説明

船舶のバラスト処理水の循環システム

【課題】洗浄用海水や防火用海水のための新たな水処理装置を増設することなく、洗浄用海水や防火用海水を殺菌することができ、また、一部配管に停留した海水を、水処理装置を通過した海水であるバラスト処理水に置換することができる、船舶のバラスト処理水の循環システムを提供する。
【解決手段】船舶のバラスト処理水の循環システム2は、バラスト系ポンプ20、水処理装置30およびバラストタンク40を順次接続して回路を形成する開閉弁2030v等が設置された配管2030等を有するバラスト配管系2bと、消防・ビルジ系ポンプ50と貨物倉60とを接続して回路を形成する開閉弁6250v等が設置された配管6250等を有する消防・ビルジ配管系2cと、水処理装置30またはバラストタンク40の一方と、貨物倉60または消防・ビルジ系ポンプ50の一方とを選択的に接続する開閉弁3162vが設置された配管3162と、を有す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船舶のバラスト処理水の循環システム、特に、バラスト水を殺菌処理する水処理装置を有する船舶における、船舶のバラスト処理水の循環システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶には、積荷の浮力を調整したり、航行時における船体の安定性を保ったりするために、バラストタンクが設けられて、通常、荷揚げを行う港湾において、バラストタンクへの注水や、バラストタンクからの排水が実行される。このため、取水された海水に含まれていた水性生物(微生物を含む)が、取水場所とは相違する場所に排水され、生態系の破壊をもたらす原因になっていた。そこで、国際海事機関(IMO)の外交会議において、「船舶のバラスト水および沈殿物の規制及び管理のための条約(以下、「バラスト管理条約」と称す」が採択されている。
そして、これを受けて、取水時に、海水を物理的あるいは化学的に殺菌する発明が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−200156号公報(第4−6頁、図1)
【特許文献2】特開2006−314902号公報(第5−6頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された発明は、微細物を含んだ海水に剪断領域を生じさせ、剪断現象によって微生物を破壊して殺減するものであり、特許文献2に開示された発明は、オゾンの注入を容易にし、オゾンによって水生生物や細菌類を死滅させるものである。何れも、殺菌された海水をバラストタンクに注入するものであるから、取水した海域以外(以下、「異国」と称す場合がある)の港湾において排水しても、生態系を破壊することがない。
しかしながら、貨物倉の洗浄に使用した海水(以下、「洗浄用海水」と称す)や、貨物(石炭等)の自然発火防止用に貨物に散水した海水(以下、「防火用海水」と称す)が、貨物倉および貨物倉ビルジ溜めに残ることがある。このため、かかる残り水が、取水場所とは相違する場所に排水されたのでは、生態系の破壊が引き起こされることになる。
生態系の破壊を防止するには、バラストタンクへの注水用とは別に、洗浄用海水や防火用海水を殺菌するために新たな水処理装置が必要になり、設置スペースの確保が困難になると共に、製造コストが上昇するという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題を解決するものであって、洗浄用海水や防火用海水のための新たな水処理装置を増設することなく、洗浄用海水や防火用海水を殺菌することができ、また、一部配管に停留した海水を、水処理装置を通過した海水であるバラスト処理水に置換することができる、船舶のバラスト処理水の循環システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る船舶のバラスト処理水の循環システムは、バラスト系海水吸入箱と、バラスト系ポンプと、水処理装置と、バラストタンクと、消防・ビルジ系ポンプと、貨物倉と、船尾水槽と、を有する船舶におけるものであって、
前記バラスト系海水吸入箱、前記バラスト系ポンプ、前記水処理装置および前記バラストタンクを順次接続する開閉弁が設置された配管と、
前記バラストタンク、前記バラスト系ポンプおよび前記バラスト系排出口を順次接続する開閉弁が設置された配管と、
前記水処理装置と前記バラストタンクとを接続する配管に設けられた分岐点、前記消防・ビルジ系ポンプおよび前記貨物倉を順次接続する開閉弁が設置された配管と、
前記貨物倉、前記消防・ビルジ系ポンプおよび前記消防・ビルジ系排出口を順次接続する開閉弁が設置された配管と、
前記水処理装置と前記バラストタンクとを接続する配管に設けられた分岐点および前記船尾水槽を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記船尾水槽、前記消防・ビルジ系ポンプおよび前記消防・ビルジ系排出口を順次接続する開閉弁が設置された配管と、
前記消防・ビルジ系ポンプと前記貨物倉とを接続する配管に設けられた分岐点および前記バラストタンクを接続する開閉弁が設置された配管と、
を有することを特徴とする。
【0007】
(2)また、バラスト系エダクターと、消防・ビルジ系エダクターと、消防・ビルジ系海水吸入口とを有し、
前記バラスト系ポンプと前記水処理装置とを接続する配管に設けられた分岐点および前記バラスト系エダクターの駆動側を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記バラストタンクおよび前記バラスト系エダクターの吸引側を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記バラスト系エダクターの吐出側および前記バラスト系排水口を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記消防・ビルジ系海水吸入口および前記消防・ビルジ系ポンプの上流側を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記消防・ビルジ系ポンプの下流側と前記貨物倉とを接続する配管に設けられた分岐点および前記消防・ビルジ系エダクターの駆動側を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記貨物倉および前記消防・ビルジ系エダクターの吸引側を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記消防・ビルジ系エダクターの吐出側および前記消防・ビルジ系排水口を接続する開閉弁が設置された配管と、
を有することを特徴とする。
【0008】
(3)さらに、前記(2)において、前記消防・ビルジ系エダクターの吐出側と前記バラストタンクとを接続する開閉弁が設置された配管を有することを特徴とする。
(4)さらに、前記(1)乃至(3)の何れかにおいて、前記水処理装置は、海水に含まれた水性生物類または細菌類の一方または両方を死滅させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の船舶のバラスト処理水の循環システムによれば以下の効果が得られる。
(i)水処理装置を通過した海水(本発明において「バラスト処理水」と称す)が、バラストタンクおよび船尾水槽に貯蔵され、また、バラストタンクに貯蔵されたバラスト処理水が貨物倉に注水されるから、排水域と相違する取水域(海域を含む)において取水した海水をそのまま(水処理装置を通過しない未処理のまま)で排出することを防止することができる。このため、船尾水槽あるいは貨物倉に注水する海水を処理するための余計な水処理装置を設置する必要がなくなるから、バラスト管理条約に適合する船舶の新規建造が安価になると共に、バラスト管理条約に適合する船舶への改造の自由度が増し、改造の促進を図ることができる。
【0010】
(ii)また、バラスト系エダクターおよび消防・ビルジ系エダクターを有するから、バラストタンクおよび貨物倉からの排水が迅速になる。
(iii)また、消防・ビルジ系エダクターをバラストタンクに貯蔵されたバラスト処理水によって駆動(ドライブ)して、貨物倉に溜まったビルジをバラストタンクに迅速に移送することができる。
(iv)さらに、水処理装置は海水に含まれた水性生物類または細菌類の一方または両方を死滅させるから、バラスト管理条約に適合する船舶を新規建造またはバラスト管理条約に適合する船舶に改造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係る船舶のバラスト処理水の循環システムを説明する船舶を示す、(a)は横断面図、(b)は縦断面図、(c)は船体外板寄りの縦断面図。
【図2】本発明の実施の形態1に係る船舶のバラスト処理水の循環システムの構成を示す配管図。
【図3】本発明の実施の形態2に係る船舶のバラスト処理水の循環システムの構成を示す配管図。
【図4】実施の形態2の実施例であって、バラストタンクへの注水を示す配管図。
【図5】実施の形態2の実施例であって、バラスト処理水の排水を示す配管図。
【図6】実施の形態2の実施例であって、バラスト配管系の置換動作を示す配管図。
【図7】実施の形態2の実施例であって、船尾水槽への注水を示す配管図。
【図8】実施の形態2の実施例であって、船尾水槽からの排水を示す配管図。
【図9】実施の形態2の実施例であって、貨物倉への注水を示す配管図。
【図10】実施の形態2の実施例であって、貨物倉への注水を示す配管図。
【図11】実施の形態2の実施例であって、貨物倉のビルジの排水を示す配管図。
【図12】実施の形態2の実施例であって、貨物倉のビルジの排水を示す配管図。
【図13】実施の形態2の実施例であって、消防・ビルジ配管系の置換動作を示す配管図。
【図14】実施の形態2の実施例であって、ビルジのバラストタンクへの移送を示す配管図。
【図15】実施の形態2の実施例であって、ビルジのバラストタンクへの移送を示す配管図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態1]
(船舶)
図1および図2は本発明の実施の形態1に係る船舶のバラスト処理水の循環システムを説明するものであって、図1の(a)は船舶を示す横断面図、図1の(b)は船舶を示す中心軸寄りの縦断面図、図1の(c)は船舶を示す船体外板寄りの縦断面図、図2は船舶のバラスト処理水の循環システムの構成を示す配管図である。
図1において、船舶1は、右舷1aおよび左舷1bに沿って複数のバラストタンク40が設けられ、バラストタンク40に挟まれた状態で、船体幅方向の中央に複数の貨物倉60が設けられている。そして、貨物倉60と船底1cとの間には、二重底空所1dが設けられ、二重底空所1dに、貨物倉60の溜まり水(ビルジに同じ)を溜めるための貨物倉ビルジ溜61が配置されている。また、船尾1eには、船尾水槽70が設けられている。
なお、図1は模式的に船舶を示すものであって、バラストタンク40等の形状(縦横比を含む)や大きさ(貨物倉60との相対的な大きさを含む)、その数量等は図示する形態に限定するものではない。
【0013】
(船舶のバラスト処理水の循環システム)
図2において、船舶1には、船舶のバラスト処理水の循環システム(以下、「循環システム」と称す)2が搭載され、循環システム2は、バラスト配管系2bと、消防・ビルジ配管系2cと、を有している。
なお、図2および以下の説明において、循環システム2を形成する各部材および各配管の分岐点に「二桁の符号(例えば、「jk」)を付し、部材または分岐点(例えば、「jk」)と部材または分岐点(例えば、「mn」)とを接合する配管に「四桁の符号(例えば、「jkmn」)」を付し、該配管(例えば、「jkmn」または「mnjk」)に設置された開閉弁に添え字「v」を付している(例えば、「jkmnv」または「mnjkv」)。
また、図2はあくまでも構成を示すものであって、配管の長さ(各配管同士の相対的な長さ)や、配管に設置された開閉弁の位置(部材や分岐点との距離)は、図示された形態に限定されるものではない。
【0014】
(バラスト配管系)
バラスト配管系2bは、バラスト処理水をバラストタンク40に貯蔵したり、バラストタンク40に貯蔵されたバラスト処理水を船外に排水したりするための配管系である。
すなわち、海水を取水するためのバラスト系ポンプ20と、海水を殺菌処理する水処理装置30と、を有している。そして、船舶1に設けられた海水吸入箱(海水の取り入れ口に同じ)11から、バラスト系ポンプ20および水処理装置30を経由してバラストタンク40に至る取水用の配管と、バラストタンク40からバラスト系ポンプ20を経由して、船舶1に設けられた排出口に至る排水用の配管系と、を有している。
【0015】
(バラストタンクへの取水動作)
海水のバラストタンク40への取水は、海水吸入箱11とバラスト系ポンプ20を接続する配管1120に設置された開閉弁1120vは開、バラスト系ポンプ20と水処理装置30とを接続する配管2030に設置された開閉弁2030vは開、水処理装置30とバラストタンク40とを接続する配管3031、3141、4041に設置された開閉弁3031v、3141v、4041vは開にて、バラスト系ポンプ20および水処理装置30を運転する。
このとき、排水用の配管系を構成するバラストタンク40とバラスト系ポンプ20とを接続する配管4121に設置された開閉弁4121vと、バラスト系ポンプ20と排出口12とを接続する配管2212に設置された開閉弁2212vと、バラスト配管系2bと消防・ビルジ配管系2cとを接続する配管3162に設置された開閉弁3162vとは、何れも閉じられている。
なお、開閉弁4041vは複数のバラストタンク40毎に設置され、取水するバラストタンク40に対応した開閉弁4041vのみが開かれるものである。
【0016】
(バラストタンクからの排水動作)
バラストタンク40に貯蔵されていたバラスト処理水のバラストタンク40から船外への排水は、排水用の配管を構成するバラストタンク40とバラスト系ポンプ20とを接続する配管4041、4121に設置された開閉弁4041v、4121vと、バラスト系ポンプ20と排出口12とを接続する配管2212に設置された開閉弁2212vは開にて、バラスト系ポンプ20を運転する。
このとき、開閉弁3141v、1120v、2030vは閉じられている。
なお、開閉弁4041vは排水するバラストタンク40に対応した開閉弁4041vのみが開かれるものである。
【0017】
(配管内に停留した海水のバラスト処理水との置換)
バラストタンク40への取水を終了した後、海水吸入箱11と水処理装置30との間の配管1120、2030には、水処理装置30を通過する前の海水が停留している。そこで、取水が終了した後に、かかる未処理の海水をバラスト処理水によって、取水した海域に排出する。そうしておけば、異国においてバラスト処理水を排出する際、かかる未処理の海水が異国の海域に排出されることが防止され、環境保全を図ることができる。
すなわち、所定の比較的短い時間だけ、前記「バラストタンクからの排水動作」を実行する。
【0018】
(消防・ビルジ配管系)
消防・ビルジ配管系2cは、バラストタンク40に貯蔵されたバラスト処理水を、自然発火の防止や貨物倉の洗浄のために貨物倉60に注入(散布)したり、貨物倉ビルジ溜61に溜まった注入水(以下、「ビルジ」と称す)を、船外に排出またはバラストタンクに移送したりするための配管系と、船尾水槽70にバラスト処理水を供給したり、船尾水槽70に貯蔵されたバラスト処理水を船外に排出したりする配管と、を有している。
すなわち、バラストタンク40から消防・ビルジ系ポンプ50を経由して貨物倉に至る注水用の配管と、貨物倉ビルジ溜61から消防・ビルジ系ポンプ50を経由して排出口14またはバラストタンク40に至る排水用の配管とを有している。
【0019】
(船尾水槽への給水動作)
船尾水槽70へのバラスト処理水の給水は、バラスト配管系2bにおける海水吸入箱11から取水した海水を、水処理装置30を経由して、消防・ビルジ配管系2cの船尾水槽70に供給するものである。
すなわち、開閉弁1120v、2030v、3031v、3162v、6270vは開にて、バラスト系ポンプ20と水処理装置30を運転し、海水吸入箱11から取り入れた水を、バラスト系ポンプ20および水処理装置30を経由して船尾水槽70に供給する。
このとき、バラスト配管系2bの開閉弁4121v、2212v、3141vと、消防・ビルジ配管系2cの開閉弁6162v、6250vとは、何れも閉じられている。
なお、船尾水槽への給水動作は、前記「バラストタンクへの取水動作」に並行して、同時に実行してもよい。
【0020】
さらに、船尾水槽70への取水を終了した後、所定の比較的短い時間だけ、前記「バラストタンクからの排水動作」を実行して、海水吸入箱11と水処理装置30との間の配管1120、2030に停留した海水を排出し、該海水をバラスト処理水に置換する。
【0021】
(船尾水槽から船外への排水動作)
船尾水槽70から船外への排水動作は、開閉弁6270v、6250v、5114vは開にて、消防・ビルジ系ポンプ50を運転する。このとき、開閉弁6162v、3162v、5260v、5240vは閉じられている。
【0022】
(貨物倉への注水動作)
貨物倉60へのバラスト処理水の注水は、バラストタンク40と消防・ビルジ系ポンプ50とを接続する配管4041、3141、3162、6250に設置された開閉弁4041v、3141v、3162v、6250vと、消防・ビルジ系ポンプ50と貨物倉60とを接続する配管5260(正確には、消防・ビルジ系ポンプ50に接続された配管5052から分岐点52において分岐した配管5260)に設置された開閉弁5260vと、を開き、消防・ビルジ系ポンプ50を運転する。
このとき、貨物倉に繋がる配管6162に設置された開閉弁6162vと、消防・ビルジ系ポンプ50と排出口14とを接続する配管5114に設置された開閉弁5114vと、船尾水槽70に繋がる配管6270に設置された開閉弁6270vと、水処理装置30に繋がる配管3031に設置された開閉弁3031vとは、何れも閉じられている。
なお、開閉弁5260vは複数の貨物倉60毎に設置され、注水する貨物倉60に対応した開閉弁5260vのみが開かれるものである。
【0023】
(貨物倉ビルジ溜から船外への排水動作)
ビルジの貨物倉ビルジ溜61から船外への排水は、貨物倉ビルジ溜61と消防・ビルジ系ポンプ50とを接続する配管6162、6250に設置された開閉弁6162v、6250vと、消防・ビルジ系ポンプ50と排出口14とを接続する配管5114に設置された開閉弁5114vを開にて、消防・ビルジ系ポンプ50を運転する。
このとき、船尾水槽70に繋がる配管6270に設置された開閉弁6270vと、バラストタンク40に繋がる3162に設置された開閉弁3162vと、貨物倉60に繋がる配管5260に設置された開閉弁5260vと、バラストタンク40に繋がる5240に設置された開閉弁5240vと、は閉じている。
なお、開閉弁6162vは排水する貨物倉ビルジ溜61に対応した開閉弁6162vのみが開かれるものである。
【0024】
(貨物倉ビルジ溜からバラストタンクへの移送動作)
貨物倉ビルジ溜61からバラストタンク40へのビルジ移送は、貨物倉ビルジ溜61と消防・ビルジ系ポンプ50とを接続する配管6162、6250に設置された開閉弁6162v、6250vと、消防・ビルジ系ポンプ50とバラストタンク40とを接続する配管5240に設置された開閉弁5240vを開にて、消防・ビルジ系ポンプ50を運転する。
このとき、開閉弁3162v、6270v、5114v、5260vは閉じている。
なお、開閉弁6162vおよび開閉弁5240vは、排水する貨物倉ビルジ溜61に対応した開閉弁6162vのみと、受け付けるバラストタンク40に対応した開閉弁5240vのみとが開かれるものである。
【0025】
以上のように、循環システム2によれば、水処理装置30を通過したバラスト処理水のみが、異国の海域に排出されるから、バラスト管理条約の履行を徹底することができ、環境保全を図ることが可能になる。
なお、水処理装置30の形式は限定するものではなく、物理式処理あるいは化学的処理の何れであってもよい。また、開閉弁1120v等の形式は限定するものではなく、機械力によって開閉されるもの(遠隔操作されるものを含む)であっても、人力によって開閉されるものであってもよい。
また、以上は各配管が集約された形で示されているが、本発明はこれに限定するものではなく、前記各動作に応じて、動作に好適な別個の配管にしたり別個の消防・ビルジ系ポンプにしたりしてもよい。したがって、分岐点や開閉弁の数量は限定されるものではない。さらに、船尾水槽70がない場合であってもよい。
【0026】
[実施の形態2]
(船舶のバラスト処理水の循環システム)
図3は本発明の実施の形態2に係る船舶のバラスト処理水の循環システムを説明する構成図である。なお、実施の形態1と同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
図3において、船舶のバラスト処理水の循環システム(以下、「循環システム」と称す)3が搭載され、循環システム3は、バラスト配管系3bと、消防・ビルジ配管系3cと、から形成されている。そして、バラスト配管系3bには、バラスト処理水の船外への排出を迅速かつ効率的にするためのバラスト系エダクター80が設置され、消防・ビルジ配管系3cには、貨物倉ビルジ61や船尾水槽70から船外へのビルジやバラスト処理水の船外への排出を迅速かつ効率的にするための消防・ビルジ系エダクター90が設置されている。
【0027】
(バラスト配管系)
バラスト配管系3bは、バラスト系ポンプ20と排出口12とを接続する配管2324に並行してバラスト系エダクター80が設置されている。
すなわち、配管2324から分岐点23において配管2380が分岐され、配管2380はバラスト系エダクター80の駆動側(ドライブ側)に接続されている。
また、バラストタンク40とバラスト系ポンプ20とを接続する配管4121は、分岐点42において配管4280が分岐され、配管4280はバラスト系エダクター80の吸入側に接続されている。
さらに、バラスト系エダクター80の吐出側に接続された配管8024は、分岐点24において、配管2422に接続されている。
【0028】
(バラストタンクからの排水動作)
バラストタンク40に貯蔵されていたバラスト処理水の排水は、開閉弁1120v、2380v、8024v、2212vは開にて、開閉弁2324v、2030vは閉にて、バラスト系ポンプ20を運転する。そして、バラストタンク40とバラスト系エダクター80とを接続する配管4041、4280に設置された開閉弁4041v、4280vは開きくと、バラストタンク40に貯蔵されていたバラスト処理水は、バラスト系エダクター80によって強力に吸引され、急速に船外に排出される。
このとき、消防・ビルジ配管系3cに繋がった配管3141に設置された開閉弁3141vと、配管4121(分岐点42と分岐点21との間の配管4121)に設置された開閉弁4121vとは閉じている。
【0029】
(配管内に停留した海水のバラスト処理水との置換)
バラストタンク40の排水を終了した後、海水吸入箱11からバラスト系エダクター80を経由して排出口12に至る配管1120、2023、2380、8024、2422、2212には、海水吸入箱11から吸引された海水(水処理装置30を通過していない)が停留している。そこで、取水が終了した後に、かかる未処理の海水をバラスト処理水によって、取水した海域に排出するため、所定の比較的短い時間だけ、バラスト系エダクター80のドライブ側に、バラストタンク40に貯蔵していたバラスト処理水を供給する。
すなわち、開閉弁4041v、4121v、2380v、8024v、2212vは開き、開閉弁3141v、4280v、2030v、2324v、1120vを閉じて、バラスト系ポンプ20を運転して、前記停留した海水を、バラストタンク40に貯蔵されていたバラスト処理水によって船外に排出し、該海水をバラスト処理水に置換する。
【0030】
(消防・ビルジ配管系)
消防・ビルジ配管系3cは、船舶1(図示しない)に設けられた海水吸入箱13と消防・ビルジ系ポンプ50とを接続する配管1350と、消防・ビルジ系ポンプ50と排出口14とを接続する配管5053に並行して消防・ビルジ系エダクター90が設置されている。
すなわち、配管5053は分岐点53において配管5390が分岐され、配管5390は消防・ビルジ系エダクター90の駆動側(ドライブ側)に接続されている。
また、配管6250は、分岐点63において配管6390が分岐され、配管6390は消防・ビルジ系エダクター90の吸引側に接続されている。
さらに、消防・ビルジ系エダクター90の吐出側に接続された配管9054は、分岐点54において、配管5451に接続されている。
【0031】
(貨物倉ビルジ溜から船外への排水動作)
貨物倉ビルジ溜61から船外への排水は、開閉弁1350v、5390v、9054v、5114vを開にて、開閉弁6250v、5260v、5354vを閉じて、消防・ビルジ系ポンプ50を運転する。そして、配管6162、6390に設置された開閉弁6162v、6390vは開きくと、貨物倉ビルジ溜61に貯蔵されていたビルジ(バラスト処理水)は、消防・ビルジ系エダクター90によって強力に吸引され、急速に船外に排出される。このとき、開閉弁3162v、6270vと、配管6250(分岐点63と分岐点55との間の配管6250)に設置された開閉弁6250vとは閉じている。
【0032】
(配管内に停留した海水のバラスト処理水との置換)
貨物倉ビルジ溜61の船外への排水を終了した後、海水吸入箱13から消防・ビルジ系エダクター90を経由して排出口14に至る配管1350、5053、5390、9054、5451、5114には、海水吸入箱13から吸引された海水(水処理装置30を通過していない)が停留している。そこで、取水が終了した後に、かかる未処理の海水をバラスト処理水によって、取水した海域に排出するため、所定の比較的短い時間だけ、消防・ビルジ系エダクター90の駆動側(ドライブ側)に、バラストタンク40に貯蔵していたバラスト処理水を供給する。
すなわち、バラスト配管系3bにおいて、開閉弁4041v、3141v、3162vは開き、開閉弁3031v、4121v、4280v、5240vを閉じる。また、消防・ビルジ配管系3cでは、開閉弁6250v、5390v、9054v、5114vは開き、開閉弁6162v、6270v、1350v、5354v、5260v、6390vを閉じる。
【0033】
以上のように、循環システム3によれば、循環システム2(実施の形態1)と同様に水処理装置30を通過したバラスト処理水のみが、異国の海域に排出されるから、バラスト管理条約の履行を徹底することができ、環境保全を図ることが可能になる。さらに、バラスト系エダクター80または消防・ビルジ系エダクター90によって船外に排水することができるから、排水作業の迅速化と効率化を図ることができる。
【0034】
[実施例]
(船舶のバラスト処理水の循環システム)
図4〜図15は、実施の形態2に示す循環システム3の実施例であって、バラスト処理水の流し方を示す配管図である。図中、太い実線で示す配管にバラスト処理水または海水が流れている。
なお、本実施例は、実施の形態2における消防・ビルジ系ポンプ50の機能を、消防兼ビルジポンプ50bと消防兼雑用ポンプ50zとによって分担するものであって、一部の配管や逆止弁の配置は、実施の形態2におけるものと相違している。
また、説明および図面を簡素にするため、開閉弁の符号は実施の形態2におけるものと相違し、配管については符号を省略している。
【0035】
(バラストタンクへの注水)
図4において、海水吸入箱11から吸入した海水を、バラストポンプ(バラスト系ポンプに同じ)20およびバラスト水処理装置(水処理装置に同じ)30を経由してバラストタンク40に注入する際、弁(開閉弁に同じ)21v、19v、17v、14v、24v、25vは開き、弁20v、18v、16v、13v、12v、26v、15v、33vを閉じている。
【0036】
(バラストタンクからの排水)
図5において、バラストタンク40に貯蔵されたバラスト処理水を、バラストエダクター(バラスト系エダクターに同じ)80を用いて船外に排出する際、弁21v、19v、17v、16v、13v、12vを開いて、弁20v、18v、14v、24v、33vを閉じて海水をバラストエダクター80のドライブ部に供給する。また、弁15vは開きいて、弁25を閉じて、バラストタンク40からバラスト処理水をバラストエダクター80に吸引させている。
なお、バラストタンク40に貯蔵されたバラスト処理水をバラストエダクター80を用いないで船外に排出するには、弁21v、33v、18v、16v、13v、24v、15v、25vを閉じて、弁20v、19v、17v、14v、12vは開きいて、バラストポンプ20を運転すればよい。
【0037】
(バラスト水処理装置までの配管に停留した海水の置換)
図6において、弁33v、19v、17v、16v、13v、12vは開にて、弁21v、20v、18v、14v、24v、15v、25vを閉じて、バラストポンプ20を運転すれば、海水吸入箱11からバラストエダクター80を経由して船外排出に至る配管に停留していた海水を、船外に排出し、当該配管内に停留した海水をバラスト処理水に置換することができる。
【0038】
(船尾水槽への注水)
図7において、海水吸入箱11から吸入した海水を、バラストポンプ20およびバラスト水処理装置30を経由して船尾水槽70に注入する際、弁21、19、17v、14v、24v、26v、32vは開き、弁20v、33v、18v、16v、13v、12v、25v、6v、7vを閉じている。
【0039】
(船尾水槽から船外への排水)
図8において、船尾水槽70に貯蔵されていたバラスト処理水を、消防兼雑用ポンプ50zを用いて船外へ排水するには、弁32v、7v、9v、8v、22v、2vを開き、弁26v、30v、10v、11v、28v、29v、6v、5v、4vを閉じ、消防兼雑用ポンプ50zを運転する。
【0040】
(貨物倉へバラスト水処理装置を通してのバラスト処理水の注水)
図9において、海水吸入箱11から吸入した海水を、バラスト水処理装置30を経由して貨物倉60に注入するには、弁21v、19v、17v、14v、24v、26v、7v、9v、8v、5vは開き、弁20v、18v、16v、13v、12v、25v、33v、6v、30v、10v、11v、28v、29v、22v、32vを閉じ、消防兼雑用ポンプ50zを運転する。
【0041】
(貨物倉へのバラスト処理水の注水)
図10において、バラストタンク40に貯蔵されたバラスト処理水を、消防兼雑用ポンプ50zによって、貨物倉60に注入するには、弁25v、26v、7v、9v、8v、5vは開き、弁15v、18v、20v、33v、24v、32v、6v、30v、10v、11v、28v、29v、22vを閉じている。
【0042】
(貨物倉ビルジ溜からビルジの船外への排水)
図11において、貨物倉ビルジ溜61に貯蔵されたビルジを船外へ排水するには、消防兼ビルジポンプ50bを用いて、弁10v、28v、22v、2vは開き、弁3v、9v、8v、11v、29v、6v、5v、4vを閉じている。
図12において、貨物倉ビルジ溜61に貯蔵されたビルジを、ビルジエダクター(消防・ビルジ系エダクターに同じ)90によって船外へ排水するには、弁11v、28v、22v、4v、1vは開き、弁30v、8v、9v、10v、29v、5v、6v、2vを閉じて、海水吸入箱13から吸引した海水を消防兼ビルジポンプ50bによって、ビルジエダクター90の駆動側(ドライブ側)に供給し、そして、弁3vは開いて貨物倉ビルジ溜61に貯蔵されたビルジをビルジエダクター90に吸引させる。
【0043】
(消防兼ビルジポンプの前後の配管に停留した海水の置換)
図13において、ビルジエダクター90を駆動するために供給した海水が配管内に停留していたのでは、異国においてビルジ等を船外に排出する際、環境を汚染するおそれが生じる。そこで、ビルジエダクター90が停止した直後に、バラスト処理水によって配管に停留していた海水を船外に排出する。
すなわち、 弁25v、26v、7v、30v、28v、22v、4v、1vは開き、弁15v、18v、20v、33v、24v、32v、6v、8v、9v、10v、11v、29v、5v、2v、23v、3vを閉じて、消防兼ビルジポンプ50bを運転する。
【0044】
(貨物倉ビルジ溜のビルジのバラストタンクへの移送)
図14において、貨物倉ビルジ溜61に貯蔵されたビルジを、バラストタンク40へ移送するには、消防兼ビルジポンプ50bを用いて、弁10v、28v、29vは開き、弁3v、8v、9v、11v、6v、5v、22vを閉じている。
図15において、バラスト処理水によってビルジエダクター90をドライブして、貨物倉ビルジ溜61に貯蔵されたビルジをバラストタンク40へ移送するには、弁25v、26v、7v、9v、28v、22v、4v、23vは開き、弁15v、18v、20v、33v、24v、32v、6v、30v、10v、8v、11v、29v、5v、2v、1vを閉じて、バラストタンク40からバラスト処理水を消防兼ビルジポンプ50bにてビルジエダクター90のドライブ側に供給し、弁3vは開いて貨物倉ビルジ溜61に貯蔵されたビルジをビルジエダクター90に吸引させ、バラスト処理水と共にバラストタンク40に移送する。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、洗浄用海水や防火用海水あるいはエダクターのドライビング水を、新たな水処理装置を増設することなく殺菌することができるため、バラスト管理条約を安価に履行することができるから、貨物船に限定されることなく、各種船舶用の船舶のバラスト処理水の循環システムとして広く利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 船舶
1a 右舷
1b 左舷
1c 船底
1d 二重底空所
1e 船尾
2 循環システム(実施の形態1)
2b バラスト配管系
2c 消防・ビルジ配管系
3 循環システム(実施の形態2)
3b バラスト配管系
3c 消防・ビルジ配管系
11 海水吸入箱
12 排出口
13 海水吸入箱
14 排出口
20 バラスト系ポンプ
30 水処理装置
40 バラストタンク
50 消防・ビルジ系ポンプ
60 貨物倉
61 貨物倉ビルジ溜
70 船尾水槽
80 バラスト系エダクター
90 消防・ビルジ系エダクター
50b 消防兼ビルジポンプ
50z 消防兼雑用ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラスト系海水吸入箱と、バラスト系ポンプと、水処理装置と、バラストタンクと、消防・ビルジ系ポンプと、貨物倉と、船尾水槽と、を有する船舶における船舶のバラスト処理水の循環システムであって、
前記バラスト系海水吸入箱、前記バラスト系ポンプ、前記水処理装置および前記バラストタンクを順次接続する開閉弁が設置された配管と、
前記バラストタンク、前記バラスト系ポンプおよび前記バラスト系排出口を順次接続する開閉弁が設置された配管と、
前記水処理装置と前記バラストタンクとを接続する配管に設けられた分岐点、前記消防・ビルジ系ポンプおよび前記貨物倉を順次接続する開閉弁が設置された配管と、
前記貨物倉、前記消防・ビルジ系ポンプおよび前記消防・ビルジ系排出口を順次接続する開閉弁が設置された配管と、
前記水処理装置と前記バラストタンクとを接続する配管に設けられた分岐点および前記船尾水槽を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記船尾水槽、前記消防・ビルジ系ポンプおよび前記消防・ビルジ系排出口を順次接続する開閉弁が設置された配管と、
前記消防・ビルジ系ポンプと前記貨物倉とを接続する配管に設けられた分岐点および前記バラストタンクを接続する開閉弁が設置された配管と、
を有することを特徴とする船舶のバラスト処理水の循環システム。
【請求項2】
バラスト系エダクターと、消防・ビルジ系エダクターと、消防・ビルジ系海水吸入口とを有し、
前記バラスト系ポンプと前記水処理装置とを接続する配管に設けられた分岐点および前記バラスト系エダクターの駆動側を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記バラストタンクおよび前記バラスト系エダクターの吸引側を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記バラスト系エダクターの吐出側および前記バラスト系排水口を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記消防・ビルジ系海水吸入口および前記消防・ビルジ系ポンプの上流側を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記消防・ビルジ系ポンプの下流側と前記貨物倉とを接続する配管に設けられた分岐点および前記消防・ビルジ系エダクターの駆動側を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記貨物倉および前記消防・ビルジ系エダクターの吸引側を接続する開閉弁が設置された配管と、
前記消防・ビルジ系エダクターの吐出側および前記消防・ビルジ系排水口を接続する開閉弁が設置された配管と、
を有することを特徴とする請求項1記載の船舶のバラスト処理水の循環システム。
【請求項3】
前記消防・ビルジ系エダクターの吐出側と前記バラストタンクとを接続する開閉弁が設置された配管を有することを特徴とする請求項2記載の船舶のバラスト処理水の循環システム。
【請求項4】
前記水処理装置は、海水に含まれた水性生物類または細菌類の一方または両方を死滅させることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の船舶のバラスト処理水の循環システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−56529(P2012−56529A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204049(P2010−204049)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)