説明

船倉側壁構造部材の点検装置

【課題】 持ち運びや収納が簡単で、バルクキャリアの船倉側壁の高所に容易に近づくことができ、構造部材の点検を容易かつ確実に行うことができる船倉側壁構造部材の点検装置を提供する。
【解決手段】 上甲板21から船倉23内へ上部バラストタンク22を貫通するように設けられた複数のパイプ5と、上甲板上に設置される可搬式の複数のウインチ3と、前記ウインチ3により前記パイプ5の中を通して船倉側壁構造部材(ホールドフレーム24)の前面で水平に吊り下げられるレール2と、このレール2に沿って移動するゴンドラ吊下用移動体14と、このゴンドラ吊下用移動体14を介して前記レール2に吊り下げられるゴンドラ1とを備えた構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばら積み貨物船の船倉側壁構造部材の点検装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ばら積み貨物船(以下、バルクキャリアという)の船倉側壁の構造部材すなわちホールドフレームは船倉内に露出しているため、隅肉溶接部の腐食衰耗を発生することは避けられない。その結果、フレーム強度や溶接強度が低下するため、沈没等の事故が発生している。
【0003】
従来、ホールドフレームの点検のために、固定式の足場や梯子が用いられていたが、固定式の足場や梯子では、点検箇所ごとに設置する必要があるという設備上の問題があるだけでなく、それらの足場や梯子と船倉側壁との隙間にばら積みの貨物(鉄鉱石、石炭、穀物類)が残存したり、足場や梯子それ自体が障害物となるため、貨物の荷役作業の際の邪魔になるという問題がある。
一方、このような問題点を解決するために、船側外板の内面または内壁に船首尾方向に設けられた縦骨を利用し、点検のための作業用ゴンドラを吊り下げて移動するようにした走行揚重装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−144688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されるような点検装置では、縦骨方式の船体構造にしか適用できず、ホールドフレーム方式(肋骨方式)の船体構造には適用できないという問題がある。
一方、バルクキャリアの沈没事故等に鑑み、バルクキャリアの安全性に関し、船側を二重構造にする提案もあったが合意に至らず、本年5月の国際海事機関(IMO)の決議では、船倉側壁の構造部材の点検手段としてポータブル梯子の使用が認められることになった。
【0006】
本発明は、上記IMOの決議に伴い案出されたもので、持ち運びや収納が簡単で、バルクキャリアの船倉側壁の高所に容易に近づくことができ、構造部材の点検を容易かつ確実に行うことができる船倉側壁構造部材の点検装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る船倉側壁構造部材の点検装置は、上甲板から船倉内へ上部バラストタンクを貫通するように設けられた複数のパイプと、上甲板上に設置される可搬式の複数のウインチと、前記ウインチにより前記パイプの中を通して船倉側壁構造部材の前面で水平に吊り下げられるレールと、このレールに沿って移動するゴンドラ吊下用移動体と、このゴンドラ吊下用移動体を介して前記レールに吊り下げられるゴンドラとを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、前記複数のパイプは、上端に浸水を防ぐ蓋を有し、船倉側壁の形状に合わせて左舷および右舷に列状に設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、前記レールは、軽量な材料により構成され、かつ適当な長さに分解し組み立てられる分解組立式の構成であることを特徴とする。
【0010】
また、前記レールは、レール吊下用ブラケットにより支持されて前記ウインチにワイヤ掛けされることを特徴とする。
【0011】
また、前記ゴンドラは、軽量な材料により構成され、かつ分解し組み立てられる分解組立式の構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の船倉側壁構造部材の点検装置は、上記のように構成されているので、上甲板上に設置された可搬式のウインチによりワイヤをパイプの中を通してレールを船側側壁構造部材の前面で水平に段階的に昇降させることができる。そしてこのレールにゴンドラ吊下用移動体を介してゴンドラを吊り下げることにより、検査員もしくは作業者はゴンドラに乗ったままでゴンドラ吊下用移動体を横に移動させることによりその高さ位置における構造部材の腐食衰耗の程度、状況等を点検することができる。よって、ゴンドラを段階的に昇降させることで、その船倉の片側の側壁における全ての構造部材に対する点検を容易かつ確実に行うことができる。さらに、ウインチやレールなどは、使用しないときは船倉外の適当な格納場所に格納されているので、荷役作業や甲板上での作業の邪魔にならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の一例を図面に基づいて説明する。図1はこの実施の形態を示す船倉側壁構造部材の点検装置の概要図で、バルクキャリアの断面図とともに示してある。図2、図3はこの点検装置をわかりやすく拡大して示す正面図と側面図である。また、図4はレールとレール吊下用ブラケットの取付構造図で、(a)は側面図、(b)は正面図である。図5はレールの接続構造図で、(a)は側面図、(b)は平面図、図6は他の例を示すレールの接続構造図で、(a)は正面図、(b)は断面側面図である。
【0014】
本発明の船倉側壁構造部材の点検装置は、簡単にいえば、人が乗るゴンドラ1をレール(モノレール)2を介してバルクキャリア20の上甲板21上に設置した可搬式のウインチ3により吊り下げてなるものである。ウインチ3のワイヤ4は、上甲板21から上部バラストタンク22を貫通するように鉛直に設けられたパイプ5の中を通して下部の船倉23内へ降ろされる。パイプ5は、左舷および右舷に、上面から見て列状に複数設けられる。すなわち、船側側壁の形状に合わせてその近傍に列設される。したがって、船体前後の船倉23の場合は、その船倉側壁のカーブに合わせて複数のパイプ5を設ける。また、各パイプ5の上端には浸水を防ぐための蓋6が設けられており、使用しないときには蓋6を閉めて船倉23内に水が入らないようになっている。
【0015】
上甲板21上には可搬式のウインチ3が設置される。例えば、ポータブルダビット7上にウインチ3を装備し、船倉側壁構造部材すなわちホールドフレーム24の点検を行う際にだけ格納場所から運び出してパイプ5の近傍に設置する。ウインチ3は左舷または右舷の片側のパイプ5ごとに設置される。
【0016】
ホールドフレーム24は一般にT形鋼等の部材から構成されており、船側外板25の内面に船首尾方向に所定の間隔でウェブを隅肉溶接により固着されている。このホールドフレーム24の隅肉溶接部が長年月が経過すると腐食衰耗するので、その腐食衰耗の程度、状況等(減肉や変形、錆の発生等)を点検し、隅肉溶接部の腐食衰耗の程度等によってはホールドフレーム24の補強や修理・補修等を行う。
【0017】
レール2は、例えばH形断面のアルミやFRPなどの軽量材料により構成されており、格納や搬出入が容易なように、適当な長さに分解し組み立てられる分解組立式の構成となっている。このレール2は、図2乃至図4に示すように、フック状に形成された複数のレール吊下用ブラケット8によって支持されている。レール2とレール吊下用ブラケット8との接合は、例えば、レール2のウェブ下部内にブラケット8の取付部9を挿入し、この取付部9とレール2のフランジをボルト・ナット10で固定することで接合している。
【0018】
レール2の接続は、例えば図5のようになっている。すなわち、レール2の両側のフランジ同士を接続板11とボルト・ナット10により接続する。あるいは、図6のように、溝形断面の接続板12をレール2のウェブ下部内にあてがい、それらのフランジ部をボルト・ナット10により固定することでレール2同士を接続することもできる。組立(接続)されたレール2は、レール吊下用ブラケット8を介してウインチ3のワイヤ4によりホールドフレーム24の前面で水平に吊り下げられる。
【0019】
接続されたレール2上には複数の車輪13を備えたゴンドラ吊下用移動体14が懸架される。ゴンドラ吊下用移動体14の車輪15はレール2のウェブ上面を移動するように係合されている。このゴンドラ吊下用移動体14に人が乗るゴンドラ1がワイヤ15により吊り下げられる。ゴンドラ吊下用移動体14は、手動もしくは電動モータまたはエアモータによりレール2上を移動する。なお、図2、図3に示す例では電動モータ16により車輪13を駆動するようになっている。
【0020】
ゴンドラ1は、安全のために手摺17を備えており、ホールドフレーム24に対面した状態でゴンドラ吊下用移動体14によりレール2に沿って船首尾方向に移動(横移動)することができる。また、ゴンドラ1および手摺17は、格納や搬出入が容易なように、分解し組み立てられる分解組立式の構成となっており、さらにアルミやFRPなどの軽量な材料により構成されている。
【0021】
この実施の形態の点検装置は上記のように構成されている。そこで、船倉側壁の例えば左舷側の構造部材であるホールドフレーム24を点検する際には、まず、点検対象の船倉23のばら積み貨物を搬出後、格納場所からウインチ3およびポータブルダビット7を運び出し上甲板21の左舷側のパイプ5の近傍に設置する。一方、分解して格納されているレール部分やゴンドラ部分、その他レール吊下用ブラケット8やゴンドラ吊下用移動体14等を格納場所から運び出し、点検対象の船倉23内に開口部26から搬入して、まずレール2およびゴンドラ1を組み立てる。組み立てられたレール2には、上述のように、所定の間隔でレール吊下用ブラケット8を取り付ける。
【0022】
ついで、各ウインチ3のワイヤ3をそれぞれのパイプ5の中を通して船倉23の底部まで降ろし、上記のレール吊下用ブラケット8にワイヤ掛けを行い、レール2をレール吊下用ブラケット8により静かにつり上げて水平に保つ。その後、レール2上にゴンドラ吊下用移動体14の車輪13を係合し懸架し、さらにゴンドラ1をワイヤ15によりゴンドラ吊下用移動体14にワイヤ掛けして吊り下げる。このゴンドラ1上に検査員もしくは作業者が乗り、ゴンドラ1を複数のウインチ3により静かに持ち上げ、水平に吊り下げる。これによりゴンドラ1は上甲板21上のウインチ3によりホールドフレーム24に対面した状態で水平に吊り下げられる。ゴンドラ1を最上部または最下部などの位置で停止させ、検査員等はゴンドラ1上を乗ったままゴンドラ吊下用移動体14をレール2に沿って手動もしくは電動モータ16等により横に移動しながらその高さ位置におけるホールドフレーム24の溶接部等を点検する。
【0023】
ついで、ゴンドラ1を下方へ、あるいは上方へ昇降・停止させ、同様にその高さ位置のホールドフレーム24の溶接部等を点検する。このように、ゴンドラ1を段階的に昇降と停止を繰り返し、その都度ゴンドラ吊下用移動体14をレール2に沿って横移動させながら点検することにより、船倉23の左舷側の全てのホールドフレーム24に対する点検を行うことができる。
【0024】
上述のように、船倉23の左舷側のホールドフレーム24に対する点検が終わったら、ゴンドラ1およびレール2のワイヤ掛けを外し、ウインチ3およびポータブルダビット6を右舷側に移して、上記同様に右舷側のホールドフレーム24の点検を行う。
そして、各船倉23ごとに、順番に、または場合によっては複数の船倉23について同時並行的に、ホールドフレーム24の点検を行う。点検終了後は、上記と逆手順によりゴンドラ1やレール2等を分解して船倉外に搬出し元の格納場所に格納する。ウインチ3やポータブルダビット6も同様に元の格納場所に格納する。
【0025】
以上のように、この点検装置によれば、船倉側壁の高所に安全にアクセスすることができ、ホールドフレーム24の点検や補強作業などを容易かつ確実に行うことができる。また、点検等の作業は、バルクキャリアがドック内に入っている間だけでなく、船倉が空であれば停泊中や航海中であっても随意に実施することができる。また、船体構造が肋骨方式、縦骨方式の如何に拘わらず適用することができる。
さらに、ゴンドラ1およびレール2は、アルミやFRPなどの軽量な材料で分解組立式に構成されているので持ち運びが容易であり、また使用しないときには船倉外の格納場所に収納しておけばよいので、船倉側壁の構造部材には梯子等のような固定設備が何も存在しない。したがって、従来のようにこれらの固定設備との隙間にばら積み貨物が残存するようなこともないし、荷役作業の邪魔になることも全くない。
【0026】
なお、ゴンドラ吊下用移動体14には、脱輪を防止するために、レール2のフランジ側面を挾持して回転するようにしたガイド輪や安全索等を設ける。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態による船倉側壁構造部材の点検装置の概要図。
【図2】図1の点検装置の拡大正面図。
【図3】図1の点検装置の拡大側面図。
【図4】レールとレール吊下用ブラケットの取付構造図で、(a)は側面図、(b)は正面図。
【図5】レールの接続構造図で、(a)は側面図、(b)は平面図。
【図6】他の例を示すレールの接続構造図で、(a)は正面図、(b)は断面側面図。
【符号の説明】
【0028】
1 ゴンドラ
2 レール
3 ウインチ
4 ワイヤ
5 パイプ
6 蓋
7 ポータブルダビット
8 レール吊下用ブラケット
9 取付部
10 ボルト・ナット
11 接続板
12 接続板
13 車輪
14 ゴンドラ吊下用移動体
15 ワイヤ
16 電動モータ
17 手摺
20 バルクキャリア
21 上甲板
22 上部バラストタンク
23 船倉
24 ホールドフレーム
25 船側外板
26 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上甲板から船倉内へ上部バラストタンクを貫通するように設けられた複数のパイプと、上甲板上に設置される可搬式の複数のウインチと、前記ウインチにより前記パイプの中を通して船倉側壁構造部材の前面で水平に吊り下げられるレールと、このレールに沿って移動するゴンドラ吊下用移動体と、このゴンドラ吊下用移動体を介して前記レールに吊り下げられるゴンドラとを備えたことを特徴とする船倉側壁構造部材の点検装置。
【請求項2】
前記複数のパイプは、上端に浸水を防ぐ蓋を有し、船倉側壁の形状に合わせて左舷および右舷に列状に設けられていることを特徴とする請求項1記載の船倉側壁構造部材の点検装置。
【請求項3】
前記レールは、軽量な材料により構成され、かつ適当な長さに分解し組み立てられる分解組立式の構成であることを特徴とする請求項1記載の船倉側壁構造部材の点検装置。
【請求項4】
前記レールは、レール吊下用ブラケットにより支持されて前記ウインチにワイヤ掛けされることを特徴とする請求項3記載の船倉側壁構造部材の点検装置。
【請求項5】
前記ゴンドラは、軽量な材料により構成され、かつ分解し組み立てられる分解組立式の構成であることを特徴とする請求項1記載の船倉側壁構造部材の点検装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−21724(P2006−21724A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203593(P2004−203593)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)