説明

船外機のギアの支持構造

【課題】駆動ギアと、それに噛み合うフォワードギアを有する船外機の逆転機構において、フォワードギアに大きな負荷がかかった場合であっても、フォワードギアと駆動ギアとの歯当たりを適正な状態に維持する。
【解決手段】カウンターローテーション仕様の船外機のギアの支持構造であって、エンジンから伝達される回転動力によって回転する駆動ギアと、前後方向に貫通する筒状の構成を有し、駆動ギアの後側に配設されて駆動ギアと噛み合うフォワードギア52と、推進用のプロペラが取り付けられ、フォワードギア52を貫通して回転可能に配設されるプロペラシャフト29と、フォワードギア52の内周とプロペラシャフト29の外周との間に設けられる円錐コロ軸受34と、フォワードギア52に後向きの予圧を付与する予圧付与部材54とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機のギアの支持構造に関する。詳しくは、カウンターローテーション(C/R)仕様の船外機の逆転機構において、前進時にプロペラシャフトに回転動力を伝達するギア(フォワードギア)の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来一般の船外機は、エンジンの回転動力が伝達されるドライブシャフトと、推進用のプロペラが設けられるプロペラシャフトと、ドライブシャフトの回転をプロペラシャフトに断続可能に伝達するとともにプロペラシャフトの回転を切替える逆転機構とを有する。逆転機構は、ドライブシャフトに設けられる駆動ギアと、駆動ギアと噛み合って互いに反対方向に回転するフォワードギアおよびリバースギアと、フォワードギアとリバースギアの任意の一方の回転をプロペラシャフトに伝達するクラッチ機構とを含む。フォワードギアの回転がプロペラシャフトに伝達されると、船外機が前進する。また、リバースギアの回転がプロペラシャフトに伝達されると、船外機が後進する。このように、フォワードギアとリバースギアのいずれを介して回転動力を伝達するかを切替えることによって、船外機の前後進を切替えることができる。なお、一般的に、船舶の後進時に必要とされる推進力は、前進時と比較して小さい。このため、後進時にリバースギアにかかる負荷は、前進時にフォワードギアにかかる負荷よりも小さい。したがって、リバースギアの支持構造をフォワードギアの支持構造に比較して簡素化できる。
【0003】
ところで、大型のモーターボートなどの船舶には、大きな推進力を得るために、複数の船外機を搭載することがある。船外機は、プロペラを回転させて推進力を発生させる構成であるため、プロペラの回転の反力によって船舶にヨーイングが生じることがある。そこで、ヨーイングを防止または抑制するため、船舶に複数の船外機を搭載する場合には、レギュラーローテーション仕様(以下、「R/R仕様」と記す)の船外機と、カウンターローテーション仕様(以下、「C/R」仕様と記す)の船外機の両方を搭載するという構成が用いられることがある。R/R仕様の船外機のプロペラおよびプロペラシャフトは、前進時において後方から見て右回転し、C/R仕様の船外機のプロペラおよびプロペラシャフトは左回転する。このように、R/R仕様の船外機とC/R仕様の船外機とでは、プロペラの回転方向が反対であるため、プロペラの回転の反力が相殺される。したがって、ヨーイングが防止または低減される。
【0004】
C/R仕様の船外機には、エンジンやドライブシャフトや逆転機構などに、R/R仕様の船外機と共通の構成が適用されるものがある。このような構成とすることにより、R/R仕様の船外機とC/R仕様の船外機とで、構成や部品等の共通化を図ることができる。このようなC/R仕様の船外機においては、エンジンやドライブシャフトの回転方向が、R/R仕様の船外機と同じになる。このため、R/R仕様の船外機とC/R仕様の船外機とは、フォワードギアとリバースギアの回転方向と船外機の前後進の向きとの関係が反対である。このため、C/R仕様の船外機においては、R/R仕様の船外機のリバースギアがフォワードギアとして機能し、R/R仕様の船外機のフォワードギアがリバースギアとして機能する。
【0005】
一般的なR/R仕様の船外機においては、駆動ギアの前側にフォワードギアが設けられ、駆動ギアの後側にリバースギアが設けられる。このため、R/R仕様の船外機においては、前進する場合にフォワードギアに大きな負荷がかかると、この負荷によってフォワードギアを後側に変位させる力が作用する。また、船外機が前進する場合には、プロペラシャフトにはプロペラの推進力によって前側に押される力が掛かる。このため、フォワードギアを後側に変位させる力は、プロペラシャフトが前側に押される力によって相殺される。これに対して、C/R仕様の船外機においては、駆動ギアの後側にフォワードギアが設けられる。そして、船外機が前進する場合にフォワードギアに大きな負荷がかかると、この負荷によってフォワードギアには前側に変位する力が作用する。この力は、プロペラシャフトにかかる力と同じ向きであるため、相殺されない。この結果、フォワードギアが前側に変位して駆動ギアに接近し、歯当たりが変化するおそれがある。特に、フォワードギアと駆動ギアとが、いわゆる「底当たり」の状態で噛み合うおそれがある。そうすると、フォワードギアの耐久性が低下するおそれがある。
【0006】
なお、特許文献1には、ギアハウジングの内部に配設される部品類の着脱作業性を向上させるとともに、ベベルギアの歯当たりの調整を容易にするための構成が開示されている。しかしながら、特許文献1には、ベベルギアに負荷がかかった場合に適正な歯当たりを維持するための構成は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−268689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、船外機の逆転機構において、フォワードギアに大きな負荷がかかった場合であっても、フォワードギアが変位して駆動ギアとの歯当たりが変化することを防止または抑制して、フォワードギアの耐久性の向上を図ることである。特に、C/R仕様の船外機の逆転機構において、フォワードギアが前側に変位することを防止または抑制してフォワードギアと駆動ギアとの歯当たりの変化を防止または抑制し、フォワードギアの耐久性の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、カウンターローテーション仕様(C/R仕様)の船外機のギアの支持構造であって、回転動力源から伝達される回転動力によって回転する駆動ギアと、前後方向に貫通する筒状の構成を有し、前記駆動ギアの後側に配設されて前記駆動ギアと噛み合うフォワードギアと、推進用のプロペラが取り付けられ、前記フォワードギアを貫通して回転可能に配設されるプロペラシャフトと、前記フォワードギアの内周と前記プロペラシャフトの外周との間に設けられる円錐コロ軸受と、前記フォワードギアに前記円錐コロ軸受を介して後側への予圧を付与する予圧付与部材と、を有することを特徴とする。
【0010】
前記フォワードギアは、前進時において前記回転動力源からの回転動力を前記プロペラシャフトに伝達するギアであることを特徴とする。
【0011】
前記予圧付与部材は、円環状に形成されるシムであることを特徴とする。
【0012】
前記プロペラシャフトの外周には半径方向外側に突出するリブが形成され、前記円錐コロ軸受は前記リブの後側に配設されるとともに、前記予圧付与部材は前記リブと前記円錐コロ軸受との間に配設されることを特徴とする。
【0013】
前記円錐コロ軸受は、円錐コロの頂点側が後方に向けられて配設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プロペラシャフトとフォワードギアとの間に介在する予圧付与部材が、フォワードギアを進行方向後方に向かって予圧を付与する。そして、フォワードギアに作用する力のうち、フォワードギアを前側に変位させるように作用する分力は、予圧付与部材の予圧によって相殺される。このため、フォワードギアが前側に変位することを防止して、フォワードギアと駆動ギアとの位置関係が変化することを防止する。したがって、フォワードギアと駆動ギアとの歯当たりの状態を適正な状態に維持できるから、フォワードギアの耐久性の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施形態にかかる船外機の構成を示す側面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態にかかる船外機の内部構造を模式的に示す部分断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態にかかる船外機のロアユニットの内部構成を模式的に示す断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態にかかる船外機のロアユニットの内部のうち、逆転機構およびその近傍を拡大して示す断面図である。
【図5】図5は、フォワードギアの支持構造を模式的に示す断面図であり、図4の一部を抜き出して拡大した図である。
【図6】図6は、プロペラシャフトおよび逆転機構の構成を模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の実施形態にかかる船外機(以下、「本船外機1」と略して記す)は、C/R仕様の船外機である。すなわち、後方から見てプロペラ39が左回転すると本船外機1が前進する。なお、本船外機1は、C/R仕様専用の船外機であってもよく、R/R仕様とC/R仕様の両方に対応する船外機(=仕様を変更可能な船外機)であってもよい。
【0017】
まず、本船外機1の全体的な構成について、図1〜図3を参照して説明する。図1は、本船外機1の構成を模式的に示す側面図である。図2は、本船外機1の構成を模式的に示す部分断面図である。図3は、本船外機1のロアユニット103の内部構造を模式的に示す断面図である。説明の便宜上、本船外機1の「前」「後」「右」「左」「上」「下」の各向きは、本船外機1が取り付けられた船舶9の向きを基準とする。本船外機1を構成する各部材の向きについても同様とする。各図においては、本船外機1の前側を矢印Frで、後側を矢印Rrで、上側を矢印Tpで、下側を矢印Btで示す。図1と図2に示すように、本船外機1は、その前側が船舶9の船尾板91(トランザムボード)に固定されて使用される。
【0018】
本船外機1は、最も上側に位置するエンジンユニット101と、その下側に位置するミッドユニット102と、最も下側に位置するロアユニット103とを有する。エンジンユニット101とミッドユニット102には、いずれもカバー部材17,18が取り付けられている。そして、それぞれの内部に配置される機器類は、カバー部材17,18によって覆われる。
【0019】
エンジンユニット101には、回転動力源としてのエンジン11が配置される。エンジン11は、クランクシャフトが略垂直となる姿勢で配置される。また、エンジン11は、エンジンユニット101の下部に設けられるエンジンベース12に支持される。エンジン11には、たとえばV型エンジンが適用される。V型エンジンは、たとえば、クランクシャフトが前側に位置し、シリンダおよびピストンが後側に位置する態様で配置される。エンジンユニット101の前下部には、アクチュエータ13が配置される。アクチュエータ13は、逆転機構5(後述)を動作させて、本船外機1の前進と後進と中立とを切替える。アクチュエータ13には、上側シフトロッド14(後述)を正逆の両方向に所定の角度だけ回転させることができる。なお、アクチュエータ13は、前記動作ができる装置であればよく、具体的な構成は限定されない。したがって、公知の各種アクチュエータが適用できる。このほか、エンジンユニット101には、エンジン11を制御するエンジンコントロールユニット(ECU)や、燃焼用の空気を取り入れる吸気装置などが配設される(いずれも図略)。
【0020】
ミッドユニット102には、ドライブシャフト21と、冷却水用の水タンク24と、潤滑油用のオイルパン25と、冷却水ポンプ26と、上側シフトロッド14とが収容される。ドライブシャフト21は、その軸線方向が略垂直であり、ミッドユニット102を上下方向に貫通するように配置される。ドライブシャフト21の上端部は、エンジン11のクランクシャフトに結合される。そして、ドライブシャフト21は、エンジン11のクランクシャフトの回転動力が伝達されて回転する。ドライブシャフト21の下端部は、ミッドユニット102の下側からさらに突出しており、ロアユニット103の内部に入り込んでいる。水タンク24は、ミッドユニット102の上部において、ドライブシャフト21の後側に隣接して配置される。オイルパン25は、水タンク24の後側に配置される。水タンク24の底部からは、冷却水パイプ28が下方に向かって引き出される。冷却水パイプ28の下端は、冷却水ポンプ26に接続される。冷却水ポンプ26は、取水管37を介して、ロアユニット103に設けられる取水口38と接続される。冷却水ポンプ26は、取水口38および取水管37を通じて外部から水を吸引し、冷却水パイプ28を通じて水タンク24に送給する。上側シフトロッド14は、ドライブシャフト21の前側に配設される。そして、上側シフトロッド14は、ドライブシャフト21に略平行で、ミッドユニット102に対して回転可能に設けられる。上側シフトロッド14の上端部は、アクチュエータ13に連結されており、上側シフトロッド14の下端部は、たとえば歯車を介して下側シフトロッド27(後述)に連結される。そして、上側シフトロッド14は、アクチュエータ13の動作によって前後方向に所定の角度だけ回転し、アクチュエータ13の動作を下側シフトロッド27に伝達する。
【0021】
特に図3に示すように、ロアユニット103には、ドライブシャフト21の下部と、プロペラシャフト29と、下側シフトロッド27と、逆転機構5とが設けられる。逆転機構5は、ドライブシャフト21とプロペラシャフト29との間に構成される。ドライブシャフト21とプロペラシャフト29とは、この逆転機構5によって、回転動力を断続および正逆反転可能に接続される。プロペラシャフト29の後端部には、推進用のプロペラ39が取付けられる。本船外機1はC/R仕様であるため、プロペラ39には、後側から見て左回転すると本船外機1を前進させる推進力を発生させる構成のものが適用される。なお、本船外機1がR/R仕様とC/R仕様の両方に対応できる船外機であれば、プロペラシャフト29の後端部には、R/R仕様に対応するプロペラ39と、C/R仕様に対応するプロペラ39とが、交換可能に取付けられる。そして、本船外機1がC/R仕様に設定される場合には、後側から見て左回転すると本船外機1を前進させる推進力を発生させるプロペラ39が取り付けられる。一方、本船外機1がR/R仕様に設定される場合には、後側から見て右回転すると本船外機1を前進させる推進力を発生させるプロペラ39が取り付けられる。このほか、ロアユニット103の前部には、冷却水を取り込むための取水口38が設けられる(図1参照)。
【0022】
図2に示すように、エンジンベース12の前縁部には、左右一対のアッパーマウント15が設けられる。また、ミッドユニット102の前縁部には、左右一対のロアマウント16が設けられる。そして、エンジンユニット101とミッドユニット102とロアユニット103とは、アッパーマウント15およびロアマウント16を介して、スイベルブラケット19の支軸を中心に一体に回転可能に支持される。また、エンジンユニット101には、前方に向かって突起する操舵ハンドル22が設けられる。操船者は、操舵ハンドル22を操作することにより、本船外機1をスイベルブラケット19の支軸を中心に略水平方向に回転させることができる。これによって、船舶の進行方向を制御できる。スイベルブラケット19の左右両側には、クランプブラケット20が設けられる。クランプブラケット20は船舶9の船尾板91(トランザムボード)に固定可能な構成を有する。クランプブラケット20は、軸線方向が左右方向を向くチルト軸を中心として回転可能に支持される。
【0023】
次いで、ロアユニット103の構成の詳細について、図3〜図6を参照して説明する。図4は、ロアユニット103の内部のうち、逆転機構5およびその近傍を拡大して示す断面図である。図5は、フォワードギア52の支持構造を模式的に示す断面図であり、図4の一部を抜き出して拡大した図である。図6は、プロペラシャフト29および逆転機構5の構成を模式的に示す分解斜視図である。
【0024】
ロアユニット103は、内部に所定の空間が形成される筐体23を有する。この筐体23は、たとえば軽金属からなり、ダイキャスト製法によって製造される。そして、ロアユニット103の筐体23の内部には、ドライブシャフト21の下端部と、プロペラシャフト29と、下側シフトロッド27と、逆転機構5とが収容される。逆転機構5は、駆動ギア51と、フォワードギア52と、リバースギア53と、ドッグクラッチ58と、コネクタロッド59と、シフトスライダ60とを含んで構成される。
【0025】
ドライブシャフト21の下端部は、ロアユニット103の筐体23の内部に入り込んでいる。そして、ドライブシャフト21の下端部には、駆動ギア51が一体に回転するように取り付けられる。駆動ギア51には、ベベルギアが適用される。また、ロアユニット103の筐体23には、フォワードギア52とリバースギア53とが、それぞれ軸受を介して回転可能に支持される。具体的には、フォワードギア52は、ラジアル軸受30とスラスト軸受31とによって、回転可能に支持される。リバースギア53は、ラジアル軸受32とスラスト軸受33とによって、回転可能に支持される。フォワードギア52およびリバースギア53には、ベベルギアが適用される。フォワードギア52とリバースギア53とは、前後方向に貫通する円筒状の構成を有する。フォワードギア52は、前側にベベルギアの歯が形成される。一方、リバースギア53は、後側にベベルギアの歯が形成される。フォワードギア52とリバースギア53は、同軸で、前後方向に所定の間隔をおいて離間し、歯が形成される側の面が対向するように配置される。そして、フォワードギア52は駆動ギア51の後側に配設され、リバースギア53は駆動ギア51の前側に配設される。フォワードギア52とリバースギア53は、駆動ギア51と常時噛み合っており、駆動ギア51の回転が伝達されて互いに反対方向に回転する。具体的には、エンジン11から回転動力が伝達されると、フォワードギア52は後方から見て左回転し、リバースギア53は後方から見て右回転する。さらに、フォワードギア52とリバースギア53の互いに対向する面(=歯が形成される側の面)のそれぞれには、係合部(図略)が形成される。係合部は、ドッグクラッチ58の係合部(後述)に係合できる。
【0026】
プロペラシャフト29は、軸線が前後方向を向く姿勢で配設される。特に図3と図4に示すように、プロペラシャフト29の前端部は、リバースギア53の内周に入り込んでおり、リバースギア53の前方または内周に設けられる円錐コロ軸受35によって回転可能に支持される。プロペラシャフト29の後部は、ロアユニット103の筐体23に設けられるラジアル軸受36によって回転可能に支持される。そして、プロペラシャフト29の中間部は、フォワードギア52の内周を貫通しており、フォワードギア52の内周に設けられる円錐コロ軸受34によって回転可能に支持される。このように、プロペラシャフト29は、ロアユニット103の筐体23とフォワードギア52とリバースギア53とに、軸受を介して回転可能に支持される。フォワードギア52の内周に設けられる円錐コロ軸受34は、円錐コロの頂点側が後側に向けられる。一方、リバースギア53の前方または内周に設けられる円錐コロ軸受35は、円錐コロの頂点側が前側に向けられる。
【0027】
フォワードギア52とリバースギア53との間には、ドッグクラッチ58が配設される。ドッグクラッチ58は、筒状の構成を有し、プロペラシャフト29の外周に装着される。そして、ドッグクラッチ58は、前後方向(=プロペラシャフト29の軸線方向)に沿って往復動できるが、プロペラシャフト29に対して相対的に回転することはできずに一体に回転する。ドッグクラッチ58の前端部と後端部とには、係合部(図略)が形成される。そして、ドッグクラッチ58が後側に移動すると、後端部に形成される係合部がフォワードギア52の係合部と係合し、フォワードギア52の回転がドッグクラッチ58を介してプロペラシャフト29に伝達される。一方、ドッグクラッチ58が前方に移動すると、前端部に形成される係合部がリバースギア53に形成される係合部と係合し、リバースギア53の回転がドッグクラッチ58を介してプロペラシャフト29に伝達される。また、ドッグクラッチ58がフォワードギア52とリバースギア53との中間に位置すると、ドッグクラッチ58の係合部は、フォワードギア52とリバースギア53の係合部のいずれにも係合せず、フォワードギア52とリバースギア53の回転はいずれもプロペラシャフト29に伝達されない。
【0028】
図3、図4、図6に示すように、プロペラシャフト29の前部は中空に形成される。そして、プロペラシャフト29の内部には、コネクタロッド59が前後方向に往復動可能に配設される。さらに、プロペラシャフト29の中空の部分には、外周と内周とを連通する開口部が形成される。コネクタロッド59の後端部とドッグクラッチ58とは、この開口部を通じて、ピン部材61などによって結合される。また、コネクタロッド59の前端部には、シフトスライダ60が結合される。シフトスライダ60は、下側シフトロッド27の回転運動を往復運動に変換し、ドッグクラッチ58を往復動させる。下側シフトロッド27は、ロアユニット103の内部に、回転可能に配設される。下側シフトロッド27の下端部には、シフトヨークが設けられる。シフトヨークは、側方に突起する構造物である。シフトスライダ60は、前後方向に長い棒状の部材である。シフトスライダ60には、上下方向に貫通し、前後方向に長い長孔が形成される。さらにこの長孔の側方には切欠きが形成される。この長孔には、下側シフトロッド27の下端部が遊挿される。そして、長孔の側方に形成される切欠きには、下側シフトロッド27のシフトヨークが係合する。
【0029】
このような構成であると、アクチュエータ13が作動して上側シフトロッド14および下側シフトロッド27が回転すると、シフトヨークがシフトスライダ60を前後方向にスライドさせる。そして、ドッグクラッチ58が、シフトスライダ60に連動して前側または後側に移動する。このため、プロペラシャフト29の回転方向を切替えることができる。具体的な態様は次のとおりである。ドッグクラッチ58が後方に移動すると、フォワードギア52の回転がドッグクラッチ58を介してプロペラシャフト29に伝達され、プロペラ39が左回転して船舶9が前進する。ドッグクラッチ58が前方に移動すると、リバースギア53の回転がドッグクラッチ58を介してプロペラシャフト29に伝達され、プロペラ39が右回転して船舶9が後進する。このように、フォワードギア52は、前進時においてプロペラシャフト29に回転動力を伝達し、リバースギア53は、後進時においてプロペラシャフト29に回転動力を伝達する。
【0030】
なお、本船外機1のエンジン11とドライブシャフト21と逆転機構とが、R/R仕様の船外機と共通の構成を有する場合には、R/R仕様の船外機のリバースギアが、本船外機1のフォワードギア52となり、R/R仕様の船外機のフォワードギアが、本船外機1のリバースギア53となる。このため、本船外機1が前進する場合には、フォワードギア52には、R/R仕様の船外機のフォワードギアと同等の大きな負荷がかかる。そして、この負荷によって、フォワードギア52には、「こじる力」が作用する。このこじる力の前後方向分力は、フォワードギア52を前側に向かって変位させる向きに作用する。このため、この負荷が大きくなると、フォワードギア52が前側に変位して駆動ギア51と接近し、駆動ギア51とフォワードギア52の歯当たりが過剰に強くなる。そうすると、リバースギア53の耐久性が低下する。なお、本船外機1が前進する場合には、プロペラシャフト29は、プロペラ39の推進力によって、前側に向かって押圧される。フォワードギア52をこじる力の前後方向分力と、プロペラシャフト29がプロペラ39の推進力によって押圧される力とは、いずれも前向きであるため、相殺されない。そこで、本船外機1においては、フォワードギア52の支持構造を次に示す構成にすることによって、フォワードギア52を前側に変位させる力を低減し、フォワードギア52の耐久性の低下を防止または抑制する。
【0031】
フォワードギア52の支持構造の詳細について、特に図4〜図6を参照して説明する。フォワードギア52は、後側に形成される支持部522と、前側に形成される歯部521とを有する。支持部522は、前後方向に貫通する円筒状の構成を有する。歯部521の前側の面には、ベベルギアの歯が形成される。なお、歯部521の外径は支持部522の外径よりも大きい。そして、フォワードギア52は、ラジアル軸受30とスラスト軸受31によって、ロアユニット103の筐体23に回転可能に支持される。具体的には、フォワードギア52の支持部522の外周と、ロアユニット103の筐体23の内周面との間に、ラジアル軸受30が配設される。さらに、フォワードギア52の歯部521の後端側の面(=歯が形成される面の背面)と、ロアユニット103の筐体23の内周面との間に、スラスト軸受31が配設される。なお、図4〜図6においては、ロアユニット103の筐体23とスラスト軸受31との間に座金40が設けられる構成を示すが、座金40が設けられない構成であってもよい。また、これらのラジアル軸受30とスラスト軸受31は、従来公知の構成が適用できる。たとえば、ラジアル軸受30には、円筒コロ軸受や針状コロ軸受などといった、公知の各種ラジアルコロ軸受やラジアル玉軸受(ラジアルベアリング)が適用できる。また、スラスト軸受31には、スラスト針状コロ軸受やスラスト玉軸受などといった、公知の各種スラスト軸受(スラストベアリング)が適用できる。このように、フォワードギア52は、ラジアル軸受30によって半径方向に位置決めされた状態で支持され、スラスト軸受31によって前後方向に位置決めされた状態で支持される。
【0032】
特に図5に示すように、フォワードギア52の支持部522の内周面には、円周方向に沿って延伸する環状の溝523が形成される。そして、この溝523には止め輪41が嵌め込まれる。一方、プロペラシャフト29の外周にはリブ291が形成される。このリブ291は、半径方向外側に突出し、円周方向に延伸する円環状の構成を有する。そして、このリブ291は、プロペラシャフト29およびフォワードギア52がロアユニット103の筐体23に組み付けられた状態において、フォワードギア52に嵌め込まれる止め輪41よりも前側に位置する。なお、このリブ291は、プロペラシャフト29に一体に形成される構成であってもよく、別体の部材が組み付けられる構成であってもよい。たとえば、プロペラシャフト29の外周面に、円周方向に延伸する環状の溝が形成され、この溝に止め輪が嵌め込まれる構成であってもよい。そして、この止め輪41とリブ291との間に、円錐コロ軸受34と、予圧付与部材54と、座金55と、別の座金56とが配設される。具体的には、プロペラシャフト29のリブ291の後側に予圧付与部材54が設けられ、さらに予圧付与部材54の後側に座金55が設けられる。そして、円錐コロ軸受34の内輪341が、予圧付与部材54および座金55を介して、プロペラシャフト29のリブ291の後側に面に係止する。また、フォワードギア52の支持部522に嵌め込まれる止め輪41の前側に、別の座金56が設けられる。そして、円錐コロ軸受34の外輪342が、別の座金56を介してフォワードギア52の支持部522に嵌め込まれる止め輪41に係止する。なお、フォワードギア52の内周に設けられる円錐コロ軸受34は、円錐コロの頂点側が後側に位置する姿勢で配設される。すなわち、円錐コロ軸受34は、内輪341が後側に押圧され、外輪342が前側に押圧される態様の圧縮力を受けることができる向きで配置される。
【0033】
予圧付与部材54は、フォワードギア52に円錐コロ軸受34を介して後側向きの予圧を与える。予圧付与部材54には、たとえば公知の各種円環状のシムが適用できる。円環状のシムは、前後方向に圧縮した状態で、プロペラシャフト29のリブ291と円錐コロ軸受34との間に配設される。すなわち、シムに外力が掛かっていない状態においては、シムの前後方向寸法は、リムと座金との間に形成される隙間の前後方向寸法より大きい。このため、シムがプロペラシャフト29のリブ291と円錐コロ軸受34との間に配設されると、シムは、座金55および円錐コロ軸受34を介して、フォワードギア52に後側への予圧を常時付与する。なお、図4〜図6においては、予圧付与部材54として、1個の円環状のシムが適用される構成を示すが、予圧付与部材54の具体的な構成や数は限定されるものではない。要は、予圧付与部材54は、フォワードギア52に後側への予圧を付与できる構成であればよい。さらに、図4〜図6においては、プロペラシャフト29と座金55との間に予圧付与部材54としてのシムが配設される構成を示すが、予圧付与部材54が配設される位置は、この位置に限定されるものではない。たとえば、座金55と円錐コロ軸受34との間に予圧付与部材54が配設される構成であってもよい。また、座金55が配設されない構成であってもよい。座金55が配設されない構成である場合には、プロペラシャフト29のリブ291と円錐コロ軸受34との間に、予圧付与部材54が配設される。
【0034】
このような構成によれば、プロペラシャフト29のリブ291とフォワードギア52との間に介在する予圧付与部材54が、フォワードギア52に円錐コロ軸受34を介して後側への予圧を常時付与する。このため、フォワードギア52に前側へ変位させるような力が作用した場合には、予圧付与部材54による予圧がこの力を相殺する。このため、フォワードギア52が前側へ変位することが防止される。すなわち、本船外機1が前進する場合には、ドライブシャフト21からの回転動力は、フォワードギア52を介してプロペラシャフト29に伝達される。この際に、フォワードギア52と駆動ギア51との間に負荷によって、フォワードギア52には「こじる力」が作用する。特に前進時には、後進時に比較して大きな負荷がかかることがあるため、フォワードギア52をこじる力も大きくなる。そして、このこじる力の前後方向分力は前側を向くため、フォワードギア52には前側に変位する力が作用する。フォワードギア52には、予圧付与部材54によって後側への予圧が付与されているため、フォワードギア52をこじる力の前側への分力は、予圧付与部材54から付与される後側への予圧によって相殺される。したがって、フォワードギア52が前側に変位することが防止される。このように、フォワードギア52が前側に変位することを防止できるから、フォワードギア52と駆動ギア51との間の距離を適正に維持できる。すなわち、たとえば、駆動ギア51とフォワードギア52の歯当たりが過剰に強くなることが防止または抑制され、適正な噛み合い状態が維持される。したがって、フォワードギア52に大きな負荷がかかった場合であっても、フォワードギア52の耐久性が低下することを防止できる。さらに、フォワードギア52の円滑な動作を維持できる。
【0035】
以上、本発明の各実施形態について詳細に説明したが、上記実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎない。本発明は、この実施形態によって技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明は、その技術思想またはその主要な特徴から逸脱することなく、さまざまな形で実施することができる。
【0036】
たとえば、前記実施形態においては、予圧付与部材54として円環状のシムが適用される構成を示したが、予圧付与部材54は円環状のシムに限定されるものではない。要は、プロペラシャフト29とフォワードギア52との間に介在して、フォワードギア52に後側へ予圧を付与できる構成であればよい。たとえば、予圧付与部材54として、各種弾性体、皿バネ、コイルバネなどが適用される構成であってもよい。また、予圧付与部材54の数は限定されない。必要となる予圧の大きさに応じて適宜設定される。さらに、予圧付与部材54が配設される位置も、前記実施形態に限定されるものではない。要は、フォワードギア52に後側への予圧を付与できる位置であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、C/R仕様の船外機のギアの支持構造に有効な技術である。特に、エンジンやドライブシャフトや逆転機構がR/R仕様の船外機と共通な構成のC/R仕様の船外機に有効な技術である。なお、C/R仕様専用の船外機に限らず、R/R仕様とC/R仕様の両方に対応する船外機にも有効な技術である。
【符号の説明】
【0038】
1:本発明の実施形態にかかる船外機、5:逆転機構、21:ドライブシャフト、29:プロペラシャフト、291:プロペラシャフトのリブ、34:フォワードギアの内周に設けられる円錐コロ軸受、39:プロペラ、41:止め輪、51:駆動ギア、52:フォワードギア、54:予圧付与部材、522:フォワードギアの支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カウンターローテーション仕様の船外機のギアの支持構造であって、
回転動力源から伝達される回転動力によって回転する駆動ギアと、
前後方向に貫通する筒状の構成を有し、前記駆動ギアの後側に配設されて前記駆動ギアと噛み合うフォワードギアと、
推進用のプロペラが取り付けられ、前記フォワードギアを貫通して回転可能に配設されるプロペラシャフトと、
前記フォワードギアの内周と前記プロペラシャフトの外周との間に設けられる円錐コロ軸受と、
前記フォワードギアに前記円錐コロ軸受を介して後側への予圧を付与する予圧付与部材と、
を有することを特徴とする船外機のギアの支持構造。
【請求項2】
前記フォワードギアは、前進時において前記回転動力源からの回転動力を前記プロペラシャフトに伝達するギアであることを特徴とする請求項1に記載の船外機のギアの支持構造。
【請求項3】
前記予圧付与部材は、円環状に形成されるシムであることを特徴とする請求項1または2に記載の船外機のギアの支持構造。
【請求項4】
前記プロペラシャフトの外周には半径方向外側に突出するリブが形成され、前記円錐コロ軸受は前記リブの後側に配設されるとともに、前記予圧付与部材は前記リブと前記円錐コロ軸受との間に配設されることを特徴とする請求項3に記載の船外機のギアの支持構造。
【請求項5】
前記円錐コロ軸受は、円錐コロの頂点側が後方に向けられて配設されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の船外機のギアの支持構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−107604(P2013−107604A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256600(P2011−256600)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】