説明

船舶及び船舶の保守点検方法

【課題】空気を水中に吹き出す空気吹き出しチャンバの点検又は保守が容易な船舶及び船舶の保守点検方法を提供する。
【解決手段】船舶は、船体の船首部船底から空気を吹き出して船体と海水との摩擦抵抗を低減する空気吹き出しチャンバ131P、131Sと、空気吹き出しチャンバ131P、131Sが中に設けられる水密区画室121P、121Sと、水密区画室121P、121Sに接続される水密構造のアクセストランク61P、61Sと、アクセストランク61P、61Sに出入りするための水密マンホール66P、66Sとを具備する。水密区画室121P、121Sは、喫水線DLWLより低い位置に設けられる。水密マンホール66P、66Sは喫水線DLWLより高い位置に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関し、特に摩擦抵抗低減型船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の船体に作用する摩擦抵抗を低減する一手法として、空気(気泡)を水中に吹き出して船体表面を気泡で覆う空気潤滑方法が知られている。
【0003】
特開2010−120610号公報(特許文献1)は、船底に気泡膜を形成することにより航行する船体の摩擦抵抗を低減する船体摩擦抵抗低減装置を開示している。船体摩擦抵抗低減装置は、船底の内側に配置されたエアーチャンバと、エアーチャンバを覆うように船底の内側に配置されたシーチェストとを備える。エアーチャンバに供給された空気は船底に形成された複数の空気噴出孔を通って水中に吹き出す。シーチェスト内でエアーチャンバの保守を行う場合、作業者は船底に形成された出入口を通ってシーチェストに入る。すなわち、船体摩擦抵抗低減装置を備えた船舶が水に浮いている場合、ダイバーがエアーチャンバの保守を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−120610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、空気を水中に吹き出す空気吹き出しチャンバの点検又は保守が容易な船舶及び船舶の保守点検方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0007】
本発明の一の観点による船舶は、船体(80)の船首部船底(81)から空気を吹き出して前記船体と海水との摩擦抵抗を低減する第1空気吹き出しチャンバ(131C〜132C、131P、133P、131S、133S)と、前記第1空気吹き出しチャンバが中に設けられる第1水密区画室(120C、121P、121S、122P、122S)と、前記第1水密区画室に接続される水密構造の第1アクセストランク(60C、61P、61S、62P、62S)と、前記第1アクセストランクに出入りするための第1水密マンホール(64C、66P、68P、66S、68S)とを具備する。前記第1水密区画室は、喫水線(DLWL)より低い位置に設けられる。前記第1水密マンホールは前記喫水線より高い位置に設けられる。
【0008】
第1アクセストランクが設けられるため、第1水密区画室に行くことが容易である。したがって、第1空気吹き出しチャンバの点検又は保守が容易である。第1水密マンホールが喫水線より高い位置に設けられるため、第1水密区画室が浸水した場合であっても、海水が第1アクセストランクから溢れ出ることが確実に防がれる。
【0009】
前記第1空気吹き出しチャンバと空気供給管(21P)との連接部(160)が着脱可能となっている。
【0010】
連接部が脱着可能であるため、第1空気吹き出しチャンバの点検や保守が容易である。
【0011】
上記船舶は、前記船首部船底から空気を吹き出して前記船底と海水との摩擦抵抗を低減する第2空気吹き出しチャンバ(131S、133S)と、前記第2空気吹き出しチャンバが中に設けられる第2水密区画室(121S、122S)と、前記第2水密区画室に接続される水密構造の第2アクセストランク(61S、62S)と、前記第2アクセストランクに出入りするための第2水密マンホール(66S、68S)と、前記第1水密区画室(121P、122P)と前記第2水密区画室(121S、122S)とを接続する海水流路(55)とを更に具備する。前記第1空気吹き出しチャンバは前記船首部船底の左舷部(81p)に設けられる。前記第2空気吹き出しチャンバは前記船首部船底の右舷部(81s)に設けられる。前記第2水密区画室は前記喫水線より低い位置に設けられる。前記第2水密マンホールは前記喫水線より高い位置に設けられる。前記海水流路は前記船体内の前記喫水線より低い位置に設けられる。
【0012】
前記第1水密区画室及び前記第2水密区画室のいずれか一方が浸水した場合、海水流路を通って一方から他方に海水が流れるため、船体の損傷時復元性(ダメージスタビリティ)が確保される。
【0013】
本発明の他の観点による船舶の保守点検方法は、加圧空気を船首部船底(81)の空気吹き出し部(100P、100S、100C)から吹き出して、船体(80)と海水との摩擦抵抗を低減する船舶の保守点検方法である。上記船舶の保守点検方法において、喫水線(DLWL)より上部位置に設けられた出入り口(64C、66P、68P、66S、68S)から水密区画室(125P、126P、125S、126S、125C)内に入り、前記水密区画室内にて水密区画室基部(121P、122P、121S、122S、120C)の空気吹き出し部(131C、132C、131P、133P、131S、133S)を保守点検する。
【0014】
作業者が水密区画室内にて空気吹き出し部を保守点検することができるので、保守点検作業が安全に施工できる。
【0015】
本発明の更に他の観点による船舶は、加圧空気を船首部船底(81)の空気吹き出し部(100P、100S、100C)から吹き出して、船体と海水との摩擦抵抗を低減する船舶である。上記船舶において、基部(120C、121P、122P、121S、122S)が前記空気吹き出し部を覆い、上部(60C、61P、62P、61S、62S)が船体(80)の喫水線(DLWL)より上方まで延設された空気吹き出し部(100P、100S、100C)の点検、保守用の水密区画室(125P、126P、125S、126S、125C)を設置する。
【0016】
上記船舶は、前記水密区画室の上部出入口に設置された水密マンホール(64C、66P、68P、66S、68S)を具備する。
【0017】
上記船舶において、船底左舷(81p)の空気吹き出し部(100P)、船底右舷(81s)の空気吹き出し部(100S)、及び船底中央部(81c)の空気吹き出す部(100C)のそれぞれに前記水密区画室を設置する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、空気を水中に吹き出す空気吹き出しチャンバの点検又は保守が容易な船舶及び船舶の保守点検方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1Aは、本発明の第1の実施形態に係る船舶の側面図である。
【図1B】図1Bは、船舶の底面図である。
【図2】図2は、船舶が備える空気潤滑システムの海水配管の概略系統図である。
【図3】図3は、船舶の横断面図である。
【図4】図4は、船舶の横断面図である。
【図5】図5は、船舶の横断面図である。
【図6】図6は、空気吹き出しチャンバの断面図である。
【図7】図7は、本発明の第2の実施形態に係る船舶の横断面図である。
【図8】図8は、本発明の第3の実施形態に係る船舶の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付図面を参照して、本発明による船舶及び船舶の保守点検方法を実施するための形態を以下に説明する。以下の説明において船舶はフェリーであるが、船舶はフェリー以外の船舶であってもよい。
【0021】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る船舶及び船舶の保守点検方法を説明する。
【0022】
図1Aを参照して、本実施形態に係る船舶90は、船体80と、空気潤滑システム1と、上部構造71と、舵72と、プロペラ88とを備える。船体80の船長方向(縦方向)、船幅方向(横方向)及びそれらいずれにも垂直な方向が、それぞれx方向、y方向及びz方向として示されている。尚、用語「船底」は、船体80の計画満載喫水線DLWLより下の部分を意味する。
【0023】
船体80は、船首部2と、1甲板91と、1甲板91より高い位置に設けられた中甲板94と、中甲板94より高い位置に設けられた2甲板92と、2甲板92より高い位置に設けられた3甲板93と、船倉83と、ランプ85とを備える。1甲板91は例えば船底甲板である。2甲板92は例えば車両甲板である。3甲板は例えば上甲板である。2甲板92は計画満載喫水線DLWLより高い位置に配置され、中甲板94は計画満載喫水線DLWLより低い位置に配置される。2甲板92は、船倉83の床面を形成する。ランプ85は、自動車99が船倉83に乗り降りするために使用される。船首部2は、船首部船底81を備える。船首部船底81は、船首部船底中央部81cと、船首部船底右舷部81sとを備える。船首部船底中央部81cに船体外板4cが設けられる。船首部船底右舷部81sに船体外板4sが設けられる。
【0024】
空気潤滑システム1は、空気吹き出し部100Cと、空気吹き出し部100Sと、海水取入用のシーチェスト5とを備える。空気吹き出し部100C及びシーチェスト5は、船首部船底中央部81cに配置される。空気吹き出し部100Sは、船首部船底右舷部81sに配置される。空気吹き出し部100C及びシーチェスト5は、1甲板91より低い位置に設けられる。空気吹き出し部100Sは、1甲板91より高く且つ中甲板94より低い位置に設けられる。
【0025】
図1Bを参照して、船首部船底81は、船首部船底左舷部81pを備える。船首部船底左舷部81pに船体外板4pが設けられる。船首部船底左舷部81p及び船首部船底右舷部81sは、船体80の舷側の一部を形成している。空気潤滑システム1は、船首部船底左舷部81pに配置された空気吹き出し部100Pを備える。空気吹き出し部100Pは、空気吹き出し部100Sと同様に、1甲板91より高く且つ中甲板94より低い位置に設けられる。シーチェスト5及び空気吹き出し部100Cは、例えば、センターラインC上に配置され、船体80の船底の平坦な部分としての船底平坦部70に配置される。船底平坦部70は船首部船底中央部81cを含む。船首部船底中央部81cは、船首部船底81のy方向(船幅方向)の最深位置に配置される。シーチェスト5は空気吹き出し部100Cより船首側に配置される。船首部船底左舷部81p及び船首部船底右舷部81sは、船体80の舷側に配置される。下から見てシーチェスト5は、空気吹き出し部100P及び100Sの間に配置される。
【0026】
空気吹き出し部100C、100P、及び100Sは、空気潤滑システム1が生成した加圧空気を水中に吹き出す。空気吹き出し部100C、100P及び100Sから吹き出された空気により形成される気泡で船体80が覆われて、船体80と周囲の海水との間の摩擦抵抗が低減される。空気吹き出し部100C、100P、及び100Sが船首部船底81に配置されるため、船体80の気泡で覆われる面積が大きくなる。船舶90がやせ型船の場合、空気吹き出し部100P及び100Sを設けることが船体80の気泡で覆われる面積を大きくする上で特に有効である。
【0027】
空気潤滑システム1は、水圧に抗して空気を水中に吹き出すために空気を加圧して加圧空気を生成する。加圧する過程で空気の温度が上昇するため、加圧空気を冷却せずに水中に吹き出すと、船体80の塗装膜の劣化が加速されるおそれがある。シーチェスト5から取り入れた海水を用いて加圧空気を冷却してから水中に吹き出すことで、塗装膜の劣化が抑制される。
【0028】
シーチェスト5が空気吹き出し部100Cより船首側に配置されるため、空気吹き出し部100Cが吹き出した空気がシーチェスト5から取り入れられる海水に混入することが防止される。更に、船首部船底81のy方向(船幅方向)の最深位置にシーチェスト5が配置され、下から見てシーチェスト5が空気吹き出し部100P及び100Sの間に配置されるため、空気吹き出し部100P及び100Sが吹き出した空気がシーチェスト5から取り入れられる海水に混入することが防止される。そのため、加圧空気を冷却する効率が低下することが防止される。
【0029】
次に、図2を参照して、空気潤滑システム1を説明する。空気潤滑システム1は、エアクーラ17A及び17Bと、海水ポンプ41及び42と、空気抜き管43と、海洋生物付着防止装置44と、海洋生物付着防止液供給ライン45と、海洋生物付着防止液供給ライン46と、弁47とを備える。海水ポンプ41の入口はシーチェスト5に接続される。海水ポンプ41の出口は、エアクーラ17Aの海水入口及びエアクーラ17Bの海水入口に接続される。海水ポンプ42の入口はシーチェスト5に接続される。海水ポンプ42の出口は海洋生物付着防止装置44の入口に接続される。海洋生物付着防止液供給ライン45は、海洋生物付着防止装置44の出口とシーチェスト5とを接続する。海洋生物付着防止液供給ライン46は海洋生物付着防止装置44の出口に接続される。海洋生物付着防止液供給ライン46に弁47が設けられている。弁47は遠隔操作弁である。海洋生物付着防止液供給ライン46は、空気吹き出しチャンバ131C、132C(図5参照)、空気吹き出しチャンバ131P(図3参照)、空気吹き出しチャンバ133P(図4参照)、空気吹き出しチャンバ131S(図3参照)、及び、空気吹き出しチャンバ133S(図4参照)に接続される。空気抜き管43の一端はシーチェスト5に接続され、空気抜き管43の他端は、3甲板93より高い位置に配置される。エアクーラ17A及び17Bは、中甲板94より高く且つ2甲板92より低い位置に配置される。海水ポンプ41、海水ポンプ42、及び海洋生物付着防止装置44は、1甲板91より高く且つ中甲板94より低い位置に配置される。
【0030】
船外からシーチェスト5に海水が取り入れられる。空気抜き管43は、海水と一緒にシーチェスト5内に流入した空気を大気中に放出する。海水ポンプ41は、シーチェスト5から海水を吸い込んでエアクーラ17A及び17Bに供給する。エアクーラ17A及び17Bは、海水を用いて加圧空気を冷却する。冷却された加圧空気は、空気吹き出しチャンバ131C、132C、131P、133P、131S、133Sに供給される。海水は、加圧空気の冷却に用いられた後、船外に排出される。
【0031】
海水ポンプ42は、シーチェスト5から海水を吸い込んで海洋生物付着防止装置44に供給する。海洋生物付着防止装置44は、海水を電気分解して海洋生物付着防止液を生成する。海洋生物付着防止液は、次亜塩素酸ソーダを含む水溶液であり、殺菌作用を有する。海洋生物付着防止装置44は、海洋生物付着防止液供給ライン45を介して海洋生物付着防止液をシーチェスト5に供給する。海洋生物付着防止装置44は、海洋生物付着防止ライン46を介して海洋生物付着防止液を空気吹き出しチャンバ131C、132C、131P、133P、131S、133Sに供給する。海洋生物付着防止液により、シーチェスト5内、エアクーラ17A及び17B内、及び、空気吹き出しチャンバ131C、132C、131P、133P、131S、133S内に藻類や貝類(フジツボ、ムラサキ貝等)のような海洋生物が付着することが防止される。次亜塩素酸ソーダを含む水溶液は自然分解によりもとの海水に戻るため、次亜塩素酸ソーダを含む水溶液が船外に流出しても周囲の海水が汚染されることが防がれる。尚、海洋生物付着防止装置44は、空気吹き出しチャンバ131C、132C、131P、133P、131S、133Sへの海洋生物付着防止液の供給を空気吹き出しチャンバ131C、132C、131P、133P、131S、133Sが空気を吹き出していないときだけ行うことが好ましく、シーチェスト5への海洋生物付着防止液の供給を常時行うことが好ましい。
【0032】
図3を参照して、船体80は、水密区画室121Pと、水密区画室121Sと、アクセストランク61Pと、アクセストランク61Sと、縦隔壁50Cと、縦隔壁50Pと、縦隔壁50Sとを備える。空気吹き出し部100Pは、空気吹き出しチャンバ131Pを備える。水密区画室121Pは、船首部船底左舷部81pに設けられ、船首部船底左舷部81pのリセス構造を形成する。空気吹き出しチャンバ131Pは、水密区画室121P内に配置される。空気吹き出しチャンバ131Pは、加圧空気を船首部船底左舷部81pから水中に吹き出す。空気吹き出し部100Sは、空気吹き出しチャンバ131Sを備える。水密区画室121Sは、船首部船底右舷部81sに設けられ、船首部船底右舷部81sのリセス構造を形成する。空気吹き出しチャンバ131Sは、水密区画室121S内に配置される。空気吹き出しチャンバ131Sは、加圧空気を船首部船底右舷部81sから水中に吹き出す。アクセストランク61P及び61Sは水密構造を有する。中甲板94は、水密区画室121Pの頂板94aと、水密区画室121Sの頂板94bとを形成する。2甲板92は、計画満載喫水DLWLより高い位置に配置される。水密区画室121P及び121Sは、計画満載喫水DLWLより低い位置に配置される。水密区画室121P及びアクセストランク61Pは、アクセストランク付区画125Pと称される。水密区画室121S及びアクセストランク61Sは、アクセストランク付区画125Sと称される。
【0033】
アクセストランク61Pは2甲板92から下方に延びて水密区画室121Pの頂板94aに接続される。アクセストランク61Pは、船体外板4pに沿って設けられる。船体外板4pはアクセストランク61Pの外側の壁を形成する。アクセストランク61Pに出入りするための水密マンホール66Pが2甲板92の左舷近傍部分に設けられる。アクセストランク61Pと水密区画室121Pとの間に水密マンホール67Pが設けられる。水密マンホール67Pは、頂板94aの左舷近傍部分に設けられる。アクセストランク61P内には、船体外板4pに沿って梯子(不図示)が設けられる。
【0034】
アクセストランク61Sは2甲板92から下方に延びて水密区画室121Sの頂板94bに接続される。アクセストランク61Sは、船体外板4sに沿って設けられる。船体外板4sはアクセストランク61Sの外側の壁を形成する。アクセストランク61Sに出入りするための水密マンホール66Sが2甲板92の右舷近傍部分に設けられる。アクセストランク61Sと水密区画室121Sとの間に水密マンホール67Sが設けられる。水密マンホール67Sは、頂板94bの右舷近傍部分に設けられる。アクセストランク61S内には、船体外板4sに沿って梯子(不図示)が設けられる。
【0035】
水密区画室121Pの中に配置された空気吹き出しチャンバ131Pの点検又は保守を行う方法を説明する。作業者は、水密マンホール66Pを通ってアクセストランク61Pに入る。作業者は、アクセストランク61P内の梯子(不図示)を使って頂板94aまで降りる。作業者は、水密マンホール67Pを通ってアクセストランク61Pから水密区画室121Pに入る。作業者は、水密区画室121P内で空気吹き出しチャンバ131Pの点検又は保守を行う。
【0036】
水密区画室121Sの中に配置された空気吹き出しチャンバ131Sの点検又は保守を行う方法は、空気吹き出しチャンバ131Pの点検又は保守を行う方法と同様である。
【0037】
図4を参照して、船体80は、水密区画室122Pと、水密区画室122Sと、アクセストランク62Pと、アクセストランク62Sとを備える。空気吹き出し部100Pは、空気吹き出しチャンバ133Pを備える。水密区画室122Pは、船首部船底左舷部81pに設けられ、船首部船底左舷部81pのリセス構造を形成する。水密区画室122Pは、水密区画室121Pよりも船尾側に設けられる。空気吹き出しチャンバ133Pは、水密区画室122P内に配置される。空気吹き出しチャンバ133Pは、加圧空気を船首部船底左舷部81pから水中に吹き出す。空気吹き出し部100Sは、空気吹き出しチャンバ133Sを備える。水密区画室122Sは、船首部船底右舷部81sに設けられ、船首部船底右舷部81sのリセス構造を形成する。水密区画室122Sは、水密区画室121Sよりも船尾側に設けられる。空気吹き出しチャンバ133Sは、水密区画室122S内に配置される。空気吹き出しチャンバ133Sは、加圧空気を船首部船底右舷部81sから水中に吹き出す。アクセストランク62P及び62Sは水密構造を有する。中甲板94は、水密区画室122Pの頂板94cと、水密区画室122Sの頂板94dとを形成する。2甲板92は、計画満載喫水DLWLより高い位置に配置される。水密区画室122P及び122Sは、計画満載喫水DLWLより低い位置に配置される。水密区画室122P及びアクセストランク62Pは、アクセストランク付区画126Pと称される。水密区画室122S及びアクセストランク62Sは、アクセストランク付区画126Sと称される。
【0038】
アクセストランク62Pは2甲板92から下方に延びて水密区画室122Pの頂板94cに接続される。アクセストランク62Pは、船体外板4pに沿って設けられる。船体外板4pはアクセストランク62Pの外側の壁を形成する。アクセストランク62Pに出入りするための水密マンホール68Pが2甲板92の左舷近傍部分に設けられる。アクセストランク62Pと水密区画室122Pとの間に水密マンホール69Pが設けられる。水密マンホール69Pは、頂板94cの左舷近傍部分に設けられる。アクセストランク62P内には、船体外板4pに沿って梯子(不図示)が設けられる。
【0039】
アクセストランク62Sは2甲板92から下方に延びて水密区画室122Sの頂板94dに接続される。アクセストランク62Sは、船体外板4sに沿って設けられる。船体外板4sはアクセストランク61Sの外側の壁を形成する。アクセストランク62Sに出入りするための水密マンホール68Sが2甲板92の右舷近傍部分に設けられる。アクセストランク62Sと水密区画室122Sとの間に水密マンホール69Sが設けられる。水密マンホール69Sは、頂板94dの右舷近傍部分に設けられる。アクセストランク62S内には、船体外板4sに沿って梯子(不図示)が設けられる。
【0040】
水密区画室122Pの中に配置された空気吹き出しチャンバ133Pの点検又は保守を行う方法を説明する。作業者は、水密マンホール68Pを通ってアクセストランク62Pに入る。作業者は、アクセストランク62P内の梯子(不図示)を使って頂板94cまで降りる。作業者は、水密マンホール69Pを通ってアクセストランク62Pから水密区画室122Pに入る。作業者は、水密区画室122P内で空気吹き出しチャンバ133Pの点検又は保守を行う。
【0041】
水密区画室122Sの中に配置された空気吹き出しチャンバ133Sの点検又は保守を行う方法は、空気吹き出しチャンバ133Pの点検又は保守を行う方法と同様である。
【0042】
図5を参照して、船体80は、水密区画室120Cと、アクセストランク60Cを備える。空気吹き出し部100Cは、空気吹き出しチャンバ131C及び132Cを備える。水密区画室120Cは、船首部船底中央部81cに設けられ、船首部船底中央部81cのリセス構造を形成する。空気吹き出しチャンバ131C及び132Cは、水密区画室120C内に配置される。空気吹き出しチャンバ131C及び132Cは、加圧空気を船首部船底中央部81cから水中に吹き出す。アクセストランク60Cは水密構造を有する。1甲板91は、水密区画室120Cの頂板91aを形成する。2甲板92は、計画満載喫水DLWLより高い位置に配置される。水密区画室120Cは、計画満載喫水DLWLより低い位置に配置される。水密区画室120C及びアクセストランク60Cは、アクセストランク付区画125Cと称される。
【0043】
アクセストランク60Cは2甲板92から下方に延びて水密区画室120Cの頂板91aに接続される。アクセストランク60Cは、縦隔壁50Cに沿って設けられる。アクセストランク60Cに出入りするための水密マンホール64Cが2甲板92に設けられる。アクセストランク60Cと水密区画室120Cとの間に水密マンホール65Cが設けられる。水密マンホール65Cは、頂板91aに設けられる。アクセストランク60C内には、縦隔壁50Cに沿って梯子(不図示)が設けられる。
【0044】
水密区画室120Cの中に配置された空気吹き出しチャンバ131C及び132Cの点検又は保守を行う方法を説明する。作業者は、水密マンホール64Cを通ってアクセストランク60Cに入る。作業者は、アクセストランク60C内の梯子(不図示)を使って頂板91aまで降りる。作業者は、水密マンホール65Cを通ってアクセストランク60Cから水密区画室120Cに入る。作業者は、水密区画室120C内で空気吹き出しチャンバ131C及び132Cの点検又は保守を行う。
【0045】
本実施形態によれば、アクセストランク60C、61P、62P、61S、及び62Sが設けられるため、水密区画室120C、121P、122P、121S、及び122Sに船内から行くことができる。したがって、水密区画室120C、121P、122P、121S、及び122Sに行くことが容易であり、空気吹き出しチャンバ131C、132C、131P、133P、131S、133Sの保守又は点検が容易である。
【0046】
水密区画室120C、121P、122P、121S、及び122Sが浸水した場合であっても、水密マンホール65C、67P、69P、67S、及び69Sによって水密区画室120C、121P、122P、121S、及び122Sからアクセストランク60C、61P、62P、61S、及び62Sへ海水が漏れ出ることが防がれる。水密マンホール65C、67P、69P、67S、及び69Sが海水を止めることができなかった場合であっても、水密マンホール64C、66P、68P、66S、及び68Sによって海水がアクセストランク60C、61P、62P、61S、及び62Sから溢れ出ることが防がれる。ここで、水密マンホール64C、66P、68P、66S、及び68Sが計画満載喫水線DLWLより高い位置に設けられるため、海水が水密マンホール64C、66P、68P、66S、及び68Sに到達した場合であっても、水密マンホール64C、66P、68P、66S、及び68Sに作用する水圧は弱い。したがって、海水がアクセストランク60C、61P、62P、61S、及び62Sから溢れ出ることが確実に防がれる。
【0047】
アクセストランク61P及び62Pが船体外板4pに沿って設けられ、アクセストランク61S及び62Sが船体外板4sに設けられるため、船体80内の船倉容量の減少が抑制される。水密マンホール66P、68P、66S、及び68Sが舷側近傍に設けられるため、船倉83の積荷スペースの減少が抑制される。尚、船倉容量が減少するが、アクセストランク61P及び62Pを縦隔壁50Pに沿って設け、アクセストランク61S及び62Sを縦隔壁50Sに沿って設けてもよい。アクセストランク60C、61P、62P、61S、及び62Sを横隔壁に沿って設けてもよい。
【0048】
本実施形態によれば、水密区画室120Cに出入りするための開口を船体外板4cに形成する必要がなく、水密区画室121P及び122Pに出入りするための開口を船体外板4pに形成する必要がなく、水密区画室121S及び122Sに出入りするための開口を船体外板4sに形成する必要がない。したがって、水密区画室120Cに船体外板4cと同じ強度を持たせる必要がなく、水密区画室121P及び122Pに船体外板4pと同じ強度を持たせる必要がなく、水密区画室121S及び122Sに船体外板4sと同じ強度を持たせる必要がない。例えば、水密区画室120C、121P、122P、121S、及び122Sの強度は、ウォーターバラストタンクと同じでよい。
【0049】
図6を参照して、空気吹き出しチャンバ131Pの構造を詳細に説明する。空気吹き出しチャンバ131Pは、両端(両側)が開放(開口)された筒部150と、複数の空気吹き出し孔140aが形成された空気吹き出し板140と、空気流入口160aが形成された蓋160と、拡散板170と、ねじ部品180とを備える。空気吹き出し板140は、筒部150の一方側を閉じるように筒部150に取り付けられる。例えば、空気吹き出し板140は筒部150に溶接される。空気吹き出し板140は、船体外板4p、又は、船体外板4pと同一面を形成するように接合される板材である。拡散板170は、所定の距離を隔てて空気流入口160aと向かい合うように、蓋160に取り付けられている。蓋160は、筒部150の一方側を閉じるように筒部150に取り付けられる。ねじ部品180は、蓋160を着脱可能に筒部150に取り付ける。拡散板170は、所定の距離を隔てて複数の空気吹き出し孔140aと向かい合う。空気流入口160aに空気供給ライン21Pが接続される。蓋160は、空気吹き出しチャンバ131Pと空気供給管21Pとの連接部を形成する。
【0050】
空気供給ライン21Pを通って供給される加圧空気は、空気流入口160aから筒部150内に流入する。その流入空気は、拡散板170にぶつかって拡散した後、空気吹き出し孔140aから水中に吹き出す。拡散板170により、空気流入口160aの正面に配置される空気吹き出し孔140aから吹き出される空気流量が多くなることが防止され、その結果、複数の空気吹き出し孔140aから均一に空気が吹き出される。
【0051】
空気吹き出しチャンバ133Pも空気吹き出しチャンバ131Pと同様に構成される。
【0052】
空気吹き出しチャンバ131S、133Sも空気吹き出しチャンバ131Pと同様に構成される。ただし、空気吹き出しチャンバ131S、133Sの空気吹き出し板140は船体外板4s、又は、船体外板4sと同一面を形成するように接合される板材である。
【0053】
空気吹き出しチャンバ131C及び132Cも空気吹き出しチャンバ131Pと同様に構成される。ただし、空気吹き出しチャンバ131C及び132Cの空気吹き出し板140は船体外板4c、又は、船体外板4cと同一面を形成するように接合される板材である。
【0054】
作業者は、蓋160を筒部150から取り外し、空気吹き出しチャンバ131C、132C、131P、133P、131S、133Sの点検又は保守を行う。作業者は、点検又は保守の終了後、蓋160を筒部150に取り付ける。蓋160が脱着可能であるため、空気吹き出しチャンバ131C、132C、131P、133P、131S、133Sの点検や保守が容易である。
【0055】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る船舶及び船舶の保守点検方法は、下記の事項を除いて第1の実施形態に係る船舶及び船舶の保守点検方法と同じである。
【0056】
図7を参照して、船体80内に、水密区画室122Pと水密区画室122Sとを接続する海水流路55が設けられる。海水流路55は、計画満載喫水線DLWLより低い位置に設けられる。海水流路55は、例えば、1甲板91の下側の二重底空間に配置される。海水流路55は、船体外板4cに沿って配置されてもよく、1甲板91の下側面に沿って配置されてもよい。水密区画室122P及び122Sのいずれか一方が浸水した場合、海水流路55を通って一方から他方に海水が流れるため、船体80の損傷時復元性(ダメージスタビリティ)が確保される。
【0057】
同様に、水密区画室121Pと水密区画室121Sとを接続する海水流路を設けてもよい。
【0058】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る船舶及び船舶の保守点検方法は、下記の事項を除いて第1の実施形態に係る船舶及び船舶の保守点検方法と同じである。
【0059】
図8に示すように、アクセストランク60C、水密マンホール64C、及び水密マンホール65Cは設けられず、アクセストランク63P及び63Sが設けられる。アクセストランク63P及び63Sは水密構造を有する。アクセストランク63Pは、水密区画室122Pと水密区画室120Cとを接続する。アクセストランク63Pは、船体外板4pに沿って設けられる。アクセストランク63Sは、水密区画室122Sと水密区画室120Cとを接続する。アクセストランク63Sは、船体外板4sに沿って設けられる。
【0060】
水密区画室120Cの中に配置された空気吹き出しチャンバ131C及び132Cの点検又は保守を行う方法を説明する。作業者は、第1の実施形態の場合と同様に水密区画室122P又は122Sに入る。作業者は、水密区画室122Pからアクセストランク63Pを通って水密区画室120Cに入る、又は、水密区画室122Sからアクセストランク63Sを通って水密区画室120Cに入る。作業者は、水密区画室120C内で空気吹き出しチャンバ131C及び132Cの点検又は保守を行う。
【0061】
本実施形態によれば、アクセストランク63P及び63Sが設けられるため、水密区画室120Cに船内から行くことができる。したがって、水密区画室120Cに行くことが容易であり、空気吹き出しチャンバ131C及び132Cの保守又は点検が容易である。アクセストランク63Pが船体外板4pに沿って設けられ、アクセストランク63Sが船体外板4sに設けられるため、船体80内の船倉容量の減少が抑制される。
【0062】
以上、実施の形態を参照して本発明による船舶を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されない。例えば、アクセストランク付区画125Cを一つの水密区画室として形成してもよく、アクセストランク付区画125Pを一つの水密区画室として形成してもよく、アクセストランク付区画126Pを一つの水密区画室として形成してもよく、アクセストランク付区画125Sを一つの水密区画室として形成してもよく、アクセストランク付区画126Sを一つの水密区画室として形成してもよい。また、上記実施形態どうしを組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
4c、4p、4s…船体外板
55…海水流路
60C、61P、61S、62P、62S、63P、63S…アクセストランク
64C、65C、66P〜69P、66S〜69S…水密マンホール
80…船体
81…船首部船底
81c…船首部船底中央部
82p…船首部船底左舷部
82s…船首部船底右舷部
120C、121P、121S、122P、122S…水密区画室(リセス)
125C、125P、126P、125S、126S…アクセストランク付区画(水密区画室)
131C〜132C、131P、133P、131S、133S…空気吹き出しチャンバ
140…空気吹き出し板
140a…空気吹き出し孔
150…筒部
160…蓋
160a…空気流入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の船首部船底から空気を吹き出して前記船体と海水との摩擦抵抗を低減する第1空気吹き出しチャンバと、
前記第1空気吹き出しチャンバが中に設けられる第1水密区画室と、
前記第1水密区画室に接続される水密構造の第1アクセストランクと、
前記第1アクセストランクに出入りするための第1水密マンホールと
を具備し、
前記第1水密区画室は、喫水線より低い位置に設けられ、
前記第1水密マンホールは前記喫水線より高い位置に設けられる
船舶。
【請求項2】
請求項1の船舶であって、
前記空気吹き出しチャンバと空気供給管との連接部が脱着可能となっていることを特徴とする船舶。
【請求項3】
請求項1又は2の船舶であって、
前記船首部船底から空気を吹き出して前記船底と海水との摩擦抵抗を低減する第2空気吹き出しチャンバと、
前記第2空気吹き出しチャンバが中に設けられる第2水密区画室と、
前記第2水密区画室に接続される水密構造の第2アクセストランクと、
前記第2アクセストランクに出入りするための第2水密マンホールと、
前記第1水密区画室と前記第2水密区画室とを接続する海水流路と
を更に具備し、
前記第1空気吹き出しチャンバは前記船首部船底の左舷部に設けられ、
前記第2空気吹き出しチャンバは前記船首部船底の右舷部に設けられ、
前記第2水密区画室は前記喫水線より低い位置に設けられ、
前記第2水密マンホールは前記喫水線より高い位置に設けられ、
前記海水流路は前記船体内の前記喫水線より低い位置に設けられる
船舶。
【請求項4】
加圧空気を船首部船底の空気吹き出し部から吹き出して、船体と海水との摩擦抵抗を低減する船舶の保守点検方法において、
喫水線より上部位置に設けられた出入り口から水密区画室内に入り、前記水密区画室内にて水密区画室基部の空気吹き出し部を保守点検することを特徴とする船舶の保守点検方法。
【請求項5】
加圧空気を船首部船底の空気吹き出し部から吹き出して、船体と海水との摩擦抵抗を低減する船舶において、
基部が前記空気吹き出し部を覆い、上部が船体の喫水線より上方まで延設された空気吹き出し部の点検、保守用の水密区画室を設置することを特徴とする船舶。
【請求項6】
請求項5の船舶であって、
前記水密区画室の上部出入口に設置された水密マンホールを具備する
船舶。
【請求項7】
請求項5又は6の船舶であって、
船底左舷の空気吹き出し部、船底右舷の空気吹き出し部、及び船底中央部の空気吹き出す部のそれぞれに前記水密区画室を設置することを特徴とする船舶。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−47039(P2013−47039A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185721(P2011−185721)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【特許番号】特許第5087161号(P5087161)
【特許公報発行日】平成24年11月28日(2012.11.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)