説明

舶用機関の支援システム

【課題】 海上航行中でも異常や故障を解消でき、ランニングコストの低減もできる舶用機関の支援システムを提供する。
【解決手段】 船体2内に設置されたメモリ8が、エンジンの各種検知データを収納する。船体2内の船体側判断部10が各種検知データから異常または故障を判断する。船体側通信部12が、衛星回線14、基地側通信部18を通じて基地16に異常または故障信号を送信する。受信された判断結果は、基地側表示部24に表示される。各種データから異常または故障信号に基づいて基地16の支援者が選択した異常または故障に関するデータの送信要求が基地側通信部18から記船体側通信部12に送信される。船体側判断部10は、送信要求された異常または故障に関する検知データが基地側通信部18に送信される。基地側判断部22が基地側表示部24に新たに送信要求された異常又は故障に関するデータを表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海上にある船舶に故障や異常が生じたとき、陸上の基地から支援するのに使用する舶用機関の支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
舶用機関の支援システムとしては、例えば特許文献1、2に開示されているようなものがある。特許文献1の技術は、運行されている船舶の機関部の諸元データである船舶情報を、通信衛星を介して陸側に設置したサーバーに入力保管し、このサーバーにアクセスすることによって上記船舶情報を閲覧するものである。特許文献2の技術は、船舶に搭載したセンサによってそれぞれ測定したエンジン性能データとエンジンの状態データとが、インターネットを介して陸上のエンジン故障診断装置に伝送され、エンジン故障診断装置は、伝送されたデータを分析して、エンジンに異常が生じていないか判断し、異常があると判断したときには、LAN経由でサービスマンが携帯する携帯端末に報知し、船舶の操縦者には無線によって異常を報知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−157309号公報
【特許文献2】特開2004−156516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、船舶から全ての船舶情報を衛星回線を介して陸上のサーバーに伝送しているので、衛星回線の通信料が高くなり、ランニングコストが高くなる。特許文献2では、異常を検知して、その旨を船舶に報知して、エンジンの運転を制限してエンジンが故障することを未然に防止しようとするものであるが、異常でなく現実に故障が生じた場合には船舶側では解消法が分からず、最悪の場合、航行不能となる。異常が発生している場合でも、海上を船舶が航行中には次の寄港地まで異常を解消することができない。
【0005】
本発明は、海上航行中でも異常や故障を解消し、更に、ランニングコストの低減もできる舶用機関の支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の舶用機関の支援システムでは、船体内に設置された船体側記憶部が、前記船体に設けられたエンジン及び前記船体の各種検知データを収納する。これら各種検知データは複数の検出手段、例えばセンサによって取得される。前記船体内に船体側判断部が設置され、これは、前記各種検知データから異常または故障を判断する。前記船体内に設置された船体側通信部が、前記船体側判断部の判断結果及び前記各種検知データを、衛星回線を通じて基地に送信する。前記基地に設置された基地側通信部が、前記船体側通信部との間で通信し、前記センタ側判断部の判断結果及び前記各種検知データを受信する。この受信された判断結果及び前記各種検知データは、前記基地に設置された基地側表示部に表示される。前記基地に設置された基地側入力部が、前記船体側への通信の内容を入力する。前記船体側判断部が異常または故障と判断した場合には、前記船体側通信部から前記基地側通信部へ異常または故障信号が送信される。基地側に設けた基地側判断部が前記異常または故障信号を受けて、基地側に設けた基地側表示部に異常または故障内容を表示する。前記各種データから前記異常または故障信号に基づいて前記基地の支援者が選択した異常または故障に関するデータの送信要求が前記基地側通信部から前記船体側通信部に送信される。前記船体側判断部は、前記船体側記憶部に新たに送信要求された異常または故障に関するデータを蓄積し、このデータが前記船体側通信部から前記基地側通信部に送信される。前記基地側判断部が前記基地側表示部に前記新たに送信要求された異常又は故障に関するデータを表示する。
【0007】
このように構成された支援システムでは、船体側で異常または故障が発生したと判断されたときのみ、基地側に送信が行われる。また、基地側から船体側へは、全てのデータではなく支援者が必要と考えるデータのみを送信するように要求する。従って、衛星回線の使用料が少なくなり、低ランニングコストとなる。また、基地側の支援者が要求したデータが基地側に伝送されるので、支援者は、そのデータから異常や故障に対する対処法を考えることができ、その対処法を船体側に伝達し、実行して貰うことにより、故障や異常を解消することが可能となる。
【0008】
自動的に2回目の異常または故障信号が発信されたときに前記船体側記憶部に蓄積された前記新たに送信要求された異常又は故障に関するデータを前記船体側通信部から前記基地側送信部へ送信することもできる。
【0009】
このように構成すると、2度目に異常または故障信号が発生すると、基地局側から指示を与えなくても必要とされる最新のデータが送信されるので、異常や故障の原因の特定を基地側で行いやすくなる。
【0010】
前記基地側に送信され前記異常または故障に関するデータに基づき、前記基地側の支援者が、異常または故障の解消または進行防止のために作成した、前記エンジンの制御パラメータの変更案を表示する船体側表示部を、前記船体に設けることもできる。この場合、例えば基地側通信部及び船体側通信部を利用してエンジンの制御パラメータ案を伝送することができるし、他の通信手段を介して船体側表示部に表示することもできる。
【0011】
このように構成すると、異常または故障の解消または進行防止のために作成した、前記エンジンの制御パラメータの変更案が船体側で表示されるので、この表示に従って船体側でエンジンの制御パラメータを変更することにより、異常または故障を解消できる蓋然性が高くなる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明によれば、常時船体側から全てのデータを基地側に伝送せず、異常または故障が生じたときに、基地側から要求されたデータだけを伝送しているので、通信料を安価とすることができ、ランニングコストを低下させることができる。更に、船体側から送信されたデータに基づいて基地側の支援者が、その対策を立案することができ、異常や故障を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の舶用機関の支援システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態の舶用機関の支援システムでは、船体2内に設置されたエンジン(図示せず)及び船体2の各種検知データを取得するための複数のセンサ4が船体2内に設けられている。センサ4によって測定されるものには、例えばエンジンの排気温度、エンジンが備えるガバナのガバナリング位置、エンジンが備える各種電磁弁の作動信号、エンジンに対して船体の操縦装置(図示せず)から供給される指令回転数、エンジンの実回転数及びエンジンの始動空気圧などがある。これら各種データは、予め定めたサンプリング周期の経過ごとに各センサ4によって取得される。サンプリング周期は、データごとに適切なものが選択されている。
【0015】
各センサ4からの検知データは、図示しないA/D変換器によってデジタル化されて、船体側制御手段、例えば船体側制御部6に供給され、船体側制御部6を介して船体側記憶部、例えばメモリ8に蓄積される。この蓄積は、メモリ8が初期状態でなんらデータが記憶されていない状態では、データがメモリ8に供給されるごとにそのデータが記憶される。メモリ8には、各データごとに予め定めた個数のデータが順に記憶され、或るデータに対して予め定めた個数のデータが記憶された状態で、新たな或るデータが記憶されると、新たな或るデータを記憶し、最も古い或るデータが削除される。従って、検知データごとに、最新の検知データからそれぞれ予め定めた個数だけ遡った各検知データが常に記憶されている。これは、取得された全てのデータを記憶させるようにメモリ8を構成すると、メモリ8が大容量となり、高コストとなるが、異常または故障が発生した時点から遡って予め定めた個数の検知データがあれば、異常や故障の対策を考えることができるので、メモリ8の容量を制限して、低コスト化を図っている。
【0016】
新たな検知データがメモリ8に記憶されるごとに、船体側制御部6が備える船体側判断部10において、新たに記憶された検知データを基にして異常または故障が発生しているか判断される。例えば排気温度やガバナリング位置や始動空気圧は、これらにそれぞれ対応して予め設定された許容範囲内に存在すると正常と判断され、許容範囲外に存在すると異常または故障と判断される。各電磁弁の作動信号については、例えば操作部から各電磁弁に対し作動指令が与えられてから所定時間内に作動信号が船体側判断部10に供給されると正常と判断し、所定時間内に作動信号が供給されない場合、異常または故障と判断される。指令回転数と実回転数とは、例えば両者の差が予め定めた許容範囲内であると正常であると判断し、許容範囲外であると正常または異常と判断する。船体側制御部6としては、例えばCPUを使用することができる。
【0017】
故障または異常と判断されると、船体側判断部10は、船体側表示手段、例えば船体側表示部11に、異常または故障の箇所を表示し、同時に、この判断結果を異常または故障信号として、船体側通信部12から衛星回線14を介して陸上にある基地16側の基地側通信部18に送信する。衛星回線14を使用するのは、船体2が海上運行中であっても、陸上にある基地16に対して異常または故障が発生していることを報知するためである。
【0018】
基地側通信部18で受信した異常または故障信号は、基地側制御手段、例えば基地側制御部20に供給される。基地側制御部20も、例えばCPUによって構成されている。基地側制御部20内には基地側判断部22が設けられており、基地側判断部22は、異常または故障信号に基づいて、基地側表示手段、例えば基地側表示部24に、エンジンのいずれの箇所で異常または故障が発生しているかを表示する。
【0019】
基地16に存在する支援者は、エンジンのいずれの箇所で異常または故障が生じているかの基地側表示部24の表示を見て、各センサ4が検知している各検知データのうち、異常または故障が発生している箇所での異常または故障を解消する方策を立てるために必要な検知データ(このデータは単数の場合も複数の場合もある)を選定する。さらに、支援者は、選定したデータを、基地側制御部20に付属する入力部26によって基地側判定部22に設定する。基地側判定部22は、この設定された検知データを送信することを求める送信要求を作成し、基地側通信部18に供給する。基地側通信部18は、この送信要求が衛星回線14を介して船体側通信部12に送信され、船体側通信部12から船体側判断部10に供給される。このように異常が発生した直後の最新の検知データを送信するだけでなく、この最新の検知データから予め選択された個数だけ時系列的に遡った一連の検知データを送信することもある。
【0020】
なお、異常または故障信号を受信すると、送信要求する検知データを基地側判断部22が自動的に判断して、自動的に送信要求を船体2側に送信することも可能である。しかし、船ごとに同じデータについて異なった名称が付されていたり、船ごとに検知データの種類や数が異なったりする上に、どのような検知データを取得すればよいかは、支援者の経験ノウハウに負うところが大きいので、支援者が送信させる検知データを決定して、送信要求として船体2側に送信している。なお、基地側判断部22に、様々な異常または故障と、これらに対応して送信要求する必要がある検知データとのリストを、例えばメモリ8に記憶しておき、異常または故障信号が船体側判断部10に供給されたとき、供給された異常または故障信号に対応する検知データを基地側表示部24に表示し、それら表示された検知データ内か、支援者が、送信要求する検知データを選定するように構成することもできる。
【0021】
送信要求を受けた船体側判断部10は、送信要求されたデータが新たにメモリ8に記憶されると(送信要求されたデータが複数の場合、送信要求されたデータが全てメモリ8に記憶されると)、即ち、送信要求されたデータの最新のものが揃うと、送信要求されたデータを船体側通信部12、衛星回線14及び基地側通信部18を介して、基地側判断部22に送信する。常時、衛星回線14を介して全ての検知データを基地16側に送信することも可能であるが、その場合、衛星回線14を常時使用することになり、そのコストは膨大なものとなる。この支援システムでは、基地16側から送信要求のあったときに、そう信用された検知データのみを送信するので、衛星回線14の使用時間は短時間であり、その使用料も安くなり、低ランニングコストとなる。また、送信要求があった時点で、メモリ8に記憶されている送信要求された検知データを基地16側に送信することも可能であるが、送信要求された後の最新の検知データの方が、エンジン等の現状をよく表しているので、送信要求後の最新の検知データを送信している。
【0022】
基地側判断部22は、送信されてきた検知データ(基地16側から送信要求した検知データ)を基地側表示部24に表示する。支援者は、基地側表示部24に表示された検知データを見て、故障または異常の解消または故障または異常の進行を防止するために、エンジンの制御パラメータの変更案を作成し、この制御パラメータを入力部26から基地側判断部22に設定する。この制御パラメータ案としては、例えばエンジンの自動制御に使用しているPDI定数のいずれか又は全ての変更案や、操縦装置が備えるハンドルの操作位置と指令回転数との関係の変更などがある。これらは、基地側通信部18、衛星回線14及び船体側通信部12を介して、船体側判断部10に供給され、船体側表示部11に表示される。船体2側では、船員が船体側表示部11に表示された制御パラメータ案を見て、この制御パラメータ案に従って制御パラメータを変更する。
【0023】
このようにして、洋上を航海しており、支援者が直ちに乗り込むことができない船体2内の船員に対して、異常または故障の解消または進行防止のためにとるべき措置を指示して、船員を支援することができる。たとえ異常または故障の解消または進行防止のためにとるべき対策に習熟した船員が、船体2に乗船していなくても、船体2の運行を継続することができる。また、基地16側からの遠隔制御によって制御パラメータを自動的に変更するのではなく、船員が制御パラメータを手動によって変更するので、現在の船体の状況等を船員が判断して、最良のタイミングで制御パラメータを変更することができる。例えば遠隔制御で自動的に制御パラメータを変更する構成であれば、船体2に衝突する可能性のある他の船舶が船体2の近傍にあり、回避運動を行う必要があるようなときにも、自動的に制御パラメータが変更されることは、タイミング的に望ましいものではなく、回避運動後のタイミングに船員によって制御パラメータが変更されることが望ましい。
【0024】
なお、異常または故障信号を船体2側から送信し、送信要求を基地16側から受けたが、まだ要求された検知データを送信していない状態で、先と同じ異常または故障があると船体側判断部10が判断した場合、新たな異常または故障信号と共に、先に送信要求を受けた以後の時点での送信要求のあった検知データの最新のものと、2度目の異常または故障と判断した時点での先に送信要求のあった検知データの最新のものとを、自動的に基地16側に送信する。これら最新のものの他に、これら最新のものからそれぞれ所定個数だけ遡ったものまでの一連の送信要求された検知データを送信することもできる。
【0025】
或いは異常または故障信号を船体2側から送信し、送信要求を基地16側から受けて、既に送信要求された検知データを送信した状態で、先と同じ異常または故障があると船体側判断部10が判断した場合、新たな異常または故障信号と、2度目の異常または故障と判断した時点以後に得た、先に送信要求のあった検知データの最新のものとを、自動的に基地16側に送信する。この最新のものの他に、この最新のものから所定個数だけ遡ったものまでの一連の送信要求された検知データを送信することもできる。
【0026】
即ち、2度に亘って同じ異常または故障と判断され、既に送信要求を受けている場合には、2度目の異常または故障との判断に対する送信要求が無くても、先に送信要求を受けている検知データの最新のものを送信する。
【0027】
また、2度目の異常または故障と判断したとき、制御パラメータ案が基地16側から船体2側に送信されていても、送信要求された検知データの最新のもの(2度目に異常または故障と判断された後に取得した最新のもの)、またはこれに加えて最新のものから予め設定された個数だけ遡ったものまでの一連の検知データを、新たに送信要求を受けていない状況下でも、自動的に基地16側に向かって送信する。
【0028】
これによって、異常や故障が発生した直後の検知データ(制御パラメータ案を作成するために必要な検知データ)を基地16側で取得することができ、異常や故障の原因を特定しやすくなる。
【符号の説明】
【0029】
2 船体
4 センサ
8 メモリ(船体側記憶部)
10 船体側判断部
12 船体側通信部
14 衛星回線
16 基地
18 基地側通信部
22 基地側判断部
24 基地側表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体内に設置され、前記船体に設けられたエンジン及び前記船体の各種検知データを収納する船体側記憶部と、
前記船体内に設置され、前記各種検知データから異常または故障を判断する船体側判断部と、
前記船体内に設置され、前記船体側判断部の判断結果及び前記各種検知データを、衛星回線を通じて基地に送信可能な船体側通信部と、
前記基地に設置され、前記船体側通信部との間で通信する基地側通信部と、
前記基地に設置され、前記通信の内容を表示する基地側表示部と、
前記基地に設置され、前記船体側への通信の内容を入力する基地側入力部とを、
備えた舶用機関の支援システムにおいて、
前記船体側判断部が異常または故障と判断した場合には、前記船体側通信部から前記基地側通信部へ異常または故障信号を発信し、
前記異常または故障信号を受けて、基地側に設けた基地側表示部に異常または故障内容を表示する基地側判断部を設け、
前記各種検知データから前記異常信号に基づいて前記基地の支援者が選択した異常または故障に関するデータの送信要求を前記基地側通信部から前記船体側通信部に送信し、
前記船体側判断部は、前記船体側記憶部に新たに送信要求された異常または故障に関するデータを蓄積し、このデータを前記船体側通信部から前記基地側通信部に送信し、
前記基地側判断部が前記基地側表示部に前記新たに送信要求された異常又は故障に関するデータを表示する
ことを特徴とする舶用機関の支援システム。
【請求項2】
請求項1記載の舶用機関の支援システムにおいて、自動的に2回目の異常または故障信号が発信されたときに前記船体側記憶部に蓄積された前記新たに送信要求された異常又は故障に関するデータを前記船体側通信部から前記基地側送信部へ送信する舶用機関の支援システム。
【請求項3】
請求項1記載の舶用機関の支援システムにおいて、
前記基地側に送信され前記異常または故障に関するデータに基づき、前記基地側の支援者が、異常または故障の解消または進行防止のために作成した、前記エンジンの制御パラメータの変更案を表示する船体側表示部を、前記船体に設けた舶用機関の支援システム。

【図1】
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【公開番号】特開2013−103640(P2013−103640A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249566(P2011−249566)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)