説明

船舶

【課題】接岸時のみならず、航行時においても船舶全体で必要となる化石燃料等によるエネルギー総量を抑え、省エネ化を実現した船舶を提供する。
【解決手段】船舶1が給電線網3及び信号線網4をグループに分けて構築した複数のサブシステムを有しており、サブシステムが、船橋の機器に対応する船橋系サブシステム10aと、機関室の推進機器に対応する推進系サブシステム10bと、甲板に設置した機器に対応する甲板系サブシステム10cと、バラストを行う機器及び船倉に設置した機器に対応するバラストカーゴ系サブシステム10dと、通信機器に対応する情報処理系サブシステム10eの少なくとも2つから構成され、それぞれ蓄電池5及びスマートメータ6を有し且つそれぞれマイクログリッド監視制御システム2に連結されており、マイクログリッド監視制御システム2が、複数のサブシステムの消費電力量を検知し、サブシステム間で電力の授受を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省エネ化及び燃料消費量を抑制した船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ばら積み船やタンカー等の船舶は、推進力を得るための大型ディーゼルエンジン(主機)と、船内電源等の発電を行う発電機としての中型ディーゼルエンジン(補機)を有している。近年、これらの船舶は、化石燃料の高騰や排気ガス規制等の問題から省エネ化、及び燃料消費量の抑制が要求されている。例えば、船舶が岸壁に接岸して荷役作業を行う際、港湾で荷役作業を行うクレーン等の回生エネルギーを、船舶の船内電力として供給する方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。この構成により、船舶は、接岸時における発電機等の燃料消費量を抑制することができる。
【0003】
また、船舶が、陸電送給設備から船舶上に設置した陸電受給設備を介して、船内電力として電気を取り込む方法も開示されている(例えば特許文献2参照)。この場合、船舶は、接岸時におけるすべての電力をこの設備で賄うことができる。
【0004】
しかしながら、上記の船舶は、航行時には従来と同様のエネルギー(化石燃料等)が必要となるという問題を有している。つまり、船舶の洋上における排気ガスの排出量や化石燃料の消費量等は、改善されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−115009号公報
【特許文献2】特開2009−67302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、接岸時のみならず、航行時においても船舶全体で必要となる化石燃料等によるエネルギー総量を抑え、省エネ化を実現した船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明に係る船舶は、船舶において、前記船舶が給電線網及び情報伝達のための信号線網を複数のグループに分けて構築した複数のサブシステムを有しており、前記複数のサブシステムが、船橋の機器に対応する船橋系サブシステムと、機関室の推進機器に対応する推進系サブシステムと、甲板に設置した機器に対応する甲板系サブシステムと、バラストを行う機器及び船倉に設置した機器に対応するバラストカーゴ系サブシステムと、通信機器に対応する情報処理系サブシステムの少なくとも2つから構成され、前記複数のサブシステムが、それぞれ蓄電池及びスマートメータを有し且つそれぞれマイクログリッド監視制御システムに連結されており、前記マイクログリッド監視制御システムが、複数の前記サブシステムの消費電力量を検知し、前記サブシステム間で電力の授受を制御する構成を有することを特徴とする。
【0008】
この構成により、各サブシステム間における電力の需給ギャップを埋め、消費電力量を平準化することができる。このため、船舶全体として消費電力量を抑制し、省エネ化を実現することができる。
【0009】
上記の船舶において、前記マイクログリッド監視制御システムに、発電装置を接続したことを特徴とする。この構成により、発電装置の多角化及び分散型電源を実現することができる。そのため、例えば事故等により電源喪失のリスクを分散することができる。
【0010】
上記の船舶において、前記発電装置が、太陽光発電装置、風力発電装置、燃料電池、ディーゼル発電機、パワータービン発電機、ターボ発電機、又は軸発電機の少なくとも1つであることを特徴とする。この構成により、電源喪失のリスクを更に抑制することができる。これは、発電装置で発電した電気を、各サブシステムに設置した蓄電池に蓄電することができるためである。
【0011】
上記の船舶において、前記船舶が岸壁に接岸している場合、前記マイクログリッド監視制御システムが、前記岸壁に設置された陸電送給設備から船舶上に設置した陸電受給設備を介して電力の供給を受け、前記蓄電池に送電する構成を有することを特徴とする。この構成により、船舶が岸壁に接岸している際に、各サブシステムの蓄電池を充電することができ、船舶の化石燃料等の使用量を抑制することができる。
【0012】
上記の船舶において、前記推進系サブシステム又は前記甲板系サブシステムが、機器を動作する電動油圧アクチュエータと、前記電動油圧アクチュエータに電力を供給する電線を有していることを特徴とする。この構成により、従来の油圧機器、油圧配管、及び油圧配管工事が不要となる。また、電動油圧アクチュエータは、油圧ポンプのように常時可動とする必要がない。更に、この電動油圧アクチュエータは、可動するときに電動機が回り、可動しないときには電動機が止まっているため、従来の油圧機器に比べ消費エネルギーを抑制することができる。
【0013】
上記の船舶において、前記船舶が、前記発電装置、前記蓄電池及びモータで構成した主機を有する電気推進船であることを特徴とする。この構成により、化石燃料を使用しない船舶の航行が可能となる。これは、各種発電装置を自由に組み合わせて採用することが可能となるためである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る船舶によれば、接岸時のみならず、航行時においても船舶全体で消費される化石燃料等によるエネルギー総量を抑え、省エネ化を実現した船舶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る実施の形態の船舶の概念を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態の船舶について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明に係る実施の形態の船舶1の概念を示す。船舶1は、マイクログリッド監視制御システム(以下、制御システムという)2と、船橋の機器8に対応する船橋系サブシステム10aと、機関室の推進等のための機器8に対応する推進系サブシステム10bと、甲板に設置した機器8に対応する甲板系サブシステム10cと、バラストを行う機器8及び船倉に設置した機器8に対応するバラストカーゴ系サブシステム10dと、通信のための機器8に対応する情報処理系サブシステム10e(総称して以下、サブシステム10という)の5つのサブシステム10を有している。
【0017】
このサブシステム10は、それぞれ給電線網3及び信号線網4を有している。この給電線網3及び信号線網4には、それぞれ蓄電池5、スマートメータ6及び各種機器8が接続されている。この蓄電池5は、各サブシステム10に接続されており、対応するサブシス
テム10内の機器8に電力を供給するように構成している。また、スマートメータ6は、データ通信機能を有した電力量計で構成している。そのため、スマートメータ6は、それぞれのサブシステム10で使用している電力量をリアルタイムで計測し、制御システム2に送信することができる。
【0018】
ここで、制御システム2に複数の蓄電池5を接続してもよい。また、船舶1の接岸時に、制御システム2が、岸壁に設置した陸電送給設備11から船舶上に設置した陸電受給設備12を介して電気の供給を受けるように構成してもよい。なお、13は電源ケーブルを接続するコネクタを示している。
【0019】
次に、各サブシステムについて説明する。まず、船橋系サブシステム10aは、給電線網3及び信号線網4に、蓄電池5及びスマートメータ6の他に、機器8として例えばコクピットコンソール、バラストカーゴコンソール、甲板機器コンソール及び各種センサ等を接続している。つまり、従来、船橋に配置されている装置を中心として船橋系サブシステム10aが構築されている。
【0020】
推進系サブシステム10bは、給電線網3及び信号線網4に、機器8として電気推進システム、補助推進システム、及びステアリングシステム等を接続している。つまり、従来、機関室に配置されている装置を中心として推進系サブシステム10bが構築されている。なお、電気推進システムの代わりに、従来と同様のディーゼルエンジンの主機を搭載した船舶の場合は、ディーゼルエンジンの制御装置等を機器8として接続する。
【0021】
同様に、甲板系サブシステム10cは、給電線網3及び信号線網4に、機器8としてデッキクレーン、ウィンドラス及びウィンチ等を接続している。また、バラストカーゴ系サブシステム10dは、給電線網3及び信号線網4に、機器8としてハッチカバーの開閉装置、バラストポンプ及びバラスト水処理システム等を接続している。更に、情報処理系サブシステム10eは、給電線網3及び信号線網4に、機器8として通信用アンテナ装置、空調、電灯、パソコン及び居住区の電源等を接続している。
【0022】
加えて、船舶1は、制御システム2に接続した発電装置7を有している。この発電装置7は、サブシステム10と同様、蓄電池5及びスマートメータ6を接続していることが望ましい。ここで、発電装置7は、例えば太陽光発電用の太陽電池パネル(太陽光発電装置)、風力発電用の風車(風力発電装置)、燃料電池、ディーゼル発電機、排ガス排熱回収型発電機(パワータービン発電機、ターボ発電機等)、又は軸発電機等の少なくとも1つで構成することができる。
【0023】
次に、船舶1における電力供給の制御について説明する。まず、マイクログリッド監視制御システム2は、各サブシステム10のスマートメータ6から、各サブシステム10に接続された蓄電池5の残量、及び機器8の電気使用量の情報を収集して蓄積し、この情報に基づいて複数のサブシステム10間で電力を融通するように制御する。この制御システム2の制御は、例えばプログラムにより複数のサブシステム10に対してそれぞれ重み付けを行い、電力を優先的に供給するサブシステム10を決定するように構築することができる。ここで、例えば船舶1の航行中又は停泊中など、船舶1の状況から電力供給を優先すべきサブシステム10を変更するようにプログラムを構築することもできる。また、物理的な電気回路を利用して、インバータ等で各サブシステム10間の電圧差を検知し、平準化するように構成することもできる。
【0024】
一方で、制御システム2は、発電装置7のスマートメータ6から、蓄電池5の残量及び発電量の情報をリアルタイムで収集して蓄積し、この情報に基づいて発電装置7又はその蓄電池5から、各サブシステム10に電力を供給する制御も行うことができる。また、制
御システム2は、船舶1の接岸時には、上記の情報に基づいて、岸壁に設置された陸電送給設備11から、船舶上に設置した陸電受給設備12を介して各サブシステム10に電力を供給する制御も行うことができる。
【0025】
上記の構成により、以下の作用効果を得ることができる。第1に、マイクログリッド監視制御システム2を設置する構成により、各サブシステム10間における電力の需給ギャップを埋め、消費電力量を平準化することができる。このため、船舶1全体として消費電力量を抑制することができる。
【0026】
第2に、船舶1で使用する機器8を複数のサブシステム10に区分けした構成により、市街地で適用が開始されているスマートグリッドの制御方法及び制御プログラムを、船舶1に容易に適用することができる。そのため、制御システム2の改善を効率的に行うことができる。なお、船舶1で得られた電力供給の制御方法等の知見を、市街地のスマートグリッドに適用することも容易となる。
【0027】
第3に、この船舶1の構成により、発電装置7の多角化及び分散型電源を実現することができる。つまり、船舶1は、制御システム2の設置により、船舶1の給電線網3に異なる種類の発電装置7を容易に追加接続することが可能であり、それぞれの発電装置7から効率的に電力の供給を受けることが可能となる。そのため、例えば、事後等による電源喪失のリスクを分散することができる。
【0028】
本発明の船舶1は、上記に加えて以下の構成を付加することもできる。第1に、推進系サブシステム10b及び甲板系サブシステム10cが、油圧機器を有さず、機器8を動作するための電動油圧アクチュエータを有するように構成することができる。この油圧機器を使用しない構成により、船舶1の消費電力量を抑制することができる。これは、常時稼働し、電力を消費し続ける油圧ポンプ等を使用しないためである。また、油圧機器を使用しない構成により、油圧配管及び油圧配管工事が不要となる。
【0029】
なお、この電動油圧アクチュエータは、従来の油圧システムで必須であった制御弁(方向制御弁、流量制御弁、圧力制御弁、サーボ弁)の代わりに制御機能を備えた油圧ポンプとサーボモータをアクチュエータに設置して直接アクチュエータを駆動することができる。このサーボモータの正逆回転の制御により、電動油圧アクチュエータのシリンダの前進及び後退を制御することができ、従来の油圧システムに比べて高精度で省エネ制御が可能となる。
【0030】
第2に、船舶1の推進力を得るための主機を、大型ディーゼルエンジンからモータに変更した電気推進船とすることができる。この構成により、化石燃料の使用を更に抑制した船舶1の航行が可能となる。これは、各種発電装置を自由に組み合わせて採用することが可能となるためである。
【0031】
第3に、船舶1に風を受けて推進力を得るための帆を設置し、且つこの帆の表面に、発電装置7として複数の太陽電池モジュールを設置することができる。この構成により、船舶1の省エネ化を実現することができる。ここで、太陽電池モジュールは、発電装置7として蓄電池5及びスマートメータ6を接続して、且つマイクログリッド監視システム2に接続することができる。
【0032】
同様に、上甲板及び居住区の外壁等に太陽電池モジュールを設置してもよい。この構成により、船舶1における発電量が向上するため、船舶1に搭載する燃料タンクを小容量化することができる。つまり、搭載できる積荷の量を、増加することができる。
【0033】
第4に、船舶1は、接岸時にはコンテナターミナル等の給電設備から、複数の蓄電池5に給電するように構成することができる。この構成により、船舶1の化石燃料の消費量を抑制することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 船舶
2 マイクログリッド監視制御システム(制御システム)
3 給電線網
4 信号線網
5 蓄電池
6 スマートメータ
7 発電装置
8 機器
10 サブシステム
10a 船橋系サブシステム
10b 推進系サブシステム
10c 甲板系サブシステム
10d バラストカーゴ系サブシステム
10e 情報処理系サブシステム
11 陸電送給設備
12 陸電受給設備
13 コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶において、前記船舶が給電線網及び情報伝達のための信号線網を複数のグループに分けて構築した複数のサブシステムを有しており、
前記複数のサブシステムが、船橋の機器に対応する船橋系サブシステムと、機関室の推進機器に対応する推進系サブシステムと、甲板に設置した機器に対応する甲板系サブシステムと、バラストを行う機器及び船倉に設置した機器に対応するバラストカーゴ系サブシステムと、通信機器に対応する情報処理系サブシステムの少なくとも2つから構成され、
前記複数のサブシステムが、それぞれ蓄電池及びスマートメータを有し且つそれぞれマイクログリッド監視制御システムに連結されており、
前記マイクログリッド監視制御システムが、複数の前記サブシステムの消費電力量を検知し、前記サブシステム間で電力の授受を制御する構成を有することを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記マイクログリッド監視制御システムに、発電装置を接続したことを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記発電装置が、太陽光発電装置、風力発電装置、燃料電池、ディーゼル発電機、パワータービン発電機、ターボ発電機、又は軸発電機の少なくとも1つであることを特徴とする請求項2に記載の船舶。
【請求項4】
前記船舶が岸壁に接岸している場合、前記マイクログリッド監視制御システムが、前記岸壁に設置された陸電送給設備から船舶上に設置した陸電受給設備を介して電力の供給を受け、前記蓄電池に送電する構成を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項5】
前記推進系サブシステム又は前記甲板系サブシステムが、機器を動作する電動油圧アクチュエータと、前記電動油圧アクチュエータに電力を供給する電線を有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項6】
前記船舶が、前記発電装置、前記蓄電池及びモータで構成した主機を有する電気推進船であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の船舶。

【図1】
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【公開番号】特開2013−86770(P2013−86770A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232098(P2011−232098)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【特許番号】特許第5127974号(P5127974)
【特許公報発行日】平成25年1月23日(2013.1.23)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】