの両方を使用して詳述する。次いで、非ホジキンリンパ腫(NHL)の自発的なイヌモデルを使用して、組み合わせたMSC枯渇/腫瘍ワクチン接種アプローチが、最小残存腫瘍量を低減することにおいて腫瘍ワクチン接種単独よりも有効であるかどうかという問題を調べる。
【0175】
目的:マウス腫瘍モデルを使用して、腫瘍ワクチン接種に対する免疫応答を増強するためのMSC枯渇の最適のタイミングを調べること。非結合仮説は、MSCの枯渇が、ワクチン接種後ほどなく、ワクチン接種に対するT細胞応答を大幅に増強し、大幅に増強された抗腫瘍活性を引き起こすということである。
【0176】
癌ワクチンおよびNHLの背景および理論的根拠
非ホジキンリンパ腫(NHL)は、ワクチン免疫療法の第一の標的と考えられてきたヒトの重要な腫瘍であるが、これは、腫瘍細胞は各々、独特の腫瘍抗原(すなわち、イディオタイプ表面免疫グロブリン分子)を発現するからである。NHLのほとんどの形態は、化学療法を用いる治療に対して比較的不応性であり、罹患患者には、通常、短い生存期間しかない。したがって、NHLのためのいくつかの腫瘍ワクチンアプローチが考案されてきた(1〜5)。ほとんどのNHLワクチンは、イディオタイプ抗原受容体を、免疫化のための標的抗原として利用してきた。NHL患者では、多数のワクチン研究が実施されており、3つのNHL研究が第III相臨床試験を完了するまでに進んでいる(5、6)。残念ながら、有望な予備結果にも関わらず、今までのところ完了した第III相試験の各々は、もともとの研究のエンドポイントを達成できなかった(5)。ワクチン試験失敗の理由は、明らかではないが、ワクチン設計、不十分なワクチンの効力または患者組み入れ基準と関連している可能性がある。
【0177】
大きな臨床成功がないにも関わらず、過去20年にわたって癌ワクチンの設計および実施においては相当な進歩があった。しかし、第I相試験を超えて進んだヒト癌ワクチンはまだほとんどない。したがって、ワクチン設計における漸進的な改善は、癌ワクチンが直面するかなりの難関を克服するには十分でない可能性があることは明らかである。したがって、癌免疫療法における研究の焦点は、今、腫瘍免疫の調節における腫瘍微小環境の役割のより良好な理解へとシフトし始めた。この再び焦点を絞ることから現れる1つの新規戦略は、免疫調節および阻害機序を修飾または回避することを使用して、既存の腫瘍ワクチンの有効性を改善できるであろうという考えである。
【0178】
骨髄抑制細胞(MSC)は、抗腫瘍免疫を阻害する。いくつかの最近の研究は、未熟な骨髄細胞が、腫瘍免疫の抑制において果たす重要な役割をより十分に定義し始めた(7〜11)。この不十分にしか定義されていない骨髄細胞の集団は、まとめて、骨髄抑制細胞(MSC)と呼ばれる。最近、癌を有する動物におけるMSC集団は、未熟な単球および好中球の混合物からなることが示された(12)。その異なる系統にも関わらず、単球性および好中球性MSCは両方とも、異なる機序によってではあるが、T細胞およびNK細胞機能を抑制することを示した。T細胞およびNK細胞の抑制は、反応性窒素種、反応性酸素種の産生およびTGF−βの表面発現ならびにアルギナーゼ産生を含むいくつかの機序によって媒介される。多くの場合、MSCによる阻害には、T細胞との直接接触または極めて密接な接触が必要である。最終結果は、MSCの近傍におけるT細胞およびNK細胞が、細胞毒性、増殖およびサイトカイン産生を機能的にできなくされることである。骨髄からのMSCの生成は、腫瘍細胞自体によって産生される、または腫瘍関連炎症に応じて産生されるサイトカインおよび増殖因子によって調節される。MSCは、骨髄からの放出後、脾臓、骨髄、流入領域リンパ節および腫瘍組織に分布する。
【0179】
骨髄抑制細胞は、癌に応じて生成されるだけでなく、種々の炎症刺激によっても誘発される。例えば、拡大された数のMSCが、敗血症、慢性感染症(ウイルス性、真菌性)および慢性炎症性疾患を有する個体中に存在する(12)。したがって、MSCは、急性および慢性炎症両方の陰性モジュレーターとして働くよう進化した可能性があることは明らかである(7、13)。したがって、炎症の調節因子として見なされ、理論に束縛されるものではないが、MSCは、ワクチン、特に、相当な炎症を誘発するワクチンに対する免疫応答を弱めるよう働く場合もある。このような反応は、癌を有する個体では、特に顕著であるが、これは、彼らがすでに大きく拡大した数のMSCを有するからであろう(14)。実際、GM−CSFを形質導入した黒色腫ワクチンでワクチン接種された黒色腫患者において、腫瘍ワクチン接種に対するちょうどこのようなMSC反応のエビデンスが報告されている(15、16)。MSCが実際に、腫瘍ワクチン反応を阻害する場合には、MSCを除去することまたはその効果を阻止することが、癌を有する患者においてワクチン接種に対する有効なT細胞免疫応答をブーストするのに役立ち得る。この考えを支持する実験的エビデンスは、細胞を成熟したマクロファージまたは好中球にさせ、その免疫抑制特性を逆転させる、オールトランスレチノイン酸(ATRA)によって誘導されるMSCの分化の研究からもたらされている。腫瘍を有する動物またはヒトがATRAで治療されると、自発的な抗腫瘍免疫が改善され、ワクチン反応が大幅に増強された(17〜19)。同様の腫瘍ワクチン反応の増強は、ニトロアスピリンを使用してMSCによるROS産生が阻害された場合にも報告された(20)。
【0180】
1つの問題は、MSC枯渇が、腫瘍免疫を回復させ、腫瘍ワクチンの有効性を改善し得るかどうかである。先の情報に基づいて、理論に束縛されるものではないが、MSCの除去は、腫瘍ワクチン反応を改善し得る。現在、in vivoでMSCを除去するためのたった2つの現実的な選択肢は、抗体媒介性枯渇を使用することまたはリポソームクロドロネートを使用することである。MSCの抗体媒介性枯渇は、in vitroおよびin vivoで幾分かの有効性を示したが、MSCに特異的な細胞表面マーカーが同定されていないので、現在、実現可能とは考えられていない(21)。しかし、抗体を用いるCD11b+/Gr−1+細胞の非特異的枯渇は、マクロファージ、単球および好中球の広範な枯渇をもたらし、免疫抑制のリスクを増大する。リポソームクロドロネート(LC)は、過去には、さまざまな免疫学的調査のためにマウスにおいてマクロファージおよび単球を枯渇させるために広く使用されていた(22〜26)。ビスホスホネート薬クロドロネートが、中性リポソーム内にカプセル化されると、リポソームは、食作用性骨髄細胞(マクロファージ、単球、MSC)によって効率的に取り込まれ、その後、クロドロネートの細胞内放出およびATP結合についての競合によるマクロファージアポトーシスの迅速な誘導が続く(27、28)。LCは、好中球を枯渇させないので、大きな免疫抑制のリスクはかなり減少する。
【0181】
さらに最近、LC治療はまた、げっ歯類腫瘍モデルにおいて抗腫瘍活性を実証したが、これらの研究では、LC治療の抗腫瘍効果は、腫瘍関連マクロファージ(TAM)の枯渇および腫瘍血管新生の阻害の効果によって起こった(29〜31)。マクロファージ枯渇剤としてのLCの使用が、マウスモデルにおいて、および自己免疫疾患を有するイヌにおいて調べられた(32、33)。LCの全身(静脈内)投与はまた、マクロファージの枯渇に加え、相当なMSC枯渇も誘導し、これは、マウスにおける、およびイヌにおける相当な抗腫瘍活性と関連していた(34)。
【0182】
しかし、疑問は、LC治療が、腫瘍組織におけるTAMの局所枯渇ではなく全身の免疫効果の誘導によって、抗腫瘍活性を媒介し得るかどうかであった。実際、LC治療によって引き起こされた抗腫瘍活性は、TAMの枯渇または腫瘍血管新生の阻害によってではなく、抗腫瘍免疫の自発的な全身活性化によるものであった。したがって、理論に束縛されるものではないが、LCを使用するMSC枯渇はまた、ワクチン接種に対して適切な順序で投与される場合には、腫瘍ワクチンの有効性を大幅に増強し得る。実際、LC治療とモデル抗原に対するワクチン接種を組み合わせる実験は、ちょうどこのような効果が生じることを示唆する。したがって、理論に束縛されるものではないが、LCを使用するMSC枯渇は、NHL腫瘍ワクチンの有効性を改善する。この実施例は、この仮説を、まず、マウス腫瘍モデルにおいて調査し、次いで、NHLのイヌモデルにおいて原理の証明実験を実施する。
【0183】
結果:LCの全身投与によって誘発される抗腫瘍活性に関する過去の研究は、LC送達を最適化して、最大の抗腫瘍活性を生じさせる方法を決定すること、LCによって誘導される抗腫瘍活性に対して感受性である腫瘍種の範囲を評価することおよびLCが抗腫瘍活性を生じさせる機序(複数可)を規定することに幾分か焦点をあわせてきた。LCの静脈内投与は、マウスモデルにおいて定着腫瘍の増殖の相当な阻害を誘発する。例えば、定着したs.c.MCA−205(肉腫)腫瘍を有するC57B1/6マウスへの1週間に1回の200μlのLCのi.v.投与は、腫瘍増殖の大幅な阻害をもたらした(図1)。重要なことに、対照PBS含有リポソーム(L−PBS)の投与は、抗腫瘍活性を誘発しかった。同様の抗腫瘍活性はまた、CT−26(結腸癌腫)腫瘍を有するBALB/cマウスにおいても生じた。また、B16(黒色腫)および4T1(乳癌腫)腫瘍を有するマウスにおいても相当な抗腫瘍活性が観察された。したがって、LC投与は、腫瘍型およびマウス株に独立して腫瘍増殖を阻害する。
【0184】
イヌにおける研究も、LCが抗腫瘍活性を有することを実証した。例えば、軟組織肉腫(STS)または悪性組織球増殖症(MH)を有するイヌへの1ヶ月に2回のLCのi.v.投与は、治療された患者のおよそ50%において腫瘍退縮を誘発する。図2に示されるように、一連のLC単独を用いる治療で治療された、STSを有するイヌは、3回目のLC投与の後に始まる大幅な自発的な腫瘍退縮を経験した。治療反応はまた、LCを用いて治療されたMHを有するイヌにおいても観察された(34)。重要なことに、LCを用いる治療は、イヌに、進行癌を有するものでさえ、耐容性良好であり、唯一の注目すべき副作用は、一時的な発熱であり、興味深いことに、これは、MHを有するイヌにおいてのみ観察された。したがって、LCはまた、癌を有するイヌにおいて、有効であり、耐容性良好な抗腫瘍剤である。
【0185】
LC治療が自発的な抗腫瘍活性を誘導し得る免疫学的機序を解明する研究が行われた。LCは、先の研究から、食作用性細胞を枯渇させることが分かっているので、LC治療が、骨髄抑制細胞(MSC)、特に、単球性MSC(35)を枯渇させ得るかどうかを調査した。腫瘍保有マウスへのLCのi.v.投与の24時間後、脾臓、血液および腫瘍組織において、CD11b+/Gr−1+ MSCを数えた(図3)。血液(図3)、脾臓および腫瘍組織において、相当なMSC枯渇が生じ、枯渇した細胞のそのほとんどが単球性であった。さらに、LC治療されたマウスにおいて、TAMの相当な枯渇および腫瘍血管新生の阻害があった。したがって、LCの全身投与は、癌を有する動物において、MSCを含めた、食作用性骨髄細胞の複数の異なる集団の相当な枯渇を誘発した。
【0186】
LCのi.v.投与は、MSCの全身枯渇をもたらしたという事実に基づいて、次のステップは、LC治療の抗腫瘍効果が、局所効果(すなわち、TAMの枯渇)によって媒介されるか、または全身の免疫学的効果によって媒介されるかを調査することとした。この問題に対処するために、T細胞を欠く腫瘍を保有するマウス(RAG2−/−マウス)をLCを用いて治療し、MCA腫瘍増殖速度を、LCを用いて治療された野生型C57B1/6マウスと比較した。LC治療の抗腫瘍効果は、RAG2−/−マウスではほぼ完全に無効にされ、このことは、LCの抗腫瘍活性は大部分はT細胞によって媒介されることを示唆した。したがって、どのT細胞サブセットが、LCの抗腫瘍活性を媒介したかを決定するために、CD8−/−マウスおよびCD4−/−マウスにおいて、腫瘍実験を反復した。CD8−/−マウスでは、LCの抗腫瘍活性は、ほぼ完全に排除された(図4)のに対し、CD4−/−マウスでは、LC活性は、部分的に阻害されただけであった。また、対照は、PBS含有リポソームを用いて治療されたマウス(lip対照)を含んでいた。したがって、LCのi.v.投与によって誘発される抗腫瘍活性は、TAMまたは腫瘍血管新生に対する局所効果ではなく、CD8T細胞抗腫瘍免疫の全身活性化によって媒介された。これらの結果は、MSC枯渇および全身免疫性の活性化が、LCが抗腫瘍活性を生じさせる主な機序である可能性が高いことを示唆するので、重要である。
【0187】
MSCのLC媒介性枯渇が、自発的なCD8T細胞媒介性抗腫瘍活性を生じさせることができた先行する実験はまた、MSC枯渇がワクチン反応を増強できる可能性があることも示唆した。この問題に対処するために、マウスに、モデル抗原としてオボアルブミンを含有するCLDCアジュバント添加ワクチン(36)を使用してs.c.ワクチン接種し、LCを使用するMSC枯渇が、ワクチン反応を増強し得るかどうかを、読み出し情報として体液性免疫応答を使用して問うた(図5)。マウスに、ova/CLDCワクチン単独を用いて、またはova/CLDCおよび免疫化の3日前のLC治療を用いて(LC、次いで、Vacc)、またはova/CLDCおよび免疫化の3日後のLC治療(Vacc、次いで、LC)を用いて、1回ワクチン接種した。血液を採取し、ovaに対するIgG反応をELISAによって調べた。ova/CLDCを用いてワクチン接種され、免疫化の3日後にLCを用いて治療されたマウスは、ova/CLDC単独またはova/CLDCおよび免疫化の3日前のLCを用いてワクチン接種されたマウスよりも大幅に高い抗体応答を発生させた。したがって、これらのデータは、実際、MSC枯渇は、ワクチンに対して適切な順序で投与された場合に、ワクチン接種に対する免疫応答を増強し得ることを示唆する。さらに、この実験は、非腫瘍保有マウスにおいて実施したが、ワクチン増強効果は、MSCのかなり大きい集団を有する腫瘍保有動物においては、より顕著であると予想されるということも留意されるべきである。
【0188】
実験計画
目的:MSC枯渇のタイミングが、ワクチンによって誘導されるT細胞応答にどのように影響を及ぼすかを決定する。
【0189】
LCは、MSCの枯渇において有効であるが、LCの投与はまた、マクロファージおよびDCをはじめとするその他の関連骨髄細胞の枯渇ももたらす。したがって、LC投与が、どの細胞が枯渇されたか、およびワクチン接種に対して何時それらが枯渇したかによって、ワクチン反応を阻害または増強し得ることが可能である。したがって、マウス免疫化モデルを使用して、CLDCアジュバント添加ワクチンを用いるワクチン接種に対する細胞性および体液性免疫応答に対する、全身LC投与のタイミングの効果を調べる。最初の実験は、モデル抗原を使用するが、これは、これらの実験の読み出し情報が、極めて頑強で、再現性があるからである。ひとたび、投与の最適のタイミングが同定されれば、2種のマウス癌モデルにおいて、これらの知見の関連性を確認する。B16黒色腫モデルは、四量体を使用してCD8T細胞応答を追跡できるので選択し、一方で、A20リンパ腫モデルは、イヌNHLモデルとの密接な類似性のために選択した。さらに、HA抗原をトランスフェクトされているA20細胞系統を使用し、これによって、CD4T細胞応答のより正確な評価が可能となる。
【0190】
実験的アプローチ:
【0191】
【表1】
目的:名目上の抗原を用いる、または腫瘍抗原を用いる免疫化に対するT細胞および抗体応答を増大するための、MSC枯渇の最適なタイミングを決定すること。これらの実験は、1)組み合わせたMSC枯渇およびワクチン接種が、通常の、および腫瘍保有マウスにおいて免疫応答を増強するかどうかを調べるために、2)免疫応答を最大にするための、ワクチン接種に対するMSC枯渇の最適なタイミングを同定するために、3)2種のマウス腫瘍モデルにおける、組み合わせたMSC枯渇および免疫化の、抗腫瘍免疫に対する効果を評価するために設計される。
【0192】
最大のT細胞応答を誘発するための、ワクチン接種に対するMSC枯渇の最適なタイミングを決定する。これらの実験は、最大のT細胞応答を生じさせるための、LC治療を使用するMSC枯渇の最適なタイミングを決定するために設計される。第1の実験では、通常のC57B1/6マウス(群あたりn=5)に、参照される刊行物(36)において開発された、強力なカチオン性リポソーム核酸(CLDC)アジュバントを使用して、Ovaを用いてワクチン接種する。評価される動物の10の実験群は、表1に記載されている。マウスに、CLDCアジュバント中の5μgのOvaを用いてs.c.ワクチン接種する。MSCの枯渇は、i.v.投与される200μlのリポソームクロドロネート(LC)の単回注射を使用して達成する。マウスをワクチン接種の7日後に安楽死させ、リンパ組織および血清を採取する。読み出し情報は、フローサイトメトリーによるCD8応答の評価(Kb−ova四量体)、CD4応答(サイトカイン放出および増殖アッセイ)および体液性反応(Ovaに対する血清抗体をELISAによって定量化する)を含む。
【0193】
データの統計分析。ノンパラメトリックANOVA(クラスカル−ウォリス)と、それに続く、ダンの多重平均値比較検定を使用して、治療されたマウスにおける免疫応答を、治療されていない対照マウスと比較する。以下のデータについても同様の分析を行う。市販のソフトウェア(Prism5、GaphPad、San Diego、CA)を使用して統計分析を行い、有意性は、p<0.05として定義する。
【0194】
免疫化の1日または3日後のいずれかでLCを用いる治療によって、最適の免疫応答が生じ、これは、Ova特異的CD8T細胞の数の増加、多量のIFN−γ産生およびより高い抗体力価によって反映される。これらのアッセイは、実験室において日常的に行われる。結果によって、ワクチン反応を増強するための、MSC枯渇の最適なタイミングの明確な同定が可能となる。単回の免疫化の後に、読み出し情報が明確でない場合には、抗原特異的T細胞の数を増大するための、最初の免疫化の2週間後に投与される追加免疫化を使用して実験を反復する。
【0195】
腫瘍抗原に対するワクチン接種後の免疫応答および抗腫瘍活性に対するMSC枯渇の効果を評価する。これらの実験は、2種の異なる腫瘍モデルを使用して、定着腫瘍を有するマウスにおいて、MSC枯渇が、腫瘍抗原に対するT細胞応答を増強し得るかどうかを調べるために設計される。第1のモデルでは、B16黒色腫を有するC57B1/6マウスを使用するが、これは、このモデルにおいて明確に定義された腫瘍抗原(trp2)が同定されており、これによって、四量体試薬を使用してCD8T細胞応答の正確な定量化が可能となるからである。上記で決定された最適MSC枯渇スケジュールを使用して、定着した皮膚のB16腫瘍を有するマウス(群あたり、n=5)に、5μgのCLDCアジュバント中のtrp2ペプチドを用いてs.c.ワクチン接種し、次いで、7日後にブーストする。処理群は、ワクチン接種していない対照マウス、ワクチン接種のみを行ったマウス、LC治療のみを行ったマウスおよびワクチン接種およびLC治療を用いて処理されたマウスを含む。血液、脾臓およびLN中のtrp2特異的CD8T細胞の数を、フローサイトメトリーおよびKb−trp2四量体を使用してブーストの5日後に評価する。これらの実験を、別の群のマウスで反復して、腫瘍増殖反応に対する組み合わせたMSC枯渇/ワクチン接種の効果を評価する。これらの研究では、腫瘍増殖速度を、腫瘍直径の3回/週の測定によって評価する。さらに、治療されたマウスおよび対照マウスの全生存期間を評価する。
【0196】
第2の腫瘍モデルでは、A20−HAリンパ腫を有するBALB/cマウスにおいて、ワクチン接種に対する免疫応答を評価する。このモデルでは、腫瘍は、T細胞応答の測定を容易にするためにインフルエンザHA抗原を発現するよう操作されている。2種の異なるワクチンを評価する。1)パラホルムアルデヒド固定されたA20−HA細胞(CLDCアジュバントと混合した、ワクチンあたり1×106個の不活性化A20細胞)または2)HA抗原ワクチン、5μgのCLDCアジュバント中のrHA。定着した皮膚のA20腫瘍を有するマウス(群あたりn=5)に、CLDCアジュバント中の自己A20−HA腫瘍細胞を用いて、またはCLDCアジュバント中のrHAを用いてs.c.ワクチン接種し、次いで、7日後にブーストする。処理群は、ワクチン接種していない対照マウス、ワクチン接種のみを行ったマウス、LC治療のみを行ったマウスおよびワクチン接種およびLC治療を用いて処理されたマウスを含む。評価される免疫応答として、これまでに記載された(36)、ワクチン接種に対するサイトカイン応答(固定された腫瘍細胞を用いる、またはHA抗原を用いる、脾臓またはLN細胞のin vitro再刺激後のサイトカイン放出)、増殖性応答(固定されたA20腫瘍細胞を用いる、またはrHA抗原を用いる96時間のin vitro再刺激後の脾臓またはLN細胞の増殖)の測定およびin vivo CTL活性の評価(養子性に移入された、CFSE標識A20腫瘍細胞のin vivo死滅が挙げられる。実験は、別の群のマウスで反復して、腫瘍反応に対する組み合わされたMSC枯渇/ワクチン接種の効果を評価する。これらの研究では、皮膚に埋め込まれたA20の腫瘍増殖速度を、腫瘍直径の週に3回の測定によって評価する。さらに、治療されたマウスおよび対照マウスの全生存期間を調べる。
【0197】
組み合わされたMSC枯渇/ワクチン接種プロトコールは、B16腫瘍モデルにおいて、ワクチン接種単独またはMSC枯渇単独と比較して、trp2特異的CD8T細胞の数の大幅な増大を誘導する。2種の治療の付加効果が観察されない場合には、腫瘍を保有するマウスにおけるMSCの数が、ワクチン反応を阻害するのにまだ十分である場合に備え、週に2回のLC投与を使用して実験を反復する。trp2特異的CD8T細胞応答の規模があまりにも低くて、ex vivoで直接測定できない場合には、細胞を4〜5日間、IL−2および特異的ペプチドの存在下でin vitroで培養して、T細胞の数を増やし、その後、四量体アッセイを行う。trp2特異的T細胞の数の増大は、組み合わされたMSC枯渇/ワクチン接種治療を受けているマウスにおける腫瘍増殖速度の大幅な低下および全生存期間の増大と相関する。抗腫瘍免疫応答におけるCD8T細胞の役割を、CD8−/−マウスを使用して、または免疫化後のCD8T細胞の抗体媒介性枯渇によって確認する。
【0198】
A20−HAモデルでは、T細胞サイトカイン放出およびCTL活性は、組合せMSC枯渇/ワクチン接種治療を受けるマウスにおいて増大する。全腫瘍細胞およびHAワクチン接種ならびに免疫アッセイの両方を利用することによって、解釈可能なデータが生じる。自己腫瘍細胞およびMSC枯渇を用いてワクチン接種されたマウスでは、腫瘍増殖速度は大幅に遅くなり、生存は改善される。自己腫瘍ワクチンを用いるワクチン接種は、複雑性および固定された腫瘍細胞上の潜在的な抗原の数の増加のために、HA抗原単独を用いるワクチン接種よりも有効である可能性が最も高い。
【0199】
目的:MSC枯渇と組み合わせた腫瘍ワクチン接種が、非ホジキンリンパ腫のイヌモデルにおいて、残存する腫瘍量を大幅に低減するかどうかを調べること。
【0200】
理論的根拠。マウス腫瘍モデルにおける実験は、ワクチンおよびLC投与のタイミングを最適化して、細胞性免疫を最大にするために、および抗腫瘍活性を評価するために有用である。しかし、ヒト癌研究における結果の予測におけるマウス腫瘍モデルの限界は、周知である。したがって、最良の利用可能な自発的なNHL腫瘍モデル、B細胞リンパ腫を有するイヌを使用する。このモデルは、過去に、CM−CSFをトランスフェクトされた腫瘍細胞を使用して調製された自己リンパ腫ワクチンの有効性を評価するために使用されてきた。イヌに、固定された自己腫瘍細胞全体を用いてワクチン接種するアプローチは、通常、組換えイディオタイプIg分子からなるヒトNHLワクチンに、完全に類似していない可能性があるが、このようなワクチンを構築することは、イヌ腫瘍モデルでは極めて困難である。表面Ig分子を保つ、パラホルムアルデヒドで固定された腫瘍細胞を用いて免疫化することによって、関連ワクチン反応が生じる。3つの処理群のイヌを有する保存的研究設計を使用して、LC治療が、NHL腫瘍ワクチン反応を大幅に増強できるかどうかの決定を行う。さらに、研究の主要エンドポイントとしてワクチン接種後の最小残存病変量(MRD)の変化を使用することによって(DFIまたはOSTではなく)、研究エンドポイントがより迅速に、より高い潜在的な正確度で達成されることが可能となる。この種のデータはまた、ヒトNHLワクチンを用いる使用のための戦略としての、LCを用いるMSC枯渇療法の評価と高度に関連している。
【0201】
試験設計。これらの研究は、B細胞リンパ腫を有するイヌ、ヒトにおけるNHLのイヌ相当物における原理の証明研究として設計される。この研究の主要な目的は、ワクチン接種およびMSC枯渇が、ワクチン接種単独またはMSC枯渇単独よりも、残存腫瘍量(血流中のqRT−PCRによって検出可能な循環腫瘍DNA(37)の大きな低減をもたらすかどうかを調べることである。マウスにおける研究に、幾分か基づいて、各々、8頭のイヌという群の大きさによって、80%の検出力で(PS Power and Sample Size calculationソフトウェア)、ワクチン接種単独のイヌまたはLC単独で治療されたイヌと比較して、ワクチン接種された/MSC枯渇されたイヌにおけるMRDの30%の低減に基づいて、有意な治療の相違を決定することが可能となるはずである。したがって、組織学的に確認されたB細胞リンパ腫を有する24頭のイヌを無作為化臨床試験に登録する。各イヌを、従来の化学療法(ドキソルビシンおよびLアスパラギナーゼ)を用いて10週間治療して、完全な肉眼で見える腫瘍緩解を達成し、その時点で、イヌを治療群1(ワクチン単独)、治療群2(LC治療単独)または治療群3(ワクチンおよびLC治療)に無作為化する。自己リンパ腫細胞(2mlのCLDCアジュバント中の、s.c.投与された、ワクチン接種あたり1×107個のパラホルムアルデヒド固定された細胞)を使用して、群1および3のイヌに、2週間毎に1回、5回の全部の免疫化の間ワクチン接種する。群2のイヌには、LC(0.5ml/kg)の一連の5回の注入を、2週間に1回与える。群3のイヌには、ワクチン接種し、上記の目的の1つで決定されたワクチン接種に対して最適なタイミングのLC投与を使用してLCを用いて治療する。
【0202】
MRDを決定するため、および免疫学的アッセイのために、血液を、治療前、および治療の2、4、6、8および10週目に採取する。各再チェックの来診時に、リンパ節の大きさを調べる。各再チェック時にCBCを実施して、単球および好中球の数を評価する。研究の完了時に、イヌは、最初の腫瘍再発の時間(無病期間;DFI)を調べるために、電話による追跡調査によって追跡調査され続ける。
【0203】
腫瘍ワクチンおよびMSC枯渇のためのLCの調製。自己腫瘍ワクチンを、化学療法の投与に先立って各患者から得たリンパ節生検から採取したリンパ腫細胞を使用して調製する。腫瘍細胞の単細胞懸濁液を、穏やかな酵素的解離を使用して調製する。次いで、腫瘍細胞を、表面抗原を保存したまま、腫瘍細胞を軽く固定し、死滅させるよう設計されている、PBS中のパラホルムアルデヒドの1%溶液中で一晩固定する。固定された腫瘍細胞のアリコートを、ワクチンを製造するために使用されるまで凍結保存する。ワクチンを、血管肉腫を有するイヌのための同種異系の腫瘍ワクチンを調製するためにこれまでに報告されたもの(38)と同様の技術を使用して、2mlのCLDCアジュバントと混合された1×107個腫瘍細胞を使用して調製する。ワクチンを側部胸部上の2箇所の異なる部位に皮内に投与する。ワクチン接種を、2週間の間隔で合計5回の免疫化の間反復する。MSCの枯渇は、悪性の組織球増殖症を有するイヌの治療のために記載されるように調製されたLCのi.v.投与によって達成される(34)。LCを、0.5ml/kgの用量で、遅いi.v.注入によって60分間にわたって2週間毎に1回投与する。LCのこの用量は、これまではイヌに耐容性良好であり、治療されたMHを有するイヌのおよそ30%における一時的な発熱が最も頻繁な有害作用である。
【0204】
ワクチン反応の評価。ワクチン反応を、治療の前に、ならびに治療の2、4、6、8および10週目に採取したPBMCを使用して評価する。PBMCを解凍し、次いで、3種の異なる比(1:1、1:10、1:100)でPFAによって固定された自己リンパ腫細胞とともに96時間インキュベートし、増殖を、BrDU組み込みおよびフローサイトメトリーを使用して評価する。さらに、培養物から上清を集め、市販のイヌIFN−γ ELISA(R&D Systems)を使用してIFN−γ濃度を調べるためにアッセイする。これまでに報告されたように(39)、ワクチン反応の評価を容易にするために、ネオ抗原(KLH)をワクチンに組み込む。KLHに対する免疫応答を、50μg/mlのKLHとともにin vitroで96時間インキュベートされたPBMCを使用して、増殖およびIFN−γ放出によって評価する。さらに、KLHに対する抗体応答を、KLH ELISA(39)を使用して評価する。
【0205】
化学療法およびワクチン接種後の分子的緩解の評価。腫瘍BCRの増幅のための腫瘍BCR特異的プライマーセットを設計するために、腫瘍試料を、研究の開始時に採取する(40、41)。化学療法の完了時(最初のワクチンの直前)に、および研究の治療相の間、2週間の間隔で、循環リンパ腫細胞(MRD)の数のPCR決定のために血液試料を採取する。PBMCを分離し、MRD算出および免疫機能の評価のために使用される3つの異なるアリコートで凍結する。定量リアルタイムPCR(qRT−PCR)およびB細胞リンパ腫を有するイヌにおけるMRD量の定量化のためのこれまでに記載されたプロトコール(37)を使用して循環腫瘍細胞を定量化する。個々の患者イディオタイプIgのために具体的に設計されたPCRプライマーを利用する、その研究では、PCR技術は、従来の化学療法を使用して誘導された完全な眼に見える腫瘍緩解の後であっても、7頭のイヌ各々において循環腫瘍細胞を検出するのに十分に感受性であると報告された。さらに、7頭の研究されたイヌすべてにおいて、化学療法の中止後、循環腫瘍量は増大し、アッセイは、肉眼的腫瘍再発までの時間について予測的であった。したがって、qRT−PCRアプローチは、ワクチン接種およびMSC枯渇(すなわち、分子的緩解)に対する腫瘍反応の正確な定量化を達成する。さらに、群間比較は、研究の第一の疑問(すなわち、組み合わされたワクチン接種/MSC枯渇治療は、いずれか単独よりも有効であるか)に対処するのに十分に頑強であるはずであり、化学療法のみを用いて治療されたリンパ腫を有するイヌのさらなる群を含む必要はない。
【0206】
理論に束縛されるものではないが、自己腫瘍ワクチンおよびLCを用いる組み合わされた治療は、腫瘍ワクチン単独またはLC治療単独を受けているイヌと比較して、腫瘍MRDにおいて、より大きな低減、さらに相当に大きな低減をもたらす。ワクチン接種単独またはLC治療単独はまた、治療前の値と比較して、MRDを大幅に低減するが、組み合わされたワクチン/LC治療は、相乗的抗腫瘍活性を引き起こす。MRD低減が、研究の主要エンドポイントであると同時に、免疫アッセイ(増殖、サイトカイン産生、標的細胞死滅)はMRDアッセイと相関する。
【0207】
文献引用
【0208】
【化1】
【0209】
【化2】
【0210】
【化3】
【0211】
【化4】
(実施例7)
単球/マクロファージアクチベーターL−MTP−PEの臨床試験
活性化された単球およびマクロファージは、in vitroで化学療法耐性癌細胞を排除し、したがって、自然免疫性のこれらのエフェクター細胞を活性化する薬剤は、化学療法を補完し得る。L−アラニンD−イソグルタミンジペプチドと結合しているN−アセチルムラミン酸からなる最小のペプチドグリカンモチーフムラミルジペプチド(MDP)は、グラム陰性菌およびグラム陽性菌の共通の膜成分である。完全フロイントアジュバントの重要な成分、MDPは、自然免疫受容体NALP3を介して単球およびマクロファージを活性化する。ムラミルトリペプチドホスファチジルエタノールアミン(MTP−PE)は、MDPとのアラニンおよびジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンの合成コンジュゲーションであり、大きな効力を有する親油性分子を作製し、細胞取り込みを改善し、殺腫瘍性活性をブーストする。親油性MTP−PEはまた、食作用性細胞による迅速取り込みのためのリポソームに、より容易に組み込まれる。イヌにおける薬物動態研究によって、迅速なクリアランスおよび毒性の10倍の低減が確認された。有望な前臨床試験に基づいて、いくつかのイヌおよびネコ癌において臨床試験を実施した。外科的切除後、L−MTP−PEを、2mg/m2の用量で、週に2回、8週間、単独または化学療法(ドキソルビシンおよびシクロホスファミドまたはシスプラチン)と組み合わせて投与した。手術の直後に投与した場合には、L−MTP−PE治療は、222日の生存期間中央値を与え、プラセボリポソームを用いて治療されたイヌ(77日)よりも有意に長かった(p<0.002)。シスプラチン後にL−MTP−PEを用いて治療された非転移イヌは、14.4ヶ月の生存期間中央値を有し、シスプラチンおよびプラセボを用いて治療されたイヌ(9.8ヶ月)よりも、やはり有意に長かった(p<0.01)。シスプラチンと同時にL−MT−PEを用いる治療も生存期間中央値を向上させたが、1.6ヶ月の相違は有意ではなかった。初期段階黒色腫の治療において長い無病生存期間も注目されたが、乳房切除後のネコまたはイヌ乳房腫瘍においては効果はなかった。
【0212】
コンパニオンアニマルにおけるこれらの研究の成功を基に、およそ150人の種々の進行性癌(乳癌、結腸直腸癌、肺癌、黒色腫、腎細胞癌、胃癌および唾液腺腺癌ならびに肉腫)を有する患者において、一連の探索性の第I相研究を実施した。これらの研究によって、L−MTP−PE最大耐量および最適生物学的用量を決定し、これは、イヌ研究への同様の投薬を示す。1993年〜1997年の、第III相臨床試験によって、高悪性度骨肉腫を有する新規に診断された患者において、ドキソルビシン、シスプラチンおよび高用量メトトレキサートの標準レジメンに加えられたL−MTP−PE(ミファムルチド)および/またはイフォスファミドの有効性を評価した。試験には、非転移性の切除可能な骨肉腫を有する678人の患者、L−MTP−PEを受けている332人ならびにL−MTP−PEを受けている39人を含む、転移性または切除可能でない骨肉腫を有する115人および115人の患者が含まれていた。イフォスファミドおよび3種の化学療法薬の添加は、標準治療に対して、薬剤のない生存期間(DFS)または全生存(OS)を大幅には向上させなかったが、L−MTP−PEの添加は、両方を大幅に向上させた(DFS p=0.030;OS p=0.039)。IDM Pharma Incは、2006年にL−MTP−PEのNDAを提出したが、2007年に、さらなるデータを要求する、現時点では承認しない旨の通知書を受け取った。2009年3月に、L−MT−PE(ミファムルチド、MEPACT(登録商標))は、欧州連合におけるこの薬物の販売を可能にする、欧州委員会よる中央審査医薬品販売承認を認められた。
【0213】
L−MTP−PEの開発経路は、ヒトおよびイヌ骨肉腫における研究が、並行して進行し、両種における骨肉腫の治療のための薬物の最適化につながり得る情報の二元配置フローを提供し得る方法を示す。
【0214】
(実施例8)
電気化学療法(ECT)の最適化
癌化学療法薬ブレオマイシンおよびシスプラチンを含めたいくつかの薬物は、高度に疎油性であり、したがって、細胞取り込みが悪い。ブレオマイシンは、かなり疎油性であり、簡単な拡散によってでは標的細胞に入ることができず、特定のタンパク質受容体による、比較的遅い、効率的でない取り込みを必要とし、その結果、培養細胞中に<0.1%しか内部に取り入れられない。悪い取り込みのために必要とされる高い全身用量は、正常組織に対してかなりの毒性を引き起こしており、抗癌剤としてのブレオマイシンの採用を、その治療可能性にも関わらず妨害している。標的細胞透過性を一時的に変更する短い電気パルスは、この問題の解決法を提供した。これらのパルスは、細胞膜中に孔を誘導し、薬物およびプラスミドの細胞侵入を改善すると思われる。in vitroでの細胞のエレクトロパルセーション(Electropulsation)は、ブレオマイシンの細胞毒性を数千倍高め、シスプラチンの細胞毒性を70倍高めた。この技術の最初のin vivo研究は、アジュバント放射線療法後の再発性軟組織肉腫を有するネコにおいて1997年に実施された。ブレオマイシンとそれに続く方形波を受けたネコの小さいコホートは、11匹の処理されていない対照に対して、12匹のネコにおいて長期の生存を有していた。
【0215】
その後の第I/II相研究では、イヌおよびネコ軟組織肉腫患者を、二相性電気パルスと併用される病巣内ブレオマイシンを用いて治療し、その結果、長期の緩解を有する40%を含む80%という全応答率が得られた。この研究は、イヌ血管周囲細胞腫(hemagiopericytomas)は、電気化学療法(ECT)に対して特に反応性であることを示したが、結合組織に適応する専用の電極の開発の必要性も強調した。最適化された電極を用いて、一連の第II相研究を、続いて開始した。電気療法とともに手術中または手術後のブレオマイシンを受けている軟組織肉腫を有するネコは、それぞれ、手術単独を用いる4ヶ月と比較して、12および19ヶ月という再発の平均時間を改善した。イヌ軟組織肉腫患者を用いる同様の研究は、730日の再発までの平均時間ならびにブレオマイシンおよび電気パルスを用いて治療されたイヌにおける95%の応答率をもたらし、血管周囲細胞腫による最大の感受性であった。さまざまな腫瘍における、ECT試験から得た370種の生検試料にわたる再調査は、全生存および壊死(p<0.0001)および高い率のアポトーシス(p<0.0001)の間の強い相関を示した。
【0216】
電気パルスの期間および頻度も、コンパニオンアニマルにおける複数の試験によって最適化し、1秒から100ミリ秒にパルスの期間を低減することおよび反復頻度を1Hzから5000Hzに増大することによって、患者の不快感を少なくして、腫瘍に必要な400V/cm電場を送達できるであろうということを実証する。最初のin vivo研究は、ちょうど10年前に開始されたが、いくつかのEU諸国では、ECTはすでにヒト使用のために承認されており、払い戻されている。獣医学の患者におけるECTの臨床試験は、最初のヒト腫瘍学試験の直後に始まり、このアプローチは、さまざまな皮膚および皮下腫瘍を有するネコ、イヌおよびウマのためにいくつかの欧州諸国およびブラジルにおいて広く使用されている。技術の最適化は、ヒトおよび獣医学臨床試験において並行して進行し、ヒトおよびコンパニオンアニマルにおける腫瘍間の類似性および両分野で働く腫瘍学者間の情報交換が、新規治療法の開発をどれほど加速し得るかを示す。
【0217】
(実施例9)
血管肉腫の治療
リポソームにカプセル化されたムラミルトリペプチドホスファチジルエタノールアミン(L−MTP−PE)は、イヌ骨肉腫(上記)の無作為化臨床試験における成功を提供し、したがって、この治療戦略を血管肉腫に拡張した。32頭のHSAを有し、明白な転移のないイヌを、L−MTP−PEまたはプラセボとともに、脾摘出術およびドキソルビシン+シクロホスファミドを用いて治療した。L−MTP−PEを受けたイヌは、無病生存期間(p=0.037)および全生存(p=0.029)を大幅に改善し、臨床段階Iにおいてイヌによる、臨床段階IIにおいてよりも良好な応答があった。バイオアッセイによって、血清腫瘍壊死因子およびインターロイキン−6、重要な免疫サイトカインの大幅な上昇が示された。これらの研究は、イヌにおける満たされていない医学的ニーズのための新規治療アプローチを示唆する。さらに、イヌHSAの研究は、コンパニオンアニマルおよびヒトの治療のための抗転移戦略を伝え得る。
【0218】
(実施例10)
自然および適応免疫性のプラスミドDNA刺激
細菌の超抗原によって活性化されたT細胞は、強い細胞溶解性活性を発現させ、養子性に移入された場合には腫瘍退縮を媒介する。自発的な悪性黒色腫を有する26頭のイヌを、細菌超抗原ブドウ球菌内毒素BをコードするプラスミドDNAならびにGM−CSFまたはIL−2のいずれかを用いて治療し、腫瘍退縮に対するDNAワクチン接種の効果を試験した。すべてのイヌの全応答率(完全および部分緩解)は、46%であり、小腫瘍において最高であった。組織学的試験によって、CD4+およびCD8+T細胞が、腫瘍中に浸潤することが示され、腫瘍退縮が、高レベルの循環細胞傷害性Tリンパ球と相関していることが実証された。この研究では、より高い安定性のためにプラスミドをコンパクトにするために、プラスミドDNAは、カチオン性脂質と錯体を形成した。その後の研究によって、カチオン性脂質および細菌DNAの組合せは、コードされる遺伝子の不在下で、自然免疫性を効果的に刺激し、強いサイトカイン応答を誘発することが示された。
【0219】
(実施例11)
抗血管新生トロンボスポンジン−1ペプチドミメティクスの開発
この実施例は、マウスモデルからヒト臨床試験への治療薬開発の橋渡しにおいてコンパニオンアニマルにおける自発的な腫瘍がどのように役割を果たし得るかを示す。腫瘍は増殖するので、限局化された血管新生を誘導し、さらなる増殖を支援する適切な血液供給を発達させなくてはならない。したがって、血管新生を阻止することが、多数の癌治療の試みの目的である。トロンボスポンジン−1(TSP−1)は、多面的な天然血管新生阻害剤であり、内皮細胞活性化の多数の態様を阻止する。TSP−1、ABT−526およびABT−510の血管新生ドメインに基づく修飾ノナペプチドは、薬物開発にとって、より実用的な大きさで、このアンタゴニスト活性を共有する。同一遺伝子マウスモデルおよび異種移殖マウスモデルにおける最初の有効性研究によって、ABT−526およびABT−510の両方が腫瘍増殖を遅らせることが示された。しかし、血管新生の阻害が、腫瘍を迅速に破壊するとは考えにくく、迅速に進行するマウス癌モデルに基づいて、ヒト臨床試験のための用量を確立することは、最適とは考えられなかった。安全性および有効性を良好に定義するために、2種のTSP−1ペプチドミメティクスが、自発的なイヌ腫瘍の非盲検の非臨床試験において調べられた。前向き非盲検試験が、NHL、軟組織肉腫、乳腺腺癌、頭頸部癌腫および多数のその他の原発性および転移性腫瘍をはじめとするさまざまな癌を有する242頭のイヌで実施された(115)。薬物動態研究を、ビーグル犬の実験室コロニーにおいて実施し、マウスおよび非近交系コンパニオンアニマル研究間の橋を提供し、初期用量パラメータを確立した。この研究では、用量を制限する毒性は、いずれのイヌにおいても観察されなかった。測定可能な病変の目的退縮(腫瘍の大きさの>50%低減)は、180頭のうち19頭の評価可能なイヌにおいて示され、23頭のイヌにおいて相当な疾患安定化が起こった。これらの反応のほとんどは、TSP−1ミメティックを用いる治療の60日後に起こり、投薬を最適化し、有効性を確認するための適当なモデルとしてのイヌにおける自発的な腫瘍の選択が確認された。この研究によって、NHLが、より反応性のクラスの腫瘍の1種であることおよびABT−526が、ABT−510よりも活性であることが示された。これらの結果に基づいて、ABT−526の対照二重盲検試験を天然に存在する最初の再発NHLを有する94頭のペットのイヌで実施した。この研究は、最適な生物学的用量およびスケジュールのさらなる定義を提供するために、活性の予測的バイオマーカーを同定するために、化学療法と組み合わせて有効性を試験するために設計された。イヌには、ロムスチン(CeeNu(登録商標)、Bristol Myers Squibb)およびプラセボまたはABT−526を与えた。この対照臨床試験では、ABT−526は、化学療法に応じる症例の数を増大させなかったが、反応期間を中程度に増強した。ABT−510試験は、一連のヒト第I相および第II相臨床試験に進んだ。39人のさまざまな進行癌を有するヒト患者における、ABT−510の第I相安全性、薬物動態および薬力学的研究によって、少なくとも6ヶ月間6人の患者において、好都合な毒性プロファイルが実証され、塩基性線維芽細胞増殖因子、血管新生のマーカーの減少および安定な疾患が引き起こされた。
【0220】
(実施例12)
ドキシル有害作用の低減
ドキソルビシンは、DNAの間に介入して複製を阻止するアントラサイクリン系抗生物質であり、NHLなどの血液学的悪性腫瘍をはじめとするさまざまな癌の治療において、また軟組織肉腫において使用される。ドキシル、ドキソルビシンを含有するペグ化リポソームは、長期の循環、増強された抗腫瘍効力を有し、心毒性は少ない。しかし、遊離ドキソルビシンとは異なり、ドキシルは、手掌足底感覚異常症(PPES)と呼ばれる、手足疾患と呼ばれることもある有痛性の皮膚反応を誘導する。ヒトと同様に、イヌも長期のドキシル治療後のPPESの発生に対して感受性である。事例エビデンスによって、経口ビタミンB6(ピリドキシン)が、PPESを軽減または排除し得ることが示唆された。これを試験するために、経口ピリドキシンまたはプラセボと組み合わせた毎日のドキシル化学療法の無作為化二重盲検を、NHLを有する41頭のイヌにおいて実施した(118)。治療群間の緩解率においては、相違は観察されなかったが、PPESを発症する相対リスクは、プラセボ群では4.2倍高かった。ピリドキシンは、PPESを完全には防がなかった、または逆転させなかったが、症状を遅延または減少させた。イヌにおけるこの探索的試験によって、ヒト患者におけるこの戦略のより広範な試験のための理論的根拠が提供された。
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2009年5月14日に出願された米国仮特許出願第61/178,391号および2009年6月11日に出願された同第61/186,342号に対する優先権を主張する。両方の仮出願の開示は、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
ヒトの命を延ばすための試みは、新規生物学的経路および作用機序ならびに新規治療および診断法の発見を含む。癌などの種々の疾患と戦うための、新規薬物、化合物、方法または前述のもののいずれかの組合せの発見は、規制上の要請のために、ならびに時間および経費を考慮すると困難である。同じ理由で、複数の治療の包括的な研究は、ヒト臨床試験において達成するのは極めて難しい。これらの理由は、人命を救うための、および/または種々の疾患に苦しむ人の生活状況を改善するための企業、非営利団体および個人の努力を妨げる実際の障壁のように作用する。必要なものは、最適な生物学的および/または生理学的応答および結果を決定するために、因子の組合せを調べることができるような、種々の疾患を研究するための改善された系である。このような系は、宿主誘導性応答を含む自発的に生じる疾患(例えば、糖尿病、癌、自己免疫、神経学的、アレルギー性疾患)などの種々の疾患を有する個人を助けるための医学的および科学的取り組みの最大に効率的な使用を提供するための、新規の、または改善された薬物、化合物および治療プロトコールを作製するために情報をトランスレートするために利用できる。
【0003】
自発的に生じる疾患、例えば、糖尿病は、イヌおよびネコなどのコンパニオンアニマル(companion animal)において観察されている(非特許文献1)。例えば、Davisonらは、自発的に生じる真性糖尿病においてGAD65およびIA−3に対する自己抗体で実施された研究を記載している(非特許文献2)。Hoenigらは、非特許文献3において、糖尿病を有するイヌにおけるベータ細胞抗体の定性アッセイを記載した。イヌにおけるその他の天然に存在する疾患は、種々の参考文献、例えば、非特許文献4に記載されている。
【0004】
糖尿病に加えて、癌および自己免疫疾患などの他の自発的に生じる疾患が観察されている。Paoloniらは、癌と関連する遺伝子を同定し、環境危険因子を研究し、腫瘍生物学および進行を理解し、新規癌治療薬を評価および開発するための、天然に存在する癌を有するイヌの研究のヒト癌生物学の研究との一体化を記載している。(Nature、8:147〜156頁(2008年))。The Canine Comparative Oncology and Genomics Consortium(CCOGC)は、ヒトおよびイヌ両方をよくするために癌研究を調査するための、天然に存在する癌のモデルとしてイヌを使用するための多数の共同努力の結果である。Nature Biotechnology 24巻(9号):1065〜1066頁(2006年)。イヌが天然に発生する癌の例として以下がある。非ホジキンリンパ腫、骨肉腫、黒色腫、前立腺癌腫、肺癌腫、頭頸部癌腫、乳癌および軟部組織癌。同書。ペットのイヌでの試験が報告され、新規抗癌剤の安全性および活性をより良好に規定するのに役立っており、これらの抗癌薬に対する反応または曝露と関連している関連バイオマーカーの同定を助けており、ヒト臨床試験におけるこれらの新規薬物の成功を向上させる組合せ戦略の合理的な開発を可能にし得る。同書。Candolfiらは、多形性膠芽腫(glioblastoma mutliforme)(GBM)を自発的に発生するイヌへのアデノウイルスによって媒介される遺伝子導入の使用を記載している(Candolfi Mら、Neurosurgery 60巻:167〜178頁(2007年))。Paoliniらは、the Comparative Oncology Trials Consortium(COTC)が、腫瘍内皮上のαVインテグリンへ腫瘍壊死因子を送達する標的とされるAAV−ファージベクター(RGD−A−TNF)を評価したことを報告した。PLoS ONE 4巻(3号):e4972(2009年)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hoenig M、Mol. Cell. Endocrinol.(2002年)197巻:221〜229頁
【非特許文献2】Davison LJら、Veterinary Immunology and Immunopathology(2008年)126巻:83〜90頁
【非特許文献3】Hoenigら、Veterinary Immunology and Immunopathology、(1992年)32巻:195〜203頁
【非特許文献4】Tsaiら、Mamm. Genome、(2007年)18巻:444〜451頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載される本発明は、治療的処置および診断方法にトランスレートできる、自発的に生じる疾患を研究するためのプラットフォーム技術を提供する。
【0007】
特許、特許出願および刊行物を含めた本明細書に引用されるすべての参考文献は、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0008】
本発明は、生物学的経路、生物学的および/または生理学的経路に影響を及ぼす薬剤の種々の組合せの効果(例えば、相乗作用)、根底にある作用機序、複雑な生理学的状態の生物学的関与物ならびに種々の生理学的状態および/または疾患の治療、診断または予防のための薬剤を開発するのに有用であり得るその他のパラメータを調査するためのプラットフォーム技術を提供する。このような複雑な生理学的状態として、それだけには限らないが、癌、自己免疫疾患、アレルギー、過敏症、神経疾患、遺伝性遺伝子障害および感染性疾患を挙げることができる。
【0009】
したがって、一態様では、本発明は、相乗作用を有する抗癌剤の組合せを同定するための方法であって、(1)自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルに2種以上の抗癌剤を投与するステップと、(2)コンパニオンアニマルを生物学的および/または生理学的効果についてモニタリングするステップと、(3)生物学的および/または生理学的効果が相乗的である場合に、相乗作用を有する抗癌剤の組合せを同定するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、抗癌剤は、ビスホスホネート、白金ベースの化学療法薬、タンパク質ホスホリパーゼDの阻害剤、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ポドフィロトキシン、抗体、チロシンキナーゼ阻害剤、ホルモン治療、可溶性受容体および抗悪性腫瘍薬からなる群から選択される。別の実施形態では、抗癌剤は、クロドロネートおよびカチオン性CpGである。
【0010】
別の態様では、本発明は、ヒトにおける治療のための治療法(treatment modality)を同定するための方法であって、自発的に生じる疾患を有するコンパニオンアニマルにおいて組成物の組合せを試験するステップと、自発的に生じる疾患を有するコンパニオンアニマルにおける試験の結果を、自発的に生じる疾患を有さない動物における試験の結果と比較することによって、ヒトにおける成功の可能性の高い組合せを同定するステップとを含む方法を提供する。
【0011】
別の態様では、本発明は、自己免疫疾患と関連している自己抗原を同定するための方法であって、(a)自発的に生じる自己免疫疾患を有するコンパニオンアニマルにおいて1種または複数の抗原を決定するステップと、(b)コンパニオンアニマルにおいて疾患の抗原プロファイルを得るステップと、(c)このプロファイルを、自発的に生じる疾患を有さない対照コンパニオンアニマルと比較するステップと、(d)自己免疫疾患と関連している自己抗原を同定するステップとを含む方法を提供する。
【0012】
別の態様では、本発明は、ヒトにおいて癌と関連している、または関連している疑いのある複数の抗原を標的とする方法であって、(a)自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルに抗癌効果を有すると疑われる1種または複数の薬剤を投与するステップと、(b)コンパニオンアニマルにおける薬剤の生物学的効果または生理学的効果をモニタリングするステップと、(c)薬剤が生物学的効果または生理学的効果を有していたコンパニオンアニマルにおいて1種または複数の抗原を同定するステップと、(d)薬剤が、コンパニオンアニマルにおいて抗癌効果を有する場合には、ヒトに同じ薬剤を投与するステップとを含む方法を提供する。
【0013】
別の態様では、本発明は、ヒトにおいて感染性疾患と関連している、または関連している疑いのある複数の抗原を標的とする方法であって、(a)自発的に生じる感染性疾患を有するコンパニオンアニマルに感染性疾患に対して効果を有すると疑われる1種または複数の薬剤を投与するステップと、(b)コンパニオンアニマルにおける薬剤の生物学的効果または生理学的効果をモニタリングするステップと、(c)薬剤が生物学的効果または生理学的効果を有していたコンパニオンアニマルにおいて1種または複数の抗原を同定するステップと、(d)薬剤がコンパニオンアニマルにおいて有益な効果を有する場合には、ヒトに同じ薬剤を投与するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、感染性疾患は、インフルエンザ、敗血症(例えば、Klebsiella pneumoniae敗血症)、細菌感染症(例えば、Staphylococcus aureus、その他のブドウ球菌感染症、E.coliおよび腸球菌)、Pseudomonas aeruginosa、Leishmania infantum、ブルセラ症、コクシジウム症およびSalmonella enterica血液型亜型Typhimuriumからなる群から選択される。
【0014】
本発明の態様または実施形態のいずれかでは、コンパニオンアニマルは、イヌである。イヌは、純血種のイヌであっても、雑種のイヌであってもよい。イヌは、均一な遺伝的背景を有する場合も、不均一な遺伝的背景を有する場合もある。
【0015】
本発明の態様または実施形態のいずれかでは、コンパニオンアニマルはネコである。ネコは、純血種であっても雑種であってもよい。ネコは、均一な遺伝的背景を有する場合も、不均一な遺伝的背景を有する場合もある。
【0016】
したがって、別の態様では、本発明は、標準モデルより、治療法を同定するために成功する可能性の高い組成物の組合せを含む、ヒトにおける治療のための治療法を同定するためのコンパニオンアニマルモデル系を提供する。一実施形態では、組成物の組合せは、2種以上の抗原を含む。別の実施形態では、組成物の組合せは、少なくとも1種の抗原と、1種のアジュバントを含む。別の実施形態では、コンパニオンアニマルは、イヌまたはネコである。別の実施形態では、コンパニオンモデル系は、イヌ系であり、不均一な遺伝的背景を有する。別の実施形態では、コンパニオンアニマルは、純血種のイヌである。別の実施形態では、コンパニオンアニマルは、雑種のイヌである。
【0017】
別の態様では、本発明は、抗癌剤を同定するための方法であって、(a)薬剤を試験するための、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルモデル系を獲得するステップと、(b)コンパニオンアニマルモデル系に薬剤を投与するステップと、(c)コンパニオンアニマルモデル系において、生物学的および/または生理学的効果について2種以上の癌抗原をモニタリングするステップと、(d)生物学的および生理学的効果に基づいて、抗癌として薬剤を同定するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、コンパニオンアニマルは、イヌまたはネコである。別の実施形態では、癌抗原は、多形性膠芽腫抗原ではない。
【0018】
別の態様では、本発明は、自己免疫疾患と関連する自己抗原を同定するための方法であって、(a)自発的に生じる自己免疫疾患を有するコンパニオンアニマルモデル系を獲得するステップと、(b)1種または複数の抗原を決定して、コンパニオンアニマルモデル系において疾患のプロファイルを得るステップと、(c)このプロファイルを、自発的に生じる疾患を有していない対照コンパニオンアニマルモデル系と比較するステップと、(d)自己免疫疾患と関連している自己抗原を同定するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、コンパニオンアニマルは、イヌまたはネコである。別の実施形態では、自己免疫疾患は、糖尿病、拡張型心筋症および円板状ループス(discord lupus)からなる群から選択される。別の実施形態では、自己抗原は、GAD65または全長IA−2、膜近傍ドメイン(IA2のアミノ酸605〜682)ではない。別の実施形態では、自己抗原は、ミオシン重鎖、アルファ心筋アクチン、ミトコンドリアのアコニット酸ヒドラターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)または脳グリコーゲンホスホリラーゼ(GPBB)ではない。
【0019】
別の態様では、本発明は、ヒトにおいて癌と関連している、または関連している疑いのある複数の抗原を標的とする方法であって、(a)薬剤を試験するための、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルモデル系を獲得するステップと、(b)コンパニオンアニマルモデル系に抗癌効果を有すると疑われる1種または複数の薬剤を投与するステップと、(c)コンパニオンアニマルモデル系に対する薬剤の効果をモニタリングするステップと、(d)薬剤がコンパニオンアニマルモデル系において抗癌効果を有する場合に、ヒトに同じ薬剤を投与するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、コンパニオンアニマルは、イヌまたはネコである。
【0020】
別の態様では、本発明は、感染性疾患と関連している、または関連している疑いのある、1種または複数の抗原を標的とする方法であって、(a)薬剤を試験するための、自発的に生じる感染性疾患を有するコンパニオンアニマルモデル系を獲得するステップと、(b)コンパニオンアニマルモデル系に、感染性疾患と戦うための効果を有すると疑われる1種または複数の薬剤を投与するステップと、(c)コンパニオンアニマルモデル系に対する薬剤の効果をモニタリングするステップと、(d)コンパニオンアニマルモデル系において薬剤が効果を有する場合に、ヒトに同じ薬剤を投与するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、コンパニオンアニマルは、イヌまたはネコである。別の実施形態では、感染性疾患は、インフルエンザ、敗血症(例えば、Klebsiella pneumoniae敗血症)、細菌感染症(例えば、Staphylococcus aureus、その他のブドウ球菌感染症、E.coliおよび腸球菌)、Pseudomonas aeruginosa、Leishmania infantum、ブルセラ症、コクシジウム症およびSalmonella enterica血液型亜型Typhimuriumからなる群から選択される。
【0021】
別の態様では、本発明は、疾患のための薬剤で規制認可を得るための時間および/または費用を改善する方法であって、(a)疾患のための、自発的に生じる型の疾患を有するコンパニオンアニマルモデル系を同定するステップと、(b)コンパニオンアニマルモデル系に薬剤を投与するステップと、(c)生物学的効果および生理学的効果について動物をモニタリングするステップと、(d)疾患に対する薬剤の効果を決定するステップと、(e)規制機関への提出に適している媒体で薬剤の効果を立証するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、コンパニオンアニマルは、イヌまたはネコである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、s.c.MCA−205(肉腫)腫瘍が確立したC57B1/6マウスへの、1週間に1回の200μlのLCのi.v.投与が、腫瘍増殖の大幅な阻害をもたらしたことを示す結果を表す。
【図2】図2は、LC単独を用いる一連の処理でSTS処理されたイヌが、第3のLC投与後に開始した相当な自発的な腫瘍退縮を経験したことを示す結果を表す。
【図3】図3は、腫瘍保有マウスにおけるLCのi.v.投与の24時間後に、脾臓、血液および腫瘍組織においてCD11b+/Gr−1+ MSCが数え上げられ、血液において相当なMSC枯渇が起こったことを示す結果を表す。
【図4】図4は、LCの抗腫瘍活性が、CD8−/−マウスにおいてほとんど完全に排除されたのに対し、CD4−/−マウスでは、LCの活性が部分的に阻害されただけであったことを示す結果を表す。対照はまた、PBSを含有するリポソームで処理されたマウス(lip対照)を含んでいた。
【図5】図5は、LCを使用するMSC枯渇が、読み出し情報として体液性免疫応答を使用して、ワクチン反応を増強し得るかどうかを調べる実験から得られた結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、自発的に生じる疾患などの種々の疾患の、生物学的経路、生理学的状態および/または応答ならびに根底にある作用機序の種々の局面を研究するためのプラットフォーム技術を提供する。このような知見を、それだけには限らないが、治療、診断方法またはキットを開発すること、新規経路を同定すること、治療もしくは予防目的で化合物もしくはまたは薬剤(およびそれらの組合せ)を同定することならびに/または新規疾患標的を同定することをはじめ、種々の目的で、トランスレーショナル医療にさらに使用できる。
【0024】
一般に、自発的に生じる疾患を有するコンパニオンアニマルは、種々の治療法および組合せに関するデータを集めるために有用である。コンパニオンアニマルは、実験室条件下で維持されていないので(すなわち、日常の環境因子に対する曝露が制限され、管理された条件セットに曝露されている)、このような動物の使用は、実験室条件下で維持されたイヌを使用するその他の研究(例えば、ビーグル犬研究)から区別される1つの因子である。さらに、疾患は、実験室条件下で試薬によって誘導されていない、すなわち、疾患は自発的に発生する。したがって、このプラットフォームの利益は、特定の疾患または状態を発生するよう誘導された実験室動物よりも、ヒトに起こることに、より反映的であるということである。
【0025】
イヌなどの非ヒトコンパニオンアニマルは、ヒト疾患に酷似している疾患を自発的に発生する。そのようなものとして、自発的に生じる疾患を発生するコンパニオンアニマルの使用は、規制認可のために科学的データを集めるのに必要な時間を低減することによって、さらなる利益を提供し、このようなデータ集めに伴われる費用を低減し、得ることができる科学的データの量を増大し得る。自発的に生じる疾患を有する動物モデルの使用によって、そうでなければ、FDAの規制下で認可されない、1種または複数のパラメータ(例えば、抗原(複数可)の種類、抗原の組合せ、薬剤の組合せ、送達位置など)を試験することが可能となる。さらに、コンパニオンアニマルもまた、その自発的に生じる疾患を治癒または治療できる発見の可能性によって助けられる。
【0026】
したがって、一態様では、本発明は、標準モデルよりも治療法を同定するために成功する可能性の高い組成物の組合せを含む、ヒトにおける治療のための治療法を同定するためのプラットフォーム技術としてのコンパニオンアニマルモデル系を提供する。コンパニオンアニマルは、好ましくは、そのヒトと同じ環境因子(例えば、空気、水)に曝露されたヒトにとって仲間である任意の動物であり得る。一態様では、コンパニオンアニマルは、そのゲノムが、部分的または完全に決定されている動物である。ゲノム情報(例えば、核酸レベル、タンパク質または代謝レベルの)の使用は、これらのプラットフォーム技術において有用である。そのヒトと同様の環境因子を共有し、そのゲノム部分または完全配列を有するコンパニオンアニマルの限定されない例として、イヌおよびネコが挙げられる。
【0027】
本明細書に記載されるプラットフォーム技術の使用によって、複数のプラットフォーム間ならびに複数の抗原間およびその任意の組合せの相乗効果を利用することによって、トランスレーショナル医療のための時間および/または費用において20〜50倍の低減を提供できる。本明細書により詳細に記載されるように、プラットフォーム技術は、費用、規制上の制約、時間、試験の大きさおよびその他の科学の進歩にとっての道を塞ぐものために、従来、ヒト治験において困難にぶつかってきた種々の対象に適用できる。この対象として、それだけには限らないが、ワクチン(例えば、寛容化ワクチン)、カチオン性脂質CpG、クオラムセンシングおよび感染性疾患における自己誘導物質、生体試料(例えば、尿、唾液、血液または血漿)からの多重化病理学、迅速診断およびマーカー多重化技術のための診断技術が挙げられる。
【0028】
一般技術
本発明の実施は、特に断りのない限り、当業者の技能の範囲内である分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来技術を採用する。このような技術は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版(Sambrookら、1989年)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J. Gait編、1984年);Animal Cell Culture(R.I. Freshney)編、1987年);Methods in Enzymology(Academic Press, Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M. Weir & C.C. Blackwell編);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M. Miller & M.P. Calos編、1987年);Current Protocol in Molecular Biology(F.M. Ausubelら編、1987年);PCR:The Polymerase Chain Reaction、(Mullisら編、1994年);Current Protocols in Immunology(J.E. Coliganら編、1991年)およびShort Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons、1999年)などの文献において十分に説明されている。その他の有用な参考文献として、Harrison’s Principles of Internal Medicine(McGraw Hill; J. Isseleacherら編)、Dubois’ Lupus Erythematosus(第5版;D.J. WallaceおよびB.H. Hahn編;Williams & Wilkins、1997年)、Textbook of Veterinary Internal Medicine: Diseases of the Dog and Cat(Stephen Ettinger編、W.B. Saunders Company;第5版(2000年1月15日));およびKirk’s Current Veterinary Therapy XIV(Bonaguraら、Saunders;第14版(2008年7月10日))が挙げられる。
【0029】
定義
本明細書において、単数形「不定冠詞」および「定冠詞」は、特に断りのない限り、複数の言及を含む。例えば、抗原を不定冠詞を付していう場合、1種または複数の抗原を含む。
【0030】
「個体」は、脊椎動物、好ましくは、哺乳類、より好ましくは、ヒトである。哺乳類として、それだけには限らないが、家畜、競技用動物、ペット、コンパニオンアニマル、霊長類、マウスおよびラットが挙げられる。一実施形態では、個体はヒトである。
【0031】
「コンパニオンアニマル」とは、交流のための、そのヒト飼い主と同一家庭に居住する非ヒト動物である。コンパニオンアニマルは、通常、ヒトと同一の環境因子(例えば、水、空気、発癌物質、アレルゲンなど)に曝露されている。コンパニオンアニマルの限定されない例として、イヌおよびネコが挙げられる。一態様では、コンパニオンアニマルは、実験室条件には付されない(例えば、日常の環境因子に対する曝露が制限され、管理された条件セットに曝露されている)。
【0032】
本明細書において、「自発的に生じる(spontaneous occurring)」または「自発的に生じる(spontaneously occurring)」(または天然に存在する)疾患とは、宿主によって誘導される病状を含む疾患である。宿主によって誘導される病状とは、特定の状況における宿主が開始する何らかの種類の生物学的または生理学的応答を指す。一実施形態では、宿主によって誘導される病状は、ウイルスが形質転換の原因物質である、ウイルスによって誘導される状態は含まない。別の実施形態では、「自発的に生じる」は、ウイルスによって引き起こされる生物学的および/または生理学的状態または応答を含む。例えば、マウスまたはラットは、マウスまたはラットに特定の化学物質を注入することによって癌を有するよう誘導され得る。癌にかかったマウスまたはラットは、「自発的に生じる癌」を有するとは考えられない。
【0033】
薬剤または治療法の組合せの生物学的および/または生理学的効果を説明するために使用される「相乗効果」とは、各薬剤または治療法のそれ自体による付加よりも大きい1種または複数の効果を指す。例えば、1種の薬剤の投与が10%の抗体増加をもたらし、別の薬剤が15%の抗体増加をもたらす場合には、相乗作用は25%を超える抗体応答となる。いくつかの実施形態では、相乗作用は、付加効果よりも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%または10%多い。その他の実施形態では、相乗作用は、付加効果よりも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%多い。その他の実施形態では、相乗作用は、付加効果よりも125%、150%、200%、300%、400%または500%多い。その他の実施形態では、相乗作用は、付加効果の2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍の増大であり得る。
【0034】
「相乗効果」を使用して、生物学的および/または生理学的効果(例えば、抗体産生)の増大に加えて、生物学的および/または生理学的効果(例えば、自己免疫応答)の低下を説明することができる。例えば、1種の薬剤の投与が、自己免疫応答(例えば、全身性紅斑性狼瘡の抗核抗体)の10%低減をもたらし、別の薬剤の投与が15%の低減をもたらす場合には、相乗作用は、25%を超える自己免疫応答の低減となる。いくつかの実施形態では、相乗作用は、付加効果よりも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%または10%少ない。その他の実施形態では、相乗作用は、付加効果よりも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%少ない。その他の実施形態では、相乗作用は、付加効果よりも125%、150%、200%、300%、400%または500%少ない。その他の実施形態では、相乗作用は、付加効果の2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍の低減であり得る。
【0035】
「薬剤」とは、天然に存在するものであれ、合成のものであれ、任意の組成の物質を指し得る。薬剤の限定されない例として、小分子、抗体、天然に存在するタンパク質およびその断片(例えば、Axl、EGFまたはVEGFのような可溶性受容体または増殖因子と関連しているその他のもの)、組換えタンパク質およびその断片、融合分子(例えば、融合タンパク質)、合成分子、脂質、核酸および炭水化物が挙げられる。
【0036】
「生物学的および/または生理学的効果」とは、個体の生物学的パラメータまたは生理学的パラメータに対する薬剤の効果を指す。生物学的パラメータの限定されない例として、サイトカインプロファイルおよび/または産生、免疫応答、抗体応答などの免疫パラメータ、Th1またはTh2またはTh17応答、ゲノムプロファイルおよびその変化、抗原プロファイルおよびその変化、脂質プロファイル、脂肪酸およびコレステロールプロファイルならびに毒性プロファイルが挙げられる。生理学的パラメータの限定されない例として、系、例えば、心血管系と関連しているパラメータが挙げられる。このような心血管パラメータとして、それだけには限らないが、心臓の健康状態、肺動脈閉塞、冠動脈灌流圧力、心拍出量、肺の血管抵抗、全身の血管抵抗を挙げることができる。その他の実施形態では、生理学的パラメータとして、それだけには限らないが、血液ガスおよび飽和測定、酸素送達、酸素利用、腎能力ならびに臓器の処理および機能能力(例えば、毒物に対する肝臓、インスリン産生に対する膵臓など)を挙げることができる。
【0037】
「疾患」とは、身体の機能を損ない得る個体の異常な状態を指し、特定の症状を伴うことが多い。侵入病原体などの外部因子によって引き起こされる場合があり、自己免疫疾患などの内部機能障害によって引き起こされる場合もある。「疾患」はまた、種々の状況および各疾患の程度を包含する。例えば、悪性増殖の発生は、癌の病状である。転移は、癌の別の病状である。任意の所与の疾患について、疾患の発生と関連していると報告されたすべての症状および/または兆候が、個体に存在することは必ずしも必要ではない。
【0038】
本明細書において、「抗原」とは、生物の免疫系によって認識され得る任意の物質を広く指す。一態様では、抗原は、抗体の産生を誘導し得る。抗原は、通常、タンパク質または多糖である。抗原として、それだけには限らないが、細菌、ウイルスおよびその他の微生物の一部(コート、莢膜、細胞壁、鞭毛、線毛(fimbrae)および毒素)が挙げられる。抗原は、必ずしも、単独でそれ自体によって免疫応答を誘発する必要はない。抗原は、免疫応答(例えば、抗体応答)を誘発する免疫原を包含する。抗原の種類として、それだけには限らないが、外因性抗原(例えば、吸入、経口摂取または注射によって、外側から身体に入った抗原)、内因性抗原(例えば、正常な細胞代謝の結果として、またはウイルスもしくは細胞内細菌感染のために、細胞内で生じた抗原)、自己抗原、腫瘍抗原およびアレルギー抗原が挙げられる。
【0039】
「自己抗原」は、通常、特定の自己免疫疾患を患っている患者の免疫系によって認識される、正常なタンパク質またはタンパク質の複合体(および時には、DNAまたはRNA)である。これらの抗原は、正常な状態下では、免疫系の標的ではないはずであるが、これらの患者では、主に、遺伝的因子および環境因子のために、このような抗原に対する正常な免疫寛容が失われている。
【0040】
本明細書において、「治療」とは、好ましくは、臨床結果を含む、有益な結果または所望の結果を得るためのアプローチである。例えば、本発明に関連して、1つの所望の結果とは、癌細胞の増殖の停止であろう。治療は、疾患が根絶されることまたは疾患を有する個体が治癒されることを必ずしも必要としない。
【0041】
「治療を受けること」とは、初期治療および/または継続治療を含む。
【0042】
「療法」は、予防療法(すなわち、疾患発生前)および治療的処置(すなわち、疾患発生後)の療法を含む。
【0043】
「有益な効果」とは、個体の健康を向上させる、個体(例えば、ヒトまたはコンパニオンアニマル)に対する生物学的効果または生理学的効果を指す。有益な効果の限定されない例として、癌性腫瘍または小結節の減少、悪性細胞数の減少、癌または病原体に対する抗体産生の増大、癌細胞および/または病原体の排除に役立つサイトカインの分泌、自己分子に対する免疫反応の量の低下、自己免疫応答の減少、疾患の症状の緩和、個体における望ましくない疼痛の緩和、個体の快適度の増大、個体の免疫系の頑強性の増大および個体の免疫系の再構築が挙げられる。
【0044】
本明細書において、「組合せ」とは、任意の薬剤、抗原、組成物、化合物、アジュバントなどの互いとの組合せのすべてのあり得る変化を指す。これは、任意の1種の薬剤、抗原、組成物、アジュバントなどのうち2種以上の、それ自体の群内の(例えば、複数の薬剤)、またはその他の群との使用を含む。例えば、「組合せ」は、1種の薬剤の、1種のアジュバントとの使用または2種の組成物のいくつかのアジュバントとの使用を考慮する。
【0045】
治療法の組成
本発明は、ヒト疾患の態様を調査するための、自発的に生じる疾患のコンパニオンアニマルモデル系を利用するプラットフォーム技術を提供する。使用してもよいコンパニオンアニマルモデルとして、ヒトとともに居住する任意の動物が挙げられる。このように、コンパニオンアニマルは、そのヒト同時居住者と類似の環境因子に曝露される。このような環境因子として、それだけには限らないが、同じ空気を吸うこと、同じ水を飲むこと、同じ家庭の内容物(例えば、カーペット、掃除機など)に曝露されることが挙げられる。実験に通常使用される実験室動物(例えば、マウスおよびラット)とは異なり、コンパニオンアニマルは、ヒトが曝露されるような因子に曝露され、そのようなものとして、ヒト疾患および/または生理学的状態の相関についてより正確な背景を提供する。ヒトにとって有益である任意の治療を使用して、コンパニオンアニマルを同様に助けることができ、これは、疾患および/または生理学的状態を治療するだけでなく、その生活の質を改善することも含む。
【0046】
一態様では、イヌモデル系を使用して複数の様式の試験を実施した。一実施形態では、複数の様式とは、系において複数の抗原を使用することを指し得る。単一抗原の研究は、効率的な免疫応答の発生についての生物学的系の十分な洞察を提供しない場合がある。例えば、前立腺癌と関連している単一抗原、例えば、前立腺性酸性ホスファターゼの同定は、免疫応答を開始させ得るが、その他の抗原の同定は、前立腺癌と戦うためのさらなる、相乗的なものでさえの免疫応答を提供する。ヒト臨床試験における複数の抗原の研究は、規制上の制約(例えば、FDA承認)、費用、時間および/またはその他の生物学的障壁のために実現可能なものではない。これに関連して、複数の抗原の試験にとっては、イヌモデル系の使用は、イヌが前立腺癌を自発的に発生するので有用である。当業者ならば、イヌモデル系を使用して、複数の抗原、例えば、癌抗原を調べて、新規抗原を同定でき、これを標的(例えば、抗原に対する抗体、小分子など)のために使用できる。さらに、イヌモデル系の使用は、抗原が関連している、さらなる療法の基礎として利用される新規経路および/または生物学的ニッチを同定するのに役立ち得る。
【0047】
本発明の別の態様では、複数の様式とは、1種または複数の抗原および1種または複数のアジュバントの使用を指す場合がある。用語「アジュバント」は当技術分野で周知である。その他の薬剤(例えば、薬物またはワクチン)の効果を修飾し得るが、それ自体が与えられる場合には、直接的な効果は有するとしても、ほとんど有さない、薬理作用のある物質または免疫学的物質を指すことが多い。アジュバントは、免疫系がワクチンに対してより活発に応答するよう刺激し、したがって、特定の疾患に対する増大した免疫性を提供することによって、ワクチンの効果を修飾または増強し得る免疫学的アジュバントであり得る。免疫学的アジュバントの限定されない例として、ミョウバン、フロイントの完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント、Ribiアジュバント、アルミニウム塩および免疫調節性ポリヌクレオチド(例えば、CpG含有ポリヌクレオチド)が挙げられる。アジュバントはまた、それ自体によっては薬理学的効果をほとんどまたは全く有さないが、同時に与えられると、その他の薬物の有効性または効力を高め得る製薬アジュバントでもあり得る。この限定されない例として、カフェインがあり、これはそれ自体では、最小の鎮痛作用しか有さないが、パラセタモール(アセトアミノフェン)とともに与えられるとアジュバント効果を有し得る。アジュバントはまた、癌療法に関連して、例えば、化学療法において、さらなる療法を指す場合もある。これに関連して、アジュバント療法とは、通常、すべての検出可能な疾患が除去されているが、肉眼で発見できない疾患による再発の統計的な危険が残っている術後に施されるさらなる治療を指す。限定されない例では、乳癌の術後にアジュバント治療として放射線療法または化学療法が与えられ得る。いくつかの実施形態では、1種のアジュバントが使用される。その他の実施形態では、2種以上のアジュバントが使用される。さらにその他の実施形態では、3、4、5、6、7、8、9または10種のアジュバントが使用される。
【0048】
本発明の範囲内で、「リバースアジュバント(reverse adjuvant)」の使用も考慮され、用語「アジュバント」によって包含される。リバースアジュバントは、寛容化ワクチンとともに使用される場合に、寛容化効果を有し得る(例えば、Hoら、J.Immunology 175巻:6226〜6234頁、2005年参照)。リバースアジュバントの一例として、免疫賦活性を有する傾向があるCpGオリゴヌクレオチドとは対照的に、抑制効果を有するGpGオリゴヌクレオチドがある。(例えば、Hoら、J.Immunology 171:4920〜4926頁、2003年参照のこと)。
【0049】
種々の抗原およびアジュバントの組合せならびに種々の自発的に生じる疾患に対するそれらの効果は、上に論じた理由のためにヒト臨床試験において研究することは困難であった。動物モデルとしてマウスまたはラットを使用することでは、ヒトへの遺伝子のトランスレーションおよび疾患進行が、ヒトに対するイヌほど密接に類似していないので、自発的に生じる疾患のイヌモデル系を使用するほどには正確な情報は提供されない。(Tsaiら、Mamm.Genome、18:444〜451頁(2007年)。そのようなものとして、自発的に生じる疾患を調べるためのプラットフォーム技術としてのイヌモデル系の使用によって、当業者が、疾患が誘導される標準マウスモデルを使用することよりも、大きな成功の可能性を有する治療法を同定することが可能となる。
【0050】
本明細書に開示されるイヌモデル系を使用して、種々の種類のアジュバントを研究できる。一実施形態では、自発的に生じる疾患のイヌモデル系のプラットフォーム技術を使用して、toll様受容体(TLR)アゴニストを介して作用するアジュバントを研究できる。種々のTLRとして、それだけには限らないが、TLR1、2、3、4、5、6、7、8および9が挙げられる。一例として、TLRを介して作用するCpG含有化合物がある。このようなアジュバントは、B型肝炎の関連で試験されてきた。研究できるアジュバントのその他の限定されない例として、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびMF59が挙げられる。
【0051】
別の態様では、本明細書に記載されるプラットフォーム技術によって、当業者が、不均一な遺伝的背景に対して複数の様式の使用を検討することが可能になる。当業者ならば、遺伝的背景に種々の程度の不均一性および均一性があることは理解されよう。範囲の一方の末端では、クローニングされた動物または多数の世代の間、その遺伝的背景が次のマウスと同じであるように交配されているマウスなどの動物において均一な遺伝的背景が見られることが多い。
【0052】
範囲のさらに先は、純血種のイヌなどの不均一な動物(例えば、クローニングされた動物よりも低い程度の均一性しか有さない)である。それらは純血種であるもの、イヌは、互いにわずかに異なる遺伝暗号を有し、しかし、それらを特定の純血種であると特徴付ける同一の形態学的特徴を保有する。イヌは、形態学的特徴(高さ、体重、形状など)に相違を示し得るが、しかし、品種内で狭い範囲内で遺伝によって受け継がれる特徴を示す点で、哺乳類種の中で独特である。例えば、純血種のチワワのイヌは、一般に、肩で互いに+/−6インチである。Ostranderら、Am J Hum Genet 61巻:475〜480頁(1997年)。範囲のなおさらに先は、純血種ではなく、雑種犬であるいっそうより不均一なイヌである。一実施形態では、不均一な動物は、非肥満糖尿病(NOD)マウスを含まない。異なる治療法が検討されるのは、不均一な遺伝的背景というこの状況に対してである。イヌの不均一な性質は、当業者が、生物学的応答が何であるかを原因から結果へ予測することを必ずしも可能にせず、複数の治療法(例えば、複数の抗原)が利用される場合には、いっそうよりそのようである。前述のものは、ネコなどのその他のコンパニオンアニマルに同様に適用できる。
【0053】
自発的に生じる疾患モデルを使用することの利点
自発的に生じる疾患モデルの使用は、種々の態様において有益である。一態様では、免疫系の疾患モデルは、動物が疾患を有するよう誘導された疾患の動物モデルと比較すると、相対的に無傷に維持される。後者の場合には、疾患の人工的な誘導によって免疫系のバランスを狂わせ、疾患の人工的な誘導によって、免疫系(T細胞、B細胞、好中球、マクロファージ、調節性T細胞、NK細胞、NKT細胞などの種々の免疫細胞を含む)および免疫細胞と免疫系の種々の部門間の相互作用がかき乱される。したがって、本発明は、疾患の人工的な誘導と関連する免疫調節不全を伴わない、種々の疾患/病状ならびに複雑な生理学的状態の研究を可能にするプラットフォーム技術を提供する。これは、これらの経路または機序における新規経路、作用機序、生物学的関与物(例えば、細胞受容体または細胞種)の発見および/または同定ならびに複雑な生理学的状態を裏打ちするさらなる理解を促進する、より有意義な知見を提供する。このような複雑な生理学的状態として、それだけには限らないが、癌、自己免疫疾患、アレルギー、過敏症、神経疾患、遺伝性遺伝子障害および感染性疾患を挙げることができる。
【0054】
本発明はまた、種々の生理学的状況および疾患と関連している1種または複数のバイオマーカーの同定のためのプラットフォーム技術の使用を包含する。いくつかの例では、バイオマーカーは、1種または複数の遺伝子またはタンパク質の有無、遺伝子の種々のアイソフォームまたは遺伝子スプライシングおよびその生成物(複数可)、一塩基多型、遺伝子発現プロファイル、プロテオミクスプロファイルまたはメタボロミクスプロファイルを指し得る。いくつかの限定されない例では、スクリーニング、ステージ分類、画像処理、診断および/または種々の療法に対する反応のモニタリングに、多重化バイオマーカーが使用される。例えば、1種または複数の遺伝子の発現の変化、メタボロームおよびエピジェネティック変化が、本発明の範囲内で考慮される。限定されない一例では、遺伝子チップでのメチル化パターンを使用して、種々の疾患/病状の正常対異常メチル化パターンを研究できる。別の限定されない例として、複数のバイオマーカー(例えば、15〜18種のバイオマーカー)を保有でき、一実施形態では、少量(例えば、1pg/ml)で検出可能である磁性アレイの使用がある。別の限定されない例として、数百種のバイオマーカーを同時にまたはほぼ同時に評価できるアプタマーの使用がある。当業者ならば、スクリーニング、ステージ分類、画像処理、診断および/またはモニタリングを、治療プロトコールおよび考慮されている任意の療法の改良版と組み合わせて利用できる。当業者、例えば、医師は、症状の発生を最も効果的に防ぐ、遅延する、症状を寛解させる、または疾患もしくは生理学的状態を治療するよう療法を修飾できる。
【0055】
癌
自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルの使用は、当業者が、コンパニオンアニマルの恒久的治癒を探索することだけでなく、コンパニオンアニマルを、ヒトにおける癌(自発的に生じる癌を含む)の科学的態様を研究するためのモデルとして使用することも可能にし、これは、人類の種々の種類の癌のための治療および療法の発見につながり得る。
【0056】
ヒトおよびコンパニオンアニマルの癌の発症率は、相当に異なる。ヒト癌がペットではあまり見られない、また比較腫瘍学が実際的ではない場合もある。他の場合には、コンパニオンアニマルにおける腫瘍はそのヒト対応物によく似ており、また、より高頻度に生じ、これによって、ヒト癌患者では稀である疾患を研究する機会が得られる場合もある。
【0057】
イヌなどのコンパニオンアニマルは、種々の種類の自発的に生じる癌を発症する。一般的な癌として、それだけには限らないが、骨癌(例えば、骨肉腫)、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫)、血管肉腫、その他の肉腫、乳癌、精巣癌、肥満細胞癌、鼻副鼻腔癌、膀胱癌、頭頸部癌、前立腺癌、黒色腫、白血病、脳癌、肺癌腫および軟組織癌腫が挙げられる。一部の品種は、特定の癌を、その他の品種よりも多く発症する。例えば、血管肉腫、血管に起因する侵襲性癌は、その他の品種よりもジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバー、ボクサーおよびイングリッシュセッターにおいてより多く見られる。一態様では、当業者は、通常、コンパニオンアニマルに適用される種々の生物学的手順が実施された場合に、癌の進行の相違を観察できる。例えば、前立腺癌の進行を、去勢されているイヌにおいて観察し、その飼い主が去勢されないように選択したイヌの前立腺癌の進行と比較できる。
【0058】
一態様では、純血種のイヌの使用によって、より均一な遺伝的背景の研究および不均一な遺伝的背景を有する雑種のイヌとの比較が可能となる。イヌなどのコンパニオンアニマルの種々の遺伝的背景の使用によって、癌と関連している種々の抗原またはバイオマーカーの同定が可能となる。このような研究から集められ得られた情報を、薬物発見または免疫療法の標的として抗原を使用することによって、および/または画像処理技術においてバイオマーカーを使用することによってヒトの診断または療法にトランスレートできる。
【0059】
自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルを使用して、抗癌剤の組合せの効果を調べ、相乗作用を生じる組合せを同定することができる。薬剤の組合せは、2種以上の薬剤、例えば、3、4、5、6、7、8、9または10種の薬剤であり得る。薬剤は、同時に与えてもよく、2以上の投与で与えてもよい。各薬剤の投与量は同一であってもよく、特に、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルの群を使用する場合には変わっていてもよく、これでは、試験される薬剤の投与量の範囲は、どの組合せが最も有効な生物学的応答をもたらすかを示し得る。
【0060】
種々のクラスの抗癌剤を使用してよい。限定されない例として、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ポドフィロトキシン、抗体(例えば、モノクローナルまたはポリクローナル)、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、メシル酸イマチニブ(Gleevec(登録商標)またはGlivec(登録商標))、ホルモン治療、可溶性受容体およびその他の抗悪性腫瘍薬が挙げられる。
【0061】
アルキル化剤は、細胞中に存在する条件下で多数の求核官能基をアルキル化し得る。シスプラチンおよびカルボプラチンおよびオキサリプラチンは、アルキル化剤である。それらは、生物学的に重要な分子中のアミノ、カルボキシル、スルフヒドリルおよびホスフェート基と共有結合を形成することによって細胞機能を損なう。
【0062】
代謝拮抗剤は、プリン((アザチオプリン、メルカプトプリン))またはピリミジンに似ており、これらの物質が、細胞周期の「S」相の間にDNAに組み込まれるのを妨げ、正常な発達および分裂を停止する。それらはまた、RNA合成にも影響を及ぼす。
【0063】
植物アルカロイドおよびテルペノイドは、植物に由来し、微小管機能を妨げることによって細胞分裂を阻止する。微小管は、細胞分裂にとって極めて重要なものであるので、それなしには、細胞分裂は起こり得ない。いくつかの限定されない例として、ビンカアルカロイドおよびタキサンが挙げられる。
【0064】
ビンカアルカロイドは、チュブリン上の特定の部位と結合し、チュブリンの微小管へのアセンブリー(細胞周期のM相)を阻害する。ビンカアルカロイドとして、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビンおよびビンデシンが挙げられる。
【0065】
ポドフィロトキシンは、消化に役立つと報告されており、ならびに、2種の他の細胞分裂阻害剤、エトポシドおよびテニポシドを製造するために使用される、植物由来化合物である。それらは、細胞がG1相(DNA複製の開始)に入ることおよびDNAの複製(S相)を妨げる。
【0066】
群としてのタキサンは、パクリタキセルおよびドセタキセルを含む。パクリタキセルは、最初は、タキソールとして知られていた天然物であり、セイヨウイチイ(Pacific Yew tree)の樹皮に由来する。ドセタキセルは、パクリタキセルの半合成類似体である。タキサンは、微小管の安定性を増強し、分裂後期の間の染色体の分離を妨げる。
【0067】
トポイソメラーゼ阻害剤はまた、使用できる別のクラスの抗癌剤である。トポイソメラーゼは、DNAのトポロジーを維持する絶対不可欠な酵素である。I型またはII型トポイソメラーゼの阻害は、適切なDNAスーパーコイル形成を混乱させることによってDNAの転写および複製の両方を干渉する。いくつかのI型トポイソメラーゼ阻害剤として、カンプトテシン:イリノテカンおよびトポテカンが挙げられる。II型阻害剤の例として、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシドおよびテニポシドが挙げられる。これらは、エピポドフィロトキシンの半合成誘導体、American Mayapple(ポドフィルム(Podophyllum peltatum))の根中に天然に存在するアルカロイドである。
【0068】
抗悪性腫瘍薬として、免疫抑制剤ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、イフォスファミドが挙げられる。抗悪性腫瘍薬化合物は、通常、細胞のDNAを化学的に修飾することによって働く。
【0069】
可溶性受容体は、増殖因子、特に、癌と関連している増殖因子と結合することが分かっている受容体の細胞外部分を含み得る。限定されない例として、Axl、VEGFおよびEGFがある。可溶性受容体は、組換え/合成または天然に存在する受容体(例えば、精製されたまたは濃縮された調製物)であり得る。また、受容体の細胞外部分を、半減期およびその他の所望の薬物動態を促進するための部分と融合させ、融合タンパク質を作製できる。
【0070】
抗原の場合には、本発明は、癌と関連している1種または複数の抗原の研究を考慮する。一実施形態では、プラットフォーム技術とは、複数の(すなわち、2種以上の)抗原を研究するための、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルの使用を指す。その他の実施形態では、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルにおいて、少なくとも約2、3、4、5、6、7、8、9または10種の抗原をモニタリングする。その他の実施形態では、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルにおいて、少なくとも約10種以上の抗原をモニタリングする。一実施形態では、癌抗原は、多形性膠芽腫抗原ではない。
【0071】
骨肉腫
骨肉腫は、比較的稀な形態の癌であり、不均衡な百分率の小児を苦しめ、400人の<20歳を含めて年に900人の新規患者という年間発症率である。稀ではあるが、15歳未満の小児では6番目の癌の形態であり、すべての小児癌の約3%である。治療の現在の標準は、化学療法(ロイコボリンレスキュー、動脈内シスプラチン、アドリアマイシン、イフォスファミド、エトポシドおよびムラミルトリペプチドを伴う高用量メトトレキサート)と組み合わせた、切断術または患肢温存整形外科手術である。生存率は、唯一の治療選択肢が切断術であり、診断された患者のうち5〜20%しか2年を越えて生存しなかった1960年代から向上したが、化学療法による向上にも関わらず、骨肉腫の生存率はまだ、小児癌の中で最も低いもの中にある。非転移性骨肉腫患者の現在の5年生存率は、>70%であるが、転移のある患者については、5年生存率は、およそ30%である。この若い集団のための治療選択肢の改善に向けた進歩は、その稀な発症率およびその結果として起こる臨床研究のための患者の自然増加における課題によって遅くなっている。
【0072】
骨肉腫は、ヒト発症率とは対照的に、イヌの大型品種(>60ポンド)では、特に、グレートデーン、ウルフハウンドおよびロットワイラーでは比較的一般的な癌である。骨肉腫の発症率は、すべてのイヌの癌のうち3〜4%であり、北米では年に最大10,000頭のイヌを苦しめている。ヒトおよびイヌの骨肉腫は、解剖学的分布および転移の共通の特徴を共有する。両種において、症例の>75%が、長骨(遠位橈骨>近位上腕骨;遠位大腿骨>脛骨)において生じ、圧倒的に雄において(2:1)生じる。イヌにおける高い転移率(90%)は、ヒトにおけるもの(80%)と遜色なく、転移部位は、肺>骨>軟組織という同様の序列を有する。さらに、原発性骨肉腫および転移は、ヒトおよびイヌ患者の間で区別できない。ヒト同様、イヌも、切断術処置後のシスプラチン、ドキソルビシンまたはカルボプラチンを用いる化学療法治療に反応し、平均生存期間は9〜11ヶ月であり、切断術単独後の3〜4ヶ月という生存期間の中央値が大幅に改善される。共有される組織学、転移パターンおよび化学療法反応性を考えると、イヌ骨肉腫は、代替療法を試験するための優れたモデルを提供する。発症率が高く、より迅速に進行するので、イヌにおける臨床試験が採用され、より迅速に完了され得、これは、ヒトおよびイヌ患者両方に新規治療戦略を伝える。
【0073】
軟組織肉腫
軟組織肉腫は、間葉組織(例えば、結合組織、線維組織、筋肉)に由来する腫瘍の多様な群である。それらは、年間の新規癌症例の1%未満を占め、2006年には、米国で、およそ9,500の新規症例があり、高齢の患者(>50歳)においてより多く見られるが、一部のサブタイプ(例えば、横紋筋肉腫、骨格筋の肉腫)は、小児および若者に、より多く見られる。一クラスとしての軟組織肉腫は、コンパニオンアニマルにおいてより多く見られ、イヌではすべての皮下癌の15%、ネコでは7%に相当する。血管肉腫を除いて、このクラスの腫瘍は、局所的に侵襲性であるが、稀にしか転移しない。それにも関わらず、ヒトおよびコンパニオンアニマル両方の軟組織肉腫は、化学療法に対して中程度にしか反応しない。
【0074】
それらは、同一起源のヒト腫瘍と似ており、比較的遅く検出されるので、分析のために大きな腫瘍の大きさを提供する。イヌ軟組織肉腫は、治療戦略を最適化するためのモデルとして役立ってきた。局所制御を高めることを目的としたプロトコール、特に、低体温法と併用されることが多い補助放射線療法を使用するものが、ヒト患者のための新規治療プロトコールを導いてきた。熱が放射線療法または化学療法の有効性を高め得るという知見によって、限局化された温熱療法への興味が刺激された。局所および全身温熱療法研究によって、血管作用性薬などの温熱療法を誘導するための薬理学的アプローチが試験された。イヌにおける研究はまた、化学療法薬の薬物動態に対する温熱療法の効果のモデルも作り、低酸素症のバイオマーカーおよび予測的画像処理技術の開発を助けてきた。コンパニオンアニマルにおける軟組織肉腫はまた、新規化学療法製剤を試験するためのモデルとして役立ってきた。例えば、生分解性ポリマー中の持続放出性シスプラチンの有効性が、イヌ軟組織肉腫において試験され、リポソームにカプセル化されたドキソルビシン(ドキシル)の有効性が、ワクチン関連ネコ肉腫において試験された。
【0075】
血管肉腫
血管肉腫(HSA)は、迅速な、広範な転移によって特徴付けられる血管内皮細胞の腫瘍である。ヒトでは稀であり、すべての腫瘍の1%未満しか占めないが、すべてのイヌの悪性腫瘍の5〜7%を占める。イヌの生涯の癌のリスクを30〜50%の範囲に仮定すれば、この癌は、米国では、推定7200万頭のペットのイヌのうち150〜250万頭に影響を及ぼし得る。HSAは、ほとんどの場合、脾臓で始まるが、肝臓、心臓の右心房および皮膚においても形成し得る。それらは、中年のイヌ(>6歳)において生じる傾向があり、バーネーズマウンテンドッグ、ボクサー、フラットコテッドレトリーバー、ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバー、ポヂュギースウォータードッグおよびスカイテリアにおいて高い有病率であり、1つの調査によれば、ゴールデンレトリーバーにおけるHSAの発症率は、ほぼ5頭に1頭である。イヌHSAは、ヒトにおける血管肉腫(angiosarcoma)に匹敵すると思われ、また、はるかに高い頻度で生じるので、臨床試験の重要な代替を提供し得る。化学療法は、通常、ドキソルビシンおよびシクロホスファミド+/−ビンクリスチンの組合せは、HSAの最もよくある治療的アプローチであるが、生存期間中央値は、わずか145〜180日である。
【0076】
乳癌
乳癌およびイヌ乳腺腫瘍は、いくつかの疫学的および生理学的類似性を有する。乳癌は、北米の女性における癌の主な原因であり、すべての癌の30%近くを占め、米国女性の乳癌の生涯のリスクは、12%である。乳腺腫瘍(MGT)は、雌のイヌではすべての腫瘍の52%を占め、すべての卵巣除去されていない(unsprayed)イヌの26%で生じる。乳癌およびMGTの間には、相当な遺伝的および組織学的類似性があるが、遺伝子発現および薬物反応においては重要な相違もあり、これが種間の治療戦略をトランスレートする取り組みを複雑にする。MGTは、ホルモン依存性であり、これらの腫瘍の50〜60%は、エストロゲン受容体またはプロゲステロン受容体を発現し、卵巣子宮摘出術(卵巣除去)は、MGTを発症するリスクを0.5%に低下させる。ヒト乳癌もまた、ホルモン依存性であり、エストロゲンまたはプロゲステロン受容体に影響を及ぼす薬物で治療されることが多いが、エストロゲン受容体アンタゴニストタモキシフェンは、イヌでは実証可能な抗腫瘍活性を有さない。遺伝子レベルでは類似性も相違もある。癌遺伝子c−erbB−2の発現は、ヒト乳癌では、より侵襲性の悪性の表現型と相関する。同様に、c−erbB−2は、悪性のイヌ乳房腫瘍の74%で過剰発現されるのに、良性腫瘍では0%で過剰発現されている。腫瘍抑制遺伝子BRCA1/BRCA2の突然変異は、ヒト乳癌のリスクの増大と関連している。一部のMGTにおける、BRCA1のスプライシング変異体の最近の報告はあるが、BRCA1の発現および変異体は、イヌ乳腺腫瘍では、あまり立証されておらず、MGTの転移におけるBRCA2およびRAD51(BRCA1およびBRCA2と相互作用する)の上方制御は、これらのイヌ腫瘍における遺伝子発現のより詳しい分析の必要性を示す。ホルモン治療と同様に、MGTの治療への化学療法薬の適用は不確かである。いくつかの概説によれば、イヌMGTでは、化学療法薬なしで、一貫した効果が提供されているが、ドキソルビシンに対するいくつかの部分的な反応が立証されており、シスプラチンが推奨されることもある。多数の類似性にも関わらず、イヌMGTが、ヒト乳癌の関連治療モデルであるかどうかは不明確なままである。遺伝子発現のさらなる研究によって、ヒト乳癌およびMGTの共通の標的が同定され、イヌ腫瘍の治療のためのヒト化学療法の適用が導かれ得る。
【0077】
黒色腫
皮膚癌は、米国ではすべての癌のうち最もよく見られるものである。黒色腫は、比較的珍しい形態であるが、皮膚癌の症例の5%未満を占め、皮膚癌による死亡の75%に相当する。新規症例の割合は、過去8年にわたって比較的安定しており、2009年に68,720人の新規症例があり、その結果として、8,650人の死亡があったと推定された。世界保健機構のレポートによれば、1年に世界中でおよそ48,000人の黒色腫に関連する死亡がある。黒色腫の全リスクは、民族性によって変わり、白色人種の2%からヒスパニック系アメリカ人の0.5%およびアフリカ系アメリカ人における0.1%の範囲である。現在の治療選択肢として、外科的切除および化学療法(ダカルバジン、カルムスチン、シスプラチン、タモキシフェン、ビンブラスチン、テモゾロミドおよびパクリタキセルを用いる単一または併用治療を含む)が挙げられる。黒色腫は、イヌにおいて4番目に最もよく見られる癌であり、口腔に生じることが多いが、指、皮膚および眼も起源とする。口腔黒色腫は、伝えられるところでは、ダックスフンド、ゴールデンレトリーバー、プードルおよびスコティッシュテリアにおいて最もよく観察される。ヒトにおける進行性黒色腫と同様に、イヌにおける黒色腫は、通常、化学療法および放射線療法に対して耐性であり、侵襲性転移が、治療失敗および死亡の根本原因である。
【0078】
イヌおよびヒト黒色腫は、生理学および治療に対する反応の共通の特徴を共有するので、イヌにおける臨床試験は、ヒト黒色腫のための新規治療戦略への重要なトランスレーショナルな架け橋(translational bridge)を提供し得る。免疫療法アプローチには、自己腫瘍細胞ワクチン(修飾されていない、または免疫賦活性サイトカインおよび/またはメラノソーム分化抗原をトランスフェクトされた)、免疫賦活性サイトカイン(例えば、IL−2、GM−CSF)をトランスフェクトされた同種異系の腫瘍ワクチン、自然免疫刺激剤(例えば、L−MTP−PE)およびDNAワクチン(例えば、Fasリガンド、IL−2またはGM−CSFをコードするプラスミド)が含まれていた。イヌ黒色腫におけるL−MTP−PEの無作為化臨床試験によって、ステージI黒色腫において80%長期生存の利益が示されたが、より進行した(ステージIIおよびIII)黒色腫では利益はなかった。第I相臨床試験では、GM−CSFをトランスフェクトされた自己黒色腫細胞を用いるワクチン接種は限局性の炎症およびいくつかの腫瘍破壊の組織学的エビデンスを誘導した。その他のワクチンアプローチでは、プラスミドDNAを黒色腫中に直接注入してきた。ステージII〜IVの進行した悪性黒色腫を有する9頭のイヌの第I相臨床試験では、チロシナーゼを発現する腫瘍細胞に対する細胞性免疫を誘導しようとしてメラノソーム分化抗原チロシナーゼをコードするDNAを注入した。この免疫療法は、処理されたイヌの33%において抗体応答を誘導し、生存期間中央値を389日に延長し、従来の療法によってもたらされる生存を1〜5ヶ月、大幅に長期化した。
【0079】
非ホジキンリンパ腫
非ホジキンリンパ腫(NHL)は、癌による死亡の6番目の主な原因であり、米国では、3〜4%の発症率があり、2009年には、米国で推定66,000人の新規症例をもたらし、化学療法で治療された患者の5年生存率は50〜60%である。新規症例の95%を越えるものが成人で生じ、発症の平均年齢は60歳である。NHLはまた、イヌにおいても比較的よく見られ、その発症率は、25/100,000頭であり、すべての悪性腫瘍の5%、すべての造血悪性腫瘍の83%を占める。イヌNHL症例のおよそ70〜80%は、Bリンパ球起源のものであるが、より稀なT細胞リンパ腫は、大きく不良な予後と関連している。NHLの最高の有病率は、ジャーマンシェパード、ボクサー、プードル、バセットハウンドおよびセントバーナードで生じる。ほとんどのイヌの症例は、ステージIII〜IVのヒトNHLと似ており、治療を受けなければ、疾患進行は比較的迅速であり、その結果、診断後4〜6週以内に死亡する。組織学的類似性に加え、イヌおよびヒトNHLは、ドキソルビシン、シクロホスファミドおよびビンカアルカロイドに対する反応性を含め、類似の化学療法薬感受性を共有する。ヒト臨床診療と同様に、イヌNHLのほとんどの現在の治療プロトコールは、複数の、交互の組合せの薬物を使用し、その結果、報告される反応率は、86〜91%の範囲である。
【0080】
ネコでは、NHIは、125/100,000の発症率を有し、最もよく見られる癌であり、すべてのネコ腫瘍の1/3近くを含む。イヌNHLとは対照的に、ネコNHLのかなりの割合が、Tリンパ球系のものであり、レトロウイルス、ネコ白血病ウイルス(FeLV)による形質転換の結果である。イヌと同様に、ネコNHLは、極めて化学物質反応性であり、連続併用化学療法は、60〜70%の緩解率に達する。ヒト腫瘍とのその類似性に基づいて、イヌおよびネコNHLの両方が、治療アプローチを最適化するための代替としてとして役立っている (実施例参照のこと)。
【0081】
膀胱癌
膀胱癌は、米国では、男性では4番目の最もよく見られる癌であり、女性では9番目に最もよく見られる癌である。発症率の相違、年間50,000人の男性および16,000人の女性は、膀胱癌の発生におけるアンドロゲン受容体の主要な役割と関連している可能性がある。膀胱癌の大部分は、膀胱の内膜の細胞を起源とする移行性上皮癌(90%)であり、残りの10%は、扁平上皮癌、腺癌、肉腫および小細胞癌を含む。移行性上皮癌(TCC)はまた、イヌの膀胱癌の最もよく見られる形態であり、組織学、生物学的挙動および療法に対する反応において浸潤性ヒトTCCと酷似している。その他の癌と同様に、品種と関連して、感受性に変動があり、例えば、スコティッシュテリアは、18倍高いTCCを発症するリスクを有する。
【0082】
膀胱癌患者のための現在の治療選択肢として、手術、放射線療法および化学療法が挙げられる。イヌTCCは、これらのアプローチに対して同様に反応性であり、新規治療の開発および最適化のための有用なモデルであった。イヌTCCは、白金およびアントラサイクリンベースのプロトコールに対して中程度の反応を示し、目的反応率は約30%であり、MSTは4〜8ヶ月である。シクロオキシゲナーゼ(cyclooxyenase)阻害薬ピロキシカムを用いる治療は、18%の目的反応率もたらし、これは、容認できない腎毒性という代償を払って、シスプラチンの添加によってさらに向上させることはできる。イヌTCCは、光線力学的治療の前臨床試験の有用なモデルとわかっている。
【0083】
本発明はまた、癌と関連している、いくつかの場合には、癌の遺伝子発現プロファイル、プロテオミクスプロファイルまたはメタボロミクスプロファイルと関連している1種または複数のバイオマーカー、を同定するためのプラットフォーム技術の使用を包含する。本発明の一態様では、多重化バイオマーカーためにプラットフォーム技術を使用できる。限定されない一例では、遺伝子チップでのメチル化パターンを使用して、種々の癌の正常対異常メチル化パターンを研究できる。別の限定されない例として、複数のバイオマーカー(例えば、15〜18種のバイオマーカー)を保有でき、一実施形態では、少量(例えば、1pg/ml)で検出可能である磁性アレイの使用がある。別の限定されない例として、数百種のバイオマーカーを同時にまたはほぼ同時に評価できるアプタマーの使用がある。
【0084】
いくつかの癌の症例では、腫瘍随伴症候群が観察される。一態様では、腫瘍随伴症候群は、身体における癌の存在の結果であるが、癌細胞の局所的な存在によるものではない疾患または症状である。これらの現象は、腫瘍細胞によって、または腫瘍に対する免疫応答によって排出された体液性因子によって(ホルモンまたはサイトカインによって)媒介され得る。腫瘍随伴症候群の症状は、悪性の診断のかなり前に示すことがある。腫瘍随伴症候群は、4つの主なカテゴリー:内分泌、神経学的、粘膜皮膚および血液学的腫瘍随伴症候群に分けることができる。別の態様では、腫瘍随伴症候群は、癌性腫瘍または「新生物」に対する異常な免疫系反応によって引き起こされる稀な障害の群であり得る。理論に束縛されるものではないが、一態様では、腫瘍随伴症候群は、抗癌抗体または白血球(例えば、T細胞)が、神経系中の正常な細胞を間違って攻撃する場合に起こり得る。したがって、一実施形態では、腫瘍随伴症候群をより効果的に研究できるよう、免疫系は無傷で残される。
【0085】
本発明の別の態様では、自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルの使用は、より重篤な状態へ進行するよう誘導されてない形態である癌の研究を可能にする。一実施形態では、研究されている癌は、前転移である。抗癌薬の使用は、炎症を引き起こす場合があり、炎症が、癌を、前転移癌から転移癌に進行させる場合がある。自発的に生じる疾患の動物モデルを使用することによって、このような癌、調べられている癌は、そうでなければ、化学療法的および/または放射線療法的介入がなければ進行していなかった形態に進行するように、さらに誘導されることはない。
【0086】
このように、動物の免疫系は、自然の状態にできる限り近く維持される。これは、免疫系の生物学的または生理学的状況の正確な研究に役立ち、したがって、より有意義な科学的データの作成を可能にする。この科学的データは、次いで、抗癌治療薬の同定のために使用できる。
【0087】
自己免疫および神経変性性疾患および/または障害
コンパニオンアニマルにおいて観察され、トランスレーショナル医療において使用するために活用することができる別のクラスの自発的に生じる疾患として、自己免疫疾患のクラスがある。コンパニオンアニマルにおいて観察され、ヒトにおいて使用するために活用することができる別のクラスの自発的に生じる疾患として、以下に詳述される神経変性性の(neudegenerative)および神経学的疾患および/または障害がある。自己免疫疾患として、それだけには限らないが、糖尿病(例えば、若年性糖尿病、尋常性天疱瘡、重症筋無力症、自己免疫性溶血性貧血、関節リウマチ、多発性関節炎、多発性筋炎、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、円板状紅斑性狼瘡、心筋症(例えば、拡張型心筋症)、ナルコレプシーおよび血小板減少症が挙げられる。
【0088】
本明細書に記載されるプラットフォーム技術を使用して、種々の自己免疫疾患と関連している1種または複数の新規自己抗原を同定できる。本発明の一態様では、複数の抗原および/または自己免疫バイオマーカーは、自発的に生じる自己免疫疾患を有するコンパニオンアニマルを使用して評価される。これらの自己抗原および/または自己免疫バイオマーカーは、ヒトにおいて自己免疫疾患に対処するための療法およびその他の治療法の標的であり得る。
【0089】
イヌおよびネコ主要組織適合複合体
ヒト白血球抗原(HLA)複合体と呼ばれる、ヒト主要組織適合複合体(MHC)は、3.6MbストレッチのDNA中に、免疫機能分子の>40種のコーディングを含む>200種の遺伝子座を含有する。HLAクラスI分子(A、B、C)は、内因性ペプチドと結合し、細胞内病原体およびその他の正常な細胞機能の混乱のサーベイランスのために、それらをCD8T細胞に提示する。HLAクラスII分子(DR、DP、DQ)は、特定の細胞(例えば、マクロファージ、樹状細胞)中で処理された外因性ペプチドと結合し、細胞外病原体のサーベイランスのためにそれらをCD4T細胞に提示する。多数のHLA遺伝子が、高レベルの対立遺伝子多型を有し、これによってヒト集団が、潜在的病原体に由来する広範なペプチドと結合することが可能になる。HLA分子はまた、自己タンパク質に由来するペプチドとも結合し、HLA−自己ペプチドの組合せに対するこれらのT細胞反応性は、通常、初期発生の間に排除され、その結果、自己に対して耐性となる。耐性が機能停止すると、活性化されたT細胞および自己抗体が自己タンパク質およびそれを発現する組織を攻撃し、自己免疫疾患を引き起こす。より多くの疾患が、任意のその他のゲノム領域よりもHLAと関連しており、特定の自己免疫疾患は、特定のHLA対立遺伝子と関連している。自己免疫疾患の病因論は未知であるが、HLA遺伝子は、通常、最高の遺伝子リスク因子である。広範な自己免疫疾患に対する感受性および耐性は、特定のHLAクラスIおよびII対立遺伝子と相関しており、これらの関係は、自己免疫疾患間で異なる。HLA対立遺伝子の研究は、自己免疫疾患の理解および治療戦略の開発を支援している。
【0090】
イヌでは、HLAファミリーの遺伝子に対応するものは、イヌ白血球抗原(DLA)領域と呼ばれる。血統の明らかなイヌ品種においてDLA遺伝子の特徴を分析することによって、特定のヒト民族および単離された遺伝的集団のように、特定の自己免疫障害と強い相関を示す明確な亜集団が提供される。イヌゲノムのマッピングは、ヒトおよびマウスゲノムに遅れを取っているが、過去10年では精密な調査が漸増した。イヌ古典的および拡張MHCクラスII領域中の711,521bpの分析によって、機能的に発現されると予測される29種を含む45種の遺伝子座が示された。2005年には、25種のAKC登録されたイヌ品種に相当する360頭のイヌを分類することによって、品種にわたる広範なDLAクラスII対立遺伝子多様性を同定し、試験された25品種間で、31/61種の公開されたDLA−DRB1対立遺伝子、11/18種の公開されたDLA−DQA1対立遺伝子および31/47種の公開されたDLA−DQB1対立遺伝子が同定された。品種間の対立遺伝子の多様性とは対照的に、個々の品種内では、DLAクラスII遺伝子における対立遺伝子の多様性は非常に限られている。DLA対立遺伝子は、多数の品種によって共有されるものもあれば、単一の品種または小さい関連セットの品種に特有であるものもある。例えば、同定された31種のDRB1対立遺伝子のうち17種は、単一の品種のみで見られ、DLA−DRB1*00101(16品種)およびDLA−DRB1*01501(19品種)を含めた7種の対立遺伝子のみが、=7種の品種によって共有されていた。DLA−DQA1*00101およびDLA−DQA1*00601対立遺伝子もまた、多数の品種によって共有されていた。同様に、DLA−DQB1*00201およびDLA−DQB1*02301も多数の品種で見られ、それぞれ、17種および18種の品種によって共有されていた。個々の血統の明らかなイヌでは、HLA対立遺伝子でのホモ接合性は一般的であり、試験したイヌの40%が、DLA−DRB1でホモ接合性であり、52%がDLA−DQA1でホモ接合性であり、44%が、DLA−DQB1でホモ接合性であった。北米および欧州の純血種のイヌは、同様の頻度のHLA対立遺伝子を有しており、創始者効果と一致していたが、北米の品種は、北米で確立された時点でいくつかのDLAクラスII多様性を失っていた場合もあった。その他のイヌ集団においてHLA遺伝子を配列決定することによって、ハイイロオオカミと共有される対立遺伝子を含むさらなる多様性が示された。遺伝子研究がより精緻になったので、以下に論じられるように、自己免疫疾患と関連している特定のDLA対立遺伝子のますます増える例が実証されてきた。
【0091】
本発明の一態様では、自己抗原は、以下の糖尿病抗原:GAD65、全長IA−2、膜近傍ドメイン(IA2のアミノ酸605〜682)のうち1種または複数を含まない。本発明の別の態様では、自己抗原は、以下の拡張型心筋症自己抗原:ミオシン重鎖、アルファ心筋アクチン、ミトコンドリアのアコニット酸ヒドラターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)および脳グリコーゲンホスホリラーゼ(GPBB)のうち1種または複数を含まない。
【0092】
神経学的および神経筋障害
炎症性筋疾患(IM)
炎症性筋疾患は、慢性筋肉炎症によって特徴付けられる筋肉疾患の群であり、筋炎および筋力低下と呼ばれることもある。炎症性筋疾患の3種の主な種類として、多発性筋炎、皮膚筋炎および封入体筋炎がある。多発性筋炎は、骨格筋に影響を及ぼし、18歳未満で発症することは稀であり、患者の症例の大部分は、31〜61歳の間である。進行性の筋力低下は、歩行困難、階段上り困難、嚥下困難、発話困難を引き起こす場合があり、頭上の対象に達する。皮膚筋炎(Dermatomysotis)は、進行性の筋力低下に先行するか、それを伴う皮膚の発疹である。多発性筋炎とは異なり、乳房、肺または腸の腫瘍を伴い得る。皮膚筋炎の一部の症例は、皮下または筋肉内にカルシウム沈着を含み、石灰沈着症と呼ばれる。封入体筋炎は多発性筋炎と似ているが、発症年齢はより早く、最初に、小児の年齢2〜15歳で現れる。症状として、近位筋力低下および炎症、浮腫、筋肉痛および腹痛、発熱、拘縮(関節の周囲の短縮した筋肉または腱)および嚥下困難および呼吸困難が挙げられる。封入体筋炎は、多発性筋炎および皮膚筋炎とは異なり、男性においてより多く見られる。これらの状態の診断は、症状および病歴に基づき、特定の筋肉酵素(例えば、クレアチンキナーゼ)および自己抗体のレベルの上昇、筋電図検査、超音波、MRIおよび生検によって確認される。IMの病因論は未知であるが、HLAの関連性および最近発見された自己抗体は、自己免疫起源を示す。弧発性封入体筋炎は、HLA−DR3(具体的には、DRB1*0301)および先祖ハプロタイプHLA−A1、B8、DR3のその他の成分と関連付けられている。最近のエビデンスによって、特発性IMの症例の約半分における特定のタンパク質に対する自己抗体の検出が、患者のサブセットおよび臨床成績と相関することが示唆されている。例えば、若年性皮膚筋炎を有する患者の23%が、検出可能な抗p140自己抗体を有する。アミノアシル−トランスファーRNAシンセターゼ、抗シグナル認識粒子およびMi−2に対する自己抗体が、IM患者の他のサブセットにおいて検出されている。多発性筋炎および皮膚筋炎(dermatomyostitis)は、まず高用量プレドニゾンまたはその他の副腎皮質ステロイドを用いて治療され、プレドニゾンに無応答性の患者は、炎症を低減するためにアザチオプリンおよびメトトレキサートなどの一般的な免疫抑制薬を投与される。その他の治療として、静脈内免疫グロブリン、シクロスポリンA、シクロホスファミドおよびタクロリムスを挙げることができる。封入体筋炎は、副腎皮質ステロイドおよび免疫抑制薬に対して、通常、無応答性であるので、それを治療するための標準レジメンはない。
【0093】
イヌもまた、炎症性筋疾患を発症し、その病理および治療への調査は、ヒトにおける治療戦略を導いている。咀嚼筋筋炎(MMM)、咀嚼を制御する筋肉に影響を及ぼす炎症性疾患は、イヌにおいて最もよく見られる炎症性筋疾患である。この疾患は、ジャーマンシェパードおよびキャバリアキングチャールズスパニエルをはじめとする大型品種のイヌを主に苦しめる。類似の疾患は、一部のゴールデンレトリーバーの眼の筋肉に影響を及ぼす。プレドニゾンなどの副腎皮質ステロイドが、MMMの主な治療であり、最大4〜6ヶ月、漸減する用量を用いる。多発性筋炎の症例はまた、抗炎症および免疫抑制戦略として副腎皮質ステロイドを用いて治療され、不応性の症例には、シトキサンおよびイムランへと拡大する。MMMは、顎の筋肉中の2Mの線維、細菌の表面で見られるタンパク質と似ているが、身体中のどこにもない線維の種類によって特徴付けられる。53頭のMMMを有するイヌ、多発性筋炎を有する32頭および両方を有する4頭のイヌの研究によって、両方の炎症性筋疾患が、筋肉繊維破壊を開始し、ミオシンに対する自己抗体の産生につながるCD8+媒介性自己免疫疾患であることが示唆されている。イヌMMMのその他の研究によって、咀嚼筋線維内でのみ発現され、ヒト筋肉においても発現される、咀嚼ミオシン結合タンパク質Cと名づけられたミオシン結合タンパク質Cファミリーの新規メンバーに対する自己抗体が同定された。イヌ炎症性筋疾患における筋肉特異的自己抗原の発見は、ヒトミオパチーにおける対応する標的の探索を導き得る。
【0094】
重症筋無力症(MG)
重症筋無力症は、比較的稀であり、推定有病率は100万人あたり200〜400人の症例であり、米国にはおよそ36,000〜60,000の症例がある(14、15)。MGは、神経筋接合部(NMJ)の筋肉側の欠陥によって引き起こされ、最適以下のシグナル伝達および筋力低下をもたらす。正常な筋肉では、神経インパルスが、アセチルコリンを放出し、それがNMJを超えて移動し、筋肉上のアセチルコリン受容体(AChR)と結合し、AChRサブユニットによって形成されるイオンチャネルを開け、ナトリウムイオン流動、膜の脱分極および筋肉収縮を引き起こす。先天性MGの極めて稀な症例は、AChRサブユニットの1つにおける機能的突然変異によって引き起こされる。後天性MGは、NMJの筋肉側のタンパク質に対する免疫応答によって特徴付けられる、未知の病因論の自己免疫障害である。80〜90%の症例では、患者は、AChRに対する抗体を発生させ、これが、NMJで機能的受容体の密度を低下させ、シナプス後膜に補体媒介性損傷を引き起こし、10〜20%の自己免疫MG患者は、抗AChR抗体について血清陰性であり、代わりに、筋肉特異的キナーゼ(MuSK)またはリアノジン受容体(RyR)などのその他のNMJ成分に対する抗体を有する。MGは、眼瞼下垂(drooping eyelids)(眼瞼下垂(ptosis))および複視(double vision)(複視(diplopia))をはじめとする症状を有し、眼の筋肉に限定されている場合もあり、または肢、横隔膜、中咽頭およびその他の筋肉群に拡張し、付随する歩行困難、嚥下困難および補助換気を必要とし得る呼吸困難を伴う場合もある。MGは、一般に、ネオスチグミンまたはピリドスチグミン、NMJにおけるアセチルコリンの長期の存在を可能にし、NMJで、アセチルコリンが限定されたAChRと結合できるアセチルコリンエステラーゼ(acetycholinesterase)の阻害剤を用いて治療される。いくつかの場合には、自己免疫応答を制御するために、プレドニゾン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルまたはアザチオプリンなどの免疫抑制薬をアセチルコリンエステラーゼ阻害剤に加える。胸腺摘除術、胸腺の外科的除去は、胸腺腫を有するMG患者の10〜15%のでは症状を低減し、その他のMG患者にも同様に利益になり得るが、利益は、術後2年〜5年までは生じない場合もある。
【0095】
MGは、最もよく見られるイヌの神経筋障害である可能性が高い。ヒト版と同様に、イヌのMG症状として、顔面筋および外眼筋の脱力ならびに運動に伴い悪化する肢の脱力が挙げられる。その他の症状として、嚥下困難、拡張した食道(巨大食道)、緊張喪失および食物の胃への輸送困難および誤嚥性肺炎につながり得る逆流を挙げることができる。ヒト筋無力症と同様に、イヌにおいてMGを確認するために利用可能ないくつかの診断検査がある。診断は、血清におけるAChRに対する血清抗体の検出に基づくことが多く、この検査はカリフォルニア大学サンディエゴ校のComparative Neuromuscular Laboratoryを介して入手可能である。その他の診断検査として、筋肉生検におけるAChRレベルの低下、筋電図検査、巨大食道について調べるためのX線および短時間作用型コリンエステラーゼ阻害薬、塩化エドロホニウム(テンシロン検査)の投与後の臨床症状の一時的改善が挙げられる。MGと診断されたイヌの90%を超えるものが、AChR抗体について血清陽性であるヒトMG患者の頻度に匹敵する、検出可能な抗AChR血清力価を有する。これらのヒト患者では、また、精製AChRおよびアジュバントを用いる免疫化によって誘導されたMGの動物モデルでは、これらのAChR抗体の高い百分率が、AChRアルファサブユニットのアミノ酸残基61〜76によって形成されるコンホメーショナルエピトープ、主要免疫原性領域(MIR)と呼ばれる領域と結合する。同様に、イヌのMGでは、抗AChR抗体の68%が、MIRと結合する。その他の類似性として、限局性MGと呼ばれる、一部のヒトMG患者における外眼筋への制限と似ている一部のイヌにおける限定されたセットの筋肉の脱力が挙げられる。ヒトMGと同様に、イヌの後天性MGの症例のサブセットは、胸腺腫、胸腺の頭側縦隔の腫瘍を含む。胸腺摘除術は、胸腺腫を有するにしても有さないにしても、ヒトMG患者のための一般的な治療であるが、筋無力症のイヌおよびネコの治療にとっては一般的な診療ではない。
【0096】
イヌにおいて後天性MGを発症する平均年齢は、5歳である。1991年〜1995年の間に記録されたイヌのMGの1,154の症例における、純血種のイヌおよび雑種のイヌにおける発症率の比較によって、アキタ、ジャーマンショートヘアードポインター、チワワ、スコティッシュテリアおよびテリアの群中のその他のもの、ロットワイラー、ドーベルマンピンシェル、ダルメシアンについて、後天性(自発的な自己免疫)MGのリスクの上昇が実証され、ジャックラッセルテリアは、後天性MGの低い相対リスクを有していた。その他の情報源は、大型の品種、特に、ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバーおよびラブラドールレトリーバーにおいて後天性MGのリスクの上昇を言及しているが、先天性MGは、ジャックラッセルテリア、スプリンガースパニエルおよびスムースヘアフォックステリアにおいてより多く見られた。2つの別個の研究が、17%の死亡率を報告している。ヒトと同様に、イヌのMGのための一般的な治療は、ピリドスチグミン(Mestinon)、神経筋接合部におけるアセチルコリンの存在を延長するアセチルコリンエステラーゼ阻害剤である。プレドニゾンなどの副腎皮質ステロイドは、抗コリンエステラーゼ療法が効果的ではない場合に投与される。副腎皮質ステロイドが、真性糖尿病、高血圧、同時感染のために禁忌となる場合またはMGの症例が標準治療に対して不応性である場合には、アザチオプリンなどの、より強力な免疫抑制剤が使用される。多くの症例で、治療的介入は不必要であり得る。ヒト患者とは異なり、筋無力症のイヌの90%近くが、治療的処置がなくても疾患発症の18ヶ月以内に自発的に緩解する。筋力低下および陽性AChR抗体力価を有する53頭のイヌの研究では、自発的な臨床的緩解および免疫学的緩解が、平均時間6.4ヶ月で、53頭中47頭のイヌ(88.7%)で生じ、自発的に緩解しなかった6頭のイヌすべてで新生物が指摘された。自発的な緩解の際に、AChR力価は、低下または上下する。しかし、感染性病原体に対するワクチン接種は、自発的な緩解にあったイヌにおいて、MGの再発を誘導し得る。耐性の維持または再確立における調節性T細胞の役割は、最近、精力的な研究の領域となり、イヌにおけるMG発症および自発的な緩解の際の、AChRに特異的なエフェクターおよび調節性T細胞間のバランスをモニタリングするのに有益であり得る。このような研究によって、ワクチン接種が、全般的なエフェクターT細胞増加を引き起こし、調節性T細胞を増加することによって駆動される緩解を覆すかどうかが示され得る。これが症例を証明する場合には、調節性T細胞を低減し得る広い免疫抑制を避けることが賢明であり得、代わりに、調節性T細胞の集団を増加させることに、将来の治療戦略を集中させる。
【0097】
ナルコレプシー
ナルコレプシーは、睡眠覚醒周期の調節不全によって引き起こされる慢性神経疾患であり、日中の過剰な眠気および不適当な、多くの場合突然の睡眠の発生をもたらす。ナルコレプシーは、これらの不規則な睡眠エピソードに加えて、脱力発作、強い感情によって誘導されることもある随意筋緊張の突然の喪失、睡眠の開始または中断の際の鮮明な幻覚および睡眠周期の始まりまたは終わりでの完全麻痺の短いエピソードをはじめとする関連症状を示す場合がある。24時間の期間の間の総睡眠の長さは、ナルコレプシーおよび正常な睡眠で同様であるが、睡眠期間の数およびノンレム対レム睡眠の割合が、大きく異なっている。通常の睡眠周期は、ノンレム睡眠で始まり、80〜100分後にレム睡眠に移行する100〜110分である。対照的に、ナルコレプシーの患者は、入眠の数分内にレム睡眠に入り、1日を通して、より散発的にばら撒かれる多数の短い睡眠周期を有し得る。ナルコレプシー有病率は、集団間で変わり、米国では、2,000人の個体に1人、イスラエルでは、500,000人に1人、日本では、600人に1人を苦しめる。ナルコレプシーのほとんどの症例が、10〜25歳の間に最初に現れる。
【0098】
理論に束縛されるものではないが、ナルコレプシーは、ヒポクレチン、覚醒を促進するホルモンのレベルの低下によって引き起こされる。これらの低いレベルは、脳においてヒポクレチンを分泌するニューロンの減少による。しかし、稀な症例を除いて、ヒポクレチン遺伝子は、ナルコレプシー患者で突然変異されていない。ナルコレプシーは、複数のファミリーメンバーで起こり得るが、これらの例は、症例の10%未満を占めるにすぎず、双生児の研究によって、非遺伝的因子の強い影響が示されており、このことは、環境誘因を示唆する。最初に立証されたナルコレプシーとの関連は、ヒト組織適合ハプロタイプHLA−DR2にマッピングされ、その後、DQB1*0602対立遺伝子に局在化された。脱力発作を有するナルコレプシーの90%超が、DQB1*0602対立遺伝子を有し、白色人種対照における25%の頻度を上回って大幅に増大している。ナルコレプシーはまた、アジア人およびアフリカ系アメリカ人では、DQB1*0602と強力に関連している、異常に強いHLA対立遺伝子関連。このHLA関連に基づいて、ナルコレプシーは、環境誘因に対する自己免疫反応であると示唆されている。ナルコレプシーにおける自己免疫病理を確認するための試みは、困難であり、賛否両論がある。自己免疫仮説の支持は、ナルコレプシーのヒトから得た抗体を注射したマウスにおけるナルコレプシー様症状の誘導から来ている。しかし、ヒポクレチン、hcrt−1およびhcrt−2に対する自己抗体の放射リガンド結合実験スクリーニングでは、脱力発作を有するナルコレプシー(5%)および健常な対照(3%)の血清において同等に低い頻度を検出した。対照的に、最近の研究は、Tribbles相同体2(Trib2)、ヒポクレチン産生ニューロンにおいて豊富な転写物および自己免疫ブドウ膜炎における自己抗原が、とらえどころのないナルコレプシー自己抗原であり得ることを示唆した。ELISAアッセイによって、ナルコレプシー患者の血清およびCSFにおいてTrib2に対する高い自己抗体力価が検出され、この血清は、マウス視床下部においてヒポクレチンニューロンの>86%と結合した。自己免疫病因論のさらなる証拠は、807人のHLA−DQB*0602陽性白色人種ナルコレプシーおよび1074人の対応させた対照の最近のゲノム規模での関連研究から来ている。遺伝子解析によって、TCRA遺伝子座の18Kbのセグメント、連結セグメントをコードするT細胞受容体遺伝子の領域およびT細胞受容体ベータ(TCRB)遺伝子座のVセグメント中の別のマーカーにおいて、高い連鎖不均衡で3種のマーカーが同定された、この研究は、ほとんどのヒトナルコレプシーの症例の自己免疫起源を断定する。自発的なナルコレプシーは、1970年代にイヌにおいて最初に記載された。しかし、ほとんどのイヌでは、これは、イヌ組織適合複合体、DLAとは関係しない常染色体劣性形質である。それにも関わらず、ナルコレプシーのイヌ型は、ヒト状態の理解にとって極めて重大であった。1999年に、ナルコレプシーのドーベルマンピンシェルおよびラブラドールレトリーバー飼育株の研究によって、ナルコレプシーとヒポクレチン/オレキシン受容体(Hcrtr−2)遺伝子の調節不全間の連関が立証された。遺伝子起源の相違にも関わらず、天然に存在するイヌモデルは、ヒトナルコレプシー患者のための治療の最適化にとって有用であった。
【0099】
神経セロイドリポフスチン症/バッテン病
神経セロイドリポフスチン症(NCLまたはCLN)は、小児を苦しめる常染色体劣性神経変性リソソーム蓄積症の群である。群として、NCLは、レチナールおよび脳萎縮をはじめとする細胞変性につながる、ニューロンおよびその他の細胞におけるリポフスチン(lipofucsin)に似たリソソーム蓄積体の細胞内蓄積によって特徴付けられる。それらは、小児において最もよく見られる進行性の神経変性性疾患であり、発症率は、12,500人の生児出生に1人であり、米国ではおよそ440,000人の保有者がいる。サブタイプは、発症の年齢および原因である遺伝子に基づいて分類されている。ハルチア−サンタブオリ病(Haltia−Santavuouri disease)(小児性NCL、CLN1);ヤンスキー−ビールショースキー病(Jansky−Bielschowsky disease)(遅発型小児性NCL、CLN2);バッテン病(若年性NCL、CLN3);クッフス病(Kufs disease)(成人性NCL、CLN4);および2種の遅発型小児性変異体型、CLN5およびCLN6。しかし、すべてのNCLをバッテン病として分類する医師もいる。CLN1は、リソソーム酵素パルミトイルタンパク質チオエステラーゼ(PPT1)リソソームタンパク質チオエステラーゼ(thiolesterase)をコードし、CLN2は、リソソームトリペプチジルタンパク質ペプチダーゼ(TPP1)をコードする。CLN8は、てんかんおよび進行性の精神遅滞と関連している。CLN3は、リソソーム膜中に存在し、シナプス小胞タンパク質と共存する機能未知のタンパク質をコードする。バッテン病患者の3/4近くが、両染色体上のCLN3遺伝子中に1.02kbの欠失を持っており、残りは、CLN3における、ミスセンス突然変異、ナンセンス突然変異、欠失、挿入およびその他の欠陥が占めた。欠陥のあるCLN3は、てんかん、精神的欠陥、進行性の失明、言語障害および運動技能の喪失につながり、10代後半または20代によっては致死的であることが多い。バッテン病患者は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD65)に対して自己免疫応答を有する。患者の血清の調査は、試験された20人の個体すべてにおいて抗GAD65自己抗体を示した。グルタミン酸デカルボキシラーゼは、興奮性神経伝達物質グルタミン酸を阻害性神経伝達物質ガンマアミノ酪酸(GABA)に変換することに関与する酵素であり、したがって、抗GAD自己抗体は、過剰の興奮性神経伝達物質を引き起こし、てんかんにつながり得る。GADに対する自己抗体はまた、全身硬直症候群および小脳性運動失調を含め、その他の変性CNS疾患においても検出されている。これらの自己抗体は、GADの活性を阻害するのに対し、インスリン依存性真性糖尿病(IDDM、1型糖尿病)において検出されるGADに対する自己抗体は阻害性ではない。常染色体の障害と自己免疫応答の間につながりがある可能性は興味深く、原因を理解し、治療的介入を開発するために患者および動物モデルの両方においてさらなる研究が必要である。
【0100】
マウスおよびウシ、ヒツジ、ネコおよび特定のイヌの品種を含めたいくつかの家畜の種において遺伝性NCLが報告されている。NCLの発生が報告されたイヌの品種として、イングリッシュセッター、チベタンテリア、アメリカンブルドッグ、ダックスフンド、ポリッシュローランドシープドッグ、ボーダーコリー、ダルメシアン、ミニチュアシュナウツァー、オーストラリアンシェパード、オーストラリアンキャトルドッグおよびゴールデンレトリーバーが挙げられる。イヌにおけるNCLは、CNSにおける進行性の変性および神経細胞における蛍光物質の蓄積によって特徴付けられる。イヌCLN2(PPT1)、CLN5、CLN6およびCLN8のゲノム配列および転写物が、そのヒト対応物に対して保存されている。イングリッシュセッターにおけるNCLは、CLN8における単一点突然変異と関連している。進行性の神経変性は、難治性てんかんおよびおよそ2歳という年齢での死亡を引き起こす。遅発型のNCLは、チベタンテリアおよびポルスキーオフチャレクニジンニ(PON)ドッグにおいて起こり得る。ダックスフンドにおいて発見されたNCLの形態は、CLN2(TPP1)中の突然変異によって引き起こされ、ヒトにおける遅発型小児性NCLと似ている網膜変性症をもたらす。ボーダーコリーにおけるNCLの最初に報告された症例は、1980年に記録され、原因である突然変異はCLN5中に位置する。診断用DNA検査は、現在、アメリカンブルドッグ、ダックスフンド、イングリッシュセッターおよびチベタンテリアについて利用可能である。
【0101】
ほとんどのNCLのマウスモデルがあるが、その限定された大きさ、生存期間および比較的原始的な神経系は、治療的アプローチの試験にとっては減損である。イヌNCLの特性決定は、自己抗体の役割を含めた疾患病理のより良好な理解および疾患進行を停止し、遺伝子欠陥を修正するためのより実験的な療法を調べるための良好な機会を提供するはずである。
【0102】
皮膚障害
天疱瘡
天疱瘡は、慢性の、多くの場合有痛性の水疱形成によって特徴付けられる稀な自己免疫皮膚疾患の群である。天疱瘡は、デスモグレイン、デスモソーム(desmosones)と呼ばれる接着部位を介して隣接する上皮細胞を接着する分子「接着剤」に対する自己抗体によって引き起こされる。自己抗体結合デスモグレインは、この結合を破壊し、水泡を引き起こし、これが剥がれ落ちて、開いた傷口が残る。天疱瘡のいくつかのカテゴリーは、標的自己抗原ならびに水泡および傷口の位置に基づいて分類される。尋常性天疱瘡(一般的な天疱瘡)は、デスモグレイン3に対する抗体によって引き起こされ、その結果、ケラチノサイトおよび表皮の基底層間の接着が失われ、重篤度は、デスモグレイン3のレベルに比例する。傷口は口の中で発生することが多く、摂食を妨げる。いずれの年齢でも生じ得るが、尋常性天疱瘡は、通常、40〜60歳の間の患者で始まり、アシュケナージ系ユダヤ人においてより多く見られる。北米の白色人種非ユダヤ人およびアシュケナージ系ユダヤ人の尋常性天疱瘡患者の遺伝子型判定によって、DRB1*0402およびDQB1*0503に対する強いHLA関連が示された。落葉状天疱瘡、重篤度が最小の形態の天疱瘡は、デスモグレイン1に対する自己抗体によって引き起こされる。デスモグレイン1は、皮膚の一番上の乾燥層上でのみ発現されるので、傷口は表在性であり、一般に、尋常性天疱瘡よりも有痛性ではない。尋常性天疱瘡からの別の相違として、傷口が口の中に形成しない点があり、それらはむしろ、通常、頭皮上で始まり、胸、背中および顔面に広がり得る。31人の白色人種の落葉状天疱瘡患者および84人の健常対照のゲノム比較によって、HLA−DR対立遺伝子DRB1*0102、DRB1*0402、DRB1*0406およびDRB1*1404と関連している感受性の増大が示された。腫瘍随伴天疱瘡は、最も一般的でない、最も重篤な形態の天疱瘡(pemphigous)である。この稀な形態は、特定のリンパ腫および白血病を含めたいくつかの形態の癌を伴って起こる。有痛性の傷口は、口、唇および食道上に生じ、肺において狭窄型細気管支炎も引き起こし得る。天疱瘡は、最も一般的には、経口副腎皮質ステロイド、特に、プレドニゾンまたはプレドニゾロンを用いて治療される。効果的な管理は、多くの場合、高用量のこれらの抗炎症薬を必要とする。ミコフェノール酸モフェチル(CellCept)、アザチオプリン(aziathioprine)(イムラン)、シクロホスファミド(シトキサン)およびメトトレキサートをはじめとする免疫抑制薬が治療レジメンに加えられることが多い。重篤な症例、特に、腫瘍随伴天疱瘡では、静脈内ガンマグロブリンが有用である場合がある。
【0103】
米国ではイヌの<2%が、いくつかの形態の自己免疫皮膚疾患を有すると推測されるが、これは過小評価であり得る。尋常性天疱瘡は、最もよく見られる形態であり、口および粘膜皮膚の移行部、毛のある皮膚および粘膜組織の境界(例えば、眼瞼、唇、鼻孔、肛門および生殖器)中の病変として現れる。これらの水泡は、薄く、容易に破壊される。ヒト尋常性天疱瘡患者は、デスモグレイン3およびデスモグレイン1に対する自己抗体を有する。デスモグレイン3を認識する同様の抗体が、尋常性天疱瘡を有するイヌから得た血清の60%で検出された。これらの抗体は、正常なヒトケラチノサイトのシートとともにインキュベートされた場合に、解離を引き起こし、発病におけるその役割が確認された。増殖性天疱瘡は、鼠径部周囲および下肢と体幹の間の厚い、一様でない、開いた病変によって特徴付けられる。落葉状天疱瘡は、稀であり、通常、顔面、耳、足および鼠径部に限定される。水泡は、一時的であり、発赤を示し、硬い皮で覆われており、脱毛する。この皮膚障害を有するイヌは、ヒト落葉状天疱瘡においてと同様、病原性IgG4自己抗体を有する。これらの抗体は、in vitro結合アッセイによって検出することが困難であるが、ケラチノサイトと結合されて実証され得る。紅斑性天疱瘡(Pemphigus erythematosis)は、落葉状と似ており、鼻に限定されることが多い。イヌ天疱瘡における自己抗体特性決定は、初期段階にある。これらの障害に関与している自己抗原のさらなる特性決定は、ヒト天疱瘡自己免疫の病理の本発明者らの理解を進め得る。
【0104】
内分泌および胃腸障害
甲状腺炎
甲状腺炎は、甲状腺の炎症である。橋本甲状腺炎は、甲状腺ペルオキシダーゼおよび/またはサイログロブリン(thyroglobuin)に対する抗体によって媒介される甲状腺における濾胞の破壊によって特徴付けられる、最もよく見られる形態である。この自己免疫疾患は、北米における原発性甲状腺機能低下症の最もよく見られる原因であり、平均発症率は、1,000人あたり1〜1.5症例である。グレーブス甲状腺機能亢進性疾患は、甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体によって媒介され、甲状腺機能を刺激し、甲状腺ホルモンの分泌過多を引き起こす。欧州諸国では、オルド(Ord’s)甲状腺炎と呼ばれる、萎縮型の自己免疫甲状腺炎は、橋本甲状腺炎よりもよく見られる。甲状腺炎の発症は、通常、45〜65歳の間に起こる。多数の自己免疫疾患と同様に、有病率は女性において高いが、女性対男性において10:1〜20:1の出現という推定比は、自己免疫障害の中でも高い。疾患との地理的および季節的相関、その他の自己免疫疾患においても同様に見られる特徴のエビデンスもある。疲労、体重増加、鬱病および便秘などの、自己免疫甲状腺炎の症状の多くは、その他の状態においても生じ、誤診につながり得る。進行した症例は、合成T4ホルモンレボチロキシンなどのホルモン補充療法を用いて治療される。
【0105】
甲状腺機能亢進症は、イヌにおいて最もよく見られる内分泌疾患である。症例の大部分は、男性における橋本甲状腺炎と似ている自己免疫であり、ヒト自己免疫疾患においてと同様に、特定の組織適合対立遺伝子の発現と関連がある。品種の範囲中の173頭の甲状腺機能低下性のイヌの遺伝子型判定によって、DLA−DQA1*00101、稀なDLAクラスIIハプロタイプとの有意な関連が示された。
【0106】
同様に、甲状腺機能低下性疾患に冒された27頭のドーベルマンピンシェルの分析によって、冒されていないイヌと比較して、冒されたイヌにおける稀なDLAハプロタイプの増加が示され、このハプロタイプは、ドーベルマンピンシェルおよびラブラドールにおいてのみ見られた。大型のイヌは、リスクが高いが、トイおよびミニチュア品種は稀にしか冒されない。ドーベルマンピンシェルに加え、甲状腺炎に対する感受性が報告された品種として、ゴールデンレトリーバー、ボルゾイ、ジャイアントシュナウツァー、アキタ、アイリッシュセッター、オールドイングリッシュシープドッグ、シェットランドシープドッグ、スカイテリア、ビーグル、グレートデーンおよびイングリッシュコッカースパニエルが挙げられる。
【0107】
1型糖尿病
糖尿病は、米国で推定2360万人、人口のおおよそ7.8%を苦しめている代謝障害である。1型糖尿病は、膵臓におけるインスリン産生ベータ細胞の破壊に起因する自己免疫障害であり、グルコース代謝の調節不全をもたらす。症状の発症は、比較的迅速であるが、根底にあるベータ細胞の破壊が、長期間進行し、その後、効果が検出可能である場合がある。1型糖尿病の症状として、のどの渇きおよび排尿の増加、継続的な空腹感、かすみ目、体重減少および疲労を挙げることができる。治療されない場合には、患者は、糖尿病性ケトアシドーシスとしても知られる糖尿病性昏睡に陥り、これは致死的であり得る。2型糖尿病は、かなりより一般的であり、糖尿病の症例の90〜95%を占める。自己免疫ではなく、遅い平均発症年齢で生じ、肥満症、糖尿病の家族歴、運動不足および特定の民族的背景と関連している。2型糖尿病では、インスリンは産生されるが、未知の理由のために身体がそれを適切に使用することができない。1型糖尿病においてと同様に、結果は、血液におけるグルコースの蓄積ならびに効率的でないエネルギー代謝および保存である。一部の臨床医および治験責任医師はまた、「成人における潜在性自己免疫糖尿病」(LADA)と呼ばれるカテゴリーも認識している。これらの症例は、通常、30歳後に始まり、患者が、インスリン産生ベータ細胞に対する抗体を有し、最終的にベータ細胞が破壊されるので、1型糖尿病のより遅く発生する形態であり得る。LADAは、2型糖尿病の症例の10%をも占め得る。
【0108】
1型糖尿病は、多数のその他の自己免疫疾患とは異なり、男性および女性間で同等に生じる。非白色人種集団よりも白色人種においてより高頻度に生じ、ほとんどのアフリカ人、アメリカ先住民およびアジア人集団では稀である。特定の北ヨーロッパ諸国、例えば、フィンランドおよびスウェーデンは、高率の1型糖尿病を有する。任意の年齢で発症し得るが、発症は、小児期に起こることが最も多い。病因論は未知であるが、1型糖尿病は、家族においてクラスター化し、全体的な遺伝子リスク割合は、およそ15である。一卵性および二卵性双生児間の1型糖尿病の一致もまた、感受性における強力な遺伝的成分のエビデンスである。HLA領域中の対立遺伝子変異が、1型糖尿病における家族クラスター化の40〜50%を占める。多数の研究によって、HLA領域遺伝子DRB1、DQA1およびDQB1の特定の対立遺伝子が、1型糖尿病と強く関連していることが実証された。607の白色人種家族および38のアジア系家族の詳細な分析によって、いくつかの感受性および保護的DR−DQハプロタイプ(halplotyes)ならびにこれらのハプロタイプに基づく1型糖尿病リスクにおける著しい階層が示された。ハプロタイプDRB1*0301−DQA1*0501−DQB1*0201は、最高の感受性を付与し、3.64のオッズ比を有するのに対し、最も保護的なハプロタイプは、0.02のオッズ比と関連していた。HLAに加えて、ゲノム規模の関連研究(GWAS)によって、白色人種において感受性の一因となるいくつかのその他の遺伝子、例えば、INS、CTLA4、PTPN22およびIL2RA/CD25が同定された。白色人種およびアジア系1型糖尿病のGWAS比較では、CTLA4の疾患関連は、両民族集団において自己免疫甲状腺疾患を有する糖尿病のサブセットにおいて濃縮され、IL2RA/CD25との関連は両集団において同様であり、PTPN22との関連は、アジア系患者において強い。その他のヒト自己免疫障害と同様に、感受性は、HLA領域中の対立遺伝子と強く、また、より少ない程度に一連のさらなる遺伝子と関係しており、幾分かは、炎症経路と関係している。1型糖尿病は、絶食の8時間後の血糖値の測定に基づいて診断されることが好ましく、これでは、126mg/dLのレベルが指標となると考えられる。治療はなくても、インスリンの注射によって疾患を管理することはできる。
【0109】
糖尿病は、イヌにおいて比較的よく見られ、例えば、UKにおける推定有病率は、0.32%であり、その他の研究では、0.005%〜1.5%の範囲の有病率が報告されている。ヒトにおいてと同様、イヌ糖尿病の臨床症状として、過度のどの渇き(多飲)、排尿(多尿)、体重減少および血液および尿中の高レベルのグルコースが挙げられる。イヌ糖尿病の発症は、通常、5から12歳の間で起こり、平均発症は9歳であり、ヒトにおける1型糖尿病の対応する年齢よりも高齢の発症である。ヒト糖尿病のために開発された分類体系は、イヌ糖尿病には容易に当てはまらない。症例を、インスリン依存性または非インスリン依存性のいずれかとして特徴付けた人もいるが、ほとんどすべての糖尿病のイヌがインスリン療法を必要とする。代替の体系によって、症例は、原発性インスリン欠乏性糖尿病(IDD)または原発性インスリン抵抗性糖尿病(IRD)のいずれかとして分類される。IDDでは、膵ベータ細胞の免疫媒介性進行性喪失がある。IRDは、通常、その他のホルモンによるインスリン機能の拮抗作用によって引き起こされ、その他の内分泌障害に続発する場合もある。膵炎、膵臓の炎症は糖尿病のイヌの28〜40%において報告されているが、別の研究では、253頭のうち8頭の糖尿病のイヌのみが、膵炎の臨床兆候および生化学的兆候を有していた。過去数十年にわたる別個の研究が、イヌ糖尿病の不均一な病理を証明しており、18症例のうち6症例において、ヒト1型糖尿病および膵島炎との類似性を検出するものもあれば、膵ベータ細胞破壊のエビデンスが、ヒトおよびげっ歯類においてよりも少ないことを報告するものもある。一部の新しく診断された糖尿病のイヌにおいて、インスリンに対する自己抗体、イヌGAD65および/またはイヌ膵島抗原−2が同定されている。膵島のリンパ球浸潤は、成人発症型糖尿病を有するイヌのサブセットにおいてのみ見られ、若年発症型糖尿病を有するイヌでは観察されない。したがって、イヌ糖尿病は、ベータ細胞の遅い進行性の破壊を示す、成人における潜在性自己免疫糖尿病(LADA)、ヒトにおける成人型の1型糖尿病の特徴に匹敵し得る。ヒト2型糖尿病のイヌ相当物のエビデンスはない。
【0110】
北米の24の獣医科大学から得た>6,000頭の糖尿病のイヌのデータベースによれば、感受性品種として、ミニチュアシュナウツァー、ビションフリーゼ、ミニチュアプードル、サモエドおよびケアンテリアが挙げられる。同様に、UKの研究では、サモエド、チベタンテリアおよびケアンテリアが、糖尿病になりやすいと見られた。対照的に、ボクサーおよびジャーマンシェパード品種は、あまり感受性ではない。糖尿病は、雄のイヌよりも雌においてより多く蔓延しており、別個の研究によれば、偏りは、53〜70%である。
【0111】
イヌ糖尿病は、1型糖尿病を含めたヒト自己免疫疾患と同様に、感受性対立遺伝子の複雑な相互作用および環境誘因によって生じる。イヌ糖尿病は、ヒト糖尿病と同様に、季節性のパターンを有し、11月〜1月の冬場の間に、7月〜9月の夏場の間の2倍の多数の症例が診断され、おそらくは、一般的な環境誘因を反映している。いくつかの遺伝子が、糖尿病感受性と関係しており、イヌ主要組織適合複合体、DLAの対立遺伝子において最強の関連が見られる。最初に報告された関連はハプロタイプDLA DRB1*009、DQA1*001、DQB1*008とのものであった。その後の530頭の糖尿病のイヌおよび>1,000頭の対照のDLA分類によって、糖尿病と3種のDLAハプロタイプ間に関連が見られ、DLA DRB1*009、DQA1*001、DQB1*008と最強の関連が見られた。ハプロタイプDLA DRB1*009、DQA1*001、DQB1*008は、糖尿病感受性品種(サモエド、ケアンテリア、チベタンテリア)に共通しているが、糖尿病耐性品種(ボクサー、ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバー)では稀である。DLA−DQA1*001が、イヌにおける甲状腺機能低下症と関連しているというエビデンスもある。対照的に、1種のDLA−DQハプロタイプ、DQA1*004/DQB1*013は、460頭の糖尿病のイヌの分析において大幅に提示が不足しており、耐性対立遺伝子を示す可能性がある。上記のように、一連の遺伝子研究によって、ヒトにおける1型糖尿病と関連しているいくつかの遺伝子座、例えば、ヒト白血球抗原(HLA)領域中のいくつかのもの、インスリン可変数タンデムリピート、PTPN22、CTLA4、IL−4およびIL−13が同定された。これらの遺伝子座のうち一部はまた、糖尿病のイヌのGWAS分析においても同定された。イヌ糖尿病の483の症例および869頭の対照の研究によって、37種のSNP対立遺伝子関連が同定され、13種は保護的であり、24種は感受性を高めた。感受性の増大と関連している遺伝子は、IFN−ガンマ(IFN−γ)、IL−10、IL−2ベータ(IL−2β)、IL−6、インスリン、PTPN22、IL−4およびTNF−アルファ(TNF−α)を含んでいた。イヌDMを発症するリスクの増大と関連しているサイトカインのほとんどが、Th2サブセットからのものであり、IL−4、IL−6およびIL−10が主なものである。IL−4、PTPN22、IL−6、インスリン、IGF2、TNF−アルファ(TNF−α)を含めたいくつかのその他の遺伝子は、保護的であった。しかし、個々のSNPは、品種間で可変であり、少数の例では、一部の品種において保護的であったSNPが、その他のものではリスクの増大と関連していた。この相違は、個々の品種の比較的小さい試料サイズを反映するものであり得る。また、イヌ糖尿病が、異なる品種において異なる病因論を有することもあり得る。
【0112】
歴史的に、イヌは、糖尿病病理の理解において、また治療戦略の試験において重要な役割を果たしてきた。1889年の実験によって、健常なイヌからの膵臓の除去は、多尿および多飲につながることが示され、膵臓は、その後にインスリンとして同定された「抗糖尿病誘発性因子」を分泌し、身体がグルコースを利用することを可能にするという結論につながった。1921年には、糖尿病のイヌは、インスリン療法の最初のレシピエントであった。自発的なNODマウスモデルが、実験薬戦略を試験するための中心であったが、イヌ糖尿病モデルは、より大きな動物モデルにおける薬物および送達システムの前臨床試験の機会を提供し得る。
【0113】
炎症性腸疾患(IBD)
炎症性腸疾患は、クローン病および潰瘍性大腸炎を含めた慢性炎症性消化管障害のカテゴリーである。潰瘍性大腸炎は、直腸を常に含み、結腸のその他の部分に及ぶこともある結腸の粘膜層の再発性の炎症である。クローン病は、消化管の任意の部分に影響を及ぼし得るが、症例の大部分は、末端回腸において始まる。潰瘍性大腸炎における炎症は、消化管の内側の粘膜層に制限されるが、クローン病は、腸壁全体に影響を及ぼし、繊維症、閉塞および瘻孔につながる場合もある。北米において報告された発症率は、潰瘍性大腸炎については1年あたり100,000人あたり2.2〜14.3症例、クローン病については1年あたり100,000人あたり3.1〜14.6症例の範囲である。900万の保険金請求の調査に基づいて、成人における潰瘍性大腸炎の有病率は、100,000人の集団あたり238人であり、クローン病の有病率は、100,000人たり201人である。これらの主要な炎症性腸疾患両方の発症率が、アジア、日本および南アメリカでは低く、欧州において、および米国においては、発症率は、より南の緯度において低下する。脊椎関節症、関連疾患の群(例えば、強直性脊椎炎、反応性および乾癬性脊椎関節炎、未分化型脊椎関節炎)が、炎症性腸疾患の頻繁な腸外徴候であり、報告された有病率は、クローン病および潰瘍性大腸炎の症例において、それぞれ45.7%および9.9%である。1,052人の潰瘍性大腸炎患者および2,571人の対照、欧州系のすべてから得たDNA試料の最近のゲノム規模の関連研究は、感受性を、BTNL2からHLA−DQB1に広がる領域およびIL23R遺伝子座と関係付けた。その他のゲノム研究によって、両方の主要な炎症性腸疾患と関連している遺伝子における幾分かの重複を示されている。クローン病は、NOD2およびATG16L1、細菌の細胞内プロセシングに影響を及ぼし得る2種の遺伝子における遺伝的変異と関連しているが、潰瘍性大腸炎はそうではない。クローン病および潰瘍性大腸炎は両方とも、IL−23Rをコードする遺伝子ならびにIL12B、STAT3およびNKX2−3遺伝子領域における変異と関連している。
【0114】
IBDは、ネコおよびイヌの両方における、一般的な消化障害である。イヌおよびネコIBDは、ウシにおけるヨーネ病よりもヒトIBDと、より多くの特徴を共有し、組織における細菌の証拠はほとんどなく、副腎皮質ステロイドおよびスルファサラジンなどの薬物に反応する。発症率は、雄および雌において同様であり、中年のイヌに発症ピークがある。この疾患のリスクの高い品種として、ボクサー、ジャーマンシェパード、ソフトコーテッドウィートンテリア、ロットワイラー、フレンチブルドッグ、ドーベルマンピンシェル、マスチフ、アラスカマラミュートおよびシャーペイが挙げられる。ヒトと同様に、イヌにおけるIBDの発症は、共生腸細菌叢に対する異常な腸反応によって生じると仮説が立てられている。IBDを有するイヌでは、TLR−2、−4および−9が上方制御されるので、Toll様受容体(TLR)が、最初の炎症反応の中心であり得、ヒトIBDの症例において述べられるTLR−4の活性化と似ている。IBDイヌは、健常なイヌとは異なる小腸細菌を有するので、同様に細菌叢の変化も決定的であり得る。同様のシフトが、ヒトIBD患者の腸細菌叢において述べられている。病理および自然免疫系の関与における類似性にも関わらず、イヌおよびヒトにおけるIBDに対する適応免疫応答においてはいくつかの相違がある。ヒトIBDでは、Th1リンパ球サブセットが優性であるが、イヌIBDでは、Th1およびTh2リンパ球の混合活性化がある。副腎皮質ステロイド(例えば、プレドニゾン)は、通常、IBDと診断されたネコの治療の最初の治療単位として投与される。副腎皮質ステロイドは、食事管理およびスルファサラジンが軽減を提供しない場合には、イヌにも使用される。スルファサラジン、5−A SA、メサラミンおよび関連化合物は、主に、大腸に限定される、IBDを有するイヌの好ましい治療選択肢であるが、これらの薬物は、涙の産生に影響を及ぼし得る。スルファサラジンおよび関連化合物は、ネコにとって極めて毒性であり得るサリチル酸塩を含み、したがって、ネコにとっては副腎皮質ステロイドが主な治療薬である。メトロニダゾール、抗生物質および抗炎症薬も、単独で、または副腎皮質ステロイドもしくはスルファサラジンのいずれかと組み合わせて使用できる。副腎皮質ステロイドが上手くいかない場合は、免疫抑制薬アザチオプリンおよびシクロホスファミドを使用してもよい。ヒトおよびイヌにおけるIBD間は類似しているが、不完全にしか理解されておらず、さらなる研究によって、両種のための実験的治療薬を試験する機会が提供され得る。
【0115】
アジソン病
ホルモンコルチゾールおよびアルドステロンの産生を不十分にさせる副腎に対する損傷は、原発性副腎不全症と呼ばれ、アジソン病としても知られている。100,000人毎に1〜4人に影響を及ぼす。続発性副腎不全症、アジソン病よりもかなりよく見られる状態は、下垂体腺によって、十分な副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を産生し、副腎を刺激して、コルチゾールを産生することができないことに起因する。アジソン病の症例の最大80%が、副腎皮質の自己免疫破壊によって引き起こされ、皮質の>90%が破壊されている場合に、ミネラルコルチコイド(アルデステロン(aldesterone))およびグルココルチコイド(コルチゾール)の欠乏を含めた副腎不全症につながる。アジソン病は、西欧の集団では稀である。その他の自己免疫疾患と同様に、特定の主要組織適合対立遺伝子、この場合には、HLA DRB1*04およびDQと強い関連を含む、多遺伝子性障害であり、その他の関連として、CTL−4、Cyp27B1、VDRの特定の対立遺伝子ならびにMIC−AおよびMIC−B遺伝子座が挙げられる。
【0116】
イヌの副腎皮質機能低下症は、ヒト状態と似ており、いくつかの品種で、1.5〜9%の範囲の頻度で生じる。ポヂュギースウォータードッグは、大きく影響を受ける品種の1種であり、1985年〜1996年の間の11,384頭のポヂュギースウォータードッグの分析によって、1.5%の発症率が示された。この品種における副腎皮質機能低下症は、病理および感受性との遺伝的関連の両方においてヒトアジソン病と似ている。ヒトHLA対立遺伝子DRB1*04およびDRB1*0301と類似の、およびヒト遺伝子座CTLA−4と類似の染色体領域上で2種の疾患関連遺伝子座が同定された。ノヴァスコシアダックトーリングレトリーバーもまた、アジソン病に対してリスクが高く、影響を受けるイヌおよび影響を受けないイヌの遺伝子型判定によって、7種の異なるハプロタイプが示され、罹患したイヌにおいてハプロタイプDLA−DRB1*01502/DQA*00601/DQB1*02301の発症率が上がっていた。この副腎障害を有するイヌはまた、感受性ハプロタイプにおいてホモ接合である可能性がより高く、ホモ接合のイヌは、より早く疾患を発症した。
【0117】
骨および関節障害
関節リウマチ(RA)
関節リウマチ(RA)は、主に、滑膜関節に影響を及ぼす慢性炎症性自己免疫疾患である。この障害は、人工軟骨破壊および関節のこわばりを伴う過剰の滑液および滑膜細胞の過剰増殖によって特徴付けられる。RAは、最も広まっている自己免疫疾患である。世界の人口のおよそ1%が苦しんでおり、男性においてよりも女性において発症率は3倍高い。発症は、最も頻繁には、40〜50歳の間に起こる。RAの遺伝的素因は、HLA−DRB1遺伝子座のいくつかの対立遺伝子、特に、白色人種ではHLA−DRB1*04サブタイプ:DRB1*0401、*0404、*0405および*0408ならびにその他の民族ではサブタイプDRB1*0101、*0102および*1001と関連している。すべてのRA関連HLA−DRB1対立遺伝子は、位置70〜74、第3の超可変領域:QKRAA(*0401)に関連アミノ酸配列をコードする。QRRAA(*0404、*0405、*0408、*0101、*0102)またはRRRAA(*1001)。この「共有されるエピトープ」は、白色人種RA患者の80〜90%の少なくとも一方のHLA−DRB1遺伝子座に生じる。
【0118】
イヌ関節炎は比較的よく見られ、報告された発症率は、6歳を超えるイヌでは65%もの高さである。これらの症例の最大90%が、変形性関節症であり、残りを関節リウマチが占める。RAは、トイおよび小さい品種において、一般に、5〜6歳の間で最もよく生じる。ヒト症例と同様に、感受性と主要組織適合複合体中の特定の遺伝子の間には強い関連性がある。あるゲノム研究では、61頭の、小関節多発性関節炎と臨床上診断されたイヌから得たDNA試料および425頭の対照から得たDNA試料を比較した。DLA−DRB1*002、DRB1*009およびDRB1*018を含めたいくつかのDLA−DRB1対立遺伝子が、RAのリスクの増大と関連していた。ヒトRA患者のほとんどのHLA−DRB1対立遺伝子の第3の超可変領域中に見られる保存されたアミノ酸モチーフ、QRRAA/RKRAAは、イヌRAと関連しているDLA−DRB1対立遺伝子においても記されていた。コルチコステロイド治療は、症例の約50%において臨床的緩解をもたらす。より重篤な症例では、緩解を誘導するためにシトキサンまたはイムランを投与する治療が施される。
【0119】
循環障害
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、別名、免疫媒介性溶血性貧血(IMHA)
赤血球の溶解によって引き起こされる貧血として定義される、多数の種類の溶血性貧血がある。鎌形赤血球貧血、サラセミア(Thallasemia)および遺伝性の球状赤血球症をはじめとするいくつかの形態は、遺伝性であり、赤血球構造の欠陥に起因する。対照的に、後天性溶血性貧血は、遺伝性ではなく、毒性化学物質および薬物に対する曝露、抗ウイルス剤(例えば、リバビリン)、物理的損傷、感染症および免疫障害から生じ得る。自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は、すべての溶血性貧血の半分超を占める。AIHAでは、自己抗体が、補体を固定し、赤血球を溶解し、ヘマトクリットを低下させ、貧血および脱力感を引き起こす。AIHAのエビデンスとして、赤血球破壊による、血清ビリルビン、乳酸デヒドロゲナーゼの上昇および血漿ハプトグロビンの減少、細胞喪失の代償としての循環網状赤血球レベルの上昇および骨髄における赤血球過形成が挙げられる。いくつかの症例では、AIHAは、別の根底にある疾患、例えば、全身性紅斑性狼瘡(SLE)または慢性リンパ性血病(CLL)と関連しており、進行した疾患を有するCLL患者のおよそ11%が、AIHAを発症する。治療レジメンは、自己免疫発作が、IgG抗体によって媒介されるか、IgM抗体によって媒介されるかどうかに基づいている。IgG関連AIHAの場合には、コルチゾンおよびその他の免疫抑制薬が推奨される。IgM自己抗体は、コルチゾンに対してあまり反応性ではなく、このアイソタイプによって媒介されるAIHAの形態は、赤血球との結合が低温で生じるので、寒冷凝集素疾患と呼ばれることもある。冬場における実験において起こり得るような、体温が37℃から28〜31℃に低下する場合に、この形態のAIHAでは、IgM抗体が、赤血球の表面上の糖タンパク質の多糖領域と(通常、I、iおよびPr抗原)と結合し得る。このような症例では、低温を避けることが推奨され、赤血球産生を後押しするよう葉酸栄養補助食品が投与される。
【0120】
自己免疫性溶血性貧血は、最もよく見られるイヌ免疫媒介性疾患であるが、ネコでは珍しい。臨床兆候として、脱力感、嗜眠、食欲不振症、心拍数および呼吸の増加、蒼白色の粘膜が挙げられ、より重篤な症例では、発熱および黄疸(jaundice)(黄疸(icterus))、ビリルビン、ヘモグロビンの分解生成物の増加による歯肉、眼および皮膚の黄変が挙げられる。イヌAIHAにおける標的膜抗原として、陰イオン交換分子(バンド3)、細胞骨格分子スペクトリンおよび一連の膜糖タンパク質(グリコホリン)が挙げられる。ヒトAIHAと同様に、標準診断は、クームス試験に基づいた、赤血球と結合している抗体の検出である。症例は、かたまって生じ、発症は季節性であり得る。一研究では、症例の40%が5月および6月の間に診断され、可能性があるウイルス病因論を示唆した。発症年齢の中央値は、6.4歳であり、雌はより多く冒された。急性型のAIHAは、コッカースパニエルと品種関連性を有する。その他の自己免疫障害と同様に、AIHAに対する感受性は、イヌ組織適合複合体中にコードされる特定の対立遺伝子、DLAと関連している。108頭のクームス陽性IMHAを有するイヌの遺伝子型判定によって、IMHAを有するイヌで増大した2種のDLAハプロタイプ:DLA DRB1*00601、DQA1*005011、DQB1*00301およびDLA DRB1*015、DQA1*00601、DQB1*00301が同定された。最も冒されたイヌは、その寿命の残りの間、副腎皮質ステロイド、ほとんどの場合、プレドニゾンで維持される。いくつかの症例では、治療レジメンにシトキサン(シクロホスファミド)、シクロスポランAまたはイムラン(アザチオプリン)が加えられる場合もあるが、一部の研究は、これらの補助的薬物が付加価値を全く有さないと示唆する。ステロイド用量および副作用を低減するために、ダナゾール、アザチオプリン(aziothioprine)、シクロホスファミドまたはシクロスポリンAをはじめとするさまざまなその他の薬物が、グルココルチコイドと同時投与される場合もある。
【0121】
免疫介在性血小板減少症(IMT)
血小板減少症は、血小板数の低下であり、免疫介在性血小板減少症(IMT)では、これは、細網内皮系(脾臓、骨髄および肝臓)内の抗体および補体媒介性の血小板の破壊の結果である。
【0122】
IMTは、イヌでは比較的よく見られるが、ネコでは珍しい。症状として、皮膚および粘膜の出血、挫傷、外傷、手術または発情後の過剰の出血ならびに尿または糞便中の血液が挙げられる。イヌにおけるすべての血小板減少症の症例のおよそ70%が、明らかに、自己免疫起源のものである。イヌITPにおける標的膜抗原は、血小板膜糖タンパク質GPIIbおよびGP111aである。IMTの症例は、単独で起こる場合も、免疫媒介性溶血性貧血または全身性紅斑性狼瘡と組み合わせて起こる場合もある。ほとんどの症例は、中年のイヌで起こり、雄よりも雌がより多く冒される。診断は、イヌIMTの決定的な検査がないことによって妨害される。その他のイヌ自己免疫障害と同様に、通常、高用量の免疫抑制副腎皮質ステロイド、特に、プレドニゾンを用いて治療される。無応答性の症例はまた、シクロホスファミドおよびビンクリスチンを用いて治療され、後者の薬物は、血小板新生を増強し、ならびに、マクロファージによる、抗体によってコートされた血小板の食作用を抑制する。
【0123】
免疫媒介性好中球減少症(IMN)
免疫媒介性好中球減少症(IMN)は、自己免疫好中球減少症としても知られ、より一般的な免疫血小板減少性紫斑病、小児における好中球減少症と似ている。その他の自己免疫疾患と同様に、病因論は未知であるが、いくつかの研究によって、パルボウイルスB19感染との関連が示唆されている。自己免疫応答は、好中球上の細胞表面抗原と結合している抗体(通常、IgG)によって媒介される。Fc−ガンマ−IIIbまたはFcγIIIb(CD16b)の好中球グリコシル化アイソフォーム、グリコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidlyinositol)アンカーを介して膜につながれている糖タンパク質が共通の標的である。抗体はまた、ヒト好中球抗原(HNA)、特に、HNA−1に対して向けられることが多い。いくつかの臨床症例では、少数の成熟した好中球が検出可能であり、これは、免疫攻撃が、骨髄ではなく末梢循環において生じることを示唆する。顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の血清レベルは正常であるが、ICAM−1、TNF−aおよびIL−1bのレベルは、好中球数と逆相関し、これは、低度の炎症を示唆する。IMNは、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、関節リウマチおよびフェルティ症候群をはじめとする全身の免疫媒介性障害と関連していることが多い。SLE患者の半数超がまた、好中球減少症も有し、さらに多くが検出可能な好中球と結合している抗体を有する。
【0124】
IMNは、イヌおよびネコの両方において比較的珍しく、イヌにおける好中球減少症のすべての症例の<1%を占める。1983年に最初に実証され、その後、文献にはわずかな報告しか現れていない。冒された動物は、食欲不振症、発熱および嗜眠を伴って存在し得るが、確定診断には、抗好中球抗体の実証を必要とし、このような試験は容易には利用できない。免疫抑制用量のプレドニゾンなどの副腎皮質ステロイドは、通常、48〜72時間内に循環好中球数の迅速なリバウンドを生じさせる。IMNを有するイヌおよびヒトのおよそ25%がまた、血小板減少症も有する。
【0125】
複数の全身性障害
全身性紅斑性狼瘡(SLE)
全身性紅斑性狼瘡(SLE)は、抗核抗体(ANA)、循環免疫複合体および活性化された補体によって特徴付けられる慢性自己免疫疾患である。その他の特徴として、CR1発現の減少、Fc受容体機能の欠陥および初期補体成分(例えば、C4A)の欠乏が挙げられる。SLEは、複数臓器障害であり、広範な血管病変を引き起こし、関節、皮膚、腎臓、脳、肺、心臓、漿膜および消化管に影響を及ぼす可能性がある。米国におけるSLEの報告された年間発症率は、低リスク群から高リスク群において、100,000人の集団あたり6〜35新規症例で変わる。北欧では、発症率は低く、100,000人あたりおよそ40人である。ヨーロッパ系の子孫ではない個体は、SLEのより高い頻度およびより高い重篤度を有し得、アフロカリブ族の子孫の100,000個体あたり159人もの高い範囲である。米国におけるSLEの発症率は、1995年から1974年の20年にわたって、1.0から7.6に増大したが、この頻度の増大が、診断の正確度の改善、人口動態の変化、環境変化またはこれらおよびその他の因子の組合せによるかどうかは明らかではない。
【0126】
米国におけるSLEの有病率の推定値も、250,000〜500,000総症例数で変わるが、Lupus Foundation of Americaによって委託された電話調査に基づいて100〜200万とも高く推定されている。有病率の地域差は、環境および/または人種差の影響を反映し得る。例えば、広いバーミンガム、アラバマ州大都市圏における女性の調査によって100,000人あたり500人の有病率が報告された。SLEは、出産年齢の女性に偏って影響し、SLE患者の60%が、人生の思春期と40代の間の発症を経験し、この年齢範囲内で、女性対男性の比は、9:1であり、若者および高齢者では、比は3:1である。
【0127】
SLEの病因論は未知であるが、家族歴、遺伝子解析および地理的分布に基づいて、その開始は、遺伝的素因、性ホルモンおよび環境誘因(複数可)によって影響を受けると思われる。一卵性双生児におけるSLEの出現は、遺伝性成分のエビデンスであるが、25〜60%という中程度の一致率は、その他の因子もこの障害の一因であることを示唆する。その他の自己免疫障害と同様に、最強の遺伝的関連は、ヒト主要組織適合複合体、HLAにおいてコードされる遺伝子とである。SLE患者は統計的に増大した百分率のHLA−DR2およびHLA−DR3対立遺伝子を有し、拡張されたハプロタイプHLA−A1、B8、DR3の頻度の増大もある。SLEと関連しているリスク変異体として言及されるその他の遺伝子として、IRF5、PTPN22、STAT4、ITGAM.BLK、TNFSF4およびBANK1が挙げられる。
【0128】
SLEの診断は、いくつかの課題を提起する。症状および冒される臓器障害は可変であり、SLEの症例の80%が皮膚および関節に影響を及ぼし、90%が、筋骨格系に影響を及ぼし、80%が皮膚に影響を及ぼし、多くの場合、鼻梁から胸にわたる特徴的なチョウの形の発疹を含み、50%が脱毛症を含み、50%が胸膜、心膜または腹膜の炎症性漿膜炎を有し、10%が、溶血性貧血を有し、50%が、症例の25%におけるてんかんをはじめとする精神神経合併症を有する。血清中のANAの検出は、SLEを示し得るが、患者の5〜10%は血清陰性である。さらに、正常な、健常な成人女性の25〜40%が、SLEまたはその他の結合組織障害を発症せずに、一時的にANA陽性であり得る。したがって、適切な診断には、決定的な同定および治療を遅らせる(slow)試験を支援するパネルが必要である。SLEの症状は変わるので、治療もそのように行う。メトトレキサート(methotrexae)およびアザチオプリンをはじめとする疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDS)は、紅斑の頻度を低下させる。ヒドロキシクロロキン、FDA承認抗マラリア薬も投与される。重篤な糸球体腎炎には、患者はシクロホスファミドを処方される。広範な、深刻な臓器障害にも関わらず、予後は最近数十年で向上し、診断されたSLE患者の10年生存は現在80〜90%を超えている。
【0129】
ヒト自己免疫障害と同様に、イヌSLEは、複数臓器を標的とし、遺伝的素因を示す。ノヴァスコシアダックトーリングレトリーバーは、免疫媒介性リウマチ疾患(IMRD)およびステロイド反応性髄膜炎関節炎(SRMA)を含めたSLE関連疾患になりやすい。IMRD症状は、持続性の跛行、休息後のこわばりおよび関節痛をはじめとするヒトSLEにおけるものと似ている。IMRDに苦しむイヌの大部分は、抗核自己抗体(ANA)反応性を有する。IMRD(51症例)、SRMA(49症例)を有するイヌおよび健常対照(78症例)の比較配列決定によって、DLAリスクハプロタイプDRB1*00601/DQA1*005011/DQB1*02001のホモ接合性が、その他の遺伝子型に対してIMRDのリスクを高めること(OR=4.9;ANA陽性IMRD、OR=7.2)が示された。リスクハプロタイプは、ヒトHLA−DRB1対立遺伝子関節リウマチの共有エピトープとしてこれまでに同定されている5個のアミノ酸のエピトープRARAAを含有する。
【0130】
円板状ループスは、瘢痕化皮膚疾患および通常ANAを欠く患者または任意のその他の自己抗体によって特徴付けられるSLEのサブセットである。症状は、通常、限局化されたままであり、症例の約10%のみにおいて全身疾患に広がる。イヌ相当物、円板状紅斑性狼瘡は、全身性ループスの良性の形態と考えられる。主に顔面の皮膚炎であり、コリー、ジャーマンシェパード、シェットランドシープドッグ、ジャーマンショートヘアーポインター、シベリアンハスキー、アキタ、チャウチャウ、ブリタニースパニエルおよびシェットランドシープドッグにおいて最もよく見られる。円板状紅斑性狼瘡はまた、性別の不均衡を示し、症例の60%が雌においてである。
【0131】
さらなる自己免疫および神経変性性疾患は、種々の刊行物において教示されている。例えば、Lewis Rら「Autoimmune Diseases In Domestic Animals」、Annals of the New York Academy of Sciences、124巻 Issue Autoimmunity−Experimental and Clinical Aspects:パートI、178〜200頁(オンラインで公開:2006年12月16日)。
【0132】
感染性疾患
感染性疾患は、コンパニオンアニマルにおいて観察される別のクラスの自発的に生じる疾患である。自発的に生じる感染性疾患を有するイヌなどのコンパニオンアニマルの、種々の感染性疾患を研究するための動物モデルとしての使用は、いくつかの理由で有益である。一態様では、感染性病原体のさらなる抗生物質耐性株の作製が最小化される、および/または避けられる。別の態様では、望ましくない特徴を有する突然変異感染性病原体、例えば、ネズミチフス菌(Salmonella enterica Serovar Typhimurium)の「スーパーシェッダー(supershedder)」株の作製が最小化される、および/または避けられる。
【0133】
コンパニオンアニマルにおいて観察される自発的に生じる感染性疾患として、それだけには限らないが、インフルエンザ、敗血症(例えば、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)敗血症)、細菌感染症(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、その他のブドウ球菌感染症、大腸菌および腸球菌)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、小児リーシュマニア、ブルセラ症およびコクシジウム症が挙げられる。
【0134】
抗原、病原体およびその一部などの感染性疾患の1種または複数の態様を、自発的に生じる感染性疾患を有するコンパニオンアニマルにおいて同時に調べ、感染性疾患と戦うための治療薬または診断薬(例えば、画像処理技術など)の設計のための有益な情報を提供することができる。
【0135】
その他の疾患/病状
本発明はまた、イヌにおいて生じる遺伝性の遺伝病のいずれかを研究するためのプラットフォーム技術を提供する。例えば、イヌを含めた種々の動物における遺伝性疾患および遺伝性形質を載せている、<www.omia.angis.org.au>で動物におけるオンラインメンデル性遺伝(Online Mendelian Inheritance in Animal)を参照のこと。イヌは、およそ450種の遺伝病を経験する(Ostranderら、Am J Hum Genet 61巻:475〜480頁(1997年)。本発明のイヌモデル系を使用することで、ヒトにおける同じ疾患または病状に類似するこれらの450種のイヌ遺伝病のうちおよそ220種において種々の様式(例えば、複数の抗原)を研究できる。このような遺伝病の例として、それだけには限らないが、腎症、腎臓疾患、ナルコレプシー、網膜変性症、血友病および筋ジストロフィーが挙げられる。
【0136】
別の態様では、本発明は、アレルギー、過敏症または喘息の1種または複数の態様の試験のためのプラットフォーム技術として、自発的なアレルギー、過敏症(遅延型過敏症を含む)および喘息のイヌまたはネコのようなコンパニオンアニマルモデル系を提供する。一実施形態では、ネコは、特発性喘息を自発的に発症する。自発的に発症した喘息のネコモデルは、そのようなものとして、喘息発症、進行および再発の根底にある生物学的機序(例えば、免疫細胞の関与、気道閉塞)を調査するために有用である。喘息の生物学的基盤を理解することは、喘息の症状を寛解し得る治療およびその他の薬剤を開発するために使用できる。
【0137】
本発明の別の態様では、本明細書に提供されるプラットフォーム技術は、寛容化ワクチンおよびその他の寛容原に適用される。例えば、食物アレルギーは、学校、家および職場の日常の状況においてよく見られる。ピーナッツなどのナッツに対する極度の過敏症を、本明細書に記載されるプラットフォーム技術を使用して調査してもよい。種々の食品(ナッツ、卵、乳製品など)に対する寛容化を、コンパニオンアニマルモデル系において、単一のプラットフォームまたはプラットフォームの組合せ(例えば、複数の食物アレルギー抗原)で調査できる。
【0138】
同様に、本発明は、神経疾患および可能性ある治療薬または診断薬を調査するためのイヌまたはネコなどのコンパニオンアニマルモデル系を提供する。例えば、種々の神経疾患または状態の発病が、自発的に生じる神経疾患が生じるコンパニオンアニマルモデル系において観察される。1つの限定されない例として、イヌ脳(例えば、ビーグル)におけるベータ−アミロイド蓄積がある。ベータ−アミロイド蓄積は、アルツハイマー病の発症および/または進行に関与している。本発明のプラットフォーム技術が考慮されるその他の神経疾患または状態として、それだけには限らないが、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、認知機能障害、動脈瘤、変性性脊髄症、重症筋無力症、振戦およびてんかんが挙げられる。
【0139】
機械可読ストレージ媒体
コンパニオンアニマルモデル系を使用することによって作製されたデータを、機械可読媒体で保存できる。このようなデータは、生物学的応答、投与される薬剤に対する反応の生理学的パラメータ、同定される抗原(複数可)、投与される薬剤の構造、抗原または免疫原の構造(核酸およびアミノ酸両方の配列を含む)についての情報を含み得る。この情報は、機械可読媒体で保存でき、さらに利用して、イヌモデル系において望ましい免疫応答を誘発した公知の薬剤と同様の構造を有する新規薬剤を作製できる。このようにして、ヒトの治療において使用する可能性のために、望ましい生物学的効果を有する新規薬剤が同定される。
【0140】
本発明の別の態様では、機械可読ストレージ媒体を、教育上の目的、例えば、教材またはマニュアルのために使用できる。別の態様では、本発明は、個人、例えば、科学者、慈善家および獣医間の協力を促進することを考慮する。このような協力は、自発的に生じる疾患のコンパニオンアニマルモデル系の使用によって作製されたデータの流布によって発展させることができる。この流布は、有形媒体、例えば、機械可読ストレージ媒体でのこのデータの分布によって達成できる。
【0141】
したがって、本発明は、前記データを使用するために使用説明書を用いてプログラムされた機械を使用する場合には、上に記載されている本発明の分子または分子複合体のいずれかのグラフィック3次元描写を示す、機械可読データを用いて符号化されたデータ保存物質を含む、機械可読ストレージ媒体をさらに提供する。好ましい実施形態では、機械可読データストレージ媒体は、前記データを使用するために使用説明書を用いてプログラムされた機械を使用する場合には、分子または分子複合体のグラフィック3次元描写を示す、機械可読データを用いて符号化されたデータ保存物質を含む。
【0142】
例えば、データストレージ媒体を読み取るためのシステムは、中央処理装置(「CPU」)、例えば、RAM(ランダムアクセスメモリ)または「コア」メモリ、マスストレージメモリ(例えば、1つまたは複数のディスクドライブまたはCD−ROMドライブ)であり得る作業メモリ、1つまたは複数のディスプレイデバイス(例えば、ブラウン管(「CRT」)ディスプレイ、発光ダイオード(「LED」)ディスプレイ、液晶ディスプレイ(「LCD」)、電子発光ディスプレイ、真空蛍光ディスプレイ、電界放出ディスプレイ(「FED」)、プラズマディスプレイ、プロジェクションパネルなど)、1つまたは複数のユーザー入力デバイス(例えば、キーボード、マイクロフォン、マウス、タッチスクリーンなど)、1つまたは複数の入力ラインおよび1つまたは複数の出力ラインを含み、そのすべてが、従来の双方向システムバスによって相互に連結されている、コンピュータを含み得る。このシステムは、スタンドアロンのコンピュータであってもよく、その他のシステム(例えば、コンピュータ、ホスト、サーバーなど)に対してネットワーク化されていてもよい(例えば、ローカルエリアネットワーク、広域ネットワーク、イントラネット、エクストラネットまたはインターネットによって)。システムはまた、家庭用電化製品および電気器具などのさらなるコンピュータ制御されたデバイスを含み得る。これによって、より良好な結果のために、共同努力がプールされることが可能となる。
【0143】
入力ハードウェアは、入力ラインによってコンピュータとつながれていてもよいし、種々の方法で実行されてもよい。本発明の機械可読データは、電話線によって接続されたモデムもしくは複数のモデムまたは専用のデータラインの使用によって入力してもよい。あるいは、またはさらに、入力ハードウェアは、CD−ROMデバイスまたはディスクデバイスを含み得る。ディスプレイ端末とともに、キーボードを入力デバイスとして使用してもよい。
【0144】
出力ハードウェアは、出力ラインによってコンピュータとつながれていてもよいし、同様に、従来の装置によって実行されてもよい。例として、出力ハードウェアは、QUANTAなどのプログラムを使用して本発明の活性部位のグラフィック描写をディスプレイするためのディスプレイデバイスを含み得る。出力ハードウェアはまた、ハードコピー出力が生成され得るようなプリンター、またはシステム出力を後の使用のために保存するためのディスクドライブを含み得る。
【0145】
実施中は、CPUが、種々の入力および出力デバイスの使用を調整し、マスストレージデバイスからのデータアクセスを調整し、作業メモリへアクセスし、作業メモリからアクセスされ、データ処理ステップのシーケンスを決定する。いくつかのプログラムを使用して、本発明の機械可読データを処理してもよい。このようなプログラムは、上に記載される薬物発見のコンピュータによる方法に関連して論じられている。ハードウェアシステムのコンポーネントへの言及は、必要に応じて、データストレージ媒体の以下の説明のいたるところに含まれる。
【0146】
本発明において有用な機械可読ストレージデバイスとして、それだけには限らないが、磁気デバイス、電気デバイス、光学デバイスおよびそれらの組合せが挙げられる。このようなデータストレージデバイスの例として、それだけには限らないが、ハードディスクデバイス、CDデバイス、デジタルビデオディスクデバイス、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、リムーバブルハードディスクデバイス、磁気光学ディスクデバイス、磁気テープデバイス、フラッシュメモリデバイス、バブルメモリ装置、ホログラフィックストレージデバイスおよび任意のその他のマスストレージ周辺デバイスが挙げられる。当然のことながら、これらのストレージデバイスが、必要に応じて、ハードウェア(例えば、ドライブ、コントローラ、電源など)を含む。これらのデバイスは、データの保存を可能にするために、必要なハードウェア(例えば、ドライブ、コントローラ、電源など)ならびに任意の必要な媒体(例えば、ディスク、フラッシュカードなど)を含むことを理解すべきである。
【0147】
以下の実施例は、単に例示目的で提供されるものであって、決して、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0148】
(実施例1)
自発的に生じる疾患の動物モデルにおいて使用するための送達ビヒクルの調製
選択的標的法を可能にする分子特性もしくは物理的特性またはバイオマーカー特性を使用することによって、正常細胞の代わりに癌細胞を選択的に探し出す送達ビヒクルを調製する。この実施例では、送達ビヒクルは、リポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子である。リポソームは、帯電していてもよく(例えば、カチオン性)または帯電していなくてもよい。これらのリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子は、受容体またはリガンドまたはバイオマーカーと伴に、また、伴わずに作製する。
【0149】
また、1種または複数の腫瘍退縮ウイルス(例えば、「Viral Therapy of Cancer」、Harrington、Vile and Pandha共同編集者、Wiley Publishing、2008年に論じられる腫瘍退縮ウイルスのいずれか)を保持する、リポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子を作製する。免疫細胞または走化性物質または免疫モジュレーターと伴に、またはそれらを伴わずに、プロドラッグおよびRNAi標的を保持するその他のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子を作製する。
【0150】
リポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子中にプロドラッグを組み込み、自発的に生じる疾患を有する動物において試験するために使用する。生成物の限定されない例として、癌治療薬およびその他の癌のための薬物がある。同様に、RNAi標的も、リポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子中に組み込む。RNAi(複数可)は、RNAi標的、癌原遺伝子および癌遺伝子には、癌原遺伝子および癌遺伝子の活性化をオフにし、遮断し、または低減するのに役立つ。RNAi(複数可)は、腫瘍抑制因子には、腫瘍抑制因子の活性をオンにし、または増大するためにアゴニストとして役立つ。
【0151】
本実施例のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子はまた、サイトカイン、ケモカイン、エキソソーム(肥満細胞、TおよびBリンパ球、樹状細胞、血小板などの種々の免疫細胞によって分泌される小粒子)をはじめとする免疫モジュレーターまたは免疫細胞の分化/成熟/クローン増殖を促進する免疫因子(例えば、CTLA−4)とともにパッケージする。この実施例のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子中に組み込まれる免疫モジュレーターはまた、免疫抑制細胞(例えば、T調節性細胞またはMDSC)を標的とし、癌免疫療法を増強し得る。
【0152】
この実施例のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子はまた、エピジェネティクス、例えば、メチル化、プレニル化、アセチル化および脱アセチル化(例えば、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)およびヒストンデアセチラーゼ(deaceytlases)(HDAC))、クロマチン修飾、X−不活性化および刷り込みに影響を及ぼす因子とともにパッケージする。
【0153】
この実施例のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子は、これらの送達ビヒクルをより有効にするのに役立つ種々の分子特性を用いて設計する。癌抗原およびその他の種類のバイオマーカー(代謝マーカー)は、分子特性の例である。癌抗原に関するより詳細については実施例3を参照のこと。別の分子特性は、リガンド結合である。結合のための適当なリガンドを使用することによって前転移ニッチが標的とされる。同様に、転移ニッチも標的とされる。特定の種類の癌には、いくつかのマーカーを使用する。例えば、膵臓癌を標的とするにはAxl受容体を使用するが、これは、>50%が転移性膵臓癌において発現されるからである。Cancer Biol Ther.8巻(7号):618〜26頁(2009年)。代謝マーカーの一例として、神経膠芽腫におけるcAMP治療の際に量が変化する、以前よりN−結合型の糖ペプチドがある。Proteomics 9巻(3号):535〜49頁(2009年)。
【0154】
この実施例のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子はまた、種々の物理的特性を使用して設計する。腫瘍組織は、非腫瘍組織とは異なる物理的勾配を有する。腫瘍対非腫瘍組織の圧力勾配は、当業者に公知の標準技術によって測定する。腫瘍の圧力勾配に従って、腫瘍および身体の腫瘍保有領域を優先的に標的とするための、上記のリポソーム、リポソーム様粒子またはナノ粒子を作製する。
【0155】
(実施例2)
薬剤(複数可)の送達のタイミングおよび投薬
この実施例では、均一なまたは不均一なイヌ集団のコホートを自身の対照として使用する。調査下での1種または複数の薬剤の投薬は、用量間で約1週間である。癌治療および免疫モジュレーター間の送達の順序を変え、生物学的応答を測定および/またはモニタリングする。イヌの1群では、癌治療を、最初に、次いで、免疫モジュレーター(複数可)を投与する。別のイヌの群では、免疫モジュレーター(複数可)を、最初に、次いで、癌治療を投与する。
【0156】
別の動物の群では、走化性物質を伴う、または伴わない免疫モジュレーターの送達の順序を切り換え、次いで、生物学的応答を測定する。
【0157】
(実施例3)
イヌおよび癌抗原/バイオマーカー
トランスレーショナル研究には、複数の癌抗原および/またはバイオマーカーが、互いの種々の組合せで使用される。骨肉腫については、調べられる癌抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、モノクローナル抗体TP−1およびTP−3(ヒト骨肉腫の細胞上で発現される抗原を検出する)、erbB−2(ヒト上皮増殖因子受容体2/neu)癌原遺伝子、ビメンチン、オステオポンチン、PCNA、p53、MMP−2およびMMP−9によって結合される抗原が挙げられる。
【0158】
リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫)については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、CD3抗原(J Vet Diagn Invest 5巻:616〜620頁、1993年)、T200(リンパ球分化抗原の相同体)(Can J Vet Res. 51巻(1号):89〜94頁、1987年)およびイヌリンパ腫モノクローナル抗体231によって結合される抗原(Cancer Therapy、7巻、59〜62頁、2009年)が挙げられる。
【0159】
血管肉腫については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、c−kit、CD34、CD133、CD45(Exp Hematol.、34巻(7号):870〜8頁、2006年)、因子VIII関連抗原、ICAM−1、αvβ3インテグリン(Research in Veterinary Science、81巻(1号):76〜86頁、2006年)、VEGF受容体1および2、CD31、CD146およびαvβ3インテグリン(Neoplasia、6巻(2号):106〜116頁、2004年)が挙げられる。
【0160】
乳癌については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、SiSo細胞上に発現される受容体結合性癌抗原(RCAS1)(Journal of Veterinary Medical Science、6巻(6号):651〜658頁、2004年)、シアリルルイスXおよびT/Tn(Vet Pathol 46巻:222〜226頁、(2009年)が挙げられる。
【0161】
精巣癌については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、増殖細胞核抗原(PCNA)(Journal of Comparative Pathology、113巻(4号):301〜313頁、1995年)、GATA−4(セルトリ細胞において発現され、ライディッヒ(間質性)細胞ではあまりよく見られないる転写因子)(Veterinary pathology、doi:10.1354/vp.08−VP−0287−R−BC、2009年)、インヒビン−アルファおよびビメンチン(J.Vet.Sci.、10巻(1号)、1〜7頁、2009年)が挙げられる。
【0162】
肥満細胞癌については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、CD117(BMC Vet Res.3巻:19、2007年)、銀で染色される染色体核小体形成体領域(AgNOR)および抗増殖細胞核抗原(PCNA)(Veterinary Pathology、31巻、6号、637〜647頁、1994年)が挙げられる。
【0163】
膀胱癌については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、V−TBAまたは尿中腫瘍膀胱抗原(Am J Vet Res. 64巻(8号):1017〜20頁、2003年)および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が挙げられる。
【0164】
前立腺癌については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、前立腺ホスファチジン酸(phosphatic acid)抗原、前立腺特異的抗原(PSA)、前立腺特異的膜抗原(PMSA)および上皮Na、K−ATPアーゼ発現の下方制御(Cancer Cell Int.3巻:8号、2003年)が挙げられる。
【0165】
黒色腫については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、マウスモノクローナル抗体IBF9によって認識されるイヌ黒色腫抗原(Am J Vet Res.58巻(1号):46〜52頁、1997年)、S100、ヒトメラノソーム特異的抗原(HMSA)1および5、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、ビメンチンおよびIBF−9(http://www.vetscite.org/publish/articles/000038/index.html)が挙げられる。
【0166】
白血病については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、TCR Vβ遺伝子の再配列(例えば、7種の別個のイヌTCR Vβ遺伝子の検出)(Veterinary Immunology and Immunopathology、69巻、2〜4号、113〜119頁、1999年)が挙げられる。
【0167】
肺癌腫については、調べられる抗原および/またはバイオマーカーとして、それだけには限らないが、増殖細胞核抗原(PCNA)およびKi−67(MIB1)タンパク質(Journal of Comparative Pathology、120巻(4号):321〜332頁、1999年)が挙げられる。
【0168】
(実施例4)
慢性炎症と関連している癌
種々の病状および慢性炎症の疾患進行を研究するために、自発的に生じる慢性炎症を有するイヌおよびネコが使用される。この情報が、慢性炎症を有するヒトを助けること、ならびに、慢性炎症の症状を軽減してイヌおよびネコを助けることにトランスレートされる。理論に束縛されるものではないが、より多くの慢性炎症を発生させるようフィードバックするループを中断することが、癌の発生を減少させ、ある場合には、防ぎ、または遅延するのに役立ち得る。調べられる慢性炎症の特徴として、IL−17の役割および効果および骨髄由来抑制細胞(MDSC)がある。
【0169】
一実験では、自発的に生じる炎症を有するイヌおよびネコなどのコンパニオンアニマルが、炎症の拡大と関連している癌の低減が見られるかどうかを調べるために使用されるCox−2阻害剤を用いて試験されている。別の実験では、これらの動物において、炎症について、リポソームおよびナノ粒子を、慢性炎症を有する組織へ標的とするのに必要なケモカイン勾配およびその他の勾配が試験されている。(Journal of Experimental Medicine、181巻、1179〜1186頁、1995年)。サーベイランスにとって有益であるその他の種類の免疫細胞、例えば、CIK細胞、NKG2DおよびNKT細胞および自然免疫細胞(例えば、ガンマデルタT細胞)も同様にモニタリングされている。
【0170】
別の実験では、自発的に生じる炎症性筋疾患を有するイヌが、ヒト筋炎のためのトランスレーショナルモデルに使用されている(Veterinary Immunology and Immunopathology、113巻(1〜2):200〜214頁、2006年)。
【0171】
(実施例5)
変性性疾患
ヒトにおける種々の種類の同様の神経変性性疾患が研究するために、天然に存在する神経変性性疾患を有するイヌなどの動物が使用される。種々の疾状および/または筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルーゲーリック病)の進行を研究するために、イヌ変性性脊髄症を有するイヌが使用される。神経学的状態の進行を停止するための、またはその状態を改善するための候補である種々の薬剤を、イヌ変性性脊髄症を有するイヌに投与し、生理学的効果についてモニタリングして情報を得ることができ、これを、ALSを有するヒト身体が、同様の薬剤に対してどのように反応するかにトランスレートできる。
【0172】
神経変性性疾患についてのトランスレーショナル情報を得るための別の実験では、アルツハイマー病のトランスレーショナルモデルとしてヒト型β−アミロイドを自発的に蓄積するイヌが使用される(J.Neuroscience、28巻(14号):3555〜3566頁、2008年)。
【0173】
その他の実験では、生物学的経路および治療薬を調べるためのヒトてんかんまたはパーキンソン病のトランスレーショナルモデルとして、てんかんまたはパーキンソン病を有するイヌが使用される。
【0174】
(実施例6)
非ホジキンリンパ腫のイヌモデルにおける腫瘍ワクチン反応を増強するための骨髄抑制細胞枯渇
この実施例は、実施例の最後の刊行物の一覧に対応する番号を使用することによって刊行物に対する参照を含有する。この実施例の全体的な目標は、既存の癌ワクチンに対する免疫応答を増強するためにMSC枯渇を利用することによって、より有効な治療的癌ワクチンを開発することである。現在の腫瘍ワクチンの成功率は、ワクチン設計に向けられた多大な量の努力にも関わらず、低いままである。現在の癌ワクチンの相対的な効果のなさは、一部は、抗腫瘍免疫を強く抑制するだけでなく、ワクチンに対する免疫応答を一般に抑制し得る骨髄抑制細胞(MSC)の免疫抑制特性に起因する。予備研究によって、リポソームクロドロネート(LC)を使用するMSCの除去が、自発的なT細胞媒介性抗腫瘍免疫を誘発し得ることが示されている。さらに、予備研究によって、MSC枯渇が、腫瘍を有さない動物においてワクチンに対する免疫応答を増大させ得ることも示されている。したがって、この実施例は、腫瘍ワクチン接種後の抗腫瘍免疫の生成にMSC枯渇がどのように影響を及ぼすかをマウスおよびイヌ腫瘍モデルの両方を使用して詳述する。次いで、非ホジキンリンパ腫(NHL)の自発的なイヌモデルを使用して、組み合わせたMSC枯渇/腫瘍ワクチン接種アプローチが、最小残存腫瘍量を低減することにおいて腫瘍ワクチン接種単独よりも有効であるかどうかという問題を調べる。
【0175】
目的:マウス腫瘍モデルを使用して、腫瘍ワクチン接種に対する免疫応答を増強するためのMSC枯渇の最適のタイミングを調べること。非結合仮説は、MSCの枯渇が、ワクチン接種後ほどなく、ワクチン接種に対するT細胞応答を大幅に増強し、大幅に増強された抗腫瘍活性を引き起こすということである。
【0176】
癌ワクチンおよびNHLの背景および理論的根拠
非ホジキンリンパ腫(NHL)は、ワクチン免疫療法の第一の標的と考えられてきたヒトの重要な腫瘍であるが、これは、腫瘍細胞は各々、独特の腫瘍抗原(すなわち、イディオタイプ表面免疫グロブリン分子)を発現するからである。NHLのほとんどの形態は、化学療法を用いる治療に対して比較的不応性であり、罹患患者には、通常、短い生存期間しかない。したがって、NHLのためのいくつかの腫瘍ワクチンアプローチが考案されてきた(1〜5)。ほとんどのNHLワクチンは、イディオタイプ抗原受容体を、免疫化のための標的抗原として利用してきた。NHL患者では、多数のワクチン研究が実施されており、3つのNHL研究が第III相臨床試験を完了するまでに進んでいる(5、6)。残念ながら、有望な予備結果にも関わらず、今までのところ完了した第III相試験の各々は、もともとの研究のエンドポイントを達成できなかった(5)。ワクチン試験失敗の理由は、明らかではないが、ワクチン設計、不十分なワクチンの効力または患者組み入れ基準と関連している可能性がある。
【0177】
大きな臨床成功がないにも関わらず、過去20年にわたって癌ワクチンの設計および実施においては相当な進歩があった。しかし、第I相試験を超えて進んだヒト癌ワクチンはまだほとんどない。したがって、ワクチン設計における漸進的な改善は、癌ワクチンが直面するかなりの難関を克服するには十分でない可能性があることは明らかである。したがって、癌免疫療法における研究の焦点は、今、腫瘍免疫の調節における腫瘍微小環境の役割のより良好な理解へとシフトし始めた。この再び焦点を絞ることから現れる1つの新規戦略は、免疫調節および阻害機序を修飾または回避することを使用して、既存の腫瘍ワクチンの有効性を改善できるであろうという考えである。
【0178】
骨髄抑制細胞(MSC)は、抗腫瘍免疫を阻害する。いくつかの最近の研究は、未熟な骨髄細胞が、腫瘍免疫の抑制において果たす重要な役割をより十分に定義し始めた(7〜11)。この不十分にしか定義されていない骨髄細胞の集団は、まとめて、骨髄抑制細胞(MSC)と呼ばれる。最近、癌を有する動物におけるMSC集団は、未熟な単球および好中球の混合物からなることが示された(12)。その異なる系統にも関わらず、単球性および好中球性MSCは両方とも、異なる機序によってではあるが、T細胞およびNK細胞機能を抑制することを示した。T細胞およびNK細胞の抑制は、反応性窒素種、反応性酸素種の産生およびTGF−βの表面発現ならびにアルギナーゼ産生を含むいくつかの機序によって媒介される。多くの場合、MSCによる阻害には、T細胞との直接接触または極めて密接な接触が必要である。最終結果は、MSCの近傍におけるT細胞およびNK細胞が、細胞毒性、増殖およびサイトカイン産生を機能的にできなくされることである。骨髄からのMSCの生成は、腫瘍細胞自体によって産生される、または腫瘍関連炎症に応じて産生されるサイトカインおよび増殖因子によって調節される。MSCは、骨髄からの放出後、脾臓、骨髄、流入領域リンパ節および腫瘍組織に分布する。
【0179】
骨髄抑制細胞は、癌に応じて生成されるだけでなく、種々の炎症刺激によっても誘発される。例えば、拡大された数のMSCが、敗血症、慢性感染症(ウイルス性、真菌性)および慢性炎症性疾患を有する個体中に存在する(12)。したがって、MSCは、急性および慢性炎症両方の陰性モジュレーターとして働くよう進化した可能性があることは明らかである(7、13)。したがって、炎症の調節因子として見なされ、理論に束縛されるものではないが、MSCは、ワクチン、特に、相当な炎症を誘発するワクチンに対する免疫応答を弱めるよう働く場合もある。このような反応は、癌を有する個体では、特に顕著であるが、これは、彼らがすでに大きく拡大した数のMSCを有するからであろう(14)。実際、GM−CSFを形質導入した黒色腫ワクチンでワクチン接種された黒色腫患者において、腫瘍ワクチン接種に対するちょうどこのようなMSC反応のエビデンスが報告されている(15、16)。MSCが実際に、腫瘍ワクチン反応を阻害する場合には、MSCを除去することまたはその効果を阻止することが、癌を有する患者においてワクチン接種に対する有効なT細胞免疫応答をブーストするのに役立ち得る。この考えを支持する実験的エビデンスは、細胞を成熟したマクロファージまたは好中球にさせ、その免疫抑制特性を逆転させる、オールトランスレチノイン酸(ATRA)によって誘導されるMSCの分化の研究からもたらされている。腫瘍を有する動物またはヒトがATRAで治療されると、自発的な抗腫瘍免疫が改善され、ワクチン反応が大幅に増強された(17〜19)。同様の腫瘍ワクチン反応の増強は、ニトロアスピリンを使用してMSCによるROS産生が阻害された場合にも報告された(20)。
【0180】
1つの問題は、MSC枯渇が、腫瘍免疫を回復させ、腫瘍ワクチンの有効性を改善し得るかどうかである。先の情報に基づいて、理論に束縛されるものではないが、MSCの除去は、腫瘍ワクチン反応を改善し得る。現在、in vivoでMSCを除去するためのたった2つの現実的な選択肢は、抗体媒介性枯渇を使用することまたはリポソームクロドロネートを使用することである。MSCの抗体媒介性枯渇は、in vitroおよびin vivoで幾分かの有効性を示したが、MSCに特異的な細胞表面マーカーが同定されていないので、現在、実現可能とは考えられていない(21)。しかし、抗体を用いるCD11b+/Gr−1+細胞の非特異的枯渇は、マクロファージ、単球および好中球の広範な枯渇をもたらし、免疫抑制のリスクを増大する。リポソームクロドロネート(LC)は、過去には、さまざまな免疫学的調査のためにマウスにおいてマクロファージおよび単球を枯渇させるために広く使用されていた(22〜26)。ビスホスホネート薬クロドロネートが、中性リポソーム内にカプセル化されると、リポソームは、食作用性骨髄細胞(マクロファージ、単球、MSC)によって効率的に取り込まれ、その後、クロドロネートの細胞内放出およびATP結合についての競合によるマクロファージアポトーシスの迅速な誘導が続く(27、28)。LCは、好中球を枯渇させないので、大きな免疫抑制のリスクはかなり減少する。
【0181】
さらに最近、LC治療はまた、げっ歯類腫瘍モデルにおいて抗腫瘍活性を実証したが、これらの研究では、LC治療の抗腫瘍効果は、腫瘍関連マクロファージ(TAM)の枯渇および腫瘍血管新生の阻害の効果によって起こった(29〜31)。マクロファージ枯渇剤としてのLCの使用が、マウスモデルにおいて、および自己免疫疾患を有するイヌにおいて調べられた(32、33)。LCの全身(静脈内)投与はまた、マクロファージの枯渇に加え、相当なMSC枯渇も誘導し、これは、マウスにおける、およびイヌにおける相当な抗腫瘍活性と関連していた(34)。
【0182】
しかし、疑問は、LC治療が、腫瘍組織におけるTAMの局所枯渇ではなく全身の免疫効果の誘導によって、抗腫瘍活性を媒介し得るかどうかであった。実際、LC治療によって引き起こされた抗腫瘍活性は、TAMの枯渇または腫瘍血管新生の阻害によってではなく、抗腫瘍免疫の自発的な全身活性化によるものであった。したがって、理論に束縛されるものではないが、LCを使用するMSC枯渇はまた、ワクチン接種に対して適切な順序で投与される場合には、腫瘍ワクチンの有効性を大幅に増強し得る。実際、LC治療とモデル抗原に対するワクチン接種を組み合わせる実験は、ちょうどこのような効果が生じることを示唆する。したがって、理論に束縛されるものではないが、LCを使用するMSC枯渇は、NHL腫瘍ワクチンの有効性を改善する。この実施例は、この仮説を、まず、マウス腫瘍モデルにおいて調査し、次いで、NHLのイヌモデルにおいて原理の証明実験を実施する。
【0183】
結果:LCの全身投与によって誘発される抗腫瘍活性に関する過去の研究は、LC送達を最適化して、最大の抗腫瘍活性を生じさせる方法を決定すること、LCによって誘導される抗腫瘍活性に対して感受性である腫瘍種の範囲を評価することおよびLCが抗腫瘍活性を生じさせる機序(複数可)を規定することに幾分か焦点をあわせてきた。LCの静脈内投与は、マウスモデルにおいて定着腫瘍の増殖の相当な阻害を誘発する。例えば、定着したs.c.MCA−205(肉腫)腫瘍を有するC57B1/6マウスへの1週間に1回の200μlのLCのi.v.投与は、腫瘍増殖の大幅な阻害をもたらした(図1)。重要なことに、対照PBS含有リポソーム(L−PBS)の投与は、抗腫瘍活性を誘発しかった。同様の抗腫瘍活性はまた、CT−26(結腸癌腫)腫瘍を有するBALB/cマウスにおいても生じた。また、B16(黒色腫)および4T1(乳癌腫)腫瘍を有するマウスにおいても相当な抗腫瘍活性が観察された。したがって、LC投与は、腫瘍型およびマウス株に独立して腫瘍増殖を阻害する。
【0184】
イヌにおける研究も、LCが抗腫瘍活性を有することを実証した。例えば、軟組織肉腫(STS)または悪性組織球増殖症(MH)を有するイヌへの1ヶ月に2回のLCのi.v.投与は、治療された患者のおよそ50%において腫瘍退縮を誘発する。図2に示されるように、一連のLC単独を用いる治療で治療された、STSを有するイヌは、3回目のLC投与の後に始まる大幅な自発的な腫瘍退縮を経験した。治療反応はまた、LCを用いて治療されたMHを有するイヌにおいても観察された(34)。重要なことに、LCを用いる治療は、イヌに、進行癌を有するものでさえ、耐容性良好であり、唯一の注目すべき副作用は、一時的な発熱であり、興味深いことに、これは、MHを有するイヌにおいてのみ観察された。したがって、LCはまた、癌を有するイヌにおいて、有効であり、耐容性良好な抗腫瘍剤である。
【0185】
LC治療が自発的な抗腫瘍活性を誘導し得る免疫学的機序を解明する研究が行われた。LCは、先の研究から、食作用性細胞を枯渇させることが分かっているので、LC治療が、骨髄抑制細胞(MSC)、特に、単球性MSC(35)を枯渇させ得るかどうかを調査した。腫瘍保有マウスへのLCのi.v.投与の24時間後、脾臓、血液および腫瘍組織において、CD11b+/Gr−1+ MSCを数えた(図3)。血液(図3)、脾臓および腫瘍組織において、相当なMSC枯渇が生じ、枯渇した細胞のそのほとんどが単球性であった。さらに、LC治療されたマウスにおいて、TAMの相当な枯渇および腫瘍血管新生の阻害があった。したがって、LCの全身投与は、癌を有する動物において、MSCを含めた、食作用性骨髄細胞の複数の異なる集団の相当な枯渇を誘発した。
【0186】
LCのi.v.投与は、MSCの全身枯渇をもたらしたという事実に基づいて、次のステップは、LC治療の抗腫瘍効果が、局所効果(すなわち、TAMの枯渇)によって媒介されるか、または全身の免疫学的効果によって媒介されるかを調査することとした。この問題に対処するために、T細胞を欠く腫瘍を保有するマウス(RAG2−/−マウス)をLCを用いて治療し、MCA腫瘍増殖速度を、LCを用いて治療された野生型C57B1/6マウスと比較した。LC治療の抗腫瘍効果は、RAG2−/−マウスではほぼ完全に無効にされ、このことは、LCの抗腫瘍活性は大部分はT細胞によって媒介されることを示唆した。したがって、どのT細胞サブセットが、LCの抗腫瘍活性を媒介したかを決定するために、CD8−/−マウスおよびCD4−/−マウスにおいて、腫瘍実験を反復した。CD8−/−マウスでは、LCの抗腫瘍活性は、ほぼ完全に排除された(図4)のに対し、CD4−/−マウスでは、LC活性は、部分的に阻害されただけであった。また、対照は、PBS含有リポソームを用いて治療されたマウス(lip対照)を含んでいた。したがって、LCのi.v.投与によって誘発される抗腫瘍活性は、TAMまたは腫瘍血管新生に対する局所効果ではなく、CD8T細胞抗腫瘍免疫の全身活性化によって媒介された。これらの結果は、MSC枯渇および全身免疫性の活性化が、LCが抗腫瘍活性を生じさせる主な機序である可能性が高いことを示唆するので、重要である。
【0187】
MSCのLC媒介性枯渇が、自発的なCD8T細胞媒介性抗腫瘍活性を生じさせることができた先行する実験はまた、MSC枯渇がワクチン反応を増強できる可能性があることも示唆した。この問題に対処するために、マウスに、モデル抗原としてオボアルブミンを含有するCLDCアジュバント添加ワクチン(36)を使用してs.c.ワクチン接種し、LCを使用するMSC枯渇が、ワクチン反応を増強し得るかどうかを、読み出し情報として体液性免疫応答を使用して問うた(図5)。マウスに、ova/CLDCワクチン単独を用いて、またはova/CLDCおよび免疫化の3日前のLC治療を用いて(LC、次いで、Vacc)、またはova/CLDCおよび免疫化の3日後のLC治療(Vacc、次いで、LC)を用いて、1回ワクチン接種した。血液を採取し、ovaに対するIgG反応をELISAによって調べた。ova/CLDCを用いてワクチン接種され、免疫化の3日後にLCを用いて治療されたマウスは、ova/CLDC単独またはova/CLDCおよび免疫化の3日前のLCを用いてワクチン接種されたマウスよりも大幅に高い抗体応答を発生させた。したがって、これらのデータは、実際、MSC枯渇は、ワクチンに対して適切な順序で投与された場合に、ワクチン接種に対する免疫応答を増強し得ることを示唆する。さらに、この実験は、非腫瘍保有マウスにおいて実施したが、ワクチン増強効果は、MSCのかなり大きい集団を有する腫瘍保有動物においては、より顕著であると予想されるということも留意されるべきである。
【0188】
実験計画
目的:MSC枯渇のタイミングが、ワクチンによって誘導されるT細胞応答にどのように影響を及ぼすかを決定する。
【0189】
LCは、MSCの枯渇において有効であるが、LCの投与はまた、マクロファージおよびDCをはじめとするその他の関連骨髄細胞の枯渇ももたらす。したがって、LC投与が、どの細胞が枯渇されたか、およびワクチン接種に対して何時それらが枯渇したかによって、ワクチン反応を阻害または増強し得ることが可能である。したがって、マウス免疫化モデルを使用して、CLDCアジュバント添加ワクチンを用いるワクチン接種に対する細胞性および体液性免疫応答に対する、全身LC投与のタイミングの効果を調べる。最初の実験は、モデル抗原を使用するが、これは、これらの実験の読み出し情報が、極めて頑強で、再現性があるからである。ひとたび、投与の最適のタイミングが同定されれば、2種のマウス癌モデルにおいて、これらの知見の関連性を確認する。B16黒色腫モデルは、四量体を使用してCD8T細胞応答を追跡できるので選択し、一方で、A20リンパ腫モデルは、イヌNHLモデルとの密接な類似性のために選択した。さらに、HA抗原をトランスフェクトされているA20細胞系統を使用し、これによって、CD4T細胞応答のより正確な評価が可能となる。
【0190】
実験的アプローチ:
【0191】
【表1】
目的:名目上の抗原を用いる、または腫瘍抗原を用いる免疫化に対するT細胞および抗体応答を増大するための、MSC枯渇の最適なタイミングを決定すること。これらの実験は、1)組み合わせたMSC枯渇およびワクチン接種が、通常の、および腫瘍保有マウスにおいて免疫応答を増強するかどうかを調べるために、2)免疫応答を最大にするための、ワクチン接種に対するMSC枯渇の最適なタイミングを同定するために、3)2種のマウス腫瘍モデルにおける、組み合わせたMSC枯渇および免疫化の、抗腫瘍免疫に対する効果を評価するために設計される。
【0192】
最大のT細胞応答を誘発するための、ワクチン接種に対するMSC枯渇の最適なタイミングを決定する。これらの実験は、最大のT細胞応答を生じさせるための、LC治療を使用するMSC枯渇の最適なタイミングを決定するために設計される。第1の実験では、通常のC57B1/6マウス(群あたりn=5)に、参照される刊行物(36)において開発された、強力なカチオン性リポソーム核酸(CLDC)アジュバントを使用して、Ovaを用いてワクチン接種する。評価される動物の10の実験群は、表1に記載されている。マウスに、CLDCアジュバント中の5μgのOvaを用いてs.c.ワクチン接種する。MSCの枯渇は、i.v.投与される200μlのリポソームクロドロネート(LC)の単回注射を使用して達成する。マウスをワクチン接種の7日後に安楽死させ、リンパ組織および血清を採取する。読み出し情報は、フローサイトメトリーによるCD8応答の評価(Kb−ova四量体)、CD4応答(サイトカイン放出および増殖アッセイ)および体液性反応(Ovaに対する血清抗体をELISAによって定量化する)を含む。
【0193】
データの統計分析。ノンパラメトリックANOVA(クラスカル−ウォリス)と、それに続く、ダンの多重平均値比較検定を使用して、治療されたマウスにおける免疫応答を、治療されていない対照マウスと比較する。以下のデータについても同様の分析を行う。市販のソフトウェア(Prism5、GaphPad、San Diego、CA)を使用して統計分析を行い、有意性は、p<0.05として定義する。
【0194】
免疫化の1日または3日後のいずれかでLCを用いる治療によって、最適の免疫応答が生じ、これは、Ova特異的CD8T細胞の数の増加、多量のIFN−γ産生およびより高い抗体力価によって反映される。これらのアッセイは、実験室において日常的に行われる。結果によって、ワクチン反応を増強するための、MSC枯渇の最適なタイミングの明確な同定が可能となる。単回の免疫化の後に、読み出し情報が明確でない場合には、抗原特異的T細胞の数を増大するための、最初の免疫化の2週間後に投与される追加免疫化を使用して実験を反復する。
【0195】
腫瘍抗原に対するワクチン接種後の免疫応答および抗腫瘍活性に対するMSC枯渇の効果を評価する。これらの実験は、2種の異なる腫瘍モデルを使用して、定着腫瘍を有するマウスにおいて、MSC枯渇が、腫瘍抗原に対するT細胞応答を増強し得るかどうかを調べるために設計される。第1のモデルでは、B16黒色腫を有するC57B1/6マウスを使用するが、これは、このモデルにおいて明確に定義された腫瘍抗原(trp2)が同定されており、これによって、四量体試薬を使用してCD8T細胞応答の正確な定量化が可能となるからである。上記で決定された最適MSC枯渇スケジュールを使用して、定着した皮膚のB16腫瘍を有するマウス(群あたり、n=5)に、5μgのCLDCアジュバント中のtrp2ペプチドを用いてs.c.ワクチン接種し、次いで、7日後にブーストする。処理群は、ワクチン接種していない対照マウス、ワクチン接種のみを行ったマウス、LC治療のみを行ったマウスおよびワクチン接種およびLC治療を用いて処理されたマウスを含む。血液、脾臓およびLN中のtrp2特異的CD8T細胞の数を、フローサイトメトリーおよびKb−trp2四量体を使用してブーストの5日後に評価する。これらの実験を、別の群のマウスで反復して、腫瘍増殖反応に対する組み合わせたMSC枯渇/ワクチン接種の効果を評価する。これらの研究では、腫瘍増殖速度を、腫瘍直径の3回/週の測定によって評価する。さらに、治療されたマウスおよび対照マウスの全生存期間を評価する。
【0196】
第2の腫瘍モデルでは、A20−HAリンパ腫を有するBALB/cマウスにおいて、ワクチン接種に対する免疫応答を評価する。このモデルでは、腫瘍は、T細胞応答の測定を容易にするためにインフルエンザHA抗原を発現するよう操作されている。2種の異なるワクチンを評価する。1)パラホルムアルデヒド固定されたA20−HA細胞(CLDCアジュバントと混合した、ワクチンあたり1×106個の不活性化A20細胞)または2)HA抗原ワクチン、5μgのCLDCアジュバント中のrHA。定着した皮膚のA20腫瘍を有するマウス(群あたりn=5)に、CLDCアジュバント中の自己A20−HA腫瘍細胞を用いて、またはCLDCアジュバント中のrHAを用いてs.c.ワクチン接種し、次いで、7日後にブーストする。処理群は、ワクチン接種していない対照マウス、ワクチン接種のみを行ったマウス、LC治療のみを行ったマウスおよびワクチン接種およびLC治療を用いて処理されたマウスを含む。評価される免疫応答として、これまでに記載された(36)、ワクチン接種に対するサイトカイン応答(固定された腫瘍細胞を用いる、またはHA抗原を用いる、脾臓またはLN細胞のin vitro再刺激後のサイトカイン放出)、増殖性応答(固定されたA20腫瘍細胞を用いる、またはrHA抗原を用いる96時間のin vitro再刺激後の脾臓またはLN細胞の増殖)の測定およびin vivo CTL活性の評価(養子性に移入された、CFSE標識A20腫瘍細胞のin vivo死滅が挙げられる。実験は、別の群のマウスで反復して、腫瘍反応に対する組み合わされたMSC枯渇/ワクチン接種の効果を評価する。これらの研究では、皮膚に埋め込まれたA20の腫瘍増殖速度を、腫瘍直径の週に3回の測定によって評価する。さらに、治療されたマウスおよび対照マウスの全生存期間を調べる。
【0197】
組み合わされたMSC枯渇/ワクチン接種プロトコールは、B16腫瘍モデルにおいて、ワクチン接種単独またはMSC枯渇単独と比較して、trp2特異的CD8T細胞の数の大幅な増大を誘導する。2種の治療の付加効果が観察されない場合には、腫瘍を保有するマウスにおけるMSCの数が、ワクチン反応を阻害するのにまだ十分である場合に備え、週に2回のLC投与を使用して実験を反復する。trp2特異的CD8T細胞応答の規模があまりにも低くて、ex vivoで直接測定できない場合には、細胞を4〜5日間、IL−2および特異的ペプチドの存在下でin vitroで培養して、T細胞の数を増やし、その後、四量体アッセイを行う。trp2特異的T細胞の数の増大は、組み合わされたMSC枯渇/ワクチン接種治療を受けているマウスにおける腫瘍増殖速度の大幅な低下および全生存期間の増大と相関する。抗腫瘍免疫応答におけるCD8T細胞の役割を、CD8−/−マウスを使用して、または免疫化後のCD8T細胞の抗体媒介性枯渇によって確認する。
【0198】
A20−HAモデルでは、T細胞サイトカイン放出およびCTL活性は、組合せMSC枯渇/ワクチン接種治療を受けるマウスにおいて増大する。全腫瘍細胞およびHAワクチン接種ならびに免疫アッセイの両方を利用することによって、解釈可能なデータが生じる。自己腫瘍細胞およびMSC枯渇を用いてワクチン接種されたマウスでは、腫瘍増殖速度は大幅に遅くなり、生存は改善される。自己腫瘍ワクチンを用いるワクチン接種は、複雑性および固定された腫瘍細胞上の潜在的な抗原の数の増加のために、HA抗原単独を用いるワクチン接種よりも有効である可能性が最も高い。
【0199】
目的:MSC枯渇と組み合わせた腫瘍ワクチン接種が、非ホジキンリンパ腫のイヌモデルにおいて、残存する腫瘍量を大幅に低減するかどうかを調べること。
【0200】
理論的根拠。マウス腫瘍モデルにおける実験は、ワクチンおよびLC投与のタイミングを最適化して、細胞性免疫を最大にするために、および抗腫瘍活性を評価するために有用である。しかし、ヒト癌研究における結果の予測におけるマウス腫瘍モデルの限界は、周知である。したがって、最良の利用可能な自発的なNHL腫瘍モデル、B細胞リンパ腫を有するイヌを使用する。このモデルは、過去に、CM−CSFをトランスフェクトされた腫瘍細胞を使用して調製された自己リンパ腫ワクチンの有効性を評価するために使用されてきた。イヌに、固定された自己腫瘍細胞全体を用いてワクチン接種するアプローチは、通常、組換えイディオタイプIg分子からなるヒトNHLワクチンに、完全に類似していない可能性があるが、このようなワクチンを構築することは、イヌ腫瘍モデルでは極めて困難である。表面Ig分子を保つ、パラホルムアルデヒドで固定された腫瘍細胞を用いて免疫化することによって、関連ワクチン反応が生じる。3つの処理群のイヌを有する保存的研究設計を使用して、LC治療が、NHL腫瘍ワクチン反応を大幅に増強できるかどうかの決定を行う。さらに、研究の主要エンドポイントとしてワクチン接種後の最小残存病変量(MRD)の変化を使用することによって(DFIまたはOSTではなく)、研究エンドポイントがより迅速に、より高い潜在的な正確度で達成されることが可能となる。この種のデータはまた、ヒトNHLワクチンを用いる使用のための戦略としての、LCを用いるMSC枯渇療法の評価と高度に関連している。
【0201】
試験設計。これらの研究は、B細胞リンパ腫を有するイヌ、ヒトにおけるNHLのイヌ相当物における原理の証明研究として設計される。この研究の主要な目的は、ワクチン接種およびMSC枯渇が、ワクチン接種単独またはMSC枯渇単独よりも、残存腫瘍量(血流中のqRT−PCRによって検出可能な循環腫瘍DNA(37)の大きな低減をもたらすかどうかを調べることである。マウスにおける研究に、幾分か基づいて、各々、8頭のイヌという群の大きさによって、80%の検出力で(PS Power and Sample Size calculationソフトウェア)、ワクチン接種単独のイヌまたはLC単独で治療されたイヌと比較して、ワクチン接種された/MSC枯渇されたイヌにおけるMRDの30%の低減に基づいて、有意な治療の相違を決定することが可能となるはずである。したがって、組織学的に確認されたB細胞リンパ腫を有する24頭のイヌを無作為化臨床試験に登録する。各イヌを、従来の化学療法(ドキソルビシンおよびLアスパラギナーゼ)を用いて10週間治療して、完全な肉眼で見える腫瘍緩解を達成し、その時点で、イヌを治療群1(ワクチン単独)、治療群2(LC治療単独)または治療群3(ワクチンおよびLC治療)に無作為化する。自己リンパ腫細胞(2mlのCLDCアジュバント中の、s.c.投与された、ワクチン接種あたり1×107個のパラホルムアルデヒド固定された細胞)を使用して、群1および3のイヌに、2週間毎に1回、5回の全部の免疫化の間ワクチン接種する。群2のイヌには、LC(0.5ml/kg)の一連の5回の注入を、2週間に1回与える。群3のイヌには、ワクチン接種し、上記の目的の1つで決定されたワクチン接種に対して最適なタイミングのLC投与を使用してLCを用いて治療する。
【0202】
MRDを決定するため、および免疫学的アッセイのために、血液を、治療前、および治療の2、4、6、8および10週目に採取する。各再チェックの来診時に、リンパ節の大きさを調べる。各再チェック時にCBCを実施して、単球および好中球の数を評価する。研究の完了時に、イヌは、最初の腫瘍再発の時間(無病期間;DFI)を調べるために、電話による追跡調査によって追跡調査され続ける。
【0203】
腫瘍ワクチンおよびMSC枯渇のためのLCの調製。自己腫瘍ワクチンを、化学療法の投与に先立って各患者から得たリンパ節生検から採取したリンパ腫細胞を使用して調製する。腫瘍細胞の単細胞懸濁液を、穏やかな酵素的解離を使用して調製する。次いで、腫瘍細胞を、表面抗原を保存したまま、腫瘍細胞を軽く固定し、死滅させるよう設計されている、PBS中のパラホルムアルデヒドの1%溶液中で一晩固定する。固定された腫瘍細胞のアリコートを、ワクチンを製造するために使用されるまで凍結保存する。ワクチンを、血管肉腫を有するイヌのための同種異系の腫瘍ワクチンを調製するためにこれまでに報告されたもの(38)と同様の技術を使用して、2mlのCLDCアジュバントと混合された1×107個腫瘍細胞を使用して調製する。ワクチンを側部胸部上の2箇所の異なる部位に皮内に投与する。ワクチン接種を、2週間の間隔で合計5回の免疫化の間反復する。MSCの枯渇は、悪性の組織球増殖症を有するイヌの治療のために記載されるように調製されたLCのi.v.投与によって達成される(34)。LCを、0.5ml/kgの用量で、遅いi.v.注入によって60分間にわたって2週間毎に1回投与する。LCのこの用量は、これまではイヌに耐容性良好であり、治療されたMHを有するイヌのおよそ30%における一時的な発熱が最も頻繁な有害作用である。
【0204】
ワクチン反応の評価。ワクチン反応を、治療の前に、ならびに治療の2、4、6、8および10週目に採取したPBMCを使用して評価する。PBMCを解凍し、次いで、3種の異なる比(1:1、1:10、1:100)でPFAによって固定された自己リンパ腫細胞とともに96時間インキュベートし、増殖を、BrDU組み込みおよびフローサイトメトリーを使用して評価する。さらに、培養物から上清を集め、市販のイヌIFN−γ ELISA(R&D Systems)を使用してIFN−γ濃度を調べるためにアッセイする。これまでに報告されたように(39)、ワクチン反応の評価を容易にするために、ネオ抗原(KLH)をワクチンに組み込む。KLHに対する免疫応答を、50μg/mlのKLHとともにin vitroで96時間インキュベートされたPBMCを使用して、増殖およびIFN−γ放出によって評価する。さらに、KLHに対する抗体応答を、KLH ELISA(39)を使用して評価する。
【0205】
化学療法およびワクチン接種後の分子的緩解の評価。腫瘍BCRの増幅のための腫瘍BCR特異的プライマーセットを設計するために、腫瘍試料を、研究の開始時に採取する(40、41)。化学療法の完了時(最初のワクチンの直前)に、および研究の治療相の間、2週間の間隔で、循環リンパ腫細胞(MRD)の数のPCR決定のために血液試料を採取する。PBMCを分離し、MRD算出および免疫機能の評価のために使用される3つの異なるアリコートで凍結する。定量リアルタイムPCR(qRT−PCR)およびB細胞リンパ腫を有するイヌにおけるMRD量の定量化のためのこれまでに記載されたプロトコール(37)を使用して循環腫瘍細胞を定量化する。個々の患者イディオタイプIgのために具体的に設計されたPCRプライマーを利用する、その研究では、PCR技術は、従来の化学療法を使用して誘導された完全な眼に見える腫瘍緩解の後であっても、7頭のイヌ各々において循環腫瘍細胞を検出するのに十分に感受性であると報告された。さらに、7頭の研究されたイヌすべてにおいて、化学療法の中止後、循環腫瘍量は増大し、アッセイは、肉眼的腫瘍再発までの時間について予測的であった。したがって、qRT−PCRアプローチは、ワクチン接種およびMSC枯渇(すなわち、分子的緩解)に対する腫瘍反応の正確な定量化を達成する。さらに、群間比較は、研究の第一の疑問(すなわち、組み合わされたワクチン接種/MSC枯渇治療は、いずれか単独よりも有効であるか)に対処するのに十分に頑強であるはずであり、化学療法のみを用いて治療されたリンパ腫を有するイヌのさらなる群を含む必要はない。
【0206】
理論に束縛されるものではないが、自己腫瘍ワクチンおよびLCを用いる組み合わされた治療は、腫瘍ワクチン単独またはLC治療単独を受けているイヌと比較して、腫瘍MRDにおいて、より大きな低減、さらに相当に大きな低減をもたらす。ワクチン接種単独またはLC治療単独はまた、治療前の値と比較して、MRDを大幅に低減するが、組み合わされたワクチン/LC治療は、相乗的抗腫瘍活性を引き起こす。MRD低減が、研究の主要エンドポイントであると同時に、免疫アッセイ(増殖、サイトカイン産生、標的細胞死滅)はMRDアッセイと相関する。
【0207】
文献引用
【0208】
【化1】
【0209】
【化2】
【0210】
【化3】
【0211】
【化4】
(実施例7)
単球/マクロファージアクチベーターL−MTP−PEの臨床試験
活性化された単球およびマクロファージは、in vitroで化学療法耐性癌細胞を排除し、したがって、自然免疫性のこれらのエフェクター細胞を活性化する薬剤は、化学療法を補完し得る。L−アラニンD−イソグルタミンジペプチドと結合しているN−アセチルムラミン酸からなる最小のペプチドグリカンモチーフムラミルジペプチド(MDP)は、グラム陰性菌およびグラム陽性菌の共通の膜成分である。完全フロイントアジュバントの重要な成分、MDPは、自然免疫受容体NALP3を介して単球およびマクロファージを活性化する。ムラミルトリペプチドホスファチジルエタノールアミン(MTP−PE)は、MDPとのアラニンおよびジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンの合成コンジュゲーションであり、大きな効力を有する親油性分子を作製し、細胞取り込みを改善し、殺腫瘍性活性をブーストする。親油性MTP−PEはまた、食作用性細胞による迅速取り込みのためのリポソームに、より容易に組み込まれる。イヌにおける薬物動態研究によって、迅速なクリアランスおよび毒性の10倍の低減が確認された。有望な前臨床試験に基づいて、いくつかのイヌおよびネコ癌において臨床試験を実施した。外科的切除後、L−MTP−PEを、2mg/m2の用量で、週に2回、8週間、単独または化学療法(ドキソルビシンおよびシクロホスファミドまたはシスプラチン)と組み合わせて投与した。手術の直後に投与した場合には、L−MTP−PE治療は、222日の生存期間中央値を与え、プラセボリポソームを用いて治療されたイヌ(77日)よりも有意に長かった(p<0.002)。シスプラチン後にL−MTP−PEを用いて治療された非転移イヌは、14.4ヶ月の生存期間中央値を有し、シスプラチンおよびプラセボを用いて治療されたイヌ(9.8ヶ月)よりも、やはり有意に長かった(p<0.01)。シスプラチンと同時にL−MT−PEを用いる治療も生存期間中央値を向上させたが、1.6ヶ月の相違は有意ではなかった。初期段階黒色腫の治療において長い無病生存期間も注目されたが、乳房切除後のネコまたはイヌ乳房腫瘍においては効果はなかった。
【0212】
コンパニオンアニマルにおけるこれらの研究の成功を基に、およそ150人の種々の進行性癌(乳癌、結腸直腸癌、肺癌、黒色腫、腎細胞癌、胃癌および唾液腺腺癌ならびに肉腫)を有する患者において、一連の探索性の第I相研究を実施した。これらの研究によって、L−MTP−PE最大耐量および最適生物学的用量を決定し、これは、イヌ研究への同様の投薬を示す。1993年〜1997年の、第III相臨床試験によって、高悪性度骨肉腫を有する新規に診断された患者において、ドキソルビシン、シスプラチンおよび高用量メトトレキサートの標準レジメンに加えられたL−MTP−PE(ミファムルチド)および/またはイフォスファミドの有効性を評価した。試験には、非転移性の切除可能な骨肉腫を有する678人の患者、L−MTP−PEを受けている332人ならびにL−MTP−PEを受けている39人を含む、転移性または切除可能でない骨肉腫を有する115人および115人の患者が含まれていた。イフォスファミドおよび3種の化学療法薬の添加は、標準治療に対して、薬剤のない生存期間(DFS)または全生存(OS)を大幅には向上させなかったが、L−MTP−PEの添加は、両方を大幅に向上させた(DFS p=0.030;OS p=0.039)。IDM Pharma Incは、2006年にL−MTP−PEのNDAを提出したが、2007年に、さらなるデータを要求する、現時点では承認しない旨の通知書を受け取った。2009年3月に、L−MT−PE(ミファムルチド、MEPACT(登録商標))は、欧州連合におけるこの薬物の販売を可能にする、欧州委員会よる中央審査医薬品販売承認を認められた。
【0213】
L−MTP−PEの開発経路は、ヒトおよびイヌ骨肉腫における研究が、並行して進行し、両種における骨肉腫の治療のための薬物の最適化につながり得る情報の二元配置フローを提供し得る方法を示す。
【0214】
(実施例8)
電気化学療法(ECT)の最適化
癌化学療法薬ブレオマイシンおよびシスプラチンを含めたいくつかの薬物は、高度に疎油性であり、したがって、細胞取り込みが悪い。ブレオマイシンは、かなり疎油性であり、簡単な拡散によってでは標的細胞に入ることができず、特定のタンパク質受容体による、比較的遅い、効率的でない取り込みを必要とし、その結果、培養細胞中に<0.1%しか内部に取り入れられない。悪い取り込みのために必要とされる高い全身用量は、正常組織に対してかなりの毒性を引き起こしており、抗癌剤としてのブレオマイシンの採用を、その治療可能性にも関わらず妨害している。標的細胞透過性を一時的に変更する短い電気パルスは、この問題の解決法を提供した。これらのパルスは、細胞膜中に孔を誘導し、薬物およびプラスミドの細胞侵入を改善すると思われる。in vitroでの細胞のエレクトロパルセーション(Electropulsation)は、ブレオマイシンの細胞毒性を数千倍高め、シスプラチンの細胞毒性を70倍高めた。この技術の最初のin vivo研究は、アジュバント放射線療法後の再発性軟組織肉腫を有するネコにおいて1997年に実施された。ブレオマイシンとそれに続く方形波を受けたネコの小さいコホートは、11匹の処理されていない対照に対して、12匹のネコにおいて長期の生存を有していた。
【0215】
その後の第I/II相研究では、イヌおよびネコ軟組織肉腫患者を、二相性電気パルスと併用される病巣内ブレオマイシンを用いて治療し、その結果、長期の緩解を有する40%を含む80%という全応答率が得られた。この研究は、イヌ血管周囲細胞腫(hemagiopericytomas)は、電気化学療法(ECT)に対して特に反応性であることを示したが、結合組織に適応する専用の電極の開発の必要性も強調した。最適化された電極を用いて、一連の第II相研究を、続いて開始した。電気療法とともに手術中または手術後のブレオマイシンを受けている軟組織肉腫を有するネコは、それぞれ、手術単独を用いる4ヶ月と比較して、12および19ヶ月という再発の平均時間を改善した。イヌ軟組織肉腫患者を用いる同様の研究は、730日の再発までの平均時間ならびにブレオマイシンおよび電気パルスを用いて治療されたイヌにおける95%の応答率をもたらし、血管周囲細胞腫による最大の感受性であった。さまざまな腫瘍における、ECT試験から得た370種の生検試料にわたる再調査は、全生存および壊死(p<0.0001)および高い率のアポトーシス(p<0.0001)の間の強い相関を示した。
【0216】
電気パルスの期間および頻度も、コンパニオンアニマルにおける複数の試験によって最適化し、1秒から100ミリ秒にパルスの期間を低減することおよび反復頻度を1Hzから5000Hzに増大することによって、患者の不快感を少なくして、腫瘍に必要な400V/cm電場を送達できるであろうということを実証する。最初のin vivo研究は、ちょうど10年前に開始されたが、いくつかのEU諸国では、ECTはすでにヒト使用のために承認されており、払い戻されている。獣医学の患者におけるECTの臨床試験は、最初のヒト腫瘍学試験の直後に始まり、このアプローチは、さまざまな皮膚および皮下腫瘍を有するネコ、イヌおよびウマのためにいくつかの欧州諸国およびブラジルにおいて広く使用されている。技術の最適化は、ヒトおよび獣医学臨床試験において並行して進行し、ヒトおよびコンパニオンアニマルにおける腫瘍間の類似性および両分野で働く腫瘍学者間の情報交換が、新規治療法の開発をどれほど加速し得るかを示す。
【0217】
(実施例9)
血管肉腫の治療
リポソームにカプセル化されたムラミルトリペプチドホスファチジルエタノールアミン(L−MTP−PE)は、イヌ骨肉腫(上記)の無作為化臨床試験における成功を提供し、したがって、この治療戦略を血管肉腫に拡張した。32頭のHSAを有し、明白な転移のないイヌを、L−MTP−PEまたはプラセボとともに、脾摘出術およびドキソルビシン+シクロホスファミドを用いて治療した。L−MTP−PEを受けたイヌは、無病生存期間(p=0.037)および全生存(p=0.029)を大幅に改善し、臨床段階Iにおいてイヌによる、臨床段階IIにおいてよりも良好な応答があった。バイオアッセイによって、血清腫瘍壊死因子およびインターロイキン−6、重要な免疫サイトカインの大幅な上昇が示された。これらの研究は、イヌにおける満たされていない医学的ニーズのための新規治療アプローチを示唆する。さらに、イヌHSAの研究は、コンパニオンアニマルおよびヒトの治療のための抗転移戦略を伝え得る。
【0218】
(実施例10)
自然および適応免疫性のプラスミドDNA刺激
細菌の超抗原によって活性化されたT細胞は、強い細胞溶解性活性を発現させ、養子性に移入された場合には腫瘍退縮を媒介する。自発的な悪性黒色腫を有する26頭のイヌを、細菌超抗原ブドウ球菌内毒素BをコードするプラスミドDNAならびにGM−CSFまたはIL−2のいずれかを用いて治療し、腫瘍退縮に対するDNAワクチン接種の効果を試験した。すべてのイヌの全応答率(完全および部分緩解)は、46%であり、小腫瘍において最高であった。組織学的試験によって、CD4+およびCD8+T細胞が、腫瘍中に浸潤することが示され、腫瘍退縮が、高レベルの循環細胞傷害性Tリンパ球と相関していることが実証された。この研究では、より高い安定性のためにプラスミドをコンパクトにするために、プラスミドDNAは、カチオン性脂質と錯体を形成した。その後の研究によって、カチオン性脂質および細菌DNAの組合せは、コードされる遺伝子の不在下で、自然免疫性を効果的に刺激し、強いサイトカイン応答を誘発することが示された。
【0219】
(実施例11)
抗血管新生トロンボスポンジン−1ペプチドミメティクスの開発
この実施例は、マウスモデルからヒト臨床試験への治療薬開発の橋渡しにおいてコンパニオンアニマルにおける自発的な腫瘍がどのように役割を果たし得るかを示す。腫瘍は増殖するので、限局化された血管新生を誘導し、さらなる増殖を支援する適切な血液供給を発達させなくてはならない。したがって、血管新生を阻止することが、多数の癌治療の試みの目的である。トロンボスポンジン−1(TSP−1)は、多面的な天然血管新生阻害剤であり、内皮細胞活性化の多数の態様を阻止する。TSP−1、ABT−526およびABT−510の血管新生ドメインに基づく修飾ノナペプチドは、薬物開発にとって、より実用的な大きさで、このアンタゴニスト活性を共有する。同一遺伝子マウスモデルおよび異種移殖マウスモデルにおける最初の有効性研究によって、ABT−526およびABT−510の両方が腫瘍増殖を遅らせることが示された。しかし、血管新生の阻害が、腫瘍を迅速に破壊するとは考えにくく、迅速に進行するマウス癌モデルに基づいて、ヒト臨床試験のための用量を確立することは、最適とは考えられなかった。安全性および有効性を良好に定義するために、2種のTSP−1ペプチドミメティクスが、自発的なイヌ腫瘍の非盲検の非臨床試験において調べられた。前向き非盲検試験が、NHL、軟組織肉腫、乳腺腺癌、頭頸部癌腫および多数のその他の原発性および転移性腫瘍をはじめとするさまざまな癌を有する242頭のイヌで実施された(115)。薬物動態研究を、ビーグル犬の実験室コロニーにおいて実施し、マウスおよび非近交系コンパニオンアニマル研究間の橋を提供し、初期用量パラメータを確立した。この研究では、用量を制限する毒性は、いずれのイヌにおいても観察されなかった。測定可能な病変の目的退縮(腫瘍の大きさの>50%低減)は、180頭のうち19頭の評価可能なイヌにおいて示され、23頭のイヌにおいて相当な疾患安定化が起こった。これらの反応のほとんどは、TSP−1ミメティックを用いる治療の60日後に起こり、投薬を最適化し、有効性を確認するための適当なモデルとしてのイヌにおける自発的な腫瘍の選択が確認された。この研究によって、NHLが、より反応性のクラスの腫瘍の1種であることおよびABT−526が、ABT−510よりも活性であることが示された。これらの結果に基づいて、ABT−526の対照二重盲検試験を天然に存在する最初の再発NHLを有する94頭のペットのイヌで実施した。この研究は、最適な生物学的用量およびスケジュールのさらなる定義を提供するために、活性の予測的バイオマーカーを同定するために、化学療法と組み合わせて有効性を試験するために設計された。イヌには、ロムスチン(CeeNu(登録商標)、Bristol Myers Squibb)およびプラセボまたはABT−526を与えた。この対照臨床試験では、ABT−526は、化学療法に応じる症例の数を増大させなかったが、反応期間を中程度に増強した。ABT−510試験は、一連のヒト第I相および第II相臨床試験に進んだ。39人のさまざまな進行癌を有するヒト患者における、ABT−510の第I相安全性、薬物動態および薬力学的研究によって、少なくとも6ヶ月間6人の患者において、好都合な毒性プロファイルが実証され、塩基性線維芽細胞増殖因子、血管新生のマーカーの減少および安定な疾患が引き起こされた。
【0220】
(実施例12)
ドキシル有害作用の低減
ドキソルビシンは、DNAの間に介入して複製を阻止するアントラサイクリン系抗生物質であり、NHLなどの血液学的悪性腫瘍をはじめとするさまざまな癌の治療において、また軟組織肉腫において使用される。ドキシル、ドキソルビシンを含有するペグ化リポソームは、長期の循環、増強された抗腫瘍効力を有し、心毒性は少ない。しかし、遊離ドキソルビシンとは異なり、ドキシルは、手掌足底感覚異常症(PPES)と呼ばれる、手足疾患と呼ばれることもある有痛性の皮膚反応を誘導する。ヒトと同様に、イヌも長期のドキシル治療後のPPESの発生に対して感受性である。事例エビデンスによって、経口ビタミンB6(ピリドキシン)が、PPESを軽減または排除し得ることが示唆された。これを試験するために、経口ピリドキシンまたはプラセボと組み合わせた毎日のドキシル化学療法の無作為化二重盲検を、NHLを有する41頭のイヌにおいて実施した(118)。治療群間の緩解率においては、相違は観察されなかったが、PPESを発症する相対リスクは、プラセボ群では4.2倍高かった。ピリドキシンは、PPESを完全には防がなかった、または逆転させなかったが、症状を遅延または減少させた。イヌにおけるこの探索的試験によって、ヒト患者におけるこの戦略のより広範な試験のための理論的根拠が提供された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相乗作用を有する抗癌剤の組合せを同定するための方法であって、(1)自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルに2種以上の抗癌剤を投与するステップと、(2)前記コンパニオンアニマルを生物学的および/または生理学的効果についてモニタリングするステップと、(3)前記生物学的および/または生理学的効果が相乗的である場合に、相乗作用を有する抗癌剤の組合せを同定するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記抗癌剤が、ビスホスホネート、白金ベースの化学療法薬、タンパク質ホスホリパーゼDの阻害剤、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ポドフィロトキシン、抗体、チロシンキナーゼ阻害剤、ホルモン治療、可溶性受容体および抗悪性腫瘍薬からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗癌剤が、クロドロネートおよびカチオン性CpGである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ヒトにおける治療のための治療法を同定するための方法であって、自発的に生じる疾患を有するコンパニオンアニマルにおいて組成物の組合せを試験するステップと、自発的に生じる疾患を有する前記コンパニオンアニマルにおける前記試験の結果を、自発的に生じる疾患を有さない動物における前記試験の結果と比較することによって、ヒトにおける成功の可能性の高い組合せを同定するステップとを含む、方法。
【請求項5】
自己免疫疾患と関連している自己抗原を同定する方法であって、(a)自発的に生じる自己免疫疾患を有するコンパニオンアニマルにおいて1種または複数の抗原を決定するステップと、(b)前記コンパニオンアニマルにおいて前記疾患の抗原プロファイルを得るステップと、(c)前記プロファイルを、前記自発的に生じる疾患を有さない対照コンパニオンアニマルと比較するステップと、(d)自己免疫疾患と関連している自己抗原を同定するステップとを含む、方法。
【請求項6】
ヒトにおいて癌と関連している、または関連している疑いのある複数の抗原を標的とする方法であって、(a)自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルに抗癌効果を有すると疑われる1種または複数の薬剤を投与するステップと、(b)前記コンパニオンアニマルにおける前記薬剤の生物学的効果または生理学的効果をモニタリングするステップと、(c)前記薬剤が生物学的効果または生理学的効果を有していた前記コンパニオンアニマルにおいて1種または複数の抗原を同定するステップと、(d)前記薬剤が、前記コンパニオンアニマルにおいて抗癌効果を有する場合には、前記ヒトに同じ薬剤を投与するステップとを含む、方法。
【請求項7】
ヒトにおいて感染性疾患と関連している、または関連している疑いのある複数の抗原を標的とする方法であって、(a)自発的に生じる感染性疾患を有するコンパニオンアニマルに前記感染性疾患に対して効果を有すると疑われる1種または複数の薬剤を投与するステップと、(b)前記コンパニオンアニマルにおける前記薬剤の生物学的効果または生理学的効果をモニタリングするステップと、(c)前記薬剤が生物学的効果または生理学的効果を有していた前記コンパニオンアニマルにおいて1種または複数の抗原を同定するステップと、(d)前記薬剤が前記コンパニオンアニマルにおいて有益な効果を有する場合には、前記ヒトに同じ薬剤を投与するステップとを含む、方法。
【請求項8】
前記感染性疾患が、インフルエンザ、敗血症(例えば、Klebsiella pneumoniae敗血症)、細菌感染症(例えば、Staphylococcus aureus、その他のブドウ球菌感染症、E.coliおよび腸球菌)、Pseudomonas aeruginosa、Leishmania infantum、ブルセラ症、コクシジウム症およびSalmonella enterica血液型亜型Typhimuriumからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コンパニオンアニマルがイヌである、請求項1または4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記コンパニオンアニマルが、純血種のイヌである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記コンパニオンアニマルが、雑種のイヌである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記イヌが、均一な遺伝的背景を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記イヌが、不均一な遺伝的背景を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記コンパニオンアニマルがネコである、請求項1または4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
相乗作用を有する抗癌剤の組合せを同定するための方法であって、(1)自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルに2種以上の抗癌剤を投与するステップと、(2)前記コンパニオンアニマルを生物学的および/または生理学的効果についてモニタリングするステップと、(3)前記生物学的および/または生理学的効果が相乗的である場合に、相乗作用を有する抗癌剤の組合せを同定するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記抗癌剤が、ビスホスホネート、白金ベースの化学療法薬、タンパク質ホスホリパーゼDの阻害剤、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ポドフィロトキシン、抗体、チロシンキナーゼ阻害剤、ホルモン治療、可溶性受容体および抗悪性腫瘍薬からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗癌剤が、クロドロネートおよびカチオン性CpGである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ヒトにおける治療のための治療法を同定するための方法であって、自発的に生じる疾患を有するコンパニオンアニマルにおいて組成物の組合せを試験するステップと、自発的に生じる疾患を有する前記コンパニオンアニマルにおける前記試験の結果を、自発的に生じる疾患を有さない動物における前記試験の結果と比較することによって、ヒトにおける成功の可能性の高い組合せを同定するステップとを含む、方法。
【請求項5】
自己免疫疾患と関連している自己抗原を同定する方法であって、(a)自発的に生じる自己免疫疾患を有するコンパニオンアニマルにおいて1種または複数の抗原を決定するステップと、(b)前記コンパニオンアニマルにおいて前記疾患の抗原プロファイルを得るステップと、(c)前記プロファイルを、前記自発的に生じる疾患を有さない対照コンパニオンアニマルと比較するステップと、(d)自己免疫疾患と関連している自己抗原を同定するステップとを含む、方法。
【請求項6】
ヒトにおいて癌と関連している、または関連している疑いのある複数の抗原を標的とする方法であって、(a)自発的に生じる癌を有するコンパニオンアニマルに抗癌効果を有すると疑われる1種または複数の薬剤を投与するステップと、(b)前記コンパニオンアニマルにおける前記薬剤の生物学的効果または生理学的効果をモニタリングするステップと、(c)前記薬剤が生物学的効果または生理学的効果を有していた前記コンパニオンアニマルにおいて1種または複数の抗原を同定するステップと、(d)前記薬剤が、前記コンパニオンアニマルにおいて抗癌効果を有する場合には、前記ヒトに同じ薬剤を投与するステップとを含む、方法。
【請求項7】
ヒトにおいて感染性疾患と関連している、または関連している疑いのある複数の抗原を標的とする方法であって、(a)自発的に生じる感染性疾患を有するコンパニオンアニマルに前記感染性疾患に対して効果を有すると疑われる1種または複数の薬剤を投与するステップと、(b)前記コンパニオンアニマルにおける前記薬剤の生物学的効果または生理学的効果をモニタリングするステップと、(c)前記薬剤が生物学的効果または生理学的効果を有していた前記コンパニオンアニマルにおいて1種または複数の抗原を同定するステップと、(d)前記薬剤が前記コンパニオンアニマルにおいて有益な効果を有する場合には、前記ヒトに同じ薬剤を投与するステップとを含む、方法。
【請求項8】
前記感染性疾患が、インフルエンザ、敗血症(例えば、Klebsiella pneumoniae敗血症)、細菌感染症(例えば、Staphylococcus aureus、その他のブドウ球菌感染症、E.coliおよび腸球菌)、Pseudomonas aeruginosa、Leishmania infantum、ブルセラ症、コクシジウム症およびSalmonella enterica血液型亜型Typhimuriumからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コンパニオンアニマルがイヌである、請求項1または4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記コンパニオンアニマルが、純血種のイヌである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記コンパニオンアニマルが、雑種のイヌである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記イヌが、均一な遺伝的背景を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記イヌが、不均一な遺伝的背景を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記コンパニオンアニマルがネコである、請求項1または4から7のいずれか一項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図3】
【公表番号】特表2012−526997(P2012−526997A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511060(P2012−511060)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/035019
【国際公開番号】WO2010/132847
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(511275120)オートミール バイオテクノロジーズ グループ, エル.エル.シー. (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/035019
【国際公開番号】WO2010/132847
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(511275120)オートミール バイオテクノロジーズ グループ, エル.エル.シー. (1)
【Fターム(参考)】
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