説明

船舶運航支援システム

【課題】高精度の個船性能データを得ることができ、また、これにより最適航路評価を高めることができる船舶運航支援システムを提供する。
【解決手段】航行中の船舶が遭遇している海気象に係る遭遇海気象データ及び海気象における船舶の性能に係る船舶性能データを作成するモニタリング装置110と、船舶の平水中における性能を表す平水中性能データを作成するため、設定した条件を満たす遭遇海気象データ及び船舶性能データを抽出処理して平水中性能データを作成処理し、船舶に対してあらかじめ設定した個船性能に係る個船性能入力データを補正して、運航における個船性能に係る個船性能データを作成する個船性能作成装置120と、個船性能データ及び海気象予測データに基づいて、船舶の最適な航路を推定する処理を行う最適航路推定装置140とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の運航(航行)を支援する船舶運航支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の進展、船舶燃料価格の高騰などを背景として、船舶運航時の燃料消費量の低減、燃料消費に伴う二酸化炭素を主体とする地球温暖化ガスの排出低減などが強く求められている。
【0003】
そこで、船舶運航時における燃料消費量を低減するために、船型を改良する、省エネルギー付加物による平水中性能(外乱(風、波など)がないとしたときの船舶の性能)を改善する、船舶を推進などする機関の熱効率改善、機関排熱回収など様々な改善などを行っている。このような船舶のハード面における改善のほかに、近年、例えば、波、風、潮流などの外乱影響をできる限り低減して航行するようにし、船舶の航海燃料の消費量低減を図る、いわゆる運航支援システムが各種提案されている(例えば特許文献1、2参照)。このようなシステムにおいては、例えば、船舶の個船性能データに基づいた演算によって、例えば燃料消費量が最も少ない航路を最適航路として推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−193124号公報(図1)
【特許文献2】特開2009−286230号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のようなシステムでは、例えば、最適航路の評価には、演算に用いる個船性能データが影響することになる。このため、個船性能データが表す個船性能と現実の個船性能との間でずれが生じていると、演算によって得られる最適航路は真の最適航路から大きく外れたものとなり、十分な燃料消費量の低減効果が得られない場合がある。
【0006】
例えば、従来、個船性能データとするデータは、主に船体の模型水槽試験、試運転結果、主機の搭載前陸上試験での結果を基に作成していた。しかし、このようなデータは、基本的に船舶を新造したときの試運転状態又は設計時の評価結果を示すものであるため、実際に航行している船舶の最適航路を評価計算する上で十分なものとはなっていない。その要因には以下のものが挙げられる。
(1)新造時の試運転状態又は設計時の評価結果では、船体表面汚損の影響、経年劣化の影響などが考慮されていない。
(2)実際の航海においては、積荷の積載などにより新造時の試運転又は設計時の評価結果とは異なる喫水状態であることが多い。
(3)個船性能データのうち、波浪中性能のデータに関しては、波浪中性能を推定する際に使用する海気象を模擬した波モデルを用いて作成しているが、実際の航海では、模擬した波モデルと異なる波に遭遇することがある。
(4)個船性能データを構成する各種の成分のうち、外乱に起因する横力によって生じる船体の斜航などについても、新造時の試運転又は設計時の評価結果において考慮していないものが多い。
【0007】
これらの点に関して、例えば上述した特許文献1、2では、船体汚染影響、経年劣化影響、また、試運転との喫水、排水量状態の違いなどを考慮し、運航時の個船性能の評価精度向上を目的とした手法を採っている。例えば、外乱が少ない平穏な遭遇海気象下での船体推進性能のモニタリングデータ(船速、推進器回転数、主機出力、燃料消費率など)を抽出する。そして、これらのデータが、外乱の影響を受けない平水中を航行した場合における、船舶のほぼ理想的な性能を表すものと仮定して、個船の平水中性能を再評価する。
【0008】
このような平水中性能評価においては、外乱の影響が小さい場合には、想定通り推進性能のモニタリングを実施した航行状態の船体汚染影響、経年劣化影響を含んだ平水中性能を評価することができる。しかしながら、実際に性能評価を行う場合に、上述のような平穏な遭遇海気象と判断するための条件設定は必ずしも容易ではない。例えば、引用文献1では、平穏な遭遇海気象を選定する条件として、波高や風浪階級が所定値以下の場合としている。具体例として、波高は1m以下、風浪階級は世界気象機関が定めるCode BET Scale 4以下であることを挙げている。
【0009】
また、風波の評価に用いる海気象情報は、気象庁など外部より入手した海気象予報データを使用するものとしている。しかし、平穏な遭遇海気象を選定する場合における海気象予報データの精度が必ずしも十分でない場合がある。特に波高が過小評価されている海気象予報データであった場合、抽出したモニタリングデータが示す値は、波による影響を大きく含んだものとなる。その結果、得られた平水中性能に係る精度が不十分となってしまうことがあった。
【0010】
そこで、本発明は上記のような問題点を解決し、高精度の個船性能データを得ることができ、また、最適航路の評価などを高め、船舶の燃料消費量の低減などをはかることができる船舶運航支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る船舶運航支援システムは、船舶に搭載した計測手段による計測に基づいて、航行中の船舶が遭遇している海気象に係る遭遇海気象データ及び海気象における船舶の性能に係る船舶性能データを作成して記憶装置に記憶させるモニタリング装置と、船舶の平水中における性能を表す平水中性能データを作成するために、あらかじめ設定した条件を満たす遭遇海気象データ及び船舶性能データを抽出処理し、抽出した遭遇海気象データ及び船舶性能データに基づいて平水中性能データを作成処理し、遭遇海気象データ、船舶性能データ及び平水中性能データに基づいて、船舶に対してあらかじめ設定した個船性能に係る個船性能入力データを補正して、運航における個船性能に係る個船性能データを作成する個船性能作成装置と、個船性能データ及び航路上の海気象を予測した海気象予測データに基づいて、船舶の最適な航路を推定する処理を行う最適航路推定装置とを備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、個船性能作成装置がモニタリング装置が作成した実際の航行における遭遇海気象データ及び船舶性能データに基づいて、平水中性能データ、個船性能データを作成処理するようにしたので、現実に近い個船性能データを作成することができる。そして、この個船性能データに基づいて、最適航路推定装置が最適航路を推定するようにしたので、例えば航海燃料消費量を最適化するための推定を行うことができ、航海燃料消費量のさらなる低減をはかることができる航路を推定することができる。このため、船舶による二酸化炭素の排出を削減することで地球温暖化の防止に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態1に係る船舶運航支援システムの構成を表す図である。
【図2】最適航路推定装置140が推定した最適航路の結果例を表す図である。
【図3】実施の形態2に係る船舶運航支援システムの構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る運航支援装置を有する船舶運航支援システムの構成を表す図である。運航支援装置100は船舶に設置された装置である。本実施の形態における運航支援装置100は、モニタリング装置110、個船性能作成装置120、運航性能評価装置130、最適航路推定装置140、船側通信装置150、運航データ蓄積装置160、個船性能入力データ蓄積装置170、個船性能データ蓄積装置180及び最適航路評価データ蓄積装置190で構成する。
【0015】
モニタリング装置110は、船舶に設けられて物理量を計測するための計測器(センサ)、船舶を動作させる制御手段、GPS(Global Positioning System )などからの信号に基づいて、計測に係るデータを所定時間毎に作成する。そして、生成したデータを、運航データとして運航データ蓄積装置160に蓄積させる。また、一定時間毎に統計的データ解析処理を行う。本実施の形態において、モニタリング装置110が生成する運航データとしては、例えば、船舶の性能に関するデータ(以下、船舶性能データという)、遭遇する海気象に関するデータ(以下、遭遇海気象データという)、船舶の位置などを表すデータ(以下、位置情報データという)がある。
【0016】
船舶性能データは、例えば船舶の個船性能の評価、運航実績評価を行うためのデータである。例えば方位、対地船速、進路、対水船速、軸回線数、軸馬力、斜航角、舵角船体運動、加速度などをデータとする。また、遭遇海気象データは、運航時の船舶周囲の海気象を計測した物理量のデータであり、風速、風向、波パワースペクトル、波高、波周期、波向きなどをデータとする。そして、位置情報データは、運航時の船舶の位置などに関するデータであり、緯度、経度、時刻などをデータとする。
【0017】
個船性能作成装置120は、運航データ蓄積装置160が蓄積する運航データ、個船性能入力データ蓄積装置170が蓄積する個船性能入力データに基づいて、実際の運航における平水中性能を表す平水中性能データを作成し、さらに個船性能データを作成処理する。個船性能作成装置120における処理の詳細については後述する。
【0018】
運航性能評価装置130は、個船性能データ蓄積装置180が蓄積する個船性能データに基づいて、船舶の平水中性能の時系列変化を解析処理し、平水中性能の経年劣化及び汚損影響を評価する処理を行う。また、船舶に搭載した積荷の状態毎に個船性能データを整理することにより、積荷の状態が運航性能に及ぼす影響を評価する処理を行う。
【0019】
また、最適航路推定装置140は、個船性能データ蓄積装置180が蓄積する個船性能データ、外部機関装置300から提供され、陸上側装置200(陸上側通信装置210)を介して船側通信装置150に送られた海気象予報データ、運航データ蓄積装置160が蓄積する位置情報データなどに基づいて、運航の評価指標となるパラメータを最小化する目的地までの航路(最適航路)を探索、推定処理を行い、最適航路評価データを作成する。ここで最適航路の探索・推定処理では、船舶航行の安全性を確保するため、海気象予報データと個船性能データとに基づいて、航路上の遭遇海気象、船体運動等の推定値を算出し、これらの値が予め指定された閾値以下となるような制約条件を満足させることができるようにしている。海気象予報データは、例えば現在〜1週間先の、例えば航路周辺等における海気象に関するデータである。ここで、パラメータとしては、例えば航海時間、航海距離、航海燃料消費量などがある。また、最適航路推定装置140の演算に係るデータ、作成した最適航路評価データなどを最適航路評価データ蓄積装置190に蓄積させる。
【0020】
船側通信装置150は、例えば通信衛星400などを用いて、陸上側装置200(陸上側通信装置210)との間で各種データを含む信号を送受信するための通信を行う。運航データ蓄積装置160は、モニタリング装置110が生成した運航データを時系列に蓄積する。また、個船性能入力データ蓄積装置170は、あらかじめ定められた個船性能入力データを蓄積する。そして、個船性能データ蓄積装置180は、個船性能作成装置120が演算を行って作成した個船性能データを、例えば時系列に蓄積する。最適航路評価データ蓄積装置190は最適航路推定装置140が作成した最適航路評価データを蓄積する。
【0021】
一方、陸上側装置200は、船舶などと無線通信を行って処理を行う装置である。本実施の形態における陸上側装置200は、陸上側通信装置210、陸上データ蓄積装置220、陸上側処理装置230及び陸上側表示装置240で構成する。
【0022】
陸上側通信装置210は、例えば通信衛星400などを用いて、運航支援装置100(船側通信装置150)との間で各種データを含む信号を送受信するための通信を行う。本実施の形態においては、例えば外部機関装置300において海気象予報データ蓄積装置310が蓄積する海気象予報データを含む信号を運航支援装置100に送る。また、運航支援装置100から送られた信号を受け、信号に含まれる運航データ、最適航路評価データ、個船性能データを陸上データ蓄積装置220に蓄積させる。陸上データ蓄積装置220は、例えば運航支援装置100が作成した運航データ、最適航路評価データ、個船性能データを蓄積する。蓄積したデータはデータベース化することで、例えば運航関係者がデータを利用することができる。また、利用に際し、最適航路評価データに基づく航路表示を行うための海図、運航関係者などが定めた航路及び大圏航路(外乱等を考慮しない場合の最短航路)などのデータを蓄積する。
【0023】
陸上側処理装置230は、陸上側装置200におけるデータの処理を行う。特に本実施の形態では、陸上側表示装置240に最適航路を表示させるためのデータ処理を行い、表示信号を送信する。陸上側表示装置240は、陸上側処理装置230からの表示信号に基づいて、例えば船舶の最適航路を表示させる。
【0024】
外部機関装置300は、海気象予報データを提供する装置である。海気象予報データ蓄積装置310は、例えば世界中における、所定時間後の海気象予報データを蓄積する。本実施の形態では、船舶の運航先までの進路などにおける海気象予報データを用いるものとする。
【0025】
次に個船性能作成装置120における処理について説明する。上述したように、個船性能作成装置120は、船舶の運航状態に基づいて平水中性能データを作成し、さらに個船性能データを作成処理する。まず、平水中性能データの作成について説明する。
【0026】
平水中性能データは、基本的には平穏な海気象において得られるデータに基づいて作成する。平穏な海気象であるか否かについて、例えば外部機関装置300から提供される海気象予報データに基づいて判断することもできるが、例えば、波は海気象予報データのように、船舶に対して一方向、同じ高さで到来するとは限らないなど、実海域の海気象と異なることが多い。このため、本実施の形態では、レーダ波高計などのセンサ(計測機器)などによる実際の計測に基づいてモニタリング装置110が作成し、運航データ蓄積装置160に蓄積させている遭遇海気象データに基づいて判断を行うようにする。
【0027】
そして、例えば平水中性能データの作成に適切な条件をあらかじめ閾値などにより定めておき、条件を満たす遭遇海気象データ、その遭遇海気象データと対応する船舶性能データ(以下、遭遇海気象データなどという)を抽出する。条件としては遭遇海気象自体(波高、風速など)とすることができ、これにより平穏な遭遇海気象に基づくデータを抽出するようにする。
【0028】
また、各遭遇海気象は平穏と判断できる場合でも、船舶に対する外乱が複合的に生じた場合などに得られた船舶性能データには、平水中性能データを作成するには適切でないものが含まれる可能性がある。ここで、船舶の実海域における性能評価を行う際、通常、実海域運航時において、各外乱における抵抗成分と、ある船速で平水中を航行した場合に船体に作用する抵抗に相当する、いわゆる平水中抵抗成分とを重ね合わせることが可能であると仮定する。この仮定に基づき、これらすべての抵抗成分値を合計して船舶の全抵抗値を求め、その後、推進器作動状態の推定、船体と推進器との干渉影響の評価を行って主機出力、燃料消費量などの性能評価を行うためのパラメータを求めている。ここで、波浪中で船体に作用する抵抗は、平水中抵抗成分と波浪中抵抗増加成分との和で表され、特に波浪中抵抗増加成分は、遭遇波の波高、周期、船体との相対波向きの関数として表現され、さらに、波が船体によって反射される反射波成分と、船体運動に起因する運動成分に分けることができる。反射波成分は主として船首形状により定まり運動成分は、主として船体運動の大きさ(運動の振幅、遭遇波と運動との位相差)とにより定まる性質を有している。
【0029】
本実施の形態では、遭遇海気象自体を条件とするだけでなく、さらに遭遇海気象データと個船性能入力データとに基づいて、外乱に起因する船舶への抵抗成分(波浪中抵抗、風圧抵抗など)の値を(例えば因子毎に)算出するようにする。そして各外乱に係る抵抗成分値、外乱の合計の抵抗成分値などについて閾値を定めておき、閾値に基づく条件を満たし、また、あらかじめ定められた平水中抵抗成分の値に比べて十分に小さいと判断した遭遇海気象データなどを抽出する。
【0030】
また、例えば、外乱に起因する以外にも船舶の運航状態によっては平水中性能データを作成するには適切でないデータである可能性がある。このため、本実施の形態では、船舶性能データに基づいて、例えば船体運動、斜航角、舵角などがあらかじめ定められた閾値以下であるかどうかを条件とし、条件を満たす遭遇海気象データなどを抽出する。
【0031】
例えば、個船性能作成装置120は、以上のような条件の組合わせに基づいて、平水中性能データの作成に適切な遭遇海気象データなどを抽出する。例えば、遭遇海気象自体を条件として、平穏な海気象ではないデータを除去した遭遇海気象データなどを抽出する。抽出したデータの中から、さらに船体運動、斜航角、舵角などの条件に基づいて遭遇海気象データなどを抽出する。そして、残ったデータに基づいて抵抗成分値を算出し、抵抗成分に係る条件を満たす遭遇海気象データなどを抽出する。抵抗成分に係る条件による抽出を手順の後の方で行うことで、抵抗成分値の演算に係る処理量を減らし、個船性能作成装置120の処理負荷低減、演算時間の短縮などをはかることができる。
【0032】
次に算出した平水中性能データに基づき、あらためて平水中抵抗値を算出する。また、船舶性能データに基づいて、船舶に係る全抵抗値を算出(推定)する。そして、全抵抗値と平水中抵抗値との差を外乱に起因する抵抗成分値とする。外乱に起因する抵抗成分値と対応する遭遇海気象データとに基づいて、個船性能入力データを補正し、外乱抵抗成分を推定するための個船性能データを作成し、個船性能データ蓄積装置180に蓄積させる。
【0033】
また、運航データ蓄積装置160に蓄積している船体運動、加速度に係る船舶性能データと遭遇海気象データとに基づいて、船体運動、加速度に係る個船性能入力データを補正し、波浪中における船体運動に起因する外乱抵抗成分を推定するための個船性能データを作成し、個船性能データ蓄積装置180に蓄積させる。
【0034】
次に、最適航路推定装置140が行う最適航路の探索、推定処理について説明する。ここで、本実施の形態においては、船舶が運航する海域について、緯度、経度方向にそれぞれ任意の間隔(例えば1.0度間隔)で格子状に区切った交点をノードとして設定しておくようにする。最適航路推定装置140は、海気象予報データ、個船性能データに基づいて、各ノード間(エッジ)のコスト(重み)の予測値を予測データとして作成する。作成する予測データは、例えば船速、燃料消費量、シーマージンなどに関するものがある。外部機関装置300から提供される海気象予報データが変更されると、最適航路推定装置140は再演算を行って予測データを更新するようにする。ここで、全エッジ分の予測データを作成などするようにしてもよいが、例えば船舶の後方など、進行することがない方向のエッジについては作成しないようにして演算量を低減することもできる。
【0035】
そして、作成した予測データに基づいて、最適経路(航路)を探索し、最適航路評価データを作成する。最適航路を探索するための最適経路探索アルゴリズムとしては、最短経路探索を行うのに有力なダイクストラ(Dijkstra)法などを用いて行うことができる。ダイクストラ法とは、ノード間を結ぶエッジに対して重みをつけ、その重みに基づく演算により、最小となる経路を探索する手法である。重みは、前述したように燃料消費量などに対して作成した予測データにより得られる。ここでは燃料消費量について重みを設定することで、燃料消費量を低減することができる最適航路の探索、推定を行い、最適航路評価データを作成し、最適航路評価データ蓄積装置190に蓄積させる。
【0036】
以上のように、実施の形態1の船舶運航支援システムによれば、モニタリング装置110が作成して運航データ蓄積装置160が蓄積する運航データ(特に遭遇海気象データ、船舶性能データ)及び個船性能入力データに基づいて、個船性能作成装置120が実際の運航における平水中性能データ、個船性能データを作成処理するようにしたので、実海域を運航する船舶において実測した遭遇海気象データと船舶性能データとにより個船性能入力データを補正し、現実に近い個船性能データを作成することができる。特に、本実施の形態では、抵抗成分値の演算を行い、平水中性能データを作成するのに適切な遭遇海気象データなどを抽出するようにしたので、例えば各海気象は平穏であると判断できるような場合であっても、複合することで平水中性能データ作成に適さない運航データを除去することができるため、より高精度な平水中性能データを作成することができる。
【0037】
図2は、本実施の形態における最適航路推定装置140が推定した最適航路の結果例を表す図である。図2では、比較対象として従前の方法で推定した最適航路も示している。そして、個船性能作成装置120が作成した個船性能データに基づいて、最適航路推定装置140が最適航路を推定するようにしたので、図2に示すように、航海燃料消費量をパラメータとして推定を行った場合、航海燃料消費量のさらなる低減をはかることができる航路を推定することができる。このため、船舶による二酸化炭素の排出を削減することで地球温暖化の防止に寄与することができる。
【0038】
また、運航性能評価装置130が個船性能作成装置120が作成した個船性能データに基づいて、例えば平水中性能の時系列変化を解析して経年劣化及び汚損影響の評価処理、積荷の状態に基づいて個船性能データを分類して関係処理を行うようにすることで、処理により得られたデータ、個船性能データ等に基づいて、積荷状態や外乱影響、経年劣化や船体汚損影響を表す評価式、係数などを構築することができ、設計などにフィードバックして船舶の開発などに利用することができる。
【0039】
実施の形態2.
図3は本発明の実施の形態2に係る運航支援システムの構成を表す図である。上述の実施の形態1では、船舶側に搭載する運航支援装置100に最適航路推定装置140を備えるようにした。本実施の形態では、最適航路推定装置140の役割を陸上側装置200の陸上側処理装置230が行うようにしたものである。また、最適航路評価データ蓄積装置190は陸上データ蓄積装置220と一体となっているものとする。
【0040】
運航支援装置100側においては、個船性能作成装置120が作成し、個船性能データ蓄積装置180が蓄積している個船性能データを含む信号を船側通信装置150から送信する。陸上側装置200側においては、通信衛星400を介して陸上側通信装置210において信号を受信する。最適航路推定装置140は、実施の形態1と同様に、個船性能データと外部機関装置300から提供された海気象予報データとに基づいて最適航路を推定する処理を行う。
【0041】
陸上側装置200の陸上側処理装置230において、最適航路推定装置140と同様の処理を行うことにより、例えば陸上側にいる運航管理者が、船舶の乗船員側に最適航路を提示し、管理する船舶の運航を支援することができる。また、複数の船舶に係る最適航路の推定などを行うことで、集中管理などを行うことができる
【0042】
ここでは個船性能作成装置120を船舶側に搭載するものとして説明したが、これに限定するものではない。例えば、モニタリング装置110を船舶側に備え、最適航路推定装置140、個船性能作成装置120の役割を陸上側装置200の陸上側処理装置230が行う(最適航路推定装置140、個船性能作成装置120を陸上側装置200に搭載する)ようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
100 運航支援装置
110 モニタリング装置
120 個船性能作成装置
130 運航性能評価装置
140 最適航路推定装置
150 船側通信装置
160 運航データ蓄積装置
170 個船性能入力データ蓄積装置
180 個船性能データ蓄積装置
190 最適航路評価データ蓄積装置
200 陸上側装置
210 陸上側通信装置
220 陸上データ蓄積装置
230 陸上側処理装置
240 陸上側表示装置
300 外部機関装置
310 海気象予報データ蓄積装置
400 通信衛星

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭載した計測手段による計測に基づいて、航行中の前記船舶が遭遇している海気象に係る遭遇海気象データ及び該海気象における前記船舶の性能に係る船舶性能データを作成して記憶装置に記憶させるモニタリング装置と、
前記船舶の平水中における性能を表す平水中性能データを作成するために、あらかじめ設定した条件を満たす前記遭遇海気象データ及び前記船舶性能データを抽出処理し、抽出した前記遭遇海気象データ及び前記船舶性能データに基づいて前記平水中性能データを作成処理し、前記遭遇海気象データ、前記船舶性能データ及び前記平水中性能データに基づいて、前記船舶に対してあらかじめ設定した個船性能に係る個船性能入力データを補正して、運航における個船性能に係る個船性能データを作成する個船性能作成装置と、
前記個船性能データ及び航路上の海気象を予測した海気象予測データに基づいて、前記船舶の最適な航路を推定する処理を行う最適航路推定装置と
を備えることを特徴とする船舶運航支援システム。
【請求項2】
前記個船性能作成装置の抽出処理は、前記遭遇海気象を条件として第1段階の抽出を行い、船舶の航行状態を条件として第2段階の抽出を行い、前記遭遇海気象に基づく船舶に対する抵抗値を演算し、該抵抗値を条件として第3段階の抽出を行うことを特徴とする請求項1記載の船舶運航支援システム。
【請求項3】
前記個船性能作成装置が作成した個船性能データを時系列に解析し、前記船舶の経年劣化又は汚損による影響を評価処理し、また、船舶の積荷の積載量に基づいて前記個船性能データを分類し、積載量との関係を評価処理する運航性能評価装置をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2記載の船舶運航支援システム。
【請求項4】
前記モニタリング装置、前記個船性能作成装置及び最適航路推定装置を前記船舶に搭載することを特徴とする請求項請求項1〜3のいずれかに記載の船舶運航支援システム。
【請求項5】
前記モニタリング装置及び前記個船性能作成装置を前記船舶に搭載し、
前記最適航路推定装置を陸上に設置することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の船舶運航支援システム。
【請求項6】
前記モニタリング装置を前記船舶に搭載し、
前記個船性能作成装置及び前記最適航路推定装置を陸上に設置することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の船舶運航支援システム。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−86604(P2012−86604A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233307(P2010−233307)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)
【Fターム(参考)】