船舶鋼床版用の舗装及びその施工方法
【課題】自動車運搬船に自動車を搬出入する場合に、滑りによる接触事故を防ぐために、スロープ、カーブ等に滑り止めを施すことが出来る舗装と、その施工方法の提供。
【解決手段】下地である船舶鋼床版(自動車運搬船のスロープ部等の鋼床版1)の上面に塗布された表面処理剤(プライマー2M)の層2と、被覆層上方に位置する結合剤(バインダ3M)の層3と、結合剤上の骨材4と、結合剤(バインダ3M)及び骨材4を被覆する表面被覆剤(トップコート5M)の層5とが積層していることを特徴としている。
【解決手段】下地である船舶鋼床版(自動車運搬船のスロープ部等の鋼床版1)の上面に塗布された表面処理剤(プライマー2M)の層2と、被覆層上方に位置する結合剤(バインダ3M)の層3と、結合剤上の骨材4と、結合剤(バインダ3M)及び骨材4を被覆する表面被覆剤(トップコート5M)の層5とが積層していることを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車運搬船の船舶鋼床版に適用可能な舗装に関する。
【背景技術】
【0002】
図8において、自動車運搬船の一例を示す。
自動車運搬船、概略立体駐車場のような構造となっており、図8で例示された自動車運搬船Pは、例えば、13階立てに相当する13デッキを備えている。
上下のデッキ間で自動車を走行させるために、上下のデッキはスロープ60で連結されている。
【0003】
図8において、自動車運搬船Pには「ランプ」と呼ばれる搬入車両の出入口を構成する部分50がある。そして、ランプ50を開くことにより、自動車を自動車運搬船P内に搬入し、或いは自動車運搬船Pから搬出するためのスロープ52が構成される。
図8の例では、自動車運搬船Pの船尾のいわゆる「スターンランプ」50のみが示されているが、ランプ50の位置は船尾に限定される訳ではない。自動車運搬船の中央部に「センターランプ」と呼ばれるランプを設け、あるいは、その他の位置にランプを設けることが出来る。
【0004】
自動車運搬船における荷役作業は、ドライバーが自動車を自走して搬出入を行うロールオン/ロールオフ方式により行われる。
図9に示すように、ランプ50(図8参照)から自動車運搬船Pの船体内に搬入された自動車40は、各デッキ(例えば、図9では4つのデッキD−1、D、D+1、D+2が例示されている)間を接続するスロープ60を走行する。そして、所定のデッキの所定の場所に配置される(或いは駐車する)。
ここで、自動車運搬船Pでは、1台の船舶に出来る限り多数の自動車40を搬入して、海上輸送することが好ましい。換言すれば、1台でも多くの自動車40を自動車運搬船Pで運搬することが好ましい。
そのため、自動車搬入に際しては、自動車運搬船Pの内部に、隙間なく、自動車40が配置される。そして、最終的には、各デッキ間を接続するスロープ60にまで、自動車が配置(駐車)される。空いているスペースを全て有効利用して、1台でも多くの自動車40を運搬するためである。
【0005】
一方、自動車運搬船Pの内部では、自動車40を積載して航行するに際して、外洋で揺動しても、積載された自動車40が移動して衝突してしまうことがない様に、自動車40を保持する必要がある。
そのため、図10で示すように、自動車運搬船Pにおいて、自動車40を配置(駐車)して保持するべき箇所(スロープ60も含む)の床面を構成する鋼板(鋼床版)には、ラッシングホール10と呼ばれる多数の貫通孔が形成されている。
自動車を保持するに際しては、図11で示すように、ラッシングベルト20の一端を自動車40に係止し、ラッシングベルト20の他端に設けたフック30を、ラッシングホール10に係止する。以って、自動車40を鋼床版に捕縛、係留して、自動車運搬船Pが揺動した際における自動車40の移動や衝突を防止している。
【0006】
また、運搬する自動車を搬出入する際に、自走する自動車40が滑って自動車運搬船Pの壁や柱等に接触することを防止するため、スロープ60等の表面に滑り止めを設ける必要がある。
【0007】
従来技術では、鋼床版の表面(例えばスロープ60の表面)における滑り止めとして、いわゆる「エキスパンドメタル(ひし形の網状のパネル)」を鋼床版に溶接している。
ひし形の網状のパネルであるエキスパンドメタルは、摩擦係数を高める働きをする。
【0008】
しかし、エキスパンドメタルは、ひし形の網目中に異物が侵入すると、当該異物を網目中から取り出して除去することが困難である。
また、鉄製のエキスパンドメタルは、その表面が水で濡れると、摩擦係数が低下して、滑り易くなってしまう。
さらに、エキスパンドメタルには滑り易い方向と滑り難い方向とがあり、エキスパンドメタルの滑り易い方向が車両の幅方向となっている場合には、自動車を自走で搬出入するときに、自動車が車両の幅方向に滑り(いわゆる「横滑り」をする)、衝突してしまう恐れが存在する。
【0009】
それに加えて、エキスパンドメタルは鋼床版に対して、いわゆる「点付け溶接」されているが、点付け溶接された箇所は鋼床版から剥がれ易い。例えば、搬出入する自動車が走行することにより、応力集中で鋼床版が変形する等の事態が生じると、エキスパンドメタルが床面から離隔した状態、いわゆる「浮いた」状態のままになってしまう。
その様な「浮いた」状態のままになってしまったエキスパンドメタルを、床に設置された状態に修理することは難しいという問題も存在する。
【0010】
ここで、一般的な道路で通常の道路で既に実施されているニート舗装(表面に骨材を付着させて、抵抗を増加させた舗装)を、自動車運搬船のスロープに適用して、スロープの摩擦抵抗を向上することが考えられる。
しかし、ニート舗装の場合には、車が通過すると、骨材が剥脱してしまう。
通常の道路であれば、骨材が舗装表面から剥脱しても問題はないが、自動車運搬船Pの内部に適用する場合には、剥離した骨材が鋼床版のラッシングホールを通り抜け、当該ラッシングホール下方に捕縛、係留された自動車に降り注ぎ、当該自動車の表面塗装にダメージを与える恐れがある。
【0011】
また、従来のニート舗装は道路に施工することが前提である。
そのため、多数のラッシングホールが開口している自動車運搬船の鋼床版に従来のニート舗装を適用した場合には、供用中に余剰の骨材がラッシングホールから落下して、当該ラッシングホール下方に捕縛、係留された自動車に降り注いで、表面の塗装等にダメージを与えてしまう可能性がある。
そのため、従来のニート舗装を、自動車運搬船の鋼床版にそのまま適用することは不都合であった。
【0012】
その他の従来技術として、自動車運搬船に積載される車両台数を正確に把握するための装置が提案されている(特許文献1)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)は、自動車の搬出入の際における接触事故を防ぐための滑り止めや、自動車運搬船のスロープの部分に捕縛、係留された自動車を確実に滑り止めすることについては、何等開示していない。
【0013】
また、滑り止め施工方法に関する従来技術も提案されており(特許文献2)、樹脂系の舗装材に関する従来技術も提案されているが(特許文献3)、何れも、自動車運搬船の鋼床版に適用することについては、何等言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−88774号公報
【特許文献2】特開2008−19558号公報
【特許文献3】特開平8−231888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、自動車運搬船に自動車を搬出入するときに確実に滑り止めすることが出来る船舶鋼床版用の舗装と、その施工方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の船舶(例えば自動車運搬船)鋼床版用の舗装(100)は、下地である船舶鋼床版(自動車運搬船のスロープ部等の鋼床版1)の上面に塗布された表面処理剤(プライマー2M)の層(2)と、被覆層上方に位置する結合剤(接着剤:バインダ3M)の層(3)と、結合剤上の骨材(4)と、結合剤(3M)及び骨材(4)を被覆する表面被覆剤(トップコート5M)の層5とが積層していることを特徴としている。
【0017】
本発明において、前記表面処理剤(プライマー)の層(2)における表面処理剤(2M)の塗布量は0.10〜0.18kg/m2であり、前記結合剤の層(3)における結合剤(3M)の塗布量は0.8〜1.5kg/m2であり、前記骨材(4)の使用量は5.0〜9.0kg/m2であり、骨材(4)の粒径は1.0〜5.0mmであり、前記表面被覆剤の層5はトップコート(5M)で構成されており、トップコート(5M)の塗布量は0.5〜1.0kg/m2であるのが好ましい。
ここで、結合剤(3M)とトップコート(5M)は、同じ種類の樹脂を使用することが出来る。
【0018】
ここで、本発明の船舶鋼床版用の舗装(100)は、自動車運搬船(P)のスロープ部(60)等の鋼床版(1)の様に、傾斜した部分のみならず、スロープの端部や、湾曲している通路部分等においても適用される。
【0019】
本発明の船舶鋼床版用の舗装(100)を実施するに際しては、彩色された表面被覆剤(5M)を使用し、或いは、透明な表面被覆剤(5M)と彩色された骨材(4)を使用して、表面を彩色することが出来る。
【0020】
また本発明の船舶鋼床版の舗装(請求項1、2の何れかの舗装)を施工する方法(舗装方法)は、自動車運搬船の鋼床版(1)にプライマー(2M)を塗布する工程(ステップS3)と、プライマー(2M)の乾燥後に鋼床版(1)のラッシングホール(10)を(例えば円盤状の)弾性材料製キャップ(ゴムキャップ11)で被覆(マスキング)する工程(ステップS4)と、ラッシングホール(10)を弾性材料製キャップ(ゴムキャップ11)で被覆された鋼床版(1)に結合剤(接着剤:バインダ3M)を塗布する工程(ステップS5)と、余剰骨材を回収する工程(S6)と、結合剤(3M)が塗布された領域に骨材(4)を撒布する工程(ステップS5)と、結合剤(3M)を塗布する工程(S5)と骨材(4)を散布する工程(S5)と余剰骨材を回収する工程(S6)の後に表面被覆剤(トップコート5M)を塗布する工程(ステップS7)と、表面被覆剤(5M)を塗布した後に所定時間(15分〜60分程度:30分)が経過したならばラッシングホール(10)を被覆(マスキング)していた弾性材料製キャップ(11)を取り除く工程(ステップS8)を有することを特徴としている。
【0021】
ここで、弾性材料製キャップ(11)で被覆する工程(ステップS4)で用いられる弾性材料製キャップ(11)の下面には仮止め用の接着剤(12)が塗布されているのが好ましい。また、弾性材料製キャップ(11)の表面(上面および側面)には離型材(例えばシリコン13)が塗付されているのが好ましい。
そして、弾性材料製キャップ(11)を取り除く工程(ステップS8)では、鋼床版(1)の下方から、ラッシングホール(10)を介して弾性材料製キャップ(11)を上方へ押圧するのが好ましい。
さらに、結合剤(3M)を塗布する工程(ステップS5)の後に、弾性材料製キャップ(11)の周縁部直上に切れ目(15)を形成しても良い。その様な切れ目(15)を形成すれば、弾性材料製キャップ(11)を取り除く工程(ステップS8)で、係る切れ目(15)から結合剤の層(3)が破けて、弾性材料製キャップ(11)を鋼床版(1)から除去し易くなる。
【0022】
また、本発明の方法(請求項1、2の何れかの舗装の施工する方法)において、弾性材料製キャップ(11)が被覆している領域は、鋼床版(1)に形成されたラッシングホール(10)周縁部に対して、一定のクリアランス(δ)が設けられているのが好ましい。
換言すれば、係るクリアランス(δ)には、結合剤(3M)、骨材(4)、トップコート(5M)が積層されていない。
【発明の効果】
【0023】
上述する構成を具備する本発明の舗装(100)を、自動車運搬船(P)の鋼床版(1)、特にスロープ部分(60)等の鋼床版(1)の様な滑り易い箇所に施せば、当該舗装(100)を施した箇所の湿潤時の滑り抵抗を、BPN(滑り抵抗測定装置で計測された湿潤時の滑り抵抗:この数値が小さいほど滑り易い)で60より大きな値にすることが出来る。
ここで、通常の道路ではBPNは50程度であり、国道であってもBPNは55以上である。そのため、本発明によれば、自動車運搬船(P)の鋼床版(1)、特にスロープ部分(60)等の鋼床版(1)の様な滑り易い箇所であっても、国道を上回る湿潤時の滑り抵抗が保証される。
その様に大きな湿潤時の滑り抵抗値を有するため、本発明の舗装(100)を自動車運搬船(P)の鋼床版(1)、特にスロープやカーブ等に施した場合には、当該鋼床版(スロープやカーブ等も含む)に滑り止めが施されることになり、自動車の搬出入時に滑って接触事故が発生することが防止される。
【0024】
また本発明の舗装(100)では、バインダ(3M)は接着力に優れており、且つ、プライマー(2M)を使用して鋼床版(1)に対するバインダ(3M)の付着力が十分に発揮出来る状態としているので、バインダ(3M)が自動車運搬船(P)内部の鋼床版(1)から剥がれることはなく、下地である鋼床版(1)に強力に付着する。
【0025】
これに加えて、本発明の舗装(100)では、耐摩耗性、耐研磨性に優れる硬質骨材(4)を使用することが出来るので、高いすべり抵抗性(BPNが60以上)を長期間に渡り持続することが出来る。
そして本発明の舗装(100)は可撓性に優れているため、下地(例えば自動車運搬船内部の鋼床版1)のたわみに追従することが出来る。
【0026】
ここで、本発明に係る舗装(100)において、彩色されたトップコート(5M)を使用し、或いは、透明なトップコート(5M)と彩色された骨材(4)を使用すれば、従来の舗装では有り得ない様な鮮やかな色彩を有することが出来る。そして、鮮やかな色彩を有していれば、自動車運搬船(P)内部の交差点、カーブ、坂路等、特に安全性を要求される箇所の識別性を高めて、ドライバーの注意を喚起することが出来る。
【0027】
また、本発明の舗装(100)の施工方法によれば、ラッシングホール(10)は弾性材料製キャップ(11)で被覆(マスキング)されるので、複数のラッシングホール(10)が開口している自動車運搬船(P)の鋼床版(1)であっても、通常の道路と同様な労力で、本発明の舗装を施工することが可能である。
その結果、本発明の舗装(100)を施された鋼床版(1)の湿潤時の滑り抵抗が増加して、自動車を自走して自動車運搬船(P)に搬出入する場合や、自動車を運搬中に、自動車(40)が横滑りをすることがなくなり、安全に運搬される。
【0028】
また、ラッシングホール(10)を被覆するのに用いられた弾性材料製キャップ(11)は、トップコート(5M)を塗布した後、所定時間(例えば15分〜60分)経過後に、鋼床版(1)下方から上方に押圧する力を、ラッシングホール(10)を介して作用させることにより、ラッシングホール(10)を被覆している状態から、容易に除去することが出来る。
【0029】
ここで、自動車(40)を捕縛、係留する際に、ラッシングベルト(20)の端部に設けられたフック(30)をラッシングホール(10)に係止するが、当該フック(30)が舗装表面(101)と擦れて、骨材(4)が舗装(100)から剥離してしまう恐れが存在する。
しかし本発明の施工方法によれば、ラッシングホール(10)の周辺部にクリアランス(δ)を設け、クリアランス(δ)にはバインダ(3M)、骨材(4)、表面被覆剤(5M)を積層させていない様に構成することが可能である。その様に構成すれば、自動車(40)を捕縛、係留するため、ラッシングベルト(20)のフック(30)をラッシングホール(10)に係合しても、当該フック(30)はクリアランス(δ)の部分に位置し、舗装表面(101)と擦れてしまうことがない。その結果、舗装表面(101)がフック(30)と擦れることによって、骨材(4)が剥離してしまうことも防止され、剥離した骨材(4)がラッシングホール(10)を介して階下の自動車(40)に降り注ぎ、当該自動車(40)の塗装を傷つけてしまうことも防止される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係る舗装の構造を示す断面図である。
【図2】図1の断面を模式的に示す模式断面図である。
【図3】トップコート塗布量と骨材剥離量との関係を示す特性図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る舗装方法の手順を示すフローチャートである。
【図5】ラッシングホールに円形ゴムキャップをマスキングした状態を示す斜視図である。
【図6】ラッシングホールに円形ゴムキャップをマスキングして、バインダを塗布し、骨材を撒布した状態の断面図である。
【図7】ラッシングホールに、ラッシングベルトのフックを係合した状態の斜視図である。
【図8】自動車運搬船の概要を示す側面図である。
【図9】自動車運搬船における各デッキ間を接続するスロープ60に、自動車を隙間なく駐車させた状態図である。
【図10】自動車運搬船のスロープ部分等の鋼床版を示す斜視図である。
【図11】自動車運搬船の鋼床版に自動車を捕縛して係留した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
先ず、図1〜図3を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。
図1及び図2は、第1実施形態に係る舗装の構成を示している。
ここで、図1は第1実施形態に係る舗装(舗装全体に符号100を付す)の断面を示しており、図2は当該断面を模式的に示している。
【0032】
図1及び図2において、舗装100は、船舶鋼床版1、表面処理剤(2M:プライマー)の層2、結合剤(3M:接着剤:バインダ)の層3、骨材4、表面被覆剤(5M:トップコート)の層5とで構成されている。
表面処理剤(プライマー)2Mは、下地である船舶鋼床版(自動車運搬船のスロープ部等の鋼床版、以下、鋼床版と言う)1の上面に塗布され、バインダ3Mが鋼床版1に堅固に接着するための表面処理剤である。
【0033】
結合剤(接着剤:バインダ)3Mは、その上面に撒布された骨材4を、プライマー2Mの層を介して、船舶鋼床版1に結合するために用いられる。
骨材4は、詳細には硬質骨材であり、物理的に硬くても衝撃が加わると劈開面に沿って割れてしまう骨材、いわゆる「もろい」骨材は使用しない。「もろい」骨材は、例えトップコート5Mで被覆されていても、自動車が通過する際に破損して、舗装100における摩擦抵抗が低減する可能性がある。
トップコート5Mは、バインダ3M、骨材4を被覆して、骨材4の船舶鋼床版1から剥離することを防止している。
そして舗装100は、下地である船舶鋼床版1の上面に塗布された表面処理剤の層2と、被覆層上方に位置する結合剤の層3と、結合剤上の骨材4と、結合剤3M及び骨材4を被覆する表面被覆剤の層5とが積層して構成されている。
【0034】
「プライマー」2M、「バインダ」3M、「硬質骨材」4、「トップコート」5Mを構成する材料の各々について、下表1において、組成を例示している。
表1において、プライマー2Mは、例えば、硬化剤の割合1に対して、表面処理剤(例えば、鹿島道路株式会社販売の商品名「KSプライマー」)の割合2で配合した表面処理剤である。
バインダ3Mは、例えば、硬化剤の割合1に対して、結合材(例えば、鹿島道路株式会社販売の商品名「KSバインダ」)の割合1で配合した結合材である。
硬質骨材4は、例えば、有色のセラミック骨材の割合7に対して、黒のスピネル系骨材の割合3で配合した骨材である。
トップコート5Mは、例えば、硬化剤の割合1に対して、表面被覆剤(例えば、鹿島道路株式会社販売の商品名「KSトップコート(例えば、カラー色がN・60)」)を割合1.25で配合した表面被覆剤である。
【0035】
表1
【0036】
プライマー2Mの使用量は、0.10〜0.18kg/m2が好ましい。
発明者の実験によれば、プライマー2Mの使用量が0.09kg/m2以下であると、鋼床版1に対するバインダ3Mの付着力が十分に得られず、バインダ3Mが鋼床版1から剥がれる現象が観察された。これに対して、プライマー2Mの使用量が0.10kg/m2以上であれば、鋼床版1に対するバインダ3Mの付着力が、少なくとも許容値である3.0N/mm2以上となった。
【0037】
プライマー2Mの使用量が0.10kg/m2以上であれば、使用量が増加するほど、鋼床版1に対するバインダ3Mの付着力は増加する。
しかし、プライマー2Mの使用量が0.19kg/m2以上であると、鋼床版1に対するバインダ3Mの付着力は一定となった。換言すれば、プライマー2Mの使用量が0.19kg/m2以上であると、プライマー購入のコストが増加しても、それに見合う効果の向上はなかった。
ここで、プライマー2Mの使用量としては、0.12〜0.15kg/m2が特に好ましい。
【0038】
バインダ3Mの塗布量は、0.8〜1.5kg/m2が好ましい。
発明者の実験によれば、バインダ3Mの塗布量が0.7kg/m2以下であると、硬質骨材4の保持力が十分に得られず、許容できない程度の骨材4の剥離が観測された。ここで、骨材4の保持に必要なバインダ3の付着力は、3.0N/mm2以上である。換言すれば、骨材4を保持するバインダ3の付着力の許容値は、3.0N/mm2である。
これに対して、バインダ3Mの塗布量が0.8kg/m2以上であれば、硬質骨材4はバインダ3Mに保持されて、その剥離は許容できる範囲内に収まった。
【0039】
バインダ3Mの塗布量が0.8kg/m2以上であれば、バインダ3Mの塗布量が増加するほど硬質骨材4の剥離は減少する。
しかし、バインダ3Mの塗布量が1.6kg/m2以上であると、バインダ3Mの塗布量がどの程度であっても、骨材4の剥離は殆ど見られなくなった。換言すれば、バインダ3Mの塗布量が1.6kg/m2以上であると、バインダ購入のコストが増加しても、それに見合う効果の向上は得られなかった。
ここで、バインダ3Mの使用量としては、1.2kg/m2近傍の数値が特に好ましい。
【0040】
硬質骨材4の使用量は、5.0〜9.0kg/m2が好ましい。
発明者の実験によれば、硬質骨材4の使用量が4.9kg/m2以下であると、第1実施形態に係る舗装100における摩擦係数が低下して、BPN(滑り抵抗測定装置で計測された湿潤時の滑り抵抗:この数値が小さいほど滑り易い)で60未満となってしまった。
これに対して、硬質骨材4の使用量が5.0kg/m2以上であれば、第1実施形態に係る舗装における摩擦係数が増大して、BPNで60以上となる。
【0041】
硬質骨材4の使用量が5.0kg/m2以上であれば、硬質骨材4の使用量が増加するほど、舗装100の摩擦係数は増加する。
しかし、硬質骨材4の使用量が9.1kg/m2以上であると、トップコート5Mが骨材4内部に大量に滲みこんでしまうので、トップコート5Mの消費量が多くなるという現象が観察された。
また、硬質骨材4の使用量が9.1kg/m2以上であると、バインダ3Mで保持できない硬質骨材4が発生する、という現象が観察された。
発明者の実験によれば、硬質骨材4の使用量としては、6.0〜8.0kg/m2が特に好ましいことが分かった。
【0042】
ここで、硬質骨材4の粒径としては、1.0〜5.0mmが好ましい。
発明者の実験によれば、硬質骨材4が小さ過ぎる場合、例えば粒径が0.9mm以下であると、舗装100の凸凹が確保できず、摩擦係数が低下して、BPNが60よりも小さくなってしまう。
粒径が1.0mm以上であれば、BPNで60以上となり、舗装100の凸凹と摩擦係数が確保できていることが確認された。
一方、硬質骨材4が大き過ぎ、粒径が5.1mm以上であると、トップコートが骨材4内部に大量に滲みこんでしまい、トップコート5Mの消費量が多くなることが確認された。また、硬質骨材4の粒径が5.1mm以上であると、バインダ3Mで硬質骨材4を保持できないことも確認された。
これに対して、粒径が5.0mm以下の場合には、トップコート5Mの消費量が多くなり過ぎることはなくなり、バインダ3Mで硬質骨材4を保持しないという事態も確認されなかった。
なお、硬質骨材4の粒径としては、1.0〜2.0mmが特に好ましい。
【0043】
トップコート5M塗布量については、0.5〜1.0kg/m2が好ましい。
トップコート5M塗布量に関して、発明者は、下表2で示す条件で、ラベリング試験を行なった。なお、硬質骨材4は、1.0〜2.0mmの粒径のものを用いた。
表2に示すように、試験温度は、−10℃で、チェーン材質はJIS G 4051S35Cである。また、チェーン及び車輪数量は、10こま×6本×1輪で、車輪回転数は200回/分である。
ラベリング試験の試験結果は、下表3で示す。
【0044】
表2
【0045】
表3
【0046】
表3は、トップコート5の塗布量が、0.3kg/m2、0.5kg/m2、0.7kg/m2の三つの供試体の試験前の質量と、所定の経過時間後の質量及びその時の骨材4の損失量と、試験後のBPNの値を示している。
また、図3は、上記三つの供試体における経過時間と損失量の変化を特性グラフとして示している。
ラベリング試験の結果、三つの供試体0.3kg/m2、0.5kg/m2、0.7kg/m2の何れにおいても、試験後のBPNは60よりも大きかった。
具体的には、試験後、すなわち60分経過後のBPNの値は、0.3kg/m2が72、0.5kg/m2が70、0.7kg/m2が76であった。
【0047】
骨材4の損失率に関しては、トップコート塗布量が0.3kg/m2の供試体は、トップコート塗布量0.5kg/m2、0.7kg/m2の供試体に比較して、損失率が高いことが図3及び表3からも明らかである。
詳細には、60分経過後の損失率は、トップコート塗布量が0.5kg/m2の供試体で0.13%、トップコート塗布量が0.7kg/m2の供試体で0.10%に対して、0.3kg/m2の供試体では0.23%と大幅に増加している。
このことは、トップコート塗布量が少ないと、骨材4が舗装100から剥離され易いことを示している。
従って、トップコート塗布量は、0.5kg/m2以上であることが好ましい。
【0048】
トップコート塗布量が0.5kg/m2以上であれば、トップコート塗布量が増加するほど硬質骨材4の剥離は減少する。
しかし、トップコート塗布量が1.1kg/m2以上であると、トップコート塗布量が増加しても、骨材4の剥離防止効果は殆ど同一であり、トップコート購入のコストが増加しても、それに見合う効果の向上は得られない。
また、トップコート塗布量が1.1kg/m2以上であると、舗装100の摩擦係数が低下し、BPNは60よりも小さくなってしまうことが確認された。
トップコート塗布量が1.1kg/m2以上であると、トップコート5Mによる被覆層5の厚さ寸法が大きくなり、硬質骨材4による凸凹がトップコート被覆層5に吸収されてしまうことに起因するものと考えられる。
【0049】
以上の事実を踏まえると、硬質骨材4の粒径が1.0〜2.0mmの場合、トップコート5M塗布量は、0.5〜1.0kg/m2が好適であると言える。
ここで、トップコート5Mの塗布量としては、0.7〜0.8kg/m2であるのが特に好ましい。
【0050】
上述した第1実施形態に係る舗装100を自動車運搬船Pの鋼床版1、特にスロープ部分60等の鋼床版1の様な滑り易い箇所に施せば、当該舗装100を施した箇所の湿潤時の滑り抵抗をBPN>60とすることが出来る。
通常の道路ではBPN=50程度であり、国道であってもBPNは55以上という規格が存在することから、BPN>60という湿潤時の滑り抵抗は、国道以上の滑り抵抗(湿潤時の滑り抵抗)が保証されることを意味する。
そのため、自動車運搬船Pに自走で自動車を搬出入する際に、自動車が滑って接触事故を起こす事態を、防止することが出来る。
【0051】
第1実施形態に係る舗装100は、スロープ部分60のみならず、自動車運搬船P内部の交差点、カーブ等の安全性を要求される箇所に適用することが出来る。そして、舗装100を適用された個所のすべり止め効果を飛躍的に向上させる。
【0052】
また、彩色されたトップコートを使用し、或いは、透明なトップコートと彩色された骨材を使用することにより、第1実施形態に係る舗装100は、従来の舗装では有り得ない様な鮮やかな色彩を有して施工することが可能である。
そして、鮮やかな色彩を有して施工すれば、自動車運搬船内部の交差点、カーブ、坂路等、特に安全性を要求される箇所の識別性を高めて、ドライバーの注意を喚起することが出来る。
【0053】
さらに第1実施形態に係る舗装100では、バインダ3Mは接着力に優れており、且つ、プライマー2Mを使用して鋼床版1に対するバインダ3Mの付着力が十分に発揮出来る状態としている。したがって、バインダ3Mが自動車運搬船P内部の鋼床版1から剥がれることはなく、下地である鋼床版1に強力に付着する。
【0054】
これに加えて、第1実施形態に係る舗装100では、耐摩耗性、耐研磨性に優れる硬質骨材4を使用しているので、高いすべり抵抗性(BPNが60以上)を長期間に渡り持続することが出来る。
そして第1実施形態に係る舗装100では、可撓性に優れているため、下地(例えば自動車運搬船内部の鋼床版1)のたわみに追従することが出来る。
【0055】
次に、図4〜図7を参照して、本発明の第2実施形態を説明する。
第2実施形態は、図1〜図3で説明した第1実施形態の舗装100を、自動車運搬船Pのスロープ部分60等の鋼床版1に施す舗装方法に係る実施形態である。
【0056】
図4は、第2実施形態に係る舗装方法を実行する手順を示している。
図4において、ステップS1では、下地健全度を確認する。
具体的には、下地の鋼床版素地の健全度を目視にてチェックし、錆及び塗膜浮き等がないか確認を行う。
【0057】
ステップS1で下地健全度を確認したならば、ステップS2に進み、下地処理を行う。
具体的には、ステップS1の下地健全度確認において、鋼床版1に初錆・塗膜の浮き等が発見された場合は、ディスクサンダー等にてその部分の既存塗膜の完全撤去を行う。
既存塗膜の健全部については、タフポリッシャーにて研磨・目荒しを行い、清掃する。
【0058】
ステップS3では、プライマー塗布を行う。
プライマーを塗付する際には、先ず、鋼床版1の施工面に塩分・水分・汚れ等が付着していないことを確認し、所定量のプライマー2Mをローラー刷毛にて均一に塗布する。
プライマー2Mの塗布量は、例えば、0.15kg/m2とする。
但し、下地塗膜が油性塗料であった場合は、膨潤の恐れが有るため、プライマー塗布を中止し、油性塗料を除去した後、再度プライマー処理を行う。
【0059】
ステップS4では、マスキングを行う。
先ず、プライマー乾燥後、ラッシングホール10を専用のゴムキャップ(例えば、外径100mm)11でマスキングする。
図5は、鋼床版1に形成されたラッシングホール10をゴムキャップ11でマスキングした状態を示している。
さらに、ラッシングホール10の周囲をマスカーテープ等でマスキングを行う。骨材等が施工範囲外へ飛散することを防止するためである。
なお、プライマー塗布後48時間以内に、後述のステップS5でバインダ層3を施工する。
【0060】
ゴムキャップ11の厚さ寸法は、図6で示すように、バインダ3Mが塗布され、骨材4が撒布された際に、その厚さと概略等しくなる様に設定されている。
ここで、ゴムキャップ11の厚さ寸法が、バインダ3Mと骨材4の層の厚さ寸法よりも遥かに薄いと、後述する様にゴムキャップ11を除去する際に、ゴムキャップ11の配置個所が分からなくなってしまう。また、ゴムキャップ11の厚さ寸法が薄すぎる場合には、ゴムキャップ11の上部に塗付されるバインダ3Mの厚さ寸法が大きくなり、バインダ3Mが或る程度硬化すると、ゴムキャップ11を除去することが困難になってしまう。
換言すれば、ゴムキャップ11の厚さ寸法は、バインダ3Mと骨材4の層の厚さ寸法よりも小さ過ぎなければ良い。
【0061】
ステップS5では、バインダ塗布・骨材撒布を行う。
先ず、所定量のバインダ3Mをレーキ・鏝等にて、プライマーを塗布した面に均一に塗布し、同時に骨材4を、スコップその他の道具を用いて、いわゆる「ムラ」が生じない様に撒布する。
ここで、バインダ3Mの塗布量は、例えば1.2kg/m2であり、骨材4の撒布量は例えば6.0kg/m2である。
【0062】
ステップS5でバインダ3Mを塗布し、骨材4を撒布した状態が、図6で示されている。
図6において、鋼床版1のラッシングホール10の上面側には、ラッシングホール10の内径よりも大きな外径(例えば、外径100mm)のゴムキャップ11がラッシングホール10と同心で仮止めされている。
なお、この段階では、トップコート5は被覆されていない。
【0063】
ゴムキャップ11の下面には、仮止め用の接着剤12が塗布されており、ゴムキャップ11がラッシングホール10を被覆する位置に保持出来る様になっている。換言すれば、ゴムキャップ11の下面に仮止め用の接着剤12を塗布することにより、マスキングを行っている間に、ゴムキャップ11がラッシングホール10を被覆する位置からずれてしまうことを防止している。
一方、ゴムキャップ11の表面(上面)には、離型材(シリコン)13が塗布されている。後述するステップS8で、ゴムキャップ11を鋼床版1から除去する際に、容易にバインダ3M等が剥がれる様にするためである。
【0064】
図6において、後述するステップS8で、ゴムキャップ11を鋼床版1から除去し易くするために、ゴムキャップ11の周縁部直上のバインダ3Mの層に、切れ目15が形成されている。
なお、図6で示す様な切れ目15が形成されていなくても、ゴムキャップ11の周縁部直上のバインダ3Mは、その他の部分に比較して薄くなっているので、ゴムキャップ11を除去する際には、ゴムキャップ11の周縁部直上のバインダ3Mは、容易に破断する。そのため、ゴムキャップ11を除去する際に、支障はきたさない。
【0065】
図6において、符号δは、ゴムキャップ11の外縁側領域がラッシングホール10周辺部を被覆している環状部分の半径方向寸法であり、ラッシングホール10周縁部から舗装100までのクリアランス(余裕代)である。
符号δで示すクリアランスの部分には、バインダ3M、骨材4は塗布(或いは撒布)されておらず、舗装がされない。
【0066】
符号δで示すクリアランスまで舗装してしまうと、図7で示すようにラッシングホール10にラッシングベルト20のフック30を係合した際に、フック30(図6では2点鎖線で示す)が舗装表面101と擦れてしまい、トップコート5が摩耗して骨材4が露出し、骨材4がフック30と擦れて舗装100から剥離してしまう恐れがある。
そのため、ラッシングベルト20のフック30が舗装表面101(トップコート5)と擦れないように、ラッシングホール10の周囲部分であって、当該フック30と擦れる恐れがある領域は、クリアランスδとして、舗装100がなされないのである(図6)。
【0067】
符合δで示すクリアランス(ラッシングベルト20のフック30をかけるためのクリアランスδ)を設ければ、ラッシングベルト20のフック30がラッシングホール10或いは鋼床版1に係合しても、当該フック30はクリアランスδの部分に位置し、舗装表面101とは接触しない。
従って、フック30は舗装表面101と接触せず、舗装100の骨材4がフック30と擦れて落下してしまうことが防止される。
ここで、クリアランスδの具体的な寸法は、ラッシングベルト20のフック30と擦れるか否かにより決定される。
【0068】
ここで、クリアランスδが小さ過ぎると、上述した様に、ラッシングベルト20のフック30が舗装表面101と擦れて、骨材4が剥離する恐れがある。
一方、クリアランスδが大き過ぎると、ラッシングホール10周辺の舗装100が存在しない領域が大きくなり過ぎて、舗装100全体の湿潤時の滑り抵抗が低下する(例えば、湿潤時の滑り抵抗が、60より小さな値になってしまう)。
例えば、クリアランスδは21mm、ラッシングホール10の内径は58mmである。
【0069】
再び図4において、ステップS5の後に、余剰骨材回収(ステップS6)を行う。具体的には、ステップS5の工程で塗布されたバインダ3Mが完全硬化した後、余剰骨材4があれば、その余剰骨材4をスイーパー、ホウキ、掃除機等にて入念に回収する。
ここで、バインダ3Mに完全付着していない緩んだ骨材4が存在すれば、当該骨材5は、後に飛散する原因となるので、ポリッシャー等で完全に除去する。
そして、ステップS7に進む。
【0070】
ステップS7では、トップコート施工を行う。
前記ステップS6の後、所定量のトップコート(例えば、着色させたトップコート:カラートップ)5Mを、ローラー刷毛で注意しながら均一に塗布する。
トップコート5Mの塗布量は、例えば、0.8kg/m2である。
自動車搬送船P内のスロープ60で施工する場合には、いわゆる「ダレ」に注意しながら、トップコート5Mを塗布する。
トップコート5Mが馴染んだ後、仕上がり状態を観察し、トップコートが不足している箇所に対して、追加でトップコートを塗布する。
【0071】
次のステップS8では、マスキング除去を行う。
具体的には、トップコート5Mを塗布した後(ステップS7の工程完了後)、15分〜60分程度(例えば、30分程度)の間隔を空けて(養生を行って)、ゴムキャップ(例えば、外径100mm)11によるマスキングを撤去する。
マスキングの除去の際には、円形ゴムキャップ11を下側から押し上げて(図6の矢印「F」)、円形ゴムキャップ11を鋼床版1から取り外す。
【0072】
図6に関連して上述した様に、ゴムキャップ11の周縁部直上のバインダ3Mには切れ目15が形成されており、また、ゴムキャップ11の周縁部直上のバインダ3Mの厚さ寸法はその他の部分に比較して薄くなっている。そのため、ゴムキャップ11を除去する際には、ゴムキャップ11の周縁部直上は容易に破断して、ゴムキャップ11を除去することが出来る。
なお、マスキングを除去した際に、いわゆる「バリ(ゴムキャップの外周面に相当する部分に生じたバリ)」が生じた場合には、そのバリを切断する。
【0073】
ここで、トップコート5Mを塗布した後、マスキングを除去するまでの時間が余りに短過ぎると(例えば14分以下)、バインダ3Mやトップコート5Mが十分に硬化しておらず、マスキングを除去した際に、硬化していないバインダ3Mやトップコート5Mが、クリアランスδの上やラッシングホール10内に流入してしまう可能性がある。
一方、トップコート5Mを塗布して、骨材4を撒布してから、マスキングを除去する時間が長過ぎると(例えば61分以上)、バインダ3Mやトップコート5Mの硬化が進行して、マスキングの除去が困難になる恐れがある。
そのため、トップコート5Mを塗布した後、15分〜60分程度(例えば、30分程度)の間隔を空けて、ゴムキャップ11を除去(撤去)する。
ただし、バインダ3Mを塗布して、骨材4を撒布してから、マスキングを除去するまでの時間は、バインダ3Mの硬化速度により変動する。
【0074】
ステップS8では、トップコート5Mを塗布した後、硬化養生を行う。そして、硬化養生後、交通開放する。交通開放までの養生時間は、冬期は24時間以上、夏期は12時間以上とする。
【0075】
上述した手順で第2実施形態に係る施工を行なう際に、モルタルミキサ、発電機、施工道具(ゴムレーキ、ヘラ、刷毛)等の器具を使用する場合がある。
さらに、ステップS7に先立って、トップコート前養生(ステップS10)を実行しても良い。その場合、トップコート5Mによる被覆を行わない領域を、マスカーテープ等でマスキングを行う。これは、舗装する領域以外にトップコート等が付着してしまうのを防止するためである。
図6において、ステップS10が点線で示されているのは、トップコート前養生工程が省略可能であることを意味している。
【0076】
上述した第2実施形態によれば、ラッシングホール10はゴム製キャップ11でマスキングされるので、複数のラッシングホール10が開口している自動車運搬船Pの鋼床版1であっても、通常の道路と同様な手順により、舗装を施すことが可能である。
その結果、第1実施形態で述べたように、舗装100を施された鋼床版1の湿潤時の滑り抵抗を増加して、自動車搬出入時の接触事故を防止することが出来る。
また、マスキングで用いられたゴム製キャップ11は、バインダ塗布及び骨材撒布の後、所定時間(例えば30分)経過後に、鋼床版1下方から上方に押圧する力を、ラッシングホール10を介して作用させることにより、ラッシングホール10をマスキングしている状態から、容易に取り除くことが出来る。
【0077】
また第2実施形態では、ラッシングホール10はゴム製キャップ11でマスキングされているので、舗装施工時に、舗装100で用いられる骨材4がラッシングホール10を介して階下に降り注ぎ、階下の床面を汚してしまう恐れがない。
【0078】
さらに第2実施形態では、ラッシングホール10の周辺部にクリアランスδを設け、クリアランスδには舗装されないので、自動車40を捕縛、係留するため、ラッシングベルト20のフック30をラッシングホール10に係合しても、当該フック30はクリアランスδの部分に位置し、舗装表面101と擦れてしまうことがなく、フック30と擦れることによって骨材4が剥離してしまうことも防止される。その結果、剥離した骨材4がラッシングホール10を介して階下の自動車40に降り注ぎ、当該自動車40の塗装を傷つけてしまうことも防止される。
【0079】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
【符号の説明】
【0080】
1・・・船舶鋼床版
2・・・表面処理剤の層
2M・・・表面処理剤/プライマー
3・・・結合剤の層
3M・・・結合剤/バインダ(接着剤)
4・・・骨材
5・・・表面被覆剤の層/トップコート
5M・・・表面被覆剤/トップコート
10・・・ラッシングホール
11・・・弾性材料性キャップ/ゴムキャップ
12・・・仮止め用の接着剤
13・・・離型剤
15・・・切れ目
20・・・ラッシングベルト
30・・・フック
40・・・自動車
50・・・ランプ
52・・・ランプのスロープ
60・・・船内のスロープ
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車運搬船の船舶鋼床版に適用可能な舗装に関する。
【背景技術】
【0002】
図8において、自動車運搬船の一例を示す。
自動車運搬船、概略立体駐車場のような構造となっており、図8で例示された自動車運搬船Pは、例えば、13階立てに相当する13デッキを備えている。
上下のデッキ間で自動車を走行させるために、上下のデッキはスロープ60で連結されている。
【0003】
図8において、自動車運搬船Pには「ランプ」と呼ばれる搬入車両の出入口を構成する部分50がある。そして、ランプ50を開くことにより、自動車を自動車運搬船P内に搬入し、或いは自動車運搬船Pから搬出するためのスロープ52が構成される。
図8の例では、自動車運搬船Pの船尾のいわゆる「スターンランプ」50のみが示されているが、ランプ50の位置は船尾に限定される訳ではない。自動車運搬船の中央部に「センターランプ」と呼ばれるランプを設け、あるいは、その他の位置にランプを設けることが出来る。
【0004】
自動車運搬船における荷役作業は、ドライバーが自動車を自走して搬出入を行うロールオン/ロールオフ方式により行われる。
図9に示すように、ランプ50(図8参照)から自動車運搬船Pの船体内に搬入された自動車40は、各デッキ(例えば、図9では4つのデッキD−1、D、D+1、D+2が例示されている)間を接続するスロープ60を走行する。そして、所定のデッキの所定の場所に配置される(或いは駐車する)。
ここで、自動車運搬船Pでは、1台の船舶に出来る限り多数の自動車40を搬入して、海上輸送することが好ましい。換言すれば、1台でも多くの自動車40を自動車運搬船Pで運搬することが好ましい。
そのため、自動車搬入に際しては、自動車運搬船Pの内部に、隙間なく、自動車40が配置される。そして、最終的には、各デッキ間を接続するスロープ60にまで、自動車が配置(駐車)される。空いているスペースを全て有効利用して、1台でも多くの自動車40を運搬するためである。
【0005】
一方、自動車運搬船Pの内部では、自動車40を積載して航行するに際して、外洋で揺動しても、積載された自動車40が移動して衝突してしまうことがない様に、自動車40を保持する必要がある。
そのため、図10で示すように、自動車運搬船Pにおいて、自動車40を配置(駐車)して保持するべき箇所(スロープ60も含む)の床面を構成する鋼板(鋼床版)には、ラッシングホール10と呼ばれる多数の貫通孔が形成されている。
自動車を保持するに際しては、図11で示すように、ラッシングベルト20の一端を自動車40に係止し、ラッシングベルト20の他端に設けたフック30を、ラッシングホール10に係止する。以って、自動車40を鋼床版に捕縛、係留して、自動車運搬船Pが揺動した際における自動車40の移動や衝突を防止している。
【0006】
また、運搬する自動車を搬出入する際に、自走する自動車40が滑って自動車運搬船Pの壁や柱等に接触することを防止するため、スロープ60等の表面に滑り止めを設ける必要がある。
【0007】
従来技術では、鋼床版の表面(例えばスロープ60の表面)における滑り止めとして、いわゆる「エキスパンドメタル(ひし形の網状のパネル)」を鋼床版に溶接している。
ひし形の網状のパネルであるエキスパンドメタルは、摩擦係数を高める働きをする。
【0008】
しかし、エキスパンドメタルは、ひし形の網目中に異物が侵入すると、当該異物を網目中から取り出して除去することが困難である。
また、鉄製のエキスパンドメタルは、その表面が水で濡れると、摩擦係数が低下して、滑り易くなってしまう。
さらに、エキスパンドメタルには滑り易い方向と滑り難い方向とがあり、エキスパンドメタルの滑り易い方向が車両の幅方向となっている場合には、自動車を自走で搬出入するときに、自動車が車両の幅方向に滑り(いわゆる「横滑り」をする)、衝突してしまう恐れが存在する。
【0009】
それに加えて、エキスパンドメタルは鋼床版に対して、いわゆる「点付け溶接」されているが、点付け溶接された箇所は鋼床版から剥がれ易い。例えば、搬出入する自動車が走行することにより、応力集中で鋼床版が変形する等の事態が生じると、エキスパンドメタルが床面から離隔した状態、いわゆる「浮いた」状態のままになってしまう。
その様な「浮いた」状態のままになってしまったエキスパンドメタルを、床に設置された状態に修理することは難しいという問題も存在する。
【0010】
ここで、一般的な道路で通常の道路で既に実施されているニート舗装(表面に骨材を付着させて、抵抗を増加させた舗装)を、自動車運搬船のスロープに適用して、スロープの摩擦抵抗を向上することが考えられる。
しかし、ニート舗装の場合には、車が通過すると、骨材が剥脱してしまう。
通常の道路であれば、骨材が舗装表面から剥脱しても問題はないが、自動車運搬船Pの内部に適用する場合には、剥離した骨材が鋼床版のラッシングホールを通り抜け、当該ラッシングホール下方に捕縛、係留された自動車に降り注ぎ、当該自動車の表面塗装にダメージを与える恐れがある。
【0011】
また、従来のニート舗装は道路に施工することが前提である。
そのため、多数のラッシングホールが開口している自動車運搬船の鋼床版に従来のニート舗装を適用した場合には、供用中に余剰の骨材がラッシングホールから落下して、当該ラッシングホール下方に捕縛、係留された自動車に降り注いで、表面の塗装等にダメージを与えてしまう可能性がある。
そのため、従来のニート舗装を、自動車運搬船の鋼床版にそのまま適用することは不都合であった。
【0012】
その他の従来技術として、自動車運搬船に積載される車両台数を正確に把握するための装置が提案されている(特許文献1)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)は、自動車の搬出入の際における接触事故を防ぐための滑り止めや、自動車運搬船のスロープの部分に捕縛、係留された自動車を確実に滑り止めすることについては、何等開示していない。
【0013】
また、滑り止め施工方法に関する従来技術も提案されており(特許文献2)、樹脂系の舗装材に関する従来技術も提案されているが(特許文献3)、何れも、自動車運搬船の鋼床版に適用することについては、何等言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−88774号公報
【特許文献2】特開2008−19558号公報
【特許文献3】特開平8−231888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、自動車運搬船に自動車を搬出入するときに確実に滑り止めすることが出来る船舶鋼床版用の舗装と、その施工方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の船舶(例えば自動車運搬船)鋼床版用の舗装(100)は、下地である船舶鋼床版(自動車運搬船のスロープ部等の鋼床版1)の上面に塗布された表面処理剤(プライマー2M)の層(2)と、被覆層上方に位置する結合剤(接着剤:バインダ3M)の層(3)と、結合剤上の骨材(4)と、結合剤(3M)及び骨材(4)を被覆する表面被覆剤(トップコート5M)の層5とが積層していることを特徴としている。
【0017】
本発明において、前記表面処理剤(プライマー)の層(2)における表面処理剤(2M)の塗布量は0.10〜0.18kg/m2であり、前記結合剤の層(3)における結合剤(3M)の塗布量は0.8〜1.5kg/m2であり、前記骨材(4)の使用量は5.0〜9.0kg/m2であり、骨材(4)の粒径は1.0〜5.0mmであり、前記表面被覆剤の層5はトップコート(5M)で構成されており、トップコート(5M)の塗布量は0.5〜1.0kg/m2であるのが好ましい。
ここで、結合剤(3M)とトップコート(5M)は、同じ種類の樹脂を使用することが出来る。
【0018】
ここで、本発明の船舶鋼床版用の舗装(100)は、自動車運搬船(P)のスロープ部(60)等の鋼床版(1)の様に、傾斜した部分のみならず、スロープの端部や、湾曲している通路部分等においても適用される。
【0019】
本発明の船舶鋼床版用の舗装(100)を実施するに際しては、彩色された表面被覆剤(5M)を使用し、或いは、透明な表面被覆剤(5M)と彩色された骨材(4)を使用して、表面を彩色することが出来る。
【0020】
また本発明の船舶鋼床版の舗装(請求項1、2の何れかの舗装)を施工する方法(舗装方法)は、自動車運搬船の鋼床版(1)にプライマー(2M)を塗布する工程(ステップS3)と、プライマー(2M)の乾燥後に鋼床版(1)のラッシングホール(10)を(例えば円盤状の)弾性材料製キャップ(ゴムキャップ11)で被覆(マスキング)する工程(ステップS4)と、ラッシングホール(10)を弾性材料製キャップ(ゴムキャップ11)で被覆された鋼床版(1)に結合剤(接着剤:バインダ3M)を塗布する工程(ステップS5)と、余剰骨材を回収する工程(S6)と、結合剤(3M)が塗布された領域に骨材(4)を撒布する工程(ステップS5)と、結合剤(3M)を塗布する工程(S5)と骨材(4)を散布する工程(S5)と余剰骨材を回収する工程(S6)の後に表面被覆剤(トップコート5M)を塗布する工程(ステップS7)と、表面被覆剤(5M)を塗布した後に所定時間(15分〜60分程度:30分)が経過したならばラッシングホール(10)を被覆(マスキング)していた弾性材料製キャップ(11)を取り除く工程(ステップS8)を有することを特徴としている。
【0021】
ここで、弾性材料製キャップ(11)で被覆する工程(ステップS4)で用いられる弾性材料製キャップ(11)の下面には仮止め用の接着剤(12)が塗布されているのが好ましい。また、弾性材料製キャップ(11)の表面(上面および側面)には離型材(例えばシリコン13)が塗付されているのが好ましい。
そして、弾性材料製キャップ(11)を取り除く工程(ステップS8)では、鋼床版(1)の下方から、ラッシングホール(10)を介して弾性材料製キャップ(11)を上方へ押圧するのが好ましい。
さらに、結合剤(3M)を塗布する工程(ステップS5)の後に、弾性材料製キャップ(11)の周縁部直上に切れ目(15)を形成しても良い。その様な切れ目(15)を形成すれば、弾性材料製キャップ(11)を取り除く工程(ステップS8)で、係る切れ目(15)から結合剤の層(3)が破けて、弾性材料製キャップ(11)を鋼床版(1)から除去し易くなる。
【0022】
また、本発明の方法(請求項1、2の何れかの舗装の施工する方法)において、弾性材料製キャップ(11)が被覆している領域は、鋼床版(1)に形成されたラッシングホール(10)周縁部に対して、一定のクリアランス(δ)が設けられているのが好ましい。
換言すれば、係るクリアランス(δ)には、結合剤(3M)、骨材(4)、トップコート(5M)が積層されていない。
【発明の効果】
【0023】
上述する構成を具備する本発明の舗装(100)を、自動車運搬船(P)の鋼床版(1)、特にスロープ部分(60)等の鋼床版(1)の様な滑り易い箇所に施せば、当該舗装(100)を施した箇所の湿潤時の滑り抵抗を、BPN(滑り抵抗測定装置で計測された湿潤時の滑り抵抗:この数値が小さいほど滑り易い)で60より大きな値にすることが出来る。
ここで、通常の道路ではBPNは50程度であり、国道であってもBPNは55以上である。そのため、本発明によれば、自動車運搬船(P)の鋼床版(1)、特にスロープ部分(60)等の鋼床版(1)の様な滑り易い箇所であっても、国道を上回る湿潤時の滑り抵抗が保証される。
その様に大きな湿潤時の滑り抵抗値を有するため、本発明の舗装(100)を自動車運搬船(P)の鋼床版(1)、特にスロープやカーブ等に施した場合には、当該鋼床版(スロープやカーブ等も含む)に滑り止めが施されることになり、自動車の搬出入時に滑って接触事故が発生することが防止される。
【0024】
また本発明の舗装(100)では、バインダ(3M)は接着力に優れており、且つ、プライマー(2M)を使用して鋼床版(1)に対するバインダ(3M)の付着力が十分に発揮出来る状態としているので、バインダ(3M)が自動車運搬船(P)内部の鋼床版(1)から剥がれることはなく、下地である鋼床版(1)に強力に付着する。
【0025】
これに加えて、本発明の舗装(100)では、耐摩耗性、耐研磨性に優れる硬質骨材(4)を使用することが出来るので、高いすべり抵抗性(BPNが60以上)を長期間に渡り持続することが出来る。
そして本発明の舗装(100)は可撓性に優れているため、下地(例えば自動車運搬船内部の鋼床版1)のたわみに追従することが出来る。
【0026】
ここで、本発明に係る舗装(100)において、彩色されたトップコート(5M)を使用し、或いは、透明なトップコート(5M)と彩色された骨材(4)を使用すれば、従来の舗装では有り得ない様な鮮やかな色彩を有することが出来る。そして、鮮やかな色彩を有していれば、自動車運搬船(P)内部の交差点、カーブ、坂路等、特に安全性を要求される箇所の識別性を高めて、ドライバーの注意を喚起することが出来る。
【0027】
また、本発明の舗装(100)の施工方法によれば、ラッシングホール(10)は弾性材料製キャップ(11)で被覆(マスキング)されるので、複数のラッシングホール(10)が開口している自動車運搬船(P)の鋼床版(1)であっても、通常の道路と同様な労力で、本発明の舗装を施工することが可能である。
その結果、本発明の舗装(100)を施された鋼床版(1)の湿潤時の滑り抵抗が増加して、自動車を自走して自動車運搬船(P)に搬出入する場合や、自動車を運搬中に、自動車(40)が横滑りをすることがなくなり、安全に運搬される。
【0028】
また、ラッシングホール(10)を被覆するのに用いられた弾性材料製キャップ(11)は、トップコート(5M)を塗布した後、所定時間(例えば15分〜60分)経過後に、鋼床版(1)下方から上方に押圧する力を、ラッシングホール(10)を介して作用させることにより、ラッシングホール(10)を被覆している状態から、容易に除去することが出来る。
【0029】
ここで、自動車(40)を捕縛、係留する際に、ラッシングベルト(20)の端部に設けられたフック(30)をラッシングホール(10)に係止するが、当該フック(30)が舗装表面(101)と擦れて、骨材(4)が舗装(100)から剥離してしまう恐れが存在する。
しかし本発明の施工方法によれば、ラッシングホール(10)の周辺部にクリアランス(δ)を設け、クリアランス(δ)にはバインダ(3M)、骨材(4)、表面被覆剤(5M)を積層させていない様に構成することが可能である。その様に構成すれば、自動車(40)を捕縛、係留するため、ラッシングベルト(20)のフック(30)をラッシングホール(10)に係合しても、当該フック(30)はクリアランス(δ)の部分に位置し、舗装表面(101)と擦れてしまうことがない。その結果、舗装表面(101)がフック(30)と擦れることによって、骨材(4)が剥離してしまうことも防止され、剥離した骨材(4)がラッシングホール(10)を介して階下の自動車(40)に降り注ぎ、当該自動車(40)の塗装を傷つけてしまうことも防止される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係る舗装の構造を示す断面図である。
【図2】図1の断面を模式的に示す模式断面図である。
【図3】トップコート塗布量と骨材剥離量との関係を示す特性図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る舗装方法の手順を示すフローチャートである。
【図5】ラッシングホールに円形ゴムキャップをマスキングした状態を示す斜視図である。
【図6】ラッシングホールに円形ゴムキャップをマスキングして、バインダを塗布し、骨材を撒布した状態の断面図である。
【図7】ラッシングホールに、ラッシングベルトのフックを係合した状態の斜視図である。
【図8】自動車運搬船の概要を示す側面図である。
【図9】自動車運搬船における各デッキ間を接続するスロープ60に、自動車を隙間なく駐車させた状態図である。
【図10】自動車運搬船のスロープ部分等の鋼床版を示す斜視図である。
【図11】自動車運搬船の鋼床版に自動車を捕縛して係留した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
先ず、図1〜図3を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。
図1及び図2は、第1実施形態に係る舗装の構成を示している。
ここで、図1は第1実施形態に係る舗装(舗装全体に符号100を付す)の断面を示しており、図2は当該断面を模式的に示している。
【0032】
図1及び図2において、舗装100は、船舶鋼床版1、表面処理剤(2M:プライマー)の層2、結合剤(3M:接着剤:バインダ)の層3、骨材4、表面被覆剤(5M:トップコート)の層5とで構成されている。
表面処理剤(プライマー)2Mは、下地である船舶鋼床版(自動車運搬船のスロープ部等の鋼床版、以下、鋼床版と言う)1の上面に塗布され、バインダ3Mが鋼床版1に堅固に接着するための表面処理剤である。
【0033】
結合剤(接着剤:バインダ)3Mは、その上面に撒布された骨材4を、プライマー2Mの層を介して、船舶鋼床版1に結合するために用いられる。
骨材4は、詳細には硬質骨材であり、物理的に硬くても衝撃が加わると劈開面に沿って割れてしまう骨材、いわゆる「もろい」骨材は使用しない。「もろい」骨材は、例えトップコート5Mで被覆されていても、自動車が通過する際に破損して、舗装100における摩擦抵抗が低減する可能性がある。
トップコート5Mは、バインダ3M、骨材4を被覆して、骨材4の船舶鋼床版1から剥離することを防止している。
そして舗装100は、下地である船舶鋼床版1の上面に塗布された表面処理剤の層2と、被覆層上方に位置する結合剤の層3と、結合剤上の骨材4と、結合剤3M及び骨材4を被覆する表面被覆剤の層5とが積層して構成されている。
【0034】
「プライマー」2M、「バインダ」3M、「硬質骨材」4、「トップコート」5Mを構成する材料の各々について、下表1において、組成を例示している。
表1において、プライマー2Mは、例えば、硬化剤の割合1に対して、表面処理剤(例えば、鹿島道路株式会社販売の商品名「KSプライマー」)の割合2で配合した表面処理剤である。
バインダ3Mは、例えば、硬化剤の割合1に対して、結合材(例えば、鹿島道路株式会社販売の商品名「KSバインダ」)の割合1で配合した結合材である。
硬質骨材4は、例えば、有色のセラミック骨材の割合7に対して、黒のスピネル系骨材の割合3で配合した骨材である。
トップコート5Mは、例えば、硬化剤の割合1に対して、表面被覆剤(例えば、鹿島道路株式会社販売の商品名「KSトップコート(例えば、カラー色がN・60)」)を割合1.25で配合した表面被覆剤である。
【0035】
表1
【0036】
プライマー2Mの使用量は、0.10〜0.18kg/m2が好ましい。
発明者の実験によれば、プライマー2Mの使用量が0.09kg/m2以下であると、鋼床版1に対するバインダ3Mの付着力が十分に得られず、バインダ3Mが鋼床版1から剥がれる現象が観察された。これに対して、プライマー2Mの使用量が0.10kg/m2以上であれば、鋼床版1に対するバインダ3Mの付着力が、少なくとも許容値である3.0N/mm2以上となった。
【0037】
プライマー2Mの使用量が0.10kg/m2以上であれば、使用量が増加するほど、鋼床版1に対するバインダ3Mの付着力は増加する。
しかし、プライマー2Mの使用量が0.19kg/m2以上であると、鋼床版1に対するバインダ3Mの付着力は一定となった。換言すれば、プライマー2Mの使用量が0.19kg/m2以上であると、プライマー購入のコストが増加しても、それに見合う効果の向上はなかった。
ここで、プライマー2Mの使用量としては、0.12〜0.15kg/m2が特に好ましい。
【0038】
バインダ3Mの塗布量は、0.8〜1.5kg/m2が好ましい。
発明者の実験によれば、バインダ3Mの塗布量が0.7kg/m2以下であると、硬質骨材4の保持力が十分に得られず、許容できない程度の骨材4の剥離が観測された。ここで、骨材4の保持に必要なバインダ3の付着力は、3.0N/mm2以上である。換言すれば、骨材4を保持するバインダ3の付着力の許容値は、3.0N/mm2である。
これに対して、バインダ3Mの塗布量が0.8kg/m2以上であれば、硬質骨材4はバインダ3Mに保持されて、その剥離は許容できる範囲内に収まった。
【0039】
バインダ3Mの塗布量が0.8kg/m2以上であれば、バインダ3Mの塗布量が増加するほど硬質骨材4の剥離は減少する。
しかし、バインダ3Mの塗布量が1.6kg/m2以上であると、バインダ3Mの塗布量がどの程度であっても、骨材4の剥離は殆ど見られなくなった。換言すれば、バインダ3Mの塗布量が1.6kg/m2以上であると、バインダ購入のコストが増加しても、それに見合う効果の向上は得られなかった。
ここで、バインダ3Mの使用量としては、1.2kg/m2近傍の数値が特に好ましい。
【0040】
硬質骨材4の使用量は、5.0〜9.0kg/m2が好ましい。
発明者の実験によれば、硬質骨材4の使用量が4.9kg/m2以下であると、第1実施形態に係る舗装100における摩擦係数が低下して、BPN(滑り抵抗測定装置で計測された湿潤時の滑り抵抗:この数値が小さいほど滑り易い)で60未満となってしまった。
これに対して、硬質骨材4の使用量が5.0kg/m2以上であれば、第1実施形態に係る舗装における摩擦係数が増大して、BPNで60以上となる。
【0041】
硬質骨材4の使用量が5.0kg/m2以上であれば、硬質骨材4の使用量が増加するほど、舗装100の摩擦係数は増加する。
しかし、硬質骨材4の使用量が9.1kg/m2以上であると、トップコート5Mが骨材4内部に大量に滲みこんでしまうので、トップコート5Mの消費量が多くなるという現象が観察された。
また、硬質骨材4の使用量が9.1kg/m2以上であると、バインダ3Mで保持できない硬質骨材4が発生する、という現象が観察された。
発明者の実験によれば、硬質骨材4の使用量としては、6.0〜8.0kg/m2が特に好ましいことが分かった。
【0042】
ここで、硬質骨材4の粒径としては、1.0〜5.0mmが好ましい。
発明者の実験によれば、硬質骨材4が小さ過ぎる場合、例えば粒径が0.9mm以下であると、舗装100の凸凹が確保できず、摩擦係数が低下して、BPNが60よりも小さくなってしまう。
粒径が1.0mm以上であれば、BPNで60以上となり、舗装100の凸凹と摩擦係数が確保できていることが確認された。
一方、硬質骨材4が大き過ぎ、粒径が5.1mm以上であると、トップコートが骨材4内部に大量に滲みこんでしまい、トップコート5Mの消費量が多くなることが確認された。また、硬質骨材4の粒径が5.1mm以上であると、バインダ3Mで硬質骨材4を保持できないことも確認された。
これに対して、粒径が5.0mm以下の場合には、トップコート5Mの消費量が多くなり過ぎることはなくなり、バインダ3Mで硬質骨材4を保持しないという事態も確認されなかった。
なお、硬質骨材4の粒径としては、1.0〜2.0mmが特に好ましい。
【0043】
トップコート5M塗布量については、0.5〜1.0kg/m2が好ましい。
トップコート5M塗布量に関して、発明者は、下表2で示す条件で、ラベリング試験を行なった。なお、硬質骨材4は、1.0〜2.0mmの粒径のものを用いた。
表2に示すように、試験温度は、−10℃で、チェーン材質はJIS G 4051S35Cである。また、チェーン及び車輪数量は、10こま×6本×1輪で、車輪回転数は200回/分である。
ラベリング試験の試験結果は、下表3で示す。
【0044】
表2
【0045】
表3
【0046】
表3は、トップコート5の塗布量が、0.3kg/m2、0.5kg/m2、0.7kg/m2の三つの供試体の試験前の質量と、所定の経過時間後の質量及びその時の骨材4の損失量と、試験後のBPNの値を示している。
また、図3は、上記三つの供試体における経過時間と損失量の変化を特性グラフとして示している。
ラベリング試験の結果、三つの供試体0.3kg/m2、0.5kg/m2、0.7kg/m2の何れにおいても、試験後のBPNは60よりも大きかった。
具体的には、試験後、すなわち60分経過後のBPNの値は、0.3kg/m2が72、0.5kg/m2が70、0.7kg/m2が76であった。
【0047】
骨材4の損失率に関しては、トップコート塗布量が0.3kg/m2の供試体は、トップコート塗布量0.5kg/m2、0.7kg/m2の供試体に比較して、損失率が高いことが図3及び表3からも明らかである。
詳細には、60分経過後の損失率は、トップコート塗布量が0.5kg/m2の供試体で0.13%、トップコート塗布量が0.7kg/m2の供試体で0.10%に対して、0.3kg/m2の供試体では0.23%と大幅に増加している。
このことは、トップコート塗布量が少ないと、骨材4が舗装100から剥離され易いことを示している。
従って、トップコート塗布量は、0.5kg/m2以上であることが好ましい。
【0048】
トップコート塗布量が0.5kg/m2以上であれば、トップコート塗布量が増加するほど硬質骨材4の剥離は減少する。
しかし、トップコート塗布量が1.1kg/m2以上であると、トップコート塗布量が増加しても、骨材4の剥離防止効果は殆ど同一であり、トップコート購入のコストが増加しても、それに見合う効果の向上は得られない。
また、トップコート塗布量が1.1kg/m2以上であると、舗装100の摩擦係数が低下し、BPNは60よりも小さくなってしまうことが確認された。
トップコート塗布量が1.1kg/m2以上であると、トップコート5Mによる被覆層5の厚さ寸法が大きくなり、硬質骨材4による凸凹がトップコート被覆層5に吸収されてしまうことに起因するものと考えられる。
【0049】
以上の事実を踏まえると、硬質骨材4の粒径が1.0〜2.0mmの場合、トップコート5M塗布量は、0.5〜1.0kg/m2が好適であると言える。
ここで、トップコート5Mの塗布量としては、0.7〜0.8kg/m2であるのが特に好ましい。
【0050】
上述した第1実施形態に係る舗装100を自動車運搬船Pの鋼床版1、特にスロープ部分60等の鋼床版1の様な滑り易い箇所に施せば、当該舗装100を施した箇所の湿潤時の滑り抵抗をBPN>60とすることが出来る。
通常の道路ではBPN=50程度であり、国道であってもBPNは55以上という規格が存在することから、BPN>60という湿潤時の滑り抵抗は、国道以上の滑り抵抗(湿潤時の滑り抵抗)が保証されることを意味する。
そのため、自動車運搬船Pに自走で自動車を搬出入する際に、自動車が滑って接触事故を起こす事態を、防止することが出来る。
【0051】
第1実施形態に係る舗装100は、スロープ部分60のみならず、自動車運搬船P内部の交差点、カーブ等の安全性を要求される箇所に適用することが出来る。そして、舗装100を適用された個所のすべり止め効果を飛躍的に向上させる。
【0052】
また、彩色されたトップコートを使用し、或いは、透明なトップコートと彩色された骨材を使用することにより、第1実施形態に係る舗装100は、従来の舗装では有り得ない様な鮮やかな色彩を有して施工することが可能である。
そして、鮮やかな色彩を有して施工すれば、自動車運搬船内部の交差点、カーブ、坂路等、特に安全性を要求される箇所の識別性を高めて、ドライバーの注意を喚起することが出来る。
【0053】
さらに第1実施形態に係る舗装100では、バインダ3Mは接着力に優れており、且つ、プライマー2Mを使用して鋼床版1に対するバインダ3Mの付着力が十分に発揮出来る状態としている。したがって、バインダ3Mが自動車運搬船P内部の鋼床版1から剥がれることはなく、下地である鋼床版1に強力に付着する。
【0054】
これに加えて、第1実施形態に係る舗装100では、耐摩耗性、耐研磨性に優れる硬質骨材4を使用しているので、高いすべり抵抗性(BPNが60以上)を長期間に渡り持続することが出来る。
そして第1実施形態に係る舗装100では、可撓性に優れているため、下地(例えば自動車運搬船内部の鋼床版1)のたわみに追従することが出来る。
【0055】
次に、図4〜図7を参照して、本発明の第2実施形態を説明する。
第2実施形態は、図1〜図3で説明した第1実施形態の舗装100を、自動車運搬船Pのスロープ部分60等の鋼床版1に施す舗装方法に係る実施形態である。
【0056】
図4は、第2実施形態に係る舗装方法を実行する手順を示している。
図4において、ステップS1では、下地健全度を確認する。
具体的には、下地の鋼床版素地の健全度を目視にてチェックし、錆及び塗膜浮き等がないか確認を行う。
【0057】
ステップS1で下地健全度を確認したならば、ステップS2に進み、下地処理を行う。
具体的には、ステップS1の下地健全度確認において、鋼床版1に初錆・塗膜の浮き等が発見された場合は、ディスクサンダー等にてその部分の既存塗膜の完全撤去を行う。
既存塗膜の健全部については、タフポリッシャーにて研磨・目荒しを行い、清掃する。
【0058】
ステップS3では、プライマー塗布を行う。
プライマーを塗付する際には、先ず、鋼床版1の施工面に塩分・水分・汚れ等が付着していないことを確認し、所定量のプライマー2Mをローラー刷毛にて均一に塗布する。
プライマー2Mの塗布量は、例えば、0.15kg/m2とする。
但し、下地塗膜が油性塗料であった場合は、膨潤の恐れが有るため、プライマー塗布を中止し、油性塗料を除去した後、再度プライマー処理を行う。
【0059】
ステップS4では、マスキングを行う。
先ず、プライマー乾燥後、ラッシングホール10を専用のゴムキャップ(例えば、外径100mm)11でマスキングする。
図5は、鋼床版1に形成されたラッシングホール10をゴムキャップ11でマスキングした状態を示している。
さらに、ラッシングホール10の周囲をマスカーテープ等でマスキングを行う。骨材等が施工範囲外へ飛散することを防止するためである。
なお、プライマー塗布後48時間以内に、後述のステップS5でバインダ層3を施工する。
【0060】
ゴムキャップ11の厚さ寸法は、図6で示すように、バインダ3Mが塗布され、骨材4が撒布された際に、その厚さと概略等しくなる様に設定されている。
ここで、ゴムキャップ11の厚さ寸法が、バインダ3Mと骨材4の層の厚さ寸法よりも遥かに薄いと、後述する様にゴムキャップ11を除去する際に、ゴムキャップ11の配置個所が分からなくなってしまう。また、ゴムキャップ11の厚さ寸法が薄すぎる場合には、ゴムキャップ11の上部に塗付されるバインダ3Mの厚さ寸法が大きくなり、バインダ3Mが或る程度硬化すると、ゴムキャップ11を除去することが困難になってしまう。
換言すれば、ゴムキャップ11の厚さ寸法は、バインダ3Mと骨材4の層の厚さ寸法よりも小さ過ぎなければ良い。
【0061】
ステップS5では、バインダ塗布・骨材撒布を行う。
先ず、所定量のバインダ3Mをレーキ・鏝等にて、プライマーを塗布した面に均一に塗布し、同時に骨材4を、スコップその他の道具を用いて、いわゆる「ムラ」が生じない様に撒布する。
ここで、バインダ3Mの塗布量は、例えば1.2kg/m2であり、骨材4の撒布量は例えば6.0kg/m2である。
【0062】
ステップS5でバインダ3Mを塗布し、骨材4を撒布した状態が、図6で示されている。
図6において、鋼床版1のラッシングホール10の上面側には、ラッシングホール10の内径よりも大きな外径(例えば、外径100mm)のゴムキャップ11がラッシングホール10と同心で仮止めされている。
なお、この段階では、トップコート5は被覆されていない。
【0063】
ゴムキャップ11の下面には、仮止め用の接着剤12が塗布されており、ゴムキャップ11がラッシングホール10を被覆する位置に保持出来る様になっている。換言すれば、ゴムキャップ11の下面に仮止め用の接着剤12を塗布することにより、マスキングを行っている間に、ゴムキャップ11がラッシングホール10を被覆する位置からずれてしまうことを防止している。
一方、ゴムキャップ11の表面(上面)には、離型材(シリコン)13が塗布されている。後述するステップS8で、ゴムキャップ11を鋼床版1から除去する際に、容易にバインダ3M等が剥がれる様にするためである。
【0064】
図6において、後述するステップS8で、ゴムキャップ11を鋼床版1から除去し易くするために、ゴムキャップ11の周縁部直上のバインダ3Mの層に、切れ目15が形成されている。
なお、図6で示す様な切れ目15が形成されていなくても、ゴムキャップ11の周縁部直上のバインダ3Mは、その他の部分に比較して薄くなっているので、ゴムキャップ11を除去する際には、ゴムキャップ11の周縁部直上のバインダ3Mは、容易に破断する。そのため、ゴムキャップ11を除去する際に、支障はきたさない。
【0065】
図6において、符号δは、ゴムキャップ11の外縁側領域がラッシングホール10周辺部を被覆している環状部分の半径方向寸法であり、ラッシングホール10周縁部から舗装100までのクリアランス(余裕代)である。
符号δで示すクリアランスの部分には、バインダ3M、骨材4は塗布(或いは撒布)されておらず、舗装がされない。
【0066】
符号δで示すクリアランスまで舗装してしまうと、図7で示すようにラッシングホール10にラッシングベルト20のフック30を係合した際に、フック30(図6では2点鎖線で示す)が舗装表面101と擦れてしまい、トップコート5が摩耗して骨材4が露出し、骨材4がフック30と擦れて舗装100から剥離してしまう恐れがある。
そのため、ラッシングベルト20のフック30が舗装表面101(トップコート5)と擦れないように、ラッシングホール10の周囲部分であって、当該フック30と擦れる恐れがある領域は、クリアランスδとして、舗装100がなされないのである(図6)。
【0067】
符合δで示すクリアランス(ラッシングベルト20のフック30をかけるためのクリアランスδ)を設ければ、ラッシングベルト20のフック30がラッシングホール10或いは鋼床版1に係合しても、当該フック30はクリアランスδの部分に位置し、舗装表面101とは接触しない。
従って、フック30は舗装表面101と接触せず、舗装100の骨材4がフック30と擦れて落下してしまうことが防止される。
ここで、クリアランスδの具体的な寸法は、ラッシングベルト20のフック30と擦れるか否かにより決定される。
【0068】
ここで、クリアランスδが小さ過ぎると、上述した様に、ラッシングベルト20のフック30が舗装表面101と擦れて、骨材4が剥離する恐れがある。
一方、クリアランスδが大き過ぎると、ラッシングホール10周辺の舗装100が存在しない領域が大きくなり過ぎて、舗装100全体の湿潤時の滑り抵抗が低下する(例えば、湿潤時の滑り抵抗が、60より小さな値になってしまう)。
例えば、クリアランスδは21mm、ラッシングホール10の内径は58mmである。
【0069】
再び図4において、ステップS5の後に、余剰骨材回収(ステップS6)を行う。具体的には、ステップS5の工程で塗布されたバインダ3Mが完全硬化した後、余剰骨材4があれば、その余剰骨材4をスイーパー、ホウキ、掃除機等にて入念に回収する。
ここで、バインダ3Mに完全付着していない緩んだ骨材4が存在すれば、当該骨材5は、後に飛散する原因となるので、ポリッシャー等で完全に除去する。
そして、ステップS7に進む。
【0070】
ステップS7では、トップコート施工を行う。
前記ステップS6の後、所定量のトップコート(例えば、着色させたトップコート:カラートップ)5Mを、ローラー刷毛で注意しながら均一に塗布する。
トップコート5Mの塗布量は、例えば、0.8kg/m2である。
自動車搬送船P内のスロープ60で施工する場合には、いわゆる「ダレ」に注意しながら、トップコート5Mを塗布する。
トップコート5Mが馴染んだ後、仕上がり状態を観察し、トップコートが不足している箇所に対して、追加でトップコートを塗布する。
【0071】
次のステップS8では、マスキング除去を行う。
具体的には、トップコート5Mを塗布した後(ステップS7の工程完了後)、15分〜60分程度(例えば、30分程度)の間隔を空けて(養生を行って)、ゴムキャップ(例えば、外径100mm)11によるマスキングを撤去する。
マスキングの除去の際には、円形ゴムキャップ11を下側から押し上げて(図6の矢印「F」)、円形ゴムキャップ11を鋼床版1から取り外す。
【0072】
図6に関連して上述した様に、ゴムキャップ11の周縁部直上のバインダ3Mには切れ目15が形成されており、また、ゴムキャップ11の周縁部直上のバインダ3Mの厚さ寸法はその他の部分に比較して薄くなっている。そのため、ゴムキャップ11を除去する際には、ゴムキャップ11の周縁部直上は容易に破断して、ゴムキャップ11を除去することが出来る。
なお、マスキングを除去した際に、いわゆる「バリ(ゴムキャップの外周面に相当する部分に生じたバリ)」が生じた場合には、そのバリを切断する。
【0073】
ここで、トップコート5Mを塗布した後、マスキングを除去するまでの時間が余りに短過ぎると(例えば14分以下)、バインダ3Mやトップコート5Mが十分に硬化しておらず、マスキングを除去した際に、硬化していないバインダ3Mやトップコート5Mが、クリアランスδの上やラッシングホール10内に流入してしまう可能性がある。
一方、トップコート5Mを塗布して、骨材4を撒布してから、マスキングを除去する時間が長過ぎると(例えば61分以上)、バインダ3Mやトップコート5Mの硬化が進行して、マスキングの除去が困難になる恐れがある。
そのため、トップコート5Mを塗布した後、15分〜60分程度(例えば、30分程度)の間隔を空けて、ゴムキャップ11を除去(撤去)する。
ただし、バインダ3Mを塗布して、骨材4を撒布してから、マスキングを除去するまでの時間は、バインダ3Mの硬化速度により変動する。
【0074】
ステップS8では、トップコート5Mを塗布した後、硬化養生を行う。そして、硬化養生後、交通開放する。交通開放までの養生時間は、冬期は24時間以上、夏期は12時間以上とする。
【0075】
上述した手順で第2実施形態に係る施工を行なう際に、モルタルミキサ、発電機、施工道具(ゴムレーキ、ヘラ、刷毛)等の器具を使用する場合がある。
さらに、ステップS7に先立って、トップコート前養生(ステップS10)を実行しても良い。その場合、トップコート5Mによる被覆を行わない領域を、マスカーテープ等でマスキングを行う。これは、舗装する領域以外にトップコート等が付着してしまうのを防止するためである。
図6において、ステップS10が点線で示されているのは、トップコート前養生工程が省略可能であることを意味している。
【0076】
上述した第2実施形態によれば、ラッシングホール10はゴム製キャップ11でマスキングされるので、複数のラッシングホール10が開口している自動車運搬船Pの鋼床版1であっても、通常の道路と同様な手順により、舗装を施すことが可能である。
その結果、第1実施形態で述べたように、舗装100を施された鋼床版1の湿潤時の滑り抵抗を増加して、自動車搬出入時の接触事故を防止することが出来る。
また、マスキングで用いられたゴム製キャップ11は、バインダ塗布及び骨材撒布の後、所定時間(例えば30分)経過後に、鋼床版1下方から上方に押圧する力を、ラッシングホール10を介して作用させることにより、ラッシングホール10をマスキングしている状態から、容易に取り除くことが出来る。
【0077】
また第2実施形態では、ラッシングホール10はゴム製キャップ11でマスキングされているので、舗装施工時に、舗装100で用いられる骨材4がラッシングホール10を介して階下に降り注ぎ、階下の床面を汚してしまう恐れがない。
【0078】
さらに第2実施形態では、ラッシングホール10の周辺部にクリアランスδを設け、クリアランスδには舗装されないので、自動車40を捕縛、係留するため、ラッシングベルト20のフック30をラッシングホール10に係合しても、当該フック30はクリアランスδの部分に位置し、舗装表面101と擦れてしまうことがなく、フック30と擦れることによって骨材4が剥離してしまうことも防止される。その結果、剥離した骨材4がラッシングホール10を介して階下の自動車40に降り注ぎ、当該自動車40の塗装を傷つけてしまうことも防止される。
【0079】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
【符号の説明】
【0080】
1・・・船舶鋼床版
2・・・表面処理剤の層
2M・・・表面処理剤/プライマー
3・・・結合剤の層
3M・・・結合剤/バインダ(接着剤)
4・・・骨材
5・・・表面被覆剤の層/トップコート
5M・・・表面被覆剤/トップコート
10・・・ラッシングホール
11・・・弾性材料性キャップ/ゴムキャップ
12・・・仮止め用の接着剤
13・・・離型剤
15・・・切れ目
20・・・ラッシングベルト
30・・・フック
40・・・自動車
50・・・ランプ
52・・・ランプのスロープ
60・・・船内のスロープ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶鋼床版の上面に塗布された表面処理剤の層と、被覆層上方に位置する結合剤の層と、結合剤上の骨材と、結合剤及び骨材を被覆する表面被覆剤の層とが積層していることを特徴とする船舶鋼床版用の舗装。
【請求項2】
前記表面処理剤の層における表面処理剤の塗布量は0.10〜0.18kg/m2であり、前記結合剤の層における結合剤の塗布量は0.8〜1.5kg/m2であり、前記骨材の使用量は5.0〜9.0kg/m2であり、骨材の粒径は1.0〜5.0mmであり、前記表面被覆剤の層はトップコートで構成されており、トップコートの塗布量は0.5〜1.0kg/m2である請求項1の船舶鋼床版用の舗装。
【請求項3】
請求項1、2の何れかの舗装の施工方法において、自動車運搬船の鋼床版にプライマーを塗布する工程と、プライマーの乾燥後に鋼床版のラッシングホールを弾性材料製キャップで被覆する工程と、ラッシングホール)を弾性材料製キャップで被覆された鋼床版に結合剤を塗布する工程と、結合剤が塗布された領域に骨材を撒布する工程と、余剰骨材を回収する工程と、結合剤を塗布する工程と骨材を散布する工程と余剰骨材を回収する工程の後に表面被覆剤を塗布する工程と、表面被覆剤を塗布した後に所定時間が経過したならばラッシングホールを被覆していた弾性材料製キャップを取り除く工程を有することを特徴とする舗装の施工方法。
【請求項4】
弾性材料製キャップが被覆している領域は、鋼床版に形成されたラッシングホール周縁部に対して、一定のクリアランスが設けられている請求項3の舗装の施工方法。
【請求項1】
船舶鋼床版の上面に塗布された表面処理剤の層と、被覆層上方に位置する結合剤の層と、結合剤上の骨材と、結合剤及び骨材を被覆する表面被覆剤の層とが積層していることを特徴とする船舶鋼床版用の舗装。
【請求項2】
前記表面処理剤の層における表面処理剤の塗布量は0.10〜0.18kg/m2であり、前記結合剤の層における結合剤の塗布量は0.8〜1.5kg/m2であり、前記骨材の使用量は5.0〜9.0kg/m2であり、骨材の粒径は1.0〜5.0mmであり、前記表面被覆剤の層はトップコートで構成されており、トップコートの塗布量は0.5〜1.0kg/m2である請求項1の船舶鋼床版用の舗装。
【請求項3】
請求項1、2の何れかの舗装の施工方法において、自動車運搬船の鋼床版にプライマーを塗布する工程と、プライマーの乾燥後に鋼床版のラッシングホールを弾性材料製キャップで被覆する工程と、ラッシングホール)を弾性材料製キャップで被覆された鋼床版に結合剤を塗布する工程と、結合剤が塗布された領域に骨材を撒布する工程と、余剰骨材を回収する工程と、結合剤を塗布する工程と骨材を散布する工程と余剰骨材を回収する工程の後に表面被覆剤を塗布する工程と、表面被覆剤を塗布した後に所定時間が経過したならばラッシングホールを被覆していた弾性材料製キャップを取り除く工程を有することを特徴とする舗装の施工方法。
【請求項4】
弾性材料製キャップが被覆している領域は、鋼床版に形成されたラッシングホール周縁部に対して、一定のクリアランスが設けられている請求項3の舗装の施工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−20486(P2011−20486A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165292(P2009−165292)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)
【出願人】(000181354)鹿島道路株式会社 (46)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)
【出願人】(000181354)鹿島道路株式会社 (46)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]