船舶識別装置
【課題】大規模な処理装置等を実装することなく、他の船舶に成りすましている不審船を検出することができるとともに、精度よく船舶の個体識別を行うことができるようにする。
【解決手段】信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合、AIS受信機14により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶については利用者IDに係る船舶であると判別し、信号特性照合部17により信号特性が合致していないと判定された場合、あるいは、その利用者IDがデータベース15に登録されていない場合、上記AIS装置が搭載されている船舶については不審船であると判別する。
【解決手段】信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合、AIS受信機14により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶については利用者IDに係る船舶であると判別し、信号特性照合部17により信号特性が合致していないと判定された場合、あるいは、その利用者IDがデータベース15に登録されていない場合、上記AIS装置が搭載されている船舶については不審船であると判別する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動船舶識別装置を搭載している船舶の個体識別を行う船舶識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の個体識別を行う船舶識別装置に相当する不審船監視装置が、例えば、以下の特許文献1に開示されている。
この不審船監視装置では、以下のようにして、船舶の個体識別を行っている。
まず、不審船監視装置は、船舶に搭載されているレーダ装置から発信されるレーダ波を受信し、そのレーダ波のパターンデータを分析する。
不審船監視装置は、レーダ波のパターンデータを分析すると、そのレーダ波のパターンデータと、予めデータベースに登録されているパターンデータ(既知の船舶に搭載されているレーダ装置から発信されるレーダ波のパターンデータ)とを照合して、合致するパターンデータを検索する。
【0003】
不審船監視装置は、データベースに登録されているパターンデータの中に、レーダ波のパターンデータと合致するパターンデータが存在していれば、そのパターンデータに対応する船舶識別データ(データベースには、各パターンデータと対にして、船舶を特定する船舶識別データが登録されている)を出力する。
一方、データベースに登録されているパターンデータの中に、レーダ波のパターンデータと合致するパターンデータが存在していなければ、不審船の検出情報を出力する。
【0004】
ただし、不審船監視装置では、上述したパターンデータの分析処理や照合処理を実施する前に、船舶に搭載されている自動船舶識別装置から発信されるAIS(Automatic Identification System)信号を受信して、そのAIS信号に含まれている船舶識別データを抽出し、その船舶識別データがデータベースに登録されているか否かを判定する。
不審船監視装置は、その船舶識別データがデータベースに登録されていれば、当該船舶については「非不審船」であると認定し、上述したパターンデータの分析処理や照合処理を省略する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−31188号公報(段落番号[0032])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の船舶識別装置は以上のように構成されているので、AIS信号に含まれている船舶識別データがデータベースに登録されていれば、レーダ波のパターンデータの分析処理や照合処理を省略して、処理負荷の軽減を図ることができる。しかし、AIS信号に含まれている船舶識別データを改竄して、他の船舶に成りすます行為が行われている場合、その成りすましを見抜くことができず、不審船を検出することができない課題があった。
また、レーダ波のパターンデータの分析処理や照合処理は、計算機の処理負荷が大きいので、多数の船舶が往来する海域では、個々の船舶を監視するために、複数のレーダ装置系統や大規模な処理装置などが必要になる課題があった。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、大規模な処理装置等を実装することなく、他の船舶に成りすましている不審船を検出することができるとともに、精度よく船舶の個体識別を行うことができる船舶識別装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る船舶識別装置は、AIS信号受信手段により受信されたAIS信号の信号特性を分析する信号特性分析手段と、AIS信号受信手段により受信されたAIS信号を復調するAIS信号復調手段と、AIS信号復調手段により復調されたAIS信号に含まれている利用者IDを抽出し、その利用者IDがデータベースに登録されている場合、信号特性分析手段により分析されたAIS信号の信号特性とデータベースに登録されている上記利用者IDに対応するAIS信号の信号特性とを照合して、双方のAIS信号の信号特性が合致しているか否かを判定する信号特性照合手段とを設け、信号特性照合手段により信号特性が合致していると判定された場合、船舶判別手段が、AIS信号受信手段により受信されたAIS信号を発信している自動船舶識別装置が搭載されている船舶については上記利用者IDに係る船舶であると判別し、信号特性照合手段により信号特性が合致していないと判定された場合又は上記利用者IDが上記データベースに登録されていない場合、船舶判別手段が、上記自動船舶識別装置が搭載されている船舶については不審船であると判別するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、AIS信号受信手段により受信されたAIS信号の信号特性を分析する信号特性分析手段と、AIS信号受信手段により受信されたAIS信号を復調するAIS信号復調手段と、AIS信号復調手段により復調されたAIS信号に含まれている利用者IDを抽出し、その利用者IDがデータベースに登録されている場合、信号特性分析手段により分析されたAIS信号の信号特性とデータベースに登録されている上記利用者IDに対応するAIS信号の信号特性とを照合して、双方のAIS信号の信号特性が合致しているか否かを判定する信号特性照合手段とを設け、信号特性照合手段により信号特性が合致していると判定された場合、船舶判別手段が、AIS信号受信手段により受信されたAIS信号を発信している自動船舶識別装置が搭載されている船舶については上記利用者IDに係る船舶であると判別し、信号特性照合手段により信号特性が合致していないと判定された場合又は上記利用者IDが上記データベースに登録されていない場合、船舶判別手段が、上記自動船舶識別装置が搭載されている船舶については不審船であると判別するように構成したので、大規模な処理装置等を実装することなく、他の船舶に成りすましている不審船を検出することができるとともに、精度よく船舶の個体識別を行うことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1による船舶識別装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による船舶識別装置のAIS電波分析装置13を示す構成図である。
【図3】AIS信号の変調方式を示す説明図である。
【図4】AIS信号の信号波形と周波数変移の一例を示す説明図である。
【図5】AIS信号における1タイムスロット内のデータ構成を示す説明図である。
【図6】AIS信号のタイムスロットを示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態1による船舶識別装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図8】AIS信号の立ち上がり部分の信号波形を示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態2による船舶識別装置を示す構成図である。
【図10】図9の船舶識別装置が位置を偽っている船舶からAIS信号を受信している様子を示す説明図である。
【図11】この発明の実施の形態2による船舶識別装置の真偽判定部32の処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による船舶識別装置を示す構成図である。
図1において、船舶1,2は自動船舶識別装置(以下、「AIS装置」と称する)を搭載しており、このAIS装置がAIS(Automatic Identification System)信号を発信する。
所定条件を具備する船舶には、AIS装置の搭載が義務付けられており、AIS装置が発信するAIS信号は、いわゆる船舶データを示す信号である。
【0012】
このAIS信号は、例えば、船舶の利用者IDのほか、海上移動業務識別(MMSI)、船名、船種、喫水、目的地、到着予定時刻、船舶名、航海情報、緯度、経度、速力、針路、船体長、船首方位などの情報を含んでいる。
また、AIS信号は、例えば、GMSK(Gaussian filtered Minimum Shift Keying)の変調方式で変調され、AIS装置から定期的にVHF帯電波で発信される。
この実施の形態1では、説明の便宜上、船舶1は予め登録されている非不審船であり、船舶2は不審船であるものとする。
なお、この実施の形態1では、説明の簡単化のため、航行している船舶の台数が2台だけであるが、3台以上の船舶からAIS信号を受信して、3台以上の船舶の個体識別を行うようにしてもよいことは言うまでもない。
【0013】
空中線であるアンテナ11は船舶1,2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号を受信する。
分配器12はアンテナ11により受信されたAIS信号をAIS電波分析装置13とAIS受信機14に分配する処理を実施する。
なお、アンテナ11及び分配器12からAIS信号受信手段が構成されている。
【0014】
AIS電波分析装置13は分配器12により分配されたAIS信号を受けると、そのAIS信号の信号特性として、そのAIS信号の周波数変移及びレベル変移(信号波形)を分析して、そのAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)を分析処理器16に出力する処理を実施する。なお、AIS電波分析装置13は信号特性分析手段を構成している。
AIS受信機14は分配器12により分配されたAIS信号を復調して、復調後のAIS信号を分析処理器16に出力する処理を実施する。なお、AIS受信機14はAIS信号復調手段を構成している。
【0015】
データベース15は例えばハードディスクなどの外部記憶装置から構成されており、予め識別対象の船舶の利用者IDと、当該船舶に搭載されているAIS装置から発信されるAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)が登録されている。
図1の例では、船舶1の利用者ID及び船舶1に搭載されているAIS装置から発信されるAIS信号の信号特性については登録されているが、不審船である船舶2の利用者ID及び船舶2に搭載されているAIS装置から発信されるAIS信号の信号特性については登録されていない。
【0016】
分析処理器16は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されている信号特性照合部17、船舶判別部18及びAIS信号記録部19を実装しており、船舶1,2が不審船であるか、非不審船であるかを判別する処理などを実施する。
信号特性照合部17はAIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている利用者IDを抽出し、その利用者IDがデータベース15に登録されている場合、AIS電波分析装置13により分析されたAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)と、データベース15に登録されている上記利用者IDに対応するAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)とを照合して、双方のAIS信号の信号特性が合致しているか否かを判定する処理を実施する。なお、信号特性照合部17は信号特性照合手段を構成している。
【0017】
船舶判別部18は信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合、アンテナ11により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶については、信号特性照合部17により抽出された利用者IDに係る船舶であると判別し、信号特性照合部17により信号特性が合致していないと判定された場合、あるいは、信号特性照合部17により抽出された利用者IDがデータベース15に登録されていない場合、アンテナ11により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶については、不審船であると判別する処理を実施する。なお、船舶判別部18は船舶判別手段を構成している。
【0018】
AIS信号記録部19は信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合、信号特性照合部17により抽出された利用者IDに係る船舶の観測データとして、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている情報をデータベース15に記録し、信号特性照合部17により信号特性が合致していないと判定された場合、あるいは、信号特性照合部17により抽出された利用者IDがデータベース15に登録されていない場合、不審船の観測データとして、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている情報をデータベース15に記録する処理を実施する。なお、AIS信号記録部19はAIS信号記録手段を構成している。
表示処理器20は分析処理器16の分析結果などをディスプレイに表示する処理を実施する。
【0019】
図1の例では、船舶識別装置の構成要素であるアンテナ11、分配器12、AIS電波分析装置13、AIS受信機14、データベース15、分析処理器16及び表示処理器20のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものを想定しているが、船舶識別装置がコンピュータで構成される場合、分配器12、AIS電波分析装置13、AIS受信機14、データベース15、分析処理器16及び表示処理器20の処理内容を記述しているプログラムをコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにしてもよい。
図7はこの発明の実施の形態1による船舶識別装置の処理内容を示すフローチャートである。
【0020】
図2はこの発明の実施の形態1による船舶識別装置のAIS電波分析装置13を示す構成図である。
図2において、BPF(Band Pass Filter)21は分配器12により分配されたAIS信号のうち、特定の周波数帯の信号だけを通過させるフィルタである。
A/D変換器22はBPF21から出力されたAIS信号をアナログ信号からディジタル信号に変換する処理を実施する。
【0021】
波形分析器23はA/D変換器22から出力されたディジタル信号であるAIS信号の信号レベルの変化を監視して、そのAIS信号の信号波形を分析し、そのAIS信号の信号波形を分析処理器16に出力する処理を実施する。
高速フーリエ変換回路24はA/D変換器22から出力されたディジタル信号であるAIS信号をFFT(Fast Fourier Transform)して、そのAIS信号の周波数成分を周波数分析器25に出力する処理を実施する。
周波数分析器25は高速フーリエ変換回路24から出力されたAIS信号の周波数成分の変化を監視して、そのAIS信号の周波数変移を分析し、そのAIS信号の周波数変移を分析処理器16に出力する処理を実施する。
【0022】
次に動作について説明する。
船舶1,2に搭載されているAIS装置は、利用者IDなどの情報を含むAIS信号のディジタル符号をGMSKの変調方式で変調し、変調後のAIS信号を定期的にVHF帯電波で発信する。
AIS信号の変調方式がGMSKであるため、図3に示すように、AIS信号の変調方式がMSKの場合と異なり、そのAIS信号の周波数が緩やかに変移する。
【0023】
AIS信号の信号波形と周波数変移は、後述するAIS電波分析装置13により分析されるが、AIS電波分析装置13から出力されるAIS信号の信号波形と周波数変移は、例えば、図4に示すようになる。
ここで、図5はAIS信号における1タイムスロット内のデータ構成を示す説明図である。
AIS信号に含まれている情報(データ)のうち、船舶の航行状態に依らない静的データは、通常、観測中変化しないので、継続的に観測して周波数がf1からf2への変移、f2からf1への変移観測における周波数分解能を改善させることができる。
特に船舶毎に固有の利用者IDは、長期的な観測データを蓄積することで詳細な特徴をつかむ端緒となる。
【0024】
また、図6はAIS信号のタイムスロットを示す説明図である。
AIS信号は時分割多元接続(TDMA)で送信されるが、図6に示すように、AIS(ClassA)の場合は、各フレームにおいて、同一のタイムスロットを使用するため、識別対象の船舶のAIS信号が連続して受信される間は、容易に同じ船舶のAIS信号を待ち受けることができるため、周波数分解能を改善することができる。
【0025】
船舶識別装置の分配器12は、アンテナ11が船舶1に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号を受信すると(ステップST1)、そのAIS信号をAIS電波分析装置13とAIS受信機14に分配する(ステップST2)。
また、分配器12は、アンテナ11が船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号を受信すると(ステップST1)、そのAIS信号をAIS電波分析装置13とAIS受信機14に分配する(ステップST2)。
【0026】
AIS電波分析装置13は、分配器12により分配されたAIS信号を受けると、そのAIS信号の信号特性として、そのAIS信号の周波数変移及びレベル変移(信号波形)を分析して、そのAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)を分析処理器16に出力する。
以下、AIS電波分析装置13によるAIS信号の信号特性の分析処理を具体的に説明する。
【0027】
AIS電波分析装置13のBPF21は、分配器12により分配されたAIS信号を受けると、そのAIS信号のうち、特定の周波数帯の信号だけをA/D変換器22側に通過させる。
A/D変換器22は、BPF21を通過したAIS信号を受けると、そのAIS信号をアナログ信号からディジタル信号に変換し、そのディジタル信号を波形分析器23及び高速フーリエ変換回路24に出力する。
【0028】
波形分析器23は、A/D変換器22からディジタル信号であるAIS信号を受けると、そのAIS信号の信号レベルの変化を監視して、そのAIS信号の信号波形を分析し、そのAIS信号の信号波形を分析処理器16に出力する。
高速フーリエ変換回路24は、A/D変換器22からディジタル信号であるAIS信号を受けると、そのAIS信号をFFTして、そのAIS信号の周波数成分を周波数分析器25に出力する。
周波数分析器25は、高速フーリエ変換回路24からAIS信号の周波数成分を受けると、そのAIS信号の周波数成分の変化を監視して、そのAIS信号の周波数変移を分析し、そのAIS信号の周波数変移を分析処理器16に出力する。
【0029】
AIS受信機14は、分配器12により分配されたAIS信号を受けると、そのAIS信号を復調し、復調後のAIS信号を分析処理器16に出力する。
分析処理器16の信号特性照合部17は、AIS受信機14から復調後のAIS信号を受けると、そのAIS信号に含まれている利用者IDを抽出し、その利用者IDがデータベース15に登録されているか否かを判定する(ステップST3)。
【0030】
図1の例では、船舶1は非不審船であり、船舶2は不審船であるため、船舶1の利用者IDはデータベース15に登録されているが、船舶2の利用者IDはデータベース15に登録されていない。
したがって、アンテナ11により受信されたAIS信号の発信元が船舶1に搭載されているAIS装置であれば、そのAIS信号に含まれている利用者IDはデータベース15に登録されている。
一方、アンテナ11により受信されたAIS信号の発信元が船舶2に搭載されているAIS装置であれば、そのAIS信号に含まれている利用者IDはデータベース15に登録されていない。
【0031】
分析処理器16の信号特性照合部17は、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている利用者IDがデータベース15に登録されている場合(AIS信号の発信元が船舶1に搭載されているAIS装置である場合)、AIS電波分析装置13により分析されたAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)と、データベース15に登録されている船舶1の利用者IDに対応するAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)とを照合する。
ただし、AIS信号の発信元が船舶2に搭載されているAIS装置である場合でも、そのAIS信号に含まれている利用者IDが、例えば、船舶1の利用者IDに改竄されているような場合には、船舶1の利用者IDがデータベース15に登録されているため、AIS信号の信号特性の照合処理を実施する。
以下、信号特性照合部17の特性照合処理を具体的に説明する。
【0032】
信号特性照合部17は、AIS電波分析装置13により分析されたAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)のうち、船舶1の利用者IDを含む固定データ部分の信号特性(周波数変移、信号波形)を抽出する。
また、信号特性照合部17は、データベース15に登録されている船舶1の利用者IDに対応するAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)のうち、船舶1の利用者IDを含む固定データ部分の信号特性(周波数変移、信号波形)を抽出する。
信号特性照合部17は、固定データ部分の信号特性をそれぞれ抽出すると、双方の固定データ部分の信号特性(周波数変移、信号波形)を照合する。
即ち、信号特性照合部17は、例えば、公知のパターンマッチング処理を実施することで、双方の固定データ部分の周波数変移を照合するとともに、双方の固定データ部分の信号波形を照合する(ステップST4)。
【0033】
次に、信号特性照合部17は、AIS電波分析装置13により分析されたAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)のうち、TDMAの各タイムスロットにおける立ち上がり部分(立上り・起点フラグ)の信号特性(周波数変移、信号波形)を抽出する。
また、信号特性照合部17は、データベース15に登録されている船舶1の利用者IDに対応するAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)のうち、TDMAの各タイムスロットにおける立ち上がり部分(立上り・起点フラグ)の信号特性(周波数変移、信号波形)を抽出する。
信号特性照合部17は、立ち上がり部分の信号特性をそれぞれ抽出すると、双方の立ち上がり部分の信号特性(周波数変移、信号波形)を照合する。
即ち、信号特性照合部17は、例えば、パターンマッチング処理を実施することで、双方の立ち上がり部分の周波数変移を照合するとともに、双方の立ち上がり部分の信号波形を照合する(ステップST5)。図8はAIS信号の立ち上がり部分の信号波形を示している。
【0034】
信号特性照合部17は、固定データ部分の信号特性(周波数変移、信号波形)を照合するとともに、立ち上がり部分の信号特性(周波数変移、信号波形)を照合すると、それらの信号特性の照合結果を示す合致度が許容範囲内であるか否かを判定する(ステップST6)。
即ち、信号特性照合部17は、例えば、パターンマッチング処理を実施することで信号特性の照合結果を示す合致度を算出し、下記の式(1)〜(4)が成立しているか否かを判定する。
【0035】
FC・fixAGR > FC・fixPRAGR
(1)
SW・fixAGR > SW・fixPRAGR
(2)
FC・staAGR > FC・staPRAGR
(3)
SW・staAGR > SW・staPRAGR
(4)
FC・fixAGR :固定データ部分の周波数変移の合致度
FC・fixPRAGR :固定データ部分の周波数変移の合致度の許容値
SW・fixAGR :固定データ部分の信号波形の合致度
SW・fixPRAGR :固定データ部分の信号波形の合致度の許容値
FC・staAGR :立ち上がり部分の周波数変移の合致度
FC・staPRAGR :立ち上がり部分の周波数変移の合致度の許容値
SW・staAGR :立ち上がり部分の信号波形の合致度
SW・staPRAGR :立ち上がり部分の信号波形の合致度の許容値
ただし、式(1)〜(4)では、信号特性が完全に一致している場合、合致度が“1”になり、合致度が0〜1の範囲で算出される例を示している。
また、合致度の許容値は、例えば、“0.9”などの数値が設定される。
【0036】
信号特性照合部17は、式(1)〜(4)の全てが成立していれば、双方のAIS信号の信号特性が合致していると判定し、式(1)〜(4)のいずれか1つでも不成立であれば、双方のAIS信号の信号特性が合致していないと判定する。
例えば、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号に含まれている利用者IDが、船舶1の利用者IDに改竄されている場合、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号の信号特性と、データベース15に登録されている船舶1の利用者IDに対応するAIS信号の信号特性とを照合することになるので、信号特性が合致することはない。
ここでは、式(1)〜(4)の全てが成立していれば、双方のAIS信号の信号特性が合致していると判定する例を示したが、これに限るものではなく、例えば、3つ以上の式が成立していれば、双方のAIS信号の信号特性が合致していると判定するようにしてもよい。
【0037】
分析処理器16の船舶判別部18は、信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合(アンテナ11により船舶1に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号が受信されて、信号特性照合部17によりAIS信号の信号特性が照合された場合)、アンテナ11により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶については「非不審船」であると判定する。
また、船舶判別部18は、信号特性照合部17により抽出された利用者IDから、そのAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶は「船舶1」であると判別する(ステップST7)。
【0038】
分析処理器16のAIS信号記録部19は、信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合、信号特性照合部17により抽出された利用者IDに係る船舶の観測データとして、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている情報をデータベース15に記録する(ステップST8)。
図1の例では、船舶1の新たな観測データとして、船舶1に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号に含まれている情報をデータベース15に追加する。
【0039】
船舶判別部18は、信号特性照合部17により信号特性が合致していないと判定された場合(例えば、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号に含まれている利用者IDが、船舶1の利用者IDに改竄されている場合)、あるいは、信号特性照合部17により抽出された利用者IDがデータベース15に登録されていない場合(例えば、利用者IDが改竄されていない状況下で、アンテナ11により船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号が受信された場合)、アンテナ11により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶については「不審船」であると判定する。
即ち、船舶判別部18は、信号特性照合部17により抽出された利用者IDが示す船舶である「船舶2」を不審船候補に分類して、船舶2をデータベース15に登録する(ステップST9)。
この実施の形態1では、他の船舶に成りすますために、AIS信号に含まれている利用者IDを改竄しても、AIS信号の信号特性も一緒に改竄しない限り、信号特性が不一致になるため不審船であると判定される。
利用者IDの改竄と比べて、AIS信号の信号特性の改竄は極めて困難であるため、他の船舶への成りすましを防止することができる。
【0040】
AIS信号記録部19は、信号特性照合部17により信号特性が合致していないと判定された場合、あるいは、信号特性照合部17により抽出された利用者IDがデータベース15に登録されていない場合、AIS電波分析装置13により分析されたAIS信号(船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号)の信号特性(周波数変移、信号波形)と類似している信号特性がデータベース15により登録されているか否かを検索する(ステップST10)。
即ち、AIS信号記録部19は、後述するように、不審船に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号の信号特性をデータベース15に記録するので、既にデータベース15により登録されている不審船に係るAIS信号の信号特性の中に、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号の信号特性と類似している信号特性が存在しているか否かを探索する。
なお、AIS信号の信号特性が類似しているか否かを判定する処理は、信号特性が合致しているか否かを照合する処理と同様の方法で行うことができるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0041】
AIS信号記録部19は、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号の信号特性と類似しているAIS信号の信号特性がデータベース15に登録されている場合、既に検出している不審船の新たな観測データとして、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号に含まれている情報をデータベース15に追加するとともに、そのAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)をデータベース15に記録する(ステップST11)。
一方、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号の信号特性と類似しているAIS信号の信号特性がデータベース15に登録されていない場合、新たに検出した不審船の観測データとして、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号に含まれている情報をデータベース15に記録するとともに、そのAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)をデータベース15に記録する(ステップST12)。
【0042】
表示処理器20は、分析処理器16の分析結果(例えば、船舶1が非不審船であり、船舶2が不審船であるとする分析結果)や、船舶1,2の観測データなどをディスプレイに表示する。
また、船舶1,2の観測データに基づいて、船舶1,2が航行している位置などを地図上に表示する。
【0043】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、分配器12により分配されたAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)を分析するAIS電波分析装置13と、分配器12により分配されたAIS信号を復調するAIS受信機14と、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている利用者IDを抽出し、その利用者IDがデータベース15に登録されている場合、AIS電波分析装置13により分析されたAIS信号の信号特性とデータベース15に登録されている上記利用者IDに対応するAIS信号の信号特性とを照合して、双方のAIS信号の信号特性が合致しているか否かを判定する信号特性照合部17とを設け、信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合、船舶判別部18が、AIS受信機14により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶については上記利用者IDに係る船舶であると判別し、信号特性照合部17により信号特性が合致していないと判定された場合、あるいは、上記利用者IDがデータベース15に登録されていない場合、船舶判別部18が、上記AIS装置が搭載されている船舶については不審船であると判別するように構成したので、大規模な処理装置等を実装することなく、他の船舶に成りすましている不審船を検出することができるとともに、精度よく船舶の個体識別を行うことができる効果を奏する。
【0044】
実施の形態2.
図9はこの発明の実施の形態2による船舶識別装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
分析処理器31は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されている信号特性照合部17、真偽判定部32、船舶判別部33及びAIS信号記録部19を実装しており、船舶1,2が不審船であるか、非不審船であるかを判別する処理などを実施する。
【0045】
真偽判定部32はアンテナ11により受信されたAIS信号の伝播遅延から、そのAIS信号の発信元のAIS装置が搭載されている船舶の位置を推定し、その船舶の推定位置と、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている位置情報が示す位置(緯度、経度)とを照合して、その位置情報が示す位置に偽りがあるか否かを判定する処理を実施する。なお、真偽判定部32は真偽判定手段を構成している。
【0046】
船舶判別部33は図1の船舶判別部18と同様に、アンテナ11により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶が不審船であるか、非不審船であるかを判別する処理を実施するが、真偽判定部32により位置に偽りがあると判定された場合、信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合でも、上記AIS装置が搭載されている船舶については「不審船」であると判別する。なお、船舶判別部33は船舶判別手段を構成している。
【0047】
図10は図9の船舶識別装置が位置を偽っている船舶からAIS信号を受信している様子を示す説明図である。
図10において、船舶識別装置43は図9の船舶識別装置であり、41は偽っている船舶の位置、42は真の船舶の位置である。
図11はこの発明の実施の形態2による船舶識別装置の真偽判定部32の処理内容を示すフローチャートである。
【0048】
次に動作について説明する。
真偽判定部32は、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている位置情報を取得して(ステップST21)、その位置情報が示す識別対象の船舶の位置(緯度、経度)と、自位置(図9の船舶識別装置の位置)との相対距離を算出し、その相対距離に比例するAIS信号の信号伝送時間(遅延時間)を算出する(ステップST22)。
次に、真偽判定部32は、AIS信号のスロットの開始時刻に対する信号の遅れ時間を計測し、実際の遅延時間を決定する(ステップST23)。
【0049】
次に、真偽判定部32は、相対距離に比例するAIS信号の信号伝送時間と、実際の遅延時間との差分時間を算出して(ステップST24)、その差分時間が許容範囲内であるか否かを判定し(ステップST25)、その差分時間が許容範囲を超えていれば、識別対象の船舶は位置を偽っていると認定する(ステップST26)。
【0050】
真偽判定部32は、差分時間が許容範囲内である場合、実際の遅延時間から識別対象の船舶の位置を推定し(ステップST27)、その船舶の推定位置と、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている位置情報が示す位置(緯度、経度)とを照合して、それらの位置の誤差を算出する(ステップST28)。
【0051】
真偽判定部32は、位置の誤差を算出すると、その位置の誤差が許容範囲内であるか否かを判定し(ステップST29)、その位置の誤差が許容範囲を超えていれば、識別対象の船舶は位置を偽っていると認定する(ステップST26)。
一方、その位置の誤差が許容範囲内であれば、識別対象の船舶は位置を偽っていないと認定する(ステップST30)。
【0052】
船舶判別部33は、図1の船舶判別部18と同様に、アンテナ11により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶が不審船であるか、非不審船であるかを判別する処理を実施する。
ただし、船舶判別部33は、図1の船舶判別部18と異なり、真偽判定部32により識別対象の船舶は位置を偽っていると認定された場合、信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合でも、識別対象の船舶については「不審船」であると判別する。
【0053】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、アンテナ11により受信されたAIS信号の伝播遅延から、そのAIS信号の発信元のAIS装置が搭載されている船舶の位置を推定し、その船舶の推定位置と、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている位置情報が示す位置(緯度、経度)とを照合して、その位置情報が示す位置に偽りがあるか否かを判定する真偽判定部32を設け、船舶判別部33が、真偽判定部32により位置に偽りがあると判定された場合、信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合でも、上記AIS装置が搭載されている船舶については「不審船」であると判別するように構成したので、識別対象の船舶における位置の偽りを見抜いて、その船舶を不審船として検出することができる効果を奏する。
【符号の説明】
【0054】
1,2 船舶、11 アンテナ(AIS信号受信手段)、12 分配器(AIS信号受信手段)、13 AIS電波分析装置(信号特性分析手段)、14 AIS受信機(AIS信号復調手段)、15 データベース、16 分析処理器、17 信号特性照合部(信号特性照合手段)、18 船舶判別部(船舶判別手段)、19 AIS信号記録部(AIS信号記録手段)、20 表示処理器、21 BPF、22 A/D変換器、23 波形分析器、24 高速フーリエ変換回路、25 周波数分析器、31 分析処理器、32 真偽判定部(真偽判定手段)、33 船舶判別部(船舶判別手段)、41 偽っている船舶の位置、42 真の船舶の位置、43 船舶識別装置。
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動船舶識別装置を搭載している船舶の個体識別を行う船舶識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の個体識別を行う船舶識別装置に相当する不審船監視装置が、例えば、以下の特許文献1に開示されている。
この不審船監視装置では、以下のようにして、船舶の個体識別を行っている。
まず、不審船監視装置は、船舶に搭載されているレーダ装置から発信されるレーダ波を受信し、そのレーダ波のパターンデータを分析する。
不審船監視装置は、レーダ波のパターンデータを分析すると、そのレーダ波のパターンデータと、予めデータベースに登録されているパターンデータ(既知の船舶に搭載されているレーダ装置から発信されるレーダ波のパターンデータ)とを照合して、合致するパターンデータを検索する。
【0003】
不審船監視装置は、データベースに登録されているパターンデータの中に、レーダ波のパターンデータと合致するパターンデータが存在していれば、そのパターンデータに対応する船舶識別データ(データベースには、各パターンデータと対にして、船舶を特定する船舶識別データが登録されている)を出力する。
一方、データベースに登録されているパターンデータの中に、レーダ波のパターンデータと合致するパターンデータが存在していなければ、不審船の検出情報を出力する。
【0004】
ただし、不審船監視装置では、上述したパターンデータの分析処理や照合処理を実施する前に、船舶に搭載されている自動船舶識別装置から発信されるAIS(Automatic Identification System)信号を受信して、そのAIS信号に含まれている船舶識別データを抽出し、その船舶識別データがデータベースに登録されているか否かを判定する。
不審船監視装置は、その船舶識別データがデータベースに登録されていれば、当該船舶については「非不審船」であると認定し、上述したパターンデータの分析処理や照合処理を省略する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−31188号公報(段落番号[0032])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の船舶識別装置は以上のように構成されているので、AIS信号に含まれている船舶識別データがデータベースに登録されていれば、レーダ波のパターンデータの分析処理や照合処理を省略して、処理負荷の軽減を図ることができる。しかし、AIS信号に含まれている船舶識別データを改竄して、他の船舶に成りすます行為が行われている場合、その成りすましを見抜くことができず、不審船を検出することができない課題があった。
また、レーダ波のパターンデータの分析処理や照合処理は、計算機の処理負荷が大きいので、多数の船舶が往来する海域では、個々の船舶を監視するために、複数のレーダ装置系統や大規模な処理装置などが必要になる課題があった。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、大規模な処理装置等を実装することなく、他の船舶に成りすましている不審船を検出することができるとともに、精度よく船舶の個体識別を行うことができる船舶識別装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る船舶識別装置は、AIS信号受信手段により受信されたAIS信号の信号特性を分析する信号特性分析手段と、AIS信号受信手段により受信されたAIS信号を復調するAIS信号復調手段と、AIS信号復調手段により復調されたAIS信号に含まれている利用者IDを抽出し、その利用者IDがデータベースに登録されている場合、信号特性分析手段により分析されたAIS信号の信号特性とデータベースに登録されている上記利用者IDに対応するAIS信号の信号特性とを照合して、双方のAIS信号の信号特性が合致しているか否かを判定する信号特性照合手段とを設け、信号特性照合手段により信号特性が合致していると判定された場合、船舶判別手段が、AIS信号受信手段により受信されたAIS信号を発信している自動船舶識別装置が搭載されている船舶については上記利用者IDに係る船舶であると判別し、信号特性照合手段により信号特性が合致していないと判定された場合又は上記利用者IDが上記データベースに登録されていない場合、船舶判別手段が、上記自動船舶識別装置が搭載されている船舶については不審船であると判別するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、AIS信号受信手段により受信されたAIS信号の信号特性を分析する信号特性分析手段と、AIS信号受信手段により受信されたAIS信号を復調するAIS信号復調手段と、AIS信号復調手段により復調されたAIS信号に含まれている利用者IDを抽出し、その利用者IDがデータベースに登録されている場合、信号特性分析手段により分析されたAIS信号の信号特性とデータベースに登録されている上記利用者IDに対応するAIS信号の信号特性とを照合して、双方のAIS信号の信号特性が合致しているか否かを判定する信号特性照合手段とを設け、信号特性照合手段により信号特性が合致していると判定された場合、船舶判別手段が、AIS信号受信手段により受信されたAIS信号を発信している自動船舶識別装置が搭載されている船舶については上記利用者IDに係る船舶であると判別し、信号特性照合手段により信号特性が合致していないと判定された場合又は上記利用者IDが上記データベースに登録されていない場合、船舶判別手段が、上記自動船舶識別装置が搭載されている船舶については不審船であると判別するように構成したので、大規模な処理装置等を実装することなく、他の船舶に成りすましている不審船を検出することができるとともに、精度よく船舶の個体識別を行うことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1による船舶識別装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による船舶識別装置のAIS電波分析装置13を示す構成図である。
【図3】AIS信号の変調方式を示す説明図である。
【図4】AIS信号の信号波形と周波数変移の一例を示す説明図である。
【図5】AIS信号における1タイムスロット内のデータ構成を示す説明図である。
【図6】AIS信号のタイムスロットを示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態1による船舶識別装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図8】AIS信号の立ち上がり部分の信号波形を示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態2による船舶識別装置を示す構成図である。
【図10】図9の船舶識別装置が位置を偽っている船舶からAIS信号を受信している様子を示す説明図である。
【図11】この発明の実施の形態2による船舶識別装置の真偽判定部32の処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による船舶識別装置を示す構成図である。
図1において、船舶1,2は自動船舶識別装置(以下、「AIS装置」と称する)を搭載しており、このAIS装置がAIS(Automatic Identification System)信号を発信する。
所定条件を具備する船舶には、AIS装置の搭載が義務付けられており、AIS装置が発信するAIS信号は、いわゆる船舶データを示す信号である。
【0012】
このAIS信号は、例えば、船舶の利用者IDのほか、海上移動業務識別(MMSI)、船名、船種、喫水、目的地、到着予定時刻、船舶名、航海情報、緯度、経度、速力、針路、船体長、船首方位などの情報を含んでいる。
また、AIS信号は、例えば、GMSK(Gaussian filtered Minimum Shift Keying)の変調方式で変調され、AIS装置から定期的にVHF帯電波で発信される。
この実施の形態1では、説明の便宜上、船舶1は予め登録されている非不審船であり、船舶2は不審船であるものとする。
なお、この実施の形態1では、説明の簡単化のため、航行している船舶の台数が2台だけであるが、3台以上の船舶からAIS信号を受信して、3台以上の船舶の個体識別を行うようにしてもよいことは言うまでもない。
【0013】
空中線であるアンテナ11は船舶1,2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号を受信する。
分配器12はアンテナ11により受信されたAIS信号をAIS電波分析装置13とAIS受信機14に分配する処理を実施する。
なお、アンテナ11及び分配器12からAIS信号受信手段が構成されている。
【0014】
AIS電波分析装置13は分配器12により分配されたAIS信号を受けると、そのAIS信号の信号特性として、そのAIS信号の周波数変移及びレベル変移(信号波形)を分析して、そのAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)を分析処理器16に出力する処理を実施する。なお、AIS電波分析装置13は信号特性分析手段を構成している。
AIS受信機14は分配器12により分配されたAIS信号を復調して、復調後のAIS信号を分析処理器16に出力する処理を実施する。なお、AIS受信機14はAIS信号復調手段を構成している。
【0015】
データベース15は例えばハードディスクなどの外部記憶装置から構成されており、予め識別対象の船舶の利用者IDと、当該船舶に搭載されているAIS装置から発信されるAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)が登録されている。
図1の例では、船舶1の利用者ID及び船舶1に搭載されているAIS装置から発信されるAIS信号の信号特性については登録されているが、不審船である船舶2の利用者ID及び船舶2に搭載されているAIS装置から発信されるAIS信号の信号特性については登録されていない。
【0016】
分析処理器16は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されている信号特性照合部17、船舶判別部18及びAIS信号記録部19を実装しており、船舶1,2が不審船であるか、非不審船であるかを判別する処理などを実施する。
信号特性照合部17はAIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている利用者IDを抽出し、その利用者IDがデータベース15に登録されている場合、AIS電波分析装置13により分析されたAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)と、データベース15に登録されている上記利用者IDに対応するAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)とを照合して、双方のAIS信号の信号特性が合致しているか否かを判定する処理を実施する。なお、信号特性照合部17は信号特性照合手段を構成している。
【0017】
船舶判別部18は信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合、アンテナ11により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶については、信号特性照合部17により抽出された利用者IDに係る船舶であると判別し、信号特性照合部17により信号特性が合致していないと判定された場合、あるいは、信号特性照合部17により抽出された利用者IDがデータベース15に登録されていない場合、アンテナ11により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶については、不審船であると判別する処理を実施する。なお、船舶判別部18は船舶判別手段を構成している。
【0018】
AIS信号記録部19は信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合、信号特性照合部17により抽出された利用者IDに係る船舶の観測データとして、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている情報をデータベース15に記録し、信号特性照合部17により信号特性が合致していないと判定された場合、あるいは、信号特性照合部17により抽出された利用者IDがデータベース15に登録されていない場合、不審船の観測データとして、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている情報をデータベース15に記録する処理を実施する。なお、AIS信号記録部19はAIS信号記録手段を構成している。
表示処理器20は分析処理器16の分析結果などをディスプレイに表示する処理を実施する。
【0019】
図1の例では、船舶識別装置の構成要素であるアンテナ11、分配器12、AIS電波分析装置13、AIS受信機14、データベース15、分析処理器16及び表示処理器20のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものを想定しているが、船舶識別装置がコンピュータで構成される場合、分配器12、AIS電波分析装置13、AIS受信機14、データベース15、分析処理器16及び表示処理器20の処理内容を記述しているプログラムをコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにしてもよい。
図7はこの発明の実施の形態1による船舶識別装置の処理内容を示すフローチャートである。
【0020】
図2はこの発明の実施の形態1による船舶識別装置のAIS電波分析装置13を示す構成図である。
図2において、BPF(Band Pass Filter)21は分配器12により分配されたAIS信号のうち、特定の周波数帯の信号だけを通過させるフィルタである。
A/D変換器22はBPF21から出力されたAIS信号をアナログ信号からディジタル信号に変換する処理を実施する。
【0021】
波形分析器23はA/D変換器22から出力されたディジタル信号であるAIS信号の信号レベルの変化を監視して、そのAIS信号の信号波形を分析し、そのAIS信号の信号波形を分析処理器16に出力する処理を実施する。
高速フーリエ変換回路24はA/D変換器22から出力されたディジタル信号であるAIS信号をFFT(Fast Fourier Transform)して、そのAIS信号の周波数成分を周波数分析器25に出力する処理を実施する。
周波数分析器25は高速フーリエ変換回路24から出力されたAIS信号の周波数成分の変化を監視して、そのAIS信号の周波数変移を分析し、そのAIS信号の周波数変移を分析処理器16に出力する処理を実施する。
【0022】
次に動作について説明する。
船舶1,2に搭載されているAIS装置は、利用者IDなどの情報を含むAIS信号のディジタル符号をGMSKの変調方式で変調し、変調後のAIS信号を定期的にVHF帯電波で発信する。
AIS信号の変調方式がGMSKであるため、図3に示すように、AIS信号の変調方式がMSKの場合と異なり、そのAIS信号の周波数が緩やかに変移する。
【0023】
AIS信号の信号波形と周波数変移は、後述するAIS電波分析装置13により分析されるが、AIS電波分析装置13から出力されるAIS信号の信号波形と周波数変移は、例えば、図4に示すようになる。
ここで、図5はAIS信号における1タイムスロット内のデータ構成を示す説明図である。
AIS信号に含まれている情報(データ)のうち、船舶の航行状態に依らない静的データは、通常、観測中変化しないので、継続的に観測して周波数がf1からf2への変移、f2からf1への変移観測における周波数分解能を改善させることができる。
特に船舶毎に固有の利用者IDは、長期的な観測データを蓄積することで詳細な特徴をつかむ端緒となる。
【0024】
また、図6はAIS信号のタイムスロットを示す説明図である。
AIS信号は時分割多元接続(TDMA)で送信されるが、図6に示すように、AIS(ClassA)の場合は、各フレームにおいて、同一のタイムスロットを使用するため、識別対象の船舶のAIS信号が連続して受信される間は、容易に同じ船舶のAIS信号を待ち受けることができるため、周波数分解能を改善することができる。
【0025】
船舶識別装置の分配器12は、アンテナ11が船舶1に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号を受信すると(ステップST1)、そのAIS信号をAIS電波分析装置13とAIS受信機14に分配する(ステップST2)。
また、分配器12は、アンテナ11が船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号を受信すると(ステップST1)、そのAIS信号をAIS電波分析装置13とAIS受信機14に分配する(ステップST2)。
【0026】
AIS電波分析装置13は、分配器12により分配されたAIS信号を受けると、そのAIS信号の信号特性として、そのAIS信号の周波数変移及びレベル変移(信号波形)を分析して、そのAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)を分析処理器16に出力する。
以下、AIS電波分析装置13によるAIS信号の信号特性の分析処理を具体的に説明する。
【0027】
AIS電波分析装置13のBPF21は、分配器12により分配されたAIS信号を受けると、そのAIS信号のうち、特定の周波数帯の信号だけをA/D変換器22側に通過させる。
A/D変換器22は、BPF21を通過したAIS信号を受けると、そのAIS信号をアナログ信号からディジタル信号に変換し、そのディジタル信号を波形分析器23及び高速フーリエ変換回路24に出力する。
【0028】
波形分析器23は、A/D変換器22からディジタル信号であるAIS信号を受けると、そのAIS信号の信号レベルの変化を監視して、そのAIS信号の信号波形を分析し、そのAIS信号の信号波形を分析処理器16に出力する。
高速フーリエ変換回路24は、A/D変換器22からディジタル信号であるAIS信号を受けると、そのAIS信号をFFTして、そのAIS信号の周波数成分を周波数分析器25に出力する。
周波数分析器25は、高速フーリエ変換回路24からAIS信号の周波数成分を受けると、そのAIS信号の周波数成分の変化を監視して、そのAIS信号の周波数変移を分析し、そのAIS信号の周波数変移を分析処理器16に出力する。
【0029】
AIS受信機14は、分配器12により分配されたAIS信号を受けると、そのAIS信号を復調し、復調後のAIS信号を分析処理器16に出力する。
分析処理器16の信号特性照合部17は、AIS受信機14から復調後のAIS信号を受けると、そのAIS信号に含まれている利用者IDを抽出し、その利用者IDがデータベース15に登録されているか否かを判定する(ステップST3)。
【0030】
図1の例では、船舶1は非不審船であり、船舶2は不審船であるため、船舶1の利用者IDはデータベース15に登録されているが、船舶2の利用者IDはデータベース15に登録されていない。
したがって、アンテナ11により受信されたAIS信号の発信元が船舶1に搭載されているAIS装置であれば、そのAIS信号に含まれている利用者IDはデータベース15に登録されている。
一方、アンテナ11により受信されたAIS信号の発信元が船舶2に搭載されているAIS装置であれば、そのAIS信号に含まれている利用者IDはデータベース15に登録されていない。
【0031】
分析処理器16の信号特性照合部17は、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている利用者IDがデータベース15に登録されている場合(AIS信号の発信元が船舶1に搭載されているAIS装置である場合)、AIS電波分析装置13により分析されたAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)と、データベース15に登録されている船舶1の利用者IDに対応するAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)とを照合する。
ただし、AIS信号の発信元が船舶2に搭載されているAIS装置である場合でも、そのAIS信号に含まれている利用者IDが、例えば、船舶1の利用者IDに改竄されているような場合には、船舶1の利用者IDがデータベース15に登録されているため、AIS信号の信号特性の照合処理を実施する。
以下、信号特性照合部17の特性照合処理を具体的に説明する。
【0032】
信号特性照合部17は、AIS電波分析装置13により分析されたAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)のうち、船舶1の利用者IDを含む固定データ部分の信号特性(周波数変移、信号波形)を抽出する。
また、信号特性照合部17は、データベース15に登録されている船舶1の利用者IDに対応するAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)のうち、船舶1の利用者IDを含む固定データ部分の信号特性(周波数変移、信号波形)を抽出する。
信号特性照合部17は、固定データ部分の信号特性をそれぞれ抽出すると、双方の固定データ部分の信号特性(周波数変移、信号波形)を照合する。
即ち、信号特性照合部17は、例えば、公知のパターンマッチング処理を実施することで、双方の固定データ部分の周波数変移を照合するとともに、双方の固定データ部分の信号波形を照合する(ステップST4)。
【0033】
次に、信号特性照合部17は、AIS電波分析装置13により分析されたAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)のうち、TDMAの各タイムスロットにおける立ち上がり部分(立上り・起点フラグ)の信号特性(周波数変移、信号波形)を抽出する。
また、信号特性照合部17は、データベース15に登録されている船舶1の利用者IDに対応するAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)のうち、TDMAの各タイムスロットにおける立ち上がり部分(立上り・起点フラグ)の信号特性(周波数変移、信号波形)を抽出する。
信号特性照合部17は、立ち上がり部分の信号特性をそれぞれ抽出すると、双方の立ち上がり部分の信号特性(周波数変移、信号波形)を照合する。
即ち、信号特性照合部17は、例えば、パターンマッチング処理を実施することで、双方の立ち上がり部分の周波数変移を照合するとともに、双方の立ち上がり部分の信号波形を照合する(ステップST5)。図8はAIS信号の立ち上がり部分の信号波形を示している。
【0034】
信号特性照合部17は、固定データ部分の信号特性(周波数変移、信号波形)を照合するとともに、立ち上がり部分の信号特性(周波数変移、信号波形)を照合すると、それらの信号特性の照合結果を示す合致度が許容範囲内であるか否かを判定する(ステップST6)。
即ち、信号特性照合部17は、例えば、パターンマッチング処理を実施することで信号特性の照合結果を示す合致度を算出し、下記の式(1)〜(4)が成立しているか否かを判定する。
【0035】
FC・fixAGR > FC・fixPRAGR
(1)
SW・fixAGR > SW・fixPRAGR
(2)
FC・staAGR > FC・staPRAGR
(3)
SW・staAGR > SW・staPRAGR
(4)
FC・fixAGR :固定データ部分の周波数変移の合致度
FC・fixPRAGR :固定データ部分の周波数変移の合致度の許容値
SW・fixAGR :固定データ部分の信号波形の合致度
SW・fixPRAGR :固定データ部分の信号波形の合致度の許容値
FC・staAGR :立ち上がり部分の周波数変移の合致度
FC・staPRAGR :立ち上がり部分の周波数変移の合致度の許容値
SW・staAGR :立ち上がり部分の信号波形の合致度
SW・staPRAGR :立ち上がり部分の信号波形の合致度の許容値
ただし、式(1)〜(4)では、信号特性が完全に一致している場合、合致度が“1”になり、合致度が0〜1の範囲で算出される例を示している。
また、合致度の許容値は、例えば、“0.9”などの数値が設定される。
【0036】
信号特性照合部17は、式(1)〜(4)の全てが成立していれば、双方のAIS信号の信号特性が合致していると判定し、式(1)〜(4)のいずれか1つでも不成立であれば、双方のAIS信号の信号特性が合致していないと判定する。
例えば、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号に含まれている利用者IDが、船舶1の利用者IDに改竄されている場合、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号の信号特性と、データベース15に登録されている船舶1の利用者IDに対応するAIS信号の信号特性とを照合することになるので、信号特性が合致することはない。
ここでは、式(1)〜(4)の全てが成立していれば、双方のAIS信号の信号特性が合致していると判定する例を示したが、これに限るものではなく、例えば、3つ以上の式が成立していれば、双方のAIS信号の信号特性が合致していると判定するようにしてもよい。
【0037】
分析処理器16の船舶判別部18は、信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合(アンテナ11により船舶1に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号が受信されて、信号特性照合部17によりAIS信号の信号特性が照合された場合)、アンテナ11により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶については「非不審船」であると判定する。
また、船舶判別部18は、信号特性照合部17により抽出された利用者IDから、そのAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶は「船舶1」であると判別する(ステップST7)。
【0038】
分析処理器16のAIS信号記録部19は、信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合、信号特性照合部17により抽出された利用者IDに係る船舶の観測データとして、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている情報をデータベース15に記録する(ステップST8)。
図1の例では、船舶1の新たな観測データとして、船舶1に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号に含まれている情報をデータベース15に追加する。
【0039】
船舶判別部18は、信号特性照合部17により信号特性が合致していないと判定された場合(例えば、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号に含まれている利用者IDが、船舶1の利用者IDに改竄されている場合)、あるいは、信号特性照合部17により抽出された利用者IDがデータベース15に登録されていない場合(例えば、利用者IDが改竄されていない状況下で、アンテナ11により船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号が受信された場合)、アンテナ11により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶については「不審船」であると判定する。
即ち、船舶判別部18は、信号特性照合部17により抽出された利用者IDが示す船舶である「船舶2」を不審船候補に分類して、船舶2をデータベース15に登録する(ステップST9)。
この実施の形態1では、他の船舶に成りすますために、AIS信号に含まれている利用者IDを改竄しても、AIS信号の信号特性も一緒に改竄しない限り、信号特性が不一致になるため不審船であると判定される。
利用者IDの改竄と比べて、AIS信号の信号特性の改竄は極めて困難であるため、他の船舶への成りすましを防止することができる。
【0040】
AIS信号記録部19は、信号特性照合部17により信号特性が合致していないと判定された場合、あるいは、信号特性照合部17により抽出された利用者IDがデータベース15に登録されていない場合、AIS電波分析装置13により分析されたAIS信号(船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号)の信号特性(周波数変移、信号波形)と類似している信号特性がデータベース15により登録されているか否かを検索する(ステップST10)。
即ち、AIS信号記録部19は、後述するように、不審船に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号の信号特性をデータベース15に記録するので、既にデータベース15により登録されている不審船に係るAIS信号の信号特性の中に、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号の信号特性と類似している信号特性が存在しているか否かを探索する。
なお、AIS信号の信号特性が類似しているか否かを判定する処理は、信号特性が合致しているか否かを照合する処理と同様の方法で行うことができるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0041】
AIS信号記録部19は、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号の信号特性と類似しているAIS信号の信号特性がデータベース15に登録されている場合、既に検出している不審船の新たな観測データとして、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号に含まれている情報をデータベース15に追加するとともに、そのAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)をデータベース15に記録する(ステップST11)。
一方、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号の信号特性と類似しているAIS信号の信号特性がデータベース15に登録されていない場合、新たに検出した不審船の観測データとして、船舶2に搭載されているAIS装置から発信されたAIS信号に含まれている情報をデータベース15に記録するとともに、そのAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)をデータベース15に記録する(ステップST12)。
【0042】
表示処理器20は、分析処理器16の分析結果(例えば、船舶1が非不審船であり、船舶2が不審船であるとする分析結果)や、船舶1,2の観測データなどをディスプレイに表示する。
また、船舶1,2の観測データに基づいて、船舶1,2が航行している位置などを地図上に表示する。
【0043】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、分配器12により分配されたAIS信号の信号特性(周波数変移、信号波形)を分析するAIS電波分析装置13と、分配器12により分配されたAIS信号を復調するAIS受信機14と、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている利用者IDを抽出し、その利用者IDがデータベース15に登録されている場合、AIS電波分析装置13により分析されたAIS信号の信号特性とデータベース15に登録されている上記利用者IDに対応するAIS信号の信号特性とを照合して、双方のAIS信号の信号特性が合致しているか否かを判定する信号特性照合部17とを設け、信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合、船舶判別部18が、AIS受信機14により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶については上記利用者IDに係る船舶であると判別し、信号特性照合部17により信号特性が合致していないと判定された場合、あるいは、上記利用者IDがデータベース15に登録されていない場合、船舶判別部18が、上記AIS装置が搭載されている船舶については不審船であると判別するように構成したので、大規模な処理装置等を実装することなく、他の船舶に成りすましている不審船を検出することができるとともに、精度よく船舶の個体識別を行うことができる効果を奏する。
【0044】
実施の形態2.
図9はこの発明の実施の形態2による船舶識別装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
分析処理器31は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されている信号特性照合部17、真偽判定部32、船舶判別部33及びAIS信号記録部19を実装しており、船舶1,2が不審船であるか、非不審船であるかを判別する処理などを実施する。
【0045】
真偽判定部32はアンテナ11により受信されたAIS信号の伝播遅延から、そのAIS信号の発信元のAIS装置が搭載されている船舶の位置を推定し、その船舶の推定位置と、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている位置情報が示す位置(緯度、経度)とを照合して、その位置情報が示す位置に偽りがあるか否かを判定する処理を実施する。なお、真偽判定部32は真偽判定手段を構成している。
【0046】
船舶判別部33は図1の船舶判別部18と同様に、アンテナ11により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶が不審船であるか、非不審船であるかを判別する処理を実施するが、真偽判定部32により位置に偽りがあると判定された場合、信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合でも、上記AIS装置が搭載されている船舶については「不審船」であると判別する。なお、船舶判別部33は船舶判別手段を構成している。
【0047】
図10は図9の船舶識別装置が位置を偽っている船舶からAIS信号を受信している様子を示す説明図である。
図10において、船舶識別装置43は図9の船舶識別装置であり、41は偽っている船舶の位置、42は真の船舶の位置である。
図11はこの発明の実施の形態2による船舶識別装置の真偽判定部32の処理内容を示すフローチャートである。
【0048】
次に動作について説明する。
真偽判定部32は、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている位置情報を取得して(ステップST21)、その位置情報が示す識別対象の船舶の位置(緯度、経度)と、自位置(図9の船舶識別装置の位置)との相対距離を算出し、その相対距離に比例するAIS信号の信号伝送時間(遅延時間)を算出する(ステップST22)。
次に、真偽判定部32は、AIS信号のスロットの開始時刻に対する信号の遅れ時間を計測し、実際の遅延時間を決定する(ステップST23)。
【0049】
次に、真偽判定部32は、相対距離に比例するAIS信号の信号伝送時間と、実際の遅延時間との差分時間を算出して(ステップST24)、その差分時間が許容範囲内であるか否かを判定し(ステップST25)、その差分時間が許容範囲を超えていれば、識別対象の船舶は位置を偽っていると認定する(ステップST26)。
【0050】
真偽判定部32は、差分時間が許容範囲内である場合、実際の遅延時間から識別対象の船舶の位置を推定し(ステップST27)、その船舶の推定位置と、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている位置情報が示す位置(緯度、経度)とを照合して、それらの位置の誤差を算出する(ステップST28)。
【0051】
真偽判定部32は、位置の誤差を算出すると、その位置の誤差が許容範囲内であるか否かを判定し(ステップST29)、その位置の誤差が許容範囲を超えていれば、識別対象の船舶は位置を偽っていると認定する(ステップST26)。
一方、その位置の誤差が許容範囲内であれば、識別対象の船舶は位置を偽っていないと認定する(ステップST30)。
【0052】
船舶判別部33は、図1の船舶判別部18と同様に、アンテナ11により受信されたAIS信号を発信しているAIS装置が搭載されている船舶が不審船であるか、非不審船であるかを判別する処理を実施する。
ただし、船舶判別部33は、図1の船舶判別部18と異なり、真偽判定部32により識別対象の船舶は位置を偽っていると認定された場合、信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合でも、識別対象の船舶については「不審船」であると判別する。
【0053】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、アンテナ11により受信されたAIS信号の伝播遅延から、そのAIS信号の発信元のAIS装置が搭載されている船舶の位置を推定し、その船舶の推定位置と、AIS受信機14により復調されたAIS信号に含まれている位置情報が示す位置(緯度、経度)とを照合して、その位置情報が示す位置に偽りがあるか否かを判定する真偽判定部32を設け、船舶判別部33が、真偽判定部32により位置に偽りがあると判定された場合、信号特性照合部17により信号特性が合致していると判定された場合でも、上記AIS装置が搭載されている船舶については「不審船」であると判別するように構成したので、識別対象の船舶における位置の偽りを見抜いて、その船舶を不審船として検出することができる効果を奏する。
【符号の説明】
【0054】
1,2 船舶、11 アンテナ(AIS信号受信手段)、12 分配器(AIS信号受信手段)、13 AIS電波分析装置(信号特性分析手段)、14 AIS受信機(AIS信号復調手段)、15 データベース、16 分析処理器、17 信号特性照合部(信号特性照合手段)、18 船舶判別部(船舶判別手段)、19 AIS信号記録部(AIS信号記録手段)、20 表示処理器、21 BPF、22 A/D変換器、23 波形分析器、24 高速フーリエ変換回路、25 周波数分析器、31 分析処理器、32 真偽判定部(真偽判定手段)、33 船舶判別部(船舶判別手段)、41 偽っている船舶の位置、42 真の船舶の位置、43 船舶識別装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭載されている自動船舶識別装置から発信されたAIS信号を受信するAIS信号受信手段と、上記AIS信号受信手段により受信されたAIS信号の信号特性を分析する信号特性分析手段と、上記AIS信号受信手段により受信されたAIS信号を復調するAIS信号復調手段と、予め識別対象の船舶の利用者IDと当該船舶に搭載されている自動船舶識別装置から発信されるAIS信号の信号特性が登録されているデータベースと、上記AIS信号復調手段により復調されたAIS信号に含まれている利用者IDを抽出し、上記利用者IDが上記データベースに登録されている場合、上記信号特性分析手段により分析されたAIS信号の信号特性と上記データベースに登録されている上記利用者IDに対応するAIS信号の信号特性とを照合して、双方のAIS信号の信号特性が合致しているか否かを判定する信号特性照合手段と、上記信号特性照合手段により信号特性が合致していると判定された場合、上記AIS信号受信手段により受信されたAIS信号を発信している自動船舶識別装置が搭載されている船舶については上記利用者IDに係る船舶であると判別し、上記信号特性照合手段により信号特性が合致していないと判定された場合又は上記利用者IDが上記データベースに登録されていない場合、上記自動船舶識別装置が搭載されている船舶については不審船であると判別する船舶判別手段とを備えた船舶識別装置。
【請求項2】
信号特性照合手段により信号特性が合致していると判定された場合、上記信号特性照合手段により抽出された利用者IDに係る船舶の観測データとして、AIS信号復調手段により復調されたAIS信号をデータベースに記録し、上記信号特性照合手段により信号特性が合致していないと判定された場合又は上記利用者IDが上記データベースに登録されていない場合、不審船の観測データとして、上記AIS信号復調手段により復調されたAIS信号を上記データベースに記録するAIS信号記録手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の船舶識別装置。
【請求項3】
AIS信号受信手段により受信されたAIS信号の伝播遅延から、上記AIS信号の発信元の自動船舶識別装置が搭載されている船舶の位置を推定し、上記船舶の推定位置と上記AIS信号に含まれている位置情報が示す位置とを照合して、上記位置情報が示す位置に偽りがあるか否かを判定する真偽判定手段を設け、
船舶判別手段は、上記真偽判定手段により位置に偽りがあると判定された場合、信号特性照合手段により信号特性が合致していると判定された場合でも、上記自動船舶識別装置が搭載されている船舶については不審船であると判別することを特徴とする請求項1または請求項2記載の船舶識別装置。
【請求項1】
船舶に搭載されている自動船舶識別装置から発信されたAIS信号を受信するAIS信号受信手段と、上記AIS信号受信手段により受信されたAIS信号の信号特性を分析する信号特性分析手段と、上記AIS信号受信手段により受信されたAIS信号を復調するAIS信号復調手段と、予め識別対象の船舶の利用者IDと当該船舶に搭載されている自動船舶識別装置から発信されるAIS信号の信号特性が登録されているデータベースと、上記AIS信号復調手段により復調されたAIS信号に含まれている利用者IDを抽出し、上記利用者IDが上記データベースに登録されている場合、上記信号特性分析手段により分析されたAIS信号の信号特性と上記データベースに登録されている上記利用者IDに対応するAIS信号の信号特性とを照合して、双方のAIS信号の信号特性が合致しているか否かを判定する信号特性照合手段と、上記信号特性照合手段により信号特性が合致していると判定された場合、上記AIS信号受信手段により受信されたAIS信号を発信している自動船舶識別装置が搭載されている船舶については上記利用者IDに係る船舶であると判別し、上記信号特性照合手段により信号特性が合致していないと判定された場合又は上記利用者IDが上記データベースに登録されていない場合、上記自動船舶識別装置が搭載されている船舶については不審船であると判別する船舶判別手段とを備えた船舶識別装置。
【請求項2】
信号特性照合手段により信号特性が合致していると判定された場合、上記信号特性照合手段により抽出された利用者IDに係る船舶の観測データとして、AIS信号復調手段により復調されたAIS信号をデータベースに記録し、上記信号特性照合手段により信号特性が合致していないと判定された場合又は上記利用者IDが上記データベースに登録されていない場合、不審船の観測データとして、上記AIS信号復調手段により復調されたAIS信号を上記データベースに記録するAIS信号記録手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の船舶識別装置。
【請求項3】
AIS信号受信手段により受信されたAIS信号の伝播遅延から、上記AIS信号の発信元の自動船舶識別装置が搭載されている船舶の位置を推定し、上記船舶の推定位置と上記AIS信号に含まれている位置情報が示す位置とを照合して、上記位置情報が示す位置に偽りがあるか否かを判定する真偽判定手段を設け、
船舶判別手段は、上記真偽判定手段により位置に偽りがあると判定された場合、信号特性照合手段により信号特性が合致していると判定された場合でも、上記自動船舶識別装置が搭載されている船舶については不審船であると判別することを特徴とする請求項1または請求項2記載の船舶識別装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−226798(P2011−226798A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93960(P2010−93960)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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