説明

船舶の機器のメンテナンス方法、船舶の機器のメンテナンス用装置、及び船舶メンテナンスの損益算出装置

【課題】船舶内の機器のメンテナンスを効率よく行うことで、船舶の管理コストを低減すること。
【解決手段】航行中の船舶の機器に装着されたセンサー110から当該機器の特性に関する検出値を取得するステップと、検出値の変動に基づいて、機器の交換が必要となる所定のしきい値に検出値が到達するか否かを予測するステップと、検出値が所定のしきい値に到達することが予測される場合、船舶の航行に関する情報に基づいて、検出値が所定のしきい値に到達する以前に入港する港を選定するステップと、選定された港に入港した際に、センサーが装着された機器をメンテナンスするステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の機器のメンテナンス方法、船舶の機器のメンテナンス用装置、及び船舶メンテナンスの損益算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶内では、例えば主機、ポンプなどの様々な機器が用いられている。これらの機器は、経年変化により劣化するため、定期的にメンテナンスをする必要がある。特に、主機(エンジン)などの重要な機器に劣化が生じると航行に支障が生じるため、定期的なメンテナンスは必要不可欠である。
【0003】
現状のメンテナンスの仕組みを以下に説明する。船主、又は船の管理会社(船管会社)では、保有又は管理する船舶内の機器の状態を把握して、機器の状態に応じて交換部品を手配し、メンテナンスを行う。船は常時就航しているため、機器の状態把握、メンテナンス作業は就航中に船の乗組員によって行われる。
【0004】
通常、メンテナンスの対象となる機器の製造元、管理元は異なるため、機器に劣化が生じている場合は、劣化が生じている機器毎に製造元に在庫を確認し、交換部品を手配する。そして、港で停泊した際に交換部品を積み込み、船舶内で乗組員又は製造元により部品の交換が行われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の手法では、故障した機器毎に製造元、管理元を調べ、製造元毎、または管理元毎に交換部品を発注するという非常に煩雑な作業が必要となる。また、機器の交換などのメンテナンスは乗組員が行うため、乗組員は通常の航行作業に加えてメンテナンス作業を行う必要があり、乗組員の作業負荷が増大してしまう。このため、メンテナンス作業を行うために乗組員を増加する必要があり、乗組員の人件費を含めたメンテナンスのコストが上昇するという問題がある。特に、多くの船を所有する船主、船管会社にとっては、船舶一艘毎のメンテナンスのコストを全船舶について合計すると、多大な費用の支出が生じることになる。
【0006】
また、海洋を航海する船舶の性質上、交換部品の積み込みは停泊港のみで行うことができるが、機器の劣化の度合に応じて、交換部品を積み込む港の選定を効率良く行うことは困難であった。このため、交換部品の積み込みを予定している港に到着する前に機器が使用不能となる事態が想定される。また、劣化度合いが低い機器であっても、航行中に機器が故障してしまうことを想定して、より早い段階で交換が行われてしまい、この結果、メンテナンスコストが余分にかかるという問題がある。このように、航行中の船舶における機器のメンテナンスは、停泊港までの期間、日数を考慮した上で、機器の交換を最適なタイミングで行う必要がある。
【0007】
更に、船舶の機器は、就航の安全性に与える影響が大きく、所定の認証を受ける必要がある。このため、認証を受けている機器の不良箇所を修理する従来の手法に代わって、より効率的なメンテナンスの手法が望まれていた。更に、新たなメンテナンスのシステムを構築した場合に、メンテナンスを請け負う側では、損益分岐点となるメンテナンス対象の隻数を確実に算出できることが望ましい。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、船舶内の機器のメンテナンスを効率よく行うことで、省人運航を可能とし、船舶の管理コストを低減することが可能な、新規かつ改良された船舶の機器メンテナンス方法及び船舶の機器のメンテナンス用装置を提供することにある。また、本発明の目的とするところは、船舶の機器メンテナンスにおいて、損益分岐点を精度良く算出することが可能な、新規かつ改良された船舶メンテナンスの損益算出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、航行中の船舶の機器に装着されたセンサーから当該機器の特性に関する検出値を取得するステップと、前記検出値の変動に基づいて、前記機器の交換が必要となる所定のしきい値に前記検出値が到達するか否かを予測するステップと、前記検出値が前記所定のしきい値に到達することが予測される場合、船舶の航行に関する情報に基づいて、前記検出値が前記所定のしきい値に到達する以前に入港する港と、当該港に入港する時期を選定するステップと、選定された港に入港した際に、前記センサーの検出値からメンテナンスが必要と判断された前記機器をメンテナンスするステップと、を備える船舶の機器のメンテナンス方法が提供される。
【0010】
上記構成によれば、航行中の船舶の機器に装着されたセンサーから当該機器の特性に関する検出値が取得され、検出値の変動に基づいて、機器の交換が必要となる所定のしきい値に検出値が到達するか否かが予測される。そして、検出値が所定のしきい値に到達することが予測される場合、船舶の航行に関する情報に基づいて、検出値が所定のしきい値に到達する以前に入港する港が選定され、選定された港に入港した際に、メンテナンスが必要と判断された機器が交換される。従って、センサーの検出値の変動と、船舶の航行に関する情報に基づいて、劣化の生じた機器を最適のタイミングで交換、修理することが可能となる。これにより、航海中の乗組員のメンテナンス作業を削減することができ、省人又は無人運航が可能となる。
【0011】
また、前記機器のメンテナンスは、専門家により当該機器の製造者が要求する機能が保障されたモジュール単位毎に前記機器を交換することによって行われるものであってもよい。かかる構成によれば、船舶の機器を常に機能が保障された状態に維持することが可能となり、修理時の改変等により、機器の状態がメンテナンスの不良等により劣化してしまうことを確実に回避できる。
【0012】
また、交換により陸揚げした前記機器を専門工場にて専門家によりメンテナンス、補修を行うことで当該機器の製造者が要求する品質と機能を有する状態に再生し、同型機器の交換用モジュールとして再使用するものであってもよい。かかる構成によれば、陸揚げした機器を再使用することができるため、資源を有効に活用することができる。
【0013】
また、前記船舶の航行に関する情報は、船舶の航行予定経路又は航行速度を含むものであってもよい。かかる構成によれば、船舶の航行予定経路又は航行速度に基づいて、検出値が所定のしきい値に到達する以前に入港する港を選定することができる。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、航行中の船舶の機器に装着されたセンサーによって検出された当該機器の特性に関する検出値を受信する受信部と、前記検出値の変動に基づいて、前記機器の交換が必要となる所定のしきい値に前記検出値が到達するか否かを予測し、前記検出値が前記所定のしきい値に到達することが予測される場合、船舶の航行に関する情報に基づいて、前記検出値が前記所定のしきい値に到達する以前に入港する港を選定する解析部と、を備える船舶の機器のメンテナンス用装置が提供される。
【0015】
上記構成によれば、航行中の船舶内の機器に装着されたセンサーによって検出された当該機器の特性に関する検出値が受信され、検出値の変動に基づいて、機器の交換が必要となる所定のしきい値に検出値が到達するか否かが予測され、検出値が所定のしきい値に到達することが予測される場合、船舶の航行に関する情報に基づいて、検出値が所定のしきい値に到達する以前に入港する港が選定される。従って、センサーの検出値の変動と、船舶の航行に関する情報に基づいて、劣化の生じた機器を交換、修理する最適な港と時期を選定することが可能となる。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、メンテナンス対象の船舶において、船舶の自動診断システムによる航海中のメンテナンス作業の削減の導入により削減可能な船員数を含む情報が入力されるデータ入力部と、前記データ入力部に入力された情報に基づいて、損益分岐点となる前記メンテナンス対象の船舶の隻数を算出する損益分岐点解析部と、を備える船舶メンテナンスの損益算出装置が提供される。
【0017】
上記構成によれば、データ入力部には、メンテナンス対象の船舶において、自動診断システムによる航海中のメンテナンス作業の削減の導入により削減可能な船員数を含む情報が入力され、データ入力部に入力された情報に基づいて、損益分岐点となるメンテナンス対象の船舶の隻数が算出される。従って、メンテナンスを請け負う側において、利益を生じさせるために必要な船舶の隻数を算出することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、船舶内の機器のメンテナンスを効率よく行うことで、船舶の管理コストを低減することが可能な船舶の機器メンテナンス方法及び船舶の機器のメンテナンス用装置を提供することができる。また、本発明によれば、船舶の管理コストを低減することが可能な上記船舶の機器メンテナンスにおいて、損益分岐点を精度良く算出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る船舶の機器メンテナンスシステムを説明するための模式図である。図1に示すように、本実施形態のシステムは、メンテナンス対象の機器が搭載された船舶100、船舶100内の機器のメンテナンス業務を行うメンテナンス会社200を有して構成されている。
【0021】
船舶100は、海上を航行しており、船舶100内ではメンテナンス対象の機器が稼動している。ここで、メンテナンス対象の機器としては、例えば、主機(エンジン)、過給機、発電機、ボイラー、清浄機、熱交換器、各種ポンプ、こし器、各空気圧縮機、増水器、汚水処理装置、焼却炉、エアコンディショナー、糧食庫、軸系、ビルジセパレーター、各種タンク、通風装置が挙げられる。これらの機器には、機器の状態を検出するための各種センサーが取り付けられている。センサーは、機器の温度、圧力などの特性値を検出して、メンテナンス会社200のサーバー(メンテナンス用装置)へ送信する。なお、サーバーは船舶100上に配置されていても良く、この場合はセンサーの検出値が有線または無線により船上のサーバーへ送信される。
【0022】
メンテナンス会社200は、船主又は船管会社からメンテナンス業務を一括して請け負う。船主又は船管会社は、メンテナンス会社200に対して、メンテナンス業務の対価を支払う。
【0023】
メンテナンス会社200のサーバーは、地上又は船上に設けられ、センサーの検出値に基づいて、船舶100内の各種機器の状態を監視する。メンテナンス会社200のサーバーでは、センサーの検出値に基づいて、船舶100内の各種機器の劣化度合いを判定する。このように、メンテナンス会社200は、船舶100内の機器を監視し、機器の状態を自己診断する役割を果たす。
【0024】
メンテナンス会社200は、診断の結果、船舶100内の機器に劣化が生じており、機器の交換、又は修理が必要と判断した場合は、船舶100が停泊する港に交換用の機器、又は修理用の部品を運び、船舶100が港に停泊した際に機器の交換、又は修理を行う。メンテナンス会社200による機器のメンテナンスは、メンテナンス会社200のエンジニア、またはメンテナンス会社200に関係する修理業者が訪船して行い、船舶100が港に停泊した際の荷役、待船時に実施される。また、メンテナンスは、メンテナンス会社200の作業者が船舶100に乗船して航海中に実施しても良い。なお、船舶100内の各種機器、修理用の部品は、再生品を用いることができる。
【0025】
図2は、メンテナンス会社200の構成、及び複数の船舶100とメンテナンス会社200との関係を示す模式図である。メンテナンス会社200は、船舶100内の機器の製造元である複数のメーカー(機器メーカーA、機器メーカーB、機器メーカーC・・・)の集合体として捉えることができ、これらの各メーカーが製造した交換用の機器、修理用の部品を購入して保有している。メンテナンス会社200が保有する機器は、船舶100の等級(クラス)毎の認証を受けたものである。船舶100に予め搭載された機器、交換用の機器、及び修理用の部品は、全てメンテナンス会社200の所有物とされている。
【0026】
メンテナンス会社200は、複数の船主、船管会社からメンテナンス業務を請け負っているため、図2に示すように、メンテナンスの対象となる船舶100は複数存在する。メンテナンス会社200は、これらの複数の船舶100について、保有する機器を使い回しすることができる。従って、メンテナンスのために任意の船舶100から取り外した機器は、修理後に再生品として他の船舶100に搭載することができ、機器の稼働率を高めることが可能となるため、全体としてのコスト低減を図ることも可能となる。
【0027】
メンテナンス会社200は、船舶100内の各種機器の製造元である複数のメーカーの集合体であるため、船舶100の全ての機器のメンテナンスを行うことが可能である。従って、船主又は船管会社側では、故障した機器を交換する際に、機器毎に製造元を照合して交換のための機器、部品を発注するといった煩雑な作業が不要となり、メンテナンス業務を全てメンテナンス管理会社200に任せることで、船舶100内の機器のメンテナンスに要する手間を大幅に削減することが可能となる。従って、船主又は船管会社は、メンテナンスに要する人件費などの費用を大幅に削減することが可能となる。
【0028】
更に、船主又は船管会社は、機器のメンテナンスを全てメンテナンス管理会社200に任せることができるため、船舶100にメンテナンス要員としての乗組員を乗船させる必要が生じない。このため、乗務員数の削減による省人運転や、無人運転が可能となり、人件費を含むコストを大幅に削減することが可能である。従って、削減したコストを、船主または船管会社自身、またはメンテナンス管理会社200へ還元することが可能となる。
【0029】
図3及び図4は、本実施形態によるシステムにおいて、削減したお金の流れと損益シミュレーションの例を示す模式図である。ここで、図3は、上述のシステムにより、船舶100に乗船している機関員を9人から6人に削減した場合を示している。この場合、船舶100の省人化により乗務員を3人削減することで、1艘あたり年間1500万円(0.15億円/年)のコスト削減が可能である。メンテナンス要員として乗務員を乗船させていた場合の従来のメンテナンス費用が年間800万円(0.08億円/年)であるとすると、合計で年間2300万円(0.23億円/年)のコストが削減できる。そして、船主又は船管会社等は、この削減したコストの70%である1600万円(0.16億円/年)をメンテナンス会社200に支払い、残りの30%である700万円(0.07億円/年)を船主又は船管会社に戻すことができる。このビジネスモデルによれば、メンテナンス管理会社200、および船主又は船管会社の双方に利益を還元することが可能となる。
【0030】
また、図4は、上述のシステムにより、船舶100の無人化を達成した場合を示している。この場合、船舶100の無人化により、1艘あたり年間5000万円(0.5億円/年)のコスト削減が可能である。メンテナンス要員として乗務員を乗船させていた場合の従来のメンテナンス費用が年間800万円(0.08億円/年)であるとすると、合計で年間5800万円(0.58億円/年)のコストが削減できる。そして、船主又は船管会社等は、この削減したコストの70%である4060万円(0.406億円/年)をメンテナンス会社200に支払い、残りの30%である1740万円(0.174億円/年)を船主又は船管会社に戻すことができる。
【0031】
図3の場合において、メンテナンス会社の損益分岐点となる隻数は、以下のようにして算出することができる。上述したように、省人化によりメンテナンス会社200には、1隻あたり年間1600万円の売り上げが見込まれる。一方、メンテナンス会社200の支出としては、管理費等が年間1.5億円、エンジニアの人件費が年間0.1億円、部品、作業員の派遣に年間0.08億円、初期費用回収、自動化機器のメンテナンスに年間0.02億円かかる。ここで、エンジニア一人当たり10隻の監視が可能である。そして、支出のうち、開発費、管理費は固定費であることを考慮すると、損益分岐点は30隻となる。従って、図3の損益シミュレーションによれば、メンテナンス会社200は、30隻のメンテナンス業務を請け負うことで、利益を生じさせることができ、メンテナンス業務を請け負う隻数が増加するほど、多くの利益を生じさせることができる。
【0032】
同様に、図4の無人化を達成した場合、メンテナンス会社200の損益分岐点は6隻となる。このように、無人化を達成した場合は、より少ない隻数で利益を生じさせることが可能である。
【0033】
乗組員の人件費は、世界の景気動向や国籍などによって変動する。また、停泊中のモジュール交換時間が荷役などによる停泊時間よりも長くなると、運航収入が減少する。よって、各モジュール毎の交換作業時間、船内で整備した場合の作業量、船内でのメンテナンス作業に必要な乗組員の数、などを予めデータベースに登録しておき、積荷の需要、運賃、メンテナンスが必要と判断される時期、乗組員の人件費、などから、最小の支出となる乗組員数、交換タイミング、交換モジュールを自動的に算出、抽出する。
【0034】
図5は、図3及び図4のビジネスモデルにおいて、損益分岐点を算出するための損益算出装置を示す模式図である。損益算出装置10は、演算処理部(CPU)、メモリなどの構成要素を有するコンピュータから構成され、図5に示す損益算出装置10の各機能ブロックは、コンピュータを機能させるためのソフトウエア(プログラム)によって構成されることができる。損益算出装置10は、データ入力部12、損益分岐点解析部14、解析結果出力部16、データベース18を備えている。データ入力部12には、メンテナンス対象の船舶100における削減可能な人員数、人員の削減による売上高などが入力される。また、データ入力部12には、エンジニアの人件費、部品、作業員派遣によるコスト、初期費用などの支出が入力される。損益分岐点解析部14は、データ入力部12に入力された情報に基づいて、損益分岐点となる隻数を算出する。解析結果出力部16は、損益分岐点解析部14による解析結果を出力する。データベース18には、損益分岐点を算出するための各種データが格納されている。
【0035】
従って、メンテナンス会社200では、メンテナンス対象の船舶100における人員削減による売上高、メンテナンスのためのエンジニアの人件費、作業員派遣によるコスト等を損益分岐点解析部14で解析することにより、利益を生じさせるためにメンテナンス業務を請け負う隻数を算出することが可能となる。
【0036】
次に、本実施形態に係る船舶100の自己診断システムについて説明する。図6は、自己診断システムの構成を示す模式図である。図6に示すように、船舶100内の各種機器には、センサー110,112が取り付けられている。このうち、船舶100の推進力を発生させる主機(エンジン)には、温度センサー、圧力センサーなどのセンサー110が取り付けられている。また、他の機器にも、センサー112が装着されている。これらのセンサー110,112で計測された温度、圧力などの特性値は、メンテナンス管理会社200のサーバー210へ無線送信される。なお、上述したように、サーバー210は船舶100上に設けられていても良く、この場合はセンサーの検出値が有線または無線により船上のサーバー210へ送信される。
【0037】
サーバー210は、演算処理部(CPU(Central Processing Unit))を備えたコンピュータとして構成され、図6に示すサーバー210の各機能ブロックは、コンピュータを機能させるためのソフトウエア(プログラム)によって構成されることができる。また、サーバー210は、これらのプログラムを格納するためのハードディスクドライブ等の記録媒体、または磁気ディスクなどの外部記録媒体を備えている。
【0038】
図6に示すように、センサー110,112で取得された検出値の情報は、送信制御部120に集約されて、検出値解析部121へ送られる。送信制御部120は、センサー110,112で取得された検出値の情報のうち、サーバー210へ送信する情報を取捨選択する。例えば、センサー110,112により連続して取得された検出値のうち、一定時間毎の検出値のみを送信するように制御を行う。これにより、情報量を低減することが可能となり、通信費を削減するとが可能となる。検出値解析部121では、センサー110,112の検出値を解析する。センサー110,112による検出値及び船舶100上の検出値解析部121による解析結果は、検出値解析部121からセンサー検出値送信部122へ送られ、センサー検出値送信部122から無線通信によりメンテナンス管理会社200のサーバー210へ送信される。サーバー210は、センサー検出値受信部212、検出値解析部214、航行データ入力部216、解析結果出力部218、データベース220を備えている。
【0039】
船舶100から送信されたセンサー110,112の検出値、及び検出値解析部121による解析結果に関する情報は、サーバー210のセンサー検出値受信部212で受信され、検出値解析部214で解析される。航行データ入力部216には、航行予定、航行速度、停泊する港への入港日などの航行データが入力される。また、データベース220には、過去に取得されたセンサー110,112の検出値のデータ、過去に取得された航行データなどの情報が蓄積されている。検出値解析部214による解析では、センサー110,112の検出値、検出値解析部121による解析結果、航行データ入力部216から入力された航行データ、データベース220に蓄積された情報に基づいて、検出値の解析が行われる。検出値解析部214による解析結果は、解析結果出力部218から出力されて、表示ディスプレイ等に表示される。なお、本実施形態では、船上の検出値解析部121とサーバー210の双方で解析を行っているが、いずれか一方のみで解析しても良い。
【0040】
図7は、サーバー210の検出値解析部214で解析され、解析結果出力部218から出力されたセンサー110の検出値の解析結果を示している。図7では、センサー110で計測された主機の温度が航行日数に応じて変化する様子を示している。図7の例では、6月20日以降、日数の経過に応じて温度が上昇しており、7月5日の時点で適正温度範囲を超えている。一方、7月10日(現在)の時点では、主機の温度が交換目安温度Tには達していないため、現状のまま航行は可能である。自己診断システムでは、現在までの温度上昇の様子から、主機の温度が交換目安温度Tに達する日を算出し、航行予定経路、航行速度などの航行データを参照して、交換目安温度Tに達する日以前に停泊する港を選択する。
【0041】
図7の例では、検出値を解析した結果、7月25日に交換目安温度Tに達することが予測される。一方、航行予定では、7月25日以前にA港、B港に立ち寄ることが予定されている。従って、サーバーの解析結果出力部218は、A港またはB港で主機の一部モジュールの交換を行う旨の解析結果を出力する。メンテナンス管理会社200は、船舶100がA港またはB港に到着する前に、A港またはB港に交換用の主機の一部モジュールを準備し、船舶100が入港した際にモジュールを交換する。
【0042】
以上のように、本実施形態に係る自動診断システムによれば、センサー110,112で計測した検出値と、航行日数、停泊予定港へ入港するまでの日数とを相互に関連付けることで、機器を交換する最適な港を算出することが可能となる。従って、劣化が生じた機器を最適なタイミングで交換することが可能となり、航行中に機器の作動が停止してしまうことを確実に回避することができる。また、劣化の度合いが低い機器が早めに交換されてしまうことを回避でき、機器の稼動を効率良く行うことが可能となる。
【0043】
図8は、本実施形態に係る機器のメンテナンス方法の処理を示すフローチャートであって、メンテナンス会社100のサーバー210で行われる処理を示している。先ず、ステップS1では、船舶100のセンサー検出値送信部122から送信された、センサー110,112による検出値及び船舶100上の検出値解析部121による解析結果を受信する。次のステップS2では、現在までの検出値の変動に基づいて、検出値の今後の変動を予測する。
【0044】
次のステップS3では、検出値が所定のしきい値(交換目安温度T)に到達するか否かを判定し、検出値が所定のしきい値に到達することが予測される場合は、ステップS4へ進み、検出値がしきい値に到達する以前に入港する港を選定する。一方、検出値が所定のしきい値に到達しないと予測される場合は、ステップS2へ戻る。なお、サーバー210による処理は、ステップS4で終了する。
【0045】
ステップS4の後はステップS5へ進み、ステップS4で選定した港に入港した際に、機器を交換する。機器の交換は、メンテナンス管理会社200によって行われる。ステップS5の後は処理を終了する(END)。
【0046】
次に、認証が与えられた機器を1単位として、機器の交換を行うシステムについて説明する。船舶100内で使用される機器は、船舶100の等級(クラス)毎に認証が与えられる。この認証については様々なものがあるが、例えば日本国内では、日本海事協会(NK)による認証が知られている。この認証は、船舶100の等級毎に船舶100内の機器に認証を与えるものであり、認証が与えられた機器のみが、船舶100内で使用可能とされる。
【0047】
本実施形態では、認証が与えられる機器を1つのモジュールとして、メンテナンス会社200において、専門家による整備が施された各モジュールが交換用の機器として用意される。従って、認証された機器をモジュール単位で劣化した機器と交換することで、船舶100内の機器を常に認証が取得された状態に維持することが可能となる。従って、修理時の改変等により、機器の状態が認証時の状態よりも劣化してしまうことを確実に回避できる。
【0048】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る船舶の機器メンテナンスシステムを説明するための模式図である。
【図2】メンテナンス会社の構成、及び複数の船舶とメンテナンス会社との関係を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るシステムにおいて、削減したお金の流れと損益シミュレーションの例を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るシステムにおいて、削減したお金の流れと損益シミュレーションの例を示す模式図である。
【図5】図3及び図4のビジネスモデルにおいて、損益分岐点を算出するための損益算出装置を示す模式図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る船舶の自己診断システムの構成を示す模式図である。
【図7】サーバーの検出値解析部で解析され、解析結果出力部から出力されたセンサーの検出値の解析結果を示す特性図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る船舶の機器のメンテナンス方法の処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
10 損益算出装置
12 データ入力部
14 損益分岐点解析部
210 メンテナンス会社のサーバー
212 センサー検出値受信部
214 検出値解析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航行中の船舶の機器に装着されたセンサーから当該機器の特性に関する検出値を取得するステップと、
前記検出値の変動に基づいて、前記機器の交換が必要となる所定のしきい値に前記検出値が到達するか否かを予測するステップと、
前記検出値が前記所定のしきい値に到達することが予測される場合、船舶の航行に関する情報に基づいて、前記検出値が前記所定のしきい値に到達する以前に入港する港と、当該港に入港する時期を選定するステップと、
選定された港に入港した際に、前記センサーの検出値からメンテナンスが必要と判断された前記機器をメンテナンスするステップと、
を備えることを特徴とする、船舶の機器のメンテナンス方法。
【請求項2】
前記機器のメンテナンスは、専門家により当該機器の製造者が要求する機能が保障されたモジュール単位毎に前記機器を交換することによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の船舶の機器のメンテナンス方法。
【請求項3】
交換により陸揚げした前記機器を専門工場にて専門家によりメンテナンス、補修を行うことで当該機器の製造者が要求する品質と機能を有する状態に再生し、同型機器の交換用モジュールとして再使用することを特徴とする、請求項2に記載の船舶の機器のメンテナンス方法。
【請求項4】
前記船舶の航行に関する情報は、船舶の航行予定経路又は航行速度を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の船舶の機器のメンテナンス方法。
【請求項5】
航行中の船舶の機器に装着されたセンサーによって検出された当該機器の特性に関する検出値を受信する受信部と、
前記検出値の変動に基づいて、前記機器の交換が必要となる所定のしきい値に前記検出値が到達するか否かを予測し、前記検出値が前記所定のしきい値に到達することが予測される場合、船舶の航行に関する情報に基づいて、前記検出値が前記所定のしきい値に到達する以前に入港する港を選定する解析部と、
を備えることを特徴とする、船舶の機器のメンテナンス用装置。
【請求項6】
メンテナンス対象の船舶において、船舶の自動診断システムによる航海中のメンテナンス作業の削減の導入により削減可能な船員数を含む情報が入力されるデータ入力部と、
前記データ入力部に入力された情報に基づいて、損益分岐点となる前記メンテナンス対象の船舶の隻数を算出する損益分岐点解析部と、
を備えることを特徴とする、船舶メンテナンスの損益算出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate