説明

船舶動静予測方法及びシステム

【課題】船舶の目的地の到着予想時間をリアルタイムに提供する船舶動静予測方法及びシステムを提供する。
【解決手段】本発明の船舶動静予測システムは、AIS情報を受信するとともに電気通信回線41により配信可能な受信局装置42と、受信局装置42と電気通信回線41を介して接続された処理装置43と、を備え、処理装置43は、AISデータベース44を構築し、船舶Sが所定の目的地まで航行する海域を複数の領域A1〜A6に区画し、AIS情報を用いて領域A1〜A6ごとに標準航行情報45dを作成して標準航行データベース45を構築し、AIS情報を用いて標準航行情報45dを所定の条件で修正する補正テーブル46dを作成して補正データベース46を構築し、AIS情報により船舶Sの進入領域A4を検出し、進入領域A4に対応した標準航行情報45d及び補正テーブル46dを用いて船舶Sの目的地Dまでの到着予想時間ETAを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海域を航行する船舶の目的地の到着予想時間をリアルタイムに提供することができる船舶動静予測方法及びシステムに関し、特に、船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶に適した船舶動静予測方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
世界各国の周辺海域は、種々の目的で活動する様々な船舶が多数行き交い、海上交通は輻輳している。特に水域の限られた湾域や内海では船舶が集中し、非常に混雑した状況になっている。また、航路上の気象条件や視程の変化により航海計画どおりに運航できないこともある。かかる事情から、熟練した船長や船員であっても船舶を予定時間どおりに目的地に到着させることは非常に困難である。そして、船舶の到着に遅延時間が生じると、例えば、コンテナ船等の貨物船に関しては、港湾の貨物ターミナルに荷積みされたコンテナを集荷するためにトラックが各地から配車されており、船舶の遅延により貨物ターミナルのゲート入口付近で渋滞が生じてしまう。その結果、船舶の遅延に加えてトラックの渋滞による遅延も生じるという悪循環を招いている。
【0003】
かかる問題を解決するために、例えば、特許文献1(車両呼び出し方法および車両呼び出しシステム)に記載された発明が提案されている。特許文献1に記載された発明は、到着した貨物を引き取るための貨物引き取り所とは別の敷地に場所された車両待機所内に貨物を引き取るために待機している車両を、貨物引き取り所に呼び出しするための車両呼び出しシステムに関する。かかる発明は、貨物ターミナルに生じた渋滞を緩和するために車両待機所を設けたものであるが、船舶の遅延が生じた場合には、待機する車両が増加してしまい、結果として渋滞が生じてしまうという問題がある。
【0004】
また、船舶の遅延そのものを防止しようとする発明も提案されている。例えば、特許文献2(環境負荷低減型航海計画提供システム)に記載された発明は、船舶の運航に際し、予め航路に沿い設定した通過点ごとに通過時刻を許容誤差内に納めるようにして、目的港への到着時刻の定時性を維持できるようにしたものである。かかる発明は、気象条件等により迂回した船舶に対して改めて航路や船速を設定し、船舶の目的地への遅延を防止しようとするものであるが、現在の気象条件や輻輳度により再設定された航路や船速を遵守することができない場合もあり、結果として船舶の遅延を防止できないという問題がある。
【0005】
また、移動体の運行情報をリアルタイムに提供しようとする発明も提案されている。例えば、特許文献3(移動体運行情報提供システム及び方法と、移動体運行情報サービスセンタ)に記載された発明は、移動体の位置情報及び時間情報を収集し(データベース化)、運行路区間内の平均速度及び所要時間の推定を移動体運行情報サービスセンタで一括して行うようにしたものである。かかる発明は、主として道路上を走行する車両を想定したものであり、任意の航路を選択し得る船舶に適用することは困難である。
【0006】
ところで、衝突予防と人命安全という観点から、SOLAS条約(海上における人命の安全のための国際条約)のもと、2008年7月1日以降、原則として全ての旅客船及び総トン数300トン以上の国際航海船及び総トン数500トン以上の国際航海に従事しない船舶に対して、船舶自動識別装置(Automatic Identification System。以下、「AIS」という。)の搭載が義務付けられることになっている。
【0007】
AISは、GPSによる船舶の位置、IMO番号、船名、船種、現在の対地針路、対地船速、船首方位、運航状態等、従来のレーダー及び自動衝突防止援助装置(ARPA装置)では得られなかった船舶の航行に関する様々な情報をリアルタイムに監視及び観測できることができ、同時に100隻を越える船舶を捕捉及び追跡でき、気象及び海象条件による影響が少なく、目標船舶が受信可能範囲内にいる限り見失う危険性が低いため、船舶の航行監視にとって有効な手段である。また、AISは、電波を遮る物体がなければ、湾曲部の周辺や島陰の船舶からも情報を受信でき、海上では約20〜30海里の範囲で情報を受信することができる。なお、AISについては、非特許文献1に詳しい。
【0008】
かかるAISを利用すれば各船舶の位置、船名、船種、船速等の情報を取得できるが、AISは船舶の監視を目的とするものであり、監視している船舶がどの程度遅延しているか否かの情報を取得することはできないという問題がある。
【特許文献1】特開2000−123280号公報
【特許文献2】特開2007−45338号公報
【特許文献3】特開2002−117491号公報
【非特許文献1】日本財団図書館(電子図書館)「平成15年度 通信講習用 船舶電気装備技術講座(レーダー、AIS・VDR・GPS編)」第3章 船舶自動識別装置(AIS)http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2003/00139/contents/0011.htm
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述した問題点に鑑み創案されたものであり、AISのデータを利用して、海域を航行する船舶の目的地への到着予想時間をリアルタイムに提供することができる船舶動静予測方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶から送信されるAIS情報を受信して該船舶の動静を予測する船舶動静予測方法であって、前記船舶が所定の目的地まで航行する海域を複数の領域に区画し、該領域ごとに前記目的地までの標準航行時間を設定し、前記AIS情報により前記船舶が進入した進入領域を検出し、前記AIS情報により前記船舶が前記進入領域の前に通過した通過領域の航行に要した通過時間を算出し、該通過時間と前記標準航行時間とから前記通過領域の遅延時間又は遅延係数を算出し、該遅延時間又は遅延係数により前記船舶の前記進入領域における標準航行時間を修正して前記目的地までの到着予想時間を予測する、ことを特徴とする船舶動静予測方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶から送信されるAIS情報を受信して該船舶の動静を予測する船舶動静予測方法であって、前記船舶が所定の目的地まで航行する海域を複数の領域に区画し、該領域ごとに前記目的地までの標準航行時間を設定し、前記AIS情報により前記船舶が進入した進入領域を検出し、前記AIS情報により前記進入領域から前記目的地までの予定通過領域における他の船舶の航行に要した通過時間を算出し、該通過時間と前記標準航行時間とから前記予定通過領域ごとの遅延時間又は遅延係数を算出し、該遅延時間又は遅延係数により前記船舶の前記進入領域における標準航行時間を修正して前記目的地までの到着予想時間を予測する、ことを特徴とする船舶動静予測方法が提供される。
【0012】
ここで、前記領域は、前記目的地に向かって複数の分割ラインにより区画されていてもよいし、前記船舶の標準航跡に沿ってセル状に分割されていてもよい。
【0013】
また、前記標準航行時間は、直前に前記目的地に到達した他船の航行時間又は過去に前記目的地に到達した複数の他船のAIS情報を分析して算出した航行時間であることが好ましい。前記標準航行時間は、船舶の種類、規模又はそれらの組み合わせごとに設定されていてもよい。また、前記標準航行時間に替えて、各領域の通過に要する標準通過時間を設定してもよい。前記標準通過時間は、直前に各領域を通過した他船の通過時間又は過去に各領域を通過した複数の他船のAIS情報を分析して算出した航行時間であることが好ましい。
【0014】
また、前記船舶が前記目的地まで航行する際の標準航跡を設定し、前記領域ごとに該標準航跡からの離隔距離に応じた離隔補正係数を設定し、前記AIS情報により前記船舶の前記進入領域における前記標準航跡からの離隔距離を算出し、該離隔距離に応じた前記離隔補正係数に基づいて前記到着予想時間を修正するようにしてもよい。ここで、前記標準航跡は、直前に各領域を通過した若しくは前記目的地に到達した他船の航跡、又は過去に各領域を通過若しくは前記目的地に到達した複数の他船のAIS情報を分析して算出した航跡であることが好ましい。また、前記標準航跡は、前記船舶の種類、規模又はそれらの組み合わせごとに設定されていてもよい。
【0015】
さらに、前記領域ごとに前記目的地からの距離に応じた影響係数を予め設定しておき、該影響係数を用いて前記到着予想時間を修正するようにしてもよい。なお、前記到着予想時間を用いて前記目的地の到着時刻又は現在時刻における船舶位置を予測するようにしてもよい。
【0016】
また、本発明によれば、船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶から送信されるAIS情報を受信して該船舶の動静を予測する船舶動静予測方法であって、前記船舶が所定の目的地まで航行する海域を複数の領域に区画し、該領域ごとに前記目的地までの標準航行時間を設定し、各領域に生じた遅延事象と各領域に存在する船舶の前記目的地までの航行時間との相関関係を前記AIS情報により分析して前記領域ごとに相関係数を設定し、前記AIS情報により前記船舶が進入した進入領域を検出し、前記AIS情報により遅延事象が生じている遅延領域を検出し、該遅延領域における標準状態と遅延状態とから遅延率を算出し、該遅延率及び前記相関係数を用いて前記進入領域の標準航行時間を修正して前記目的地までの到着予想時間を予測する、ことを特徴とする船舶動静予測方法が提供される。
【0017】
前記領域は、メッシュ状に区画されていてもよいし、部分的に区画されていてもよいし、遅延事象を観測するための遅延観測領域と前記到着予想時間を予測する船舶を検出するための対象船舶検出領域とを別々に有していてもよい。前記相関係数は、船舶の種類、規模又はそれらの組み合わせごとに設定されていてもよい。前記遅延事象は、各領域内に存在する船舶の船速、密度又はそれらの組み合わせにより観測するようにしてもよい。前記遅延率は、前記遅延領域における標準船速又は標準密度と前記遅延領域における現在の船速又は密度の比により算出してもよい。
【0018】
また、前記標準航行時間は、直前に前記目的地に到達した他船の航行時間であってもよいし、過去に前記目的地に到達した複数の他船のAIS情報を分析して算出した航行時間であってもよい。前記標準航行時間及び前記相関係数は、船舶の種類、規模又はそれらの組み合わせごとに設定されていてもよい。さらに、前記到着予想時間を用いて前記目的地の到着時刻又は現在時刻における船舶位置を予測するようにしてもよい。
【0019】
また、本発明によれば、船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶から送信されるAIS情報を受信して該船舶の動静を予測する船舶動静予測システムであって、前記AIS情報を受信するとともに電気通信回線により配信可能な受信局装置と、該受信局装置と電気通信回線を介して接続された処理装置と、を備え、前記処理装置は、前記AIS情報を記憶してAISデータベースを構築し、前記船舶が所定の目的地まで航行する海域を複数の領域に区画し、前記AIS情報を用いて前記領域ごとに標準航行情報を作成して前記標準航行データベースを構築し、前記AIS情報を用いて前記標準航行情報を所定の条件で修正する補正テーブルを作成して前記補正データベースを構築し、前記AIS情報により前記船舶の進入領域を検出し、該進入領域に対応した前記標準航行情報及び前記補正テーブルを用いて前記船舶の前記目的地までの到着予想時間を算出する、ことを特徴とする船舶動静予測システムが提供される。
【0020】
前記標準航行情報は、前記領域ごとに設定された前記目的地までの標準航行時間又は前記領域ごとに設定された各領域の通過に要する標準通過時間を含むことが好ましい。また、前記補正テーブルは、前記領域ごとに設定された前記進入領域における前記船舶の標準航跡からの離隔距離に応じて設定された離隔補正係数又は前記領域ごとに前記目的地からの距離に応じて設定された影響係数を含むことが好ましい。また、前記補正テーブルは、ある領域に生じた遅延事象と各領域に存在する船舶の前記目的地までの航行時間との相関関係を前記AIS情報により分析して前記領域ごとに設定された相関係数を含み、前記処理装置は、前記AIS情報により各領域における遅延事象を検出し、前記相関係数を用いて前記到着予想時間を算出するようにしてもよい。また、前記標準航行データベース及び前記補正データベースは、船舶の種類、船舶の規模又はそれらの組み合わせごとに分類されていてもよい。
【0021】
さらに、前記処理装置は、前記到着予想時間を電気通信回線に接続された端末機器から入手し得る状態に出力するようにしてもよいし、前記到着予想時間を用いて前記目的地の到着時刻又は現在時刻における船舶位置を算出するようにしてもよいし、前記目的地の到着時刻又は現在時刻における船舶位置を電気通信回線に接続された端末機器から入手し得る状態に出力するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
上述した本発明の船舶動静予測方法及びシステムによれば、海域を航行する船舶の目的地の到着予想時間をリアルタイムに提供することができる。したがって、船舶の遅延時間を把握することができ、例えば、かかる遅延時間をトラックの運転手や配送業者等に提供することによって、船舶の到着に合わせて貨物ターミナルにトラックを配車することができ、渋滞を緩和することができる。また、フェリー等の客船に本発明を適用すれば、遅延時間を明確にすることによって、利用客の精神的苦痛を緩和することができる。また、AIS情報を受信できない場合や現在の船舶の位置を把握したい場合には、到着予想時間、AIS情報(例えば、最後に受信したもの)、標準航跡等を用いて現在時刻の船舶位置を逆算して推計することもできる。また、遅延時間と航跡のデータを利用して、事後的に、船舶ごとの遅延傾向を把握したり、船長や船員の熟練度を把握したり、船長や船員の操舵技術向上のための教材として利用したりすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図1〜図9を用いて説明する。ここで、図1は、本発明に係る船舶動静予測方法の第一実施形態を示す図であり、(A)は基本例、(B)は第一変形例である。また、図2は、図1(A)に示した第一実施形態の変形例を示す図であり、(A)は第二変形例、(B)は第三変形例である。
【0024】
図1(A)に示すように、本発明の船舶動静予測方法の第一実施形態は、船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶Sから送信されるAIS情報を受信して船舶Sの動静を予測する船舶動静予測方法であって、船舶Sが目的地Dまで航行する海域(港湾1)を複数の領域A(例えば、A1〜A6)に区画し、領域Aごとに目的地Dまでの標準航行時間T(例えば、T1〜T6)を設定し、船舶SのAIS情報により船舶Sが進入した進入領域(例えば、A4)を検出し、船舶SのAIS情報により船舶Sが進入領域の前に通過した通過領域(例えば、A5,A6)の航行に要した通過時間Δt(例えば、Δt5,Δt6)を算出し、通過時間Δtと標準航行時間Tとから通過領域の遅延時間tdを算出し、遅延時間tdにより船舶Sの進入領域における標準航行時間Tを修正して目的地Dまでの到着予想時間ETA(Estimated Time of Arrival)を予測する、ことを特徴とする。
【0025】
前記AIS情報は、静的情報、動的情報、航海情報及び安全情報が含まれている。静的情報は、船名や要目といった対象船がどのような船であるか特定するための情報であり、MMSI番号、呼出符号、船名、IMO番号、船体長、船体幅、船種、アンテナ位置等の情報が含まれる。MMSI番号は「Maritime Mobile Service Identity(海上移動業務識別)」の略で各AIS機器に割り当てられた識別番号であり、IMO番号はIMO(国際海事機関)が付与する船舶識別番号であり、呼出符号は信号符字やコールサインとも呼ばれるものでアルファベットと数字の組み合わせからなる。これらのMMSI番号、IMO番号、呼出符号及び船名は、船舶を特定するための機能を果たす。動的情報は、対象船の位置や速力等の最新の操船状態を表す情報であり、緯度、経度、位置精度、時刻、対地針路、対地速度、船首方位、回頭角速度、航海ステータス(錨泊、航海、座礁、操縦不能等)等の情報が含まれる。航海情報は、対象船の航路や搭載貨物に関する情報で、喫水、積載危険物の種類、目的地、入港予定時刻等の情報が含まれる。安全情報は、安全に関する補足情報である。なお、船舶から送信されるAIS情報には、常に前記4種類の情報が含まれている訳ではなく、各情報が個別にAIS情報として送信されることが多い。例えば、動的情報は3分ごと、静的情報は6分ごとに送信されるのが一般的である。本発明は、かかるAIS情報を基礎として船舶Sの目的地Dまでの到着予想時間ETAをリアルタイムに予測しようとする発明である。
【0026】
図1(A)に示す前記海域は港湾1の場合を示しており、港湾1の入口付近から目的地Dに向かって分割ラインL0〜L6を引くことにより領域A1〜A6を設定している。このように、海域全体を分割ラインで複数の領域に区画する方式をライン分割方式と称することとする。目的地Dの情報はAIS情報から入手することができる。各領域Aを設定する分割ラインLの間隔は任意であり、等間隔である必要もなく、図示した本数に限られるものでもない。また、港湾1の沖まで領域Aを設定するように分割ラインLを引いてもよいし、出発地点から目的地Dに渡って領域Aを設定するようにしてもよい。また、図2(B)の第三変形例に示すように、目的地Dが沿岸部21に存在する場合には、複数の領域A1〜A4を設定する分割ラインL1〜L4を曲線で引くようにしてもよい。
【0027】
前記標準航行時間T1〜T6は、各領域A1〜A6に進入した地点から目的地Dまでの標準航行時間Tであり、各分割ラインL1〜L6から目的地Dまでの標準航行時間Tであると言い換えることもできる。各標準航行時間T1〜T6は、例えば、船舶Sの直前に目的地Dに到達した他船の航行時間として設定される。他船の航行時間はAIS情報から算出することができる。このように直前の他船のデータを使用することで、船舶Sの航路上の輻輳度や気象条件に近い状態を模擬した標準航行時間T1〜T6を得ることができる。また、船舶の種類や規模によって船速が異なるため、直前の船舶は船舶Sと同型の船舶を選択するようにしてもよい。例えば、船舶の種類としては、コンテナ船、タンカー、客船、自動車専用船、バルクキャリア、貨物船、LNG船等が考えられる。また、船舶の規模は船の長さや総トン数により判断することができる。これらの情報は基本的にAIS情報から入手することができる。なお、AIS情報が、船舶の種類や規模を特定するために必要な情報を欠損している場合であっても、上述したように、AIS情報はMMSI番号やIMO番号等の船舶を特定するための静的情報を有しているため、別途用意された船舶情報マスターデータと照合して別ルートから必要な情報を入手することもできる。
【0028】
また、各標準航行時間T1〜T6は、過去に目的地Dに到達した複数の他船のAIS情報を分析して算出した航行時間により設定してもよい。例えば、各標準航行時間T1〜T6は、平均値により設定することもできるし、統計的に標準偏差を考慮して設定することもできる。この場合も、船舶の種類や規模によって標準航行時間T1〜T6を設定するようにしてもよい。
【0029】
前記進入領域A4は、定期的に送信される船舶SのAIS情報から把握することができる。具体的には、船舶SのAIS情報(位置、緯度、船首方位等)と、分割ラインL1〜L6の位置とを比較し、船舶Sがどの分割ラインLを越えたかを把握すればよい。図1(A)に示した実施形態では、船舶Sが航跡Rを取りながら分割ラインL4を越えた場合、すなわち、領域A4に進入した場合を示している。
【0030】
前記通過領域A5は、船舶Sが進入領域A4の前に通過した領域であり、進入領域A4が把握できれば容易に通過領域A5,A6を把握することができる。そして、船舶SのAIS情報を用いて、船舶Sが通過領域A5,A6の航行に実際に要した通過時間Δt5,Δt6を算出する。AIS情報は上述したように定期的に情報が送信されているため、通過領域A5を形成する分割ラインL4及びL5に最も近い地点のAIS情報を使用すれば通過時間Δt5,Δt6を算出することができる。
【0031】
また、通過領域A5において、分割ラインL4,L5,L6ごとに標準航行時間T4,T5,T6が設定されているため、通過領域A5の標準通過時間ΔT5は、ΔT5=T5−T4の計算式により、通過領域A6の標準通過時間ΔT6は、ΔT6=T6−T5の計算式により、それぞれ求めることができる。この標準通過時間ΔT5,ΔT6と通過時間Δt5,Δt6との差を求めれば、各通過領域の遅延時間td5,td6を算出することができ、各遅延時間td5,td6の総和を求めることにより船舶Sの遅延時間tdを算出することができる。遅延時間tdの値が正の場合は、船舶Sが標準航行時間Tよりも遅れている場合を示し、遅延時間tdの値が負の場合は、船舶Sが標準航行時間Tよりも速く進んでいる場合を示している。
【0032】
船舶Sの到着予想時間ETAは、進入領域A4における標準航行時間T4を遅延時間tdで修正した時間、すなわち、ETA=T4+tdにより算出される時間である。本発明の第一実施形態は、自己の船舶Sにおける実際の遅れに基づいて到着予想時間ETAを予測することを特徴とする。このように、船舶Sの実際の遅延時間tdを算出することにより、船舶Sの複雑に絡み合う遅延事象(気象条件、視程、輻輳度等)を解析することなく、精度の高い到着予想時間ETAをリアルタイムに予測することができる。なお、遅延時間tdに替えて、通過時間Δtの標準通過時間ΔTに対する比率である遅延係数、すなわち、遅延係数=通過時間Δt/標準通過時間ΔTの計算式により算出される数値により標準航行時間Tを修正するようにしてもよい。例えば、上述の実施形態においては、ETA=遅延係数×T4の計算式により、船舶Sの到着予想時間ETAが予測される。
【0033】
また、このように、精度の高い到着予想時間ETAを予測することができれば、例えば、かかる到着予想時間ETAをトラックの運転手や配送業者等に提供することによって、船舶の到着に合わせて貨物ターミナルにトラックを配車することができ、渋滞を緩和することができる。また、かかる到着予想時間ETAをフェリー等の運用会社や利用客に提供することによって、利用客の精神的苦痛を緩和することができる。また、AIS情報を受信できない場合や現在の船舶の位置を確認したい場合には、到着予想時間ETAとAIS情報(船首方向、船速等)を用いて現在時刻の船舶位置を逆算することもできる。また、到着予想時間ETAと航跡のデータを利用して、事後的に、船舶ごとの遅延傾向を把握したり、船長や船員の熟練度を把握したり、船長や船員の操舵技術向上のための教材として利用したりすることもできる。
【0034】
次に、上述した第一実施形態の第一変形例について説明する。図1(B)に示した第一変形例は、船舶Sが目的地Dまで航行する際の標準航跡Rsを設定し、領域A1〜A6ごとに標準航跡Rsからの離隔距離G(例えば、G1〜G3)に応じた離隔補正係数βを設定し、船舶SのAIS情報により進入領域A4における標準航跡Rsからの離隔距離gを算出し、離隔距離gに応じた離隔補正係数βに基づいて到着予想時間ETAを修正するようにしたものである。
【0035】
前記標準航跡Rsは、例えば、直前に各領域A1〜A6を通過した他船の航跡又は直前に目的地Dに到達した他船の航跡により設定される。船舶Sの船種や規模によって航路が異なる場合もあるため、直前の船舶は船舶Sと同型の船舶を選択するようにしてもよい。具体的には、船舶SのAIS情報から船舶の種類や規模に関する情報を抽出し、他船のAIS情報から直前に通過した同型船を選定し、その同型船のAIS情報から航跡を描画して標準航跡Rsとして設定する。航跡を描画する際には、AIS情報の船舶位置(緯度、経度等)を結ぶだけでよい。なお、標準航跡Rsは、各領域A1〜A6間において、必ずしも繋がっている必要はない。
【0036】
また、標準航跡Rsは、過去に各領域A1〜A6を通過又は目的地Dに到達した複数の他船のAIS情報を分析して算出した航跡であってもよい。例えば、標準航跡Rsは、平均値により設定することもできるし、統計的に標準偏差を考慮して設定することもできる。この場合も、船舶の種類や規模によって標準航跡Rsを設定するようにしてもよい。なお、標準航跡Rsを設定する際に、各領域A1〜A6内において同一船舶の航跡が重複して存在するような場合には、本願発明者らが提案した発明(特許第3882025号)を利用することによって、単一の航跡を得ることができる。
【0037】
前記離隔補正係数βは、船舶Sの航跡と標準航跡Rsとのズレ(離隔距離g)から生じる遅延を加味して、より正確に到着予想時間ETAを予測するための補正係数である。標準航跡Rsは、基本的に航海前に策定された予定航路に近い航跡であり、自船の航跡Rが予定航路から外れている場合には基本的に予定航路に戻そうとするため、航路が長くなる傾向にあり遅延が生ずる。この遅延を加味したのが離隔補正係数βである。離隔補正係数βは、例えば、図1(B)に示すように、標準航跡Rsからの離隔距離G1〜G3ごとに設定される。例えば、船舶Sが領域A4に進入した場合に、船舶Sの進入位置が、標準航跡Rsから離隔距離G1の間のエリアにある場合はβ41、離隔距離G1から離隔距離G2の間のエリアにある場合はβ42、離隔距離G2から離隔距離G3の間のエリアにある場合はβ43のように設定される。
【0038】
前記離隔距離G1〜G3は、例えば、図3に示すように正規分布に基づいて設定される。ここで、図3は、離隔補正係数の設定方法を示す図であり、(A)は分割ラインL4の場合、(B)は分割ラインL3の場合を示している。まず、過去の船舶のAIS情報から各領域Aに進入した時の分割ラインL上の進入位置を検出し、標準航跡Rsとの離隔距離Gを算出し正規分布を作成する。図3(A)は、領域A4(分割ラインL4)に進入した場合の正規分布を示し、図3(B)は、領域A3(分割ラインL3)に進入した場合の正規分布を示している。したがって、図3(A)に示すケースでは分散が大きく、図3(B)に示すケースでは分散が小さいことがわかる。そして、それぞれの場合において、標準偏差σを用いて離隔距離G1〜G3を設定する。すなわち、離隔距離G1は1σ、離隔距離G2は2σ、離隔距離G3は3σのように設定される。3σまで設定すれば全体の99.73%が含まれることとなり略十分であるが、3σ以上の部分に離隔補正係数βを設定するようにしてもよい。
【0039】
離隔補正係数βは、各離隔距離G1〜G3と各エリアに進入した船舶の目的地Dに到着した時間の遅延時間tdとの関係を解析(平均又は統計的に分析)して値を設定する。標準航跡Rs上にある場合の離隔補正係数βは1であり、船舶Sの離隔距離gが大きくなるにつれて1よりも大きな値になるものと推察される。勿論、進入位置によっては標準航跡Rsをショートカットするような場合もあり、そのような場合は1よりも小さな値となる。そして、第一実施形態に示した方法により予測された到着予想時間ETAに離隔補正係数βを乗じることによって到着予想時間ETAを修正する。
【0040】
上述した第一実施形態及びその変形例において、到着予想時間ETAを予測する際に、各領域A1〜A6に進入した地点から目的地Dまでの標準航行時間T1〜T6を用いていたが、図2(A)に示す第二変形例のように、標準通過時間ΔT1〜ΔT6を設定して到着予想時間ETAを予測することもできる。第一実施形態では、例えば、標準通過時間ΔT5は、標準航行時間T5と標準航行時間T4の差として算出されていたが、図2(A)に示す第二変形例では、AIS情報から予め各領域の標準通過時間ΔT1〜ΔT6を設定しておき、標準航行時間T4を標準通過時間ΔT1〜ΔT4の和として算出するようにしている。勿論、予め標準通過時間ΔT1〜ΔT6と標準航行時間T1〜T6の両方を設定しておいてもよいが、いずれか一方を予め設定しておけば、他方は計算することにより算出することができる。
【0041】
また、上述した第一実施形態及びその変形例において、領域A1〜A6ごとに目的地Dからの距離に応じた影響係数αを予め設定しておき、影響係数αを用いて到着予想時間ETAを修正するようにしてもよい。この影響係数は、目的地Dに近い領域Aにおける遅延ほど到着予想時間ETAに与える影響が大きく、遠い領域Aにおける遅延ほど到着予想時間ETAに与える影響が小さいことに鑑み設定される補正係数である。ある領域Aにおける遅延がそのまま到着予想時間ETAに反映される場合には1となる。そして、影響係数αが1の領域Aよりも目的地Dに近い場合には1より大きな値となり、影響係数αが1の領域Aよりも目的地Dに遠い場合には1より小さな値となる。ただし、複数の航路が輻輳する合流点等においては、到着予想時間ETAに与える影響が大きいため、部分的に影響係数を1よりも大きな値に設定するようにしてもよい。この影響係数αは、例えば、過去の船舶のAIS情報から統計的に分析して設定するようにしてもよい。
【0042】
次に、上述した第一実施形態の第一変形例に関する船舶動静予測システムについて説明する。ここで、図4は、図1(B)に示した第一実施形態の第一変形例に関する船舶動静予測システムを示す構成図である。
【0043】
図4に示した本発明の船舶動静予測システムは、船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶Sから送信されるAIS情報を受信して船舶Sの動静を予測する船舶動静予測システムであって、AIS情報を受信するとともに電気通信回線41により配信可能な受信局装置42と、受信局装置42と電気通信回線41を介して接続された処理装置43と、を備え、処理装置43は、AIS受信情報を記憶してAISデータベース44を構築し、船舶Sが所定の目的地まで航行する海域を複数の領域A1〜A6に区画し、AIS情報を用いて領域A1〜A6ごとに標準航行情報45dを作成して標準航行データベース45を構築し、AIS情報を用いて標準航行情報45dを所定の条件で修正する補正テーブル46dを作成して補正データベース46を構築し、AIS情報により船舶Sの進入領域A4を検出し、進入領域A4に対応した標準航行情報45d及び補正テーブル46dを用いて船舶Sの目的地Dまでの到着予想時間ETAを算出することを特徴とする。
【0044】
前記電気通信回線41は、通信プロトコルTCP/IPを用いて種々の通信回線(電話回線、ISDN回線、ADSL回線等の公衆回線、専用回線、無線通信網)を相互に接続して構築される分散型のIP網であり、このIP網には、10BASE−Tや100BASE−TX等によるイントラネット(企業内ネットワーク)や家庭内ネットワーク等のLANも含まれる。この電気通信回線41には、図4に示すように、サーバー端末、パソコン端末、携帯電話端末等の種々の端末機器47が接続されていてもよい。
【0045】
前記受信局装置42は、図示しないが、アンテナとAIS信号受信機とコンピュータとから構成されているのが一般的である。アンテナは、AIS受信アンテナ及びGPS受信アンテナの機能を有し、一体型であっても分離型であってもよい。AIS信号受信機は、アンテナが受信したAIS情報を下流のシステムで利用できるようにデータ処理する機能を有する。以下、このAIS信号受信機よりも下流側のAIS情報を「AIS受信データ」と称することとする。コンピュータは、AIS信号受信機から送られてくるAIS受信データを処理装置43にリアルタイム送信するとともに、通信障害時のデータバックアップのためのローカルデータベースを構築するための装置である。また、このコンピュータでは、AIS受信データに配信日時情報が欠落している場合やデコードしなければ配信日時を判読できない場合に備えて、AIS受信局装置側でAIS受信データに受信日時を付与するようにしてもよい。なお、受信局装置42は、到着予想時間ETAの予想に必要な海域をカバーできるように配置されていればよく、1台であっても複数台であってもよい。勿論、衛星等を利用してグローバルにAIS情報を受信できるようにしたロングレンジAIS受信局装置であってもよい。
【0046】
前記処理装置43は、CPU(中央処理装置)、RAM、ROM、ハードディスク等の記憶装置、キーボード等の入力装置及びディスプレイ等の出力装置を備えている。記憶装置には、AISデータベース44、標準航行データベース45、補正データベース46、各データベース44,45,46を構築するプログラム、到着予想時間ETAを算出するためのプログラム等が記憶・保存されており、所定のプログラムをCPUで実行することにより、各データベース44,45,46を構築したり、到着予想時間ETAを算出したり、予測した到着予想時間ETAを出力したりしている。ここでは、1台の処理装置43しか図示していないが、複数(例えば、データベースごと)の処理装置43を配置して機能分担するようにしてもよい。なお、各データベース44,45,46を記憶する記憶装置は、処理装置43に外付けされた又は電気通信回線41を介して接続された記憶媒体であってもよい。
【0047】
前記AISデータベース44は、受信局装置42から配信されるAIS受信データをデータベース化して蓄積したものである。データベース化の際はいわゆるリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)を用いる。このAISデータベース44は、標準航行データベース45や補正データベース46の基礎となるデータベースであり、AIS情報の受信可能な範囲内における船舶の全てのAIS情報が集約されたデータベースである。また、AISデータベース44を構築する際に、本願発明者らが提案した発明(特許第3882025号)を利用して、AIS受信データ取得時における同一船舶のAIS受信データの結合をすることなく記憶させ、データ使用時に重複したデータを排除するようにしてもよい。かかる発明を利用することによって、データ蓄積時のデータ処理を大幅に軽減し、システムの簡便化や処理の高速化を達成することができる。
【0048】
また、処理装置43は、AISデータベース44とは別にデータベース化された船舶情報マスターデータベース(図示せず)に接続されていてもよい。船舶情報マスターデータベースは、AISデータベース44と同様に処理装置43のハードディスクに記憶されていてもよいし、電気通信回線41を介して接続された外部のコンピュータに記憶されたデータベースであってもよい。この船舶情報マスターデータベースは、船舶から送信されるAIS情報の静的情報には必ずしも全てのデータが入力されているとは限らないこと及びAIS情報では取得できない情報が必要な場合があることを考慮し、AIS受信データを補充するために用いられる。
【0049】
前記標準航行データベース45は、AISデータベース44のAIS受信データを所定の条件で抽出し、必要な場合には所定の計算を行って作成された標準航行情報45dをデータベース化して蓄積したものである。標準航行データベース45は、例えば、図4に示すように、船舶の種類や規模に応じて領域A1〜A6ごとに標準航行時間T1〜T6を記憶している。ここでは、船種がコンテナ船で、総トン数が9万〜10万トンの場合のおける標準航行情報45dのテーブルを図示している。このテーブルは、船種ごとに作成してもよいし、総トン数ごとに作成してもよい。また、船種としては、コンテナ船、タンカー、客船、自動車専用船、バルクキャリア、貨物船、LNG船等が考えられる。また、船舶の規模は総トン数の他に船の長さを用いて判断することもできる。第一実施形態において、標準航行時間T1〜T6は、各領域A1〜A6に進入した地点から目的地Dまでの標準航行時間(又は各分割ラインL1〜L6から目的地Dまでの標準航行時間)と定義されるため、標準航行データベース45は、領域A1〜A6ごと又は分割ラインL1〜L6ごとに標準航行時間T1〜T6が設定されている。
【0050】
ここで、標準航行時間T1〜T6は、例えば、船舶Sの直前に目的地Dに到達した他船の航行時間や、過去に目的地Dに到達した複数の他船のAIS情報を分析して算出した航行時間により設定される。これらの標準航行時間T1〜T6の設定方法に基づいて、処理装置43が、AISデータベース44のAIS受信データを利用して検索・計算・分析等して標準航行時間T1〜T6を設定する。なお、標準航行時間T1〜T6の設定方法に関しては、船舶動静予測方法の説明で述べたとおりであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0051】
前記補正データベース46は、処理装置43が算出した到着予想時間ETAを、より精度が高くなるように修正するために、AIS受信データを利用して作成した補正係数(影響係数α及び離隔補正係数β)をデータベース化して蓄積したものである。補正データベース46は、例えば、図4に示すように、船舶の種類や規模に応じて領域A1〜A6ごとに影響係数α及び離隔補正係数βが設定された補正テーブル46dを有する。ここでは、船種がコンテナ船で、総トン数が9万〜10万トンの場合の補正テーブル46dを図示している。この補正テーブル46dは、船種ごとに作成してもよいし、総トン数ごとに作成してもよい。また、船種としては、コンテナ船、タンカー、客船、自動車専用船、バルクキャリア、貨物船、LNG船等が考えられる。また、船舶の規模は総トン数の他に船の長さを用いて判断することもできる。第一実施形態においては、船舶Sが各領域A1〜A6に進入した時点、すなわち、船舶Sが各分割ラインL1〜L6を越えた時点で到着予想時間ETAを算出するようにしているため、影響係数α及び離隔補正係数βは、領域A1〜A6ごと又は分割ラインL1〜L6ごとに設定されている。なお、領域影響係数α及び離隔補正係数βの設定方法に関しては、船舶動静予測方法の説明で述べたとおりであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0052】
図4に示した本発明の船舶動静予測システムを用いて、例えば、図1(B)に示した状態の船舶Sの到着予想時間ETAを算出する場合について説明する。
(1)船舶SのAIS情報が、受信局装置42及び電気通信回線41を介して処理装置43に送信される。
(2)処理装置43は、船舶SのAIS受信データをAISデータベース44に記憶するとともに、船舶Sが領域A4に進入したこと、すなわち、船舶Sが分割ラインL4を越えたことを検出する。
(3)処理装置43は、AISデータベース44のAIS受信データを利用して所定の標準航跡Rsを算出し、船舶Sの標準航跡Rsからの離隔距離gを算出し、離隔距離G2のエリアに船舶Sが進入したことを検出する。
(4)処理装置43は、AISデータベース44にアクセスし、船舶Sの通過領域A5,A6の通過時間Δt5,Δt6を算出する。
(5)処理装置43は、標準航行データベース45にアクセスし、通過領域A5,A6の標準通過時間ΔT5,ΔT6を標準航行時間T4〜T6から算出するとともに、進入領域A4の標準航行時間T4を抽出する。
(6)処理装置43は、各通過領域A5,A6の遅延時間td5,td6を、標準通過時間ΔT5,ΔT6と通過時間Δt5,Δt6とから算出し、船舶Sの遅延時間td(=Δt5+Δtd6)を算出する。
(7)処理装置43は、補正データベース46にアクセスし、領域A4における影響係数α4と離隔距離G2の離隔補正係数β42を抽出する。
(8)処理装置43は、到着予想時間ETAを、ETA=T4×β42+td×α4の計算式により算出する。
(9)処理装置43は、到着予想時間ETAを所定の媒体(ディスプレイ装置、端末機器47等)に出力する。
【0053】
上述した本発明の船舶動静予測システムによれば、海域を航行する船舶Sの目的地Dの到着予想時間ETAをリアルタイムに提供することができる。また、到着予想時間ETAを電気通信回線を通じて閲覧することができるウェブ上に表示させたり、電子メールに載せて配信したりするように出力すれば、トラックの運転手・配送業者・フェリー等の運用会社・利用客等が携帯電話端末・カーナビゲーション端末・パソコン端末・サーバー端末等の端末機器47を利用して到着予想時間ETAを容易に入手することができ、貨物ターミナルの渋滞を緩和したり、利用客の精神的苦痛を緩和したりすることができる。また、AIS情報を受信できない場合や現在の船舶の位置を確認したい場合には、到着予想時間ETAとAIS情報(船首方向、船速等)を用いて現在時刻の船舶位置を逆算することもできる。また、到着予想時間ETAと航跡のデータを処理装置43の記憶装置等に記憶しておけば、事後的に、船舶ごとの遅延傾向を把握したり、船長や船員の熟練度を把握したり、船長や船員の操舵技術向上のための教材として利用したりすることもできる。
【0054】
次に、本発明に係る船舶動静予測方法の第二実施形態について説明する。ここで、図5は、本発明に係る船舶動静予測方法の第二実施形態を示す図であり、(A)は基本例、(B)は第一変形例である。また、図6は、第二実施形態の変形例を示す図であり、(A)は第二変形例、(B)は第三変形例である。なお、第二実施形態において、第一実施形態と重複する内容については説明を省略する。
【0055】
図5(A)に示すように、本発明の船舶動静予測方法の第二実施形態は、船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶Sから送信されるAIS情報を受信して船舶Sの動静を予測する船舶動静予測方法であって、船舶Sが目的地Dまで航行する海域(港湾1)を複数の領域A(例えば、A1〜A11)に区画し、領域Aごとに標準通過時間ΔT(例えば、ΔT1〜ΔT11)を設定し、前記AIS情報により船舶Sが進入した進入領域(例えば、A7)を検出し、AIS情報により進入領域から目的地Dまでの予定通過領域(例えば、A1〜A7)における他の船舶(例えば、Sd,S1,S2,S3,S5)の航行に要した通過時間Δtを算出し、通過時間Δtと標準通過時間ΔTとから予定通過領域ごとの遅延係数γを算出し、遅延係数γにより船舶Sの進入領域における標準航行時間T(標準通過時間ΔTの和)を修正して目的地Dまでの到着予想時間ETAを予測する、ことを特徴とする。
【0056】
かかる第二実施形態は、自己の船舶Sの遅延時間tdではなく、先行する他船Sd,S1,S2,S3,S5の遅延係数γにより、船舶Sの到着予想時間ETAを予測することを主たる特徴とする。このように他船の遅延状況を参酌して自己の船舶Sの到着予想時間ETAを予測することにより、目的地Dまでの航路上における直前の気象条件、視程、輻輳度等を到着予想時間ETAに反映させることができる。なお、ここでは、領域Aの区画方法を標準航跡Rsに沿ってセル状に分割する方式(セル分割方式と称する。)を採用している。
【0057】
各領域Aのセルの大きさは任意であるが、例えば、過去に目的地Dに到着した船舶のAIS情報を統計的に分析し、正規分布に表した時の±3σの範囲となるようにセルの幅を設定すればよい。このとき、船舶の種類や規模ごとに応じてセルの形状を変えるようにしてもよいし、全ての船舶のAIS情報を用いて全種類の船舶に共通したセルの形状を設定するようにしてもよい。図5(A)に示した基本例では、セルは長方形の形状をなして一定の方向に整列しており、各セルの中心が標準航跡Rsに沿うように領域A1〜A11が設定されている。また、このセルは、図5(B)に示した第一変形例のように、標準航跡Rsの進行方向に沿って整列した矩形形状であってもよい。この場合、標準航跡Rsの直線部におけるセルの形状は長方形とし、カーブ部におけるセルの形状は台形となるように設定される。
【0058】
本第二実施形態では、船舶SのAIS情報による検出位置が、どのセル(領域A1〜A11)に存在しているか否かを判断し、船舶Sが各領域A1〜A11において最初に検出された時点で当該領域に進入したものと判断するようになっている。すなわち、図5(A)に示した状態では、領域A7内において船舶Sが最初に検出された時点で領域A7が進入領域A7として設定される。進入領域A7が定まると、目的地Dまでの予定通過領域A1〜A7が定まる。したがって、船舶Sの標準航行時間Tは、標準通過時間ΔT1〜ΔT7の和として算出することができる。なお、ここでは、領域A1〜A11ごとに標準通過時間ΔT1〜ΔT11を設定する場合について説明したが、領域A1〜A11ごとに標準航行時間T1〜T11を設定しておき、領域A1〜A11ごとの標準通過時間ΔT1〜ΔT11を標準航行時間T1〜T11から算出するようにしてもよい。例えば、進入領域A7における標準通過時間ΔT7は、ΔT7=T7−T6の計算式により算出される。
【0059】
予定通過領域A1〜A7が定まった後、各予定通過領域A1〜A7の遅延係数γを算出する。例えば、図5(A)に示すように、領域A1に他船Sd,S1、領域A2に他船S2、領域A3に他船S3、領域A5に他船S5が存在していたと仮定する。なお、他船Sdは既に目的地Dに到着している船舶である。まず、船舶Sの直前に各予定通過領域A1〜A7を通過した船舶を特定する。領域A1については他船Sd、領域A2については他船S1、領域A3については他船S2、領域A4については他船S3、領域A6については他船S5とすぐに特定することができる。ここで、領域A5,A7については、目的地D側の隣接する領域A4,A6に他船が存在しない。このような場合、領域A5,A7を直前に通過した他船、すなわち、他船S3,S5を直前に通過した船舶として選択する方法、目的地Dに到着した船舶Sdを直前に通過した船舶として選択する方法、直前に通過した船舶が存在しないとして処理する方法等が考えられる。
【0060】
次に、船舶Sの先行する他船Sd,S1,S2,S3,S5を特定した後、各予定通過領域A1〜A7の通過時間Δt1〜Δt7を算出する。通過時間Δt1〜Δt7は、各他船Sd,S1,S2,S3,S5のAIS情報から容易に算出することができる。ここで、「直前に通過した船舶が存在しない」場合には標準通過時間ΔTを通過時間Δtとして代用する。そして、遅延係数γは、各通過時間Δt1〜Δt7の各標準通過時間ΔT1〜ΔT7に対する比率、すなわち、γ=Δt/ΔTの計算式により算出される。例えば、他船S5が予定通過領域A6の通過時間Δt6が標準通過時間ΔT6の2倍の時間を要したとすると、γ6=2.0として設定される。なお、通過時間Δtに標準通過時間ΔTを代用した場合の遅延係数γは、γ=1.0に設定される。
【0061】
船舶Sの到着予想時間ETAは、ETA=ΔT1×γ1+ΔT2×γ2+ΔT3×γ3+ΔT4×γ4+ΔT5×γ5+ΔT6×γ6+ΔT7×γ7の計算式により算出される。なお、遅延係数γに替えて、第一実施形態と同様に各予定通過領域A1〜A7における他船Sd,S1,S2,S3,S5の遅延時間td1〜td7を算出して到着予想時間ETAを算出することもできる。この場合、船舶Sの到着予想時間ETAは、ETA=ΔT1+td1+ΔT2+td2+ΔT3+td3+ΔT4+td4+ΔT5+td5+ΔT6+td6+ΔT7+td7の計算式により算出される。
【0062】
次に、上述した第二実施形態の第二変形例及び第三変形例について説明する。図6(A)及び図6(B)に示した変形例は、領域A1〜A11ごとに標準航跡Rsからの離隔距離G(例えば、G1〜G3)に応じた離隔補正係数βを設定し、船舶SのAIS情報により進入領域A7における標準航跡Rsからの離隔距離gを算出し、離隔距離gに応じた離隔補正係数βに基づいて到着予想時間ETAを修正するようにしたものである。ここで、図6(A)は、図5(A)に示した第二実施形態の基本例に離隔補正係数βを導入した変形例であり、図6(B)は、図5(B)に示した第二実施形態の第一変形例に離隔補正係数βを導入した変形例である。離隔補正係数βに関しては、第一実施形態の説明で述べたとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0063】
さらに、上述した第二実施形態及びその変形例において、領域A1〜A11ごとに目的地Dからの距離に応じた影響係数αを予め設定しておき、影響係数αを用いて到着予想時間ETAを修正するようにしてもよい。影響係数αに関しては、第一実施形態の説明で述べたとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0064】
次に、上述した第二実施形態に関する船舶動静予測システムについて説明する。ここで、図7は、図6(A)に示した第二実施形態の第二変形例に関する船舶動静予測システムを示す構成図である。なお、図4に示した船舶動静予測システムと同じ部分には同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0065】
図7に示した本発明の船舶動静予測システムは、船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶Sから送信されるAIS情報を受信して船舶Sの動静を予測する船舶動静予測システムであって、AIS情報を受信するとともに電気通信回線41により配信可能な受信局装置42と、受信局装置42と電気通信回線41を介して接続された処理装置43と、を備え、処理装置43は、AIS情報を記憶してAISデータベース44を構築し、船舶Sが所定の目的地まで航行する海域を複数の領域A1〜A11に区画し、AIS情報を用いて領域A1〜A11ごとに標準航行情報45dを作成して標準航行データベース45を構築し、AIS情報を用いて標準航行情報45dを所定の条件で修正する補正テーブル46dを作成して補正データベース46を構築し、AIS情報により船舶Sの進入領域A7を検出し、進入領域A7に対応した標準航行情報45d及び補正テーブル46dを用いて船舶Sの目的地Dまでの到着予想時間ETAを算出することを特徴とする。
【0066】
図7に示す標準航行データベース45の標準航行情報45dは、船種がコンテナ船で、総トン数が9万〜10万トンの場合のテーブルを図示している。標準航行情報45dのテーブルには、領域A1〜A11ごとに標準通過時間ΔT1〜ΔT11が設定されている。かかる標準通過時間ΔT1〜ΔT11は、AISデータベース44のAIS受信データにより算出される。なお、標準通過時間ΔT1〜ΔT11は、例えば、船舶Sの直前に各領域A1〜A11を通過した他船Sd,S1,S2,S3,S5の航行時間や、過去に各領域A1〜A11を通過した複数の他船のAIS情報を分析して算出した航行時間により設定される。
【0067】
図7に示す補正データベース46の補正テーブル46dは、船種がコンテナ船で、総トン数が9万〜10万トンの場合の補正テーブル46dを図示している。補正テーブル46dには、領域A1〜A11ごとに影響係数α及び離隔補正係数βが設定されている。
【0068】
図7に示した本発明の船舶動静予測システムを用いて、例えば、図6(A)に示した状態の船舶Sの到着予想時間ETAを算出する場合について説明する。
(1)船舶SのAIS情報が、受信局装置42及び電気通信回線41を介して処理装置43に送信される。
(2)処理装置43は、船舶SのAIS受信データをAISデータベース44に記憶するとともに、船舶Sが領域A7に進入したことを検出する。
(3)処理装置43は、AISデータベース44のAIS受信データを利用して所定の標準航跡Rsを算出し、船舶Sの標準航跡Rsからの離隔距離gを算出し、離隔距離G2のエリアに船舶Sが進入したことを検出する。
(4)処理装置43は、船舶Sの進入領域A7から予定通過領域A1〜A7を特定し、AISデータベース44のAIS受信データから先行する他船Sd,S1,S2,S3,S5を特定する。
(5)処理装置43は、他船Sd,S1,S2,S3,S5のAIS受信データから各予定通過領域A1〜A7の通過時間Δt1〜Δt7を算出する。
(6)処理装置43は、標準航行データベース45にアクセスし、予定通過領域A1〜A7の標準通過時間ΔT1〜ΔT7を抽出する。
(7)処理装置43は、通過時間Δt1〜Δt7と標準通過時間ΔT1〜ΔT7とから遅延係数γ1〜γ7を算出する。
(8)処理装置43は、補正データベース46にアクセスし、予定通過領域A1〜A7の影響係数α1〜α7と、進入領域A7における離隔距離G2の離隔補正係数β72を抽出する。
(9)処理装置43は、到着予想時間ETAを、ETA=ΔT1×γ1×α1+ΔT2×γ2×α2+ΔT3×γ3×α3+ΔT4×γ4×α4+ΔT5×γ5×α5+ΔT6×γ6×α6+ΔT7×γ7×α7×β72の計算式により算出する。
(10)処理装置43は、到着予想時間ETAを所定の媒体(ディスプレイ装置、端末機器47等)に出力する。
【0069】
上述した到着予想時間ETAの算出に際し、過去のAIS受信データを分析することにより、例えば、進入領域A7の離隔距離G2のエリアに進入した船舶Sは、次の領域A6において離隔距離G1のエリアに進入する傾向が高い場合には、ETA=ΔT1×γ1×α1+ΔT2×γ2×α2+ΔT3×γ3×α3+ΔT4×γ4×α4+ΔT5×γ5×α5+ΔT6×γ6×α6×β61+ΔT7×γ7×α7×β72の計算式により到着予想時間ETAを算出するようにしてもよい。
【0070】
次に、本発明に係る船舶動静予測方法の第三実施形態について説明する。ここで、図8は、本発明に係る船舶動静予測方法の第三実施形態を示す図である。また、図9は、第三実施形態の変形例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例を示している。
【0071】
図8に示すように、本発明の船舶動静予測方法の第三実施形態は、船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶から送信されるAIS情報を受信して該船舶の動静を予測する船舶動静予測方法であって、船舶Sが所定の目的地Dまで航行する海域を複数の領域A(例えば、A1〜A169)に区画し、領域Aごとに目的地Dまでの標準航行時間T(例えば、T1〜T169)を設定し、各領域Aに生じた遅延事象と各領域Aに存在する船舶の目的地Dまでの航行時間tとの相関関係をAIS情報により分析して領域Aごとに相関係数δを設定し、AIS情報により船舶Sが進入した進入領域(例えば、A56)を検出し、AIS情報により遅延事象が生じている遅延領域(例えば、A37,A59,A86,A116,A140)を検出し、遅延領域における標準状態と遅延状態とから遅延率εを算出し、相関係数δ及び遅延率εを用いて進入領域の標準航行時間T(例えば、T56)を修正して目的地Dまでの到着予想時間ETAを予測することを特徴とする。
【0072】
かかる第三実施形態は、海域全体をメッシュ状に区画し、各領域A1〜A169に生じた遅延事象と各領域A1〜A169に存在する船舶の目的地Dまでの航行時間tとの相関関係をAIS情報により分析して領域A1〜A169ごとに相関係数δを設定した点に主たる特徴がある。なお、図8に示す第三実施形態において、海域を日本周辺の海域としたが、本願発明者らが提案した発明(特許第3882025号)を利用すれば、広域のAIS情報を容易に取得することができ、より広い海域を対象とすることもできる。また、衛星等を利用して広域のAIS情報を入手するようにしてもよい。
【0073】
遅延事象は、例えば、各領域A1〜A169内に存在する船舶の船速により把握することができる。また、各領域A1〜A169内に存在する船舶の密度を考慮して把握するようにしてもよい。遅延事象には、気象条件、視程、輻輳度等の種々の原因があり、これらの遅延事象が複雑に絡み合って船舶に遅延が生ずる。従来、これらの遅延事象の原因を突き止め、原因ごとに船舶の遅延時間を突き止めようとするのが一般的であるが、遅延事象ごとに観測システムを設置しなければならなかったり、広域の観測や予測が困難であったり、各遅延事象の相互の影響度を予測することは非常に困難であった。そこで、具体的な遅延事象を突き止めるのではなく、AIS情報により入手容易な船速、船舶密度等の情報を用いて、遅延が生じている事実のみを把握しようとしたのが本発明である。
【0074】
例えば、船速により遅延事象を把握するためには、複数の船舶のAIS情報を入手し、平均又は統計的に分析して標準船速を設定しておき、標準船速から現在の船舶の船速がどの程度遅くなっているかを把握するようにすればよい。また、各領域A1〜A169内に存在する船舶の隻数(船舶密度)から遅延事象を把握するようにしてもよい。遅延事象の原因(台風等)の影響により船舶が航行を避けている場合があるためである。この場合には、AIS情報を利用して領域A1〜A169ごとに標準船舶密度を算出しておき、船舶密度の低減を監視することで遅延事象を把握することができる。なお、本発明は、遅延事象の原因を突き止めるものではなく、各領域A1〜A169の遅延事象が、ある状態の時に船舶Sの航行時間にどの程度の影響を与えるのかを統計的手法により求めるものであるため、上述した遅延事象には、標準航行状態よりも船速が早くなっている場合や船舶密度が増加している場合も含まれる。
【0075】
ここで、図8の領域A56内に存在する船舶Sが、目的地Dに至る航行時間に領域A140内で発生した遅延事象が与える影響について説明する。いま、領域A140に台風が存在して北東に進行していると仮定する。船舶Sが、領域A86の領域周辺まで航行する間に、台風も領域A86の周辺まで北上するため、船舶Sは領域A86の周辺で台風の影響を受けることとなる。そこで、船舶Sは、この台風を回避する等の対処が必要となり、目的地Dへの到着時間が大幅に遅延することとなる。すなわち、領域A56とは一見何も関係の無いように見える領域A140の遅延事象が、実は領域A56内に存在する船舶Sの到着時間に大きく影響することがあるのである。本発明は、領域A140の台風等の存在を気象データから把握するのではなく、上述したように領域A140を航行している船舶の遅延事象から把握するものである。
【0076】
各領域A1〜A169の標準航行時間T1〜T169は、第一実施形態の標準航行時間と同様にしてAIS情報から算出することができる。各領域A1〜A169に存在する船舶の目的地Dまでの航行時間tもAIS情報により算出することができる。そして、遅延事象も上述したようにAIS情報から把握することができる。例えば、図7に示すように、領域A56に船舶Sが進入したとする。このとき、遅延事象が生じている遅延領域(すなわち、船速が標準船速よりも遅くなっている領域)が網掛した領域A37,A59,A86,A116,A140であったとする。そして、領域A56に進入した船舶Sが目的地Dに到着した時の遅延時間tdを、航行時間t56と標準航行時間T56とを比較することにより算出する。この作業を全ての船舶及び全ての領域A1〜A169について行い、データを蓄積して統計的に分析することによって各領域A1〜A169に対する各領域A1〜A169の相関係数δ1〜δ169を設定する。なお、遅延事象が生じていない領域における相関係数δは0に設定される。この相関係数δは、船舶の種類や規模に応じて設定してもよい。
【0077】
このように、相関係数δを設定すれば、船舶Sの進入領域と、その時点において遅延事象が生じている遅延領域とをAIS情報により検出することにより、相関係数δを用いて容易に到着予想時間ETAを算出することができる。また、到着予想時間ETAには、各領域間の相関係数δのみならず、遅延領域においてどの程度の遅延が生じているのかという事実も影響する。そこで、遅延領域における遅延率εを標準状態と遅延状態とから算出する必要がある。例えば、船速により遅延率εを算出する場合には、遅延領域における船速(遅延速度v)と標準船速Vとから、ε=(遅延速度v/標準船速V)−1の計算式により遅延率εを算出する。ここで、標準船速Vは、各領域A1〜A169を過去に通過した船舶のAIS情報により算出した平均船速又は統計的処理を施した船速である。また、遅延速度vは、各領域A1〜A169内に存在する船舶のAIS情報により算出した現在の平均船速又は統計的処理を施した船速である。また、遅延率εは、前記計算式に限られるものではなく、到着予想時間ETAの算出に適した計算式に変形してもよい。例えば、ε=遅延速度v/標準船速Vにより設定してもよいし、対数を取るようにしてもよいし、逆数にするようにしてもよい。なお、遅延率εは、船舶密度により算出するようにしてもよく、例えば、遅延領域における現在の船舶密度(現在密度)とAIS情報から算出した標準船舶密度(標準密度)とから、ε=(現在密度/標準密度)+1、ε=(標準密度/現在密度)−1、等の計算式により算出するようにしてもよい。
【0078】
また、図8に示したように、海域全体を複数の領域に区画する替わりに、経験的に遅延事象が発生する領域が判断できる場合や統計的に遅延事象が発生する領域が限定される場合には、図9(A)に示す第一変形例のように、部分的に領域A1〜A4を区画するようにしてもよい。したがって、ここでは、船舶Sの進入領域を検出する対象船舶観測領域及び遅延事象を検出する遅延観測領域が、領域A1〜A4に設定される。この場合、区画した領域の個数により、到着予想時間ETAを更新する頻度が設定されてしまう。そこで、図9(B)に示す第二変形例のように、船舶Sの進入領域を検出する対象船舶観測領域P1〜P5と遅延事象を検出する遅延観測領域Q1〜Q3とを別々に設定するようにしてもよい。この場合、対象船舶観測領域P1〜P5の個数を遅延観測領域Q1〜Q3よりも多く設定したり、対象船舶観測領域P1〜P5を目的地Dまで連なるように設定したりすることにより、到着予想時間ETAを更新する頻度を任意に設定することができる。
【0079】
次に、上述した第三実施形態に関する船舶動静予測システムについて説明する。ここで、図10は、図8に示した第三実施形態に関する船舶動静予測システムを示す構成図である。なお、図4に示した船舶動静予測システムと同じ部分には同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0080】
図10に示した本発明の船舶動静予測システムは、船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶Sから送信されるAIS情報を受信して船舶Sの動静を予測する船舶動静予測システムであって、AIS情報を受信するとともに電気通信回線41により配信可能な受信局装置42と、受信局装置42と電気通信回線41を介して接続された処理装置43と、を備え、処理装置43は、AIS情報を記憶してAISデータベース44を構築し、船舶Sが所定の目的地Dまで航行する海域を複数の領域A1〜A169に区画し、AIS情報を用いて領域A1〜A169ごとに標準航行情報45dを作成して標準航行データベース45を構築し、AIS情報を用いて標準航行情報45dを所定の条件で修正する補正テーブル46dを作成して補正データベース46を構築し、AIS情報により船舶Sの進入領域A56を検出し、進入領域A56に対応した標準航行情報45d及び補正テーブル46dを用いて船舶Sの目的地Dまでの到着予想時間ETAを算出することを特徴とする。
【0081】
図10に示す標準航行データベース45の標準航行情報45dは、船種がコンテナ船で、総トン数が9万〜10万トンの場合のテーブルを図示している。標準航行情報45dのテーブルには、領域A1〜A169ごとに標準航行時間T1〜T169及び標準船速V1〜V169が設定されている。かかる標準航行時間T1〜T169及び標準船速V1〜V169は、AISデータベース44のAIS受信データにより算出される。なお、標準航行時間T1〜T169は、例えば、船舶Sの直前に各領域A1〜A169を通過した他船の航行時間や、過去に各領域A1〜A169を通過した複数の他船のAIS情報を分析して算出した航行時間により設定される。
【0082】
図10に示す補正データベース46の補正テーブル46dは、船種がコンテナ船で、総トン数が9万〜10万トンの場合の補正テーブル46dを図示している。補正テーブル46dには、対象船舶観測領域A1〜A169及び遅延観測領域A1〜A169ごとに補正係数δ11〜δ169169が設定されている。
【0083】
図10に示した本発明の船舶動静予測システムを用いて、例えば、図8に示した状態の船舶Sの到着予想時間ETAを算出する場合について説明する。
(1)船舶Sを含む各領域A1〜A169に存在する船舶のAIS情報が、受信局装置42及び電気通信回線41を介して処理装置43に送信される。
(2)処理装置43は、各船舶のAIS受信データをAISデータベース44に記憶するとともに、船舶Sが領域A56に進入したことを検出する。
(3)処理装置43は、遅延事象が発生している遅延領域A37,A59,A86,A116,A140を検出する。
(4)処理装置43は、標準航行データベース45にアクセスし、進入領域A56から目的地Dまでの標準航行時間T56及び標準船速V37,V59,V86,V116,V140を抽出する。
(5)処理装置43は、補正データベース46にアクセスし、進入領域A56に対する遅延領域A37,A59,A86,A116,A140の相関係数δ3756,δ5956,δ8656,δ11656,δ14056を抽出する。
(6)処理装置43は、AISデータベース44にアクセスし、遅延領域A37,A59,A86,A116,A140における遅延船速v37,v59,v86,v116,v140を抽出し、標準船速V37,V59,V86,V116,V140とから、遅延率ε37,ε59,ε86,ε116,ε140を算出する。
(7)処理装置43は、到着予想時間ETAを、ETA=T56×δ3756×ε37×δ5956×ε59×δ8656×ε86×δ11656×ε116×δ14056×ε140の計算式により算出する。
(8)処理装置43は、到着予想時間ETAを所定の媒体(ディスプレイ装置、端末機器47等)に出力する。
【0084】
上述した到着予想時間ETAの算出に際し、計算式は上述したものに限られず、例えば、ETA=T56×(1+δ3756×ε37+δ5956×ε59+δ8656×ε86+δ11656×ε116+δ14056×ε140)であってもよいし、ETA=T56×(1+δ3756×ε37)×(1+δ5956×ε59)×(1+δ8656×ε86)×(1+δ11656×ε116)×(1+δ14056×ε140)であってもよい。
【0085】
本発明は上述した実施形態に限定されず、各実施形態において領域の区画方法は任意であり、ライン分割方式(第一実施形態)、セル分割方式(第二実施形態)又はメッシュ分割方式(第三実施形態)のいずれを選択して適用してもよい、到着予想時間ETAが航行計画の予定時間よりも短い場合には航行途中に時間調整が入ることを想定して「予定どおり」の表示を出力するようにしてもよい等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係る船舶動静予測方法の第一実施形態を示す図であり、(A)は基本例、(B)は第一変形例である。
【図2】図1(A)に示した第一実施形態の変形例を示す図であり、(C)は第二変形例、(D)は第三変形例である。
【図3】離隔補正係数の設定方法を示す図であり、(A)は分割ラインL4の場合、(B)は分割ラインL3の場合を示している。
【図4】図1(B)に示した第一実施形態の第一変形例に関する船舶動静予測システムを示す構成図である。
【図5】本発明に係る船舶動静予測方法の第二実施形態を示す図であり、(A)は基本例、(B)は第一変形例である。
【図6】第二実施形態の変形例を示す図であり、(A)は第二変形例、(B)は第三変形例である。
【図7】図6(A)に示した第二実施形態の第二変形例に関する船舶動静予測システムを示す構成図である。
【図8】本発明に係る船舶動静予測方法の第三実施形態を示す図である。
【図9】第三実施形態の変形例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例を示している。
【図10】図8に示した第三実施形態に関する船舶動静予測システムを示す構成図である。
【符号の説明】
【0087】
1 港湾
21 沿岸部
41 電気通信回線
42 受信局装置
43 処理装置
44 AISデータベース
45 標準航行データベース
45d 標準航行情報
46 補正データベース
46d 補正テーブル
47 端末機器
S 船舶
A 領域
P 遅延観測領域
Q 対象船舶観測領域
L 分割ライン
T 標準航行時間
ΔT 標準通過時間
t 航行時間
Δt 通過時間
Rs 標準航跡
R 航跡
G,g 離隔距離
V 標準船速
v 船速
α 影響係数
β 離隔補正係数
γ 遅延係数
δ 相関係数
ε 遅延率


【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶から送信されるAIS情報を受信して該船舶の動静を予測する船舶動静予測方法であって、
前記船舶が所定の目的地まで航行する海域を複数の領域に区画し、
該領域ごとに前記目的地までの標準航行時間を設定し、
前記AIS情報により前記船舶が進入した進入領域を検出し、
前記AIS情報により前記船舶が前記進入領域の前に通過した通過領域の航行に要した通過時間を算出し、
該通過時間と前記標準航行時間とから前記通過領域の遅延時間又は遅延係数を算出し、
該遅延時間又は遅延係数により前記船舶の前記進入領域における標準航行時間を修正して前記目的地までの到着予想時間を予測する、
ことを特徴とする船舶動静予測方法。
【請求項2】
船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶から送信されるAIS情報を受信して該船舶の動静を予測する船舶動静予測方法であって、
前記船舶が所定の目的地まで航行する海域を複数の領域に区画し、
該領域ごとに前記目的地までの標準航行時間を設定し、
前記AIS情報により前記船舶が進入した進入領域を検出し、
前記AIS情報により前記進入領域から前記目的地までの予定通過領域における他の船舶の航行に要した通過時間を算出し、
該通過時間と前記標準航行時間とから前記予定通過領域ごとの遅延時間又は遅延係数を算出し、
該遅延時間又は遅延係数により前記船舶の前記進入領域における標準航行時間を修正して前記目的地までの到着予想時間を予測する、
ことを特徴とする船舶動静予測方法。
【請求項3】
前記領域は、前記目的地に向かって複数の分割ラインにより区画されている、又は前記船舶の標準航跡に沿ってセル状に分割されている、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船舶動静予測方法。
【請求項4】
前記標準航行時間に替えて、各領域の通過に要する標準通過時間を設定した、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船舶動静予測方法。
【請求項5】
前記標準通過時間は、直前に各領域を通過した他船の通過時間、又は過去に各領域を通過した複数の他船のAIS情報を分析して算出した航行時間である、ことを特徴とする請求項4に記載の船舶動静予測方法。
【請求項6】
前記船舶が前記目的地まで航行する際の標準航跡を設定し、前記領域ごとに該標準航跡からの離隔距離に応じた離隔補正係数を設定し、前記AIS情報により前記船舶の前記進入領域における前記標準航跡からの離隔距離を算出し、該離隔距離に応じた前記離隔補正係数に基づいて前記到着予想時間を修正する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船舶動静予測方法。
【請求項7】
前記標準航跡は、直前に各領域を通過した若しくは前記目的地に到達した他船の航跡、又は過去に各領域を通過若しくは前記目的地に到達した複数の他船のAIS情報を分析して算出した航跡である、ことを特徴とする請求項6に記載の船舶動静予測方法。
【請求項8】
前記標準航跡は、前記船舶の種類、規模又はそれらの組み合わせごとに設定されている、ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の船舶動静予測方法。
【請求項9】
前記領域ごとに前記目的地からの距離に応じた影響係数を予め設定しておき、該影響係数を用いて前記到着予想時間を修正する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船舶動静予測方法。
【請求項10】
船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶から送信されるAIS情報を受信して該船舶の動静を予測する船舶動静予測方法であって、
前記船舶が所定の目的地まで航行する海域を複数の領域に区画し、
該領域ごとに前記目的地までの標準航行時間を設定し、
各領域に生じた遅延事象と各領域に存在する船舶の前記目的地までの航行時間との相関関係を前記AIS情報により分析して前記領域ごとに相関係数を設定し、
前記AIS情報により前記船舶が進入した進入領域を検出し、
前記AIS情報により遅延事象が生じている遅延領域を検出し、
該遅延領域における標準状態と遅延状態とから遅延率を算出し、
該遅延率及び前記相関係数を用いて前記進入領域の標準航行時間を修正して前記目的地までの到着予想時間を予測する、
ことを特徴とする船舶動静予測方法。
【請求項11】
前記領域は、メッシュ状に区画されている又は部分的に区画されている、ことを特徴とする請求項10に記載の船舶動静予測方法。
【請求項12】
前記領域は、遅延事象を観測するための遅延観測領域と、前記到着予想時間を予測する船舶を検出するための対象船舶検出領域とを有する、ことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の船舶動静予測方法。
【請求項13】
前記相関係数は、船舶の種類、規模又はそれらの組み合わせごとに設定されている、ことを特徴とする請求項10に記載の船舶動静予測方法。
【請求項14】
前記遅延事象は、各領域内に存在する船舶の船速、密度又はそれらの組み合わせにより検出する、ことを特徴とする請求項10に記載の船舶動静予測方法。
【請求項15】
前記遅延率は、前記遅延領域における標準船速又は標準密度と前記遅延領域における現在の船速又は密度の比により算出される、ことを特徴とする請求項10に記載の船舶動静予測方法。
【請求項16】
前記標準航行時間は、直前に前記目的地に到達した他船の航行時間又は過去に前記目的地に到達した複数の他船のAIS情報を分析して算出した航行時間である、ことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項10のいずれかに記載の船舶動静予測方法。
【請求項17】
前記標準航行時間は、船舶の種類、規模又はそれらの組み合わせごとに設定されている、ことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項10又は請求項16のいずれかに記載の船舶動静予測方法。
【請求項18】
前記到着予想時間を用いて前記目的地の到着時刻又は現在時刻における船舶位置を予測する、ことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項10のいずれかに記載の船舶動静予測方法。
【請求項19】
船舶自動識別装置(AIS)を搭載した船舶から送信されるAIS情報を受信して該船舶の動静を予測する船舶動静予測システムであって、
前記AIS情報を受信するとともに電気通信回線により配信可能な受信局装置と、該受信局装置と電気通信回線を介して接続された処理装置と、を備え、
前記処理装置は、前記AIS情報を記憶してAISデータベースを構築し、前記船舶が所定の目的地まで航行する海域を複数の領域に区画し、前記AIS情報を用いて前記領域ごとに標準航行情報を作成して前記標準航行データベースを構築し、前記AIS情報を用いて前記標準航行情報を所定の条件で修正する補正テーブルを作成して前記補正データベースを構築し、前記AIS情報により前記船舶の進入領域を検出し、該進入領域に対応した前記標準航行情報及び前記補正テーブルを用いて前記船舶の前記目的地までの到着予想時間を算出する、ことを特徴とする船舶動静予測システム。
【請求項20】
前記標準航行情報は、前記領域ごとに設定された前記目的地までの標準航行時間又は前記領域ごとに設定された各領域の通過に要する標準通過時間を含む、ことを特徴とする請求項19に記載の船舶動静予測システム。
【請求項21】
前記補正テーブルは、前記領域ごとに設定された前記進入領域における前記船舶の標準航跡からの離隔距離に応じて設定された離隔補正係数又は前記領域ごとに前記目的地からの距離に応じて設定された影響係数を含む、ことを特徴とする請求項19に記載の船舶動静予測システム。
【請求項22】
前記補正テーブルは、ある領域に生じた遅延事象と各領域に存在する船舶の前記目的地までの航行時間との相関関係を前記AIS情報により分析して前記領域ごとに設定した相関係数を含み、前記処理装置は、前記AIS情報により各領域における遅延事象を検出し、前記相関係数を用いて前記到着予想時間を算出する、ことを特徴とする請求項19に記載の船舶動静予測システム。
【請求項23】
前記標準航行データベース及び前記補正データベースは、船舶の種類、船舶の規模又はそれらの組み合わせごとに分類されている、ことを特徴とする請求項19に記載の船舶動静予測システム。
【請求項24】
前記処理装置は、前記到着予想時間を電気通信回線に接続された端末機器から入手し得る状態に出力する、ことを特徴とする請求項19に記載の船舶動静予測システム。
【請求項25】
前記処理装置は、前記到着予想時間を用いて前記目的地の到着時刻又は現在時刻における船舶位置を算出する、ことを特徴とする請求項19に記載の船舶動静予測システム。
【請求項26】
前記処理装置は、前記目的地の到着時刻又は現在時刻における船舶位置を電気通信回線に接続された端末機器から入手し得る状態に出力する、ことを特徴とする請求項25に記載の船舶動静予測システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−25860(P2009−25860A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185276(P2007−185276)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【特許番号】特許第4047369号(P4047369)
【特許公報発行日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(501198039)国土交通省国土技術政策総合研究所長 (23)
【出願人】(505134796)株式会社アイ・エイチ・アイ・マリン (2)
【Fターム(参考)】