説明

自走式エレクタ

【課題】セグメントを組み立てるトンネル穴よりも幅狭のトンネル穴を通過でき、セグメントを良好な止水性で組み立てる自走式エレクタを提供する。
【解決手段】トンネル穴2内を走行する走行部3と、走行部3に設けられたエレクタ部6と、走行部3に設けられると共にトンネル穴2の内壁4に沿うリング状に形成され組み立てたセグメント5をトンネル坑口側に押圧するセグメント押付けジャッキ31を複数有する押付リングフレーム10とを備えた自走式エレクタ1であって、トンネル穴2の左右幅が変化するときその変化に応じて押付リングフレーム10を拡縮させるべく、押付リングフレーム10を上部ブロック33と下部ブロック34と側部ブロック35とに分割すると共に、上部ブロック33と下部ブロック34に対して側部ブロック35を幅方向に位置調節可能に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山を掘削して形成されたトンネル穴内を走行しつつトンネル穴の内壁に沿ってセグメントを組み立てる自走式エレクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6(a)及び(c)に示すように、山岳地40にトンネルを構築する場合、一般に断面馬蹄形のトンネル穴41を掘削したのち、トンネル穴41内にライニングを施して山岳トンネルを構築する。トンネル穴41を断面馬蹄形にすることにより、図6(b)に示す断面円形のトンネル穴42よりも容易に必要な強度を得ることができると共に、掘削土量を少なくできる。
【0003】
ところで、図6(a)に示すように、山岳地40に沢43等があり、沢43等からの水脈44が構築すべきトンネルの近傍に存在する場合、トンネル穴41を掘削してからトンネル穴41にライニングを施すまでの間にトンネル穴41内に水が流れ込み、沢43等が枯れる虞がある。かかる問題を解決する方法としては、水脈44に臨む区間45にトンネル穴42を掘削したのち、この区間45外のトンネル穴41の完成を待たずに上記区間45のトンネル穴42の内壁46に沿ってセグメント(図示せず)を組み立てることが考えられる。
【0004】
既設のトンネル穴内にセグメントを組み立てることができる装置としては、特許文献1記載の自走式エレクタが知られている。この自走式エレクタは、前例のない特殊な工事を行う先駆的なものであるため本格稼動には止水性等に改善すべき課題も残っていた。このため、本出願人は、自走式エレクタに改良を重ね、図7に示す自走式エレクタ(未公開)50を開発するに至った。この自走式エレクタ50は、エレクタ部51で組み立てたセグメント52をトンネル坑口側に押し付けるセグメント押付けジャッキ53を備える。セグメント押付けジャッキ53がセグメント52をトンネル坑口側に押すことでセグメント52間の止水シール(図示せず)が潰れ、セグメント52間の止水性が高められるようになっている。セグメント押付けジャッキ53は、トンネル穴54の内壁55に沿うリング状に形成された押付リングフレーム56に具備される。このため、セグメント52を組み立てるトンネル穴54は断面円形である必要があり、図6(a)に示す区間45のトンネル穴42で図7に示す自走式エレクタ50を使用する場合、その区間45のトンネル穴42を断面円形にする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−223260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、断面馬蹄形のトンネル穴41の途中に同じ高さの断面円形のトンネル穴42を形成すると、断面円形のトンネル穴42が断面馬蹄形のトンネル穴41よりも幅広(W1>W2)となってしまうため、自走式エレクタが断面馬蹄形のトンネル穴41内を通過して断面円形のトンネル穴42内に到達できないという課題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、セグメントを組み立てるトンネル穴よりも左右幅が狭いトンネル穴を通過でき、セグメントを良好な止水性で組み立てることができる自走式エレクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、地山を掘削して形成されたトンネル穴内を走行する走行部と、該走行部に設けられ上記トンネル穴の内壁に沿ってセグメントを組み立てるためのエレクタ部と、上記走行部に設けられると共に上記トンネル穴の内壁に沿うリング状に形成され上記エレクタ部で組み立てたセグメントをトンネル坑口側に押圧するセグメント押付けジャッキを複数有する押付リングフレームとを備えた自走式エレクタであって、上記トンネル穴の左右幅が変化するときその変化に応じて上記押付リングフレームを拡縮させるべく、上記押付リングフレームを上部ブロックと下部ブロックと側部ブロックとに分割すると共に、上部ブロックと下部ブロックに対して側部ブロックを幅方向に位置調節可能に設けた。
【0009】
上記側部ブロックは、複数のボルト孔を有するジョイントプレートを介して上記上部ブロックと下部ブロックに位置調節可能に締結されるとよい。
【0010】
上記ジョイントプレートは、上記上部ブロックと上記側部ブロックと上記下部ブロックのそれぞれの分割面に設けられ、上記上部ブロックと側部ブロックとの間で重なり合うジョイントプレート同士がボルトで位置調節可能に締結され、上記側部ブロックと下部ブロックとの間で重なり合うジョイントプレート同士がボルトで位置調節可能に締結されるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セグメントを良好な止水性で組み立てる自走式エレクタを、セグメントを組み立てる区間のトンネル穴よりも左右幅が狭いトンネル穴を通過させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は自走式エレクタの側面図である。
【図2】図2はセグメント押し付け時の押付リングフレームの背面図である。
【図3】図3は断面馬蹄形のトンネル穴内で縮径した押付リングフレームの背面図である。
【図4】図4(a)は図2の要部拡大図であり、図4(b)は図3の要部拡大図である。
【図5】図5は図1のA−A線矢視断面図である。
【図6】図6(a)は山岳トンネルの概略説明図であり、図6(b)は図6(a)のトンネル穴のB−B線矢視断面図であり、図6(c)は図6(a)のトンネル穴のC−C線矢視断面図である。
【図7】図7は特許文献1記載の自走式エレクタに改良を加えた未公開の自走式エレクタの側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すように、自走式エレクタ1は、地山を掘削して形成されたトンネル穴2内を走行する走行部3と、走行部3に設けられトンネル穴2の内壁4に沿ってセグメント5を組み立てるためのエレクタ部6と、走行部3に設けられトンネル穴2の上下の内壁4間と左右の内壁4間とで突っ張って走行部3をトンネル穴2の内壁4に固定するためのグリッパ機構7と、走行部3に前後移動可能に設けられ既設セグメント8の形状を保持する形状保持部9と、走行部3に設けられトンネル穴2の内壁4に沿うリング状に形成された押付リングフレーム10とを備える。
【0014】
走行部3は、長尺の鋼材を枠状に組み付けて構成される走行部本体11と、走行部本体11に設けられトンネル穴2内に敷設されたレール12上を走行する台車部13と、走行部本体11に走行方向後方に延びて設けられた後方デッキ14と、走行部本体11に前方に突出して設けられたカウンタウェイト15と、台車部13に設けられレール12から反力をとって推進力を得るためのレールクランプ式の自走装置16とを備える。台車部13は、走行部本体11の底部に前後に離間して一対設けられている。自走装置16は、前側の台車部13に一端を連結される推進用ジャッキ17と、推進用ジャッキ17の他端に設けられレール12を着脱自在に把持するレール把持部18とからなる。自走装置16は、レール把持部18でレール12を把持しつつ推進用ジャッキ17を伸長させる動作と、レール12からレール把持部18を離脱させた状態で推進用ジャッキ17を縮退させる動作とを交互に繰り返すことで走行部3を前進させるようになっている。
【0015】
エレクタ部6は、走行部本体11に前後に延びる軸回り回転自在に設けられた回転フレーム19と、回転フレーム19に径方向に移動自在に設けられた吊りビーム20と、吊りビーム20の先端に設けられセグメント5を把持するセグメント把持部21とを備える。
【0016】
グリッパ機構7は、走行部本体11の前側に前後移動可能に設けられた前側グリッパ機構22と、走行部本体11の後側に設けられた後側グリッパ機構23とからなる。図1及び図5に示すように、前側グリッパ機構22は、走行部本体11の前側に前後移動自在に設けられ走行部本体11の外周を覆うように正面視門型に形成されたグリッパフレーム24と、グリッパフレーム24の上部に上方に伸縮自在に設けられた上部グリッパジャッキ25と、グリッパフレーム24の両側部に側方に伸縮自在に設けられた側部グリッパジャッキ26と、走行部本体11の前側底部に下方に伸縮自在に設けられた下部グリッパジャッキ27とからなり、グリッパフレーム24を前後に移動させることで上部グリッパジャッキ25と側部グリッパジャッキ26がトンネル穴2の内壁4の支保工28に当たらないように前後方向の位置調節ができるようになっている。後側グリッパ機構23は、走行部本体11の後側上部に上方に伸縮自在に設けられた上部グリッパジャッキ25と、走行部本体11の後側両側部に側方に伸縮自在に設けられた側部グリッパジャッキ26と、走行部本体11の後側底部に下方に伸縮自在に設けられた下部グリッパジャッキ27とからなる。
【0017】
図1に示すように、形状保持部9は、後方デッキ14に前後走行自在に設けられた正面視逆U字状の上部フレーム29と、上部フレーム29の下部に下方に延びる油圧ジャッキ(図示せず)を介して上下方向にスライド自在に設けられた正面視U字状の下部フレーム30とからなる。上部フレーム29と下部フレーム30が既設セグメント8間で上下に突っ張ることで既設セグメント8に作用する土圧を受け、既設セグメント8の形状を保持するようになっている。
【0018】
図1及び図2に示すように、押付リングフレーム10は、エレクタ部6で組み立てたセグメント5をトンネル坑口側に押圧するセグメント押付けジャッキ31を複数有する。セグメント押付けジャッキ31は、押付リングフレーム10に周方向に略等間隔に配置されており、周方向に並ぶ既設セグメント8を均等に押圧するようになっている。セグメント押付けジャッキ31は、後端に既設セグメント8に当接されるシュー32を有する。
【0019】
また、押付リングフレーム10は、押付リングフレーム10の上部を構成する上部ブロック33と、下部を構成する下部ブロック34と、両側部を構成する側部ブロック35とに分割されたブロック分割構造となっており、それぞれの側部ブロック35は、上部ブロック33と下部ブロック34に対して幅方向に位置調節可能に設けられている。上部ブロック33と下部ブロック34と側部ブロック35のそれぞれの分割面36は水平に形成されている。
【0020】
図2及び図4(a)に示すように、それぞれの分割面36には、複数のボルト孔(図示せず)を有するジョイントプレート37が設けられており、上部ブロック33と側部ブロック35との間で重なり合うジョイントプレート37同士が複数のボルト38で位置調節可能に締結されると共に、側部ブロック35と下部ブロック34との間で重なり合うジョイントプレート37同士が複数のボルト38で位置調節可能に締結されている。ジョイントプレート37のボルト孔は、前後左右に等間隔に並べて形成されており、図4(b)に示すように、側部ブロック35が側方に移動されても、ジョイントプレート37同士のボルト孔が複数重なるようになっている。上部ブロック33と下部ブロック34は、走行部本体11に一体に設けられており、側部ブロック35は走行部本体11にトンネル幅方向にスライド可能に設けられている。
【0021】
次に本実施の形態の作用を述べる。
【0022】
断面馬蹄形のトンネル穴2内で自走式エレクタ1を走行させる場合、図3及び図4(b)に示すように、それぞれのジョイントプレート37からボルト38を取り外したのち、側部ブロック35をトンネル幅方向内側に移動させ、重なり合うそれぞれのジョイントプレート37同士をボルト38にて仮留めして上部ブロック33と下部ブロック34に対して側部ブロック35を固定する。これにより、押付リングフレーム10の幅が縮まり、断面馬蹄形のトンネル穴2内で自走式エレクタ1を走行させることができる。
【0023】
自走式エレクタ1がセグメント5を組み立てるべきトンネル穴2内に到達したら、図2及び図4(a)に示すように、それぞれのジョイントプレート37からボルト38を取り外し、側部ブロック35をトンネル幅方向外側に移動させて押付リングフレーム10をリング状の形状に戻し、重なり合うそれぞれのジョイントプレート37同士をボルト38にて締結する。
【0024】
この後、図1に示すようにエレクタ部6にセグメント5を供給してエレクタ部6にてセグメント5を周方向に組み立て、1リング分のセグメント5を組み立てたら、既設セグメント8とトンネル穴2の内壁4との間のボイド60に裏込め材を注入して充填すると共に、既設セグメント8の前端面に妻型枠39をセグメント押付けジャッキ31により押し付けてボイド60の前端を塞ぐ。
【0025】
ボイド60の裏込め材が十分固まって既設セグメント8の周囲が強固に止水されたら、自走装置16の推進用ジャッキ17を伸長させて自走式エレクタ1をセグメント1リング分だけ前進させ、既設セグメント8にセグメント5を1リング分組み付けるという一連の作業を繰り返して既設セグメント8を順次前方に延ばしていく。
【0026】
自走式エレクタ1がセグメント5を組み立てるべきトンネル穴2内を通過したら、再度ジョイントプレート37からボルト38を取り外し、それぞれの側部ブロック35をトンネル幅方向内側に移動させて押付リングフレーム10の幅を縮め、重なり合うそれぞれのジョイントプレート37同士をボルト38にて締結する。この後、断面馬蹄形のトンネル穴2内で自走式エレクタ1を前方に走行させて自走式エレクタ1をトンネル穴2外に退避させる。
【0027】
このように、押付リングフレーム10を上部ブロック33と下部ブロック34と側部ブロック35とに分割すると共に、上部ブロック33と下部ブロック34に対して側部ブロック35を幅方向に位置調節可能に設けたため、セグメント5を組み立てるべき区間のトンネル穴2がこのトンネル穴2より左右幅が狭い断面馬蹄形のトンネル穴2間に形成される場合であっても断面馬蹄形のトンネル穴2内でセグメント押付けジャッキ31を有する自走式エレクタ1を走行させて通過させることができ、セグメント5を組み立てるべき区間のトンネル穴2内にセグメント5を良好な止水性で組み立てることができる。
【0028】
側部ブロック35は、複数のボルト孔を有するジョイントプレート37を介して上部ブロック33と下部ブロック34に位置調節可能に締結されるものとしたため、簡易な構造で容易に上部ブロック33と下部ブロック34に対して側部ブロック35を固定又は固定解除できる。
【0029】
またさらに、ジョイントプレート37は、上部ブロック33と側部ブロック35と下部ブロック34のそれぞれの分割面36に設けられ、上部ブロック33と側部ブロック35との間で重なり合うジョイントプレート37同士がボルト38で位置調節可能に締結され、側部ブロック35と下部ブロック34との間で重なり合うジョイントプレート37同士がボルト38で位置調節可能に締結されるものとしたため、さらに簡易な構造で容易に上部ブロック33と下部ブロック34に対して側部ブロック35を固定又は固定解除でき、押付リングフレーム10の左右方向の幅をトンネル穴2内で容易に縮小、拡大できる。
【0030】
なお、ジョイントプレート37は各部ブロック33、34、35に設けられるものとしたが、対向する分割面36の一方に設けられるものとしてもよい。この場合、他方の分割面36にボルト孔を形成するとよい。また、ジョイントプレート37は、各部ブロック33、34、35間に介在されるものとし、各部ブロック33、34、35の対向する分割面36の一方又は両方にボルト38にて締結されるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 自走式エレクタ
2 トンネル穴
3 走行部
4 内壁
5 セグメント
6 エレクタ部
10 押付リングフレーム
31 セグメント押付けジャッキ
33 上部ブロック
34 下部ブロック
35 側部ブロック
36 分割面
37 ジョイントプレート
38 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山を掘削して形成されたトンネル穴内を走行する走行部と、該走行部に設けられ上記トンネル穴の内壁に沿ってセグメントを組み立てるためのエレクタ部と、上記走行部に設けられると共に上記トンネル穴の内壁に沿うリング状に形成され上記エレクタ部で組み立てたセグメントをトンネル坑口側に押圧するセグメント押付けジャッキを複数有する押付リングフレームとを備えた自走式エレクタであって、上記トンネル穴の左右幅が変化するときその変化に応じて上記押付リングフレームを拡縮させるべく、上記押付リングフレームを上部ブロックと下部ブロックと側部ブロックとに分割すると共に、上部ブロックと下部ブロックに対して側部ブロックを幅方向に位置調節可能に設けたことを特徴とする自走式エレクタ。
【請求項2】
上記側部ブロックは、複数のボルト孔を有するジョイントプレートを介して上記上部ブロックと下部ブロックに位置調節可能に締結された請求項1記載の自走式エレクタ。
【請求項3】
上記ジョイントプレートは、上記上部ブロックと上記側部ブロックと上記下部ブロックのそれぞれの分割面に設けられ、上記上部ブロックと側部ブロックとの間で重なり合うジョイントプレート同士がボルトで位置調節可能に締結され、上記側部ブロックと下部ブロックとの間で重なり合うジョイントプレート同士がボルトで位置調節可能に締結された請求項2記載の自走式エレクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−209517(P2010−209517A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53612(P2009−53612)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】