説明

船底塗料並びにその製造方法

【課題】船底に富士壺や牡蠣などの貝類が付着するのを防止する船底塗料とその製造方法に関し、富士壺などの貝類の忌避効果に優れたクワズイモを船底塗料と効果的に混合でき、しかも船底に効果的に塗布可能とする。
【解決手段】クワズイモの乾燥粉末を、忌避剤などを添加してない、毒性の無い又は少ないペンキと混合して、船底塗料として船底に塗布した場合、試験結果から類推すると、富士壺類や牡蠣類の忌避効果を充分に発揮できるものと思われ、船底塗料として有望である。特に、海水を汚染する有害物質が含まれておらず、海洋汚染の恐れが無いので、船底塗料として普及が望まれる。なお、クワズイモの毒性は植物由来の有機物であるため、海中の微生物で分解され、いずれ消失する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船底に富士壺や牡蠣などの貝類が付着するのを防止する船底塗料とその製造方法に関する。富士壺も牡蠣も種類は多いが、船底に付着すると水抵抗が増して船の速度を低下させ、燃費悪化につながるため、富士壺などの付着防止は重要な課題である。
しかし、従来の船底塗料は、酢酸インプチルやキシレン、鉛成分などのような毒性の忌避剤を添加しているため、海洋汚染や海洋生物の生態系への影響が有った。
【背景技術】
【0002】
本願の発明者は、特開平6−80908として、クワズイモをジューサーミキサーにかけて得た液を、船舶用塗料10に対しクワズイモ液5又は3の割合で混ぜ込むと、金属板に塗装して海中実験した結果、15ケ月経過しても1匹の富士壺も付着しないという好結果を実現できた。
【特許文献1】特開平6−80908
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記「クワズイモ」は和名であって、沖縄の方言名ではイーゴーマーム、イーゴンム、ハチコーンム、ンバシなどと呼ばれており、学名はAlocasia Odora Spachである。四国南部からインド北部まで分布しているという。沖縄では、樹木の下などに自生している。
【0004】
このクワズイモをジューサーミキサーなとで粉砕して塗料(ペンキ)に混ぜ込んで試験片に塗装して試験した場合、富士壺の忌避効果は確認できたが、特許文献1記載のようにクワズイモ粉砕液をそのまま塗料と混ぜて使用する手法は、塗装性の面では必ずしも有効とは言えない。クワズイモ粉砕液と塗料との円滑な混合が困難で、船底への付着性も悪く、短期間に剥離したり褪色し易い。また、塗装も容易でない。
すなわち、クワズイモをジューサーミキサーにかけて作った水溶性の粉砕液と油性の船底塗料を混ぜて船底に塗ると、油性部分と油になじまない部分が分離しがちで、油になじまない部分は海水中に溶け出してしまう。この油になじまない部分にクワズイモの富士壺忌避成分が含まれているため、船底塗料としての忌避効果を低下させる恐れがある。また、塗料としての粘性も妨げることが、塗布性の悪い理由だと思われる。
【0005】
本発明の技術的課題は、このような問題に着目し、富士壺などの貝類の忌避効果に優れたクワズイモを船底塗料と効果的に混合でき、しかも船底に効果的に塗布可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の技術的課題は次のような手段によって解決される。請求項1は、クワズイモの乾燥粉末を塗料と混合してなることを特徴とする船底塗料である。
このように、クワズイモの乾燥粉末を、忌避剤などを添加してない、毒性の無い又は少ないペンキと混合して、船底塗料として船底に塗布した場合、表1の試験結果からも明らかなように、富士壺類や牡蠣類の忌避効果を充分に発揮でき、船底塗料として有望である。特に、海水を汚染する有害物質が含まれておらず、海洋汚染の恐れが無いので、船底塗料として普及が望まれる。
なお、クワズイモの毒性は植物由来の有機物であるため、海中の微生物で分解され、いずれ消失する。
【0007】
請求項2は、前記塗料100%に対し、前記のクワズイモの乾燥粉末を2.5%から0.5%の割合で混合してあることを特徴とする請求項1に記載の船底塗料である。
このように、前記塗料100%に対し、前記のクワズイモの乾燥粉末を2.5%から0.5%の割合で混合した場合は、試験の結果、富士壺類や牡蠣類の忌避効果が充分に認められる。
【0008】
請求項3は、唐辛子の乾燥粉末も混合してあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の船底塗料である。
前記のようにクワズイモの乾燥粉末を塗料と混合する際に、このように唐辛子の乾燥粉末も混合することにより、唐辛子に含まれるカプサイシンによる刺激も加わって、富士壺などの貝類の忌避効果が期待できる。
【0009】
請求項4は、クワズイモを乾燥粉末化した状態で、塗料と均一に混合処理することを特徴とする船底塗料の製造方法である。
請求項1記載のクワズイモ乾燥粉末を含む船底塗料を製造するには、このように、クワズイモを乾燥粉末化した状態で、毒物を含有していない又は少ない塗料と均一に混合処理することが効果的である。クワズイモを乾燥粉末にしてから、塗料と混合すると、クワズイモ粉末に水分が含まれていないため、塗料との親和性が増す結果だと思われる。従って、船底塗料として塗布しやすく、剥離や分離等の問題もなく、長寿命となる。
【0010】
請求項5は、唐辛子も乾燥粉末化した状態で、塗料に混合することを特徴とする請求項4に記載の船底塗料の製造方法である。
請求項3のような唐辛子の乾燥粉末も混ぜた船底塗料を製造するには、このように、唐辛子も乾燥粉末化した状態で、請求項4のようにしてクワズイモ乾燥粉末を混ぜた塗料と均一に混合処理する方法によると、唐辛子乾燥粉末に水分を含んでいないため、塗料との親和性が良く、粘性に富んだ塗料を製造できる。なお、クワズイモ乾燥粉末と唐辛子乾燥粉末は、どちらを先に塗料と混合してもよく、両粉末同士を先に混合してから、塗料と混合してもよい。
【0011】
請求項6は、クワズイモの乾燥粉末又は唐辛子とクワズイモの乾燥粉末を混合してある塗料を船底に塗布することによって、貝類の付着を防止することを特徴とする貝類の忌避方法である。
このように、クワズイモの乾燥粉末又は唐辛子とクワズイモの乾燥粉末を混合してある塗料を船底に塗布して、富士壺や牡蠣などの貝類の付着を防止する方法によると、貝類はクワズイモの持つ毒性を嫌って、船底への付着を忌避できるものと思われる。また、唐辛子の乾燥粉末も含んでいる場合は、クワズイモの持つ毒性に加えて、唐辛子に含まれるカプサイシン特有の刺激も加わって、富士壺などの貝類が船底に付着しなくなるものと思われる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1のように、クワズイモの乾燥粉末を、忌避剤などを添加してない、毒性の無い又は少ないペンキと混合して、船底塗料として船底に塗布した場合、表1の試験結果からも明らかなように、富士壺類や牡蠣類の忌避効果を充分に発揮でき、船底塗料として有望である。特に、海水を汚染する有害物質が含まれておらず、海洋汚染の恐れが無いので、船底塗料として普及が望まれる。
なお、クワズイモの毒性は植物由来の有機物であるため、海中の微生物で分解され、いずれ消失する。
【0013】
請求項2のように、前記塗料100%に対し、前記のクワズイモの乾燥粉末を2.5%から0.5%の割合で混合した場合は、試験の結果、富士壺類や牡蠣類の忌避効果が充分に認められる。
【0014】
前記のようにクワズイモの乾燥粉末を塗料と混合する際に、請求項3のように唐辛子の乾燥粉末も混合することにより、唐辛子に含まれるカプサイシンによる刺激も加わって、富士壺などの貝類の忌避効果が期待できる。
【0015】
請求項1記載のクワズイモ乾燥粉末を含む船底塗料を製造するには、請求項4のように、クワズイモを乾燥粉末化した状態で、毒物を含有していない又は少ない塗料と均一に混合処理することが効果的である。クワズイモを乾燥粉末にしてから、塗料と混合すると、クワズイモ粉末に水分が含まれていないため、塗料との親和性が増す結果だと思われる。従って、船底塗料として塗布しやすく、剥離や分離等の問題もなく、長寿命となる。
【0016】
請求項3のような唐辛子の乾燥粉末も混ぜた船底塗料を製造するには、請求項5のように、唐辛子も乾燥粉末化した状態で、請求項4のようにしてクワズイモ乾燥粉末を混ぜた塗料と均一に混合処理する方法によると、唐辛子乾燥粉末に水分を含んでいないため、塗料との親和性が良く、粘性に富んだ塗料を製造できる。
【0017】
請求項6のように、クワズイモの乾燥粉末又は唐辛子とクワズイモの乾燥粉末を混合してある塗料を船底に塗布して、富士壺や牡蠣などの貝類の付着を防止する方法によると、貝類はクワズイモの持つ毒性を嫌って、船底への付着を忌避できるものと思われる。また、唐辛子の乾燥粉末も含んでいる場合は、クワズイモの持つ毒性に加えて、唐辛子に含まれるカプサイシン特有の刺激も加わって、富士壺などの貝類が船底に付着しなくなるものと思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明による船底塗料並びにその製造方法が実際上どのように具体化されるか実施形態を説明する。図1は本発明によるクワズイモ含有船底塗料の製造方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
ステップS1は、原料となるクワズイモ、すなわち地中から掘り出したクワズイモの根茎であり、これをステップS2において洗浄して、付着している土砂を洗い落とす。次いで、ステップS3において、ジューサーミキサーなどの粉砕手段で充分に粉砕処理してクワズイモ粉砕液にする。ステップS4でこのクワズイモの粉砕液を天日乾燥その他の乾燥方法で乾燥処理すると、ステップS5のように粉末状となって残る。
【0019】
このクワズイモの粉末を、ステップS6で、海洋を汚染する毒性の無い塗料と混合することによって、ステップS7のクワズイモ粉末含有の船底塗料が完成する。知人の船を借用して船底にこの船底塗料を塗布し、効能試験した結果、表1のように、富士壺類や牡蠣類の付着防止効果を有することが確認できた。
表1は、某社製の某商標と称される忌避剤入りの塗料とクワズイモ乾燥粉末との配合割合(塗料100gに対するクワズイモ乾燥粉末の配合量(g)と配合割合(割)である)と、それぞれの船底塗料を実際に船底に塗布して効能試験した結果である。
【表1】

【0020】
表1の結果から明らかなように、塗料100gに対し、クワズイモ乾燥粉末を2.50g(2.5%)ないし1.00g(1.0%)を配合し船底塗料として使用した場合は、15か月間経過しても、富士壺類や牡蠣類は全く付着していなかったので、優良印〇を付してある。従って、最適な配合割合と言える。これに対し、塗料100gに対し、クワズイモ乾燥粉末を0.50g(0.5%)配合し船底塗料として使用した場合は、12か月目から富士壺類や牡蠣類の付着が確認できたので、ある程度は効果ありを示す△印を付してある。
【0021】
クワズイモ乾燥粉末を0.33g(0.33%)配合した船底塗料と、0.25g(0.25%)配合した船底塗料の場合は、6か月で富士壺の付着が確認できたので、実用に耐えられないと判断し、▲印を付してある。クワズイモ乾燥粉末の配合量が0.20g(0.2%)の場合と、全く配合しない場合は、共に3か月目で富士壺類や牡蠣類の付着が確認できたので、全く効果なしとして、×印を付してある。
このように、試験に用いた塗料は、忌避剤入りでありながら、3か月目で富士壺類や牡蠣類が付着したということは、忌避効果が弱いか忌避剤が極めて少ない塗料だと思われる。従って、クワズイモ乾燥粉末の忌避効果は充分だと言える。
逆に、クワズイモ乾燥粉末を5g(5.0%)以上配合してある場合は、15か月経過しても富士壺類や牡蠣類は全く付着せず、忌避効果は高かったが、クワズイモ粉末の配合量が多過ぎるためにザラザラして刷毛塗りが困難であったので、船底塗料としては適しない。よって、※印を付してある。
【0022】
以上のように、塗料(ペンキ)の分量100%に対しクワズイモ乾燥粉末をその2.5%〜1.0%の割合で配合した場合は、少なくとも15ヵ月間の忌避効果が確認できた。また、0.5%配合した場合は12か月間の忌避効果が有ったので、一応の効果ありと判断できた。
以上のようにクワズイモの乾燥粉末は富士壺類や牡蠣類類などの貝類に対する忌避効果が認められたが、その毒性はシュウ酸カルシウムとジオスコリンであって、有機物であるから、海水中では微生物で分解されていずれ消失するので、海洋汚染の影響は極めて少ない。
【0023】
クワズイモの乾燥粉末の他に、沖縄では容易に栽培可能な唐辛子の乾燥粉末も試用してみたところ、クワズイモの乾燥粉末と同様に富士壺類や牡蠣類の忌避効果が確認できた。
その製法は、図2のように、ステップS1で唐辛子(果実)を採取し用意する。赤く熟した果実が好適だが、完熟前の緑色を呈していてもカプサイシンによる辛味成分は充分である。
【0024】
次いで、ステップS2において乾燥処理するが、天日乾燥でも機械乾燥でもよい。
充分に乾燥したら、ステップS3においてジューサーミキサーなどの粉砕手段で粉砕処理すると、ステップS4のように、唐辛子の乾燥粉末となる。この唐辛子の乾燥粉末をステップS5で毒性なしの塗料と混合すると、ステップS6の船底塗料の完成である。
【0025】
こうして製造した唐辛子乾燥粉末入りの船底塗料を各種製造し船底に塗布して効能試験した結果、表1のようにクワズイモの乾燥粉末を配合した船底塗料と同等の効果が確認できた。
すなわち、塗料100gに対し、トウガラシ粉末2.50g〜0.50g配合した場合は、12〜15ヵ月間は富士壺類や牡蠣類が付着しなかった。このように全く偶然ではあるが、クワズイモ微粉末を用いた場合と全く同等の結果であったので、唐辛子微粉末を用いた場合の試験結果を示す表は省略した。
【0026】
唐辛子の乾燥粉末でもクワズイモの乾燥粉末と同等の忌避効果が確認できたので、クワズイモの乾燥粉末と唐辛子の乾燥粉末を併用し、両方を塗料に配合して船底塗料とした場合にも、忌避効果が有るものと思われる。
なお、図1では、クワズイモの生の根茎を粉砕処理してから乾燥させたが、図2の唐辛子の乾燥粉末を製造する場合と同様に、クワズイモの根茎を先に乾燥させてから、粉砕手段で充分に微粉砕して微粉末化してもよい。この場合、効果的に乾燥できるように、クワズイモの根茎を輪切りにしたり、チップ状にカット又は破砕して拡げると、均一にかつより短時間に乾燥処理でき、次の粉末化処理も円滑となる。
【0027】
以上のように、粉砕手段として、家庭用のジューサーミキサーを使用したが、クワズイモや唐辛子などを工業的に大量に微粉末化する場合は、量産用の高性能で大型の設備を整えることは言うまでもない。乾燥手段も、機械乾燥を用いてもよい。
また、表1で用いた塗料は、従来の忌避剤入りの塗料しか入手できなかったという事情によるものであって、実用化に際しては、在来の忌避剤が入っておらず、在来の化学物質由来の毒性の全く無い又は少ない塗料を用いることで、海洋汚染などの問題を極力防止する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のように、クワズイモを乾燥粉末にしてから塗料と混合し船底塗料として用いると、富士壺類や牡蠣類の忌避効果が認められたので、化学薬品を使用した船底塗料と違って海洋汚染や海洋生物の生態系への影響を未然に防止して地球環境の保全が可能になると共に、塗料との親和性が良いので混合も船底への塗布も円滑となり、普及が期待される。しかも、船舶の燃料が高騰している昨今、本発明による船底塗料の塗布によって貝類の付着を防止し、水抵抗の増大による燃費の悪化を抑制できるので効果は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明によるクワズイモ粉末含有船底塗料の製造方法の実施形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明による唐辛子の乾燥粉末を含有する船底塗料の製造方法の実施形態を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クワズイモの乾燥粉末を塗料と混合してなることを特徴とする船底塗料。
【請求項2】
前記塗料100%に対し、前記のクワズイモの乾燥粉末を2.5%から0.5%の割合で混合してあることを特徴とする請求項1に記載の船底塗料。
【請求項3】
唐辛子の乾燥粉末も混合してあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の船底塗料。
【請求項4】
クワズイモを乾燥粉末化した状態で、塗料と均一に混合処理することを特徴とする船底塗料の製造方法。
【請求項5】
唐辛子も乾燥粉末化した状態で、塗料に混合することを特徴とする請求項4に記載の船底塗料の製造方法。
【請求項6】
クワズイモの乾燥粉末又は唐辛子とクワズイモの乾燥粉末を混合してある塗料を船底に塗布することによって、貝類の付着を防止することを特徴とする貝類の忌避方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−59292(P2010−59292A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225286(P2008−225286)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(592214209)
【Fターム(参考)】