説明

船舶の推進制御装置

【課題】船舶航行の駆動源のエネルギー効率を高める。
【解決手段】プロペラ12の回転数と出力軸11のトルクとを検出してトルク係数を算出し、トルク係数特性データによりトルク係数に対応する前進係数を算出する。前進係数と回転数に基づいてプロペラ流入速度を算出する。出力軸11の回転数とプロペラ流入速度により求められた実際のプロペラ効率と設定プロペラ効率とを比較して実際のプロペラ流入速度のもとで、設定プロペラ効率に対応した出力軸11の目標回転数を算出する。目標回転数に出力軸11の回転数が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進用のプロペラの回転数をプロペラに加わる外乱に応じて制御するようにした船舶の推進制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロペラの推力により水上を航行する船舶の動力源としては、内燃機関や電動モータが使用されている。プロペラの回転数は、航行状況に応じた所定の回転数となるように、乗員により設定されている。航行時に波浪や潮流の変化によってプロペラに外乱が加わり、プロペラの回転数が変動すると、設定された回転数となるように駆動源の回転数は推進制御装置により自動的に制御される。例えば、内燃機関を駆動源とする船舶用の推進装置においては、内燃機関への燃料供給量をガバナーにより制御することにより、内燃機関の出力軸の回転数を一定に制御するようにしている。
【0003】
特許文献1には、内燃機関の出力軸の実回転数と指令回転数との偏差に応じて内燃機関に対して供給される燃料供給量を制御するようにした舶用電子ガバナーの負荷変動制御器が記載されている。この制御器においては、外乱により出力軸の回転数の変動が予測されたときには回転数のフィードバック制御のPIDパラメータを変更するようにしている。また、特許文献2には、船舶用の内燃機関の出力軸の実回転数と指令回転数との偏差に応じて内燃機関への燃料供給量を制御するようした回転数制御装置において、内燃機関の実回転数として平均回転数を演算するようにしたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−200131号公報
【特許文献2】特開平7−279738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、上述のように、船舶航行時の内燃機関の出力軸の回転数を、船舶航行速度に応じたプロペラ回転数となるように設定するようにしており、潮流や波動によりプロペラに外乱が加わって出力軸の回転数が変動した場合には、設定回転数となるように出力軸の回転数を制御するようにしている。プロペラは船舶航行時の出力軸の回転数が計画回転数の場合に、プロペラ効率が最適値となるように設定されるため、外乱によりプロペラ回転数が変動すると、プロペラ回転数はプロペラ効率が最適値から離れた回転数で駆動されることになる。
【0006】
波動によってプロペラに絶えず外乱が加わった状態で船舶が航行する場合には、従来のように、出力軸の回転数が常に一定となるように制御すると、プロペラ効率が低い状態で航行されることになり、内燃機関を駆動源とする場合には燃費を低減することができず、船舶航行のエネルギー効率が低下することになる。駆動源として電動モータを使用する場合にも、船舶航行のエネルギー効率が低下することになる。
【0007】
本発明の目的は、船舶航行の駆動源のエネルギー効率を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の船舶の推進制御装置は、船舶を推進するプロペラを回転駆動する駆動源の出力軸の回転数を制御する船舶の推進制御装置であって、前記出力軸の回転数を検出する回転数検出手段と、前記プロペラへの流場の水の流入速度であるプロペラ流入速度を算出する流入速度算出手段と、前記プロペラの単独効率特性のデータが格納されるプロペラ効率特性データ格納手段と、前記出力軸の回転数および前記プロペラ流入速度により求められた実際のプロペラ効率と設定プロペラ効率とを比較して前記プロペラ流入速度のもとで前記設定プロペラ効率に対応した前記出力軸の目標回転数を算出する回転数算出手段と、前記回転数算出手段により算出された目標回転数に前記駆動源の前記出力軸の回転数を制御する回転数制御手段とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の船舶の推進制御装置は、前記出力軸の軸トルクを検出するトルク検出手段と、前記軸トルクと前記回転数とに基づいてトルク係数を算出するトルク係数算出手段と、前記プロペラ流入速度および前記回転数により求められる前進係数に対する前記トルク係数特性データが格納されるトルク係数特性データ格納手段と、前記トルク係数算出手段により求められるトルク係数と前記トルク係数特性データとに基づいて前進係数を算出する前進係数算出手段と、前記前進係数と前記出力軸の回転数に基づいてプロペラ流入速度を算出するプロペラ流入速度算出手段とを有することを特徴とする。本発明の船舶の推進制御装置は、前記出力軸に軸方向に加わるスラストを検出するスラスト検出手段と、前記スラストと前記回転数とに基づいてスラスト係数を算出するスラスト係数算出手段と、前記プロペラ流入速度および前記回転数により求められる前進係数に対する前記スラスト係数データが格納されるスラスト係数特性データ格納手段と、前記スラスト係数算出手段により求められるスラスト係数と前記スラスト係数特性データとに基づいて前進係数を算出する前進係数算出手段と、前記前進係数と前記出力軸の回転数に基づいてプロペラ流入速度を算出するプロペラ流入速度算出手段とを有することを特徴とする。本発明の船舶の推進制御装置は、前記出力軸の回転数の基準回転数を入力する回転数入力手段を有し、前記出力軸の回転数が前記基準回転数に対して所定の偏差を超えたときには、前記出力軸の回転数を前記基準回転数に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プロペラに向かう流場のプロペラ流入速度に応じて、プロペラ効率が設定効率となるようにプロペラの回転数を制御するので、プロペラ効率を高効率に維持することができると同時に、プロペラを駆動するための駆動源として内燃機関を用いる場合には回転数の安定化によりエネルギー効率を高めることができる。双方の効果によりエネルギー効率の高い運転が可能となる。プロペラ流入速度は、流速測定器により直接求める方式と、トルク係数に基づいて前進係数を求めて前進係数と回転数とにより算出する方式と、スラスト係数に基づいて前進係数を求めて前進係数と回転数とにより算出する方式とのいずれでも求められる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態である船舶の推進制御装置を示すブロック図である。
【図2】プロペラ面への流場の水の平均速度であるプロペラ流入速度と、プロペラの平均回転速度との関係を示す速度線図である。
【図3】プロペラの前進係数とトルク係数との関係を示すトルク係数特性を示す特性線図である。
【図4】プロペラの前進係数とプロペラ単独効率との関係を示すプロペラ効率特性を示す特性線図である。
【図5】船舶の推進制御装置における制御アルゴリズムを示すフローチャートである。
【図6】本発明の他の実施の形態である船舶の推進制御装置を示すブロック図である。
【図7】プロペラの前進係数とスラスト係数との関係を示すスラスト係数特性を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示されるように、船舶に搭載される駆動源10としての主機つまり内燃機関の出力軸11はプロペラ12に連結されるようになっている。プロペラ12は駆動源10により回転駆動され、船舶はプロペラ12の回転により推力を受けて航行することになる。出力軸11の回転数を検出するための回転数検出手段としての回転数検出器13と、出力軸11の軸トルクを検出するトルク検出手段としての軸トルク検出器14とが船舶に設けられている。
【0013】
回転数検出器13としては、出力軸11の外周面に円周方向にスポット的に1つ設けられた反射部材15に対して光を照射する発光素子と、反射部材15からの反射光を受光する受光素子とを有する形態のものが使用され、出力軸11の1回転当たりの速度から出力軸11の毎秒当たりの回転数n(rps)が検出される。ただし、出力軸11の外周部に光りを遮る突起を設けたり、光を通す孔部や溝部を有する透過光部を設けたりする場合には、回転数検出器13には出力軸11に対して平行に光を照射する発光素子と受光素子とが設けられることになる。さらに、回転数検出器13としては、出力軸11の外周面に設けられたマグネットの磁気に感応する磁気センサを有する形態のものを使用することができる。また、駆動源としての内燃機関のクランク軸の回転数を検出するクランク角センサからの信号に基づいて出力軸11の回転数を検出するようにしても良い。
【0014】
軸トルク検出器14としては、出力軸11に設けられた歪みゲージ16からの無線信号を受信して軸トルクQを求めるようにした形態のものが使用される。ただし、光学式の軸トルク測定器などの他の形態のものを使用するようにしても良い。動力源として内燃機関が使用される場合には、内燃機関はピストン毎の燃焼時の衝撃やプロペラ毎の流体変動により出力軸11が振動するので、軸トルクは出力軸11が1回転する間に変動することになるが、これらに起因したピーク値を出力軸11の1回転周期毎のトルク値を平均化することによってキャンセルすることができる。いずれの形態の軸トルク検出器14が使用されても、出力軸11が1回転毎に1回転するまでに送られたトルク値を平均化するフィルタ部が軸トルク検出器14に設けられている。
【0015】
推進制御装置は船舶航行時にプロペラ12を一定の回転数で駆動する一定回転数制御モードと回転数をプロペラ効率に応じて回転数を変化させる回転数変更制御モードとを有している。出力軸11の回転数は、駆動源10に回転数制御部17から制御信号を送ることにより制御されるようになっており、駆動源10として内燃機関が使用される場合には、回転数制御部17からの信号により燃料噴射量が制御される。一方、駆動源10として電動モータが使用される場合には、インバータを有するモータ回転数制御装置に回転数制御部17からの信号が送られることになる。
【0016】
船舶の操縦室には回転数入力手段としての操縦ハンドル18と、制御モード設定手段としての制御モード切換ハンドル19とが設けられている。出力軸11を一定回転数制御モードで航行させるときには、操縦ハンドル18を操作することにより出力軸11の回転数が乗員により設定される。一方、乗員が制御モード切換ハンドル19を操作することにより、一定回転数制御モードと回転数変更制御モードとの何れかに切り換えられる。
【0017】
一定回転数制御モードが設定されたときには、出力軸11の回転数は、回転数検出器13により検出された実際の回転数n1と設定回転数つまり目標回転数ntとを比較して回転数n1が目標回転数ntとなるように出力軸11の回転数nがフィードバック制御される。これに対し、回転数変更モードが設定されると、プロペラ効率を基準としてプロペラ12の回転数が制御される。
【0018】
プロペラ12は例えば4枚のプロペラ翼を有しており、図2に示すように、1枚のプロペラ面への流場の水の平均流速であるプロペラ流入速度をVaとし、プロペラ平均速度をVとすると、プロペラ流入速度Vaとプロペラ平均速度Vとの合成方向のアタック角度はθとなる。プロペラ12の直径をDとし、プロペラ12の毎秒回転数をnとすると、VaとnDの比は、プロペラ性能を示す指標としての前進係数Jとなる。つまり、前進係数Jは、以下の式により表される無次元値となる。
J=Va/(nD)…(1)
【0019】
プロペラ性能を示す他の指標としては、出力軸11の軸トルクQとプロペラ12の回転数nとを変数とするトルク係数Kqがある。トルク係数Kqは以下の式により表される無次元値となり、出力軸11の軸トルクQと回転数nを検出することによりトルク係数Kqを算出することができる。
Kq=Q/(ρn25)…(2) ただし、この式(2)においてρは水の粘度を示す。
【0020】
このトルク係数Kqは、前進係数Jに対して、図3に示すトルク係数特性線図に示すように一定の対応関係がある。したがって、出力軸11の実際の軸トルクQ1と回転数n1の値が求められれば、上記式(2)によりトルク係数Kq1が求められ、図3のトルク係数特性線図に示すようにトルク係数Kq1に対応する実際の前進係数J1が求められる。前進係数J1が求められると、前進係数J1と回転数n1とに基づいて上記式(1)によりプロペラ流入速度Va1が求められる。
【0021】
プロペラ流入速度Vaを変数とする前進係数Jと、プロペラ12の単独効率ηとには、図4に示すプロペラ効率特性線図で示す対応関係がある。これにより、図4に示されるように、前進係数Jが求められると、その前進係数Jのときのプロペラ12の単独効率ηが求められる。さらに、所定のプロペラ効率ηとなる前進係数Jの値は、図4に示すプロペラ効率特性線図に示されるように求められる。例えば、図4においては、プロペラ単独効率ηの最大効率をηaとし、最大効率ηaとなるときの前進係数Jの値をJaとして示し、単独効率ηの最大効率範囲をηbとし、最大効率範囲ηbとなるときの前進係数Jの範囲をJbとして示されている。
【0022】
したがって、プロペラ流入速度Va1が求められると、プロペラ12を最大効率ηaで駆動する場合には、プロペラ流入速度Va1に対応する前進係数Jaの値に基づいて式(1)により出力軸11の目標回転数ntを求めることができる。同様に、プロペラ12を最大効率範囲ηbの範囲で駆動する場合には、プロペラ流入速度Va1に対応する前進係数Jbの範囲となる目標回転数ntの範囲を求めることができる。
【0023】
回転数検出器13の検出信号と軸トルク検出器14の検出信号は、それぞれコントローラ20に送られるようになっている。コントローラ20は、制御信号を演算するマイクロプロセッサMPUと、制御プログラム、演算式およびマップデータなどが格納されるROMと、一時的にデータを格納するRAM等を有している。図1においては、コントローラ20の有する機能構成がブロックとして示されている。
【0024】
コントローラ20は、出力軸11の回転数を制御する回転数制御部17に対して回転数の指令値を算出する回転数算出部21を有しており、上述した制御モード切換ハンドル19の操作により出力軸11を一定回転制御モードで航行させるときには、上述のように、回転数算出部21により回転数n1と目標回転数ntとを比較して回転数n1が目標回転数ntとなるように出力軸11の回転数がフィードバック制御される。
【0025】
コントローラ20は、回転数検出器13と軸トルク検出器14からの信号に基づいてトルク係数Kqを算出するトルク係数算出部22を有している。このトルク係数算出部22により、プロペラ12の回転数n1に対応する信号と、軸トルクQ1に対応する信号とに基づいて上記式(2)によりトルク係数Kq1の値が算出される。コントローラ20には、図1に示すようにトルク係数特性データ格納部23が設けられており、このトルク係数特性データ格納部23には、図3に示すように、前進係数Jに対応するトルク係数Kqの値つまりトルク係数特性のデータが格納されている。図3に示すトルク係数特性のデータは、マップデータの形態または演算式の形態として図1に示すトルク係数特性データ格納部23に格納されている。
【0026】
トルク係数算出部22からは前進係数算出部24に信号が送られるとともに、トルク係数特性データ格納部23から信号が送られるようになっている。前進係数算出部24は、トルク係数特性データを読み出してトルク係数算出部22により算出されたトルク係数Kq1に基づいて前進係数J1を算出する。算出された前進係数J1の信号はプロペラ流入速度算出部25に送られ、プロペラ流入速度算出部25はトルク係数Kq1と回転数n1とにより上記式(1)に基づいてプロペラ流入速度Va1を算出する。
【0027】
コントローラ20にはプロペラ効率特性データ格納部26が設けられている。このプロペラ効率特性データ格納部26には、図4に示すプロペラ効率特性線図に対応するデータがマップデータの形態または演算式の形態として格納されている。
【0028】
回転数算出部21には、プロペラ効率設定ハンドル27からの入力信号が送られるようになっており、乗員はプロペラ効率設定ハンドル27を操作することにより、回転数変更制御モードで出力軸11を回転制御する際には、設定プロペラ効率ηの値が入力される。例えば、プロペラ12を最大効率ηaで駆動する場合には、プロペラ効率設定ハンドル27の操作により最大効率ηaが設定され、同様に、プロペラ12を最大効率範囲ηbの範囲で駆動する場合には、最大効率範囲ηbが設定される。ただし、回転数変更制御モードのもとでは、例えば、プロペラ12を最大効率ηaでのみ駆動するか、あるいは最大効率範囲ηbの範囲でのみ駆動するのであれば、予め設定プロペラ効率をメモリに格納しておくようにすれば、プロペラ効率設定ハンドル27は不要である。
【0029】
回転数算出部21は、設定プロペラ効率に対応した前進係数Jの値とプロペラ流入速度Va1とに基づいて式(1)により目標回転数ntを算出する。
【0030】
算出された目標回転数nの値は回転数制御部17に送られて、駆動源10の出力軸11の回転数が設定プロペラ効率ηに基づいて制御される。上述のように駆動源10が内燃機関であれば、回転数制御部17からの信号により燃料噴射量が制御される。一方、駆動源10が電動モータであれば、回転数制御部17からはモータ回転数制御装置に制御信号が送られる。
【0031】
次に、図5に示すフローチャートを参照しつつ、船舶の推進制御装置における制御手順について説明する。
【0032】
船舶が出港地を離れるときや寄港地に近づくときには、通常、出力軸11は一定回転数制御モードで制御される。そのときの回転数は操縦ハンドル18を乗員が操作することにより設定され、設定された回転数の信号は回転数算出部21に指令信号として送られる。これにより、出力軸11は一定回転数制御モードで制御される。船舶が定常航行状態となった場合等のように、回転数変更モードにより航行する場合には、乗員が制御モード切換ハンドル19を操作することにより、制御モードが一定回転数制御モードから回転数変更制御モードつまり回転数制御モードに切り換えられる。制御モードが回転数制御モードに切り換えられたことがステップS1において判定されると、ステップS2において出力軸11の軸トルクQ1が検出され、ステップS3において出力軸11の毎秒当たりの回転数n1が検出される。軸トルクQ1と回転数n1とに基づいてトルク係数算出部22は式(2)によりトルク係数Kq1を算出する(ステップS4)。次いで、ステップS5においては、トルク係数特性データを読み出してトルク係数Kq1に対応する前進係数J1を算出し、前進係数J1に基づいてステップS6においてプロペラ流入速度Va1を算出する。
【0033】
次いで、ステップS7において、プロペラ12が設定プロペラ効率となる目標前進係数Jtの値を算出し、ステップS8において、式(1)により目標前進係数Jtと、プロペラ流入速度Va1とに基づいて出力軸11の目標回転数ntを算出する。これにより、ステップS9において、回転数算出部21からは回転数制御部17に対して目標回転数ntの信号が送られる。図5に示される回転数変更制御モードは、ステップS10において制御終了が判定されるか、ステップS1において一定回転数制御モードに切り換えられるまで、所定の周期で実行される。
【0034】
推進制御装置としては、回転数変更制御モードが実行されている際に、出力軸11の回転数の基準回転数を入力する回転数入力手段としての操縦ハンドル18の操作により定常航行時の基準となる一定回転数つまり基準回転数を入力するようにした形態がある。そのような形態においては、基準回転数と回転数変更制御モードにおいて算出された目標回転数ntとの差が所定の偏差Δnを超えたときには、回転数変更制御モードから一定回転数制御モードに自動的に切り換えるようにする。これにより、回転数変更制御モードにおいて航行していたときに万一異常が発生してもそれを回避することができる。
【0035】
図6は本発明の他の実施の形態である船舶の推進制御装置を示すブロック図であり、図7はプロペラの前進係数とスラスト係数との関係を示すスラスト係数特性を示す特性線図である。
【0036】
上述した実施の形態においては、出力軸11に加わる軸トルク値に基づいてプロペラ流入速度を算出するようにしているのに対して、図6に示す実施の形態においては、出力軸11に軸方向に加わる負荷つまりスラストの値に基づいてプロペラ流入速度を算出するようにしている。
【0037】
図7に示すように、プロペラ性能を示す他の指標としては、出力軸11のスラストTとプロペラ12の回転数nとを変数とするスラスト係数Kがある。スラスト係数Kは以下の式により表される無次元値となり、出力軸11のスラストTと回転数nを検出することによりスラスト係数Kを算出することができる。
=T/(ρn2)…(3)
【0038】
このスラスト係数Kは、前進係数Jに対して、図7に示すスラスト係数特性線図に示すように、図3に示したトルク係数特性と同様に一定の対応関係がある。したがって、出力軸11の実際のスラストT1と回転数n1の値が求められれば、上記式(3)によりスラスト係数KT1が求められ、図7のスラスト係数特性線図に示すようにスラスト係数KT1に対応する実際の前進係数J1が求められる。前進係数J1が求められると、前進係数J1と回転数n1とに基づいて上記式(1)によりプロペラ流入速度Va1が求められる。
【0039】
図6に示されるように、出力軸11に加わるスラストTを検出するために、出力軸11にはスラストセンサ30が設けられている。スラストセンサ30はそれぞれ出力軸11の軸線方向に対して傾斜させて出力軸に貼り付けられた複数のストレインゲージ、あるいは軸線方向と円周方向に備えられたストレインゲージの計測値により演算する形態を有しており、検出信号は無線によりスラスト検出器31に送られる。コントローラ20には、スラスト係数算出部32が設けられており、このスラスト係数算出部32には、スラストT1と回転数n1の信号が送られるようになっている。スラスト係数算出部32は、スラストT1に対応する信号と回転数n1に対応する信号とに基づいて上記式(3)によりスラスト係数KT1の値を算出する。
【0040】
コントローラ20には、図6に示すようにスラスト係数特性データ格納部33が設けられており、このスラスト係数特性データ格納部33には、図7に示すように、前進係数Jに対応するスラスト係数の値つまりスラスト係数特性データが格納されている。スラスト係数特性のデータは、マップデータの形態または演算式の形態としてスラスト係数特性データ格納部33に格納されている。
【0041】
前進係数算出部24には、スラスト係数算出部32とスラスト係数特性データ格納部33とから信号が送られるようになっている。前進係数算出部24は、スラスト係数特性データを読み出してスラスト係数算出部32により算出されたスラスト係数KT1に基づいて前進係数J1を算出する。算出された前進係数J1の信号はプロペラ流入速度算出部25に送られ、プロペラ流入速度算出部25はスラスト係数KT1と回転数n1とにより上記式(1)に基づいてプロペラ流入速度Va1を算出する。プロペラ流入速度が算出されると、上述した実施の形態と同様にして目標回転数ntが算出される。
【0042】
上述したように、第1の実施の形態においては、プロペラ流入速度Va1を出力軸11の軸トルクQの値に基づいて検出するようにし、第2の実施の形態においては出力軸11のスラストTの値に基づいて検出するようにしている。軸トルクQの値に基づいてプロペラ流入速度Va1を求める方式においては、出力軸11の軸トルクQ1と回転数n1とによりトルク係数Kq1を算出し、トルク係数特性に基づいて前進係数Jを算出することにより、プロペラ流入速度Va1を算出するようにしている。一方、スラストTの値に基づいてプロペラ流入速度Va1を求める方式においては、出力軸11のスラストT1と回転数n1とによりスラスト係数KT1を算出し、スラスト係数特性に基づいて前進係数Jを算出することにより、プロペラ流入速度Va1を算出するようにしている。
【0043】
これに対し、プロペラ流入速度Va1を速度測定器により直接計測するようにしても良い。そのような形態においても、出力軸11の回転数を検出するために回転数検出器13が用いられ、回転数n1とプロペラ流入速度Va1とにより前進係数を算出し、算出された前進係数に対するプロペラ効率特性に基づいて目標回転数ntを算出する。
【0044】
軸トルクを検出してプロペラ流入速度を算出する形態と、スラストを検出してプロペラ流入速度を算出する形態と、速度測定器によりプロペラ流入速度を求める形態のいずれにおいても、プロペラに外乱が加わってプロペラ流入速度が変化しても、プロペラ12を設定効率で作動させることができるので、駆動源のエネルギー効率を高めることができる。
【0045】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 駆動源
11 出力軸
12 プロペラ
13 回転数検出器(回転数検出手段)
14 軸トルク検出器(軸トルク検出手段)
17 回転数制御部(回転数制御手段)
18 操縦ハンドル(回転数入力手段)
19 制御モード切換ハンドル(制御モード設定手段)
20 コントローラ
21 回転数算出部(回転数算出手段)
22 トルク係数算出部(トルク係数算出手段)
23 トルク係数特性データ格納部(トルク係数特性データ格納手段)
24 前進係数算出部(前進係数算出手段)
25 プロペラ流入速度算出部(プロペラ流入速度算出手段)
26 プロペラ効率特性データ格納部(プロペラ効率特性データ格納手段)
27 プロペラ効率設定ハンドル(プロペラ効率入力手段)
30 スラストセンサ(スラスト検出手段)
31 スラスト検出器(スラスト検出手段)
32 スラスト係数算出部(スラスト係数算出手段)
33 スラスト係数特性データ格納部(スラスト係数特性データ格納手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶を推進するプロペラを回転駆動する駆動源の出力軸の回転数を制御する船舶の推進制御装置であって、
前記出力軸の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記プロペラへの流場の水の流入速度であるプロペラ流入速度を算出する流入速度算出手段と、
前記プロペラの単独効率特性のデータが格納されるプロペラ効率特性データ格納手段と、
前記出力軸の回転数および前記プロペラ流入速度により求められた実際のプロペラ効率と設定プロペラ効率とを比較して前記プロペラ流入速度のもとで前記設定プロペラ効率に対応した前記出力軸の目標回転数を算出する回転数算出手段と、
前記回転数算出手段により算出された目標回転数に前記駆動源の前記出力軸の回転数を制御する回転数制御手段とを有することを特徴とする船舶の推進制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の船舶の推進制御装置において、
前記出力軸の軸トルクを検出するトルク検出手段と、
前記軸トルクと前記回転数とに基づいてトルク係数を算出するトルク係数算出手段と、
前記プロペラ流入速度および前記回転数により求められる前進係数に対する前記トルク係数特性データが格納されるトルク係数特性データ格納手段と、
前記トルク係数算出手段により求められるトルク係数と前記トルク係数特性データとに基づいて前進係数を算出する前進係数算出手段と、
前記前進係数と前記出力軸の回転数に基づいてプロペラ流入速度を算出するプロペラ流入速度算出手段とを有することを特徴とする船舶の推進制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の船舶の推進制御装置において、
前記出力軸に軸方向に加わるスラストを検出するスラスト検出手段と、
前記スラストと前記回転数とに基づいてスラスト係数を算出するスラスト係数算出手段と、
前記プロペラ流入速度および前記回転数により求められる前進係数に対する前記スラスト係数データが格納されるスラスト係数特性データ格納手段と、
前記スラスト係数算出手段により求められるスラスト係数と前記スラスト係数特性データとに基づいて前進係数を算出する前進係数算出手段と、
前記前進係数と前記出力軸の回転数に基づいてプロペラ流入速度を算出するプロペラ流入速度算出手段とを有することを特徴とする船舶の推進制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の船舶の推進制御装置において、前記出力軸の回転数の基準回転数を入力する回転数入力手段を有し、前記出力軸の回転数が前記基準回転数に対して所定の偏差を超えたときには、前記出力軸の回転数を前記基準回転数に設定することを特徴とする船舶の推進制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−285089(P2010−285089A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140887(P2009−140887)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)
【出願人】(304035975)株式会社MTI (46)
【Fターム(参考)】