説明

臭化水素酸ガランタミンの製造方法

ガランタミン(I)の精製方法であって、ガランタミンを含有するヒガンバナ科の植物から得られたアルカロイドの混合物から臭化水素酸ガランタミンを沈殿させ、臭化水素酸塩をアルカリで処理し、ガランタミンを一般式(II)の溶剤(式中、R1は、水素またはメチルであり、そしてR2は、n−ブチル、イソブチル、s−ブチルおよびt−ブチルから選択される)を用いて抽出および結晶化することを含む、精製方法である。得られた純粋なガランタミンは、好都合なことに、臭化水素酸ガランタミンの製造に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四環系アルカロイドの精製、特にガランタミンの精製に関する。
【0002】
発明の背景
ガランタミン、((−)−[4aS−(4aα,6β,8aR)]−4a,5,9,10,11,12−ヘキサヒドロ−3−メトキシ−11−メチル−6H−ベンゾフロ[3a,3,2,−ef][2]ベンゾアゼピン−6−オール)(I):
【0003】
【化3】

【0004】
は、可逆的にコリンエステラーゼを阻害する四環系アルカロイドである。その作用は、フィゾスチグミンおよびネオスチグミンの作用に類似するが、その阻害効果はより低い。しかし、この欠点は、治療上の範囲がより広く、そして毒性がより低いことにより埋め合わせられる。ガランタミンは、狭角緑内障、中毒、ニコチンおよびアルコール依存、ならびに神経系の種々の病状、たとえばアルツハイマー症候群の治療に用いられる。臨床用途に、ガランタミンは臭化水素酸塩の形で投与され、その製造は、50年代に最初に記載された(N. F. Proskumina et al., Zhur. Obshchei Khim. 22, 1899(1952))。
【0005】
ガランタミンは、全くの合成により製造することができるが、3つのキラル中心が存在するために、方法は特に複雑である。ガランタミンを、いくつかのガランタミンに関連する化合物も含有するヒガンバナ科(Amaryllidaceae)の植物、たとえばGalanthus、Crinum、LeucojumおよびNarcissus属の植物から単離するのがより一般的である。これらの植物中には、ガランタミンが微量、または最大量0.3%存在する可能性がある。しかし、これらの植物の多くは保護された種であり、したがって工業規模でのガランタミンの回収には、培養から得たバイオマスの使用が必要である。
【0006】
ガランタミンと構造的に関連する化合物の相応数の存在は、医薬用途、特に臭化水素酸ガランタミンの製造に適切な純度でガランタミンを回収するのを困難にし、そして多くの場合高価にする。
【0007】
植物材料からのガランタミンおよび関連する化合物の混合物の製造は、一般に、アルカロイドを抽出するための従来の方法を用いて行い、それは、植物材料を、バイオマス中に含有されるアルカロイド塩の加水分解に適切なアルカリ溶液でしめらせて遊離塩基にし、そしてアルカロイド塩基が可溶である溶剤を用いて抽出することを含む。
【0008】
ガランタミン含有植物の特定の場合、アルカリ溶液は、無機塩基、たとえばナトリウム、カルシウム、カリウムの、水酸化物もしくは炭酸塩の溶液、または水酸化アンモニウムの溶液である。水混和性溶剤、たとえばメタノール、エタノール、およびアセトン、または水不混和性溶剤、たとえば脂肪族および芳香族の炭化水素またはエステル、たとえば酢酸エチルを、抽出溶剤として用いることができる。抽出は、20℃から溶剤の沸点の範囲の温度で行うことができる。好ましくは、炭酸ナトリウムの濃厚水溶液をアルカロイド塩基の加水分解に使用することができ、抽出には、トルエンを20〜70℃の範囲の温度で用いることができる。上述した他の溶剤に対して、トルエンは、アルカロイドを十分に排出する利点を有し、一方後続の精製工程を困難にする極性成分の抽出を避ける。
【0009】
トルエン抽出物中に含まれるアルカロイドは、酸性の水溶液、たとえば2%の硫酸溶液での抽出、次に水酸化ナトリウムもしくはカリウム、または炭酸ナトリウムもしくはカリウムを用いるアルカリ化、およびトルエンを用いる1回の再抽出により、非アルカロイド成分から分離することができ、これによりアルカロイド成分は混合物として得られる。
【0010】
これらの方法は、ヒガンバナ科からガランタミン含量が30〜40%の範囲であるアルカロイドの複雑な混合物を得ることを可能にする。したがって医薬用途に適切なガランタミンを提供する精製方法が、依然として必要とされている。
【0011】
発明を実施するための最良の形態
ヒガンバナ科に属する植物から得たガランタミンを含有するアルカロイド混合物から、ガランタミン(I):
【0012】
【化4】

【0013】
を、臭化水素酸塩として沈殿させ、臭化水素酸塩を加水分解し、次いでガランタミンを適切な溶剤で抽出することにより、医薬用途用により高度に純粋なガランタミンを得ることができることが今や見出された。
【0014】
特に、本発明は、次の工程:
a)ヒガンバナ科の植物から得られたガランタミンを含有するアルカロイドの混合物に臭化水素酸を添加する工程;
b)沈殿物を回収する工程;
c)塩基性水溶液に沈殿物を溶解させる工程;
d)一般式(II):
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、R1は、水素またはメチルであり、そしてR2は、n−ブチル、イソブチル、s−ブチルおよびt−ブチルから選択される)の溶剤で抽出する工程;
e)有機相を濃縮する工程;
f)場合により、沈殿したガランタミン(I)を回収する工程
を含む方法に関する。
【0017】
アルカロイド混合物の製造は、従来の方法にしたがって、たとえば本発明の背景で述べた方法にしたがって行うことができる。
【0018】
アルカロイド混合物からの臭化水素酸ガランタミンの沈殿を、好ましくは臭化水素酸水溶液を用いて、アルコール性の溶剤中、たとえばメタノール、エタノール、プロパノールまたはイソプロパノール、好ましくはエタノール中で行う。塩化は、臭化水素酸の添加の間、温度を−20〜20℃、好ましくは0〜5℃に保ちながら、溶剤をアルカロイド混合物の重量に比べて5〜7容量、そして臭化水素酸を化学量論量に対して5〜10%過剰[アルカロイドがガランタミンと同じ分子量(287m.u.)を有すると仮定して]に用いて行う。
【0019】
母液が含有する臭化水素酸ガランタミンは微量だけなので、臭化水素酸ガランタミンの沈殿は、実質的に定量的回収で、純度を30〜40%から85〜90%に高めることを可能にする。
【0020】
沈殿物を溶解させるのに用いる、すなわち臭化水素酸塩からガランタミンを加水分解するアルカリ水溶液は、pH8以上であり、たとえば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、または水酸化アンモニウムを含有する水溶液が好ましい。
【0021】
ガランタミン塩基の抽出および沈殿に用いる一般式(II)の溶剤が、アルカロイドの抽出および特に結晶化に頻繁に用いられるわけではなくても、それらはガランタミンの抽出および結晶化において驚くほど良好な結果を与える。好ましい溶剤は、酢酸n−ブチルであり、抽出後、結晶化の兆しを見せるまで、有機相を減圧下で濃縮する。
【0022】
ろ過後、医薬用途用臭化水素酸塩に転化するために十分に純粋なガランタミンを85%の収率で得られる。
【0023】
本発明の方法により得られたガランタミンから、臭化水素酸ガランタミンの製造を、一般にアルカロイドの塩化に用いる従来の方法で行うことができる。
【0024】
この目的に、ガランタミンを適切な溶剤、好ましくはアセトン、またはアルコール、好ましくは95%のエタノールに溶解させ、0〜5℃で、臭化水素酸水溶液を化学量論量加える。本発明の特に好ましい態様によれば、ガランタミンを単離せずに臭化水素酸塩を製造することができる。酢酸n−ブチルで抽出した後、合わせた有機抽出物をその容量の約1/16に濃縮し、次に溶剤および臭化水素酸を上述したように添加する。ろ過および水からの結晶化の後、純度が99%よりも高く、各不純物の含量が0.1%より低い、臭化水素酸ガランタミンを得る。したがって、生成物は医薬用途に適切である。
【0025】
以下、実施例により本発明を具体的に詳述する。
【0026】
実施例
実施例1:Narcissus Pseudonarcissus "Carlton" 球根からのアルカロイドの混合物の製造
0.3%のガランタミンを含有する、すり砕いた野菜材料(500kg)に、10%w/vの炭酸ナトリウム水溶液850Lを加え、65〜70℃で操作してトルエン7×1000Lで抽出した。
【0027】
この抽出物を合わせ、減圧下、容量300Lに濃縮した。濃縮した溶液を2%の硫酸50Lで処理し、水性相を集めた。水性相を水酸化アンモニウムの添加によりpH9に調節し、得られた溶液をトルエン4×50Lで抽出した。合わせた有機相を乾燥するまで減圧下で濃縮した。40%のガランタミン(HPLC分析)を含有する全体的なアルカロイド3.5kgを得た。
【0028】
実施例2:酢酸n−ブチルからの結晶化によるガランタミンの製造
実施例1により得られた40%のガランタミンを含有する全アルカロイド(3.5kg)を、95%のエタノール20Lに溶解させた。この溶液を0℃に冷却し、攪拌しながら48%の臭化水素酸水溶液2.1Lを加えた(添加の間、温度を0〜5℃に保った)。混合物を室温で4時間攪拌しておき、生成物をろ過により回収し、95%のエタノールで洗浄し、減圧下、60℃で乾燥した。HPLC純度が88%である臭化水素酸ガランタミン2.22kgを得た。臭化水素酸ガランタミンを微量含有するろ過母液を、除去した。
【0029】
得られた88%の臭化水素酸ガランタミンを水7.6Lに懸濁させた。懸濁液を0℃に冷却し、温度を0〜5℃に保ちながら、10%の炭酸ナトリウム5.2Lで希釈した。酢酸n−ブチル5Lで5回抽出し、得られた有機相を溜め、塩水2.5Lで洗浄した。有機相を減圧下で容量4Lに濃縮し、室温で結晶化させた。結晶をろ過し、減圧下、70℃で乾燥した。化学的、物理的、分光学的な特性が、文献(P. Carroll et al., Bull. Soc. Chim. Fr. (1990), 127, 769)に報告されているものと一致するガランタミン1.2kgを得た。
【0030】
実施例3:酢酸t−ブチルからの結晶化によるガランタミンの製造
実施例1により得られた40%のガランタミンを含有する全アルカロイド(3.5kg)を、イソプロパノール24Lに溶解した。この溶液を、0℃に冷却し、攪拌しながら48%の臭化水素酸水溶液2.1Lで処理した(添加の間、温度を0〜5℃に保った)。この混合物を室温で3時間攪拌しておき、次にろ過し、固体を若干のイソプロパノールで洗浄し、減圧下、70℃で乾燥した。HPLC純度85%を有する臭化水素酸ガランタミン2.28kgを得た。得られた固体を水8Lに懸濁し、0℃に冷却し、10%の炭酸ナトリウム5.5Lで希釈した。酢酸t−ブチル5Lを用いて7回の抽出を行った。
【0031】
有機相を溜め、塩水3Lで洗浄し、減圧下で4.4Lに濃縮し、次に室温で結晶化させておいた。得られた結晶をろ過し、減圧下、70℃で乾燥した。実施例2の品質と同じ品質を有するガランタミン1.25kgを得た。
【0032】
実施例4:純度99%以上である臭化水素酸ガランタミンの製造
実施例2および3により得られたガランタミン(1.64kg)を95%のエタノール11.5Lに溶解した。この溶液を0℃に冷却し、攪拌しながら48%の臭化水素酸0.76Lで処理した(添加の間、温度を0〜5℃に保った)。
【0033】
混合物を4時間放置し、ろ過し、沈殿を95%のエタノール1.5Lで洗浄した。湿った固体を50℃で30%のエタノール水溶液18Lに溶解させ、この溶液を減圧下で容量6Lに濃縮し、一晩結晶化させておいた。結晶した固体をろ過し、水1.9Lで洗浄し、真空下、50℃で乾燥した。HPLC純度が99%よりも高く、各不純物が0.1%よりも低い、臭化水素酸ガランタミン1.9kgを得た。
【0034】
実施例5:純度99%以上である臭化水素酸ガランタミンの製造
実施例1により得られた40%のガランタミンを含有する全アルカロイド(3.5kg)を、95%のエタノール20Lに溶解した。溶液を0℃に冷却し、攪拌しながら48%の臭化水素酸水溶液2.1Lで処理した(添加の間、温度を0〜5℃に保った)。この混合物を室温で4時間攪拌しておき、生成物をろ過により集め、95%のエタノールで洗浄し、減圧下、60℃で乾燥した。HPLC純度88%である臭化水素酸ガランタミン2.22kgを得た。臭化水素酸ガランタミンを微量含有するろ過からの母液を、除去した。
【0035】
得られた88%の臭化水素酸ガランタミンを水7.6Lに懸濁させた。懸濁液を0℃に冷却し、温度を0〜5℃に保ちながら、10%の炭酸ナトリウム5.2Lで希釈し、酢酸n−ブチル5×5Lで抽出した。有機相を溜め、塩水2.5Lで洗浄し、減圧下、容量1.6Lに濃縮し、次に95%のエタノール8.4Lを加えた。溶液を0℃に冷却し、攪拌しながら48%の臭化水素酸0.56Lを加えた(温度を0〜5℃に保ちながら)。
【0036】
混合物を4時間放置し、ろ過し、沈殿を95%のエタノール1.1Lで洗浄した。湿った固体を50℃で、30%のエタノール水溶液13.2Lに溶解させ、溶液を減圧下、容量4.4Lに濃縮し、一晩結晶化させておいた。得られた結晶をろ過し、水1.4Lで洗浄し、減圧下、50℃で乾燥した。HPLC純度が99%よりも高く、各不純物が0.1%より低い、臭化水素酸ガランタミン1.4kgを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガランタミン(I):
【化1】


の精製方法であって、次の工程:
a)ヒガンバナ科の植物から得られたガランタミンを含有するアルカロイドの混合物に臭化水素酸を添加する工程;
b)沈殿物を回収する工程;
c)塩基性水溶液に沈殿物を溶解させる工程;
d)一般式(II):
【化2】


(式中、R1は、水素またはメチルであり、そしてR2は、n−ブチル、イソブチル、s−ブチルおよびt−ブチルから選択される)の溶剤で抽出する工程;
e)有機相を濃縮する工程;
f)場合により、沈殿したガランタミン(I)を回収する工程
を含む精製方法。
【請求項2】
アルカロイドの混合物を、メタノール、エタノール、プロパノールまたはイソプロパノールから選択される溶剤に溶解させた、請求項1記載の方法。
【請求項3】
溶剤がエタノールである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
溶剤を、アルカロイドの混合物の重量に基づいて5〜7容量の範囲の量で添加する、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
臭化水素酸を臭化水素酸水溶液として添加する、請求項2〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
添加を−20〜20℃の範囲の温度で行う、請求項2〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
温度が0〜5℃の範囲にある、請求項6記載の方法。
【請求項8】
臭化水素酸が、混合物中のガランタミン含量の計算値を5〜10%超える、請求項5〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
塩基性水溶液が、pH8以上の塩基性水溶液であり、そして塩基がナトリウムの水酸化物または炭酸塩、カリウムの水酸化物または炭酸塩、カルシウムの水酸化物または炭酸塩、および水酸化アンモニウムから選択される、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
一般式(II)の溶剤が酢酸n−ブチルである、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
さらにガランタミンの臭化水素酸ガランタミンに転化する工程を含む、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
ガランタミンを単離せずに臭化水素酸ガランタミンに転化する工程を行う、請求項11記載の方法。
【請求項13】
臭化水素酸ガランタミンの製造のための、請求項1〜10のいずれか1項の方法により得られたガランタミンの使用。

【公表番号】特表2008−524125(P2008−524125A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545863(P2007−545863)
【出願日】平成17年11月23日(2005.11.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012521
【国際公開番号】WO2006/063666
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(397068654)インデナ・ソチエタ・ペル・アチオニ (20)
【Fターム(参考)】