説明

自転車におけるリング錠装置

【課題】手動で施錠されたリング錠を、鍵を使用しなくても、非接触型無線タグを用いて開錠することができる自転車におけるリング錠装置を提供する。
【解決手段】アンテナとICチップとを備えたパッシブタイプの非接触無線タグ29を、開錠部に設置されたリーダー30に近づけることにより、該リーダー30から出力信号を発信して、プルソレノイド24の電源をONしてプルロッド25を基端部側へ引き寄せると共に、該プルロッド25の先端に固着された錠杆係止用ストッパー10を、施錠方向へ常時付勢されている押しばね23に抗して基端部側へ引き寄せて、該錠杆係止用ストッパー10の先端部による前記錠杆3の係止部11への圧入係止状態を解除すると同時に、復元用の引きばね4の復元力で前記錠杆3がケーシング内に引き戻されて復帰し開錠する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車に取り付ける盗難防止用のリング錠装置であって、手動で施錠されたリング錠を、鍵を使用しなくても、非接触型無線タグを用いて開錠することができる自転車におけるリング錠装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自転車の車輪に施錠する自転車用錠としては、馬蹄形状をなしたケーシング内に基端部を固定して配設された復元用の引きばねの先端部に、半環状をした錠杆の基端部が連結され、該錠杆を前記引きばねに抗して前記ケーシングの一方側から引き出すと共に、前記錠杆の先端部を該ケーシングの他方側へ挿入して、ストッパーを前記錠杆の係止孔部に圧入係止して、該錠杆のケーシング内への前記引きばねによる復帰を阻止して、前記錠杆が固定され、全体として環状としてなして自転車の車輪を囲繞するようにして施錠するリング錠が、普通に使用されている。そして、前記施錠されたリング錠を開錠するには、鍵を使用して開錠している。
【0003】
一方、鍵を使用しなくても、非接触型無線タグを用いて開錠することができるリング錠につき、過去の特許文献を遡及検索しても、先行特許文献は1件も存在しなかった。ただ、複数個の押釦を備え、所定の押釦操作により鍵を使用しなくても、開錠することができるリング錠が、下記特許文献1に開示されて公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−12568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来一般に使用されているリング錠においては、鍵を差し込む位置が、膝から腰のあたりにあり、リング錠を開錠する時にかがむ必要があることや、他の自転車と密集している場合など、手が届かないため開錠できず、また開錠に時間がかかると共に、鍵をいちいちポケットから取り出す必要があり極めて面倒であるという課題があった。
【0006】
更に、前記特許文献1に記載されたものは、鍵を使用しなくても開錠できるが押釦の位置が膝から腰のあたりにあり、リング錠を開錠する時にかがむ必要があることや、他の自転車と密集している場合など、手が届かないため開錠できず、また開錠に時間がかかるという課題があった。
【0007】
本発明は前記課題を解決すべくなされたものであって、リング錠の施錠時において、開錠用の鍵を使用しなくても、アンテナとICチップとを備えたパッシブタイプの、所謂、JRが採用している商品名「Suica」や、東京メトロ等で採用している商品名「PASMO」等の非接触無線タグを、開錠部に設置されたリーダーに近づけることにより、該リーダーから出力信号を発信して、プルソレノイドの電源をONしてプルロッドを引き寄せると、該プルロッドの先端に固着された錠杆係止用ストッパーも基端部側へ引き寄せられて、該錠杆係止用ストッパーの先端部による前記錠杆の係止孔部への圧入係止状態が解除されると同時に、復元用の引きばねの復元力で前記錠杆がケーシング内に引き戻されて復帰し、開錠することができる自転車におけるリング錠装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リング錠の施錠時において、アンテナとICチップとを備えたパッシブタイプの非接触無線タグを、開錠部に設置されたリーダーに近づけることにより、該リーダーから出力信号を発信して、プルソレノイドの電源をONしてプルロッドを基端部側へ引き寄せると共に、該プルロッドの先端に固着された錠杆係止用ストッパーを、施錠方向へ常時付勢されている押しばねに抗して基端部側へ引き寄せて、該錠杆係止用ストッパーの先端部による前記錠杆の係止孔部への圧入係止状態を解除すると同時に、復元用の引きばねの復元力で前記錠杆がケーシング内に引き戻されて復帰し開錠するという手段を採用することにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0009】
本発明自転車におけるリング錠装置によれば、従来同様、開錠用の鍵を用いて開錠することもできるが、開錠用の鍵を用いることなく、携帯可能な非接触型無線タグを開錠部に設置されたリーダーに近づけるのみで、ポケット等から開錠用の鍵を取り出して開錠操作をすることもなく、簡単に、且つ容易にリング錠の開錠ができ、然も自転車と離れた場所から瞬時に車輪の施錠が解除され、身体をかがめる必要もなく、また他の自転車と密集していて手が届かなくても、確実、且つ迅速にリング錠の施錠を解除できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明自転車におけるリング錠装置の施錠時の状態を一部を切欠いて示す平面図である。
【図2】本発明自転車におけるリング錠装置の開錠時の状態を一部を切欠いて示す平面図である。
【図3】本発明自転車におけるリング錠装置を自転車に取付けた状態を示す斜視図である。
【図4】本発明自転車におけるリング錠装置の開錠時における要部の縦断正面図である。
【図5】本発明自転車におけるリング錠装置の施錠時における要部の縦断正面図である。
【図6】本発明自転車におけるリング錠装置の作動フローである。
【実施例】
【0011】
本発明リング錠装置は、基本的な構造として、開錠部において、錠杆係止用ストッパーを常時施錠側方向(先方側方向)に付勢する施錠用の押しばねを備えると共に、鍵を差し込んでシリンダー錠を回動することにより、前記押しばねの押圧力により錠杆の係止部に圧入係止されていた錠杆係止用ストッパーの先端部が、前記係止部から離脱して係止状態が解除されると同時に、前記錠杆が復元用の引きばねによってケーシング内に引き戻されて復帰して開錠される構造を有している。
【0012】
そして、本発明に採用されるリング錠は、金属製から成り、内部に中空の通路1を備えた馬蹄形状のケーシング2と、該ケーシング2の左側の通路1内部を摺動して移動する半環状の錠杆3と、前記ケーシング2の右側の通路1内部に前記錠杆3の基端部に連結して、該錠杆3を常時開錠方向(ケーシング2の右側方向)へ付勢する復元用の引きばね4とを備えて形成されている。
【0013】
前記復元用の引きばね4は、前記ケーシング2の通路1内の右側位置に配設され、該引きばね4の基端部が該ケーシング2内に突設された突起5に連結固定されると共に、前記引きばね4の先端部が前記錠杆3の基端部の連結部6に連結固定して形成されている。
【0014】
更に、前記ケーシング2の左側上面に長孔7を穿設すると共に、前記錠杆3の中央部近傍上面に突設された摘み部8が前記長孔7上面に突出して配置され、該摘み部8を前記長孔7に沿って下方側へ押圧移動することにより、前記錠杆3が前記ケーシング2の左側の通路1内を摺動して、該錠杆3の先端部が前記ケーシング2の左側開口部2aから突出して右側開口部2b内に挿入され、この時開錠部9の錠杆係止用ストッパー10の先端部が、前記錠杆3に設けられた、例えば、係止用の孔、あるいは凹欠部等の係止部11に圧入係止されて該錠杆3は固定され、全体として環状をなして自転車の車輪Wを囲繞するようにして施錠される。この時、鍵12が前記開錠部9から外れて挿入孔13から取外すことができる。
【0015】
前記開錠部9は、シリンダー錠14と、該シリンダー錠14を回動可能に収納したシリンダー錠収納部15と、前記錠杆3の係止部11に圧入係止し、あるいは該錠杆3への圧入係止を解除するための錠杆係止用ストッパー10を備えて形成されている。前記シリンダー錠14は、下面に操作用突片16を備えると共に、上面に鍵12を挿入する鍵挿入孔13を備えており、該鍵挿入孔13に挿入した鍵12の回動操作によって、前記前記シリンダー錠14と共に、該操作用突片16が回動し得るよう構成されている。
【0016】
前記錠杆係止用ストッパー10は、図4・図5に示すように、その基端部と先端部に基端側壁板17および先端側壁板18を設けると共に、内部に中空部19を備えて円筒状に形成され、該錠杆係止用ストッパー10の上面側に、前記シリンダー錠14の操作用突片16を嵌挿する長孔20が穿設され、更に、前記錠杆係止用ストッパー10の先端部を前記錠杆3の係止部11に圧入係止できるようにすると共に、前記シリンダー錠14の操作用突片16を前記長孔20に嵌挿したまま、該錠杆係止用ストッパー10が左右方向に移動可能に形成されている。
【0017】
また、前記錠杆係止用ストッパー10は、シリンダー錠収容部15内下部に設けられた、前記錠杆係止用ストッパー10を設置する設置室21の内壁22と、該錠杆係止用ストッパー10の基端側壁板17間に固定された押しばね23によって、施錠側方向(先方側の錠杆3方向)へ常時付勢されており、図4に示す開錠状態においては、前記押しばね23が縮重して、前記錠杆係止用ストッパー10の先端部が錠杆3の外周面に当接し、開錠状態が維持されている。そして、前記開錠時には、前記操作用突片16は前記長孔20の先端縁部20bに当接している。
【0018】
そして、図5に示すように、前記ケーシング2の左側の通路1内における錠杆3の左側開口部2a側への摺動に伴って、該錠杆3の係止部11と、前記錠杆係止用ストッパー10の先端部とが合致すると、該錠杆係止用ストッパー10が前記押しばね23によって前記錠杆3方向へ押圧されて、前記錠杆係止用ストッパー10の先端部が前記係止部11に圧入係止することによって、前記錠杆3が復元用の引きばね4に抗して停止し、これにより施錠状態を維持する。
【0019】
前記施錠時においては、図5に示すように、前記操作用突片16が前記長孔20の基端縁部20aに当接した状態となるが、開錠する時に、開錠部9の鍵挿入孔13に想像線で示す鍵12を挿入して、該鍵12を回動させると、前記操作用突片16が前記長孔20の基端縁部20aに当接して基端部方向(開錠方向)へ押圧されることにより、前記錠杆係止用ストッパー10が前記押しばね23に抗して基端側方向へ移動して、該錠杆係止用ストッパー10の先端部が係止部11から離脱し、前記復元用の引きばね4によって前記錠杆3が引き戻されてケーシング2内に復帰して開錠できるよう構成されている。
【0020】
本発明は、前記のように、鍵12を用いても開錠ができるが、該鍵12を用いることなく、非接触型無線タグを用いても開錠できるよう構成されている。すなはち、前記構成より成るリング錠における錠杆係止用ストッパー10を、鍵12を使用することなく押しばね23に抗して基端側へ移動せしめて開錠することができるよう、プルソレノイド24のプルロッド25が前記シリンダー錠収納部15の設置室21の内壁22を貫通すると共に、前記押しばね23を貫通して、更に前記錠杆係止用ストッパー10の基端側壁板17に前記プルロッド25の先端が連結固定されて形成されている。
【0021】
そして、前記ケーシング2の開錠部9の基端側に、前記プルロッド25を備えたプルソレノイド24が一体に設置されている。前記プルソレノイド24は、一般に使用されているタイプのものを使用することができるが、該プルソレノイド24への電源供給は、現在一般に市販されている小型のボタン電池(リチウムイオン電池)(図示せず)を電源として使用する。前記ボタン電池は、前記プルソレノイド24に併設された電池ボックス26に収納されている。
【0022】
すなわち、前記ボタン電池から電源を供給されて、コイル27に通電されると、固定鉄芯28に磁力が生じて前記プルロッド25が前記固定鉄芯28に吸引される。そして、前記プルロッド25が固定鉄芯28側へ吸引されることにより、該プルロッド25が基端部側へ移動して、前記押しばね23に抗して錠杆係止用ストッパー10を基端部側へ移動させることにより、該錠杆係止用ストッパー10の先端部による錠杆3の係止部11への圧入係止状態を解除すると同時に、前記錠杆3が引きばね4によってケーシング2内に引き戻されて復帰して開錠できるよう構成されている。
【0023】
更に、前記プルソレノイド24には、自転車所有者が所持する非接触型無線タグ29を近づけることにより、前記ボタン電池から前記プルソレノイド24を起動するための電源供給を指示する信号を発信するリーダー30が設置されている。なお、本発明装置の設置時に、非接触型無線タグ29の固有のID番号を、前記リーダー30に予め登録しておく必要があり、該登録されたID番号でなければ、該リーダー30は作動しない。
【0024】
また、前記リーダー30には、振動センサー31が接続されていて、自転車所有者が開錠すべく自転車に触れる等して振動を与えると、該振動を前記振動センサー31が感知して指令信号を発し、前記リーダー30が待機モードになるよう制御される。なお、前記リーダー30および振動センサー31は、前記ボタン電池によって電源を供給される。
【0025】
次に、本発明の作用を、図6の動作フローに基づいて説明する。本発明装置においては、摘み部8を長孔7に沿って下方側へ押圧移動させて、前記錠杆3の先端部をケーシング2の右側開口部2bに挿入すると共に、錠杆係止用ストッパー10の先端部が、前記錠杆3の係止部11に圧入係止させることにより施錠されて、他の自転車用錠と同様に鍵12を外すことができ、リーダー30はスリープモードでスタンバイ状態(STEP1)となり、この状態ではボタン電池からリーダー30への電源供給もない。
【0026】
前記STEP1の状態において、自転車所有者が、リング錠を開錠すべく自転車に接触すると、振動センサー32が振動を感知(YES)し(STEP2)、現在施錠中(YES)であれば(STEP3)、前記振動センサー32の振動感知により、該振動センサー32から指令信号を発して、リーダー31へボタン電池から電源が供給されて、該リーダー31が起動してスタンバイの状態となる(STEP4)。
【0027】
そして、前記STEP4の状態において、自転車所有者が非接触型無線タグ29を前記リーダー30に近づけて(STEP5)、該リーダー30が、前記非接触型無線タグ29の登録された固有のID番号と一致することを認識すると(STEP6)、該リーダー30により、ボタン電池からプルソレノイド24への通電を指令する信号が発せられて、前記プルソレノイド24へ電源が供給されて、プルロッド25が固定鉄芯28に吸引され、該プルロッド25が基端部側へ移動して、前記押しばね23に抗して、前記錠杆係止用ストッパー10を基端部側へ移動させることにより、該錠杆係止用ストッパー10の先端部の係止部11への圧入係止状態が解除されると共に、引きばね4によって前記錠杆3がケーシング2内へ引き戻されて復帰して開錠する(STEP7)。
【0028】
そして、前記非接触型無線タグ29をリーダー30に近づけても、該非接触型無線タグ29の固有のID番号と、該リーダー30に登録されたID番号とが一致しない場合、当然のことながら、錠杆3は開錠されず、スタンバイモードとなる(STEP1)。
【0029】
そして、前記作動により、自転車用錠1が開錠されると、ボタン電池からのプルソレノイド24、リーダー30および振動センサー31への通電が停止される。なお、本発明においては、プルソレノイド24、リーダー30および振動センサー31が故障等で使用できない場合、あるいはこれらを使用しない場合、鍵12を鍵穴に差し込んで開錠することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 通路
2 ケーシング
2a 左側開口部
2b 右側開口部
3 錠杆
4 引きばね
5 突起
6 連結部
7 長孔
8 摘み部
9 開錠部
10 錠杆係止用ストッパー
11 係止部
12 鍵
13 鍵挿入孔
14 シリンダー錠
15 シリンダー錠収納部
16 操作用突片
17 基端側壁板
18 先端側壁板
19 中空部
20 長孔
20a 基端縁部
20b 先端縁部
21 設置室
22 内壁
23 押しばね
24 プルソレノイド
25 プルロッド
26 電池ボックス
27 コイル
28 固定鉄芯
29 非接触型無線タグ
30 リーダー
31 振動センサー
W 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング錠の施錠時において、アンテナとICチップとを備えたパッシブタイプの非接触無線タグを、開錠部に設置されたリーダーに近づけることにより、該リーダーから出力信号を発信して、プルソレノイドの電源をONしてプルロッドを基端部側へ引き寄せると共に、該プルロッドの先端に固着された錠杆係止用ストッパーを、施錠方向へ常時付勢されている押しばねに抗して基端部側へ引き寄せて、該錠杆係止用ストッパーの先端部による前記錠杆の係止部への圧入係止状態を解除すると同時に、復元用の引きばねの復元力で前記錠杆がケーシング内に引き戻されて復帰し開錠することを特徴とする自転車におけるリング錠装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate