説明

舶用扉の施錠装置、およびそれを設けた舶用扉

【課題】海賊対策および緊急時対策を満足する舶用扉用の施錠装置、およびそれを設けた舶用扉を提供する。
【解決手段】船舶用のヒンジ型舶用扉に対する施錠装置であって、該舶用扉を船体内外より同軸上のハンドルにより鎖錠、解錠を行う施錠部材とは別途に設けられており、立上がり部に固定起立された1組または複数組のボルト・ナットにより舶用扉に直接係合される金具本体と、該金具本体の前記立上がり部に直交連接された金具本体の脚部に設けられたヒンジ軸を中心に180゜回転して舶用扉の施錠、解錠を船内からのみ可能とする反転式留め金とを有しており、該反転式留め金の施錠、解錠状態を確実に保持するための係合手段を具え、前記1本または複数のボルト・ナットは特殊工具によってのみ締緩される特殊多角形ナットを具えた締緩手段を有する舶用扉の施錠装置およびそれを設けた舶用扉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舶用扉の施錠装置、およびそれを設けた舶用扉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2004年7月1日に発効された「船舶及び港湾施設の保安に関する国際規則(ISPSコード)」において、航海中の船舶に対しても、今まで以上にセキュリティーの強化がもとめられている。また、近年マラッカ、シンガポール海峡において航海中の船舶が海賊に襲撃される事件が起こり、海賊対策のニーズが増えつつある。
このような条件下にあって、海賊対策の一つとして、また、船内に貯蔵された物品の盗難対策として、居住区内部より扉を施錠・解錠できる錠システムが色々提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実公昭50−36052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の対策の多くは、これらの対策として舶用扉の風雨密戸を開閉するために使用する回転式留め金具の1箇所を改造して施錠装置としていたため、風雨密戸の開閉時に誤操作をする可能性が高い嫌いがあった。
また、海賊対策などで船内の居住区内部よりのみで扉を施錠・解錠可能とする錠システムでは、緊急時にCoast guard等による救出のための外からの解錠に対しては、必ずしも十分なるものではない。
上記に鑑み、本発明においては、通常の風雨密戸の開閉手段に加えて、海賊対策ばかりでなく、緊急時に対するセキュリティーをも十分に満足する舶用扉用の施錠装置、およびそれを設けた舶用扉を提供するところに、その目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の舶用扉用の施錠装置は、
1) 船舶用のヒンジ型舶用扉に対する施錠装置であって、該舶用扉を船体内外より同軸上のハンドルにより鎖錠、解錠を行う施錠部材とは別途に設けられており、立上がり部に固定起立された1本または複数のボルト・ナットにより舶用扉に直接係合される金具本体と、該金具本体の前記立上がり部に直交連接された金具本体の脚部に設けられたヒンジ軸を中心に180゜回転して舶用扉の施錠、解錠を船内からのみ可能とする反転式留め金とを有しており、
また、該反転式留め金の施錠、解錠状態を確実に保持するための係合手段を具え、且つ前記1本または複数のボルト・ナットは船外より特殊工具によってのみ締緩される締緩手段を有するものである。
2)また、上述の1)において、前記ヒンジ軸を金具本体の脚部に固定起立されたピン又はボルト・ナットとし、前記係合手段をヒンジ軸に並列起立されたボルト・ナットとしたものであり、
3)上述の1)または2)において、前記締緩手段を袋ナット方式とし、ナットを六角ナット以外の特殊多角形ナットとしたものであり、
4)上述の1)〜3)において、前記締緩手段を、常時には特殊多角形ナットを確認出来ない遮蔽手段および緊急時には実施例1のような方法により特殊多角形ナット位置を容易に確認可能とする明示手段を併設したものである。
【0005】
本発明の舶用扉は、
5)上述の1)〜4)に記載の施錠装置を少なくとも1セット設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の舶用扉用の施錠装置により、海賊対策ばかりでなく、緊急時に対するセキュリティーをも十分に満足する、取り扱いが容易で、且つ誤動作の介入し難い舶用扉を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は本発明の実施例1の構成を説明するための模式図である。(a)は通常の解錠時の状態を説明する図、(b)は海賊対策等の施錠時の状態を説明する図、(c)は緊急解錠時の状態を説明する図である。
図2は本発明の実施例1の作用を説明するための拡大説明図である。
図3は本発明の実施例2の構成を説明するための模式図である。(a)は通常の解錠時の状態を説明する図、(b)は海賊対策等の施錠時の状態を説明する図、(c)は緊急解錠時の状態を説明する図である。
図4は本発明の施錠装置を設けた舶用扉の居住側面側の1例を示す図である。
図において、1は金具本体、11は金具本体の立上がり部、12は金具本体の脚部、2は反転式留め金具、21は反転式留め金具のヒンジ軸ピン用バカ孔、22は反転式留め金具の固定ボルト用バカ孔、23は反転式留め金具の先端部、24は金具本体の脚部におけるヒンジ軸ピン用バカ孔、25は金具本体の脚部における固定ボルト用バカ孔(解錠時用)、26は金具本体の脚部における固定ボルト用バカ孔(施錠時用)、3はヒンジ軸用のピン、又はボルト・ナット、4は反転式留め金具用固定ボルト・ナット、5は金具本体を舶用扉に固定する固定用ボルト部、6は座金、7は特殊多角ナット、8は特殊工具、9は保護ケーシング、10は回転防止金具、100は舶用扉、110はハンドル型施錠装置、120は本発明の施錠装置、130は出入り開口部である。
なお、図における各部の寸法、形状は、説明のために誇張または簡略して表示されており、本発明はこれにより制約されるものではない。
【実施例1】
【0008】
一般的な舶用扉100には図4において示されるように風雨密戸用の複数のハンドル型施錠装置110が舶用扉100の周辺に複数個設けられ、舶用扉100を船体居住区への出入り開口部130に扉のヒンジ部を中心に開閉可能にセットされている。
しかしながら、前述のごとく該ハンドル型施錠装置110は舶用扉100の内外側において開閉操作が可能であり、緊急時における解錠機能は特に問題はなかったが、居住区内部からの施錠、解錠するのに一部問題があり、このため従来複数個のハンドル型施錠装置110の内の一箇所を居住区内部からのみ操作可能な特殊回転式留め金とすることが行なわれていたが、前記特殊回転式留め金具は乗組員が舶用扉100を開閉し出入する際にも使用することから、居住区内から誤って特殊回転式留め金具を操作し施錠してしまう可能性が高いという問題があった。
本発明は、基本的に、上記ハンドル型施錠装置110とは別途に設けられる反転式留め金具2を有し、且つ居住区内部からのみ操作可能な施錠装置120である。主として、舶用扉100の開閉ヒンジ部に対して反対側の居住区側に設けられる。
【0009】
図1、図2において、本実施例1の施錠装置120は、舶用扉100の居住区側面に金具本体1を固定するための固定ボルト部5を有している。固定ボルト部5は金具本体1の立上がり部11に溶接等により接続固定されており、これに使用するナット7は特殊多角形の形状を有している。この特殊多角形形状は、海賊による緩め外しが容易に出来ないように特殊な形状により構成されている。例えば、図5に示すごとき(イ)5角形状、(ロ)3角形状、(ハ)キー型形状等の、通常の6角形状ナット用の工具では緩め外しが出来ない6角形以外の形状とする。いかなる形状を用いているかはセキュリティのために関係者以外には知り得ないようにすることもできる。
固定用ボルト部5は、海水等に対する耐腐食性および海賊により破壊されないための十分な材料強度を有するものであり、且つ、金具本体1との溶接接合に適する材料を使用する必要がある。対溶接性を付加したSUS304L、316L等が好ましい。またボルトの強度としては、当然海賊により破壊されないための強度を保持する断面強度が必要であり、引張強度として300〜400(N/mm2 ) が好ましい。300以下では経験的および多くの施工経験より耐荷重(3.6KN)に対し十分でなく、また400以上ではコストが急激にアップし好ましくない。
【0010】
前記金具本体1の立上がり部11に略直角に連接して金具本体1の脚部12が設けられている。脚部12には反転式留め金具2のためのヒンジ用ピンまたはボルト・ナット3のためのバカ孔24を中央に挟んで対称位置に反転式留め金具2を該脚部12面に固定保持するための反転式留め金具用固定ボルト・ナット4のためのバカ孔25、26が併設されている。なお、ヒンジ用ピンまたはボルト3を直接脚部12に溶接等により固定起立させ、バカ孔24を省略してもよい。
反転式留め金具2は、図1、2に示されるように、通常は鋼板により形成し中央部に反転のためのヒンジ軸用ピン3のためのバカ孔21が設けられており、また該バカ孔21より前記反転式留め金具用の固定ボルト・ナット4に対応するバカ孔22が設けられている。
また、前記金具本体1は、必ずしも板状材料でなくてもよい。
なお、本実施例1における、固定用ボルト部5、ヒンジ用ピンまたはボルト3の各直径は1例として10mmである。また、金具本体1および反転式留め金具2の厚さは各9mmの例を示す。
【0011】
上記構成による本実施例1における作用を以下詳述する。
図1(a)の通常状態(解錠時)において、舶用扉100は船の出入り開口部130にハンドル型施錠110(図示されていない)により施錠されている。この状態においては該ハンドル型施錠110とは別途に設けられた本発明の施錠装置120は解錠状態となっている。すなわち、反転式留め金具2は船の出入り開口部130とは係合されていない位置である反転位置にボルト4によりバカ孔25位置に固定保持されている。
この通常状態(解錠時)から、一旦海賊対策を要する場合、すなわち海賊が居住区内へ侵入するのを防ぐために本発明の施錠装置120を居住区側より作用させる。すなわち反転式留め金具2の解錠状態を解除し、反転式留め金具2をヒンジ軸用ピン3を中心として180°反転し、反転式留め金具2の先端部23を船の出入り開口部130に当接させ、且つ脚部12のバカ孔26と反転式留め金具2のバカ孔22とを合致させ、ボルト4により固定保持する。これにより舶用扉100は外部よりの開放が出来ない状態となる。
【0012】
実施例1における図1(b)の施錠状態は、上述のごとくこの施錠状態により海賊等による外部から居住区への侵入を防止することはできるが、反面この状態は遭難等の緊急事態における外部からの扉開放を要する場合には、外部からの緊急の扉開放をも拒否している。
本発明は、実施例1の図1(c)に示すように、緊急解錠時に前記金具本体1の立上がり部11に設けられ、本発明の施錠装置120を舶用扉100に固定する固定用ボルト5の特殊多角ナット7を緩めることにより施錠装置120を舶用扉100より切り離し、舶用扉100を開放することができる。
【0013】
本発明はこの緊急時の開放が、固定用ボルト5の特殊多角ナット7を緩めることによりおこなわれ、これが前述のごとく特殊多角ナット7の形状を図5に示めされるような通常の6角ナット用の工具では緩めることが出来ない特殊形状にしているところに特徴がある。5角形状、3角形状、キー型形状等この目的に合う形状であれば如何なる形状のものでもよい。当然この特殊多角ナット7に合う工具を容易する必要があるし、また、その形状を一般者には容易には示されないセキュリティ対策が併せて必要である。
奥の深い袋ナット方式によりナット面が判りかねる構造や、袋ナットのガイド部入り口に遮蔽対により覆う方法等が考えられる。
【0014】
また、緊急時には闇夜のために該特殊多角ナット7位置が容易に確認出来ない場合もあり、これを想定して、特殊多角ナットに紫外線を当てると発光する塗料を施し、携帯型紫外線ライトの照射により、夜間緊急時にもナット位置を容易に確認できるようにしてもよい。また、特殊工具の収納場所についても、発光塗料により収納場所を示すことにより夜間でも容易にこれを確認することができる。
【0015】
さらに、海賊による解錠処理時間を極力遅延させるための手段、例えば、2本の固定ボルト1の特殊形状のナットを意識的に互いに異なる多角形ナットを使用することもできる。
また、本実施の形態1における、袋ナット方式の特殊多角ナット周りのコーミングの高さhは、ボルト部の保護をも考慮してボルト径の約2〜5倍とし、且つ扉の艤装品と干渉しないように設計留意する。なおコーミングの内径については使用する特殊工具の外径に合わせ適当な若干のクリアランスをもって設定される。
前記コーミング高さhがのボルト径の2倍以下では、特殊工具以外の工具によりナット緩め処理も可能となる恐れもあり、また、高さhがボルト径の5倍以上では、コーミングの突出量がいたずらに高くなって扉の艤装品との干渉も生じ、その割にはナット緩め処理への効果が有利とならないことが確認された。
【0016】
本実施例1により海賊対策などで船内の居住区内部よりのみで扉を施錠・解錠可能とし、且つ緊急時にCoast guard等による救出のための外からの解錠に対しても、十分対応出来る施錠装置を提供することができる。
【実施例2】
【0017】
本実施例1は、図3に示すように、本発明の施錠装置120を舶用扉100に固定するためのボルト・ナット(5、6、7)が実施例1においては2組であったものを1組にしたものであり、その他の構造や各部の作用は実施例1の場合と同一でありこれを省略する。
本実施例2は、ボルト1本にて必要強度が確保でき設計が成立する場合に採用されるもので、実施例1に比しコスト的に有利であるばかりでなく、緊急時における解錠処理が容易となる。本実施例2における金具本体を舶用扉に固定する固定用ボルト部5の直径は、1例として16mmの場合を示し、その他の寸法は実施例1に準じている。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の施錠装置は、舶用扉のみでなく同様な要求を求められる扉への転用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1の構成を説明するための模式図である。(a)は通常の解錠時の状態を説明する図、(b)は海賊対策等の施錠時の状態を説明する図、(c)は緊急解錠時の状態を説明する図である。
【図2】本発明の実施例1の作用を説明するための拡大説明図である。
【図3】本発明の実施例2の構成を説明するための模式図である。(a)は通常の解錠時の状態を説明する図、(b)は海賊対策等の施錠時の状態を説明する図、(c)は緊急解錠時の状態を説明する図である。
【図4】本発明の施錠装置を設けた舶用扉の居住側面側の1例を示す図である。
【図5】特殊多角形ナットの例を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 金具本体、
11 金具本体の立上がり部、
12 金具本体の脚部、
2 反転式留め金具、
21 反転式留め金具のヒンジ軸ピン用バカ孔、
22 反転式留め金具の固定ボルト用バカ孔。
23 反転式留め金具の先端部、
24 金具本体の脚部におけるヒンジ軸ピン用バカ孔、
25 金具本体の脚部における固定ボルト用バカ孔(解錠時用)
26 金具本体の脚部における固定ボルト用バカ孔(施錠時用)
3 ヒンジ軸用のピン、又はボルト・ナット、
4 反転式留め金具用固定ボルト・ナット、
5 金具本体を舶用扉に固定する固定用ボルト部、
6 座金、
7 特殊多角ナット、
8 特殊工具、
9 保護ケーシング
10 回転防止金具
100 舶用扉、
110 ハンドル型施錠装置、
120 本発明の施錠装置、
130 出入り開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶用のヒンジ型舶用扉に対する施錠装置であって、該舶用扉を船体内外より同軸上のハンドルにより鎖錠、解錠を行う施錠部材とは別途に設けられており、立上がり部に固定起立された1本または複数のボルト・ナットにより舶用扉に直接係合される金具本体と、該金具本体の前記立上がり部に直交連接された金具本体の脚部に設けられたヒンジ軸を中心に180゜回転して舶用扉の施錠、解錠を船内からのみ可能とする反転式留め金とを有しており、
また、該反転式留め金の施錠、解錠状態を確実に保持するための係合手段を具え、且つ前記1本または複数のボルト・ナットは船外より特殊工具によってのみ締緩される締緩手段を有することを特徴とする舶用扉の施錠装置。
【請求項2】
前記ヒンジ軸が金具本体の脚部に固定起立されたピン又はボルト・ナットであり、前記係合手段がヒンジ軸に並列起立されたボルト・ナットであることを特徴とする請求項1に記載の舶用扉の施錠装置。
【請求項3】
前記締緩手段が袋ナット方式であり、ナットが六角ナット以外の特殊多角形ナットであることを特徴とする請求項1または2に記載の舶用扉の施錠装置。
【請求項4】
前記締緩手段が常時には特殊多角形ナットを確認出来ない遮蔽手段および緊急時には船内よりの操作により特殊多角形ナット位置を容易に確認可能とする明示手段を併設してなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の舶用扉の施錠装置。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の施錠装置を少なくとも1セット設けたことを特徴とする舶用扉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−155669(P2008−155669A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343507(P2006−343507)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)