説明

航空機用空気入りラジアルタイヤ

【課題】高内圧、重荷重の条件下で使用される航空機用空気入りラジアルタイヤのクラウン保護層のコードの耐疲労性を高めて、トレッド部の更生を行うことで長時間の使用に耐えうる航空機用空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】ビードコア1相互間にわたりトロイド状に延びる複数のプライからなるカーカス2と、その外周とトレッドゴム3との間に配置されたベルト4とを備え、カーカスの少なくとも1枚のプライが、ビードコアの周りにタイヤ内側から外側に巻返されてなる折返し部を有する航空機用空気入りラジアルタイヤである。ベルト4のタイヤ半径方向最外側のコード層とトレッドゴム3との間に、実質的に同一ピッチで螺旋型付けされたスチール線状体を2本以上略同位相で撚り合わせずに束ねてゴムに埋設したスチール−ゴム複合体からなるクラウン保護層5が配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は航空機用空気入りラジアルタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、高内圧、高荷重の条件下で使用される航空機用空気入りラジアルタイヤにおいて、トレッド部外傷に起因するタイヤの破損を防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、負荷転動時に、路面に散在する石や金属片等によりトレッド部に外傷を受けることが多い。一般に乗用車などに適用される軽荷重用の空気入りタイヤでは、使用条件がそれほど厳しくないために、ある程度の外傷を受けてもタイヤがバーストに至ることはほとんどないが、航空機用空気入りタイヤのように高内圧、重荷重かつ高速の条件下で使用するタイヤにおいては、トレッド部の外傷がすぐにタイヤのバーストにつながる。
【0003】
航空機には、以下のような理由により、一般にバイアスタイヤが適用されている。すなわち、この種のバイアスタイヤにおいては、カーカスプライコードがバイアス配列になる複数プライのカーカスを有し、さらに、カーカスの外周であってトレッドゴムの内側に、有機繊維コードからなるブレーカを互いにコードが交差するように複数層配置したクラウン保護層(この場合のクラウンとは、トレッドとその両側とを含む領域をいう)を設けるのが慣例であり、これにより、トレッド部が外傷を受けても、クラウン保護層とカーカスプライとの間で外傷の進展を食い止め得る。
【0004】
一方、コードを放射方向に配列したプライからなるカーカスを持ついわゆる空気入りラジアルタイヤは、航空機用のような使用条件の下では、前述の有機繊維コードの交差層からなるクラウン保護層を用いても、カーカスのプライ枚数が少なく、かつベルトは周方向コード層を備える必要があることから、トレッド部外傷の進展を食い止めるような効果を期待することはできず、航空機用には不向きであった。
【0005】
これに対し、例えば、特許文献1には、航空機用ラジアルタイヤに関する開示があり、この文献中には、クラウンの保護に波形にくせ付けしたスチールコードを用いることに関する記載がある。
【特許文献1】米国特許第4,402,356号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、波形スチールコードをクラウン保護層に用いた場合、トレッド部外傷の進展を食い止めることはできるものの、クラウン保護層とベルトの有機繊維コード層との間の剛性差が大きいために、航空機の着陸時のようにタイヤに衝撃的重荷重負荷が加わる場合や、突起物を乗り越す際に、クラウン保護層とベルトのコード層との間にクラックが生じることが問題点として残る。またこの場合、タイヤの転動や突起を踏んだ時の入力で、クラウン保護層のコードが伸張〜圧縮変形すると、歪が山谷部に集中する。このため、タイヤが外傷を受けてコード周辺の水分率が高くなると、このように歪が集中する部分でコードが疲労破断する可能性があった。
【0007】
そこで本発明の目的は、高内圧、重荷重の条件下で使用される航空機用空気入りラジアルタイヤのクラウン保護層のコードの耐疲労性を高めて、トレッド部の更生を行うことで長時間の使用に耐えうる航空機用空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討した結果、下記構成とすることにより上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の航空機用空気入りラジアルタイヤは、一対のビード部内に埋設されたビードコア相互間にわたりトロイド状に延びる複数のプライからなるカーカスと、該カーカスの外周とトレッドゴムとの間に配置された複数層のコード層よりなるベルトとを備え、前記カーカスの少なくとも1枚のプライが、前記ビードコアの周りにタイヤ内側から外側に巻返されてなる折返し部を有する航空機用空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルトのタイヤ半径方向最外側のコード層と前記トレッドゴムとの間に、実質的に同一ピッチで螺旋型付けされたスチール線状体を2本以上略同位相で撚り合わせずに束ねてゴムに埋設したスチール−ゴム複合体からなるクラウン保護層が配設されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、前記スチール線状体の任意の1本と、一緒に束ねられた少なくとも1本の他のスチール線状体との、型付け螺旋の外接円同士が重なり合うことが好ましい。また、前記スチール−ゴム複合体を構成する2本以上のスチール線状体の構造および型付け量が全て同一であることが好ましく、前記スチール線状体としては、略円形断面を有するスチールフィラメント、または、複数本のスチールフィラメントを撚り合わせたスチールストランドを好適に用いることができる。さらに、本発明においては、前記スチール線状体の型付け螺旋の外接円直径をD、該スチール線状体の外径をdとしたとき、下記式、
D>2.5d
を満足することが好ましい。
【0011】
本発明において、前記スチール−ゴム複合体は、別個のリールに巻かれた2本以上の前記スチール線状体を1つの口金に通して束ねてゴムにより被覆した後、ゴムに埋設して製造することができ、また、別個のリールに巻かれた2本以上の前記スチール線状体を1つのスリットに通して束ねて上下からシート状ゴムを圧着させた後、ゴムに埋設して製造することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記構成としたことにより、高内圧、重荷重の条件下で使用される航空機用空気入りラジアルタイヤのクラウン保護層のコードの耐疲労性を高めて、トレッド部の更生を行うことで長時間の使用に耐えうる航空機用空気入りラジアルタイヤを実現することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明の一好適例の航空機用空気入りラジアルタイヤの構造を簡略図解した右半断面図を示す。図示する航空機用空気入りラジアルタイヤ10は、一対のビード部11内に埋設されたビードコア1相互間にわたりトロイド状に延びる複数のプライからなるカーカス2と、カーカス2の外周とトレッドゴム3との間に配置された複数層のコード層よりなるベルト4とを備えている。
【0014】
図示する例では、カーカス2は、ビードコア1の周りにタイヤ内側から外側に巻返されてなる折返し部2Aを有する4枚のターンアッププライと、その折返し部2Aの外側に沿って一対のビードトウ(図中では片側のみを示す)相互間にわたって延びる1枚のダウンプライとを有するアップダウン構成になる。
【0015】
また、図示するベルト4は、交差コード層4aと周方向コード層4bとからなり、このうち交差コード層4aは、2層の有機繊維コード層それぞれの両側部分をタイヤ半径方向外側に折り返して順次積層し、トレッド中央域で2層、トレッド側端部領域では4層のコード層にて構成される。ここで、交差コード層とは、タイヤ赤道面を挟んで両層の配列コードが互いに交差する形態の積層コード層を指す(但し、このことは折り返し部分を除く本体コード層についてのみ適用される)。なお、図示する例では、タイヤ半径方向内側の折り返し端部でのせん断歪の発生を抑制するために、外側コード層の折り返し部が内側の折り返し端を超えて延びる構成とした。
【0016】
また、ベルトの他方を構成する周方向コード層4bは、交差コード層4aと同材質の有機繊維コードをタイヤ周方向にらせん状に巻回した、トレッド幅方向に連続するコードの層を5層備えるほかに、上記交差コード層4aのトレッド中央域に2層のらせん巻回コード層を追加配置するとともにトレッド両端部領域に1枚宛のらせん巻回層を追加配置し、結果としてトレッド中央域で7層、トレッド端部領域で6層のコード層からなる。なお、図中の符号6はクッションゴム層を示す。
【0017】
本発明においては、図示するように、ベルト4のタイヤ半径方向最外側のコード層、図示する例では周方向コード層4bの最外側層とトレッドゴム3との間にクラウン保護層5が配設されており、かかるクラウン保護層5を、実質的に同一ピッチで螺旋型付けされたスチール線状体を2本以上略同位相で撚り合わせずに束ねてゴムに埋設したスチール−ゴム複合体により形成した点に特徴がある。図2に、図1中の符号Aで示した部分の拡大図を示す。図中の符号7がスチール−ゴム複合体である。
【0018】
本発明のタイヤに高内圧を充填すると、ベルトの交差コード層4aおよび周方向コード層4bが大きな張力の大部分を負担するので、螺旋型付けしたスチール線状体層であるクラウン保護層5にはそれほどの張力は作用しない。よって、クラウン保護層5のコードの螺旋型付けは保持されるため、トレッドゴム3が突起のような異物に乗り上げ、たとえトレッドゴム3にカット傷が発生するような場合でも、クラウン保護層5のコードとクッションゴム層6とが連係してカットエネルギーを吸収し、殆どのカット傷はクラウン保護層5で止まり、それより内部にまでカット傷が進入する憂いは大幅に減少する結果、トレッド部の耐外傷性は顕著に向上することになる。
【0019】
一方、コードが伸びきっていなくても、タイヤの転動によりクラウン保護層5のコードには張力変動が作用する。本発明に係るスチール線状体7は螺旋に型付けされているので、波形に型付けされたときのように山谷に歪変動が集中することはなく、長手方向全体で均一に歪を負担するために疲労性に優れる。
【0020】
しかし、型付けしたスチール線状体、すなわちスチールフィラメントやスチールストランドを撚り合わせないと、打込みの限界でも、断面内の補強材密度を大きくすることができず、充分な強度が得られない。そこで本発明では、型付けしたフィラメントまたはストランドをほぼ同一ピッチ、同位相で束ねてコードとしたことで、束ねたフィラメントまたはストランドが接して干渉することがなく、補強材密度を高めることができる。この場合、スチール線状体の任意の1本と、一緒に束ねられた少なくとも1本の他のスチール線状体との、型付け螺旋の外接円同士が重なり合う状態にすると、高負荷時の高い剛性強度を得る上でより好ましい。
【0021】
また、本発明においては、スチール−ゴム複合体を構成する2本以上のスチール線状体の構造および型付け量が、全て同一であることも好ましく、各スチール線状体の構造や型付け量を同一とすると、応力が均一にかかり、強度効率をより向上することができる。
【0022】
なお、スチール線状体としては、必要な強度・剛性に応じて、略円形断面を有するスチールフィラメントであっても、複数本のスチールフィラメントを撚り合わせたスチールストランドであっても、またそれらを組み合わせたものであってもよい。
【0023】
さらに、本発明においては、スチール線状体の型付け螺旋の外接円直径をD、スチール線状体7の外径をdとしたとき、下記式、
D>2.5d
を満足することが好ましい。型付け螺旋の外接円直径Dをスチール線状体の直径dの2.5倍より大きくすることで、クラウン保護層6の伸びを高めてカットエネルギーの吸収性を高め、本発明に係るスチール−ゴム複合体の特徴をいっそう出すことができる。
【0024】
本発明に係るスチール−ゴム複合体を、安定して効率的に作製する方法としては、別個のリールに巻かれた2本以上のスチール線状体を1つの口金に通して束ねてゴムにより被覆した後、ゴムに埋設して製造する方法や、別個のリールに巻かれた2本以上のスチール線状体を1つのスリットに通して束ねて上下からシート状ゴムを圧着させた後、ゴムに埋設して製造する方法等が有効である。
【0025】
本発明のタイヤにおいては、上記スチール−ゴム複合体からなるクラウン保護層を備えるものであればよく、これにより本発明の所期の効果を得ることができるものであり、それ以外のタイヤ構造、各構成部材の材質等については、特に制限されるものではない。また、スチール−ゴム複合体を構成するスチール線状体の構造や用いるスチールフィラメントの線径、スチールおよびゴムの材質等についても、特に制限されない。例えば図示するように、本発明のタイヤは、一対のビード部11と、それに連なる一対のサイドウォール部12と、両サイドウォール部12間にトロイド状をなして連なるトレッド部13とを備えており、トレッド部13の表面には適宜トレッドパターンが形成されている。また、最内層にはインナーライナー(図示せず)が形成されている。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
下記の表1に示す構造のスチール−ゴム複合体をクラウン保護層に適用して、下記条件に従い、図1に示すような断面構造を有するタイヤサイズH46×18.0R20の航空機用空気入りラジアルタイヤを製造した。
カーカス2:66ナイロン,1680d/3コードよりなる5プライ
交差コード層4a:66ナイロン,1680d/4コードを周方向に対して18°の角度で互いに交差させた2層をそれぞれ両端部で折り返して配置
周方向コード層4b:66ナイロン,1680d/4コードを周方向に配列したコード層を中央領域で7層、両端部領域で6層配置
【0027】
得られた各供試タイヤにつき、クラウン保護層の耐疲労性の比較試験を行った。試験は、各供試タイヤのトレッドからクラウン保護層の外側1mmに到達する穴を開け、ここに水をたらして、クラウン保護層周辺の水分率を高め、正規内圧、荷重条件で、速度80km/hで10分走行させる試験を500回繰り返して、走行終了後のタイヤのスチールコードに切断が発生しているか否かにつき観察することにより行った。その結果を、下記の表1中に併記する。
【0028】
【表1】

【0029】
上記表1の結果からわかるように、クラウン保護層に、同一ピッチで螺旋型付けされたスチール線状体を2本以上略同位相で撚り合わせずに束ねてゴムに埋設したスチール−ゴム複合体を適用した実施例の供試タイヤは、耐疲労性に優れ、長期使用に耐え得るものであることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態に係る航空機用空気入りラジアルタイヤの右半断面を示す説明図である。
【図2】図1中の符号Aで示す部分の拡大図である。
【図3】実施例1のスチール−ゴム複合体を示す概略断面図である。
【図4】実施例2のスチール−ゴム複合体を示す概略断面図である。
【図5】比較例1のスチール−ゴム複合体を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ビードコア
2 カーカス
3 トレッドゴム
4a 交差コード層
4b 周方向コード層
5 クラウン保護層
6 クッションゴム層
7 スチール−ゴム複合体
11 ビード部
12 サイドウォール部
13 トレッド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部内に埋設されたビードコア相互間にわたりトロイド状に延びる複数のプライからなるカーカスと、該カーカスの外周とトレッドゴムとの間に配置された複数層のコード層よりなるベルトとを備え、前記カーカスの少なくとも1枚のプライが、前記ビードコアの周りにタイヤ内側から外側に巻返されてなる折返し部を有する航空機用空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルトのタイヤ半径方向最外側のコード層と前記トレッドゴムとの間に、実質的に同一ピッチで螺旋型付けされたスチール線状体を2本以上略同位相で撚り合わせずに束ねてゴムに埋設したスチール−ゴム複合体からなるクラウン保護層が配設されていることを特徴とする航空機用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記スチール線状体の任意の1本と、一緒に束ねられた少なくとも1本の他のスチール線状体との、型付け螺旋の外接円同士が重なり合う請求項1記載の航空機用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記スチール−ゴム複合体を構成する2本以上のスチール線状体の構造および型付け量が、全て同一である請求項1または2記載の航空機用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記スチール線状体が、略円形断面を有するスチールフィラメントである請求項1〜3のうちいずれか一項記載の航空機用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記スチール線状体が、複数本のスチールフィラメントを撚り合わせたスチールストランドである請求項1〜3のうちいずれか一項記載の航空機用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項6】
前記スチール線状体の型付け螺旋の外接円直径をD、該スチール線状体の外径をdとしたとき、下記式、
D>2.5d
を満足する請求項1〜5のうちいずれか一項記載の航空機用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項7】
前記スチール−ゴム複合体が、別個のリールに巻かれた2本以上の前記スチール線状体を1つの口金に通して束ねてゴムにより被覆した後、ゴムに埋設して製造されてなる請求項1〜6のうちいずれか一項記載の航空機用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項8】
前記スチール−ゴム複合体が、別個のリールに巻かれた2本以上の前記スチール線状体を1つのスリットに通して束ねて上下からシート状ゴムを圧着させた後、ゴムに埋設して製造されてなる請求項1〜6のうちいずれか一項記載の航空機用空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−74213(P2008−74213A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254813(P2006−254813)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】