説明

自走式電線点検装置

【課題】電線に設けられた障害物を、自走力で容易に乗り越えることができる自走式電線点検装置を提供する。
【解決手段】鼓状の回転体12を備え、回転体12の環状溝部14を電線Aに係合させて、自走力による回転体12の回転により障害物を有する電線上を滑走しながら電線Aの状態を点検する自走式電線点検装置である。回転体12外周部に、障害物20を乗り越えるために必要な自走力を回転体12から障害物に伝達するグリップ部材15を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空配設された電線(例えば送電線)上を滑走しながら、電線の状態を点検する自走式の電線点検装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送電線などの架空配設された電線は、経年劣化により外部損傷や内部腐食が生じるため、定期的に点検する必要がある。従来、このような送電線の点検は、人が送電線に乗って行っていた。しかし、人による点検作業は、危険を伴う上、送電を一時ストップする必要があるため作業効率が悪い。このような事情から、送電線上を走行しながら送電線の状態を点検する自走式の電線点検装置が開発されている(例えば特許文献1)。特許文献1の電線点検装置は、架空電線上に乗る回転体(プーリ)と、電線の損傷等の異常を検出する電線点検部とを有している。この電線点検装置は、鉄塔から電線を走行して、電線上を走行しつつ電線の点検を行い、点検が終了すると再び鉄塔へ戻る。このとき、電線点検装置は自動的にバランスを調整しながら電線上を走行する。
【0003】
特許文献1の電線点検装置は、1相あたり4本の電線が設置されている送電線を点検するものである。すなわち、この送電線は、水平方向に平行に2本配置された一対の電線が、上下に配設されたものである。電線点検装置は、水平方向に配置された一対の電線の幅方向に延びる2本のプーリ回転軸と、各プーリ回転軸に2個ずつ取り付けられたプーリと、2本のプーリ回転軸を連結する連結アームとを有する。プーリはプーリ回転軸に回転自在に取り付けられ、プーリ回転軸上で、上方の2本の電線間の幅と同じ分だけ幅方向に離隔して配される。各プーリ回転軸は、連結軸を介して連結アームの両端に取り付けられる。連結軸には、夫々モータが内蔵され、このモータを回転駆動することで、連結軸を中心に各プーリ回転軸を回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−220346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、1相が複数の(この場合、4本)の電線から構成されている場合、各電線が相互に接近するのを防止するために、金属製のスペーサが設けられている。すなわち、複数の電線が電磁力によって相互に吸着して導体間隔が狭くなると、電線が接触し、電線が損傷することがある。このため、電線に、所定のピッチでスペーサを設けることにより、各電線間隔を保持して間隔が狭くなるのを防止し、電線が損傷するのを防止している。
【0006】
電線点検装置が電線上を走行している途中に、前記したようなスペーサ等の障害物に到達した場合、プーリの回転トルクが小さいと、電線点検装置が障害物を乗り越えることができない。電線点検装置がこのような障害物を乗り越えるためには、モータを大型化したり、プーリを特殊な形状としたりする等して、トルクを大きくする必要がある。しかしながら、モータを大型化した場合は、電線点検装置全体が大型化したり、重量が大きくなったりする等して、逆に障害物を乗り越えにくくなる。また、プーリを特殊な形状とする場合には、加工コストが高くなる。さらには、電線点検装置が電線上を走行している間に、装置不具合(例えば、前方又は後方のモータのうち1台が不調となる場合)が発生すると、前方又は後方の2個のプーリで装置を走行させなければならず、トルク不足となって、障害物を乗り越えられない場合があった。装置が障害物を乗り越えられない場合には鉄塔まで戻ることができないため、作業員は、装置が障害物を乗り越えるための作業や、装置を取り除いたりする作業が必要となる。
【0007】
本発明の課題は、電線に設けられた障害物を、自走力で容易に乗り越えることができる自走式電線点検装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の自走式電線点検装置は、鼓状の回転体を備え、この回転体の環状溝部を電線に係合させて、自走力による前記回転体の回転により電線上を滑走しながら障害物を有する電線の状態を点検する自走式電線点検装置であって、前記回転体外周部に、前記障害物を乗り越えるために必要な前記自走力を回転体から障害物に伝達するグリップ部材を設けたものである。
【0009】
本発明の自走式電線点検装置では、回転体の少なくとも外周面にグリップ部材を設けているため、回転体の外周面の摩擦力を高めることができる。これにより、回転体のトルクを大きくすることができて、回転体が障害物に到達したときに、回転体は、障害物から滑り落ちたり、傾いたりすることなく、電線走行中の姿勢を維持しながら自走力で障害物上を走行することができる。
【0010】
前記構成において、前記グリップ部材は、前記回転体の少なくとも外周面に設けられる環状体とすることができる。また、前記グリップ部材は、環状の剛性体と、この剛性体の外周側に設けられる環状の弾性体との2層構造とすることができる。グリップ部材を、剛性体と弾性体との2層構造とすると、剛性体により回転体の外周面の剛性を維持しながら障害物が弾性体に食い込んで、回転体の外周面と障害物との接触面積が増し、回転体と障害物との密着が良くなる。この場合、前記剛性体をアルミニウム合金製とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回転体は、障害物に到達したときに、電線走行中の姿勢を維持しながら障害物上を自走力で走行することができ、従来の装置に設けられたモータを大型化することなく障害物を容易に乗り越えることができる。このように、既存の装置にグリップ部材を取り付けるだけでよいため、既存の装置を大幅に改造することなく、加工が容易なものとなる。
【0012】
グリップ部材を回転体の外周面に設けると、グリップ部材が直接障害物に当接することになり、効果的に回転体のトルクを大きくすることができる。特に、剛性体と弾性体との2層構造とすると、回転体の外周面の剛性維持と、回転体と障害物との密着性の向上とを図ることができ、障害物走行中の回転体の姿勢を安定して維持することができる。また、剛性体をアルミニウム合金製のリムにて構成すると、軽量なものとなり、障害物を乗り越え易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の自走式電線点検装置の電線走行時の簡略斜視図である。
【図2】本発明の自走式電線点検装置の電線走行時の簡略断面図である。
【図3】本発明の自走式電線点検装置を構成する車輪部であり、(a)は表面から見た斜視図、(b)は裏面から見た斜視図である。
【図4】本発明の自走式電線点検装置のスペーサ走行時の簡略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1に、本発明の一実施形態にかかる電線点検装置を4本の電線を並行に配設した送電線A(4導体A)の上に配置した状態を示す。電線は、平行に2本配置された上側の一対の電線A1、A1と、平行に配置された下側の一対の電線A2、A2とから構成されている。電線Aには、4本の電線の間隔を維持するための径間スペーサ20が所定間隔で設けられている。径間スペーサ20は、4本の電線の間隔を維持する枠体21と、4本の電線を夫々把持する4つの把持部22とで構成されている。
【0016】
本発明の電線点検装置は、上側の2本の電線A1、A1を点検しながら電線A1、A1上を滑走する滑走部10と、重心調整部30とを主に備える。尚、以下の説明において、鉛直方向を上下方向という。
【0017】
滑走部10は、幅方向に延びた前方の回転軸11a、及び後方の回転軸11bと、各回転軸11a、11bに2個ずつ取り付けられた前方の一対の回転体(プーリ)12a1、12a2、及び後方の一対の回転体(プーリ)12b1、12b2と、2本の回転軸11a、11bを連結する連結アーム14とを有する。プーリ12a1、12a2、12b1、12b2が回転軸11a、11bに回転自在に取り付けられる。各回転軸11a、11bには下方に延びる連結軸5が連結されており、連結軸5の内部には、回転軸11a、11bを、連結軸5を中心に回転駆動するモータ(図示省略)が設けられている。
【0018】
プーリ12は、図2及び図3(a)に示すように、内側から外側に向かって大径となるテーパ面を有する一対の車輪部13a、13bを有しており、図2に示すように、一対の車輪部13a、13bの間が環状溝部14となる鼓状となる。車輪部13a、13bの裏側(電線Aが当接しない側)は、図3(b)に示すように、周方向に沿って所定ピッチ(本実施形態では60°)で配設される6つの補強部材18が設けられている。環状溝部14の溝幅は、プーリ12の内径側では電線Aの直径よりも小さく、プーリ12の外周側では電線Aの直径よりも大きくなっている。これにより、電線Aが、一対の車輪部13a、13bのテーパ面間に挟まれることにより、車輪部13a、13bが電線Aに係合する。このとき、補強部材18にて、テーパ面が、電線Aと反対側に変形するのを防止している。
【0019】
プーリ12の外周面には、図2に示すように、グリップ部材15が設けられている。このグリップ部材15は、車輪部13a、13bの外周面に設けられる環状体である。このグリップ部材15は、剛性を有する環状の剛性体(リム)16と、この剛性体16の外周面に設けられて弾性を有する環状の弾性体17とで構成された2層構造となっている。剛性体16は、プーリ12の外周面がスペーサ20と接触しつつ、プーリ12が回転してスペーサ上を走行する際に変形しない剛性を有するものであり、その材質としては、特にアルミニウム合金製とするのが望ましい。弾性体17は、プーリ12の外周面がスペーサ20と接触しつつ、プーリ12が回転してスペーサ上を走行する際に変形し、その後復元する弾性力を有するものであり、その材質としては、例えば天然ゴム(NR)、合成天然ゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)等とするのが望ましい。本実施形態では、弾性体17は、天然ゴムにて構成されている。
【0020】
滑走部10には、図1に示すように、上側の電線A1の状態を点検するための点検部18が設けられる。図示例では、前方のプーリ回転軸11aの各プーリ12a1、12a2の幅方向両側から前方に延びた支持具19を取り付け、この支持具19を介してプーリ回転軸11aに点検部18が取り付けられる。点検部18は、例えばカメラで電線の状態を点検するものであり、その撮影データはバッテリーボックス34に設けられた記録部に記録される。支持具19はプーリ回転軸11aの外周面に回転可能に取り付けられ、プーリ回転軸11aを回転させることにより点検部18を上下に移動させることができる。図示例は、点検部18により電線A1を点検可能な状態を示しており、点検部18とスペーサ等の障害物との接触を回避する場合は、この状態から点検部18を上方へ移動させる。
【0021】
重心調整部30は、図1に示すように、連結アーム14に取付られた基軸27の下端部に設けられ、第1アーム31、第2アーム32、及びバッテリーボックス34とを有する。第1アーム31の一端は基軸27の下端に取り付けられ、第1アーム31の他端は第2アーム32の端部に連結軸33を介して取り付けられる。バッテリーボックス34は第2アーム32に取り付けられる。基軸27の内部には、第1アーム31を基軸27を中心に回転駆動するモータ(図示省略)が設けられ、連結軸33の内部には、第2アーム32を第1アーム31に対して連結軸33を中心に回転駆動するモータ(図示省略)が設けられる。バッテリーボックス34には、各モータや点検部に電源を供給するバッテリーや、点検部により撮影された電線の画像や外周面の曲率のデータを記録する記録部が備えられる。
【0022】
本発明の電線点検装置を電線Aに懸架して、電線点検装置を電線Aで走行させる場合について説明する。まず、図1及び図2に示すように、電線Aが、一対の車輪部13a、13bのテーパ面間に挟まれた状態となるように、車輪部13a、13bを電線Aに係合させて、プーリ12を上側の電線A1に載置する。その後、図示省略のモータにより、プーリ12を回転させて、そのトルクにて電線Aを後方に送ることにより、電線点検装置は、電線Aを図1の矢印の方向に走行する。
【0023】
電線点検装置がスペーサ20に到達すると、図4に示すように、プーリ12は、スペーサ20の把持部22の手前側に位置することになる。この場合も、電線点検装置は、そのままの駆動力で前進する。このとき、プーリ12の外周面にグリップ部材15を設けているため、リム16によりプーリ12の外周面の剛性を維持しながら、スペーサ20の把持部22が弾性体17に食い込んで、プーリ12の外周面と把持部22との接触面積が増し、プーリ12と把持部22との密着が良くなる。この状態で、プーリ12の外周面がスペーサ20と接触しつつ、プーリ12が回転してスペーサ上を走行する。このようにして、プーリ12のトルクを大きくすることができて、プーリ12が把持部22から滑り落ちたり、傾いたりすることなく、走行中の姿勢を維持しながら把持部22を乗り越えることができる。
【0024】
本発明は、プーリ12は、スペーサ20に到達したときに、電線走行中の姿勢を維持しながらスペーサ上を自走力にて走行することができ、従来の装置に設けられたモータを大型化することなくスペーサ20を容易に乗り越えることができる。このように、既存の装置にグリップ部材を取り付けるだけでよいため、既存の装置を大幅に改造することなく、加工が容易なものとなる。
【0025】
グリップ部材15をアルミニウム合金製のリムにて構成すると、軽量なものとなり、スペーサ20を乗り越え易くなる。また、グリップ部材15を、リム16の外周面に弾性体17を設けた2層構造とすると、プーリ12の外周面の剛性維持と、プーリ12とスペーサ20との密着性の向上とを図ることができ、スペーサ20走行中のプーリ12の姿勢を安定して維持することができる。
【0026】
本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、グリップ部材15は、全周にわたって連続的に設けても、断続的に設けてもよい。グリップ部材15の厚みは全周にわたって一定であっても、ランダムであってもよい。グリップ部材15は、少なくともプーリ12の外周面に設けていればよく、車輪部13のテーパ面の全部または一部に設けてもよい。一対の車輪部13において、グリップ部材15を対称的に設ける必要はなく、非対称に設けてもよい。グリップ部材15の表面(前記実施形態では、弾性体17の表面)は凹凸を有していてもよい。前記実施形態では、グリップ部材15を2層構造としたが、例えば剛性体16又は弾性体17の1層構造としたり、3層以上の構造としてもよい。上記の実施形態では2導体を点検する電線点検装置に本発明を適用する場合を示しているが、電線の本数は特に限定されず、単導体や4導体を点検する電線点検装置に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0027】
12 プーリ
14 環状溝部
15 グリップ部材
16 剛性体
17 弾性体
20 スペーサ
A 電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼓状の回転体を備え、この回転体の環状溝部を電線に係合させて、自走力による前記回転体の回転により電線上を滑走しながら障害物を有する電線の状態を点検する自走式電線点検装置であって、
前記回転体外周部に、前記障害物を乗り越えるために必要な前記自走力を回転体から障害物に伝達するグリップ部材を設けたことを特徴とする自走式電線点検装置。
【請求項2】
前記グリップ部材は、前記回転体の少なくとも外周面に設けられる環状体としたことを特徴とする請求項1の自走式電線点検装置。
【請求項3】
前記グリップ部材は、環状の剛性体と、この剛性体の外周側に設けられる環状の弾性体との2層構造としたことを特徴とする請求項1又は請求項2の自走式電線点検装置。
【請求項4】
前記剛性体をアルミニウム合金製としたことを特徴とする請求項3の自走式電線点検装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−257372(P2012−257372A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128416(P2011−128416)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(505087230)株式会社ハイボット (6)