自立型の海洋二酸化炭素分圧センサ
【課題】 深海のような高圧の水中でも測定の応答性や精度を向上できるようにする。また、衝撃に強く壊れ難いものとする。更に、小型・安価でかつ耐久性のあるものとする。
【解決手段】 イオン感応性電界効果型トランジスターからなるpH電極2と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極3と、これら両電極2,3を収納する容器20と、容器20内に充填され両電極2,3の周りを満たす内部液25と、容器20の一部に設けられた開口22を封止するガス透過性膜21とを備え、pH電極2がガス透過性膜21に近接配置され、参照電極3はガス透過性膜21から離れているものである。
【解決手段】 イオン感応性電界効果型トランジスターからなるpH電極2と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極3と、これら両電極2,3を収納する容器20と、容器20内に充填され両電極2,3の周りを満たす内部液25と、容器20の一部に設けられた開口22を封止するガス透過性膜21とを備え、pH電極2がガス透過性膜21に近接配置され、参照電極3はガス透過性膜21から離れているものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中の二酸化炭素分圧(本明細書ではpCO2と呼ぶ)を直接かつリアルタイムに測定するpCO2センサに関する。更に詳述すると、本発明は溶液中、特に深海のような約20気圧以上の高圧がかかった状態においてもpCO2を測定可能とするpCO2センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題に関連して海洋の炭素循環メカニズムの解明が重要な研究課題となっており、海水中のアルカリ度(海水中の陽イオンの電荷数と陰イオンの電荷数の差)、全炭酸(全溶存無機炭素)、ρCO2並びにpHの計測が全球的な規模で行われている。海洋の炭酸系においては、これら四つの項目の内のどれか二つを測定すれば全てを計算することができるため、比較的に現場計測や連続計測が可能なpHやpCO2センサの開発に期待が高まっている。しかし、船舶による採水・船上分析が主体の従来の観測では、測点数や採水層について空間的・時間的な限界があり、海洋の広い範囲で実施することは極めて困難である。このような背景から、最近ではウォーターカラム全体を通した鉛直連続観測や長期間の連続観測を目的として、化学センサあるいは現場分析計の開発と現場への応用が進められている。
【0003】
例えば、海水のpCO2を現場計測するpCO2センサとしては、従来、光ファイバー型pHセンサの感応部を内部液とともにガス透過膜で封止し、ガス透過膜を介して浸透してくる二酸化炭素によって引き起こされる内部液のpH変化を計測するものが考えられている(特許文献1)。さらに、Goyetらは、pH感応色素を半透過膜で光ファイバー先端に封止したpCO2センサを開発した(非特許文献1)。このセンサでは高感度化のために、蛍光指示薬(HPTS)と吸光指示薬(Neutral RedとDNPA)を組み合わせたpH指示薬が採用されており、外洋海水中のpCO2計測ではガスクロマトグラフィによる従来法とよく一致していた。さらにDeGrandpreは、長期間の連続計測と測定精度維持を目的として、pH指示薬の注入・排出口を光ファイバーとともにシリコン膜で封止した試薬更新型のpCO2センサを開発し、pH指示薬としてBromothymol BlueとPhenol Redを検討し、その後、現場計測への応用のために、気一液交換器としてのガス透過膜製チューブ中に、pH指示薬(Bromothymol Blue)を連続的に流して試薬を更新することによって測定精度向上への対応が図られ、浅海域での連続計測が行われている(非特許文献2)。
【0004】
また、深海例えば水深3300mから4700mの海底堆積物間隙水中のpCO2の現場計測に、Bromothymol BlueをpH指示薬とした光ファイバー型センサも実施された例がある(非特許文献3)。
【0005】
また、本発明者等は、先に開発した深海でも用いることができるpHセンサ(特許文献2)を内部液とともにガス透過膜で封止し、ガス透過膜を介して浸透してくる二酸化炭素によって引き起こされる内部液のpH変化を計測することによって、pCO2を現場計測することを考えた。このpHセンサは、イオン感応性電界効果型トランジスター(ISFET)を指示電極として用い、ジルコニア性の電極容器を有する圧力保証型電極を参照電極とするものであり、深海での使用に耐え得る。
【特許文献1】特表平8−505218号
【特許文献2】特許公報第2948264号
【非特許文献1】C.Goyet,D.R.Walt,P.G.Brewer:Deep-sea Res.,39,1015(1992)
【非特許文献2】M.D.DeGrandpre,T.R.Hammar,S.P.Smith,F.L.Sayles:Limnd.Oceanogr.,40,969(1995)
【非特許文献3】B.Hales,L.Burgess,S.Emerson:Mar.chem.,59,51(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2を利用した深海用pCO2センサでは、圧力保証型電極を参照電極として使用しているために、内部液のpH変化に対してさらに参照電極内の内部液が反応するため、緩やかにしか応答できず測定の応答性や測定精度が低く、深海中のpCO2をリアルタイムに測定したり、高精度に測定することは困難であった。
【0007】
また、特許文献1並びに非特許文献1〜3に記載の比色法によるpCO2計測は、反応に時間がかかるため、実用性に劣る(リアルタイム測定ができない)問題があった。即ち、比色法では、膜の気体透過速度に加えて、色素との反応速度、流路の移動速度が加わりpCO2分析計としての応答速度はさらに遅くなります。また、温度が一定の実験室とは異なり、水温が1〜3℃にもなる深海では、色素との反応速度はさらに遅くなることから、比色法の現場での実質的な応答時間については十分な時間を取らなければ精度がえられず、通常は現場の希望計測深度に5分前後保持して計測していることが多い。このため、分析方法は簡易ではあるが、現場計測におけるリアルタイム測定においては測定精度があまり期待できないため、これまでは広く利用されることはなかった。また、深海におけるpCO2の現場計測を実施した非特許文献3の光ファイバー型センサにおいても、高圧下での指示薬の漏出が問題となっている。
【0008】
このように、比色法によるpCO2計測センサは、装置自体が巨大で大変高価、取扱いに十分な注意が必要(壊れやすい)、応答速度が遅い等の諸問題を有していることから、なかなか実用化されなかったものである。
【0009】
そこで、本発明は、深海のような高圧の水中でも測定の応答性や精度を向上できると共に衝撃に強く壊れ難いpCO2センサを提供することを目的とする。更に、本発明は、小型・安価でかつ耐久性のあるpCO2センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、請求項1の発明にかかる深海でも使えるpCO2センサは、イオン感応性電界効果型トランジスターからなるpH電極と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極と、これら両電極を収納する容器と、前記容器内に充填され前記両電極の周りを満たす内部液と、前記容器の一部に設けられた開口を封止するガス透過性膜とを備え、前記pH電極が前記ガス透過性膜に近接配置され、参照電極は前記ガス透過性膜から離れているものである。ここで、本明細書中における「深海」とは、水深約200m以下(約20気圧以上)の海水を主に意味するが、同等の高圧がかけられた塩分を有する溶液や淡水などを含むものとする。また、「ISFET」とは、イオン感知性電解効果型トランジスタ(Ion Sensitive FET )を意味する。
【0011】
したがって、請求項1のpCO2センサでは、pH電極がISFET電極であるので、pH電極の全体を高い耐圧性を有する固体により構成することができる。これにより、pCO2センサの耐衝撃性や耐久性が優れたものとなる。また、ISFET電極はpCO2測定の応答性や精度が高いので、pCO2センサによるpCO2測定の応答性や精度が向上される。さらに、参照電極が塩化物イオン選択性電極であるので、内部液に直接露出されて内部液のpH変化を検出できるので、応答性に優れる。しかも、参照電極そのものが固体・ペレット状であるためpCO2センサは高い耐圧性を有するものとなる。しかも、この参照電極が耐圧性と耐衝撃性に優れたものとなる。
【0012】
また、請求項2の発明にかかる深海でも使えるpCO2センサは、酸化インジウムからなるpH電極と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極と、これら両電極を収納する容器と、前記容器内に充填され前記両電極の周りを満たす内部液と、前記容器の一部に設けられた開口を封止するガス透過性膜とを備え、前記pH電極が前記ガス透過性膜に近接配置され、参照電極は前記ガス透過性膜から離れているものである。このpCO2センサでは、ISFET電極と同様に、pH電極の全体を高い耐圧性を有する固体により構成することができる。これにより、深海用pCO2センサの耐衝撃性や耐久性が優れたものとなる。また、酸化インジウムからなるpH電極はISFET電極を用いる場合より応答時間においてやや劣るものの、良好なpCO2測定の応答性や精度が得られ、深海でも使える完全な固体pCO2センサとなる。
【0013】
さらに、参照電極が塩化物イオン選択性電極であり内部液を海水により代用しているので、ガラス等の電極容器を必要とせず参照電極の全体を高い耐圧性を有する固体により構成することができる。これにより、深海用pCO2センサの耐衝撃性や耐久性が優れたものとなる。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2のいずれかにかかるpCO2センサにおいて、膜の面積はpH電極とほぼ同じ大きさである。
【0015】
さらに、請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1つに記載のpCO2センサにおいて、内部液は1〜2℃に冷却された状態で封止されているものである。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明より明らかなように、請求項1の発明によると、ISFET電極とCl−ISE電極から成るセンサの応答速度は高速であり、実験からも現場での"実質的"な応答時間が60秒と早いものであることから、リアルタイムの現場計測を可能とする。また、pH電極並びに参照電極を高い耐圧性を有する固体により構成することができ、pCO2センサの耐衝撃性や耐久性を優れたものにして深海で用いることができるようにすると共に、ISFET電極並びにCl−ISE電極のpCO2測定の応答性や精度が高いことから深海におけるpCO2センサによるpCO2測定現場計測での応答性や精度を向上することができる。
【0017】
したがって、深海あるいは高圧の塩分含有溶液中でもpCO2測定の応答性や精度を向上でき、また耐衝撃性や耐久性に優れたものとすることができる。これにより、深海中のpCO2をリアルタイムに高精度で測定することができる。また、耐衝撃性に優れるので、深海用pCO2センサの取り扱いを容易に行うことができるようになる。
【0018】
さらに、深海用pCO2センサは比較的安価であるため多数用意することができる。このため、同時に多数点でのpCO2を測定できるようになり、pCO2の精密計測が可能となる。
【0019】
また、pH電極を酸化インジウム電極とした請求項2の発明によっても、応答時間はISFET電極を用いた場合よりもやや劣るものの測定結果には良好な結果が得られる。また、この場合においても、Cl−ISEとISFETとの組み合わせと同様に、完全な固体センサとなるので、海底堆積物間隙水中や海底掘削孔内でのpCO2の現場計測への応用が期待される。
【0020】
さらに、請求項3の深海用pCO2センサによると、ガス透過膜を介して浸透してくる二酸化炭素によって引き起こされる内部液のpH変化を漏れなく感知することができるので、応答速度を高め得る。
【0021】
さらに、請求項4記載の発明によると、内部液は1〜2℃に冷却された状態で封止されているものであるので、深海におけるpCO2センサの使用においても、内部液の温度変動・体積変動の影響をセンサが受けることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。図1及び図2に本発明の深海でも使えるpCO2センサの一実施形態を示す。この深海でも使えるpCO2センサ1は、pH電極2及び参照電極3を有するpCO2計測部4を深海などの高圧の水中に潜らせたままその場でpCO2を測定するもので、pH電極2としてISFET電極が、参照電極3として塩素イオン選択性電極(Cl−ISE)が使用されている。さらに、pCO2計測部4には、図3に示すように、耐圧容器5に収容されたpH測定回路6が水中ケーブル7及び水中コネクタ8を用いて接続されている。
【0023】
pH電極2は、図1及び図2に示すように、フレキシブルプリント配線板(FPC)の上に実装されたチップ状のISFET電極から成る。
【0024】
また、参照電極3としては、塩素イオン選択性電極(Cl−ISE)がそのまま使われている。Cl−ISEは種々の塩化物をペレット状にしてリードアウトしたものであり、海水の主成分である塩素イオンに感応する固体電極である。海水のように塩素イオンを高濃度に含んだ電解質溶液中で参照電極として使用する場合は、その電位が安定していることが期待できる。また、このCl−ISEは、完全な固体電極なので、耐圧性、耐衝撃性に優れており、深海での使用に関しては問題がなく、内部液を持たないため、長期間の安定性も期待できる。このため高精度なpH現場計測が可能であり、さらに内部液を持たないため長期問の安定性が期待できる。
【0025】
図3に示すように、耐圧容器5の内部には、pH測定回路6と直流電源19とが収容されている。pH測定回路6は、ISFET電極2及びCl−ISE電極3からの情報を入力して増幅するpHアンプ10と、pHアンプ10の出力をデジタル変換するA/Dコンバータ11と、サーミスタ34からの情報を入力して増幅する温度アンプ12と、温度アンプ12の出力をデジタル変換するA/Dコンバータ13と、各A/Dコンバータ11、13からの情報を演算処理するCPU14と、計測時刻を供給するクロック15と、情報を読み書きするRAM16及びROM17と、pCO2変換回路6の外部に情報を出力する例えばRS−232Cから成るインターフェース18とを備えている。このpCO2センサにおいては、ガス透過性膜21を透過した二酸化炭素による内部液25のpH変化を敏感に検知して、pCO2を演算するものである。
【0026】
耐圧容器5は、深海でも潰れることのない耐圧性を有するものとしている。pH測定回路6のpHアンプ10及び温度アンプ12とインターフェース18とは、それぞれ耐圧容器5の外部に露出する水中コネクタ8に接続されている。この水中コネクタ8も、pCO2センサ1が使用される水圧中で潰れることのない耐圧性を有するものとしている。
【0027】
上述したpCO2センサ1を例えば深海でのpCO2の測定に使用する場合は、pCO2計測部4からの水中ケーブル7を耐圧容器5の水中コネクタ8に接続する。これにより、ISFET電極2及び参照電極3をpHアンプ10に接続する。
【0028】
尚、pCO2センサの使用に際しては、必要に応じてpCO2が既知の溶液などを使ってキャリブレーションを行う。また、pCO2センサ1のRAM16には測定のための設定内容が記録されているので、この設定内容に基づいて計測が開始される。
【0029】
pCO2センサ1を潜水調査船の外部あるいはCTD−RMS(Condactivity Temprature Depth − Rosette Multi Sampler)のフレームに取り付ける。CTD−RMSとは、海中の塩分、水温、水深をそれぞれセンサにより同時に測定してその結果をケーブルにより海上の測定船等に送信してリアルタイムに観測できると共に、その位置での採水も可能な装置である。
【0030】
pCO2センサ1が着水されて海水のpCO2の計測が開始されると、ISFET電極2及びCl−ISE電極3によりガス透過性膜21を透過した二酸化炭素による内部液25のpH変化として得られたpCO2情報がpHアンプ及びA/Dコンバータ11を経てRAM16に記録される。この時、pH変化として表されたpCO2値はクロック15からの時刻情報と共に記録される。また、必要に応じてサーミスタ34により得られた温度情報が温度アンプ12及びA/Dコンバータ13を経て時刻情報と共にRAM16に記録される。そして、潜水調査船が潜航、着底、航走、離底、浮上等する間、あるいはCTD−RMSが海に潜っている間、連続してpCO2の測定がなされる。測定の終了後は深海でも使えるpCO2センサ1を潜水調査船またはCTD−RMSから取り外し、pH測定回路6のインターフェース18を他のコンピュータ等に接続して計測結果を取り出す。
【0031】
本実施形態によれば、pCO2計測部4のpH電極2がISFET電極、参照電極3がCl−ISE電極であるので、電極全体を高い耐圧性及び耐衝撃性を有する固体により構成することができる。したがって、pCO2センサ1は高い耐圧性及び耐衝撃性を有するものとなる。
【0032】
また、ISFET電極2とCl−ISE電極3との組み合わせは、pCO2センサとしての応答性や精度を高め、さらに深海でもその応答性や精度は劣化することがないので、約20気圧以上の高圧の海中で使用しても高い応答性で高精度にpCO2の測定を行うことができる。
【0033】
さらに、本実施形態によれば、上述したISFET電極2とCl−ISE電極3とは十分な耐圧性を有することに加えてpH測定回路6が耐圧容器5に収容されると共にpH測定回路6とpCO2計測部4とを接続する水中コネクタ8が耐圧性を有するものであるので、深海でも使えるpCO2センサ1の耐衝撃性や耐久性を向上させることができる。
【0034】
ここで、ISFET電極2とCl−ISE電極3とを組み込む容器20は、耐圧性・耐衝撃性に富む材料の使用が好ましく、例えば本実施形態ではアクリルパイプを利用している。このアクリルパイプを円錐形に加工し、その先端部を斜めにカットしてガス透過膜21を取り付けるようにしている。円錐形状のアクリルパイプから成る容器21の内部空間には、ISFET電極2とCl−ISE電極3とが配置されると共に内部液25が充填されている。内部液25は、塩素イオンを含んだ電解質溶液、例えば2mM NaHCO3と0.7M NaClの混合溶液を使用している。この内部液25は、少なければセンサの使用時間が短くなり、多すぎても応答時間の遅延に繋がるおそれがある。そこで、好ましくは、内部液の容量は1ml程度である。また、内部液25の容器20内への注入時には、深海で使用した場合の低温による容積変化を考慮して、1〜2℃に冷却した状態で充填することが好ましい。
【0035】
ISFET-pHセンサ自体の応答速度は1秒以下であるので、本発明のpCO2センサの応答速度は、ガス透過膜21の気体透過速度に支配されることとなる。そこで、ガス透過膜21としては、気体透過速度の速いガス透過膜、例えばアモルファステフロン膜(米国ディュポン社製商品名:Teflon AF2400)を使用することが好ましい。勿論、アモルファステフロン膜以外のガス透過膜の使用を妨げるものではなく、これと同等あるいはそれ以上の気体透過速度を有するガス透過膜であれば使用できることは言うまでもない。
【0036】
また、このガス透過膜21とpH電極たるISFET電極チップ2とは、可能な限り近接させることがレスポンスを速くする上で好ましく、例えばガス透過膜21から0.5mm程度離れた位置に配置すること、より好ましくはガス透過膜21を通過してくる二酸化炭素によってpH変化が起こるに必要な量の内部液25が膜21とISFET電極チップ2の間に存在し得る範囲でより近接配置させることである。
【0037】
さらに、このガス透過膜21の実質面積(封止用の樹脂23で塞がれている部分を除いて実質的にガス透過に寄与している面積)がISFET電極チップ2よりも広過ぎると、膜21を通して侵入してくる二酸化炭素を感知できない領域が発生してしまいレスポンスが悪くなることから、ISFET電極チップ2とほぼ同じ大きさあるいは僅かに広い大きさの面積とすることが好ましい。勿論、製作上の誤差や配置誤差を考慮して、ガス透過膜21の実質面積をISFET電極チップ2の面積よりも大きめにしておくこと、特に感応部よりも遙かに大きめにしておくことは、当然選択されるべき範囲であり、その中でガス透過膜21の大きさをISFET電極チップ2の大きさに接近させることが好ましい。
【0038】
これら、ISFET電極2並びにCl−ISE電極3は、円錐形状の容器20の底部から順次装入され、円錐形の容器20の底部に参照電極3が蓋をするように嵌め込まれてエポキシ樹脂などの接着剤26で固着され、密封されている。更に、参照電極3の背部にも、エポキシ樹脂などの接着剤26が充填されてケーブル29やフレキシブルプリント配線板24などと共に固定されている。ここで、容器20の形状は必ずしも円錐形状に限られないし、また先端部を斜めにカットするものに限られない。本実施形態の場合、ISFET電極チップ2とフレキシブルプリント配線板24の実装部分とが柔軟性に欠けることから、斜面状に開口22を配置しそれに沿ってISFET電極チップ2を配置することが断線などの不良を招かない上で好ましいからである。
【0039】
また、容器には、内部液25を交換可能とするための孔27が設けられ、樹脂接着剤28などで封止されている。そして、この樹脂接着剤28を取り外して内部液25の交換を可能としている。
【0040】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、pH電極としてISFET電極を用いた例を挙げて主に説明したが、これには限られない。例えば、pH電極を酸化インジウム電極、参照電極を塩素イオン選択性電極にしたものでも実施可能である。この場合、応答時間はISFET電極を用いた場合よりもやや劣るものの測定結果には良好な結果が得られた。また、この場合においても、Cl−ISEとISFETとの組み合わせと同様に、完全な固体pHセンサとなるので、海底堆積物間隙水中や海底掘削孔内でのpH現場計測への応用が期待される。
【0041】
また、本実施形態では、深海でも使えるpCO2センサ1のpCO2計測部4と共にpH測定回路6を海中に潜らせているが、これに限られずpH測定回路6を船上に残しpCO2計測部4のみを海中に潜らせ、これらpCO2計測部4及びpH測定回路6を水深と同等の長さのケーブルにより接続するようにすることもできる。このpCO2センサ1によれば、pH測定回路6及び直流電源19を耐圧容器5に収容する必要がないので、計測設備の簡易化を図ることができる。また、この場合のpCO2センサ1によっても、高圧の海中で高い応答性で高精度にpCO2の測定を行うことができ、また耐衝撃性や耐久性を向上させることができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、pCO2センサ1を深海でのpCO2の測定に使用しているが、用途はこれに限られない。例えば、水深200m以下に相当するような高圧が付与される状況下、例えば地上における高圧設備で使用される塩分を含む溶液のpCO2測定や淡水中のpCO2を測定することもできるし、大気圧下あるいは減圧下における海水や淡水などのあらゆる溶液中のpCO2を測定することができる。
【0043】
また、本実施形態では、pH電極と参照電極を内部液とともにガス透過膜で封止し、ガス透過膜を介して浸透してくる二酸化炭素によって引き起こされる内部液のpH変化を計測するpCO2センサとして構成したものについて主に説明したが、図4に示すように、ガス透過膜を除いてpH電極31と参照極32とを海水に晒すようにエポキシ樹脂33で固めれば、海水のpHを計測するセンサ30として使用することもできる。この場合、参照電極は電極容器や内部液を有しないものとなるが、海水を内部液の代わりとして利用することができるので電極容器や内部液を有する電極と同等の精度でpH測定を行うことができる。このpHセンサの場合も、pH電極と参照電極とが固体で形成されているので、電極全体としての耐圧性及び耐衝撃性が高く、深海でも良好に使える。
【0044】
さらに、図5に示すように、参照電極42としてCl−ISE電極を用いながら、作用電極41として金電極(Au)あるいは白金電極(Pt)を用いて、これらを海水に晒すようにエポキシ樹脂43で固めれば、ORPセンサ40として機能する。金電極の使用は、電位窓が広く、薄い酸化被膜しか形成しないが、水銀とのアマルガムを作り易い。また、白金電極の場合には、一般的に使用されているが、金電極に比べて電位窓が狭く、酸化被膜を形成する。ORPセンサでは、作用電極に白金線あるいは金線を、参照電極にCL−ISEを使用し、これまでのISFET−pHセンサと同様に、作用電極とCL−ISEをエポキシ樹脂でモールドした。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
図1並びに図2に示す構造のpCO2センサを以下の通り製作した。アクリルパイプを円錐形に加工し、その先端部を斜めにカットしてガス透過膜21をエポキシ樹脂接着剤で取り付けた。円錐状のアクリルパイプから成る容器20の内部には、膜21から0.5mm離れたところにISFET電極2が位置するようにレイアウトされ、膜から約1.5cm離れた円錐の底部に塩素イオン選択性電極からなる参照電極(東亜ディーケーケー株式会社製Cl−ISEペレット)3を配置してエポキシ樹脂でモールドした。内部液25には、2mM NaHCO3と0.7M NaClの混合溶液を使用し、深海で使用した場合の低温による容積変化を考慮して、1〜2℃に冷却してから円錐状アクリルパイプ内部に充填、封止した。充填した内部液25の容量は約1mlである。
【0046】
アモルファステフロン膜(米国ディュポン社製商品名:Teflon AF2400)をガス透過性膜として使用し、ISFET-pHセンサの電極部をこの膜で封止して内部液を充填する構造とした。
【0047】
pCO2センサについて、陸上の実験室において通常の海水と二酸化炭素バブリング海水とを混合に計測(計測時間は10秒毎)し、応答性について実験を行った。pCO2センサの電極部を二酸化炭素バブリング海水に漬けた際には、内部液中のpH低下が検出され、その応答速度も数十秒以内であった。
現場での計測試験は、「なつしま/ハイパードルフィン」NT04-06航海の際に相模湾において行った。「ハイパードルフィン」のサンプルバスケット上にそれぞれのセンサを固定し、潜行行動中のpH、pCO2、ORPの変動を10秒毎に現場計測した。
【0048】
pCO2センサについては、深度(0〜1200m)に対応して内部液中のpHは低下した。海洋のpCO2は深度に応じて増加するので、内部液中のpH低下は海水中のpCO2増加に対応しており、本センサが正常に作動していることが確認できた。
【0049】
ORPセンサについては、「ハイパードルフィン」のサンプルバスケット上に固定したセンサが、舞い上がった堆積物に覆われた時に変動(電位の低下)が検出され、堆積物の影響による何らかの電位変動を検出していることが確認できた。今回の作動試験では作用電極に金線を用いたものに比べて、白金線を用いたもののほうが鋭敏に反応していた。
【0050】
(実施例2)
実施例1において製作したpCO2センサ並びにガス透過膜を除去したpHセンサを用いて、沖縄海域鳩間海丘の熱水活動域のCO2液滴の噴出地帯において、pHとpCO2を現場計測した。このときの、計測間隔は10秒毎、水深1500m、pCO2の値はカウント値である。その結果を図6に示す。このグラフから、海水中の高CO2環境に鋭敏に対応していること、即ち現場計測型のpCO2センサとして十分機能していることが明らかとなった。
【0051】
(実施例3)
実施例1において製作したpCO2センサ並びにガス透過膜を除去したpHセンサを用いて、沖縄海域鳩間海丘の熱水活動域のCO2液滴の噴出地帯において、pHとpCO2を再度時間を変えて現場計測した。このときの、計測間隔は10秒毎、水深1500m、pCO2の値はカウント値である。その結果を図7に示す。このグラフから、海水中の高CO2環境に鋭敏に対応していること、即ち現場計測型のpCO2センサとして十分機能していることが明らかとなった。
【0052】
(実施例4)
実施例1において製作したpCO2センサ並びにガス透過膜を除去したpHセンサを用いて、沖縄海域鳩間海丘の熱水活動域のCO2液滴の噴出地帯において、現場計測時のセンサの応答時間をそれぞれ求めた。その結果を図8に示す。この時の計測間隔は10秒毎、水深1500m、水温約4℃、pCO2の値はカウント値である。この結果、現場での"実質的"な応答時間が60秒と早いことが実証された。
【0053】
(実施例5)
実施例1において製作したpCO2センサ並びにガス透過膜を除去したpHセンサを用いて鉛直計測を行った。その結果を図9に示す。この時の計測間隔は10秒毎、潜航・上昇速度1m/1秒、pCO2の値はカウント値である。この結果から、海洋の表層から深海まで(水温25℃から5℃までの変化、圧力0気圧から150気圧までの変化)まともに反応していることを示している。
【0054】
(実施例6)
作用電極に白金線あるいは金線を、参照電極にCL−ISEを用いてエポキシ樹脂でモールドしてORPセンサを製作した。このORPセンサを用いてそれぞれ沖縄海域鳩間海丘の熱水活動域のCO2液滴の噴出地帯において、ORPセンサをROVに取り付けて現場計測した。このときの、計測間隔は10秒毎、水深1500m、ORPの値はカウント値である。その結果を図10に示す。このグラフから、ORPセンサとして機能していることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る深海でも使えるpCO2センサのセンサ電極部の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】同pCO2センサの電極部の正面図である。
【図3】同センサとpCO2変換回路及び電源とを示すブロック図である。
【図4】pHセンサの一実施形態を示す斜視図である。
【図5】ORPセンサの一実施形態を示す斜視図である。
【図6】沖縄海域鳩間海丘の熱水活動域のCO2液滴の噴出地帯において、pHとpCO2を現場計測した結果を示すグラフである。
【図7】沖縄海域鳩間海丘の熱水活動域のCO2液滴の噴出地帯において、pHとpCO2を現場計測した結果を示すグラフである。
【図8】pH並びにpCO2センサの現場での応答時間を示すグラフである。
【図9】pH並びにpCO2センサによる鉛直計測の現場での応答時間を示すグラフである。
【図10】ORPセンサの現場計測結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1 pCO2センサ
2 ISFET電極(pH電極)
3 Cl−ISE電極(参照電極)
4 pCO2計測部
5 耐圧容器
6 pCO2測定回路
7 水中ケーブル
8 水中コネクタ
20 容器
21 ガス透過膜
22 容器開口
23 ガス透過膜を封止する接着剤
25 内部液
26 接着剤
27 内部液交換用の孔
28 孔を塞ぐ接着剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中の二酸化炭素分圧(本明細書ではpCO2と呼ぶ)を直接かつリアルタイムに測定するpCO2センサに関する。更に詳述すると、本発明は溶液中、特に深海のような約20気圧以上の高圧がかかった状態においてもpCO2を測定可能とするpCO2センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題に関連して海洋の炭素循環メカニズムの解明が重要な研究課題となっており、海水中のアルカリ度(海水中の陽イオンの電荷数と陰イオンの電荷数の差)、全炭酸(全溶存無機炭素)、ρCO2並びにpHの計測が全球的な規模で行われている。海洋の炭酸系においては、これら四つの項目の内のどれか二つを測定すれば全てを計算することができるため、比較的に現場計測や連続計測が可能なpHやpCO2センサの開発に期待が高まっている。しかし、船舶による採水・船上分析が主体の従来の観測では、測点数や採水層について空間的・時間的な限界があり、海洋の広い範囲で実施することは極めて困難である。このような背景から、最近ではウォーターカラム全体を通した鉛直連続観測や長期間の連続観測を目的として、化学センサあるいは現場分析計の開発と現場への応用が進められている。
【0003】
例えば、海水のpCO2を現場計測するpCO2センサとしては、従来、光ファイバー型pHセンサの感応部を内部液とともにガス透過膜で封止し、ガス透過膜を介して浸透してくる二酸化炭素によって引き起こされる内部液のpH変化を計測するものが考えられている(特許文献1)。さらに、Goyetらは、pH感応色素を半透過膜で光ファイバー先端に封止したpCO2センサを開発した(非特許文献1)。このセンサでは高感度化のために、蛍光指示薬(HPTS)と吸光指示薬(Neutral RedとDNPA)を組み合わせたpH指示薬が採用されており、外洋海水中のpCO2計測ではガスクロマトグラフィによる従来法とよく一致していた。さらにDeGrandpreは、長期間の連続計測と測定精度維持を目的として、pH指示薬の注入・排出口を光ファイバーとともにシリコン膜で封止した試薬更新型のpCO2センサを開発し、pH指示薬としてBromothymol BlueとPhenol Redを検討し、その後、現場計測への応用のために、気一液交換器としてのガス透過膜製チューブ中に、pH指示薬(Bromothymol Blue)を連続的に流して試薬を更新することによって測定精度向上への対応が図られ、浅海域での連続計測が行われている(非特許文献2)。
【0004】
また、深海例えば水深3300mから4700mの海底堆積物間隙水中のpCO2の現場計測に、Bromothymol BlueをpH指示薬とした光ファイバー型センサも実施された例がある(非特許文献3)。
【0005】
また、本発明者等は、先に開発した深海でも用いることができるpHセンサ(特許文献2)を内部液とともにガス透過膜で封止し、ガス透過膜を介して浸透してくる二酸化炭素によって引き起こされる内部液のpH変化を計測することによって、pCO2を現場計測することを考えた。このpHセンサは、イオン感応性電界効果型トランジスター(ISFET)を指示電極として用い、ジルコニア性の電極容器を有する圧力保証型電極を参照電極とするものであり、深海での使用に耐え得る。
【特許文献1】特表平8−505218号
【特許文献2】特許公報第2948264号
【非特許文献1】C.Goyet,D.R.Walt,P.G.Brewer:Deep-sea Res.,39,1015(1992)
【非特許文献2】M.D.DeGrandpre,T.R.Hammar,S.P.Smith,F.L.Sayles:Limnd.Oceanogr.,40,969(1995)
【非特許文献3】B.Hales,L.Burgess,S.Emerson:Mar.chem.,59,51(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2を利用した深海用pCO2センサでは、圧力保証型電極を参照電極として使用しているために、内部液のpH変化に対してさらに参照電極内の内部液が反応するため、緩やかにしか応答できず測定の応答性や測定精度が低く、深海中のpCO2をリアルタイムに測定したり、高精度に測定することは困難であった。
【0007】
また、特許文献1並びに非特許文献1〜3に記載の比色法によるpCO2計測は、反応に時間がかかるため、実用性に劣る(リアルタイム測定ができない)問題があった。即ち、比色法では、膜の気体透過速度に加えて、色素との反応速度、流路の移動速度が加わりpCO2分析計としての応答速度はさらに遅くなります。また、温度が一定の実験室とは異なり、水温が1〜3℃にもなる深海では、色素との反応速度はさらに遅くなることから、比色法の現場での実質的な応答時間については十分な時間を取らなければ精度がえられず、通常は現場の希望計測深度に5分前後保持して計測していることが多い。このため、分析方法は簡易ではあるが、現場計測におけるリアルタイム測定においては測定精度があまり期待できないため、これまでは広く利用されることはなかった。また、深海におけるpCO2の現場計測を実施した非特許文献3の光ファイバー型センサにおいても、高圧下での指示薬の漏出が問題となっている。
【0008】
このように、比色法によるpCO2計測センサは、装置自体が巨大で大変高価、取扱いに十分な注意が必要(壊れやすい)、応答速度が遅い等の諸問題を有していることから、なかなか実用化されなかったものである。
【0009】
そこで、本発明は、深海のような高圧の水中でも測定の応答性や精度を向上できると共に衝撃に強く壊れ難いpCO2センサを提供することを目的とする。更に、本発明は、小型・安価でかつ耐久性のあるpCO2センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、請求項1の発明にかかる深海でも使えるpCO2センサは、イオン感応性電界効果型トランジスターからなるpH電極と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極と、これら両電極を収納する容器と、前記容器内に充填され前記両電極の周りを満たす内部液と、前記容器の一部に設けられた開口を封止するガス透過性膜とを備え、前記pH電極が前記ガス透過性膜に近接配置され、参照電極は前記ガス透過性膜から離れているものである。ここで、本明細書中における「深海」とは、水深約200m以下(約20気圧以上)の海水を主に意味するが、同等の高圧がかけられた塩分を有する溶液や淡水などを含むものとする。また、「ISFET」とは、イオン感知性電解効果型トランジスタ(Ion Sensitive FET )を意味する。
【0011】
したがって、請求項1のpCO2センサでは、pH電極がISFET電極であるので、pH電極の全体を高い耐圧性を有する固体により構成することができる。これにより、pCO2センサの耐衝撃性や耐久性が優れたものとなる。また、ISFET電極はpCO2測定の応答性や精度が高いので、pCO2センサによるpCO2測定の応答性や精度が向上される。さらに、参照電極が塩化物イオン選択性電極であるので、内部液に直接露出されて内部液のpH変化を検出できるので、応答性に優れる。しかも、参照電極そのものが固体・ペレット状であるためpCO2センサは高い耐圧性を有するものとなる。しかも、この参照電極が耐圧性と耐衝撃性に優れたものとなる。
【0012】
また、請求項2の発明にかかる深海でも使えるpCO2センサは、酸化インジウムからなるpH電極と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極と、これら両電極を収納する容器と、前記容器内に充填され前記両電極の周りを満たす内部液と、前記容器の一部に設けられた開口を封止するガス透過性膜とを備え、前記pH電極が前記ガス透過性膜に近接配置され、参照電極は前記ガス透過性膜から離れているものである。このpCO2センサでは、ISFET電極と同様に、pH電極の全体を高い耐圧性を有する固体により構成することができる。これにより、深海用pCO2センサの耐衝撃性や耐久性が優れたものとなる。また、酸化インジウムからなるpH電極はISFET電極を用いる場合より応答時間においてやや劣るものの、良好なpCO2測定の応答性や精度が得られ、深海でも使える完全な固体pCO2センサとなる。
【0013】
さらに、参照電極が塩化物イオン選択性電極であり内部液を海水により代用しているので、ガラス等の電極容器を必要とせず参照電極の全体を高い耐圧性を有する固体により構成することができる。これにより、深海用pCO2センサの耐衝撃性や耐久性が優れたものとなる。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2のいずれかにかかるpCO2センサにおいて、膜の面積はpH電極とほぼ同じ大きさである。
【0015】
さらに、請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1つに記載のpCO2センサにおいて、内部液は1〜2℃に冷却された状態で封止されているものである。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明より明らかなように、請求項1の発明によると、ISFET電極とCl−ISE電極から成るセンサの応答速度は高速であり、実験からも現場での"実質的"な応答時間が60秒と早いものであることから、リアルタイムの現場計測を可能とする。また、pH電極並びに参照電極を高い耐圧性を有する固体により構成することができ、pCO2センサの耐衝撃性や耐久性を優れたものにして深海で用いることができるようにすると共に、ISFET電極並びにCl−ISE電極のpCO2測定の応答性や精度が高いことから深海におけるpCO2センサによるpCO2測定現場計測での応答性や精度を向上することができる。
【0017】
したがって、深海あるいは高圧の塩分含有溶液中でもpCO2測定の応答性や精度を向上でき、また耐衝撃性や耐久性に優れたものとすることができる。これにより、深海中のpCO2をリアルタイムに高精度で測定することができる。また、耐衝撃性に優れるので、深海用pCO2センサの取り扱いを容易に行うことができるようになる。
【0018】
さらに、深海用pCO2センサは比較的安価であるため多数用意することができる。このため、同時に多数点でのpCO2を測定できるようになり、pCO2の精密計測が可能となる。
【0019】
また、pH電極を酸化インジウム電極とした請求項2の発明によっても、応答時間はISFET電極を用いた場合よりもやや劣るものの測定結果には良好な結果が得られる。また、この場合においても、Cl−ISEとISFETとの組み合わせと同様に、完全な固体センサとなるので、海底堆積物間隙水中や海底掘削孔内でのpCO2の現場計測への応用が期待される。
【0020】
さらに、請求項3の深海用pCO2センサによると、ガス透過膜を介して浸透してくる二酸化炭素によって引き起こされる内部液のpH変化を漏れなく感知することができるので、応答速度を高め得る。
【0021】
さらに、請求項4記載の発明によると、内部液は1〜2℃に冷却された状態で封止されているものであるので、深海におけるpCO2センサの使用においても、内部液の温度変動・体積変動の影響をセンサが受けることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。図1及び図2に本発明の深海でも使えるpCO2センサの一実施形態を示す。この深海でも使えるpCO2センサ1は、pH電極2及び参照電極3を有するpCO2計測部4を深海などの高圧の水中に潜らせたままその場でpCO2を測定するもので、pH電極2としてISFET電極が、参照電極3として塩素イオン選択性電極(Cl−ISE)が使用されている。さらに、pCO2計測部4には、図3に示すように、耐圧容器5に収容されたpH測定回路6が水中ケーブル7及び水中コネクタ8を用いて接続されている。
【0023】
pH電極2は、図1及び図2に示すように、フレキシブルプリント配線板(FPC)の上に実装されたチップ状のISFET電極から成る。
【0024】
また、参照電極3としては、塩素イオン選択性電極(Cl−ISE)がそのまま使われている。Cl−ISEは種々の塩化物をペレット状にしてリードアウトしたものであり、海水の主成分である塩素イオンに感応する固体電極である。海水のように塩素イオンを高濃度に含んだ電解質溶液中で参照電極として使用する場合は、その電位が安定していることが期待できる。また、このCl−ISEは、完全な固体電極なので、耐圧性、耐衝撃性に優れており、深海での使用に関しては問題がなく、内部液を持たないため、長期間の安定性も期待できる。このため高精度なpH現場計測が可能であり、さらに内部液を持たないため長期問の安定性が期待できる。
【0025】
図3に示すように、耐圧容器5の内部には、pH測定回路6と直流電源19とが収容されている。pH測定回路6は、ISFET電極2及びCl−ISE電極3からの情報を入力して増幅するpHアンプ10と、pHアンプ10の出力をデジタル変換するA/Dコンバータ11と、サーミスタ34からの情報を入力して増幅する温度アンプ12と、温度アンプ12の出力をデジタル変換するA/Dコンバータ13と、各A/Dコンバータ11、13からの情報を演算処理するCPU14と、計測時刻を供給するクロック15と、情報を読み書きするRAM16及びROM17と、pCO2変換回路6の外部に情報を出力する例えばRS−232Cから成るインターフェース18とを備えている。このpCO2センサにおいては、ガス透過性膜21を透過した二酸化炭素による内部液25のpH変化を敏感に検知して、pCO2を演算するものである。
【0026】
耐圧容器5は、深海でも潰れることのない耐圧性を有するものとしている。pH測定回路6のpHアンプ10及び温度アンプ12とインターフェース18とは、それぞれ耐圧容器5の外部に露出する水中コネクタ8に接続されている。この水中コネクタ8も、pCO2センサ1が使用される水圧中で潰れることのない耐圧性を有するものとしている。
【0027】
上述したpCO2センサ1を例えば深海でのpCO2の測定に使用する場合は、pCO2計測部4からの水中ケーブル7を耐圧容器5の水中コネクタ8に接続する。これにより、ISFET電極2及び参照電極3をpHアンプ10に接続する。
【0028】
尚、pCO2センサの使用に際しては、必要に応じてpCO2が既知の溶液などを使ってキャリブレーションを行う。また、pCO2センサ1のRAM16には測定のための設定内容が記録されているので、この設定内容に基づいて計測が開始される。
【0029】
pCO2センサ1を潜水調査船の外部あるいはCTD−RMS(Condactivity Temprature Depth − Rosette Multi Sampler)のフレームに取り付ける。CTD−RMSとは、海中の塩分、水温、水深をそれぞれセンサにより同時に測定してその結果をケーブルにより海上の測定船等に送信してリアルタイムに観測できると共に、その位置での採水も可能な装置である。
【0030】
pCO2センサ1が着水されて海水のpCO2の計測が開始されると、ISFET電極2及びCl−ISE電極3によりガス透過性膜21を透過した二酸化炭素による内部液25のpH変化として得られたpCO2情報がpHアンプ及びA/Dコンバータ11を経てRAM16に記録される。この時、pH変化として表されたpCO2値はクロック15からの時刻情報と共に記録される。また、必要に応じてサーミスタ34により得られた温度情報が温度アンプ12及びA/Dコンバータ13を経て時刻情報と共にRAM16に記録される。そして、潜水調査船が潜航、着底、航走、離底、浮上等する間、あるいはCTD−RMSが海に潜っている間、連続してpCO2の測定がなされる。測定の終了後は深海でも使えるpCO2センサ1を潜水調査船またはCTD−RMSから取り外し、pH測定回路6のインターフェース18を他のコンピュータ等に接続して計測結果を取り出す。
【0031】
本実施形態によれば、pCO2計測部4のpH電極2がISFET電極、参照電極3がCl−ISE電極であるので、電極全体を高い耐圧性及び耐衝撃性を有する固体により構成することができる。したがって、pCO2センサ1は高い耐圧性及び耐衝撃性を有するものとなる。
【0032】
また、ISFET電極2とCl−ISE電極3との組み合わせは、pCO2センサとしての応答性や精度を高め、さらに深海でもその応答性や精度は劣化することがないので、約20気圧以上の高圧の海中で使用しても高い応答性で高精度にpCO2の測定を行うことができる。
【0033】
さらに、本実施形態によれば、上述したISFET電極2とCl−ISE電極3とは十分な耐圧性を有することに加えてpH測定回路6が耐圧容器5に収容されると共にpH測定回路6とpCO2計測部4とを接続する水中コネクタ8が耐圧性を有するものであるので、深海でも使えるpCO2センサ1の耐衝撃性や耐久性を向上させることができる。
【0034】
ここで、ISFET電極2とCl−ISE電極3とを組み込む容器20は、耐圧性・耐衝撃性に富む材料の使用が好ましく、例えば本実施形態ではアクリルパイプを利用している。このアクリルパイプを円錐形に加工し、その先端部を斜めにカットしてガス透過膜21を取り付けるようにしている。円錐形状のアクリルパイプから成る容器21の内部空間には、ISFET電極2とCl−ISE電極3とが配置されると共に内部液25が充填されている。内部液25は、塩素イオンを含んだ電解質溶液、例えば2mM NaHCO3と0.7M NaClの混合溶液を使用している。この内部液25は、少なければセンサの使用時間が短くなり、多すぎても応答時間の遅延に繋がるおそれがある。そこで、好ましくは、内部液の容量は1ml程度である。また、内部液25の容器20内への注入時には、深海で使用した場合の低温による容積変化を考慮して、1〜2℃に冷却した状態で充填することが好ましい。
【0035】
ISFET-pHセンサ自体の応答速度は1秒以下であるので、本発明のpCO2センサの応答速度は、ガス透過膜21の気体透過速度に支配されることとなる。そこで、ガス透過膜21としては、気体透過速度の速いガス透過膜、例えばアモルファステフロン膜(米国ディュポン社製商品名:Teflon AF2400)を使用することが好ましい。勿論、アモルファステフロン膜以外のガス透過膜の使用を妨げるものではなく、これと同等あるいはそれ以上の気体透過速度を有するガス透過膜であれば使用できることは言うまでもない。
【0036】
また、このガス透過膜21とpH電極たるISFET電極チップ2とは、可能な限り近接させることがレスポンスを速くする上で好ましく、例えばガス透過膜21から0.5mm程度離れた位置に配置すること、より好ましくはガス透過膜21を通過してくる二酸化炭素によってpH変化が起こるに必要な量の内部液25が膜21とISFET電極チップ2の間に存在し得る範囲でより近接配置させることである。
【0037】
さらに、このガス透過膜21の実質面積(封止用の樹脂23で塞がれている部分を除いて実質的にガス透過に寄与している面積)がISFET電極チップ2よりも広過ぎると、膜21を通して侵入してくる二酸化炭素を感知できない領域が発生してしまいレスポンスが悪くなることから、ISFET電極チップ2とほぼ同じ大きさあるいは僅かに広い大きさの面積とすることが好ましい。勿論、製作上の誤差や配置誤差を考慮して、ガス透過膜21の実質面積をISFET電極チップ2の面積よりも大きめにしておくこと、特に感応部よりも遙かに大きめにしておくことは、当然選択されるべき範囲であり、その中でガス透過膜21の大きさをISFET電極チップ2の大きさに接近させることが好ましい。
【0038】
これら、ISFET電極2並びにCl−ISE電極3は、円錐形状の容器20の底部から順次装入され、円錐形の容器20の底部に参照電極3が蓋をするように嵌め込まれてエポキシ樹脂などの接着剤26で固着され、密封されている。更に、参照電極3の背部にも、エポキシ樹脂などの接着剤26が充填されてケーブル29やフレキシブルプリント配線板24などと共に固定されている。ここで、容器20の形状は必ずしも円錐形状に限られないし、また先端部を斜めにカットするものに限られない。本実施形態の場合、ISFET電極チップ2とフレキシブルプリント配線板24の実装部分とが柔軟性に欠けることから、斜面状に開口22を配置しそれに沿ってISFET電極チップ2を配置することが断線などの不良を招かない上で好ましいからである。
【0039】
また、容器には、内部液25を交換可能とするための孔27が設けられ、樹脂接着剤28などで封止されている。そして、この樹脂接着剤28を取り外して内部液25の交換を可能としている。
【0040】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、pH電極としてISFET電極を用いた例を挙げて主に説明したが、これには限られない。例えば、pH電極を酸化インジウム電極、参照電極を塩素イオン選択性電極にしたものでも実施可能である。この場合、応答時間はISFET電極を用いた場合よりもやや劣るものの測定結果には良好な結果が得られた。また、この場合においても、Cl−ISEとISFETとの組み合わせと同様に、完全な固体pHセンサとなるので、海底堆積物間隙水中や海底掘削孔内でのpH現場計測への応用が期待される。
【0041】
また、本実施形態では、深海でも使えるpCO2センサ1のpCO2計測部4と共にpH測定回路6を海中に潜らせているが、これに限られずpH測定回路6を船上に残しpCO2計測部4のみを海中に潜らせ、これらpCO2計測部4及びpH測定回路6を水深と同等の長さのケーブルにより接続するようにすることもできる。このpCO2センサ1によれば、pH測定回路6及び直流電源19を耐圧容器5に収容する必要がないので、計測設備の簡易化を図ることができる。また、この場合のpCO2センサ1によっても、高圧の海中で高い応答性で高精度にpCO2の測定を行うことができ、また耐衝撃性や耐久性を向上させることができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、pCO2センサ1を深海でのpCO2の測定に使用しているが、用途はこれに限られない。例えば、水深200m以下に相当するような高圧が付与される状況下、例えば地上における高圧設備で使用される塩分を含む溶液のpCO2測定や淡水中のpCO2を測定することもできるし、大気圧下あるいは減圧下における海水や淡水などのあらゆる溶液中のpCO2を測定することができる。
【0043】
また、本実施形態では、pH電極と参照電極を内部液とともにガス透過膜で封止し、ガス透過膜を介して浸透してくる二酸化炭素によって引き起こされる内部液のpH変化を計測するpCO2センサとして構成したものについて主に説明したが、図4に示すように、ガス透過膜を除いてpH電極31と参照極32とを海水に晒すようにエポキシ樹脂33で固めれば、海水のpHを計測するセンサ30として使用することもできる。この場合、参照電極は電極容器や内部液を有しないものとなるが、海水を内部液の代わりとして利用することができるので電極容器や内部液を有する電極と同等の精度でpH測定を行うことができる。このpHセンサの場合も、pH電極と参照電極とが固体で形成されているので、電極全体としての耐圧性及び耐衝撃性が高く、深海でも良好に使える。
【0044】
さらに、図5に示すように、参照電極42としてCl−ISE電極を用いながら、作用電極41として金電極(Au)あるいは白金電極(Pt)を用いて、これらを海水に晒すようにエポキシ樹脂43で固めれば、ORPセンサ40として機能する。金電極の使用は、電位窓が広く、薄い酸化被膜しか形成しないが、水銀とのアマルガムを作り易い。また、白金電極の場合には、一般的に使用されているが、金電極に比べて電位窓が狭く、酸化被膜を形成する。ORPセンサでは、作用電極に白金線あるいは金線を、参照電極にCL−ISEを使用し、これまでのISFET−pHセンサと同様に、作用電極とCL−ISEをエポキシ樹脂でモールドした。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
図1並びに図2に示す構造のpCO2センサを以下の通り製作した。アクリルパイプを円錐形に加工し、その先端部を斜めにカットしてガス透過膜21をエポキシ樹脂接着剤で取り付けた。円錐状のアクリルパイプから成る容器20の内部には、膜21から0.5mm離れたところにISFET電極2が位置するようにレイアウトされ、膜から約1.5cm離れた円錐の底部に塩素イオン選択性電極からなる参照電極(東亜ディーケーケー株式会社製Cl−ISEペレット)3を配置してエポキシ樹脂でモールドした。内部液25には、2mM NaHCO3と0.7M NaClの混合溶液を使用し、深海で使用した場合の低温による容積変化を考慮して、1〜2℃に冷却してから円錐状アクリルパイプ内部に充填、封止した。充填した内部液25の容量は約1mlである。
【0046】
アモルファステフロン膜(米国ディュポン社製商品名:Teflon AF2400)をガス透過性膜として使用し、ISFET-pHセンサの電極部をこの膜で封止して内部液を充填する構造とした。
【0047】
pCO2センサについて、陸上の実験室において通常の海水と二酸化炭素バブリング海水とを混合に計測(計測時間は10秒毎)し、応答性について実験を行った。pCO2センサの電極部を二酸化炭素バブリング海水に漬けた際には、内部液中のpH低下が検出され、その応答速度も数十秒以内であった。
現場での計測試験は、「なつしま/ハイパードルフィン」NT04-06航海の際に相模湾において行った。「ハイパードルフィン」のサンプルバスケット上にそれぞれのセンサを固定し、潜行行動中のpH、pCO2、ORPの変動を10秒毎に現場計測した。
【0048】
pCO2センサについては、深度(0〜1200m)に対応して内部液中のpHは低下した。海洋のpCO2は深度に応じて増加するので、内部液中のpH低下は海水中のpCO2増加に対応しており、本センサが正常に作動していることが確認できた。
【0049】
ORPセンサについては、「ハイパードルフィン」のサンプルバスケット上に固定したセンサが、舞い上がった堆積物に覆われた時に変動(電位の低下)が検出され、堆積物の影響による何らかの電位変動を検出していることが確認できた。今回の作動試験では作用電極に金線を用いたものに比べて、白金線を用いたもののほうが鋭敏に反応していた。
【0050】
(実施例2)
実施例1において製作したpCO2センサ並びにガス透過膜を除去したpHセンサを用いて、沖縄海域鳩間海丘の熱水活動域のCO2液滴の噴出地帯において、pHとpCO2を現場計測した。このときの、計測間隔は10秒毎、水深1500m、pCO2の値はカウント値である。その結果を図6に示す。このグラフから、海水中の高CO2環境に鋭敏に対応していること、即ち現場計測型のpCO2センサとして十分機能していることが明らかとなった。
【0051】
(実施例3)
実施例1において製作したpCO2センサ並びにガス透過膜を除去したpHセンサを用いて、沖縄海域鳩間海丘の熱水活動域のCO2液滴の噴出地帯において、pHとpCO2を再度時間を変えて現場計測した。このときの、計測間隔は10秒毎、水深1500m、pCO2の値はカウント値である。その結果を図7に示す。このグラフから、海水中の高CO2環境に鋭敏に対応していること、即ち現場計測型のpCO2センサとして十分機能していることが明らかとなった。
【0052】
(実施例4)
実施例1において製作したpCO2センサ並びにガス透過膜を除去したpHセンサを用いて、沖縄海域鳩間海丘の熱水活動域のCO2液滴の噴出地帯において、現場計測時のセンサの応答時間をそれぞれ求めた。その結果を図8に示す。この時の計測間隔は10秒毎、水深1500m、水温約4℃、pCO2の値はカウント値である。この結果、現場での"実質的"な応答時間が60秒と早いことが実証された。
【0053】
(実施例5)
実施例1において製作したpCO2センサ並びにガス透過膜を除去したpHセンサを用いて鉛直計測を行った。その結果を図9に示す。この時の計測間隔は10秒毎、潜航・上昇速度1m/1秒、pCO2の値はカウント値である。この結果から、海洋の表層から深海まで(水温25℃から5℃までの変化、圧力0気圧から150気圧までの変化)まともに反応していることを示している。
【0054】
(実施例6)
作用電極に白金線あるいは金線を、参照電極にCL−ISEを用いてエポキシ樹脂でモールドしてORPセンサを製作した。このORPセンサを用いてそれぞれ沖縄海域鳩間海丘の熱水活動域のCO2液滴の噴出地帯において、ORPセンサをROVに取り付けて現場計測した。このときの、計測間隔は10秒毎、水深1500m、ORPの値はカウント値である。その結果を図10に示す。このグラフから、ORPセンサとして機能していることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る深海でも使えるpCO2センサのセンサ電極部の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】同pCO2センサの電極部の正面図である。
【図3】同センサとpCO2変換回路及び電源とを示すブロック図である。
【図4】pHセンサの一実施形態を示す斜視図である。
【図5】ORPセンサの一実施形態を示す斜視図である。
【図6】沖縄海域鳩間海丘の熱水活動域のCO2液滴の噴出地帯において、pHとpCO2を現場計測した結果を示すグラフである。
【図7】沖縄海域鳩間海丘の熱水活動域のCO2液滴の噴出地帯において、pHとpCO2を現場計測した結果を示すグラフである。
【図8】pH並びにpCO2センサの現場での応答時間を示すグラフである。
【図9】pH並びにpCO2センサによる鉛直計測の現場での応答時間を示すグラフである。
【図10】ORPセンサの現場計測結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1 pCO2センサ
2 ISFET電極(pH電極)
3 Cl−ISE電極(参照電極)
4 pCO2計測部
5 耐圧容器
6 pCO2測定回路
7 水中ケーブル
8 水中コネクタ
20 容器
21 ガス透過膜
22 容器開口
23 ガス透過膜を封止する接着剤
25 内部液
26 接着剤
27 内部液交換用の孔
28 孔を塞ぐ接着剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン感応性電界効果型トランジスターからなるpH電極と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極と、これら両電極を収納する容器と、前記容器内に充填され前記両電極の周りを満たす内部液と、前記容器の一部に設けられた開口を封止するガス透過性膜とを備え、前記pH電極が前記ガス透過性膜に近接配置され、参照電極は前記ガス透過性膜から離れていることを特徴とする深海でも使える自立型pCO2センサ。
【請求項2】
酸化インジウムからなるpH電極と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極と、これら両電極を収納する容器と、前記容器内に充填され前記両電極の周りを満たす内部液と、前記容器の一部に設けられた開口を封止するガス透過性膜とを備え、前記pH電極が前記ガス透過性膜に近接配置され、参照電極は前記ガス透過性膜から離れていることを特徴とする深海でも使える自立型pCO2センサ。
【請求項3】
前記膜の面積はpH電極とほぼ同じ大きさである請求項1または2記載の深海でも使える自立型pCO2センサ。
【請求項4】
前記内部液は1〜2℃に冷却された状態で封止されているものである請求項1から3のいずれかに記載の深海でも使える自立型pCO2センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン感応性電界効果型トランジスターからなるpH電極と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極と、これら両電極を収納する容器と、前記容器内に充填され前記両電極の周りを満たす内部液と、前記容器の一部に設けられた開口を封止するガス透過性膜とを備え、前記pH電極が前記ガス透過性膜に近接配置され、参照電極は前記ガス透過性膜から離れていることを特徴とする深海でも使える自立型の海洋二酸化炭素分圧センサ。
【請求項2】
酸化インジウムからなるpH電極と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極と、これら両電極を収納する容器と、前記容器内に充填され前記両電極の周りを満たす内部液と、前記容器の一部に設けられた開口を封止するガス透過性膜とを備え、前記pH電極が前記ガス透過性膜に近接配置され、参照電極は前記ガス透過性膜から離れていることを特徴とする深海でも使える自立型の海洋二酸化炭素分圧センサ。
【請求項3】
前記膜の面積はpH電極とほぼ同じ大きさである請求項1または2記載の深海でも使える自立型の海洋二酸化炭素分圧センサ。
【請求項4】
前記内部液は1〜2℃に冷却された状態で封止されているものである請求項1から3のいずれかに記載の深海でも使える自立型の海洋二酸化炭素分圧センサ。
【請求項1】
イオン感応性電界効果型トランジスターからなるpH電極と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極と、これら両電極を収納する容器と、前記容器内に充填され前記両電極の周りを満たす内部液と、前記容器の一部に設けられた開口を封止するガス透過性膜とを備え、前記pH電極が前記ガス透過性膜に近接配置され、参照電極は前記ガス透過性膜から離れていることを特徴とする深海でも使える自立型pCO2センサ。
【請求項2】
酸化インジウムからなるpH電極と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極と、これら両電極を収納する容器と、前記容器内に充填され前記両電極の周りを満たす内部液と、前記容器の一部に設けられた開口を封止するガス透過性膜とを備え、前記pH電極が前記ガス透過性膜に近接配置され、参照電極は前記ガス透過性膜から離れていることを特徴とする深海でも使える自立型pCO2センサ。
【請求項3】
前記膜の面積はpH電極とほぼ同じ大きさである請求項1または2記載の深海でも使える自立型pCO2センサ。
【請求項4】
前記内部液は1〜2℃に冷却された状態で封止されているものである請求項1から3のいずれかに記載の深海でも使える自立型pCO2センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン感応性電界効果型トランジスターからなるpH電極と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極と、これら両電極を収納する容器と、前記容器内に充填され前記両電極の周りを満たす内部液と、前記容器の一部に設けられた開口を封止するガス透過性膜とを備え、前記pH電極が前記ガス透過性膜に近接配置され、参照電極は前記ガス透過性膜から離れていることを特徴とする深海でも使える自立型の海洋二酸化炭素分圧センサ。
【請求項2】
酸化インジウムからなるpH電極と、塩化物イオン選択性電極からなる参照電極と、これら両電極を収納する容器と、前記容器内に充填され前記両電極の周りを満たす内部液と、前記容器の一部に設けられた開口を封止するガス透過性膜とを備え、前記pH電極が前記ガス透過性膜に近接配置され、参照電極は前記ガス透過性膜から離れていることを特徴とする深海でも使える自立型の海洋二酸化炭素分圧センサ。
【請求項3】
前記膜の面積はpH電極とほぼ同じ大きさである請求項1または2記載の深海でも使える自立型の海洋二酸化炭素分圧センサ。
【請求項4】
前記内部液は1〜2℃に冷却された状態で封止されているものである請求項1から3のいずれかに記載の深海でも使える自立型の海洋二酸化炭素分圧センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2006−90785(P2006−90785A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275072(P2004−275072)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月24日 日本海洋学会主催の「2004年度 日本海洋学会秋季大会」において文書をもって発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月24日 日本海洋学会主催の「2004年度 日本海洋学会秋季大会」において文書をもって発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
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