船首マスク及び船首マスク付き船舶
【課題】船体とは別のほとんど排水量を持たない構造物を船首端に付加することにより、波浪中抵抗増加を低減しつつ船体構造重量の増加を抑えることを可能とする船首マスクを提供すること。
【解決手段】船体の舳先1aと船首バルブ2との間にくびれのある船舶に取り付ける船首マスク10であって、舳先1aと船首バルブ2の前部とを結ぶ前端線Xの後方近傍に設定する船首マスク前端部12と、前端線Xから船体の左右の船側外板に引いた接線に沿わせて配置する一対の船首マスク側板11aと、船首マスク側板11aを船体に支持する支持構造体とによって構成し、船首マスク側板11aの上部には上部開口14を、船首マスク側板11aの下部には下部開口15を形成することを特徴とする。
【解決手段】船体の舳先1aと船首バルブ2との間にくびれのある船舶に取り付ける船首マスク10であって、舳先1aと船首バルブ2の前部とを結ぶ前端線Xの後方近傍に設定する船首マスク前端部12と、前端線Xから船体の左右の船側外板に引いた接線に沿わせて配置する一対の船首マスク側板11aと、船首マスク側板11aを船体に支持する支持構造体とによって構成し、船首マスク側板11aの上部には上部開口14を、船首マスク側板11aの下部には下部開口15を形成することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体の舳先と船首バルブとの間にくびれのある船舶に取り付ける船首マスク及びこの船首マスクを取り付けた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
肥大船においては船首部全体の肥大度が大きいため、船首水線部の太り具合の大小は、平水中の造波抵抗には影響が少ない。このため、図13(a)に示すように、従来の肥大船100における船首水線部分101は、図13(b)のようにその水平断面が大きな円弧を描くような形状が主流であった。
しかし船舶には、推進時に発生する波による造波抵抗の他に、波浪中において抵抗増加が生じる。
このような船首水線が肥大している船舶は、波浪中抵抗増加量が大きく、とりわけ一般的には波浪中抵抗増加が小さいと思われていた波長の短い波浪中でも、大きな抵抗増加があることが近年になって明らかとなっている。図14は波浪中抵抗増加を示す試験結果である。図14における破線部分は、波長の短い波浪中抵抗増加であるが、これは船首に当たった波が船体前方にはね返された反射波による抵抗である。
ところで、船首構造に関しては、下記の構成が提案されている。
特許文献1では、造波抵抗の減少を図るために船首に先細りの整流体を設けている。
また、特許文献2、3、4、5においては、反射波による抵抗低減を目的とした船首構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実願昭54−160405号(実開昭56−77495号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和56年6月24日特許庁発行)公報
【特許文献2】実願平5−58591号(実開平5−58591号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(平成5年8月3日特許庁発行)公報
【特許文献3】特開平8−142974号公報
【特許文献4】特開2003−327193号公報
【特許文献5】特開2004−314943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
反射波による抵抗低減の対策としては、図15に示すように肥大船100における船首端102を延長して船首水線の肥大度合いを小さくした船型が効果的である。
しかしながら、図15に示す船型では船の排水量を有する部分が長くなるため、構造設計の基本となる構造長が長くなり、結果として船体全体の構造強度を上げる必要が生じ、船殻重量が増加する。これによって、船の貨物積載量が減少すると同時に建造コストが増加することになり、輸送効率が悪化する。
これを解決するには、船首水線の肥大度を小さくするための船首マスクが、排水量を持たないように、船首マスクと主船体との間に水密区画を構成しないことが好ましく、船首マスクが構造長の範囲から除外される構造にすることが有効である。
ところで特許文献1で提案されている構成では、反射波による抵抗の低減対策として十分とは言えない。すなわち、特許文献1では、整流体と船首との間が空いており、また整流体が船首バルブよりも前方に突出した構成となっている。この船舶は、船首にくびれの無い構造のため、波浪中で動揺した際に、船首の上下の揺れにより、波が整流体を越えて当たったり、逆に整流体の下から当たることがあり、整流体と船首との間では反射波を生じてしまう。また船首の上下の揺れによって整流体は上下から衝撃を受けることになり、強度的な問題も大きい。また、整流体に多数の貫通孔を備えることで波の無い穏やかな海域でも海水の流入と流出が起こり、抵抗が大きくなってしまう。また、端部と船体の間に段差のある大きな間隙を有しているため、この間隙で渦を生じ航行時の抵抗となる。
また特許文献2では、船首バルブの上端と船首上部とを連結する船首付加物が提案されており(図7から図9に示される第2実施例)、この船首付加物によれば、船首の上下の揺れがあっても反射波による抵抗を低減することができる。しかし、特許文献2でも説明されている通り、この船首付加物は前方への波の反射を無くすものではあるが、反射波による抵抗低減の対策として十分とは言えない。すなわち、図16に示すように、船首付加物103の側面でそらした波aと、船首104で反射した波bとがぶつかり合う現象が発生するため、この反射波同士のぶつかり合いによる抵抗を受けてしまう。このような反射波同士のぶつかり合いによる抵抗は、正面からの波に対してはさほど大きな影響を与えない場合でも、推進方向と波の方向とが一致しない場合には大きな影響を与えることになる。航行中の船舶では、推進方向と波の方向が一致する場合の方が少ないため、この反射波同士のぶつかり合いによる抵抗の影響は大きい。
また特許文献3、4においても、図17に示すように、船首付加物103の側面でそらした波aと、船首104で反射した波bとがぶつかり合う現象が発生するため、この反射波同士のぶつかり合いによる抵抗を受けてしまう。従って、反射波による抵抗低減の対策として十分とは言えない。
また特許文献5では、船首バルブの先端上部と船首上部とを連結する反射波低減構造物が提案されており(図8から図13に示される第3の実施の形態)、この反射波低減構造物によれば、船首の上下の揺れによっても反射波による抵抗を低減することができる。しかし、特許文献5では、図11、図13に示されるように、反射波低減構造物12Bは外側に凹の形状となっているので、パラボラアンテナのように反射波低減構造物12Bの側面でそらした波が集中する箇所が発生し、波同士のぶつかり合いによる抵抗を受けてしまう。また、船体との間に水密区画を構成しているのか否かは明かではなく、中実構造物である場合には船体構造重量の増加の問題を生じてしまう。また船体への反射波低減構造物の取り付けについても何ら開示されていない。
【0005】
そこで本発明は、船体とは別のほとんど排水量を持たない構造物を船首端に付加することにより、波浪中抵抗増加を低減しつつ船体構造重量の増加を抑えることを可能とする船首マスクを提供することを目的とする。
また本発明は、この船首マスクを船体に取り付けた船首マスク付き船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応した船首マスクにおいては、舳先と船首バルブの前部とを結ぶ前端線の後方近傍に設定する船首マスク前端部と、前端線から船体の左右の船側外板に引いた接線に沿わせて配置する一対の船首マスク側板と、船首マスク側板を船体に支持する支持構造体とによって構成し、船首マスク側板の上部には上部開口を、船首マスク側板の下部には下部開口を形成することを特徴とする。請求項1に記載の本発明によれば、船首マスク前端部を、舳先と船首バルブの前部とを結ぶ前端線の後方近傍に設定することで、船首マスク前端部が前端線よりも前に突出しないために航行時の安全性が高い。また本発明によれば、一対の船首マスク側板を前端線から船体の左右の船側外板に引いた接線に沿わせて配置することで、例え推進方向と波の方向が一致しない場合であっても、船首マスク側板と船首部の反射波同士がぶつかり合う現象が生じないため、反射波による抵抗を確実に低減することができる。また本発明によれば、船首マスク側板を支持構造体によって船体に支持する構成であり、船首マスク側板の上部には上部開口を、船首マスク側板の下部には下部開口を形成することで、排水量を持たず、船体構造重量を増加させず、波浪中での航行時に船首マスク内の空気や入り込んだ水の排出も円滑に行われる。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の船首マスクにおいて、上部開口を船首マスク側板と船体との間の間隙として、下部開口を船首マスク側板と船首バルブとの間の間隙として形成することを特徴とする。請求項2に記載の本発明によれば、船首マスクを船体に取り付ける際に上部開口と下部開口を形成することができ、船首マスク側板にあらかじめ開口を設けておく必要がない。また、船首マスク側板と船体との間の間隙及び船首マスク側板と船首バルブとの間の間隙を利用することで、確実に一定の開口を形成できるため、波浪中での航行時に船首マスク内の空気や入り込んだ水の排出もさらに円滑に行われる。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の船首マスクにおいて、船首マスク側板の後端部と船体との間に間隙を形成することを特徴とする。請求項3に記載の本発明によれば、船首マスク側板の後端部と船体との間にも間隙を形成することで、波浪中での航行時に船首マスク内の空気や入り込んだ水の排出も一層円滑に行われる。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の船首マスクにおいて、支持構造体の船体への取り付けを、船体の船首部構造体の位置とすることを特徴とする。請求項4に記載の本発明によれば、船体の船首部構造体の位置にあわせて支持構造体を取り付けるため、溶接などの接合を行いやすく、取り付け強度や外力に対する強度も高い。
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の船首マスクにおいて、支持構造体には、船体に取り付ける取付部を有することを特徴とする。請求項5に記載の本発明によれば、取付部を有することで船体への取り付けを容易かつ確実に行うことができる。
請求項6記載の本発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の船首マスクにおいて、船首マスク側板が外側に凸の曲面をなすことを特徴とする。請求項6に記載の本発明のように船首マスク側板は外側に凸の曲面とすることにより、船首マスク側板が薄く構成されていても波の力を受けて反ることを防止し、軽量化を図り強度を増すことができる。また、船首マスク前端部はR形状であっても、凸の曲面とすることで船側外板にスムーズに沿わせることができる。
請求項7記載に対応した船首マスク付き船舶においては、請求項1から請求項6のいずれかに記載の船首マスクを取り付けたことを特徴とする。請求項7に記載の本発明によれば、ほとんど排水量を持たない構造物を船首端に付加することにより、波浪中抵抗増加を低減しつつ船体構造重量の増加を抑えることができる。また、船首マスク前端部が前端線よりも前に突出しないため航行時の安全性が高く、船首バルブの造波抵抗抑制効果を阻害しない船舶が実現できる。
請求項8記載の本発明は、請求項7に記載の船首マスク付き船舶において、支持構造体を溶接によって船体に取り付けたことを特徴とする。請求項8に記載の本発明によれば、支持構造体を溶接によって船体に取り付けることで、船首マスク側板と船体との間の間隙や船首マスク側板と船首バルブとの間の間隙を形成しやすい。
請求項9記載の本発明は、請求項7又は請求項8に記載の船首マスク付き船舶において、船首マスク側板の後端部を溶接によって船体に取り付けたことを特徴とする。請求項9に記載の本発明によれば、船首マスク側板の後端部の船体への取り付け強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例え推進方向と波の方向が一致しない場合であっても、船首マスク側板と船首部の反射波同士がぶつかり合う現象が生じないため、反射波による抵抗を確実に低減することができる。また、本発明によれば、上部開口と下部開口を有した構造により、排水量を持たず、船体構造重量を増加させない。また、航行中の波浪による上部に溜まった空気の圧縮による船首部の突き上げや、下部から水が侵入し滞留することによる重量の付加が防止できる。さらに上部開口、下部開口から船首マスク内部の点検や保守が容易にできる。また、本発明によれば、船首マスク前端部が前端線よりも前に突出しないため航行時の安全性が高く、船首バルブの造波抵抗抑制効果を阻害しない。
なお、上部開口を船首マスク側板と船体との間の間隙として、下部開口を船首マスク側板と船首バルブとの間の間隙として形成したときは、船首マスク側板にあらかじめ開口を設けておく必要がなく、確実に一定の開口を形成できるため、航行中の波浪による上部に溜まった空気の圧縮による船首部の突き上げや、下部から水が侵入し滞留することによる重量の付加が一層防止できる。
また、船首マスク側板の後端部と船体との間に間隙を形成したときは、航行中の波浪による上部に溜まった空気の圧縮による船首部の突き上げや、下部から水が侵入し滞留することによる重量の付加が一層防止できる。また、船首マスク内部の点検や保守がさらに容易にできる。
また、支持構造体の船体への取り付けを、船体の船首部構造体の位置としたときは、溶接などの接合を行いやすく、取り付け強度や外力に対する強度も高い。
また、船体に取り付ける取付部を支持構造体に有するときは、取り付けを容易かつ確実に行うことができる。
また、船首マスク側板が外側に凸の曲面をなすときは、反りに対する強度を増し、軽量化を図るとともに、船首マスク側板の側面でそらした波が集中する箇所が発生することの防止を確実に図ることが可能となる。特に船首マスク前端部がR形状であっても、船側外板にスムーズに沿わせることができる。
また、ほとんど排水量を持たない船首マスクを船舶に取り付けることで、波浪中抵抗増加を低減しつつ船体構造重量の増加を抑えることができる。また、船首マスク前端部が前端線よりも前に突出しないため航行時の安全性が高く、船首バルブの造波抵抗抑制効果を阻害しない船舶が実現できる。
また、支持構造体を溶接によって船体に取り付けたときは、船首マスク側板と船体との間の間隙や船首マスク側板と船首バルブとの間の間隙を形成しやすく、また船首マスクの既存船への取り付けも容易となる。
また、船首マスク側板の後端部を溶接によって船体に取り付けたときは、船首マスク側板の後端部の船体への取り付け強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の船首マスクの一実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の状態を示す要部斜視図
【図2】本発明の船首マスクの他の実施形態による船首マスクを取り付けた同船舶の要部側面図
【図3】図2におけるA−A線による要部平面断面図
【図4】同船首マスクの説明図
【図5】本発明の船首マスクの更に他の実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部側面図
【図6】図5におけるA−A線による要部平面断面図
【図7】図6の要部拡大図
【図8】図7の丸枠箇所の斜視図
【図9】本発明の船首マスクの更に他の実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部平面断面図
【図10】本発明の船首マスクの更に他の実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部側面図
【図11】図10におけるA−A線による要部平面断面図
【図12】本発明の船首マスクの更に他の実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部平面側面図
【図13】従来の肥大船の形状を示す図
【図14】波浪中抵抗増加の試験結果を示す図
【図15】反射波による抵抗低減の対策を示す船型図
【図16】従来の船首付加物を示す説明図
【図17】従来の他の船首付加物を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の船首マスクの一実施形態について説明する。
図1は本実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部斜視図である。
図1に示すように、本実施形態による船首マスク10は、船首1の舳先1aと船首バルブ2との間にくびれ3がある船首肥大度の大きな船舶に取り付ける。ここで、船首肥大度の大きな船舶とは、船首1の水平断面が円弧状となっており、方形肥痩係数Cbが0.78以上のタンカーに代表される低速貨物船が該当する。船首マスク10は、舳先1aと船首バルブ2の前部2aとを結ぶ前端線Xから前方に突出しないように船体側に配置される。なお、本実施形態で説明した構成は下記の全ての実施形態において適用される。
【0010】
図2は本発明の船首マスクの他の実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部側面図、図3は図2におけるA−A線による要部平面断面図、図4は同船首マスクの説明図である。
図2及び図3に示すように、船首マスク10は、船体左右の船側外板に対応して配置される一対の船首マスク側板11a、11bと、一対の船首マスク側板11a、11bが連結される船首マスク前端部12と、首マスク側板11a、11bを船体に支持する支持構造体13とから構成される。
【0011】
船首マスク前端部12は前端線Xに沿って配置され、船首マスク側板11a、11bは、前端線Xから船体の左右の船側外板に引いた接線Y、Y’に沿わせて配置され、支持構造体13は一対の船首マスク側板11a、11bで囲まれる内部に配置される。なお、船首マスク側板11a、11bの面と船側外板とが5度以内の角度差であれば、船首マスク前端部12は前端線Xの後方近傍でもよく、船首マスク前端部12の前端線Xの後方近傍位置は、船体形状によって決定される。
船首マスク10を船体に取り付けた状態では、船首マスク側板11a、11bの上部には船体との間に上部開口14を、船首マスク側板11a、11bの下部には船首バルブ2との間に下部開口15を形成している。船首マスク側板11a、11bの後端部と船体との間には間隙16を形成している。
【0012】
図4では、前端線Xから船体の船側外板に引いた接線Yを示しており、船首マスク側板11a、11bは、この接線Yに沿って配置される。
【0013】
以上のように本実施形態によれば、船首マスク前端部12を、舳先1aと船首バルブ2の前部2aとを結ぶ前端線Xの後方近傍に設定することで、船首マスク前端部12が前端線よりも前に突出しないために航行時の安全性が高い。また、船首バルブ2の前部2aよりも上部でかつ後方に船首マスク前端部12が臨んでいるため、船首バルブ2の造波抵抗抑制効果を阻害しない。
また本実施形態によれば、一対の船首マスク側板11a、11bを前端線Xから船体の左右の船側外板に引いた接線Yに沿わせて配置することで、例え推進方向と波の方向が一致しない場合であっても、船首マスク側板11a、11bと船首部の反射波同士がぶつかり合う現象が生じないため、反射波による抵抗を確実に低減することができる。
また本実施形態によれば、船首マスク側板11a、11bを支持構造体13によって船体に支持する構成であり、船首マスク側板11a、11bの上部には上部開口14を、船首マスク側板11a、11bの下部には下部開口15を形成することで、排水量を持たず、船体構造重量を増加させない。
【0014】
また本実施形態によれば、上部開口14を船首マスク側板11a、11bと船体との間の間隙として、下部開口15を船首マスク側板11a、11bと船首バルブ2との間の間隙として形成することで、船首マスク10を船体に取り付ける際に上部開口14と下部開口15を形成することができ、船首マスク側板11a、11bにあらかじめ開口を設けておく必要がない。また、船首マスク側板11a、11bと船体との間の間隙及び船首マスク側板11a、11bと船首バルブ2との間の間隙を利用することで、確実に一定の開口を上部と下部に形成できる。これにより、航行中に波による上部に溜まった空気の圧縮による船首部の突き上げや、下部に海水が侵入し滞留することによる重量が付加されることがない。
さらに上部開口14、下部開口15から、船首マスク10内部の点検や保守が容易にできる。特に、海に浮かんでいる時でも、上部開口14から塗装の劣化状態や、異物や海洋生物の付着状態を観察し対処できる。また、ドック入り時に下部開口15から作業者が船首マスク10に入り、保守点検ができる。
また本実施形態によれば、船首マスク側板11a、11bの後端部と船体との間にも間隙16を形成することで、航行中に波による上部に溜まった空気の圧縮による船首部の突き上げや、下部に海水が侵入し滞留することによる重量が付加されることを更に確実に防止することができる。
【0015】
以下に、本発明の船首マスクの他の実施形態について説明する。
図5は本実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部側面図、図6は図5におけるA−A線による要部平面断面図、図7は図6の要部拡大図、図8は図7の丸枠箇所の斜視図である。なお、上記実施例と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
図5では、船体の船首部構造体4の水平位置Zを示しており、この水平位置Zに、船首マスク側板11a、11bを船体に支持する支持構造体(ストリンガー)23を設けている。すなわち、支持構造体23の船体への取り付け位置を、船首部構造体4の位置と合わせている。
【0016】
図6に示すように、船体の船首部構造体4は、センターラインガーダー4aと、センターラインガーダー4aの両側に配したストリンガー4bとを備えた水平構造体である。支持構造体23は、船首部構造体4と同種の構造となっており、センターラインガーダー23aと、センターラインガーダー23aの両側に配したフレーム23bと、開口部23cとを備えた水平構造体である。
【0017】
図7及び図8に示すように、支持構造体23の船体側には、船体外板に沿うように取付部23dを設けている。なお、取付部23dの高さ方向の幅は、小さく設定しフレーム23bの板厚にまですることが可能である。
【0018】
以上のように本実施形態によれば、支持構造体23の船体への取り付けを、船体の船首部構造体4の水平位置Zにあわせて取り付けるため、溶接などの接合を行いやすく、取り付け強度も高くできる。また波等の外力を受けても、支持構造体23にかかる力を直接船首部構造体4で受けるため、船体が損傷することが無くせる。
また本実施形態によれば、支持構造体23には、船体に取り付ける取付部23dを有することで船体への取り付けを容易かつ確実に行うことができ、幅を持たせることにより力の分散も図れる。
【0019】
以下に、本発明の船首マスクの更に他の実施形態について説明する。
図9は本実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部平面断面図であり、図3相当図である。なお、上記実施例と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、船首マスク側板21a、21bが外側に凸の曲面をなしている。
【0020】
本実施形態のように、船首マスク側板21a、21bは外側に凸の曲面とすることにより、船首マスク側板21a、21bを薄く構成してさらに軽量化を図ったり、船首マスク側板21a、21bが波の力を受けて反り、側面でそらした波が集中する箇所が発生することの確実な防止を図ることができる。実際には安全性の問題などから船首マスク前端部12を鋭利に尖らせることはできないため、船首マスク前端部12はR形状であることが好ましい。
【0021】
以下に、本発明の船首マスクの更に他の実施形態について説明する。
図10は本実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部側面図、図11は図10におけるA−A線による要部平面断面図である。なお、上記実施例と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、船首マスク側板11a、11bの後端部と船体との間は溶接17によって固着されている。また、支持構造体13についても船体に溶接18で固着されている。
【0022】
本実施形態によれば、船首マスク側板11a、11bの後端部を溶接17によって船体に取り付けたことで、船首マスク側板11a、11bの後端部の船体への取り付け強度を高めることができる。
また本実施形態によれば、支持構造体13を溶接18によって船体に取り付けることで、船首マスク側板11a、11bと船体との間の上部開口14や船首マスク側板11a、11bと船首バルブ2との間の下部開口15を形成しやすい。
また、船首マスク側板11a、11bと支持構造体13を船体の外側から溶接17、溶接18で取り付けることにより、船舶が既存船であっても、また小型船であっても外側から後付で容易に船首マスクを取り付けることができる。
【0023】
以下に、本発明の船首マスクの更に他の実施形態について説明する。
図12は本実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部平面側面図であり、図10相当図である。なお、上記実施例と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、船首マスク側板11a、11bの上部には上部開口24を、船首マスク側板11a、11bの下部には下部開口25を形成している。また、船首マスク側板11a、11bの後端部には中間開口19を形成している。なお、船首マスク側板11a、11bの後端部および上部、下部と船体との間は溶接17によって固着されている。
【0024】
本実施の形態によれば、船首マスク側板11a、11bの上部には上部開口24を、船首マスク側板11a、11bの下部には下部開口25を形成することで、排水量を持たず、船体構造重量を増加させない。また、上部開口24と下部開口25により、航行中に波による上部に溜まった空気の圧縮による船首部の突き上げや、下部に海水が侵入し滞留することによる重量の付加が防止される。中間開口19はこれらの作用をさらに助ける。
また本実施形態によれば、船首マスク側板11a、11bの後端部および上部、下部を溶接17によって船体に取り付けたことで、船首マスク側板11a、11bの後端部の船体への取り付け強度をさらに高めることができる。
【0025】
なお、上記した各実施形態において、側面から見て舳先1aが船首バルブ2の前部2 aよりも前方に位置している例を示したが、同位置に位置した場合、また舳先1aが船首バルブ2の前部2 aよりも後方に位置した場合もあり得る。本発明の思想はこれらの場合にも適用できるものである。また、船首マスク前端部12も直線でなく前端線Xに沿う範囲で、曲線を成していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、特に肥大船の船舶に取り付ける船首マスク及びこの船首マスクを取り付けた船舶に関し、船体の舳先と船首バルブとの間にくびれのある船舶に適している。
【符号の説明】
【0027】
1a 舳先
2 船首バルブ
2a 前部
3 くびれ
4 船首部構造体
10 船首マスク
11a、11b 船首マスク側板
12 船首マスク前端部
13 支持構造体
14 上部開口
15 下部開口
16 間隙
17 溶接
18 溶接
21a、21b 船首マスク側板
23 支持構造体
24 上部開口
25 下部開口
X 前端線
Y、Y’ 接線
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体の舳先と船首バルブとの間にくびれのある船舶に取り付ける船首マスク及びこの船首マスクを取り付けた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
肥大船においては船首部全体の肥大度が大きいため、船首水線部の太り具合の大小は、平水中の造波抵抗には影響が少ない。このため、図13(a)に示すように、従来の肥大船100における船首水線部分101は、図13(b)のようにその水平断面が大きな円弧を描くような形状が主流であった。
しかし船舶には、推進時に発生する波による造波抵抗の他に、波浪中において抵抗増加が生じる。
このような船首水線が肥大している船舶は、波浪中抵抗増加量が大きく、とりわけ一般的には波浪中抵抗増加が小さいと思われていた波長の短い波浪中でも、大きな抵抗増加があることが近年になって明らかとなっている。図14は波浪中抵抗増加を示す試験結果である。図14における破線部分は、波長の短い波浪中抵抗増加であるが、これは船首に当たった波が船体前方にはね返された反射波による抵抗である。
ところで、船首構造に関しては、下記の構成が提案されている。
特許文献1では、造波抵抗の減少を図るために船首に先細りの整流体を設けている。
また、特許文献2、3、4、5においては、反射波による抵抗低減を目的とした船首構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実願昭54−160405号(実開昭56−77495号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和56年6月24日特許庁発行)公報
【特許文献2】実願平5−58591号(実開平5−58591号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(平成5年8月3日特許庁発行)公報
【特許文献3】特開平8−142974号公報
【特許文献4】特開2003−327193号公報
【特許文献5】特開2004−314943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
反射波による抵抗低減の対策としては、図15に示すように肥大船100における船首端102を延長して船首水線の肥大度合いを小さくした船型が効果的である。
しかしながら、図15に示す船型では船の排水量を有する部分が長くなるため、構造設計の基本となる構造長が長くなり、結果として船体全体の構造強度を上げる必要が生じ、船殻重量が増加する。これによって、船の貨物積載量が減少すると同時に建造コストが増加することになり、輸送効率が悪化する。
これを解決するには、船首水線の肥大度を小さくするための船首マスクが、排水量を持たないように、船首マスクと主船体との間に水密区画を構成しないことが好ましく、船首マスクが構造長の範囲から除外される構造にすることが有効である。
ところで特許文献1で提案されている構成では、反射波による抵抗の低減対策として十分とは言えない。すなわち、特許文献1では、整流体と船首との間が空いており、また整流体が船首バルブよりも前方に突出した構成となっている。この船舶は、船首にくびれの無い構造のため、波浪中で動揺した際に、船首の上下の揺れにより、波が整流体を越えて当たったり、逆に整流体の下から当たることがあり、整流体と船首との間では反射波を生じてしまう。また船首の上下の揺れによって整流体は上下から衝撃を受けることになり、強度的な問題も大きい。また、整流体に多数の貫通孔を備えることで波の無い穏やかな海域でも海水の流入と流出が起こり、抵抗が大きくなってしまう。また、端部と船体の間に段差のある大きな間隙を有しているため、この間隙で渦を生じ航行時の抵抗となる。
また特許文献2では、船首バルブの上端と船首上部とを連結する船首付加物が提案されており(図7から図9に示される第2実施例)、この船首付加物によれば、船首の上下の揺れがあっても反射波による抵抗を低減することができる。しかし、特許文献2でも説明されている通り、この船首付加物は前方への波の反射を無くすものではあるが、反射波による抵抗低減の対策として十分とは言えない。すなわち、図16に示すように、船首付加物103の側面でそらした波aと、船首104で反射した波bとがぶつかり合う現象が発生するため、この反射波同士のぶつかり合いによる抵抗を受けてしまう。このような反射波同士のぶつかり合いによる抵抗は、正面からの波に対してはさほど大きな影響を与えない場合でも、推進方向と波の方向とが一致しない場合には大きな影響を与えることになる。航行中の船舶では、推進方向と波の方向が一致する場合の方が少ないため、この反射波同士のぶつかり合いによる抵抗の影響は大きい。
また特許文献3、4においても、図17に示すように、船首付加物103の側面でそらした波aと、船首104で反射した波bとがぶつかり合う現象が発生するため、この反射波同士のぶつかり合いによる抵抗を受けてしまう。従って、反射波による抵抗低減の対策として十分とは言えない。
また特許文献5では、船首バルブの先端上部と船首上部とを連結する反射波低減構造物が提案されており(図8から図13に示される第3の実施の形態)、この反射波低減構造物によれば、船首の上下の揺れによっても反射波による抵抗を低減することができる。しかし、特許文献5では、図11、図13に示されるように、反射波低減構造物12Bは外側に凹の形状となっているので、パラボラアンテナのように反射波低減構造物12Bの側面でそらした波が集中する箇所が発生し、波同士のぶつかり合いによる抵抗を受けてしまう。また、船体との間に水密区画を構成しているのか否かは明かではなく、中実構造物である場合には船体構造重量の増加の問題を生じてしまう。また船体への反射波低減構造物の取り付けについても何ら開示されていない。
【0005】
そこで本発明は、船体とは別のほとんど排水量を持たない構造物を船首端に付加することにより、波浪中抵抗増加を低減しつつ船体構造重量の増加を抑えることを可能とする船首マスクを提供することを目的とする。
また本発明は、この船首マスクを船体に取り付けた船首マスク付き船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応した船首マスクにおいては、舳先と船首バルブの前部とを結ぶ前端線の後方近傍に設定する船首マスク前端部と、前端線から船体の左右の船側外板に引いた接線に沿わせて配置する一対の船首マスク側板と、船首マスク側板を船体に支持する支持構造体とによって構成し、船首マスク側板の上部には上部開口を、船首マスク側板の下部には下部開口を形成することを特徴とする。請求項1に記載の本発明によれば、船首マスク前端部を、舳先と船首バルブの前部とを結ぶ前端線の後方近傍に設定することで、船首マスク前端部が前端線よりも前に突出しないために航行時の安全性が高い。また本発明によれば、一対の船首マスク側板を前端線から船体の左右の船側外板に引いた接線に沿わせて配置することで、例え推進方向と波の方向が一致しない場合であっても、船首マスク側板と船首部の反射波同士がぶつかり合う現象が生じないため、反射波による抵抗を確実に低減することができる。また本発明によれば、船首マスク側板を支持構造体によって船体に支持する構成であり、船首マスク側板の上部には上部開口を、船首マスク側板の下部には下部開口を形成することで、排水量を持たず、船体構造重量を増加させず、波浪中での航行時に船首マスク内の空気や入り込んだ水の排出も円滑に行われる。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の船首マスクにおいて、上部開口を船首マスク側板と船体との間の間隙として、下部開口を船首マスク側板と船首バルブとの間の間隙として形成することを特徴とする。請求項2に記載の本発明によれば、船首マスクを船体に取り付ける際に上部開口と下部開口を形成することができ、船首マスク側板にあらかじめ開口を設けておく必要がない。また、船首マスク側板と船体との間の間隙及び船首マスク側板と船首バルブとの間の間隙を利用することで、確実に一定の開口を形成できるため、波浪中での航行時に船首マスク内の空気や入り込んだ水の排出もさらに円滑に行われる。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の船首マスクにおいて、船首マスク側板の後端部と船体との間に間隙を形成することを特徴とする。請求項3に記載の本発明によれば、船首マスク側板の後端部と船体との間にも間隙を形成することで、波浪中での航行時に船首マスク内の空気や入り込んだ水の排出も一層円滑に行われる。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の船首マスクにおいて、支持構造体の船体への取り付けを、船体の船首部構造体の位置とすることを特徴とする。請求項4に記載の本発明によれば、船体の船首部構造体の位置にあわせて支持構造体を取り付けるため、溶接などの接合を行いやすく、取り付け強度や外力に対する強度も高い。
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の船首マスクにおいて、支持構造体には、船体に取り付ける取付部を有することを特徴とする。請求項5に記載の本発明によれば、取付部を有することで船体への取り付けを容易かつ確実に行うことができる。
請求項6記載の本発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の船首マスクにおいて、船首マスク側板が外側に凸の曲面をなすことを特徴とする。請求項6に記載の本発明のように船首マスク側板は外側に凸の曲面とすることにより、船首マスク側板が薄く構成されていても波の力を受けて反ることを防止し、軽量化を図り強度を増すことができる。また、船首マスク前端部はR形状であっても、凸の曲面とすることで船側外板にスムーズに沿わせることができる。
請求項7記載に対応した船首マスク付き船舶においては、請求項1から請求項6のいずれかに記載の船首マスクを取り付けたことを特徴とする。請求項7に記載の本発明によれば、ほとんど排水量を持たない構造物を船首端に付加することにより、波浪中抵抗増加を低減しつつ船体構造重量の増加を抑えることができる。また、船首マスク前端部が前端線よりも前に突出しないため航行時の安全性が高く、船首バルブの造波抵抗抑制効果を阻害しない船舶が実現できる。
請求項8記載の本発明は、請求項7に記載の船首マスク付き船舶において、支持構造体を溶接によって船体に取り付けたことを特徴とする。請求項8に記載の本発明によれば、支持構造体を溶接によって船体に取り付けることで、船首マスク側板と船体との間の間隙や船首マスク側板と船首バルブとの間の間隙を形成しやすい。
請求項9記載の本発明は、請求項7又は請求項8に記載の船首マスク付き船舶において、船首マスク側板の後端部を溶接によって船体に取り付けたことを特徴とする。請求項9に記載の本発明によれば、船首マスク側板の後端部の船体への取り付け強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例え推進方向と波の方向が一致しない場合であっても、船首マスク側板と船首部の反射波同士がぶつかり合う現象が生じないため、反射波による抵抗を確実に低減することができる。また、本発明によれば、上部開口と下部開口を有した構造により、排水量を持たず、船体構造重量を増加させない。また、航行中の波浪による上部に溜まった空気の圧縮による船首部の突き上げや、下部から水が侵入し滞留することによる重量の付加が防止できる。さらに上部開口、下部開口から船首マスク内部の点検や保守が容易にできる。また、本発明によれば、船首マスク前端部が前端線よりも前に突出しないため航行時の安全性が高く、船首バルブの造波抵抗抑制効果を阻害しない。
なお、上部開口を船首マスク側板と船体との間の間隙として、下部開口を船首マスク側板と船首バルブとの間の間隙として形成したときは、船首マスク側板にあらかじめ開口を設けておく必要がなく、確実に一定の開口を形成できるため、航行中の波浪による上部に溜まった空気の圧縮による船首部の突き上げや、下部から水が侵入し滞留することによる重量の付加が一層防止できる。
また、船首マスク側板の後端部と船体との間に間隙を形成したときは、航行中の波浪による上部に溜まった空気の圧縮による船首部の突き上げや、下部から水が侵入し滞留することによる重量の付加が一層防止できる。また、船首マスク内部の点検や保守がさらに容易にできる。
また、支持構造体の船体への取り付けを、船体の船首部構造体の位置としたときは、溶接などの接合を行いやすく、取り付け強度や外力に対する強度も高い。
また、船体に取り付ける取付部を支持構造体に有するときは、取り付けを容易かつ確実に行うことができる。
また、船首マスク側板が外側に凸の曲面をなすときは、反りに対する強度を増し、軽量化を図るとともに、船首マスク側板の側面でそらした波が集中する箇所が発生することの防止を確実に図ることが可能となる。特に船首マスク前端部がR形状であっても、船側外板にスムーズに沿わせることができる。
また、ほとんど排水量を持たない船首マスクを船舶に取り付けることで、波浪中抵抗増加を低減しつつ船体構造重量の増加を抑えることができる。また、船首マスク前端部が前端線よりも前に突出しないため航行時の安全性が高く、船首バルブの造波抵抗抑制効果を阻害しない船舶が実現できる。
また、支持構造体を溶接によって船体に取り付けたときは、船首マスク側板と船体との間の間隙や船首マスク側板と船首バルブとの間の間隙を形成しやすく、また船首マスクの既存船への取り付けも容易となる。
また、船首マスク側板の後端部を溶接によって船体に取り付けたときは、船首マスク側板の後端部の船体への取り付け強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の船首マスクの一実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の状態を示す要部斜視図
【図2】本発明の船首マスクの他の実施形態による船首マスクを取り付けた同船舶の要部側面図
【図3】図2におけるA−A線による要部平面断面図
【図4】同船首マスクの説明図
【図5】本発明の船首マスクの更に他の実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部側面図
【図6】図5におけるA−A線による要部平面断面図
【図7】図6の要部拡大図
【図8】図7の丸枠箇所の斜視図
【図9】本発明の船首マスクの更に他の実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部平面断面図
【図10】本発明の船首マスクの更に他の実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部側面図
【図11】図10におけるA−A線による要部平面断面図
【図12】本発明の船首マスクの更に他の実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部平面側面図
【図13】従来の肥大船の形状を示す図
【図14】波浪中抵抗増加の試験結果を示す図
【図15】反射波による抵抗低減の対策を示す船型図
【図16】従来の船首付加物を示す説明図
【図17】従来の他の船首付加物を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の船首マスクの一実施形態について説明する。
図1は本実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部斜視図である。
図1に示すように、本実施形態による船首マスク10は、船首1の舳先1aと船首バルブ2との間にくびれ3がある船首肥大度の大きな船舶に取り付ける。ここで、船首肥大度の大きな船舶とは、船首1の水平断面が円弧状となっており、方形肥痩係数Cbが0.78以上のタンカーに代表される低速貨物船が該当する。船首マスク10は、舳先1aと船首バルブ2の前部2aとを結ぶ前端線Xから前方に突出しないように船体側に配置される。なお、本実施形態で説明した構成は下記の全ての実施形態において適用される。
【0010】
図2は本発明の船首マスクの他の実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部側面図、図3は図2におけるA−A線による要部平面断面図、図4は同船首マスクの説明図である。
図2及び図3に示すように、船首マスク10は、船体左右の船側外板に対応して配置される一対の船首マスク側板11a、11bと、一対の船首マスク側板11a、11bが連結される船首マスク前端部12と、首マスク側板11a、11bを船体に支持する支持構造体13とから構成される。
【0011】
船首マスク前端部12は前端線Xに沿って配置され、船首マスク側板11a、11bは、前端線Xから船体の左右の船側外板に引いた接線Y、Y’に沿わせて配置され、支持構造体13は一対の船首マスク側板11a、11bで囲まれる内部に配置される。なお、船首マスク側板11a、11bの面と船側外板とが5度以内の角度差であれば、船首マスク前端部12は前端線Xの後方近傍でもよく、船首マスク前端部12の前端線Xの後方近傍位置は、船体形状によって決定される。
船首マスク10を船体に取り付けた状態では、船首マスク側板11a、11bの上部には船体との間に上部開口14を、船首マスク側板11a、11bの下部には船首バルブ2との間に下部開口15を形成している。船首マスク側板11a、11bの後端部と船体との間には間隙16を形成している。
【0012】
図4では、前端線Xから船体の船側外板に引いた接線Yを示しており、船首マスク側板11a、11bは、この接線Yに沿って配置される。
【0013】
以上のように本実施形態によれば、船首マスク前端部12を、舳先1aと船首バルブ2の前部2aとを結ぶ前端線Xの後方近傍に設定することで、船首マスク前端部12が前端線よりも前に突出しないために航行時の安全性が高い。また、船首バルブ2の前部2aよりも上部でかつ後方に船首マスク前端部12が臨んでいるため、船首バルブ2の造波抵抗抑制効果を阻害しない。
また本実施形態によれば、一対の船首マスク側板11a、11bを前端線Xから船体の左右の船側外板に引いた接線Yに沿わせて配置することで、例え推進方向と波の方向が一致しない場合であっても、船首マスク側板11a、11bと船首部の反射波同士がぶつかり合う現象が生じないため、反射波による抵抗を確実に低減することができる。
また本実施形態によれば、船首マスク側板11a、11bを支持構造体13によって船体に支持する構成であり、船首マスク側板11a、11bの上部には上部開口14を、船首マスク側板11a、11bの下部には下部開口15を形成することで、排水量を持たず、船体構造重量を増加させない。
【0014】
また本実施形態によれば、上部開口14を船首マスク側板11a、11bと船体との間の間隙として、下部開口15を船首マスク側板11a、11bと船首バルブ2との間の間隙として形成することで、船首マスク10を船体に取り付ける際に上部開口14と下部開口15を形成することができ、船首マスク側板11a、11bにあらかじめ開口を設けておく必要がない。また、船首マスク側板11a、11bと船体との間の間隙及び船首マスク側板11a、11bと船首バルブ2との間の間隙を利用することで、確実に一定の開口を上部と下部に形成できる。これにより、航行中に波による上部に溜まった空気の圧縮による船首部の突き上げや、下部に海水が侵入し滞留することによる重量が付加されることがない。
さらに上部開口14、下部開口15から、船首マスク10内部の点検や保守が容易にできる。特に、海に浮かんでいる時でも、上部開口14から塗装の劣化状態や、異物や海洋生物の付着状態を観察し対処できる。また、ドック入り時に下部開口15から作業者が船首マスク10に入り、保守点検ができる。
また本実施形態によれば、船首マスク側板11a、11bの後端部と船体との間にも間隙16を形成することで、航行中に波による上部に溜まった空気の圧縮による船首部の突き上げや、下部に海水が侵入し滞留することによる重量が付加されることを更に確実に防止することができる。
【0015】
以下に、本発明の船首マスクの他の実施形態について説明する。
図5は本実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部側面図、図6は図5におけるA−A線による要部平面断面図、図7は図6の要部拡大図、図8は図7の丸枠箇所の斜視図である。なお、上記実施例と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
図5では、船体の船首部構造体4の水平位置Zを示しており、この水平位置Zに、船首マスク側板11a、11bを船体に支持する支持構造体(ストリンガー)23を設けている。すなわち、支持構造体23の船体への取り付け位置を、船首部構造体4の位置と合わせている。
【0016】
図6に示すように、船体の船首部構造体4は、センターラインガーダー4aと、センターラインガーダー4aの両側に配したストリンガー4bとを備えた水平構造体である。支持構造体23は、船首部構造体4と同種の構造となっており、センターラインガーダー23aと、センターラインガーダー23aの両側に配したフレーム23bと、開口部23cとを備えた水平構造体である。
【0017】
図7及び図8に示すように、支持構造体23の船体側には、船体外板に沿うように取付部23dを設けている。なお、取付部23dの高さ方向の幅は、小さく設定しフレーム23bの板厚にまですることが可能である。
【0018】
以上のように本実施形態によれば、支持構造体23の船体への取り付けを、船体の船首部構造体4の水平位置Zにあわせて取り付けるため、溶接などの接合を行いやすく、取り付け強度も高くできる。また波等の外力を受けても、支持構造体23にかかる力を直接船首部構造体4で受けるため、船体が損傷することが無くせる。
また本実施形態によれば、支持構造体23には、船体に取り付ける取付部23dを有することで船体への取り付けを容易かつ確実に行うことができ、幅を持たせることにより力の分散も図れる。
【0019】
以下に、本発明の船首マスクの更に他の実施形態について説明する。
図9は本実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部平面断面図であり、図3相当図である。なお、上記実施例と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、船首マスク側板21a、21bが外側に凸の曲面をなしている。
【0020】
本実施形態のように、船首マスク側板21a、21bは外側に凸の曲面とすることにより、船首マスク側板21a、21bを薄く構成してさらに軽量化を図ったり、船首マスク側板21a、21bが波の力を受けて反り、側面でそらした波が集中する箇所が発生することの確実な防止を図ることができる。実際には安全性の問題などから船首マスク前端部12を鋭利に尖らせることはできないため、船首マスク前端部12はR形状であることが好ましい。
【0021】
以下に、本発明の船首マスクの更に他の実施形態について説明する。
図10は本実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部側面図、図11は図10におけるA−A線による要部平面断面図である。なお、上記実施例と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、船首マスク側板11a、11bの後端部と船体との間は溶接17によって固着されている。また、支持構造体13についても船体に溶接18で固着されている。
【0022】
本実施形態によれば、船首マスク側板11a、11bの後端部を溶接17によって船体に取り付けたことで、船首マスク側板11a、11bの後端部の船体への取り付け強度を高めることができる。
また本実施形態によれば、支持構造体13を溶接18によって船体に取り付けることで、船首マスク側板11a、11bと船体との間の上部開口14や船首マスク側板11a、11bと船首バルブ2との間の下部開口15を形成しやすい。
また、船首マスク側板11a、11bと支持構造体13を船体の外側から溶接17、溶接18で取り付けることにより、船舶が既存船であっても、また小型船であっても外側から後付で容易に船首マスクを取り付けることができる。
【0023】
以下に、本発明の船首マスクの更に他の実施形態について説明する。
図12は本実施形態による船首マスクを取り付けた船舶の要部平面側面図であり、図10相当図である。なお、上記実施例と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、船首マスク側板11a、11bの上部には上部開口24を、船首マスク側板11a、11bの下部には下部開口25を形成している。また、船首マスク側板11a、11bの後端部には中間開口19を形成している。なお、船首マスク側板11a、11bの後端部および上部、下部と船体との間は溶接17によって固着されている。
【0024】
本実施の形態によれば、船首マスク側板11a、11bの上部には上部開口24を、船首マスク側板11a、11bの下部には下部開口25を形成することで、排水量を持たず、船体構造重量を増加させない。また、上部開口24と下部開口25により、航行中に波による上部に溜まった空気の圧縮による船首部の突き上げや、下部に海水が侵入し滞留することによる重量の付加が防止される。中間開口19はこれらの作用をさらに助ける。
また本実施形態によれば、船首マスク側板11a、11bの後端部および上部、下部を溶接17によって船体に取り付けたことで、船首マスク側板11a、11bの後端部の船体への取り付け強度をさらに高めることができる。
【0025】
なお、上記した各実施形態において、側面から見て舳先1aが船首バルブ2の前部2 aよりも前方に位置している例を示したが、同位置に位置した場合、また舳先1aが船首バルブ2の前部2 aよりも後方に位置した場合もあり得る。本発明の思想はこれらの場合にも適用できるものである。また、船首マスク前端部12も直線でなく前端線Xに沿う範囲で、曲線を成していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、特に肥大船の船舶に取り付ける船首マスク及びこの船首マスクを取り付けた船舶に関し、船体の舳先と船首バルブとの間にくびれのある船舶に適している。
【符号の説明】
【0027】
1a 舳先
2 船首バルブ
2a 前部
3 くびれ
4 船首部構造体
10 船首マスク
11a、11b 船首マスク側板
12 船首マスク前端部
13 支持構造体
14 上部開口
15 下部開口
16 間隙
17 溶接
18 溶接
21a、21b 船首マスク側板
23 支持構造体
24 上部開口
25 下部開口
X 前端線
Y、Y’ 接線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の舳先と船首バルブとの間にくびれのある船舶に取り付ける船首マスクであって、前記舳先と前記船首バルブの前部とを結ぶ前端線の後方近傍に設定する船首マスク前端部と、前記前端線から前記船体の左右の船側外板に引いた接線に沿わせて配置する一対の船首マスク側板と、前記船首マスク側板を前記船体に支持する支持構造体とによって構成し、前記船首マスク側板の上部には上部開口を、前記船首マスク側板の下部には下部開口を形成することを特徴とする船首マスク。
【請求項2】
前記上部開口を前記船首マスク側板と前記船体との間の間隙として、前記下部開口を前記船首マスク側板と前記船首バルブとの間の間隙として形成することを特徴とする請求項1に記載の船首マスク。
【請求項3】
前記船首マスク側板の後端部と前記船体との間に間隙を形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船首マスク。
【請求項4】
前記支持構造体の前記船体への取り付けを、前記船体の船首部構造体の位置とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の船首マスク。
【請求項5】
前記支持構造体には、前記船体に取り付ける取付部を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の船首マスク。
【請求項6】
前記船首マスク側板が外側に凸の曲面をなすことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の船首マスク。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の船首マスクを取り付けたことを特徴とする船首マスク付き船舶。
【請求項8】
前記支持構造体を溶接によって前記船体に取り付けたことを特徴とする請求項7に記載の船首マスク付き船舶。
【請求項9】
前記船首マスク側板の前記後端部を溶接によって前記船体に取り付けたことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の船首マスク付き船舶。
【請求項1】
船体の舳先と船首バルブとの間にくびれのある船舶に取り付ける船首マスクであって、前記舳先と前記船首バルブの前部とを結ぶ前端線の後方近傍に設定する船首マスク前端部と、前記前端線から前記船体の左右の船側外板に引いた接線に沿わせて配置する一対の船首マスク側板と、前記船首マスク側板を前記船体に支持する支持構造体とによって構成し、前記船首マスク側板の上部には上部開口を、前記船首マスク側板の下部には下部開口を形成することを特徴とする船首マスク。
【請求項2】
前記上部開口を前記船首マスク側板と前記船体との間の間隙として、前記下部開口を前記船首マスク側板と前記船首バルブとの間の間隙として形成することを特徴とする請求項1に記載の船首マスク。
【請求項3】
前記船首マスク側板の後端部と前記船体との間に間隙を形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船首マスク。
【請求項4】
前記支持構造体の前記船体への取り付けを、前記船体の船首部構造体の位置とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の船首マスク。
【請求項5】
前記支持構造体には、前記船体に取り付ける取付部を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の船首マスク。
【請求項6】
前記船首マスク側板が外側に凸の曲面をなすことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の船首マスク。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の船首マスクを取り付けたことを特徴とする船首マスク付き船舶。
【請求項8】
前記支持構造体を溶接によって前記船体に取り付けたことを特徴とする請求項7に記載の船首マスク付き船舶。
【請求項9】
前記船首マスク側板の前記後端部を溶接によって前記船体に取り付けたことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の船首マスク付き船舶。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
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【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−152891(P2011−152891A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16909(P2010−16909)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【出願人】(510026677)徳山海陸運送株式会社 (1)
【出願人】(502298192)流体テクノ有限会社 (11)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【出願人】(510026677)徳山海陸運送株式会社 (1)
【出願人】(502298192)流体テクノ有限会社 (11)
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