説明

船舶操舵用油圧装置

【課題】小型化が可能であり、かつ船体内部における組み立て作業性に優れた船舶操舵用油圧装置を提供する。
【解決手段】船舶操舵用油圧装置30Lに、ポンプ16Lから油圧シリンダ11Lへの作動油の供給を阻止する操舵固定位置、ポンプ16Lから油圧シリンダ11Lの一側に作動油を供給して油圧シリンダ11Lを伸長させる伸長操舵位置、ポンプ16Lから油圧シリンダ11Lの他側に作動油を供給して油圧シリンダ11Lを収縮させる収縮操舵位置、のいずれかの位置に切り替え可能なメインバルブ32、および、メインバルブ32と油圧シリンダ11Lとの間の油圧経路が外部に開放される開放位置、および当該油圧経路が外部に開放されない閉塞位置のいずれかの位置に切り替え可能な開放バルブ33・34、を備え、メインバルブ32および開放バルブ33・34を一体的に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶操舵用の油圧シリンダへの作動油の供給を制御する油圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スターンドライブ方式の船舶が知られている。スターンドライブ方式は船舶の駆動方式の一種であり、船体内部にエンジンを配置し、船体外部に連結されたアウトドライブ(プロペラおよび駆動力伝達機構を合わせたもの)を配置し、アウトドライブを船体に回動可能に連結する。例えば、特許文献1に記載の如くである。
スターンドライブ方式の船舶の多くは、船体およびアウトドライブに連結された複動式の油圧シリンダの作動により操舵が行われる。より詳細には、船舶の乗員が操舵用のレバー等を操作し、制御装置が操舵用のレバー等の操作量に基づいて操作ポンプから油圧シリンダに作動油を供給するための油圧経路(配管等)の中途部に配置された電磁弁に電気信号を送信し、電磁弁が当該電気信号に基づいて動作することによりポンプから油圧シリンダへの作動油の供給が制御され、油圧シリンダが伸長または収縮し、船体に対するアウトドライブの回動角度が変更される(船舶の操舵が行われる)。
【0003】
しかし、ポンプ、油圧シリンダ、電磁弁、およびこれらを接続する油圧配管等の油圧系統を構成する部品群、並びにエンジンは、船舶における乗員の居住スペースを確保する観点から、一般的には船体内部の限られた(狭い)スペースに稠密に配置される。
従って、上記油圧系統を構成する部品群を別々に船体内部に取り付けた後、相互に接続して油圧系統を形成する場合、作業者は船体内部の限られたスペースで作動油の漏洩に注意を払いつつ作業する必要があり、当該作業者にとっては非常に繁雑である。
【0004】
また、船舶の操作の電子化に伴い、電気系統のトラブル等が原因で電磁弁が動作不能となった場合に乗員が容易に船舶を手動で操舵可能とすることが要求される。
【0005】
上記要求を達成する一つの方法としては、「電磁弁と油圧シリンダとの間の油圧配管」を開放することにより当該油圧配管を満たす作動油を外部に放出し、手動で船体に対するアウトドライブの回動角度を変更可能とする方法が考えられる。
具体的には、電磁弁と油圧シリンダとの間の油圧配管を満たす作動油の船体内部における漏洩を防止する観点から、船体の内部に「別の油圧配管」を設け、別の油圧配管の一端部を電磁弁と油圧シリンダとの間の油圧配管の中途部に接続するとともに別の油圧配管の他端部を回収容器に接続し、別の油圧配管の中途部に開閉弁を配置し、開閉弁を開いて電磁弁と油圧シリンダとの間の油圧配管を満たす作動油を回収容器に回収する。
しかし、上記方法では船体内部への別の油圧配管および開閉弁の配置およびこれらの接続作業が追加的に発生するので、船舶の組み立てを行う作業者にとっては繁雑さが増す。
【0006】
上記要求を達成する別の方法としては、主たる電気系統および油圧系統から独立した非常用の電気系統および油圧系統を設け、主たる電気系統および油圧系統が動作不能となった場合に非常用の電気系統および油圧系統により操舵を行う方法が考えられる。操舵の対象がラダー軸である場合の例として、特許文献2に記載の方法が知られている。
しかし、特許文献2に記載の方法は非常用の電気系統および油圧系統に係る部品群を追加的に船体内部に配置しなければならず、部品点数の増加、居住スペース確保、組み立て作業の繁雑化の観点から好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−227396号公報
【特許文献2】特開平6−316292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものである。
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、小型化が可能であり、かつ船体内部における組み立て作業性に優れた船舶操舵用油圧装置を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下では、上記課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、
船体に回動可能に連結されるアウトドライブと、前記船体および前記アウトドライブに連結されて前記船体に対する前記アウトドライブの回動角度を変更する複動式の油圧シリンダと、前記油圧シリンダに作動油を供給するポンプと、を具備する船舶に設けられ、前記ポンプから前記油圧シリンダへの作動油の供給およびその阻止を行う船舶操舵用油圧装置であって、
前記ポンプと前記油圧シリンダとの間の油圧経路に配置され、前記ポンプから前記油圧シリンダへの作動油の供給を阻止する操舵固定位置、前記ポンプから前記油圧シリンダの一側に作動油を供給して前記油圧シリンダを伸長させる伸長操舵位置、前記ポンプから前記油圧シリンダの他側に作動油を供給して前記油圧シリンダを収縮させる収縮操舵位置、のいずれかの位置に切り替え可能なメインバルブと、
前記メインバルブと前記油圧シリンダとの間の油圧経路に配置され、当該油圧経路が外部に開放される開放位置、および当該油圧経路が外部に開放されない閉塞位置のいずれかの位置に切り替え可能な開放バルブと、
を備え、
前記メインバルブおよび前記開放バルブが一体的に構成されるものである。
【0011】
請求項2においては、
前記メインバルブおよび前記開放バルブを収容する本体部材と、
前記本体部材の外部から前記開放バルブを操作するための操作部材と、
を備え、
前記本体部材の内部には、一端部が前記本体部材の外表面に開口して作動油導入口を成すとともに当該一端部が前記ポンプに接続される作動油導入経路と、一端部が前記本体部材の外表面に開口して作動油排出口を成す作動油排出経路と、一端部が前記本体部材の外表面に開口して第一作動油供給口を成すとともに当該一端部が前記油圧シリンダの一側に形成される第一供給口に接続される第一作動油供給経路と、一端部が前記本体部材の外表面に開口して第二作動油供給口を成すとともに当該一端部が前記油圧シリンダの他側に形成される第二供給口に接続される第二作動油供給経路と、前記作動油導入経路の他端部、前記作動油排出経路の他端部、前記第一作動油供給経路の他端部および前記第二作動油供給経路の他端部に接続されて前記メインバルブを収容するメインバルブ室と、一端部が前記第一作動油供給経路の中途部に接続されるとともに他端部が前記作動油排出経路の中途部に接続される第一開放経路と、一端部が前記第二作動油供給経路の中途部に接続されるとともに他端部が前記作動油排出経路の中途部に接続される第二開放経路と、が形成され、
前記開放バルブは、前記第一開放経路および前記第二開放経路の中途部に配置され、
前記開放バルブの開放位置は、前記第一開放経路の中途部および前記第二開放経路の中途部が閉塞されない位置であり、
前記開放バルブの閉塞位置は、前記第一開放経路の中途部および前記第二開放経路の中途部が閉塞される位置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、小型化が可能であり、かつ船体内部における組み立て作業性に優れている、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る船舶操舵用油圧装置の実施の一形態を具備する船舶の全体構成を示す模式図。
【図2】(a)本発明に係る船舶操舵用油圧装置の実施の一形態を具備する船舶の油圧系統を示す模式図、(b)本発明に係る船舶操舵用油圧装置の実施の一形態を示す平面図。
【図3】(a)本発明に係る船舶操舵用油圧装置の実施の一形態を示す正面図、(b)本発明に係る船舶操舵用油圧装置の実施の一形態を示す左側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図1を用いて本発明に係る船舶の実施の一形態である船舶1について説明する。船舶1はスターンドライブ方式の船舶であり、船体2、エンジン3L・3R、ブラケット5L・5R、アウトドライブ6L・6R、ブラケット10L・10R、油圧シリンダ11L・11R、ポンプ16L・16R、作動油タンク17L・17R、圧送配管20L・20R、第一供給配管21L・21R、第二供給配管22L・22R、戻り配管23L・23R、吸入配管24L・24R、油圧ユニット30L・30R、操舵ハンドル25、エンジンレバー26、ジョイスティック27、運転モード切り替えスイッチ28、ECU(Electronic Control Unit)29等を具備する。
なお、以下では便宜上、図1に示す船体2の形状に基づいて「船舶1の前後方向」、「船舶1の左右方向」および「船舶1の上下方向(図1の紙面に垂直な方向)」を定義し、これらの方向を用いて船舶1の各部の詳細を説明する。
【0015】
船体2は船舶1の主たる構造体であり、船舶1を構成する他の部材を内部に収容、あるいは外部に連結する。エンジン3L・3Rは船舶1の駆動源であり、それぞれ出力軸4L・4Rを備え、出力軸4L・4Rを回転駆動することにより駆動力を発生する。エンジン3L・3Rは船体2の内部かつ後部となる位置に左右に並んで固定される。ブラケット5L・5Rは船体2の後部かつ船体2の外部となる位置に固定される。船体2に固定されたブラケット5L・5Rは左右に所定の間隔を空けて配置される。
【0016】
アウトドライブ6L・6Rは本発明に係るアウトドライブの実施の一形態である。
アウトドライブ6Lはアウトドライブ本体7L、プロペラ8Lおよびティラー9Lを備え、アウトドライブ6Rはアウトドライブ本体7R、プロペラ8Rおよびティラー9Rを備える。アウトドライブ6Lおよびアウトドライブ6Rは構造的に左右対称であるため、以下ではアウトドライブ6Lの詳細を説明し、アウトドライブ6Rの説明を省略する。
アウトドライブ本体7Lはアウトドライブ6Lの主たる構造体を成す部材であり、その内部には図示せぬ駆動力伝達機構(歯車、伝達軸、変速機構等)が収容される。アウトドライブ本体7Lはブラケット5Lに軸支され、アウトドライブ本体7L、ひいてはアウトドライブ6Lは船体2に対して(上下方向の軸周りに)回動可能に連結される。アウトドライブ本体7L内部の駆動力伝達機構の一端部はエンジン3Lの出力軸4Lに連結される。
プロペラ8Lはアウトドライブ本体7Lの後下部に回転可能に軸支され、アウトドライブ本体7L内部の駆動力伝達機構の他端部に連結される。エンジン3Lにおいて発生した駆動力は出力軸4L、アウトドライブ本体7L内部の駆動力伝達機構を経てプロペラ8Lに伝達され、プロペラ8Lが回転駆動される。
ティラー9Lは棒状の部材であり、その一端部(後端部)はアウトドライブ本体7Lの前上部に固定され、その他端部(前端部)は船体2の後部に形成された左右に延びた長孔(不図示)を貫通して船体2の内部に配置される。
【0017】
ブラケット10Lは船体2の左後部かつ船体2の内部となる位置に固定され、ブラケット10Rは船体2の右後部かつ船体2の内部となる位置に固定される。
【0018】
油圧シリンダ11L・11Rは本発明に係る複動式の油圧シリンダの実施の一形態である。油圧シリンダ11Lおよび油圧シリンダ11Rは構造的に左右対称であるため、以下では油圧シリンダ11Lの詳細を説明し、油圧シリンダ11Rの説明を省略する。また油圧系統及び油圧系統に設けられる油圧機器も左右対称に構成されるため、以下左側の油圧系統及び油圧機器について説明する。油圧シリンダ11Lはシリンダ本体12Lおよび一端部にピストンが固定されたシリンダロッド13Lを備え、シリンダ本体12Lには第一供給口14Lおよび第二供給口15Lが形成され、複動式の油圧シリンダを構成している。
【0019】
シリンダ本体12Lは概ね円筒形状の部材であり、シリンダロッド13Lの一端部に固定されたピストンを摺動自在に収納する。
第一供給口14Lはシリンダ本体12Lの外周面の一端部(油圧シリンダ11Lの一側)に形成される開口部であり、後述する第一供給配管21Lの一端部が接続される。第二供給口15Lはシリンダ本体12Lの外周面の他端部(油圧シリンダ11Lの他側)に形成される開口部であり、後述する第二供給配管22Lの一端部が接続される。シリンダロッド13Lは棒状の部材である。シリンダロッド13Lの一端部(ピストン)はシリンダ本体12Lの内部に配置され、シリンダロッド13Lの他端部はシリンダ本体12Lの他端側の端面(第二供給口15Lに近い方の端面)を貫通してシリンダ本体12Lの外部に突出する。シリンダ本体12Lの内部の空間は、ピストンにより第一作動油室(第一供給口14Lに臨む空間)および第二作動油室(第二供給口15Lに臨む空間)の二つに区画される。作動油を第一作動油室に供給するとともに作動油を第二作動油室から排出することにより、シリンダロッド13Lがシリンダ本体12Lから突出し、油圧シリンダ11Lが伸長する。作動油を第二作動油室に供給するとともに作動油を第一作動油室から排出することにより、シリンダロッド13Lがシリンダ本体12Lに没入し、油圧シリンダ11Lが収縮する。
【0020】
シリンダ本体12Lの一端部はブラケット10L、ひいては船体2に回動可能に連結される。また、シリンダロッド13Lの他端部はティラー9Lの他端部、ひいてはアウトドライブ6Lに回動可能に連結される。油圧シリンダ11Lを伸長および収縮させることにより、船体2に対するアウトドライブ6Lの回動角度を変更することが可能である。
【0021】
ポンプ16Lはエンジン3L(の出力軸4L)に接続され、回転駆動される。ポンプ16Lは吸入口から作動油を吸入し、吐出口から作動油を吐出(圧送)することにより、油圧シリンダ11Lに作動油を供給する。
作動油タンク17Lは作動油を貯留する容器である。作動油タンク17L・17Rの上部には通気孔が形成され、外部に開放される(作動油タンク17L・17Rの内部と外部とは連通している)。
【0022】
圧送配管20L、第一供給配管21L、第二供給配管22L、戻り配管23Lおよび吸入配管24Lは船舶1の油圧系統を形成する配管である。圧送配管20Lの一端部はポンプ16Lの吐出口に接続される。第一供給配管21Lの一端部は第一供給口14Lに接続される。第二供給配管22Lの一端部は第二供給口15Lに接続される。戻り配管23Lの一端部は作動油タンク17Lに挿入される。吸入配管24Lの一端部は作動油タンク17Lに挿入され、吸入配管24Lの他端部はポンプ16Lの吸入口に接続される。
【0023】
油圧ユニット30L・30Rは本発明に係る船舶操舵用油圧装置の実施の一形態である。
油圧ユニット30L・30Rは船舶1に設けられる。油圧ユニット30L・30Rはそれぞれポンプ16L・16Rから油圧シリンダ11L・11Rへの作動油の供給およびその阻止を行う。
【0024】
図2および図3に示す如く、油圧ユニット30Lは本体部材31、メインバルブ32、第一開放バルブ33、第二開放バルブ34、第一操作部材35、第二操作部材36、分流弁37、第一供給側保持回路38、第二供給側保持回路39およびフィルター40を備える。以下では便宜上、図2および図3において本体部材31を基準として「油圧ユニット30Lの上下方向」、「油圧ユニット30Lの前後方向」および「油圧ユニット30Lの左右方向」を定義し、これらの方向を用いて油圧ユニット30Lの各部の詳細を説明する。
なお、油圧ユニット30Lが船体2の内部の所定位置に固定されたとき、「油圧ユニット30Lの上下方向」、「油圧ユニット30Lの前後方向」および「油圧ユニット30Lの左右方向」は、それぞれ図1における「船舶1の上下方向」、「船舶1の前後方向」および「船舶1の左右方向」に対応していなくても良い。すなわち、周囲の部材との干渉等を考慮し、油圧ユニット30Lが船体2に固定されるときの姿勢を適宜変更することが可能である。
【0025】
本体部材31は油圧ユニット30Lの主たる構造体を成す部材である。本体部材31は油圧ユニット30Lの他の部材(メインバルブ32、第一開放バルブ33、第二開放バルブ34、第一操作部材35、第二操作部材36、分流弁37、第一供給側保持回路38および第二供給側保持回路39)を収容する。本実施形態の本体部材31は直方体形状の金属材料の塊に適宜切削加工等を施すことにより製造される。
【0026】
図2の(a)に示す如く、本体部材31の内部には作動油導入経路31aが形成される。図3の(a)に示す如く、作動油導入経路31aの一端部は本体部材31の外表面(前面)に開口して作動油導入口31bを成す。図1および図2の(a)に示す如く、作動油導入経路31aの一端部(作動油導入口31b)は圧送配管20Lの他端部に接続され、ひいては圧送配管20Lを介してポンプ16Lに接続される。
図2の(a)に示す如く、本体部材31の内部には作動油排出経路31cが形成される。図3の(a)に示す如く、作動油排出経路31cの一端部は本体部材31の外表面(前面)に開口して作動油排出口31dを成す。図1および図2の(a)に示す如く、作動油排出経路31cの一端部(作動油排出口31d)は戻り配管23Lの他端部に接続され、ひいては戻り配管23Lを介して作動油タンク17Lに接続される。
図2の(a)に示す如く、本体部材31の内部には第一作動油供給経路31eが形成される。図3の(b)に示す如く、第一作動油供給経路31eの一端部は本体部材31の外表面(左面)に開口して第一作動油供給口31fを成す。図1および図2の(a)に示す如く、第一作動油供給経路31eの一端部(第一作動油供給口31f)は第一供給配管21Lの他端部に接続され、ひいては第一供給配管21Lを介して第一供給口14L(油圧シリンダ11Lの一側)に接続される。
図2の(a)に示す如く、本体部材31の内部には第二作動油供給経路31gが形成される。図3の(b)に示す如く、第二作動油供給経路31gの一端部は本体部材31の外表面(左面)に開口して第二作動油供給口31hを成す。図1および図2の(a)に示す如く、第二作動油供給経路31gの一端部(第二作動油供給口31h)は第二供給配管22Lの他端部に接続され、ひいては第二供給配管22Lを介して第二供給口15L(油圧シリンダ11Lの他側)に接続される。
図2の(a)に示す如く、本体部材31の内部にはメインバルブ室31jが形成される。メインバルブ室31jはメインバルブ32のスプールを移動可能に収容する空間であり、作動油導入経路31aの他端部、作動油排出経路31cの他端部、第一作動油供給経路31eの他端部および第二作動油供給経路31gの他端部に接続される。
本体部材31の内部には第一開放経路31kおよび第二開放経路31mが形成される。第一開放経路31kの一端部は第一作動油供給経路31eの中途部に接続される。第一開放経路31kの他端部は作動油排出経路31cの中途部に接続される。第二開放経路31mの一端部は第二作動油供給経路31gの中途部に接続される。第二開放経路31mの他端部は作動油排出経路31cの中途部に接続される。
本体部材31の内部には分流弁室31nが形成される。分流弁室31nは分流弁37を移動可能に収容する空間であり、作動油導入経路31aの中途部に配置される。
本体部材31の内部にはバイパス経路31pが形成される。バイパス経路31pの一端部は分流弁室31nに接続され、他端部は作動油排出経路31cの中途部に接続される。
【0027】
メインバルブ32はソレノイドおよびスプールを有する電磁弁であり、ソレノイドに電気信号(切替信号)を送信することによりスプールを移動(摺動)させ、作動油の経路を切り替える。メインバルブ32は「ポンプ16Lと油圧シリンダ11Lとの間の油圧経路(本実施形態の場合、圧送配管20L、作動油導入経路31a、メインバルブ室31j、第一作動油供給経路31e、第二作動油供給経路31g、第一供給配管21Lおよび第二供給経路22Lを合わせたもの)」の中途部に配置される。本実施形態の場合、メインバルブ32のスプールが「ポンプ16Lと油圧シリンダ11Lとの間の油圧経路」の中途部に設けられたメインバルブ室31jに収容される。
メインバルブ32のソレノイドはECU29に接続され、メインバルブ32のスプールがECU29から送信される電気信号(切替信号)に基づいてメインバルブ室31jの内部を移動し、「操舵固定位置」、「伸長操舵位置」、および「収縮操舵位置」の三つの位置のうち、いずれかの位置に配置される(切り替えられる)。これらメインバルブ32の三つの位置の詳細については後述する。
【0028】
第一開放バルブ33および第二開放バルブ34を合わせたものは本発明に係る開放バルブの実施の一形態である。本実施形態の第一開放バルブ33および第二開放バルブ34はニードル式の開閉弁である。第一開放バルブ33は第一開放経路31kの中途部に配置され、第二開放バルブ34は第二開放経路31mの中途部に配置される。また、第一開放経路31kの一端部は第一作動油供給経路31eの中途部に接続され、第二開放経路31mの一端部は第二作動油供給経路31gの中途部に接続される。
従って、第一開放バルブ33および第二開放バルブ34は、実質的には「メインバルブ32と油圧シリンダ11Lとの間の油圧経路」に配置される。
【0029】
第一操作部材35および第二操作部材36を合わせたものは本発明に係る操作部材の実施の一形態である。第一操作部材35および第二操作部材36は作業者が本体部材31の外部から第一開放バルブ33および第二開放バルブ34を操作するための部材である。
【0030】
第一操作部材35および第二操作部材36はいずれも胴体部および頭部を有し、これらの胴体部の外周面には雄ネジが形成され、これらの胴体部の先端にはニードルが形成される。第一操作部材35の胴体部は「一端部が本体部材31の上面に開口するとともに他端部が第一開放バルブ33を収容する空間(第一開放経路31kの中途部)に接続されるネジ孔(不図示)」に螺装され、第二操作部材36の胴体部は「一端部が本体部材31の上面に開口するとともに他端部が第二開放バルブ34を収容する空間(第二開放経路31mの中途部)に接続されるネジ孔(不図示)」に螺装される。第一操作部材35の胴体部の一端部は第一開放バルブ33に相対回転不能に固定され、第二操作部材36の胴体部の一端部は第二開放バルブ34に相対回転不能に固定される。第一操作部材35の頭部は第一操作部材35の胴体部の他端部に固定され、本体部材31の外部(本体部材31の上面の上方)に配置される。第二操作部材36の頭部は第二操作部材36の胴体部の他端部に固定され、本体部材31の外部(本体部材31の上面の上方)に配置される。
作業者が第一操作部材35の頭部を手で持って回転させることにより、第一操作部材35および第一開放バルブ33は上下方向に移動する。その結果、第一開放バルブ33は第一開放経路31kの中途部が閉塞されない位置(以下「第一開放位置」という。)および第一開放経路31kの中途部が閉塞される位置(以下「第一閉塞位置」という。)のいずれかの位置に配置される(切り替えられる)。同様に、作業者が第二操作部材36の頭部を手で持って回転させることにより、第二操作部材36および第二開放バルブ34は上下方向に移動する。その結果、第二開放バルブ34は第二開放経路31mの中途部が閉塞されない位置(以下「第二開放位置」という。)および第二開放経路31mの中途部が閉塞される位置(以下「第二閉塞位置」という。)のいずれかの位置に配置される(切り替えられる)。
【0031】
分流弁37は分流弁室31nに収容される。第一供給側保持回路38および第二供給側保持回路39はそれぞれチェックバルブおよびリリーフ弁を有し、第一供給側保持回路38は第一作動油供給経路31eの中途部、かつ第一開放経路31kの一端部が接続されている位置よりもメインバルブ室31jに近い位置に配置される。第二供給側保持回路39は第二作動油供給経路31gの中途部、かつ第二開放経路31mの一端部が接続されている位置よりもメインバルブ室31jに近い位置に配置される。フィルター40は作動油導入経路31aの中途部、かつ分流弁室31nよりも作動油導入口31bに近い位置に配置され、フィルター40を通過する作動油に混入している異物を捕集し、除去する。
【0032】
以下では図1および図2の(a)を用いて船舶1の油圧系統の挙動を説明する。
本実施形態の船舶1は左右一対かつ互いに左右対称の油圧系統を備えるため、以下では左側の油圧系統の挙動について説明し、右側の油圧系統の説明を省略する。
【0033】
油圧ユニット30Lのメインバルブ32が「操舵固定位置」に配置されたとき、作動油導入経路31aの他端部は閉塞され、作動油排出経路31cの他端部、第一作動油供給経路31eの他端部および第二作動油供給経路31gの他端部は互いに連通する。
その結果、油圧ユニット30Lの第一開放バルブ33が「第一閉塞位置」に配置されるとともに第二開放バルブ34が「第二閉塞位置」に配置されている場合には、油圧ユニット30Lのメインバルブ32と油圧シリンダ11Lとの間の油圧経路(第一作動油供給経路31eのうち第一供給側保持回路38から第一作動油供給口31fまでの部分および第一供給配管21L、ならびに、第二作動油供給経路31gのうち第二供給側保持回路39から第二作動油供給口31hまでの部分および第二供給配管22L)は閉塞される。また、作動油タンク17Lに貯留された作動油は、吸入配管24Lを経て吸入口よりポンプ16Lに吸入され、ポンプ16Lの吐出口から圧送され、圧送配管20L、作動油導入口31bを経て作動油導入経路31aに到達し、その油圧に起因して分流弁37を切り替え、バイパス経路31p、作動油排出経路31c、作動油排出口31d、戻り配管23Lを経て作動油タンク17Lに戻る。
【0034】
このように、油圧ユニット30Lの第一開放バルブ33が「第一閉塞位置」に配置されるとともに第二開放バルブ34が「第二閉塞位置」に配置され、かつ油圧ユニット30Lのメインバルブ32が「操舵固定位置」に配置されたとき、ポンプ16Lから油圧シリンダ11Lへの作動油の供給が阻止され、船体2に対するアウトドライブ6Lの回動角度が保持される。なお、油圧ユニット30Lの第一開放バルブ33が「第一閉塞位置」に配置されるとともに第二開放バルブ34が「第二閉塞位置」に配置されることは、第一開放経路31kの中途部および第二開放経路31mの中途部が閉塞され、ひいては本実施形態の開放バルブが「メインバルブ32と油圧シリンダ11Lとの間の油圧経路が外部に開放されない閉塞位置」に配置されることに相当する。
【0035】
油圧ユニット30Lのメインバルブ32が「伸長操舵位置」に配置されたとき、作動油導入経路31aの他端部は第一作動油供給経路31eの他端部に連通し、作動油排出経路31cの他端部は第二作動油供給経路31gの他端部に連通する。
その結果、油圧ユニット30Lの第一開放バルブ33が「第一閉塞位置」に配置されるとともに第二開放バルブ34が「第二閉塞位置」に配置されている場合には、作動油タンク17Lに貯留された作動油は、吸入配管24Lを経て吸入口よりポンプ16Lに吸入され、ポンプ16Lの吐出口から圧送され、圧送配管20L、作動油導入口31b、作動油導入経路31a、第一作動油供給経路31e、第一作動油供給口31f、第一供給配管21L、第一供給口14Lを経てシリンダ本体12Lの第一作動油室(第一供給口14Lに臨む空間)に供給され、油圧シリンダ11Lのピストンをシリンダ本体12Lの第二作動油室(第二供給口15Lに臨む空間)に向かって押す。
また、シリンダ本体12Lの第二作動油室(第二供給口15Lに臨む空間)に充填されている作動油は、油圧シリンダ11Lのピストンに押されることにより、第二供給口15L、第二供給配管22L、第二作動油供給口31h、第二作動油供給経路31g、作動油排出経路31c、作動油排出口31d、戻り配管23Lを経て作動油タンク17Lに戻る。
【0036】
このように、油圧ユニット30Lの第一開放バルブ33が「第一閉塞位置」に配置されるとともに第二開放バルブ34が「第二閉塞位置」に配置され、かつ油圧ユニット30Lのメインバルブ32が「伸長操舵位置」に配置されたとき、ポンプ16Lから油圧シリンダ11Lの一側(第一供給口14Lを経てシリンダ本体12Lの第一作動油室)に作動油が供給され、油圧シリンダ11Lが伸長し、船体2に対するアウトドライブ6Lの回動角度が変更される(アウトドライブ6Lが船体2に対して平面視で時計回りに回動する)。
【0037】
油圧ユニット30Lのメインバルブ32が「収縮操舵位置」に配置されたとき、作動油導入経路31aの他端部は第二作動油供給経路31gの他端部に連通し、作動油排出経路31cの他端部は第一作動油供給経路31eの他端部に連通する。
その結果、油圧ユニット30Lの第一開放バルブ33が「第一閉塞位置」に配置されるとともに第二開放バルブ34が「第二閉塞位置」に配置されている場合には、作動油タンク17Lに貯留された作動油は、吸入配管24Lを経て吸入口よりポンプ16Lに吸入され、ポンプ16Lの吐出口から圧送され、圧送配管20L、作動油導入口31b、作動油導入経路31a、第二作動油供給経路31g、第二作動油供給口31h、第二供給配管22L、第二供給口15Lを経てシリンダ本体12Lの第二作動油室(第二供給口15Lに臨む空間)に供給され、油圧シリンダ11Lのピストンをシリンダ本体12Lの第一作動油室(第一供給口14Lに臨む空間)に向かって押す。
また、シリンダ本体12Lの第一作動油室(第一供給口14Lに臨む空間)に充填されている作動油は、油圧シリンダ11Lのピストンに押されることにより、第一供給口14L、第一供給配管21L、第一作動油供給口31f、第一作動油供給経路31e、作動油排出経路31c、作動油排出口31d、戻り配管23Lを経て作動油タンク17Lに戻る。
【0038】
このように、油圧ユニット30Lの第一開放バルブ33が「第一閉塞位置」に配置されるとともに第二開放バルブ34が「第二閉塞位置」に配置され、かつ油圧ユニット30Lのメインバルブ32が「収縮操舵位置」に配置されたとき、ポンプ16Lから油圧シリンダ11Lの他側(第二供給口15Lを経てシリンダ本体12Lの第二作動油室)に作動油が供給され、油圧シリンダ11Lが収縮し、船体2に対するアウトドライブ6Lの回動角度が変更される(アウトドライブ6Lが船体2に対して平面視で反時計回りに回動する)。
【0039】
図1に示す操舵ハンドル25、エンジンレバー26、ジョイスティック27および運転モード切り替えスイッチ28は船舶1の操作系を成す。
【0040】
ECU29は船舶1の各部の動作を制御するものである。より詳細には、ECU29は船舶1の各部の動作を制御するための種々のプログラム等を格納し、これらのプログラム等を展開し、これらのプログラム等に従って所定の演算を行い、当該演算結果に基づいて船舶1の各部に指令信号を送信する。
ECU29はエンジン3L・3Rに接続され、エンジン3L・3Rの回転数等の運転状態に係る情報(信号)をエンジン3L・3Rに設けられているセンサから受信可能、かつエンジン3L・3Rの運転状態を変更する指令信号をエンジン3L・3Rの運転状態を変化させるアクチュエータに送信可能である。ECU29は操舵ハンドル25に接続され、操舵ハンドル25の回転角度に係る情報(信号)を操舵ハンドル25に設けられているセンサから受信可能である。ECU29はエンジンレバー26に接続される。エンジンレバー26は二本のレバーからなり、その一方がエンジン3Lに対応し、他方がエンジン3Rに対応する。ECU29はこれらのレバーの各回動角度に係る情報(信号)をエンジンレバー26に設けられているセンサから受信可能である。ECU29はジョイスティック27に接続され、ジョイスティック27の前後方向の傾倒角度および左右方向の傾倒角度に係る情報(信号)をジョイスティック27に設けられているセンサから受信可能である。
ECU29は運転モード切り替えスイッチ28に接続される。船舶1の乗員が運転モード切り替えスイッチ28を押すことにより、「通常運転モード」および「ジョイスティック運転モード」の二つのモードのどちらを選択するかを切り替え可能である。ECU29は、いずれのモードが選択されているかに係る情報(信号)を運転モード切り替えスイッチ28から受信可能である。ECU29は油圧ユニット30Lのメインバルブ32のソレノイドおよび油圧ユニット30Rのメインバルブ32のソレノイドに接続される。ECU29は油圧ユニット30Lのメインバルブ32および油圧ユニット30Rのメインバルブ32のソレノイドにそれぞれ電気信号(切替信号)を送信することによりこれらのメインバルブ32・32の位置をそれぞれ切り替え可能である。
【0041】
ECU29は運転モード切り替えスイッチ28から受信した信号に基づき、「通常運転モード」および「ジョイスティック運転モード」の二つのモードのいずれが選択されているかを認識し、選択されたモードに対応する操船プログラムに基づいて船舶1の各部の動作を制御する。
ECU29は、「通常運転モード」が選択されていると認識した場合、操舵ハンドル25の回動角に応じて油圧ユニット30Lのメインバルブ32の位置および油圧ユニット30Rのメインバルブ32の位置を適宜切り替え、船体2に対するアウトドライブ6L・6Rの回動角度を変更するとともに、エンジンレバー26の二本のレバーの各回動角度に応じてエンジン3L・3Rの回転数およびプロペラ8L・8Rの回転方向(正転、逆転)を変更する。
ECU29は、「ジョイスティック運転モード」が選択されていると認識した場合、ジョイスティック27の前後方向の傾倒角度および左右方向の傾倒角度に基づいて油圧ユニット30Lのメインバルブ32の位置および油圧ユニット30Rのメインバルブ32の位置を適宜切り替え、船体2に対するアウトドライブ6L・6Rの回動角度を変更するとともに、エンジン3L・3Rの回転数およびプロペラ8L・8Rの回転方向(正転、逆転)を変更する。「ジョイスティック運転モード」で操舵が行われる場合、ジョイスティック27を傾倒する方向に応じて、船舶1を(旋回させずに)船体2の左側方、右側方、左前方、右前方、左後方あるいは右後方に移動させることが可能である。
なお、本実施形態ではECU29がアウトドライブ本体7Lの内部の変速機構(不図示)を操作することによりプロペラ8L・8Rの回転方向を互いに独立して変更する。
【0042】
以下では、図1および図2を用いて、船舶1の乗員が手動で船体2に対するアウトドライブ6L・6Rの回動角度を変更する手順を説明する。本実施形態の船舶1は左右一対かつ互いに左右対称の油圧系統を備えるため、以下ではアウトドライブ6Lに対応する左側の油圧系統に対する作業手順を説明し、アウトドライブ6Rに対応する右側の油圧系統に対する作業手順の説明を省略する。
まず、船舶1の乗員が油圧ユニット30Lの第一操作部材35および第二操作部材36の頭部を手で持って回転させ、油圧ユニット30Lの第一開放バルブ33を「第一開放位置」に配置するとともに第二開放バルブ34を「第二閉塞位置」に配置することにより、本実施形態の開放バルブを「開放位置(第一開放経路31kの中途部および第二開放経路31mの中途部が閉塞されない位置)」に切り替える。
その結果、油圧ユニット30Lのメインバルブ32と油圧シリンダ11Lとの間の油圧経路(第一作動油供給経路31eのうち第一供給側保持回路38から第一作動油供給口31fまでの部分および第一供給配管21L、ならびに、第二作動油供給経路31gのうち第二供給側保持回路39から第二作動油供給口31hまでの部分および第二供給配管22L)は、第一開放経路31k、第二開放経路31m、作動油排出経路31c、作動油排出口31d、戻り配管23L、作動油タンク17Lを介して外部に開放される。
次に、船舶1の乗員がティラー9Lの前端部を手で持って押す(引く)ことにより、船体2に対するアウトドライブ6Lの回動角度を変更する。なお、油圧シリンダ11Lのシリンダ本体12Lの第一作動油室あるいは第二作動油室に充填されている作動油は油圧ユニット30Lのメインバルブ32と油圧シリンダ11Lとの間の油圧経路、第一開放経路31k、第二開放経路31m、作動油排出経路31c、作動油排出口31d、戻り配管23Lを経て作動油タンク17Lに戻るので、作動油が船体2の内部に漏洩することはない。
【0043】
以上の如く、本実施形態の油圧ユニット30L・30Rでは、メインバルブ32および開放バルブ(第一開放バルブ33および第二開放バルブ34を合わせたもの)が本体部材31に収容されることにより、これらのバルブが一体的に構成される(一つの単位として取り扱い可能な状態に組み立てられている)。
このように構成することは以下の利点を有する。すなわち、船体2の内部に油圧シリンダ11Lを伸長・収縮させるための油圧系統(通常用の油圧系統)を取り付けた後に油圧シリンダ11Lの内部の作動油を外部に開放するための油圧系統(非常用の油圧系統)を追加的に取り付ける場合に比べ、油圧ユニット30L・30Rを用いた場合には船体2の内部に設けられる油圧系統を全体として小型化することが可能である。
また、船体2の内部に設けられる油圧系統が全体として小型化されることにより、油圧ユニット30L・30Rを船体2の内部に配置する位置の選択の幅(レイアウトの自由度)が大きくなる。また、船体2の内部の空間に余裕が生まれるので、作業者が油圧ユニット30L・30Rと他の配管とを接続する作業が容易となる。
また、油圧ユニット30L・30Rが組み立てられた時点で非常用の油圧系統を接続する作業の大部分は終了しており、船体2の内部で油圧系統に係る部品同士を接続する作業を少なくすることが可能であり、船舶1の船体2の内部における組み立て作業性に優れる。
また、船体2の内部に各部品を取り付ける作業および油圧ユニット30L・30Rを組み立てる作業をそれぞれ別の場所で行い、かつ、油圧ユニット30L・30Rを組み立てる作業を行う場所の清浄度を船体2の内部に各部品を取り付ける作業を行う場所の清浄度よりも高く設定することにより、油圧ユニット30L・30R内部の作動油の経路に異物等が混入することを防止し、ひいては当該異物の混入による船舶1の油圧系統の動作不良を防止することが可能である。
また、油圧ユニット30L・30Rが本体部材31の外部から第一開放バルブ33を操作するための第一操作部材35および本体部材31の外部から第二開放バルブ34を操作するための第二操作部材36を備えることにより、メインバルブ32が動作不良を起こした場合でも船舶1の乗員は第一操作部材35および第二開放バルブ34を操作し、手動で簡単にアウトドライブ6L・6Rの回動角度を変更することが可能である。
【0044】
本実施形態の船舶1はスターンドライブ方式の船舶であるが、本発明に係る船舶操舵用油圧装置はスターンドライブ方式の船舶だけでなくアウトドライブ方式(エンジン、プロペラ、およびエンジンの駆動力をプロペラに伝達する伝達機構を一体化したものを船体に回動可能に連結する駆動方式)の船舶にも適用され得る。換言すれば、本発明に係る「アウトドライブ」は、スターンドライブ方式の船舶におけるアウトドライブ(プロペラおよび駆動力伝達機構を合わせたもの)、および、アウトドライブ方式の船舶におけるアウトドライブ(エンジン、プロペラ、およびエンジンの駆動力をプロペラに伝達する伝達機構を一体化したもの)を含む。
【0045】
本実施形態の船舶1は「アウトドライブ、油圧シリンダおよび船舶操舵用油圧装置を合わせたもの」を二つ具備する(アウトドライブ6L、油圧シリンダ11Lおよび油圧ユニット30Lを合わせたもの、およびアウトドライブ6R、油圧シリンダ11Rおよび油圧ユニット30Rを合わせたものを具備する)が、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明における「アウトドライブ、油圧シリンダおよび船舶操舵用油圧装置を合わせたもの」を具備する数は、単数でも複数でも良い。
【符号の説明】
【0046】
1 船舶、2 船体、3L・3R エンジン、6L・6R アウトドライブ、11L・11R 油圧シリンダ(複動式の油圧シリンダ)、16L・16R ポンプ、30L・30R 油圧ユニット(船舶操舵用油圧装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に回動可能に連結されるアウトドライブと、前記船体および前記アウトドライブに連結されて前記船体に対する前記アウトドライブの回動角度を変更する複動式の油圧シリンダと、前記油圧シリンダに作動油を供給するポンプと、を具備する船舶に設けられ、前記ポンプから前記油圧シリンダへの作動油の供給およびその阻止を行う船舶操舵用油圧装置であって、
前記ポンプと前記油圧シリンダとの間の油圧経路に配置され、前記ポンプから前記油圧シリンダへの作動油の供給を阻止する操舵固定位置、前記ポンプから前記油圧シリンダの一側に作動油を供給して前記油圧シリンダを伸長させる伸長操舵位置、前記ポンプから前記油圧シリンダの他側に作動油を供給して前記油圧シリンダを収縮させる収縮操舵位置、のいずれかの位置に切り替え可能なメインバルブと、
前記メインバルブと前記油圧シリンダとの間の油圧経路に配置され、当該油圧経路が外部に開放される開放位置、および当該油圧経路が外部に開放されない閉塞位置のいずれかの位置に切り替え可能な開放バルブと、
を備え、
前記メインバルブおよび前記開放バルブが一体的に構成される、
船舶操舵用油圧装置。
【請求項2】
前記メインバルブおよび前記開放バルブを収容する本体部材と、
前記本体部材の外部から前記開放バルブを操作するための操作部材と、
を備え、
前記本体部材の内部には、一端部が前記本体部材の外表面に開口して作動油導入口を成すとともに当該一端部が前記ポンプに接続される作動油導入経路と、一端部が前記本体部材の外表面に開口して作動油排出口を成す作動油排出経路と、一端部が前記本体部材の外表面に開口して第一作動油供給口を成すとともに当該一端部が前記油圧シリンダの一側に形成される第一供給口に接続される第一作動油供給経路と、一端部が前記本体部材の外表面に開口して第二作動油供給口を成すとともに当該一端部が前記油圧シリンダの他側に形成される第二供給口に接続される第二作動油供給経路と、前記作動油導入経路の他端部、前記作動油排出経路の他端部、前記第一作動油供給経路の他端部および前記第二作動油供給経路の他端部に接続されて前記メインバルブを収容するメインバルブ室と、一端部が前記第一作動油供給経路の中途部に接続されるとともに他端部が前記作動油排出経路の中途部に接続される第一開放経路と、一端部が前記第二作動油供給経路の中途部に接続されるとともに他端部が前記作動油排出経路の中途部に接続される第二開放経路と、が形成され、
前記開放バルブは、前記第一開放経路および前記第二開放経路の中途部に配置され、
前記開放バルブの開放位置は、前記第一開放経路の中途部および前記第二開放経路の中途部が閉塞されない位置であり、
前記開放バルブの閉塞位置は、前記第一開放経路の中途部および前記第二開放経路の中途部が閉塞される位置である、
請求項1に記載の船舶操舵用油圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−67200(P2013−67200A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205362(P2011−205362)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】