説明

臭気資化(分解)細菌の製造方法及び堆肥の製造方法及びその利用方法

【課題】 臭気資化(分解)細菌の分離及び同定による製造方法及びこれを用いた堆肥の製造方法及びその利用方法を提供する。
【解決手段】 好気性発酵細菌内に生じている臭気資化(分解)細菌を分離及び同定させる製造方法であり、具体的には好気性発酵細菌に希釈液を加えた液体培地を作り、この中で細菌と生育させることにより臭気資化(分解)細菌が分解され、これを同定することによって臭気資化(分解)細菌が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気資化(分解)細菌及び堆肥の製造方法及びその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃棄物を好気性細菌により発酵処理し、培地及び堆肥を製造する手段(方法)は一般に利用されており、公知技術も多く存在する。例えば、「特許文献1」,「特許文献2」,「特許文献3」,「特許文献4」,「特許文献5」等がある。
【特許文献1】特開昭55−121992号(全文)
【特許文献2】特開昭51−129759号(全文)
【特許文献3】特開平6−105679号(全文)
【特許文献4】特開平6−191977号(全文)
【特許文献5】特開平3−228888号(全文)
【0003】
「特許文献1」はサーモアクチノミセス属又はサーモモノスポラ属の好気性細菌を用いる方法であり、「特許文献2」はバチルス細菌,乳酸生成細菌等の好気性芽胞形成細菌混合物を用いる方法であり、「特許文献3」はリグニン可溶化能を有するサーマスアクティクス属を用いる方法であり、「特許文献4」は好気性繊維資化(分解)細菌クロストリジュームサーモセルムを用いる方法であり、「特許文献5」はヘテロトロフ属の土壌細菌を用いて好気性発酵処理するキトサンを含む有機肥料として知られているものである。
以上の方法は発酵時に発酵温度が70℃程度に上昇するが80℃を越すものはなかった。従って、雑細菌,芽胞形成性の雑細菌を死滅させることが出来ないものであった。また、肥料中の有用細菌件数も1g当り1億前後であり、肥用効果は低いものであった。更に、発酵温度が80℃以上の昇温は望めず又以上の高温であっても臭気の発生を防止することができないものであり、別に防臭装置を備えねばならないものであった。また、温度が低いため雑草の種子が残存し、完全な死滅させることが出来ない肥料であった。又、以上の処理においても汚泥等においては有害細菌等の根絶は困難であるし、混入するという欠点があった。
即ち、従来の有機廃棄物の発酵・熟成処理において初期発酵の臭気は甚だしく、熟成中にも臭気を抑えるには別個の脱臭装置を必要とするものであった。また、有害微生物や植物の種子の死滅までに至らず、70℃以下の好気発酵温度に於いて甚だしいものであった。
【0004】
以上の公知技術とは別に、「特開平9−59081号」の「汚泥処理法」がある。このものは生汚泥を火山地帯の土壌から得られた80℃以上の温度で生育する超好熱細菌培養物と混合し、85℃以上の温度で好気的に発酵させて生汚泥を有機肥料化することを特徴とする汚泥処理法であり、この発明が本発明の示唆となった。図1はこの処理法による時間経過と発酵温度を示すグラフである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
堆肥製造施設建設の障害となる最大の原因は、原料及びコンポスト化過程に発生する臭気にある。悪臭成分の多くのものは、炭水化物(澱粉、糖類)及びタンパク質が嫌気的に分解されるときに発生する。図2に示すように特に炭水化物由来の低級脂肪酸類及びタンパク質由来のトリメチルアミン、メチルメルカプタン、硫化メチル及び二硫化メチル等の硫黄系が発生する。その臭気対策に各コンポスト化場では苦慮している。従って、臭気成分の発生しない堆肥化技術の開発が強く望まれている。
超高温・好気発酵法で製造された堆肥は、悪臭を発する原料と混合するだけで臭気が著しく減少することが現場でしばしば観察される。更に、その混合物は発酵過程(初期発酵の一次発酵)に入ると、臭気がほぼ消失する現象が示された。そのことから、本堆肥化過程に関る微生物は、臭気成分を分解する能力が著しく高いことが予想された。
そこで、この現象を証明するために、特に腐敗し易く、腐敗と共に悪臭が強く発生する高分子凝集剤処理の下水汚泥を用いて、本種細菌の分解作用による悪臭成分の分解実験を試みた。臭気成分は、熱分解ヘッドスペース・ガスクロマトグラフ質量分析計により分析した。臭気成分の変動については、図2及び図3に示した。
これらのピークはそれぞれ特定の化合物を表し、ピークの高さがその物質の存在量を示している。原料(図2)には特定悪臭物質である種々の低級脂肪酸類、ケトン、アルデヒド、アミン類及び硫黄系物質等々が検出された。これらが混在し、互いに影響を及ぼしあうことで、原料に独特の悪臭が形成されていたことが判明した。原料と種堆肥を混合すると、原料に存在していた多種多様の悪臭成分のピークが急速に減少した。低級脂肪酸、ケトンやアルデヒド類は殆んどなくなり、二硫化及び三硫化メチルのみが検出された。このように種細菌堆肥を混合(図3)させるだけで速やかに原料独特の悪臭成分消失することが明らかとなった。
それらを発酵槽に堆積し超高温・好気発酵法で発酵させると、発酵初期である一次発酵終了時の切返1回目で悪臭成分は二硫化メチルのみとなり、同じく初期発酵に相当する二次発酵終了時の切返2回目には全ての悪臭成分が消失していた(図4乃至図6参照)。
前記の従来技術と比べると温度が著しく高く、短期間で良質な堆肥が得られた。前記のように超高温・好気発酵法による堆肥化過程において、低級脂肪酸類などの炭水化物系悪臭成分が堆肥化初期に消失したことから悪臭資化(分解)細菌の存在が示唆され、資化(分解)細菌の発見の動機となった。そこで、低級脂肪酸類の資化(分解)細菌に的を絞り、その分離及び同定を試みることとなり、本発明の根拠となった。
【0006】
本発明は、以上の研究や実験を基に示唆されたものであり、好気性発酵細菌の内に臭気資化(分解)細菌が存在することを見出し、これを分離,同定して取り出すと共に、この臭気資化(分解)細菌に無害性有機廃棄物(窒素,リン酸,カリ等を含む)を混合して堆肥を製造する本発明を開示することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、この目的を達成するために、請求項1の発明は、好気性微生物(細菌)用液体培地又は固体培地で臭気資化(分解)細菌を好気的に培養することを特徴とする。
【0008】
また、請求項2の発明は、臭気分解能の高い堆肥を液体培地又は固体培地を用いて臭気資化(分解)細菌を集積させたのちに、前記臭気資化(分解)細菌を分離及び固定し、前記臭気資化(分解)細菌を培養することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3の発明は、前記臭気資化(分解)細菌が、16SrDNA-Full(16SrRNA(SIID4265株))(プロピオン酸資化(分解)細菌)とSIID3083株(n-酪酸資化(分解)細菌)であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4の発明は、前記の臭気資化(分解)細菌を用いて堆肥を製造する方法であり、前記臭気資化(分解)細菌と無害性有機物下水汚泥,家畜糞尿以外なクリーンな有機物とを混合して少なくとも80℃以上の発酵温度で熟成して形成されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5の発明は、無害性有機廃棄物を特定するものであり、前記無害性有機物が、各種汚泥や家畜糞尿を除く産業有用有機物や食品残存物であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6の発明は、前記堆肥が培地及び発酵種細菌であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7及び9の発明は、堆肥の利用方法を示すものであり、前記臭気資化(分解)細菌又は前記臭気資化(分解)細菌と無害性有機物との培養固体培地を下水汚泥や家畜糞尿に混合して消細菌を行うことを特徴とする。また、前記臭気資化(分解)細菌又は該臭気資化(分解)細菌と無害性有機廃棄物との培養固体培地の培地を水溶液として液肥を形成することを特徴とする。また、前記堆肥に木炭粒好ましくは竹炭粉粒を混入したことを特徴とする。また、前記の無害性有機廃棄物に生竹微粉を混入し消臭促進を図ることもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の臭気資化(分解)細菌の製造方法及び堆肥の製造方法及びその利用方法の実施の形態を詳説する。
まず、本発明の主製造方法である臭気資化(分解)細菌の製造方法である臭気資化(分解)細菌の製造方法について以下に詳述する。
「悪臭資化(分解)細菌の分離及び同定」
前記のように超高温・好気発酵法による堆肥化過程において低級脂肪酸などの炭化水素系悪臭成分が堆肥化初期に消失したことから、悪臭資化(分解)細菌の存在が示唆された。
そこで、低級脂肪鎖の資化(分解)細菌に的を絞り、その分離及び同定を試みた。また、低級脂肪酸資化(分解)細菌が分離された場合、その特性などを調べることにより、堆肥化においてその活性を有用に、かつ積極的に利用する方法を検討した。
【0015】
(1)実験材料
低級脂肪酸資化(分解)微生物の分離源として消臭性の高い九州大学農学部附属農場の下水汚泥堆肥を用いた。低級脂肪酸資化(分解)微生物を集積させる固体培地として有機高分子凝集剤で脱水処理された下水汚泥をオートクレーブで滅細菌処理(121℃,20分間)して用いた。
【0016】
(2)堆肥初期化に働く悪臭資化(分解)細菌の集積
分離源である種細菌堆肥20gと悪臭源である滅細菌済下水汚泥20gをよく混合し、袋状のネットを内側に張った200mlビーカーに入れた。この際、試料全体に空気が供給されて嫌気的な部分が出来るのを防ぐために、ネットがビーカーの底に付かないように同定した。また、余計な水分の損失を防ぐためにラップをかけて、30℃で1週間保温・静置した。
以上の操作により、種細菌由来で超高温・好気発酵法の発酵初期に働く微生物、即ち悪臭を分解している可能性のある微生物の集積を試みた。
【0017】
(3)低級脂肪酸資化(分解)微生物の集積
(2)で得た試料5gをブレンダー容器に測りとり、滅細菌水45mlを加えて12000rpmで5分間撹拌した。これを1次希釈液とした。1次希釈液をクリーンベンチ内に持ち込み、マイクロピペットで5mlとり、滅細菌水45mlに加えた。この操作を繰り返し、7次希釈液まで作成した。予め調整したM9最少無機塩培地に低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、n・酪産、n・吉草酸)を加えた分離用培地を、口径18mmの試験管に7mlずつ分注した。この液体培地に5〜7次希釈液を、100μlずつ加え、接種し、30℃で振とう培養した。培養後の濁度OD660nm値を測定して生育を確認した。濁度OD660nmの値が大きく生育が良好であった培養液を選抜し、低級脂肪酸資化(分解)細菌培養液とした。試料を希釈した希釈液を、低級脂肪酸を含まないM9最少培地にも接種し培養を試み、無機塩のみでは生育しないことの確認を行った。ここで用いた培地組成は以下の通りである。
<低級脂肪酸添加M9最少培地>
Na2HPO4 47.0g
KH2P04 2.4g
NaCl 2.5g
NH4Cl 5.0g
各種低級脂肪酸 1ml
蒸留水 1000ml
*pHは1N水酸化ナトリウム溶液で8.5に調整した。
*pH調整後にオートクレーブ滅細菌(121℃,15分間)を行った。充分冷却してから別に滅細菌した1M-MgSO4水溶液2ml及び1M-Cacl2水溶液0.1mlを添加して実験に用いた。
【0018】
(4)低級脂肪酸資化(分解)細菌の分離
(3)で、得られた低級脂肪酸資化・資化(分解)細菌培養液を低級脂肪酸添加M9最少培地に寒天(15g/L)を加え固体化させた固体培地上に接種し、単一のコロニーを作らせた。また、このコロニーをNB培地上に白金耳を用いて接種し、胞子状の細菌体を含まない単一のコロニーであることを確認した後、再び液体培地で培養した。
【0019】
(5)DGGE法による低級脂肪酸資化(分解)細菌純粋分離の確認
生育が良好であった細菌株の培養液から細菌金体を遠心分離機で集積し、zirconia/silica beads(2.0mm:0.06g,1.0mm:0.3g,0.5mm:0.4g,0.1mm:0.4g)入りの2ml容ネジロマイクロチューブに入れ、更に、SDS lysis mixture(100mM NaCl,500mM Tris・HCl(pH8.0),10% SDS)400μl,120mM Sodium Phosphate buffer (pH8.0) 300μl,Phenol: Chlorofarm:Isoamylalcohol(25:24:1)400μlを添加した。MINI-BEADBEATER(BIOSPEC製)を用いて5000rpm,20秒間処理して細胞細菌体を破壊した。その後、12000rpm,30秒間室温で遠心分離し、水層に抽出されたDNAをエタノール沈殿法により50μlのDNA抽出溶液として回収した。抽出したDNAを鋳型とし、341F-GC(5'-CGCCCGCCGCGCGCGGGCG
GGGCGGGGGCACGGGGGGCCTACGGGAGGCAGCAG-3'(Muyzer et
al.,1993)),517R(5'-ATTACCGCGGCTGCTGG-3')プライマーペアーを用いてそれぞれの細菌の16SrDNAを増幅した。このプライマーによって16SrDNAの341から517に相当する約176bpの断片(E.coli numbering by Lane[1991])が得られ、これをPCR-DGGE解析に用いた。PCR増幅は1μlの各細菌のDNA鋳型と50μlのtaq buffer(TaKaRa Bio Inc.,Japan)(2mM Mg2+,1.2μMの各primer,0.2mMの各deoxynucieoside
triphosphate,1.25Uのtaq DNA polymeraseを含む)の反応混合液をthermocycler(PC-707,ASTEC,japan)によって反応サイクル{(94℃;3min):1回,(94℃;1min,52℃;1min,72℃;1min):30回,(72℃;10min):1回}で行った。この反応による増幅産物を1.5%agarose gelで電気泳動し、非特異的バンドが存在しないことを確認した。PCR増幅した16S rDNAのDGGE解析は変性剤(尿素−ホルムアミド混合液)で濃度勾配をつけたpolyacrylamide gelによる電気泳動で行った。電気泳動はD-codeTM(BIO-RAD)で行った。D-codeに付属しているGradient makerを用いて8%(wt/vol)polyacrylamide gradient gel{幅1mm,16×16cm,1×TAE(40mM Tris base,20mM sodium acetate,1.0mM EDTA, pH7.4),acrylamide stock solution(acrylamide:acrylamide-N,N'-methylendisacrylamide=37.5:1),変性剤濃度勾配40-50%}を作成した。100%の変性剤は7M尿素,40%ホルムアミドである。この変性剤濃度勾配ゲルで細菌の16S rDNA増幅産物を200Vで5h電気泳動した。泳動後、ゲルはエチジウムブロミド(0.5mg/l)に30min浸漬し、DNAの染色を行い、1×TE(10mM Tris
base,1mM EDTA,pH8.0)でリンス後、UV transilluminater(ATTO)(312nm)でバンドパターンを可視化した。このバンドパターンはATTO Densitograph(ATTO)によりコンピュータに取り込み画像解析を行った。
【0020】
(6)低級脂肪酸資化(分解)細菌の同定と系統解析
(5)で純粋分離を確認した細菌の同定と系統分類を行うため、16S rDNA塩基配列を解析した。DNAの抽出は(5)に従った。16S rDNAのPCR増幅にはMicroSEq500
16S rDNA Bacterial Identification PCR Kit(Applied Bios yetems,GA,USA)を用いた。サイクルシークエンスには16S rDNA Bacterial Identification Sequencing Kit(Applied
Biosystems,CA,USA)を用い、シークエンスにはABI PRISM 3100 Genetic
Analyzer System(Applied Biosystems,CA,USA)を用いた。解析ソフトウェアはAuto assembler(Applied Biosystems,CA,USA)及びDNASIS Pro(日立ソフトウェアエンジニアリング,東京)であった。相同性検索はDDBJ(DNA Data Bank of Japan)のデータベースを用いた。また、近隣接合法による系統樹の作成はDDBJのCLUSTAL W ver 1.7 prog am(Thompson et al.,1994)を用いた。
【0021】
(7)No.7株による低級脂肪酸の資化(分解)試験
No.7株を酢酸、プロピオン酸、n-酪酸、n-吉草酸を1000ppm添加したM9最少培地8mlが入った口径18mmネジ蓋付試験管に100μl培養液を加え接種した。これを30℃で振とう培養し、8時間毎に濁度OD660nm値を測定し、24時間毎に培地中の低級脂肪酸濃度を測定した。低級脂肪酸濃度の測定にはキャビラリー電気泳動システムG-1600A(Agilent Technologies,USA)を用いた。
【0022】
「悪臭資化(分解)細菌の分離・同定における結果及び考察」
【0023】
(1)堆肥化初期に働く悪臭資化(分解)微生物の集積
30℃で1週間静値した結果、適度な水分を保持しつつ、かつ悪臭が消失していることを確認した。代わって堆肥に特有の放線細菌臭様のにおいを発していた。この事から、堆肥化初期の状態が再現され、悪臭を分解していると推察される種細菌堆肥に由来する微生物の集積が示唆された。
【0024】
(2)低級脂肪酸資化(分解)微生物の集積
希釈液を加えた液体培地のうち、酢酸添加M9最少培地では5次希釈液、6次希釈及び7次希釈液で生育が見られた。プロピオン酸添加M9最少培地では5次希釈及び7次希釈液で生育が見られた。n-酪酸添加M9最少培地では5次希釈液、6次希釈及び7次希釈液で生育が見られた。n-吉草酸添加M9最少培地では5次希釈及び7次希釈液で生育が見られた。これらの培養液を継代培養し、それまでの様々な栄養ではなく、培地の栄養でのみ生育できる細菌を選抜し、生育させた。
【0025】
(3)低級脂肪酸資化(分解)細菌の分離
分離操作を繰り返し行った結果、酢酸資化(分解)細菌としてNo.2株、プロピオン酸資化(分解)細菌としてNo.4株、n-酪酸資化(分解)細菌としてNo.7、n-吉草酸資化(分解)細菌としてNo.8株をそれぞれ選抜した。
【0026】
(4)DGGE法による低級脂肪酸資化(分解)細菌純粋分離の確認
No.2〜No.8株のDNAを抽出しPCR-DGGE解析を行った結果、No.7株のみ細菌を純粋分離したことを確認した。他の細菌についてはバンドが一つではなく、完全に分離したとはいえなかった。得られたバンドパターンを図7に示した。バンドパターンを見ると、No.2〜No.8株には同様の位置に存在するバンドがあり、近縁種と思われるそのバンドはNo.7株では単一のバンドとして現われていた。
【0027】
(5)低級脂肪酸資化(分解)細菌の同定と系統解析
No.2〜No.8株で優先するバンドは近縁種と推察されたため、No.7株について細菌種の同定と系統分類を行った。16S rDNA 塩基配列を解析した結果、500bpを決定することが出来た。相同性検索の結果、Brevibacterium
epidermidis NCDO2286(X76565)に96.9%の相同率を示し、Brevibacterium casei DSM20657に95.6%及びBrevibacterium celere KMM3637(AY228463)に94.7%の相同率を示した。よってNo.7株はBrevibacterium spであると考えられた。次に、16S rDNA塩基配列をもとに作成した系統樹を図8に示した。以上の結果から、No.7株は高G+Cグラム陽性細菌であるActinobaeteridae綱に属する細菌であることが明らかとなった。また、SIID3083株(n-酪酸資化(分解)細菌)の系統図を図9に示す。
【0028】
(6)No.7株による低級脂肪酸の資化(分解)試験
4種類のM9最少培地におけるNo.7株の生育を図10に示した。これによると、プロピオン酸を添加したものでの生育が最も良好であることが示された。そこで、特にプロピオン酸の資化(分解)能について、調べていくことにした。全ての低級脂肪酸を加えたM9培地における細菌体の増殖、及びそれに伴う低級脂肪酸濃度の変化について調査を行った。結果、プロピオン酸では細菌体の増殖に伴って、濃度が減少するという現象が見られた(図11)。このことより、No.7株が増殖の際の炭素源としてプロピオン酸を資化(分解)することが分かった。
【0029】
「総括」
本研究で行った、下水汚泥を原料とした超高温・好気発酵法による堆肥化では、堆肥化中の理化学性や微生物性及び堆肥の性状に問題は無く、理想的なものであった。また、本堆肥化法の特徴である高い発酵温度によって、病原性微生物を死滅させるという結果が得られた。更に堆肥化過程の進行により悪臭が消失するという現象が認められた。
本研究では、堆肥化過程初期に主要な炭化化物系悪臭成分である低級脂肪酸が消失したことから、堆肥化過程において低級脂肪酸を資化・分解する微生物が存在すると推定し、その分離・同定を試みた。その結果、低級脂肪酸を資化(分解)するBrevibacterium属の細菌株を分離することに成功した。この細菌株は酢酸、プロピオン酸、n-酪酸及びn-吉草酸を炭素源として利用できる特性を有していることが考えられ、特にプロピオン酸を気質とした場合には生育が高いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、臭気資化(分解)細菌の分離・同定の一つの研究例について詳述したが、この研究は引き続き色々の角度から進める予定であり、その利用範囲は広い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】好気性条件で生汚泥を有機肥料化する汚泥処理法における発酵温度と経過時間との関係を示す線図。
【図2】下水汚泥原料の悪臭成分を示すグラフ。
【図3】下水汚泥原料と種細菌堆肥混合時の悪臭成分を示すグラフ。
【図4】原料における悪臭成分の消滅を示すグラフ。
【図5】DNAを抽出しPCR-DGGE解析を行った結果の分離バンドパターンを示すパターン図。
【図6】16SrDNA塩素配列をもとに作成した系統樹式図表。
【図7】n-酪酸資化(分解)細菌の系統樹式図表。
【図8】4種類のM9最少培地におけるNo.7株の生育を示す線図。
【図9】プロピオン酸では細菌体の増殖に伴って濃度が減少するという現象を示す線図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好気性微生物(細菌)用液体培地又は固体培地で臭気資化(分解)細菌を好気的に培養することを特徴とする臭気資化(分解)細菌の製造方法。
【請求項2】
臭気分解能の高い堆肥を液体培地又は固体培地を用いて臭気資化(分解)細菌を集積させたのちに、前記臭気資化(分解)細菌を分離及び固定し、前記臭気資化(分解)細菌を培養することを特徴とする臭気資化(分解)細菌の製造方法。
【請求項3】
前記臭気資化(分解)細菌が、16SrDNA-Full(16SrRNA(SIID4265株))(プロピオン酸資化(分解)細菌)とSIID3083株(n-酪酸資化(分解)細菌)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の臭気資化(分解)細菌の製造方法。
【請求項4】
前記臭気資化(分解)細菌と無害性有機廃棄物とを混合して少なくとも80℃以上の発酵温度で熟成して形成されることを特徴とする堆肥の製造方法。
【請求項5】
前記無害性有機廃棄物が、各種汚泥や家畜糞尿を除く産業有用廃棄物や食品廃棄物であることを特徴とする請求項4に記載の堆肥の製造方法。
【請求項6】
前記堆肥が培地及び発酵種細菌であることを特徴とする請求項4又は5に記載の堆肥の製造方法。
【請求項7】
前記臭気資化(分解)細菌又は前記臭気資化(分解)細菌と無害性有機廃棄物との培養固体培地を下水汚泥や家畜糞尿に混合して消臭を行うことを特徴とする堆肥の利用方法。
【請求項8】
前記臭気資化(分解)細菌又は該臭気資化(分解)細菌と無害性有機廃棄物との培養固体培地の培地を水溶液として液肥を形成することを特徴とする堆肥の利用方法。
【請求項9】
前記堆肥に木炭粒好ましくは竹炭粉粒を混入したことを特徴とする堆肥の利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−88302(P2010−88302A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295041(P2007−295041)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(301033293)
【出願人】(502073496)
【Fターム(参考)】