説明

船舶

【課題】船尾部の後方における死水域(負圧の範囲)の発生を抑えることによって船体抵抗を低減することができる船舶を提供する。
【解決手段】船舶100は、左舷の船側外板1Lと船尾外板2とが平面視において垂直に配置され、船側外板1Lと船尾外板2とが平面視において略矩形状の隅切り部3Lを介して接合されている。すなわち、隅切り部3Lは、船側外板1Lに平行な隅切り側板31Lと、船尾外板2に平行な隅切り端板32Lとによって形成されている。同様に、右舷の船側外板1Rと船尾外板2とが平面視において垂直に配置され、船側外板1Rと船尾外板2とが平面視において略矩形状の隅切り部3Rを介して接合されている。すなわち、隅切り部3Rは、船側外板1Rに平行な隅切り側板31Rと、船尾外板2に平行な隅切り端板32Rとによって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船舶、特に、水面上の船体容積が大きな船型を有する船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車運搬船は、単位容積当たりの重量が比較的軽い荷物(自動車、トラック等)を運搬するため、水面上の船体容積が大きな船型になっている。このような船型を有する船舶は、風による風圧抵抗が大きいため、操船の困難性が増すと共に、トンマイル当たりの燃料消費量(1トンの貨物を1マイル運搬する際に必要な燃料消費量)が大きいという欠点があった。
そこで、発明者等は、風圧による抵抗、横力、モーメントを軽減するため、船体の上甲板と両舷側部とを結ぶ両角部に、それぞれ船首から船尾のほぼ全長にわたって風圧抵抗低減用の切欠段部を設け、さらに、船首部に、船首前縁上端から上甲板に向かって水平面に対して上向きの傾斜面を形成した船型を有する船舶を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3841712号公報(第3頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された発明は、船体によって作られる渦や剥離によって流速が遅くなる領域を、船側部に設けられた切欠段部と船首部に形成された傾斜面とによって小さくすることにより、抵抗改善の効果が得られる。しかしながら、船尾部は角型船尾、すなわち、船尾外板と両舷側板とが平面視でコ字状に接合されているため、正面風時(風流れに平行で、風流れに逆らって航行する時)、両舷側に沿って流れてくる風は、船尾外板と両舷側板との角において剥離する。このため、船尾部の後方に大きな死水域(負圧の範囲)が発生し、かかる負圧によって船体は後方に引っ張られ、船体抵抗が増大するという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題を解決するものであって、船尾部の後方における死水域(負圧の範囲)の発生を抑えることによって船体抵抗を低減することができる船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る船舶は、両船側外板と船尾外板とが互いに平面視において垂直に配置され、前記両船側外板と前記船尾外板とが平面視において略矩形状の隅切り部を介して接合されていることを特徴とする。
【0007】
(2)また、上下方向の回転軸を具備する可動板が前記隅切り部にそれぞれ設置され、
前記それぞれの可動板が一方に回転された際、前記それぞれの可動板の側縁が前記両舷の側方に突出し、
前記それぞれの可動板が他方に回転された際、前記それぞれの可動板の側縁が前記船尾の後方に突出することを特徴とする。
(3)さらに、前記(2)において、前記それぞれの可動板が他方にさらに回転された際、前記それぞれの可動板の側縁が前記船尾の後方に突出した状態から、前記それぞれの可動板の全体が前記隅切り部に収納されることを特徴とする。
(4)さらに、前記(2)または(3)において、前記それぞれの可動板の上端縁が上甲板と略同じ位置であって、前記それぞれの可動板の下端縁が上甲板から下方に所定距離に位置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の船舶によれば以下の効果が得られる。
(i)両船側外板と船尾外板とが平面視において略矩形状の隅切り部を介して接合されているから、略正面風の場合に船側外板を沿った空気流れは、船側外板と隅切り部(正確には、隅切り部を形成する船尾外板に平行な外板)との角において船側外板から離れ、船尾の後方に剥離流(以下、「第1剥離流れ」を称す)を形成すると共に、隅切り部に侵入した空気流れは、隅切り部(正確には、隅切り部を形成する船尾外板に垂直な外板)と船尾外板との角において隅切り部から離れ、船尾の後方に剥離流(以下、「第2剥離流れ」を称す)を形成する。
このため、第1剥離流れと第2剥離流れとが互いに干渉、混合し、船尾の後方に形成される死水域(負圧の領域)が小さくなり、かつ、負圧の程度が緩和される。したがって、船体抵抗が抑えられ、省エネ航行が可能になる。
【0009】
(ii)また、可動板が隅切り部に設置され、それぞれの可動板を回転して、平面視において船尾後方になる程、側縁同士の距離が狭くなる略ハ字状に配置した際、船側外板を沿った空気流れは、船側外板と隅切り部(正確には、隅切り部を形成する船尾外板に平行な外板)との角において船側外板から離れた後、可動板に沿って船尾の後方に流れ出す。
すなわち、船尾を流線形に除々に細くした場合の風流れに近似した風流れが形成されるから、船尾の後方に形成される死水域(負圧の領域)が小さくなり、かつ、負圧の程度が緩和される。したがって、船体抵抗が抑えられ、省エネ航行が可能になる。
また、船体抵抗を抑えるために、全長が同じで、船尾を流線形にした船舶に比較して、貨物積載スペースを大幅に増大させることが可能になる(これについては、別途詳細に説明する)。
一方、追風(風流れに平行で、風流れに押されるように航行する)時、それぞれの可動板を回転して、平面視において船側外板に垂直な状態で、舷の側方に突出させると、船尾外板の面積と両可動板の面積とを合わせた面積で追風を受ける。すなわち、受圧面積が増大するから、追風による前向きの推進力が増大し、省エネ航行が可能になる。
【0010】
(iii)さらに、可動板の全体が隅切り部に収納される、すなわち、船尾の後方に突出しない状態にすることができる。したがって、一般に、船舶が港湾に入港する際、船舶の全長が制限されることが多いものの、可動板を設けても船舶の全長が延長しない(後方に突出した可動板の場合、該突出量が船舶の全長に含まれる)から、船舶の制限船体長さが確保される。すなわち、可動板を設けても、その分、船舶の貨物積載スペース長さを短くする必要がなく、貨物積載量の減少を抑えることが可能になる(これについては、別途詳細に説明する)。
(iv)さらに、可動板の下端縁が上甲板から下方に所定距離に位置している。したがって、一般に、船舶が港湾に入港する際、船舶の全長が制限されることが多いものの、可動板を設けても船舶の全長(後方に突出した可動板の場合、該突出量が船舶の全長に含まれる)が延長しないようにするため、それぞれの可動板を回転して、平面視において船側外板に垂直な状態で舷の側方に突出させても、接岸時に、可動板の下端縁が港湾施設(岸壁や各種荷役装置)と干渉しない。なお、前記所定距離は、接岸時に可動板の下端縁が港湾施設と干渉しない距離である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係る船舶を模式的に説明する平面図。
【図2】本発明の実施の形態2に係る船舶を模式的に説明する平面図。
【図3】本発明の実施の形態3に係る船舶を模式的に説明する平面図。
【図4】本発明の実施の形態4に係る船舶を模式的に説明する背面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係る船舶を模式的に説明する平面図である。
図1において、船舶100は、左舷の船側外板1Lと船尾外板2とが平面視において垂直に配置され、船側外板1Lと船尾外板2とが平面視において略矩形状の隅切り部3Lを介して接合されている。すなわち、隅切り部3Lは、船側外板1Lに平行な隅切り側板31Lと、船尾外板2に平行な隅切り端板32Lとによって形成されている。なお、説明の便宜上、船側外板1Lと隅切り端板32Lとが接合された角部を第1角部4Lと、船尾外板2と隅切り側板31Lとが接合された角部を第2角部5Lと称す。
【0013】
同様に、右舷の船側外板1Rと船尾外板2とが平面視において垂直に配置され、船側外板1Rと船尾外板2とが平面視において略矩形状の隅切り部3Rを介して接合されている。すなわち、隅切り部3Rは、船側外板1Rに平行な隅切り側板31Rと、船尾外板2に平行な隅切り端板32Rとによって形成されている。なお、説明の便宜上、船側外板1Rと隅切り端板32Rとが接合された角部を第1角部4Rと、船尾外板2と隅切り側板31Rとが接合された角部を第2角部5Rと称す。
【0014】
したがって、正面風の場合、船側外板1L、1Rと船尾外板2とが平面視において略矩形状の隅切り部3L、3Rを介して接合されているから、船側外板1L、1Rを沿った空気流れは、第1角部4L、4R(船側外板1L、1Rと隅切り端板32L、32Rとの角)において船側外板1L、1Rから離れ、船尾の後方に第1剥離流れ40L、40Rを形成する。
また、隅切り部3L、3Rに侵入した空気流れは、第2角部5L、5R(船尾外板2と隅切り側板31L、31Rとの角)において隅切り部3L、3Rから離れ、船尾の後方に第2剥離流れ50L、50Rを形成する。
このため、第1剥離流れ40L、40Rと第2剥離流れ50L、50Rとが互いに干渉、混合し、船尾の後方に形成される死水域(負圧の領域)が小さくなり、かつ、負圧の程度が緩和される。したがって、船体抵抗Rが抑えられ、省エネ航行が可能になる。
なお、以上は、船舶100では、隅切り側板31L、31Rが船側外板1L、1Rに平行になっているが、本願発明はこれに限定するものではなく、隅切り側板31Lと隅切り側板31Rとがハ字状に配置され、両者の間隔が船尾外板2に近づく程、短くなってもよい。
【0015】
[実施の形態2]
図2は本発明の実施の形態2に係る船舶を模式的に説明するものであって、(a)および(b)は可動板の動作を説明する平面図、(c)および(d)は比較する船舶を示す平面図である。なお、実施の形態1(図1)と同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
図2の(a)および(b)において、船舶200は、略矩形状の隅切り部3L、3Rに、それぞれ上下方向の回動軸6L、6Rを具備する可動板7L、7Rが設置されている。なお、船舶200では、隅切り側板31L、31Rが船側外板1L、1Rに平行でなく、隅切り側板31Lと隅切り側板31Rとがハ字状に配置され、両者の間隔が船尾外板2に近づく程、短くなっているが、本願発明はこれに限定するものではなく、隅切り側板31L、31Rが船側外板1L、1Rに平行であってもよい。
【0016】
したがって、正面風時(図2の(a))には、可動板7L、7Rを回動して、平面視において船尾後方になる程、可動板7L、7Rの側縁8L、8R同士の距離が狭くなる略ハ字状に配置すれば(図2の(a)参照)、船側外板1L、1Rを沿った空気流れは、第1角部4L、4R(船側外板1L、1Rと隅切り端板32L、32Rとの接合部)において船側外板1L、1Rから離れた後、可動板7L、7Rに沿って船尾の後方に流れ出し、船尾風流れ70L、70Rを形成する。
すなわち、船尾を流線形に除々に細くした場合の風流れに近似した風流れが形成されるから、船尾の後方に形成される死水域(負圧の領域)が小さくなり、かつ、負圧の程度が緩和される。したがって、船体抵抗Rが抑えられ、省エネ航行が可能になる。
【0017】
図2の(c)および(d)に示す船尾を流線形にした船舶700、800は、船尾702、802が先細りになるため、船尾の後方に形成される死水域(負圧の範囲)が小さくなり、かつ、負圧の程度が緩和される。したがって、船体抵抗Rが抑えられ、省エネ航行が可能になる。しかしながら、船尾702、802が先細りになるため、その分、貨物積載スペースが減少している。
したがって、全長を同じにすると、本発明の船舶200は、流線形にした船尾702を有する船舶700に比較して、貨物積載スペースを大幅に増大させることが可能になる(図2の(c)参照)。
一方、貨物積載スペースを同じにすると、本発明の船舶200は、流線形にした船尾802を有する船舶800に比較して、船長を短縮させることが可能になる(図2の(d)参照)。
【0018】
一方、追風時(図2の(b))には、可動板7L、7Rを回転して、平面視において船側外板1L、1Rに略垂直な状態で、側縁8L、8Rを船側外板1L、1Rの側方に突出させると、船尾外板2の面積と可動板7L、7Rの面積とを合わせた面積で追風を受ける。また、船側外板1L、1Rの前方(船首側)には、第3剥離流れ80L、80Rが形成されるため、負圧の領域が生じる。すなわち、受圧面積が増大すると共に、前方に形成された負圧によって、追風による前向きの推進力Fが増大し、省エネ航行が可能になる。
なお、回動軸6L、6Rの支持機構や駆動機構は限定するものではない。
【0019】
[実施の形態3]
図3は本発明の実施の形態3に係る船舶を模式的に説明する平面図である。なお、実施の形態2(図2)と同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
図3において、船舶300は船舶200の可動板7L、7Rの回動範囲を180°にすると共に、隅切り端板32L、32Rの幅を可動板7L、7Rの幅(回動軸6L、6Rと側縁8L、8Rとの距離)よりも僅かに大きくしている。したがって、側縁8Lと側縁8Rとが最も近接する状態、すなわち、可動板7Lと可動板7Rとが略同一面に位置する状態において、可動板7L、7Rは隅切り部3L、3Rに収納されている。
【0020】
すなわち、可動板7L、7Rを船尾外板2の後方に突出しない状態にすることができる。このため、一般に、船舶が港湾に入港する際、船舶の全長が制限されることが多いものの、船舶300では可動板7L、7Rを設けても全長が延長しない(後方に突出した可動板7L、7Rの場合、突出量が船舶の全長に含まれる)から、船舶300では船体の長さが確保される。すなわち、可動板7L、7Rを設けても、貨物積載スペースの減少を抑えることが可能になる。
【0021】
[実施の形態4]
図4は本発明の実施の形態4に係る船舶を模式的に説明する背面図である。なお、実施の形態2(図2)と同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略すると共に、舵およびプロペラの記載を省略する。
図4において、船舶400は船舶200の可動板7L、7Rの高さを、下端縁9L、9Rの位置が、接岸時における港湾施設の上面900(図4においては、岸壁を例示する)と干渉しない位置になるように決定したものである。
【0022】
したがって、一般に、船舶が港湾に入港する際、船舶の全長が制限されることが多いものの、可動板を設けても船舶の全長(後方に突出した可動板の場合、該突出量が船舶の全長に含まれる)が延長しないようにするため、船舶400では、可動板7L、7Rを回転して、平面視において船側外板1L、1Rに略垂直な状態で側方に突出させても、接岸時に、可動板7L、7Rの下端縁9L、9Rが港湾施設の上面900に干渉することがない。
よって、可動板7L、7Rを設けても、船体の長さを確保することができるから、貨物積載スペースの減少を抑えることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、構成が簡素で船尾部の後方における死水域(負圧の範囲)の発生を抑えることによって船体抵抗を低減することができるから、省エネ航行を志向する各種船舶として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0024】
1L 船側外板
1R 船側外板
2 船尾外板
3L 隅切り部
3R 隅切り部
4L 第1角部
4R 第1角部
5L 第2角部
5R 第2角部
6L 回動軸
6R 回動軸
7L 可動板
7R 可動板
8L 側縁
8R 側縁
9L 下端縁
9R 下端縁
31L 隅切り側板
31R 隅切り側板
32L 隅切り端板
32R 隅切り端板
40L 第1剥離流れ
40R 第1剥離流れ
50L 第2剥離流れ
50R 第2剥離流れ
70L 船尾風流れ
70R 船尾風流れ
80L 第3剥離流れ
80R 第3剥離流れ
100 船舶(実施の形態1)
200 船舶(実施の形態2)
300 船舶(実施の形態3)
400 船舶(実施の形態4)
700 船舶(比較)
702 船尾(流線型)
800 船舶(比較)
802 船尾(流線型)
900 港湾施設の上面
F 推進力
R 船体抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両船側外板と船尾外板とが互いに平面視において垂直に配置され、前記両船側外板と前記船尾外板とが平面視において略矩形状の隅切り部を介して接合されていることを特徴とする船舶。
【請求項2】
上下方向の回転軸を具備する可動板が前記隅切り部にそれぞれ設置され、
前記それぞれの可動板が一方に回転された際、前記それぞれの可動板の側縁が前記両舷の側方に突出し、
前記それぞれの可動板が他方に回転された際、前記それぞれの可動板の側縁が前記船尾の後方に突出することを特徴とする請求項1記載の船舶。
【請求項3】
前記それぞれの可動板が他方にさらに回転された際、前記それぞれの可動板の側縁が前記船尾の後方に突出した状態から、前記それぞれの可動板の全体が前記隅切り部に収納されることを特徴とする請求項2記載の船舶。
【請求項4】
前記それぞれの可動板の上端縁が上甲板と略同じ位置であって、前記それぞれの可動板の下端縁が上甲板から下方に所定距離に位置していることを特徴とする請求項2または3記載の船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−255736(P2011−255736A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130248(P2010−130248)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)