説明

船外機のシフト機構

【課題】軽量化および作動性の向上を図った船外機のシフト機構を提供するにある。
【解決手段】エンジンホルダ2の上方にクランクシャフト4を縦置きに支持したエンジン3を備えると共に、シフトレバーからの遠隔操作によってシフト装置29を作動させてプロペラシャフト12の回転方向を切り換え可能なシフト機構23を備えた船外機1において、シフトレバーから延びるシフトケーブル26とシフト装置29を作動させるシフトロッド25に向かって延びるクラッチロッド24とを連結する第一リンク機構27を、エンジン3の下面とエンジンホルダ2の上面との間に形成される空間に設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機のシフト機構に関する。
【背景技術】
【0002】
船外機には遠隔操作によってプロペラシャフトの回転方向を正・逆(フォワード・リバース)または中立状態(ニュートラル)に切り換えるシフト機構が設けられている。シフトの切換はギヤケース内に配置されたシフト装置によってプロペラシャフトに設けられたプッシュロッドを進退させてクラッチドッグをプロペラシャフトに連結させたり断続させたりする(シフトイン、シフトアウト)方法が一般的である。
【0003】
シフト装置を作動させるシフト操作は、操船者が操作する例えばシフトレバーの動きを、シフトケーブルを介して船外機の内部に取り込み、シフトリンク機構を介してクラッチロッドによってギヤケース内のシフト装置に伝達するようにしていた。また、クラッチロッドは通常船外機を左右に操舵可能に支持するパイロットシャフト内を通って船外機の上部から下方のギヤケースに向かって延びる(例えば特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開平11−141356号公報
【特許文献2】特開2004−351947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、パイロットシャフトはクランプブラケットを介して船体にリジッド状態で取り付けられているのに対し、クラッチロッドを支持する船外機本体はマウント装置を介して船体に弾性的に取り付けられるため、マウント装置が変位するとクラッチロッドがパイロットシャフト内で移動することになる。このため、パイロットシャフトはその内部でのクラッチロッドとの干渉を防ぐため、必要強度以上に内径を大きくしなければならず、重量の増加を招いている。
【0005】
一方、シフトリンク機構の摺動部の一部は積極的に潤滑されておらず、作動性を低下させる虞がある。
【0006】
本発明は上述した事情を考慮してなされたもので、軽量化および作動性の向上を図った船外機のシフト機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る船外機のシフト機構は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、エンジンホルダの上方にクランクシャフトを縦置きに支持したエンジンを備えると共に、シフトレバーからの遠隔操作によってシフト装置を作動させてプロペラシャフトの回転方向を切り換え可能なシフト機構を備えた船外機において、上記シフトレバーから延びるシフトケーブルと上記シフト装置を作動させるシフトロッドに向かって延びるクラッチロッドとを連結する第一リンク機構を、上記エンジンの下面と上記エンジンホルダの上面との間に形成される空間に設けたものである。
【0008】
また、上述した課題を解決するために、請求項2に記載したように、上記クラッチロッドを、上記船外機を左右に操舵可能に支持するパイロットシャフトの後方のドライブシャフトハウジング内に挿通させたものである。
【0009】
さらに、上述した課題を解決するために、請求項3に記載したように、上記クランクシャフトの後方にドライブシャフトをオフセット配置し、これらのシャフトを、リダクションギヤを介して連結すると共に、上記クランクシャフトの下側に形成される空間に上記第一リンク機構を配設したものである。
【0010】
そして、上述した課題を解決するために、請求項4に記載したように、上記ドライブシャフトハウジングの下面と、このドライブシャフトハウジングの下方に設けられるギヤケースの上面との間に形成される空間に、上記クラッチロッドと上記シフトロッドとを連結する第二リンク機構を配設したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る船外機のシフト機構によれば、シフト機構の作動性や操作フィーリングが向上すると共に、メンテナンスも不要となる。また、パイロットシャフトのコンパクト化および重量の軽減が図れる。
【0012】
さらに、従来のギヤケースがそのまま使用できると共に、デッドスペースの有効利用が図られ、船外機全体のコンパクト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、この発明を適用した船外機の実施形態を示す左側面図である。また、図2は船外機の一部の縦断面図である。図1および図2に示すように、この船外機1はエンジンホルダ2を備え、このエンジンホルダ2の上方に4サイクルエンジン3が載置される。なお、このエンジン3はその内部にクランクシャフト4を略垂直に支持した縦置き型のエンジン3である。
【0015】
エンジンホルダ2の下方には潤滑オイル(図示せず)を貯留するオイルパン5が配置されると共に、エンジンホルダ2、エンジン3およびオイルパン5の周囲はエンジンカバー6によって覆われる。エンジンカバー6は、エンジンホルダ2、エンジン3下部およびオイルパン5の周囲を覆うロアーカバー6aと、エンジン3上部を覆うアッパーカバー6bとに大きく二分割されて構成される。
【0016】
また、オイルパン5の下部にはドライブシャフトハウジング7が設置される。エンジンホルダ2、オイルパン5およびドライブシャフトハウジング7内にはエンジン3の出力軸であるドライブシャフト8が略垂直に配置される。ドライブシャフト8はクランクシャフト4の後方にオフセットして配置され、その上端部がクランクシャフト4の下端部にリダクションギヤ9を介して連結される。ドライブシャフト8はドライブシャフトハウジング7内を下方に向かって延び、ドライブシャフトハウジング7の下部に設けられたギヤケース10内のベベルギヤ11およびプロペラシャフト12を介して推進装置であるプロペラ13を駆動するように構成される。
【0017】
この船外機1にはブラケット装置14が備えられる。ブラケット装置14は主にスイベルブラケット15およびクランプブラケット16から構成され、スイベルブラケット15は船外機1に、クランプブラケット16は船体17のトランサム17aにそれぞれ固定される。
【0018】
スイベルブラケット15はクランプブラケット16にチルト軸18を介して上下方向に傾動可能に軸支されると共に、スイベルブラケット15にはパイロットシャフト19が鉛直方向に回動可能に軸支される。また、このパイロットシャフト19の上下端にはアッパーマウントブラケット20およびロアーマウントブラケット21がそれぞれパイロットシャフト19に回転一体に設けられる。
【0019】
一方、エンジンホルダ2の前部には詳細には図示しないが左右一対のアッパーマウントユニットが設けられ、アッパーマウントブラケット20に連結される。また、ドライブシャフトハウジング7の両側部には一対のロアーマウントユニット22が設けられ、ロアーマウントブラケット21に連結される。そして、以上により船外機1はブラケット装置14に対しパイロットシャフト19を中心に左右に操舵可能になると共に、チルト軸18を中心に上下向方にチルトおよびトリム操作が可能になる。
【0020】
図3はエンジン3の右側面図である。また、図4は図2のIV矢視図である。さらに、図5は図2のV矢視図であり、図6は図2のVI矢視図である。
【0021】
図1〜図6に示すように、この船外機1には遠隔操作によってプロペラシャフト12の回転方向を正・逆(フォワード・リバース)または中立状態(ニュートラル)に切り換えるシフト機構23が設けられる。
【0022】
シフト機構23は主にクラッチロッド24、シフトロッド25およびこれらのロッド24,25を連結する複数のリンク機構等から構成される。船体17側に設けられ、操船者によって操作される例えばシフトレバー(図示せず)から船外機1に向かって延びるシフトケーブル26(図1参照)は、船外機1内において第一リンク機構27を介してクラッチロッド24の上端部に連結される。クラッチロッド24はパイロットシャフト19の後方、ドライブシャフト8前方のドライブシャフトハウジング7内をギヤケース10に向かって延び、ドライブシャフトハウジング7とギヤケース10との接合部近傍でその下端部が第二リンク機構28を介してシフトロッド25の上端部に連結されるものであって、操船者が操作するシフトレバーの動き(前後方向)を回転力に変換してシフトロッド25に伝達し、プロペラシャフト12の前端部に設けられたシフト装置29を介して図示しないプッシュロッドを進退させて図示しないクラッチドッグをプロペラシャフト12に連結させたり断続させたりするものである。
【0023】
第一リンク機構27は、主にクラッチレバー30、クラッチシャフト31、クラッチシャフトアーム32、クラッチロッドアーム33およびアッパークラッチリンク34から構成され、エンジン3の下面とエンジンホルダ2の上面との間に形成される空間に、本実施形態においてはドライブシャフト8を後方にオフセット配置したクランクシャフト4の下側空間に配設される。
【0024】
また、エンジン3の一側部には吸気系を構成するインテークマニホールド41が配置され、このインテークマニホールド41の下方で、エンジン3を構成するシリンダブロック42下部の側部に突出部43(膨出部)が設けられると共に、その突出部43の上面に第一リンク機構27を支持するリンクホルダ35が固定される。
【0025】
リンクホルダ35にはクラッチレバー30の基端部がクラッチシャフト31を介して水平方向に回動自在に、且つクラッチシャフト31と回動一体に軸着されると共に、エンジン3の幅方向外側に突出したクラッチレバー30の自由端部には前記シフトケーブル26が接続される。また、クラッチシャフト31にはクラッチシャフトアーム32の基端部がクラッチシャフト31と回動一体に軸着される。
【0026】
さらに、クラッチロッド24の上端部にはクラッチロッドアーム33の基端部がクラッチロッド24と回動一体に軸着される。そして、クラッチシャフトアーム32の自由端部とクラッチロッドアーム33の自由端部とがアッパークラッチリンク34により連結される。すなわち、シフトケーブル26が操作されるとクラッチレバー30がクラッチシャフト31を回動させ、その回動運動がクラッチシャフトアーム32、アッパークラッチリンク34およびクラッチロッドアーム33を経てクラッチロッド24を回動させる(図5参照)。
【0027】
なお、シリンダブロック42の突出部43と同形状の突出部44がエンジンホルダ2側にも形成され、両突出部43,44間の空間にクラッチシャフトアーム32およびアッパークラッチリンク34の一部が配置されると共に、アッパークラッチリンク34の残りの部分およびクラッチロッドアーム33がクランクシャフト4の下側空間に配置される。さらに、リンクホルダ35にはシフト位置が中立状態(ニュートラル)であることを検知するニュートラルスイッチ(図示せず)が取り付けられる。
【0028】
一方、第二リンク機構28は、主にロアークラッチリンク36およびシフトロッドアーム37から構成され、ドライブシャフトハウジング7の下面とギヤケース10の上面との間に形成される空間に配設される。クラッチロッド24の下端部にはロアークラッチリンク36の基端部がクラッチロッド24と回動一体に軸着される。ロアークラッチリンク36はその自由端部が前方に向かって延び、その先端部分からは係合ピン38が下方に向かって突設される。
【0029】
また、プロペラシャフト12前部のシフト装置29から上方に向かって延びるシフトロッド25の上端部にはシフトロッドアーム37の基端部がシフトロッド25と回動一体に軸着される。シフトロッドアーム37はその自由端部が前方に向かって延び、その先端部分に形成された長穴39に上記ロアークラッチリンク36の係合ピン38が係合される。すなわち、クラッチロッド24が回動すると、その回動運動がロアークラッチリンク36およびシフトロッドアーム37を経てシフトロッド25を回動させる(図6参照)。
【0030】
シリンダブロック42側部のリンクホルダ35の上方、インテークマニホールド41の下方にはスロットルホルダ45が配設される。スロットルホルダ45にはスライダ46が前後方向にスライド可能に保持され、左右方向にピボット47が突出形成される。
【0031】
スライダ46の内側ピボット(図示せず)にはリンクロッド48の一端が連結されると共に、リンクロッド48の他端は、エンジン3を構成するクランクケース49前方に配置されたスロットルボディ50に設けられるスロットルレバー51に連結される。また、スライダ46の外側ピボット47にはスロットルケーブル(図示せず)が連結される。
【0032】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0033】
シフトレバーから延びるシフトケーブル26とプロペラシャフト12前端部のシフト装置29を作動させるシフトロッド25に向かって延びるクラッチロッド24を連結する第一リンク機構27を、エンジン3の下面とエンジンホルダ2の上面との間に形成される空間に設けたことにより、第一リンク機構27はエンジン3内部に配置されることとなって第一リンク機構27に海水がかかるのが防止される。その結果錆の発生や塩の付着がなくなり、摺動部の精度を上げることが可能となって操作フィーリングが向上する。
【0034】
また、エンジン3各部を潤滑する潤滑オイルが第一リンク機構27の摺動部も潤滑するので、作動性や操作フィーリングが向上すると共に、メンテナンスも不要となる。
【0035】
さらに、クラッチロッド24をパイロットシャフト19の後方のドライブシャフトハウジング7内に挿通させたことにより、外力によるクラッチロッド24の損傷や釣り糸等の巻き付などによる作動不良が防止できると共に、第一リンク機構27同様、海水がかかりにくくなり、錆の発生や塩の付着がなくなって耐久性が向上する。
【0036】
また、従来クラッチロッド24はパイロットシャフト19内を挿通させていたため、内部干渉を防ぐ目的でパイロットシャフト19の内径を必要強度以上に大きくしていたが、本願発明において、クラッチロッド24はパイロットシャフト19内を挿通させていないため、パイロットシャフト19を小径化でき、コンパクト化が図れると共に重量の軽減にもつながる。
【0037】
ところで、クラッチロッド24を従来あった位置から後方に移動すると、プロペラシャフト12の前端部に設けられたシフト装置29との間に位置のずれが生じるが、ドライブシャフトハウジング7とギヤケース10との接合部近傍でクラッチロッド24とシフト装置29から上方に向かって延びるシフトロッド25との間にクラッチロッド24とシフトロッド25とを連結する第二リンク機構28を設けたので、従来のギヤケース10がそのまま使用できると共に、レイアウトの自由度も広がる。
【0038】
そして、ドライブシャフト8を、リダクションギヤ9を介してクランクシャフト4の後方にオフセット配置して連結し、このクランクシャフト4の下側空間に第一リンク機構27を配設すれば、デッドスペースの有効利用が図られ、船外機1全体のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る船外機のシフト機構の一実施形態を示す船外機の左側面図。
【図2】船外機の一部の縦断面図。
【図3】エンジンの右側面図。
【図4】図2のIV矢視図。
【図5】図2のV矢視図。
【図6】図2のVI矢視図。
【符号の説明】
【0040】
1 船外機
2 エンジンホルダ
3 エンジン
4 クランクシャフト
7 ドライブシャフトハウジング
8 ドライブシャフト
9 リダクションギヤ
10 ギヤケース
12 プロペラシャフト
19 パイロットシャフト
23 シフト機構
24 クラッチロッド
25 シフトロッド
26 シフトケーブル
27 第一リンク機構
28 第二リンク機構
29 シフト装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンホルダの上方にクランクシャフトを縦置きに支持したエンジンを備えると共に、シフトレバーからの遠隔操作によってシフト装置を作動させてプロペラシャフトの回転方向を切り換え可能なシフト機構を備えた船外機において、上記シフトレバーから延びるシフトケーブルと上記シフト装置を作動させるシフトロッドに向かって延びるクラッチロッドとを連結する第一リンク機構を、上記エンジンの下面と上記エンジンホルダの上面との間に形成される空間に設けたことを特徴とする船外機のシフト機構。
【請求項2】
上記クラッチロッドを、上記船外機を左右に操舵可能に支持するパイロットシャフトの後方のドライブシャフトハウジング内に挿通させた請求項1記載の船外機のシフト機構。
【請求項3】
上記クランクシャフトの後方にドライブシャフトをオフセット配置し、これらのシャフトを、リダクションギヤを介して連結すると共に、上記クランクシャフトの下側に形成される空間に上記第一リンク機構を配設した請求項1記載の船外機のシフト機構。
【請求項4】
上記ドライブシャフトハウジングの下面と、このドライブシャフトハウジングの下方に設けられるギヤケースの上面との間に形成される空間に、上記クラッチロッドと上記シフトロッドとを連結する第二リンク機構を配設した請求項2記載の船外機のシフト機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−111499(P2008−111499A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295398(P2006−295398)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】