説明

自走式ガルバノスキャナを搭載したレーザ加工機

【課題】 ガルバノスキャナによるレーザ加工を行う際、レーザの集光径を小さく保ったまま加工範囲の拡大を可能とする。
【解決手段】 従来の固定されたガルバノスキャナを用いた加工範囲は限定的であったが、レーザ装置に搭載されたガルバノスキャナを装置内で自走させることにより、従来の加工範囲を広げ、より応用力のある加工技術開発を可能とする。
ガルバノスキャナ20が稼動範囲2L内を高速移動し、指定位置での静止加工、および自走しながら加工を行うことにより、ガルバノスキャナの持つ加工能力を拡大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ガルバノスキャナが装置内で自走することが可能な機構を持つレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
ガルバノスキャナを用いたレーザ加工機は印字、穴あけ用途等で数多く採用されているが、通常、ガルバノスキャナはレーザ装置に固定されておりレーザの加工は、スキャナの走査範囲の中でのみ行われている。スキャナの走査範囲はレンズの集光距離により決定されるが、加工エリアを拡大するためには、長焦点レンズを使用し、スキャナの走査範囲を拡大する必要がある。または、加工対象物をXYステージ等により前後、左右に移動させる方法が考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図1に示すガルバノスキャナを用いた加工はレーザ光を高速に走査させることにより、付加価値の高い加工をおこなうことが可能となるが、ガルバノスキャナによる加工には11aおよび11bに示すスキャンミラーの稼動範囲に起因して捜査範囲に制限が出てくる。走査範囲を超えた加工を行うことは出来ず、加工範囲は12の枠内のみとなり、加工対象物がこの範囲を超えた場合、スキャナでレーザ走査を行うことは出来ない。
【0004】
ガルバノスキャナを用いたレーザ加工は、レーザ光が反射される2枚のミラー11a、11bの角度を変化させることによりレーザ光の走査制御を行うが、走査可能な範囲は、使用する集光レンズ11cの焦点距離に依存する。
加工範囲を拡大する手段として焦点距離の長い集光レンズを使用する方法が考えられるが、レーザ光の集光は焦点距離が長くなる程、集光点における集光径が大きくなる特性があり、集光径が大きくなると集光点におけるレーザのエネルギー密度が低下する。高密度エネルギーでの加工は、レーザ加工の最大の特徴であるが、そのエネルギー密度が低下することは、レーザ加工の優位性を失うこととなる。
【0005】
また、集光レンズの焦点距離が長くなると、ミラー角度制御により1点から走査されるレーザ光は、位置決め割り出し分解能力の最小値が拡大し、位置決め精度及び繰返し精度が低下する。
【0006】
XYステージ等で加工対象物を移動させ加工範囲を分割することにより、長焦点レンズを使用することなく広範囲でのレーザ加工が可能となるが、レーザ走査及びXYステージの制御は別々となるため、プログラムが複雑になり、加工範囲の分割部はレーザ光の走査も分割されるため高精度の加工を行うことは困難となる。加えて、加工対象物全域の加工範囲を確保するためには加工対象物の2倍の大きさの加工ステージが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はガルバノスキャナを使用した高速加工を、現状での加工範囲を超える対象物に対して利用可能とするため、ガルバノスキャナ本体20をレーザ装置内で移動させ、位置決めを可能とすることを主要な特徴とする。
【0008】
ガルバノスキャナ本体は、レーザ装置内のボールネジ、モータ、LMガイド等の移動、位置決め装置、およびレーザ導光機器により構成されるマウント上に搭載され、前後または左右に高速移動、位置決めを行う機構を備えることを特徴とするレーザ加工装置である。
【0009】
スキャナ本体がレーザ装置内を移動する際、導光機器によりレーザ光は常にスキャナ本体に追随し、いかなる位置においても同品質のレーザ光の出力を可能とすることを特徴としている。
【0010】
ガルバノミラーによるレーザ光の走査制御及びガルバノスキャナユニット本体の移動、位置決めは単一のソフトウエアにて同時に制御を行なうことを特徴としている。
【0011】
ガルバノスキャナ本体は自走可能な加工範囲内において、加工形状を自由に設定することを可能とする。設定した加工形状は、ソフトウエアにより自動分割され実現されることを特徴としている。
【0012】
ガルバノスキャナが自走し指定位置にて加工を行う際、それぞれの対象物ごとに加工範囲の中心点を任意に設定可能であるため、図形を分割することなく形状毎の加工が可能であることを特徴としている。
【0013】
ガルバノスキャナの自走を停止させることなく加工を行うことにより加工範囲を分割することなく拡大できることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
レーザ加工の特徴である高エネルギー密度を維持したままで、広い加工範囲を確保することが可能となる。
【0015】
レーザを走査するスキャナとガルバノスキャナ本体の移動、位置決め制御を単一のソフトウエアで行うことにより、対象物ごとに加工中心点を設定することが可能となり、加工エリアを分割する際に発生する図形の分割に起因する品質低下を回避することが可能となる。
【0016】
単一ソフトウエアで制御されるスキャナミラー及びガルバノスキャナ本体は相互の動作を同期させることにより、ガルバノスキャナ本体の自走を停止させずに指定された加工を行うことが可能となり、加工範囲を分割することなく加工範囲を拡大することが可能となる。
【0017】
ガルバノスキャナを自走させながら加工を行う際、自走速度は搭載されたエンコーダーにより検出され、ソフトウエアはその速度に応じてスキャナミラーの制御を行う。自走速度に応じて走査軌跡を制御することにより、静止状態に於ける走査軌跡と同様のレーザ走査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ガルバノスキャナの原理
【図2】自走式ガルバノスキャナを搭載したレーザ加工機外観図
【図3】ガルバノスキャナ自走の際の光路長の変化
【図4】ガルバノスキャナ自走及びレーザ光路長制御機構
【図5】ガルバノスキャナの自走を伴う流れ加工
【図6】ガルバノスキャナ単体の走査範囲とX軸、Y軸を加えた走査範囲
【図7】ガルバノスキャナ捜査範囲分割による、加工対象物の分割
【図8】ガルバノスキャナ中心点を任意の位置に設定することにより可能となる無分割加工
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態によるレーザ加工機は、図2に示すようにレーザ本体2に搭載されたガルバノスキャナ20が、装置内の移動可能範囲2a及び2bを自走することにより、ガルバノスキャナ20単体が可能な加工範囲の拡大を可能とする。
【0020】
ガルバノスキャナ20が装置内で自走する際に発生するレーザ光の光路長の変化を図3に示す。レーザ光は、ミラー32に入力され90度折り返されたのちミラー31、30を介してガルバノスキャナ20に到達する。
ミラー32に入力されるまでのレーザ光路Lが固定される場合、ガルバノスキャナ20が可動範囲2L内を移動する際、ミラー31、30間の距離が変化し、結果、光路長24はガルバノスキャナ20の位置により変化することとなる。
ガルバノスキャナ20の移動に伴う光路長の変化によって、レーザ光が持つ光の拡散角に起因したビーム径変化が生じる。
【0021】
図4に示す機構は、装置内のレーザ光路長をガルバノスキャナ本体20がいかなる位置においても一定に保つことが可能となる機構である。
ミラー31、32から構成されるレーザ光折り返しユニット33は、Lの範囲内で可動可能となっておりガルバノスキャナ20本体の移動、位置決めに使用される第1ボールネジ220および駆動装置210とは別系統の第2ボールネジ211、及び第2駆動装置221により駆動、位置決め制御される。
レーザ光路Lをガルバノスキャナ移動範囲2L内の位置に基づき、変化させることによりレーザ光路長を一定に保つことが可能となる。
ガルバノスキャナ20が左方向に移動した場合、図4に示すbの値が減少するが、それに対応して折り返しユニット33の位置を示すaの値はbの移動量の1/2増加しLの光路長値はL−aとなる。折り返しユニット33は2枚のミラーの位置制御を行う事によりガルバノスキャナ20の移動量の半分の移動量で光路長の維持が可能となるため、ガルバノスキャナ20の高速移動にも容易に追随することが可能である。この機構により、ガルバノスキャナ20がいかなる状況においても同一の径でレーザ光を出力することが可能となる。
【0022】
図5に示すのはガルバノスキャナ20がレーザ装置内で移動する際、その動作を停止させることなく自走しながらの加工を可能とする特徴を示す。
ガルバノスキャナ20がC位置からD位置まで移動する際、走査されるレーザ光24は停止することなくガルバノスキャナ20の動きに同期して制御される。
【0023】
ガルバノスキャナ20がボールネジ210で移動、位置決めされるX軸、またはボールネジ212で移動、位置決めされるY軸を静止せずに移動しながら加工を行うことで23に示すような固定されたガルバノスキャナの加工範囲を超え分割のない広範囲な領域の加工を可能にする。
【0024】
X軸及びY軸上で移動可能な範囲が装置の加工範囲となり、その範囲内でガルバノスキャナ本体を停止させ加工を行う場合、加工範囲全域はガルバノスキャナ本体が持つ加工範囲で自動分割される。図6にガルバノスキャナ単体の走査範囲とX軸、Y軸を加えた走査範囲を示す。
【0025】
加工範囲の分割部分に加工対象物が存在する場合、図7で示すようにBおよびCの文字は加工範囲の中に収まるが、AとDは2つの加工範囲を跨いでしまい2つの加工に分割されてしまう。加工を行う場所により、切れ目のない加工を行うことは困難となる場合がある。各加工範囲の中心点を任意の位置に設定することにより常に加工範囲の中心で加工を行うことが可能となり分割のない加工が可能となる。
【0026】
また、図5で示すガルバノスキャナ本体を自走させながら加工を行う事により同様に分割のない加工を行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
上記の機構を持つガルバノスキャナを搭載したレーザ加工機は、切断、穴あけ、溶接、印字、刻印、熱処理等の加工を行うことが可能であると思われる。
【0028】
加工範囲の制限がないことにより、ガルバノスキャナによる加工が困難であった大型対象物の加工が可能になると思われる。
【0029】
ガルバノスキャナ本体が移動する方向に対し直交方向に流れるロール状の加工対象物をロールの送りを停止させることなく連続でレーザ加工が可能となる。
【符号の説明】
【0030】
1 レーザ発振器
11a ガルバノミラー1
11b ガルバノミラー2
11c 集光レンズ
12 レーザ操作範囲(加工範囲)
2 レーザ装置
20 ガルバノスキャナ
2a ガルバノスキャナ移動範囲
2b ガルバノスキャナ移動範囲
23 ガルバノスキャナの自走を伴う加工
24 レーザ光
25 ガルバノスキャナ自走により拡大した加工範囲
26 加工範囲の中心点
210 第1ボールねじ
211 第2ボールねじ
220 第1駆動装置
221 第2駆動装置
30 折り返しミラー
31 折り返しミラー
32 折り返しミラー
a 折り返しユニット座標
b ガルバノスキャナ座標
C ガルバノスキャナ位置C
D ガルバノスキャナ位置D
L レーザ光路長1
2L レーザ光路長2
L−a レーザ光路長調整座標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ装置に装着されたガルバノスキャナ本体をレーザ装置内で自走させることにより、ガルバノスキャナ単体で可能なレーザ光の走査範囲を大きく拡大し、同時にレーザ加工範囲を大幅に拡大することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
レーザ装置内に装備された移動、位置決め装置上にガルバノスキャナ及びレーザ導光装置を備え、高速に前後または左右方向に水平移動可能な機構を備えたレーザ加工装置。
【請求項3】
ガルバノスキャナ単体の走査範囲をガルバノスキャナ本体が自走することで、より広範囲においてレーザ加工を行うことができ、単一のソフトウエアにより同時にすべての制御を可能とする特徴を備えたレーザ加工装置。
【請求項4】
前後または左右方向にガルバノスキャナが水平移動する際、ガルバノスキャナ本体を指定の位置に静止させた状態において、スキャナミラーのみでレーザ光を走査させ加工を行う方法に加え、ガルバノスキャナ本体を移動させながらスキャナミラーを制御することにより、移動範囲全体を分割することなくレーザ加工を行なう事が可能な特徴を備えたレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−240403(P2011−240403A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130472(P2010−130472)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(310011114)株式会社アフレアー (1)
【Fターム(参考)】