説明

船舶の舵固定装置及び船舶の舵固定時の操船方法

【課題】簡素な構成でありながら確実に操舵を固定できる船舶の舵固定装置を提供する。
【解決手段】船舶の船体30後部に配設されるアウトドライブ装置10と、前記アウトドライブ装置10から突出された操舵アーム45と、前記操舵アーム45に連結され、操舵ハンドルの操舵操作により作動する油圧シリンダ41とを備え、前記油圧シリンダ41を駆動できない非常時に、船体30と操舵アーム45を連結固定する舵固定装置であって、前記操舵アーム45を係合する係合部と、船体30に固定される固定部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の舵固定装置及び船舶の舵固定時の操船方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶のうちでも小型船舶は、プレジャーボート等として用いられている。小型船舶における推進機関の設置方式の一つに「船内外機」という設置方式がある。船内外機とは、船体内部に配置されたエンジンから船体外部に配置されたアウトドライブ装置へ動力を伝達する構成のものである(例えば、特許文献1)。
【0003】
アウトドライブ装置は、スクリュープロペラを回転することによって船体を推進させる推進装置である。同時に、アウトドライブ装置は、船体の進行方向に対して回動することによって船体を旋回させる舵装置でもある。このようなアウトドライブ装置を2台備える、いわゆる二軸推進方式の船舶も公知である(例えば、特許文献2)。
【0004】
アウトドライブ装置を備える小型船舶では、操舵アームを駆動する油圧シリンダまたはステアリングケーブルに異常が発生した場合等には、操舵することができない状態となる。アウトドライブ装置による操舵ができない状態であっても、非常手段による措置として、とりあえず船舶が直進方向に推進できるように、舵を固定する必要がある。しかし、非常手段による措置のため、できれば簡素な構成でありながら確実に舵を固定できる舵固定装置が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−1992号公報
【特許文献2】特開平8−40369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、簡素な構成でありながら確実に舵を固定できる船舶の舵固定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、船舶の船体後部に配設されるアウトドライブ装置と、前記アウトドライブ装置から突出された操舵アームと、前記操舵アームに連結され、操舵操作手段の操舵操作により作動するアクチュエータと、を備え、前記アクチュエータを駆動できない非常時に、船体と操舵アームを連結固定する舵固定装置であって、前記操舵アームを係合する係合部と、船体に固定される固定部と、を備えるものである。
【0009】
請求項2においては、請求項1に記載の船舶の舵固定装置であって、前記舵固定装置における係合部と固定部とは、連結部により連結され、前記連結部は、船体の前面方向に延設される上下面当接部と、操舵アームの上面方向に延設される操舵アーム当接部と、を備えるものである。
【0010】
請求項3においては、請求項1または請求項2に記載の船舶の舵固定装置であって、前記固定部は、前記アクチュエータを船体に支持するために設けるブラケットと共締め固定されるものである。
【0011】
請求項4においては、請求項1から3のいずれか一項に記載の船舶の舵固定装置であって、前記係合部は、上面部と、該上面部の両側から垂設される左右の規制部と、を備えるものである。
【0012】
請求項5においては、操舵操作手段の操舵操作に連動するアクチュエータを駆動し、前記アクチュエータの駆動によって操舵アームを介してアウトドライブ装置を回動し、前記アウトドライブ装置の回動によって操船され、前記アウトドライブ装置を2台備える船舶の舵固定時の操船方法であって、前記操舵アームを係合する係合部と、船体に固定される固定部と、を備え、前記操舵アームと船体とを固定する舵固定装置を用いて、前記係合部にて前記操舵アームを係合し、かつ、前記固定部にて前記船体に前記固定部が固定されることによって、前記操舵アームを船体に固定し、前記船舶の操舵方向を一定方向に規制し、一方のアウトドライブ装置の回転数を他方のアウトドライブ装置の回転数よりも大きくし、あるいは、一方のアウトドライブ装置の推進方向を他方のアウトドライブ装置の推進方向とは逆方向とし、前記船舶を旋回させるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の船舶の舵固定装置によれば、次のような効果を奏する。
【0014】
請求項1においては、船体と操舵アームを連結固定する舵固定装置が、前記操舵アームを係合する係合部と、船体に固定される固定部と、を備えるので、簡素な構成でありながら確実に舵を固定できる。
【0015】
請求項2においては、係合部と固定部とを連結する連結部は、船体の前面方向に延設される上下面当接部と、操舵アームの上面方向に延設される操舵アーム当接部と、を備えるので、上下面当接部が前方へ押されても船体により受け止められ、操舵アーム当接部は操舵アームと一体的に連結されて、強度向上が図れる。
【0016】
請求項3においては、固定部は、アクチュエータを船体に支持するために設けるブラケットと共締め固定されるので、固定部を固定するための部材を別途設ける必要がなく、安価に固定部を固定できる。
【0017】
請求項4においては、係合部は、上面部と、上面部の両側から垂設される左右の規制部と、を備えるので、舵固定装置を操舵アームに係合するときに、操舵アームが左右に回動しようとしても、規制部により回動が規制され、固定作業が容易に行えるようになる。
【0018】
請求項5においては、舵固定装置によって舵を固定した場合であっても、簡単な操作で船舶を旋回することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る船舶の構成を示す概略図。
【図2】同じくアウトドライブ装置の構成を示す側面図。
【図3】同じくアウトドライブ装置の船体への取付部を示す側面断面図。
【図4】同じくブラケットの正面図。
【図5】本発明の実施形態である船舶の舵固定装置の構成を示す正面図、平面図及び側面図。
【図6】操舵アームに取り付けた舵固定装置を示す正面図及び側面図。
【図7】別の実施形態である操舵アームに取り付けた舵固定装置を示す正面図及び側面図。
【図8】船舶の舵固定装置の作用を示す模式図。
【図9】別の実施形態である船舶の舵固定装置の作用を示す模式図。
【図10】本発明の実施形態である船舶の舵固定時の操船方法の流れを示すフロー図。
【図11】同じく船舶の舵固定時のアクセルレバーによる操船方法を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を用いて、プレジャーボート100について説明する。
プレジャーボート100は、本発明に係る船舶の実施形態である。プレジャーボート100は、スポーツフィッシング、クルージング、マリンスポーツまたはスピードレース等に用いられる小型船舶である。プレジャーボート100は、アウトドライブ装置10A・10Bと、エンジン20A・20Bと、船体30と、キャビン35と、を具備している。
【0021】
プレジャーボート100は、「2基掛け」の構成とされている。2基掛けとは、2つのエンジン20A・20Bにそれぞれ推進装置としてのアウトドライブ装置10A・10Bが接続されている構成である。本実施形態のプレジャーボート100では、船体30の後部に、アウトドライブ装置10A及びエンジン20Aが進行方向に向かって左側に配置され、アウトドライブ装置10B及びエンジン20Bが進行方向に向かって右側に配置されている。
【0022】
プレジャーボート100は、「船内外機」の構成とされている。船内外機とは、船体30内部に配置されたエンジン20A・20Bから船体30外部に配置されたアウトドライブ装置10A・10Bへ動力を伝達する構成である。
【0023】
プレジャーボート100は、「スターンドライブ」の構成とされている。スターンドライブとは、船内の後方にエンジン20A・20Bを配置し、船尾にアウトドライブ装置10A・10Bを備える構成である。
【0024】
船体30の中央部には、キャビン35が配設されている。キャビン35内には、操舵操作手段となる操舵ハンドル24、ジョイスティックレバー22、アクセルレバー26A・26B、表示装置、及び制御装置4が配設されている。
【0025】
制御装置4には、アウトドライブ装置10A・10B(スクリュープロペラ15)の回転数を検出する回転数センサ(図示略)、後述する油圧シリンダ41・41のロッド43(ピストン)の位置(摺動位置)を検出する位置センサ(図示略)、油圧シリンダ41A・41Bへの作動油の送油方向を変更する電磁弁25A・25B、エンジン20A・20Bの回転数を変更するスロットルアクチュエータ(図示略)、後述する前後進を切り換える切換クラッチ12(図2参照)、ジョイスティックレバー22の操作位置検知部、操作ハンドル24の操作位置検知部及びアクセルレバー26A・26Bの操作位置検知部等が接続されている。
【0026】
ジョイスティックレバー22は、X軸、Y軸及びZ軸回りに回転自在に構成されている。つまり、ジョイスティックレバー22は、X軸(左右)方向及びY軸(前後)方向に傾倒可能に構成されるとともに、Z軸回りに捩り可能に構成される。なお、ジョイスティックレバー22は、操作しない時には上下方向となるように中立位置に付勢される。
【0027】
制御装置4は、ジョイスティックレバー22の操作方向に応じて切換クラッチ12を介して出力軸14の回転方向を切り換える機能を有している。出力軸14の回転方向が切り換えられることにより、プレジャーボート100の前後進が切り換わる。
【0028】
制御装置4は、ジョイスティックレバー22の操作量(前後方向への倒し量、捩り量)に応じてスロットルアクチュエータを介してエンジン20A・20Bの図示しないスロットルの開度を変更する機能を有している。スロットル開度が変更されることにより、エンジン回転数が変更されるため、アウトドライブ装置10A・10Bの推進力が変更される。
【0029】
制御装置4はアクセルレバー26A・26Bの操作量に応じてエンジン20A・20Bの回転数を変更する機能を有している。アクセルレバー26A・26Bは、前後中央が中立位置でアイドル回転数となるように設定されている。
【0030】
例えば、一方(左方)のアクセルレバー26Aを前方へ回動操作されると、切換クラッチ12が前進側に切り換えられて、左舷側のエンジン20Aの回転数が増加される。他方(右方)のアクセルレバー26Bを前方へ回動操作されると、右舷側のエンジン20Bの回転数が増加される。また、一方(左方)のアクセルレバー26Aを後方へ回動操作されると、切換クラッチ12が後進側に切り換えられて、左舷側のエンジン20Aの回転数が増加される。他方(右方)のアクセルレバー26Bを後方へ回動操作されると、切換クラッチ12が後進側に切り換えられて、右舷側のエンジン20Bの回転数が増加される。
【0031】
制御装置4は、ジョイスティックレバー22の操作量(左右方向への倒し量、捩り量)に応じて、電磁弁25A・25Bを介して油圧シリンダ41A・41Bを駆動する機能を有している。
【0032】
図2を用いて、アウトドライブ装置10およびその周囲の構成について説明する。
なお、図2の下方では、アウトドライブ装置10Aの周囲の構成を側面図として示している。また、図2の上方では、操舵装置40を平面図として拡大して示している。また、以下では、アウトドライブ装置10A・10B、エンジン20A・20B及び油圧シリンダ41A・41Bがそれぞれ同様の構成であるため、アウトドライブ装置10、エンジン20及び油圧シリンダ41として説明する。
【0033】
アウトドライブ装置10は、スクリュープロペラ15を回転させることによって船体30を推進させる装置である。また、アウトドライブ装置10は、船体30の進行方向に対して左右回動することによって船体30を旋回させる装置である。アウトドライブ装置10Aは、入力軸11と、切換クラッチ12と、駆動軸13と、出力軸14と、スクリュープロペラ15と、を具備している。
【0034】
アウトドライブ装置10は、アッパーハウジング10Uと、ロアハウジング10Rと、から構成されている。アウトドライブ装置10は、船体30の船尾板(トランサムボード)に取り付けられたジンバルハウジング31に支持されている。
【0035】
入力軸11は、ユニバーサルジョイント21を介して伝達されたエンジン20の回転動力を切換クラッチ12に伝達するものである。入力軸11の一端部は、エンジン20の出力軸に取り付けられたユニバーサルジョイント21と連結され、その他端部は、アッパーハウジング10Uの内部に配置された切換クラッチ12と連結されている。ユニバーサルジョイント21は、ブラケット48の下部に開口した貫通孔48C(図3参照)や船体30に開口した貫通孔に挿入されている。
【0036】
切換クラッチ12は、入力軸11等を介して伝達されたエンジン20の回転動力を正回転方向又は逆回転方向に切換可能とする。切換クラッチ12は、ディスクプレートを備えるインナードラムと連結された正回転用ベベルギア、ならびに、逆回転用ベベルギアを有し、入力軸11に連結されたアウタードラムのプレッシャープレートをいずれのディスクプレートに押し付けるかによって回転方向の切り換えを行う。なお、本実施形態では、エンジン20の詳細な説明については省略する。
【0037】
駆動軸13は、切換クラッチ12等を介して伝達されたエンジン20の回転動力を出力軸14に伝達する。駆動軸13の一端部に設けられたベベルギアは、切換クラッチ12に設けられた正回転用ベベルギア、ならびに、逆回転用ベベルギアと歯合され、その他端部に設けられたベベルギアは、ロアハウジング10Rの内部に配置された出力軸14のベベルギアと歯合される。
【0038】
出力軸14は、駆動軸13等を介して伝達されたエンジン3の回転動力をスクリュープロペラ15に伝達する。出力軸14の一端部に設けられたベベルギアは、上述したように駆動軸13のベベルギアと歯合され、その他端部には、スクリュープロペラ15が取り付けられている。
【0039】
スクリュープロペラ15は、回転することによって推進力を発生させる。スクリュープロペラ15は、出力軸14等を介して伝達されたエンジン20の回転動力によって駆動され、回転軸周りに配置された複数枚のブレード15Aが周囲の水をかくことによって推進力を発生させる。
【0040】
アウトドライブ装置10は、操舵装置40によって左右回動される。操舵装置40は、操舵操作手段としての操舵ハンドル24の操作に応じて連動する油圧シリンダ41によって操舵アーム45を回転駆動する装置である。操舵装置40は、油圧アクチュエータとしての油圧シリンダ41と、操舵アーム45と、固定ピン46と、を具備している。
【0041】
操舵アーム45の一端側(後端側)は、ジンバルリング16の上部に固定した左右回動支点軸17に固定され、アウトドライブ装置10と一体的に左右回動可能としている。操舵アーム45の他側(前側)は、ブラケット48の貫通孔48Bを貫通して船体30の内部に延設され、他端に上下方向のピン孔45A(図3参照)が形成されている。
【0042】
油圧シリンダ41は、シリンダ42と、ロッド43と、クレビス44と、を具備している。シリンダ42の一側(油圧シリンダ41の長手方向中央部)には、回動支持軸42Aが上下方向に突出して設けられ、船体30に固定したブラケット48に回動自在に取り付けられている。ロッド43の一側には、クレビス44が設けられている。クレビス44には、上下方向に貫通孔が形成されている。
【0043】
油圧シリンダ41は、操舵アーム45と回動自在に連結している。より詳しくは、油圧シリンダ41のクレビス44の貫通孔と、操舵アーム45のピン孔45Aとに、円柱形状の固定ピン46を貫通させて回動自在に枢結する構成とされている。なお、固定ピン46は、その上部にて、止め部材47で軸方向の移動が規制されている。つまり、抜け止めが形成されている。
【0044】
図3を用いて、アウトドライブ装置の船体への取付の構成について説明する。
アウトドライブ装置10は、船体30の船尾板の前面にブラケット48を、船尾板の後面にジンバルハウジング31を配置している。ジンバルハウジング31の後部の上下には、左右回動支点軸17・17が支持され、左右回動支点軸17・17に正面視略楕円状に構成されたジンバルリング16の上部と下部が固定され、ジンバルハウジング31に左右回動支点軸17・17を介してジンバルリング16が回動自在に支持される。
【0045】
ジンバルリング16の上下中途部の左右両側には、上下回動支点軸18・18が左右水平方向に設けられ、上下回動支点軸18・18にアッパーハウジング10Uの前上部が上下回動自在に支持される。前記左右回動支点軸17・17は喫水線WLから略垂直方向となるようにジンバルハウジング31に回動自在に支持されている。
【0046】
上側の左右回動支点軸17には、操舵アーム45の後部が嵌合して固設されている。操舵アーム45の前部は、船体30及びブラケット48に形成した貫通孔30A及び貫通孔48Bを貫通して前方に突出されている。操舵アーム45の前端には、油圧シリンダ41が連結されている。油圧シリンダ41を作動させることによって、アウトドライブ装置10は、左右回動可能とされている。
【0047】
ジンバルリング16の下部とアッパーハウジング10Uとの間には、昇降用油圧シリンダ32が介装されている(図2参照)。昇降用油圧シリンダ32を伸縮作動させることによって、アウトドライブ装置10を上下回動支点軸18・18を中心に上下回動可能としている。
【0048】
図4を用いて、ブラケット48の構成について説明する。
ブラケット48は、油圧シリンダ41を船体30に取り付け、ジンバルハウジング31とブラケット48とを船体30に挟持固定して、アウトドライブ装置10を強固に支持するものである。ブラケット48の上部左右中央には、操舵アーム45を貫通させるための貫通孔48Bが開口されている。ブラケット48の上下及び左右中央には、貫通孔48Cが開口され、ユニバーサルジョイント21(または入力軸11)を貫通させている。ブラケット48の下部左右中央には、貫通孔48Dが開口され、油圧ホースやケーブル等を貫通させている。なお、貫通孔48B・48C・48Dの位置及び貫通させる部材は限定するものではない。
【0049】
貫通孔48B・48C・48Dの周囲には、ブラケット48を船体30に固定するためのボルト孔が複数開口されている。また、ブラケット48の左右一側に油圧シリンダ41を支持するための支持部48Aが前方へ突出されている。支持部48Aの先端には、回動支持軸42Aを嵌挿するための支持孔が形成されている。なお、本実施形態では、回動支持軸42Aをボルトとしている。
【0050】
図5及び図6を用いて、舵固定装置50の構成について説明する。
図5(A)は、舵固定装置50の正面図を示し、図5(B)は、舵固定装置50の側面図を示し、図5(C)は、舵固定装置50の平面図を示している。図6(A)は、舵固定装置50の係合部53に操舵アーム45を係合させた状態の正面図を示し、図6(B)は同じく側面図を示している。
【0051】
舵固定装置50は、本発明の船舶の舵固定装置の実施形態である。舵固定装置50は、操舵アーム45を船体30に固定し、プレジャーボート100の操舵方向を直進方向に規制する装置である。舵固定装置50は、固定部51と、連結部52と、係合部53と、を具備している。
【0052】
固定部51は、船体30にブラケット48を介して固定される部材である。固定部51は、左右方向を長手方向とするプレートで構成され、左右両側に2つのボルト孔51A・51Aが形成されている。ボルト孔51A・51Aは、ブラケット48の上部に設けたボルト孔の位置に合わせて形成され、後述する非常時に、ボルト孔51A・51Aとブラケット48のボルト孔の位置を合わせて、ボルト55・55とナット56・56によりブラケット48と固定部51を共締め固定するようにされている。
【0053】
なお、ボルト孔51Aの位置及び数はブラケット48に合わせるものであり、3つ以上で固定する構成であっても良い。また、本実施例では、固定部51をブラケット48の固定用ボルト55・55に固定する構成としているが、貫通孔48Bの近傍の船体30に、他部材を固定するためのボルトが存在するのであれば、そのボルト位置に合わせて固定部51及び連結部52を形成し、操舵アーム45と船体30とを固定する構成としても良い。
【0054】
連結部52は、固定部51と係合部53とを連結する部材である。連結部52は、側面視にて、L字形状に形成され、上下方向に延設される上下面当接部52Aと、前後水平方向に延設される操舵アーム当接部52Bと、から形成されている。上下面当接部52Aは、ブラケット48の前面に沿うように形成され、操舵アーム当接部52Bは操舵アーム45の上面に沿うように形成されている。
【0055】
ブラケット48に舵固定装置50を取り付けて操舵アーム45を固定した時には、上下面当接部52Aは、ブラケット48の前面に当接して前方への曲げ力や振動等が抑えられる。同時に、操舵アーム当接部52Bは、操舵アーム45の上面に当接して下方への曲げ力や振動等が抑えられる。つまり、操舵アーム45が係合部53から外れ難く、ブラケット48と操舵アーム45と舵固定装置50とが一体的に固定されるので、固定強度もアップする構成とされている。
【0056】
係合部53は、操舵アーム45と係合する部材である。係合部53は、正面視にて、下部が開口する凹形状に形成されている。つまり、係合部53は、上面部53Bと、上面部53Bの左右両側から下方に垂設した規制部53C・53Cと、から形成されている。左右の規制部53C・53Cの幅は、操舵アーム45の前部の左右幅より広くされ、両者の間に多少の余裕ができる程度(ガタを有する程度)の隙間を残している。規制部53C・53Cの高さは、操舵アーム45の上下厚さと略同じ長さとして、係合部53に操舵アーム45を係合させた時に外れないようにされている。上面部53Bの中央部にはピン孔53Aが開口され、操舵アーム45の先端に設けたピン孔の位置と合わせて形成され、固定ピン46が挿入できるようにされている。
【0057】
図7を用いて、別の実施形態である舵固定装置50の構成について説明する。
図7(A)は、舵固定装置50の係合部53に操舵アーム45を係合させた状態の正面図を示し、図7(B)は同じく側面図を示している。
【0058】
別の実施形態では、後述する非常時に、ボルト孔51A・51Aとブラケット48のボルト孔の位置を合わせて、ボルト55・55とナット56・56によりブラケット48と固定部51との間にボルト56A・56Aを介して共締め固定するようにされている。なお、別の実施形態では、ボルト56・56の長さを、上述した実施形態のボルト56・56の長さよりも長くしている。その他の構成は上述した構成と同様であるため、説明を省略する。
【0059】
図8を用いて、舵固定装置50の作用について説明する。
なお、図8では、舵固定装置50の作用について、図8(A)、図8(B)、図8(C)の順に舵固定装置50によって操舵アーム45を船体30に固定する方法として説明する。
【0060】
図8(A)に示すように、油圧シリンダ41に異常が発生し、油圧シリンダ41がロッド43を摺動させることができない場合や、油圧シリンダ41を駆動するための油圧装置が故障したり、油圧装置を制御する制御部や電気系統に異常が生じたりした非常時において、油圧シリンダを作動させることができないと仮定する。
【0061】
図8(B)に示すように、まず、操縦者は、止め部材47及び固定ピン46を取り外し、油圧シリンダ41と操舵アーム45の連結を解除し、操舵アーム45及びアウトドライブ装置10の回動についてフリーの状態とする。そして、操縦者は、フリーの状態となった操舵アーム45を、プレジャーボート100が直進方向となるように位置決めする。つまり、操舵アーム45が前後方向(アウトドライブ装置10が直進方向)となるように、手動で回動する。
【0062】
図8(C)に示すように、操縦者は、ブラケット48上部の二つのボルト55・55を締め付けているナット56・56を外しておき、舵固定装置50の係合部53を、フリーの状態となった操舵アーム45に上方から係合させ、固定部51をブラケット48にボルト55・55により仮固定する。
【0063】
ここで、本実施形態では、舵固定装置50の係合部53が操舵アーム45に対してガタを有して構成されている。仮に、係合部53が操舵アーム45に隙間なく嵌合する構成であると、操舵アーム45と係合部53とを係合して固定ピン46により固定してからでないと、ブラケット48に固定することができない。また、ブラケット48のボルト孔と舵固定装置50のボルト孔51A・51Aとの位置を正確に合わせないと固定できない。本実施形態では、係合部53と操舵アーム45との間にわずかな隙間を有するため、容易に仮止めができ、作業が容易である。
【0064】
そして、係合部53のピン孔53Aと操舵アーム45のピン孔を合わせて固定ピン46を挿入して止め部材47により掛止して、係合部53と操舵アーム45を連結する。次に、操舵アーム45とブラケット48を船体30に仮固定しているナット56・56を更に締め付けて船体30に固定する。つまり、油圧シリンダ41を支持するブラケット48を船体30に固定するためのボルト55・55を利用して舵固定装置50を固定し、部品点数が増加しないようにしている。こうして、操縦者は、舵固定装置50によって、フリーの状態となった操舵アーム45を船体30に固定する。
【0065】
図9を用いて、別の実施形態である舵固定装置50の作用について説明する。
なお、図9では、舵固定装置50の作用について、図9(A)、図9(B)、図9(C)の順に舵固定装置50によって操舵アーム45を船体30に固定する方法として説明する。
【0066】
図9(A)および図9(B)については、図8(A)および図8(B)と同様であるため説明を省略する。
【0067】
図9(C)に示すように、操縦者は、ブラケット48上部の二つのボルト55・55を締め付けているナット56・56を外しておき、舵固定装置50の係合部53を、フリーの状態となった操舵アーム45に上方から係合させ、固定部51をナット56A・56Aを介してブラケット48にボルト55・55とナット56・56とにより仮固定する。以降は、図8(C)と同様であるため、説明を省略する。
【0068】
以上のように、船舶の船体30後部に配設されるアウトドライブ装置10と、前記アウトドライブ装置10から突出された操舵アーム45と、前記操舵アーム45に連結され、操舵操作手段の操舵操作により作動するアクチュエータ(油圧シリンダ41)と、を備え、前記アクチュエータを駆動できない非常時に、船体30と操舵アーム45を連結固定する舵固定装置50であって、前記操舵アーム45を係合する係合部53と、船体30に固定される固定部51と、を備えるので、簡素な構成でありながら確実に舵を固定できる。
【0069】
また、前記舵固定装置50における係合部53と固定部51とは、連結部52により連結され、連結部52は、船体30の前面方向に延設される上下面当接部52Aと、操舵アーム45の上面方向に延設される操舵アーム当接部52Bと、を備えるので、上下面当接部52Aが前方へ押されても船体30により受け止められ、操舵アーム当接部52Bは操舵アーム45と一体的に連結されて、強度アップが図れる。
【0070】
また、前記固定部51は、前記アクチュエータを船体30に支持するために設けるブラケット48と共締め固定されるので、固定部51を固定するための部材を別途設ける必要がなく、安価に固定部51を固定できる。
【0071】
また、前記係合部53は、上面部53Bと、該上面部53Bの両側から垂設される左右の規制部53C・53Cを備えるので、舵固定装置50を操舵アーム45に係合するときに、操舵アーム45が左右に回動しようとしても、規制部53C・53Cにより回動が規制され、固定作業が容易に行えるようになる。
【0072】
図10及び図11を用いて、舵固定時の操船方法S100の流れについて説明する。
なお、舵固定時の操船方法S100では、ステップS110およびステップS120については、上述した舵固定装置50によって操舵アーム45を船体30に固定する方法と同様である。
【0073】
舵固定時の操船方法S100は、故障等で油圧シリンダ41が作動しない非常時の場合の本発明の船舶の舵固定時の操船方法の実施形態である。また、舵固定時の操船方法S100は、舵固定装置50によって操舵アーム45と船体30とを固定した時の操舵方法である。
【0074】
ステップS110において、アウトドライブ装置10を直進状態に固定する。具体的には、操縦者は、固定ピン46及び止め部材47を取り外し、油圧シリンダ41による操舵アーム45の支持を解除し、操舵アーム45をフリーの状態とする。そして、操縦者は、舵固定装置50によって、プレジャーボート100が直進方向となるように、フリーの状態となった操舵アーム45を船体30に固定する。
【0075】
ステップS120において、右旋回の場合には、操縦者は、アウトドライブ装置10Aの回転数をアウトドライブ装置10Bの回転数よりも大きくする、あるいは、小さくすることによって、プレジャーボート100を旋回させる。
【0076】
より具体的には、前進右旋回する場合には、左側のアクセルレバー26Aの前方への回動量を右側のアクセルレバー26Bの前方への回動量よりも大きくする(図11に示す黒塗りつぶし矢印による操作量)。そのため、左のアウトドライブ装置10Aの回転数が右のアウトドライブ装置10Bの回転数よりも大きくなり、船体30は右方向に旋回する。この左右のアクセルレバー26A・26Bの前方への回動量差が大きいほど旋回半径は小さくなる。さらに、右側のアクセルレバー26Bを後方へ回動することにより、右のアウトドライブ装置10Bは逆方向に回転されることになり、旋回半径は更に小さくなる。
【0077】
前進左旋回する場合には、右側のアクセルレバー26Bの前方への回動量を左側のアクセルレバー26Aの前方への回動量よりも大きくすることにより、船体30は左方向に旋回することができる(図11に示す白塗りつぶし矢印による操作)。
【0078】
また、後進右旋回する場合には、左側のアクセルレバー26Aの後方への回動量を右側のアクセルレバー26Bの後方への回動量よりも大きくする。更に、旋回半径を小さくするために右側のアクセルレバー26Bを前方へ回動してもよい。従って、左のアウトドライブ装置10Aの回転数が右のアウトドライブ装置10Bの回転数よりも大きくなり、船体30は右方向に旋回する。
【0079】
以上のように、操舵操作手段の操舵操作に連動するアクチュエータを駆動し、前記アクチュエータの駆動によって操舵アーム45を介してアウトドライブ装置10を回動し、前記アウトドライブ装置10の回動によって操船され、前記アウトドライブ装置10を2台備える船舶の舵固定時の操舵方法であって、前記操舵アーム45を嵌合する係合部53と、船体30に固定される固定部51と、を備え、前記操舵アーム45と船体30とを固定する舵固定装置50を用いて、前記係合部53にて前記操舵アーム45を係合し、かつ、前記固定部51にて前記船体30に前記固定部51が固定されることによって、前記操舵アーム45を船体30に固定し、前記船舶の操舵方向を一定方向に規制し、一方のアウトドライブ装置10の回転数を他方のアウトドライブ装置10の回転数よりも大きくし、あるいは、一方のアウトドライブ装置10の推進方向を他方のアウトドライブ装置10の推進方向とは逆方向とし、前記船舶を旋回させるので、舵固定装置50によって操舵アーム45を固定した場合であっても、簡単な操作でプレジャーボート100を旋回することができる。
【符号の説明】
【0080】
10A アウトドライブ装置(左側)
10B アウトドライブ装置(右側)
20A エンジン(左側)
20B エンジン(右側)
30 船体
40 操舵装置
41 油圧シリンダ
45 操舵アーム
50 舵固定装置
51 固定部
52 連結部
53 係合部
100 プレジャーボート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船体後部に配設されるアウトドライブ装置と、
前記アウトドライブ装置から突出された操舵アームと、
前記操舵アームに連結され、操舵操作手段の操舵操作により作動するアクチュエータと、
を備え、
前記アクチュエータを駆動できない非常時に、船体と操舵アームを連結固定する舵固定装置であって、
前記操舵アームを係合する係合部と、船体に固定される固定部と、を備える、
船舶の舵固定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の船舶の舵固定装置であって、
前記舵固定装置における係合部と固定部とは、連結部により連結され、
前記連結部は、船体の前面方向に延設される上下面当接部と、操舵アームの上面方向に延設される操舵アーム当接部と、を備える、
船舶の舵固定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の船舶の舵固定装置であって、
前記固定部は、前記アクチュエータを船体に支持するために設けるブラケットと共締め固定される、
船舶の舵固定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の船舶の舵固定装置であって、
前記係合部は、上面部と、該上面部の両側から垂設される左右の規制部と、を備える、
船舶の舵固定装置。
【請求項5】
操舵操作手段の操舵操作に連動するアクチュエータを駆動し、
前記アクチュエータの駆動によって操舵アームを介してアウトドライブ装置を回動し、
前記アウトドライブ装置の回動によって操船され、
前記アウトドライブ装置を2台備える船舶の舵固定時の操船方法であって、
前記操舵アームを係合する係合部と、船体に固定される固定部と、を備え、前記操舵アームと船体とを固定する舵固定装置を用いて、
前記係合部にて前記操舵アームを係合し、かつ、前記固定部にて前記船体に前記固定部が固定されることによって、前記操舵アームを船体に固定し、前記船舶の操舵方向を一定方向に規制し、
一方のアウトドライブ装置の回転数を他方のアウトドライブ装置の回転数よりも大きくし、あるいは、一方のアウトドライブ装置の推進方向を他方のアウトドライブ装置の推進方向とは逆方向とし、前記船舶を旋回させる、
船舶の舵固定時の操船方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−14159(P2013−14159A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146209(P2011−146209)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)