説明

航海援助装置

【課題】乗組員への負担を軽減するとともに、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクを軽減すること。
【解決手段】入力されたデータに基づいて自船の動態を把握する動態把握装置と、前記動態把握装置から送られてきたデータと、自身にデータベースとして内蔵された環境規制海域に関するデータ、あるいは別の外部装置にデータベースとして内蔵された環境規制海域に関するデータとに基づいて、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間を演算する第1の演算装置と、前記第1の演算装置から送られてきたデータに基づいて、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間を表示する表示装置とを備えた環境規制海域診断装置3を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航海援助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航海援助装置としては、気象および海象情報を電子海図に重畳表示し、航行船舶の最適航路の選択および操船判断の容易化を図るようにした航法援助装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−201394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて近年においては、環境保全の観点から、エンジン排ガス規制海域(ECA:Emission Control Area)やバラスト水に関する規制海域等の環境規制海域が定められ、この環境規制海域内においては、NOxやSOx、バラスト水および沈殿物等の排出が制限されている。
また、エンジン排ガス規制海域内においては、近い将来、排気ガスのさらなる規制強化が予定されており、新たな規制を遵守するためには、エンジン排ガス規制海域内に入る前に、主機および発電機関に使用する燃料油を一般燃料油から低硫黄燃料油に変更したり、主機および発電機関の燃料噴射モード(運転モード)を、例えば、燃料油のみの噴射から燃料油と水とを混ぜ合わせたエマルジョン(乳濁液)の噴射に変更したり、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システム(排ガス処理装置)の触媒を暖めるヒーターを作動させる等の準備作業が必要になる。そのため、乗組員(特に機関士・機関員)への負担がさらに増加するものと考えられる。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、乗組員への負担を軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクを軽減することができる航海援助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明に係る航海援助装置は、入力されたデータに基づいて自船の動態を把握する動態把握装置と、前記動態把握装置から送られてきたデータと、自身にデータベースとして内蔵された環境規制海域に関するデータ、あるいは別の外部装置にデータベースとして内蔵された環境規制海域に関するデータとに基づいて、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間を演算する第1の演算装置と、前記第1の演算装置から送られてきたデータに基づいて、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間を表示する表示装置とを備えた環境規制海域診断装置を具備している。
【0007】
本発明に係る航海援助装置によれば、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間が、環境規制海域診断装置の第1の演算装置により自動的に演算され、環境規制海域診断装置の表示装置に自動的に表示されることになる。
これにより、乗組員は、表示装置を見るだけで環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間を瞬時に把握することができ、環境規制海域に入る前に、あるいは環境規制海域から出る前に予めしておかなければならない種々の準備作業を的確、かつ、迅速に行うことができて、その結果、乗組員への負担を軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクを軽減することができる。
【0008】
上記航海援助装置において、前記環境規制海域診断装置から送られてきたデータと、自身にデータベースとして内蔵された準備作業に関するデータとに基づいて、環境規制海域外から環境規制海域内に入る際に、規制海域航行用補機装置を起動すべき時間を演算する第2の演算装置と、前記第2の演算装置から送られてきたデータに基づいて、前記規制海域航行用補機装置に制御信号を出力する制御信号出力装置とを備えた規制海域航行用制御装置を具備しており、前記制御信号に基づいて、前記規制海域航行用補機装置が自動的に起動されるように構成されているとさらに好適である。
【0009】
このような航海援助装置によれば、環境規制海域に入る前の準備作業として、規制海域航行用補機装置(例えば、排ガス処理装置)の起動が自動的に行われることになる。
これにより、乗組員への負担をさらに軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクをさらに軽減することができる。
【0010】
上記航海援助装置において、前記第2の演算装置が、前記環境規制海域診断装置から送られてきたデータと、自身にデータベースとして内蔵された準備作業に関するデータとに基づいて、環境規制海域内から環境規制海域外に出る際に、規制海域航行用補機装置を停止すべき時間を演算する機能を備え、前記制御信号出力装置が、前記第2の演算装置から送られてきたデータに基づいて、前記規制海域航行用補機装置に制御信号を出力する機能を備えており、前記制御信号に基づいて、前記規制海域航行用補機装置が自動的に停止されるように構成されているとさらに好適である。
【0011】
このような航海援助装置によれば、環境規制海域から出る前の準備作業として、規制海域航行用補機装置(例えば、排ガス処理装置)の停止準備が自動的に行われることになる。
これにより、乗組員への負担をさらに軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクをさらに軽減することができる。
【0012】
上記航海援助装置において、前記第2の演算装置は、規制海域航行用各種バルブの切り替えを開始すべき時間を演算し、前記制御信号出力装置は、前記規制海域航行用各種バルブへ制御信号を出力し、前記制御信号に基づいて、前記規制海域航行用各種バルブの切り替えが行なわれるように構成されているとさらに好適である。
【0013】
このような航海援助装置によれば、規制海域航行用各種バルブ(例えば、燃料貯蔵タンクの流路切り替えバルブ、尿素水供給ラインのバルブ)の切り替えが自動的に行われることになる。
これにより、乗務員への負担をさらに軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクをさらに軽減することができる。
【0014】
上記航海援助装置において、前記制御信号出力装置から出力された制御信号に基づいて、主機および/または発電機関の運転モードが自動的に変更されるように構成されているとさらに好適である。
【0015】
このような航海援助装置によれば、環境規制海域に入る前の準備作業(、および環境規制海域から出る前の準備作業)として、主機および/または発電機関の運転モード(例えば、燃料噴射モード)が自動的に変更されることになる。
これにより、乗組員への負担をさらに軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクをさらに軽減することができる。
【0016】
上記航海援助装置において、前記制御信号出力装置から出力された制御信号に基づいて、推進用プロペラの駆動源が主機から軸発電機モータに、あるいは軸発電機モータから主機に自動的に変更されるように構成されているとさらに好適である。
【0017】
このような航海援助装置によれば、環境規制海域に入る前の準備作業として、推進用プロペラの駆動源が主機から軸発電機モータに(、および環境規制海域から出る前の準備作業として、推進用プロペラの駆動源が軸発電機モータから主機に)自動的に変更されることになる。
これにより、乗組員への負担をさらに軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクをさらに軽減することができる。
【0018】
上記航海援助装置において、前記制御信号出力装置から出力された制御信号の履歴、前記規制海域航行用補機装置の運転履歴、主機および発電機関の運転モード、主機、発電機関、および/または軸発電機モータの運転履歴を記録する記録装置がさらに設けられているとさらに好適である。
【0019】
このような航海援助装置によれば、環境規制海域内における主機および補機類の運転状態が詳細に記録されることになるので、環境規制海域内における主機および補機類の運転状態を容易に証明することができる。
【0020】
本発明に係る船舶は、上記いずれかの航海援助装置を具備している。
【0021】
本発明に係る船舶によれば、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間が、環境規制海域診断装置の第1の演算装置により自動的に演算され、環境規制海域診断装置の表示装置に自動的に表示される航海援助装置を搭載(装備)していることになる。
これにより、乗組員は、表示装置を見るだけで環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間を瞬時に把握することができ、環境規制海域に入る前に、あるいは環境規制海域から出る前に予めしておかなければならない種々の準備作業を的確、かつ、迅速に行うことができて、その結果、乗組員への負担を軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクを軽減することができる。
【0022】
本発明に係る船舶の運用方法は、上記表示装置に表示された環境規制海域に到達するまでの到達時間に基づいて、規制海域航行用補機装置を手動で起動するとともに、規制海域航行用各種バルブの切り替えを手動で実施するようにした。
【0023】
本発明に係る船舶の運用方法によれば、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間が、環境規制海域診断装置の第1の演算装置により自動的に演算され、環境規制海域診断装置の表示装置に自動的に表示されることになる。
これにより、乗組員は、表示装置を見るだけで環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間を瞬時に把握することができ、環境規制海域に入る前に予めしておかなければならない規制海域航行用補機装置(例えば、排ガス処理装置)の起動、各種バルブ(例えば、燃料貯蔵タンクの流路切り替えバルブ、尿素水供給ラインのバルブ)の切り換えを的確、かつ、迅速に行うことができて、その結果、乗組員への負担を軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクを軽減することができる。
【0024】
本発明に係る船舶の運用方法は、上記表示装置に表示された環境規制海域から離脱するまでの離脱時間に基づいて、規制海域航行用補機装置を手動で停止するとともに、通常航行用各種バルブの切り替えを手動で実施するようにした。
【0025】
本発明に係る船舶の運用方法によれば、環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間が、環境規制海域診断装置の第1の演算装置により自動的に演算され、環境規制海域診断装置の表示装置に自動的に表示されることになる。
これにより、乗組員は、表示装置を見るだけで環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間を瞬時に把握することができ、環境規制海域から出る前に予めしておかなければならない規制海域航行用補機装置(例えば、排ガス処理装置)の停止準備、各種バルブ(例えば、燃料貯蔵タンクの流路切り替えバルブ、尿素水供給ラインのバルブ)の切り換えを的確、かつ、迅速に行うことができて、その結果、乗組員への負担を軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクを軽減することができる。
【0026】
本発明に係る船舶の運用方法は、上記表示装置に表示された環境規制海域に到達するまでの到達時間、または前記表示装置に表示された環境規制海域から離脱するまでの離脱時間に基づいて、主機および/または発電機関の運転モードを手動で変更するようにした。
【0027】
本発明に係る船舶の運用方法によれば、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間が、環境規制海域診断装置の第1の演算装置により自動的に演算され、環境規制海域診断装置の表示装置に自動的に表示されることになる。
これにより、乗組員は、表示装置を見るだけで環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間を瞬時に把握することができ、環境規制海域に入る前、または環境規制海域から出る前に予めしておかなければならない主機および/または発電機関の運転モード(例えば、燃料噴射モード)の切り換えを的確、かつ、迅速に行うことができて、その結果、乗組員への負担を軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクを軽減することができる。
【0028】
本発明に係る船舶の運用方法は、上記表示装置に表示された環境規制海域に到達するまでの到達時間、または前記表示装置に表示された環境規制海域から離脱するまでの離脱時間に基づいて、推進用プロペラの駆動源を主機から軸発電機モータに、あるいは軸発電機モータから主機に手動で変更するようにした。
【0029】
本発明に係る船舶の運用方法によれば、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間が、環境規制海域診断装置の第1の演算装置により自動的に演算され、環境規制海域診断装置の表示装置に自動的に表示されることになる。
これにより、乗組員は、表示装置を見るだけで環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間を瞬時に把握することができ、環境規制海域に入る前、または環境規制海域から出る前に予めしておかなければならない駆動源の切り換えを的確、かつ、迅速に行うことができて、その結果、乗組員への負担を軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクを軽減することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る航海援助装置によれば、乗組員への負担を軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクを軽減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係る航海援助装置を具備した船舶の機器構成の概略を示す機器構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る航海援助装置を具備した船舶の機器構成の概略を示す機器構成図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る航海援助装置を具備した船舶の機器構成の概略を示す機器構成図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る航海援助装置を具備した船舶の機器構成の概略を示す機器構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る航海援助装置について、図1および図2を参照しながら説明する。
図1および図2はそれぞれ、本実施形態に係る航海援助装置を具備した船舶の機器構成の概略を示す機器構成図である。
【0033】
図1および図2に示すように、本実施形態に係る航海援助装置1は、電子海図装置2と、環境規制海域診断装置3とを備えている。
電子海図装置2は、レーダー4および自動操舵装置5と接続されており、レーダー4および自動操舵装置5から出力されたデータは、電子海図装置2に入力されるようになっている。
自動操舵装置5は、スラスター6、操舵装置7、衛星航法装置(例えば、GPS:Global Positioning System)8、ジャイロコンパス9、燃料流量計10、船速検出装置11、音響測深器12、および風向・風速計13と接続されており、衛星航法装置8、ジャイロコンパス9、船速検出装置11、および風向・風速計13から出力されたデータは、自動操舵装置5を介して電子海図装置2に入力されるようになっている。
なお、本実施形態では、電子海図装置2と、レーダー4と、自動操舵装置5とにより、自動航行保持装置30が構成されている。
【0034】
環境規制海域診断装置3は、電子海図装置2、衛星航法装置8、ジャイロコンパス9、船速検出装置11、および風向・風速計13と接続されており、船橋、および機関室内の機関制御室にそれぞれ配置されている。また、衛星航法装置8、ジャイロコンパス9、船速検出装置11、および風向・風速計13から出力されたデータは、自動操舵装置5を介さずに直接環境規制海域診断装置3に入力されるようになっている。
【0035】
環境規制海域診断装置3は、動態把握装置(図示せず)と、(第1の)演算装置(図示せず)と、表示装置(図示せず)とを備えている。
動態把握装置には、電子海図装置2、衛星航法装置8、ジャイロコンパス9、船速検出装置11、および風向・風速計13から送られてきたデータが入力され、これらのデータに基づいて自船の動態(自船の位置、針路、船速、航路、海象、気象等)が、動態把握装置において把握(演算)されるようになっている。
【0036】
演算装置には、動態把握装置から送られてきたデータが入力され、このデータと、演算装置にデータベースとして内蔵された環境規制海域に関するデータ、あるいは別の外部装置(例えば、電子海図装置2)にデータベースとして内蔵された環境規制海域に関するデータとに基づいて、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間(環境規制海域外から環境規制海域内に入るまでの距離と時間)、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間(環境規制海域内から環境規制海域外に出るまでの距離と時間)が、演算装置において演算されるようになっている。
表示装置には、演算装置から送られてきたデータが入力され、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間が、表示装置に表示されるようになっている。
【0037】
そして、機関室内の機関士・機関員は、表示装置に表示された到達時間に基づいて、(機関室内に配置された)規制海域航行用補機装置14および規制海域航行用各種バルブ15の切り替えをし、表示装置に表示された離脱時間に基づいて、(通常航行用(規制海域外航行用))の各種バルブ16の切り替えをする。
ここで、規制海域航行用補機装置14としては、図示しない尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システム(排ガス処理装置)の触媒を暖めるヒーターや、アンモニア水もしくは尿素水供給ラインのバルブを挙げることができ、尿素SCRシステムを使用するためには、触媒をヒーターで予め暖めたり、アンモニア水もしくは尿素水を供給する準備をしておく必要がある。
また、規制海域航行用燃料タンク(図示せず)には、規制海域内を航行するための低硫黄燃料油が溜められており、規制海域内において規制海域航行用燃料タンクから主機および各発電機関に低硫黄燃料油を供給するために、流路切り替えバルブを切り替える必要がある。
一方、燃料タンク(図示せず)には、規制海域外を航行するための一般燃料油が溜められており、規制海域外において燃料タンクから主機および各発電機関に一般燃料油が供給されるようになっており、燃料タンク内の一般燃料油を使用するためには、一般燃料油を蒸気等で予め暖めておくとともに、各種バルブ16により流路を切り替える必要がある。
【0038】
本実施形態に係る航海援助装置1によれば、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間が、環境規制海域診断装置3の第1の演算装置により自動的に演算され、環境規制海域診断装置3の表示装置に自動的に表示されることになる。
これにより、乗組員は、表示装置を見るだけで環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間を瞬時に把握することができ、環境規制海域に入る前に、あるいは環境規制海域から出る前に予めしておかなければならない種々の準備作業を的確、かつ、迅速に行うことができて、その結果、乗組員への負担を軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクを軽減することができる。
【0039】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態に係る航海援助装置について、図3および図4を参照しながら説明する。
図3および図4はそれぞれ、本実施形態に係る航海援助装置を具備した船舶の機器構成の概略を示す機器構成図である。
【0040】
図3および図4に示すように、本実施形態に係る航海援助装置21は、規制海域航行用制御装置22を備えているという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した第1実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0041】
規制海域航行用制御装置22は、(第2の)演算装置(図示せず)と、制御信号出力装置(図示せず)とを備えており、機関室内の機関制御室に配置されている。
図4に示すように、演算装置には、環境規制海域診断装置3から送られてきたデータが入力され、このデータと、演算装置にデータベースとして内蔵された準備作業に関するデータとに基づいて、環境規制海域外から環境規制海域内に入る際には、規制海域航行用補機装置14の機器暖機開始時間が、環境規制海域内から環境規制海域外に出る際には、規制海域航行用補機装置14の機器停止時間が、演算装置において演算されるようになっている。
【0042】
制御信号出力装置には、演算装置から送られてきたデータが入力され、このデータに基づいて、規制海域航行用補機装置14に制御信号が出力されて、規制海域航行用補機装置14が自動的に起動または停止されるようになっている。
【0043】
本実施形態に係る航海援助装置21によれば、環境規制海域に入る前の準備作業として、規制海域航行用補機装置14の起動が自動的に行われ、また、環境規制海域から出る前の準備作業として、規制海域航行用補機装置14の停止準備が自動的に行われることになる。
このように準備作業の自動化を図ることにより、乗組員への負担をさらに軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクをさらに軽減することができる。
【0044】
また、上述した実施形態において、環境規制海域外から環境規制海域内に入る際には規制海域航行用各種バルブ15の切り替え開始時間が、環境規制海域内から環境規制海域外に出る際には通常航行用各種バルブ16の切り替え開始時間が、演算装置において演算されるようになっており、制御信号出力装置には、演算装置から送られてきたデータが入力され、このデータに基づいて、規制海域航行用各種バルブ15または各種バルブ16に制御信号が出力されて、自動的に開閉されるように構成されているとさらに好適である。
これにより、例えば通常航行用燃料貯蔵タンクと規制海域航行用燃料貯蔵タンクの流路切り替えバルブ、尿素水供給ラインのバルブなど、各種バルブの切り替えが自動的に行われることになる。
このようにさらに準備作業の自動化を図ることにより、乗組員への負担をさらに軽減することができて、ヒューマンエラーによる規制侵犯のリスクをさらに軽減することができる。
【0045】
ここで、上述した実施形態において、環境規制海域外では通常の燃料噴射(燃料油のみの噴射)を行うようにし、環境規制海域内では燃料油と水とを混ぜ合わせてエマルジョン(乳濁液)にして、このエマルジョンを噴射するようにする等、環境規制海域外と環境規制海域内とで、主機および/または各発電機関の運転モードを変更して(切り換えて)、環境規制海域内におけるNOxの排出量がさらに低減されるように構成されているとさらに好適である。
これにより、環境規制海域内におけるNOxの排出量がさらに低減されることになるので、将来的に環境規制海域内における排気ガス規制が強化された場合でも、十分に対応することができる。
なお、環境規制海域外と環境規制海域内とで、主機および各発電機関の運転モードを変更する場合には、環境規制海域外から環境規制海域内に入る前に、運転モードの変更(切換)に伴う準備作業(燃料油と水とを混ぜ合わせてエマルジョンにする等)が必要となり、この準備作業は、上述した第1実施形態では、機関室内の機関士・機関員によって手動で、上述した第2実施形態では、規制海域航行用制御装置22により自動で行われることになる。
【0046】
また、上述した実施形態において、環境規制海域外では推進用プロペラ(図示せず)を回転させるのに主機を運転し、環境規制海域内では発電機関を運転し、軸発電機モータ(図示せず)に電力を供給して、推進用プロペラを回転させるようにする等、環境規制海域外と環境規制海域内とで、推進用プロペラを回転させる駆動源を変更して(切り換えて)、環境規制海域内におけるNOxの排出量がさらに低減されるように構成されているとさらに好適である。
これにより、環境規制海域内におけるNOxの排出量がさらに低減されることになるので、将来的に環境規制海域内における排気ガス規制が強化された場合でも、十分に対応することができる。
なお、環境規制海域外と環境規制海域内とで、推進用プロペラを回転させる駆動源を変更する場合には、環境規制海域外から環境規制海域内に入る前に、駆動源の変更(切換)に伴う準備作業(軸発電機モータに電力を供給する専用(専属)の発電機関を起動する等)が必要となり、この準備作業は、上述した第1実施形態では、機関室内の機関士・機関員によって手動で、上述した第2実施形態では、規制海域航行用制御装置22により自動で行われることになる。
【0047】
さらに、上述した第2実施形態において、航海情報記録装置(図示せず)または規制海域航行記録装置(図示せず)等の記録装置がさらに設けられており、この記録装置および/または警報・監視装置17に、規制海域航行用制御装置22の制御信号出力装置から出力された制御信号の履歴、規制海域航行用補機装置14の運転(作動)履歴、主機および各発電機関の運転モード、主機、各発電機関、および/または軸発電機モータ等の運転(作動)履歴等が記録されるように構成されているとさらに好適である。
これにより、環境規制海域内における主機および補機類の運転状態が詳細に記録されることになるので、環境規制海域内における主機および補機類の運転状態を容易に証明することができる。
【0048】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜必要に応じて変形・変更実施可能である。
例えば、上述した実施形態では、環境規制海域として、エンジン排ガス規制海域(ECA:Emission Control Area)を考慮したものを説明したが、環境規制海域としては、その他にもバラスト水に関する規制海域を挙げることができる。
この場合、バラストタンク(図示せず)に溜まったバラスト水および沈殿物は、バラスト水に関する規制海域に到達する前に手動または自動で船外に排出され、その記録が航海情報記録装置または規制海域航行記録装置等の記録装置および/または警報・監視装置17に記録されることになる。
【0049】
また、海象、気象等の変化により、環境規制海域に到達するまでの到達時間(環境規制海域外から環境規制海域内に入るまでの時間)が、環境規制海域診断装置3の演算装置で算出された環境規制海域に到達するまでの到達時間よりも短縮されるような(短くなるような)場合には、減速して、準備作業に要する時間を稼ぐようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 航海援助装置
2 電子海図装置
3 環境規制海域診断装置
4 レーダー
5 自動操舵装置
6 スラスター
7 操舵装置
8 衛星航法装置
9 ジャイロコンパス
10 燃料流量計
11 船速検出装置
12 音響測深器
13 風向・風速計
14 規制海域航行用補機装置
15 規制海域航行用各種バルブ
16 通常航行用各種バルブ
17 警報・監視装置
21 航海援助装置
22 規制海域航行用制御装置
30 自動航行保持装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたデータに基づいて自船の動態を把握する動態把握装置と、
前記動態把握装置から送られてきたデータと、自身にデータベースとして内蔵された環境規制海域に関するデータ、あるいは別の外部装置にデータベースとして内蔵された環境規制海域に関するデータとに基づいて、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間を演算する第1の演算装置と、
前記第1の演算装置から送られてきたデータに基づいて、環境規制海域に到達するまでの到達距離と到達時間、または環境規制海域から離脱するまでの離脱距離と離脱時間を表示する表示装置とを備えた環境規制海域診断装置を具備していることを特徴とする航海援助装置。
【請求項2】
前記環境規制海域診断装置から送られてきたデータと、自身にデータベースとして内蔵された準備作業に関するデータとに基づいて、環境規制海域外から環境規制海域内に入る際に、規制海域航行用補機装置を起動すべき時間を演算する第2の演算装置と、
前記第2の演算装置から送られてきたデータに基づいて、前記規制海域航行用補機装置に制御信号を出力する制御信号出力装置とを備えた規制海域航行用制御装置を具備しており、
前記制御信号に基づいて、前記規制海域航行用補機装置が自動的に起動されることを特徴とする請求項1に記載の航海援助装置。
【請求項3】
前記第2の演算装置が、前記環境規制海域診断装置から送られてきたデータと、自身にデータベースとして内蔵された準備作業に関するデータとに基づいて、環境規制海域内から環境規制海域外に出る際に、規制海域航行用補機装置を停止すべき時間を演算する機能を備え、
前記制御信号出力装置が、前記第2の演算装置から送られてきたデータに基づいて、前記規制海域航行用補機装置に制御信号を出力する機能を備えており、
前記制御信号に基づいて、前記規制海域航行用補機装置が自動的に停止されることを特徴とする請求項2に記載の航海援助装置。
【請求項4】
前記第2の演算装置は、規制海域航行用各種バルブの切り替えを開始すべき時間を演算し、
前記制御信号出力装置は、前記規制海域航行用各種バルブへ制御信号を出力し、
前記制御信号に基づいて、前記規制海域航行用各種バルブの切り替えが行なわれることを特徴とする請求項2または3に記載の航海援助装置。
【請求項5】
前記制御信号出力装置から出力された制御信号に基づいて、主機および/または発電機関の運転モードが自動的に変更されることを特徴とする請求項2または3に記載の航海援助装置。
【請求項6】
前記制御信号出力装置から出力された制御信号に基づいて、推進用プロペラの駆動源が主機から軸発電機モータに、あるいは軸発電機モータから主機に自動的に変更されることを特徴とする請求項2または3に記載の航海援助装置。
【請求項7】
前記制御信号出力装置から出力された制御信号の履歴、前記規制海域航行用補機装置の運転履歴、主機および発電機関の運転モード、主機、発電機関、および/または軸発電機モータの運転履歴を記録する記録装置がさらに設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の航海援助装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の航海援助装置を具備していることを特徴とする船舶。
【請求項9】
請求項1に記載の表示装置に表示された環境規制海域に到達するまでの到達時間に基づいて、規制海域航行用補機装置を手動で起動するとともに、規制海域航行用各種バルブの切り替えを手動で実施するようにしたことを特徴とする船舶の運用方法。
【請求項10】
請求項1に記載の表示装置に表示された環境規制海域から離脱するまでの離脱時間に基づいて、規制海域航行用補機装置を手動で停止するとともに、通常航行用各種バルブの切り替えを手動で実施するようにしたことを特徴とする船舶の運用方法。
【請求項11】
請求項1に記載の表示装置に表示された環境規制海域に到達するまでの到達時間、または前記表示装置に表示された環境規制海域から離脱するまでの離脱時間に基づいて、主機および/または発電機関の運転モードを手動で変更するようにしたことを特徴とする船舶の運用方法。
【請求項12】
請求項1に記載の表示装置に表示された環境規制海域に到達するまでの到達時間、または前記表示装置に表示された環境規制海域から離脱するまでの離脱時間に基づいて、推進用プロペラの駆動源を主機から軸発電機モータに、あるいは軸発電機モータから主機に手動で変更するようにしたことを特徴とする船舶の運用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−98801(P2012−98801A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244064(P2010−244064)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】