説明

自閉症スペクトラム障害の診断、リスク評価、及びモニタリングを行うための方法

自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断、リスク評価、及びモニタリングを行うための方法が開示されている。より具体的には、本発明は、ASDの臨床症状を有する個人と、ASDの症状を示さない対象との間で存在量が異なることが見い出されたヒト血漿中の小分子(代謝産物)の測定に関する。さらに、本発明は、ASDに関連した生化学的異常の寛解を目的とした推定的治療戦略のモニタリングに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD、Autism Spectrum Disorder)の診断、リスク評価、及びモニタリングに関する。より具体的には、本発明は、ASDの臨床症状を有する個人と、ASDの症状を示さない対象との間で存在量が異なることが見出されている小分子又は代謝産物の測定に関する。さらに、本発明は、ASDに関連した生化学的異常の寛解を目的とした推定的治療戦略のモニタリングに関する。
【背景技術】
【0002】
自閉症とは、原因不明の生涯にわたる障害である。この障害は、行動上、発達上、神経病理学上、及び知覚上の異常によって特徴付けられ(American Psychiatric Association,1994)、通常は、3歳から10歳の間で診断され、5〜8歳の小児で有病率がピークになることが観察されている(Yeargin-Allsopp, Rice et al. 2003)。現時点では、小脳プルキンエ細胞密度の減少(Courchesne 1997、Palmen, van Engeland et al. 2004)、酸化ストレスの増加(Yorbik, Sayal et al. 2002、Sogut, Zoroglu et al. 2003、Chauhan, Chauhan et al. 2004、James, Cutler et al. 2004、Zoroglu, Armutcu et al. 2004、Chauhan and Chauhan 2006)、及びメチオニン/ホモシステイン代謝異常(James, Cutler et al. 2004)が、数少ない堅牢な自閉症の生物学的特徴である。
【0003】
自閉症が出生前に原因を有するのか(Courchesne, Redcay et al. 2004)又は生後に原因を有するのか(Kern and Jones 2006)に関しては諸説あるが、対象の生涯にわたって、症状及び病態が持続することは一般的に受け入れられている(Bauman and Kemper 2005)。これらの知見により、自閉症には、その原因かどうかに関わらず、その根底にある進行中の生化学的異常が存在することが示唆される。しかしながら、ASDの病因又は総体的症状と相関する、そのような根底にある生化学的異常は、報告されていない。そのため、自閉症に関する生化学検査は存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】American Psychiatric Association (1994). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders - Fourth Edition
【非特許文献2】Yeargin-Allsopp, M., C. Rice, et al. (2003). "Prevalence of autism in a US metropolitan area." Jama 289(1): 49-55
【非特許文献3】Courchesne, E. (1997). "Brainstem, cerebellar and limbic neuroanatomical abnormalities in autism." Curr Opin Neurobiol 7(2): 269-78
【非特許文献4】Palmen, S. J., H. van Engeland, et al. (2004). "Neuropathological findings in autism." Brain 127(Pt 12): 2572-83
【非特許文献5】Yorbik, O., A. Sayal, et al. (2002). "Investigation of antioxidant enzymes in children with autistic disorder." Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids 67(5): 341-3
【非特許文献6】Sogut, S., S. S. Zoroglu, et al. (2003). "Changes in nitric oxide levels and antioxidant enzyme activities may have a role in the pathophysiological mechanisms involved in autism." Clin Chim Acta 331(1-2): 111-7
【非特許文献7】Chauhan, A., V. Chauhan, et al. (2004). "Oxidative stress in autism: increased lipid peroxidation and reduced serum levels of ceruloplasmin and transferrin--the antioxidant proteins." Life Sci 75(21): 2539-49
【非特許文献8】James, S. J., P. Cutler, et al. (2004). "Metabolic biomarkers of increased oxidative stress and impaired methylation capacity in children with autism." Am J Clin Nutr 80(6): 1611-7
【非特許文献9】Zoroglu, S. S., F. Armutcu, et al. (2004). "Increased oxidative stress and altered activities of erythrocyte free radical scavenging enzymes in autism." Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci 254(3): 143-7
【非特許文献10】Chauhan, A. and V. Chauhan (2006). "Oxidative stress in autism." Pathophysiology 13(3): 171-81
【非特許文献11】Courchesne, E., E. Redcay, et al. (2004). "The autistic brain: birth through adulthood." Curr Opin Neurol 17(4): 489-96
【非特許文献12】Kern, J. K. and A. M. Jones (2006). "Evidence of toxicity, oxidative stress, and neuronal insult in autism." J Toxicol Environ Health B Crit Rev 9(6): 485-99
【非特許文献13】Bauman, M. L. and T. L. Kemper (2005). "Neuroanatomic observations of the brain in autism: a review and future directions." Int J Dev Neurosci 23(2-3): 183-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、ASDに罹患している疑いのある対象のASDを診断することができる方法、又はASDのリスクのある対象を識別することができる方法に対する必要性が存在し、さらに、ASD治療の治療戦略のモニタリングを支援することができる方法に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
臨床的にASDと診断された対象は、非ASD対象と比べて血漿中での存在量が異なる小分子又は代謝産物を有することが判明した。ASDの症状をほとんど又は全く示さない何人かのハイリスク対象(つまり、家族歴)が、完全な臨床的ASD表現型を有する対象の表現型と相似した生化学的表現型を示すことがさらに判明した。そのため、ASDを診断するための方法及びASDのリスクが高いことを診断するための方法が提供される。
【0007】
臨床的にASDと診断された対象は、
a)飽和又は一不飽和極長鎖脂肪酸(VLCFA、very long chain fatty acid)含有リン脂質レベルの上昇、
b)ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)含有リン脂質レベルの上昇、
c)多価不飽和VLCFA含有リン脂質レベルの上昇、又は
d)それらの組合せ
のいずれかにより一般的に記述される表現型を有すると生化学的に特徴付けることができることが判明した。
【0008】
実験的ASD治療薬(アセチルカルニチン)が、上記の生化学的ASD表現型を修飾することができ、そのため一部のASD生化学的マーカーが非ASDレベルに回復し、一部のASD生化学的マーカーが変化しないままであることが判明した。アセチルカルニチンを摂取したASD対象は、アセチルカルニチンを摂取しなかったASD対象並びにアセチルカルニチンを摂取しなかった非ASD対象と区別される生化学的変化を示すことが判明した。そのため、一般的に実験的ASD治療薬をモニタリングするための方法、及びアセチルカルニチン治療を特異的にモニタリングするための方法が提供される。
【0009】
ASDを呈する対象の鑑別的な生化学的特徴付けのための方法が提供される。この鑑別的な生化学的特徴付けは、ASD症状を呈する対象の治療及び管理に影響を与える。第一には、類似の臨床表現型を有するASD対象が、劇的に異なる生化学的表現型を有することが判明した。これらの知見は、対象の生化学的表現型に従って、異なるASD対象のために異なる治療戦略を開発する必要があり得ることを示す。より重要なことには、本知見は、ASDと診断された対象におけるASD治療薬の用量及び治療有効性のモニタリングは、その特定の対象の生化学的プロファイルに個別化されることが好ましいことを示す。例えば、高い飽和VLCFAレベルを示す対象における飽和VLCFAレベルのモニタリングは、有効な治療又は用量に関して最も感受性が高い決定因を表すことができるが、そのような測定は、高い多価不飽和VLCFAレベル及び正常な飽和VLCFAレベルを示すASD対象にとっては、ほとんど又は全く価値がない場合もある。
【0010】
1つの例示的な実施形態では、本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)に関するヒト対象の健康状態又は健康状態の変化を診断するか、又はヒト対象のASDのリスクを判定する方法であって、
a)患者から得られた試料を分析して、1又は複数の精密質量の定量的データを取得するステップと、
b)前記1又は複数の精密質量の定量的データを、1又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較するステップと、
c)前記比較を使用して、定量的データと1又は複数の精密質量の対応するデータとの間の差異に基づき、ASDに関するヒト対象の健康状態又は健康状態の変化を診断するステップとを含み、
1又は複数の精密質量が、表2〜10のいずれか1つに列挙されている方法を提供する。
【0011】
別の例示的な実施形態では、本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)に関するヒト対象の健康状態又は健康状態の変化を診断するか、又はヒト対象のASDのリスクを判定する方法であって、
a)患者から得られた試料を分析して、
飽和又は一不飽和極長鎖脂肪酸(VLCFA)含有リン脂質、
ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)含有リン脂質、
DHA前駆物質(24:5、24:6)、
DHAベータ酸化の異化産物(20:6)、
多価不飽和VLCFA含有リン脂質、及び
それらの組合せ
のうちの1又は複数の定量的データを取得するステップと、
b)定量的データを、1又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較するステップと、
c)前記比較を使用して、1又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較した際に、以下の特徴:
飽和又は一不飽和極長鎖脂肪酸(VLCFA)含有リン脂質レベルの上昇、
ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)含有リン脂質レベルの上昇、
DHA前駆物質(24:5、24:6)レベルの上昇、
DHAベータ酸化の異化産物(20:6)レベルの上昇、
多価不飽和VLCFA含有リン脂質レベルの上昇、又は
それらの組合せ
のうちの1つを示すことに基づき、ASDに関するヒト対象の健康状態又は健康状態の変化を診断するステップとを含む方法を提供する。
【0012】
別の例示的な実施形態では、本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)に関するヒト対象の健康状態又は健康状態の変化を診断するか、又はヒト対象のASDのリスクを判定する方法であって、
a)患者から得られた試料を分析して、1又は複数の代謝産物の定量的データを取得するステップと、
b)前記1又は複数の代謝産物の定量的データを、1又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較するステップと、
c)前記比較を使用して、定量的データと1又は複数の代謝産物の対応するデータとの間の差異に基づき、ASDに関するヒト対象の健康状態又は健康状態の変化を診断するステップとを含み、
1又は複数の代謝産物が、表3〜10のいずれか1つに列挙されている方法を提供する。
【0013】
別の例示的な実施形態では、本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)に関するヒト対象の健康状態又は健康状態の変化を診断するか、又はヒト対象のASDのリスクを識別するための方法であって、ヒト対象に由来する試料の、表2〜10のいずれか1つに列挙された1又は複数の精密質量を含む定量的データを、1又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較することを含み、自閉症スペクトラム障害(ASD)又はASDのリスクに関するヒト対象の健康状態又は健康状態の変化が、ヒト対象に由来する試料と1又は複数の参照試料と間の1又は複数の精密質量の強度の差異に基づく方法を提供する。
【0014】
別の例示的な実施形態では、本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)に関するヒト対象の健康状態又は健康状態の変化を診断するか、又はヒト対象のASDのリスクを識別するための方法であって、ヒト対象に由来する試料の、表3〜10のいずれか1つに列挙された1又は複数の代謝産物を含む定量的データを、1又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較することを含み、自閉症スペクトラム障害(ASD)又はASDのリスクに関するヒト対象の健康状態又は健康状態の変化が、ヒト対象に由来する試料と1又は複数の参照試料と間の1又は複数の代謝産物の強度の差異に基づく方法を提供する。
【0015】
本発明のこれら及び他の特徴は、添付の図面を参照する以下の説明で、より明白になろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】自閉症対象の血漿におけるPtdEtn(ホスファチジルエタノールアミン、phosphatidlyethanolamine)の変化を要約した図である。
【図2】自閉症と診断された個々の対象から1年間にわたって収集された縦断的試料中の、主要なDHA及びアラキドン酸(AA、arachidonic acid)含有PlsEtn(プラスメニルエタノールアミン、plasmenylethanolamine)及びPtdEtnのレベルを、対照に対して表すグラフである。値は、対照に対して標準化され、PtdEtn16:0/18:0に対する比率の平均+/−SEMとして表されており、小児は各々n=3、対照はn=30、は、対照に対してp<0.05であることを表す。
【図3】自閉症と診断された個々の対象から1年間にわたって収集された縦断的試料中の主要なVLCFA含有PtdEtnのレベルを、対照に対して表すグラフである。値は、対照に対して標準化され、PtdEtn16:0/18:0に対する比率の平均+/−SEMとして表されており、小児は各々n=3、対照はn=30、は、対照に対してp<0.05であることを表す。
【図4】自閉症と診断された個々の対象から1年間にわたって収集された縦断的試料中のカルニチン及びO−アセチルカルニチンのレベルを、対照に対して表すグラフである。値は、対照に対して標準化され、平均+/−SEMとして表されており、小児は各々n=3、対照はn=30、は、対照に対してp<0.05であることを表す。
【図5】カルニチンサプリメントを摂取した自閉症対象[n=12(4×3)]から1年間にわたって収集された縦断的試料中の、主要なDHA及びAA含有PlsEtn並びにVLCFA含有PtdEtnのレベルを、カルニチンサプリメントを摂取しなかった対象[n=33(11×3)]に対して、及び対照[n=30(10×3)]に対して表すグラフである。値は、対照に対して標準化され、PtdEtn16:0/18:0に対する比率の平均+/−SEMとして表されており、は対照に対してp<0.05、#はカルニチン非摂取の自閉症に対してp<0.05であることを表す。
【図6】自閉症対象及び彼らの無症候性の兄弟から1年間にわたって収集された縦断的試料中の、主要なDHA含有PlsEtn及びPtdEtn並びにAA含有PlsEtnの家族内比較を表すグラフである。値は、対照に対して標準化され、PtdEtn16:0/18:0に対する比率の平均+/−SEMとして表されており、は、対照に対してp<0.05であることを表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
臨床的に診断されたASDと、ASDの症状を示さない正常患者との間で存在量が異なることが見出される小分子又は代謝産物が同定された。これらの差異に基づいて、ASDに関する対象の健康状態又は健康状態の変化を決定することができる。例えばASDの存在又は非存在を診断するために対象の健康状態を診断する方法、及び例えばASD治療をモニタリングするために健康状態の変化を診断する方法が提供される。
【0018】
ASDに関する対象の健康状態又は健康状態の変化を診断するための本発明の例示的な方法は、
a)ヒト対象から得られた試料(複数可)を分析して、1又は複数の代謝産物マーカー又は精密質量の定量的データを取得するステップと、
b)前記1又は複数の代謝産物マーカー又は精密質量の定量的データを、1又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較するステップと、
c)前記比較を使用して、対象の健康状態又は健康状態の変化を決定することに至るステップとを含む。
【0019】
例示的な方法は、分析用に1又は複数の試料をヒト対象から得る予備ステップをさらに含んでいてもよい。
【0020】
「代謝産物」という用語は、特定の小分子を意味しており、試料中のそのレベル又は強度を測定し、疾患状態を診断するためのマーカーとして使用することができる。これらの小分子は、本明細書中では、「代謝産物マーカー」、「代謝産物成分」、「バイオマーカー」、又は「生化学マーカー」とも呼ばれる場合がある。
【0021】
1つの例示的な実施形態では、対象の生化学的ASD表現型を診断するための方法であって、ASDを罹患している可能性が高い1又は複数の患者由来の1又は複数の試料を、高分解能質量分析計(例えば、限定することは望まないが、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTMS、Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometer))に導入するステップと、1又は複数の代謝産物マーカーの定量的データを取得するステップと、必要に応じて、前記定量的データのデータベースを生成するステップと、試料由来の定量的データを、非ASD対象から収集された対応する参照データと比較するステップと、前記比較を使用して、対象の生化学的ASD表現型を決定するステップとを含む方法が提供される。対象の生化学的ASD表現型は、試料由来の定量的データを対応する参照データと比較した際に識別される差異に基づいて決定することができる。ASD対象と非ASD対象との間の差異は、表2、11〜18のいずれか1つに記載されている。
【0022】
別の例示的な実施形態では、ASDのリスクのある対象を識別する方法であって、ASD状態が不明な1又は複数の対象由来の1又は複数の試料を、高分解能質量分析計(例えば、限定することは望まないが、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTMS))に導入するステップと、表2〜10のいずれか1つに列挙されている親質量の1又は複数の定量的データを取得するステップと、必要に応じて、前記定量的データのデータベースを生成するステップと、試料由来の定量的データを、非ASD対象から収集された対応する参照データと比較するステップと、前記比較を使用して、対象のASDリスクが高いかどうかを決定するステップとを含む方法が提供される。
【0023】
別の例示的な実施形態では、ASD治療をモニタリングするための方法であって、1又は複数のASD対象由来の複数の試料を、高分解能質量分析計(例えば、限定することは望まないが、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTMS))に導入するステップと、表2〜10のいずれか1つに列挙されている親質量の1又は複数の定量的データを取得するステップと、必要に応じて、前記定量的データのデータベースを生成するステップと、複数の試料由来の定量的データを、互いに、及び非ASD対象から収集された対応する参照データと、及び/又は治療前段階(pre-therapy stage)若しくはより初期の治療段階の対象(複数可)から事前に収集された定量的データと比較するステップと、前記比較を使用して、治療戦略が対象に潜在する生化学的表現型に陽性効果を与えるか、陰性効果を与えるか、又は効果を及ぼさないかを決定するステップとを含む方法が提供される。
【0024】
1つの例示的な実施形態では、対象の生化学的ASD表現型を診断するための方法であって、臨床的にASDと診断された1又は複数の患者由来の1又は複数の試料を、多重ステージ質量分析計(例えば、限定することは望まないが、トリプル四重極質量分析計(TQ、triple quadrupole mass spectrometer))に導入するステップと、表3〜10のいずれか1つに列挙されている代謝産物の1又は複数の定量的データを取得するステップと、必要に応じて、前記定量的データのデータベースを生成するステップと、試料由来の定量的データを、非ASD対象から収集された対応する参照データと比較するステップと、前記比較を使用して、対象がASDを有するかどうかを決定するステップとを含む方法が提供される。
【0025】
別の例示的な実施形態では、ASDのリスクのある対象を識別する方法であって、ASD状態が不明な1又は複数の対象由来の1又は複数の試料を、多重ステージ質量分析計(例えば、限定することは望まないが、トリプル四重極質量分析計(TQ))に導入するステップと、表3〜10のいずれか1つに列挙されている代謝産物の1又は複数の定量的データを取得するステップと、必要に応じて、前記定量的データのデータベースを生成するステップと、試料由来の定量的データを、非ASD対象から収集された対応する参照データと比較するステップと、前記比較を使用して、対象のASDリスクが高いかどうかを決定するステップとを含む方法が提供される。
【0026】
別の例示的な実施形態では、ASD治療をモニタリングするための方法であって、1又は複数のASD対象由来の複数の試料を、多重ステージ質量分析計(例えば、限定することは望まないが、トリプル四重極質量分析計(TQ))に導入するステップと、表3〜10のいずれか1つに列挙されている代謝産物の1又は複数の定量的データを取得するステップと、必要に応じて、前記定量的データのデータベースを生成するステップと、複数の試料由来の定量的データを、互いに、及び/又は非ASD対象から収集された対応する参照データと、及び/又は治療前段階若しくはより初期の治療段階の対象(複数可)から事前に収集された定量的データと比較するステップと、前記比較を使用して、治療戦略が対象に潜在する生化学的表現型に陽性効果を与えるか、陰性効果を与えるか、又は効果を及ぼさないかを決定するステップとを含む方法が提供される。
【0027】
1つの例示的な実施形態では、対象の生化学的ASD表現型を診断するための方法であって、1又は複数のASD対象から、表2〜10のいずれか1つに列挙されている代謝産物の1又は複数の定量的データを取得するステップと、必要に応じて、前記定量的データのデータベースを生成するステップと、試料由来の定量的データを、非ASD対象から収集された対応する参照データと比較するステップと、前記比較を使用して、対象がASDを有するかどうかを決定するステップとを含む方法が提供される。
【0028】
別の例示的な実施形態では、ASDのリスクのある対象を識別する方法であって、ASD状態が不明な1又は複数の対象から、表2〜10のいずれか1つに列挙されている代謝産物の1又は複数の定量的データを取得するステップと、必要に応じて、前記定量的データのデータベースを生成するステップと、試料由来の定量的データを、非ASD対象から収集された対応する参照データと比較するステップと、前記比較を使用して、対象のASDリスクが高いかどうかを決定するステップとを含む方法が提供される。
【0029】
別の例示的な実施形態では、ASD治療をモニタリングするための方法であって、1又は複数のASD対象から収集された複数の試料から、表2〜10のいずれか1つに列挙されている代謝産物の1又は複数の定量的データを取得するステップと、必要に応じて、前記定量的データのデータベースを生成するステップと、複数の試料由来の定量的データを、互いに、及び/又は非ASD対象から収集された対応する参照データと、及び/又は治療前段階若しくはより初期の治療段階の対象(複数可)から事前に収集された定量的データと比較するステップと、前記比較を使用して、治療戦略が対象に潜在する生化学的表現型に陽性効果を与えるか、陰性効果を与えるか、又は効果を及ぼさないかを決定するステップとを含む方法が提供される。
【0030】
当業者には明白であろうが、表2〜10に列挙された代謝産物を定量するためには、上記で例示されたもの以外の他の分析技術を使用することができ、それらには、比色化学アッセイ(UV、又は他の波長)、抗体に基づく酵素結合免疫吸着測定法(ELISA、enzyme-linked immunosorbant assay)、チップに基づく核酸のポリメラーゼ連鎖反応検出アッセイ、ビーズに基づく核酸検出法、ディップスティック化学アッセイ又は他の化学反応、磁気共鳴画像法(MRI、magnetic resonance imaging)、陽電子放出断層撮影(PET、positron emission tomography)スキャン、コンピューター断層撮影(CT、computerized tomography)スキャンなどの画像解析法、核磁気共鳴法(NMR、nuclear magnetic resonance)、及び種々の質量分析法に基づくシステムが含まれる。
【0031】
上記で概説したように、ASDに関する対象の健康状態又は健康状態の変化を診断するための本発明の例示的な方法は、
a)ヒト対象から得られた試料(複数可)を分析して、1又は複数の代謝産物マーカーの定量的データを取得するステップと、
b)前記1又は複数の代謝産物マーカーの定量的データを、1又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較するステップと、
c)前記比較を使用して、対象の健康状態又は健康状態の変化を決定することに至るステップとを含む。
【0032】
例示的な方法は、分析用に1又は複数の試料をヒト対象から得る予備ステップをさらに含んでいてもよい。
【0033】
試料を分析するステップ(ステップa)は、質量分析計(MS、mass spectrometer)を使用して試料を分析することを含んでいてもよい。例えば、限定することは望まないが、そのような質量分析計は、FTMS型、オービトラップ型、飛行時間型(TOF、time of flight)、磁場型、線形イオントラップ型(LIT、linear ion trap)、又は四重極型であってもよい。或いは、質量分析計には、付加的な前検出器質量フィルターが装備されていてもよい。例えば、限定することは望まないが、そのような装置は、一般的に、四重極型FTMS(Q−FTMS、quadrupole-FTMS)、四重極型TOF(Q−TOF、quadrupole TOF)、又はトリプル四重極型(TQ又はQQQ)と呼ばれる。そのうえ、質量分析計は、親イオン検出モード(MS)、又はnが2以上であるMSnモードのいずれかで操作することができる。MSnとは、衝突誘起解離(CID、collision induced dissociation)又は断片イオンを生成する他の断片化手順により親イオンが断片化され、次いで前記断片の1又は複数が質量分析計により検出される状況を指す。その後、そのような断片は、さらなる断片を生成するためにさらに断片化される場合がある。或いは、試料は、液体クロマトグラフィーシステム又はガスクロマトグラフィーシステムを使用して、又は直接インジェクションにより、質量分析計に導入することができる。
【0034】
「鑑別診断」又は「鑑別的に診断すること」という用語は、ある疾患状態の種々の側面が互いに区別できることを意味する。特に、本明細書中に開示された方法は、ASDの種々の生化学的表現型の鑑別診断を可能にし、例えば、これに限定することは望まないが、本明細書中に開示された方法は、以下の生化学的表現型を有するASDを罹患している又はそのリスクがある対象の診断を提供することができる:
a)飽和又は一不飽和極長鎖脂肪酸(VLCFA)含有リン脂質レベルの上昇、
b)ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)含有リン脂質レベルの上昇、
c)多価不飽和VLCFA含有リン脂質レベルの上昇、又は
d)それらの組合せ。
【0035】
本明細書中で開示された方法によると、体内の任意の場所に由来する任意のタイプの生体試料、例えば、これらに限定されないが、血液(血清/血漿)、CSF、尿、糞便、呼気、唾液、又は腫瘍、隣接する正常な平滑筋及び骨格筋、脂肪組織、肝臓、皮膚、毛髪、脳、腎臓、膵臓、肺、結腸、胃、若しくはその他を含む任意の固形組織の生検を使用することができる。特に所望なのは、血漿試料である。「血漿」という用語が本明細書中で使用されるが、当業者であれば、血清若しくは全血、又は全血の亜分画も使用できることを認識しよう。CSFは、局所麻酔を必要とする腰椎穿刺によって得ることができる。
【0036】
非限定的な例では、血液試料を患者から採取する場合、試料を処理することができる方法がいくつかある。処理の範囲は、少ない方では無処理(つまり、全血の冷凍)、又は複雑な方では特定の細胞タイプの単離であり得る。最も一般的で最も定常的な手順には、全血から血清又は血漿のいずれかを調製することが伴う。ろ紙又は他の固定化材料等の固相支持体に血液試料をスポッティングすることを含む血液試料の処理方法は全て、本明細書中に記述された方法の範囲内である。
【0037】
限定することは望まないが、その後、上述の処理血液又は血漿試料をさらに処理して、処理血液試料内に含有されている代謝産物の検出及び測定に使用される系統的分析技術に適合させることができる。処理のタイプは、少ない方ではさらなる処理無しから、複雑な方では微分抽出及び化学誘導体化に及ぶ。抽出法には、メタノール、エタノール、アルコール及び水の混合液、又は酢酸エチル若しくはヘキサン等の有機溶媒等の一般的な溶媒中での、超音波処理法、ソックスレー抽出法、マイクロ波支援抽出法(MAE、microwave assisted extraction)、超臨界流体抽出(SFE、supercritical fluid extraction)、高速溶媒抽出法(ASE、accelerated solvent extraction)、高圧液体抽出法(PLE、pressurized liquid extraction)、加圧熱水抽出法(PHWE、pressurized hot water extraction)、及び/又は界面活性剤支援抽出法(PHWE、surfactant assisted extraction)が挙げられる。FTMS非標的分析用及びフローインジェクションLC−MS/MS分析用に代謝産物を抽出するための特に所望の方法は、それによって無極性代謝産物が有機溶媒に溶解し、極性代謝産物が水性溶媒に溶解する液体/液体抽出を実施することである。
【0038】
抽出された試料は、当技術分野で公知のものを含む任意の好適な方法を使用して分析することができる。例えば、限定することは望まないが、生体試料の抽出物は、直接インジェクション又はクロマトグラフィー分離後のいずれかによる、本質的にあらゆる質量分析プラットフォームでの分析に容易に使用することができる。典型的な質量分析計は、試料内の分子をイオン化するイオン源、及びイオン化された分子又は分子の断片を検出するための検出器で構成される。一般的なイオン源の非限定的な例には、電子衝撃、エレクトロスプレーイオン化(ESI、electrospray ionization)、大気圧化学イオン化(APCI、atmospheric pressure chemical ionization)、大気圧光イオン化(APPI、atmospheric pressure photo ionization)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI、matrix assisted laser desorption ionization)、表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI、surface enhanced laser desorption ionization)、及びそれらの派生イオン源が挙げられる。一般的な質量分離及び検出システムには、四重極型、四重極イオントラップ型、線形イオントラップ型、飛行時間型(TOF)、磁場型、イオンサイクロトロン型(FTMS)、オービトラップ型、並びにそれらの派生型及び組合せを挙げることができる。他のMSに基づくプラットフォームよりFTMSが有利である点は、FTMSが、1ダルトンの数百分の1しか違わない代謝産物の分離を可能にする高分解能を有することであり、そうした代謝産物の多くは、より低分解能の装置では見逃されてしまうであろう。
【0039】
代謝産物は、一般的に、質量分析技術により測定されるそれらの精密質量により特徴付けられる。精密質量は、「精密中性質量」又は「中性質量」とも呼ばれる場合がある。本明細書中では、代謝産物の精密質量、又は実質的にそれに等価な質量が、ダルトン(Da)で示される。「実質的にそれに等価な」とは、精密質量の+/−5ppmの差異は同じ代謝産物を示すはずであることを意味する。精密質量は、中性代謝産物の質量として示される。試料の分析中に生じる代謝産物のイオン化中に、代謝産物は、1又は複数の水素原子の喪失若しくは獲得、又は電子の喪失若しくは獲得のいずれかを引き起すであろう。これにより、精密質量は、イオン化中に喪失又は獲得した水素原子及び電子の質量分だけ精密質量が異なる「イオン化質量」に変化する。別段の定めがない限り、本明細書中では、精密中性質量が参照される。
【0040】
同様に、代謝産物がその分子式により記述される場合、中性代謝産物の分子式が示される。当然、イオン化された代謝産物の分子式は、イオン化中に喪失又は獲得した水素原子の数だけ、又は非水素付加イオンの付加により、中性の分子式と異なることになる。
【0041】
データは分析中に収集され、1又は複数の代謝産物の定量的データが取得される。「定量的データ」は、試料中に存在する特定の代謝産物のレベル又は強度を測定することにより取得される。
【0042】
定量的データは、1又は複数の参照試料由来の対応するデータと比較される。「参照試料」は、特定の疾患状態に好適な任意の参照試料である。例えば、いかなる意味でも限定することは望まないが、参照試料は、対照個体、つまりASDの家族歴を有する又は有しないASD非罹患個人(本明細書中では「「正常」対応体(“'normal' counterpart”)」とも呼ばれる)に由来する試料であってもよく、また参照試料は、臨床的にASDと診察された患者から得られた試料であってもよい。当業者であれば理解されようが、定量的データと比較するために、複数の参照試料を使用することができる。例えば、限定することは望まないが、1又は複数の参照試料は、非ASD対照個体から得られた第1の参照試料であってもよい。1又は複数の参照試料は、ペルオキシゾームタイプのASDと臨床的に診断された患者から得られた第2の参照試料、ミトコンドリアタイプのASDと臨床的に診断された患者から得られた第3の参照試料、未知のタイプと臨床的に診断されたASDを罹患している患者から得られた第4の参照試料、又はそれらの任意の組合せをさらに含むことができる。疾患状態の対象変化をモニタリングする場合には、参照試料は、治療の結果としての疾患状態の変化を比較するために、治療前又は治療中のいずれかのより初期の時期に得られた試料を含んでいてもよい。
【0043】
本発明の範囲内にある方法を、以下の非限定的な実施例でさらに例示する。
【実施例1】
【0044】
精密質量バイオマーカーを使用したASD対象の識別
試料収集。3つの血漿試料を、15人の臨床的に診断されたASD対象、及び12人の非ASD対照から、12カ月間にわたって収集した(6カ月間隔でサンプリング)。
【0045】
試料抽出。血漿試料は、分析のために解凍するまで−80℃で保管した。抽出は全て氷上で実施した。代謝産物を、それぞれ1:1:5の比率の1%水酸化アンモニウム及び酢酸エチル(EtOAc)を使用して3回抽出し、その後1:1:5の比率の0.33%ギ酸及びEtOAcでさらに2回抽出した。抽出間で試料を4℃で10分間3500rpmで遠心分離し、有機層を一緒にした。その後、有機抽出物及び水性抽出物を、分析まで−80℃で保管した。
【0046】
質量分光分析。血漿抽出物を、FTMSに直接インジェクションし、ポジティブモード及びネガティブモードの両方でESI又は大気圧化学イオン化(APCI)のいずれかによりイオン化することによって分析した。試料抽出物を、ネガティブイオン化モードの場合は、メタノール:0.1%(v/v)水酸化アンモニウム(50:50、v/v)で、又はポジティブイオン化モードの場合は、メタノール:0.1%(v/v)ギ酸(50:50、v/v)で、3倍又は6倍のいずれかに希釈した。APCIの場合、試料抽出物は、希釈せずに直接インジェクトした。分析は全て、7.0Tのアクティブシールド型超伝導磁石を装備したBruker Daltonics APEX IIIフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(Bruker Daltonics社製、ビルリカ、米国マサチューセッツ州)で実施した。エレクトロスプレーイオン化(ESI)及び/又はAPCIを使用して、毎時1200μLの流速で、試料を直接インジェクトした。イオン移動/検出パラメーターは、セリン、テトラアラニン、レセルピン、Hewlett-Packard社製調整混合物、及び副腎皮質刺激ホルモン断片4〜10の標準混合物を使用して最適化した。さらに、装置条件を、装置メーカーの推薦に従って、100〜1000amuの質量範囲でイオン強度及び広帯域累積が最適になるように調整した。上記で言及した標準物質の混合物を使用して、取得範囲が100〜1000amuの質量精度について、各試料スペクトルを内部的に較正した。
【0047】
合計で、抽出物及びイオン化モードの組合せで構成される6つの個別分析を、各試料について取得した:
水性抽出物
1.ポジティブESI(分析モード1101)
2.ネガティブESI(分析モード1102)
有機抽出物
3.ポジティブESI(分析モード1201)
4.ネガティブESI(分析モード1202)
5.ポジティブAPCI(分析モード1203)
6.ネガティブAPCI(分析モード1204)
【0048】
質量分析データ処理。線形最小二乗回帰線を使用して、各内部標準質量ピークが、その理論的質量と比較して、1p.p.m.未満の質量誤差を示すように質量軸の値を較正した。Bruker Daltonics Inc.社製のXMASSソフトウェアを使用して、1メガワードのデータファイルサイズを取得し、2メガワードまでゼロフィルした。フーリエ変換及び強度計算に先立って、sinmデータ変換を実施した。各分析からの質量スペクトルを統合して、各ピークの精密質量及び絶対強度を含むピークリストを作成した。100〜2000m/zの範囲の化合物を分析した。異なるイオン化モード及び極性にわたるデータを比較及び要約するために、検出された全ての質量ピークを、水素付加体形成を仮定して、それらの対応する中性質量に変換した。その後、自己生成二次元(質量対試料強度)配列を、DISCOVAmetrics(商標)ソフトウェア(Phenomenome Discoveries Inc.社製、サスカトゥーン、サスカチェワン州、カナダ)を使用して生成した。多ファイルからのデータを統合し、この統合ファイルを処理して、固有質量を決定した。各固有質量の平均を決定し、y軸とした。この値は、等価であると統計的に決定された全ての検出精密質量の平均を表す。較正標準物質に関する装置の質量精度がおよそ1ppmであることを考慮すると、当業者であれば、これらの平均質量には、この平均質量の+/−5ppm以内に入る個々の質量が含まれていてよいことを認識するであろう。分析することを元々選択していた列を各ファイルに生成し、x軸とした。その後、選択したファイルの各々に見出された各質量の強度を、その代表的なx、y座標に記入した。強度値を含有しなかった座標は、空欄のままにしておいた。配列化した後で、データをさらに処理、視覚化、及び解釈し、推定化学的同一性を帰属させた。その後、スペクトルの各々をピークピックし、検出した全ての代謝産物の質量及び強度を取得した。その後、全モードからのこれらのデータをマージして、1試料当たり1つのデータファイルを作成した。その後、全試料からのデータをマージ及びアラインして、各試料が列によって表され、各固有代謝産物が単一行によって表された二次元の代謝産物配列を作成した。所与の代謝産物試料の組合せに対応するセルには、その試料中の代謝産物の強度が表示されていた。データをこのフォーマットで表すと、試料の群間で差異を示す代謝産物を決定することができる。この方法を使用すると、カルニチンサプリメントを摂取しなかったASD対象と非ASD対象との間で異なる精密質量により特徴付けられる。本明細書中で開示された方法は、表2に記載された精密質量の全て又はサブセットを使用することにより、ASDの診断を可能にする。
【実施例2】
【0049】
LC−MS/MSを使用したASD対象の診断及び個々の特徴付け、並びにASD治療の評価
試料収集。3つの血漿試料を、15人の臨床的に診断されたASD対象、及び12人の非ASD対照から、12カ月間にわたって収集した(6カ月間隔でサンプリング)。4つの対象をカルニチンで治療した(A09、A11、A13、A15)。表1には、研究された対象の臨床的特徴が概説されている。社会的認知スコアを、当技術分野で公知の方法を使用して決定した。12人の非自閉症対照対象が参加したが、2人の兄弟(C08及びC29)は、PlsEtn18:1/22:6の彼らの血漿レベルが残りの対照より有意に高かったという事実のため、全体比較用の対照集団から除外された(それぞれ、p=5.6e−6、及び4.0e−4、図6)。
【0050】
実施例1に記述した通りに試料を抽出した。
【0051】
LC−MS/MSフローインジェクション分析。分析は、アジレント1100LCシステムと連動した線形イオントラップ質量分析計(4000 Q TRAP、Applied Biosystems社製)を使用して実施した。各試料の120μL酢酸エチル画分に、内部標準物質(メタノール中の5μg/mL(24−13C)−コール酸(Cambridge Isotope Laboratories社製、アンドーヴァー、米国マサチューセッツ州))を加えることにより、試料を調製した。100μlの試料を、フローインジェクション分析法(FIA、flow injection analysis)によりインジェクトし、ネガティブAPCIモードでモニターした。この方法は、各代謝産物について1つの親/断片遷移及び(24−13C)−コール酸の多重反応モニタリング(MRM、multiple reaction monitoring)に基づいていた。各遷移を70msで走査した。流速が360μl/分のMeOH中10%EtOAcを、移動相として使用した。イオン源パラメーターを以下のように設定した:CUR:10.0、CAD:8、NC:−4.0、TEM:400、GS1:30、GS2:50、インターフェースヒーターはオン。化合物パラメーターを以下のように設定した:DP:−120.0、EP:−10、NC:−4.0、CE:−40、CXP:−15。表3〜10には、代謝産物、及び各代謝産物に使用されたMS/MS遷移が列挙されている。定濃度の(24−13C)−コール酸を用いて健康な正常血清抽出物を系列希釈することにより、全検体の標準曲線を生成し、装置の線形性を確認した。無作為盲検法で全試料を分析し、既知の血清標準希釈物によりグループ化した。標準曲線は全て、0.98を超えるr値を示した。
【0052】
血漿PtdEtn、PlsEtn、及び自閉症
合計で、136個のPtdEtn種及び15個のPlsEtn種の血漿レベルを測定した。これらの分析結果は、表11〜18、及び図1に要約されている。カルニチンを摂取しなかった自閉症対象に関する主要な所見は以下の通りだった。
1.事実上全ての飽和VLCFA(SVLCFA、saturated VLCFA)のレベルが有意に上昇した。
2.18:1のレベルは減少したが、一不飽和VLCFA(MUVLCFA、monounsaturated VLCFA)のレベルは上昇した。
3.3つの二重結合を含有するLCFA及びVLCFAのレベルは有意に減少した。
4.DHA(22:6)のレベル、DHA前駆物質(24:5、24:6)のレベル、及びDHAベータ酸化(20:6)の異化産物のレベルは、全て上昇した。
5.DHAを含有するPlsEtnのレベルが上昇した。
【0053】
26:0含有PtdEtnの血漿レベルは、22:0含有PtdEtnと比べて増加したとは認められなかった。これらの結果は、26:0が22:0より遥かに大きく上昇するという、ペルオキシゾーム障害に罹患している対象から観察された結果に反する(Moser and Moser 1996)。したがって、本出願に記述された方法は、ASDとペルオキシゾーム障害を区別する手段を提供する。
【0054】
これらの結果は、ASDを罹患している小児は全て、共通の代謝表現型を表すことを示す。収集プロトコールが管理されていないという性質は、これらの知見が、ASD対象の真のサブサンプリングを表すようであった。1年間にわたって3回の異なる時点で各対象をサンプリングし、食事制限は課さなかった。これらの設定では、11/11人の未治療ASD小児が、同一の生化学的表現型、すなわち、VLCFA及び/又はDHA含有リン脂質のレベルの統計学的な上昇を示した(図2〜3)。さらに、非ASD兄弟が比較分析に利用可能だった8/8家族で、ASD小児は、非ASD兄弟より明白な生化学的表現型を示した(図6)。これらの代謝異常は、パルミタートの過剰なミトコンドリア外プロセシングに帰着する、ミトコンドリア脂肪酸ベータ酸化障害のモデルに最も良く適合する。
【実施例3】
【0055】
個々の対象の分析
縦断的試料は全参加者から収集されていたため、各参加者を別々に評価することが可能だった。この分析により、劇的な対象間変動性が明らかになったが、3つの試料が1年間全体にわたって収集されたことを考慮すると、対象内変動性は比較的小さい。上記で記述したように、ASD対象は全て、同一の根底にある代謝異常、パルミタートの過剰なミトコンドリア外プロセシングを示す。しかしながら、この異常の実際的な生化学的症状及び診断は、種々の対象間変動性を示すことが観察された。この現象を例示するため、表2及び3には、実施例2に記述されている5つの代謝産物変化に代表的な8つのプロトタイプバイオマーカーの個々のプロファイルが表示されている(最後の4人の対象はアセチルカルニチンを摂取しており、この考察の一部ではないことに留意されたい)。表2では、DHA及びAA含有PlsEtn及びPtdEtnに着目している。観察することができるように、対象A22及びA05のみが、DHA含有PlsEtn又はPtdEtnのレベル著しい上昇を示さなかった。しかしながら、図3を見ると、これら2人の対象が多価不飽和VLCFA26:3レベルの上昇を示すことが認められる。
【0056】
カルニチンサプリメントを摂取しなかった自閉症小児の全て(11/11)が、有意により高いレベル(p<0.05)のDHA−PlsEtn又はVLCFA−PtdEtnのいずれかを示すことが観察された(図2及び3)。
【実施例4】
【0057】
実験的ASD治療の生化学的効能のモニタリング
ミトコンドリアの欠損がASDに関係していることが示唆されている(Lombard 1998、Clark-Taylor and Clark-Taylor 2004)。アセチルカルニチンは、ミトコンドリアを増強する性質を有することが知られているため(Pettegrew, Levine et al. 2000)、ASDの治療薬としての可能性が示唆されている。アセチルカルニチンは認可されておらず、ASDに有効であるという証明もなされていない。本明細書中に開示されたようなASD治療をモニタリングする方法の有用性を例示するために、上述の診断用ASDバイオマーカーを、アセチルカルニチンサプリメントを摂取した対象で定量した。図4は、全対象のカルニチン及びアセチルカルニチンのレベルを例示する。カルニチンを摂取しなかったASD対象はいずれも、カルニチン又はアセチルカルニチンのいずれかの欠乏又は上昇のどちらも示さなかった。アセチルカルニチンを摂取した対象は全て、カルニチン及びアセチルカルニチンの両方のレベル上昇を示した。
【0058】
8つの最も記述的な代謝産物の血漿レベルを、カルニチン+/−自閉症対象と対照との間で比較することにより、自閉症バイオマーカーに対するカルニチンの影響が際立っていることが判明した(図5)。DHA−PlsEtn、DHA−PtdEtn、DHA前駆物質(24:6)、及び飽和VLCFA(28:0)の完全な正常化が観察された。カルニチンサプリメントは、28:1及び26:3PdtEtnに有意な影響を与えず、カルニチンが、パルミタートから誘導された伸長産物の調節にのみ有効であることを示唆した。しかしながら、カルニチンを摂取した対象は、AA−PtdEtn(20:4)のレベルを有意に上昇させた。これらのデータは、カルニチンがミトコンドリアにおけるパルミタート酸化を修復することにより、VLCFA、DHA、及びDHA−PlsEtnの蓄積を防止するのに、有効であることを示唆する。しかしながら、一不飽和及び二不飽和脂肪酸前駆物質の伸長及び脱飽和の比率は影響を受けないと考えられ、AAの代償的な上昇が生じると考えられる。
【実施例5】
【0059】
ASDのリスクが高い対象の識別
参加した自閉症小児のうちの8人について(カルニチンを摂取した者を除く)、無症候性又は軽度に徴候的な兄弟を同時に追跡した(表1)。これらの対象は、兄弟中のASD有病率が増加するため、よりリスクが高いとみなされている(Newschaffer, Fallin et al. 2002)。図2のPlsEtn代謝産物を家族でプロットすると(図6)、常に、罹患兄弟は、これらの代謝産物のうちの1つのレベルが非罹患兄弟より高いことが示された。この差異は、8人の対象のうちの5人において統計学的に有意だった(p<0.05)。罹患兄弟が、非罹患兄弟と比べて有意により高いレベルを示すとは観察されなかった3症例のうち2症例では、非罹患兄弟は、対照と比べて有意に上昇したレベルを示した。これらの対象は、ASDのリスクがあると生化学的に診断されるであろう。これらの2人の対照小児(C29及びC08)を、社会的認知検査(Skuse 2000)を使用してASD症状についてより詳しく評価すると、男性対象(C29)は社会的認知の欠損を示し、女性(C08)は完全に無症候性だったことが観察された(表1)。女性は社会的認知に余力を有すると考えられているため、女性対象における影響の欠如は、意外ではない。これらの知見に基づき、本出願に記載の方法は、ASDのリスクのある対象を効果的に識別することができる。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】



【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
【表8】

【0068】
【表9】

【0069】
【表10】

【0070】
【表11】

【0071】
【表12】

【0072】
【表13】

【0073】
【表14】

【0074】
【表15】

【0075】
【表16】

【0076】
【表17】

【0077】
【表18】

【0078】
本明細書中で識別された参考文献は全て、参照により本明細書中に組み込まれる。
【0079】
本発明は、複数の例示的な実施形態に関して記述されている。しかしながら、当業者であれば、特許請求の範囲で定義される本発明の範囲から逸脱することなく、数多くの変形及び改変をなすことができることは明白であろう。
【0080】
(参考文献)
American Psychiatric Association (1994). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders - Fourth Edition
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Palmen, S. J., H. van Engeland, et al. (2004). "Neuropathological findings in autism." Brain 127(Pt 12): 2572-83
Pettegrew, J. W., J. Levine, et al. (2000). "Acetyl-L-carnitine physical-chemical, metabolic, and therapeutic properties: relevance for its mode of action in Alzheimer's disease and geriatric depression." Mol Psychiatry 5(6): 616-32
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Sogut, S., S. S. Zoroglu, et al. (2003). "Changes in nitric oxide levels and antioxidant enzyme activities may have a role in the pathophysiological mechanisms involved in autism." Clin Chim Acta 331(1-2): 111-7
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象の自閉症スペクトラム障害(ASD)健康状態又はASD健康状態の変化を診断するか、又はヒト対象のASDのリスクを判定する方法であって、前記ヒト対象に由来する試料の、表2に列挙されている1又は複数の精密質量を含む定量的データを、1又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較するステップを含み、
前記ヒト対象のASD健康状態、ASD健康状態の変化、又はASDのリスクが、前記ヒト対象に由来する前記試料と1又は複数の参照試料との1又は複数の精密質量の強度の差異に基づいている方法。
【請求項2】
ヒト対象のASD健康状態又はASD健康状態の変化を診断するか、又はヒト対象のASDのリスクを判定する方法であって、
a)患者から得られた試料を分析して、1又は複数の精密質量の定量的データを取得するステップと、
b)前記1又は複数の精密質量の定量的データを、1又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較するステップと、
c)前記比較を使用して、前記定量的データと前記1又は複数の精密質量の対応するデータとの間の差異に基づき、前記ヒト対象のADS健康状態又はADS健康状態の変化を診断するステップとを含み、
前記1又は複数の精密質量が表2に列挙されている方法。
【請求項3】
ヒト対象のASD健康状態又はASD健康状態の変化を診断するか、又はヒト対象のASDのリスクを判定する方法であって、
a)患者から得られた試料を分析して、1又は複数のエタノールアミンリン脂質の定量的データを取得するステップと、
b)前記1又は複数のエタノールアミンリン脂質の定量的データを、1又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較するステップと、
c)前記比較を使用して、前記ヒト対象のASD健康状態又はASD健康状態の変化を診断するステップとを含む方法。
【請求項4】
1又は複数のエタノールアミンリン脂質が、表3〜10のいずれか1つに列挙されている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ASD健康状態又はASD健康状態の変化の判定が、ASDの有無、対象の生化学的ASD表現型、ASDリスクの上昇、又は前記対象に潜在する生化学的ASD表現型に対するASD治療戦略の陽性効果、陰性効果、若しくは無効果の判定を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
生化学的ASD表現型が、
a)飽和又は一不飽和極長鎖脂肪酸(VLCFA)含有エタノールアミンリン脂質レベルの上昇、
b)ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)含有エタノールアミンリン脂質レベルの上昇、
c)多価不飽和VLCFA含有エタノールアミンリン脂質レベルの上昇、
d)18:3、20:3、22:3、又は24:3含有エタノールアミンリン脂質レベルの減少、及び
e)それらの組合せ
のいずれかに特徴付けられる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
試料が、全血、血漿、血清、又は全血の亜分画である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ステップa)が、精密質量の有機溶媒への抽出を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
ステップa)が、精密質量の水性溶媒への抽出を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
ステップa)が、試料を質量分析法により分析することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
質量分析計が、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型、飛行時間型、オービトラップ型、四重極型、及びトリプル四重極型質量分析計からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
質量分析計が、トリプル四重極質量分析計である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
参照試料が非ASD対象から採取される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
参照試料が、治療中でない1又は複数のASD対象から採取される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
参照試料が、治療前段階又は初期治療段階のヒトから採取された1又は複数の試料である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
ヒト対象が、飽和若しくは一不飽和極長鎖脂肪酸(VLCFA)、ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)、VLCFA DHA前駆物質(24:5、24:6)、DHAベータ酸化(20:6)の異化産物、多価不飽和VLCFAを含有するエタノールアミンリン脂質レベルの上昇、18:3、20:3、22:3、24:3脂肪酸を含有するエタノールアミンリン脂質のレベル減少、又はそれらの組合せのいずれかを示すことに基づいてASDと診断される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項17】
ヒト対象が、表11〜18のいずれか1つに列挙されている1又は複数の代謝産物が、非ASD対象に由来する参照試料の対応するデータと比較して統計学的に有意な(p<0.05)変化を示す代謝異常を有することに基づいてASDと診断される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ヒト対象のASD健康状態又はASD健康状態の変化を診断するか、又はヒト対象のASDのリスクを判定する方法であって、
a)患者から得られた試料を分析して、
飽和又は一不飽和極長鎖脂肪酸(VLCFA)含有エタノールアミンリン脂質、
ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)含有リン脂質、
DHA前駆物質(24:5、24:6)含有リン脂質、
DHAベータ酸化(20:6)含有リン脂質の異化産物、
多価不飽和VLCFA含有リン脂質、及び
それらの組合せの1又は複数の定量的データを取得するステップと、
b)前記定量的データを、1又は複数の参照試料から取得された対応するデータと比較するステップと、
c)前記比較を使用して、前記1又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較した際に、以下の特徴付け:
飽和又は一不飽和極長鎖脂肪酸(VLCFA)含有エタノールアミンリン脂質レベルの上昇、
ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)含有エタノールアミンリン脂質レベルの上昇、
DHA前駆物質(24:5、24:6)含有エタノールアミンリン脂質レベルの上昇、
DHAベータ酸化(20:6)の代謝産物を含有するエタノールアミンリン脂質レベルの上昇、
多価不飽和VLCFA含有エタノールアミンリン脂質レベルの上昇、
3つの二重結合(18:3、20:3、22:3、24:3)を含有するLCFAを含有するエタノールアミンリン脂質レベルの減少、又は
それらの組合せ
の1つを示すことに基づいて、前記ヒト対象のASD健康状態又はASD健康状態の変化を診断するステップとを含む方法。
【請求項19】
方法が、ASD治療をモニタリングするためのものであり、ステップb)が、
1又は複数の精密質量の定量的データを、非ASD対象から収集した1又は複数の参照試料から取得した対応するデータ、及び/又は患者の治療前段階若しくは初期治療段階に予め収集された定量的データと比較することを含み、
ステップc)が、
c)前記比較を使用して、ヒト対象に対する治療の生化学的効果を決定することを含み、
前記1又は複数の精密質量が表2に列挙されている、請求項2に記載の方法。
【請求項20】
治療がカルニチン治療である、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−534826(P2010−534826A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517243(P2010−517243)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001366
【国際公開番号】WO2009/012595
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(504353730)フェノメノーム ディスカバリーズ インク (16)
【Fターム(参考)】