説明

船舶用(水素化)ニトリルゴム−金属積層ガスケット素材

【課題】船舶用エンジンヘッドガスケット等の船舶用として用いた場合にあっても、耐塩水性および耐熱性にすぐれた(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材を提供する。
【解決手段】金属鋼板上に、ジルコニウム元素、リン元素およびアルミニウム元素を含有する表面処理剤、シリカ含有樹脂系加硫接着剤層およびニトリルゴム層または水素化ニトリルゴム層を順次積層してなり、該シリカ含有樹脂系加硫接着剤層としてノボラック型フェノール樹脂100重量部に対してレゾール型フェノール樹脂が200〜500重量部、シリカが100〜500重量部およびニトリルゴム、水素化ニトリルゴムまたはそられのコンパウンドが10〜100重量部よりなる接着剤組成物が用いられた船舶用(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材に関する。さらに詳しくは、耐塩水性エンジンシリンダヘッド用ガスケット等として好適に用いられる船舶用(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材に関する。
【背景技術】
【0002】
耐LLC(ロングライフクーラント)性が必要とされるエンジンシリンダヘッド用ガスケットにはステンレス鋼が用いられるが、ステンレス鋼に直接加硫接着剤を適用し、そこにゴムを加硫接着させても耐液接着耐久性が悪く、浸漬試験を実施すると接着剥離を発生するようになる。
【0003】
この対策として、加硫接着剤塗布の前処理として、ステンレス鋼表面にクロメート処理が施され、水やLLC水溶液に対する耐性を向上させることが行われているが、6価クロムを含有しないクロムフリー処理への要望が強くなってきている。
【0004】
本出願人は先に、ステンレス鋼板上に有機チタン化合物および第4級アンモニウム塩化合物を含有するシラン系下塗り剤、フェノール樹脂系上塗り接着剤およびニトリルゴムを順次積層したエンジンシリンダヘッド用ガスケット素材、ステンレス鋼板上に有機チタン化合物および平均粒径40mm以下の超微粒子金属酸化物を含有するシラン系下塗り剤、フェノール樹脂系上塗り接着剤およびニトリルゴムを順次積層したエンジンシリンダヘッド用ガスケット素材、アルキル変性ノボラック型フェノール樹脂および特定のレゾール型フェノール樹脂よりなる加硫接着剤組成物を金属板とニトリルゴムとを加硫接着させる際のフェノール系接着剤として用いることなどを提案している。
【特許文献1】特開2004−11576号公報
【特許文献2】特開2004−76699号公報
【特許文献3】特開2004−277435号公報
【0005】
このようにしてステンレス鋼板とニトリルゴムとを加硫接着して得られたニトリルゴム-金属積層板は、水やLLC水溶液等の単純な各種水性液に対する浸漬試験では、かなりの高温で長時間迄耐えることが確認されている。しかしながら、このようなニトリルゴム-金属積層板やそれを素材として用いたガスケットでは、実使用環境において同時に異種金属が同一液中で接触している場合が多く、このような場合にはゴム金属積層板と異種金属間に電位が発生し、接着剥れが促進されてしまう現象がみられる。
【0006】
本出願人は、ニトリルゴム-ステンレス鋼積層体を水やLLC水溶液のような電解質に接触させて使用する場合、同一液中にアルミニウムや鉄等の腐食し易い金属が存在すると積層体金属との間に電位が発生し、アルミニウムや鉄等が腐食反応(アノード反応)を起すと共に、積層体のステンレス鋼表面においてカソード反応が起り、これが原因となって接着剥れを発生させるという現象のあることを見出した。それの顕著な例として、アルミニウム製エンジンシリンダヘッド用ガスケットとしてニトリルゴム-ステンレス鋼積層体を使用すると、同じような温度条件下で積層体単体を浸漬試験したものと比べ、短時間でブリスター、接着剥れ等の現象が発生する事例が挙げられる。
【0007】
このような現象を実験室的に再現できる方法が必要であり、そのためにゴムステンレス鋼積層板と水素よりもイオン化エネルギーの小さい金属、例えばアルミニウム板とを試験液中に浸漬し、その際頂部付近は液面より上部に位置するように半浸漬状態として、浸漬液露出部分同士を直接または導線を介して接触させ、例えばゴムステンレス鋼積層板と水素よりもイオン化エネルギーの小さい金属の板状体とを逆V字型で接するように試験液中に浸漬した状態として、液中では互いに接触しない状態で所定時間浸漬した後、積層板について特性値の低下状態の測定または評価を行う耐試験液性確認評価方法が先に提案されている。
【特許文献4】特開2005−49257号公報
【0008】
そこで、本出願人は、ガスケットとしての実使用環境下において、電解質中で異種金属と同時に使用されても接着剥れを生ぜず、上記耐試験液性確認評価方法においても、十分な接着性を保持していると評価し得るニトリルゴム-金属積層ガスケット素材として、ステンレス鋼板上に、ジルコニウム元素、リン元素およびアルミニウム元素を化合物として含有する表面処理剤層、シリカ含有樹脂系加硫接着剤層およびニトリルゴム層を順次積層してなるニトリルゴム-金属積層ガスケット素材を提案している。
【特許文献5】特開2006−218630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば、船外機等の船舶用エンジンヘッドガスケット等の塩水と接触する用途に用いられるエンジンヘッドガスケットにあっては、直接海水を取り込んで冷却を行うため、流水下での耐性ばかりではなく、自動車用エンジンヘッドガスケット等と比較して高い耐塩水性が要求される。しかるに、前記提案されたニトリルゴム-金属積層ガスケット素材は、これを船舶用エンジンヘッドガスケットなどに用いた場合、耐塩水性の点で必ずしも満足されるものではなかった。
【0010】
本発明の目的は、船舶用エンジンヘッドガスケット等の船舶用として用いた場合にあっても、耐塩水性および耐熱性にすぐれた(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる本発明の目的は、金属鋼板上に、ジルコニウム元素、リン元素およびアルミニウム元素を含有する表面処理剤、シリカ含有樹脂系加硫接着剤層およびニトリルゴム層または水素化ニトリルゴム層を順次積層してなり、該シリカ含有樹脂系加硫接着剤層としてノボラック型フェノール樹脂100重量部に対してレゾール型フェノール樹脂が200〜500重量部、シリカが100〜500重量部およびニトリルゴム、水素化ニトリルゴムまたはそられのコンパウンドが10〜100重量部よりなる接着剤組成物が用いられた船舶用(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材によって達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材は、シリカ含有樹脂系加硫接着剤として、ノボラック型フェノール樹脂に対してより多い割合のレゾール型フェノール樹脂およびシリカを用いることにより、ガスケットとしての実使用環境下において、塩化ナトリウム水溶液等の電解質中でアルミニウム、鉄等のステンレス鋼とは異種の金属と同時に使用されても接着剥れを生じない。また、上記耐試験液性確認評価方法においても、十分な耐塩水接着性や耐熱性を保持している。さらに、クロメート処理したステンレス鋼に(水素化)ニトリルゴムを加硫接着させた(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材においても、このような耐試験液性確認評価方法を長時間実施すると剥れが発生するが、本発明の(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材ではそのようなこともなく、クロメート処理ゴム金属積層板と同等の耐水性能を有するクロムフリー(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材を与えることができる。
【0013】
したがって、本発明の(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材は、船外機等の船舶用エンジンヘッドガスケットのように塩水と接触する用途に用いられるエンジンシリンダヘッド用ガスケットとして必要な耐塩水性や耐熱性を兼ね備え、性能バランスにすぐれているので、この種の用途に有効に用いられるばかりではなく、耐塩水性を必要とする船舶等のゴム金属複合部品としても用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
金属鋼板としては、鉄、アルミ、銅などやそれらの合金およびステンレス鋼板等が用いられ、一般にはSUS301、SUS301H、SUS304、SUS430等のステンレス鋼板が用いられる。これらの鋼板上には、ジルコニウム、リンおよびアルミニウムの各元素を含有する表面処理剤層が形成される。
【0015】
この表面処理剤層において、ジルコニウムとアルミニウムの元素質量比率が90:10〜10:90、好ましくは70:30〜30:70、またジルコニウムとリンの元素質量比率が95:5〜60:40、好ましくは90:10〜68:32の割合で形成される。アルミニウムの量がこれより多いと、造膜不良が生じたり、皮膜が脱離し易くなり、一方これより少ないと、耐熱性および耐水性が低下するようになる。また、リンの量がこれより多いと耐熱性が低下し、一方これより少ないと造膜不良を生じる。
【0016】
これらの皮膜中のジルコニウム成分としては、リン酸ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムの形で存在しているが、リン酸ジルコニウムの形で存在していることが好ましい。これらを形成させるための成分としては、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、酸化ジルコニウム等が含有した処理液が用いられるが、好ましくは炭酸ジルコニウムアンモニウムを含有した処理液が用いられる。アルミニウムは、けい酸アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが含有している処理液によって、皮膜中に存在させるが、酸化アルミニウムの形で存在させるのが好ましい。皮膜中のリン成分は、リン酸を添加することによって供給されるが、その添加量はZr:P質量比率が95:5〜60:40になるように調整される。
【0017】
また、表面処理剤中には、その効果を高めまた液の安定性を確保する目的で、リン酸、硝酸、硫酸等の無機酸、ギ酸、酢酸等の有機酸、水酸化アンモニウム(アンモニア水)、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、モルホリン、コリン等の含窒素アルカリ性化合物などを添加することもできる。
【0018】
表面処理剤は、以上の各成分を水中に溶解または分散させた液として、アルカリ等で脱脂された鋼板、好ましくはステンレス鋼板上に噴霧、浸漬、刷毛塗り、ロールコータ等の方法によって、片面目付け量が約10〜1000mg/m2、好ましくは約50〜500mg/m2となるように塗布され、室温または温風下で乾燥させた後、約100〜250℃で約0.5〜20分間程度焼付け処理が実施される。
【0019】
表面処理剤処理が施された鋼板、好ましくはステンレス鋼板上には、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対してレゾール型フェノール樹脂が200〜500重量部、シリカが100〜500重量部およびニトリルゴム、水素化ニトリルゴムまたはそれらのコンパウンドが10〜100重量部よりなる接着剤組成物が用いられたシリカ含有樹脂系加硫接着剤層が形成される。
【0020】
シリカ(酸化けい素)としては、SiO2含有量が85%以上の乾式または湿式シリカを有機溶媒または水中にて分散させたもの、好ましくは高純度の無水シリカの微粒子を有機溶媒または水中にて分散させ、コロイド状としたいわゆるコロイダルシリカが用いられる。コロイダルシリカとしては、平均粒径が1〜50nm、好ましくは10〜30nmのものであって、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの有機溶媒に分散されているものが用いられ、例えば市販品であるメタノールシリカゾル(日産化学工業製品:メタノール中に固形分濃度30重量%で分散したもの)、スノーテックスMEK-ST(同社製品;メチルエチルケトン中に固形分濃度30重量%で分散したもの)、スノーテックスMIBK-ST(同社製品;メチルイソブチルケトン中に固形分濃度30重量%で分散したもの)などが用いられる。
【0021】
このようなシリカは、一般に熱硬化性フェノール樹脂中に分散させた状態であるいは熱硬化性フェノール樹脂と併用された状態で用いられる。
【0022】
加硫接着剤の一成分として用いられるフェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂の他、ジヒドロベンゾオキサジン環を有するフェノール樹脂も用いられ、これらのフェノール樹脂と共にレゾール型フェノール樹脂が併用され、さらに未加硫をニトリルゴムまたはそれのコンパウンドを添加して用いることもできる。
【0023】
ノボラック型フェノール樹脂としては、フェノール、p-クレゾール、m-クレゾール、p-第3ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、ビスフェノールA等のフェノール性水酸基に対してo-位および/またはp-位に2個または3個の置換可能な核水素原子を有するフェノール類またはこれらの混合物とホルムアルデヒドとを、塩酸、しゅう酸等の酸触媒の存在下において縮合反応させることによって得られる軟化点が約80〜150℃の樹脂が使用され、好ましくはm-クレゾール、p-クレゾール混合物とホルムアルデヒドとから製造された軟化点100℃以上のものが用いられる。
【0024】
レゾール型フェノール樹脂としては、上記縮合反応を水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、アンモニア等のアルカリ触媒の存在下で反応させたものが用いられる。
【0025】
また、ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性フェノール樹脂としては、ジヒドロベンゾオキサジン環を有し、ジヒドロベンゾオキサジン環の開環反応によって硬化する熱硬化性フェノール樹脂であれば任意のものを使用することができ、例えばフェノール性水酸基を有する化合物、1級アミンおよびホルムアルデヒドから、次式に示される如く、ジヒドロ-2H-1,3-ベンゾオキサジン誘導体が合成される。

【特許文献6】特開2004−83623号公報
【0026】
フェノール性水酸基を有する化合物としては、芳香環のフェノール性水酸基に対して少くとも一方のo−位に水素原子が結合していることが必要であり、好ましくは分子中にフェノール性水酸基が複数個存在する多官能性フェノール類が用いられる。具体的には、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン等のフェノール類、1,5-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール類、ノボラック型またはレゾール型フェノール樹脂、メラミンフェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂等のフェノール樹脂類が例示される。
【0027】
また、1級アミンとしては、アニリン、トルイジン等の芳香族アミン類またはメチルアミン、エチルアミン等の脂肪族アミンが例示される。
【0028】
これらのフェノール性水酸基を有する化合物と1級アミンのそれぞれ1モルに対して、2モル以上のホルムアルデヒドが用いられ、しゅう酸触媒等の存在下に、反応温度約70〜130℃、好ましくは約90〜110℃で約1/3〜4時間程度反応させた後、減圧下120℃以下で未反応のフェノール性化合物、1級アミン類、ホルムアルデヒド等を除去することにより、ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂が得られる。
【0029】
樹脂成分としては、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対してレゾール型フェノール樹脂が約150〜1000重量部、好ましくは約200〜500重量部の割合で併用されたものが一般に用いられる。レゾール型フェノール樹脂の併用は、耐塩水接着性をさらに向上させるという効果をもたらし、ただしこれ以上の割合で併用されると、耐熱接着性が低下するようになる。また、シリカは、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して約1〜1000重量部、好ましくは約100〜500重量部の割合で用いられる。これよりもシリカの割合が多いと初期接着性、耐熱性が低下し、一方これよりも少ない割合で用いられると耐塩水接着性が低下するようになる。
【0030】
また、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムまたはそれらのコンパウンドの添加は、ノボラック型フェノール樹脂100重量部当り約1〜1000重量部、好ましくは約10〜100重量部の割合で添加して用いられる。(水素化)ニトリルゴム(コンパウンド)の添加は、加硫接着剤層の耐熱接着性をさらに向上させるが、これ以上の割合での添加は耐塩水接着性を低下させる。短時間の焼付処理で使用する場合には、ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤としてノボラック型フェノール樹脂100重量部当り約1〜100重量部、好ましくは約3〜15重量部のヘキサメチレンテトラミンが併用される。
【0031】
シリカ含有樹脂系加硫接着剤は、一般にメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系有機溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶媒またはこれらの混合溶媒を用い、その成分濃度が約0.1〜10重量%の有機溶媒溶液として調製され、表面処理剤の場合と同様の方法で約50〜2000mg/m2の片面目付け量で塗布され、室温または温風下で乾燥させた後、約100〜250℃で約1〜20分間の焼付け処理が行われる。
【0032】
このようにして形成された加硫接着剤層上には、未加硫の(水素化)ニトリルゴムコンパウンドが約5〜120μm程度の片面厚さの加硫物層を両面に形成せしめるように、(水素化)ニトリルゴムコンパウンドの有機溶媒溶液として塗布される。ニトリルゴムとしては、その硬化物の硬度(デュロメーターA)が80以上で、圧縮永久歪(100℃、22時間)が50%以下のものであればよく、特に配合内容によって制限されるものではないが、イオウ、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のイオウ系加硫剤を用いたコンパウンドとして使用することもできるものの、好ましくは有機過酸化物を架橋剤として使用した未加硫ニトリルゴムコンパンドとして用いられる。かかるパーオキサイド架橋系の未加硫ニトリルゴムコンパウンドとしては、例えば次のような配合例が示される。
(配合例I)
NBR(JSR製品N235S) 100重量部
SRFカーボンブラック 80 〃
炭酸カルシウム 80 〃
粉末状シリカ 20 〃
酸化亜鉛 5 〃
老化防止剤(大内新興化学製品ノクラック224) 2 〃
トリアリルイソシアヌレート 2 〃
1,3-ビス(第3ブチルパーオキシ)イソプロピルベンゼン 2.5 〃
可塑剤(バイエル社製品ブカノールOT) 5 〃
【0033】
また、水素化ニトリルゴムが用いられる場合には、そのヨウ素価が約4〜15であって、そこに無機充填剤やN,N′-m-フェニレンビスマレイミド架橋促進剤などを配合した未加硫水素化ニトリルゴムコンパウンドが有機過酸化物によって過酸化物架橋される。過酸化物架橋された硬化物の性状は、ニトリルゴムの場合と同様であることが好ましい。
(配合例II)
水素化NBR(日本ゼオン製品Zetpol2000) 100重量部
SRFカーボンブラック 10 〃
炭酸カルシウム 100 〃
N,N′-m-フェニレンビスマレイミド 5 〃
酸化亜鉛 5 〃
老化防止剤(大内新興化学製品ノクラックCD) 3 〃
ジクミルパーオキサイド 15 〃
【0034】
塗布された未加硫ゴム層は、室温乃至約100℃の温度で約1〜15分間程度乾燥し、有機溶媒として用いられたメタノール、エタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類またはこれらの混合溶媒などを揮発させた後、約150〜230℃で約0.5〜30分間加熱加硫し、必要に応じて加圧して加硫することも行われる。加硫された(水素化)ニトリルゴム層は、ガスケットとしての用途上、硬度(デュロメーターA)が80以上で、圧縮永久歪(100℃、22時間)が50%以下であることが望ましく、粘着防止が必要な場合には、その表面に粘着防止剤を塗布することもできる。
【0035】
粘着防止剤は、ゴム同士やゴムと金属との粘着を防止する目的で使用され、加硫(水素化)ニトリルゴム層上に皮膜を形成し得るものであれば任意のものを用いることができ、例えばシリコーン系、フッ素系、グラファイト系、アミド、パラフィン等のワックス系、ポリオレフィン系またはポリブタジエン系のもの等が挙げられるが、好ましくは液状の1,2-ポリブタジエン水酸基含有物、1,2-ポリブタジエンイソシアネート基含有物およびポリオレフィン系樹脂の有機溶剤分散液からなる粘着防止剤が用いられる。
【特許文献7】特開平7−165953号公報
【実施例】
【0036】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0037】
実施例1〜5、比較例1〜7
アルカリ脱脂したSUS301ステンレス鋼板(厚さ0.2mm)上に、表面処理剤皮膜中でのZr、P、Alの元素質量比率が表1に示される割合になるように、炭酸ジルコニウムアンモニウム、リン酸およびアルミナの量を調整した表面処理剤を、片面目付け量200〜300mg/m2になるように塗布し、200℃で1分間の乾燥を行った。なお表面処理剤は、pH6〜10になるように、水酸化アンモニウムで調製された。
表1
元素質量比率
表面処理剤層成分組成比 Zr: P Zr:Al
表面処理剤 Zr P Al Zr P Zr Al
〔Zr:P〕
A(下限) 37 16 47 70 30 44 56
B(上限) 30 2 68 94 6 31 69
C(中間) 35 10 55 78 22 39 61
〔Zr:Al〕
D(下限) 10 2 88 82 18 10 90
E(上限) 72 20 8 78 22 90 10
F〔Al多し〕 4 1 95 80 20 4 96
G〔Al少ない〕 67 27 6 71 29 92 8
H〔P多し〕 30 30 40 50 50 43 57
I〔P少ない〕 52 2 46 96 4 53 47
J〔Alなし〕 80 20 − 80 20 100 −
K〔Zrなし〕 − 15 85 − 100 − 100
L〔Pなし〕 45 0 55 100 − 45 55
この表面処理剤A〜EおよびF〜Lを塗布した鋼板上に、
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 667 〃
ヘキサメチレンテトラミン 10 〃
コロイダルシリカ(日産化学製品スノーテックスMEK-ST; 1000 〃
固形分濃度30重量%のメチルエチルケトン溶液)
前記配合例Iのニトリルゴムコンパウンド 800 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 13623 〃
よりなる加硫接着剤A(溶液の場合は溶液量として表示;以下同じ)を皮膜量が1500mg/m2となるように塗布し、室温で乾燥させた後、220℃で5分間の焼付け処理を行った。
【0038】
この加硫接着剤塗布鋼板上に、前記配合例Iのニトリルゴムコンパウンドの25重量%トルエン-メチルエチルケトン(重量比9:1;前記混合溶媒溶液の混合比も同じ)混合溶媒溶液を塗布し、60℃で15分間乾燥させて片面厚さ20μmの未加硫ゴム層を形成させた後、220℃、60kgf/cm2(5.88MPa)、2分間の条件下で加圧加硫を行って、ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材を作製した。
【0039】
このガスケット素材について、次のような各種試験を行った。
耐塩水性試験:ゴムステンレス鋼積層ガスケット素材とアルミニウム板とを5重量%塩化ナトリウム水溶液中に浸漬し、その際頂部付近は液面より上部に位置するように半浸漬状態として、浸漬液露出部分を直接接触させ、液中では互いに接触しない状態で80℃で100時間または240時間攪拌(100rpm)しながら浸漬した後、ガスケット素材についてJIS K5600-5-6に準拠してゴバン目テープ剥離を実施し、次のような評点で評価した
評点5:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目も剥れない
〃 4:カットの交差点において塗膜の小さな剥れあり(剥れ面積率5%未満)
〃 3:塗膜がカットの縁に沿って及び/又は交差点において剥れがみられる
(剥れ面積率5〜15%)
〃 2:塗膜のカットの縁に沿って、部分的又は全体的に大きな剥れを生じており
、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全体的に剥れている(剥れ
面積率15〜35%)
〃 1:塗膜のカットの縁に沿って、部分的又は全体的に大きな剥れを生じており
、及び/又は数ヶ所の目が部分的又は全体的に剥れている(剥れ面積率35%
以上)
耐熱性試験:ガスケット素材を150℃の空気中に100時間または240時間加熱暴露した後、JIS K5600-5-1に準拠して耐屈曲性試験(4mm径マンドレル使用)を実施し、次のような評点で評価した
評点5:割れ、剥れなし
〃 4:端面に小さなひび割れあり
〃 3:全体的に小さなひび割れあり
〃 2:全体的にひび割れあり
〃 1:完全に剥がれている
【0040】
実施例6〜10、比較例8〜14
実施例1〜5、比較例1〜7において、加硫接着剤Aの代りに次の組成を有する加硫接着剤Bが用いられた。
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 1667 〃
ヘキサメチレンテトラミン 10 〃
コロイダルシリカ(スノーテックスMEK-ST) 1000 〃
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 800 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 18623 〃
【0041】
実施例11〜15、比較例15〜21
実施例1〜5、比較例1〜7において、加硫接着剤Aの代りに次の組成を有する加硫接着剤Cが用いられた。
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 1167 〃
ヘキサメチレンテトラミン 10 〃
コロイダルシリカ(スノーテックスMEK-ST) 1000 〃
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 800 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 16123 〃
【0042】
実施例16〜20、比較例22〜28
実施例1〜5、比較例1〜7において、加硫接着剤Aの代りに次の組成を有する加硫接着剤Dが用いられた。
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 1167 〃
ヘキサメチレンテトラミン 10 〃
コロイダルシリカ(スノーテックスMEK-ST) 333 〃
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 800 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 12790 〃
【0043】
比較例29〜32
実施例3において、加硫接着剤Aの代りに次の組成を有する加硫接着剤E〜Hが用いられた。
加硫接着剤E:
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 333 〃
ヘキサメチレンテトラミン 10 〃
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 1000 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
コロイダルシリカ(スノーテックスMEK-ST) 800 〃
メチルエチルケトン 11957 〃
【0044】
加硫接着剤F:
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 4000 〃
ヘキサメチレンテトラミン 10 〃
コロイダルシリカ(スノーテックスMEK-ST) 1000 〃
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 800 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 36200 〃
【0045】
加硫接着剤G:
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 1167 〃
ヘキサメチレンテトラミン 10 〃
コロイダルシリカ(スノーテックスMEK-ST) 267 〃
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 800 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 12456 〃
【0046】
加硫接着剤H:
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 1167 〃
ヘキサメチレンテトラミン 10 〃
コロイダルシリカ(スノーテックスMEK-ST) 2000 〃
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 800 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 21123 〃
【0047】
実施例21〜24、比較例33〜36
実施例3において、加硫接着剤Aの代わりに加硫接着剤A〜Hで用いられた前記配合例Iのニトリルゴムコンパウンド(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)の代りに、同量の前記配合例IIの水素化ニトリルゴムコンパウンド(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)を用いた加硫接着剤A′〜H′が用いられ、また前記配合例Iのニトリルゴムコンパウンド混合溶媒溶液の代りに前記配合例IIの水素化ニトリルゴムコンパウンドの25重量%トルエン-メチルエチルケトン(重量比9:1)混合溶媒溶液を用いて未加硫ゴム層の形成が行われ、得られた水素化ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材について同様の耐塩水性試験および耐熱性試験が行われた。
【0048】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表2に示される。
表2
表面 加硫 耐塩水試験 耐熱試験
処理剤 接着剤 100hr 240hr 100hr 240hr
実施例1 A A 5 5 5 5
〃 2 B A 5 4 5 5
〃 3 C A 5 5 5 5
〃 4 D A 5 5 5 5
〃 5 E A 5 4 5 5
比較例1 F A 5 4 1 1
〃 2 G A 1 1 5 5
〃 3 H A 4 3 2 1
〃 4 I A 3 1 3 2
〃 5 J A 1 1 3 2
〃 6 K A 1 1 1 1
〃 7 L A 2 1 2 1
実施例6 A B 5 5 5 5
〃 7 B B 5 5 5 5
〃 8 C B 5 5 5 5
〃 9 D B 5 5 5 4
〃 10 E B 5 5 5 5
比較例8 F B 5 4 1 1
〃 9 G B 1 1 3 2
〃 10 H B 4 3 1 1
〃 11 I B 3 1 2 1
〃 12 J B 1 1 2 1
〃 13 K B 1 1 1 1
〃 14 L B 2 1 1 1
実施例11 A C 5 5 5 5
〃 12 B C 5 5 5 5
〃 13 C C 5 5 5 5
〃 14 D C 5 5 5 5
〃 15 E C 5 5 5 5
比較例15 F C 5 4 2 1
〃 16 G C 2 1 4 3
〃 17 H C 4 3 1 1
〃 18 I C 3 2 2 1
〃 19 J C 2 1 3 1
〃 20 K C 2 1 2 1
〃 21 L C 3 1 2 1
実施例16 A D 5 5 5 5
〃 17 B D 5 4 5 5
〃 18 C D 5 5 5 5
〃 19 D D 5 5 5 5
〃 20 E D 5 4 5 5
比較例22 F D 4 3 1 1
〃 23 G D 2 1 3 1
〃 24 H D 3 2 1 1
〃 25 I D 3 1 1 1
〃 26 J D 2 1 2 1
〃 27 K D 2 1 1 1
〃 28 L D 2 1 1 1
〃 29 C E 1 1 5 5
〃 30 C F 5 4 1 1
〃 31 C G 1 1 5 5
〃 32 C H 5 5 1 1
実施例21 C A′ 5 5 5 5
〃 22 C B′ 5 4 5 5
〃 23 C C′ 5 5 5 5
〃 24 C D′ 5 4 5 5
比較例33 C E′ 2 1 5 5
〃 34 C F′ 3 1 1 1
〃 35 C G′ 2 1 5 5
〃 36 C H′ 3 2 2 1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属鋼板上に、ジルコニウム元素、リン元素およびアルミニウム元素を含有する表面処理剤、シリカ含有樹脂系加硫接着剤層およびニトリルゴム層を順次積層してなり、該シリカ含有樹脂系加硫接着剤層としてノボラック型フェノール樹脂100重量部に対してレゾール型フェノール樹脂が200〜500重量部、シリカが100〜500重量部およびニトリルゴム、水素化ニトリルゴムまたはそれらのコンパウンドが10〜100重量部よりなる接着剤組成物が用いられた船舶用(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項2】
金属鋼板がステンレス鋼板である請求項1記載の船舶用(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項3】
さらにヘキサメチレンテトラミンが添加された接着剤組成物が用いられた請求項1記載の船舶用(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項4】
ニトリルゴム層上に粘着防止層を形成せしめた請求項1の船舶用(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項5】
エンジンシリンダヘッド用ガスケットとして使用される請求項1記載の船舶用(水素化)ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。

【公開番号】特開2008−75808(P2008−75808A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257352(P2006−257352)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】