説明

自転車用電子システム及びプログラム

【課題】歯数データを入力しなくとも容易にギアポジションに関する情報を出力することのできる自転車用電子システム及びプログラムを提供すること。
【解決手段】スピードメータ10の入力設定モードでユーザーが第1のタイミングにおいて多段変速機構を有する自転車を実際に走行することでギアポジション毎にそれぞれ対応する走行速度とクランク回転速度との関係によって相関データを取得でき、この相関データに基づいて走行関数を取得することができる。そして、その後のあるギアポジションで走行することで得られる現在の走行速度とクランク回転速度をすでに取得された走行関数と関連付けてディスプレイ部16に表示させることで、ある走行関数と一致すればその走行関数のギアポジションが現在の走行しているギアポジションであるということがわかる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車の走行に関する様々な情報を計測するための自転車用電子システム及びそのプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自転車の走行に関する様々な情報として、例えば走行速度、現在位置表示、平均速度、目的地までのラップ計測、クランクの回転速度(ケイデンス)、走行中の心拍状態(ハートレート)等が挙げられる。また、多段変速機構を有する自転車に特化した情報として、現在どのようなギア比で走行しているかのギアポジション情報が挙げられる。これらの様々な情報を自転車ユーザーに走行しながら目視させることができる自転車用電子システムとしてのサイクルコンピュータが従来から提供されている。そのようなサイクルコンピュータの一例を特許文献1に示す。また、ギアポジション情報を表示することが可能な装置として、例えば特許文献2に示すような自転車用スピードメータが挙げられる。特許文献2に示す自転車用スピードメータはギアポジション情報を前もってユーザーが入力することで、表示部にギアポジションが表示されるため、自転車ユーザーが現在どのようなギアポジションで走行しているかを認識することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−324786号公報
【特許文献2】特開平6−317601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2に示す自転車用スピードメータではフロントギアとリアギアの歯数データを入力しなければならない。つまり、このような自転車用スピードメータを取り付ける前提として、ユーザーは自車の各段のフロントギアとリアギアの歯数を知っていなければならず、対応するフロントギアとリアギア毎に歯数データを入力する面倒さがあった。そのため、歯数データを入力しなくとも容易にギアポジションに関する情報を出力することのできる自転車用電子システムが求められていた
本発明は上記問題を解消するためになされたものであり、その目的は、歯数データを入力しなくとも容易にギアポジションに関する情報を出力することのできる自転車用電子システム及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、多段変速機構を有する自転車に使用される自転車用電子システムであって、自転車の走行速度に関する情報を算出する走行速度算出手段と、クランクの回転速度に関する情報を算出するクランク回転速度算出手段と、第1のタイミングにおいて実際に走行することで、その走行速度に対応するクランク回転速度の相関関係を示すデータ(以下、相関データとする)を経時的に取得し、得られた相関データに基づいて前記多段変速機構におけるフロントギアとリアギアの組み合わせ(以下、ギアポジションとする)ごとの走行速度とクランク回転速度との関係を示す関数(以下走行関数とする)を算出する走行関数算出手段と、第1のタイミングよりも後のタイミングにおいて走行することで、現在の走行速度と現在のクランク回転速度がどのギアポジションの走行関数に対応するかを判断するギアポジション判断手段と、前記ギアポジション判断手段において現在の走行速度と現在のクランク回転速度がどのギアポジションの走行関数に対応するかに関する情報(以下出力情報とする)を出力する出力手段とを備えることをその要旨とする。
このような構成であれば、第1のタイミングにおいて多段変速機構を有する自転車を実際に走行させることで走行速度とクランク回転速度との関係を示す相関データを取得でき、この相関データに基づいてギアポジション毎の走行関数を取得することができる。そして、その後のタイミングでは現在の走行速度と現在のクランク回転速度がどのギアポジションの走行関数に対応するかに関する情報が出力される。
走行速度とクランク回転速度の相関データはギアポジション(つまり前後ギアのチェーンリングとスプロケットの組み合わせ)ごとに固有となるため、相関データに基づいてギアポジション毎の走行関数を求め、実際の走行状態がどの走行関数と対応するのかを判断して、それを現在のギアポジションであると判定するという発想である。これによって、ユーザーは単にあるギアポジションの状態で走行するだけで、例えば自動的に設定済の走行関数との関係で現在の走行速度と現在のクランク回転速度がどのギアポジションの走行関数に対応するかに関する情報が出力されることとなる。そのため、従来のようにギアの歯数を入力設定する手間が省け、操作上非常に有利となる。
ここに走行速度は直接取得しても、間接的に取得してもよい。従って、走行速度算出手段は走行速度そのものではなく走行速度を算出可能な情報に基づいて走行速度を算出するようにしてもよい。従って、「自転車の走行速度に関する情報」としては、自転車の走行速度そのものでもよく、自転車の走行速度を算出可能な例えば、タイヤ(前輪または後輪)の回転速度としてもよい。
また、クランクの回転速度も直接取得しても、間接的に取得してもよい。つまり、クランク回転速度算出手段はクランク回転速度そのものではなくクランク回転速度を算出可能な情報(クランクの回転速度に関する情報)に基づいて走行速度を算出するようにしてもよい。
【0006】
ここに「多段変速機構を有する自転車」は、例えばフロントギア(チェーンリング)とリアギア(スプロケット)の少なくとも一方のギアが複数段あって、自転車の操作手段を操作することで駆動伝達部材(一般にはチェーン)の噛み合うギアを変更できる自転車をいう。
ここに「走行関数」は実際に走行して走行速度とその走行速度に対応するクランク回転速度の相関データを経時的に取得することで得る。これは、例えばあるギア比での走行速度はクランク回転速度に依存するので、走行速度とクランク回転速度の対応関係からギア比毎に両者に相関関係があるとして得ることができる。例えば、そのギア比で走行する場合の走行速度とクランク回転速度が一対一に対応するような関数を走行関数として求めればよい。例えば、相関データの分布の偏りに基づいて走行関数を求める際、構成のように、相関データから複数のギヤ比に対応する走行関数を弁別できるのであれば、ギア比と対応するフロントギアとリアギアの段数の組み合わせは特に定めは無く(一般には軽いギア比となる方から)どの組み合わせ順で走行しても構わない。
尚、「関数」という場合には一般には数式化されるものであるが、ある走行速度とあるクランク回転速度の対応そのものが関数であるため、必ずしも数式で表わされる相関関係のみをいうものではない。
ここに、「自転車用電子システム」としては例えば自転車用スピードメータが一般的であり、ナビゲーション装置、走行中の心拍状態(ハートレート)、ラップ機能、カロリー計算機構等を備えることが可能である。出力手段としては、例えば、表示手段に対して出力するものや、音声等で出力するもの、他の機器に無線または有線でデータを出力するものなどが挙げられる。出力手段のみを本体から切り離して別体化することも可能である。
上記において「表示手段」とは動画、静止画が表示されるディスプレイ部から構成され、例えば有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、CRTディスプレイの画面が想定できる。
現在の走行速度と現在のクランク回転速度がどのギアポジションの走行関数に対応するかに関する情報(出力情報)としては、以下の発明にて出力するものを含むとよい。
【0007】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明に加えて、前記出力情報としてギアポジションの走行関数と関連付けた現在の走行速度とその走行速度に対応するクランク回転速度の相関データを備えることをその要旨とする。
これによって、現在の走行速度とその走行速度に対応するクランク回転速度がギアポジションの走行関数とのなんらかの関係があることがわかるように情報として出力されることとなる。
上記において「関連付けて出力する」とは例えば、選択されたギア比の走行関数と相関データとをグラフ化して同時に表示手段に表示させたり、同時に表示させる際により関連性を付けるために、重ねたり、交差させたり近傍に隣接配置させたりする表示手法が想定される。またグラフ化ではなく数値に変換して数値表示させたりすることも想定される。また音声で表示することも想定される。
請求項3に記載の発明では、請求項1又は2に記載の発明に加えて、前記走行速度算出手段は車輪の回転数を検出する車輪回転数検出手段からの検出値と車輪の周長から走行距離を算出し、得られた走行距離を単位時間当たりの車輪の回転数で除することで走行速度を求めることをその要旨とする。
これは走行速度算出手段のより具体的手段を記載したものである。このためには、例えば、車輪回転数検出手段を自転車の車輪と車輪に面した自転車部材との間に配設するとよい。走行速度算出手段走行距離を単位時間当たりの車輪の回転数で除することで比較的リアルタイムに走行速度が求められる。
請求項4に記載の発明では、請求項1又は2に記載の発明に加えて、前記走行速度算出手段はGPS受信装置によって得られた情報に基づいて走行速度を求めることをその要旨とする。
これによって、上記車輪回転数検出手段がなくとも自車の走行速度を求めることができる。GPS受信装置による速度測定は、一般に衛星から受信装置が受信する電波のドップラー効果を利用する方法か、受信機の位置を計測して1秒間にどれだけ受信機が移動しているかという位置情報に基づいて速度を計算する方法のいずれかを用いることとなる。上記のような車輪回転数検出手段は不要であるが、定速を保っていない場合に誤差が生じることがあり、そのため請求項2の手段と併用することも可能である。
【0008】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の発明に加えて、前記走行関数算出手段において走行関数を算出するために走行する際に、走行前あるいは走行後にユーザーがギアポジションを設定することでギアポジションを明確な状態とするようにしたことをその要旨とする。
これは、ユーザーが実際の第1のタイミングでの走行において、自分がどのフロントギアとリアギアの段数の組み合わせ状態で走行する(あるいはした)かを走行前あるいは走行後にユーザーがギアポジションを設定することで走行関数とギアポジションの対応関係を明確とするものである。
【0009】
請求項6に記載の発明では、請求項1〜5のいずれかに記載の発明に加えて、前記出力情報として現在の走行速度とその走行速度に対応するクランク回転速度の相関データと関連させて現在走行中のギアポジションを出力することをその要旨とする。
これによって、出力手段によって出力された現在走行中のギアポジションが現在の走行速度とその走行速度に対応するクランク回転速度との関係でわかることとなる。ギアポジションの出力態様としては、数値でもよく、グラフのような一見して他のギアポジションとの関係がわかるような図表を表示してもよい。
請求項7に記載の発明では、請求項1〜6のいずれかに記載の発明に加えて、前記出力情報として現在のギア比と関連させて現在走行中のギアポジションを出力することをその要旨とする。
これによって、現在走行中のギアポジションに対応したギア比が出力されてわかることとなる。ギア比の出力態様としては、数値でもよく、グラフのような一見して他のギア比との関係がわかるような図表を表示してもよい。
ここに「ギア比」は例えばフロントギアの歯数をリアギアの歯数で除した値で表わされる。ペダルはフロントギアに固着されているため、ギア比とは常にフロントギアのトルクがリアギアに作用している状態でのペダル1回転当たりのタイヤの回転数と考えることも可能である。例えば、ギア比4.72とあればそれは1回のペダルの回転で車輪が4.72回の回転をすることを意味する。
「ギア比」は大きいほど走行における抵抗が大きくなり、ギア比が大きい状態では漕ぐとペダルが重い。このような大きいギア比ではクランク回転速度が早くなると速度も速くなる傾向となる。一方「ギア比」が小さいほど走行における抵抗は小さくなり、ギア比が小さい状態では漕ぐとペダルが軽い。このような小さいギア比ではクランク回転速度が早くとも速度は速くならない傾向となる。
本発明では走行関数からケイデンスと走行速度の関係が算出されるため、ペダル一回転当たりの走行距離が算出できるため、ギアの歯数がわからなくともギア比の計算が可能である。
【0010】
請求項8に記載の発明では、請求項1〜7のいずれかに記載の発明に加えて、前記出力手段は表示手段であって、同表示手段は交差する2軸方向を走行速度とクランク回転速度として所定の走行関数を表示させるとともに、現在の走行速度とその走行速度に対応するクランク回転速度の相関データをその走行関数と関連付けて表示させるようにしたことをその要旨とする。
このように、所定の走行関数を表示させるということは、間接的にギアポジションやギア比を表示させていることに等しい。そのため、このような手段によって現在の走行速度とその走行速度に対応するクランク回転速度の相関データを表示させることで、走行計画の判断の指標となる。
請求項9に記載の発明では、請求項8に記載の発明に加えて、前記表示手段には複数の走行関数を同時に表示させるようにしたことをその要旨とする。
このように複数の走行関数を同時に表示させることでギアを操作して他のギアポジションでの走行状態に移行した際に、どのギアポジションからどのギアポジションに移行したのかがわかり、現在のギアポジションでの走行状態が他のギアポジションと同じクランク回転速度でどのように得られる速度が異なるかなどの走行計画の判断が容易となる。
【0011】
請求項10に記載の発明では、請求項8又は9に記載の発明に加えて、前記出力手段は表示手段であって、前記多段変速機構が複数のフロントギアを備える場合に、前記表示手段は現在の走行状態のギアポジションが一のフロントギアである場合には、当該一のフロントギアが共通する複数の走行関数を第1の表示画面として表示させるとともに、現在の走行状態が他の一のフロントギアのフロントギアである場合には、当該他の一のフロントギアが共通する複数の走行関数を第2の表示画面として表示させるようにしたことをその要旨とする。
あまり、多くの走行関数が同時に1画面に表示されることは、情報が見にくくなるため複数のフロントギアを備えている場合に、フロントギアが共通する複数走行関数を表示させるようにした。また、通常頻繁にギアを変換するのはリアギアであるため、あまり頻繁に変換しないフロントギアを共通に有する場合を基準として1つの表示画面に複数の走行関数を表示させるようにしたものである。
【0012】
請求項11に記載の発明では、請求項1〜10のいずれかに記載の発明に加えて、前記出力手段は表示手段であって、同表示手段には走行関数を取得したギアポジションのギア比が複数表示され、それらに関連付けて現在走行中のギアポジションを表示させることをその要旨とする。
これによって、現在走行中のギアポジションが複数のギア比のうちのどれに対応するのかがわかることとなる。
請求項12に記載の発明では、請求項1〜11のいずれかに記載の発明に加えて、前記出力手段は表示手段であって、同表示手段には現在走行中のギアポジションを構成しているフロントギアとリアギアの位置を表示させることをその要旨とする。
例えばフロントギアがインナーギアであり、リアギアが7番目のスプロケットであれば「1×7」のように表示させる。フロントギアとリアギアの順番についてはユーザーによる実際のギアと設定との関連付けが必要となる。
【0013】
請求項13に記載の発明では、請求項1〜12のいずれかに記載の発明に加えて、前記出力手段は表示手段であって、現在走行中のギアポジションに対応する走行関数候補が複数存在する場合には、前記表示手段はそれら複数の候補の走行関数、ギアポジションあるいはギア比と関連付けて現在の相関データを表示させることをその要旨とする。
これは複数のギアポジションに間においてギア比が非常に近くて、現在の走行状態がどのギアポジションのものか判然としない場合に、現状の走行の候補となる走行関数、ギアポジションあるいはギア比と関連付けて現在の相関データを表示させるものである。これによって、ユーザーは実際のギア比あるいは実際のフロントギアとリアギアの段数の組み合わせを候補のいずれかと認識することができる。この際にユーザーがいずれか正しいものを選択手段によって選択するようにしてもよい。
【0014】
請求項14に記載の発明では、請求項1〜13のいずれかに記載の発明に加えて、ギア比判断手段は経時的に取得される現在の相関データが、対応するギア比の走行関数に対してずれを生じていると判断した場合にその旨の報知をさせることをその要旨とする。
これはペダルの回転をさぼっていて、すでに計算された走行関数から外れた場合を想定している。そのような場合にはその旨が報知されることとなる。報知手段としては表示画面上に色や図形や文字で表示させてもよく、音声によってもよい。
【0015】
請求項15に記載の発明では、請求項1〜14のいずれかに記載の発明に加えて、前記出力手段は表示手段であって、前記ギア比判断手段は所定のギア比での走行関数において相関データを経時的に取得すると共に登り傾斜量を傾斜検出手段によって検出し、過去の登り傾斜量に対して現在の登り傾斜量を関連付けて現在の相関データを前記表示手段に表示させることをその要旨とする。
これによって、現在のギア比で過去に登ることができた、あるいはできなかったことがその登り傾斜量と関連付けて表示されるためユーザーに傾斜における走行計画を建てさせることができる。例えば「このくらいならば、今のギア比のままでよいはずだ」とか「前回は今のギア比で登れたのに、今回は苦しいな」とか「前回はこの傾斜だとこのギア比では登れなかったけれど、今回はがんばって行けるところまでいこう」などと考えることとなり、自転車走行の興趣が増すこととなる。
【0016】
請求項16に記載の発明では、請求項1〜15のいずれかに記載の発明に加えて、前記出力手段は表示手段であって、走行距離に基づいて消費カロリーを計算する消費カロリー計算手段を備え、前記表示手段に消費カロリーを表示させるようにしたことをその要旨とする。
これによって自転車走行によってどのくらいのカロリーを消費したかを把握することが可能となる。
請求項17に記載の発明では、請求項16に記載の発明に加えて、前記傾斜検出手段によって検出した登り傾斜量を走行抵抗として消費カロリーを計算する際のパラメータとすることをその要旨とする。
登り傾斜の方が消費カロリーが多くなるため、登り傾斜について走行抵抗として消費カロリーを計算することによってより正確な消費カロリーが得られる。
請求項18に記載の発明では、請求項1〜17のいずれかに記載の自転車用電子システムの制御機能をコンピュータに実現させるためのプログラムがその要旨である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ユーザーは前もって実際に自転車で走行することで歯数データを入力しなくとも容易にギアポジションに関する情報を設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる実施の形態のスピードメータの正面図。
【図2】同じ実施の形態のスピードメータを自転車にセットした状態の概略を説明する説明図。
【図3】実施の形態の電気的構成を説明するブロック図。
【図4】(a)〜(d)はギアポジション毎に走行関数を算出するためのサンプルデータの取得手順を説明する模式図。
【図5】ギアポジション毎の走行関数を算出する際のフローチャート。
【図6】(a)〜(c)はケイデンスと走行速度の関係を走行関数と同じ画面で表示させた表示画面の模式図。
【図7】(a)及び(b)はすべてのギアポジションのギア比を現状のギアポジションとの関係で表示させた表示画面の模式図。
【図8】現状の位置を表示する地図表示画面に現状のギアポジションを同時に表示させた表示画面の模式図。
【図9】すべてのギアポジションのギア比を現状のギアポジションとの関係で表示させた表示画面において近いギア比の現状のギアポジションを同時に表示する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は自転車用電子システムとしてのGPS機能付きのサイクルコンピュータを兼ねたスピードメータ10の外観正面図である。図2に示すように、スピードメータ10は本体となる略直方体形状の筐体11中に機構が収納されており、結束バンド12によって自転車Sのハンドル13上のユーザーの目視しやすい位置に取り付けられるようになっている。筐体11前面に配置された額縁状の前面枠15内には表示手段としてのディスプレイ部16が露出させられている。本実施の形態ではディスプレイ部16は3インチの小型の液晶ディスプレイから構成されている。ディスプレイ部16は入力手段としてのタッチパネルを兼ねている。筐体11の正面から見た右側面には電源ボタン17が形成され、左側面にはメニューボタン18が形成されている。前面枠15におけるディスプレイ部16の下位置には充電状況を報知する充電報知ランプ20が形成されている。本実施の形態ではスピードメータ10はリチウムイオン電池からなるバッテリー(二次電池)を電源とし、図示しない裏蓋を取り外して筐体11内部に収容するようにしている。また、後述するメモリカードリーダーも筐体11内部に配設され、裏蓋を取り外して外付け記憶媒体としてのSDカードをこのメモリカードリーダーに脱着するようにしている。
【0020】
図2に示すように、スピードメータ10は取り付け手段としての結束バンド12によって自転車Sのハンドル13上のユーザーの目視しやすい位置に図示しないホルダーを介して取り付けられるようになっている。スピードメータ10は車輪回転数検出手段としての車輪回転センサ21を備えている。車輪回転センサ21は別体で用意された移動検出体としての第1のマグネット22とセット化されている。図2に示すように、車輪回転センサ21は例えば自転車Sのフロントフォーク24の前輪25のスポーク26に面した位置に結束バンド12によって取り付けることが可能である。第1のマグネット22は前輪25のいずれかのスポーク26に対して前輪25の回転によって車輪回転センサ21と交差する軌跡上の位置に取り付ける。車輪回転センサ21は前輪25の回転とともに周回する第1のマグネット22の磁力線を前輪25の一回転ごとに1回ずつ検出する。
スピードメータ10はクランク回転速度算出手段としてのクランク回転センサ27を備えている。クランク回転センサ27は別体で用意された移動検出体としての第2のマグネット23とセット化されている。図2に示すように、クランク回転センサ27は例えば自転車Sのチェーンステイ28に対してクランク29側のペダル30に面した位置に結束バンド12によって取り付けることが可能である。第2のマグネット23はペダル30に対して取り付ける。第2のマグネット23の取り付け位置はペダル30の回転によってクランク回転センサ27と交差する位置とする。クランク回転センサ27はペダル30の回転とともに周回する第2のマグネット23の磁力線をペダル30の一回転ごとに1回ずつ検出する。
【0021】
次に、図3のブロック図に基づいてスピードメータ10の筐体11内部の電気的な構成を説明する。尚、本発明とは直接関係のない構成については省略する。
走行速度算出手段、クランク回転速度算出手段、走行関数算出手段、ギア比判断手段及び消費カロリー計算手段としてのコントローラMCには位置検出器31、メモリカードリーダー32、報知アラーム33、加速度センサ34、データベース35、センサ信号受信機36、前記ディスプレイ部16、前記電源ボタン17、前記メニューボタン18等がそれぞれ接続されている。
コントローラMCは周知のCPUやROM及びRAM等のメモリ、タイマ等から構成されている。コントローラMC内のROM内にはセンサ信号受信機36によって受信された車輪回転センサ21からの出力に基づいて走行速度を求めるための第1の走行速度計算プログラム、センサ信号受信機36によって受信されたクランク回転センサ27からの出力に基づいて1分当たりに換算したクランクの回転速度を求めるためのクランク回転速度計算プログラム、ギア比毎に異なるクランクの回転数と走行速度との相関関係から複数の走行関数f(x)を求める走行関数計算プログラム、現在の走行状態におけるケイデンスと走行速度を算出し、すでに算出された複数の走行関数f(x)のどの走行関数f(x)と類似性が大きいかを判断する相関関数プログラム、過去の走行履歴におけるギアポジションと現状の走行状態におけるギアポジションを比較してディスプレイ部16に所定の表示をさせるギア表示プログラム、算出された走行関数f(x)やギア比をSDカードに記憶させる走行関数等保存プログラムが記憶されている。
また、位置検出器31と関連するプログラムとして、位置検出器31のGPS受信器37によって受信されたGPS情報を処理するGPS情報処理プログラム、地図データを呼び出し位置検出器31のGPS受信器37によって受信された位置データと関連付けてディスプレイ部16に表示させる地図表示プログラム、位置検出器31のGPS受信器37によって受信された位置データと単位時間当たりの移動距離から走行速度を求めるための第2の走行速度計算プログラム、GPS受信器37によって受信された走行履歴(ログデータ)をSDカードに記憶させる履歴保存プログラム、位置検出器31のGPS受信器37によって受信された位置データとGPS受信器37から取得した時刻から経過時間や走行距離を計算し消費カロリーを計算する計算する消費カロリー計算プログラム、OS(Operation System)等の各種プログラムが記憶されている。
また、RAM内には上記各計算プログラムで計算された計算値や位置検出器31で検出された位置情報が一旦記憶される。
【0022】
現在位置取得手段、速度取得手段、現在時刻取得手段としての位置検出器31は構成の中核としてGPS情報を取得する公知の時刻取得手段としてのGPS受信器37を備えており、コントローラMCの指示に基づいて取得した位置情報と移動距離に基づいて速度計算を行う。検出される位置情報は自車の緯度、経度、高度である。メモリカードリーダー32はSDカードのデータを読み取り、あるいはSDカードのデータを更新する。
報知手段としての報知アラーム33はスピードメータ10の設定の際や設定したイベントの開始や終了の際に音声報知を行う。
傾斜取得手段及び傾斜・加速度取得手段としての加速度センサ34は3軸(X,Y,Z)それぞれの方向の加速度及び傾きを検出する3軸タイプのセンサであって、常時検出値をコントローラMCに出力する。傾斜は重力方向の加速度と考えることができるため加速度センサ34は同時に傾斜も検出可能である。尚、傾斜検出のために加速度センサ34とは別に傾斜センサを備えるようにすることも可能である。
データベース35はコントローラMC内、あるいはコントローラMCに外付けした不揮発性メモリ(例えばEEPROM)である。本実施の形態ではデータベース35内には待ち受け状態でディスプレイ部16に表示させるオブジェクトデータ、マスター画像データ、ディスプレイ部16に表示させる各種フォントデータ等が記憶されている。尚、これらデータは上記ROMに記憶させるようにしてもよい。
センサ信号受信機36は集積化された素子群からなる受信用チップであって、車輪回転センサ21及びクランク回転センサ27側のセンサ信号送信機38,39から送信された検出データを受信する。センサ信号受信機36と送信機38,39とは近距離無線通信用のANTプラス(+)を無線通信プロトコルとするが、他の通信プロトコル、例えばブルートゥースを通信プロトコルとしてもよい。
また、コントローラMCは数msecのタイミングでディスプレイ部16への接触状態を検出しており、GUI入力による命令に従って処理を行う。
【0023】
上記のような電気的構成において、コントローラMCはプログラムに従って次のような計算あるいは判断を実行する。
1)走行速度の計算
本実施の形態では2つ走行速度の計算方法を備えている。まず車輪回転センサ21によるものである。この場合には前提としてユーザーによる当該自転車の車輪(前輪25)の周長の入力が必要である。車輪回転センサ21によるマグネット23の磁力線検出は前輪25の1回転ごとに行われるため、検出信号のカウント数(=車輪の回転数)と周長を乗ずることで、走行距離が算出できるため、その走行距離を単位時間当たりのカウント数で除することで走行速度を求めることが可能である。この場合の取得した走行速度を第1の走行速度とする。
いま一つはGPS受信器37によるものである。本スピードメータ10ではGPS受信器37を備えているため現在時間における自車の位置を検出し、取得した位置情報と移動距離に基づいて速度を得ることが可能である。この場合の取得した走行速度を第2の走行速度とする。
本実施の形態では即応性を考慮して下記走行関数f(x)の計算には第1の走行速度を使用する。一方、ログデータや消費カロリー値の計算については第2の走行速度を使用する。
2)クランク速度の計算
クランク回転センサ27によるマグネット23の磁力線検出はペダル30(=クランク29)の1回転ごとに行われるため、一分あたりに換算した検出信号のカウント数(=クランク29の回転数)をケイデンス(単位は回転毎分:rpm)として得る。
【0024】
3)走行関数f(x)の計算
ユーザーが設定したギアポジションに対してケイデンスと速度の関係を走行関数f(x)として算出する。
具体的にはコントローラMCはROM内に用意されているギアデータ(つまり、チェーンリングとスプロケット)の中からユーザーが選択した任意のギアポジションに対して実際に走行することで得られるあるケイデンスでの走行速度のサンプルデータ(相関データ)を経時的に取得し、それらサンプルデータに基づいて当該ギアポジションのケイデンスと走行速度を一次関数である走行関数f(x)として対応関係を付けて算出する。取得手法としては例えば、小さなケイデンスで低速で走行する状態から徐々にケイデンスを大きくして高速で走行するようになるべく走行条件の異なるサンプルデータを取得する。このように取得したサンプルデータの相関関係をx−y軸二次元平面上に散布すると、サンプルデータは求める走行関数f(x)である「ある直線L」上及び直線Lの周囲にプロットされることとなる。直線Lの係数、つまり傾きは不明である。このような場合に直線Lの係数を求める手法としてここでは直線L上の真の値との距離を各サンプルデータの重みと考えた最小二乗法を用いて直線Lを算出するようにする。具体的には直線L上の真の値と対応する各データとの分散(平均二乗誤差)の総和を求め、その総和が最小となるようなある係数を算出し、もってケイデンスと速度の比である直線L(走行関数f(x))の傾きを求めるようにする。この傾きを当該ギアポジションにおけるギア比と考えることができる。
【0025】
4)走行関数f(x)に基づくギア比の計算
走行関数f(x)からケイデンスと走行速度の関係が算出されるため、ペダル一回転当たりの走行距離が算出できる。ペダル一回転当たりの走行距離をタイヤの周長で除することでギア比が算出できる。コントローラMCは算出した走行関数f(x)に基づいて各ギアポジションについてギア比を計算する。
5)現在の走行状態と走行関数f(x)との照合
コントローラMCは現在の走行状態におけるギアポジションがすでに走行関数f(x)として算出されたギアポジションのどれに相当するのかの判断を行う。
上記のように当該自転車のギアポジションにおいてケイデンスと走行速度の関係がすでに走行関数f(x)として算出されている場合に、現在の走行状態におけるケイデンスと走行速度の関係を新たに取得し、すでに取得されている走行関数f(x)との相関性を判断する。そして、最も相関性の大きな走行関数f(x)のギアポジションを現状の走行状態のギアポジションと判断する。
【0026】
6)過去のログデータのギアポジションと現在のギアポジションとの比較
コントローラMCはユーザーが走行した走行経路についてログデータを取得して記録する。その際に、各ログデータ取得位置での傾斜量及びギアポジションを併せてデータとして取得する。そして、コントローラMCは現在の走行経路が過去の走行した経路である場合にその走行経路のうちの過去のログデータから直近の走行のログデータを呼び出し、そのギアポジションを現状の走行状態のギアポジションとともにリアルタイムでディスプレイ部16に表示させる。また、登り傾斜においては現状の走行状態のギアポジションが過去のギアポジションよりもより大きなトルクが必要(つまり重い)なものか必要としない(つまり軽い)ものかを表示させる。必要なトルクの大小は上記3)で取得した走行関数f(x)の傾きの値によって判断する。
【0027】
7)消費カロリー値の計算
ユーザーが計算開始の入力をしてから終了の入力をするまでの間についてGPS受信器37からの移動距離情報に基づいて消費カロリーを計算する。ここでは、まず走行距離に対する基準となる消費カロリー値Bcを設定し、その際の坂道の重みSを重みを1.0と設定する。重みを1.0は平坦な道路を走行している場合を想定している。そして、所定タイミングで取得した走行経路サンプルデータについて加速度センサ34によって傾斜角度に応じて増減した重みSを設定する。ここでは、例えば1msタイミングで重みSを取得し、1ms時間内の進行距離に対して固有の重みSを与えて消費カロリー値Bpを算出し、それらの積算として設定された区間のトータル消費カロリー値Btを得るようにする。この際に、登り傾斜であれば走行抵抗となるため消費カロリーが増すように重みSは1.0より大きく与えられ、逆に下り傾斜であれば重みSは1.0より小さく与えられる。
【0028】
次に、このようなスピードメータ10において走行時に獲得した様々な走行情報をディスプレイ部16に表示させるための前提となる計算条件の設定について説明する。特にリアルタイムでのケイデンスと走行速度とその状態がどのようなギアポジションであるかをディスプレイ部16に表示させるための走行関数の算出方法を中心に説明する。
1)まず、ユーザーとユーザーの自転車についての基本的な計算条件設定作業について簡単に説明する。
ユーザーはメニューボタン18からアクセスし、「メインメニュー」→「設定」と下位の階層のGUI入力可能な設定画面をディスプレイ部16に表示させ、ユーザープロフィールの入力を促す。例えば、ユーザーの年齢、体重、身長は消費カロリー値の計算のパラメータであるため、これらの入力は必須となる。
またユーザーの自転車については同様に設定画面をディスプレイ部16に表示させログデータ取得間隔や、タイヤ周長等の計算上必要となる周知の初期設定を行う。
【0029】
2)コントローラMCは図5に示すような走行関数算出ルーチンで当該自転車のすべてのギアポジションに対して走行関数f(x)を算出する。
まずステップS1においていずれかのフロントギアの選択の有無を判断する。ここで、フロントギアの選択があったと判断すると、ステップS2においてリアギアの選択の有無を判断する。ステップS1でフロントギアの選択がなければステップS3でタイムアップしたかどうかをカウントし、所定の時間が経過するまではステップS1に移行させ待機状態とし、所定の時間が経過することでルーチンを一旦終了する。ステップS2でリアギアの選択があったと判断すると、ステップS4においてギアポジションが決定され、ステップS5でそのギアポジションに関連付けたサンプルデータの取得が開始される。一方、ステップS2でリアギアの選択がなければステップS6でタイムアップしたかどうかをカウントし、所定の時間が経過するまではステップS2に移行させ待機状態とし、所定の時間が経過することでルーチンを一旦終了する。ステップS7においてサンプルデータの取得が終了すると、ステップS8において走行関数f(x)が算出され、これをSDカードに保存してルーチンを一旦終了する。
【0030】
このようなルーチンに対応するユーザーの入力動作について説明する。
a)本実施の形態ではユーザーに平坦な場所ですべてのギアの組み合わせに対して各々5秒間のテスト走行を実施してもらい、サンプルデータを取得するようにしている。
そのためコントローラMCはまず所定の設定入力モードでユーザーに図4(a)に示すようなGUI入力可能な画面40aをディスプレイ部16に表示させ入力を促す。
b)図4(a)の入力画面40aにおいてユーザーが「了解した」旨のアイコン41を選択してタッチするとコントローラMCは図4(b)のようなフロントギアのGUI入力画面40bを表示させる。この入力画面40bにおいて3つのフロントギア(インナーギア、センターギア、アウターギア)のアイコン42から1つを選択するように促がす。インナーギアは「1」、センターギアは「2」、アウターギアは「3」としてユーザーはこれから実際に走行する予定のフロントギアを「1」〜「3」から選択して設定する。
c)図4(b)の入力画面40bにおいて、ユーザーがある1つのフロントギアのアイコン42を選択してタッチするとコントローラMCは図4(c)のようなリアギアのGUI入力画面40cを表示させる。ユーザーは大径側からスプロケットの数をカウントし、これから実際に走行する予定の位置のスプロケットを選択してそのスプロケットの並び順を数値として数値設定ダイアログ43によって数値を呼び出して設定する。スプロケットの並び順を決定すると確定アイコン44にタッチしてテスト走行するギアポジションを確定させる。
d)フロントギアとリアギアのスプロケットの設定が完了し、ユーザーが例えばフロントギアがインナーギア「1」を、リアギアのスプロケット「3」を設定したとすると、コントローラMCは次いで図4(d)の画面40dを表示させる。ここで、ユーザーはこの表示されたギアポジションで実際に走行することを理解する。次いでユーザーが「スタート」のアイコン45選択してタッチすると、コントローラMCはサンプルデータの取得を開始する。同時にユーザーは常にペダル30が空回りしないように常にトルクを与えながら走行する。コントローラMCは安定走行に移行後にサンプルデータの取得を開始する。開始と終了の際には報知アラーム33からその旨の報知をする。また報知手段としての画面40dの上部の報知ランプアイコン46がサンプルデータの取得時においてサンプルデータを取得している間に点滅動作を行う。サンプルデータの取得時間として例えば5秒程度を想定するが、より正確なサンプルデータの取得のためにこの時間は適宜変更設定可能である。
e)当該ギアポジションでのサンプルデータの取得が完了すると、コントローラMCは図4(c)の入力画面40cを再び表示させる。そして、上記と同様にユーザーの設定とテスト走行によって順に当該フロントギアに対するリアギアの組み合わせのサンプルデータを取得していく。あるフロントギアに対するすべてのリアギア(スプロケット)の組み合わせのサンプルデータ取得が完了すると、コントローラMCは図4(b)の入力画面40bを再び表示させフロントギアを新たに選択させる。そしてユーザーの設定とテスト走行によって次のフロントギアに対しても同様にリアギアの組み合わせのサンプルデータを取得していく。以下はこの繰り返しとなる。このようにして当該自転車のすべてのギアポジションパターンについてのサンプルデータ取得が完了するとユーザーは図4(b)の入力画面40bからギアポジション確定アイコン47を選択してタッチし、入力内容が確定される。これによって、その自転車のすべてのギアポジションと関連付けした走行関数f(x)が得られることとなる。
【0031】
次に、このような構成のスピードメータ10においてディスプレイ部16へ表示制御される表示画面の一例について説明する。
例えばコントローラMCはユーザーが選択したケイデンス−走行速度表示モードにおいて、図6(a)〜(c)の表示画面49をディスプレイ部16へ表示させる。表示画面49は本実施の形態ではメニューボタン18を押下することで階層化されたいくつものモードから表示モードを選択し、更にそれらからケイデンス−走行速度表示モードを選択することで表示されるものとする。これによってデフォルトで表示される地図表示モードに代わってディスプレイ部16へ表示画面49を表示させることが可能である。
コントローラMCは現在のギアポジションにおいてログデータの取得に応じてケイデンスと走行速度をリアルタイムに取得すると、すでに取得されている走行関数f(x)との相関性を求め最も類似性が高い(つまり、そのグラフ上あるいは近傍に存在する)走行関数f(x)を現在のギアポジションのものと判断する。そして、その走行関数f(x)の属するフロントギア(チェーンリング)と同じフロントギアからなるすべてのギアポジションの走行関数f(x)をディスプレイ部16に表示させるとともに、現在のケイデンスと走行速度を表示させる。
【0032】
例えば図6(a)の表示画面49ではフロントギアがインナーギア(「1」で示されている)で共通しており、リアギアの7つのスプロケットに対応した7種類の走行関数f(x)のグラフを表示している。このように1つのフロントギアのみで1画面としているのは、走行においてはリアギアのみ頻繁に操作することが多いことや、すべてのギアポジションを1画面に表示させると画面が込み入って見にくくなるためである。グラフは横軸がケイデンス、縦軸が速度を表わしている。各グラフ近傍には設定されたギアポジションの文字表示(例えばフロントギアがインナーギア「1」でリアギアのスプロケットが3番目の位置であれば「1×3」のような表記で)がそれぞれ併記されている。表示画面49には現状の速度情報を文字情報として併せて表示している。ペダル30が空回りしていない限りフロントギアがインナーギアであれば、現状のギアポジションは基本的にこれらの走行関数f(x)のどれかに一致して表示される。
【0033】
ケイデンスと走行速度の表示態様としては、現状の速度に対応した当該ケイデンス位置を基準として、横軸へ下ろした垂線(つまり、f(x)=ケイデンス値)と横軸(速度=0)で包囲される三角領域50内を彩色表示することで目視しやすくしている。現時点のケイデンスと走行速度は三角領域50の上端角位置となる。例えば図6(a)では三角領域50の頂点が1×5の走行関数上にあるため、現在のギアポジションが1×5であることがギアを実見しなくともわかることとなる。
ケイデンス−走行速度表示モードの表示ではコントローラMCは当該ケイデンス位置が決定された走行関数f(x)から所定のずれ量であるかどうかを判断し、所定のずれ量内であると判断するとペダル30が空回りしていない正常な走行状態として三角領域50を青色で表示させる(図6(a)の状態)。一方、所定のずれ量より大きいと判断するとペダル30が空回りしているとして、三角領域50を赤色で表示させる(図6(b)の状態)。また、図6c)はフロントギアがアウターギア(あるいはセンターギア、「2」で示されている)の例である。
【0034】
また、コントローラMCはユーザーが選択したギア比表示モードにおいて、図7(a)及び(b)のような表示画面51をディスプレイ部16へ表示させる。表示画面51は本実施の形態ではメニューボタン18を押下することで階層化されたいくつものモードから表示モードを選択し、更にそれらからギア比表示モードを選択することで表示されるものとする。これによってデフォルトで表示される地図表示モードに代わって(あるいはすでにケイデンス−走行速度表示モードであればそれに代わって)ディスプレイ部16へ表示画面51を表示させることが可能である。
表示画面51にはフロントギアのチェーンリング毎にこれと組み合わせた7つのスプロケットとのギアポジションについて算出したギア比を結んだ階段状折れ線グラフA〜Cが表示されている。図7ではグラフA〜Cは図示の都合上色の違いを太さの違いで表現している。図上グラフAはフロントギアがインナーギアである場合、同じくグラフBはフロントギアがセンターギアである場合、同じくグラフCはフロントギアがアウターギアである場合である。グラフA〜Cについては横軸がリアギアのスプロケットの順番であり、縦軸がギア比を表わしている。各グラフにおいては横軸の左方側ほど小さなトルクで回動できるスプロケットで右方に向かって順により大きなトルクを必要とするスプロケットとされる。このようなギア比での表示であると画面が込み合わないため、すべてのギアポジションを1画面に表示させることが可能となる。
表示画面51には現状の走行状態のギアポジションがこのようなギア比の折れ線グラフA〜Cの対応するギア比位置と重複して棒グラフDとして表示されている。ここでは棒グラフDの長さはギア比の大きさを意味する。例えば、現状のギアポジションがフロントギアがセンターギアであり、リアギアが4番目のスプロケットであれば、棒グラフDが対応するグラフBの対応する4番目の高さのギア比位置に達するように表示される。これによって現在のギアポジションがわかるともに、どの程度のギア比位置にあるのか、勾配が変化した場合にどのようなギアポジションに変動されるのが好ましいのか等の判断材料となる。
棒グラフDの表示カラーはギアポジション毎に異なっており、現状のギアポジション(「2×4」、「1×1」)の文字が棒グラフ内に文字表示されている。表示画面51には現状の速度情報が文字情報として併せて表示されている。
【0035】
また、本実施の形態ではコントローラMCはデフォルト状態、つまり電源ボタン17を入力してディスプレイ部16が画面表示可能となった状態で複数の表示モードからまず地図表示モードを選択して、図8の表示画面53をディスプレイ部16へ表示させる。上記のようにユーザーの入力によって他のモードが選択されて表示画面49,51を表示させることも可能である。
表示画面53には地図54とともにGPS受信器37からの移動距離情報に基づいて現在位置Pをプロット表示する。地図54の上部位置には距離を表示する距離表示領域55と速度情報を表示する速度表示領域56を配設している。地図54の下部位置にはラップを設定するためのボタンアイコンであるラップ設定用アイコン57、経過時間や走行距離の記録を消去するためのボタンアイコンである消去用アイコン58、経過時間や走行距離の記録を開始したり停止したりするためのボタンアイコンである記録設定用アイコン59を配設している。これらアイコン57〜59の下部位置には地図スケールを表示する地図スケール表示領域60と現在地住所を表示する現在地住所表示領域61を配設している。
距離表示領域55の上部位置には現在のギアポジションを表示するギアポジション表示領域62を配設している。ギアポジション表示領域62には現在走行中のギアポジションを文字表示する。また、過去に同じ経路を走行したログデータが記録されている場合には、直近のデータのギアポジションを併せて表示する(初めて通る経路の場合にはブランク表示となる)。
また、現在のギアポジションとログデータのギアポジションと比較し、ギアポジションの違いに応じて現状のギアポジションの文字表示色が変化する。すなわち、
a)現在のギアポジションのギア比が過去のどれよりも大きい(つまり大きなトルクが必要)場合にはチャレンジモードとして赤色で示す。直近のギアポジションの文字表示色は白色(異なる色)で示す。
b)現在のギアポジションのギア比が過去のものと同じかそれ以下の場合には白色で示す。直近のギアポジションの文字表示色は白色(同じ色)で示す。
c)初めて通る経路の場合には水色で示す。
【0036】
上記のように構成することにより本実施の形態では次のような効果が奏される。
(1)ユーザーは自身の自転車のギアポジションと対応させた走行をするだけで、その自転車のギアポジションと関連付けた走行関数を算出し、その走行関数に基づいて現在走行しているギアポジションがどのギアポジションであるかがわかるようになるため、従来のようにギアごとに歯数を設定するような面倒さがなくなる。
(2)走行関数を算出することでギアポジション毎のギア比も算出できるため、ギアポジションのみでなくギア比も含めたさまざまな表示態様が可能となる。
(3)ケイデンス−走行速度表示モードにおいてはギアポジションが多数になっても表示態様としてギアポジションを表示する際にフロントギアごとに異なる表示画面47を表示させることができるため、多すぎるグラフが近傍に表示されるようなことが防止でき、ユーザーにとって見やすいものとなっている。
(4)ケイデンス−走行速度表示モードにおいてはギアポジションを表示画面47に表示する際に、現在のケイデンスと走行速度が走行関数上にあればきちんと走行している状態で、ずれるとさぼっていることが目視でき、しかもさぼっている場合には三角領域50内の彩色表示が変化するため、きちんと走行することがユーザーに対する一種の努力目標となって、走行する楽しみがより増すこととなる。
(5)ギア比表示モードにおいて表示画面51にはギア比を示す階段状折れ線グラフA〜Cと、ギア比との関係で状の走行状態のギアポジションがわかる棒グラフDが表示されるため、実際にギア比を入力しなくとも、あるいはギア比計算のための歯数を入力しなくとも現状のギアポジションとそのギア比が即座にわかることとなる。
(6)地図表示モードにおいて表示画面53には地図情報とともに今現在のギアポジションが過去のギアポジションとの関係で情報として表示されるため、過去のギアポジションで登り切ることができなかった場合に今度はこのギアポジションで登っていこうというようなユーザーに対する一種の努力目標情報となるため走行する楽しみがより増すこととなる。
【0037】
本発明を、以下のように具体化して実施してもよい。
・上記実施の形態ではユーザーは先にギアポジションを設定してからサンプルデータを取得するための走行を行って走行関数を算出するようにしていたが、様々なギアポジションで走行してサンプルデータを取得し、これらサンプルデータによって異なる複数の走行関数を先に算出してから、実際のギアポジションと関連付ける(設定する)ようにしてもよい。異なるギアポジションで走行すれば走行関数はそれぞれ固有のものとなるため、ギアポジションの設定は先でも後でもどちらでも実質上変わりはないからである。
・ギア比表示モードにおいてギア比が非常に近いために(例えば図7では2×3と3×2のギアポジションように)どちらかに決定できない場合には、図9に示すように、両方の位置に棒グラフDを出現させるようにしてもよい。この場合にユーザーがどちらかをディスプレイ部16上でタッチして選択することで、選択した側を現状のギアポジションと判断するようにしてもよい。
・ギア比が非常に近いためにギアポジションの候補が複数ある場合に上記実施の形態では複数のギア比と関連付けて表示させるようにしていたが、このような表示は一例であり、複数のギアポジションや複数の走行関数と関連付けた表示としてもよい。
・上記実施の形態ではケイデンス−走行速度表示モードにおいてフロントギア毎に画面を用意するようにしていたが、1画面で異なるフロントギアのギアポジションを表示させるようにしてもよい。
・ギア比を求める際に車輪回転センサ21を備えていない場合にはGPS受信器37によって取得した走行距離を利用し、ペダル一回転当たりの走行距離をタイヤの周長で除することでギア比を算出するようにしてもよい。
・ギアポジションについてディスプレイ部16に表示させるだけでなく、音声で表示するようにしてもよい。
・上記実施の形態ではケイデンス−走行速度表示モードやギア比表示モードとするためにユーザーが自身で表示モードを変更させるようにしていたが、いくつかの表示モードでの表示画面が一定時間ごとに切り替わるような設定としてもよい。また、このようなケイデンス−走行速度表示モードやギア比表示モードの表示画面49,51をデフォルトの表示画面としてディスプレイ部16に表示させるようにしてもよい。
・地図表示モードにおいて表示画面51にはギアポジションに代わってあるいはギアポジションと一緒にギア比を表示させるようにしてもよい。
・本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において変更した態様で実施することは自由である。
【符号の説明】
【0038】
10…自転車用電子システムとしてスピードメータ、16…表示手段を構成するディスプレイ部、MC…走行速度算出手段、クランク回転速度算出手段、走行関数算出手段、ギアポジション判断手段としてのコントローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段変速機構を有する自転車に使用される自転車用電子システムであって、
自転車の走行速度に関する情報を算出する走行速度算出手段と、
クランクの回転速度に関する情報を算出するクランク回転速度算出手段と、
第1のタイミングにおいて実際に走行することで、その走行速度に対応するクランク回転速度の相関関係を示すデータ(以下、相関データとする)を経時的に取得し、得られた相関データに基づいて前記多段変速機構におけるフロントギアとリアギアの組み合わせ(以下、ギアポジションとする)ごとの走行速度とクランク回転速度との関係を示す関数(以下走行関数とする)を算出する走行関数算出手段と、
第1のタイミングよりも後のタイミングにおいて走行することで、現在の走行速度と現在のクランク回転速度がどのギアポジションの走行関数に対応するかを判断するギアポジション判断手段と、
前記ギアポジション判断手段において現在の走行速度と現在のクランク回転速度がどのギアポジションの走行関数に対応するかに関する情報(以下、出力情報とする)を出力する出力手段とを備えることを特徴とする自転車用電子システム。
【請求項2】
前記出力情報としてギアポジションの走行関数と関連付けた現在の走行速度とその走行速度に対応するクランク回転速度の相関データを備えることを特徴とする請求項1に記載の自転車用電子システム。
【請求項3】
前記走行速度算出手段は車輪の回転数を検出する車輪回転数検出手段からの検出値と車輪の周長から走行距離を算出し、得られた走行距離を単位時間当たりの車輪の回転数で除することで走行速度を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の自転車用電子システム。
【請求項4】
前記走行速度算出手段はGPS受信装置によって得られた位置情報に基づいて走行速度を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の自転車用電子システム。
【請求項5】
前記走行関数算出手段において走行関数を算出するために走行する際に、走行前あるいは走行後にユーザーがギアポジションを設定することでギアポジションを明確な状態とするようにしたことを特徴とする請求項4に記載の自転車用電子システム。
【請求項6】
前記出力情報として現在の走行速度とその走行速度に対応するクランク回転速度の相関データと関連させて現在走行中のギアポジションを出力することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の自転車用電子システム。
【請求項7】
前記出力情報として現在のギア比と関連させて現在走行中のギアポジションを出力することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の自転車用電子システム。
【請求項8】
前記出力手段は表示手段であって、同表示手段は交差する2軸方向を走行速度とクランク回転速度として所定の走行関数を表示させるとともに、現在の走行速度とその走行速度に対応するクランク回転速度の相関データをその走行関数と関連付けて表示させるようにしたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の自転車用電子システム。
【請求項9】
前記表示手段には複数の走行関数を同時に表示させることを特徴とする請求項8に記載の自転車用電子システム。
【請求項10】
前記出力手段は表示手段であって、前記多段変速機構が複数のフロントギアを備える場合に、前記表示手段は現在の走行状態のギアポジションが一のフロントギアである場合には、当該一のフロントギアが共通する複数の走行関数を第1の表示画面として表示させるとともに、現在の走行状態が他の一のフロントギアのフロントギアである場合には、当該他の一のフロントギアが共通する複数の走行関数を第2の表示画面として表示させるようにしたことを特徴とする請求項8又は9に記載の自転車用電子システム。
【請求項11】
前記出力手段は表示手段であって、同表示手段には走行関数を取得したギアポジションのギア比が複数表示され、それらに関連付けて現在走行中のギアポジションを表示させることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の自転車用電子システム。
【請求項12】
前記出力手段は表示手段であって、同表示手段には現在走行中のギアポジションを構成しているフロントギアとリアギアの位置を表示させることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の自転車用電子システム。
【請求項13】
現在走行中のギアポジションに対応する走行関数候補が複数存在する場合には、前記表示手段はそれら複数の候補の走行関数、ギアポジションあるいはギア比と関連付けて現在の相関データを表示させることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の自転車用電子システム。
【請求項14】
ギア比判断手段は経時的に取得される現在の相関データが、対応するギア比の走行関数に対してずれを生じていると判断した場合にその旨の報知をさせることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の自転車用電子システム。
【請求項15】
前記出力手段は表示手段であって、前記ギア比判断手段は所定のギア比での走行関数において相関データを経時的に取得すると共に登り傾斜量を傾斜検出手段によって検出し、過去の登り傾斜量に対して現在の登り傾斜量を関連付けて現在の相関データを前記表示手段に表示させることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の自転車用電子システム。
【請求項16】
前記出力手段は表示手段であって、走行距離に基づいて消費カロリーを計算する消費カロリー計算手段を備え、前記表示手段に消費カロリーを表示させるようにしたことを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の自転車用電子システム。
【請求項17】
前記傾斜検出手段によって検出した登り傾斜量を走行抵抗として消費カロリーを計算する際のパラメータとすることを特徴とする請求項16に記載の自転車用電子システム。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載の自転車用電子システムの制御機能をコンピュータに実現させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−6497(P2013−6497A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140106(P2011−140106)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(391001848)株式会社ユピテル (238)