説明

舌癌細胞増殖抑制剤

【課題】舌癌のell lineであるSCCKNの増殖抑制作用を有し、更に安全性が高い新規な成分を有効成分とする舌癌細胞増殖抑制剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、植物由来のスフィンゴ脂質(スフィンゴ糖脂質を含む。)を有効成分とする舌癌細胞増殖抑制剤。また、前記植物は、米であることが好ましい。更に本発明の舌癌細胞増殖抑制剤舌癌予防・治療剤として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な成分を有効成分とする舌癌細胞増殖抑制剤に関するものである。本発明は舌癌を予防・治療するための医薬品、飲食品等に広く利用することができる。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴ脂質(スフィンゴ糖脂質を含む。以下、同じ。)は、皮膚の保湿効果、水分調節、弾力性保持、表面保護(バリヤー効果)、コラーゲン保護、酸化防止(ビタミンCやEの安定化)等の機能が知られており、化粧品の分野で広く用いられている。また、最近では、スフィンゴ脂質の作用として、外界から体内への抗原の侵入を阻止し、アトピー性皮膚炎を抑えることが明らかになり、医薬品としての開発も進められている。
スフィンゴ脂質は,分化、増殖、細胞死およびアポトーシスを制御することが知られている。また、米由来のスフィンゴ脂質は、大腸癌の予防作用を有する旨の報告がある(特許文献1)しかしながら、舌癌細胞において植物由来のスフィンゴ脂質の腫瘍増殖に対する効果は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-290856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような背景の下、本発明者は、植物由来、特に米由来のスフィンゴ脂質において、舌癌のcell lineであるSCCKNの増殖抑制作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、舌癌のell lineであるSCCKNの増殖抑制作用を有し、更に安全性が高い新規な成分を有効成分とする舌癌細胞増殖抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
1.植物由来のスフィンゴ脂質を有効成分とする舌癌細胞増殖抑制剤。
2.前記植物は、米であることを特徴とする上記1.に記載の舌癌細胞増殖抑制剤。
3.前記スフィンゴ脂質はスフィンゴ糖脂質であることを特徴とする上記1.又は2.に記載の舌癌細胞増殖抑制剤。
4.上記1.〜3.のいずれかに記載の舌癌細胞増殖抑制剤を有効成分とする舌癌予防・治療剤。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】実施例投与前、投与1週後および投与2週後における腫瘍体積を示すグラフである。
【図2】本実施例におけるマウスの生存日数を示すグラフである。
【図3】本実施例投与後2ヶ月で移植腫瘍を摘出し、TUNEL染色を行い、アポトーシス細胞を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の舌癌細胞増殖抑制剤の有効成分であるスフィンゴ脂質(スフィンゴ糖脂質を含む。以下、同じ。)は、セラミドまたはスフィンゴイド塩基を基本骨格とし、非水溶性の脂肪酸と水溶性の糖、リン酸および塩基等から構成される。セラミドに糖(主にガラクトース)がグリコシルエーテル結合したスフィンゴ糖脂質を用いてもよい。スフィンゴ脂質の起源は特に限定されるものではなく、米、小麦、大豆、トウモロコシ等の穀物類をもいることができるが、特に米由来のスフィンゴ脂質が好ましい。更には、米由来のスフィンゴ糖脂質が好ましい。
【0008】
原料として、米又は小麦を用いる場合、スフィンゴ糖脂質は、米ヌカから多量に抽出することができる。原料米は、品種を限定しないが、甘味を呈する日本型(japonica)が好適である。特に、コシヒカリ、ササニシキなどで代表される主食用米品種が好ましい。通常、玄米の最外層にある果皮、種皮および糊粉層が精米機で取り除かれてヌカとなる。また、スフィンゴ糖脂質は、米ヌカの他、小麦フスマからも比較的多量に抽出することができる。
【0009】
米ヌカからスフィンゴ糖脂質を抽出する方法としては、前記工程A〜Cによるのが望ましい。前記工程AおよびBは、米ヌカ油の製造工程を利用することができる。一般に、米ヌカ油を製造する場合、原料の米ヌカをヘキサンで抽出し、次いで、リン酸処理により、油分を分離し、ガム質を得る。従って、このような米ヌカ油の製造工程で生じるガム質に、前記工程Cを適用することにより、スフィンゴ糖脂質を効率よく抽出することができる。なお、従来は、米ヌカ油の製造工程で生じるガム質は、産業廃棄物として、焼却等の手段で処理されていたが、本発明によれば、従来、利用価値のなかった米ヌカのガム質を舌癌細胞増殖抑制剤の原料として用い、資源の有効利用を図ることが可能になる。
【0010】
前記有機溶剤は、ヘキサンの他、ヘプタン、石油エーテル、エーテル、クロロホルム、アセトン等を用いることができる。前記有機溶剤の抽出物を処理する酸は、有機酸としては酢酸、シュウ酸、クエン酸、蟻酸等を、無機酸としてはリン酸、硫酸、塩酸、硝酸等を用いることができる。望ましくは、リン酸を用いるとよい。リン酸によれば、以下に示すような利点があるためである。
a.米ヌカ油の製造工程をそのまま利用することができる。
b.強酸ではないので、タンク、パイプ等が腐食しにくく、製造設備の耐久性が向上する。
c.酢酸、蟻酸のような刺激臭がない。
d.有機溶剤の抽出物に含まれるリン脂質を取り除きやすいため、沈殿物(ガム質)に含まれるスフィンゴ糖脂質の濃度が高まる。
【0011】
前記アルコールは、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールおよびこれらの含水アルコール等を用いることができる。スフィンゴ糖脂質を飲食品に使用する場合には、エタノールを使用するとよい。前記工程Cでガム質のアルコール抽出物からスフィンゴ糖脂質を精製する手段としては、カラムクロマトグラフィーその他の適当な精製手段を用いることができる。
【0012】
また、本発明の舌癌細胞増殖抑制剤を含有してなる飲食品としては、菓子類(ガム、キャンディー、キャラメル、チョコレート、クッキー、スナック、ゼリー、グミ、錠菓等)、麺類(そば、うどん、ラーメン等)、乳製品(ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト等)、調味料(味噌、醤油等)、スープ類、飲料(ジュース、コーヒー、紅茶、茶、炭酸飲料、スポーツ飲料等)をはじめとする一般食品や、健康食品(錠剤、カプセル等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)等の製品形態で用いることができる。また、インスタント食品に美白剤を添加してもよい。例えば、美白剤を粉末セルロースとともにスプレードライまたは凍結乾燥したものを、粉末、顆粒、打錠または溶液にすることで容易に飲食品に含有させることができる。
本発明の舌癌細胞増殖抑制剤は、薬品(医薬品および医薬部外品を含む。)の素材として用いてもよい。薬品製剤用の原料に、本発明の舌癌細胞増殖抑制剤を適宜配合して製造することができる。尚、上記薬品は、ヒトに用いても良いし、ヒト以外の哺乳類動物に用いても良い。本発明の舌癌細胞増殖抑制剤に配合しうる製剤原料としては、例えば、賦形剤(ブドウ糖、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等)、結合剤(蒸留水、生理食塩水、エタノール水、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(アルギン酸ナトリウム、カンテン、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖、アラビアゴム末、ゼラチン、エタノール等)、崩壊抑制剤(白糖、ステアリン、カカオ脂、水素添加油等)、吸収促進剤(第四級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等)、吸着剤(グリセリン、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、硅酸等)、滑沢剤(精製タルク、ステアリン酸塩、ポリエチレングリコール等)などが挙げられる。
【0013】
本発明による舌癌細胞増殖抑制剤の投与方法は、一般的には、錠剤、丸剤、軟・硬カプセル剤、細粒剤、散剤、顆粒剤等の形態で経口投与することができる。また、水溶性製剤は、液剤として経口的に投与することができる。さらに非経口投与であってもよい。非経口剤として投与する場合は、本発明の舌癌細胞増殖抑制剤をエタノールや水など適当な可溶化剤に分散させた後、パップ剤、ローション剤、軟膏剤、チンキ剤、クリーム剤などの剤形で適用することができる。また本舌癌細胞増殖抑制剤の水溶性製剤は、そのままで、あるいは分散剤、懸濁剤、安定剤などを添加した状態で、パップ剤、ローション剤、軟膏剤、チンキ剤、クリーム剤などの剤形で適用することができる。
【0014】
投与量は、投与方法、病状、患者の年齢等によって変化し得るが、大人では、通常、1日当たり有効成分として5〜200mg、子供では通常0.5〜100mg程度投与することができる。
【0015】
本発明の舌癌細胞増殖抑制剤を薬品として使用する際の配合比は、剤型によって適宜変更することが可能であるが、通常、経口または粘膜吸収により投与される場合は約0.0001〜30wt%、非経口投与による場合は、0.0001〜30wt%程度にするとよい。なお、投与量は種々の条件で異なるので、前記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要のある場合もある。医薬組成物は、前記舌癌細胞増殖抑制剤以外に、医薬分野において常用される既知の他の化合物、および経口投与に適した形態に成型するのに必要な化合物を包含していてもよい。そのような化合物としては、例えば、乳糖、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、カオリン、タルク、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【実施例】
【0016】
[舌癌細胞増殖抑制剤の製造]
(1)ガム質の分離米ヌカにヘキサンを加えて抽出し、ヘキサンを溜去して抽出物を得た。次いで、この抽出物に水と共にリン酸を加えて静置し、沈殿物(ガム質)を得た。
(2)スフィンゴ脂質の精製米ヌカ抽出物より得たガム質100gをアルカリ性含水メタノールで加水分解し、クロロホルム/メタノール(混合比2:1)で数回抽出を行った。得られた抽出液を濃縮し、濃縮液をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、スフィンゴ糖脂質350mg(舌癌細胞増殖抑制剤:実施例)を得た。
【0017】
[試験例]
免疫不全マウスであるNOD/SCIDマウス(8〜10週齢)の皮下に、頭頸部扁平上皮癌(舌癌)のcell lineであるSCCKNを移植した。1ヵ月後に皮下腫瘍の生着を確認した後、コントロール群とスフィンゴ糖脂質投与群の2群に分けた。スフィンゴ糖脂質投与群には、2週間にわたり連日,セルロースに懸濁したスフィンゴ糖脂質(実施例) 300mg/kgをフィーディングニードルにより、経口的に投与した。コントロール群はセルロースのみ同じ期間、同様の方法で投与した。スフィンゴ糖脂質(実施例)投与前、投与1週後および投与2週後に腫瘍径を測定し、腫瘍体積を算出した。その結果を図1に示す。また、マウスの生存日数を測定した。その結果を図2に示す。薬剤投与後2ヶ月で移植腫瘍を摘出し、TUNEL染色を行い、アポトーシス細胞を測定した。その結果を図3に示す。
【0018】
[結果及び実施例の効果]
スフィンゴ糖脂質(実施例)投与により、優位に移植腫瘍の増殖抑制効果が認められた(.図1)。また,スフィンゴ糖脂質(実施例)投与群マウスの生存期間は、コントロール群に比べて優位に延長した(図2)。移植腫瘍をTUNEL染色した結果、スフィンゴ糖脂質(実施例)投与群は、コントロール群に比べ、アポトーシス細胞の増加が認められた。
以上により、米ぬか由来のスフィンゴ糖脂質(実施例)は、頭頸部扁平上皮癌に対し、アポトーシスを誘導することで腫瘍抑制効果を示すことが確認された。これにより、米ぬか由来のスフィンゴ糖脂質(実施例)は、頭頸部扁平上皮癌において、天然物由来の安全な予防および治療のための物質となりうることが判る。
【0019】
〔配合例〕
以下に本発明の舌癌細胞増殖抑制剤の配合例を挙げるが、下記配合例は本発明を限定するものではない。
配合例1:チューインガム
砂糖 53.0wt%
ガムベース 20.0
グルコース 10.0
水飴 16.0
香料 0.5
舌癌細胞増殖抑制剤 0.5
100.0wt%
【0020】
配合例2:グミ
還元水飴 40.0wt%
グラニュー糖 20.0
ブドウ糖 20.0
ゼラチン 4.7
水 9.68
ブドウ果汁 4.0
ブドウフレーバー 0.6
色素 0.02
舌癌細胞増殖抑制剤 1.0
100.0wt%
【0021】
配合例3:キャンディー
砂糖 50.0wt%
水飴 33.0
水 14.4
有機酸 2.0
香料 0.2
舌癌細胞増殖抑制剤 0.4
100.0wt%
【0022】
配合例4:ヨーグルト(ハード・ソフト)
牛乳 41.5wt%
脱脂粉乳 5.8
砂糖 8.0
寒天 0.15
ゼラチン 0.1
乳酸菌 0.005
舌癌細胞増殖抑制剤 0.4
香料 微量
水 残余
100.0wt%
【0023】
配合例5:清涼飲料
果糖ブドウ糖液糖 30.0wt%
乳化剤 0.5
舌癌細胞増殖抑制剤 0.05
香料 適量
精製水 残余
100.0wt%
【0024】
配合例6:ソフトカプセル
ブドウ種子油 87.0wt%
乳化剤 12.0
舌癌細胞増殖抑制剤 1.0
100.0wt%
【0025】
配合例7:錠剤
乳糖 54.0wt%
結晶セルロース 30.0
澱粉分解物 10.0
グリセリン脂肪酸エステル 5.0
舌癌細胞増殖抑制剤 1.0
100.0wt%
【0026】
配合例8:顆粒内服剤(医薬品)
舌癌細胞増殖抑制剤 1.0wt%
乳糖 30.0
コーンスターチ 60.0
結晶セルロース 8.0
ポリビニールピロリドン 1.0
100.0wt%
【0027】
配合例9:錠菓
砂糖 76.4wt%
グルコース 19.0
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
舌癌細胞増殖抑制剤 0.5
精製水 3.9
100.0wt%
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上により、本発明は、舌癌のell lineであるSCCKNの増殖抑制作用を有し、安全性が高い新規な成分を有効成分とする舌癌細胞増殖抑制剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来のスフィンゴ脂質を有効成分とする舌癌細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
前記植物は、米であることを特徴とする請求項1に記載の舌癌細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
前記スフィンゴ脂質はスフィンゴ糖脂質であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の舌癌細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の舌癌細胞増殖抑制剤を有効成分とする舌癌予防・治療剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−265206(P2010−265206A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117125(P2009−117125)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(594045089)オリザ油化株式会社 (96)
【Fターム(参考)】