臭気拡散シミュレーション方法および臭気拡散シミュレーション装置
【課題】臭気物質が拡散する過程において、化学変化によりその成分および成分比が変化することを考慮し、より現実に忠実な臭気濃度を算出する。
【解決手段】複合臭気濃度DB24には、様々な複合臭気の成分物質の成分比と大気拡散濃度と臭気濃度とが対応付けられて蓄積されている。移流拡散濃度計算部31は、排出物質が化学反応せずに移流拡散すると仮定して排出物質の大気拡散濃度を算出し、化学反応濃度減衰量計算部32は、排出物質が移流中に化学反応したことにより減衰した排出物質の大気拡散濃度を算出し、複合臭気成分計算部33は、化学反応による生成物および残留した排出物質からなる複合臭気の成分比および大気拡散濃度を算出し、複合臭気濃度計算部34は、複合臭気濃度DB24から当該複合臭気と同じ成分を有するデータについて重回帰分析を行い複合臭気の臭気濃度の予測式を求め、その予測式に基づき当該複合臭気の臭気濃度を算出する。
【解決手段】複合臭気濃度DB24には、様々な複合臭気の成分物質の成分比と大気拡散濃度と臭気濃度とが対応付けられて蓄積されている。移流拡散濃度計算部31は、排出物質が化学反応せずに移流拡散すると仮定して排出物質の大気拡散濃度を算出し、化学反応濃度減衰量計算部32は、排出物質が移流中に化学反応したことにより減衰した排出物質の大気拡散濃度を算出し、複合臭気成分計算部33は、化学反応による生成物および残留した排出物質からなる複合臭気の成分比および大気拡散濃度を算出し、複合臭気濃度計算部34は、複合臭気濃度DB24から当該複合臭気と同じ成分を有するデータについて重回帰分析を行い複合臭気の臭気濃度の予測式を求め、その予測式に基づき当該複合臭気の臭気濃度を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気に排出された臭気の拡散をシミュレーションする臭気拡散シミュレーション方法および臭気拡散シミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臭気(とくに悪臭)の外部への拡散に対する対策を講ずるためには、あるいは、臭気の拡散状況を把握するためには、臭気拡散シミュレーションを実施する必要がある。地方自治体は、悪臭防止の観点から敷地境界での臭気指数の基準を定めており、一定規模の施設は、その基準を満たすことが義務付けられ、環境への影響を評価する必要がある。
【0003】
臭気(悪臭)のもととなる物質は、通常の大気汚染物質と異なり、化学反応によって、その濃度や成分が変わる物質が多い。そのため、多種類の臭気物質が相加、相乗されることによって、人の嗅覚に強く感じられる悪臭(複合臭による悪臭)が生じることがある。従って、臭気拡散シミュレーションでは、このような複合臭による悪臭を、とくに考慮しておく必要がある。
【0004】
特許文献1には、臭気(悪臭)物質濃度を測定し、その測定した結果を、臭いの特性によって感覚的に捉えることを可能にした臭気強度で評価する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1では、複合した悪臭物質の化学反応による二次的な生成物質や分解物質の影響、あるいは、悪臭物質の成分比の変化については考慮されていない。
【0005】
また、悪臭に関する環境アセスメントに関するシミュレーション方法が「臭気指数2号規制基準」(例えば、非特許文献1参照)および「生活環境影響評価の調査指針」(例えば、非特許文献2参照)の中に示されている。これら非特許文献1,2では、悪臭物質の拡散予測に、一般の大気汚染物質と同じ拡散計算の手法であるプルーム・パフモデルが用いられている。プルーム・パフモデルでは、比較的簡単な数値計算を行うことによって、大気汚染物質の濃度を計算することができる。
【0006】
また、非特許文献1,2に示されたシミュレーション方法では、臭気(悪臭)の特徴を考慮するため、プルーム・パフモデルのパラメータを調整することが行われ、さらに、複合臭を人の感覚で評価するための臭気濃度が用いられている。しかしながら、そこでは、複合臭を人の感覚から捉えた臭気濃度の拡散として評価されているため、実際の悪臭物質の化学変化による濃度変化や成分の変化は考慮されていない。
【0007】
物質の化学変化を考慮した大気拡散シミュレーションモデルとして、独立行政法人産業技術総合研究所が開発した「ADMER(Atmospheric Dispersion Model for Exposure and Risk assessment)」(例えば、非特許文献3参照)がある。「ADMER」では、物質の化学変化による濃度減衰を考慮して拡散予測が行われる。濃度減衰は、拡散予測を行う物質に分解係数を設定し、物質の拡散予測する時間の進行とともに、化学反応による物質の分解する割合が高くなるという考えに基づく概念である。しかしながら、「ADMER」では、単一物質の濃度減衰だけが計算され、化学変化による二次的な生成物質や分解物質の影響については考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4374723号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】環境省 水・大気環境局大気生活環境室、「よくわかる臭気指数規制2号基準〜煙突などの気体排出口における悪臭の規制基準〜」、[平成23年6月20日検索]、インターネット<URL:http://www.env.go.jp/air/akushu/kisei/index.html>
【非特許文献2】環境省通達、「廃棄物処理施設生活環境影響調査指針について」、平成18年09月4日、[平成23年6月20日検索]、インターネット<URL:http://www.env.go.jp/ hourei/syousai.php?id=11000364>
【非特許文献3】独立行政法人 産業技術総合研究所、「ADMER2:Atmospheric Dispersion Model for Exposure and Risk assessment」、[平成23年6月20日検索]、インターネット<URL:http://www.aist-riss.jp/software/admer/ja/index_ja.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように従来における臭気拡散シミュレーションでは、悪臭物質が拡散する過程で化学変化し、二次的に生成される物質の影響については、ほとんど考慮されていない。しかしながら、悪臭は、通常、複数の臭気物質から発生する複合臭である。複合臭の臭気濃度は、各臭気物質それぞれから発生する臭気の臭気濃度の和になるとは限らない。臭気には、相互作用があるので、複合臭の臭気濃度は、臭気物質の種類、組み合わせ、成分比などにより、大きくもなり、また、小さくもなる。従って、臭気拡散シミュレーションには、臭気物質の成分およびその成分比をできるだけ現実に近い値を算出することが求められている。
【0011】
そこで、本発明の目的は、臭気物質が拡散する過程において、化学変化によりその成分および成分比が変化することを考慮し、より現実に忠実な臭気濃度を算出することが可能な臭気拡散シミュレーション方法および臭気拡散シミュレーション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る臭気拡散シミュレーション方法および装置は、複数の複合臭気のそれぞれに対し、その複合臭気の成分物質の成分比と大気拡散濃度と臭気濃度とが対応付けられて構成された複合臭気濃度データを蓄積した複合臭気濃度データベースにアクセス可能な演算処理装置を用いて、排出源から排出される臭気の拡散をシミュレーションする臭気拡散シミュレーション方法および装置であって、(1)前記演算処理装置は、気象データおよび排出源データを入力し、前記排出源データで指定される臭気を構成する排出物質が化学反応せずに大気中を移流拡散する計算モデルに基づき、前記排出源から離れた計算対象地点における前記排出物質の大気拡散濃度および移流時間を算出する移流拡散濃度計算処理と、(2)前記算出した移流時間中に前記排出物質が化学反応するとき残留する前記排出物質の大気拡散濃度である残留濃度を算出し、前記移流拡散濃度計算処理で計算した前記排出物質の大気拡散濃度から前記残留濃度を差し引いた差分量を、前記化学反応による前記排出物質の大気拡散濃度の濃度減衰量として算出する化学反応濃度減衰量計算処理と、(3)前記化学反応により生成された生成物の成分比を算出するとともに、その算出した成分比と前記濃度減衰量とに基づき、前記生成物の大気拡散濃度を算出し、前記算出した前記生成物の大気拡散濃度と前記排出物質の残留濃度とに基づき、前記排出物質の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を算出する複合臭気成分計算処理と、(4)前記複合臭気濃度データベースに蓄積された複合臭気データから、前記排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気と同じ成分を有する複合臭気の複合臭気データを抽出し、その抽出した複合臭気データを用いた重回帰分析によって得られる、複合臭気の成分比と大気拡散濃度とから臭気濃度を予測する予測式に、前記排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を代入して、前記計算対象地点における前記複合臭気の臭気濃度を算出する複合臭気濃度計算処理と、を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、臭気物質が拡散する過程において、化学変化によりその成分および成分比が変化することを考慮し、より現実に忠実な臭気濃度を算出することができる臭気拡散シミュレーションが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る臭気拡散シミュレーション装置の構成の例を示した図。
【図2】本発明の実施形態に係る臭気拡散シミュレーションの全体処理フローの例を示した図。
【図3】化学反応濃度減衰量計算部による化学反応濃度減衰量計算処理の処理フローの例を示した図。
【図4】化学反応濃度減衰率DBの構成の例を示した図。
【図5】化学反応による排出物質の濃度減衰の様子を残留濃度と移流時間との関係グラフで示した図。
【図6】複合臭気成分計算部による複合臭気成分計算処理の処理フローの例を示した図。
【図7】図6の複合臭気成分計算処理で用いられ、作業用DBに記憶される生成物成分データの構成の例を示し図。
【図8】化学反応分解率・合成率DBの構成の例を示した図。
【図9】図6の複合臭気成分計算処理における化学反応生成物成分比算出処理の詳細な処理フローの例を示した図。
【図10】図9の化学反応生成物成分比算出処理におけるステップS672の詳細な処理フローの例を示した図。
【図11】図9の化学反応生成物成分比算出処理におけるステップS673の詳細な処理フローの例を示した図。
【図12】複合臭気濃度計算部による複合臭気濃度計算処理の処理フローの例を示した図。
【図13】複合臭気濃度DBの構成の例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る臭気拡散シミュレーション装置の構成の例を示した図である。図1に示すように、臭気拡散シミュレーション装置100は、キーボードやマウスなどからなる入力装置10と、半導体メモリやハードディスク装置などからなる記憶装置20と、マイクロプロセッサ集積回路などからなる演算処理装置30と、液晶ディスプレイなどからなる表示装置40と、を含んで構成される。
【0017】
そして、記憶装置20上には、作業用DB(Database)21、化学反応濃度減衰率DB22、化学反応分解率・合成率DB23、複合臭気濃度DB24などのデータベースが構成され、また、演算処理装置30上には、移流拡散濃度計算部31、化学反応濃度減衰量計算部32、複合臭気成分計算部33、複合臭気濃度計算部34などの機能ブロックが構成される。
【0018】
ここで、記憶装置20上に構成される作業用DB21は、入力装置10を介して入力される予測条件、気象データ、排出源条件など演算処理に用いられる各種データや、演算処理結果のデータを記憶するデータベースである。また、化学反応濃度減衰率DB22は、実験データや文献情報などから得られた排出物質の濃度減衰率、化学反応式、化学反応式構成率、残留濃度計算式などが予め蓄積されたデータベースである。
【0019】
また、化学反応分解率・合成率DB23は、実験データや文献情報などから得られた物質の化学反応式、物質の分解率、物質の合成率、物質の判定濃度、化学反応式構成率などが予め蓄積されたデータベースである。また、複合臭気濃度DB24は、実験データや文献情報などから得られた複合臭気の成分比、複合臭気の大気拡散濃度、複合臭気の臭気濃度などが予め蓄積されたデータベースである。
【0020】
一方、演算処理装置30上に構成された移流拡散濃度計算部31は、作業用DB21に記憶されている入力データ(予測条件、気象データ、排出源条件など)を、排出源から排出された排出物質が化学反応せずに大気中を移流拡散する計算モデル(例えば、プルーム・パフモデルなど)に適用して、排出物質の移流拡散計算を行い、予め定められた計算対象地点における排出物質の大気拡散濃度および移流時間を算出する。
【0021】
また、化学反応濃度減衰量計算部32は、移流拡散濃度計算部31で算出した移流時間中に、排出物質が大気などと化学反応した後に残留する排出物質の大気拡散濃度である残留濃度を算出する。さらに、化学反応濃度減衰量計算部32は、移流拡散濃度計算部31で計算した排出物質の大気拡散濃度から、前記算出した残留濃度を差し引いた差分量を、化学反応による排出物質の大気拡散濃度の濃度減衰量として算出する。
【0022】
また、複合臭気成分計算部33は、化学反応分解率・合成率DB23に蓄積されているデータを用いて、排出物質の化学反応による生成物の成分比を算出する。そして、その算出した成分比と、化学反応濃度減衰量計算部32で算出した濃度減衰量と、に基づき、化学反応による生成物の大気拡散濃度を算出する。さらに、複合臭気成分計算部33は、その化学反応による生成物の大気拡散濃度と排出物質の残留濃度とに基づき、排出物質の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気について、その成分比と大気拡散濃度とを算出する。
【0023】
また、複合臭気濃度計算部34は、複合臭気濃度DB24に蓄積されている複合臭気データから、排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気と同じ成分を有する複合臭気についての複合臭気データを抽出し、その抽出した複合臭気データを用いて重回帰分析を行い、複合臭気の成分比と大気拡散濃度とから臭気濃度を予測する予測式を求める。そして、複合臭気成分計算部33で算出した排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を、その予測式に代入して、当該計算対象地点における複合臭気の臭気濃度を算出する。
【0024】
さらに、演算処理装置30上に構成された図示しない臭気濃度分布作成部は、複合臭気濃度計算部34を用いて算出した、所定の地域の多数の計算対象地点における臭気濃度に基づき、臭気濃度分布図を作成し、その作成した臭気濃度分布図を地形図または地勢図に重ね合わせて表示装置40に表示する。
【0025】
なお、これらの機能ブロックの機能は、演算処理装置30が予め記憶装置20に格納されている所定のプログラムを実行することによって実現される。すなわち、臭気拡散シミュレーション装置100は、演算処理装置30と記憶装置20とを備えた、いわゆるコンピュータによって実現される。その場合、そのコンピュータは、互いにネットワークなどで通信可能に接続された複数のコンピュータであってもよい。そして、記憶装置20上に構成される各データベースがそれぞれ別のコンピュータに含まれるとしてもよい。
【0026】
また、演算処理装置30は、コンピュータのいわゆるCPU(Central Processing Unit)に限定されるものではなく、前記の移流拡散濃度計算部31、化学反応濃度減衰量計算部32、複合臭気成分計算部33、複合臭気濃度計算部34などの機能を実現するものであれば、FPGA(Field Programmable Gate Array)などで構成された専用の制御回路であってもよい。
【0027】
また、記憶装置20上に格納されている作業用DB21、化学反応濃度減衰率DB22、化学反応分解率・合成率DB23および複合臭気濃度DB24は、それぞれ異なるコンピュータの記憶装置20上に構成されていても構わない。そして、これらのデータベースは、演算処理装置30と同じコンピュータの記憶装置20上に構成されていても、ネットワークを介した他のコンピュータの記憶装置20上に構成されていても、演算処理装置30からアクセス可能であればよい。
【0028】
続いて、図2は、本発明の実施形態に係る臭気拡散シミュレーションの全体処理フローの例を示した図である。臭気拡散シミュレーションは、演算処理装置30上に構成された各機能ブロックによって実現される。
【0029】
図2に示すように、演算処理装置30は、まず、入力装置10を介して臭気拡散シミュレーションのための予測条件データ(予測対象地域の基準点の緯度、経度、X方向予測範囲、Y方向予測範囲、X方向予測メッシュ数、Y方向予測メッシュ数など)を入力し(ステップS1)、作業用DB21に格納する。次に、演算処理装置30は、入力装置10を介して気象データ(風向、風速、大気安定度など)を入力し(ステップS2)、作業用DB21に格納する。次に、演算処理装置30は、入力装置10を介して臭気物質の排出源データ(排出源の位置、排出口形状、排出量、温度、排出速度、排出物質など)を入力し(ステップS3)、作業用DB21に格納する。
【0030】
続いて、演算処理装置30は、移流拡散濃度計算部31の機能として、移流拡散濃度計算処理を実行する(ステップS4)。すなわち、演算処理装置30は、作業用DB21に格納された予測条件データ、気象データおよび排出源データに基づき、プルーム・パフモデル(非特許文献1など参照)を用いて、臭気濃度計算対象地点(以下、単に、対象地点という)における排出物質の大気拡散濃度および移流時間を算出し、その大気拡散濃度および移流時間を作業用DB21に保存する。なお、プルーム・パフモデルでは、排出物質は、単に、移流拡散するだけであって、排出物質が大気などと化学反応することは仮定されていない。
【0031】
次に、演算処理装置30は、化学反応濃度減衰量計算部32の機能として、化学反応濃度減衰量計算処理を実行する(ステップS5)。すなわち、演算処理装置30は、ステップS4の移流拡散濃度計算処理で算出した排出物質の大気拡散濃度と、排出源データに含まれる排出物質について化学反応濃度減衰率DB22から読み出した当該排出物の濃度減衰率データ、化学反応式、化学反応式構成率および残留濃度計算式の各データと、を用いて対象地点における化学反応による排出物質の濃度減衰量を算出し、作業用DB21に保存する。なお、この化学反応濃度減衰量計算処理のさらに詳細な処理フローについては、図3などを参照して、別途、説明する。
【0032】
次に、演算処理装置30は、複合臭気成分計算部33の機能として、複合臭気成分計算処理を実行する(ステップS6)。すなわち、演算処理装置30は、ステップS5の化学反応濃度減衰量計算処理で算出した排出物質の濃度減衰量と、化学反応分解率・合成率DB23から読み出した物質の化学反応式、分解率および合成率のデータと、を用いて、排出物質の移流および化学反応によって生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を算出し、作業用DB21に格納する。なお、この複合臭気成分計算処理のさらに詳細な処理フローについては、図6などを参照して、別途、説明する。
【0033】
次に、演算処理装置30は、複合臭気濃度計算部34の機能として、複合臭気濃度計算処理を実行する(ステップS7)。すなわち、演算処理装置30は、複合臭気濃度DB24に蓄積されている複合臭気の成分比と大気拡散濃度と複合臭気濃度とからなる複合臭気のデータについて重回帰分析を行い、得られた重回帰の予測式にステップS6の複合臭気成分計算処理で算出した複合臭気の成分比および大気拡散濃度を代入して、当該複合臭気濃度を算出し、算出した複合臭気濃度を作業用DB21に格納する。なお、この複合臭気濃度計算処理のさらに詳細な処理フローについては、図12などを参照して、別途、説明する。
【0034】
続いて、図3〜図5を参照して、化学反応濃度減衰量計算部32による化学反応濃度減衰量計算処理の詳細について説明する。ここで、図3は、化学反応濃度減衰量計算部32による化学反応濃度減衰量計算処理の処理フローの例を示した図、図4は、化学反応濃度減衰率DB22の構成の例を示した図、図5は、化学反応による排出物質の濃度減衰の様子を残留濃度と移流時間との関係グラフで示した図である。
【0035】
図3に示すように、演算処理装置30は、化学反応濃度減衰量計算処理(図2ステップS5)において、まず、化学反応濃度減衰率DB22から、ステップS3(図2参照)の排出源データで指定された排出物質に対応付けられた化学反応式、化学反応式構成率、濃度減衰率、残留濃度計算式の各データを読み出す(ステップS51)。
【0036】
ここで、化学反応濃度減衰率DB22は、図4に示すように、排出物質に対して、その排出物質に関係する複数の化学反応式が対応付けられ、さらに、そのそれぞれの化学反応式に対して、濃度減衰率、化学反応構成率、残留濃度計算式などが対応付けられて構成される。なお、図4の例では、排出物質としては、NOxだけが例示され、そのNOxに対し、3種の化学反応が進行することが示されている。
【0037】
次に、図3において、演算処理装置30は、プルーム・パフモデルによって算出した排出物質の大気拡散濃度、移流時間(図2、ステップS4参照)、および、ステップS51で読み出した排出物質の化学反応式、濃度減衰率、残留濃度計算式(図4参照)を用いて、当該排出物質の化学反応後の残留濃度を算出する(ステップS52)。
【0038】
ここで、排出物質の大気拡散濃度をC0、濃度減衰率をkd、移流時間をtとすると、例えば、NOx→NO2+O2という化学反応による時刻tにおける排出物質NOxの残留濃度Ctは、次の式(1)によって表される。なお、C0≧0,Ct≧0,t≧0であるとする。
Ct=C0・exp(−kd・t) (1)
【0039】
この式(1)による濃度減衰後の残留濃度Ctと移流時間tとの関係は、例えば、図5に示すグラフで表される。すなわち、移流時間tの経過とともに、NOx→NO2+O2という化学反応が進行し、NOxの残留濃度は減少する。一方、この化学反応で生成されるNO2およびO2の濃度は増加する(図示せず)。
【0040】
再び、図3を参照すると、演算処理装置30は、ステップS52で算出した各化学反応式による化学反応後の残留濃度、および、ステップS51で化学反応濃度減衰率DB22から読み出した化学反応式構成率を用いて、対象地点における排出物質の残留濃度を算出し(ステップS53)、作業用DB21に格納する。
【0041】
次に、演算処理装置30は、ステップS3で算出した対象地点における排出物質の大気拡散濃度と、ステップS53で算出した対象地点における排出物質の化学反応後の残留濃度との差から、対象地点における排出物質の濃度減衰量を算出し(ステップS54)、作業用DB21に格納する。
【0042】
続いて、図6〜図8を参照して、複合臭気成分計算部33による複合臭気成分計算処理の詳細について説明する。ここで、図6は、複合臭気成分計算部33による複合臭気成分計算処理の処理フローの例を示した図、図7は、図6の複合臭気成分計算処理で用いられ、作業用DB21に記憶される生成物成分データの構成の例を示し図、図8は、化学反応分解率・合成率DB23の構成の例を示した図である。
【0043】
図6に示すように、複合臭気成分計算処理では、演算処理装置30は、まず、その処理で用いられる生成物とその成分比とその大気拡散濃度とからなる生成物成分データの初期値を設定し(図7(a)参照)、作業用DB21に格納する(ステップS61)。すなわち、生成物成分データにおいて、生成物の初期値は、排出物質そのものであり、成分比の初期値は、排出物質の成分比で表され、大気拡散濃度は、化学反応濃度減衰量計算処理で算出された排出物質の濃度減衰量(図3、ステップS54参照)で表される。ちなみに、図7(a)では、排出物質はNOxだけであるとし、その成分比の初期値は、1.00とされている。
【0044】
次に、演算処理装置30は、作業用DB21から生成物成分データ(生成物、成分比、大気拡散濃度)を読み出す(ステップS62)。さらに、演算処理装置30は、化学反応分解率・合成率DB23から、ステップS62で読み出した生成物成分データに含まれる生成物について、その生成物の分解および合成に係る物質の物質名、化学反応式、判定濃度を読み出す(ステップS63)。
【0045】
ここで、化学反応分解率・合成率DB23は、図8に示すように、物質の分解および合成に係る物質の物質名、その物質の判定濃度(臭気として考慮すべき濃度の最小値)、分解および合成化学反応式、分解して生じる物質の分解率、合成反応に用いられる物質の合成率などのデータによって構成されている。
【0046】
次に、図6において、演算処理装置30は、ステップS63で化学反応分解率・合成率DB23から読み出したデータの中に、大気拡散濃度が判定濃度より大きく、かつ、分解または合成の化学反応式を有する物質が存在するか否かを判定する(ステップS64)。
【0047】
そして、その判定条件に該当する物質が存在する場合には(ステップS64でYes)、演算処理装置30は、その該当する物質の中から、化学反応により成分比を変化させる着目物質を選択し(ステップS65)、さらに、その着目物質の分解または合成の化学反応式を、ステップS63で化学反応分解率・合成率DB23から読み出したデータの中から1つ選択する(ステップS66)。
【0048】
次に、演算処理装置30は、選択した化学反応式に基づき、その化学反応によって変化した生成物の成分比を算出する(ステップS67)。なお、この成分比の算出処理については、図9〜図11を用いて、別途、詳しく説明するが、その処理の中では、作業用DB21に記憶されている生成物成分データ(生成物、成分比、大気拡散濃度)は、適宜、更新される。
【0049】
次に、演算処理装置30は、ステップS63で化学反応分解率・合成率DB23から読み出したデータの中に、着目物質の分解または合成について、別の化学反応式が存在するか否かを判定し(ステップS68)、別の化学反応式が存在する場合には(ステップS68でYes)、ステップS66へ戻り、ステップS66では、それまでの処理で選択されていない化学反応式を選択し、ステップS67以下の処理を再度実行する。また、別の化学反応式が存在しない場合には(ステップS68でNo)、演算処理装置30は、ステップS62へ戻り、ステップS62以下の処理を再度実行する。
【0050】
一方、ステップS64の判定において、その判定条件に該当する物質が存在しない場合には(ステップS64でNo)、そのとき作業用DB21記憶されている生成物成分データ(生成物、成分比、大気拡散濃度)と化学反応濃度減衰量計算処理(図3、ステップS53参照)で算出した排出物質の残留濃度とに基づき、移流拡散した排出物質と排出物質の化学反応により生成された生成物とを含んでなる臭気物質の成分比および大気拡散濃度を算出する(ステップS69)。
【0051】
すなわち、ここでいう臭気物質には、この時点まで移流拡散し残留している排出物質、および、排出物質の大気などとの化学反応による生成物が含まれる。また、排出物質の化学反応による生成物についての生成物、成分比、大気拡散濃度は、この時点で作業用DB21に記憶されている生成物成分データによって表される(図7(b)の例を参照)。
【0052】
図9は、図6の複合臭気成分計算処理における化学反応生成物成分比算出処理(図6、ステップS67)の詳細な処理フローの例を示した図である。図9において、演算処理装置30は、まず、ステップS66で選択した化学反応式の化学反応状態が「分解」であるか否かを判定し(ステップS671)、化学反応状態が「分解」である場合には(ステップS671でYes)、着目物質の分解反応後の生成物の成分比を算出し(ステップS672)、一方、化学反応状態が「分解」でない、つまり、「合成」である場合には(ステップS671でNo)、着目物質の合成反応後の生成物の成分比を算出する(ステップS673)。なお、ステップS672およびステップS673のさらに詳細な処理フローの例については、図10、図11を参照して、別途、詳しく説明する。
【0053】
次に、演算処理装置30は、ステップS672、S673での計算結果を反映した生成物成分データを記憶した作業用DB21から、すべての生成物の大気拡散濃度および成分比を読み出し(ステップS674)、読み出したすべての生成物の大気拡散濃度の和がステップS5で計算した濃度減衰量と等しいか否かを判定する(ステップS675)。
【0054】
ステップS675における判定の結果、すべての生成物の大気拡散濃度の和が濃度減衰量と等しくない場合には(ステップS675でNo)、演算処理装置30は、ステップS674で読み出した生成物の成分比を用いて、生成物の大気拡散濃度の和とステップS5で計算した濃度減衰量が等しくなるように、生成物の大気拡散濃度を補正し(ステップS676)、作業用DB21(生成物成分データ)を更新し、図9の処理を終了する。また、ステップS675における判定の結果、すべての生成物の大気拡散濃度の和が濃度減衰量と等しい場合には(ステップS675でYes)、そのまま図9の処理を終了する。
【0055】
図10は、図9の化学反応生成物成分比算出処理におけるステップS672の詳細な処理フローの例を示した図である。図10において、演算処理装置30は、まず、ステップS66(図6参照)で選択した化学反応式について、化学反応式分解率・合成率DB23から分解率を読み出す(ステップS6721)。次に、演算処理装置30は、その読み出した化学反応式の分解率と、着目物質の大気拡散濃度から、分解反応後の生成物の成分比および大気拡散濃度を計算する(ステップS6722)。
【0056】
次に、演算処理装置30は、分解反応後の生成物が作業用DB21の生成物成分データに含まれているか否かを判定し(ステップS6723)、含まれている場合には(ステップS6723でYes)、ステップS6722で算出した分解反応後の生成物の成分比および大気拡散濃度を用いて、作業用DB21の生成物成分データにおける当該生成物の成分比および大気拡散濃度を更新する(ステップS6724)。
【0057】
一方、ステップS6723の判定で、分解反応後の生成物が作業用DB21の生成物成分データに含まれていない場合には(ステップS6723でNo)、演算処理装置30は、当該生成物を作業用DB21の生成物成分データに登録する(ステップS6725)。次に、演算処理装置30は、ステップS6722で算出した分解反応後の生成物の成分比および大気拡散濃度を用いて、作業用DB21の生成物成分データにおける当該生成物の成分比および大気拡散濃度を更新する(ステップS6726)。
【0058】
図11は、図9の化学反応生成物成分比算出処理におけるステップS673の詳細な処理フローの例を示した図である。図11において、演算処理装置30は、まず、ステップS66(図6参照)で選択した化学反応式について、化学反応式分解率・合成率DB23から合成率を読み出し(ステップS6731)、さらに続けて、作業用DB21(生成物成分データ)からその選択した化学反応式による合成の化学反応に用いられる物質の成分比、大気拡散濃度を読み出す(ステップS6732)。次に、演算処理装置30は、ステップS6731で読み出した化学反応式の合成率と、着目物質の大気拡散濃度と、ステップS6732で読み出した合成に用いられる物質の成分比および大気拡散濃度から、合成反応後の生成物の成分比および大気拡散濃度を算出する(ステップS6733)。
【0059】
次に、演算処理装置30は、合成反応後の生成物が作業用DB21の生成物成分データに含まれているか否かを判定し(ステップS6734)、含まれている場合には(ステップS6734でYes)、ステップS6733で算出した合成反応後の生成物の成分比および大気拡散濃度を用いて、作業用DB21の生成物成分データにおける当該生成物の成分比および大気拡散濃度を更新する(ステップS6735)。
【0060】
一方、ステップS6734の判定で、合成反応後の生成物が作業用DB21の生成物成分データに含まれていない場合には(ステップS6734でNo)、演算処理装置30は、当該生成物を作業用DB21の生成物成分データに登録する(ステップS6736)。次に、演算処理装置30は、ステップS6733で算出した合成反応後の生成物の成分比および大気拡散濃度を用いて、作業用DB21の生成物成分データにおける当該生成物の成分比および大気拡散濃度を更新する(ステップS6737)。
【0061】
続いて、図12、図13を参照して、複合臭気濃度計算部34による複合臭気濃度計算処理(図2、ステップS7参照)の詳細について説明する。ここで、図12は、複合臭気濃度計算部34による複合臭気濃度計算処理の処理フローの例を示した図、図13は、複合臭気濃度DB24の構成の例を示した図である。
【0062】
演算処理装置30は、まず、複合臭気濃度DB24から、複合臭気成分計算処理(図2、ステップS6)で得た複合臭気と同じ成分で構成されている複合気体の複合臭気濃度データを抽出する(ステップS71)。
【0063】
ここで、複合臭気濃度DB24は、図13に示すように、様々な複合気体(複合臭気)について、その複合気体の成分比と大気拡散濃度と臭気濃度とを対応付けた複合臭気濃度データを蓄積したデータベースである。なお、複合臭気濃度DB24に蓄積された複合臭気濃度データは、実験によって求めた実験データであってもよく、公開された文献などに記載された文献データであってもよい。さらには、本実施形態に係る臭気拡散シミュレーション装置100などによって計算された計算結果データであってもよい。また、ここでいう複合気体の臭気濃度は、通常、臭気判定士など人によって判定された数値である。
【0064】
また、図13の例では、複合気体の例は、実験データ、文献データ、計算結果データそれぞれについて1つずつしか記載されていないが、その複合気体の種類は多数あり、成分が同じ複合気体についても、その成分比や大気拡散濃度が異なるものが多数蓄積されているものとする。
【0065】
従って、図12のステップS71の処理では、複合臭気濃度DB24の中から、本実施形態における複合臭気(すなわち、排出源から排出される排出物質およびその排出物質が化学変化した生成物を含む気体)と同じ成分を有する複合気体(複合臭気)についての複合臭気濃度データが抽出される。
【0066】
そこで、演算処理装置30は、ステップS71で抽出した(複合気体(複合臭気)の成分比、大気拡散濃度および臭気濃度からなる)複合臭気濃度データに対して重回帰分析を適用し、複合臭気の成分比および大気拡散濃度から臭気濃度を求める重回帰予測式を導出する(ステップS72)。
【0067】
ここで、重回帰分析は、複数の変数(説明変数)の分布値から別の変数(目的変数)の値を予測する手法であり、説明変数をX1〜Xn、目的変数をYとしたとき、目的変数Yの値は、重回帰分析の基本式(以下、重回帰予測式という)である式(2)によって予測される。
Y=b0+b1・X1+b2・X2+・・・+bn・Xn ・・・(2)
【0068】
なお、重回帰予測式(2)において、b0,b1,・・・,bnは、偏回帰係数と呼ばれ、周知の一般的な重回帰分析処理によって求められる。従って、本実施形態の場合、説明変数X1〜Xnには、複合臭気の成分比および大気拡散濃度が該当し、目的変数Yには、臭気濃度が該当する。よって、複合臭気の成分比および大気拡散濃度が既知であれば、その複合臭気の臭気濃度は、重回帰予測式(2)によって算出することができる。
【0069】
そこで、演算処理装置30は、複合臭気成分計算処理(図2、ステップS6)で算出した複合臭気の成分比および大気拡散濃度を重回帰予測式(2)に代入することにより、当該複合臭気の臭気濃度を算出する(ステップS73)。次に、演算処理装置30は、以上の処理によって算出した複合臭気の成分比、大気拡散濃度および臭気濃度からなる複合臭気のデータを複合臭気濃度DB24に登録する(ステップS74)。
【0070】
このように、本実施形態では、臭気拡散シミュレーション装置100で算出した複合臭気の成分比、大気拡散濃度および臭気濃度からなる複合臭気のデータを複合臭気濃度DB24に登録するようにしているので、重回帰分析で利用可能なデータが、順次、増加することとなり、それに伴って、重回帰予測式(2)で予測される複合臭気の臭気濃度の精度が向上する。
【0071】
なお、演算処理装置30は、以上のようにして求めた対象地点における臭気濃度を、地形図または地勢図と合成して、表示装置40表示する処理を行うが、ここでは、その処理の説明を省略する。
【0072】
以上、本実施形態によれば、排出源から排出された排出物質(臭気物質)は、移流拡散される間に大気などとの化学反応により、その大気拡散濃度が減衰するとともに、その化学反応による生成物の成分比および大気拡散濃度を算出し、その結果得られる複合臭気の臭気濃度を計算している。従って、本実施形態では、従来のプルーム・パフモデルなどに比べ、より現実に近い高精度の臭気濃度を得ることができる。
【符号の説明】
【0073】
10 入力装置
20 記憶装置
21 作業用DB
22 化学反応濃度減衰率DB
23 化学反応分解率・合成率DB
24 複合臭気濃度DB
30 演算処理装置
31 移流拡散濃度計算部(移流拡散濃度計算手段)
32 化学反応濃度減衰量計算部(化学反応濃度減衰量計算手段)
33 複合臭気成分計算部(複合臭気成分計算手段)
34 複合臭気濃度計算部(複合臭気濃度計算手段)
40 表示装置
100 臭気拡散シミュレーション装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気に排出された臭気の拡散をシミュレーションする臭気拡散シミュレーション方法および臭気拡散シミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臭気(とくに悪臭)の外部への拡散に対する対策を講ずるためには、あるいは、臭気の拡散状況を把握するためには、臭気拡散シミュレーションを実施する必要がある。地方自治体は、悪臭防止の観点から敷地境界での臭気指数の基準を定めており、一定規模の施設は、その基準を満たすことが義務付けられ、環境への影響を評価する必要がある。
【0003】
臭気(悪臭)のもととなる物質は、通常の大気汚染物質と異なり、化学反応によって、その濃度や成分が変わる物質が多い。そのため、多種類の臭気物質が相加、相乗されることによって、人の嗅覚に強く感じられる悪臭(複合臭による悪臭)が生じることがある。従って、臭気拡散シミュレーションでは、このような複合臭による悪臭を、とくに考慮しておく必要がある。
【0004】
特許文献1には、臭気(悪臭)物質濃度を測定し、その測定した結果を、臭いの特性によって感覚的に捉えることを可能にした臭気強度で評価する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1では、複合した悪臭物質の化学反応による二次的な生成物質や分解物質の影響、あるいは、悪臭物質の成分比の変化については考慮されていない。
【0005】
また、悪臭に関する環境アセスメントに関するシミュレーション方法が「臭気指数2号規制基準」(例えば、非特許文献1参照)および「生活環境影響評価の調査指針」(例えば、非特許文献2参照)の中に示されている。これら非特許文献1,2では、悪臭物質の拡散予測に、一般の大気汚染物質と同じ拡散計算の手法であるプルーム・パフモデルが用いられている。プルーム・パフモデルでは、比較的簡単な数値計算を行うことによって、大気汚染物質の濃度を計算することができる。
【0006】
また、非特許文献1,2に示されたシミュレーション方法では、臭気(悪臭)の特徴を考慮するため、プルーム・パフモデルのパラメータを調整することが行われ、さらに、複合臭を人の感覚で評価するための臭気濃度が用いられている。しかしながら、そこでは、複合臭を人の感覚から捉えた臭気濃度の拡散として評価されているため、実際の悪臭物質の化学変化による濃度変化や成分の変化は考慮されていない。
【0007】
物質の化学変化を考慮した大気拡散シミュレーションモデルとして、独立行政法人産業技術総合研究所が開発した「ADMER(Atmospheric Dispersion Model for Exposure and Risk assessment)」(例えば、非特許文献3参照)がある。「ADMER」では、物質の化学変化による濃度減衰を考慮して拡散予測が行われる。濃度減衰は、拡散予測を行う物質に分解係数を設定し、物質の拡散予測する時間の進行とともに、化学反応による物質の分解する割合が高くなるという考えに基づく概念である。しかしながら、「ADMER」では、単一物質の濃度減衰だけが計算され、化学変化による二次的な生成物質や分解物質の影響については考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4374723号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】環境省 水・大気環境局大気生活環境室、「よくわかる臭気指数規制2号基準〜煙突などの気体排出口における悪臭の規制基準〜」、[平成23年6月20日検索]、インターネット<URL:http://www.env.go.jp/air/akushu/kisei/index.html>
【非特許文献2】環境省通達、「廃棄物処理施設生活環境影響調査指針について」、平成18年09月4日、[平成23年6月20日検索]、インターネット<URL:http://www.env.go.jp/ hourei/syousai.php?id=11000364>
【非特許文献3】独立行政法人 産業技術総合研究所、「ADMER2:Atmospheric Dispersion Model for Exposure and Risk assessment」、[平成23年6月20日検索]、インターネット<URL:http://www.aist-riss.jp/software/admer/ja/index_ja.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように従来における臭気拡散シミュレーションでは、悪臭物質が拡散する過程で化学変化し、二次的に生成される物質の影響については、ほとんど考慮されていない。しかしながら、悪臭は、通常、複数の臭気物質から発生する複合臭である。複合臭の臭気濃度は、各臭気物質それぞれから発生する臭気の臭気濃度の和になるとは限らない。臭気には、相互作用があるので、複合臭の臭気濃度は、臭気物質の種類、組み合わせ、成分比などにより、大きくもなり、また、小さくもなる。従って、臭気拡散シミュレーションには、臭気物質の成分およびその成分比をできるだけ現実に近い値を算出することが求められている。
【0011】
そこで、本発明の目的は、臭気物質が拡散する過程において、化学変化によりその成分および成分比が変化することを考慮し、より現実に忠実な臭気濃度を算出することが可能な臭気拡散シミュレーション方法および臭気拡散シミュレーション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る臭気拡散シミュレーション方法および装置は、複数の複合臭気のそれぞれに対し、その複合臭気の成分物質の成分比と大気拡散濃度と臭気濃度とが対応付けられて構成された複合臭気濃度データを蓄積した複合臭気濃度データベースにアクセス可能な演算処理装置を用いて、排出源から排出される臭気の拡散をシミュレーションする臭気拡散シミュレーション方法および装置であって、(1)前記演算処理装置は、気象データおよび排出源データを入力し、前記排出源データで指定される臭気を構成する排出物質が化学反応せずに大気中を移流拡散する計算モデルに基づき、前記排出源から離れた計算対象地点における前記排出物質の大気拡散濃度および移流時間を算出する移流拡散濃度計算処理と、(2)前記算出した移流時間中に前記排出物質が化学反応するとき残留する前記排出物質の大気拡散濃度である残留濃度を算出し、前記移流拡散濃度計算処理で計算した前記排出物質の大気拡散濃度から前記残留濃度を差し引いた差分量を、前記化学反応による前記排出物質の大気拡散濃度の濃度減衰量として算出する化学反応濃度減衰量計算処理と、(3)前記化学反応により生成された生成物の成分比を算出するとともに、その算出した成分比と前記濃度減衰量とに基づき、前記生成物の大気拡散濃度を算出し、前記算出した前記生成物の大気拡散濃度と前記排出物質の残留濃度とに基づき、前記排出物質の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を算出する複合臭気成分計算処理と、(4)前記複合臭気濃度データベースに蓄積された複合臭気データから、前記排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気と同じ成分を有する複合臭気の複合臭気データを抽出し、その抽出した複合臭気データを用いた重回帰分析によって得られる、複合臭気の成分比と大気拡散濃度とから臭気濃度を予測する予測式に、前記排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を代入して、前記計算対象地点における前記複合臭気の臭気濃度を算出する複合臭気濃度計算処理と、を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、臭気物質が拡散する過程において、化学変化によりその成分および成分比が変化することを考慮し、より現実に忠実な臭気濃度を算出することができる臭気拡散シミュレーションが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る臭気拡散シミュレーション装置の構成の例を示した図。
【図2】本発明の実施形態に係る臭気拡散シミュレーションの全体処理フローの例を示した図。
【図3】化学反応濃度減衰量計算部による化学反応濃度減衰量計算処理の処理フローの例を示した図。
【図4】化学反応濃度減衰率DBの構成の例を示した図。
【図5】化学反応による排出物質の濃度減衰の様子を残留濃度と移流時間との関係グラフで示した図。
【図6】複合臭気成分計算部による複合臭気成分計算処理の処理フローの例を示した図。
【図7】図6の複合臭気成分計算処理で用いられ、作業用DBに記憶される生成物成分データの構成の例を示し図。
【図8】化学反応分解率・合成率DBの構成の例を示した図。
【図9】図6の複合臭気成分計算処理における化学反応生成物成分比算出処理の詳細な処理フローの例を示した図。
【図10】図9の化学反応生成物成分比算出処理におけるステップS672の詳細な処理フローの例を示した図。
【図11】図9の化学反応生成物成分比算出処理におけるステップS673の詳細な処理フローの例を示した図。
【図12】複合臭気濃度計算部による複合臭気濃度計算処理の処理フローの例を示した図。
【図13】複合臭気濃度DBの構成の例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る臭気拡散シミュレーション装置の構成の例を示した図である。図1に示すように、臭気拡散シミュレーション装置100は、キーボードやマウスなどからなる入力装置10と、半導体メモリやハードディスク装置などからなる記憶装置20と、マイクロプロセッサ集積回路などからなる演算処理装置30と、液晶ディスプレイなどからなる表示装置40と、を含んで構成される。
【0017】
そして、記憶装置20上には、作業用DB(Database)21、化学反応濃度減衰率DB22、化学反応分解率・合成率DB23、複合臭気濃度DB24などのデータベースが構成され、また、演算処理装置30上には、移流拡散濃度計算部31、化学反応濃度減衰量計算部32、複合臭気成分計算部33、複合臭気濃度計算部34などの機能ブロックが構成される。
【0018】
ここで、記憶装置20上に構成される作業用DB21は、入力装置10を介して入力される予測条件、気象データ、排出源条件など演算処理に用いられる各種データや、演算処理結果のデータを記憶するデータベースである。また、化学反応濃度減衰率DB22は、実験データや文献情報などから得られた排出物質の濃度減衰率、化学反応式、化学反応式構成率、残留濃度計算式などが予め蓄積されたデータベースである。
【0019】
また、化学反応分解率・合成率DB23は、実験データや文献情報などから得られた物質の化学反応式、物質の分解率、物質の合成率、物質の判定濃度、化学反応式構成率などが予め蓄積されたデータベースである。また、複合臭気濃度DB24は、実験データや文献情報などから得られた複合臭気の成分比、複合臭気の大気拡散濃度、複合臭気の臭気濃度などが予め蓄積されたデータベースである。
【0020】
一方、演算処理装置30上に構成された移流拡散濃度計算部31は、作業用DB21に記憶されている入力データ(予測条件、気象データ、排出源条件など)を、排出源から排出された排出物質が化学反応せずに大気中を移流拡散する計算モデル(例えば、プルーム・パフモデルなど)に適用して、排出物質の移流拡散計算を行い、予め定められた計算対象地点における排出物質の大気拡散濃度および移流時間を算出する。
【0021】
また、化学反応濃度減衰量計算部32は、移流拡散濃度計算部31で算出した移流時間中に、排出物質が大気などと化学反応した後に残留する排出物質の大気拡散濃度である残留濃度を算出する。さらに、化学反応濃度減衰量計算部32は、移流拡散濃度計算部31で計算した排出物質の大気拡散濃度から、前記算出した残留濃度を差し引いた差分量を、化学反応による排出物質の大気拡散濃度の濃度減衰量として算出する。
【0022】
また、複合臭気成分計算部33は、化学反応分解率・合成率DB23に蓄積されているデータを用いて、排出物質の化学反応による生成物の成分比を算出する。そして、その算出した成分比と、化学反応濃度減衰量計算部32で算出した濃度減衰量と、に基づき、化学反応による生成物の大気拡散濃度を算出する。さらに、複合臭気成分計算部33は、その化学反応による生成物の大気拡散濃度と排出物質の残留濃度とに基づき、排出物質の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気について、その成分比と大気拡散濃度とを算出する。
【0023】
また、複合臭気濃度計算部34は、複合臭気濃度DB24に蓄積されている複合臭気データから、排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気と同じ成分を有する複合臭気についての複合臭気データを抽出し、その抽出した複合臭気データを用いて重回帰分析を行い、複合臭気の成分比と大気拡散濃度とから臭気濃度を予測する予測式を求める。そして、複合臭気成分計算部33で算出した排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を、その予測式に代入して、当該計算対象地点における複合臭気の臭気濃度を算出する。
【0024】
さらに、演算処理装置30上に構成された図示しない臭気濃度分布作成部は、複合臭気濃度計算部34を用いて算出した、所定の地域の多数の計算対象地点における臭気濃度に基づき、臭気濃度分布図を作成し、その作成した臭気濃度分布図を地形図または地勢図に重ね合わせて表示装置40に表示する。
【0025】
なお、これらの機能ブロックの機能は、演算処理装置30が予め記憶装置20に格納されている所定のプログラムを実行することによって実現される。すなわち、臭気拡散シミュレーション装置100は、演算処理装置30と記憶装置20とを備えた、いわゆるコンピュータによって実現される。その場合、そのコンピュータは、互いにネットワークなどで通信可能に接続された複数のコンピュータであってもよい。そして、記憶装置20上に構成される各データベースがそれぞれ別のコンピュータに含まれるとしてもよい。
【0026】
また、演算処理装置30は、コンピュータのいわゆるCPU(Central Processing Unit)に限定されるものではなく、前記の移流拡散濃度計算部31、化学反応濃度減衰量計算部32、複合臭気成分計算部33、複合臭気濃度計算部34などの機能を実現するものであれば、FPGA(Field Programmable Gate Array)などで構成された専用の制御回路であってもよい。
【0027】
また、記憶装置20上に格納されている作業用DB21、化学反応濃度減衰率DB22、化学反応分解率・合成率DB23および複合臭気濃度DB24は、それぞれ異なるコンピュータの記憶装置20上に構成されていても構わない。そして、これらのデータベースは、演算処理装置30と同じコンピュータの記憶装置20上に構成されていても、ネットワークを介した他のコンピュータの記憶装置20上に構成されていても、演算処理装置30からアクセス可能であればよい。
【0028】
続いて、図2は、本発明の実施形態に係る臭気拡散シミュレーションの全体処理フローの例を示した図である。臭気拡散シミュレーションは、演算処理装置30上に構成された各機能ブロックによって実現される。
【0029】
図2に示すように、演算処理装置30は、まず、入力装置10を介して臭気拡散シミュレーションのための予測条件データ(予測対象地域の基準点の緯度、経度、X方向予測範囲、Y方向予測範囲、X方向予測メッシュ数、Y方向予測メッシュ数など)を入力し(ステップS1)、作業用DB21に格納する。次に、演算処理装置30は、入力装置10を介して気象データ(風向、風速、大気安定度など)を入力し(ステップS2)、作業用DB21に格納する。次に、演算処理装置30は、入力装置10を介して臭気物質の排出源データ(排出源の位置、排出口形状、排出量、温度、排出速度、排出物質など)を入力し(ステップS3)、作業用DB21に格納する。
【0030】
続いて、演算処理装置30は、移流拡散濃度計算部31の機能として、移流拡散濃度計算処理を実行する(ステップS4)。すなわち、演算処理装置30は、作業用DB21に格納された予測条件データ、気象データおよび排出源データに基づき、プルーム・パフモデル(非特許文献1など参照)を用いて、臭気濃度計算対象地点(以下、単に、対象地点という)における排出物質の大気拡散濃度および移流時間を算出し、その大気拡散濃度および移流時間を作業用DB21に保存する。なお、プルーム・パフモデルでは、排出物質は、単に、移流拡散するだけであって、排出物質が大気などと化学反応することは仮定されていない。
【0031】
次に、演算処理装置30は、化学反応濃度減衰量計算部32の機能として、化学反応濃度減衰量計算処理を実行する(ステップS5)。すなわち、演算処理装置30は、ステップS4の移流拡散濃度計算処理で算出した排出物質の大気拡散濃度と、排出源データに含まれる排出物質について化学反応濃度減衰率DB22から読み出した当該排出物の濃度減衰率データ、化学反応式、化学反応式構成率および残留濃度計算式の各データと、を用いて対象地点における化学反応による排出物質の濃度減衰量を算出し、作業用DB21に保存する。なお、この化学反応濃度減衰量計算処理のさらに詳細な処理フローについては、図3などを参照して、別途、説明する。
【0032】
次に、演算処理装置30は、複合臭気成分計算部33の機能として、複合臭気成分計算処理を実行する(ステップS6)。すなわち、演算処理装置30は、ステップS5の化学反応濃度減衰量計算処理で算出した排出物質の濃度減衰量と、化学反応分解率・合成率DB23から読み出した物質の化学反応式、分解率および合成率のデータと、を用いて、排出物質の移流および化学反応によって生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を算出し、作業用DB21に格納する。なお、この複合臭気成分計算処理のさらに詳細な処理フローについては、図6などを参照して、別途、説明する。
【0033】
次に、演算処理装置30は、複合臭気濃度計算部34の機能として、複合臭気濃度計算処理を実行する(ステップS7)。すなわち、演算処理装置30は、複合臭気濃度DB24に蓄積されている複合臭気の成分比と大気拡散濃度と複合臭気濃度とからなる複合臭気のデータについて重回帰分析を行い、得られた重回帰の予測式にステップS6の複合臭気成分計算処理で算出した複合臭気の成分比および大気拡散濃度を代入して、当該複合臭気濃度を算出し、算出した複合臭気濃度を作業用DB21に格納する。なお、この複合臭気濃度計算処理のさらに詳細な処理フローについては、図12などを参照して、別途、説明する。
【0034】
続いて、図3〜図5を参照して、化学反応濃度減衰量計算部32による化学反応濃度減衰量計算処理の詳細について説明する。ここで、図3は、化学反応濃度減衰量計算部32による化学反応濃度減衰量計算処理の処理フローの例を示した図、図4は、化学反応濃度減衰率DB22の構成の例を示した図、図5は、化学反応による排出物質の濃度減衰の様子を残留濃度と移流時間との関係グラフで示した図である。
【0035】
図3に示すように、演算処理装置30は、化学反応濃度減衰量計算処理(図2ステップS5)において、まず、化学反応濃度減衰率DB22から、ステップS3(図2参照)の排出源データで指定された排出物質に対応付けられた化学反応式、化学反応式構成率、濃度減衰率、残留濃度計算式の各データを読み出す(ステップS51)。
【0036】
ここで、化学反応濃度減衰率DB22は、図4に示すように、排出物質に対して、その排出物質に関係する複数の化学反応式が対応付けられ、さらに、そのそれぞれの化学反応式に対して、濃度減衰率、化学反応構成率、残留濃度計算式などが対応付けられて構成される。なお、図4の例では、排出物質としては、NOxだけが例示され、そのNOxに対し、3種の化学反応が進行することが示されている。
【0037】
次に、図3において、演算処理装置30は、プルーム・パフモデルによって算出した排出物質の大気拡散濃度、移流時間(図2、ステップS4参照)、および、ステップS51で読み出した排出物質の化学反応式、濃度減衰率、残留濃度計算式(図4参照)を用いて、当該排出物質の化学反応後の残留濃度を算出する(ステップS52)。
【0038】
ここで、排出物質の大気拡散濃度をC0、濃度減衰率をkd、移流時間をtとすると、例えば、NOx→NO2+O2という化学反応による時刻tにおける排出物質NOxの残留濃度Ctは、次の式(1)によって表される。なお、C0≧0,Ct≧0,t≧0であるとする。
Ct=C0・exp(−kd・t) (1)
【0039】
この式(1)による濃度減衰後の残留濃度Ctと移流時間tとの関係は、例えば、図5に示すグラフで表される。すなわち、移流時間tの経過とともに、NOx→NO2+O2という化学反応が進行し、NOxの残留濃度は減少する。一方、この化学反応で生成されるNO2およびO2の濃度は増加する(図示せず)。
【0040】
再び、図3を参照すると、演算処理装置30は、ステップS52で算出した各化学反応式による化学反応後の残留濃度、および、ステップS51で化学反応濃度減衰率DB22から読み出した化学反応式構成率を用いて、対象地点における排出物質の残留濃度を算出し(ステップS53)、作業用DB21に格納する。
【0041】
次に、演算処理装置30は、ステップS3で算出した対象地点における排出物質の大気拡散濃度と、ステップS53で算出した対象地点における排出物質の化学反応後の残留濃度との差から、対象地点における排出物質の濃度減衰量を算出し(ステップS54)、作業用DB21に格納する。
【0042】
続いて、図6〜図8を参照して、複合臭気成分計算部33による複合臭気成分計算処理の詳細について説明する。ここで、図6は、複合臭気成分計算部33による複合臭気成分計算処理の処理フローの例を示した図、図7は、図6の複合臭気成分計算処理で用いられ、作業用DB21に記憶される生成物成分データの構成の例を示し図、図8は、化学反応分解率・合成率DB23の構成の例を示した図である。
【0043】
図6に示すように、複合臭気成分計算処理では、演算処理装置30は、まず、その処理で用いられる生成物とその成分比とその大気拡散濃度とからなる生成物成分データの初期値を設定し(図7(a)参照)、作業用DB21に格納する(ステップS61)。すなわち、生成物成分データにおいて、生成物の初期値は、排出物質そのものであり、成分比の初期値は、排出物質の成分比で表され、大気拡散濃度は、化学反応濃度減衰量計算処理で算出された排出物質の濃度減衰量(図3、ステップS54参照)で表される。ちなみに、図7(a)では、排出物質はNOxだけであるとし、その成分比の初期値は、1.00とされている。
【0044】
次に、演算処理装置30は、作業用DB21から生成物成分データ(生成物、成分比、大気拡散濃度)を読み出す(ステップS62)。さらに、演算処理装置30は、化学反応分解率・合成率DB23から、ステップS62で読み出した生成物成分データに含まれる生成物について、その生成物の分解および合成に係る物質の物質名、化学反応式、判定濃度を読み出す(ステップS63)。
【0045】
ここで、化学反応分解率・合成率DB23は、図8に示すように、物質の分解および合成に係る物質の物質名、その物質の判定濃度(臭気として考慮すべき濃度の最小値)、分解および合成化学反応式、分解して生じる物質の分解率、合成反応に用いられる物質の合成率などのデータによって構成されている。
【0046】
次に、図6において、演算処理装置30は、ステップS63で化学反応分解率・合成率DB23から読み出したデータの中に、大気拡散濃度が判定濃度より大きく、かつ、分解または合成の化学反応式を有する物質が存在するか否かを判定する(ステップS64)。
【0047】
そして、その判定条件に該当する物質が存在する場合には(ステップS64でYes)、演算処理装置30は、その該当する物質の中から、化学反応により成分比を変化させる着目物質を選択し(ステップS65)、さらに、その着目物質の分解または合成の化学反応式を、ステップS63で化学反応分解率・合成率DB23から読み出したデータの中から1つ選択する(ステップS66)。
【0048】
次に、演算処理装置30は、選択した化学反応式に基づき、その化学反応によって変化した生成物の成分比を算出する(ステップS67)。なお、この成分比の算出処理については、図9〜図11を用いて、別途、詳しく説明するが、その処理の中では、作業用DB21に記憶されている生成物成分データ(生成物、成分比、大気拡散濃度)は、適宜、更新される。
【0049】
次に、演算処理装置30は、ステップS63で化学反応分解率・合成率DB23から読み出したデータの中に、着目物質の分解または合成について、別の化学反応式が存在するか否かを判定し(ステップS68)、別の化学反応式が存在する場合には(ステップS68でYes)、ステップS66へ戻り、ステップS66では、それまでの処理で選択されていない化学反応式を選択し、ステップS67以下の処理を再度実行する。また、別の化学反応式が存在しない場合には(ステップS68でNo)、演算処理装置30は、ステップS62へ戻り、ステップS62以下の処理を再度実行する。
【0050】
一方、ステップS64の判定において、その判定条件に該当する物質が存在しない場合には(ステップS64でNo)、そのとき作業用DB21記憶されている生成物成分データ(生成物、成分比、大気拡散濃度)と化学反応濃度減衰量計算処理(図3、ステップS53参照)で算出した排出物質の残留濃度とに基づき、移流拡散した排出物質と排出物質の化学反応により生成された生成物とを含んでなる臭気物質の成分比および大気拡散濃度を算出する(ステップS69)。
【0051】
すなわち、ここでいう臭気物質には、この時点まで移流拡散し残留している排出物質、および、排出物質の大気などとの化学反応による生成物が含まれる。また、排出物質の化学反応による生成物についての生成物、成分比、大気拡散濃度は、この時点で作業用DB21に記憶されている生成物成分データによって表される(図7(b)の例を参照)。
【0052】
図9は、図6の複合臭気成分計算処理における化学反応生成物成分比算出処理(図6、ステップS67)の詳細な処理フローの例を示した図である。図9において、演算処理装置30は、まず、ステップS66で選択した化学反応式の化学反応状態が「分解」であるか否かを判定し(ステップS671)、化学反応状態が「分解」である場合には(ステップS671でYes)、着目物質の分解反応後の生成物の成分比を算出し(ステップS672)、一方、化学反応状態が「分解」でない、つまり、「合成」である場合には(ステップS671でNo)、着目物質の合成反応後の生成物の成分比を算出する(ステップS673)。なお、ステップS672およびステップS673のさらに詳細な処理フローの例については、図10、図11を参照して、別途、詳しく説明する。
【0053】
次に、演算処理装置30は、ステップS672、S673での計算結果を反映した生成物成分データを記憶した作業用DB21から、すべての生成物の大気拡散濃度および成分比を読み出し(ステップS674)、読み出したすべての生成物の大気拡散濃度の和がステップS5で計算した濃度減衰量と等しいか否かを判定する(ステップS675)。
【0054】
ステップS675における判定の結果、すべての生成物の大気拡散濃度の和が濃度減衰量と等しくない場合には(ステップS675でNo)、演算処理装置30は、ステップS674で読み出した生成物の成分比を用いて、生成物の大気拡散濃度の和とステップS5で計算した濃度減衰量が等しくなるように、生成物の大気拡散濃度を補正し(ステップS676)、作業用DB21(生成物成分データ)を更新し、図9の処理を終了する。また、ステップS675における判定の結果、すべての生成物の大気拡散濃度の和が濃度減衰量と等しい場合には(ステップS675でYes)、そのまま図9の処理を終了する。
【0055】
図10は、図9の化学反応生成物成分比算出処理におけるステップS672の詳細な処理フローの例を示した図である。図10において、演算処理装置30は、まず、ステップS66(図6参照)で選択した化学反応式について、化学反応式分解率・合成率DB23から分解率を読み出す(ステップS6721)。次に、演算処理装置30は、その読み出した化学反応式の分解率と、着目物質の大気拡散濃度から、分解反応後の生成物の成分比および大気拡散濃度を計算する(ステップS6722)。
【0056】
次に、演算処理装置30は、分解反応後の生成物が作業用DB21の生成物成分データに含まれているか否かを判定し(ステップS6723)、含まれている場合には(ステップS6723でYes)、ステップS6722で算出した分解反応後の生成物の成分比および大気拡散濃度を用いて、作業用DB21の生成物成分データにおける当該生成物の成分比および大気拡散濃度を更新する(ステップS6724)。
【0057】
一方、ステップS6723の判定で、分解反応後の生成物が作業用DB21の生成物成分データに含まれていない場合には(ステップS6723でNo)、演算処理装置30は、当該生成物を作業用DB21の生成物成分データに登録する(ステップS6725)。次に、演算処理装置30は、ステップS6722で算出した分解反応後の生成物の成分比および大気拡散濃度を用いて、作業用DB21の生成物成分データにおける当該生成物の成分比および大気拡散濃度を更新する(ステップS6726)。
【0058】
図11は、図9の化学反応生成物成分比算出処理におけるステップS673の詳細な処理フローの例を示した図である。図11において、演算処理装置30は、まず、ステップS66(図6参照)で選択した化学反応式について、化学反応式分解率・合成率DB23から合成率を読み出し(ステップS6731)、さらに続けて、作業用DB21(生成物成分データ)からその選択した化学反応式による合成の化学反応に用いられる物質の成分比、大気拡散濃度を読み出す(ステップS6732)。次に、演算処理装置30は、ステップS6731で読み出した化学反応式の合成率と、着目物質の大気拡散濃度と、ステップS6732で読み出した合成に用いられる物質の成分比および大気拡散濃度から、合成反応後の生成物の成分比および大気拡散濃度を算出する(ステップS6733)。
【0059】
次に、演算処理装置30は、合成反応後の生成物が作業用DB21の生成物成分データに含まれているか否かを判定し(ステップS6734)、含まれている場合には(ステップS6734でYes)、ステップS6733で算出した合成反応後の生成物の成分比および大気拡散濃度を用いて、作業用DB21の生成物成分データにおける当該生成物の成分比および大気拡散濃度を更新する(ステップS6735)。
【0060】
一方、ステップS6734の判定で、合成反応後の生成物が作業用DB21の生成物成分データに含まれていない場合には(ステップS6734でNo)、演算処理装置30は、当該生成物を作業用DB21の生成物成分データに登録する(ステップS6736)。次に、演算処理装置30は、ステップS6733で算出した合成反応後の生成物の成分比および大気拡散濃度を用いて、作業用DB21の生成物成分データにおける当該生成物の成分比および大気拡散濃度を更新する(ステップS6737)。
【0061】
続いて、図12、図13を参照して、複合臭気濃度計算部34による複合臭気濃度計算処理(図2、ステップS7参照)の詳細について説明する。ここで、図12は、複合臭気濃度計算部34による複合臭気濃度計算処理の処理フローの例を示した図、図13は、複合臭気濃度DB24の構成の例を示した図である。
【0062】
演算処理装置30は、まず、複合臭気濃度DB24から、複合臭気成分計算処理(図2、ステップS6)で得た複合臭気と同じ成分で構成されている複合気体の複合臭気濃度データを抽出する(ステップS71)。
【0063】
ここで、複合臭気濃度DB24は、図13に示すように、様々な複合気体(複合臭気)について、その複合気体の成分比と大気拡散濃度と臭気濃度とを対応付けた複合臭気濃度データを蓄積したデータベースである。なお、複合臭気濃度DB24に蓄積された複合臭気濃度データは、実験によって求めた実験データであってもよく、公開された文献などに記載された文献データであってもよい。さらには、本実施形態に係る臭気拡散シミュレーション装置100などによって計算された計算結果データであってもよい。また、ここでいう複合気体の臭気濃度は、通常、臭気判定士など人によって判定された数値である。
【0064】
また、図13の例では、複合気体の例は、実験データ、文献データ、計算結果データそれぞれについて1つずつしか記載されていないが、その複合気体の種類は多数あり、成分が同じ複合気体についても、その成分比や大気拡散濃度が異なるものが多数蓄積されているものとする。
【0065】
従って、図12のステップS71の処理では、複合臭気濃度DB24の中から、本実施形態における複合臭気(すなわち、排出源から排出される排出物質およびその排出物質が化学変化した生成物を含む気体)と同じ成分を有する複合気体(複合臭気)についての複合臭気濃度データが抽出される。
【0066】
そこで、演算処理装置30は、ステップS71で抽出した(複合気体(複合臭気)の成分比、大気拡散濃度および臭気濃度からなる)複合臭気濃度データに対して重回帰分析を適用し、複合臭気の成分比および大気拡散濃度から臭気濃度を求める重回帰予測式を導出する(ステップS72)。
【0067】
ここで、重回帰分析は、複数の変数(説明変数)の分布値から別の変数(目的変数)の値を予測する手法であり、説明変数をX1〜Xn、目的変数をYとしたとき、目的変数Yの値は、重回帰分析の基本式(以下、重回帰予測式という)である式(2)によって予測される。
Y=b0+b1・X1+b2・X2+・・・+bn・Xn ・・・(2)
【0068】
なお、重回帰予測式(2)において、b0,b1,・・・,bnは、偏回帰係数と呼ばれ、周知の一般的な重回帰分析処理によって求められる。従って、本実施形態の場合、説明変数X1〜Xnには、複合臭気の成分比および大気拡散濃度が該当し、目的変数Yには、臭気濃度が該当する。よって、複合臭気の成分比および大気拡散濃度が既知であれば、その複合臭気の臭気濃度は、重回帰予測式(2)によって算出することができる。
【0069】
そこで、演算処理装置30は、複合臭気成分計算処理(図2、ステップS6)で算出した複合臭気の成分比および大気拡散濃度を重回帰予測式(2)に代入することにより、当該複合臭気の臭気濃度を算出する(ステップS73)。次に、演算処理装置30は、以上の処理によって算出した複合臭気の成分比、大気拡散濃度および臭気濃度からなる複合臭気のデータを複合臭気濃度DB24に登録する(ステップS74)。
【0070】
このように、本実施形態では、臭気拡散シミュレーション装置100で算出した複合臭気の成分比、大気拡散濃度および臭気濃度からなる複合臭気のデータを複合臭気濃度DB24に登録するようにしているので、重回帰分析で利用可能なデータが、順次、増加することとなり、それに伴って、重回帰予測式(2)で予測される複合臭気の臭気濃度の精度が向上する。
【0071】
なお、演算処理装置30は、以上のようにして求めた対象地点における臭気濃度を、地形図または地勢図と合成して、表示装置40表示する処理を行うが、ここでは、その処理の説明を省略する。
【0072】
以上、本実施形態によれば、排出源から排出された排出物質(臭気物質)は、移流拡散される間に大気などとの化学反応により、その大気拡散濃度が減衰するとともに、その化学反応による生成物の成分比および大気拡散濃度を算出し、その結果得られる複合臭気の臭気濃度を計算している。従って、本実施形態では、従来のプルーム・パフモデルなどに比べ、より現実に近い高精度の臭気濃度を得ることができる。
【符号の説明】
【0073】
10 入力装置
20 記憶装置
21 作業用DB
22 化学反応濃度減衰率DB
23 化学反応分解率・合成率DB
24 複合臭気濃度DB
30 演算処理装置
31 移流拡散濃度計算部(移流拡散濃度計算手段)
32 化学反応濃度減衰量計算部(化学反応濃度減衰量計算手段)
33 複合臭気成分計算部(複合臭気成分計算手段)
34 複合臭気濃度計算部(複合臭気濃度計算手段)
40 表示装置
100 臭気拡散シミュレーション装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の複合臭気のそれぞれに対し、その複合臭気の成分物質の成分比と大気拡散濃度と臭気濃度とが対応付けられて構成された複合臭気濃度データを蓄積した複合臭気濃度データベースにアクセス可能な演算処理装置を用いて、排出源から排出される臭気の拡散をシミュレーションする臭気拡散シミュレーション方法であって、
前記演算処理装置は、
気象データおよび排出源データを入力し、前記排出源データで指定される臭気を構成する排出物質が化学反応せずに大気中を移流拡散する計算モデルに基づき、前記排出源から離れた計算対象地点における前記排出物質の大気拡散濃度および移流時間を算出する移流拡散濃度計算処理と、
前記算出した移流時間中に前記排出物質が化学反応するとき残留する前記排出物質の大気拡散濃度である残留濃度を算出し、前記移流拡散濃度計算処理で計算した前記排出物質の大気拡散濃度から前記残留濃度を差し引いた差分量を、前記化学反応による前記排出物質の大気拡散濃度の濃度減衰量として算出する化学反応濃度減衰量計算処理と、
前記化学反応により生成された生成物の成分比を算出するとともに、その算出した成分比と前記濃度減衰量とに基づき、前記生成物の大気拡散濃度を算出し、前記算出した前記生成物の大気拡散濃度と前記排出物質の残留濃度とに基づき、前記排出物質の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を算出する複合臭気成分計算処理と、
前記複合臭気濃度データベースに蓄積された複合臭気データから、前記排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気と同じ成分を有する複合臭気の複合臭気データを抽出し、その抽出した複合臭気データを用いた重回帰分析によって得られる、複合臭気の成分比と大気拡散濃度とから臭気濃度を予測する予測式に、前記排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を代入して、前記計算対象地点における前記複合臭気の臭気濃度を算出する複合臭気濃度計算処理と、
を実行すること
を特徴とする臭気拡散シミュレーション方法。
【請求項2】
前記演算処理装置は、
複数の物質のそれぞれに対し、その物質が大気中で反応する化学反応式、その化学反応により残留する前記物質の大気拡散濃度を算出する残留濃度計算式、その残留濃度計算式で用いられている濃度減衰率、および、前記物質についての前記化学反応式の化学反応構成率が対応付けられて構成された化学反応濃度減衰率データを蓄積した化学反応濃度減衰率データベースに、さらに、アクセス可能に構成され、
前記化学反応濃度減衰量計算処理において、前記排出物質の残留濃度を算出するとき、前記化学反応濃度減衰率データベースから前記排出物質についての前記化学反応濃度減衰率データを読み出し、その化学反応濃度減衰率データに含まれる化学反応式と残留濃度計算式と濃度減衰率と化学反応構成率とを用いて、前記排出物質の残留濃度を算出すること
を特徴とする請求項1に記載の臭気拡散シミュレーション方法。
【請求項3】
前記演算処理装置は、
複数の物質のそれぞれに対し、その物質の分解反応の化学反応式とその分解反応によって生成される物質の分解率とを含んでなる分解率データ、および、前記分解反応によって生成された物質による合成反応の化学反応式とその合成反応によって生成される生成物の合成率とを含んでなる合成率データ、を対応付けて構成された化学反応分解率・合成率データを蓄積した化学反応分解率・合成率データベースに、さらに、アクセス可能に構成され、
前記複合臭気成分計算処理において、前記生成物の成分比を算出するとき、前記化学反応分解率・合成率データベースから前記排出物に対応付けられた化学反応分解率・合成率データを読み出し、前記化学反応分解率・合成率データに含まれる前記排出物質の分解反応で生成される生成物の分解率と、前記分解反応で生成された生成物による合成反応によって生成される生成物の生成率とを用いて、前記生成物の成分比を算出すること
を特徴とする請求項2に記載の臭気拡散シミュレーション方法。
【請求項4】
複数の複合臭気のそれぞれに対し、その複合臭気の成分物質の成分比と大気拡散濃度と臭気濃度とが対応付けられて構成された複合臭気濃度データを蓄積した複合臭気濃度データベースを備え、排出源から排出される臭気の拡散をシミュレーションする臭気拡散シミュレーション装置であって、
気象データおよび排出源データを入力し、前記排出源データで指定される臭気を構成する排出物質が化学反応せずに大気中を移流拡散する計算モデルに基づき、前記排出源から離れた計算対象地点における前記排出物質の大気拡散濃度および移流時間を算出する移流拡散濃度計算手段と、
前記算出した移流時間中に前記排出物質が化学反応するとき残留する前記排出物質の大気拡散濃度である残留濃度を算出し、前記移流拡散濃度計算手段で計算した前記排出物質の大気拡散濃度から前記残留濃度を差し引いた差分量を、前記化学反応による前記排出物質の大気拡散濃度の濃度減衰量として算出する化学反応濃度減衰量計算手段と、
前記化学反応により生成された生成物の成分比を算出するとともに、その算出した成分比と前記濃度減衰量とに基づき、前記生成物の大気拡散濃度を算出し、前記算出した前記生成物の大気拡散濃度と前記排出物質の残留濃度とに基づき、前記排出物質の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を算出する複合臭気成分計算手段と、
前記複合臭気濃度データベースに蓄積された複合臭気データから、前記排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気と同じ成分を有する複合臭気の複合臭気データを抽出し、その抽出した複合臭気データを用いた重回帰分析によって得られる、複合臭気の成分比と大気拡散濃度とから臭気濃度を予測する予測式に、前記排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を代入して、前記計算対象地点における前記複合臭気の臭気濃度を算出する複合臭気濃度計算手段と、
を備えたこと
を特徴とする臭気拡散シミュレーション装置。
【請求項5】
複数の物質のそれぞれに対し、その物質が大気中で反応する化学反応式、その化学反応により残留する前記物質の大気拡散濃度を算出する残留濃度計算式、その残留濃度計算式で用いられている濃度減衰率、および、前記物質についての前記化学反応式の化学反応構成率が対応付けられて構成された化学反応濃度減衰率データを蓄積した化学反応濃度減衰率データベースを、さらに、備え、
前記化学反応濃度減衰量計算手段は、
前記排出物質の残留濃度を算出するとき、前記化学反応濃度減衰率データベースから前記排出物質についての前記化学反応濃度減衰率データを読み出し、その化学反応濃度減衰率データに含まれる化学反応式と残留濃度計算式と濃度減衰率と化学反応構成率とを用いて、前記排出物質の残留濃度を算出すること
を特徴とする請求項4に記載の臭気拡散シミュレーション装置。
【請求項6】
複数の物質のそれぞれに対し、その物質の分解反応の化学反応式とその分解反応によって生成される物質の分解率とを含んでなる分解率データ、および、前記分解反応によって生成された物質による合成反応の化学反応式とその合成反応によって生成される生成物の合成率とを含んでなる合成率データ、を対応付けて構成された化学反応分解率・合成率データを蓄積した化学反応分解率・合成率データベースを、さらに、備え、
前記複合臭気成分計算手段は、
前記生成物の成分比を算出するとき、前記化学反応分解率・合成率データベースから前記排出物に対応付けられた化学反応分解率・合成率データを読み出し、前記化学反応分解率・合成率データに含まれる前記排出物質の分解反応で生成される生成物の分解率と、前記分解反応で生成された生成物による合成反応によって生成される生成物の生成率とを用いて、前記生成物の成分比を算出すること
を特徴とする請求項5に記載の臭気拡散シミュレーション装置。
【請求項1】
複数の複合臭気のそれぞれに対し、その複合臭気の成分物質の成分比と大気拡散濃度と臭気濃度とが対応付けられて構成された複合臭気濃度データを蓄積した複合臭気濃度データベースにアクセス可能な演算処理装置を用いて、排出源から排出される臭気の拡散をシミュレーションする臭気拡散シミュレーション方法であって、
前記演算処理装置は、
気象データおよび排出源データを入力し、前記排出源データで指定される臭気を構成する排出物質が化学反応せずに大気中を移流拡散する計算モデルに基づき、前記排出源から離れた計算対象地点における前記排出物質の大気拡散濃度および移流時間を算出する移流拡散濃度計算処理と、
前記算出した移流時間中に前記排出物質が化学反応するとき残留する前記排出物質の大気拡散濃度である残留濃度を算出し、前記移流拡散濃度計算処理で計算した前記排出物質の大気拡散濃度から前記残留濃度を差し引いた差分量を、前記化学反応による前記排出物質の大気拡散濃度の濃度減衰量として算出する化学反応濃度減衰量計算処理と、
前記化学反応により生成された生成物の成分比を算出するとともに、その算出した成分比と前記濃度減衰量とに基づき、前記生成物の大気拡散濃度を算出し、前記算出した前記生成物の大気拡散濃度と前記排出物質の残留濃度とに基づき、前記排出物質の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を算出する複合臭気成分計算処理と、
前記複合臭気濃度データベースに蓄積された複合臭気データから、前記排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気と同じ成分を有する複合臭気の複合臭気データを抽出し、その抽出した複合臭気データを用いた重回帰分析によって得られる、複合臭気の成分比と大気拡散濃度とから臭気濃度を予測する予測式に、前記排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を代入して、前記計算対象地点における前記複合臭気の臭気濃度を算出する複合臭気濃度計算処理と、
を実行すること
を特徴とする臭気拡散シミュレーション方法。
【請求項2】
前記演算処理装置は、
複数の物質のそれぞれに対し、その物質が大気中で反応する化学反応式、その化学反応により残留する前記物質の大気拡散濃度を算出する残留濃度計算式、その残留濃度計算式で用いられている濃度減衰率、および、前記物質についての前記化学反応式の化学反応構成率が対応付けられて構成された化学反応濃度減衰率データを蓄積した化学反応濃度減衰率データベースに、さらに、アクセス可能に構成され、
前記化学反応濃度減衰量計算処理において、前記排出物質の残留濃度を算出するとき、前記化学反応濃度減衰率データベースから前記排出物質についての前記化学反応濃度減衰率データを読み出し、その化学反応濃度減衰率データに含まれる化学反応式と残留濃度計算式と濃度減衰率と化学反応構成率とを用いて、前記排出物質の残留濃度を算出すること
を特徴とする請求項1に記載の臭気拡散シミュレーション方法。
【請求項3】
前記演算処理装置は、
複数の物質のそれぞれに対し、その物質の分解反応の化学反応式とその分解反応によって生成される物質の分解率とを含んでなる分解率データ、および、前記分解反応によって生成された物質による合成反応の化学反応式とその合成反応によって生成される生成物の合成率とを含んでなる合成率データ、を対応付けて構成された化学反応分解率・合成率データを蓄積した化学反応分解率・合成率データベースに、さらに、アクセス可能に構成され、
前記複合臭気成分計算処理において、前記生成物の成分比を算出するとき、前記化学反応分解率・合成率データベースから前記排出物に対応付けられた化学反応分解率・合成率データを読み出し、前記化学反応分解率・合成率データに含まれる前記排出物質の分解反応で生成される生成物の分解率と、前記分解反応で生成された生成物による合成反応によって生成される生成物の生成率とを用いて、前記生成物の成分比を算出すること
を特徴とする請求項2に記載の臭気拡散シミュレーション方法。
【請求項4】
複数の複合臭気のそれぞれに対し、その複合臭気の成分物質の成分比と大気拡散濃度と臭気濃度とが対応付けられて構成された複合臭気濃度データを蓄積した複合臭気濃度データベースを備え、排出源から排出される臭気の拡散をシミュレーションする臭気拡散シミュレーション装置であって、
気象データおよび排出源データを入力し、前記排出源データで指定される臭気を構成する排出物質が化学反応せずに大気中を移流拡散する計算モデルに基づき、前記排出源から離れた計算対象地点における前記排出物質の大気拡散濃度および移流時間を算出する移流拡散濃度計算手段と、
前記算出した移流時間中に前記排出物質が化学反応するとき残留する前記排出物質の大気拡散濃度である残留濃度を算出し、前記移流拡散濃度計算手段で計算した前記排出物質の大気拡散濃度から前記残留濃度を差し引いた差分量を、前記化学反応による前記排出物質の大気拡散濃度の濃度減衰量として算出する化学反応濃度減衰量計算手段と、
前記化学反応により生成された生成物の成分比を算出するとともに、その算出した成分比と前記濃度減衰量とに基づき、前記生成物の大気拡散濃度を算出し、前記算出した前記生成物の大気拡散濃度と前記排出物質の残留濃度とに基づき、前記排出物質の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を算出する複合臭気成分計算手段と、
前記複合臭気濃度データベースに蓄積された複合臭気データから、前記排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気と同じ成分を有する複合臭気の複合臭気データを抽出し、その抽出した複合臭気データを用いた重回帰分析によって得られる、複合臭気の成分比と大気拡散濃度とから臭気濃度を予測する予測式に、前記排出物の移流拡散および化学反応により生成された複合臭気の成分比および大気拡散濃度を代入して、前記計算対象地点における前記複合臭気の臭気濃度を算出する複合臭気濃度計算手段と、
を備えたこと
を特徴とする臭気拡散シミュレーション装置。
【請求項5】
複数の物質のそれぞれに対し、その物質が大気中で反応する化学反応式、その化学反応により残留する前記物質の大気拡散濃度を算出する残留濃度計算式、その残留濃度計算式で用いられている濃度減衰率、および、前記物質についての前記化学反応式の化学反応構成率が対応付けられて構成された化学反応濃度減衰率データを蓄積した化学反応濃度減衰率データベースを、さらに、備え、
前記化学反応濃度減衰量計算手段は、
前記排出物質の残留濃度を算出するとき、前記化学反応濃度減衰率データベースから前記排出物質についての前記化学反応濃度減衰率データを読み出し、その化学反応濃度減衰率データに含まれる化学反応式と残留濃度計算式と濃度減衰率と化学反応構成率とを用いて、前記排出物質の残留濃度を算出すること
を特徴とする請求項4に記載の臭気拡散シミュレーション装置。
【請求項6】
複数の物質のそれぞれに対し、その物質の分解反応の化学反応式とその分解反応によって生成される物質の分解率とを含んでなる分解率データ、および、前記分解反応によって生成された物質による合成反応の化学反応式とその合成反応によって生成される生成物の合成率とを含んでなる合成率データ、を対応付けて構成された化学反応分解率・合成率データを蓄積した化学反応分解率・合成率データベースを、さらに、備え、
前記複合臭気成分計算手段は、
前記生成物の成分比を算出するとき、前記化学反応分解率・合成率データベースから前記排出物に対応付けられた化学反応分解率・合成率データを読み出し、前記化学反応分解率・合成率データに含まれる前記排出物質の分解反応で生成される生成物の分解率と、前記分解反応で生成された生成物による合成反応によって生成される生成物の生成率とを用いて、前記生成物の成分比を算出すること
を特徴とする請求項5に記載の臭気拡散シミュレーション装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−24659(P2013−24659A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158259(P2011−158259)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】
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