説明

自硬化性粉体および該自硬化性粉体の硬化体を含む物品又は部材

【課題】火災などにより高温に加熱された場合に強度を維持すると共に、誤操作による穿孔や極軽微な破損によっても充填物が漏れ出すことがなく、金属製補強材を使用しなくても通常使用時において十分な強度を有し、生産性にも優れる物品又は部材を得るため自硬化性粉体を提供すること。
【解決手段】無機中空粒子の集合体からなる粉体100質量部と、水溶性フェノール樹脂の固形分濃度が10〜60質量%である水溶性フェノール樹脂のアルカリ水溶液または分散液からなる粘結剤組成物2〜17質量部と、当該粘結剤組成物に含まれる水溶性フェノール樹脂を硬化せしめるのに必要量の硬化剤とを混合して得られる自硬化性粉体を、常温で硬化させて、その硬化体を耐熱性部材兼補強部材として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性又は防火性断熱部材として有用な硬化体を与える自硬化性粉体、更には該硬化体を含む物品又は部材に関するものである。
なお、ここで、サッシ材とは、枠材、框材、方立て材を総称するものであり、またサッシ枠とは、所謂サッシ枠の他に、サッシ框を含めて指称し、同様に、枠は框を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
従来、本体がアルミニウムから形成されたアルミニウム製サッシに代わり、断熱性、防音性に優れた樹脂サッシが、寒冷地を中心に普及している。この樹脂サッシは、断熱性に優れているため、結露しにくく、居住性を向上することができる。
【0003】
しかし、そのような樹脂サッシは、防火性能が低いために、防火地域又は準防火地域等の防火戸あるいは窓に使用することができないという問題があり、防火性を付与する方法が検討されている。防火性を高める方法としては、樹脂サッシの中空部(空洞部)に耐熱性材料を充填する方法が知られている(特許文献1参照)。例えば、特許文献1に記載の方法では、防火仕様でない一般の樹脂サッシとして使用される、長手方向に沿う空洞を有する合成樹脂製形材の空洞内に、略コ字状の金属製部材に熱膨張性耐火材からなるシートをL字状に貼り合わせて一体化したものを挿入することにより、防火性が付与されている。
【0004】
ところで、防火窓においては、サッシ材自体に防火性が要求されることは勿論であるが、火災時においてガラスあるいはガラスと一体化された障子が脱落し難いことも重要である。そして、ガラスや障子の脱落を防止する方法としては、樹脂製障子の上框、下框、左右の縦框に金属補強材をそれぞれ設けると共に、コーナー部において隣接した縦、横の金属補強材をコーナー金具でそれぞれ連結して、金属補強材を四周連続し、前記樹脂製窓枠の上枠に設けた金属補強材に受け金具を取り付け、前記樹脂製障子の上框に設けた金属補強材に支持金具を取り付け、前記樹脂製障子が閉じた状態で、前記樹脂製障子の框が軟化あるいは焼失した時に、支持金具と受け金具で樹脂製障子を吊り下げ支持するようにする方法が、知られている(特許文献2参照)。
【0005】
また、加熱時の荷重により有害な変形を生じない防火性樹脂サッシとして、樹脂サッシの空洞部に特定組成のセメント組成物を充填・硬化させたもの(特許文献3)、あるいは耐熱性無機粒子と、100℃〜800℃の温度に加熱されたときに、前記耐熱性無機粒子の結合剤として機能する高温結合剤とを含有してなる粒子状又は粉末状の耐熱性組成物を、樹脂サッシの空洞部に充填したもの(特許文献4)が、知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−9304号公報
【特許文献2】特許第4229286号公報
【特許文献3】特許第2774897号公報
【特許文献4】特開2010−270466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載されたサッシ材は、防火サッシとして機能するばかりでなく、防火仕様でない一般の樹脂サッシ材を利用して簡単に製造することができるという優れたものである。しかしながら、そのような樹脂サッシ材で使用される熱膨張性耐火材は、膨張後においても自立する程度の強度を有するものの、その強度は、さほど高くないため、かかるサッシ材を用いてサッシ枠や窓を構成した場合に、使用するガラスの面積が大きくなったり、厚さが厚くなったりした場合には、その重さによって、加熱されたサッシ枠が変形し、ガラスが脱落することがあった。このような現象は、補強材としての機能を有する金属製部材を使用することによって、ある程度防止することができるのであるが、その効果には、限界があった。即ち、金属製部材の挿入のし易さの観点から、金属部材とサッシ材との間に隙間を設けることが多く、この隙間に熱膨張性耐火材を配置したとしても、ガラスの重さに起因する力により、金属部材が傾いてしまい、ガラスが脱落することがあったのである。また、サッシ材に複数の空洞が存在する場合に、全ての空洞に金属製部材を挿入することは、コスト及び手間の観点で困難であることから、金属部材の挿入されない空洞がある場合には、その空洞部の変形により、ガラスが脱落することがあった。
【0008】
一方、前記特許文献2に記載された方法では、各種金属製部材(例えば補強材、コーナー金具、支持金具)同士を直接にビス固定するために、樹脂製形材の加工が必要になるばかりでなく、支持金具は外部に露出するため、腐蝕や外力による変形に起因する故障が懸念されるといった問題があった。
【0009】
また、前記特許文献3に記載された防火性樹脂サッシ材は、性能自体は優れるものの、生産性に問題があった。即ち、セメント組成物は硬化する前は液状であり、取り扱い難いばかりでなく、硬化にも長時間を要するため、サッシ材の空洞に充填する場合は勿論、充填後においても、セメント組成物が硬化するまで、液漏れや液こぼれを起こさないように長時間注意して静置しておく必要があり、生産性の点で問題があった。
【0010】
さらに、前記特許文献4に記載された防火性樹脂サッシ材は、火災時においては、優れた性能を発揮するものである。また、前記粉体組成物は火災時において加熱されて硬化し、高強度の硬化体を与えるため、防火性付与のために、特別な金属補強の必要はなく、中空のサッシ本体として、例えば防火仕様でない一般の樹脂製中空サッシ材がそのまま利用できるという利点がある。しかしながら、例えば、“無機中空粒子をノボラック樹脂とその硬化剤(例えばヘキサメチレンテトラミン)とを組み合わせた熱硬化性樹脂からなる高温結合剤でコートした粒子の集合体からなる粉体組成物”を、耐熱性組成物として用いた場合には、かかる粉体組成物は常温では硬化しないため、該防火性樹脂サッシ材を用いてサッシ枠や窓を構成し、それを建物に設置するときに誤って螺子孔を開けた場合、或いはサッシ材として実用上問題とならないような軽微な破損(例えば、パテ等により補修可能な小さな破損等)が発生してしまった場合等には、充填された前記粉体組成物が外部に流出してしまうことがあった。また、上記の粉体組成物は、(火災時以外の)通常の使用時において、補強効果を発揮しないため、通常使用時の強度を確保するためには、一般の樹脂製中空サッシ材と同様に、空洞内部に金属製補強材を挿入する必要があった。
【0011】
そこで、本発明は、防火性を有し、火災等により高温に加熱された場合に強度を維持してガラスの脱落が起こり難いという特徴を有するばかりでなく、誤操作による穿孔や極軽微な破損によっても充填物が漏れ出すことがなく、且つ金属製補強材を削減することができ、更に生産性にも優れる防火性サッシ材、防火性サッシ枠或いは防火窓の製造に際して、耐火性又は防火性断熱部材として有用な硬化体を与える自硬化性粉体を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、上記防火性サッシ材等以外の物品又は部材にも好適に使用できる耐熱性部材の原料を提供することをも、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして、本発明者らは、前記特許文献4に開示されている技術において、高温結合剤(より具体的には、その一態様である熱硬化性樹脂)として開示されているレゾール樹脂で無機中空粒子をコートしたものを、耐熱性組成物として使用した場合には、特に所定の温度に加熱しなくとも常温で硬化し得ることに着目し、その硬化時間を充填操作が可能な範囲内で十分に短くできれば、前記課題を解決することができるのではないかと考えた。
【0014】
なお、鋳型製造の分野においては、有機自硬化鋳型造型法に用いられる粘結剤組成物として、水溶性フェノール樹脂を粘結剤として用い、これを有機エステルにより硬化せしめる組成物が知られている(例えば、特開平5−192737号公報等参照)。しかしながら、そのような組成物を用いた鋳型砂は、流動性及び模型等への充填性が悪いことが知られており、このような鋳型砂、更にはこのような鋳型砂に用いられるケイ砂に代えて、無機中空粒子を用いたものを、樹脂製中空サッシ材等の複雑な形状を有する中空部に充填できるか、否かは不明であった。例えば、鋳型砂を鋳枠に空気輸送法により充填する場合には、サンドマガジンと呼ばれる特殊な装置を用いる必要があり、これら粉体の輸送に一般的な空気輸送が適用できるのか否かさえ不明であった。
【0015】
このような背景の下において、本発明者等が種々検討を行った結果、レゾール樹脂として水溶性フェノール樹脂を特定の固形分濃度として含む塩基性水溶液を用い、これを特定の量比で無機中空粒子に添加、混合することによって得られる粉体は、圧送による空洞への充填が可能で、充填後において室温で比較的速やかに自硬化して、優れた強度及び断熱性を有する硬化体を与え得ることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0016】
すなわち、本発明は、下記〔1〕〜〔6〕に示される態様において実施されるものである。
【0017】
〔1〕 無機中空粒子の集合体からなる粉体100質量部と、水溶性フェノール樹脂の固形分濃度が10〜60質量%である水溶性フェノール樹脂のアルカリ水溶液または分散液からなる粘結剤組成物2〜17質量部と、当該粘結剤組成物に含まれる水溶性フェノール樹脂を硬化せしめるのに必要量の硬化剤とを混合して得られる自硬化性粉体。
【0018】
〔2〕 篩い振動数を3600回/分、篩い振動幅を0.5〜0.8mmとして振動させた、ロート角60°、細口径4.7mmのロートに、20gの自硬化性粉体を投入した時のロート通過速度が、0.1g/min以上であることを特徴とする上記〔1〕に記載の自硬化性粉体。
【0019】
〔3〕 前記硬化剤の使用量が、前記粘結剤組成物100質量部に対して、10〜200質量部であることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の自硬化性粉体。
【0020】
〔4〕 前記硬化剤が、有機エステルからなることを特徴とする前記〔1〕乃至〔3〕の何れか一つに記載の自硬化性粉体。
【0021】
〔5〕 前記粉体として、粒子径が200μm以下である粒子の含有割合が30質量%以下であり、粒子径が300μm以上500μm以下の範囲にある粒子の含有割合が30質量%以上であり、粒子径が600μm以上である粒子の含有割合が20質量%以下である粒度分布を有する粉体を使用することを特徴とする前記〔1〕乃至〔4〕の何れか一つに記載の自硬化性粉体。
【0022】
〔6〕 サッシ材、窓およびサッシ枠以外の物品又は部材であって、内部に空洞を有する物品又は部材の当該空洞内に、前記〔1〕乃至〔5〕の何れか一つに記載の自硬化性粉体の硬化体が充填されてなることを特徴とする物品又は部材。
【発明の効果】
【0023】
上記〔1〕乃至〔5〕に示される本発明に係る自硬化性粉体は、例えば、無機中空粒子の集合体からなる粉体に、所定量の前記粘結剤組成物及び硬化剤を添加して、ミキサー等によって混練することにより、調製できる。このようにして得られる本発明に従う自硬化性粉体は、常温において自然に硬化する性質を有するが、調製後しばらくの間は、硬化せずに、圧送が可能な粉体流動性を有する。このため、中空サッシ材やそれを枠組みした枠体、障子等の“内部に空洞を有する部材又は物品”に容易に充填できるという特長を有する。更に、本発明に従う自硬化性粉体は、充填後において、比較的短時間で、室温で自硬化するので、充填対象となる部材や物品に誤操作による穿孔や極軽微な破損が起っても、充填物が漏れ出すことがない特徴を発揮する。
【0024】
また、本発明に従う自硬化性粉体が自然に硬化して得られる硬化体は、優れた強度及び断熱性を有するので、火災時において防火材として機能するばかりでなく通常使用時における補強材としても有効に機能する。従って、上記〔6〕に示す本発明に従う物品又は部材は、優れた防火性を有し、従来必要であった補強材の使用を省略することもできる。
例えば、本発明に従う自硬化性粉体の硬化物が充填されてなる物品乃至は部材は、前記特許文献4に記載されているような従来の防火性サッシ材と比べて、次のような利点を有しているのである。即ち、上記従来の防火性サッシ材では、サッシ材本体として一般的な樹脂製サッシ材を用いた場合には遮炎性と強度確保のために、金属製補強部材を使用する必要があったのに対し、本発明の部品乃至は部材では、そのような金属製補強部材を用いなくても、必要な強度を確保することができ、且つ上記従来の防火性サッシ材と同等以上の防火性能を実現することができるのである。
また、本発明の物品乃至は部材の空洞内に充填される前記硬化体は、通水性を有し、水と接触しても有機成分が殆ど溶出することがないので、該物品乃至は部材を用いて構成した製品においては、台風時等において螺子部等の隙間から不可避的に滲入した水を排出するための流路を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】サッシ枠の空洞部内に、本発明に従う自硬化性粉体を充填して、耐火補修した後の防火窓を、一部破断して示す斜視図である。
【図2】図1におけるII−II線の要部拡大横断面図である。
【図3】充填装置を用いて、サッシ枠を構成するサッシ材の空洞部内に、本発明に従う自硬化性粉体を充填する場合の、一実施形態を概略的に示す図である。
【図4】図3における円Aの要部拡大縦断面図である。
【図5】第1筒状治具の斜視図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図3における円Bの要部拡大横断面図である。
【図8】第2筒状治具の斜視図である。
【図9】図8のIX−IX線断面図である。
【図10】封止部材の斜視図である。
【図11】同じく、封止部材の分解斜視図である。
【図12】サッシ枠を構成するサッシ材の空洞部内に、本発明に従う自硬化性粉体を充填する場合の、他の実施形態を概略的に示す図である。
【図13】第1筒状治具の他の実施形態を示す斜視図である。
【図14】図13のXIV−XIV線断面図である。
【図15】ロート通過速度の試験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.本発明に従う自硬化性粉体
本発明に従う自硬化性粉体は、無機中空粒子の集合体からなる粉体の100質量部と、水溶性フェノール樹脂の固形分濃度が10〜60質量%である水溶性フェノール樹脂のアルカリ水溶液または分散液からなる粘結剤組成物の2〜17質量部と、当該粘結剤組成物に含まれる水溶性フェノール樹脂を硬化せしめるのに必要量の硬化剤とを、混合して得られるものであることを特徴とする。以下、そのような本発明に従う自硬化性粉体について、その原料及び製造方法等を詳細に説明する。
【0027】
(無機中空粒子の集合体からなる粉体)
無機中空粒子の原料となる粉体を構成する無機中空粒子としては、800℃、好ましくは900℃に加熱されても、軟化したり、溶融したりしない無機物質からなる中空の粒子又は粉末であれば、使用可能であり、例えばガラスバルーン、シラスバルーン、石炭灰バルーン(フライアッシュバルーン)、セラミック系バルーン等を挙げることができる。これら無機中空粒子は1種類のみを用いてもよく、異なる複数の種類を併用してもよい。自硬化性粉体は、かかる無機中空粒子を用いることにより、粉体が軽量化されて流動性が向上し、中空でない粒子と比べて、圧送による空洞への供給をスムースにして、より確実で、ムラのない充填を行うことができる。
【0028】
上記粉体の粒度分布は、特に限定されるものではないが、本発明に従う自硬化性粉体としたときに、これを、長手方向に沿う空洞部を有する所定の物品乃至は部材の前記空洞部内に充填する場合の充填性からは、粒度分布を制御することが好ましい。例えば、建物躯体の開口部に装着したままの状態にある既成の窓枠のような、長手方向に沿う空洞部を有するサッシ材からなるサッシ枠の前記空洞部内に、本発明に従う自硬化性粉体を圧送して、充填する場合において、密充填され易く、充填後において自重や振動等により空隙が発生し難いという理由から、次の粒度分布を有することが好ましい。
すなわち、粒子径が200μm以下である粒子の含有割合が30質量%以下であり、粒子径が300μm以上500μm以下の範囲にある粒子の含有割合が30質量%以上であり、粒子径が600μm以上である粒子の含有割合が20質量%以下である粒度分布を有することが好ましく、中でも、粒子径が200μm以下である粒子の含有割合が20質量%以下、特に1〜20質量%であり、また粒子径が300μm以上、500μm以下の範囲にある粒子の含有割合が40質量%以上、特に40〜90質量%であり、更に、粒子径が600μm以上である粒子の含有割合が10質量%以下、特に5〜10質量%であり、残余が粒子径が500μmを越え600μm未満であるような粒度分布を有することが、特に好ましい。なお、上記粒子度分布は、乾式ふるい分け試験方法(JIS K0069)による粒度測定結果に基づくものである。
原料となる前記粉体が、このような粒度分布を有する場合には、所定の粘結剤組成物及び硬化剤と混合して、本発明に従う自硬化性粉体としても、良好な充填性を実現することができる。
【0029】
(粘結剤組成物)
粘結剤組成物とは、これに含まれる水溶性フェノール樹脂が硬化剤の作用によって高分子化することによって、無機中空粒子同士を結合させるものであり、水溶性フェノール樹脂のアルカリ水溶液または分散液からなる。
本発明においては、前記粉体に対して使用して、自硬化性粉体を調製しようとしたときに、調製直後からある時間内では圧送可能な粉体流動性を保持し、そして常温或いは室温において適度な時間で硬化し、高い強度の硬化体を与えるという理由から、水溶性フェノール樹脂の固形分濃度が10〜60質量%である粘結剤組成物を、前記粉体の100質量部に対して、2〜17質量部の割合で使用する必要がある。このような条件を満足する場合には、細長い空間内に空気輸送(圧送)可能な粉体流動性とすることができ、更に、室温(例えば10〜30℃)における作業猶予時間を3分〜1時間内で、制御することができる。硬化物の強度の観点から、より好ましい粉体特性を有する自硬化性粉体を得るためには、粘結剤組成物中の水溶性フェノール樹脂の固形分濃度は30〜50質量%であることが好ましく、また粘結剤組成物の使用量は、前記粉体の100質量部に対して、4〜10質量部であることが好ましい。
なお、水溶性フェノール樹脂の固形分濃度は、予めその質量を秤量した試料を、空気循環式炉内で100℃、3時間乾燥させた後に、質量を測定し、乾燥前後の試料質量に基づいて決定されるものである。
【0030】
粘結剤組成物に含まれる水溶性フェノール樹脂とは、フェノール類と、化学量論的に過剰量のアルデヒド類とを、塩基性触媒の存在下に反応させて得られる樹脂を意味し、一般にレゾール型と呼ばれるものである。本発明においては、有機エステル等の硬化剤と自硬化反応をし易いという観点から、水溶性フェノール樹脂としては、フェノール性水酸基1当量に対し0.1〜1.2当量のアルカリ金属を含有するアルカリフェノール樹脂を使用することが好ましい。このようなアルカリフェノール樹脂を用いた場合には、硬化剤に由来する酸によって、アルカリフェノール樹脂が中和され、更に高分子化することにより、無機中空粒子同士を結合する作用がより高くなる。
【0031】
水溶性フェノール樹脂の原料となるフェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、3,5−キシレノール、ビスフェノールA、その他置換フェノール、及びこれらの混合物を使用することができるが、水溶性と比較的安価という理由からフェノールを使用することが好ましい。
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールアルデヒド及びこれらの混合物を使用することができるが、ホルムアルデヒドを使用することが好ましい。アルデヒド類の使用量は、フェノール化合物と化学量論的に反応するのに必要な量以上の量であればよいが、一般に、フェノール類1モルに対して、1.2〜2.5モル使用することが好ましい。
塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物を使用することができる。塩基性触媒の使用量は、通常、フェノール類1モルに対して0.1〜1モルである。有機エステルを硬化剤として使用する場合は、0.4〜1モルが好ましい。
水溶性フェノール樹脂の合成は、次のようにして行うことができる。即ち、先ず、それぞれ所定量のフェノール類とアルデヒド類とを加熱下に水と混合して、均一な混合溶液を調製する。その後、一旦冷却してから、該混合溶液に所定量の塩基性触媒を水溶液の形で攪拌下に徐々に滴下して混合する。滴下終了後、混合液を徐々に昇温し、還流下で反応液が所定の粘度に達するまで、反応させればよい。
【0032】
反応終了後は、必要に応じてアルカリ水溶液を添加して、水溶性フェノール樹脂のアルカリ度を調整したり、更に水を加えて、固形分濃度を調整したりすることにより、粘結剤組成物とすることができる。
【0033】
粘結剤組成物には、尿素等のホルムアルデヒド捕捉剤及び/又はγ―アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤からなる硬化体の強度増強剤を、上記粘結剤組成物100質量部に対して、それぞれ、0.5〜5質量部、0.05〜1質量部添加することが好ましい。
【0034】
(硬化剤)
硬化剤とは、水溶性フェノール樹脂に作用して、これらを常温或いは室温(例えば10〜30℃)で自然に硬化させる機能を有する物質を意味し、例えば酸又は有機エステルが使用される。酸としては、例えば、硫酸、キシレンスルホン酸、トルエンスルホン酸等のスルホン酸、リン酸等が挙げられる。有機エステルとしては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、乳酸エチル、セバシン酸メチル、エチレングリコールジアセテート、ジアセチン、トリアセチン、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、二塩基酸メチルエステル混合物等のカルボン酸エステル類、又はγ−ブチロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類、又はエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、4−エチルジオキソロン、4−ブチルジオキソロン、4,4−ジメチルジオキソロン、4,5−ジメチルジオキソロン等の環状シルキレンカーボネート類(有機炭酸エステル類)等が挙げられる。これら硬化剤のなかでも、作業性の観点から、加水分解速度が比較的緩やかな二塩基酸エステルが好ましい。
【0035】
硬化剤の使用量は、常温における作業猶予時間、粉体流動性及び強度を勘案して、適宜に決定すればよいが、より具体的には、常温における作業猶予時間を3分〜1時間に制御できるという観点から、粘結剤組成物100質量部に対して10〜200質量部、特に15〜100質量部であることが好ましい。水溶性フェノール樹脂を完全に硬化させる理由から、10質量部以上が望ましく、硬化阻害を起し強度を低下させてしまう理由からは、200質量部以下が望ましいのである。特に、硬化剤の含有量は、粘結剤組成物の添加量が無機中空粒子100質量部に対して2〜6質量部の範囲では、硬化剤の量を多めに入れても良く、粘結剤組成物100質量部に対して10〜200質量部が好ましい。また、粘結剤組成物の添加量が6質量部より多くなると、硬化剤は粘結剤組成物の量以下程度に抑えるほうが良く、粘結剤組成物100質量部に対して10〜100質量部が好ましい。このとき、粘結剤組成物と硬化剤の合計量は、無機中空粒子100質量部に対して2〜30質量部になるようにすることが望ましい。
【0036】
2.本発明に従う自硬化性粉体の製造方法
本発明に従う自硬化性粉体は、次のような方法により、好適に製造することができる。即ち、前記無機中空粒子をミキサー等の攪拌機により攪拌させながら、硬化剤、必要に応じてホルムアルデヒド捕捉剤及び/又は強度増強剤を予め添加した粘結剤組成物を、順次攪拌機に投入することにより、容易に製造することができるのである。
【0037】
3.本発明に従う自硬化性粉体の用途
本発明に従う自硬化性粉体は、常温で自然に硬化して、優れた強度及び断熱性を有する硬化体を与える。該硬化体は、火災時において遮炎材として機能するばかりでなく、補強材としても機能する。従って、内部に空洞を有する物品又は部材の当該空洞内に、本発明に従う自硬化性粉体の硬化体が充填されてなる物品又は部材は、優れた防火性を有し、従来必要であった補強材の使用を省略することもできる。
【0038】
例えば、長手方向に沿う空洞を有する中空形材からなるサッシ本体と、当該空洞内に充填される耐熱性部材とを含んでなる防火性サッシ材であって、前記耐熱性部材が本発明に従う自硬化性粉体の硬化体からなる防火性サッシ材にあっては、前記特許文献4に記載されているような従来の防火性サッシ材と比べて、次のような利点を有するものである。即ち、上記従来の防火性サッシ材では、サッシ材本体として一般的な樹脂製サッシ材を用いた場合には、遮炎性と強度確保のために金属製補強部材を使用する必要があったのに対し、本発明に従う自硬化性粉体の硬化体が充填されてなる防火性サッシ材では、このような金属製補強部材を用いなくても、必要な強度を確保することができ、且つ上記従来の防火性サッシ材と同等の防火性能を実現することができるのである。このとき、本発明に従う自硬化性粉体の硬化体が充填されてなる防火性サッシ材の空洞内に充填される前記硬化体は、通水性を有し、水と接触しても有機成分が殆ど溶出することがないので、該サッシ材を用いて構成した防火性窓やサッシ枠においては、台風時等においてガラスとのシール部から不可避的に滲入した水を排出するための流路を確保することができる。なお、これら防火性窓やサッシ枠が、本発明に従う自硬化性粉体の硬化体が充填されてなる防火性サッシ材の前記特長を有することは、勿論である。
【0039】
さらに、以下に詳しく説明する、本発明に従う自硬化性粉体を用いた充填方法によれば、特定の位置に設けられた充填口に第1筒状治具を挿着し、防火性材料としての自硬化性粉体をサッシ材の空洞部内に圧送すると共に、かかる第1筒状治具が挿着された位置と特定の関係を有する位置に設けられた排気口より、第2筒状治具を介して空洞部内の空気を排出することにより、空洞部内に自硬化性粉体を容易に充填できるので、充填作業の効率が向上し、また可及的均一に充填され、且つ充填率も大幅に高めることができる。その結果、防火性能を一段と向上させることができる。そのため、かかる充填方法は、建物躯体の開口部に装着したままの状態にある既成の窓枠を、防火構造となるようにする耐火補修方法(本充填方法を用いたこのような耐火補修方法を「本工法」と言う)として、好適である。
【0040】
以下、本発明に従う自硬化性粉体を用いて得られるサッシ枠やその製造方法について、その実施形態を、図面に基づいて詳しく説明するが、本発明は、そのような具体的な態様に限定して解釈されるものではないことが理解されるべきである。例えば、サッシ材以外の物品又は部材であっても、それらが内部に空洞を有するものであり、その空洞内に、本発明に従う自硬化性粉体を充填し、自硬化させた場合には、サッシ材と同様に、耐熱性、耐火性、断熱性等の性能向上効果及び補強効果を得ることができる。なお、ここで、サッシ材とは、枠材、框材、方立て材を総称するものであり、またサッシ枠とは、所謂サッシ枠の他に、サッシ框を含めて指称し、同様に、枠は框を含むものとする。そして、本発明に従う物品又は部材は、特に、そのような防火性サッシ材、防火窓およびサッシ枠を除くものであって、具体的には、ドア、玄関ドア、断熱ボード・軒天材・壁等を挙げることができる。
【0041】
4.本発明に従う自硬化性粉体が用いられたサッシ枠
以下、図面を参照して、本発明に従う自硬化性粉体を用いて得られるサッシ枠について、説明する。
図1は、充填装置を用いて、サッシ枠の空洞部内に防火性材料を充填して、耐火補修した後の防火窓を、一部破断して示す斜視図であり、図2は、図1におけるII−II線の要部拡大横断面図である。
なお、図示の実施例では、図2において、左側を「室内側」とし、右側を「室外側」として説明する。
【0042】
かかる図1及び図2に示されるように、後記する充填装置を用いた耐火補修後の防火窓、例えば複層ガラス窓1は、住宅や事務所等の建物躯体2に設けた開口部3に、合成樹脂製のサッシ枠4を組み付けると共に、このサッシ枠4の内周面4aに、複層ガラスWを嵌め殺し状態をもって装着することにより、構成されている。
なお、サッシ枠4は、上枠4A、下枠4B及び左右の側枠4Cを構成する、断面がやや横長矩形の中空形材からなる合成樹脂製のサッシ材5を方形に組み立てることにより、構成されている。
また、サッシ材5を構成する中空形材としては、例えば特開平9−137675号公報に開示されているような、塩化ビニル樹脂に、木材の粉砕物から調製したセルロース系微粉末を配合した樹脂組成物をもって形成した部材、特開平2000−303743号公報に開示されているような、表面が透明あるいは着色されたアクリル樹脂で被覆された部材等が適宜に使用される。
【0043】
なお、前記した本工法は、上記したような合成樹脂製のサッシ枠4について、好適に使用され得るものであるが、中空形材からなるアルミニウム又はアルミニウム合金製のサッシ材を用いたサッシ枠や、アルミニウム又はアルミニウム合金と樹脂を複合させて用いた、所謂アルミ樹脂複合サッシ材についても、同様に適用可能である。
サッシ枠4の内周面4aには、図2に要部を拡大して示すように、前記サッシ材5と、このサッシ材5における室内側内周端縁の内側に向けて突出させた突出部6と、前記サッシ材5の室外側内周端縁に形成した取付凹部7に取り付けられた押え部材(押縁)8とにより囲まれた内周溝部9が、形成されている。この内周溝部9には、前記複層ガラスWの外周端が、嵌合状態をもって保持されるようになっている。
【0044】
複層ガラスWは、例えば、室内側に配置される網入りガラスW1と室外側に配置されるフロートガラスW2とより、構成されている。なお、網入りガラスW1とフロートガラスW2とは、入れ替えた配置としてもよい。
【0045】
サッシ枠4の内周面4aと複層ガラスWの外周端との間には、火災時に複層ガラスWの周囲のサッシ材5が炭化劣化して、抜け落ちたとしても、火炎が複層ガラスWの周囲を通り抜けないように、耐火部材10が配設されている。この耐火部材10としては、セラミックファイバー等の不燃性の繊維、例えば不燃性の繊維部材の全外周面を、シート状又はフィルム状の非通気性部材で被覆してなるものや、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛、ケイ酸金属塩、ホウ酸塩等の熱膨張性無機物、及びこれらを組み合わせたものが、好適に使用することができる。
【0046】
サッシ枠4の上枠4A、下枠4B及び左右の側枠4Cを構成するサッシ材5には、長手方向に沿って空洞部11が形成されており、この空洞部11は、前記上枠4A、下枠4B及び左右の側枠4Cの全周に亘って互いに連通し得るようになっている。
【0047】
空洞部11は、補強を兼ねた隔壁12をもって、サッシ材5内のほぼ中心部に形成した比較的大きな主要空洞部13と、この主要空洞部13の室外側に隣接させて、上下方向の内外2段に形成した比較的小さな小空洞部14A,14Bとに、複数に区画されている。主要空洞部13は、更に隔壁12Aをもって、上下方向の内外2段の大空洞部13A,13Bに区画されてなると共に、これら大空洞部13A,13Bは、前記隔壁12Aに穿設した通孔15をもって、互いに連通させてある。
【0048】
主要空洞部13には、防火性材料16が、内外の空洞部13A,13Bに跨って充填されており、この防火性材料16の充填によって、前記サッシ枠4を、所望の防火性能を有する防火構造に補修することができる。なお、上記防火性材料16は、充填前及び充填直後においては本発明に従う自硬化性粉体からなり、充填後、本発明に従う自硬化性粉体硬化時間を経過した後は、本発明に従う自硬化性粉体の硬化体からなる。
【0049】
なお、図1、図2には、従来一般的に使用されている代表的な樹脂製中空サッシ材、即ち、サッシ枠4を補強する目的で、スチール等の金属からなる断面ほぼコ字形をなす長尺な補強材17が、サッシ材5の主要空洞部13A,13Bの内部に保持されるように、ビス18によって螺着されている樹脂製中空サッシ材をそのまま使用した例を示している。本発明に従う自硬化性粉体は、空洞部13に充填された後、自然に硬化して、高強度の硬化体を与えるので、上記補強材17の使用を省略することも可能である。
【0050】
5.本工法
次に、建物躯体2の開口部3に装着された既成の複層ガラス窓1のサッシ枠4を防火構造に補修する本工法の作業工程を説明する。
図3は、充填装置を用いて、サッシ枠を構成するサッシ材の空洞部内に、本発明に従う自硬化性粉体からなる防火性材料を充填する場合の一実施形態を概略的に示す図、図4は、図3における円Aの要部拡大縦断面図、図5は、第1筒状治具の斜視図、図6は、図5のVI−VI線断面図、図7は、図3における円Bの要部拡大横断面図、図8は、第2筒状治具の斜視図、図9は、図8のIX−IX線断面図、図10は、封止部材の斜視図、図11は、同じく、封止部材の分解斜視図である。
また、図12は、充填装置を用いて、サッシ枠を構成するサッシ材の空洞部内に、本発明に従う自硬化性粉体からなる防火性材料を充填する場合の他の実施形態を概略的に示す図、図13は、第1筒状治具の他の実施形態を示す斜視図、図14は、図13のXIV−XIV線断面図である。
【0051】
充填装置によるサッシ枠4への防火性材料16の充填作業は、充填前に、先ず、複層ガラスW、押え部材8、耐火部材10、その他のシール部材等を、サッシ枠4から取り除く。
【0052】
次いで、図3〜図9に示すように、サッシ枠4における上枠4Aの左右方向の一方の端部の内周面4aに孔明け加工を施すことにより、充填口19(図2、図4参照)を穿設する。
この充填口19は、必ずしも、上枠4Aに設ける必要はなく、図12に示すように、側枠4Cの上端部の内周面に設けることもでき、この場合には、防火性材料16の充填に際して、枠の形状(例えば図12に示す方立て4Dの有無等)の影響を受け難いという利点がある。
一方、前記充填口19とほぼ対角線上に位置する前記サッシ枠4の下枠4Bにおける左右方向の端部又は側枠4Cの下端部(本実施形態においては、側枠4Cの下端部)の内周面4aに孔明け加工を施すことにより、充填口19より下方に位置するように、排気口20(図7参照)を離間させて穿設する。
これらの充填口19及び排気口20は、前記サッシ材5における空洞部11の内部を主要空洞部13A,13Bに区画する隔壁12Aに設けた通孔15と対向する位置に孔明け加工されることが好ましい。
本工法では、充填口19と排気口20とを、前記したような位置関係で設けることにより、防火性材料16を、このような空気による圧送により、サッシ材5の空洞部11内に高い充填率で均一に充填することができる。
【0053】
充填装置は、図3、図4、図12に示すように、前記サッシ枠4における上枠4Aの左右方向の一方の端部の内周面4aに開口させた充填口19から、前記サッシ材5における空洞部11の内部に向けて挿着される第1筒状治具21又は第1筒状治具21´を備えている。
【0054】
第1筒状治具21は、図5、図6に示すように、例えば金属等の有底な円筒体22からなり、この円筒体22における長手方向のほぼ中間部外周には、充填口19への挿着時に、前記上枠4Aの内周面4aに外側から当接するように張出す平面視矩形をなす金属等の当接板23が溶接等によって固着されている。
前記充填口19に挿着される第1筒状治具21の当接板23から上方部分の挿入端部21aとなる円筒体22の上端面21bは閉塞されていると共に、この挿入端部21aの周側面には、2つの吐出口24が開口されている。
この2つの吐出口24は、前記充填口19に第1筒状治具21を挿着した際に、サッシ材5の空洞部11における主要空洞部13の内部を区画する隔壁12Aに設けた通孔15を通して大空洞部13A,13Bに跨って連通し得るように配置される。
【0055】
なお、前記した第1筒状治具21´は、図13、図14に示すように、挿入端部21aが前記第1筒状治具21とは異なる管状体からなるものを使用することも可能である。
この第1筒状治具21´は、図5、図6に示す第1筒状治具21において、その閉塞された挿入端部21aにおける上端面21bの端面を開口させて、吐出口24としてなるものである。
このような管状体である第1筒状治具21´を用いた場合には、前記充填口19に、該第1筒状治具21´の挿入端部21aが大空洞部13A内に入っていれば、大空洞部13A内は勿論、大空洞部13B内にも、通孔15を通して問題なく防火性材料16を充填することができる。
【0056】
充填装置は、第1筒状治具21又は第1筒状治具21´以外に、図3、図7、図12に示すように、第1筒状治具21又は第1筒状治具21´が挿着される前記充填口19とほぼ対角線上に位置する側枠4Cの下端部の内周面4aに開口させた排気口20に挿着される第2筒状治具25を備えている。
【0057】
第2筒状治具25は、図8、図9に示すように、前記第1筒状治具21と同様に、例えば金属等の円筒体26からなり、この円筒体26における長手方向のほぼ中間部外周には、排気口20への挿着時に、側枠4Cの内周面4aに外側から当接するように張り出す平面視矩形をなす金属製の当接板27が、溶接等によって固着されている。
円筒体26の一方の端部は、前記排気口20に挿入される第2筒状治具25の挿入端部25aとなると共に、この挿入端部25aに、防火性材料16を構成する本発明に従う自硬化性粉体の粒径又は粉径よりも小径の孔部を備えた金網等からなる有底円筒状のエアーフィルター部材28を装着することによって、排気口部が形成される。
【0058】
エアーフィルター部材28は、前記排気口20に第2筒状治具25を挿着した際に、サッシ材5の主要空洞部13の内部を区画する隔壁12Aに設けた通孔15を通して大空洞部13A,13Bに跨って連通し得るように配置されることが好ましい。
なお、エアーフィルター部材は、防火性材料16が排気口20から外部に排出されるのを防止し、空気のみを排出する機能を有するものであれば、その形状は、有底円筒状に限定されるものではなく、例えば第2筒状治具25の端部の開口を覆うような膜状の物であってもよい。
【0059】
前記充填口19及び排気口20には、図4、図7に示すように、封止部材29が、サッシ枠4の内周面4aと第1筒状治具21の外周に設けた当接板23、及び第2筒状治具25の外周に設けた当接板27との間に介在するようにして、被着されている。
【0060】
封止部材29は、図10及び図11に示すように、例えば硬質塩化ビニルからなる基板30と、天然スポンジゴム等からなるバックアップシート31と、基板30とバックアップシート31との間に配置した薄型のゴムシートからなる弾性的に伸縮自在な弾性膜32とより、構成されている。
前記弾性膜32は、基板30の裏面に配置されていると共に、前記基板30とバックアップシート31との間に挟持させ、一体化されている。
これら基板30、バックアップシート31、及び弾性膜32は、前記第1及び第2筒状治具21の当接板23、27とほぼ同一な平面視矩形形状を有する。
【0061】
基板30とバックアップシート31の中央部には、互いに整合する位置に、通孔33、34がそれぞれ穿設されている。
基板30とバックアップシート31との間に挟持され一体化された弾性膜32の中央部には、前記通孔33、34に整合するように位置させて、それらの通孔33、34の孔径とほぼ同一長さのスリット状開口部35が設けられている。
【0062】
通孔33、34及びスリット状開口部35を備える封止部材29は、前記通孔33、34及びスリット状開口部35を充填口19又は排気口20に位置を整合させて、充填口19又は排気口20に被着すると共に、前記弾性膜32のスリット状開口部35を、第1筒状治具21及び第2筒状治具25のそれぞれの挿入若しくは引抜き動作に応じて、弾性的に拡開状態若しくは縮閉状態になるようにしてある。
【0063】
すなわち、第1筒状治具21又は第1筒状治具21´の前記吐出口24が形成された挿入端部21a又は第2筒状治具25の挿入端部25aを形成するエアーフィルター部材28が、封止部材29を構成する基板30の通孔33からバックアップシート31の通孔34に向けて挿入されると、弾性膜32のスリット状開口部35が強制的に拡開方向に伸長され、拡開状態となる。
これにより、充填口19又は排気口20が開口され、第1筒状治具21あるいは第1筒状治具21´又は第2筒状治具25を、封止部材29を介して、充填口19又は排気口20からサッシ枠4を構成するサッシ5の空洞部11内へ向けて、挿着することができる。
【0064】
一方、第1筒状治具21あるいは第1筒状治具21´又は第2筒状治具25の挿着状態において、第1又は第2筒状治具21,21´,25を、サッシ材5の空洞部11から封止部材29を介して引き抜くと、弾性膜32のスリット状開口部35が、拡開状態から縮閉状態に弾性的に復帰し得るように縮閉されることが好ましい。
これにより、第1筒状治具21あるいは第1筒状治具21´又は第2筒状治具25が充填口19又は排気口20から引き抜かれた際にも、封止部材29によって、充填口19及び排気口20を閉塞させることができる。
このため、第1筒状治具21又は第1筒状治具21´及び第2筒状治具25を再利用(使い回し)することが可能となる。
【0065】
第1筒状治具21又は第1筒状治具21´及び第2筒状治具25を取り外した後は、封止部材29を取り外し、防水テープやキャップ等の部品をもって充填口19及び排気口20を閉塞することが好ましい。
そうすることにより、長期間使用しても枠内への水の侵入を防止することができるばかりでなく、封止部材29を再利用することができる。
【0066】
充填装置は、図3及び図12に示すように、防火性材料16を貯留するためのホッパー36と、該ホッパー36の上流に配置され、このホッパー36内の防火性材料16を圧送するための加圧空気を供給するためのエアーコンプレッサー37と、該ホッパー36と第1筒状治具21又は第1筒状治具21´とを接続する防火性材料移送管、具体的には供給ホース(防火性材料移送管)38と、前記ホッパー36内にエアーコンプレッサー37からの加圧空気を供給するエアーホース39と、より構成した材料圧送手段を備えていることが好ましい。
すなわち、前記第1筒状治具21又は第1筒状治具21´は、図3、図12に示すように、防火性材料16が貯留されるホッパー36の供給口36aに、供給ホース38を介して接続されていることが好ましい。
【0067】
ホッパー36内には、エアーコンプレッサー37に接続されたエアーホース39を介して、エアーコンプレッサー37とホッパー36との間に配置されている調圧弁40により圧力が調整された空気がバルブ41を介して圧送されるようになっており、これらホッパー36とエアーコンプレッサー37とにより材料圧送手段を構成している。
【0068】
空気が圧送されたホッパー36内の防火性材料16は、供給ホース38に接続された第1筒状治具21又は第1筒状治具21´を介して、空気と共にサッシ枠4の充填口19から、サッシ材5の空洞部11内に強制的に圧送される。
【0069】
ホッパー36内における供給口36aの上方近傍には、邪魔板42が配設されている。
この邪魔板42の外周面とホッパー36の内周壁面との間には、防火性材料の流通間隙43が形成されている。
邪魔板42は、防火性材料16の自重による負荷によって、ホッパー36の供給口36aを閉塞するのを防止し、防火性材料16をホッパー36の流通間隙43から供給口36aに向けて円滑に流出させるためのものである。
【0070】
上記材料圧送手段を有する充填装置では、第1筒状治具21又は第1筒状治具21´を、サッシ枠4の上枠4Aの左右方向の一方の端部の内周面又は側枠4Cの上端部の内周面に設けられた充填口19に挿着し、第2筒状治具25を下枠4Bの端部の内周面又は側枠4Cの下端部の内周面に設けられた排気口20に挿入し、第1筒状治具21又は第1筒状治具21´を介して、防火性材料16を前記空洞部11内に加圧空気により圧送するので、防火性材料16をサッシ材5の空洞部11内に高い充填率で均一に充填することができる。このとき、充填装置においては、サッシ材5の空洞部11内への防火性材料16の充填を、より安定して行ために、図3に示されるように、第2筒状治具20を介して、空洞部11内の空気を吸引し外部に排気するための吸引排気手段を備えるものとすることが好ましい。
こうすることにより、材料圧送手段による空洞部11内への空気の防火性材料16との圧送力と、吸引排気手段による空洞部11内の空気の吸引排気力とを最適にバランスさせることにより、防火性材料16の充填率を向上させることができる。
【0071】
すなわち、図3に示される態様においては、第2筒状治具25は、吸引排気手段としての吸引ファン44に、吸引ホース45を介して接続されている。
吸引ファン44は、ホッパー36内からサッシ枠4におけるサッシ材5の空洞部11内に空気と共に圧送された防火性材料16を、第2筒状治具25の挿入端部25aを形成するエアーフィルター部材28によって、外部に漏洩しないように阻止して、空気のみを強制的に吸引し、外部に排気するようになっている。
これにより、サッシ枠4におけるサッシ材5の空洞部11に防火性材料16を密実に充填することができる。
【0072】
また、充填装置においては、より安定して防火性材料16をサッシ材5の空洞部11内に向けて供給し、より確実且つ効率的に高充填率で充填して高い防火性能を得るために、図12に示されるように、前記材料圧送手段における防火性材料移送管としての供給ホース38の第1筒状治具21又は第1筒状治具21´側にエアーコンプレッサー37から加圧空気を供給するようにすることが好ましい。
【0073】
すなわち、図12に示される態様では、調圧弁40より下流側でエアーホース39を2つに分岐させ、一方を、主管39aとしてホッパー36側にバルブ41を介して接続すると共に、もう一方を、枝管39bとしてバルブ46を介して供給ホース38に接続することにより、防火性材料16の圧送に際し、エアーコンプレッサー37から供給される加圧空気を、供給ホース38の途中から別途供給して防火性材料16の圧送をアシストするようにしている。
こうすることにより、圧送を連続的に安定して行うことが可能になり、圧送時における一時的な詰まりを解消するために枠に振動を与える等の補助的手段を用いる必要がなくなるばかりでなく、サッシ枠4におけるサッシ材5の空洞部11に防火性材料16をより確実に密実に充填することができるようになる。
【0074】
なお、前記枝管39bが供給ホース38に接続される位置は、第1筒状治具21又は第1筒状治具21´より5〜20cm、特に10〜15cm上流であることが好ましい。
【0075】
防火性材料16(本発明に従う自硬化性粉体)は、サッシ材5の空洞部11内に圧送したときに密充填され易く、充填後において自重や振動等により空隙が発生し難いという理由から、次のような粒度分布を有するものであることが好ましい。
すなわち、本発明に従う自硬化性粉体に含まれる無機中空粒子が、液状成分が表面に付着していない状態で、粒子径が200μm以下である粒子の含有割合が30質量%以下であり、粒子径が300μm以上500μm以下の範囲にある粒子の含有割合が30質量%以上であり、粒子径が600μm以上である粒子の含有割合が20質量%以下である粒度分布を有することが特に好ましい。
なお、上記粒子度分布は、乾式ふるい分け試験方法(JIS K 0069)による粒度測定結果に基づくものである。
例えば、1mの長さに切断した中空のサッシ材の一端にエアーフィルターを配置し、粒度分布の異なる防火性材料を圧送して密充填してから、サッシ材の側面をハンマーで叩くことにより振動を与えて、強制的に防火性材料を締め固めたときに発生する隙間の体積を測定したところ、前記粒度分布Aから外れる粒度分布を有する防火性材料を用いたときに発生した隙間は、充填空間の全体積に対して10〜15%程度であったのに対し、粒度分布A及びBを有する防火性材料を用いたときに発生した隙間は、それぞれ5〜9%及び5〜7%であった。
【0076】
空洞部13に充填された防火性材料16(本発明に従う自硬化性粉体)は、比較的速やかに硬化して優れた防火性を発揮する。このため、サッシ枠4の上枠4A,下枠4B,側枠4C、方立て4Dを構成する各サッシ材5が、熱により強度を失ったとしても、空洞部11に形成された硬化体により、複層ガラスWを支持し続けることができるため、複層ガラスWの脱落を防止することができる。
また、防火性材料16は、無機中空粒子を使用しているので、その硬化体が高い断熱性能を有するため、火災時においても、サッシ材5の非加熱面の熱による損傷を大幅に低減することができ、より優れた防火性を発揮することができる。更に、サッシ材5の加熱面が炭化劣化や溶融して消失しても、硬化体は崩落しないので、複層ガラスWを支持し続けることができるという効果が得られることになる。
【0077】
また、サッシ枠4への防火性材料16(本発明に従う自硬化性粉体)の充填に際して、防火性材料16を圧送する空気の圧力及び流量の最適範囲は、図3及び図12に示す態様と共に、例えば充填口19における圧力と排気口20における圧力の差(差圧)が0.15〜0.20MPaとなるようにすることが好ましい。
5.本発明に従う自硬化性粉体を用いて得られる防火性サッシ材及び防火窓
以上、耐火補修をする場合を例に詳しく説明したが、新規に、本発明に従う自硬化性粉体を用いてサッシ枠を製造する場合は、生産工場にて、上記方法に準じて、本発明に従う自硬化粉体を充填すればよい。また、新規に本発明に従う自硬化性粉体を用いて防火性サッシ材を製造する場合には、本発明に従う自硬化粉体を圧送する必要は特になく、種々の充填方法が適用できる。例えば、連通する空洞部の下端を仮封し、上方から本発明に従う自硬化粉体を落下させて充填し、必要に応じて上端を仮封し、所定時間放置して本発明に従う自硬化粉体を硬化させてもよい。また、硬化を促進するために加熱することもできる。
【0078】
さらに、防火性サッシ材の断面プロファイルはさまざまな要求に応じて変更可能である。また、防火性サッシ材は、框材又は立方材であってもよい。特に、防火性サッシ材が框材である場合には、図1及び2に示す実施形態について建物躯体開口部に固定する機能を有しないように微改変するだけで、図1に示す防火窓は防火障子と、図2に示す枠材は框材とすることができる。更に、これらの詳細についても、躯体取り付け部115a、115b、付属備品固定用金具180、及びビス190に関する説明を除けば、防火窓を防火障子と、枠材を框材と読みかえれば、上に記した「図に示す実施形態の説明」が、ほぼそのまま適用できる。
【0079】
また、防火窓は、所謂「はめ殺し窓」に限定されず、「建物躯体の開口部に設置される開口枠体に、前記難燃性パネルが、上下左右の框を有する障子として、前記枠内に開閉自在に装着された窓」であってもよい。このとき、前記開口枠体を構成する上枠、下枠、及び左右の縦枠の内、少なくとも下枠は、本発明に従う自硬化性粉体が用いられた防火性サッシ材からなる枠材であり、また前記下框は、本発明に従う自硬化性粉体が用いられた防火性サッシ材からなる框材であることが望ましい。
【実施例】
【0080】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何等限定されるものではない。
【0081】
(無機中空粒子)
無機中空粒子としてフライアッシュバルーンを用い、表1に示す粒度分布を有する粒子とした。なお、各目開きは、一段階大きな目開きは通過するものの、当該目開きを通過しない粒度の粒子の質量比で示されている。例えば、目開き425は、目開き300は通過するが、目開き425を通過しない粒度の粒子の質量比を示している。
【0082】
【表1】

【0083】
(粘結剤組成物の調製)
フェノールの1190質量部に対して、92%パラホルムアルデヒドの825.6質量部と、水の1073.3質量部とを加え、湯浴上で還流加熱することにより、混合液が均一になるまで加温して、フェノールとパラホルムアルデヒドとを完全に溶解させた。その後、かかる水溶液を一旦冷却し、これに、アルカリ触媒として、131.9質量部の48質量%NaOH水溶液と184.6質量部の48質量%KOH水溶液との混合液を、徐々に滴下し、80℃まで徐々に昇温した後、その温度を保持して、還流下で反応させた。そして、反応液の粘度が、150mPa・s/50℃になった時点で冷却して、水溶性フェノール樹脂の合成を終了した。その後、かかる水溶性フェノール樹脂を含有する溶液に対して、更に、調整剤として、290.1質量部の48%NaOH水溶液と406.2質量部の48%KOH水溶液を添加し、その後、固形分が45%になるように、水を加えた。更に、かかる混合溶液の全質量に対し、尿素を1%、及びγ―アミノプロピルトリエトキシシランを0.2%の割合となるように、それぞれ、添加することにより、粘結剤組成物を調製した。
【0084】
(本発明に従う自硬化粉体の物性測定)
得られた無機中空粒子と粘結剤組成物から自硬化粉体を製造し、以下の測定を行った。
【0085】
(1)ロート通過速度
自硬化性流体の流動性の測定を図15に示す装置を用いて行う。この装置は、上から順に、篩網51、篩網を振動させるための振動手段52、粉体を投入するロート53、重量計54、及び、振動手段52とロート53を支持する支持台55からなるものであり、振動手段52は、ロート53を固定する振動台と振動モーターから構成されている。なお、本試験で用いた装置は、安息角を測定する装置(ホソカワミクロン株式会社製 POWDER TESTER<TYPE PT-E>)のロート53を通過して落ちた粉体が堆積する安息角測定用のテーブルの代わりに重量計54を設置したものを用いている。本試験で用いるロート53はガラス製のものを用いており、傾斜角度θを60°、管部56の管長aを35mmとし、内径を4.7mmとしている。測定方法は、先ず、無機中空粒子に粘結剤組成物及び硬化剤を適宜の割合で混合し自硬化性粉体を得る。次に、ロート53に自硬化性粉体20g投入しセットする。そして、レオスタット(振動レベルつまみ)の目盛を5(振動巾0.5mm)に合わせて、振動を開始する。振動を1分間行った後、ロート53を通過した自硬化性粉体の重量を測定する。1分間後に0.1g以上の通過(0.1g/min以上)が有った場合、圧送による自硬性粉体の充填が可能な範囲とする。また、1分間以内に、自硬化性粉体20gすべてがロートを通過した場合は、20g/min以上と表記する。
【0086】
(2)安息角
無機中空粒子に粘結剤組成物及び硬化剤を適宜の割合で混合し、自硬化性粉体を得て、JIS R 9301−2−2の原理に準拠して、ホソカワミクロン株式会社製 POWDER TESTER<TYPE PT-E>にて安息角を測定する。本発明に従う自硬化性粉体は、空洞内へ自硬性粉体の充填を行うには、安息角が低くて、流動性の良い粉体が良く、一定圧をかけて空洞へ自硬性粉体を圧送して充填させるには、安息角が65度以下であることがより望ましい。
【0087】
(3)圧縮強度
無機中空粒子に粘結剤組成物及び硬化剤を適宜の割合で混合し、自硬化性粉体を得て、JACT試験法HM−1に準拠して、φ50mm×h50mmの木型に自硬性粉体を流し込み突き固めした試料に、温度25℃×湿度60%の雰囲気で7日間放置した後、木型より抜型し、高千穂精機製抗圧力試験機(H3000D)にて圧縮強度を測定する。
【0088】
実施例1
無機中空粒子をミキサー等の攪拌機により攪拌しながら、先ず、硬化剤としてグルタル酸ジメチルを、無機中空粒子100質量部に対して0.3質量部投入し、30秒攪拌した後、すみやかに粘結剤組成物を2質量部投入し、さらに30秒攪拌して、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0089】
実施例2
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を2.2質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0090】
実施例3
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を4質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0091】
実施例4
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を0.8質量部とし、粘結剤組成物を3質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0092】
実施例5
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を0.8質量部とし、粘結剤組成物を5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0093】
実施例6
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を1.0質量部とし、粘結剤組成物を5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0094】
実施例7
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を1.8質量部とし、粘結剤組成物を7質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0095】
実施例8
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を1.2質量部とし、粘結剤組成物を8質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0096】
実施例9
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を1.5質量部とし、粘結剤組成物を10質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0097】
実施例10
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を1.8質量部とし、粘結剤組成物を12質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0098】
実施例11
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を2.3質量部とし、粘結剤組成物を15質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0099】
実施例12
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を2.4質量部とし、粘結剤組成物を16質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0100】
実施例13
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を2.6質量部とし、粘結剤組成物を17質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0101】
実施例14
実施例1における硬化剤がエチレングリコールジアセテートを0.8質量部とし、粘結剤組成物を5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0102】
実施例15
実施例1における硬化剤がトリアセチンを0.8質量部とし、粘結剤組成物を5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0103】
実施例16
粘結剤組成物の調製において、水溶性フェノール樹脂の合成を終了した後、調製剤として48%NaOH水溶液と48%KOH水溶液を添加して、その後、固形分が10%になるように水を加えることで、粘結剤組成物を調製した。実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を0.8質量部とし、この粘結剤組成物を5質量部とした以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0104】
実施例17
粘結剤組成物の調製において、水溶性フェノール樹脂の合成を終了した後、調製剤として48%NaOH水溶液と48%KOH水溶液を添加して、その後、固形分が60%になるように水を加えることで、粘結剤組成物を調製した。実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を0.8質量部とし、この粘結剤組成物を5質量部とした以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0105】
比較例1
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を2.7質量部とし、粘結剤組成物を18質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0106】
比較例2
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を3.0質量部とし、粘結剤組成物を20質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0107】
比較例3
実施例1における硬化剤(グルタル酸ジメチル)を0.3質量部とし、粘結剤組成物を1質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0108】
比較例4
実施例1における無機中空粒子を硅砂に変更した以外は、実施例1と同様にして、自硬化性粉体を得た。この自硬化性粉体で測定した物性を、表2に示す。
【0109】
【表2】

【0110】
表2より、実施例1〜13と比較例1〜3の粘結剤組成物の配合量とロート通過速度の関係から、無機中空粒子100質量部に対して粘結剤組成物が2〜17質量部の範囲であれば、自硬性粉体の流動性を得ることができ、圧送により空洞に自硬性粉体を充填することが可能となると共に、圧縮強度を得ることができる。また、安息角が65度以下となる実施例1〜9において、より高い流動性を得ることができ、構造が複雑になる空洞内においても、隅々まで自硬性粉体を充填することができる。粘結剤組成物を4〜10質量部とした実施例5〜9は、流動性を向上したら圧縮強度が下がり、圧縮強度を上げると流動性が悪化する中で、特に流動性と圧縮強度のバランスの良い自硬性流体を得ることができる。また、実施例1〜3より、硬化剤の量が圧縮強度により大きく影響し、硬化剤の含有量は、粘結剤組成物100質量部に対して10〜200質量部であることが望ましい。また、実施例1と比較例4の対比により、粒子に硅砂を用いた場合、粒子の重量が重くなって流動性が得られ難いのに対し、無機中空粒子を用いることで、良好な流動性を得ることができる。実施例16〜17より、固形分濃度は10〜60質量%の範囲にすることが望ましく、この範囲であれば、良好な自硬化粉体を得ることができる。
【0111】
(本発明に従う自硬化粉体を用いたサッシの実例)
実施例6,7で製造した自硬化粉体を本工法により塩ビ樹脂製の枠で構成されるW1000H2120サイズの嵌め殺し窓の枠内に、前記の充てん工法にてほぼ満杯となる2.1kgを充填した。充填後、該窓を7日以上室温で保存した後に、ISO834の標準温度曲線に沿って、屋外側より20分間の加熱試験をおこなった結果、何れの窓とも、室内側への火炎の噴出や発炎、火炎が通る亀裂等の損傷及び隙間が無く、サッシとしての遮炎性能を満足した。試験終了後、加熱面側の塩ビは焼失していたが、充てんされた自硬化性粉体は残存し、遮炎性上有効であることが確認された。
また、これとは別に、サイズがW1690H1370の LOW−E 硝子と網入りガラスの複層ガラスを入れた塩ビ樹脂製縦辷り出しと嵌め殺しの連窓に、自硬化性粉体を充填して、JIS A 4710に従って断熱性能を測定したところ、何れの場合も、自硬化粉体を充填しない連窓と比べて、0.1W/m2 ・K程度断熱性能が向上していた。更に、水密試験時不可避的に滲入した水の排出性を確認したところ、流路は確保されており、排出された水には、有機成分が殆ど含まれていなかった。因みに、実施例1で製造した自硬化粉体を硬化させて得た硬化体について、硬化12日以後のフェノール樹脂の溶出量は10ppm以下で、pHは7〜8である。
【符号の説明】
【0112】
1 複層ガラス窓 2 建物躯体
3 開口部 4 サッシ枠
4A 上枠 4B 下枠
4C 側枠 4D 方立て
4a 内周面 5 サッシ材
6 突出部 7 取付凹部
8 押え部材(押縁) 9 内周溝部
10 耐火部材 11 空洞部
12 隔壁 12A 隔壁
13 主要空洞部 13A,13B 大空洞部
14A,14B 小空洞部 15 通孔
16 防火性材料(本発明に従う自硬化性粉体又はその硬化体)
17 補強材 18 ビス
19 充填口 20 排気口
21、21´ 第1筒状治具 21a 挿入端部
21b 上端面 22 円筒体
23 当接板 24 吐出口
25 第2筒状治具 25a 挿入端部
26 円筒体 27 当接板
28 エアーフィルター部材(吸引口部) 29 封止部材
30 基板 31 バックアップシート
32 弾性膜 33,34 通孔(開口部)
35 スリット状開口部(開口部) 36 ホッパー(材料圧送手段)
36a 供給口
37 エアーコンプレッサー(材料圧送手段)
38 供給ホース(防火性材料移送管) 39 エアーホース
39a 主管 39b 枝管
40 調圧弁 41 バルブ
42 邪魔板 43 流通間隙
44 吸引ファン(吸引排気手段) 45 吸引ホース
46 バルブ 51 篩網
52 振動手段 53 ロート
54 重量計 55 支持台
56 管部 W 複層ガラス
W1 網入りガラス W2 フロートガラス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機中空粒子の集合体からなる粉体100質量部と、水溶性フェノール樹脂の固形分濃度が10〜60質量%である水溶性フェノール樹脂のアルカリ水溶液または分散液からなる粘結剤組成物2〜17質量部と、当該粘結剤組成物に含まれる水溶性フェノール樹脂を硬化せしめるのに必要量の硬化剤とを混合して得られる自硬化性粉体。
【請求項2】
篩い振動数を3600回/分、篩い振動幅を0.5〜0.8mmとして振動させた、ロート角60°、細口径4.7mmのロートに、20gの自硬化性粉体を投入した時のロート通過速度が、0.1g/min以上であることを特徴とする請求項1に記載の自硬化性粉体。
【請求項3】
前記硬化剤の使用量が、前記粘結剤組成物100質量部に対して、10〜200質量部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自硬化性粉体。
【請求項4】
前記硬化剤が、有機エステルからなることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の自硬化性粉体。
【請求項5】
前記粉体として、粒子径が200μm以下である粒子の含有割合が30質量%以下であり、粒子径が300μm以上500μm以下の範囲にある粒子の含有割合が30質量%以上であり、粒子径が600μm以上である粒子の含有割合が20質量%以下である粒度分布を有する粉体を使用することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の自硬化性粉体。
【請求項6】
サッシ材、窓およびサッシ枠以外の物品又は部材であって、内部に空洞を有する物品又は部材の当該空洞内に、請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の自硬化性粉体の硬化体が充填されてなることを特徴とする物品又は部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−11159(P2013−11159A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258360(P2011−258360)
【出願日】平成23年11月26日(2011.11.26)
【分割の表示】特願2011−143290(P2011−143290)の分割
【原出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000117102)旭有機材工業株式会社 (235)
【Fターム(参考)】