説明

舶用機関の制御方法及びその制御装置

【課題】 燃料セーブモードと通常モードとを効率よく切り換えて、燃料効率を向上させながら操船性を維持する。
【解決手段】 コントローラ4には、設定回転数と、実回転数とが、入力され、通常モードにおいて、設定回転数と実回転数との差から舶用機関2の燃料供給手段への出力値をPID制御器12が算出する。PID制御器12は、通常モードに比べて単位時間当たりの出力値の変更幅を小さくする燃料セーブモードも有している。設定回転数及び実回転数の変動を監視する検出部20、22、24、26、28を備え、燃料セーブモードにおいて、設定回転数または実回転数が所定範囲を超えたとき、これら検出部の出力によってPID制御部12が通常モードに切り換えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調速装置を備えた舶用機関の制御方法及びそれに使用する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
舶用機関には、その回転数が操縦者によって設定された目標回転数に調整されるように燃料噴射量などの燃料制御パラメータを制御する調速装置(ガバナ)が設けられている。このガバナとしては、例えば特許文献1に開示されているように舶用機関の実際の回転数と設定回転数とを比較演算して、この比較演算結果に従って燃料ポンプのラック位置を調整するものや、特許文献2に開示されているように実際の回転数と設定回転数との偏差に応じて燃料供給量を調整するものがある。
【0003】
【特許文献1】特開平7−279738号公報
【特許文献2】特開平8−200131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1、2の技術によれば、比較演算の結果に従って逐次燃料ポンプのラック位置の調整が行われ、実際の回転数と設定回転数との偏差に応じて逐次燃料供給量の調整が行われている。逐次ラック位置の調整や燃料供給量の調整を行うと、舶用機関の回転数は常に一定に制御されるが、燃料が無駄に消費される可能性がある。一方、逐次制御を中止した場合、舶用機関の回転数は変動するが、燃料の消費量を抑えることができる。そこで、回転数を一定に逐次制御する状態と、逐次制御を中止する状態とを適宜に切り換えることが望ましい。
【0005】
また、逐次制御に代えて、制御に使用するパラメータの作動の速度を落とし、燃料の供給量の変動を少なくする制御を行うことも可能である。しかし、この場合、操縦者が設定した回転数に実際の回転数がなかなか一致せず、操船が難しい。
【0006】
本発明は、操船性を維持しながら、燃料供給手段への出力値の変更を禁止するかまたは燃料の供給量の変動を小さくするモードに効率よく切り換えて、燃料効率を向上させることができる舶用機関の制御方法及びその制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による舶用機関の制御方法の一態様は、操縦者によって設定される設定回転数と、舶用機関の実際の回転数である実回転数との差から燃料供給手段への出力値を変更する通常モードと、出力値の変更を禁止するかまたは通常モードに比べて単位時間当たりの変更幅を小さくする燃料セーブモードとを、備えている。燃料供給手段としては、機械制御の場合には燃料ポンプを制御するアクチュエータや、電子制御の場合には電磁弁を使用することができる。所定の条件で前記燃料セーブモードから前記通常モードに切り換えられる。
【0008】
この方法に用いる制御装置の一態様では、通常モードと燃料セーブモードで燃料供給手段への出力値を算出する演算手段が設けられている。更に、設定回転数または実回転数の変動を監視する監視手段が設けられている。監視手段は、設定回転数または実回転数が所定範囲を超えたときに、解除指令を発生し、演算手段は、解除指令を受けて、通常モードに切り換えられる。
【0009】
これらのように通常モードと燃料セーブモードとを切り換えるので、通常モードにおいて操船性を維持し、燃料セーブモードで燃料効率を向上させることができる。
【0010】
上記の態様の制御方法において、前記所定の条件を、例えば、前記実回転数が、海象や外乱に対する安全運行のために設定された回転数範囲外となったときとすることができる。上記の態様の制御装置では、監視手段は、実回転数が操船性確保のために設定された回転数以下になったときに、解除指令を発生することができる。
【0011】
これらのように構成すると、例えば外乱の変化によって安全運行が困難になる可能性がある場合に、通常モードに切り換えられるので、操船性が向上する。また、安全運行が可能なときには、燃料セーブモードによって燃料消費を押さえることができる。
【0012】
上記の態様の制御方法において、前記所定の条件を、前記実回転数が、外洋で使用される回転数以下となったときとすることもできる。上記の態様の制御装置では、監視手段は、実回転数が外洋で使用される回転数以下となったとき解除指令を発生することができる。
【0013】
これらのように構成すると、例えば実回転数が外洋で使用される回転数以下になって、安全運行が困難になる可能性がある場合、燃料消費を押さえることが可能な燃料セーブモードから通常モードに切り換えられるので、操船性が向上する。
【0014】
上記の態様の制御方法において、前記所定の条件を、前記実回転数が過回転防止のために設定された回転数以上となったときとすることもできる。上記の態様の制御装置では、監視手段は、前記実回転数が過回転防止のために設定された回転数以上となったとき解除指令を生成することもできる。
【0015】
これらのように構成すると、実回転数が過回転となる可能性がある場合には、燃料セーブモードから通常モードに切り換えられるので、実回転数を過回転となることを防止できる。
【0016】
上記の態様の制御方法において、前記所定の条件を、前記設定回転数が前記操縦者によって変更されたときとすることができる。上記の態様の制御装置では、監視手段は、前記設定回転数が前記操縦者によって変更されたとき、解除指令を生成することができる。
【0017】
これらのように構成すると、操縦者が設定回転数を変更した場合、通常モードに切り換えられるので、設定回転数に応じた実回転数で舶用機関を回転させることができる。その後、燃料セーブモードに切り換えて、舶の航行を続けると、燃料消費効率を改善することができる。
【0018】
更に、前記設定回転数の変更量が微調整の範囲のとき、前記燃料セーブモードを維持することもできるし、監視手段が燃料セーブモードを維持することもできる。微調整としては、例えば2rpm/秒以下の設定回転数がある。このように構成すると、設定回転数が微調整の範囲の場合、燃料セーブモードが維持されるので、燃料消費効率を向上させることができる。
【0019】
また、上記の態様の制御方法において、前記通常モードでの前記設定回転数と前記実回転数との差が第1範囲のときに、前記燃料セーブモードに切り換え、前記燃料セーブモードでの前記設定回転数と前記実回転数との差が、第2範囲よりも大きいときに、前記通常モードに切り換えることができる。この場合、第2範囲が第1範囲よりも大きい。同様に、上記の態様の制御装置において、監視手段は、前記通常モードでの前記設定回転数と前記実回転数との差が第1範囲のときに、解除信号を停止し、前記燃料セーブモードでの前記設定回転数と前記実回転数との差が、第2範囲よりも大きいときに、解除信号を生成することができる。この場合も、第2範囲が第1範囲よりも大きい。
【0020】
これらのように構成すると、第2範囲が第1範囲よりも大きいので、燃料セーブモードから通常モードには切り替わりにくいので、燃料セーブモードで航行する時間が長く、燃料消費効率を向上させることができる。
【0021】
また、上記の態様の制御方法において、前記通常モードから前記燃料セーブモードに切り替わるとき、前記出力値を平均値に変更することができる。或いは、上記の態様の制御装置において、燃料供給手段への出力値の平均値を算出する平均値算出手段を設け、通常モードから燃料セーブモードに切り替わるとき、前記出力値を平均値算出手段からの所定時間における平均値に切り換える切換手段を設けることもできる。
【0022】
これらのように構成すると、燃料セーブモードにおいて舶用機関の回転数の変化を少なくすることができるので、通常モードへの切換を低減させることができ、燃料消費効率を改善することができる。
【0023】
上記の態様の制御方法において、前記燃料セーブモード時に、燃料供給手段への出力値のセーブモード上限を規定することができる。或いは、上記の態様の制御装置において、演算手段は、燃料セーブモードが燃料供給手段の出力値の変更を通常モードに比べて変更幅を小さくする場合には、燃料供給手段への出力値のセーブモード上限値を規定し、算出された出力値がセーブモード上限値を超えたときには、このセーブモード上限値を出力することもできる。
【0024】
これらのように構成すると、燃料セーブモードでは、荒天時に実回転数の変動が大きくなるが、燃料供給手段への出力値に上限を設けているので、燃料の供給量の変化が大きくなりすぎることがなく、過回転を防止することができる。また、実回転数の変動が大きくなることも防止できる。
【0025】
上記の態様の制御方法において、燃料供給手段への出力値の算出には、比例積分微分制御を使用することができる。この場合、前記燃料セーブモードの際には、前記比例積分微分制御中の比例制御に使用する比例ゲイン定数に比例用倍率を掛け、前記比例積分微分制御中の積分制御に使用する積分時間に積分用倍率を掛け、前記比例積分微分制御中の微分制御に使用する微分時間に微分用倍率を掛けることによって、燃料供給手段への出力値の変更を禁止しまたは前記通常モードに比べて単位時間当たりの前記出力値の単位時間当たりの変更幅を小さくする。さらに、各倍率を設定可能にしてある。
【0026】
或いは、上記の態様の制御装置において、演算手段は、比例積分微分制御手段を備えることができる。この場合、前記燃料セーブモードの際には、前記比例積分微分制御手段での比例制御に使用する比例ゲイン定数に比例用倍率を掛け、前記比例積分微分制御手段の積分制御に使用する積分時間に積分用倍率を掛け、前記比例積分微分制御手段の微分制御に使用する微分時間に微分用倍率を掛けることによって、燃料供給手段への出力値の変更を禁止しまたは前記通常モードに比べて単位時間当たりの前記出力値の単位時間当たりの変更幅を小さくする。さらに、各倍率を設定可能にしてある。
【0027】
燃料セーブモードにおいて比例ゲイン定数、積分時間、微分時間を変更しようとすると、まず通常モードにおけるこれらの値を把握し、これら把握された値と比較しながら、新たに比例ゲイン定数、積分時間、微分時間を設定する必要があり、処理が面倒である。これに対し、比例ゲイン定数、積分時間、微分時間に対して倍率を掛けるものであれば、いちいち通常モードにおける比例ゲイン定数、積分時間、微分時間を把握する必要が無く、設定を容易に行える。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明によれば、燃料セーブモードと通常モードとの切換を効率よく行って、燃料消費効率を向上させると共に操船性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の一実施態様の舶用機関の制御装置は、図2に示すように、舶用機関、例えば舶用内燃機関2を制御するものである。舶用内燃機関2は、例えば多気筒のディーゼルエンジンで、図示していないが、各気筒にそれぞれ燃料噴射弁と燃料供給手段、例えば燃料噴射ポンプとを備えている。燃料噴射弁は、燃料噴射ポンプから供給される燃料の圧力が所定圧力以上のときに、供給された燃料を対応する気筒に供給する。各燃料噴射ポンプは、後述する制御装置、例えばコントローラ4からの出力値に基づく量の燃料を、対応する燃料噴射弁に供給する。舶用内燃機関2は、燃料噴射弁や燃料噴射ポンプを備えたもの以外に、各気筒に電磁弁で燃料供給を制御するもの、例えばコモンレール式や増圧シリンダ式の燃料噴射システムにすることもできる。その他に、各気筒に燃料供給手段、例えば燃料噴射弁としてのインジェクタを備えたものとすることもできる。インジェクタは、その内部に設けた電磁石を励磁または消磁することによって、弁体を移動させて、対応する気筒内に燃料噴射を制御するもので、それぞれコントローラ4の出力値に基づいて制御される。
【0030】
コントローラ4は、演算手段、例えばマイクロプロセッサ及び記憶手段、例えばROM、RAMを備えている。コントローラ4には、回転数検出器6から、舶用内燃機関2の実際の回転数である実回転数を表す実回転数信号が供給されている。また、コントローラ4には、操縦装置8から舶用内燃機関2の設定回転数を表す設定回転数信号も供給されている。
【0031】
この実施形態では、コントローラ4は、図2に示すように、設定回転数信号と実回転数信号との偏差を加算手段、例えば加算器10によって算出し、この偏差が供給されるPID制御手段、例えばPID制御器12としても機能する。即ち、供給された偏差に比例ゲイン定数を乗算して比例制御を行い、供給された偏差を積分して、これに積分時間の逆数を乗算して積分制御を行い、供給された偏差を微分して、これに微分時間を乗算して微分制御を行い、これら比例制御、積分制御及び微分制御で得られた各値を加算した値を出力値として出力する。
【0032】
なお、PID制御器12には、リミッタ14が設けられており、算出された出力値がリミッタ14に設定されているリミッタ上限値を超える場合には、リミッタ上限値を出力するように構成されている。
【0033】
PID制御器12は、通常モードと燃料セーブモードとのうち、選択されたモードで動作するように構成されている。
【0034】
通常モードでは、設定回転数信号が変化した場合にもオフセットが発生することがなく、また速やかに設定回数信号に実回転数信号が一致するように、比例ゲイン定数、積分時間及び微分時間が設定されている。
【0035】
燃料セーブモードでは、通常モードよりも積分制御の働きの強さが強くなり、微分制御が殆ど働かないように積分時間及び微分時間が設定されている。また比例制御の働きの強さが通常モードの比例制御よりも小さくなるように比例ゲイン定数が設定されている。このように設定することにより、通常モードに比べて単位時間当たりのPID制御器12の出力値の単位時間当たりの変動幅が小さくされている。
【0036】
燃料セーブモードにおける比例ゲイン定数、積分時間及び微分時間の設定は、これら自体を変更するのではなく、初期値、例えば通常モードの比例ゲイン定数、積分時間及び微分時間に、比例ゲイン定数用倍率、積分時間用倍率及び微分時間用倍率をそれぞれ乗算することによって行われる。従って、通常モードにおける比例ゲイン定数、積分時間及び微分時間自体を把握しなくても、通常モードにおける比例ゲイン定数の何倍、同積分時間の何倍、同微分時間の何倍とするかだけを考えればよいので、設定が容易になる。なお、比例ゲイン定数用倍率、積分時間用倍率及び微分時間用倍率は、それぞれ操縦者が任意に設定することができる。
【0037】
燃料セーブモードと通常モードとの間の切換については、後述する。
【0038】
コントローラ4は、PID制御器12の出力を平均化する、例えばローパスフィルタのようなフィルタ16としても機能する。このフィルタ16の出力と、PID制御器12の出力とのうち一方を選択して、舶用内燃機関2内の燃料噴射ポンプまたはインジェクタへ供給する切換手段、例えば切換スイッチ18としても、コントローラ4は機能する。切換スイッチ18は、通常モードではPID制御器12の出力を燃料噴射ポンプまたはインジェクタへ直接に供給しているが、後述するようにコントローラ4が構成する切換制御部19によって、例えば通常モードから燃料セーブモードに切り換えられたとき、フィルタ16の出力を燃料噴射ポンプまたはインジェクタへ所定期間または制御プログラムの1ループ間供給する。
【0039】
上述した通常モードと燃料セーブモードとの間での切換を決定するために、コントローラ4は、監視手段、例えば5つの検出部としても機能する。5つの検出部として、実回転数オーバースピード検出部20、実回転数レベル検出部22、設定回転数レベル検出部24、設定回転数変化量検出部26、回転数変動量検出部28が設けられている。
【0040】
実回転数オーバースピードレベル検出部20は、実回転数信号を入力し、これが、予め定めたオーバースピードレベル以上であるか否かを判定し、実回転数信号がオーバースピードレベル以上であると、通常モードに切り換えるOFF信号を出力し、実回転数信号がオーバースピードレベル未満であると、燃料セーブモードに切り換えるON信号を出力する。オーバースピードレベルは、舶用内燃機関2が過回転していると判定できるレベルに設定されている。従って、燃料セーブモードにおいて舶用内燃機関2が過回転している場合には、通常モードに切換可能であり、通常モードにおいて舶用内燃機関2が過回転していない場合、燃料セーブモードに切換可能である。
【0041】
実回転数レベル検出部22は、実回転数信号を入力し、これがナビフル回転数以上であるか否かを判定し、実回転数信号がナビフル回転数以上であると、OFF信号を出力し、実回転数信号がナビフル回転数未満であると、ON信号を出力する。ナビフル回転数は、舶用内燃機関2を外洋で使用している場合の回転数を表している。従って、燃料セーブモードにおいて、実回転数信号がナビフル回転数以上の場合、通常モードに切換可能である。また、通常モードにおいて実回転数信号がナビフル回転数未満であると燃料セーブモードに切換可能である。ナビフル回転数は、船舶の形状や大きさ等から予め算出された外洋航行時の回転数である。その他に湾内を航行時においても海象や外乱なども考慮して安全に航行できる回転数が予め算出されている。
【0042】
設定回転数レベル検出部24は、設定回転数信号を入力し、これがナビフル回転数以上であるか否かを判定し、ナビフル回転数以上である場合、OFF信号を出力し、ナビフル回転数未満である場合、ON信号を出力する。従って、燃料セーブモードにおいて設定回転数信号がナビフル回転数以上の場合、通常モードに切換可能である。また、通常モードにおいて設定回転数信号がナビフル回転数未満の場合、燃料セーブモードに切換可能である。
【0043】
設定回転数変化量検出部26は、設定回転数信号を入力し、その単位時間、例えば1秒当たりの変化率を算出し、この変化率が予め定めた値、例えば2rpm/秒以上であるか否かを判定し、2rpm/秒以上の場合、OFF信号を出力し、2rpm/秒未満の場合、ON信号を出力する。この予め定めた値は、設定回転数の変化量が微調整の範囲であると見なせる値に設定されている。従って、燃料セーブモードにおいて設定回転数の変化量が微調整の範囲外である場合には、通常モードに切換可能であり、通常モードにおいて設定回転数の変化量が微調整の範囲内である場合には、燃料セーブモードに切換可能である。
【0044】
回転数変動量検出部28には、加算器10からの偏差信号(設定回転数信号と実回転数信号との偏差信号)が入力されている。この偏差信号は、実回転数の設定回転数に対する変動量を表しており、この変動量が予め定めた第1の範囲、例えば±3rpmの範囲内にある場合に、ON信号を出力し、この変動量が予め定めた第2の範囲、例えば+5rpm以上であるか−5rpm以下の場合にOFF信号を出力する。従って、燃料セーブモードにおいて、設定回転数信号と実回転数信号との偏差信号である回転数変動量が、5rpm以上増加した場合、または−5rpm以下に減少した場合、通常モードに切換可能である。また、通常モードにおいて、回転数変動量が±3rpmの範囲内の変動の場合、燃料セーブモードに切換可能である。
【0045】
これら各検出部20、22、24、26、28の出力信号は、コントローラ4が構成している論理ゲート、例えばアンドゲート30に供給される。アンドゲート30は、各検出部20、24、26、28の出力信号が全てON信号の場合に、出力を発生する。この出力は、コントローラ4が構成するタイマ32に供給される。このタイマ32は、アンドゲート30の出力が予め定めた時間にわたって継続したときに、出力を発生する。従って、短時間だけ全ての検出部20、22、24、26、28がON信号を出力しても、タイマ32は出力を発生せず、全ての検出部20、22、24、26、28が予め定めた時間にわたってON信号を発生したときに、タイマ32は出力を発生する。このタイマ32の出力が、図1に示す表示器34に設けられた燃料セーブモード準備完了表示部36に供給され、これが点灯し、燃料セーブモードが準備完了していることを表示する。
【0046】
タイマ32の出力は、コントローラ4が構成した論理ゲート、例えばアンドゲート38に供給されている。このアンドゲート38には、操縦装置8に設けた燃料セーブモード選択ボタン40が閉じられたときに生成される燃料セーブモード選択信号も供給される。アンドゲート38は、タイマ34が出力を供給し、かつ燃料セーブモード選択ボタン40から燃料セーブモード選択信号が供給されているときのみ、出力を発生する。従って、タイマ32が出力を発生していても、即ち、全ての検出部20、22、24、26、28が予め定めた時間にわたってON信号を発生していても、燃料セーブモード選択信号が供給されていない限り、アンドゲート38は出力を発生しない。
【0047】
アンドゲート38の出力は、PID制御器12に供給される。PID制御器12は、アンドゲート38の出力の供給を受けたことにより、通常モードから燃料セーブモードに切り換えられ、燃料セーブモードでPID制御を行う。同時に、アンドゲート38の出力は、表示器34に設けられた燃料セーブモード表示器42に供給され、燃料セーブモードに移行したことを表示する。逆に、アンドゲート38の出力がPID制御器12に供給されなくなったとき、PID制御器12は燃料セーブモードから通常モードに切り換えられる。
【0048】
また、アンドゲート38の出力は、切換制御部19に供給され、切換制御部19は、フィルタ16の出力を燃料噴射ポンプまたはインジェクタへ供給するように切換スイッチ18を切り換える。通常モードから燃料セーブモードに切り換えられたことによってPID制御器12の出力値に変動が生じる。なお、切り換えの初期にはフィルタ16で緩和したものが、燃料噴射ポンプまたはインジェクタへ供給されるから、切り換える時の変動を抑制できる。所定期間経過後に、切換スイッチ18が切り換えられ、PID制御器12の出力が、そのまま燃料噴射ポンプまたはインジェクタへ供給される。
【0049】
このように通常モードにおいて、全ての検出部20、22、24、26、28がON信号を一定時間にわたって出力すると、PID制御器12は燃料セーブモードに切り換えられ、PID制御器12は燃料セーブモードで燃料噴射ポンプまたはインジェクタを制御する出力値を出力する。しかし、この燃料セーブモードにおいて、検出部20、22、24、26、28のいずれかがOFF信号を出力すると、PID制御器12は通常モードに切り換えられ、通常モードでPID制御器12は燃料噴射ポンプまたはインジェクタを制御する出力値を出力する。
【0050】
従って、実回転数がオーバースピードレベル以上に増加した場合、実回転数がナビフル回転数以上に増加した場合、設定回転数が2rpm以上増加した場合、設定回転数がナビフル回転数以上に増加した場合、または回転数の変動量が±5rpm以上変化した場合には、今まで燃料セーブモードで制御が行われていても、通常モードに制御が切り換えられるので、安全航行に影響を与えることはないし、操船性が向上する。また、燃料セーブモードの間には、燃料の消費量が抑制される。
【0051】
また、燃料セーブモードに切り換えられた所定期間、PID制御器12の出力は、フィルタ16によって平均化されて出力されているので、燃料噴射ポンプまたはインジェクタに供給される出力値が急激に大きく変動することがない。その結果、舶用機関2の回転数の変動量が大きく変動せず、燃料セーブモードに切り替わって即座に、通常モードに再び切り換えられることを防止できる。
【0052】
また、PID制御器12には、リミッタ14が設けられているので、その出力値は、リミッタ上限値よりも大きくなることはなく、燃料の変化量は異常に大きくなることはなく、過回転を防止できる。燃料セーブモードでは、アクチュエータやインジェクタの操作量が極端に少なくなるので、燃料セーブモードに切り換えられた後、通常モードよりも回転数変動が大きくなる可能性がある。そのため、このリミッタ14を設けてある。なお、このリミッタ14は、通常モードでのPID制御器12の出力上限よりも5から10パーセント低い値とするのが良い。
【0053】
上記の実施形態では、5つの検出部20、22、24、26、28を設けたが、状況に応じて、これら5つの検出部のうち所望の単数または複数のものを使用することもできる。単数の検出部30を使用する場合には、アンドゲート30は不要である。また、燃料セーブモード選択ボタン40を設けて、燃料セーブモード選択信号をアンドゲート38に供給したが、燃料セーブモード選択ボタン40、アンドゲート38を除去して、タイマ32の出力を、直接にPID制御器12、切換制御部19、燃料セーブモード表示部42に供給することもできる。また、タイマ32、フィルタ46、切換スイッチ18、切換制御部19は、状況に応じて除去することもできる。
【0054】
また、上記の実施形態では、PID制御器12は、燃料セーブモードでは、比例ゲイン定数、積分時間、微分時間を通常モードと異なる値に設定してPID制御を継続したが、燃料セーブモードを、PID制御器12でのPID制御を停止し、制御停止直前のPID制御器12の出力値をそのまま出力するように構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の1実施形態の舶用機関の制御装置のブロック図である。
【図2】図1のコントローラの詳細なブロック図である。
【符号の説明】
【0056】
2 舶用内燃機関
4 コントローラ
6 回転数検出器
12 PID制御器
14 リミッタ
16 フィルタ(平均値算出回路)
20 実回転数オーバースピードレベル検出部(監視手段)
22 実回転数レベル検出部(監視手段)
24 設定回転数レベル検出部(監視手段)
26 設定回転数変化量検出部(監視手段)
28 回転数変動量検出部(監視手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
操縦者によって設定される設定回転数と、舶用機関の実際の回転数である実回転数との差から燃料供給手段への出力値を変更する通常モードと、前記出力値の変更を禁止しまたは通常モードに比べて単位時間当たりの前記出力値の変更幅を小さくする燃料セーブモードとを、備え、所定の条件で前記燃料セーブモードから前記通常モードに切り換えることを特徴とする舶用機関の制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の舶用機関の制御方法において、
前記所定の条件は、前記実回転数が、海象や外乱に対する安全運行のために設定された回転数範囲外となったときであることを特徴とする舶用機関の制御方法。
【請求項3】
請求項1記載の舶用機関の制御方法において、
前記所定の条件は、前記実回転数が、外洋で使用される回転数以下となったときであることを特徴とする舶用機関の制御方法。
【請求項4】
請求項1記載の舶用機関の制御方法において、
前記所定の条件は、前記実回転数が過回転防止のために設定された回転数以上となったときであることを特徴とする舶用機関の制御方法。
【請求項5】
請求項1記載の舶用機関の制御方法において、
前記所定の条件は、前記設定回転数が前記操縦者によって変更されたときであることを特徴とする舶用機関の制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の舶用機関の制御方法において、前記設定回転数の変更量が微調整の範囲のとき、前記燃料セーブモードを維持することを特徴とする舶用機関の制御方法。
【請求項7】
請求項1記載の舶用機関の制御方法において、
前記通常モードでの前記設定回転数と前記実回転数との差が第1範囲のときに、前記燃料セーブモードに切り替わり、前記燃料セーブモードでの前記設定回転数と前記実回転数との差が、第2範囲よりも大きいときに、前記通常モードに切り替わり、第2範囲が第1範囲よりも大きいことを特徴とする舶用機関の制御方法。
【請求項8】
請求項1記載の舶用機関の制御方法において、
前記通常モードから前記燃料セーブモードに切り替わるとき、前記出力値を平均値に変更することを特徴とする舶用機関の制御方法。
【請求項9】
請求項1に記載の舶用機関の制御方法において、前記燃料セーブモード時に、前記出力値のセーブモード上限を規定したことを特徴とする舶用機関の制御方法。
【請求項10】
請求項1乃至8いずれか記載の舶用機関の制御方法において、
前記出力値の算出には、比例積分微分制御を使用し、前記燃料セーブモードの際には、前記比例積分微分制御中の比例制御に使用する比例ゲイン定数に比例用倍率を掛け、前記比例積分微分制御中の積分制御に使用する積分時間に積分用倍率を掛け、前記比例積分微分制御中の微分制御に使用する微分時間に微分用倍率を掛けることによって、前記出力値の変更を禁止しまたは前記通常モードに比べて単位時間当たりの前記出力値の単位時間当たりの変更幅を小さくし、
前記各倍率を設定可能にしたことを特徴とする舶用機関の制御方法。
【請求項11】
請求項1に記載の舶用機関の制御方法に用いられる制御装置であって、
設定回転数と、実回転数とが、入力され、前記設定回転数と前記実回転数との差から前記舶用機関の燃料供給手段への出力値を算出する通常モードを有する演算手段を、備えた舶用機関の制御装置において、
前記演算手段は、前記出力値の変更を禁止しまたは前記通常モードに比べて単位時間当たりの前記出力値の変更幅を小さくする燃料セーブモードを、有し、前記通常モードと前記燃料セーブモードとに切換可能に構成され、
前記設定回転数または前記実回転数の変動を監視する監視手段を備え、前記設定回転数または前記実回転数が所定範囲を超えたとき解除指令を発し、
前記演算手段は、前記解除指令を受けて、前記通常モードに切り換えられることを特徴とする舶用機関の制御装置。
【請求項12】
請求項11記載の舶用機関の制御装置において、
前記監視手段は、前記実回転数が、操船性確保のために設定された回転数以下になったときに、前記解除指令を発信することを特徴とする舶用機関の制御装置。
【請求項13】
請求項11記載の舶用機関の制御装置において、
前記監視手段は、前記実回転数が、外洋で使用される回転数以下となったときに、前記解除指令を発信することを特徴とする舶用機関の制御装置。
【請求項14】
請求項11記載の舶用機関の制御装置において、
前記監視手段は、前記実回転数が、過回転防止のために設定された回転数以上となったときに、前記解除指令を発信することを特徴とする舶用機関の制御装置。
【請求項15】
請求項11記載の舶用機関の制御装置において、
前記監視手段は、前記設定回転数が、操縦者によって変更されたときに、前記解除指令を発信することを特徴とする舶用機関の制御装置。
【請求項16】
請求項11記載の舶用機関の制御装置において、
前記監視手段は、前記設定回転数の変更量が、微調整の範囲のときに、前記燃料セーブモードを維持することを特徴とする舶用機関の制御装置。
【請求項17】
請求項11記載の舶用機関の制御装置において、
前記監視手段は、前記通常モードにおいて前記設定回転数と前記実回転数との差が、第1範囲内のときに、前記解除指令を停止し、前記燃料セーブモードにおいて前記設定回転数と前記実回転数との差が第2範囲を超えたとき、前記解除指令を発信し、第2範囲は第1範囲よりも大きく設定されていることを特徴とする舶用機関の制御装置。
【請求項18】
請求項11記載の舶用機関の制御装置において、
前記出力値の平均値を算出する平均値演算手段を設け、前記通常モードから前記燃料セーブモードに切り替わるとき、前記出力値を前記平均値に切り換える切換手段を設けたことを特徴とする舶用機関の制御装置。
【請求項19】
請求項11記載の舶用機関の制御装置において、
前記演算手段は、前記燃料セーブモードが前記出力値の変更を前記通常モードに比べて変更幅を小さくする場合、前記出力値のセーブモード上限値を規定し、算出された出力値が、前記セーブモード上限値を超えたとき、前記セーブモード上限値を出力することを特徴とする舶用機関の制御装置。
【請求項20】
請求項11記載の舶用機関の制御装置において、
前記演算手段は、比例積分微分制御を行う比例積分微分制御手段を有し、前記燃料セーブモードの際には、前記比例積分微分制御中の比例制御に使用する比例ゲイン定数に比例用倍率を掛け、前記比例積分微分制御中の積分制御に使用する積分時間に積分用倍率を掛け、前記比例積分微分制御中の微分制御に使用する微分用倍率を掛けることによって、前記出力値の変更を禁止しまたは前記通常モードに比べて単位時間当たりの前記出力値の単位時間当たりの変更幅を小さくし、
前記各倍率を設定可能にしたことを特徴とする舶用機関の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77759(P2012−77759A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−10879(P2012−10879)
【出願日】平成24年1月23日(2012.1.23)
【分割の表示】特願2008−34432(P2008−34432)の分割
【原出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)
【出願人】(304035975)株式会社MTI (46)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】