説明

自転車の無段変速機構

【課題】 低コストで軽量かつメンテナンスフリーの自転車の無段変速機構を提供する。
【解決手段】 チェーン以外の伝動索Bを用いる自転車用のクランクプーリや後輪プーリP2として、ハブ部に多数本のスポークアーム32…を放射状に形成してなる1対のスポーク板30,30を対面配置して一体化した構成からなるものを用いる。1対のスポーク板30,30は、対応するスポークアーム32,32の先端部のみを互いに連結し、ハブ部31,31は、互いに離接動作可能とする。伝動索Bを掛け渡すためのリム部33は、各スポークアー32ムの先端部に分割された状態で、多数のリム部33,33が同一ピッチ円上に位置するように取り付ける。ハブ部31,31を離接動作させることによって伝動索Bを掛けるピッチ円の直径R2径が無段階に変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用の外装式変速機構であって、変速作用が無段階で連続して行われる無段変速機構に関する。
【背景技術】
【0002】
自転車は、運転者自身の身体運動を前進運動に変換させるという直感的かつ直接的な機能によって、他の交通手段の進歩や発展にかかわらず、独自の存在意義をもって、世の東西を問わずに活用される手軽で便利な乗り物である。
【0003】
自転車は、発明されて以来の長い改良の歴史を経て現行の自転車のスタイルに至ったものであり、人間工学的な意味における自転車デザインの完成度は高いということができる。しかし、このことは、自転車には改良の余地がないということではなく、完成された自転車デザインの枠内において、特にその駆動系に対してさまざまな改良策が講じられている。例えばベルトドライブやシャフトドライブの採用、変速機構の採用等である。
【0004】
自転車に関する従来の改良提案のうち最も本質的なものは、運転者によるトルクの入力操作であるペダリング操作によって回転するクランクギヤ(駆動ギヤ)と、後輪に連結される後輪ギヤ(従動ギヤ)とのギヤ比を変更することができる可変ギヤ比変速機構に関する改良であるということができる。可変ギヤ比変速機構は、限りある人の身体能力を自転車の走行環境に適合するように変換して出力することにより、より速く走りたい、坂道であってもより楽に登れるようにしたいという要望を満たし、人の身体能力を拡大するという自転車の本質的機能を拡大することができるからである。
【0005】
自転車用の可変ギヤ比変速機構としては、大きく分けて外装式変速機構と内装式変速機構との2種類の変速機構が従来より市場に提供されている。外装式変速機構としては、クランク軸に固定されるクランクスプロケットと、駆動輪である後輪に固定される後輪スプロットとのいずれか一方、または双方に、歯数が段階的に異なる複数のスプロットを並設し、ディレーラと称するチェーン掛替え機構によって使用するスプロケットの組合せを変更するようにしたものが代表的である。
【0006】
また、内装式変速機構としては、例えば、サンギヤを入力側とし、プラネタリキャリヤを出力側とし、歯数比が段階的に異なる複数の遊星歯車列群を後輪ハブ内に内装し、使用する遊星歯車列を選択可能にしたものが代表的である。
【0007】
上記従来の外装式変速機構および内装式変速機構は、車体に装備された歯車群に対する運転者の選択操作によって増速比を段階的に変化させることができる。しかし、歯車群に対する選択操作中の一時期において運転者によるペダリング動作ができなくなるというような問題点を挙げるまでもなく、可変ギヤ比変速機構の理想はギヤ比を段階なく連続的に変化させることができる無段変速機構であることに異論はない。
【0008】
事実、実用化されているものや実用化には至っていないものを含め、自転車用の無段変速機構として従来よりいくつかの機構モデルが提案されている。
【0009】
最も古くから提案されている無段変速機構としては、斜面を有する1対のフランジを対面配置してVベルト用のプーリを形成し、1対のフランジ間の間隔を調節することによってVベルトに摩擦係合するプーリの実行半径を無段階に変化させる形式のものがある(下記、特許文献1参照)。
【0010】
一方、比較的新しく提案された無段変速機構としては、内装式変速機構として遊星歯車列のプラネタリギヤをボール(球)に置き換えたものに相当する構成の無段変速機構が存在する。このものは、市場占有率は定かではないが実用化されているとの情報がある(下記、非特許文献1参照)。
【0011】
同様に、自転車の変速機構において無段階変速の目的を有する別の手段としては、クランク側の駆動ギヤと後輪側の従動ギヤとのいずれか一方、または双方に実行半径が変化するものを用いる提案例が見受けられる(下記、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実公昭17−4887号公報
【特許文献2】特表平8−508085号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】http://www.geocities.jp/jitensha tanken/variable speed.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記特許文献1に記載されている形式、およびこの形式を原形とする無段変速機構は、変速メカニズムがシンプルであるものの、損失が大きいという欠点を有し、実用化されるには至っていないようである。プーリに対してVベルトが楔のように摩擦係合し、プーリからVベルトが抜け出す際に大きなエネルギーを消耗するからである。
【0015】
上記非特許文献1に掲載されている無段変速機構は、自動車の変速機構におけるいわゆる、トロイダルCVTに類似する変速機構である。トロイダルCVTは、高度の技術に依拠して極めて困難な技術障害を克服して実現したという経緯を有するものであり、これに類似する変速機構は、自転車用としては、不相応に高価なものとならざるを得ず、外形サイズに対する部品実装密度も高いことから、重量の点においても自転車に求められる軽量化の要請とは相反するという問題も内包すると考えられる。
【0016】
また、上記特許文献2に記載されている無段変速機構は、提案内容が着想段階に近く、解決しようとする課題に対する解決手段として提案されている技術内容から想定される新たな課題に対する解決手段を想定することが困難であるため、自転車及びその周辺技術分野における相当の機械的知識と機械製造設備を有する事業者が実施しようとしても実施することができるか否かが疑問であるといわざるを得ない。
【0017】
上記先行技術からも窺えるように、自転車用の無段変速機構としては適切なメカニズムが提供されていないというのが現状である。したがって、本発明は、上記従来の提案に係る自転車の無段変速機構のいずれかの機構モデルを改良しようと意図するものではない。上記先行技術文献は、本願の発明完成後における出願前調査によって発見されたものであり、事実としてこれらのような先行技術が存在するとの情報提供に過ぎない。
【0018】
ただし、本発明の課題とするところが、従来の先行技術における問題点と一致することはあり得る。本発明の無段変速機構の開発に当たって課題とされたことは、変速機構系の重量を、前後のスプロケットギヤ対とその間に掛け渡す伝動チェーンの組合せによる従来の固定ギヤ比の変速機構と同等かそれ以下の重量に抑えること、また、製造コストについても、従来の固定ギヤ比の変速機構と同等かそれ以下であること、メンテナンス性についてもより簡略なものとすること、変速操作に特別の要領や知識を必要としないことである。
【0019】

すなわち、本発明は、自転車用途に適する低コストで簡単な構成の無段変速機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するための本発明は、次のような構成を採用する。
【0021】
(解決手段1)
本発明の自転車の無段変速機構は、クランク軸に連結するクランクプーリと、後輪に連結する後輪プーリと、後輪プーリとクランクプーリ間に掛け渡す伝動索とを備え、クランク軸に入力された人力をクランクプーリのピッチ円の直径と後輪プーリのピッチ円の直径との比率によって定まる増速比をもって後輪プーリに伝達するようにしてなる自転車用の変速機構において、クランクプーリと後輪プーリとの少なくともいずれか一方が、それぞれ、中心部にハブ部を有し、ハブ部から複数のスポークアームを放射状に形成してなる1対のスポーク板を対面配置して一体化し、一体化した各スポークアームの先端部に伝動索を位置決めする策溝ガイドを形成してなり、この際、1対のスポーク板は、対面配置したときに対応するスポークアームの先端部のみを相互に連結することによって対応するハブ部を互いに離接動作可能に一体化されるとともに、複数のスポークアームのそれぞれの先端部に形成されたリム部は、同一のピッチ円上に位置し、1対のスポーク板のハブ部を自転車の運転中に操作可能な手動操作手段を介して離接動作させることによってクランクプーリと後輪プーリとの少なくともいずれか一方のピッチ円の直径を無段階変化可能としたことを特徴とする。
【0022】
上記解決手段1について説明する。上記解決手段に含まれる部材は、クランクプーリと、後輪プーリと、伝動索と、手動操作手段である。クランクプーリは、クランク軸に取り付けられ、自転車の運転者のペダリング操作によって駆動される。後輪プーリは、後輪に取り付けられて後輪とともに回転することができる。伝動索は、クランクプーリと後輪プーリとの間に掛け渡され、クランクプーリに入力された駆動力を後輪プーリに伝達するように機能する。
【0023】
ここで、クランクプーリと後輪プーリとの少なくともいずれか一方には、1対のスポーク板を一体化してなる特殊なものが用いられる。したがって、クランクプーリと後輪プーリとの双方に特殊なものが用いられる場合もある。
【0024】
特殊なプーリは、中心位置のハブ部から半径方向に放射状に伸びる複数のスポークアームを備える形態の1対のスポーク板を対面配置して一体化した構成を有する。ただし、1対のスポーク板は、対面配置したときに対応するスポークアームの先端部のみで連結され、1対のスポーク板における中心側のハブ部は、互いに離接動作することができる。また、連結された各スポークアームの先端部には、それぞれ伝動索を受け入れて位置決めするためのリム部が形成される。つまり、特殊なクランクプーリ、または後輪プーリは、各スポーク板のスポークアームの数と同じ数のリム部を備え、複数個のリム部は、同一のピッチ円上に位置している。
【0025】
互いに離接動作可能であるハブ部は、自転車の運転中に操作可能な手動操作手段によって操作することができ、手動操作手段を介してハブ部が離接動作すると、その操作量に応じて複数のリム部が属するピッチ円の直径が無段階で変化する。すなわち、クランクプーリと後輪プーリのいずれか一方、または双方のピッチ円の直径を無段階に変化させることができる。この結果、クランクプーリと後輪プーリのピッチ円の比率によって定義される増速比は、無段階に変化することになる。
【0026】
なお、ハブ部を離接動作させることによって上記のようにクランクプーリ等のピッチ円の直径が変化する仕組みは、次のようである。複数のリム部中の1個に注目して観察すると、各リム部は、連結された2枚のスポークアームの先端部に形成されていることから、対面する1対のハブ部の間隔を底辺とし2枚のスポークアームを等辺とする2等辺三角形の頂点に位置する位置関係が成立する。そこで、例えば、手動操作手段を介して対面するハブ部を離す向きに操作すると、2枚のスポークアームは、平面に近づく向きに姿勢変化し、2等辺三角形の高さが減少する。逆に、1対のハブ部を接近させる向きに操作すると2枚のスポークアームは直立姿勢に近づく向きに姿勢変化し、2等辺三角形の高さが増加する。ここで、2等辺三角形の高さは、その頂点に位置するリム部のピッチ円の半径に相当することから、このような動作関係を全てのリム部についてみれば、全てのリム部が属するピッチ円の直径が無段階に変化することとなるのである。
【0027】
(解決手段2)
本発明の自転車の無段変速機構は、解決手段1に記載の発明を基本発明として、スポーク板の各スポークアームがばね鋼板からなり、1対のスポーク板におけるハブ部の離接動作が、各スポークアームの板厚方向の弾性変形によって許容されることを特徴とする。
【0028】
上記解決手段2について説明する。対面配置された1対のスポーク板は、対面配置した際に対応する全てのスポークアームの先端部同士を連結することによって一体化されている。上記構成は、このような条件下で1対のスポーク板におけるハブ部の離接動作を許容するための手段を示している。つまり、スポークアームを適切な板厚を有するばね鋼板製とし、ばね鋼板が面方向には曲がらず、板厚方向に曲がることを利用する趣旨である。これによって面方向から負荷されるトルクを有効に受け止めながらハブ部の離接動作を許容することができる。
【0029】
(解決手段3)
本発明の自転車の無段変速機構は、解決手段1に記載の発明を基本発明として、スポーク板の各スポークアームは、ハブ部からリム部に至る間にヒンジ連結部が介在するように形成され、1対のスポーク板におけるハブ部の離接動作が、各スポークアームにおけるヒンジ連結部の屈曲動作によって許容されることを特徴とする。
【0030】
上記解決手段3について説明する。対面配置された1対のスポーク板は、対面配置した際に対応する全てのスポークアームの先端部同士を連結することによって一体化されている。上記構成は、このような条件下で1対のスポーク板におけるハブ部の離接動作を許容するための手段を示している。つまり、各スポークアームにヒンジ連結部を設けておき、ヒンジ連結部が特定方向にのみ屈曲動作することができることを利用する趣旨である。これによって屈曲不能な方向から負荷されるトルクを有効に受け止めながらハブ部の離接動作を許容することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の自転車の無段変速機構は、自転車のクランクプーリや後輪プーリとして、中心位置のハブ部から複数のスポークアームを放射状に形成した1対のスポーク板を対面配置して対応するスポークアームの先端部のみを互いに連結し、それぞれ、連結したスポークアームの先端部に伝動索を受け入れて位置決めするためのリム部を形成し、この際の複数のリム部が同一ピッチ円上に位置するように構成したことによって、リム部が分割されてはいるものの、リム部に伝動索を巻きかけることによって、全体として伝動索を介して他のプーリを駆動し、または、伝動索を介して他のプーリによって駆動される自転車のクランクプーリや後輪プーリとして機能することができる。そして、この際に、手動操作手段を介して1対のスポーク板の対面するハブ部を離接操作することによって、全てのリム部が属するピッチ円の直径を無段階に変化させることができるので、極めて軽量かつ低コストで、メンテナンスフリーに近い簡単な構造の自転車用の無段変速機構を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の無段変速機構の主要部材の実施の形態を示す側面図である。
【図2】図1のX−X線矢視断面図である。
【図3】図1に示す主要部材の動作説明図である。
【図4】図1に示す主要部材の動作説明図である。
【図5】本発明の無段変速機構の実施の形態を示す要部の断面図である。
【図6】本発明の無段変速機構の他の実施の形態を示す側面図である。
【図7】図1に示す主要部材の他の実施の形態を示す要部の断面図である。
【図8】図1に示す主要部材のさらに他の実施の形態を示す側面図である。
【図9】図8に示す主要部材の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を引用しながら本発明の自転車の無段変速機構の実施の形態を説明する。
【0034】
自転車の無段変速機構は、クランク軸に取り付けるクランクプーリP1と、自転車の後輪に取り付ける後輪プーリP2と、クランクプーリP1と後輪プーリP2間に掛け渡す伝動索Bとからなり(図6)、任意方式の手動操作手段50を伴う(図5)。
【0035】
自転車においては、駆動する側のクランクプーリP1から、駆動される側の後輪プーリP2に動力を伝達する際に減速は行われず、増速が行われる(図6)。増速作用における増速比は、クランクプーリP1のピッチ円の直径R1と後輪プーリP2のピッチ円の直径R2との比率によって定まり、増速比R=R1/R2で求められる。
【0036】
本発明の自転車の無段変速機構においては、クランクプーリP1と後輪プーリP2とのいずれか一方、または双方にピッチ円の直径が変化する特殊なプーリが用いられ、動力伝達用の伝動索Bには、丸ベルトが用いられる。なお、図6に示す無段変速機構は、クランクプーリP1、後輪プーリP2ともにピッチ円の直径R1,R2が変化するものを採用した実施の形態である。この実施の形態については、別に後述する。
【0037】
ピッチ円の直径が変化するクランクプーリP1と後輪プーリP2とは、実質的に同一の構成である。ここでは、後輪プーリP2について説明する(図1,図2)。後輪プーリP2は、同一形状の1対のスポーク板30,30を主要部材としてなる。
【0038】
後輪プーリP2を構成する各スポーク板30は、中心部にハブ部31を有し、このハブ部31から等角度間隔で8本のスポークアーム32…を放射状に形成した、いわば、ヒトデ形ともいえる形態である。
【0039】
ハブ部31とスポークアーム32…とは、1枚のばね鋼板から一体成形され、各スポークアーム32は、ハブ部31との境界部分と先端部分とを適度に曲げ加工することによって、1対のスポーク板30,30をスポークアーム32…を対応させて対面配置した際に、それぞれ対応するスポークアーム32…の先端部が密着する状態において、対応するハブ部31,31が適度な間隔を保つ状態となるように意図されている(図2)。
【0040】
1対のスポーク板30,30は、対面配置した際にそれぞれ対応する2枚のスポークアーム32,32の先端部間にリム部33のブラケット3Aを挟み込んでリベット止めすることによって一体化されている。この結果、1対のスポーク板30,30は、外周簿の8箇所のみで連結され、対応するハブ部31,31は、スポークアーム32…の弾性変形によって互いに接近し、または互いに離れる向きに離接動作することができる。
【0041】
リム部33は、半割りパイプ状に形成され、溝内に丸ベルト状の伝動索Bを受け入れて位置決めすることができる。前記ブラケット3Aは、リム部33の取付け部材である。8対のスポークアーム32…の先端部に取り付けられた8個のリム部33は、同一のピッチ円S2上に位置し、各リム部33は、そのピッチ円S2沿うように曲げ加工されている。
【0042】
1対のスポーク板30,30のハブ部31,31には、自転車のクランク軸または後輪軸である車軸3Cに安定に取り付けるためのボス部3B,3Bが固定されている。クランクプーリP1においても後輪プーリP2においても、車軸3Cに嵌め込んだ状態において1対のスポーク板30,30の一方を他の部材に固定して用いる。後輪プーリP2においては、一方のスポーク板30は、後輪に固定して用いられる(図5)。このため、1対のスポーク板30,30のハブ部31,31には、車軸3Cに緊密な内径D2を有する固定用のボス部3Bと、車軸3Cに対して余裕をもった内径D1を有するボス部3Bとが区別して固定されている(図2)。
【0043】
なお、伝動索Bは、金属素線を組紐組成に編成したものにゴム系樹脂を含浸させたものである。このような構成の伝動索Bは、本名発明の用途において要求される柔軟で適度な伸縮性を有し、切断強度、必要な摩擦係数、屋外耐久性ともに優れた特性を示す。また、このような組成の伝動索Bを入手できない場合には、小型工作機械のスピンドル駆動等に用いられる丸ベルトを代用することができる。
【0044】
上記のような構成の後輪プーリP2は、車軸3Cに取り付けて一方のボス部3Bを固定し、他方のボス部3Bを車軸3Cに沿って一定の範囲でスライド動作させることによってピッチ円の直径R2を無段階に変化させることができる(図3,図4)。これは、各リム部33を支持している1対のスポークアーム32,32が直立姿勢に近い姿勢から(図3)、水平姿勢に近い姿勢に姿勢変化し(図4)、車軸3Cを挟んで対応するリム部33,33の距離が小さくなるからである。なお、ボス部3B,3Bの離接動作は、そのままハブ部31,31の離接動作となるのであり、この際の対応するハブ部31,31の離接動作は、ばね鋼板製のスポークアーム32…の弾性変形によって許容され、この形態の後輪プーリP2は、変形前の形状に復帰しようとする作用を有することが特徴となる。
【0045】
後輪プーリP2は、自転車の後輪60に組み付けて本発明の無段変速機構を構成することができる(図5)。
【0046】
自転車の後輪60は、後輪ハブ61を介して後輪軸62に回転自在に組み付けられている。後輪プーリP2は、後輪軸62に嵌め込まれ、一方のボス部3Bがジョイントスリーブ63を介して後輪ハブ61に固定される。したがって、後輪プーリP2は、自転車の後輪60に伴って回転する。この際、左右1対のボス部3B,3B間には、圧縮スプリング34が装填され、後輪プーリP2のハブ部31,31間の間隔を開く向きに作用している。
【0047】
後輪軸62に対して自由にスライドする側の他方のボス部3Bの側方には、手動操作手段50の変速アーム55の先端部が嵌め込まれている。
【0048】
手動操作手段50は、操作ダイヤル5Aを備える巻胴51と、一端を巻胴52に巻き込んだ2本のワイヤ52,52と、いずれか1本のワイヤ52を用いて遠隔操作する前記変速アーム53とからなる。
【0049】
巻胴52は、直径の異なる段付きのドラムを内蔵し、単一の操作ダイヤル5Aに対する回転操作によって2本のワイヤ52,52を異なる巻取り量または繰出し量で同時に操作することができる。ピッチ円の直径R2が小さい後輪プーリP2については、通常、作動量が少ない方のワイヤ52が使用される。すなわち、作動量が大きいワイヤ52は、後輪プーリP2とクランクプーリP1との双方を操作する場合のクランクプーリP1用のものである(図6参照)。
【0050】
変速アーム53は、自転車のアンダーフレーム等の固定部材にピン軸5Pを介して揺動自在に取り付けるスイングアームであって、ピン軸5Pを境に、ワイヤ52によって駆動する駆動辺5Bと従動辺5Cとからなり、駆動辺5Bと従動辺5Cの長さを調節することによって、作動方向、操作力、作動量等を変換することができる。変速アーム53の従動辺5Cの先端部には、長孔が形成され、従動辺5Cは、長孔に後輪軸62を通す状態で後輪プーリP2の側方に位置決めされている。
【0051】
例えば、自転車の運転者が運転中に操作ダイヤル5Aを操作してワイヤ52を巻き取ると、変速アーム53の駆動辺5Bが引かれ、従動辺5Cは、後輪プーリP2のハブ部31を圧縮スプリング34に抗して他方のハブ部31側に押し込むように作動する(図5の矢印で示す)。
【0052】
この結果、後輪プーリP2のピッチ円の直径R2が増大し、自転車の増速比R=R1/R2は減少する。増速比の減少によって伝動索Bを介してクランクプーリから受け取る駆動力の回転数とトルクの振り分けが変化し、例えば、自転車は、坂道を楽に登ることができる。
【0053】
後輪プーリP2についての上記説明は、クランクプーリP1についても同様であり、本発明の自転車の無段変速機構は、上記実施の形態とは逆に、後輪プーリを通常のプーリとし、クランクプーリを本発明のクランクプーリP1とすることができる他、後輪側とクランク側にそれぞれ本発明の後輪プーリP2とクランクプーリP1を用いる形態とすることができる(図6)。これにより、後輪プーリP2のピッチ円の直径R2とクランクプーリP1のピッチ円の直径R1との双方を変化させることができるので、増速比R=R1/R2の変化の範囲、すなわち自転車における変速比の範囲を乗算的に拡大することが可能である。
【0054】
なお、増速比Rの変化に伴い、伝動索Bの容量不足や滑りが懸念される場合には、後輪プーリP2におけるリム部33の形状変更によって2本以上の伝動索B,Bを並列使用することができる(図7)。
【0055】
本発明の自転車の無段変速機構に使用するクランクプーリP1および後輪プーリP2における多数のスポークアーム32…は、各々、ハブ部31からリム部33に至る間にヒンジ連結部3J,3Jを介在させることができる(図8,図9)。
【0056】
ヒンジ連結部3J,3Jの介在によって、ばね鋼板を用いることなくピッチ円の直径R2を変化させるために必要なハブ部31,31の離接動作を確保することができるので(図3,図4参照)、スポークアーム32の素材としてアルミニウム合金やジュラルミン等の軽量素材を使用することができる他、板厚等についても自由に設定することができる。
【0057】
なお、上記実施の形態の説明においては、伝動索Bとして丸ベルトを使用する例を挙げているが、自転車の無段変速機構における伝動索Bとしては、平ベルトや、歯付きベルトを用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
P1 クランクプーリ
P2 後輪プーリ
R1 クランクプーリのピッチ円の直径
R2 後輪プーリのピッチ円の直径
30 スポーク板
31 ハブ部
32 スポークアーム
3J ヒンジ連結部
33 リム部
50 手動操作手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸に連結するクランクプーリと、後輪に連結する後輪プーリと、該後輪プーリと前記クランクプーリ間に掛け渡す伝動索とを備え、前記クランク軸に入力された人力を前記クランクプーリのピッチ円の直径と前記後輪プーリのピッチ円の直径との比率によって定まる増速比をもって前記後輪プーリに伝達するようにしてなる自転車用の変速機構において、
前記クランクプーリと後輪プーリとの少なくともいずれか一方が、それぞれ、中心部にハブ部を有し、該ハブ部から複数のスポークアームを放射状に形成してなる1対のスポーク板を対面配置して一体化し、一体化した各スポークアームの先端部に前記伝動索を位置決めするリム部を形成してなり、
前記1対のスポーク板は、対面配置したときに対応する前記スポークアームの先端部のみを相互に連結することによって対応する前記ハブ部を互いに離接動作可能に一体化されるとともに、前記複数のスポークアームのそれぞれの先端部に形成された前記リム部は、同一のピッチ円上に位置し、
前記1対のスポーク板のハブ部を自転車の運転中に操作可能な手動操作手段を介して離接動作させることによって前記クランクプーリと後輪プーリとの少なくともいずれか一方のピッチ円の直径を無段階変化可能としたことを特徴とする自転車の無段変速機構。
【請求項2】
前記スポーク板の各スポークアームがばね鋼板からなり、前記1対のスポーク板における前記ハブ部の離接動作が、各スポークアームの板厚方向の弾性変形によって許容されることを特徴とする請求項1に記載の自転車の無段変速機構。
【請求項3】
前記スポーク板の各スポークアームは、前記ハブ部から前記リム部に至る間にヒンジ連結部が介在するように形成され、前記1対のスポーク板における前記ハブ部の離接動作が、各スポークアームにおける前記ヒンジ連結部の屈曲動作によって許容されることを特徴とする請求項1に記載の自転車の無段変速機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−92937(P2012−92937A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242429(P2010−242429)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(597069741)株式会社ブイオーシーダイレクト (16)
【Fターム(参考)】