説明

航空機設計装置、航空機設計プログラム、及び航空機設計方法

【課題】より最適な航空機の設計を可能とすると共に、航空機の設計に要する労力及び時間を低減させる、ことを目的とする。
【解決手段】航空機設計装置は、航空機の設計に要する複数の設計変数に基づいて、航空機の諸元である機体諸元を算出し、算出した機体諸元が機体の成立性を示した予め定められた制約条件及び航空機を最適化させるものとして予め定められた最適化条件を満たすか否かを判定し、算出した機体諸元が制約条件を満たすと共に最適化条件を満たすように、設計変数を変更し、変更した設計変数に基づいた機体諸元の算出を繰り返す繰返処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機設計装置、航空機設計プログラム、及び航空機設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジニアが航空機の全体の設計(全機設計)を行う場合、例えば、図6の概念図に示すような作業を行うことにより最終解を求めていた。
【0003】
まず、性能を担当するエンジニアが、性能に関する設計変数を選定し、性能に関する制約条件を満たす機体諸元を策定することによって、性能以外の他分野(空力特性、安定性、降着装置、構造、等)に供する設計変数の暫定的な候補を選定する。ここでは、機体諸元の策定にあたり、性能以外の他分野の設計変数は、考慮されないか、若しくは考慮されても他の航空機の設計例等を参考にして暫定的に定めた固定値とされる。なお、この設計変数の候補の選定によって、航空機の形状が大まかに決定されることとなる。
次に、性能以外の他分野において,上記選定された設計変数の候補が各分野における制約条件を満たすか否かを、各分野を担当するエンジニアが判定する。制約条件を満たさない場合は、各分野毎に再び設計変数の候補の選定を行い、各分野での制約条件を満たすか否かの判定を再び行う。
【0004】
従来の航空機の設計では、上記プロセスを各々の分野での制約条件を満たすまで繰り返すことによって、最終解を得ていた。
【0005】
また、特許文献1には、ヘリコプターのロータブレードの最適設計手法に遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm:GA)を用いた最適化プログラムであって、翼型を表すパラメータを設計変数とし,要求される複数の性能を目的関数として設定し、これらの計算条件で数値流体力学計算を行うことによって、多目的最適化計算を行って最適なロータブレード翼型を導き出す設計方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−90548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6に示すような従来の航空機の設計方法では、各分野での制約条件を全て満たした最終解は、機体として成立する。しかしながら、従来の航空機の設計方法では、各分野において最終的に選定された設計値が他の分野において選定された設計値と相互に関連していないため、航空機全体として最適でない可能性もあった。
【0008】
一方、特許文献1に記載の設計方法は、翼型の設計を行う場合に適用できる。しかし、航空機の全体の設計を行う場合、航空機の空力の知識を必要とする他、性能、構造、降着装置、及び安定性等の航空機に関する様々な知識並びに経験を必要とし、すなわち、複数人の専門家の関与を必要とするため、特許文献1に記載の設計方法だけで航空機の全体の設計はできない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、より最適な航空機の設計を可能とすると共に、航空機の設計に要する労力及び時間を低減させる航空機設計装置、航空機設計プログラム、及び航空機設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の航空機設計装置、航空機設計プログラム、及び航空機設計方法は以下の手段を採用する。
【0011】
すなわち、本発明に係る航空機設計装置は、航空機の設計に要する複数の設計変数に基づいて、航空機の諸元である機体諸元を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された前記機体諸元が予め定められた制約条件を満たすか否かを判定する第1判定手段と、前記算出手段によって算出された前記機体諸元が航空機を最適化させるものとして予め定められた最適化条件を満たすか否かを判定する第2判定手段と、前記設計変数を変更する変更手段と、を備え、前記算出手段によって算出される前記機体諸元が前記制約条件を満たすと共に前記最適化条件を満たすように、前記変更手段による前記設計変数の変更、及び該設計変数に基づいた前記算出手段による前記機体諸元の算出を繰り返す繰返処理を実行する。
【0012】
本発明によれば、算出手段によって、航空機の設計に要する複数の設計変数に基づいて、航空機の諸元である機体諸元が算出され、第1判定手段によって、算出された機体諸元が予め定められた制約条件を満たすか否かが判定され、第2判定手段によって、算出された機体諸元が航空機を最適化させるものとして予め定められた最適化条件を満たすか否かが判定される。なお、制約条件は、機体の成立性を示した条件である。
すなわち、本発明は、制約条件を満たすと共に最適化条件も満たす機体諸元を算出することとなる。
【0013】
そして、繰返処理によって、算出される機体諸元が制約条件を満たすと共に最適化条件を満たすように、変更手段による設計変数の変更、及び該設計変数に基づいた算出手段による機体諸元の算出が繰り返し行われる。
すなわち、本発明は、制約条件又は最適化条件を満たさない算出結果が得られると、特定の設計変数のみを変更するのではなく、全ての設計変数を変更する。このため、従来のように、航空機の設計に関する各分野毎に制約条件を満たすように、各分野毎に独立して設計を行わないため、本発明によって得られた機体諸元は、各分野が各々相互に関連した値となる。
【0014】
また、本発明は、全ての制約条件を満たした機体諸元を算出しても、最適化処理終了条件を満たすまで、設計変数を変更することによって再び機体諸元の算出を初めから繰り返し、新たに機体諸元を算出することとなる。
【0015】
以上のことから、本発明は、より最適な航空機の設計が可能となる。また、上記各手段による処理が情報処理装置によって行われることとなるため、本発明は、航空機の設計に要する労力及び時間を低減させることができる。
【0016】
また、本発明の航空機設計装置は、前記第1判定手段が、航空機の、性能、空力特性、安定性、降着装置、構造、に関する制約条件を満たすか否かを判定する。
【0017】
本発明によれば、航空機の設計において考慮される制約条件が包括的に盛り込まれることにより、現実的な航空機の設計が可能となる。
【0018】
また、本発明の航空機設計装置は、前記変更手段が、前記算出手段によってそれまでに算出された前記機体諸元の算出結果に基づいて、前記最適化条件を満たすように前記設計変数を変更する。
【0019】
本発明によれば、設計変数を、それまでに算出された機体諸元の算出結果に基づき変更させるので、機体諸元の算出結果の数が多いほど、より適した値に設計変数を変更することができる。
【0020】
また、本発明の航空機設計装置は、前記算出手段が、1回の前記機体諸元の算出毎に複数個体の前記機体諸元を算出する。
【0021】
本発明によれば、算出手段が1回の機体諸元の算出毎に複数個体の機体諸元を算出するので、繰返処理の回数が少なくても、最適な航空機の全体の設計をより精度高くすることができる。
【0022】
一方、本発明に係る航空機設計プログラムは、コンピュータを、航空機の設計に要する複数の設計変数に基づいて、航空機の諸元である機体諸元を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された前記機体諸元が予め定められた制約条件を満たすか否かを判定する第1判定手段と、前記算出手段によって算出された前記機体諸元が航空機を最適化させるものとして予め定められた最適化条件を満たすか否かを判定する第2判定手段と、前記設計変数を変更する変更手段と、して機能させ、前記算出手段によって算出される前記機体諸元が前記制約条件を満たすと共に前記最適化条件を満たすように、前記変更手段による前記設計変数の変更、及び該設計変数に基づいた前記算出手段による前記機体諸元の算出を繰り返す繰返処理を実行する。
【0023】
さらに、本発明に係る航空機設計方法は、航空機の設計に要する複数の設計変数に基づいて、航空機の諸元である機体諸元を算出する第1工程と、算出した前記機体諸元が予め定められた制約条件、及び航空機を最適化させるものとして予め定められた最適化条件を満たすか否かを判定する第2工程と、算出した前記機体諸元が前記制約条件を満たすと共に前記最適化条件を満たすように、前記設計変数を変更する第3工程と、を含み、変更した前記設計変数に基づいた前記機体諸元の算出を繰り返す繰返処理を実行する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、より最適な航空機の設計を可能とすると共に、航空機の設計に要する労力及び時間を低減させる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る航空機設計装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る航空機の設計方法の概念図である。
【図3】本発明の実施形態に係る航空機設計プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態に係る機体諸元策定処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る航空機設計処理の算出結果の一例を示す図であり、(A)は各世代において算出された機体の離陸重量を示したグラフであり、(B)は1世代目に算出された航空機の形状を示し、(C)は50世代目に算出された航空機の形状を示し、(D)は300世代目に算出された航空機の形状を示す。
【図6】従来の航空機の設計方法の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係る航空機設計装置、航空機設計プログラム、及び航空機設計方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本実施形態に係る航空機設計装置10の電気的構成を示す。航空機設計装置10は、航空機の全体(全機)を設計するための情報処理装置である。
【0028】
航空機設計装置10は、航空機設計装置10全体の動作を司るCPU(Central Processing Unit)12、各種プログラム等が予め記憶されたROM(Read Only Memory)14、CPU12による各種プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM(Random Access Memory)16、詳細を後述する航空機設計プログラム等の各種プログラム及び各種情報を記憶する記憶手段としてのHDD(Hard Disk Drive)18を備えている。
【0029】
さらに、航空機設計装置10は、キーボード及びマウス等から構成され、各種操作の入力を受け付ける操作入力部20、各種情報の入力を促す画像及び航空機設計処理の結果を示す画像等の各種画像を表示する画像表示部22、印刷装置や他の情報処理装置等の外部装置と接続され、該外部装置への各種情報の送受信を行う外部インタフェース24、並びに可搬型記憶媒体26に記憶されている情報を読み取るための読取部28を備えている。なお、可搬型記憶媒体26には、磁気ディスク、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク、IC(Integrated Circuit)カード、及びメモリカード等が含まれる。
【0030】
これらCPU12、ROM14、RAM16、HDD18、操作入力部20、画像表示部22、外部インタフェース24、及び読取部28は、システムバス30を介して相互に電気的に接続されている。従って、CPU12は、ROM14、RAM16、及びHDD18へのアクセス、操作入力部20に対する操作状態の把握、画像表示部22に対する各種の画像の表示、外部インタフェース24を介した上記外部装置との各種情報の送受信、及び読取部28を介した可搬型記憶媒体26からの情報の読み取り等を各々行なうことができる。
【0031】
次に、本実施形態に係る航空機の設計方法、すなわち航空機設計装置10で実行される航空機設計処理について、図2の概念図を用いて説明する。
【0032】
本実施形態に係る航空機設計処理では、まず、航空機の設計に要する設計変数を設定する。設定された設計変数は、航空機の諸元である機体諸元の算出(以下、「機体諸元策定」という。)のために用いられる。設計変数の具体例としては、航空機の性能に関する変数(最大エンジン出力、主翼面積、主翼のアスペクト比等)、航空機の空力や安定性に関する変数(垂直尾翼の面積、水平尾翼の面積等)、降着装置や構造に関する変数等である。
なお、ここでいう機体諸元とは、航空機の性能、航空機の特性(空力特性及び安定性等)、航空機の降着装置の仕様、及び航空機の構造(形状及び重量等)等を含む。
【0033】
次の処理では、設定した設計変数に基づいて機体諸元策定を行い、機体諸元を算出する。
【0034】
次の処理では、算出した機体諸元が予め定められた制約条件を満たしているか否かを判定する。なお、制約条件とは、機体の成立性を示した条件であり、例えば、性能に関しては必要滑走路長及び上昇率等であり、空力特性に関してはトリム能力、引き起こし能力、片発停止トリム能力、及び機首下げ能力等であり、安定性に関しては縦静安定性等であり、構造に関しては降着装置の取り付け及び収容位置(降着装置取付収容位置)等であり、降着装置に関しては尻擦角、縦転倒角、及び横転倒角等である。
【0035】
また、上記処理では、機体諸元が航空機を最適化させるものとして予め定められた最適化条件を満たすか否かを判定する。なお、最適化条件の対象(以下、「最適化対象」という。)としては、例えば、機体の重量、機体の運用コスト、及び機体が収容可能な乗客数等である。
【0036】
そして、本実施形態に係る航空機設計処理では、算出した機体諸元が制約条件を満たすと共に最適化条件を満たすように、設計変数の変更及び設計変数に基づいた機体諸元の算出を繰り返す繰返処理を実行する。
すなわち、本実施形態に係る航空機設計処理では、制約条件又は最適化条件を満たさない算出結果が得られると、特定の設計変数のみを変更するのではなく、全ての設計変数を変更する。このため、従来のように航空機の設計に関する各分野毎に制約条件を満たすように、各分野毎に独立して設計を行わないため、本実施形態に係る航空機設計処理によって得られた機体諸元は、各分野が各々相互に関連した値となる。
【0037】
また、本実施形態に係る航空機設計処理では、全ての制約条件を満たした機体諸元を算出しても、最適化処理終了条件を満たすまで、設計変数を変更することによって再び機体諸元の算出を初めから繰り返し、新たに複数の機体諸元を算出することとなる。
【0038】
エンジニアは、このような航空機設計処理で得られた制約条件及び最適化条件を満たした機体諸元を、算出した設計変数と共に選択し、設計値として採用する。
【0039】
図3は、航空機設計処理を行う場合に、航空機設計装置10によって実行される航空機設計プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、航空機設計プログラムはHDD18の所定領域に予め記憶されている。なお、航空機設計プログラムは、操作入力部20を介してエンジニアによって開始指示が入力された場合に、開始する。
【0040】
まず、ステップ100では、機体の主要な設計変数及び各種条件の初期設定を行う。なお、本プログラムを開始する場合には、本ステップ100において、操作入力部20を介してエンジニアによる、機体の主要な設計変数及び各種条件の入力を受け付ける。なお、各種条件は、制約条件及び最適化条件の他に、繰返処理を行う最大回数(例えば300回)、一回の機体諸元策定において算出させる機体諸元の個体(パターン)の数(例えば16機)等を含む。
なお、設計変数及び各種条件は、予めHDD18に記憶され、記憶されている設計変数及び各種条件を読み出すことで、設定されてもよい。
【0041】
次のステップ102では、機体諸元を算出する機体諸元策定処理を実行する。機体諸元策定処理の詳細については、図4に示すフローチャートを用いて後述する。
【0042】
次のステップ104では、機体諸元策定処理による計算結果(算出した機体諸元)を機体諸元策定処理で用いた設計変数と共に出力する。なお、ここでいう出力とは、HDD18の予め定められた領域に計算結果を記憶させることをいう。
【0043】
次のステップ106では、HDD18から機体諸元策定処理で算出した機体諸元を読み出し、制約条件を満たすか否かを判定する制約条件判定処理を実行する。なお、制約条件判定処理による判定結果は、機体諸元策定処理による計算結果及び設計変数に関連付けてHDD18に記憶される。
【0044】
次のステップ108では、最適化処理終了条件を満たすか否かを判定し、肯定判定の場合は、本プログラムを終了し、否定判定の場合は、ステップ110へ移行する。なお、最適化処理終了条件の詳細については、後述する。
【0045】
ステップ110では、ステップ102における機体諸元策定処理を再実行するための設計変数を変更する。具体的には、ステップ110では、それまでに実行した機体諸元策定処理の算出結果に基づいて、制約条件と最適化条件を共に満たす解が得られるように設計変数を変更する。
【0046】
ステップ110による設計変数の変更は、例えば、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm:GA)を用いて行われる。遺伝的アルゴリズムは、制約条件を満足させ、かつ、最適化対象の値が最適となるように、選択、交叉、及び突然変異等の操作により設計変数を変更する。
なお、具体的な設計変数の変更については、図5を用いて後述する。
そして、設計変数の変更後の値が決定されたら、ステップ102へ戻る。ステップ102では、変更された設計変数を用いて機体諸元策定処理を再実行する。
【0047】
このように、本実施形態に係る航空機設計処理は、機体諸元策定処理によって機体諸元を策定し、制約条件を満たし、かつ、最適化処理終了条件を満たすまで、設計変数を変更させながら機体諸元策定処理を繰り返すこととなる。
【0048】
図4は、航空機設計処理のステップ102で実行される機体諸元策定処理の流れを示すフローチャートである。機体諸元策定処理では、図2に示す航空機の設計方法の概念図における機体諸元策定に含まれる航空機の性能、航空機の特性、航空機の降着装置の仕様、及び航空機の構造を推算する。
【0049】
まず、ステップ200では、設計変数に基づいて、機体の主要な部位(主翼、尾翼、胴体、及びエンジンナセル等)の詳細な形状(特性量も含む)を示す機体形状変数を算出する。
【0050】
次のステップ202では、設計変数及びステップ200で算出した機体形状変数の算出結果に含まれるエンジンナセルの詳細な形状等に基づいて、エンジン性能を推算する。
【0051】
そして、以降のステップでは、ステップ200で算出した機体形状変数、及びステップ202で推算したエンジン性能、等に基づいて、最適化すべき機体諸元を算出する。機体諸元の算出は、一例として、機体諸元間の関係を定めた非線形方程式を解くことによって行われる。
【0052】
ステップ204では、ステップ200で算出した機体形状変数等の変数に基づいて、機体の各部位(主翼、尾翼、及び胴体等)やサブシステム(操縦系統、降着系統、空調系統、油圧系統、及び電気系統等)の重量を推算する。
【0053】
機体の詳細な形状等の変数に基づいて機体の重量を算出する具体的例としては、主要な設計変数(主翼の重量推算の場合,翼面積や翼厚等)と重量の関係をまとめた重量統計等を用い、ステップ200で算出した機体形状変数等の変数より重量を推算する。
【0054】
次のステップ206では、機体の重心位置が所定の位置となるよう、機体の各部位の位置関係を調整することによって、重心位置の調整を行う。なお、後述するステップ214で否定判定となり、再びステップ206の処理を行う場合、1サイクル毎に機体諸元が変化し、それに対応して機体の各部位やサブシステムの重量が変わるため、その度毎に機体の各部位の相互の位置を調整することによって、重心位置の調整を行う。
【0055】
次のステップ208では、機体形状変数の算出及び重心位置の調整を行うことによって決定できる機体形状諸元(降着装置と各種構造等の諸元。主翼と胴体の位置関係で変わるような尻擦角、縦転倒角、横転倒角、降着装置取付収容位置等)を算出する。
【0056】
次のステップ210では、ステップ208で算出した機体の形状に基づいて、機体の巡航形態での空力特性、及び巡航形態での空力的な釣合い計算に必要な空力特性を推算する。なお、後述するステップ214で否定判定となり、再びステップ210の処理を行う場合、ステップ206で行う重心位置の調整に付随して1サイクル毎に機体の形状が変化するため、舵効きも含め変化した機体の形状における空力特性を推算する。
【0057】
次のステップ212では、推算した機体の巡航形態での空力特性及び巡航時の空力的な釣合い、並びにエンジン性能に基づいて、機体の巡航性能を推算する。なお、後述するステップ214で否定判定となり、再びステップ212の処理を行う場合、1サイクル毎に機体の空力特性が変化するため、1サイクル毎に機体の空力的な釣合い計算を行い、該釣合い計算結果に基づき消費燃料を推算する。
【0058】
次のステップ214では、非線形方程式の解が求まったか否かを判定し、肯定判定の場合は、ステップ216へ移行し、否定判定の場合は、ステップ204へ戻り、解が求まるまでステップ204からステップ214までの処理を繰り返す。
【0059】
次のステップ216では、離着陸形態での空力的な釣合い計算に必要な空力特性も含め、機体の離着陸形態での空力特性を推算する。
【0060】
次のステップ218では、機体の離着陸形態での空力特性、重量、及びエンジン性能等に基づいて、機体の性能(必要滑走路長、上昇率等)、及び空力特性(トリム能力、引き起こし能力、片発停止トリム能力、機首下げ能力等)を推算する。より詳細には、前縁フラップ、後縁フラップ、昇降舵、及び方向舵等の空力装置の空力的効果を含めた機体での空力的な釣合いを推算し、該空力的な釣合いの推算結果に基づいて、機体の性能及び空力特性を推算する。
【0061】
次のステップ220では、機体の安定性(縦静安定性等)を推算する。より詳細には、前縁フラップ、後縁フラップ、昇降舵、及び方向舵等の空力装置の空力的な効果を含めた機体の空力特性に基づいて、機体の安定性を推算する。
なお、ステップ220の処理の終了と共に、機体諸元策定処理が終了することとなり、航空機設計処理は、図3に示す航空機設計処理のステップ104へ移行する。
【0062】
図5は、本実施形態に係る航空機設計処理の算出結果の一例を示す図、すなわち図3のステップ108に係る処理の結果を示す図であり、最適化手法としてGAを用い、1回(世代)の機体諸元策定処理毎に複数個体(16個体)の機体諸元を算出し、かつ300回(世代)の繰返処理を行った場合の算出結果である。
なお、図5の例では、最適化条件の一例として、「航空機の燃料重量を含む機体の重量(以下、「離陸重量」という。)を、より軽い離陸重量にする」とするように、予め定められた最適化条件を用いる場合について説明する。
【0063】
なお、本実施形態に係る航空機設計処理では、1回の機体諸元策定処理毎に複数個体の機体諸元を算出するために、一例として、機体諸元策定処理に用いる設計変数に所定の幅を持たせ、該幅の範囲内で複数パターンの設計変数を設定する。そして、本実施形態に係る航空機設計処理では、該複数パターンの設計変数毎に機体諸元策定処理を実行することによって、複数の個体の機体諸元を算出する。
これにより、設計変数の変更(航空機設計処理のステップ110)において、制約条件の値との適応度を評価する対象となる算出結果が増えるため、繰返処理の回数が少なくても、最適な航空機の設計をより精度高くすることができる。
【0064】
図5(A)のグラフは、各世代において算出された機体の離陸重量を示したグラフであり、白抜き丸(○)は制約条件を満たしていない算出結果である一方、黒丸(●)は制約条件を満たした算出結果である。図5(B)の16機の航空機の図形は1世代目に算出された航空機の形状を示し、図5(C)の16機の航空機の図形は50世代目に算出された航空機の形状を示し、図5(D)の16機の航空機の図形は300世代目に算出された航空機の形状を示し、各航空機の図形において右上に黒丸(●)が付加されている図形は、制約条件を満たすものである。
【0065】
図5(A),(B)に示されるように、1世代目では、制約条件を満たす機体諸元は算出されなかった。また、1世代目では、各個体の離陸重量及び形状のばらつきが大きい。しかし、世代を重ねるにつれて、例えば図5(A),(C)の50世代目に示されるように制約条件を満たす個体が発生し、各個体の離陸重量及び形状のばらつきも小さくなる。そして、本実施形態に係る航空機設計処理は、制約条件を満たす機体諸元を算出できるようになると、最適化対象である離陸重量が小さくなるように、制約条件を満たす機体諸元の離陸重量が収束していく(図5(A),(D)に示される300世代目)。そして、エンジニアは、図5に示す航空機設計処理の算出結果を確認することによって、離陸重量が収束したか否かを判定し、航空機設計処理を終了させることができ(航空機設計処理のステップ108)、収束結果から最適解を選択することができる。
【0066】
なお、図3のステップ108における最適化処理終了条件を満たしたか否かの判定は、エンジニアによる判定に限らず、例えば、1サイクル前後での最適化対象(本実施形態では離陸重量)の変化が予め定めていた閾値内の範囲に含まれるか否かの判定、又は制約条件を満たす機体諸元の離陸重量の変化を近似した近似式を算出した上で該近似式が一定値に漸近するか否かを判定し、該判定が肯定判定となった場合に、最適化処理終了条件を満たしたと判定する等してもよい。
さらに、これらの他に、最適化処理終了条件を満たしたか否かの判定は、図3に示される航空機設計プログラムの繰返処理が予め設定された最大回数が終了したか否かを判定し、肯定判定の場合に、最適化処理終了条件を満たしたと判定する等してもよい。
【0067】
ここで、図3のステップ110で実行される設計変数の変更の具体例について、図5を参照して説明する。設計変数は、上述したように、それまでに算出された機体諸元の算出結果に基づいて、最適化条件を満たすように変更される。
図5の例では、世代が若い場合には、制約条件や最適化対象である離陸重量と設計変数の関係が不明であり、その設計変数が制約条件を満足させかつ離陸重量の抑制に寄与するかが分からない。そのため、図5の例では、1〜約20世代までは、制約条件を満たす個体は存在せず、又、最適化対象である離陸重量も最適化とは逆の大きくなる方向に変化している。しかし、設計変数を変更及び機体諸元の算出を繰り返し行うことによって、制約条件を満足させかつ離陸重量を抑制する設計変数の方向性が明確となり、その結果、世代を重ねるにつれて離陸重量は減少し、全ての制約条件及び最適化条件を満たす一定値に収束することとなる。
【0068】
図5に示されるような航空機設計処理の算出結果を示す図は、航空機設計処理の繰返処理の過程で、予め定められた繰返処理の回数(例えば50回毎)が終了した場合、又はエンジニアによる操作入力部20を介した指示が入力された場合に、画像表示部22に表示されてもよい。
【0069】
以上説明したように、本実施形態に係る航空機設計装置10は、航空機の設計に要する複数の設計変数に基づいて、航空機の諸元である機体諸元を算出し、算出した機体諸元が予め定められた制約条件及び航空機を最適化させるものとして予め定められた最適化条件を満たすか否かを判定し、算出した機体諸元が制約条件を満たすと共に最適化条件を満たすように、設計変数を変更し、変更した設計変数に基づいた機体諸元の算出を繰り返す繰返処理を実行する。
従って、本実施形態に係る航空機設計装置10は、より最適な航空機の設計が可能となる。また、上記処理が情報処理装置によって行われることとなるため、本実施形態に係る航空機設計装置10は、航空機の設計に要する労力及び時間を低減させることができる。
【0070】
また、本実施形態に係る航空機設計装置10は、設計変数を、それまでに算出された機体諸元の算出結果に基づきGAにより変更させるので、機体諸元の算出結果の数が多いほど、より適した値に設計変数を変更することができる。
【0071】
また、本実施形態に係る航空機設計装置10は、機体諸元策定処理が1回の機体諸元の算出毎に複数個体の機体諸元を算出するので、繰返処理の回数が少なくても、最適な航空機の全体の設計をより精度高くすることができる。
【0072】
また、本実施形態に係る航空機設計装置10は、航空機の設計において考慮される航空機の、性能、空力特性、安定性、降着装置、構造、に関する制約条件を満たすか否かを包括的に判定するので、より現実的な航空機の設計が可能となる。
【0073】
以上、本発明を、上記実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0074】
例えば、上記実施形態では、航空機設計処理において最適化条件を一種類のみ設定する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、最適化条件を複数種類設定する形態としてもよい。この形態の場合は、例えばGAの多目的最適化機能を用いて実現することができ、複数種類の機体を同時に最適化することができ、異なる用途に適したファミリー機全体で最適な設計を行うことができる。
【0075】
また、上記実施形態では、制約条件として、航空機の、性能、空力特性、安定性、降着装置、構造、を用いる形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、機体開発費、運用コスト等、その他の制約条件を併せて用いる形態としてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、機体諸元を算出するために非線形方程式を用いる形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、機体諸元を算出するために線形方程式を用いる形態としてもよい。この形態の場合、解を求めるために繰り返し計算が必要とはならないため、図4におけるステップ214の処理は必要ないこととなる。
【0077】
また、上記実施形態では、設計変数の変更(航空機設計処理のステップ110)において、GAを用いて設計変数の変更を行う形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、算出した機体諸元が制約条件を満たすと共に最適化条件を満たすように、設計変数を変更できれば、他の方法を用いる形態としてもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、HDD18に航空機設計プログラムを記憶させる形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、航空機設計プログラムを、可搬型記憶媒体26に記憶させる形態としてもよい。
【0079】
また、上記実施形態で説明した航空機設計プログラムの処理の流れも一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10 航空機設計装置
12 CPU
18 HDD
20 操作入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の設計に要する複数の設計変数に基づいて、航空機の諸元である機体諸元を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された前記機体諸元が予め定められた制約条件を満たすか否かを判定する第1判定手段と、
前記算出手段によって算出された前記機体諸元が航空機を最適化させるものとして予め定められた最適化条件を満たすか否かを判定する第2判定手段と、
前記設計変数を変更する変更手段と、
を備え、
前記算出手段によって算出される前記機体諸元が前記制約条件を満たすと共に前記最適化条件を満たすように、前記変更手段による前記設計変数の変更、及び該設計変数に基づいた前記算出手段による前記機体諸元の算出を繰り返す繰返処理を実行する航空機設計装置。
【請求項2】
前記第1判定手段は、航空機の、性能、空力特性、安定性、降着装置、構造、に関する制約条件を満たすか否かを判定する請求項1記載の航空機設計装置。
【請求項3】
前記変更手段は、前記算出手段によってそれまでに算出された前記機体諸元の算出結果に基づいて、前記最適化条件を満たすように前記設計変数を変更する請求項1又は請求項2記載の航空機設計装置。
【請求項4】
前記算出手段は、1回の前記機体諸元の算出毎に複数個体の前記機体諸元を算出する請求項1から請求項3の何れか1項記載の航空機設計装置。
【請求項5】
コンピュータを、
航空機の設計に要する複数の設計変数に基づいて、航空機の諸元である機体諸元を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された前記機体諸元が予め定められた制約条件を満たすか否かを判定する第1判定手段と、
前記算出手段によって算出された前記機体諸元が航空機を最適化させるものとして予め定められた最適化条件を満たすか否かを判定する第2判定手段と、
前記設計変数を変更する変更手段と、
して機能させ、
前記算出手段によって算出される前記機体諸元が前記制約条件を満たすと共に前記最適化条件を満たすように、前記変更手段による前記設計変数の変更、及び該設計変数に基づいた前記算出手段による前記機体諸元の算出を繰り返す繰返処理を実行する航空機設計プログラム。
【請求項6】
航空機の設計に要する複数の設計変数に基づいて、航空機の諸元である機体諸元を算出する第1工程と、
算出した前記機体諸元が予め定められた制約条件、及び航空機を最適化させるものとして予め定められた最適化条件を満たすか否かを判定する第2工程と、
算出した前記機体諸元が前記制約条件を満たすと共に前記最適化条件を満たすように、前記設計変数を変更する第3工程と、
を含み、
変更した前記設計変数に基づいた前記機体諸元の算出を繰り返す繰返処理を実行する航空機設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−73596(P2013−73596A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214633(P2011−214633)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】