説明

船舶のスプレー波強度検出装置および方法

【課題】船体のスプレー波に関する評価を定量的に行えるようにすること。
【解決手段】船舶を既知の波浪波形による正面向い波中を航行させて航行中の船首部の上下加速度を加速度センサ12によって検出し、加速度検出センサによって検出される上下加速度の波形と波浪波形とを比較し、比較両者間の相関値を求め、相関値によってスプレー波の発生強度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のスプレー波強度検出装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶が航行すると、船首両側にスプレー波に云われるスプレー状の薄い波が発生することが知られている。スプレー波は、航行抵抗を増加し、船体揺動の原因になる。このため、船首形状の工夫やフィン等の船首付属物の取り付けによって船舶航行中のスプレー波の発生を抑える技術が、従来より種々提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−247075号公報
【特許文献2】特開2010−64724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、スプレー波の強度を検出する装置、方法が知られていない。このため、船首形状の工夫や船首付属物の取り付け等によるスプレー波低減の定量的な評価を行うことができず、スプレー波低減の設計開発を効率よく行うことが難しい。
【0005】
このことに対して、本発明者は、スプレー波の強度を検出するための実験的研究を行っていたところ、船舶の航行中に船首部が受ける上下加速度の波形は、航行中の正面向波の波形(波浪波形)と相似し、波浪航行時に船体が発生するスプレー波が船首部の上下加速度に影響を与え、スプレー波強度が大きいほど、上下加速度波形が正面向波の波形から逸脱することを見出した。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上述の見知に基づいてスプレー波の強度を検出し、船体のスプレー波に関する評価を定量的に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるスプレー波強度検出装置は、船舶の波浪航行中に船首側に発生するスプレー波の強度を検出するための装置であって、船首部の上下加速度を検出する加速度検出手段と、前記加速度検出手段によって検出される上下加速度の波形と波浪波形とを比較し、比較両者間の相関値を算出する相関値算出手段とを有し、前記相関値算出手段によって算出された相関値によってスプレー波の発生強度を検出する。
【0008】
本発明によるスプレー波強度検出装置は、好ましくは、更に、前記相関値とスプレー波強度との関係を示すデータマップが予め設定され、当該データマップを用いて前記相関値をスプレー波強度に算出するスプレー波強度算出手段を有する。
【0009】
本発明によるスプレー波強度検出装置は、好ましくは、前記波浪波形は正弦波形である。
【0010】
本発明によるスプレー波強度検出方法は、船舶を既知の波浪波形による正面向い波中を航行させて航行中の船首部の上下加速度を加速度検出手段によって検出し、前記加速度検出手段によって検出される上下加速度の波形と前記波浪波形とを比較し、比較両者間の相関値を求め、前記相関値によってスプレー波の発生強度を検出する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるスプレー波強度検出装置、方法によれば、加速度検出手段によって波浪航行中の船首部の上下加速度を検出することにより、上下加速度の波形と波浪波形との相関よりスプレー波の発生強度を検出することができる。これにより、スプレー波強度に関する船首形状や船首付属物取り付けの定量的な評価を的確に行うことが可能なる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明によるスプレー波強度検出装置、方法が適用される船舶の図。
【図2】本発明によるスプレー波強度検出装置の一つの実施例を示すブロック図。
【図3】波浪航行中の船舶の船首部の上下加速度の波形と波浪波形との関係を示すグラフ。
【図4】相関係数−スプレー波強度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明によるスプレー波強度検出装置および方法の一つの実施例を、図1〜図4を参照して説明する。
【0014】
本発明によるスプレー波強度検出装置は、一つの実施例として、実際の船舶に代えて、図1に示されているように、船舶の航行実験用の水槽に浮かべた船体模型10に適用することができる。この実施例では、実験水槽の水面に波浪Wを生成し、波浪Wが正面向い波になるように、船体模型10を所定の速度で航行させる。
【0015】
波浪Wは、実験水槽の水面に人為的に生成したものであり、生成条件や計測によって波形を特定できるから、船舶を既知の波浪波形による正面向い波中を所定の速度によって航行させる状態が安定して得られる。
【0016】
図1において、符号Sは、船体模型10の航行によって船体模型10の左右両側に発生するスプレー波を示している。
【0017】
船体模型10の船首部には、加速度センサ12が設けられている。加速度センサ12は船体模型10の重心位置Gより船首側で、船体内部の船幅方向の中央部に配置され、船首部の上下加速度を検出する。加速度センサ12は、船首部の上下加速度を示すセンサ信号をスプレー波強度検出装置の制御ユニット20へ出力する。制御ユニット20は、マイクロコンピュータ等を含む電子制御装置により構成され、センサ信号記憶部22と、正弦波信号生成部24と、相関係数算出部26と、スプレー強度算出部28とを含んでいる。
【0018】
センサ信号記憶部22は、加速度センサ12よりのセンサ信号、つまり、上下加速度のセンサ値を所定時間に亘って時系列に記憶し、記憶内容を相関係数算出部24に読み出される。正弦波信号生成部24は、上述した既知の波浪波形に近似する波形の信号として正弦波信号を生成し、正弦波信号を相関係数算出部26に出力する。
【0019】
相関係数算出部26は、センサ信号記憶部22に記憶されている上下加速度のセンサ値の時系列データによって得られる上下加速度の波形と正弦波信号生成部24が生成した正弦波信号の波形(正弦波形)とを比較して比較両者間の相関係数αを算出する。
【0020】
相関係数αは、ピアソンの積率相関係数であってよく、2組の数値データ列の類似性の度合い定量的に示すものであり、本実施例では上下加速度波形を示す数値データ列と正弦波形を示す数値データ列との相関を定量的に示す相関値になり、完全に相関する場合には、最大値として「1」をとる。
【0021】
上下加速度波形を示す数値と正弦波形を示す数値からなる2組のデータ列(χ,y)={(χ,y)(i=1,2・・・・n)が与えられると、相関係数αは下式により求められる。
【0022】
ただし、χ,yはそれぞれデータχ={χ},データy={y}の相加平均である。
【数1】

【0023】
図3(A)、(B)は、各々、異なる船首形状をした船体模型10の上下加速度波形Aと正弦波形Bとの関係を示している。図3(A)に示されているものは、正弦波形Bに対する上下加速度波形Aの逸脱度合いが図3(B)に示されているものより大きく、図3(A)に示されているものの相関係数αが「0.95」程度であるのに対して、図3(B)に示されているものの相関係数αは「0.99」程度であり、最大値「1」に近い。
【0024】
船舶の航行中に船首部が受ける上下加速度の波形は、航行中の正面向波の波形(波浪波形)と相似し、波浪航行時に船体が発生するスプレー波が船首部の上下加速度に影響を与え、スプレー波強度が大きいほど、上下加速度波形が正面向波の波形から逸脱する。このことから、図3(A)に示される結果を示す船首形状の船体より、図3(B)に示される結果を示す船首形状の船体のほうが、スプレー波の発生が少ないことが、相関係数αの数値によって、定量的に、高い普遍性をもって評価することが可能なる。
【0025】
更に、スプレー強度算出部28は、相関係数αよりスプレー波強度Ssを算出するものであり、本実施例では予め設定された相関値とスプレー波強度との関係を示すデータマップを用いて相関係数αをスプレー波強度Ssに変換する。相関係数αをスプレー波強度Ssに変換するデータマップは、実験的研究により得ることができ、その一例が図4に示されている。スプレー波強度は、単位時間当たりのスプレー波による単位時間当たりの排除容積Q(m/sec)により定義することができ、排除容積Qが大きいほど、スプレー波強度が高い。
【0026】
なお、スプレー波強度は、データマップを用いた相関係数・スプレー波強度変換に依らずに、相関係数αを従属変数とする演算式によって近似算出することもできる。
【0027】
スプレー強度算出部28は、スプレー波強度Ssを示す信号をディスプレイ、プリンタ等の出力手段30へ出力する。これにより、研究開発者は、試供船体のスプレー波強度Ssを数値をもって定量的に把握することができ、スプレー波強度に関する船首形状や船首付属物取り付けの定量的な評価を的確に行うことができる。このことから、スプレー波低減の設計開発を従来より効率よく行うことができるようになる。
【0028】
上述の実施例では、信号生成を簡単に行えるよう、既知の波浪波形として、波浪波形に相似する正弦波形を用いているが、より高精度な評価が必要な場合には、正弦波信号生成部24に代えて波浪航行における正面向波に近似した波形信号を生成するものが用いられればよい。
【符号の説明】
【0029】
10 船体模型
12 加速度センサ
20 制御ユニット
22 センサ信号記憶部
24 正弦波信号生成部
26 相関係数算出部
28 スプレー強度算出部
30 出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の波浪航行中に船首側に発生するスプレー波の強度を検出するための装置であって、
船首部の上下加速度を検出する加速度検出手段と、
前記加速度検出手段によって検出される上下加速度の波形と波浪波形とを比較し、比較両者間の相関値を算出する相関値算出手段とを有し、
前記相関値算出手段によって算出された相関値によってスプレー波の発生強度を検出するスプレー波強度検出装置。
【請求項2】
前記相関値とスプレー波強度との関係を示すデータマップが予め設定され、当該データマップを用いて前記相関値をスプレー波強度に算出するスプレー波強度算出手段を有する請求項1に記載のスプレー波強度検出装置。
【請求項3】
前記波浪波形は正弦波形である請求項1または2に記載のスプレー波強度検出装置。
【請求項4】
船舶を既知の波浪波形による正面向い波中を航行させて航行中の船首部の上下加速度を加速度検出手段によって検出し、
前記加速度検出手段によって検出される上下加速度の波形と前記波浪波形とを比較し、比較両者間の相関値を求め、
前記相関値によってスプレー波の発生強度を検出するスプレー波強度検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−76642(P2012−76642A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224811(P2010−224811)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)