説明

船体外板の自動塗装装置

【課題】塗装ガンの周囲を箱状のフードで覆っている船体外板の塗装装置。塗装ミストの飛散を防止すべく吸引ファンを用いても塗装に対して好ましくない影響が生じることを少なくできる。
【解決手段】塗装ユニットが、箱状のフードと、フード内に配備されていてフードに周囲が覆われている塗装ガンとを備えている。前記フードは、互いに対向している第一の側壁と第二の側壁とを備えている。第一の側壁及び第二の側壁はそれぞれフィルター部を有し、第一の側壁及び第二の側壁のフィルター部との間にそれぞれ吸引空間部を形成し、当該吸引空間部をフードの内側空間部と区画する一対の仕切り壁が第一の側壁及び第二の側壁におけるフィルター部の近傍に配備され、前記吸引空間部から前記フィルター部を介して吸引を行う吸引ファンが前記フィルター部が配備されている第一の側壁及び第二の側壁の外側にそれぞれ配備されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船体の外板の自動塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から船体の外板を塗装する装置として、塗装ガンの周囲を箱状のフードで覆っている塗装装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フードの周部をエヤーシールして塗装ミストが外部に飛散することを防止する船体外板の自動塗装装置と方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−154176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1記載の発明は、箱状の周部を二重筒状態にし、エヤーを噴き出してフードの周囲をエヤーシールすると共に、フードの後部に吸引ファンを設けて、噴き出したエヤーをフードの内側へ吸引するものであった。
【0006】
塗装ミストの飛散を防止すべく吸引ファンを用いる場合、これによって塗装ムラが生じることがある、等々、塗装に好ましくない影響が生じることがあった。
【0007】
そこで、この発明は、塗装ガンの周囲を箱状のフードで覆っている船体外板の塗装装置において、塗装ミストの飛散を防止すべく吸引ファンを用いても、塗装に対して好ましくない影響が生じることを未然に防止できる船体外板の自動塗装装置を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、この発明が提案する船体外板の自動塗装装置は以下の通りのものである。
【0009】
請求項1記載の発明は、
搬送装置に取り付け、取り外し可能な塗装ユニットからなり、
当該塗装ユニットは、
前面側が開口し、後端側が当該塗装ユニットの回転支持軸に回動可能に支持されていることにより当該前面側の開口が向かう方向を当該回転支持軸の周囲で変更可能な箱状のフードと、
当該フード内に配備されていて当該フードに周囲が覆われ、当該フードの前記開口に向かう側に噴霧孔を有する塗装ガンと、を備えており、
前記フードは、互いに対向している第一の側壁と第二の側壁とを備えていて、当該第一の側壁及び第二の側壁はそれぞれフィルター部を有し、
当該第一の側壁及び第二の側壁のフィルター部との間にそれぞれ吸引空間部を形成し、当該吸引空間部を前記フードの内側空間部と区画する一対の仕切り壁が、前記第一の側壁及び第二の側壁における前記フィルター部の近傍に配備され、
前記吸引空間部から前記フィルター部を介して吸引を行う吸引ファンが、前記フィルター部が配備されている第一の側壁及び第二の側壁の外側にそれぞれ配備されている
ことを特徴とする船体外板の自動塗装装置である。
【0010】
請求項2記載の発明は、
前記塗装ガンは前記一対の仕切り壁の間を移動可能に前記フード内に配備されていることを特徴とする請求項1記載の船体外板の自動塗装装置である。
【0011】
請求項3記載の発明は、
前記塗装ガンが前記一対の仕切り壁の間を移動する速度が、前記フードの中央部を移動しているときと、前記一対の仕切り壁の近傍を移動しているときとで異なるように前記塗装ガンの移動速度を調整可能である
ことを特徴とする請求項2記載の船体外板の自動塗装装置である。
【0012】
請求項4記載の発明は、
前記開口における前記第一の側壁及び第二の側壁の両端側に塗装対象の船体外板との間の間隔を検知する距離センサーがそれぞれ配備されていて、
前記フードは、当該距離センサーが検知した塗装対象の船体外板との間隔に応じて、前記回転支持軸の周囲で回動する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載の船体外板の自動塗装装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、塗装ガンの周囲を箱状のフードで覆っている船体外板の塗装装置において、塗装ミストの飛散を防止すべく吸引ファンを用いても、塗装に対して好ましくない影響が生じることを未然に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の船体外板の自動塗装装置が搬送装置(高所作業用クレーン車)の先端に取り付けられて、船体外板の下端側で塗装作業が行なわれる状態を説明する概略正面図。
【図2】本発明の船体外板の自動塗装装置が搬送装置(自走走行台車)に取り付けられて、船体底面の外板に対して塗装作業が行なわれる状態を説明する概略斜視図。
【図3】高所作業バスケットに取り付けられている状態の本発明の船体外板の自動塗装装置の一部を省略した側面図。
【図4】本発明の船体外板の自動塗装装置が回転支持軸を回転中心として回動する状態を説明する図であって、(a)はフード開口部を図3図示の状態から時計回り方向に45度回転させた状態、(b)はフード開口部を図3図示の状態から時計回り方向に90度回転させた状態を表す一部を省略した側面図。
【図5】本発明の船体外板の自動塗装装置が備えているフードの内部構造の概略を説明する前面開口部側から見た一部を省略した正面図。
【図6】塗装が行われている状態のフード内部を説明する一部を省略した概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0016】
本発明の船体外板の自動塗装装置における塗装ユニット1は、従来公知の塗装ユニットと同じく、箱状のフード2と、当該フード2内に配備されていて、フード2に周囲が覆われている塗装ガン3(3a、3b)とを備えている。
【0017】
箱状のフード2は、前面側(図2において上側、図3において左側)が開口しており、後端側が、図3図示のように、塗装ユニット1の回転支持軸4に回動可能に支持されている。これによって、フード2は、前面側の開口5が向かう方向を回転支持軸4の周囲で、矢印44、45で示すように、変更可能になっている。
【0018】
図4(a)は、図3図示の状態から、フード2が矢印44方向に45度回転した状態、図4(b)は、図3図示の状態から、フード2が矢印44方向に90度回転した状態をそれぞれ表すものである。
【0019】
図3図〜図4(b)では0度〜90度の範囲で回動する状態を説明したが、フード2を回転支持軸4の周囲に回動させる範囲はこの範囲内に限られない。
【0020】
フード2は、図5、図6図示のように、互いに対向している第一の側壁6aと第二の側壁6bとを備えており、第一の側壁6a、第二の側壁6bは、それぞれ、フィルター部7a、7bを備えている。
【0021】
また、第一の側壁6aにおけるフィルター部7aの近傍に仕切り壁9aが、第二の側壁6bにおけるフィルター部7bの近傍に仕切り壁9bが、それぞれ、配備されている。
【0022】
図5、図6図示のように、仕切り壁9aによって、第一の側壁6aのフィルター部7aとの間に吸引空間部8aが形成され、吸引空間部8aがフード2の内側空間部10と区画されている。また、仕切り壁9bによって、第二の側壁6bのフィルター部7bとの間に吸引空間部8bが形成され、吸引空間部8bがフード2の内側空間部10と区画されている。
【0023】
更に、フィルター部7aが配備されている第一の側壁6aの外側に吸引ファン11aが、フィルター部7bが配備されている第二の側壁7aの外側に吸引ファン11bが、それぞれ、配備されている。
【0024】
吸引ファン11aは、矢印51aで示すように、吸引空間部8aからフィルター部7aを介して吸引を行い、吸引ファン11bは、矢印51bで示すように、吸引空間部8bからフィルター部7bを介して吸引を行う。
【0025】
フード2の開口5における第一の側壁6a、第二の側壁6bの両端側には、塗装対象の船体外板との間の間隔を検知する距離センサー15a、15b、15c、15dがそれぞれ配備されている(図5)。
【0026】
不図示の制御部が距離センサー15a、15b、15c、15dが検知した塗装対象の船体外板との間の間隔に関する情報に基づき、塗装対象の船体外板との間隔に応じて、回転支持軸4の周囲で塗装ユニット1を矢印44方向、あるいは矢印45方向に回動させる。これによって、塗装対象の船体外板の傾き角度に自動的に追随させて開口5が向かう方向を制御することができる。
【0027】
塗装ガン3は、フード2の開口5に向かう側に噴霧孔13を備えており、矢印47で示すように、一対の仕切り壁9a、9bの間を移動可能になっている。
【0028】
図3図示の実施形態では、フード2の底面で一対の仕切り壁9a、9bの間にレール13が回転支持軸4と平行に延びるように敷設されていて、このレール13に架設されている支持ロッド14の両端に、それぞれ、塗装ガン3a、3bが配備されている。
【0029】
支持ロッド14は不図示のサーボモータにより、矢印47で示すように、一対の仕切り壁9a、9bの間を移動し、また、この移動する速度が制御、調整されるようになっている。
【0030】
塗装ガン3、3a、3bが一対の仕切り壁9a、9bの間を移動する速度を、図5において対向している一対の仕切り壁9a、9bの中間部分である、フード2の中央部を移動しているときと、仕切り壁9a、9bの近傍を移動しているときとで異なるように制御することにより、塗り重ね部分における塗料の塗布量を均一化することが可能になる。
【0031】
次に、本発明の船体外板の自動塗装装置の使用方法について一例を説明する。
【0032】
本発明の船体外板の自動塗装装置における塗装ユニット1は、高所作業車や、地面を走行する台車などの搬送装置に取り付け、取り外し可能になっている。
【0033】
例えば、図1図示の実施形態では、本発明の船体外板の自動塗装装置が高所作業車32のバケット33に取り付けられている。バケット33内に作業者が入り、高所作業車32と塗装ユニット1とを操作して、塗装対象である船体30の外板31に沿って矢印40、41で示すように上下垂直方向への移動を行いつつ、船体30の外板31を塗装処理することができる。
【0034】
図2図示の実施形態では、本発明の船体外板の自動塗装装置が地面を走行する自走式の台車34に取り付けられている。作業者がリモコンで台車34と、塗装ユニット1とを操作し、台車34を、矢印42、43で示す方向に走行させつつ、塗装対象である船体30の底の外板に対して塗装処理を施すことができる。
【0035】
このように本発明の船体外板の自動塗装装置によれば、危険な高所の作業も、塗装作業が難しい船底の外板に対する作業も、安全に、かつ、確実に行うことができる。
【0036】
作業者が、不図示の制御部にリモートコントロールで入力することにより、塗装ガン3がフード2内で矢印47で示すように移動しつつ、噴霧孔13から符号48で示すように塗料の噴霧が行われ、船体の外板31表面が塗装される。
【0037】
この塗装作業で発生した塗装ミストは、吸引ファン11a、11bによる矢印51a、矢印51b方向の吸引が行われることから、矢印49a、49bで示すように吸引空間部8a、8b内に吸引され、矢印50a、51a、50b、51bで示すようにフィルター部7a、7bを介して外部へ排気されていく。
【0038】
このように、フィルター部7a、7bを備えている第一、第二の側壁6a、6bの近傍に一対の仕切り壁9a、9bを設け、仕切り壁9a、9bと第一、第二の側壁6a、6bとの間にそれぞれ吸引空間部8a、8bを形成し、吸引ファン11a、11bを用いて塗装ミストをフード2の内部から吸引空間部8a、8bへ、更に、フィルター部7a、7bを介して外部に排出することにより、塗装ミストを、フィルター部7a、7bで捕集することができる。
【0039】
このような塗装ミストの吸引、捕集を行う吸引ファン11a、11b、フィルター部7a、7bを備えている機構を、フード2の両サイド(第一の側壁6a、第二の側壁6b)にそれぞれ配備したことにより、フード2の外部に塗装ミストが飛散する量を低減させることができる。
【0040】
これらによって、塗装ガン3の周囲を箱状のフード2で覆って、塗装ミストの飛散を防止すべく吸引ファン11a、11bを用いている本発明の船体外板の自動塗装装置では、塗装に対して好ましくない影響が生じることを未然に防止でき、塗装ムラの発生を少なくすることができる。
【0041】
以上、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態、実施例を説明したが、本発明はこれらに限られるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の船体外板の自動塗装装置によれば、高所作業車のバケットに取り付け、あるいは、地面を自動走行する台車に取り付け、バケット内に乗り込んだ作業者や、地面で台車をコントロールする作業者が、リモートコントロールで高所での作業などを安全に行い、作業効率を高めることができる。更に、作業品質の安定性を向上させ、塗料ミストの飛散防止を図ることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 塗装ユニット
2 箱状のフード
3、3a、3b 塗装ガン
4 回転支持軸
5 フードの前面側の開口
6a 第一の側壁
6b 第二の側壁
7a、7b フィルター部
9a、9b 仕切り壁
8a、8b 吸引空間部
10 フードの内側空間部
11a、11b 吸引ファン吸引ファン
15a、15b、15c、15d 距離センサー
13 噴霧孔
30 船体
31 外板
32 高所作業車
33 バケット
34 台車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送装置に取り付け、取り外し可能な塗装ユニットからなり、
当該塗装ユニットは、
前面側が開口し、後端側が当該塗装ユニットの回転支持軸に回動可能に支持されていることにより当該前面側の開口が向かう方向を当該回転支持軸の周囲で変更可能な箱状のフードと、
当該フード内に配備されていて当該フードに周囲が覆われ、当該フードの前記開口に向かう側に噴霧孔を有する塗装ガンと、を備えており、
前記フードは、互いに対向している第一の側壁と第二の側壁とを備えていて、当該第一の側壁及び第二の側壁はそれぞれフィルター部を有し、当該第一の側壁及び第二の側壁のフィルター部との間にそれぞれ吸引空間部を形成し、当該吸引空間部を前記フードの内側空間部と区画する一対の仕切り壁が、前記第一の側壁及び第二の側壁における前記フィルター部の近傍に配備され、
前記吸引空間部から前記フィルター部を介して吸引を行う吸引ファンが、前記フィルター部が配備されている第一の側壁及び第二の側壁の外側にそれぞれ配備されている
ことを特徴とする船体外板の自動塗装装置。
【請求項2】
前記塗装ガンは前記一対の仕切り壁の間を移動可能に前記フード内に配備されていることを特徴とする請求項1記載の船体外板の自動塗装装置。
【請求項3】
前記塗装ガンが前記一対の仕切り壁の間を移動する速度が、前記フードの中央部を移動しているときと、前記一対の仕切り壁の近傍を移動しているときとで異なるように、前記塗装ガンの移動速度を調整可能である
ことを特徴とする請求項2記載の船体外板の自動塗装装置。
【請求項4】
前記開口における前記第一の側壁及び第二の側壁の両端に塗装対象の船体外板との間の間隔を検知する距離センサーがそれぞれ配備されていて、
前記フードは、当該距離センサーが検出した塗装対象の船体外板との間隔に応じて、前記回転支持軸の周囲で回動する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載の船体外板の自動塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−130868(P2012−130868A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285558(P2010−285558)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(502098178)社団法人日本中小型造船工業会 (3)
【出願人】(309015640)株式会社西部川崎 (3)
【Fターム(参考)】