説明

船舶

【課題】推進効率が良い船首トリム状態と同じような状態で満載喫水でもまた軽荷喫水でも航行でき、満載喫水と軽荷喫水の両方において船体の抵抗を減少させることができ、凌波性を高めることができて、運航時の推進効率を向上できる船舶及び船舶の航行方法を提供する。
【解決手段】垂線間長が100m以上400m以下の範囲で、計画航海速力が10ノット以上40ノット以下の範囲の貨物又は船客の少なくとも一方を輸送する排水量型の船舶1Aにおいて、船体10が計画満載喫水線L.W.L.で静止状態にて浮かんだ時に、船体中央より前では、船体中央13の喫水深さにおける第1水平面H1に対して、船体の少なくとも垂線間長の5%以上が該第1水平面よりも下に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速艇や砕氷船等の特殊な船舶を除いた排水量型の貨物又は船客の少なくとも一方を輸送する船舶に関し、より詳細には、推進効率が良い船首トリム状態と同じような状態で満載喫水でもまた軽荷喫水でも航行でき、満載喫水と軽荷喫水の両方において船体の抵抗を減少させることができる凌波性を高めることができて、運航時の推進効率を向上できる船舶及び船舶の航行方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水上を走行し、貨物又は船客を輸送する一般商船の殆どの船舶は、高速艇を除くと、その殆どが排水量型と呼ばれる船型をしており、航行中は、水面下の部分と水面上の部分とを有し、水面下の水の粘性による抵抗と、水面付近の波による抵抗と、水面上の空気(風)による抵抗を受けながら、プロペラ等の推進器で発生する推力により航行している。
【0003】
船舶の水面下においては、船体形状の工夫による抵抗減少や船体とプロペラと舵などの関係による推進性能の向上が進められ、また、水面付近での波による造波抵抗や砕波抵抗や反射波における抵抗減少についても船首形状や船尾形状の工夫により抵抗減少が図られている。これらに関しては、多大な労力が費やされ、現在も努力が継続されている。
【0004】
これらの船舶に設計においては、最初に貨物を積載した満載状態における推進性能の改善が問題にされ、更に、貨物を積んでいない軽荷状態における推進性能の改善が問題にされて来ている。
【0005】
従来技術の大型の一般商船の船舶では、図8に示すように、満載状態に置いては船首喫水と船体中央(ミッドシップ)の喫水と船尾喫水とは略同じ深さで設計され、満載航行状態では前後傾斜であるトリム(=船首喫水−船尾喫水)は略ゼロ又は船首側を上にした場合の傾斜角度で0°(degree)〜5°に設定されている。この航行状態では満載喫水線、上甲板、機関室の甲板、船底外板はほぼ平行に形成されている。
【0006】
そして、軽荷状態においては、バラスト水の搭載量等とプロペラの没水状態との関係から、船尾側のプロペラを没水させる必要があるため、図9に示すように、船首側を上にした船尾トリム状態で運行され、船底外板、上甲板等の傾斜が船首側を上にした傾斜角度で0°〜5°程度で運行されることが多い。
【0007】
しかしながら、この船尾トリムの状態においては、船首バルブが水面上に露出したり、水面形状が太った船型となったりして、造波抵抗が大きいという問題があり、さらに船底が前上がりに傾斜しているので、船側部や船尾部で渦流が発生し易く粘性圧力抵抗が大きいという問題もある。
【0008】
さらには、プロペラ回転軸が船尾トリムに従って前上がり傾斜をすることから、プロペラ推進軸に作用する推進力を完全に船体の前後方向だけに利用することができず、推進力にロスが生じるという問題がある。
【0009】
一方、模型船を使用した水槽実験の結果等を見ると、図9に示すような船尾側が沈む船尾トリム状態よりも、図10に示すような船首側が沈む船首トリムの方が推進性能が良いという知見が得られた。
【0010】
なお、単胴型高速船における新規で斬新な船首形状として、独特な船首形状が提案されており、その図面においては、船首側の喫水が船尾側の喫水よりも大きくなっている船型が図示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この船型は旅客フェリーや洋上リグへの送迎用のクルー運搬船などを対象とした単胴高速船に関するものであり、この船首側の喫水が船尾側の喫水よりも大きくなっていることに関しては図面以外に何らの記載もなく、また、排水量型の貨物船に関するものではない。
【0011】
また、高速艇における船形として、その図面においては、船首側の喫水が船尾側の喫水よりも大きくなっている船型が図示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この船型は高速艇に関するものであり、この船首側の喫水が船尾側の喫水よりも大きくなっていることに関しては図面以外になんらの記載もなく、また、排水量型の貨物船に関するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−88627号公報
【特許文献2】特開2002−53092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、推進効率が良い船首トリム状態と同じような状態で満載喫水でもまた軽荷喫水でも航行でき、満載喫水と軽荷喫水の両方において船体の抵抗を減少させることができる凌波性を高めることができて、運航時の推進効率を向上できる船舶及び船舶の航行方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するための船舶は、垂線間長が100m以上400m以下の範囲で、計画航海速力が10ノット以上40ノット以下の範囲の貨物又は船客の少なくとも一方を輸送する排水量型の船舶において、船体が計画満載喫水線で静止状態にて浮かんだ時に、船体中央より前では、船体中央の喫水深さにおける第1水平面に対して、船体の少なくとも垂線間長の5%以上が該第1水平面よりも下に設けられているように構成される。
【0015】
この垂線間長が100m以上400m以下の範囲の船舶とすることで、本発明の対象船舶から小型船舶を除外し、計画航海速力が10ノット以上40ノット以下の範囲の船舶とすることで、高速船や戦闘用の高速船舶を除外し、貨物又は船客の少なくとも一方を輸送する排水量型の船舶とすることで、作業船や漁船や砕氷船等の特殊船を除外している。
【0016】
なお、垂線間長(Lpp)とは、舵柱もしくは舵頭材の中心である船尾垂線(後部垂線:A.P.)と、満載喫水線における船首材前端である船首垂線(前部垂線:F.P.)と間の距離であり、また、ノット(knot:kt,kn)は船のスピードを表わす単位で海里に基づくものであり、1ノットは1852m/h(1.852km/h)となる。
【0017】
また、排水量型の船舶とは、最も一般的な船体下部が水面下に沈むことで浮力を得る船舶であり、航行時と停船時のいずれでも浮力を得る方法に変りはない船舶のことをいう。この排水量型とは異なる船舶としては、滑走型や水中翼型やエアクッション型等がある。
【0018】
この構成によれば、船体中央(ミッドシップ)の喫水よりも深い部分に船体の一部を設けることができるので、推進効率が良い船首トリム状態と同じような状態で、満載喫水でもまた軽荷喫水でも航行できる。従って、運航時の推進効率を向上でき、燃費を低減できて、CO2の排出も減少できる。なお、船体中央より前で第1水平面よりも下に設けられている船体の部分の船長方向の長さの下限は垂線間長の5%であるが、上限は、船体中央より前側全部となる。
【0019】
また、船体前半部で、船体の水面下の深さが深くなるので、船体形状の自由度が増して、水面付近の形状に対する制限が少なくなる。その結果、満載喫水と軽荷喫水の両方において水面付近の水線面形状を痩せさせた形状にすることができるようになるので、船体の抵抗を減少させることができる。つまり、従来技術では、船首側に浮心位置(lcb)をもつ場合に船首近傍部分が太った形状になっていたが、本発明の構造では、船底を深くすることにより船首近傍部分を痩せた形状にすることができる。
【0020】
また、船首部の喫水を深くすることができるので、軽荷喫水線よりも下に軽荷状態でも水上に露出しない大きな船首バルブを必要に応じて配置することができるようになるので、造波抵抗を著しく小さくできる。
【0021】
更に、満載喫水線の水線面に連続しており、その水線面の形状の影響を受ける船首部のフレア形状も痩せさせることができるので、凌波性を高めることができる。
【0022】
上記の船舶において、船体が単胴、即ち、水面下に沈んで水と直接接する船体が1つである船型であると、また、船舶が、バルク運搬船、チップ運搬船、液体タンカー(原油タンカー、石油タンカー、化学製品タンカー等)、ガスタンカー(LNG,LPG等)、自動車運搬船(PCC(Pure Car Carrier),PCTC(Pure Car & Truck Carrier)等)、フェリー、RORO、コンテナ運搬船、鉱石運搬船、客船の内の一つであると、上記の効果をより発揮できる。なお、単胴船とは異なる船型として双胴船や三胴船等がある。
【0023】
上記の船舶において、船体が計画満載喫水線で静止状態にて浮かんだ時に、側面視で、前記第1水平面よりも下に設けられた船体の船底の傾斜が、前記第1水平面と、船体中央の船底と船首垂線(F.P.)位置における船体中央位置の計画満載喫水の125%深さの没水位置とを結ぶ線との範囲内にあるように構成する。
【0024】
この構成によれば、現時点で設けられている船台やドックで容易に製造できる形状となる。また、船底がこの範囲に入ることにより、船底が船首側から船体中央側に向かって略滑らかに傾斜した船形となるので、船底周囲の流れが滑らかになり粘性圧力抵抗が少なくなる。
【0025】
上記の船舶において、船体が計画満載喫水線で静止状態にて浮かんだ時に、側面視で、上甲板が前下がりの傾斜角で−10°以上+10°以下の範囲にあるように構成する。言い換えれば、上甲板は船底との平行を維持せずに、計画満載喫水線と略平行であるように構成する。
【0026】
この構成によれば、本発明と同じ対象船舶における従来技術の船形との差異がより明確になると共に、現時点で設けられている船台やドックで容易に製造できる形状となる。また、船底がこの範囲に入ることにより、船底が船首側から船体中央側に向かって略滑らかに傾斜した船形となるので、船底周囲の流れが滑らかになり粘性圧力抵抗が少なくなる。更に、満載時には上甲板を略水平に保った状態で運航できるので、貨物や船客を略水平状態に保った甲板上で運搬することができる。
【0027】
上記の船舶において、船体が前記計画満載喫水線で静止状態にて浮かんだ時、及び、船体が計画軽荷喫水で静止状態にて浮かんだ時との両方で、プロペラ回転軸が水平面に対して後下がりの傾斜角で−10°以上+10°以下の範囲にあるように構成する。
【0028】
この構成によれば、満載状態でも軽荷状態でも、プロペラ回転軸を略水平に保ってプロペラを傾斜させることなく、言い換えれば、プロペラの推進力の方向を傾斜させることなく、プロペラの推進力の略全部を船体の推進に使用でき、推進効率が最も良い状態で運航できる。
【0029】
更に、貨物室、機関室、船橋、居住区を満載喫水状態と軽荷喫水状態の両方で略水平に維持しながら運航できるようになるので、貨物や機関室の機器類を傾斜させなくてよい。その結果、貨物であるコンテナや自動車などの固定が容易になるとともに、直立状態で使用できるので、保守が容易になり寿命も延びる。また、船客や乗組員が水平の甲板上で生活できるようになるので、快適性が増す。
【0030】
上記の船舶において、機関室を船体中央より船尾側に配置すると共に、船体が前記計画満載喫水線で静止状態にて浮かんだ時に、側面視で、少なくとも機関室の後端からプロペラ中心までの船底が水平面に対して後下がりの傾斜角で−10°以上+10°以下の範囲にあるように構成する。
【0031】
この構成によれば、機関室の船底をプロペラ回転軸に略平行することができるので、回転軸の芯だしや設置が容易となる。また、プロペラ回転軸と同様に、機関室の甲板とその上に載置される主機関等の機器類を略水平状態に維持でき、傾斜がなく無理のない略直立の状態で運転できるようになるので、機関の状態を良好に保つことができる。従って、保守点検が少なくなると寿命も延びるようになる。
【0032】
上記の目的を達成するための船舶の航行方法は、垂線間長が100m以上400m以下の範囲で、計画航海速力が10ノット以上40ノット以下の範囲の貨物又は船客の少なくとも一方を輸送する排水量型の船舶の航行方法において、船体中央より前では、船体中央の喫水深さにおける第1水平面に対して、船体の少なくとも垂線間長の5%以上が前記第1水平面よりも下にある状態で航行する方法である。
【0033】
この方法によれば、船体の浮心位置が船体中央よりも前になる状態で、船体中央より前側において、船体中央の喫水よりも深い部分に船体の一部を設けることができるので、推進効率が良い船首トリム状態と同じような状態で、満載喫水でもまた軽荷喫水でも航行できる。従って、運航時の推進効率を向上でき、燃費を低減できて、CO2の排出も減少できる。
【0034】
また、この運行方法を行う船舶の構造は、船体前半部で、船体の水面下の深さが深くなるので、船体形状の自由度が増して、水面付近の形状に対する制限が少なくなる。その結果、水面付近の水線面形状を痩せさせた形状にしたり、軽荷喫水線よりも下に大きな船首バルブを配置したりすることができるようになるので、造波抵抗や粘性圧力抵抗を著しく小さくできる。更に、満載喫水線の水線面に連続しており、その水線面の形状の影響を受ける船首部のフレア形状も痩せさせることができるので、凌波性を高めることができる。
【0035】
また、上記の船舶の航行方法において、前記船舶の航行時に、プロペラ回転軸を水平面に対して後下がりの傾斜角で−10°以上+10°以下の範囲(略水平)の状態にして航行する。このように、船体が計画満載喫水線で静止状態にて浮かんだ時や船体が計画軽荷喫水線で静止状態にて浮かんだ時等の任意の運航時において、プロペラ回転軸を略水平に保ってプロペラを傾斜させることなく、言い換えれば、プロペラの推進力の方向を傾斜させることなく、プロペラの推進力の略全部を船体の推進に使用でき、推進効率が最も良い状態で運航できる。
【0036】
更に、貨物室、機関室、船橋、居住区を満載喫水状態と軽荷喫水状態の両方で略水平に維持しながら運航できるようになるので、貨物や機関室の機器類を傾斜させなくてよい。その結果、貨物であるコンテナや自動車などの固定が容易になるとともに、直立状態で使用できるので、保守が容易になり寿命も延びる。また、船客や乗組員が水平の甲板上で生活できるようになるので、快適性が増す。
【発明の効果】
【0037】
本発明の船舶及び船舶の航行方法によれば、船首側に浮心位置をもつ場合に、船体中央の喫水よりも深い部分に船体の一部を設けることができるので、推進効率が良い船首トリム状態と同じような状態で、満載喫水でもまた軽荷喫水でも航行できる。
【0038】
また、船体前半部で、船体の水面下の深さが深くなるので、船体形状の自由度が増して、水面付近の形状に対する制限が少なくなる。その結果、満載喫水と軽荷喫水の両方において水面付近の水線面形状を痩せさせた形状にすることができるようになるので、船体の抵抗を減少させることができる。 また、船首部の喫水を深くすることができるので、軽荷喫水線よりも下に軽荷状態でも水上に露出しない大きな船首バルブを必要に応じて配置することができるようになるので、造波抵抗を著しく小さくできる。
【0039】
更に、満載喫水線の水線面に連続しており、その水線面の形状の影響を受ける船首部のフレア形状も痩せさせることができるので、凌波性を高めることができる。
【0040】
従って、運航時の推進効率を向上でき、燃費を低減できて、CO2の排出も減少できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態における船舶の船体形状を示す側面図である。
【図2】本発明に係る第2の実施の形態における船舶の船体形状を示す側面図である。
【図3】本発明に係る第3の実施の形態における船舶の船体形状を示す側面図である。
【図4】傾斜船底の傾斜角を示す側面図である。
【図5】上甲板の傾斜角を示す側面図である。
【図6】プロペラ回転軸の傾斜角を示す側面図である。
【図7】略水平の船底の傾斜角を示す側面図である。
【図8】従来技術の船舶の船体形状を示す側面図である。
【図9】従来技術の船舶における船尾トリム状態を示す側面図である。
【図10】従来技術の船舶における船首トリム状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照して本発明に係る船舶及び船舶の航行方法の実施の形態について説明する。本願発明の実施の形態に係る船舶は、垂線間長が100m以上400m以下の範囲で、計画航海速力が10ノット以上40ノット以下の範囲の貨物又は船客の少なくとも一方を輸送する排水量型の船舶である。
【0043】
この船舶では、特に、船体が単胴、即ち、水面下に沈んで水と直接接する船体が1つである船型であると、また、船舶が、バルク運搬船、チップ運搬船、液体タンカー(原油タンカー、石油タンカー、化学製品タンカー等)、ガスタンカー(LNG,LPG等)、自動車運搬船(PCC(Pure Car Carrier),PCTC(Pure Car & Truck Carrier)等)、フェリー、RORO、コンテナ運搬船、鉱石運搬船、客船の内の一つであると、効果をより発揮できるので好ましい。
【0044】
この垂線間長が100m以上400m以下の範囲の船舶とすることで、本発明の対象船舶から小型船舶を除外し、計画航海速力が10ノット以上40ノット以下の範囲の船舶とすることで、高速船や戦闘用の高速船舶を除外し、貨物又は船客の少なくとも一方を輸送する排水量型の船舶とすることで、作業船や漁船や砕氷船等の特殊船を除外している。なお、垂線間長(Lpp)とは、舵柱もしくは舵頭材の中心である船尾垂線(後部垂線:A.P.)と、満載喫水線における船首材前端である船首垂線(前部垂線:F.P.)と間の距離であり、また、ノット(knot:kt,kn)は船のスピードを表わす単位で海里に基づくものであり、1ノットは1852m/h(1.852km/h)となる。
【0045】
また、排水量型の船舶とは、最も一般的な船体下部が水面下に沈むことで浮力を得る船舶であり、航行時と停船時のいずれでも浮力を得る方法に変りはない船舶のことをいう。この排水量型とは異なる船舶としては、滑走型や水中翼型やエアクッション型等がある。
【0046】
そして、本発明に係る船舶1は、図1〜図3に示すように、船体10が計画満載喫水線12で静止状態にて浮かんだ時に、船体中央13より前では、船体中央13の喫水深さdmにおける第1水平面H1に対して、船体の少なくとも垂線間長の5%以上がこの第1水平面H1よりも下に設けられるように構成される。なお、図1では浮心位置11を船体中央(ミッドシップ)13よりも前になっている(lcb>0)が、必ずしも、その必要はない。
【0047】
また、船体10が計画満載喫水線12で静止状態にて浮かんだ時に、図4に示すように、側面視で、第1水平面H1に対して前下がりの傾斜であると共に、第1水平面H1よりも下に設けられた船体の船底10cの傾斜が、第1水平面H1(傾斜角α1)と、船体中央の船底Pmと船首垂線(F.P.)位置における船体中央位置の計画満載喫水dmの125%深さ(1.25dm)の没水位置Pfとを結ぶ線C1(傾斜角α2)との範囲内(α1〜α2)にあるように構成する。なお、ここではα1=0°となる。
【0048】
更に、船体が計画満載喫水線L.W.L.で静止状態にて浮かんだ時に、図5に示すように、側面視で、上甲板14が水平面(第2水平面H2)に対して前下がりの傾斜角βで−10°(β1)以上+10°(β2)以下の範囲にあるように構成する。言い換えれば、上甲板14は船底10cとの平行を維持せずに、計画満載喫水線12と略平行であるように構成する。
【0049】
この構成によれば、現時点で設けられている船台やドックで容易に製造できる形状となる。また、船底10cの殆どがこの範囲に入ることにより、船底10cが船首側から船体中央13側に向かって略滑らかに傾斜した船形となるので、船底10cの周囲の流れが滑らかになり粘性圧力抵抗が少なくなる。更に、満載時には上甲板14を略水平に保った状態で運航できるので、貨物や船客を略水平状態に保った甲板上で運搬することができる。
【0050】
また、船体10が計画満載喫水線L.W.L.で静止状態にて浮かんだ時、及び、船体が計画軽荷喫水W.L.で静止状態にて浮かんだ時との両方で、図6に示すように、プロペラ回転軸15が水平面(第3水平面H3)に対して後下がりの傾斜角γで−10°(γ1)以上+10°(γ2)以下の範囲(略水平)にあるように構成する。
【0051】
この構成によれば、満載状態でも軽荷状態でも、プロペラ回転軸15を略水平に保ってプロペラ16を傾斜させることなく、言い換えれば、プロペラ16の推進力の方向を傾斜させることなく、プロペラ16の推進力の略全部を船体の推進に使用でき、推進効率が最も良い状態で運航できる。
【0052】
更に、貨物室、機関室、船橋、居住区を満載喫水状態と軽荷喫水状態の両方で略水平に維持しながら運航できるようになるので、貨物や機関室の機器類を傾斜させなくてよい。その結果、貨物であるコンテナや自動車などの固定が容易になるとともに、直立状態で使用できるので、保守が容易になり寿命も延びる。また、船客や乗組員が水平の甲板上で生活できるようになるので、快適性が増す。
【0053】
また、機関室を船体中央13より船尾側に配置すると共に、船体10が計画満載喫水線12で静止状態にて浮かんだ時に、図7に示すように、側面視で、少なくとも機関室の後端Eeからプロペラ中心Pcまで(距離L1)の船底10dが水平面(第4水平面H4)に対して後下がりの傾斜角δで−10°(δ1)以上+10°(δ2)以下の範囲(略水平)にあるように構成する。
【0054】
この構成によれば、機関室の船底10dをプロペラ回転軸15に略平行することができるので、プロペラ回転軸15の芯だしや設置が容易となる。また、プロペラ回転軸15と同様に、機関室の甲板とその上に載置される主機関等の機器類を略水平状態に維持でき、傾斜がなく無理のない略直立の状態で運転できるようになるので、機関の状態を良好に保つことができる。従って、保守点検が少なくなると寿命も延びるようになる。
【0055】
そして、この実施の形態の船舶としては、図1〜図3に示すような第1〜第3の実施の形態がある。
【0056】
この図1に示す第1の実施の形態の船舶1Aでは、機関室の前端から後の船底10dが略水平に構成され、機関室の前端から前の船底10cが傾斜角αで形成される。また、図2に示す第2の実施の形態の船舶1Bのように、船体中央13から後の船底10dが略水平に構成され、船体中央13から前の船底10cが傾斜角αで形成される。更に、図3に示す第3の実施の形態の船舶1Cのように、略水平の船底10dが無く、船尾から前の船底10cが傾斜角αで形成される。
【0057】
そして、本発明に係る船舶の航行方法は、垂線間長が100m以上400m以下の範囲で、計画航海速力が10ノット以上40ノット以下の範囲の貨物又は船客の少なくとも一方を輸送する排水量型の船舶の航行方法であり、船体中央13より前にでは、船体中央13の喫水深さdmにおける第1水平面H1に対して、船体の少なくとも垂線間長の5%以上が、第1水平面H1よりも下にある状態で航行する方法である。
【0058】
また、この船舶の航行方法において、船舶1A,1B,1Cの航行時に、プロペラ回転軸15を水平面に対して後下がりの傾斜角γで−10°(γ1)以上+10°(γ2)以下の範囲(略水平)の状態にして航行する。このように、船体10が計画満載喫水線L.W.L.で静止状態にて浮かんだ時や船体10が計画軽荷喫水線W.L.で静止状態にて浮かんだ時等の任意の運航時において、プロペラ回転軸15を略水平に保ってプロペラ16を傾斜させることなく、言い換えれば、プロペラ16の推進力の方向を傾斜させることなく、プロペラ16の推進力の略全部を船体の推進に使用でき、推進効率が最も良い状態で運航できる。
【0059】
更に、貨物室、機関室、船橋、居住区を満載喫水状態と軽荷喫水状態の両方で略水平に維持しながら運航できるようになるので、貨物や機関室の機器類を傾斜させなくてよい。その結果、貨物であるコンテナや自動車などの固定が容易になるとともに、直立状態で使用できるので、保守が容易になり寿命も延びる。また、船客や乗組員が水平の甲板上で生活できるようになるので、快適性が増す。
【0060】
上記の船舶及び船舶の航行方法によれば、船首側に浮心位置11をもつ場合に、船体中央13の喫水dmよりも深い部分に船体10の一部10bを設けることができるので、推進効率が良い船首トリム状態と同じような状態で、満載喫水L.W.L.でもまた軽荷喫水W.L.でも航行できる。従って、運航時の推進効率を向上でき、燃費を低減できて、CO2の排出も減少できる。
【0061】
また、船体前半部で、船体10の水面下の深さが深くなるので、船体形状の自由度が増して、水面付近の形状に対する制限が少なくなる。その結果、満載喫水L.W.L.と軽荷喫水W.L.の両方において水面付近の水線面形状を痩せさせた形状にすることができるようになるので、船体10の抵抗を減少させることができる。つまり、従来技術では、船首側に浮心位置11をもつ場合に船首近傍部分が太った形状になっていたが、本発明の構造では、船底を深くすることにより船首近傍部分を痩せた形状にすることができる。
【0062】
また、船首部の喫水を深くすることができるので、軽荷喫水線12よりも下に軽荷状態でも水上に露出しない大きな船首バルブ13を配置することができるようになるので、造波抵抗を著しく小さくできる。
【0063】
更に、満載喫水線の水線面に連続しており、その水線面の形状の影響を受ける船首部のフレア17の形状も痩せさせることができるので、凌波性を高めることができる。
【0064】
従って、運航時の推進効率を向上でき、燃費を低減できて、CO2の排出も減少できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の船舶及び船舶の航行方法は、推進効率が良い船首トリム状態と同じような状態で満載喫水でもまた軽荷喫水でも航行でき、満載喫水と軽荷喫水の両方において船体の抵抗を減少させることができる凌波性を高めることができて、運航時の推進効率を向上でき、その結果、燃費と運航性能を向上することができるので、数多くの種類の船舶及び船舶の航行方法として利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1A、1B、1C 船舶
10 船体
10a 船体中央より前で、第1水平面より上の没水部分の船体
10b 船体中央より前で、第1水平面より下の没水部分の船体
10c 傾斜している船底
10d 略水平の船底
11 浮心位置
12 満載喫水線
13 船体中央
14 上甲板
15 プロペラ回転軸
16 プロペラ
17 船首フレア
α 傾斜船底の傾斜角
β 上甲板の傾斜角
γ プロペラ回転軸の傾斜角
δ 略水平の船底の傾斜角
H1 第1水平面
H2 第2水平面
H3 第3水平面
H4 第4水平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂線間長が100m以上400m以下の範囲で、計画航海速力が10ノット以上40ノット以下の範囲の貨物又は船客の少なくとも一方を輸送する排水量型の船舶において、
船体が計画満載喫水線で静止状態にて浮かんだ時に、船体中央より前では、船体中央の喫水深さにおける第1水平面に対して、船体の少なくとも垂線間長の5%以上が該第1水平面よりも下に設けられていることを特徴とする船舶。
【請求項2】
船体が単胴であることを特徴とする請求項1記載の船舶。
【請求項3】
船舶が、バルク運搬船、チップ運搬船、液体タンカー、ガスタンカー、自動車運搬船、フェリー、RORO、コンテナ運搬船、鉱石運搬船、客船の内の一つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶。
【請求項4】
船体が計画満載喫水線で静止状態にて浮かんだ時に、側面視で、前記第1水平面よりも下に設けられた船体の船底の傾斜が、前記第1水平面と、船体中央の船底と船首垂線位置における船体中央位置の計画満載喫水の125%深さの没水位置とを結ぶ線との範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項5】
船体が計画満載喫水線で静止状態にて浮かんだ時に、側面視で、上甲板が前下がりの傾斜角で−10°以上+10°以下の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項6】
船体が前記計画満載喫水線で静止状態にて浮かんだ時、及び、船体が計画軽荷喫水で静止状態にて浮かんだ時との両方で、プロペラ回転軸が水平面に対して後下がりの傾斜角で−10°以上+10°以下の範囲にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項7】
機関室を船体中央より船尾側に配置すると共に、船体が前記計画満載喫水線で静止状態にて浮かんだ時に、側面視で、少なくとも機関室の後端からプロペラ中心までの船底が水平面に対して後下がりの傾斜角で−10°以上+10°以下の範囲にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項8】
垂線間長が100m以上400m以下の範囲で、計画航海速力が10ノット以上40ノット以下の範囲の貨物又は船客の少なくとも一方を輸送する排水量型の船舶の航行方法において、
船体中央より前では、船体中央の喫水深さにおける第1水平面に対して、船体の少なくとも垂線間長の5%以上が前記第1水平面よりも下にある状態で航行することを特徴と船舶の航行方法。
【請求項9】
前記船舶の航行時に、プロペラ回転軸を水平面に対して後下がりの傾斜角で−10°以上+10°以下の範囲(略水平)の状態にして航行することを特徴とする請求項9に記載の船舶の航行方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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