説明

船倉側壁構造部材の点検装置

【課題】 簡単な構成で、構造部材の点検を容易かつ確実に行うことができ、点検終了後は荷役に支障のない場所に格納することのできる船倉側壁構造部材の点検装置を提供する。
【解決手段】 上端部が船倉側壁に沿って船首尾方向に設けたガイドレール30に回動かつ摺動可能に掛止された折り畳み可能な点検用梯子21と、船倉の上部バラストタンクの壁面に設けられ、ワイヤ34により点検用梯子21を折り畳んで上部バラストタンクの壁面に沿って格内する格納部31とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばら積み貨物船の船倉側壁構造部材の点検装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ばら積み貨物船(以下、バルクキャリアという)の船倉側壁の構造部材すなわちホールドフレームは船倉内に露出しているため、隅肉溶接部の腐食衰耗を発生することは避けられない。その結果、フレーム強度や溶接強度が低下するため、沈没等の事故が発生している。
【0003】
従来、ホールドフレームの点検のために、固定式の足場や梯子が用いられていたが、固定式の足場や梯子では、点検箇所ごとに設置する必要があるという設備上の問題があるだけでなく、それらの足場や梯子と船倉側壁との隙間にばら積みの貨物(鉄鉱石、石炭、穀物類)が残存したり、足場や梯子それ自体が障害物となるため、貨物の荷役作業の際の邪魔になるという問題がある。
一方、このような問題点を解決するために、船側外板の内面または内壁に船首尾方向に設けられた縦骨を利用し、点検のための作業用ゴンドラを吊り下げて移動するようにした走行揚重装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−144688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されるような点検装置では、縦骨方式の船体構造にしか適用できず、ホールドフレーム方式(肋骨方式)の船体構造には適用できないという問題がある。
一方、バルクキャリアの沈没事故等に鑑み、バルクキャリアの安全性に関し、船側を二重構造にする提案もあったが合意に至らず、本年5月の国際海事機関(IMO)の決議では、船倉側壁の構造部材の点検手段としてポータブル梯子の使用が認められることになった。
【0006】
本発明は、上記IMOの決議に伴って案出されたもので、簡単な構成で構造部材の点検を容易かつ確実に行うことができ、点検終了後は荷役に支障のない場所に格納することのできる船倉側壁構造部材の点検装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る船倉側壁構造部材の点検装置は、上端部が前記船倉側壁に沿って船首尾方向に設けたガイドレールに回動かつ摺動可能に掛止された折り畳み可能な点検用梯子と、前記船倉の上部バラストタンクの壁面に設けられ、ワイヤにより前記点検用梯子を折り畳んで前記上部バラストタンクの壁面に沿って格内する格納部とを備えたものである。
【0008】
また、本発明に係る船倉側壁構造物の点検装置は、上端部が前記船倉側壁に沿って船首尾方向に設けたガイドレールに回動かつ摺動可能に掛止された第1の梯子、該第1の梯子に折り畳み可能に連結された第2の梯子からなり、これら第1、第2の梯子の連結部近傍及びその上方にそれぞれ滑車が設けられ、前記第2の梯子の下端部近傍に係合部が設けられた点検用梯子と、先端部に係止部を有し、ドラムに巻かれたワイヤを備えたウインチを前記船倉の上部バラストタンクの壁面に取付けた格納部とを有し、前記構造部材の点検が終ったときは前記ワイヤを前記点検用梯子に設けた滑車に掛けたのち前記係止部を該点検用梯子に設けた係合部に着脱可能に係止し、該ワイヤを巻取ることにより前記点検用梯子を折り畳んで前記上部バラストタンクの壁面に沿って格納するように構成したものである。
【0009】
さらに、上記の点検用梯子の下端部に車輪を回動可能に装着した。
また、上記点検用梯子を、ガイドレールに沿って移動させる駆動装置を設けた。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る点検装置は、ガイドレールに沿って点検用梯子を移動させて構造部材を順次点検し、点検が終ったときは格納部により点検用梯子を引き上げて上部バラストタンクの壁面に沿って格納するようにしたので、構造部材の点検を容易かつ確実に行えるばかりでなく、船倉への積荷作業や揚荷作業に支障を来たすことがなく、荷役作業性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図8はばら積み貨物船を縦断面で表わした模式図である。図において、1は船体、2は外側板(船倉側壁)3、船底外板4及び甲板5で囲まれた船倉で、甲板5にはハッチ6が設けられている。7a,7bは船倉2の上部両側に設けた上部バラストタンク、8a,8bは船倉2の底部及びその両側に設けた下部バラストタンク、9は船倉底板(以下、船底という)である。そして、上下のバラストタンク7aと8a、7bと8bの間の外側板3の内壁の船首尾方向には、補強のために所定の間隔(例えば、800〜850mm)で、上下方向に構造部材であるホールドフレーム10が設けられている。20は船底9と上部バラストタンク7a(又は7b)の下端部との間に、船首尾方向に移動可能に配設された船倉側壁構造部材の点検装置である。以下、この点検装置20について詳細に説明する。
【0012】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係る点検装置の正面図、図2はその側面図である。
図において、21は軽量で強度の高い例えばFRPの如き材料からなり、点検装置20を構成する点検用梯子で、第1の梯子である上梯子22と第2の梯子である下梯子23とからなり、両梯子22,23はヒンジ25により回動(折り畳み)可能に連結されている。なお、ヒンジ25にロック手段を設けてもよい。
また、上梯子22の両支柱の上端部は内側にほぼ円弧状に折り曲げられて掛止部24が形成されている。なお、両支柱の上端部を折り曲げる代りに、別に設けた掛止部を取付けてもよい。
【0013】
26a,26bは両梯子22,23の連結部近傍の両側に設けられた第1の滑車、27a,27bは第1の滑車26a,26bの上方において、上梯子22の両側に設けた第2の滑車である。なお、この第2の滑車27a,27bは、第1の滑車26a,26bの上方において、下梯子23の長さより短かい高さ位置に設けることが望ましい。28a,28bは下梯子23の両支柱の下端部近傍に設けた係合部を形成するフック継手である。なお、この点検用梯子21の長さは船倉2の大きさによって異なるが、10m以上に達することもあり、このため、図には短かくして示してある。
30は船倉2の船首尾方向において両側壁3の内壁に沿って設けたガイドレールで、点検用梯子21の掛止部24が回動かつ摺動可能に掛止される。
【0014】
31は、先端部に係止部を形成するフック35を有するワイヤ又はナイロンロープ35(以下、ワイヤという)の巻取ドラム33を有し、モータ36によって駆動される一対のウインチ32a,32bからなる格納部で、ガイドレール30の船首側若しくは船尾側の端部近傍、又はその間において、ガイドレール30の上方の上部バラストタンク7a,7bの壁面に設置されている。
【0015】
次に、上記のように構成した点検装置20によるホールドプレート10の点検要領の一例について説明する。
先ず、例えば、船首側に格納部31が設けられている場合は、船尾側において点検用梯子21の上端部に設けた掛止部24をガイドレール30に掛止すると共に、下梯子23を図2に破線で示すように、ヒンジ25により下部バラストタンク8aの壁面に沿って矢印方向に折り曲げる。このとき、必要に応じてヒンジ25をロックしてもよく、また、下梯子23の下端部を船底9に当接させてもよい。
【0016】
この状態で、点検者が点検用梯子21に昇り、当面するホールドプレート10を点検する。当該ホールドプレート10の点検が終ったときは、点検用梯子21をそのままの状態でガイドレール30に沿って移動し、隣接する次のホールドプレート10の点検を行う。このようにして順次ホールドプレート10の点検を行う。
【0017】
すべてのホールドプレート10の点検が終り、点検用梯子21が船首側に達したときは、図3、図4に示すように、ウインチ32a,32bからそれぞれワイヤ34を繰り出して、第1の滑車26a,26bに掛けたのち第2の滑車27a,27bに掛け、ついで、フック35を下梯子23の下端部に設けたフック継手28a,28bにそれぞれ係止する。
【0018】
そして、図5(a)に示すように、ウインチ32a,32bによりワイヤ34を矢印方向に巻き取る。これにより、図5(b)に示すように、下梯子23はヒンジ25を中心に矢印方向に回動して折り畳まれ、上梯子22とほぼ平行に保持される。
さらにワイヤ34を巻き取ると、図5(c)に示すように、点検用梯子21はガイドレール30を中心に矢印方向に回動して引き上げられ、上部バラストタンク7aの外面に沿って保持され、その位置に格納される。
【0019】
この場合、格納部31が設けられている側から点検作業を開始した場合、又はガイドレール30の船首尾方向の間に格納部31が設けられている場合は、ホールドプレート10の点検が終ったときは、点検用梯子21をガイドレール30に沿ってその位置まで移動すればよい。そのため、格納部31をガイドレール30の船首尾側の両方に設けておけば、船首尾側のどちらから点検作業を開始しても、点検が終了するとその場で点検用梯子21を格納できるので便利である。
【0020】
ホールドプレート10の点検を行う場合は、格納されている点検用梯子21を、ウインチ32a,32bに巻かれたワイヤ34を繰出して、前記と反対の順席で展開し、図3、図4の状態に戻してフック継手28a,28b、第1、第2の滑車26a,26b,27a,27bからワイヤ34を外してウインチ32a,32bの巻取りドラム33に巻取り、図1、図2の状態にする。そして、前述の要領で順次ホールドプレート10の点検を行い、点検が終ったときは再び格納部31により点検用梯子21を格納する。
【0021】
上記の説明では、点検装置20を構成する点検用梯子21を軽量化するために、FRPで形成した場合を示したが、その一部又は全部を例えばアルミニウム等の金属材料で形成してもよい。
また、格納部31のウインチ32a,32bをそれぞれモータ36で駆動する場合を示したが、両巻取りドラム33を1台のモータで駆動してもよく、また、両ワイヤ34を1台の巻取りドラムにより巻取り、繰出しを行うようにしてもよい。
【0022】
本実施の形態によれば、折り畳み可能な点検用梯子21を、船倉側壁に沿って船首尾方向に設けたガイドレール30に回動かつ摺動可能に掛止してホールドプレート10を順次点検し、点検が終ったときは格納部31により点検用梯子21を折り畳んで引き上げ、上部バラストタンク7a(7b)の内壁に沿って保持し、格納するようにしたので、ホールドプレート10の点検を容易かつ確実に行えるばかりでなく、船倉2への貨物の積荷作業や揚荷作業に支障を来たすことがなく、荷役作業性を向上することができる。
【0023】
[実施の形態2]
図6は本発明の実施の形態2に係る点検装置の要部の説明図である。
本実施の形態は、実施の形態1に係る点検装置20において、点検用梯子21の下梯子23の支柱の下端部に、車輪37a,37bを回動可能に設けたものである。なお、車輪37a,37bにロック機構を設けてもよい。
このように構成したことにより、点検用梯子21をガイドレール30に沿って船首尾方向に円滑かつ迅速に移動させることができるので、ホールドプレート10の点検作業性を向上することができる。
【0024】
[実施の形態3]
図7は本発明の実施の形態3に係る点検装置の要部の説明図である。
本実施の形態は、実施の形態1又は2に係る点検装置20において、ガイドレール30の両端部近傍の船倉側壁等にプーリ39a,39bを設け、この両プーリ39a,39b間に掛けたワイヤ40の両端部に設けた例えばフックを、点検用梯子21の支柱の上端部近傍に設けた例えばフック継手に着脱可能に連結するようにしたものである。41は一方のプーリ(例えば、39b)に連結された可逆モータで、これらにより点検用梯子21の駆動装置38を構成する。
【0025】
本実施の形態においては、点検用梯子21に設けた掛止部24をガイドレール30に係止させ、ワイヤ40の両端部に設けたフックを点検用梯子21に設けたフック継手に連結する。そして、可逆モータ41を駆動し、ワイヤ40を介して、点検用梯子21をガイドレール30に沿って船首尾方向に移動させてホールドプレート10を点検し、点検が終ったときは格納部31により格納するようにしたので、実施の形態1、2の効果に加えて、ホールドプレート10の点検作業性をより向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態1に係る点検装置の正面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1の点検用梯子に格納部のワイヤを掛けた状態を示す正面図である。
【図4】図3の側面図である。
【図5】実施の形態1の点検用梯子の格納作用の説明図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る点検装置の要部の説明図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る点検装置の要部の説明図である。
【図8】ばら積み貨物船を縦断面で示した模式図である。
【符号の説明】
【0027】
2 船倉、3 側壁、5 甲板、7a,7b 上部バラストタンク、8a,8b 下部バラストタンク、10 構造部材(ホールドフレーム)、20 点検装置、21 点検用梯子、22 上梯子、23 下梯子、24 掛止部、25 ヒンジ、26a,26b 第1の滑車、27a,27b 第2の滑車、28a,28b 係合部、30 ガイドレール、31 格納部、32a,32b ウインチ、34 ワイヤ、35 係止部、37a,37b 車輪、38 駆動装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貨物船の船倉側壁に設けた構造部材を点検する装置であって、
上端部が前記船倉側壁に沿って船首尾方向に設けたガイドレールに回動かつ摺動可能に掛止された折り畳み可能な点検用梯子と、
前記船倉の上部バラストタンクの壁面に設けられ、ワイヤにより前記点検用梯子を折り畳んで前記上部バラストタンクの壁面に沿って格内する格納部とを備えたことを特徴とする船倉側壁構造部材の点検装置。
【請求項2】
貨物船の船倉側壁に設けた構造部材を点検する装置であって、
上端部が前記船倉側壁に沿って船首尾方向に設けたガイドレールに回動かつ摺動可能に掛止された第1の梯子、該第1の梯子に折り畳み可能に連結された第2の梯子からなり、これら第1、第2の梯子の連結部近傍及びその上方にそれぞれ滑車が設けられ、前記第2の梯子の下端部近傍に係合部が設けられた点検用梯子と、
先端部に係止部を有し、ドラムに巻かれたワイヤを備えたウインチを前記船倉の上部バラストタンクの壁面に取付けた格納部とを有し、
前記構造部材の点検が終ったときは前記ワイヤを前記点検用梯子に設けた滑車に掛けたのち前記係止部を該点検用梯子に設けた係合部に着脱可能に係止し、該ワイヤを巻取ることにより前記点検用梯子を折り畳んで前記上部バラストタンクの壁面に沿って格納するように構成したことを特徴とする船倉側壁構造部材の点検装置。
【請求項3】
前記点検用梯子の下端部に、車輪を回動可能に装着したことを特徴とする請求項1又は2記載の船倉側壁構造部材の点検装置。
【請求項4】
前記点検用梯子を、前記ガイドレールに沿って移動させる駆動装置を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の船倉側壁構造部材の点検装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−21712(P2006−21712A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203392(P2004−203392)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)