説明

舶用内燃機関の制御方法及び制御装置

【課題】内燃機関にて消費される燃料量を従来よりも低減することが可能な舶用内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関1の回転数が目標回転数に調整されるように内燃機関の燃焼制御パラメータを変更するガバナ装置10を備えた舶用内燃機関の制御装置において、所定の回転数範囲内に目標回転数が設定されている場合、ガバナ装置10のコントローラ11は、内燃機関1の負荷変動時における燃焼制御パラメータの変更を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の回転数を目標回転数に調整するために燃料噴射量などの内燃機関の燃焼制御パラメータを変更する調速装置を備えた舶用内燃機関の制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に舶用内燃機関には、内燃機関の回転数が操縦者によって設定された目標回転数に調整されるように燃料噴射量などの燃焼制御パラメータを制御する調速装置、いわゆるガバナが設けられている。このような内燃機関の回転数を制御する装置として、例えば機関の実際の回転数と設定回転数とを比較演算し、この比較演算結果に基づいて燃料ポンプのラック位置を調節して内燃機関に供給する燃料噴射量を調節する回転数制御装置が知られている(特許文献1参照)。また、指令回転数と実回転数との偏差に応じて主機関の燃料供給量を調整する舶用主機関の電子ガバナ装置が知られている(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−279738号公報
【特許文献2】特開平8−200131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
調速装置は内燃機関の回転数を目標回転数に一致させるように燃料供給量などの燃焼制御パラメータを変更している。一方、状況によっては内燃機関の回転数が目標回転数に対してある程度変動しても内燃機関の運転の安定性が確保できる可能性がある。このような状況で目標回転数に一致させる制御を行うと内燃機関の運転状態を無駄に変化させて燃料が無駄に消費されるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、内燃機関にて消費される燃料量を従来よりも低減することが可能な舶用内燃機関の制御方法及び制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0007】
本発明の舶用内燃機関の制御方法は、内燃機関(1)の回転数が目標回転数に調整されるように前記内燃機関の燃焼制御パラメータを変更する調速手段(10、40)を備えた舶用内燃機関の制御方法において、所定の回転数範囲内に前記目標回転数が設定されている場合、前記内燃機関の負荷変動時における前記調速手段による前記燃焼制御パラメータの変更を制限することにより、上述した課題を解決する。
【0008】
内燃機関の性能を示す値として、燃料消費量を軸出力で割った値、言い換えると単位時間、単位軸出力当たりに消費される燃料量を示す値である燃料消費率が知られている。燃料消費率は内燃機関の回転数及び内燃機関のトルクとそれぞれ相関関係を有しており、内燃機関のトルクの変化が燃料消費率の変化に与える影響よりも内燃機関の回転数の変化が燃料消費率の変化に与える影響の方が小さい。
【0009】
本発明の制御方法では、目標回転数が所定の回転数範囲内に設定されている場合に調速手段による燃焼制御パラメータの変更を制限する。調速手段による燃焼制御パラメータの変更を制限した場合、内燃機関のトルク変動を抑えることができるので、燃料消費率の変動を抑えることができる。一方、燃焼制御パラメータの変更を制限することなく内燃機関の回転数を目標回転数へと強制的に一致させる場合は、燃焼制御パラメータの変更を制限した場合と比較して内燃機関のトルク変動が大きくなり、それに応答して燃料消費率の変動も大きくなる。そのため、燃焼制御パラメータの変更を制限した場合と比較して燃料消費率が無駄に変動し、燃料消費率が大きくなる頻度が増加する。本発明の制御方法によれば、調速手段による燃焼制御パラメータの変更を制限して燃料消費率の無駄な変動を抑えることができるので、無駄な燃料の消費を抑えることができる。従って、従来よりも内燃機関にて消費される燃料量を低減できる。
【0010】
なお、本発明における「制限」の概念には、所定の回転数範囲内に目標回転数が設定されている場合の回転数調整制御の制御効果が、この所定の回転数範囲外に目標回転数が設定されている場合の回転数調整制御の制御効果よりも弱められるように燃焼制御パラメータを変更すること、船舶が受けた外乱のうちの一部の外乱に応答した調速手段による燃焼制御パラメータの変更を禁止すること、及び調速手段による燃焼制御パラメータの変更を禁止することのいずれもが含まれる。
【0011】
本発明における「外乱」とは、船舶に作用して内燃機関の負荷を変動させる波、風、及び潮流などのことを指す。
【0012】
本発明の制御方法の一形態において、前記所定の回転数範囲には、外洋航海時に前記内燃機関に対して設定される目標回転数の最低値以上であり、かつ前記内燃機関の過回転を防止するために設定された過回転防止回転数以下の回転数範囲が設定されてもよい。このような回転数範囲では、内燃機関の負荷が変動して内燃機関の回転数がある程度変動しても内燃機関の運転の安定性が確保できる。
【0013】
本発明の制御方法の一形態においては、前記所定の回転数範囲内に前記目標回転数が設定されている場合、前記内燃機関の負荷変動時における前記調速手段による前記燃焼制御パラメータの変更を禁止してもよい。このように燃焼制御パラメータの変更を禁止することにより、内燃機関のトルクの変動をさらに抑制し、燃料消費率の変動をさらに抑制できる。そのため、内燃機関にて消費される燃料量をさらに低減できる。
【0014】
本発明の制御方法の一形態においては、前記所定の回転数範囲内に前記目標回転数が設定されている場合、前記内燃機関の負荷を変動させる外乱のうち所定の周波数よりも高い高周波の外乱に対する前記調速手段による前記燃焼制御パラメータの変更を禁止してもよい。内燃機関の回転数は、燃焼制御パラメータが変更されても変更後の燃焼制御パラメータに応じて定まる回転数に直ぐに変化しない。そのため、船舶が受けた外乱のうちの高周波の外乱、すなわち短い周期の外乱に応答して調速手段が燃焼制御パラメータを変更すると燃焼制御パラメータが短い周期で変更されるので、調速手段によって燃焼制御パラメータが変更されても内燃機関の回転数が変更後の燃焼制御パラメータに応じて定まる回転数に変化する前にさらに燃焼制御パラメータが変更されることになる。すなわち、調速手段による燃焼制御パラメータの変更に対して内燃機関の回転数の追従できない。従って、このように燃焼制御パラメータを短い周期で変更させると内燃機関の運転状態を無駄に変動させるので、燃料が無駄に消費される。この形態では、所定の周波数よりも高周波の外乱に対する調速手段の応答を禁止するので、内燃機関の運転状態の無駄な変動を抑制して無駄な燃料の消費を抑えることができる。また、所定の周波数以下の低周波の外乱に対して調速手段を応答させることにより、内燃機関の回転数を目標回転数に安定に維持することができる。
【0015】
この形態において、前記所定の周波数には、前記燃焼制御パラメータが変更されてから前記内燃機関の回転数が変更後の燃焼制御パラメータに応じて定まる所定回転数に達するまでの応答の時定数の逆数が設定されてもよい。このように所定の周波数を設定することにより、内燃機関の回転数が所定回転数に達する前に燃焼制御パラメータが変更される無駄な調速手段の応答を禁止できる。
【0016】
本発明の舶用内燃機関の制御装置は、内燃機関(1)の回転数が目標回転数に調整されるように前記内燃機関の燃焼制御パラメータを変更する調速手段(10、40)を備えた舶用内燃機関の制御装置において、所定の回転数範囲内に前記目標回転数が設定されている場合、前記内燃機関の負荷変動時における前記調速手段による前記燃焼制御パラメータの変更を制限する制限手段(11、40)を備えていることにより、上述した課題を解決する。
【0017】
本発明の舶用内燃機関の制御装置によれば、目標回転数が所定の回転数範囲内に設定されている場合に制限手段が燃焼制御パラメータの変更を制限するので、上述した制御方法と同様に燃料消費率の無駄な変動を抑えることができる。そのため、無駄な燃料の消費を抑え、従来よりも内燃機関にて消費される燃料量を低減できる。
【0018】
本発明の制御装置の一形態において、前記所定の回転数範囲には、外洋航海時に前記内燃機関に対して設定される目標回転数の最低値以上であり、かつ前記内燃機関の過回転を防止するために設定された過回転防止回転数以下の回転数範囲が設定されてもよい。この場合、燃焼制御パラメータの変更を制限しても内燃機関の運転の安定性が確保できる。
【0019】
本発明の制御装置の一形態において、前記制限手段は、前記内燃機関の負荷変動時における前記調速手段による前記燃焼制御パラメータの変更を禁止してもよい。この場合、燃料消費率の変動をさらに抑制できるので、内燃機関で消費される燃料量をさらに低減できる。
【0020】
本発明の制御装置に一形態において、前記制限手段は、前記内燃機関の負荷を変動させる外乱のうち所定の周波数よりも高い高周波の外乱に対する前記調速手段による前記燃焼制御パラメータの変更を禁止してもよい。また、この形態において、前記所定の周波数には、前記燃焼制御パラメータが変更されてから前記内燃機関の回転数が変更後の燃焼制御パラメータに応じて定まる所定回転数に達するまでの応答の時定数の逆数が設定されてもよい。この場合、高周波の外乱に対する調速手段の応答を禁止して内燃機関の運転状態の無駄な変動を抑制できるので、無駄な燃料の消費を抑えることができる。また、低周波の外乱に対して調速手段を応答させることにより、内燃機関の回転数を目標回転数に安定に維持することができる。
【0021】
本発明の制御装置の一形態において、前記内燃機関は、前記内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁に燃料を供給するとともに前記燃料噴射弁に供給すべき燃料量を変更可能な燃料噴射ポンプ(3)と、をさらに備え、前記調速手段は、前記内燃機関の回転数が目標回転数に調整されるように前記燃料噴射ポンプから前記燃料噴射弁に供給される燃料量を変更し、前記制限手段は、前記目標回転数が前記所定の回転数範囲内に設定されている場合、前記燃料噴射ポンプから前記燃料噴射弁に供給される燃料量の変更を制限してもよい。このように燃料噴射ポンプから燃料噴射弁に供給される燃料量の変更を制限することにより、気筒内に供給される燃料量の変動を抑制できるので、内燃機関のトルク変動を抑制できる。そのため、燃料消費率の無駄な変動を抑えて燃料の消費量を低減できる。
【0022】
本発明の制御装置の一形態において、前記内燃機関は、前記内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁(30)と、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記燃料噴射弁から前記気筒内に噴射すべき燃料量を算出する燃料量算出手段(40)と、前記燃料量算出手段により算出された燃料量の燃料が前記気筒内に噴射されるように前記燃料噴射弁の動作を制御する動作制御手段(40)と、をさらに備え、前記燃料量算出手段は、前記内燃機関の回転数が前記目標回転数に調整されるように燃料量を算出することによって前記調速手段として機能し、前記制限手段は、前記燃料噴射弁から噴射される燃料量の変更が制限されるように前記燃料噴射弁の動作を制御してもよい。このように燃料噴射弁から噴射される燃料量の変更を制限することにより、内燃機関のトルク変動を抑えることができるので、燃料消費率の無駄な変動を抑えることができる。そのため、従来よりも内燃機関にて消費される燃料量を低減できる。
【発明の効果】
【0023】
以上に説明したように、本発明によれば、目標回転数が所定の回転数範囲内に設定されている場合、調速手段による燃焼制御パラメータの変更を制限するので、内燃機関のトルク変動を抑えて燃料消費率の無駄な変動を抑えることができる。そのため、燃料の無駄な消費を抑制でき、従来よりも内燃機関にて消費される燃料量を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1の形態)
図1は、本発明の第1の形態に係る制御装置が組み込まれた内燃機関の一例を示している。図1の内燃機関1は船舶に主機関として搭載される多気筒ディーゼルエンジンであり、その出力軸1aにはプロペラ2が設けられている。以下、内燃機関1をエンジンと呼ぶこともある。エンジン1は、気筒毎に不図示の燃料噴射弁と燃料噴射ポンプ3とを備えている。燃料噴射弁は燃料噴射ポンプ3から供給された燃料の圧力が所定圧以上になると気筒内に燃料を噴射する周知のものである。燃料噴射ポンプ3は、プランジャバレルの内部に挿入されたプランジャを往復動させることによって燃料を燃料噴射弁に供給し、プランジャバレルに設けられた燃料排出口とプランジャに形成された斜めの溝との相対位置を変化させることによって燃料噴射弁に供給する燃料量を変化させることができる周知のものである。
【0025】
エンジン1には、エンジン1の回転数を目標回転数に調整する調整手段としてのガバナ装置10が設けられている。ガバナ装置10は、コントローラ11と、アクチュエータ12と、コントローラ11からの出力信号に基づいてアクチュエータ12を動作させるドライバ13とを備えている。図1に示したようにアクチュエータ12は、運動伝達機構14を介して各燃料噴射ポンプ3、…、3のプランジャとそれぞれ接続されている。運動伝達機構14は、アクチュエータ12の運動を各燃料噴射ポンプ3、…、3のプランジャを回転させる回転運動に変換してこれらのプランジャに伝達する。運動伝達機構14によって各燃料噴射ポンプ3、…、3のプランジャに伝達された回転運動は、プランジャを回転させてプランジャバレルの燃料排出口とプランジャの溝との相対位置を変化させる。これにより、各気筒への燃料供給量が変更される。
【0026】
コントローラ11は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成される。このようなコントローラ11としては、例えば周知のPIDコントローラが設けられる。コントローラ11には、エンジン1の回転数に対応した信号を出力する回転数センサ21、各気筒に吸入される空気の圧力に対応した信号を出力する吸気圧センサ22などが接続されている。なお、これらのセンサの他にも種々のセンサがコントローラ11に接続されているが、それらの図示は省略した。また、コントローラ11には目標回転数を設定するためのスロットル23、及びガバナ装置10による回転数調整の実行(オン)又は禁止(オフ)を切り替える切替スイッチ24が接続されており、操縦者はこれらスロットル23及び切替スイッチ24を操作してコントローラ11に指令を入力する。
【0027】
ガバナ装置10による回転数調整方法について説明する。コントローラ11は、回転数センサ21の出力信号に基づいて実際のエンジン1の回転数(以下、実回転数と略称することもある。)を検出し、この検出した実回転数とスロットル23にて設定された目標回転数との差を算出する。次に算出した差に基づいて実回転数と目標回転数が一致するように各気筒に供給すべき燃料量を算出し、その算出した燃料量が燃料噴射ポンプ3から燃料噴射弁に供給されるようにドライバ13を介してアクチュエータ12を動作させて各燃料噴射ポンプ3のプランジャを回転させる。このようにガバナ装置10は、実回転数を目標回転数に調整するべく各気筒内に供給される燃料量を変更する。
【0028】
図2は、コントローラ11が実回転数を目標回転数に一致させる回転数調整の要否を判断するべく実行するガバナ制御ルーチンを示している。図2の制御ルーチンは、エンジン1の運転中に所定の周期で繰り返し実行される。
【0029】
図2の制御ルーチンにおいてコントローラ11は、まずステップS11で目標回転数が所定の回転数範囲内の回転数か否か判断する。所定の回転数範囲としては、エンジン1が搭載された船舶が外洋を航海するときに目標回転数として設定される回転数の最低値(以下、航海時最低回転数と略称することもある。)以上であり、かつエンジン1の過回転を防止するために予め設定された過回転防止回転数以下の回転数範囲が設定される。エンジン1の回転数が過回転防止回転数より高い場合は、エンジン1の回転数を速やかに過回転防止回転数以下に下げる必要があるため調速手段が必要となる。一方、航海時最低回転数未満の回転数では、各気筒に供給すべき燃料量が少なくなるため、実回転数を目標回転数に調整するための制御を禁止すると、エンジン1の運転状態が不安定になり易い。そこで、所定の回転数範囲として航海時最低回転数以上であり、かつ過回転防止回転数以下の回転数範囲を設定する。この回転数範囲であれば、内燃機関の負荷が変動して内燃機関の回転数がある程度変動しても内燃機関の運転の安定性が確保できる。
【0030】
目標回転数が所定の回転数範囲内と判断した場合はステップS12に進み、コントローラ11は切替スイッチ24が禁止(オフ)に切り替えられていることを含む所定のガバナオフ条件が成立しているか否か判断する。所定のガバナオフ条件は、切替スイッチ24が禁止に切り替えられている他に、例えば今回の制御ルーチンが実行されるまでの所定期間(例えば10分間)における実回転数の平均と目標回転数との差が予め設定した許容範囲内の場合に成立していると判断される。操縦者は、例えば波の高さやエンジン1が搭載された船舶の航行状態などに基づいて切替スイッチ24をオンにするか否か判断する。なお、コントローラ11に接続された複数のセンサによってコントローラ11が船舶の航行状態、波の高さなどに基づいて操縦者が判断する内容を判断可能な場合は、切替スイッチ24を設けなくてもよい。所定のガバナオフ条件が成立していると判断した場合はステップS13に進み、コントローラ11はアクチュエータ12の状態を前回この制御ルーチンを実行したときの状態に維持して回転数の調整を禁止する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0031】
一方、ステップS11で否定判断した場合、又はステップS12で否定判断した場合はステップS14に進み、コントローラ11は実回転数を目標回転数に調整するべく各気筒内に供給される燃料量が変更されるようにドライバ13を介してアクチュエータ12を動作させる。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0032】
図3は、エンジン1におけるエンジン1の回転数及びエンジン1のトルクと燃料消費率との関係の一例を示している。図3に示したようにエンジン1の燃料消費率は、領域Sにおいて最も小さく、その領域Sよりも外側に離れるほど大きくなる。そのため、燃料消費率が領域Sに近い領域に変化するようにエンジン1の運転状態を調整することにより、燃料の消費量を低減できる。ガバナ装置10による回転数調整が禁止された場合、アクチュエータ12の状態が保持されるので、エンジン1の各気筒に供給される燃料量が所定量に固定される。そのため、各気筒の燃焼圧力をほぼ一定にし、内燃機関のトルクの変動を抑制できる。なお、この場合、回転数調整が禁止されるので、エンジン1の回転数は回転数調整を実行した場合と比較して大きく変動する。図3の矢印Aはこのように回転数調整を禁止した場合におけるエンジン1の運転状態の変動の一例を示している。
【0033】
一方、ガバナ装置10による回転数調整が実行された場合、エンジン1の回転数はほぼ一定に調整されるが、この回転数調整を実行するために各気筒に供給する燃料量を変化させるので、エンジン1のトルクが変動する。そのため、この場合におけるエンジン1の運転状態は、図3に矢印Bで一例を示したような変動を示す。
【0034】
回転数調整を実行した場合は、図3に矢印Bで示したようにエンジン1の運転状態が図3の縦方向に大きく変動するため、燃料消費率が無駄に変動する。一方、回転数調整を禁止した場合、図3に矢印Aで示したようにエンジン1の運転状態は図3の横方向に大きく変動するが、図3の縦方向への変動を抑えることができるので、燃料消費率の変動を抑えることができる。
【0035】
本発明の第1の形態に係る制御装置では、目標回転数が所定の回転数範囲内に設定されている場合に回転数調整を禁止するので、この場合の燃料消費率の無駄な変動を抑えることができる。そのため、エンジン1にて消費される燃料量を低減できる。なお、図2の制御ルーチンを実行し、目標回転数が所定の回転数範囲内に設定されている場合に回転数調整を禁止することにより、コントローラ11が本発明の制限手段として機能する。
【0036】
(第2の形態)
次に図4を参照して本発明の第2の形態に係る制御装置について説明する。この形態では、コントローラ11が第1の形態の図2の代わりに図4に示したガバナ制御ルーチンを実行する点が異なる。また、この形態では、コントローラ11が実回転数と目標回転数との差に対してPID制御を行い、そのPID制御の出力をアクチュエータ12の動作を制御する信号として使用することによって回転数調整が行われる。これらを除き、第2の形態は第1の形態と同一の構成を有しているので、同一構成についての重複する説明を省略する。
【0037】
第2の形態においてコントローラ11は、アクチュエータ12の動作を制御する制御モードとして通常PID制御モードと制限PID制御モードとを有している。周知のようにPID制御では、偏差に対する比例動作(P動作)、積分動作(I動作)、微分動作(D動作)の各動作の働きの強さをそれぞれ適宜設定することによって制御特性を変化させる。通常PID制御モードでは、船舶に作用してエンジン1の負荷を変動させる外乱に対してガバナ装置10が応答するようにP動作、I動作、D動作の各動作の働きがそれぞれ設定される。なお、通常PID制御モードにおける各動作の働き強さは、船舶用エンジンのガバナ装置に対して一般的に使用される周知の設定方法に基づいてそれぞれ設定すればよいため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0038】
一方、制限PID制御モードでは、通常PID制御モードと比較してI動作の働きの強さが強くなり、かつD動作が殆ど働かないように各動作の働きの強さがそれぞれ設定される。また、P動作の働きの強さは、通常PID制御モードよりも小さく設定される。PID制御では、I動作の働きを強くすることによって周期の短い高周波の外乱に対する制御ゲインを小さくするとともに周期の長い低周波の外乱に対する制御ゲインを大きくできるので、高周波の外乱に対する応答を小さく又は禁止することができる。そのため、このように各動作の働きの強さをそれぞれ設定することにより、制限PID制御モードでは、所定の周波数よりも周期の短い高周波の外乱に対するガバナ装置10の応答を禁止できる。所定の周波数としては、例えばガバナ装置10によって燃料噴射量が変更されてからエンジン1の回転数が変更後の燃料噴射量によって定まる所定の回転数に変化するまでの応答の時定数Tの逆数が設定される。この時定数Tは、エンジン1の動作特性及びアクチュエータ12の動作特性によって変化する。そのため、制限PID制御モードにおける各動作の働きの強さを設定する方法としては、例えば本発明を適用するエンジン1及びアクチュエータ12を使用して予め実験を行い、その実験結果に基づいて各動作の働きの強さを決定する。また、例えばシミュレーション又は数値計算などを行い、その結果に基づいて各動作の働きの強さを決定してもよい。
【0039】
図4の制御ルーチンを説明する。図4の制御ルーチンは、コントローラ11によってエンジン1の運転中に所定の周期で繰り返し実行される。なお、図4において図2と同一の処理には同一の参照符号を付して説明を省略する。図4のガバナ制御ルーチンでは、ステップS13の代わりにステップS21が、ステップS14の代わりにステップS22がそれぞれ設けられる。そのため、ステップS11が肯定判断され、かつステップS12が肯定判断された場合は、ステップS21の処理が実行される。ステップS21では、アクチュエータ12の制御モードを制限PID制御モードに切り替える。すなわち、所定の周波数よりも高い周波数の外乱に対するガバナ装置10の応答を禁止する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0040】
一方、ステップS11が否定判断された場合、又はステップS12が否定判断された場合はステップS22の処理が実行される。ステップS22では、アクチュエータ12の制御モードを通常PID制御モードに切り替える。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0041】
第2の形態では、目標回転数が所定の回転数範囲内に設定されている場合、アクチュエータ12の制御モードを制限PID制御モードに切り替えるので、所定の周波数よりも高い高周波の外乱に対するガバナ装置10の応答を禁止できる。このような高周波の外乱に対してガバナ装置10が応答するとエンジン1の回転数が所定回転数に安定する時間よりも短い周期で燃料噴射量が変更される。このように短い周期で燃料噴射量が変更されても、この燃料噴射量の変更に対してエンジン1の回転数が追従できないため、内燃機関の運転状態が無駄に変動して燃料が無駄に消費される。この形態では、高周波の外乱に対するガバナ装置10の応答を禁止するので、燃料の無駄な消費を防止できる。そのため、エンジン1にて消費される燃料量を低減できる。
【0042】
なお、高周波の外乱に対するガバナ装置10の応答を禁止する方法は、P動作、I動作、D動作の各動作の働きの強さを変える方法に限定されない。例えば、目標回転数が所定の回転数範囲内に設定されている場合は、回転数センサ21の出力信号に所定の周波数よりも高周波の変動がカットされるフィルタをかけ、そのフィルタにて高周波の変動がカットされた出力信号に基づいてコントローラ11にてアクチュエータ12の動作を制御する。この場合でも、所定の周波数よりも高周波の外乱に対するガバナ装置10の応答を禁止できる。
【0043】
図5を参照して本発明の制御装置のさらに他の形態について説明する。なお、図5において図1と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。図5のエンジン1では、内部に設けられた電磁石を動作又は停止させることによって弁体を移動させて気筒内への燃料噴射を制御する燃料噴射弁としてのインジェクタ30が各気筒にそれぞれ設けられ、これら各インジェクタ30の動作がエンジンコントロールシステム40にて直接制御される点が上述した形態と異なる。図1に示したように各インジェクタ30は高圧の燃料を蓄えるコモンレール31にそれぞれ接続されている。なお、図示は省略したが、コモンレール31には燃料タンクから汲み上げられ高圧ポンプにて加圧された燃料が供給される。すなわち、図4のエンジン1にはいわゆるコモンレール式燃料噴射システムが設けられている。なお、この燃料噴射システムは、周知のコモンレール式燃料噴射システムと同様でよいため、詳細な説明を省略する。エンジンコントロールシステム40は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成される。
【0044】
次に、この形態における燃料噴射量の制御方法について説明する。この形態では、まずエンジンコントロールシステム40が回転数センサ21の出力信号などに基づいて実回転数などのエンジン1の運転状態を取得する。次にエンジンコントロールシステム40は、取得したエンジン1の運転状態に基づき、実回転数が目標回転数に調整されるように各気筒に供給すべき燃料量を算出する。その後、エンジンコントロールシステム40は、各気筒内に適切な時期に算出した燃料量の燃料が噴射されるように各インジェクタ30の動作を制御する。このように燃料噴射量を算出するとともに、各インジェクタ30の動作をそれぞれ制御することにより、エンジンコントロールシステム40が本発明の燃料量算出手段、動作制御手段及び調速手段として機能する。
【0045】
この形態においても、エンジンコントロールシステム40にて図2のガバナ制御ルーチンが所定の周期で繰り返し実行される。なお、この形態では、図2のステップS13においてエンジンコントロールシステム40が各インジェクタ30から各気筒内に供給される燃料量が前回気筒内に供給した燃料量と同じ値に維持されるように各インジェクタ30の動作を制御することによって回転数の調整を禁止する。このように各インジェクタ30の動作を制御することにより、エンジンコントロールシステム40が本発明の制限手段として機能する。
【0046】
このようにコモンレール式燃料噴射システムを備えたエンジン1においても、目標回転数が所定の回転数範囲内に設定されている場合に回転数調整を禁止するので、この場合の燃料消費率の無駄な変動を抑えることができる。そのため、エンジン1にて消費される燃料量を低減できる。
【0047】
また、図5のエンジン1においてエンジンコントロールシステム40が各インジェクタ30から噴射する燃料量の制御をPID制御で行っている場合は、エンジンコントロールシステム40が図4の制御ルーチンを実行して各インジェクタ30の動作を制御してもよい。このように各インジェクタ30から噴射する燃料量の制御特性を切り替えることにより、所定の周波数よりも高周波の外乱に対するガバナ装置10の応答を禁止できる。そのため、エンジン1にて消費される燃料量を低減できる。
【0048】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施してよい。例えば、目標回転数が所定の回転数範囲内に設定されている場合、ガバナ装置による回転数調整を禁止するのではなく、ガバナ装置による回転数調整を制限してもよい。回転数調整の制限は、例えば実回転数が目標回転数を中心として設定した許容範囲外に変化した場合にのみ回転数調整が実行されるようにガバナ装置を制御して行う。すなわち、許容範囲内の回転数変動であれば、その変動を許容することによって回転数調整を制限する。また、例えば各気筒に供給する燃料量を算出するときに前回算出した燃料供給量と今回算出した燃料供給量との差が回転数調整の制限をしていないときよりも小さくなるように、燃料供給量を算出することによって行う。このようにガバナ装置による回転数調整を制限しても、エンジンのトルク変動を抑制できるので、燃料消費率の無駄な変動を抑制できる。そのため、エンジンにて消費される燃料量を低減できる。
【0049】
ガバナ装置によって変更される燃焼制御パラメータは燃料供給量に限定されない。本発明は、例えば吸入空気量を調整して実回転数を調整するガバナ装置を備えた内燃機関に適用してもよい。
【0050】
所定の回転数範囲は、上述した各形態にて設定した回転数範囲に限定されない。目標回転数を低く設定し、実回転数を低い回転数に維持させる場合、各気筒に供給すべき燃料量が少ないため、実回転数を目標回転数に調整するための制御を禁止するとエンジンの運転状態が不安定になり易い。一方、目標回転数を高く設定し、実回転数を高い回転数に維持させる場合は、各気筒に供給すべき燃料量が多くなるため、この場合も回転数を調整する制御を禁止するとエンジンの運転状態が不安定になり易い。そこで、所定の回転数範囲には、このようなエンジンの高回転域及び低回転域にそれぞれ存在する運転不安定領域に挟まれた運転安定領域の回転数範囲を設定してもよい。このような回転数範囲においてもエンジンの運転の安定性が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の形態に係る制御装置が組み込まれた内燃機関の一例を示す図。
【図2】コントローラが実行するガバナ制御ルーチンを示すフローチャート。
【図3】図1のエンジンの回転数及びトルクと燃料消費率との関係の一例を示す図。
【図4】本発明の第2の形態に係る制御装置が実行するガバナ制御ルーチンを示すフローチャート。
【図5】本発明の他の形態に係る制御装置が組み込まれた内燃機関の一例を示す図。
【符号の説明】
【0052】
1 内燃機関
3 燃料噴射ポンプ
10 ガバナ装置(調速手段)
11 コントローラ(制限手段)
30 インジェクタ(燃料噴射弁)
40 エンジンコントロールシステム(燃料量算出手段、動作制御手段、調速手段、制限手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の回転数が目標回転数に調整されるように前記内燃機関の燃焼制御パラメータを変更する調速手段を備えた舶用内燃機関の制御方法において、
所定の回転数範囲内に前記目標回転数が設定されている場合、前記内燃機関の負荷変動時における前記調速手段による前記燃焼制御パラメータの変更を制限することを特徴とする舶用内燃機関の制御方法。
【請求項2】
前記所定の回転数範囲には、外洋航海時に前記内燃機関に対して設定される目標回転数の最低値以上であり、かつ前記内燃機関の過回転を防止するために設定された過回転防止回転数以下の回転数範囲が設定されることを特徴とする請求項1に記載の舶用内燃機関の制御方法。
【請求項3】
前記所定の回転数範囲内に前記目標回転数が設定されている場合、前記内燃機関の負荷変動時における前記調速手段による前記燃焼制御パラメータの変更を禁止することを特徴とする請求項1又は2に記載の舶用内燃機関の制御方法。
【請求項4】
前記所定の回転数範囲内に前記目標回転数が設定されている場合、前記内燃機関の負荷を変動させる外乱のうち所定の周波数よりも高い高周波の外乱に対する前記調速手段による前記燃焼制御パラメータの変更を禁止することを特徴とする請求項1又は2に記載の舶用内燃機関の制御方法。
【請求項5】
前記所定の周波数には、前記燃焼制御パラメータが変更されてから前記内燃機関の回転数が変更後の燃焼制御パラメータに応じて定まる所定回転数に達するまでの応答の時定数の逆数が設定されることを特徴とする請求項4に記載の舶用内燃機関の制御方法。
【請求項6】
内燃機関の回転数が目標回転数に調整されるように前記内燃機関の燃焼制御パラメータを変更する調速手段を備えた舶用内燃機関の制御装置において、
所定の回転数範囲内に前記目標回転数が設定されている場合、前記内燃機関の負荷変動時における前記調速手段による前記燃焼制御パラメータの変更を制限する制限手段を備えていることを特徴とする舶用内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記所定の回転数範囲には、外洋航海時に前記内燃機関に対して設定される目標回転数の最低値以上であり、かつ前記内燃機関の過回転を防止するために設定された過回転防止回転数以下の回転数範囲が設定されることを特徴とする請求項6に記載の舶用内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記制限手段は、前記内燃機関の負荷変動時における前記調速手段による前記燃焼制御パラメータの変更を禁止することを特徴とする請求項6又は7に記載の舶用内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記制限手段は、前記内燃機関の負荷を変動させる外乱のうち所定の周波数よりも高い高周波の外乱に対する前記調速手段による前記燃焼制御パラメータの変更を禁止することを特徴とする請求項6又は7に記載の舶用内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記所定の周波数には、前記燃焼制御パラメータが変更されてから前記内燃機関の回転数が変更後の燃焼制御パラメータに応じて定まる所定回転数に達するまでの応答の時定数の逆数が設定されることを特徴とする請求項9に記載の舶用内燃機関の制御装置。
【請求項11】
前記内燃機関は、前記内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁に燃料を供給するとともに前記燃料噴射弁に供給すべき燃料量を変更可能な燃料噴射ポンプと、をさらに備え、
前記調速手段は、前記内燃機関の回転数が目標回転数に調整されるように前記燃料噴射ポンプから前記燃料噴射弁に供給される燃料量を変更し、
前記制限手段は、前記目標回転数が前記所定の回転数範囲内に設定されている場合、前記燃料噴射ポンプから前記燃料噴射弁に供給される燃料量の変更を制限することを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載の舶用内燃機関の制御装置。
【請求項12】
前記内燃機関は、前記内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記燃料噴射弁から前記気筒内に噴射すべき燃料量を算出する燃料量算出手段と、前記燃料量算出手段により算出された燃料量の燃料が前記気筒内に噴射されるように前記燃料噴射弁の動作を制御する動作制御手段と、をさらに備え、
前記燃料量算出手段は、前記内燃機関の回転数が前記目標回転数に調整されるように燃料量を算出することによって前記調速手段として機能し、
前記制限手段は、前記燃料噴射弁から噴射される燃料量の変更が制限されるように前記燃料噴射弁の動作を制御することを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載の舶用内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−45484(P2008−45484A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221800(P2006−221800)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【出願人】(500370230)株式会社日本海洋科学 (1)
【出願人】(304035975)株式会社MTI (46)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)
【Fターム(参考)】