説明

臭化物を酸化させて臭素を生じさせる方法およびそれに有用な触媒

【課題】臭化物源、酸化剤および1族のカチオンと遷移金属の酸化物を含有して成る触媒による臭素の製造方法を提供する。
【解決手段】臭化水素の酸化に過酸化水素(H2O2)を酸化剤として用いて臭素を生じさせる時、鉱酸およびモリブデン酸アニオン(MoO4−2)を含んで成る触媒を添加する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
臭素は幅広い範囲の産業で用いられる。例えば、臭素は防炎剤、1,2−ジブロモエタン(CHBrCHBr)(これは鉛がシリンダーに付着しないようにするガソリン用添加剤として用いられる)、写真で用いられる化合物[例えば臭化銀(AgBr)(これはフィルムに入れる感光性物質である)]、染料および薬剤の製造、分析実験室で有機化合物の不飽和度を試験する時(この場合、臭素は不飽和化合物が有する多重結合に付加する)、殺菌剤として、そして燻蒸剤、浄水用化合物、染料、薬剤および消毒剤の製造などで用いられる。臭素の製造は臭化物に酸化を過酸化水素を酸化剤として用いて受けさせることで実施可能である。例えば、下記の反応が適切である:H+2HBr→Br+2HO(反応(1))。臭素の製造をまた臭化物に酸化を塩素を酸化剤として用いることで受けさせることで実施することも可能である。例えば、下記の反応が適切である:2NaBr+Cl⇔Br+2NaCl(反応(2))。
【0002】
臭化水素に酸化を過酸化水素を酸化剤として用いて受けさせて臭素を生じさせる時の効率を向上させる目的で強酸、例えば硫酸または燐酸などを用いることが特許文献1に記述されている。しかしながら、酸を添加すると工程の経済性が悪影響を受け、かつある場合には、酸源を容易に入手することができないこともある。反応(1)および(2)は各々触媒の添加によって臭化物から臭素への変換パーセントが向上すると言った利益を受ける可能性がある。モリブデン酸アンモニウム((NHMoO)はHのヨウ素還元滴定を可能にする公知の酸化用触媒である。しかしながら、NHは、商業的臭素塔に入れる添加剤として使用する目的で選択されるカチオンではない。
【0003】
このように、現在利用できる技術が存在するにも拘らず、臭化物を酸化させて臭素を生じさせる時の変換パーセントの向上をもたらす商業的に実行可能な方法およびこの方法で用いるに適した触媒が要求されているままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,266,295号
【発明の概要】
【0005】
本発明は、少なくとも臭化物源、酸化剤および1族のカチオンと遷移金属の酸化物を含有して成る触媒から水溶液を生じさせることを含んで成る臭素製造方法を提供することで上述した要求を満たすものである。更に、(i)少なくとも臭化物源、酸化剤、鉱酸および1族のカチオンと遷移金属の酸化物を含有して成る触媒からpKが約−1.74未満の水溶液を生じさせそして(ii)臭素を生じさせることを含んで成る方法も提供する。また、少なくとも臭化物源、酸化剤、塩化水素および本発明に従う触媒から水溶液を生じさせることを含んで成る臭素製造方法も提供する。本発明に従う方法は連続様式またはバッチ様式で実施可能である。本発明は、また、前記水溶液のpKが約−1.74未満である前記臭素製造方法も提供する。
【0006】
触媒
本発明に従う方法で用いる触媒は、遷移金属アニオンを包含するアニオンと1族のカチオンを含有して成る。前記1族のカチオンはNa、K、Rb、Cs、Fr、LiまたはHを含んで成り得る。前記アニオンは、1種以上の遷移金属、例えばバナジウム、セリウム、クロム、マンガン、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、タングステン、レニウムおよび/またはオスミウムなどから生じた酸化物を含んで成り得る。例えば、そ
のようなアニオンはMoO−2を含んで成り得る。本発明に従う触媒の一例はモリブデン酸ナトリウム(NaMoO)を含んで成る。遷移金属の酸化物アニオンを含有して成っていて過酸化水素の分解を助長し得る触媒が本発明の方法で触媒として用いるに有用であり、そのようなアニオンは、臭素が過酸化水素を基準にして少なくとも90重量%(または少なくとも95重量%または98重量%)の収率で得られるように過酸化水素が臭素を酸化させる方向にそれを活性化させ得る。
【0007】
臭化物源
本発明の方法における臭化物源は臭化水素(HBr)または臭化ナトリウム(NaBr)を含んで成り得る。あまり安定ではない(例えば第二級および第三級)脂肪族アルキルブロマイドを分解させることでHBrをインシトゥで生じさせることも可能である。他の適切な臭化物源には臭化カリウム(KBr)および臭化リチウム(LiBr)が含まれる。本発明で用いるに適した別の臭化物源は、臭化水素酸水溶液、臭化水素ガスまたは塩酸と組み合わせた1族金属の臭化物を含んで成る。1族の金属にはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)が含まれる。
【0008】
酸化剤
本発明の方法における酸化剤は、過酸化水素(H)、塩素(Cl)または酸素(O)を含んで成り得る。そのような酸化剤は過酸化水素の塩、例えば過酸化リチウムなどを含んで成っていてもよい。塩素を酸化剤として気体のまま導入してもよいか或はそれを塩化物イオンと過酸化物(過酸化水素を包含)からインシトゥで生じさせることも可能である。酸素は臭化物イオンの経済的に有利な酸化剤であるが、典型的に、活性化の目的で周囲温度以上の温度が必要であり、それでもそれは気体形態で使用可能である。酸素輸送体、例えば酸化セリウムまたは五酸化バナジウムなどを用いることも可能である。他の適切な酸化剤は熱で分解する有機過酸化物、例えばベンゾイルパーオキサイドなどを含んで成る。
【0009】
鉱酸
本発明の方法における鉱酸は、生じさせる水溶液の酸性度を高め得る。適切な鉱酸には塩酸、硫酸および/または燐酸が含まれる。
【0010】
臭化物から臭素を生じさせる酸化
本発明に従って臭化物から臭素を生じさせる酸化を、典型的には過酸化水素を臭素生成用酸化剤として用いて、充填カラムに試薬および蒸気を連続システムで添加する商業的設定で起こさせるが、しかしながら、当技術分野の技術者に良く知られている如き変更を行うことは可能である。
【0011】
本発明では、HBrを約0.01重量%から約60重量%、Hを約3重量%から約70重量%、本発明に従う触媒を約0.03重量%から約0.5重量%およびHClを約5重量%から約20重量%(全部、臭素を生じさせる時に各々を用いる前のHBr、H、触媒およびHClの重量の合計を基準)用いて臭素を生じさせることができる。典型的には、そのような臭化物源、酸化剤および触媒および塩化水素または鉱酸(含める場合)を水溶液の状態にする。本発明では、また、臭化物源と本発明に従う触媒のモル比を約150:1から約1200:1、または約200:1から約1000:1、または約400:1から約900:1、または約600:1から約850:1、または約658:1から約831:1にしてもよい。
【実施例】
【0012】
以下の実施例は本発明の原理を例示するものである。本発明を本明細書に例示するいずれか1つの具体的な態様に限定するものでないと理解する。
【実施例1】
【0013】
500mLの三角フラスコにHBr(7.46重量%の水溶液を357.20g、即ちHBrを0.33モル)およびNaMoO(4重量%の水溶液を2.04g、即ちNaMoOを0.4ミリモル)に加えてHCl(12MのHClを16.08g、即ちHClを0.13モル)およびH(70重量%の水溶液を2.84g、即ちHを0.06モル)加えた。その混合物を撹拌しつつ冷却することで15−20℃に維持しながら、それを500mLの3つ口丸底フラスコ(この中に生蒸気を注入)に24/40のガラス製品で取り付けておいた12”x1”のカラムの上で還流している流れの中に10mL/分で添加した。余分な凝縮液およびHBrをポンプで除去し、そして臭素と水を含有して成る塔頂生成物をフリードリッヒ冷却器(4−7℃のグリコール水溶液で冷却)を用いて凝縮させた。その凝縮液およびいくらか存在する未凝縮物を300mLの(15重量%)NaSO溶液の中に送り込むことで、臭素に還元を受けさせて臭化物イオンを生じさせそしてそれを0.1NのAgNOで滴定することで量化した。臭素を全体で9.27g得、Hを基準にした臭素収率は99.04重量%であった。
【実施例2】
【0014】
HBr(8.96重量%の水溶液を356.77g、即ちHBrを0.40モル)、HCl(12MのHClを11.40g、即ちHClを0.09モル)、NaMoO(4重量%の水溶液を3.09g、即ちNaMoOを0.6ミリモル)およびH(70重量%の水溶液を2.91g、即ちHを0.06モル)用いて実施例1の手順を用いた。臭素を全体で8.99g得、Hを基準にした臭素収率は93.91重量%であった。
【実施例3】
【0015】
(比較実施例)
HBr(7.52重量%の水溶液を356.54g、即ちHBrを0.33モル)、HCl(12MのHClを17.90g、即ちHClを0.15モル)およびH(70重量%の水溶液を2.80g、即ちHを0.06モル)用いて実施例1の手順を用いた。本発明に従う触媒を添加しなかった。臭素を全体で7.32g得、Hを基準にした臭素収率は79.38重量%であった。
【実施例4】
【0016】
(比較実施例)
HBr(6.19重量%の水溶液を360.80g、即ちHBrを0.28モル)、HCl(12MのHClを19.27g、即ちHClを0.16モル)およびH(70重量%の水溶液を3.39g、即ちHを0.07モル)を供給材料であるHBrに添加することを伴わせて実施例1の手順を用いた。本発明に従う触媒を添加しなかった。臭素を全体で5.19g得、Hを基準にした臭素収率は46.43重量%であった。
【実施例5】
【0017】
(比較実施例)
HBr(7.46重量%の水溶液を355.68g、即ちHBrを0.33モル)、HCl(30重量%の水溶液を159.02g、即ちHClを1.14モル)およびH(70重量%の水溶液を2.65g、即ちHを0.06モル)用いて実施例1の手順を用いた。本発明に従う触媒を添加しなかった。臭素を全体で8.30g得、Hを基準にした臭素収率は95.09重量%であった。
【実施例6】
【0018】
(比較実施例)
HBr(17.20重量%の水溶液を356.65g、即ちHBrを0.76モル)、HCl(滴定で22.04重量%、HClを46.10g(0.28モル))およびH(70重量%の水溶液を14.98g、即ちHを0.31モル)用いて実施例1の手順を用いた(加うるに、ここで用いた酸源は再利用した酸源であった)。本発明に従う触媒を添加しなかった。臭素を全体で45.65g得、Hを基準にした臭素収率は92.50重量%であった。
【0019】
前記実施例(表1に要約したデータ)から分かるであろうように、臭素酸化反応で本発明の触媒を用いるとBrの収率が向上する。HClを0.15モルとHを0.06モル用いて0.33モルのHBrを酸化させる結果としてHを基準にしたBr収率が79.38重量%である実施例3の酸化反応をHClを0.13モルとHを0.06モルと本発明に従う触媒(NaMoO)を0.4ミリモル用いて0.33モルのHBrを酸化させる結果としてHを基準にしたBr収率が99.04重量%(実施例3の収率が79.38重量%であるのに対して)である実施例1の反応と比較されたい。また、HClを若干少ない量で用い(0.15モルに対して0.09モル)そして本発明に従う触媒(NaMoO)を0.6ミリモル用いると結果としてHを基準にしたBr収率が93.91重量%(実施例3の収率が79.38重量%であるのに対して)である実施例2も実施例3と比較されたい。これらの実施例は、また、HClの量を多くすることによって臭素酸化反応の効率を向上させることができることも示している。例えば、HClを0.15モルから1.14モルにまで多くした実施例5を実施例3と比較すると結果として酸化剤を基準にした臭素(Br)の収率が79.38重量%から95.09重量%まで高くなり得る。
【0020】
【表1】

【0021】
本発明を1つ以上の好適な態様に関して記述してきたが、本請求項に示す本発明の範囲から逸脱しない限り他の修飾を成すことも可能であると理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭素の製造方法であって、
(i)水溶液と水蒸気を連続プロセス中で充填したカラムを通過させ、ここで、水溶液は(a)少なくとも臭化物源、過酸化水素(H)、鉱酸および1族のカチオンと遷移金属の酸化物を含有して成る触媒から形成され、(b)pKが約−1.74未満であり、(c)温度が15〜20℃であり、そして
(ii)過酸化水素を基準にして少なくとも90重量%の臭素を生じさせる、
ことを含んで成る方法。
【請求項2】
前記1族のカチオンがNaまたはKを含んで成る請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酸化物がモリブデン酸アニオン(MoO−2)を含んで成る請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記触媒がモリブデン酸ナトリウム(NaMoO)を含んで成る請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記臭化物源が臭化水素または臭化ナトリウムを含んで成る請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記臭化物源と触媒のモル比を約150:1から約1200:1にする請求項4記載の方法。

【公開番号】特開2013−49626(P2013−49626A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−233608(P2012−233608)
【出願日】平成24年10月23日(2012.10.23)
【分割の表示】特願2009−525729(P2009−525729)の分割
【原出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(594066006)アルベマール・コーポレーシヨン (155)
【Fターム(参考)】