説明

船舶における可動式ハンドレール

【課題】本発明は、海賊の侵入をより困難にし、かつ、常時はロックされて安全に固定されており、海賊の進出海域に至ったときにロックを外して傾動可能とする可動式ハンドレールを得ることを目的とする。
【解決手段】船舶における可動式ハンドレールであって、両端の支柱と、その間に掛け渡された手摺りと、支柱の傾動位置保持手段とで構成されるハンドレールユニットを、甲板上に固定した取付け板に傾動可能に取り付けるようにした。また、支柱の傾動ロック手段を設け、支柱を直立位置で固定可能にした。さらに、隣接するハンドレールユニット間をたわみ得る索条で連結するようにした。さらにまた、支柱あるいは支柱傾動位置保持材の傾動を検知する傾動検知スイッチを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶におけるハンドレールに関するものであり、特に、海賊の船舶への侵入を困難にするための可動式ハンドレールに係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、東南アジアや中南米などの海峡において海賊事件が頻発している。海賊は完全武装した集団であり、乗組員の金品や積荷、あるいは船舶をも強奪する場合があり、その対策が苦慮されている。
海賊は、船舶の停泊中にアンカーチェーンを伝って登ってくるケースと、アンカー付のロープを投げ上げ、アンカーを船舶のハンドレールに引っ掛け、これを基にして縄ばしごを掛け登ってくるケースとがある。
【0003】
アンカーチェーンを伝って登ってくる海賊に対しては、アンカーチェーンが船外へ出て行く通路であるホース・パイプにカバーを施し、侵入口を封鎖する手段がとられている。しかし、アンカーを引っ掛けて登ってくる海賊に対しては、海賊を探知した場合サイレンを鳴らし、船舶を後進させる。あるいは放水したり、アンカーを投げ返すなど種々の対策がとられているが、完全武装した海賊が相手であり、こうした乗組員の対応にも自ずと限度があり、何れも確実にして有効な手段ではなかった。
【0004】
特に、夜間航行中の船舶に対し、後方より小型船舶で忍びよりアンカーを引っ掛け、一気に乗り込んでくる海賊に対しては探知が遅れたり、接近を見逃したりすると対策を取る間もなく乗り込まれてしまい、一旦完全武装した海賊に乗り込まれたら、対応の手段が全くないと云う現状である。
【0005】
このような状態に対処して、ハンドレールの支柱に、支柱に取り付けられた手摺りより突出して、船側側に回動自在にトリガーを取り付け、アンカーが引っ掛かった場合、トリガーが自動的に回動し、縄ばしごと船側外板との距離を広げて登り難くすると共に、トリガーの回動検知機構を設けて、この回動検知機構の検知信号により熱湯供給管の開閉弁を開き、熱湯を放出して海賊を撃退する方法が考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
ただ、この方法においては、運悪くアンカーが支柱に取り付けられた手摺りに引っ掛かったり、トリガーの下のバー部分に引っ掛かったりしたときは、トリガーが回動しなかったり、回動が充分でないことが生じる場合がある。
また、通常はバネでトリガーを保持するようになっているが、力が掛かるとバネに抗して回動するようになっており、通常時に乗組員がうっかりハンドレールに寄りかかったりすると、トリガーが回動する懸念がある。さらに、ハンドレールにトリガーを取り付ける構成であるので、ハンドレール全体としてコストが嵩む構成となっている。
【0007】
【特許文献1】特開平2002−37179号公報 (第1、2頁、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のごとき問題点を解決したもので、海賊の侵入をより困難にし、かつ、常時はロックされて安全に直立位置に固定されており、海賊の進出海域に至ったときにロックを外して傾動可能とする可動式ハンドレールを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
船舶における可動式ハンドレールであって、回動可能に設けられたハンドレール支柱と、ハンドレール支柱間に掛け渡された手摺りと、ハンドレール支柱を直立位置で固定するロック手段と、ハンドレール支柱の傾動位置保持手段とで構成されるハンドレールユニットを、甲板上、船周部に連設するようにした。
また、隣接するハンドレールユニット間をたわみ得る索条で連結するようにした。さらに、支柱の傾動を感知する傾動感知スイッチを設けた。
【発明の効果】
【0010】
ハンドレール支柱をロックして固定でき、ロックを外して傾動可能な構成にしたので、常時はハンドレール支柱を直立位置に固定して安全なハンドレールとして使用でき、ロックを外すと傾動可能なハンドレールとなり、海賊がアンカーを引っ掛けて登ってこようとすると、ハンドレールが傾動して海賊の侵入が困難になる。
【0011】
また、ハンドレールをユニット構成としたので、海賊が侵入しようとするところだけのハンドレールが傾動するものであり、海賊一人の体重で容易に傾動する。傾動感知スイッチにより海賊を感知できるので、いち早く撃退対策を取ることができる。しかも、単純な構成でハンドレール自体を傾動させるようにしたので、ハンドレール全体として低コストで構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図示した本発明の最良の形態について説明する。図1は本発明によるハンドレールの概略斜視図、図2はハンドレールの概略側面図、図3は図2のA矢視による正面図、図4は図2のB矢視による正面図、図5は本発明によるハンドレールの他の形態を示す概略図である。
【0013】
図において1は船体を示し、2はハンドレールユニットを示している。3は上甲板、4は船側外板である。5は上甲板3上に取り付けられたハンドレール取付け板(以下単に取付け板とする)であって、該取付け板5にハンドレール支柱(以下単に支柱とする)7が回動自在にピン着8されている。この支柱7には傾動位置保持手段が付設されていて、直立の位置から所定の範囲だけ傾動可能になっている。
【0014】
ハンドレールユニット2は、2本の支柱7と、支柱7間に掛け渡された手摺り12と、支柱7を直立位置に固定するロック手段と、支柱7の傾動位置保持手段とで構成されているので、支柱7が傾動することは、つまり、ハンドレールユニット2全体が傾動することになる。このハンドレールユニット2を、海賊が侵入を狙ってくる船尾部から船側にかけて上甲板3上、船周に連設している。
【0015】
9は傾動位置保持材であって、一端は支柱7に固定され、他端には取付け板5に設けられたガイド溝6に嵌められたピン10が装着されていて、自由端になっている。支柱7が直立しているときは、傾動位置保持材9のピン10はガイド溝6の下端部にあり、この位置においてピン10に出し入れ自在のストッパー11をあてがうと、支柱7は直立位置で固定される。
【0016】
ストッパー11を外すと支柱7は傾動可能な状態になる。そして、支柱7が船側外側に傾動すると、支柱7に引っ張られて傾動位置保持材9も横方向に張り出すような位置関係になるが、傾動位置保持材9のピン10がガイド溝6の頂部に至ると傾動位置保持材9の張り出しは停止し、支柱7の傾動も停止される。つまり、この位置で支柱7が傾動した姿勢で保持されることになる。
【0017】
ハンドレールユニット2の支柱7間には手摺り12が設けられており、また、隣り合うハンドレールユニット2の間はチェーンなどたわみ得る索条13で連結されている。したがって、ハンドレールユニット2を固定しているとき(通常のとき)は手摺り12がハンドレールとして有効であり、支柱7が傾動しているときは、隣接するハンドレールユニット2との間から誤って人が落下しないように索条13で防御されている。
【0018】
取付け板5には、支柱7の傾動を感知するため、傾動位置保持材9の変位によりスイッチングされる傾動感知スイッチ14を設けている。該傾動感知スイッチ14の作動によりスピーカ15よりアラームが発せられるようになっている。すなわち、支柱7の傾動を感知することによって、海賊の侵入をいち早く感知することができる。
なお、図示していないが、傾動感知スイッチ14の作動によりサーチライトの照射、海賊撃退用スティームの噴射に連動させることができる。
【0019】
図5には支柱7の他の傾動位置保持手段を示している。この例では、支柱7と接してその傾動をストップさせ、その位置で支柱7を保持するストッパー16を設けている。また、常時は支柱7を直立の位置に固定するため、係止具17を備えている。この場合、傾動感知スイッチ14は直接支柱7の変位によりスイッチングされるように取り付けられる。なお、これらのストッパー16や係止具17またストッパー18などは適宜取付け板5や甲板3上に設けられる。18は支柱7の直立位置でのストッパーである。
【0020】
本発明は上述のごとき構成としたので、海賊が手摺り12にアンカーを引っ掛けて侵入しようとするところのハンドレールユニット2を傾動させ、海賊がロープや縄はしごをよじ登るのを困難にすると共に、海賊が侵入しようとする状況をすばやく感知し、適切な撃退策を講じることができる。
【0021】
なお、支柱7を直立位置に固定するロック手段を外したとき、該支柱7が船体の揺れなどにより自重で傾動することは防止しなければならない。このため図示していないが、アンカーを引っ掛けて海賊が登ってくるような外力が掛かっていないときは支柱7が直立位置に付勢されており、海賊がアンカーを手摺り12に引っ掛けて登ってくるような外力が掛かったときには付勢力に抗して支柱7が傾動するような付勢手段を設けている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明によるハンドレールの概略斜視図。
【図2】同ハンドレールの概略側面図。
【図3】図2のA矢視による正面図。
【図4】図2のB矢視による正面図。
【図5】他の形態を示す概略図。
【符号の説明】
【0023】
1 船体 2 ハンドレールユニット
3 上甲板 4 船側外板
5 ハンドレール取付け板 6 ガイド溝
7 ハンドレール支柱 8 ピン
9 傾動位置保持材 10 ピン
11 ストッパー 12 手摺り
13 索条 14 スイッチ
15 スピーカ 16 ストッパー
17 係止具 18 ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドレール取付け板に回動可能に設けられたハンドレール支柱と、ハンドレール支柱間に掛け渡された手摺りと、ハンドレール支柱を直立位置で固定するロック手段と、ハンドレール支柱の傾動位置保持手段とで構成されるハンドレールユニットを、甲板上、船周部に連設したことを特徴とする船舶における可動式ハンドレール。
【請求項2】
ハンドレール支柱の傾動位置保持手段を、一端をハンドレール支柱に固定して傾動位置保持材を設け、該傾動位置保持材の他端にピンを装着し、該ピンを嵌めるガイド溝をハンドレール取付け板に設けて構成したことを特徴とする請求項1記載の船舶における可動式ハンドレール。
【請求項3】
ハンドレール支柱の傾動位置保持手段を、ハンドレール支柱と接してその傾動をストップさせ、その位置でハンドレール支柱を保持するストッパーを設けた構成としたことを特徴とする請求項1記載の船舶における可動式ハンドレール。
【請求項4】
隣接するハンドレールユニット間をたわみ得る索条で連結したことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3記載の船舶における可動式ハンドレール。
【請求項5】
支柱の傾動を感知する傾動感知スイッチを設けたことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4記載の船舶における可動式ハンドレール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−261355(P2007−261355A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87114(P2006−87114)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(503218067)住友重機械マリンエンジニアリング株式会社 (55)