説明

自走式ハツリ装置

【課題】ハツリ対象のコンクリート壁面等の物体面に吸着して自走可能であり、ハツリ対象物体面を深くはつる場合でも、該物体面への吸着状態を維持してハツリ作業を効率よく行える自走式ハツリ装置。
【解決手段】ハツリ装置100は自走部Aと、これに連結され、自走部Aにより搬送されるハツリ部Bとを含んでいる。自走部Aはハツリ対象物体面に吸着可能の吸着器1と、吸着器1が搭載され、吸着器1が面に吸着する状態で面上を走行可能の吸着器台車2とを含んでおり、ハツリ部Bは、面にハツリ処理を施す水噴射ハツリ器3と、ハツリ器3が搭載され、ハツリ器3が面をハツリ処理可能な状態で面上を走行可能の水噴射ハツリ器台車4とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はつり対象のコンクリート壁面等の物体面をはつり処理するためのはつり装置、特に自走式のはつり装置に関する。
以下の説明及び特許請求の範囲においては、「はつり対象」、「はつり処理」、「はつり装置」等における「はつり」即ち「削り」を「ハツリ」と記載する。
【背景技術】
【0002】
近年、築造から数十年が経過し、コンクリート表面の劣化が確認されているコンクリート構造物が多々ある。
【0003】
このような経年劣化したコンクリート構造物については、スクラップビルドの考え方に沿って解体し、築造しなおすことが行われてきたが、現在では、このようなスクラップビルドの考え方から、補修、補強等し、管理して、コンクリート構造物の寿命を延ばす考え方に変わってきている。
【0004】
例えば、劣化したコンクリート壁面の補修についてみると、足場をくみ、作業者がブレーカーや水ジエット装置を手で支え持って劣化したコンクリート部分を除去し、その後に修復することが行われている。
【0005】
ブレーカーや水ジエット装置を手で支え持って劣化したコンクリート部分を除去する作業は、コンクリート壁面等の処理対象物体面が立ち上がっているようなときには困難を伴うが、この点については、例えば、特開2003−205873号公報において、車輪付きケーシングの内側に負圧領域を形成し、該車輪付きケーシングをコンクリート壁面等の物体表面に吸着させつつ移動させることができる吸着移動装置が提案されている。
【0006】
この吸着移動装置によると、ケーシング内の負圧領域に高圧水噴射ノズルを設けて、ハツリ対象のコンクリート壁面等の物体面に吸着移動させつつ該面をハツリ処理することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−205873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし劣化したコンクリート壁面等の補修、補強等のために劣化したコンクリート壁面等のハツリ処理を行う場合、足場をくみ、その足場を使って作業者がブレーカーや水ジエット装置を手で支え持って劣化した部分を除去することは、足場の設置撤去費用が嵩むうえ、ハツリガラやジエット水の飛散防止対策費が必要となる。また、高所作業では作業員の負担は大きく、作業効率も悪くなる。
【0009】
これに対し、特開2003−205873号公報に記載されているような吸着移動装置に水噴射ハツリ手段を搭載したハツリ装置を利用する場合には、該吸着移動装置に車輪駆動装置を搭載しておく等により自走式とすることで、コンクリート壁面等のハツリ処理を行うにあたって足場の設置撤去費用を抑制でき、また、高所作業もそのハツリ装置に効率よく実施させることができる、と考えれられる。
【0010】
ところが、そのような自走式ハツリ装置では、ハツリ対象物体面を深くはつらなければならない場合、その深いハツリ処理により、該ハツリ対象面に吸着すべきケーシングの周縁部と該ハツリ対象面との間に大きい隙間ができ、そのためハツリ対象面への吸着力が低下して自走式ハツリ装置が落下してしまう。
【0011】
そこで本発明は、ハツリ対象のコンクリート壁面等の物体面に吸着して目標ハツリ対象部位へ自走可能であり、ハツリ対象物体面を深くはつる場合でも、該物体面への吸着状態を維持してハツリ作業を効率よく行える自走式ハツリ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
自走部と、前記自走部に連結され、前記自走部により搬送されるハツリ部とを含んでおり、
前記自走部は、ハツリ対象物体面に吸着可能の吸着器と、前記吸着器が搭載され、前記吸着器が前記ハツリ対象物体面に吸着する状態で前記ハツリ対象物体面上を自走可能の吸着器台車とを含んでおり、
前記ハツリ部は、前記ハツリ対象物体面に水噴射によりハツリ処理を施す水噴射ハツリ器と、前記水噴射ハツリ器が搭載され、前記水噴射ハツリ器が前記ハツリ対象物体面をハツリ処理可能な状態で前記ハツリ対象物体面上を走行可能の水噴射ハツリ器台車とを含んでいる自走式ハツリ装置を提供する。
【0013】
本発明に係る自走式ハツリ装置によると、自走部の吸着器をハツリ対象物体面に吸着させつつ該吸着器を搭載した吸着器台車を自走させることで、該自走部に連結されたハツリ部、さらに言えば該ハツリ部の水噴射ハツリ器を目標のハツリ対象部位へ移動させ、該水噴射ハツリ器から水噴射して効率よくハツリ処理を行える。
【0014】
吸着器を搭載した自走部は、ハツリ部と連結されているものの、ハツリ部から分離した態様で形成されているので、ハツリ部の水噴射ハツリ器がハツリ対象物体面を深くはつる(削る)場合でも、吸着器はハツリ対象物体面への吸着状態を維持して、自走式はつり装置全体をハツリ対象物体面上に止まらせることができる。
【0015】
本発明に係る自走式ハツリ装置における前記水噴射ハツリ器は、前記ハツリ対象物体面に向け水噴射するための水噴射ノズルと、前記水噴射ノズルが前記ハツリ対象物体面に向け水噴射可能な状態で前記ハツリ対象物体面に向け開口状態で前記水噴射ノズルを覆うハツリガラ回収カバーとを含むものとすることができる。
【0016】
ハツリガラ回収カバーには、ハツリガラや水を前記ハツリガラ回収カバー内から吸引除去するためのハツリガラ吸引装置に接続可能の吸引口部を設けておくことができる。このような吸引口部を吸引ダクトあるはパイプでハツリガラ吸引装置に接続することで、水噴射ノズルからの水噴射によるハツリ処理に伴って発生するハツリガラ及び水をハツリガラ回収カバーから回収して、それらの周囲飛散や飛散による周囲汚染を抑制することができる。
【0017】
前記水噴射ハツリ器は、水噴射ノズルを一つ有するだけのものでもよいが、複数有するものでもよい。前記水噴射ハツリ器は、例えば、前記水噴射ノズルを両端部にそれぞれ支持するノズル支持アームと、前記ノズル支持アームを前記両端部の水噴射ノズル間の中央部で支持する軸部材と、前記ノズル支持アームを前記軸部材を中心に回転させて前記水噴射ノズルを円軌道に沿って走らせるノズル駆動装置とを含むものとすることができる。
【0018】
この場合、該ノズル駆動装置として、前記自走部の自走に伴う前記水噴射ハツリ器の進行方向の前記円軌道直径方向線と該円軌道との交差部位での前記水噴射ノズルの移動周速V1と前記水噴射ハツリ器の進行方向を横切る方向の前記円軌道の直径方向線と該円軌道との交差部位での前記水噴射ノズルの移動周速V2とがV2>V1の関係を満足させるように前記ノズル支持アームを前記軸部材を中心に回転させるものを採用してもよい。
【0019】
このようにV2>V1の関係を満足させることで、前記水噴射ハツリ器の進行方向を横切る方向の前記円軌道の直径方向線と該円軌道との交差部位が集中的に深くはつられてしまい、ハツリ深さにむらがでる、ということを抑制できる。
【0020】
ノズル駆動装置は、例えば回転モータと、該モータの回転をノズル支持アーム回転軸に伝える伝動機構とを含み、該伝動機構は前記ノズル支持アームを前記V2>V1の関係を満足させるように不等速回転させる不等速回転伝達機構を含むものとすることができる。
【0021】
そのような 不等速回転伝達機構として、例えば、日本図学会東北支部講演学会論文2005年10月22日仙台市に掲載されている「楕円系の歯車の設計 いわき明星大学科学技術学部」の「1.緒言」に記載の「歯車の回転伝達とカムの不等速転運動の二つの動きを同時にもつ機構学的特性を有する不等速な回転伝達機構」を利用できる。
【0022】
前記自走部が自走するための前記吸着器台車の車輪及びその駆動に関しては、例えば、前記吸着器台車が前記水噴射ハツリ器台車側及びそれとは反対側のそれぞれに車輪を有しているとともに該各側の車輪を互いに独立駆動するための各側の車輪用の車輪駆動装置を有している場合を例示できる。
【0023】
ハツリ部は自走部に連結されているので、前記水噴射ハツリ器台車は前記吸着器台車側とは反対側に車輪を有している場合を例示できる。
【0024】
いずれにしても、前記吸着器台車が前記水噴射ハツリ器台車側及びそれとは反対側のそれぞれに車輪を有しているとともに該各側の車輪を互いに独立駆動するための各側の車輪用の車輪駆動装置を有している場合には、前記吸着器台車の両側の車輪をそれぞれ独立して駆動することで、自走部及びそれに連結されたハツリ部を所望の方向へ自走させることができ、高所のハツリ対象物体面へも自走させて向かわせることができ、それだけ効率よくはつり処理を行える。
【0025】
より円滑にはつり装置全体を自走させるために、前記水噴射ハツリ器台車の前記吸着器台車側とは反対側の車輪の少なくとも一つを駆動するようにしてもよい。例えば、前記水噴射ハツリ器台車の前記吸着器台車側とは反対側の車輪の少なくとも一つを前記吸着器台車の前記水噴射ハツリ器台車側の車輪の少なくとも一つとユニバーサルジョイント及び伸縮自在継ぎ手を含む継ぎ手装置で連結して、自走部側から駆動するようにしてもよい。
【0026】
また、水噴射ハツリ器をハツリ対象物体面に正しく向かわせてハツリ処理をより確実化するために次のようにしてもよい。
すなわち、前記水噴射ハツリ器台車を前記吸着器台車に対して並行に配置し、前記吸着器台車にヒンジ連結するとともに、前記水噴射ハツリ器台車と前記吸着器台車とにダンパーを渡し設ける。
【0027】
そして、前記ダンパーは、前記水噴射ハツリ器台車及び前記吸着器台車が前記ハツリ対象物体表面上に配置され、前記吸着器が未だ該ハツリ対象物体表面に吸着していない状態では、前記水噴射ハツリ器台車と前記吸着器台車とを両者の前記ヒンジ連結部を該ハツリ対象物体表面から浮き上がらせるように該両者を互いに屈曲させ、前記吸着器が前記ハツリ対象物体面に吸着する状態では前記水噴射ハツリ器が前記ハツリ対象物体面をハツリ処理可能な姿勢をとるように前記水噴射ハツリ器台車が前記ハツリ対象物体面に向け押さえ込まれることを許すダンパーとするのである。
【0028】
なお、ここでの「ダンパー」は油圧式等のショックアブソーバタイプのダンパのほか、ヒンジ軸を中心に巻かれて一端部が吸着器台車に、他端部が水噴射ハツリ器台車に連結された巻きバネのようなバネタイプ等のダンパーでもよい。
【0029】
前記吸着器としては、前記吸着器台車が前記ハツリ対象物体面に走行可能に配置されることで前記ハツリ対象物体面に向け開口した姿勢をとる吸引チャンバと、前記吸引チャンバの開口縁に沿って設けられた弾性シールリングとを含んでおり、前記吸引チャンバには、吸引ポンプ装置に接続するための吸引口部が形成されているものを例示できる。
【0030】
この吸着器によると、前記吸引チャンバの吸引口部を吸引ポンプ装置にダクトあるいはパイプで接続して、該吸引チャンバ内から排気して負圧を形成し、それによりはつり対象物体面に吸着させることができる。
【0031】
本発明に係る自走式ハツリ装置によるハツリ対象物体面としては、代表的には各種コンクリート構造物のコンクリート壁面を挙げることができるが、それに限定されるものではなく、本発明に係る自走式ハツリ装置はハツリ処理、或いはハツリ洗浄処理が要求される各種分野で利用できる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように本発明によると、ハツリ対象のコンクリート壁面等の物体面に吸着して自走可能であり、ハツリ対象物体面を深くはつる場合でも、該物体面への吸着状態を維持してハツリ作業を効率よく行える自走式ハツリ装置を提供することを課題とする。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る自走式ハツリ装置の1例の平面図である。
【図2】図1に示す自走式ハツリ装置を図1において下側から見て一部を示す図である。
【図3】図1に示す自走式ハツリ装置の自走部の図1において左側の車輪とその駆動装置を示す図である。
【図4】図1に示す自走式ハツリ装置の自走部の図1において右側の車輪とその駆動装置を示す図である。
【図5】吸着器の断面図である。
【図6】水噴射ハツリ器の断面図である。
【図7】水噴射ハツリ器のハツリガラ回収カバー及び水噴射ノズルを下方から見た図である。
【図8】自走部とハツリ部とがダンパー力で互いに相手方に対して屈曲し、ハツリ対象物体面から一部浮き上がっている様子を示す図である。
【図9】水噴射ノズル支持アームが等速回転するとハツリムラが生じることを示す図である。
【図10】各車輪駆動装置のモータ、吸引ポンプ装置及びハツリガラ吸引装置等の制御回路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明に係る自走式ハツリ装置の全体平面図である。
図1に示す自走式ハツリ装置100は自走部Aとこれに連結されたハツリ部Bとを含んでいる。
【0035】
自走部Aはハツリ対象物体面S(図2参照)に吸着可能の吸着器1と、吸着器1が搭載された吸着器台車2とを含んでいる。
【0036】
吸着器台車2は図1に示すように平行な一対のロッド状の縦部材21、22とこれらに渡し設けられたロッド状の横部材23、24とからなる四角形状のフレーム20に車輪を設けたものである。
【0037】
車輪については、図1並びに図3及び図4に示すように、図1において左側の縦部材21の外側面に大径車輪211及び小径車輪212が設けられており、右側の縦部材22の外側面に大径車輪221及び小径車輪222が設けられている。大径車輪211、221は同径であり、回転軸線が一致するように縦部材に設けられている。小径車輪212、222は同径であり、回転軸線が一致するように、且つ、回転軸線が大径車輪211、221の回転軸線と平行となるように縦部材に設けられている。
【0038】
図1において左側の縦部材21には電動モータM1が搭載されており、このモータの回転は、図1及び図3に示すように、チエーン伝動機構210により左側の車輪211、212に伝達される。
【0039】
図1において右側の縦部材22には電動モータM2が搭載されており、このモータの回転は、図1及び図4に示すように、チエーン伝動機構220により右側の車輪221、222に伝達される。
【0040】
図10に示すように、モータM1、M2はそれぞれ制御部Contに接続されている。 モータM1は制御部Contに設けられたモータスイッチSW1の操作により正転又は逆転或いは停止させることができる。
モータM2も制御部Contに設けられたモータスイッチSW2の操作により正転又は逆転或いは停止させることができる。
このように車輪211、212と車輪221、222をそれぞれ独立して駆動停止できることで自走部Aを前後左右に所望方向に進行、後退、停止させることができる。また、それに伴いハツリ部Bを同様に搬送することができる。
【0041】
吸着器1は、図1、図2及び図5に示すように、カップ状の吸引チャンバ11と、該吸引チャンバの開口部フランジ111下面に貼着された弾性シールリング12とを含むものである。
【0042】
吸引チャンバ11は、図1、図2に示すように左右一対の支持部材13、14により台車2の縦部材21、22に取り付けられ、保持されている。
【0043】
吸引チャンバ11は、吸着器台車2がその車輪がハツリ対象物体面Sに接触するように配置されて該面上を走行可能な状態において、面Sに向け開口した姿勢をとり、またこのとき、弾性シールリング12が物体面Sに臨む。
【0044】
吸引チャンバ11の周側壁に吸引口部112が設けられており、この吸引口部112をフレキシブルのダクト或いはパイプD1にて吸引ポンプ装置P1(図10参照)に接続することで、吸引チャンバ11から排気して該チャンバ内を負圧に設定し、物体面Sに吸着させることができる。吸引ポンプ装置P1は制御部Contに設けたスイッチSP1でオンオフ操作できる。
【0045】
吸引チャンバ11の開口部フランジに貼着された弾性シールリング12は外力が作用しないとき、前記4個の車輪211、212、221、222に共通の接面より図2において下方へ若干突出している。そして、吸引チャンバ11が物体面Sに吸着するとき、弾性シールリング12は圧縮される。弾性シールリング12は物体面Sに摺動可能なものであり、それとは限定されないがここではウレタンゴムで形成されている。
【0046】
なお、図1において15はチャンバ11内から排気して負圧に設定するとき、該チャンバ内圧を所望のものに調整するための調圧弁である。
【0047】
ハツリ部Bは、ハツリ対象物体面Sに水噴射によりハツリ処理を施す水噴射ハツリ器3と、水噴射ハツリ器3が搭載された水噴射ハツリ器台車4とを含んでいる。
【0048】
水噴射ハツリ器台車4は、図1に示すようにロッド状の縦部材41と縦部材41から自走部Aの台車2へ向かって延びる横部材42、43とを含んでいる。縦部材41は台車2の縦部材22と並行に配置されている。一方の横部材42はヒンジ421にて台車2の縦部材22に連結さており、他方の横部材43はヒンジ431にて縦部材22に連結されている。ヒンジ421、431のヒンジ軸の中心軸線は一致している。
【0049】
縦部材41の外面には車輪411、412が取り付けられている。車輪411は台車2の車輪221に対応させてあり、車輪412は台車2の車輪222に対応させてある。
車輪412は回転自在のものであるが、車輪411は継ぎ手装置44を介して車輪221から回転駆動力が伝達される。
【0050】
継ぎ手装置44は図1において左右のユニバーサルジョイント441、442と、これらをつなぐ、スプライン機構利用の伸縮自在継ぎ手443とからなるものである。
台車2にヒンジ連結された台車4は台車2が自走するとき、自身の車輪411も駆動されることで円滑に移動することができる。
【0051】
水噴射ハツリ器3は、図1、図2及び図6に示すように、ハツリ対象物体面Sに向け水噴射するための2本の水噴射ノズル31と、これを覆うハツリガラ回収カバー32とを含んでいる。ハツリガラ回収カバー32は、水噴射ノズル31が図2に示すようにハツリ対象物体面Sに向け水噴射可能な状態で面Sに向け開口する状態で水噴射ノズル31を覆うカップ状のカバーである。
【0052】
カバー32は一方ではヒンジ38(図1、図2参照)を介して台車2の縦部材22に連結支持されており、他方では支持部材39にて台車4の縦部材41に支持されている。
ヒンジ38のヒンジ軸381(図2参照)は台車4の横部材42、43を台車2の縦部材22に連結しているヒンジ421、431のヒンジ軸と中心軸線が一致している。
【0053】
そして、必ずしも設ける必要はないが、ここでは、図1に示すように台車2と台車4とに油圧式ショックアブソーバタイプのダンパー5が渡し設けられている。
ダンパー5は一端部51が台車2にヒンジ連結されているとともに他端部52が台車4にヒンジ連結されている。
ダンパー5の個数は一つに限定されるものではなく、例えば、図1において台車2、4の下側部分にもダンパー5を渡し設けるなどしてもよい。
【0054】
自走式ハツリ装置100がハツリ対象物体面S上に配置され、しかし自走部Aの吸着器1がハツリ対象物体面Sに吸着していない状態では、図8に示すように、ダンパー5により自走部Aとハツリ部Bとは互いに相手方に対して屈曲した姿勢をとり、両者のヒンジ連結部分421、431、38が面Sから若干浮き上がった状態となる。
【0055】
ここで吸着器1を面Sに吸着させると、台車2の台車4側が面Sへ近づき、その動作により台車4の台車2側もダンパー5に抗して面S側へ押さえこまれる。これにより、ハツリ部Bの水噴射ハツリ器3を台車縦部材41側での浮き上がりを防止する状態でより確実に全体的にハツリ対象物体面Sをハツリ処理する姿勢に置くことができる。
【0056】
ハツリガラ回収カバー32には周側壁に吸引口部321が設けられているとともに、天井壁の周縁に近い部位に複数の、小さい吸気孔32hが円状に等中心角度間隔で形成されている。
【0057】
吸引口部321を吸引ポンプを含むハツリガラ吸引装置P2(図10参照)にフレキシブルなダクト或いはパイプD2を介して接続することで、カバー32内のハツリガラや水をカバー32内から吸引除去することができる。このとき外気が通気孔32hからカバー32内へ吸い込まれ、水やハツリガラの吸引装置P2への吸引が円滑になされる。ハツリガラ吸引装置P2は制御部Contに設けたスイッチSP2でオンオフ操作できる。
【0058】
図1においてVはカバー32内から排気して負圧に設定するとき、該チャンバ内圧を所望のものに調整するための調圧弁である。
【0059】
カバー32はその開口部フランジ321下面に、通気可能であるがカバー32内のハツリガラや水の周囲飛散を抑制するリング状配置のブラシ322を有している。ブラシ322はハツリ対象物体面Sに向け突出するブラシ毛からなるものであり、面Sの清掃にも寄与する。
【0060】
2本の水噴射ノズル31は回収カバー32内に配置されたノズル支持アーム33の両端部に支持されている。ノズル支持アーム33の中央部には回転軸34が立設されており、回転軸34はカバー32の天井壁を貫通してカバー上方へ突出している。回転軸34はカバー天井壁に設けた軸受け部35にて回転可能に支持されている。
【0061】
図6に示すように回転軸34及びノズル支持アーム33には水噴射ノズル31に連通する通水路が形成されており、回転軸34を図2及び図10に示すようにフレキシブル送水管D3を介して高圧水供給装置JWに接続することで水噴射ノズル31からハツリ処理のための水噴射を行える。高圧水供給装置JWは制御部Contに設けたスイッチSJWによりオンオフ操作できる。
【0062】
カバー32の天井壁にはアーム320が片持ち支持されており、このアーム320は自走部Aの上方へ延在している。
【0063】
アーム320には電動モータM3、モータM3の等速回転を不等速回転に変換してチエーン伝動機構36に伝達する不等速回転伝達機構37が搭載されている。チエーン伝動機構36もアーム320に搭載されている。チエーン伝動機構36が回転することで前記回転軸34及びノズル支持アーム33が回され、水噴射ノズル31が円軌道を描くように回される。これらモータM3、不等速回転伝達機構37、チエーン伝動機構36、回転軸34、ノズル支持アーム33等はノズル駆動装置を構成している。
モータM3は図10に示すように制御部ContにおけるモータスイッチSW3にてオンオフ操作できる。
【0064】
ここで、図9に示すように、水噴射ノズル31の円軌道と水噴射ハツリ器3の進行方向αと同方向の水噴射ノズル円軌道直径方向線L1とが交差する部位をXとし、水噴射ノズル31の円軌道と水噴射ハツリ器3の進行方向αを横切る方向と同方向の水噴射ノズル円軌道直径方向線L2とが交差する部位をYとする。
【0065】
もし水噴射ノズル31が等速円運動をすると、図9に示すように、部位Yの方が部位Xより短時間間隔で水噴射ノズル31が通過し、部位Yの方が部位Xより深くはつられ、ハツリ対象物体面Sにおいてはつり深さにムラが生じ、好ましくない。
【0066】
そこで、自走式ハツリ装置100では、部位Yを通過する水噴射ノズル31の移動周速V2が部位Xを通過する水噴射ノズル31の移動周速V1より大きくなるように、換言すればV2>V1となるように水噴射ノズル31を不等速円運動させる。このために、前記不等速回転伝達機構37を採用してV2>V1の関係で水噴射ノズル31が円運動するようにしている。
【0067】
不等速回転伝達機構37は、それとは限定されないが、例えば、既述の日本図学会東北支部講演学会論文2005年10月22日仙台市掲載の「歯車の回転伝達とカムの不等速転運動の二つの動きを同時にもつ機構学的特性を有する不等速な回転伝達機構」を利用した機構、ここでは同論文に掲載の、長半軸又は短半軸の本数を楕円葉数としたとき、二葉楕円系歯車の対偶による不等速円運動機構を利用するものを採用できる。
【0068】
以上説明した自走式ハツリ装置100によるハツリ対象物体面Sはコンクリート壁面に限定されるものではないが、ハツリ対象面Sがコンクリート壁面である場合を例にとって装置100によるハツリ処理について説明する。
【0069】
自走式ハツリ装置100によると、この装置100をハツリ対象コンクリート壁面S上に配置し、自走部Aの吸着器1の吸引チャンバ11にフレキシブルダクト等で接続された吸引ポンプ装置P1(図10)を制御部Contからオン操作することでチャンバ11内から排気して負圧に設定し、それにより吸着器1がコンクリート壁面Sに吸着し、且つ、吸着器1を搭載した台車2が面Sに沿って移動可能に吸着する。
【0070】
吸着器1がコンクリート壁面Sに吸着するにつれ、ハツリ部Bの台車4がダンパー5に抗して面Sへ向け押さえ込まれ、それに伴い水噴射ハツリ器3が面Sをハツリ処理できる姿勢に置かれる。
【0071】
かくして面Sに自走可能に吸着したハツリ装置100を台車2に搭載されたモータM1、M2を制御部Contから正転逆転又は停止操作して、ハツリ装置100を前後左右に所望方向へ動かし、また、必要に応じて高所へも動かし、それにより台車4上の水噴射ハツリ器3を目標ハツリ対象部位へ向け移動させることができる。そして、制御部Contから高圧水発生装置JWを動作させ、水噴射ノズル31から水噴射させて効率よくハツリ処理できる。
【0072】
このハツリ処理においては、制御部Contにおいてノズル駆動装置のモータM3がオン操作され、それにより水噴射ノズル31は不等速円運動し、ハツリムラが抑制される状態で面Sをハツリ、洗浄処理できる。
【0073】
吸着器1を搭載した自走部Aは、ハツリ部Bと連結されているものの、ハツリ部Bから分離した態様で形成されているので、ハツリ部Bの水噴射ハツリ器3がハツリ対象面Sを深くはつる(削る)場合でも、吸着器1はハツリ対象面Sへの吸着状態を維持して、自走式はつり装置100全体をハツリ対象物体面S上に止まらせることができる。また、面Sに段差があったり、気泡がある場合でも、安定して自走させることができる。
【0074】
ハツリ処理に伴い水噴射ハツリ器3のハツリガラ回収カバー32内に発生するハツリガラ及び噴射使用済の水は、制御部Contにおいてハツリガラ吸引除去装置P2を動作させることで、カバー32に接続されたフレキシブルダクト等を介して吸引回収でき、カバー開口縁部のブラシ322とともにハツリガラや水の周囲飛散を抑制できる。
【0075】
なお、図1、図3、図4に示されている6はハツリ装置100を安全のためワイヤ等で吊下げ可能とするための吊下げ部材を連結する部分であり、7はハツリ装置100を地上等に立て置くための置き台であるが、例えばワイヤ等で吊り下げたハツリ装置100を必要応じて手動で移動させる等のためのハンドルとしても利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明はコンクリート壁面等をハツリ処理できる自走式ハツリ装置を提供することに利用できる。
【符号の説明】
【0077】
100 自走式ハツリ装置
A 自走部
1 吸着器
11 吸引チャンバ
111 吸引チャンバの開口部フランジ
112 吸引口部
12 弾性シールリング
15 調圧弁
2 吸着器台車
211、212、221、222 車輪
M1、M2 モータ
210、220 チエーン伝動機構
B ハツリ部
3 水噴射ハツリ器
31 水噴射ノズル
32 ハツリガラ回収カバー
321 吸引口部
V 調圧弁
322 ブラシ
320 アーム
33 ノズル支持アーム
34 回転軸
35 軸受け部材
36 チエーン伝動機構
37 不等速回転伝達機構
JW 高圧水供給装置
M3 モータ
38 ヒンジ
4 水噴射ハツリ器台車
421、431 ヒンジ
411、412 車輪
44 継ぎ手装置
Cont 制御部
P1 吸引ポンプ装置
P2 ハツリガラ吸引装置
5 ダンパー
S ハツリ対象物体面S

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走部と、前記自走部に連結され、前記自走部により搬送されるハツリ部とを含んでおり、
前記自走部は、ハツリ対象物体面に吸着可能の吸着器と、前記吸着器が搭載され、前記吸着器が前記ハツリ対象物体面に吸着する状態で前記ハツリ対象物体面上を自走可能の吸着器台車とを含んでおり、
前記ハツリ部は、前記ハツリ対象物体面に水噴射によりハツリ処理を施す水噴射ハツリ器と、前記水噴射ハツリ器が搭載され、前記水噴射ハツリ器が前記ハツリ対象物体面をハツリ処理可能な状態で前記ハツリ対象物体面上を走行可能の水噴射ハツリ器台車とを含んでいることを特徴とする自走式ハツリ装置。
【請求項2】
前記水噴射ハツリ器は、前記ハツリ対象物体面に向け水噴射するための水噴射ノズルと、前記水噴射ノズルが前記ハツリ対象物体面に向け水噴射可能な状態で前記ハツリ対象物体面に向け開口状態で前記水噴射ノズルを覆うハツリガラ回収カバーとを含んでおり、前記ハツリガラ回収カバーは、ハツリガラを前記ハツリガラ回収カバー内から吸引除去するためのハツリガラ吸引装置に接続可能の吸引口部を備えている請求項1記載の自走式ハリ装置。
【請求項3】
前記水噴射ハツリ器は、前記水噴射ノズルを両端部にそれぞれ支持するノズル支持アームと、前記ノズル支持アームを前記両端部の水噴射ノズル間の中央部で支持する軸部材と、前記ノズル支持アームを前記軸部材を中心に回転させて前記水噴射ノズルを円軌道に沿って走らせるノズル駆動装置とを含んでおり、前記ノズル駆動装置は、前記自走部の自走に伴う前記水噴射ハツリ器の進行方向の前記円軌道直径方向線と該円軌道との交差部位での前記水噴射ノズルの移動周速V1と前記水噴射ハツリ器の進行方向を横切る方向の前記円軌道の直径方向線と該円軌道との交差部位での前記水噴射ノズルの移動周速V2とがV2>V1の関係を満足させるように前記ノズル支持アームを前記軸部材を中心に回転させる請求項2記載の自走式ハツリ装置。
【請求項4】
前記吸着器台車は前記水噴射ハツリ器台車側及びそれとは反対側のそれぞれに車輪を有しているとともに該各側の車輪を互いに独立駆動するための各側の車輪用の車輪駆動装置を有しており、前記水噴射ハツリ器台車は前記吸着器台車側とは反対側に車輪を有している請求項1、2又は3記載の自走式ハツリ装置。
【請求項5】
前記水噴射ハツリ器台車の前記吸着器台車側とは反対側の車輪の少なくとも一つは前記吸着器台車の前記水噴射ハツリ器台車側の車輪の少なくとも一つとユニバーサルジョイント及び伸縮自在継ぎ手を含む継ぎ手装置で連結されている請求項4記載の自走式ハツリ装置。
【請求項6】
前記水噴射ハツリ器台車は前記吸着器台車に対して並行に配置され、前記吸着器台車にヒンジ連結されているとともに、前記水噴射ハツリ器台車と前記吸着器台車とにダンパーが渡し設けられており、前記ダンパーは、前記水噴射ハツリ器台車及び前記吸着器台車が前記ハツリ対象物体表面上に配置され、前記吸着器が未だ該ハツリ対象物体表面に吸着していない状態では、前記水噴射ハツリ器台車と前記吸着器台車とを両者の前記ヒンジ連結部を該ハツリ対象物体表面から浮き上がらせるように該両者を互いに屈曲させ、前記吸着器が前記ハツリ対象物体面に吸着する状態では前記水噴射ハツリ器が前記ハツリ対象物体面をハツリ処理可能な姿勢をとるように前記水噴射ハツリ器台車が前記ハツリ対象物体面に向け押さえ込まれることを許すダンパーである請求項1から5のいずれか1項に記載の自走式ハツリ装置。
【請求項7】
前記吸着器は、前記吸着器台車が前記ハツリ対象物体面に走行可能に配置されることで前記ハツリ対象物体面に向け開口した姿勢をとる吸引チャンバと、前記吸引チャンバの開口縁に沿って設けられた弾性シールリングとを含んでおり、前記吸引チャンバには、吸引ポンプ装置に接続するための吸引口部が形成されている請求項1から6のいずれか1項に記載の自走式ハツリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−11485(P2012−11485A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148983(P2010−148983)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(304038149)村本建設株式会社 (11)
【出願人】(591214804)株式会社松村組 (14)
【出願人】(507157676)株式会社クボタ工建 (8)
【出願人】(594186555)馬淵建設株式会社 (7)
【出願人】(510181909)株式会社久野製作所 (1)
【出願人】(390035356)有限会社浦上技術研究所 (3)
【Fターム(参考)】