説明

船舶の機関制御システム

【課題】排熱回収効率が高く且つ船舶の速度や加速度を安定的に制御できる船舶の機関制御システムを提供する。
【解決手段】内燃機関から排出された一部の排ガスが過給機に導入される内燃機関設備と、過給機を通過した排ガスにより蒸気を生成し、蒸気タービンに導入して発電機を駆動する排熱回収設備とを搭載した船舶の機関制御システムにおいて、排熱回収設備は、蒸気タービンに連結され内燃機関から排出された他の排ガスが導入されるガスタービンを含み、プロペラ回転数指令値とプロペラ回転数検出値との偏差から内燃機関の基本燃料噴射量を導出するフィードバック制御部51と、ガスタービンの発電量指令値と内燃機関負荷とから内燃機関の燃料噴射量の補正値を導出する補正値演算部52と、基本燃料噴射量に補正値を加算して実際の燃料噴射量を導出するフィードフォワード制御部53とを有する内燃機関制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペラに直結された内燃機関の排熱を利用して発電する排熱回収設備を備えた船舶の機関制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶は、主機である内燃機関によりプロペラを駆動して推進力を得ているが、主機の排熱を有効利用するために、排熱を利用して発電を行い、発電した電力で船内負荷電力等を賄っていた。
例えば、特許文献1(特開2007−1339号公報)には、主機と電気推進との複合推進システムを有する船舶の排熱回収設備において、主機の排熱により高圧蒸気と低圧蒸気とを生成し、船舶の電気推進用の電力を発電するタービンに高圧蒸気と低圧蒸気とを分割して導入する構成が開示されている。
【0003】
図6は、従来の船舶の機関制御システムの一例である。船舶には、主機設備61と排熱回収設備71とが搭載されている。主機設備61では、ターボチャージャ64の圧縮側で圧縮された吸気が吸気冷却器65で冷却されて主機62に供給され、主機62によりプロペラ63を駆動している。主機62から排出された排ガスは、ターボチャージャ64のタービン側に導入される。排熱回収設備71では、主機62から排出された排ガスは、ターボチャージャ64を通った後に排ガスエコノマイザ72に導入され、排ガスエコノマイザ72で排ガスの排熱により蒸気を生成する。生成された蒸気は、蒸気タービン73に導入され、蒸気タービン73に連結した発電機74を駆動して発電する。発電した電力は、例えば、貨物室の冷凍機、居住区の空調設備などの船内電力利用設備で利用される。蒸気タービン73から排出された蒸気は、コンデンサ73で復水された後に排ガスエコノマイザ72に戻される。
【0004】
排ガスエコノマイザ72に導入される排ガス流量は、ターボチャージャ64から排ガスエコノマイザ72に排ガスを送るライン上に設けられた排ガス流量調整弁81と、排ガスエコノマイザ72をバイパスして排ガスを排出するライン上に設けられたバイパス量調整弁82とにより調整される。また、排ガスエコノマイザ72から蒸気タービン73に蒸気を送るライン上には、蒸気タービン73に導入される蒸気流量を制御する蒸気流量調整弁83が設けられ、蒸気流量調整弁83はガバナ84により開度制御される。
【0005】
船舶の機関制御システムは、主機62の燃料噴射量制御等の制御を行なう主機制御装置66と、排熱回収設備71の排ガス流量調整弁81、バイパス量調整弁82、またはガバナ84等の各制御を行なうPMS(パワーマネジメントシステム)76とを備えている。従来は、主機制御装置66とPMS76とはそれぞれ独立して制御されていた。
図7に示すように、主機制御装置66では、センサによりプロペラ回転数を検出するとともに、船舶が所望の船速となるような目標値であるプロペラ回転数指令値を算出し、プロペラ回転数指令値からプロペラ回転数検出値を減算して制御偏差を求め、制御偏差に基づいて制御器によりPID制御演算を行い、燃料噴射量を導出して主機の燃料噴射装置を制御していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−1339号公報
【特許文献1】特開2005−042600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したシステムにおいて、一般に船舶では大型の内燃機関が用いられることが多いため、内燃機関から排出される排ガスの熱量も大きい。そこで、より発電効率を向上させるためには、発電機の駆動手段として従来用いられていた蒸気タービンに加えて、蒸気タービンよりも発電効率の高いガスタービンを併設することが好ましい。しかし、蒸気タービンとガスタービンとを併設した排熱回収設備は陸用発電設備などで従来から用いられているが、単にこの排熱回収設備を船舶に援用するだけでは、船内負荷電力の変動による制御システムの応答遅れなどにより船舶の速度や加速度が不安定となるおそれがある。
【0008】
したがって、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、排熱回収効率が高く、且つ船内負荷電力に変動があった場合にも船舶の速度や加速度を安定的に制御できる船舶の機関制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明の船舶の機関制御システムは、プロペラを駆動する内燃機関の吸気系統に過給機の圧縮側が配置され、前記内燃機関から排出された一部の排ガスが前記過給機のタービン側に導入される内燃機関設備と、前記過給機のタービン側を通過した排ガスを用いて蒸気生成手段で蒸気を生成し、前記蒸気を蒸気タービンに導入して該蒸気タービンに連結した発電機を駆動する排熱回収設備とを搭載した船舶の機関制御システムにおいて、前記排熱回収設備は、前記蒸気タービンに軸を介して連結され前記内燃機関から排出された他の排ガスが導入されるガスタービンを含み、前記プロペラの回転数の目標値であるプロペラ回転数指令値と、前記プロペラから検出されたプロペラ回転数検出値との偏差に基づいて前記内燃機関の基本燃料噴射量を導出するフィードバック制御部と、前記ガスタービンの発電量指令値と、前記内燃機関の負荷とから前記内燃機関の燃料噴射量の補正値を導出する補正値演算部と、前記基本燃料噴射量に前記補正値を加算して実際の燃料噴射量を導出するフィードフォワード制御部とを有する内燃機関制御手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、蒸気タービンに軸を介して連結され、内燃機関から排出された他の排ガスが導入されるガスタービンを備えることにより、蒸気タービンのみで発電する場合に比べて排熱回収効率を向上させることが可能となる。
しかし、過給機に導入される排ガスとは別に、内燃機関の排ガスをガスタービンに送り込む構成とすると、発電機の急激な負荷変動により過給機のタービン側に送られる排ガスの流量が変動し、内燃機関の掃気圧が変動してしまうことがある。これにより、内燃機関の掃気圧に対して適切な燃料噴射量を確保できずに、エンジン出力が不安定になってしまい、船舶の速度や加速度が不安定に変動してしまうおそれがある。
【0011】
これに対して本発明では、内燃機関制御手段が、プロペラの回転数指令値とプロペラ回転数検出値との偏差に基づき導出される基本燃料噴射量に対して、ガスタービンの発電量指令値と内燃機関の負荷とに基づいて導出された補正値を加算して、実際に制御される燃料噴射量を導出する構成としたため、発電機に急激な負荷変動があった場合においても掃気圧に対して適切な燃料噴射量を確保でき、エンジン出力が不安定に変動することを防止できる。したがって、船舶の速度や加速度を安定的に制御することが可能である。
なお、プロペラ回転数検出値は、プロペラに設置したセンサにより検出してもよいし、内燃機関の回転数から算出してもよい。
【0012】
また、前記排熱回収設備は、前記内燃機関から排出された他の排ガスを前記ガスタービンに送るライン上に設けられ、前記ガスタービンに導入される排ガス流量を調整する排ガス流量調整弁と、前記内燃機関から排出された他の排ガスを分岐し、この分岐した排ガスを前記蒸気生成手段に送るバイパスラインと、前記バイパスライン上に設けられたバイパス量調整弁とを含むことが好ましい。
【0013】
このように、排熱回収設備が排ガス流量調整弁とバイパス量調整弁とを含むことにより、排熱回収設備側に送られる他の排ガスの流量(抽気量)が一定となるように調整でき、これにより内燃機関の掃気圧を一定に維持することができる。ただし、弁の応答性の遅れにより制御の切り替え時に掃気圧が変動することがあるが、上記したように基本燃料噴射量に補正値を加算するフィードフォワード制御を行なうことにより、エンジン出力を安定させることが可能である。
【0014】
また、前記補正値演算部には、前記ガスタービンの発電量指令値と前記内燃機関の負荷と前記燃料噴射量の補正値との相関関係を表すマップが予め設定されており、前記マップに基づいて前記補正値を導出することが好ましい。
このように、ガスタービンの発電量指令値と内燃機関の負荷と燃料噴射量の補正値との相関関係を表すマップを用いることにより、簡単に補正値を導出することが可能となる。なお、ガスタービンの発電量指令値と内燃機関の負荷と燃料噴射量の補正値との相関関係は、実験的に求めてもよいし、シミュレーションにより求めてもよい。
【0015】
さらに、前記補正値演算部には、前記ガスタービンの発電量指令値と前記内燃機関の負荷と前記燃料噴射量の補正値との関係式が予め設定されており、前記関係式に基づいて前記補正値を導出することが好ましい。
このように、ガスタービンの発電量指令値と内燃機関の負荷と燃料噴射量の補正値との関係式を用いることにより、内燃機関制御手段に予め設定しておくデータ量を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上記載のように本発明によれば、蒸気タービンに軸を介して連結され、内燃機関から排出された他の排ガスが導入されるガスタービンを備えることにより、蒸気タービンのみで発電する場合に比べて排熱回収効率を向上させることが可能となる。
また、内燃機関制御手段が、プロペラの回転数指令値とプロペラ回転数検出値との偏差に基づき導出される基本燃料噴射量に対して、ガスタービンの発電量指令値と内燃機関の負荷とに基づいて導出された補正値を加算して実際の燃料噴射量を導出する構成としたため、発電機の急激な負荷変動により過給機のタービン側に送られる排ガス量が変動し、内燃機関の掃気圧が変動した場合であっても、掃気圧に対して適切な燃料噴射量を確保でき、エンジン出力が不安定に変動することを防止できる。したがって、船舶の速度や加速度を安定的に制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る主機設備と排熱回収設備とを含む全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る機関制御システムの構成図である。
【図3】主機制御装置の演算処理を説明するブロック図である。
【図4】主機制御装置の演算処理を示すフローチャートである。
【図5】図3の変形例で、主機制御装置の演算処理を説明するブロック図である。
【図6】従来の主機設備と排熱回収設備を含む全体構成図である。
【図7】従来の主機制御装置の演算処理を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0019】
図1は本発明の実施形態に係る主機設備1と排熱回収設備10とを含む全体構成図である。
主機設備1は、主に、内燃機関である主機2と、主機2に連結されたプロペラ3と、主機2の吸気系統に配設されたターボチャージャ(過給機)5と、主機2を冷却する主機冷却器8と、吸気を冷却する吸気冷却器9とを備える。
【0020】
主機2は、プロペラ軸を介して連結されたプロペラ3を回転駆動し、船舶の主たる推進力を得る。主機2とプロペラ3の間に減速機を介装していてもよい。また、主機2は、気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、この燃料噴射弁に燃料を供給する燃料噴射ポンプを含み(図示略)、燃料噴射ポンプによって制御される燃料噴射量に基づいて出力が決定される。
【0021】
ターボチャージャ5は、主機2の吸気ライン31に配設された圧縮機6と、排気ライン(第1の排ガスライン)32に配設されたタービン7とが軸を介して連結した構成を有し、排ガスのエネルギによりタービン7を回転し、この回転力により圧縮機6で吸気を圧縮して主機2に送給する。
主機冷却器8は、主機2のジャケットに冷却水を流して主機2を冷却する。
吸気冷却器9は、主機冷却器8から排出された冷却水を用いて、圧縮機6から主機2に送給される吸気を冷却する。
【0022】
排熱回収設備10は、主に、主機2の排ガスにより蒸気を生成する排ガスエコノマイザ11と、排ガスエコノマイザ11に具備される蒸気ドラム12と、排ガスエコノマイザ11で生成された蒸気により駆動する蒸気タービン15と、蒸気タービン15により駆動される発電機16と、主機2の排ガスにより駆動するパワータービン21とを備える。
【0023】
排ガスエコノマイザ11は、タービン7を通過した排ガスやパワータービン21を通過した排ガス等が導入され、これらの排ガスにより水を加熱して蒸気を生成する。生成された蒸気は、蒸気ドラム12で気水分離され、蒸気の一部は船内蒸気利用設備48に送られ、水は排ガスエコノマイザ11に戻される。他の蒸気は、排ガスエコノマイザ11に戻されて過熱され、過熱蒸気が生成される。
蒸気タービン15は、排ガスエコノマイザ11で生成された過熱蒸気が導入され、この蒸気により回転駆動する。
【0024】
発電機16は、蒸気タービン15に軸を介して連結され、蒸気タービン15により駆動されて発電する。発電機16と蒸気タービン15の間には減速機17が介装されている。発電機16で発電した電力は、船内電力利用設備49に送られる。船内電力利用設備49とは、例えば、貨物室の冷凍機、居住区の空調設備などが挙げられる。
パワータービン21は、排ガスにより駆動する大型のガスタービンであり、蒸気タービン15に軸を介して連結され、蒸気タービン15とともに発電機16を駆動する。パワータービン21と蒸気タービン15の間には減速機22、クラッチ23が介装されている。なお、蒸気タービン15とパワータービン21とのそれぞれの電力配分は、主機2のエンジン負荷に応じて決定されるようにしてもよい。
【0025】
上記した排熱回収設備10において、主機2から排出された一部の排ガスは、第1の排ガスライン32を通ってタービン7に導入された後、排ガスライン36を通って排ガスエコノマイザ11に導入される。
主機2から排出された他の排ガスは、第2の排ガスライン33を通ってパワータービン21に導入された後、排ガスライン36を通って排ガスエコノマイザ11に導入される。なお、主機2から排出される排ガスの大部分は、第1の排ガスライン32に排出される。
【0026】
排ガスエコノマイザ11に向かう排ガスライン36は途中で分岐され、排ガスエコノマイザ11をバイパスするバイパスライン37が設けられている。
排ガスライン36を通る排ガスは、排ガス流量調整弁44で排ガスエコノマイザ11に導入される排ガス流量が調整されるとともに、バイパス量調整弁45により調整された排ガス流量がバイパスライン37を通り、排ガスエコノマイザ11を迂回して排出される。排ガスのバイパス量は、排ガスエコノマイザ11の能力、排ガスエコノマイザ11で生成する蒸気量等に基づいて設定される。
【0027】
排ガスエコノマイザ11で生成された蒸気の一部は、蒸気ドラム12を介して船内蒸気利用設備48に送られる。他の蒸気は、蒸気ドラム12を介して排ガスエコノマイザ11に戻され、排ガスエコノマイザ11で過熱されて過熱蒸気を生成する。この過熱蒸気は蒸気タービン15に送られる。
蒸気タービン15に導入される蒸気流量は、ガバナ47で制御される蒸気流量調整弁46により調整される。
蒸気タービン15から排出された蒸気は、コンデンサ18で復水されてドレンタンク19に貯留され、船内蒸気利用設備48から回収された水とともに、主機冷却器8、吸気冷却器9を通って排ガスエコノマイザ11に戻される。
【0028】
また、第2の排ガスライン33は途中で分岐され、パワータービン21をバイパスして排ガスエコノマイザ11に接続されるバイパスライン35が設けられている。
バイパスライン35の分岐点より上流側の第2の排ガスライン33には、パワータービン21側への排ガスの送給を遮断可能な遮断弁41が設けられている。分岐点より下流側の第2の排ガスライン33には、パワータービン21に導入される排ガス流量を調整する排ガス流量調整弁42が設けられている。バイパスライン35には排ガスのバイパス量を調整するバイパス量調整弁43が設けられている。
【0029】
このように、排熱回収設備10が排ガス流量調整弁42とバイパス量調整弁43とを有することにより、排熱回収設備10側に送られる他の排ガスの流量(抽気量)が一定となるように調整でき、これにより主機2の掃気圧を一定に維持することができる。ただし、弁の応答性の遅れにより制御の切り替え時に掃気圧が変動することがあるが、後述するように基本燃料噴射量に補正値を加算するフィードフォワード制御を行なうことにより、エンジン出力を安定させることが可能である。
【0030】
次に、図2を参照して、主機設備1を制御する主機制御装置50と、排熱回収設備10を制御するPMS(パワーマネジメントシステム)55を備えた機関制御システムについて説明する。図2において、破線は制御ラインを示す。
PMS55は、ST発電量指令値および発電機回転数に基づいてガバナ47を制御し、蒸気タービン15に導入される蒸気流量を調整するとともに、パワータービン発電量指令値(以下、PT発電量指令値と称する)および発電機回転数に基づいて排ガス流量調整弁42を制御し、パワータービン21に導入される排ガス流量を調整する。なお、発電機16の負荷とエンジン負荷状態に応じて予めパワータービン21と蒸気タービン15の発電比率が設定されており、この発電比率に基づいてST発電量指令値及びPT発電量指令値が設定されるようになっている。さらに、発電機16の発電需要が0になったとき、または排ガス熱量が低減して蒸気タービン15のみで発電を行なうとき、遮断弁41を閉に制御してパワータービン21に導入される排ガスを遮断する。
【0031】
主機制御装置50は、主機設備1の制御対象を制御する装置で、主に燃料噴射ポンプを制御して主機2の気筒内に噴射される燃料噴射量を調整する。また、主機制御装置50は、フィードバック制御部51と補正値演算部52とフィードフォワード制御部53とを有する。
【0032】
図3及び図4を参照して、主機制御装置50の演算処理について以下に説明する。図3は主機制御装置50の演算処理を説明するブロック図で、図4は主機制御装置の演算処理を示すフローチャートである。
主機制御装置50は、プロペラ3に配置したセンサによりプロペラ回転数を検出するとともに(S1)、プロペラ3の回転数の目標値であるプロペラ回転数指令値を算出する(S2)。そして、フィードバック制御部51で、プロペラ回転数指令値からプロペラ回転数検出値を減算して制御偏差を求め(S3)、制御偏差をもとに制御器51aでPID制御演算し、主機2の基本燃料噴射量を導出する(S4)。なお、プロペラ回転数検出値は、プロペラに設置したセンサにより検出してもよいし、内燃機関の回転数から算出してもよい。
【0033】
一方、PMS55からPT発電量指令値を取得するとともに(S5)、主機2のエンジン負荷を計算し(S6)、補正値演算部52で、PT発電量指令値とエンジン負荷とから燃料噴射量の補正値を導出する(S7)。これは、図3に示すように、PT発電量指令値とエンジン負荷と燃料噴射量補正値との最適な相関関係を表すマップを予め設定しておき、このマップに基づいて、PT発電量指令値とエンジン負荷とから燃料噴射量の補正値を導出することが好ましい。なお、パワータービン21の発電量指令値と主機2のエンジン負荷と燃料噴射量補正値との相関関係は、実験的に求めてもよいし、シミュレーションにより求めてもよい。
さらに、フィードフォワード制御部53にて、フィードバック制御部51で導出された基本燃料噴射量に補正値演算部52で導出された補正値を加算し、実際に制御される燃料噴射量を導出する(S8)。そして、導出された燃料噴射量に基づいて主機2の燃料噴射ポンプを制御する。
【0034】
本実施形態によれば、蒸気タービン15に軸を介して連結され、主機2から排出された他の排ガスが導入されるパワータービン21を備えることにより、蒸気タービン15のみで発電する場合に比べて排熱回収効率を向上させることが可能となる。
また、主機制御装置50が、プロペラの回転数指令値とプロペラ回転数検出値との偏差に基づき導出される基本燃料噴射量に対して、ガスタービンの発電量指令値と内燃機関の負荷とに基づいて導出された補正値を加算して実際の燃料噴射量を導出する構成としたため、発電機16の急激な負荷変動によりターボチャージャ5のタービン7に送られる排ガス量が変動し、主機2の掃気圧が変動した場合であっても、掃気圧に対して適切な燃料噴射量を確保でき、エンジン出力が不安定に変動することを防止できる。したがって、船舶の速度や加速度を安定的に制御することが可能である。
さらに、パワータービン21の発電量指令値と主機2のエンジン負荷と燃料噴射量の補正値との相関関係を表すマップを用いることにより、簡単に補正値を導出することが可能となる。
【0035】
図5は図3の変形例で、主機制御装置50の演算処理を説明するブロック図である。
図5の変形例では、補正値演算部52で、主機2のエンジン負荷とPT発電量指令値とから燃料噴射量の補正値を導出する際に、マップではなく、PT発電量指令値と主機2のエンジン負荷と燃料噴射量補正値との最適な相関関係を示す関係式に基づいて、燃料噴射量補正値を導出するようになっている。
【0036】
この関係式は、例えば以下の式が用いられる。
Q=E(L+K×P)
ここで、Q:燃料噴射量補正値、L:主機のエンジン負荷、P:PT発電量指令値、K:係数またはテーブル関数、E(L):熱力学に準じた関数(圧力、エンジン形状、効率などがパラメータになる)である。
このように、パワータービン21の発電量指令値と主機2のエンジン負荷と燃料噴射量補正値との関係式を用いることにより、主機制御装置50に予め設定しておくデータ量を小さくすることができる。
なお、上記した実施形態においては、主機制御装置50とPMS55とを別に設けた例を示しているが、それぞれの装置に含まれる機能を有していれば、その分割形態は限定されず、また同一の制御装置であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 主機設備
2 主機(内燃機関)
3 プロペラ
5 ターボチャージャ(過給機)
11 排ガスエコノマイザ
15 蒸気タービン
16 発電機
21 パワータービン(ガスタービン)
32 第1の排ガスライン
33 第2の排ガスライン
35 バイパスライン
41 遮断弁
42 排ガス流量調整弁
43 バイパス量調整弁
46 蒸気流量調整弁
47 ガバナ
50 主機制御装置
51 フィードバック制御部
52 補正値演算部
53 フィードフォワード制御部
55 PMS

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラを駆動する内燃機関の吸気系統に過給機の圧縮側が配置され、前記内燃機関から排出された一部の排ガスが前記過給機のタービン側に導入される内燃機関設備と、前記過給機のタービン側を通過した排ガスを用いて蒸気生成手段で蒸気を生成し、前記蒸気を蒸気タービンに導入して該蒸気タービンに連結した発電機を駆動する排熱回収設備とを搭載した船舶の機関制御システムにおいて、
前記排熱回収設備は、前記蒸気タービンに軸を介して連結され前記内燃機関から排出された他の排ガスが導入されるガスタービンを含み、
前記プロペラの回転数の目標値であるプロペラ回転数指令値と、前記プロペラから検出されたプロペラ回転数検出値との偏差に基づいて前記内燃機関の基本燃料噴射量を導出するフィードバック制御部と、
前記ガスタービンの発電量指令値と、前記内燃機関の負荷とから前記内燃機関の燃料噴射量の補正値を導出する補正値演算部と、
前記基本燃料噴射量に前記補正値を加算して実際の燃料噴射量を導出するフィードフォワード制御部とを有する内燃機関制御手段を備えたことを特徴とする船舶の機関制御システム。
【請求項2】
前記排熱回収設備は、前記内燃機関から排出された他の排ガスを前記ガスタービンに送るライン上に設けられ、前記ガスタービンに導入される排ガス流量を調整する排ガス流量調整弁と、前記内燃機関から排出された他の排ガスを分岐し、この分岐した排ガスを前記蒸気生成手段に送るバイパスラインと、前記バイパスライン上に設けられたバイパス量調整弁とを含むことを特徴とする請求項1に記載の船舶の機関制御システム。
【請求項3】
前記補正値演算部には、前記ガスタービンの発電量指令値と前記内燃機関の負荷と前記燃料噴射量の補正値との相関関係を表すマップが予め設定されており、前記マップに基づいて前記補正値を導出することを特徴とする請求項1または2に記載の船舶の機関制御システム。
【請求項4】
前記補正値演算部には、前記ガスタービンの発電量指令値と前記内燃機関の負荷と前記燃料噴射量の補正値との関係式が予め設定されており、前記関係式に基づいて前記補正値を導出することを特徴とする請求項1または2に記載の船舶の機関制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−131692(P2011−131692A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292132(P2009−292132)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】