説明

船舶の推進装置

【課題】船舶のプロペラに波やうねり等の短期的な外乱が加わったときに内燃機関に負荷変動が伝達されるのを防止する。
【解決手段】プロペラ11と内燃機関13の主軸とを連結する動力伝達経路12には、モータジェネレータ14が設けられている。プロペラ11に加わる負荷トルクが内燃機関13の出力トルクを下回っているときには、モータジェネレータ14により電気機器17等の電力被供給部に電力を供給し、負荷トルクが出力トルクを上回っているときには、モータジェネレータ14に電力源から電力を供給してモータジェネレータ14を稼働させてプロペラ11に対して動力をアシストする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶航行時に水面の波等の外乱により内燃機関に負荷変動が加わらないようにした船舶の推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロペラの推力により水上を航行する船舶の動力源としては、通常、内燃機関が使用されており、内燃機関に加えて動力源として電動モータを有するハイブリッド式の推進装置が特許文献1,2に記載されている。このハイブリッド式推進装置は、内燃機関により駆動されて発電するジェネレータを有し、船舶の航行時に内燃機関によってプロペラを駆動しながらジェネレータを駆動することによりバッテリに電力を充電し、電動モータが駆動されるときにはバッテリから電動モータに電力を供給する。推進装置の小型化を図るために、電動モータの機能とジェネレータの機能とを有するモータジェネレータが用いられている。
【0003】
従来のハイブリッド式の推進装置においては、船舶の定常航行時には内燃機関によりプロペラを駆動し、低速ないし微速航行時および使用頻度が少ない後進航行時には電動モータによりプロペラを駆動するようにしている。微速航行時や後進航行時に電動モータによりプロペラを駆動することにより、内燃機関の騒音の発生を解消し、停船時および係留時にもバッテリの電力を電気機器に供給するようにしている。
【0004】
このように、微速航行時や後進航行時に電動モータによりプロペラを駆動するには、定常航行時に内燃機関によりジェネレータを駆動して予めバッテリを充電することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−270495号公報
【特許文献2】特開2001−301692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
船舶の航行時には船体には潮流、風圧、波浪およびうねり等の外乱が加わることになり、外乱によってプロペラに加わる負荷が増加したり減少したりすることになる。プロペラに加わる負荷が頻繁に変動すると、内燃機関の回転数が頻繁に変化して燃費を悪化させることになる。外乱によってプロペラに加わる負荷が増加したときに電動モータを駆動してプロペラの駆動をアシストし、負荷が減少したときにジェネレータを駆動して発電するようにすれば、内燃機関に加わる負荷変動を防止することができるとともに内燃機関の燃費を向上させることができる。そこで、プロペラに加わる負荷変動に応じてモータジェネレータの作動を制御する方式について本発明者により以下のように検討がなされた。
【0007】
貨物船や商船などの船舶が外洋を航行する場合のような船舶の定常航行時には、プロペラの回転数が一定となるように内燃機関の回転数が設定される。プロペラの回転数は船舶の航行抵抗により相違させる必要があるので、航行抵抗に応じて内燃機関に供給される燃料を調整することにより内燃機関の主軸の回転数が設定される。また、内燃機関の主軸が同じ回転数であっても、海象によりプロペラのスリップ量が異なるため、船舶が目標船速となるように、乗員により操作装置が操作されて海象に応じて内燃機関の回転数が設定される。
【0008】
船舶の推進装置には調速装置つまりガバナーが設けられている。ガバナーは常時内燃機関の回転数を検出し、設定された回転数との偏差を算出して設定回転数となるように燃料供給量を調節する。ガバナーの制御頻度は、20Hz程度であるが、燃料供給量を調節してからプロペラの回転数が変化するまでのタイムラグは、数秒から10数秒となっている。この理由は、舶用の内燃機関は自重のみならず主軸に連結されているフライホイールやプロペラの質量も極めて大きいので、これらの慣性力が大きいためである。したがって、燃料供給の調整を開始してから回転数が変化するまでに、上述したような大きなタイムラグがある。
【0009】
船舶に加わる外乱のうち潮流や風圧は、数時間程度の周期で変化する中長期的な外乱であり、外乱のうち波浪やうねりは、数秒から10数秒の周期で変化する短期的な外乱となっている。
【0010】
このため、短期的な外乱により主軸回転数が変化した場合には、ガバナーの制御頻度が高いにも拘わらず、ガバナーによっては外乱に対応させて主軸の回転数を安定的に制御することができない。なぜならば、ガバナーはタイムラグのある回転数を監視しているので、回転数変化の兆候が見られた時点では、負荷トルクはその変化が経過し、既に異なった状態となっている可能性があるためである。その上、回転数変化を検出した後にガバナーが燃料供給量を調整して、その効果が発生するまでに数秒から10数秒間のタイムラグがあるので、その影響は次の制御の入力信号に及ぶこととなる。したがって、ガバナーの特性では時々刻々と変化する短期的な外乱に対しては燃料の調節は難しい。このように、ガバナーは中長期的な外乱に対する主軸回転数の制御には寄与しているが、短期的な外乱に対する主軸の回転数制御には不安定要因となっていると考えられ、最近の実船計測結果では、ガバナーの制御頻度を低くすることにより省エネ効果が認められている程である。
【0011】
このように、中長期的な外乱に対してはガバナーにより内燃機関への燃料供給量が調整されプロペラの負荷変動に対して内燃機関の出力トルクを制御することができるが、船舶に短期的な外乱が加わった場合には、ガバナーによっては内燃機関に加わる負荷を抑制することができない。
【0012】
本発明の目的は、船舶のプロペラに波やうねり等の短期的な外乱が加わったときに内燃機関に負荷変動が伝達されるのを防止することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、内燃機関に負荷変動が加わるのを防止して内燃機関の燃費を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の船舶の推進装置は、船舶に推力を加えるプロペラと内燃機関の主軸とを連結する動力伝達経路を有する船舶の推進装置であって、前記動力伝達経路に設けられ、前記内燃機関により駆動されて電力を発生するジェネレータと、前記ジェネレータにより発生された電力が供給される電力被供給部と、前記プロペラに加わる負荷トルクを検出する負荷トルク検出手段と、前記負荷トルク検出手段により検出された負荷トルクと前記内燃機関の出力トルクとを比較し、前記負荷トルクが前記出力トルクを下回っているときには前記ジェネレータを前記内燃機関により稼働させて前記電力被供給部に電力を供給する制御手段とを有することを特徴とする。
【0015】
本発明の船舶の推進装置は、船舶に推力を加えるプロペラと内燃機関の主軸とを連結する動力伝達経路を有する船舶の推進装置であって、前記動力伝達経路に設けられ、前記プロペラに動力を加える電動モータと、前記電動モータに電力を供給する電力源と、前記プロペラに加わる負荷トルクを検出する負荷トルク検出手段と、前記負荷トルク検出手段により検出された負荷トルクと前記内燃機関の出力トルクとを比較し、前記負荷トルクが前記出力トルクを上回っているときには前記電力源からの電力により前記電動モータを稼働させて前記プロペラに動力をアシストする制御手段とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明の船舶の推進装置は、船舶に推力を加えるプロペラと内燃機関の主軸とを連結する動力伝達経路を有する船舶の推進装置であって、前記動力伝達経路に設けられ、前記内燃機関により駆動されて電力を発生する一方、前記プロペラに動力を加えるモータジェネレータと、前記モータジェネレータにより発生された電力が供給される電力被供給部と、前記モータジェネレータに電力を供給する電力源と、前記プロペラに加わる負荷トルクを検出する負荷トルク検出手段と、前記負荷トルク検出手段により検出された負荷トルクと前記内燃機関の出力トルクとを比較し、前記負荷トルクが前記出力トルクを下回っているときには前記モータジェネレータを前記内燃機関により稼働させて前記電力被供給部に電力を供給し、前記負荷トルクが前記出力トルクを上回っているときには前記電力源からの電力により前記モータジェネレータを稼働させて前記プロペラに動力をアシストする制御手段とを有することを特徴とする。本発明の船舶の推進装置は、前記電力被供給部と前記電力源はバッテリであり、前記負荷トルクが前記出力トルクを下回っているときには前記モータジェネレータによる発電電力を前記バッテリに充電し、前記負荷トルクが前記出力トルクを上回っているときには前記バッテリの電力により前記モータジェネレータを稼働させて前記プロペラに動力をアシストすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水面に発生した波やうねり等の短期的な外乱が船舶に加わり、船舶の航行時にプロペラに加わる負荷トルクが内燃機関の出力トルクを下回っているときには、ジェネレータを稼働させるようにしたので、プロペラに加わる負荷トルクが減少したときには内燃機関の出力トルクを利用して発電し、内燃機関に負荷変動が伝達されるのを防止することができる。一方、プロペラに加わる負荷トルクが内燃機関の出力トルクを上回っているときには電動モータを稼働させてプロペラに動力をアシストするようにしたので、内燃機関に負荷変動が伝達されるのを防止することができる。内燃機関への負荷変動の伝達が防止されるので、船舶に外乱が加わっても、内燃機関の回転数を常に一定に保持することができ、内燃機関の燃費を向上させることができる。
【0018】
ジェネレータにより発電された電力をバッテリに充電し、電動モータを稼働させるときにバッテリから電力を供給するようにすると、水面の波等により発電された電力をプロペラ動力にアシストすることができるので、波の変動に対応させて内燃機関の出力トルクを変化させる場合に比して、内燃機関の燃費を向上させることができる。
【0019】
電動モータとジェネレータとの機能を有するモータジェネレータを動力伝達経路に配置することにより、電動モータとジェネレータとを別々に設ける場合よりも推進装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態である船舶の推進装置を示すブロック図である。
【図2】波が発生している水面を船舶が航行している状態を示す模式図である。
【図3】(A)は波の発生により標準水位に対して水面が変化している状態を示す模式図であり、(B)は波による船速の変化を示す模式図であり、(C)は波によりプロペラに加わる負荷トルクの変化を示す模式図であり、(D)は波により負荷トルクが変動した場合における内燃機関の回転数を従来技術と比較して示す模式図である。
【図4】船舶航行時における推進装置の制御モードを示すタイムチャートである。
【図5】エンジンに対する燃料供給量を一定とした状態のもとでエンジンの出力トルクと主軸の回転数との関係を示す特性線図である。
【図6】本発明の他の実施の形態である推進装置を示すブロック図である。
【図7】本発明のさらに他の実施の形態である推進装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示されるように、船舶に推力を加えるプロペラ11が設けられたプロペラ軸12aは、エンジンつまり内燃機関13の主軸12bに連結されている。プロペラ軸12aと主軸12bは動力伝達経路12を構成しており、エンジンの正味出力つまり出力トルクは動力伝達経路12を介してプロペラ11に伝達される。動力伝達経路12にはモータジェネレータ14が設けられており、モータジェネレータ14はプロペラ11に対して動力を加える電動モータとしての機能と、内燃機関13により駆動されて発電するジェネレータとしての機能とを有している。
【0022】
乗員がエンジン回転数を設定するために、操作装置15には操作ハンドル15aが設けられており、乗員が操作ハンドル15aを操作することにより入力されたエンジン回転数の指令信号はガバナー16に送られるようになっている。ガバナー16は内燃機関13の主軸12bが指令信号に応じた回転数となるように燃料供給量指令信号を内燃機関13に送る。内燃機関13からは主軸12bの実回転数信号と実際の燃料供給量信号がガバナー16に送られ、内燃機関13は主軸12bが設定された回転数になるようにフィードバック制御される。
【0023】
船舶内に設けられた種々の電気機器17の電力需要を満たすために、船舶内には発電機18が設けられており、発電機18により発電された電力は船内母線19を介して電気機器17に送られる。船内の電気機器17は電力が供給されて機能を発揮する電力被供給部となっており、発電機18は電力を電力被供給部に供給する電力源となっている。
【0024】
モータジェネレータ14はインバータ21を介して船内母線19に接続されている。これにより、モータジェネレータ14を発電機として稼働させることにより発生した電力は、インバータ21を介して電気機器17の電力需要に供給することができる。一方、モータジェネレータ14を電動モータとして稼働させてプロペラ11に対して動力をアシストする場合には、モータジェネレータ14には発電機18から電力を供給することができる。さらに、船舶内には二次電池つまりバッテリ22が搭載されており、バッテリ22の電力をモータジェネレータ14に供給してモータジェネレータ14を電動モータとして稼働させることができるとともに、モータジェネレータ14により発電された電力をバッテリ22に充電することができる。このように、推進装置にバッテリ22を設けることにより、バッテリ22は電力源および電力被供給部を構成することになる。
【0025】
図1に示す推進装置は、モータジェネレータ14に対しては発電機18とバッテリ22のいずれからも電力を供給し得るとともに、モータジェネレータ14による発電電力を船内の電気機器17とバッテリ22とのいずれにも供給し得る形態となっている。推進装置の形態としては、モータジェネレータ14に発電機18とバッテリ22のいずれからも電力を供給し得る形態と、モータジェネレータ14により発電した電力を船内の電気機器17とバッテリ22とのいずれにも供給し得るようにした形態とがある。
【0026】
推進装置の他の形態としては、モータジェネレータ14に発電機18のみから電力を供給する形態と、モータジェネレータ14にバッテリ22のみから電力を供給する形態がある。同様に、モータジェネレータ14により発生した電力を船内の電気機器17のみに供給する形態と、バッテリ22のみに供給する形態がある。
【0027】
船舶の航行時にプロペラ11に加わる負荷トルクを検出するために、プロペラ軸12aには歪みゲージ23が設けられており、この歪みゲージ23からは無線信号により負荷トルク検出器24に検出信号が送信されるようになっている。この歪みゲージ23は、プロペラ軸12aに加わるねじれ応力に応じた検出信号を、例えば500Hzの周期で負荷トルク検出器24に送信する。プロペラ11がほぼ一定の回転数で回転していた状態のもとで、水面の波やうねり等の外乱がプロペラ11に加わって負荷トルクが変動すると、プロペラ軸12aのねじれ応力が変化するので、歪みゲージ23からの信号によりプロペラ11に加わる負荷トルクを検出することができる。ただし、負荷トルクを検出するために、歪みゲージ23に代えて光学式の軸トルク計を用いるようにしても良い。
【0028】
ガバナー16からは制御手段としてのコントローラ25に対して、主軸12bの実際の回転数に対応した回転数信号と、内燃機関13に実際に供給される燃料供給量に対応した供給量信号とが送られるようになっている。ガバナー16からコントローラ25に送られるこれらの信号に基づいて、コントローラ25により内燃機関13の正味の出力トルクが演算される。したがって、コントローラ25は内燃機関13の出力トルクを演算する機能を有しているが、内燃機関13を制御する図示しないエンジンコントローラから出力トルクの信号をコントローラ25に送るようにしても良い。正味の出力トルクは、シリンダ内の摩擦損失等を差し引いて内燃機関13の主軸12bから出力されるトルクであり、制動トルクとも言われる。内燃機関13の出力トルクの演算方式としては、軸トルク計により主軸12bの出力トルクを求めるようにしても良い。
【0029】
コントローラ25には負荷トルク検出器24からの検出信号が送られるようになっており、コントローラ25により内燃機関13の出力トルクと、プロペラ軸12aに加わる負荷トルクとが比較される。比較結果に基づいて、モータジェネレータ14を電動モータとして稼働させてプロペラ11に動力をアシストするアシストモードと、モータジェネレータをジェネレータとして稼働させて電気機器17等の電力被供給部に供給するジェネレーティングモードとに切り換えられる。
【0030】
図2は波が発生している水面を船舶が航行している状態を示す模式図である。図2に示されるように、水面上を矢印で示す方向に船舶が航行しているとすると、船舶は波を上る状態S1から、波の頂点を航行する状態S2と、波を下る状態S3とを経て波の最下点状態S4に至ることになる。周期的な波が発生している状態のもとで船舶が航行するときには、このような航行状態が周期的に繰り返されることになる。
【0031】
図3(A)は波の発生により標準水位に対して水面が変化している状態を示す模式図であり、図3(B)は波による船速の変化を示す模式図であり、図3(C)は波によりプロペラ11に加わる負荷トルクの変化を示す模式図であり、図3(D)は波により負荷トルクが変動した場合における内燃機関の回転数を従来と比較して示す模式図である。
【0032】
船舶が波に差し掛かって波を上る状態S1のときには、船体に加わる航行抵抗は波により増加し船速は低下する。船速の低下によりプロペラ11に向けて流れる水の流入速度も低下するので、プロペラ11を介してプロペラ軸12aに加わる負荷トルクが増加することになる。負荷トルクは船速が最低となる波の頂点を航行する状態S2付近において最大となる。一方、波の頂点を過ぎると、波を原因とする航行抵抗は一気に低下し、重力加速度も加勢するために船速は急速に増大し、負荷トルクは低下することになる。したがって、船舶が航行する際に水面に波が発生すると、船速と負荷トルクは図3(B),(C)に示すように変化することになる。ただし、船速と負荷トルクの変化は、図3(B),(C)においては単純化して概略的に示されており、実際の波の変化に対する船速と負荷トルクの位相は図示する場合よりも複雑な位相差となる。
【0033】
図4は船舶航行時における推進装置の制御モードを示すタイムチャートであり、内燃機関13に一定量の燃料を供給すると、主軸12bの目標出力トルクは一定となる。図2に示したように、波が発生している水面を船舶が航行すると、図2において船舶が波を上る状態S1から波の頂点状態S2まで航行する際には、プロペラ11に加わる負荷トルクは内燃機関13の目標出力トルクよりも増加することになる。負荷トルクの増加が、負荷トルク検出器24により検出されると、その信号がコントローラ25に送られて、推進装置はアシストモードに設定される。このアシストモードにおいては、モータジェネレータ14を電動モータとして稼働させてプロペラ11に動力をアシストすることになる。アシスト量は、負荷トルクに応じた値に設定される。アシストされたモータトルクは、図4においてはハッチングを付して示されている。
【0034】
これに対し、図2において船舶が波の頂点状態S2から波を下る状態S3を経て波の最下点状態S4にまで航行する際には、プロペラ11に加わる負荷トルクは目標出力トルクよりも減少することになる。負荷トルクの減少が負荷トルク検出器24により検出されると、その信号がコントローラ25に送られて、推進装置はジェネレーティングモードに設定される。ジェネレーティングモードにおいては、モータジェネレータをジェネレータとして稼働させて発電する。発電電力は電気機器17やバッテリ22からなる電力被供給部に供給される。発電量は、減少した負荷トルクに応じた値に設定される。発電のために内燃機関13によりモータジェネレータ14に加えられたトルクは、図4において点を付して示されている。
【0035】
したがって、短期的な周期で変動する波やうねり等の外乱が発生している水面上を船舶が航行するときに、プロペラ11に加わる負荷トルクが目標出力トルクよりも増加すると、モータジェネレータ14によりプロペラ軸12aには駆動トルクがアシストされるので、内燃機関13に対して供給される燃料を増加させることなく、つまり内燃機関13の目標出力トルクを増加させることなく、船舶を航行させることができる。一方、プロペラ11に加わる負荷トルクが目標出力トルクよりも減少すると、モータジェネレータ14が内燃機関13により駆動されて内燃機関13の出力トルクは発電エネルギーとして使用されるので、内燃機関13に対して供給される燃料を減少させて内燃機関13の目標出力トルクを低下させることなく船舶を航行させることができる。このように、波やうねりが発生している水面上においても、内燃機関13に対して一定量の燃料を供給した状態とし、図3(D)に示すように内燃機関13の回転数を変化させることなく、内燃機関の出力トルクを一定に保持して船舶を航行させることができる。つまり、出力馬力を一定とする航行が可能となる。このように、周期的に負荷トルクが加わっても、内燃機関13の出力トルクを一定に保持することができるので、内燃機関13の回転数を周期的に変化させるように駆動する場合に比して燃費を向上させることができる。
【0036】
図5は内燃機関13に対する燃料供給量を一定とした状態のもとで内燃機関13の出力トルクと主軸12bの回転数との関係を示す特性線図である。この特性線図は内燃機関13として使用されるディーゼルエンジンの特性を示しており、内燃機関13は、供給燃料一定のもとでは、出力トルクと回転数との関係は、図5に示すような特性を有している。図5において、符号aから符号eは、それぞれ燃料供給量を示しており、符号aから符号eに向かうに従って燃料供給量は少ない状態を示す。ディーゼルエンジンは、回転数が高くなると出力トルクが増加し、最大出力トルクつまり最大馬力となる所定の回転数Pよりも回転数が高くなると、出力トルクは右下がりとなる出力特性を有している。船舶の定常航行時には、主軸12bは回転数が右下がりの領域で駆動される。
【0037】
例えば、図5においてA点の状態で船舶が航行しているときに、従来では、波やうねりによりプロペラ11に加わる負荷トルクが増加すると、主軸12bの回転数が低下することになるので、ガバナー16により燃料供給量が高められて、負荷トルクの増加に見合うように出力トルクが高められる。一方、負荷トルクが減少すると、回転数が増加することになるので、ガバナー16により燃料供給量が低下されて、負荷トルクの減少に見合うように出力トルクが低下される。
【0038】
したがって、従来技術のように短期的な外乱に対してガバナー16によって燃料供給量を制御するようにすると、図3(D)に示すように、エンジン回転数が頻繁に変化することになり、燃費を悪化させることになる。しかも、ガバナー16により燃料供給量を制御すると、制御が完了するまでに、図3(D)に示すようにタイムラグTがあるので、短期的な外乱に対応させて安定的に主軸12bの回転数を制御することができない。これに対し、本発明においては、短期的な外乱に対して、モータジェネレータ14を稼働させることによって主軸12bの回転数を外乱のもとでも、図3(D)に示すように、一定に維持することができる。
【0039】
図1に示すように、動力伝達経路12には電動モータの機能とジェネレータの機能とを有するモータジェネレータ14を設けているが、電動モータとジェネレータとを動力伝達経路にそれぞれ設けるようにしても良い。動力伝達経路12に電動モータのみを設けるようにすると、負荷トルクが増加した場合にはプロペラ軸12aにはモータ動力がアシストされることになり、負荷トルク増加時の主軸12bの回転数低下を防止することができる。一方、動力伝達経路12にジェネレータのみを設けるようにすると、負荷トルクが低下した場合にはジェネレータにより発電することができる。ただし、図1に示すように、モータジェネレータ14を動力伝達経路12に配置するようにすると、推進装置を小型化することができる。
【0040】
図6は本発明の他の実施の形態である船舶の推進装置を示すブロック図である。この推進装置は、図1に示した推進装置の動力伝達経路12が一列となった一軸タイプであるのに対し、動力伝達経路12にギヤボックス26が設けられたギヤボックスタイプとなっている。内燃機関13の主軸12bは、ギヤボックス26を介してプロペラ軸12aに連結され、モータジェネレータ14の主軸14aもギヤボックス26を介してプロペラ軸12aに連結されている。この場合には、ギヤボックス26内に逆転機構を組み込むことにより、内燃機関13の主軸12bとモータジェネレータ14の主軸14aの回転を逆転させてプロペラ軸12aに伝達することができる。
【0041】
図7は本発明のさらに他の実施の形態である船舶の推進装置を示すブロック図である。この推進装置は、図1に示した推進装置における発電機18に加えて廃熱回収装置31が電力供給源として設けられている。廃熱回収装置31は内燃機関13から排出される排ガスのエネルギーを利用して電力を発生する機能を有しており、廃熱回収装置31により利用されて低圧低温となった排ガスは外部に排出される。
【0042】
廃熱回収装置31としては、排ガスの流速、圧力エネルギーによりタービンを回転して発電するタイプと、排ガスの熱エネルギーによりボイラーを加熱し、ボイラーにより得られた蒸気により蒸気タービンを駆動して発電するタイプとがある。このように、内燃機関13の排ガスのエネルギーを電力供給源として利用することにより、内燃機関の燃費をより向上させることができる。
【0043】
図7は、図1と同様の一軸タイプの推進装置を示すが、図6と同様のギヤボックスを有するタイプとしても良い。なお、図6および図7においては、図1に示された部材と共通する部材には、同一の符号が付されている。
【0044】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0045】
11 プロペラ
12 動力伝達経路
12a プロペラ軸
12b 主軸
13 内燃機関
14 モータジェネレータ
15 操作装置
16 ガバナー
17 電気機器
18 発電機
21 インバータ
22 バッテリ
24 負荷トルク検出器
25 コントローラ(制御手段)
26 ギヤボックス
31 廃熱回収装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に推力を加えるプロペラと内燃機関の主軸とを連結する動力伝達経路を有する船舶の推進装置であって、
前記動力伝達経路に設けられ、前記内燃機関により駆動されて電力を発生するジェネレータと、
前記ジェネレータにより発生された電力が供給される電力被供給部と、
前記プロペラに加わる負荷トルクを検出する負荷トルク検出手段と、
前記負荷トルク検出手段により検出された負荷トルクと前記内燃機関の出力トルクとを比較し、前記負荷トルクが前記出力トルクを下回っているときには前記ジェネレータを前記内燃機関により稼働させて前記電力被供給部に電力を供給する制御手段とを有することを特徴とする船舶の推進装置。
【請求項2】
船舶に推力を加えるプロペラと内燃機関の主軸とを連結する動力伝達経路を有する船舶の推進装置であって、
前記動力伝達経路に設けられ、前記プロペラに動力を加える電動モータと、
前記電動モータに電力を供給する電力源と、
前記プロペラに加わる負荷トルクを検出する負荷トルク検出手段と、
前記負荷トルク検出手段により検出された負荷トルクと前記内燃機関の出力トルクとを比較し、前記負荷トルクが前記出力トルクを上回っているときには前記電力源からの電力により前記電動モータを稼働させて前記プロペラに動力をアシストする制御手段とを有することを特徴とする船舶の推進装置。
【請求項3】
船舶に推力を加えるプロペラと内燃機関の主軸とを連結する動力伝達経路を有する船舶の推進装置であって、
前記動力伝達経路に設けられ、前記内燃機関により駆動されて電力を発生する一方、前記プロペラに動力を加えるモータジェネレータと、
前記モータジェネレータにより発生された電力が供給される電力被供給部と、
前記モータジェネレータに電力を供給する電力源と、
前記プロペラに加わる負荷トルクを検出する負荷トルク検出手段と、
前記負荷トルク検出手段により検出された負荷トルクと前記内燃機関の出力トルクとを比較し、前記負荷トルクが前記出力トルクを下回っているときには前記モータジェネレータを前記内燃機関により稼働させて前記電力被供給部に電力を供給し、前記負荷トルクが前記出力トルクを上回っているときには前記電力源からの電力により前記モータジェネレータを稼働させて前記プロペラに動力をアシストする制御手段とを有することを特徴とする船舶の推進装置。
【請求項4】
請求項3記載の船舶の推進装置において、前記電力被供給部と前記電力源はバッテリであり、前記負荷トルクが前記出力トルクを下回っているときには前記モータジェネレータによる発電電力を前記バッテリに充電し、前記負荷トルクが前記出力トルクを上回っているときには前記バッテリの電力により前記モータジェネレータを稼働させて前記プロペラに動力をアシストすることを特徴とする船舶の推進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−241160(P2010−241160A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89054(P2009−89054)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)
【出願人】(304035975)株式会社MTI (46)