説明

船舶

【課題】SCRシステムを容易に配置することができる船舶を提供する。
【解決手段】船舶1は、機関室3に配置されたメインエンジン31と、SCR触媒を含む触媒部52を有しメインエンジン31の排気ガスを処理するSCRシステム5と、を備えている。ここで、SCRシステム5の少なくとも触媒部52は、スペースに比較的余裕のある舵機室4に配置されている。よって、SCRシステム5の配置上の制約を少なくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の船舶では、下記の特許文献1に示すように、例えば船体の船尾側に機関室が画設され、この機関室に主機(メインエンジン)等のエンジンが配置されている。このような船舶においては、近年、例えばエンジンの排気ガス(以下、単に「排気ガス」ともいう)の規制が益々厳しくなっていることから、当該排気ガスを処理するSCR(Selective Catalytic Reduction:選択触媒還元)システムの装備が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−255569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、SCRシステムは、排気ガスを比較的高い温度状態で処理する等のため、エンジン近傍に配置されることが好ましい。そのため、上述したような船舶では、通常、SCRシステムが機関室内に配置される。しかしこの場合、一般的に、機関室は空いたスペースが少ない反面、SCRシステムにはかなりの容積を必要とするため、SCRシステムを配置するのが容易ではない。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、SCRシステムを容易に配置することができる船舶を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る船舶は、機関室に配置されたエンジンと、選択還元触媒を含む触媒部を有し、エンジンの排気ガスを処理するSCRシステムと、を備え、SCRシステムの少なくとも触媒部は、舵機室に配置されていることを特徴とする。
【0007】
この本発明の船舶では、スペースに比較的余裕のある舵機室にSCRシステムの少なくとも触媒部を配置することにより、SCRシステムの配置上の制約を少なくすることができ、その結果、SCRシステムを容易に配置することが可能となる。
【0008】
また、エンジンは、舶用低速ディーゼルエンジンであって、ターボチャージャを有しており、SCRシステムは、排気ガスの流路においてターボチャージャの上流側に設けられていることが好ましい。ターボチャージャの下流側にSCRシステムを設けると、当該ターボチャージャにより排気ガスのエネルギが低下して排気ガス温度が低下するため、触媒部での温度が低下することが見出される。よって、エンジンが舶用低速ディーゼルエンジンの場合、その排気ガス温度が比較的低いことから、触媒部の温度が反応に好適な所定の反応温度まで達せずに排気ガスを十分に処理できないことが懸念される。この点、本発明では、上述したように、エンジンが舶用低速ディーゼルエンジンの場合にSCRシステムを排気ガスの流路のターボチャージャ上流側に設けることにより、ターボチャージャで排気ガス温度が低下し触媒部の温度が所定の反応温度に達しなくなるのを抑制できる。すなわち、本発明によれば、エンジンが舶用低速ディーゼルエンジンであってもSCRシステムを好適に作動させて排気ガスの処理を確実に行いつつ、SCRシステムを容易に配置することが可能となる。
【0009】
また、触媒部は、舵機室の床面を構成するデッキ上に配置されていることが好ましい。これにより、例えば舵機室の床面側のスペースに比較的余裕がある場合に、舵機室内の空間を有効に利用してSCRシステムを配置することができる。
【0010】
また、舵機室内において底面と天井面との間には、中間デッキが設けられ、触媒部は、中間デッキ上に配置されていることが好ましい。これにより、例えば舵機室の上方側のスペースに比較的余裕がある場合に、舵機室内の空間を有効に利用してSCRシステムを配置することができる。
【0011】
また、SCRシステムは、排気ガスに還元剤を供給するための還元剤供給部と、排気ガス及び還元剤を混合するための混合部と、を有しており、還元剤供給部及び混合部は、舵機室に配置されていることが好ましい。この場合、SCRシステムの配置上の問題を一層低減することができ、SCRシステムを一層容易に配置することが可能となる。
【0012】
また、舵機室は、機関室に隣接する非防爆エリアであることが好ましい。この場合、舵機室が機関室に隣接することから、これらの間を連通する配管等の取り回しが容易となると共に、非防爆エリアの舵機室では防爆上の制約が少なくなるため、SCRシステムを一層容易に配置することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、SCRシステムを容易に配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る船舶の船尾側を示す概略側面図である。
【図2】SCRシステムを示す概略拡大側面図である。
【図3】(a)は機関室及び舵機室間の隔壁を示す拡大側断面図、(b)は機関室及び舵機室間における隔壁の変形例を示す拡大側断面図である。
【図4】(a)はSCRシステムの変形例を示す概略拡大側面図、(b)はSCRシステムの他の変形例を示す概略拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、「前」「後」「左」「右」「上」「下」の語は、船体の前後方向、左右(幅)方向及び上下方向にそれぞれ対応したものである。
【0016】
図1は本発明の一実施形態に係る船舶の船尾側を示す概略側面図、図2はSCRシステムを示す概略拡大側面図である。図1,2に示すように、本実施形態の船舶1は、例えばタンカー等の肥大船であり、その船体2の船尾側に画設された機関室3及び舵機室4を少なくとも具備している。
【0017】
機関室3は、メインエンジン(エンジン)31を少なくとも設置する区画である。この機関室3の天井面は、上甲板11で構成されている。一方、機関室3の床面側は、船体10の外殻を形成する外板12と、この外板12の船体内側に水密に設けられた内板13とによって二重船床構造(ダブルハル構造)で構成されている。なお、機関室3の床面側の一部は、三重船床構造(トリプルハル構造)で構成される場合もある。
【0018】
メインエンジン31は、プロペラシャフト等の推進器14を駆動するものであり、ここでは、例えば回転数が毎分200rpm/min以下の舶用低速ディーゼルエンジンが採用されている。このメインエンジン31は、ターボチャージャ32を有している。ターボチャージャ32は、排気ガスのエネルギー(運動エネルギ及び熱エネルギ)を利用してタービンを回転させ、その回転力により圧縮空気をメインエンジン31に送り込む過給器である。ターボチャージャ32は、メインエンジン31の排気ガス流路E上に設けられており、導入された排気ガスを煙突等(不図示)を介して外部へ排気する。
【0019】
舵機室4は、例えば遠隔制御により操舵可能な操舵装置15を設置する区画である。この舵機室4は、機関室3の後方側に隔壁Kを介して隣接しており、船体10の後端上部を形成する。舵機室4の天井面は、上甲板11で構成されている。また、舵機室4は、非防爆エリアであって、危険区域に適応するような防爆構造や防爆配置等の制約が課されない空間となっている。
【0020】
ここで、本実施形態の船舶1は、メインエンジン31の排気ガスを処理するSCRシステム5を備えている。ここでのSCRシステム5は、還元剤として尿素を用いた選択触媒還元法(例えば、下式(1)〜(5)参照)により、排気ガス温度が比較的高い状態で排気ガスに含まれるNOxを無害化し、当該NOxの80%以上を除去する。
4NO+4NH3+O2=4N2+6H2O(Major SCR反応) …(1)
6NO2+8NH3=7N2+12H2O(Minor SCR反応) …(2)
NO+NO2+2NH3=2N2+3H2O(Fast SCR反応) …(3)
(NH2)2CO=NH3+HCNO …(4)
HCNO+H2O=NH3+CO2 …(5)
【0021】
このSCRシステム5は、排気ガス流路Eにおいてターボチャージャ32の上流側に設けられている。つまり、SCRシステム5は、メインエンジン31から導出されターボチャージャ32に戻る排気ガスの配管51上に装備されている。また、SCRシステム5は、舵機室4内において床面を構成するデッキ41上にいわゆる横置きで配設されており、触媒部52と還元剤供給部53と混合部54とを備えている。
【0022】
触媒部52は、例えばハニカム構造を有するSCR触媒(選択還元触媒)を含んで構成されており、選択触媒還元反応を生じさせて排気ガスを処理する。触媒部52による反応では、触媒部52の温度を所定の反応温度以上にすることが要され、280℃以上にすることが好ましく、300℃以上にすることがより好ましい。この触媒部52は、長尺状の筒状外形を呈しており、その長手方向を水平方向にしてデッキ41上に配置されている。なお、ここでの触媒部52では、SCR触媒がカセット式とされており、当該SCR触媒が容易に変換可能となっている。
【0023】
還元剤供給部53は、排気ガスに還元剤を供給するためものである。還元剤供給部53では、タンク53aに還元剤が格納されており、例えば配管51を流通する排気ガスの流量に応じて電磁弁53bが開閉されることで、当該排気ガスへタンク53aから適量の還元剤が流入される。還元剤供給部53は、配管51上において触媒部52の上流側に配置されている。
【0024】
混合部54は、排気ガス及び還元剤を混合するためのものである。混合部54は、配管51に沿った形状で所定長延在する空間として設けられており、配管51上において触媒部52と還元剤供給部53との間に配置されている。
【0025】
図3は、機関室及び舵機室間の隔壁を示す拡大側断面図である。図3(a)に示すように、機関室3及び舵機室4は、上下方向及び左右方向に延在する壁部としての隔壁Kによって前後に仕切られて成り、この隔壁Kには、配管51の径よりも大きい貫通孔Kaが形成されている。また、隔壁Kの貫通孔Ka周縁には、短管Kbが形成されている。
【0026】
そして、配管51が貫通孔Kaを介して隔壁Kを貫通しており、これにより、機関室3及び舵機室4の間に配管51が排気ガス流路Eとして連通されている。なお、短管Kb及び配管51の間における配管51の周囲は断熱材Kcにより覆われており、これにより、排気ガス温度の低下が抑制されていると共に安全性が向上されている。
【0027】
或いは、図3(b)に示すように、隔壁Kの貫通孔Kaを排気ガス流路Eとして利用することもできる。具体的には、短管Kbの前端及び後端に配管51を気密に連結することにより、配管51及び短管Kbを排気ガス流路Eとして構成することもできる。なお、この場合、短管Kbと配管51との周囲が断熱材Kcにより覆われる。
【0028】
以上、本実施形態では、例えば排気ガスのNOx3次規制の有力な対応策としてSCRシステム5が装備されており、これにより、排気ガスを十分に処理して無害化することができる。そして、本実施形態では、このSCRシステム5において相当程度以上に容積を必要とする触媒部52が、スペースに比較的余裕のある舵機室4に配置されている。従って、SCRシステム5の配置上の制約を少なくすることができ、SCRシステム5を容易に配置することが可能となる。
【0029】
ここで、ターボチャージャ32の下流側にSCRシステム5を設けると、当該ターボチャージャ32により排気ガスのエネルギが低下して排気ガス温度が低下するため、触媒部52の温度が低下することがある。よってこの場合、メインエンジン31が舶用低速ディーゼルエンジンであると、舶用中速又は高速ディーゼルエンジンの場合に比べて排気ガス温度が低く、触媒部52の温度が所定の反応温度まで達せずにSCRシステム5で排気ガスが十分に処理できないことが懸念される。
【0030】
この点、本実施形態では、上述したように、SCRシステム5が排気ガス流路Eのターボチャージャ32上流側に設けられているため、ターボチャージャ32で排気ガス温度が低下し触媒部52の温度が所定の反応温度に達しなくなるのを抑制することができる。すなわち、本実施形態によれば、メインエンジン31が舶用低速ディーゼルエンジンであってもSCRシステム5を好適に作動させて排気ガスの処理を確実に実行させつつ、SCRシステム5を容易に配置することが可能となる。
【0031】
なお、メインエンジン31が舶用中速又は高速ディーゼルエンジンであると、排気ガス温度が高いことからターボチャージャ32の下流側にSCRシステム5を配置できるため、SCRシステム5をターボチャージャ32後段の煙突内等に配置すれば足り、SCRシステム5の配置上の制約が少ない。従って、SCRシステム5を容易に配置できるという上記作用効果は、本実施形態のようにメインエンジン31を舶用低速ディーゼルエンジンとした場合に、その技術的意義が特に高いといえる。
【0032】
また、本実施形態では、上述したように、SCRシステム5(特に、触媒部52)が舵機室4の床面を構成するデッキ41上に配置されている。よって、例えば舵機室4の床面側のスペースに比較的余裕がある場合にて、舵機室4内の空間を有効に利用してSCRシステム5を配置することができる。
【0033】
また、本実施形態のSCRシステム5では、上述したように、触媒部52だけでなく還元剤供給部53及び混合部54についても舵機室4に配置されていることから、SCRシステム5の配置上の制約を一層少なくすることができ、SCRシステム5を一層容易に配置することが可能となる。
【0034】
また、本実施形態では、上述したように、舵機室4が機関室3に隣接していることから、これらの間を連通する配管51等の取り回しが容易となり、SCRシステム5を一層容易に配置することが可能となる。さらに、舵機室4が非防爆エリアであることから、舵機室4では防爆上の制約が課せられることが無く、その結果、舵機室4内へのSCRシステム5の配置が一層容易となる。
【0035】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0036】
図4は、SCRシステムの変形例を示す概略拡大側面図である。例えば図4(a)に示すように、舵機室4内において上下方向の中間位置(底面と天井面との間)に水平方向に沿って延びる中間デッキ42が設けられており、この中間デッキ42上に、SCRシステム5(特に、触媒部52)が配置されていてもよい。これにより、例えば舵機室の上方側のスペースに比較的余裕がある場合に、舵機室4内の空間を有効に利用してSCRシステム5を配置することができる。
【0037】
また、例えば図4(b)に示すように、舵機室4内の他の機器との配置関係等に応じて、SCRシステム5がいわゆる縦置きで配設されていてもよい。この場合の触媒部52は、その長手方向を上下方向にして配置される。なお、SCRシステム5の具体的構成は上記に限定されず、例えば、触媒部52をその長手方向を上下方向(水平方向)に対する傾斜方向にして配置することもできる。
【0038】
また、上記実施形態では、船舶1を肥大船とした例について説明したが、本発明はあらゆる船舶に適用することができる。また、上記実施形態では、エンジンとしてメインエンジン31を対象としたが、機関室3内の他のエンジンを対象にしてもよい。ちなみに、本発明のSCRシステムとしては、例えばその仕様や製造メーカが限定されるものではなく、種々の製品を適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…船舶、3…機関室、4…舵機室、5…SCRシステム、31…メインエンジン(エンジン)、32…ターボチャージャ、41…デッキ、42…中間デッキ、52…触媒部、53…還元剤供給部、54…混合部、E…排気ガス流路(排気ガスの流路)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関室に配置されたエンジンと、
選択還元触媒を含む触媒部を有し、前記エンジンの排気ガスを処理するSCRシステムと、を備え、
前記SCRシステムの少なくとも前記触媒部は、舵機室に配置されていることを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記エンジンは、舶用低速ディーゼルエンジンであって、ターボチャージャを有しており、
前記SCRシステムは、前記排気ガスの流路において前記ターボチャージャの上流側に設けられていることを特徴とする請求項1記載の船舶。
【請求項3】
前記触媒部は、前記舵機室の床面を構成するデッキ上に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の船舶。
【請求項4】
前記舵機室内において底面と天井面との間には、中間デッキが設けられ、
前記触媒部は、前記中間デッキ上に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の船舶。
【請求項5】
前記SCRシステムは、
前記排気ガスに還元剤を供給するための還元剤供給部と、
前記排気ガス及び前記還元剤を混合するための混合部と、を有しており、
前記還元剤供給部及び前記混合部は、前記舵機室に配置されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項記載の船舶。
【請求項6】
前記舵機室は、前記機関室に隣接する非防爆エリアであることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項記載の船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−240446(P2012−240446A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109419(P2011−109419)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(503218067)住友重機械マリンエンジニアリング株式会社 (55)
【Fターム(参考)】